(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068309
(43)【公開日】2023-05-17
(54)【発明の名称】鋼管メッキ除去装置
(51)【国際特許分類】
B23C 3/12 20060101AFI20230510BHJP
B23K 31/00 20060101ALN20230510BHJP
【FI】
B23C3/12 Z
B23K31/00 G
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021179278
(22)【出願日】2021-11-02
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】392035972
【氏名又は名称】株式会社ヤマト
(74)【代理人】
【識別番号】100092808
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 亘
(74)【代理人】
【識別番号】100140981
【弁理士】
【氏名又は名称】柿原 希望
(72)【発明者】
【氏名】新井 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】坂牧 謙一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 剛
【テーマコード(参考)】
3C022
【Fターム(参考)】
3C022DD03
3C022DD05
3C022DD11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】鋼管のメッキ層を均一の幅、深さで、迅速に除去することが可能な鋼管メッキ除去装置を提供する。
【解決手段】この鋼管メッキ除去装置100は、スライド機構が規定する幅とストッパ部材(ローラ)が規定する深さで、鋼管10の端部の内周面及び外周面を切削する。これにより、鋼管10のメッキ層を予め設定された均一な寸法で除去することができる。また、この鋼管メッキ除去装置100は、回転部40が1回転することで、回転切削刃80が鋼管10の内周面もしくは外周面に沿って1周し、鋼管10の内周面もしくは外周面のメッキ層の除去を行う。これにより、従来よりも迅速にメッキ層の除去を行うことができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にメッキ層が施された鋼管の前記メッキ層を端面から所定の幅で切削除去する鋼管メッキ除去装置であって、
台座部と、
前記台座部に設置され前記鋼管の長手方向にスライド可能な本体部と、
前記本体部に回転可能に設置された回転部と、
前記台座部に設置され前記鋼管の軸心が前記回転部の回転軸と略同軸となるように保持する鋼管保持部と、
前記回転部の回転により前記鋼管の内周面もしくは外周面に沿って回転し前記鋼管の端部の内周面もしくは外周面を予め設定された幅及び深さで切削し前記メッキ層を除去する回転切削刃と、
前記回転切削刃を前記回転部の径方向にスライド可能に保持する切削部と、
前記回転切削刃を前記鋼管の内周面もしくは外周面に押し付ける押圧部と、
前記鋼管の内周面もしくは外周面に当接して前記回転切削刃の切削深さを規定するストッパ部材と、を有することを特徴とする鋼管メッキ除去装置。
【請求項2】
ストッパ部材が回転可能なローラであり、前記ローラの前記鋼管との接触面は前記回転切削刃の前記鋼管との接触面よりも切削深さの寸法分だけ凹んで位置することを特徴とする請求項1記載の鋼管メッキ除去装置。
【請求項3】
切削部が、回転切削刃の周面の少なくとも半周分を露出させる開口部を備えた刃カバー部をさらに有し、前記開口部を内側に位置させることで前記回転切削刃が鋼管の外周面を切削可能とし、前記開口部を外側に位置させることで前記回転切削刃が前記鋼管の内周面を切削可能とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鋼管メッキ除去装置。
【請求項4】
回転切削刃を回転させる切削刃モータが本体部に固定するとともに、前記切削刃モータの回転軸が回転部と同軸で位置し、前記切削刃モータの回転駆動力は複数のリンク部材で保持された巻掛伝動部材を介して前記回転切削刃に伝達されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の鋼管メッキ除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管を溶接する際に不具合の原因となるメッキ層を除去する鋼管メッキ除去装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、亜鉛メッキが施された鋼管をメッキ層を除去せずに溶接した場合、人体に有害な亜鉛を含むガスが発生する他、このガスや亜鉛酸化物等が溶接ビード内に混入しブローホールを形成するなどして溶接強度不足の原因となる。このため、鋼管を溶接する際には溶接部分のメッキ層を除去して行うことが一般的である。このメッキ層の除去方法としてはグラインダ等を使用した作業者の手作業によるものが多い。しかしながら、作業者による手作業では作業効率が悪いことに加え、施工現場にて亜鉛メッキを含む粉塵が発生し作業環境の悪化を招くという問題点がある。また、除去深さや幅にバラつきが発生するという問題点がある。
【0003】
ここで下記[特許文献1]には、電解液含有層をメッキを除去する部分に巻き付けて通電し、メッキ層を電解液含有層中に溶解除去する亜鉛層の除去装置に関する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら[特許文献1]に記載の発明では、感電の危険性が有る他、電解液含有層を定期的に交換する必要があり作業効率が悪いという問題点がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、鋼管のメッキ層を均一の幅、深さで、迅速に除去することが可能な鋼管メッキ除去装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
(1)表面にメッキ層が施された鋼管10の前記メッキ層を端面から所定の幅Wで切削除去する鋼管メッキ除去装置であって、
台座部20と、前記台座部20に設置され前記鋼管10の長手方向にスライド可能な本体部30と、前記本体部30に回転可能に設置された回転部40と、前記台座部20に設置され前記鋼管10の軸心が前記回転部40の回転軸と略同軸となるように保持する鋼管保持部22と、前記回転部40の回転により前記鋼管10の内周面10aもしくは外周面10bに沿って回転し前記鋼管10の端部の内周面10aもしくは外周面10bを予め設定された幅W及び深さDで切削し前記メッキ層を除去する回転切削刃80と、前記回転切削刃80を前記回転部40の径方向にスライド可能に保持する切削部70と、前記回転切削刃80を前記鋼管10の内周面10aもしくは外周面10bに押し付ける押圧部50と、前記鋼管10の内周面10aもしくは外周面10bに当接して前記回転切削刃80の切削深さDを規定するストッパ部材と、を有することを特徴とする鋼管メッキ除去装置100を提供することにより、上記課題を解決する。
(2)ストッパ部材が回転可能なローラ72であり、前記ローラ72の前記鋼管10との接触面は前記回転切削刃80の前記鋼管10との接触面よりも切削深さDの寸法分だけ凹んで位置することを特徴とする上記(1)記載の鋼管メッキ除去装置100を提供することにより、上記課題を解決する。
(3)切削部70が、回転切削刃80の周面の少なくとも半周分を露出させる開口部74aを備えた刃カバー部74をさらに有し、前記開口部74aを内側に位置させることで前記回転切削刃80が鋼管10の外周面10bを切削可能とし、前記開口部74aを外側に位置させることで前記回転切削刃80が前記鋼管10の内周面10aを切削可能とすることを特徴とする上記(1)または上記(2)に記載の鋼管メッキ除去装置100を提供することにより、上記課題を解決する。
(4)回転切削刃80を回転させる切削刃モータ82が本体部30に固定するとともに、前記切削刃モータ82の回転軸82aが回転部40と同軸で位置し、前記切削刃モータ82の回転駆動力は複数のリンク部材(第1のリンク部材61a、第2のリンク部材61b)で保持された巻掛伝動部材(第1の巻掛伝動部材64a、第2の巻掛伝動部材64b)を介して前記回転切削刃80に伝達されることを特徴とする上記(1)乃至上記(3)のいずれかに記載の鋼管メッキ除去装置100を提供することにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る鋼管メッキ除去装置は、スライド機構が規定する幅とストッパ部材が規定する深さで、鋼管の端部の内周面及び外周面を切削する。これにより、鋼管のメッキ層の除去を均一な寸法で迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る鋼管メッキ除去装置の斜視図である。
【
図2】本発明に係る鋼管メッキ除去装置の内部構造を示す模式図である。
【
図3】本発明に係る鋼管メッキ除去装置の回転部の回転機構を示す略図である。
【
図4】本発明に係る鋼管メッキ除去装置の切削部及び関連部分の拡大斜視図である。
【
図5】本発明に係る鋼管メッキ除去装置の切削部及び関連部分の略断面図である。
【
図6】本発明に係る鋼管メッキ除去装置の回転切削刃部分の拡大図である。
【
図7】本発明に係る鋼管メッキ除去装置の回転伝達機構の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る鋼管メッキ除去装置について図面に基づいて説明する。ここで、
図1は、本発明に係る鋼管メッキ除去装置100の斜視図である。また、
図2は鋼管メッキ除去装置100の内部構造を示す模式図である。
【0011】
先ず、本発明の加工対象物である鋼管10は、各種の配管に広く使用されている周知の鋼管10であり、表面(内周面10a、外周面10b)に亜鉛メッキ等のメッキ層が形成されている。そして、本発明に係る鋼管メッキ除去装置100は、鋼管10の表面に施されたメッキ層を端面から所定の幅で切削除去するものであって、
図1に示すように、台座部20と、この台座部20に設置され鋼管10の長手方向にスライド可能な本体部30と、この本体部30に回転可能に設置された回転部40と、台座部20に設置され鋼管10の軸心が回転部40の回転軸と略同軸となるように保持する鋼管保持部22と、回転部40とともに回転し鋼管10のメッキ層を切削除去する回転切削刃80と、この回転切削刃80を回転部40の径方向にスライド可能に保持する切削部70と、回転切削刃80を鋼管10の内周面10aもしくは外周面10bに押し付ける押圧部50と、を有している。
【0012】
次に、本発明に係る鋼管メッキ除去装置100の各部の構成を説明する。先ず、台座部20は、一方に鋼管10を保持する鋼管保持部22が固定し、他方に本体部30がスライド可能な状態で設置されている。そして、本体部30側には、
図2に示すように、本体部30がスライド移動するためのスライドレール24と、本体部30をスライドレール24に沿って移動させるスライド機構36とが設置され、このスライド機構36の動作により本体部30が鋼管保持部22(鋼管10)の側に前進または後退する。尚、本体部30の位置は回転切削刃80が切削するメッキ層の幅Wに関与する。このため、本体部30の位置はある程度の精度で制御可能なことが好ましく、よってスライド機構36は、ボールネジ36aと、このボールネジ36aと螺合し本体部30と固定したナットブラケット36bと、ボールネジ36aを回転させるモータ36cと、で構成することが好ましい。
【0013】
また、鋼管保持部22は鋼管10を所定の位置で固定保持するものであり、鋼管10と同径の内面を有するクランプ体26a、26bで挟持することが好ましい。この構成では、鋼管10に歪みが存在し真円度が低い場合でも、鋼管10と同径の内面を有するクランプ体26a、26bで挟持することで、鋼管10の歪みをある程度矯正することができる。これにより、鋼管10のメッキ層の切削をより安定的に行うことができる。よって、クランプ体26a、26bは切削対象となる鋼管10の径ごとに個別に作製し、対象となる鋼管10の径が変わる場合には、対応したクランプ体26a、26bにその都度、交換することが好ましい。また、鋼管保持部22は鋼管10の軸心が回転部40の回転軸と略同軸となるように保持する必要がある。よって、クランプ体26a、26bはこの軸心の位置も考慮に入れて、保持時に鋼管10の軸心が回転部40の回転軸と略同軸に位置するように設計することが好ましい。この構成では、鋼管10の径と対応したクランプ体26a、26bを用いて鋼管10を挟持固定することで、同時に鋼管10の軸心を回転部40の回転軸と略同軸に位置させることができる。また、鋼管保持部22は鋼管10の加工側の端面を予め定められた所定の加工位置に位置させる機構を有していても良い。この機構の例としては、位置センサや突き当て方式等が挙げられる。尚、鋼管保持部22による鋼管10の保持は鋼管10の自動供給排出装置と組み合わせて自動で行っても良いし、作業者が手作業で行っても良い。ここでは、2対のクランプ体26a、26bを作業者がネジ止めにより固定する例を示している。
【0014】
また、本体部30は、
図2に示すように、断面が略L字形状を呈しており、その下面には台座部20のスライドレール24と係合したスライダ34と、例えば台座部20側のボールネジ36aと螺合したナットブラケット36bが固定している。また、本体部30の垂直面は、回転部40を軸支する軸孔を有するとともに、回転部40を回転させる回転部モータ42と、回転切削刃80を回転させる切削刃モータ82とが固定している。
【0015】
また、回転部40には、回転切削刃80を保持する切削部70と、回転切削刃80を切削部70を介して押し引きする押圧部50と、切削部70を回転部40の径方向に移動させる加工位置調節機構90と、切削刃モータ82の回転駆動力を回転切削刃80に伝達する回転伝達機構60と、が設置されている。そして、これらの構成は回転部40とともに一体的に回転する。
【0016】
ここで、本発明に好適な回転部40の例を説明する。本発明に好適な回転部40は前板41aと後板41bとが柱状部材によって所定の間隔を取って固定され構成されている。また、後板41bの中心には軸筒40aが設けられ、この軸筒40aが本体部30によって回転可能に軸支されている。また、この軸筒40aの筒内には切削刃モータ82の回転軸82aが軸筒40aを貫通した状態で挿入される。尚、回転部40の軸筒40aと切削刃モータ82の回転軸82aとは独立しており、それぞれの回転動作は互いに干渉することはない。
【0017】
また、
図3の回転部40の回転機構を示す略図に表されるように、回転部モータ42は回転部40の中心から外れた場所に位置し、回転部モータ42の回転軸にはギア44aが固定する。また、後板41bには大径のギア44bが軸筒40aと同軸で固定しており、このギア44aとギア44bとが螺合することで、回転部モータ42の回転駆動力はギア44a、44bにより回転部40に伝達し、回転部40が軸筒40aを軸に回転動作する。
【0018】
また、前板41aの前面にはスライドレール46が固定され、このスライドレール46には切削部70と押圧部50とがスライド移動可能に設置される。また、前板41aのスライドレール46の間には回転部40の径方向に沿った長孔48a、48bが設けられ、押圧部50を構成する台座部52の一部が長孔48aを通して回転部40の内側に引き込まれる。また、切削部70を構成する刃台座部84の一部が長孔48bを通して回転部40の内側に引き込まれる。
【0019】
また、押圧部50は、台座部52と、この台座部52に固定したエアシリンダ等の周知のプッシャ部材54と、このプッシャ部材54により押し引きされる押圧シャフト56と、を有しており、この押圧シャフト56と刃台座部84とが固定する。これにより、プッシャ部材54の動作は押圧シャフト56を介して刃台座部84に伝達し、プッシャ部材54の動作により切削部70及び回転切削刃80が回転部40の径方向に押し引きされる。
【0020】
また、回転部40の内部には加工位置調節機構90が設けられている。この加工位置調節機構90は、例えばボールネジ92と、このボールネジ92を回転させる回転手段94と、ボールネジ92の回転により移動するナットブラケット96と、を有しており、回転手段94とボールネジ92とが回転部40(前板41a)に設置され、ナットブラケット96が長孔48aを通して回転部40内に引き込まれた台座部52と固定する。よって、回転手段94が回転動作すると台座部52がボールネジ92に沿ってスライド移動し、これにより押圧部50が回転部40の径方向に移動する。また、押圧部50の押圧シャフト56は切削部70の刃台座部84と固定しており、押圧部50が回転部40の径方向に移動することで、切削部70も押圧部50と一体的にスライド移動する。尚、回転手段94としてはモータを用いることが好ましいが、手動によるハンドル等としても良い。本例では回転手段94を作業者が手動で回すハンドルとした例を図示している。
【0021】
次に、切削部70及びこれに関連する部位に関して説明を行う。ここで、
図4に切削部70及び関連部分の拡大斜視図を示し、
図5(a)、(b)に略断面図を示す。また、
図6に回転切削刃部分の拡大図を示す。
【0022】
先ず、切削部70の刃台座部84は内部に軸孔を有し、この軸孔には回転切削刃80と固定した切削刃シャフト80aが回転可能に挿入する。また、刃台座部84の前面(回転切削刃80側)には刃カバー部74が設置され、この刃カバー部74は回転切削刃80を内部に挿入する略筒形状を呈し、また長尺方向のほぼ半分を切り欠いて形成された開口部74aを備える。そして、この開口部74aから回転切削刃80の周面の少なくとも半周分が露出する。そして、この刃カバー部74は、
図4、
図5(a)に示すように、開口部74aが内側に向くように位置させることで回転切削刃80の周面の内側半分が露出して、鋼管10の外周面10bの切削が可能となる。また、
図5(b)、
図6に示すように、開口部74aが外側に向くように位置させることで回転切削刃80の周面の外側半分が露出して、鋼管10の内周面10aの切削が可能となる。尚、開口部74aの方向の切り替えは機械制御によって自動で行うことが好ましいが、作業者が手作業で付け替えもしくは半回転させて行っても良い。
【0023】
また、切削部70は鋼管10の内周面10aもしくは外周面10bに当接して回転切削刃80の移動を止め、鋼管10に対する切削深さDを規定するストッパ部材を有している。そして、このストッパ部材は刃カバー部74の先端部に設けることが好ましく、特にストッパ部材を回転可能なローラ72として刃カバー部74の先端面で回転切削刃80と平行に軸支することが好ましい。尚、ストッパ部材(ローラ72)は、
図6に示すように、ストッパ部材(ローラ72)の鋼管10との接触面(ローラ72の周面の最外点)が、回転切削刃80の鋼管10との接触面(回転切削刃80の刃部の最外点)よりも切削深さDの寸法の分だけ凹んで位置するように構成する。尚、深さDはメッキ層の厚みと同等かそれよりも若干大きい値であり、例えば
図6に示す上下位置調整手段73等によって刃カバー部74の上下の位置を調整したり、径の異なるローラ72に付け替えることで調整が可能である。そして、この構成では、回転切削刃80が鋼管10の内周面10aもしくは外周面10bのメッキ層を切削しながら深さ方向に移動し、その切削深さが規定された寸法Dに到達するとローラ72の周面が鋼管10に当接して回転切削刃80の移動を阻止する。これにより、本発明の鋼管メッキ除去装置100は予め設定された深さDを越えて鋼管10を切削することはなく、深さDという一定の値でメッキ層の除去を行うことができる。
【0024】
次に、本発明の回転切削刃80に好適な回転伝達機構60の例を
図2、
図5(a)及び
図7を用いて説明する。ここで、
図7は回転伝達機構60を前面側から見た概略構成図である。本発明に好適な回転伝達機構60は、切削刃モータ82の回転軸82aが回転部40の中央に位置し、後板41bの軸筒40aを通して回転部40の内部に引き込まれる。そして、回転軸82aの先側にはスプロケットやプーリ等の周知の受車部材(第1の受車部材62a)が固定する。また、軸筒40aには第1のリンク部材61aの基側が回動可能に嵌入する。そして、この第1のリンク部材61aの先側は第2のリンク部材61bの基側とシャフト61cを介して回動可能に接続する。また、このシャフト61cには第2の受車部材62bと第3の受車部材62cとが固定する。尚、シャフト61cの回転はリンク部材61a、61bとは独立しており、第2の受車部材62b等によるシャフト61cの回転力はリンク部材61a、61b側には伝達されない。また、刃台座部84を貫通した切削刃シャフト80aは、回転部40内で第4の受車部材62dと固定するとともに、切削刃シャフト80aを保持する刃台座部84には第2のリンク部材61bの先側が切削刃シャフト80aと同軸で回動可能に接続する。そして、第1の受車部材62aと第2の受車部材62bとはチェーンやベルト等の周知の巻掛伝動部材(第1の巻掛伝動部材64a)により接続する。また、第3の受車部材62cと第4の受車部材62dとは、同様の周知の巻掛伝動部材(第2の巻掛伝動部材64b)により接続する。これにより、切削刃モータ82の回転駆動力は回転軸82a、第1の受車部材62a、第1の巻掛伝動部材64a、第2の受車部材62b、第3の受車部材62c、第2の巻掛伝動部材64b、第4の受車部材62dを介して切削刃シャフト80aに伝達し、回転切削刃80が回転動作する。
【0025】
この回転伝達機構60では、加工位置調節機構90や押圧部50の動作により、回転切削刃80が回転部40の径方向に移動すると、
図7(a)、(b)に示すように、第1のリンク部材61aと第2のリンク部材61bとが適宜回動し屈曲する。このとき、第1の受車部材62aと第2の受車部材62bとの間隔、及び第3の受車部材62cと第4の受車部材62dとの間隔は変化しないから、切削刃モータ82の回転駆動力は回転切削刃80が径方向に移動している間でも継続して伝達され回転切削刃80は回転し続ける。また、回転部40が回転動作すると、これら回転伝達機構60も切削部70等とともに一体的に回転する。ただし、回転伝達機構60と回転軸82aの回転駆動力とは互いに独立しているから、回転伝達機構60が回転部40とともに回転している間でも切削刃モータ82の回転駆動力は回転切削刃80に継続して伝達され回転切削刃80は回転し続ける。このように、本例に示す好適な回転伝達機構60は、回転切削刃80の回転を維持したまま、回転切削刃80の径方向への移動と回転部40による回転とを可能とする。そして、この構成では、大型で重量のある切削刃モータ82を回転部40の側に固定する必要が無く、回転部40の軽量化を図ることができる。
【0026】
次に、本発明に係る鋼管メッキ除去装置100の動作を説明する。尚、本例では鋼管10の外周面10bから先にメッキ層の切削を行い、引き続いて内周面10aのメッキ層の切削を連続して行う例を説明するが、切削の順番は逆でも良く、また、同一の径の複数の鋼管10の外周面10b(もしくは内周面10a)に対するメッキ層の切削を全て行った後に、改めて内周面10a(もしくは外周面10b)に対するメッキ層の切削を行うようにしても良い。尚、本発明に係る鋼管メッキ除去装置100は、鋼管10を目的の長さに予め切断しておき、鋼管メッキ除去装置100にてメッキ層の除去を行った後、必要に応じて開先加工や溶接を行い、施工現場に移送して配管構築を行うことを想定している。
【0027】
先ず、鋼管メッキ除去装置100の初期状態において、本体部30は鋼管保持部22から十分に離れた待機位置にある。また、外周面10bから先にメッキ層の除去を行う場合、回転切削刃80は鋼管10の外側(回転部40の周縁に近い側)に位置する。また、回転部40は例えば回転切削刃80が真下に位置する待機位置にある。
【0028】
次に、メッキ層の除去を行う鋼管10の径及び除去する幅を取得する。そして、鋼管メッキ除去装置100が自動制御の場合には、これらの情報を図示しない制御部に入力する。次に、クランプ体26a、26bを加工を行う鋼管10の径と対応したものに付け替える。また、ここでは鋼管10の外周面10bから先にメッキ層の除去を行うため、刃カバー部74の開口部74aを内側に向くように設置もしくは機械制御により回転させる。これにより、回転切削刃80が真下に位置する待機位置の状態においては、刃カバー部74の上方に開口部74aが位置し、この開口部74aから回転切削刃80の周面の上半分が露出する。
【0029】
次に、作業者もしくは鋼管10の自動供給排出装置が鋼管保持部22に鋼管10を供給する。そして、メッキ層の除去を行う側の端面が所定の加工位置に来るように位置させ、クランプ体26a、26bを用いて挟持固定する。このとき、クランプ体26a、26bの内面は鋼管10と同径の円弧状となっているから、これらクランプ体26a、26bで挟持固定することで、鋼管10の歪みはある程度矯正され真円に近いものとなる。
【0030】
次に、スライド機構36が動作して本体部30を鋼管10側に前進させる。そして、
図5(a)に示すように、回転切削刃80の先端をメッキ層の切削する幅寸法W分、鋼管10の端面から前進した位置とする。次に、加工位置調節機構90が動作して切削部70を押圧部50ごと内側にスライド移動させ、回転切削刃80が鋼管10の外周面10bよりも若干外側となる位置とする。尚、鋼管メッキ除去装置100が自動制御の場合には、入力された鋼管10の径の情報に基づいて、制御部が加工位置調節機構90を動作させ予め設定された上記の位置に回転切削刃80を位置させる。また、作業者が手作業で行う場合には、作業者が加工位置調節機構90を操作して目視もしくは予め設置されたマーキングを目印に適切な位置に回転切削刃80を位置させる。
【0031】
次に、切削刃モータ82が稼動して回転軸82aが回転動作する。この回転軸82aの回転駆動力は第1、第2の巻掛伝動部材64a、64b及び第1~第4の受車部材62a~64dによって切削刃シャフト80aに伝達し、回転切削刃80が回転する。
【0032】
次に、押圧部50のプッシャ部材54が動作して押圧シャフト56が内側に引き込まれる。これにより、回転切削刃80が刃台座部84ごと内側に引き上げられて鋼管10の外周面10bに押圧され、回転切削刃80との接触部分が切削される。これにより、外周面10bの表面に存在するメッキ層が除去される。そして、回転切削刃80による切削が進行するとストッパ部材であるローラ72の周面が鋼管10の外周面10bに当接し、ここで回転切削刃80の径方向の移動は停止する。尚、前述のようにストッパ部材(ローラ72)の鋼管10との接触面は回転切削刃80の鋼管10との接触面よりも深さDの分だけ凹んでいるから、回転切削刃80による外周面10bの切削深さはストッパ部材の接触面と回転切削刃80の接触面の段差の高さDとなる。
【0033】
また、これと前後して回転部モータ42が動作して回転部40が軸筒40aを軸として1回転する。これにより、回転切削刃80は鋼管10の外周面10bを切削しながら、外周面10bに沿って1周する。これにより、鋼管10の外周面10bのメッキ層は回転切削刃80が当接した一定の幅Wで、ストッパ部材が規定した深さDで切削除去される。
【0034】
また、回転部40が1回転すると回転部モータ42は停止して回転部40の回転動作は停止する。次に、押圧部50のプッシャ部材54が押圧シャフト56を初期位置に押し戻す。これにより、回転切削刃80が刃台座部84ごと外側に戻され、鋼管10の外周面10bから離間する。次に、切削刃モータ82が停止し、回転切削刃80の回転が停止する。次に、スライド機構36が動作して本体部30を後退動作させ待機位置にスライド移動させる。これにより、本発明に係る鋼管メッキ除去装置100による鋼管10の外周面10bのメッキ層の除去が完了する。
【0035】
また、鋼管メッキ除去装置100が連続して鋼管10の内周面10aのメッキ層の除去を行う場合には、刃カバー部74は開口部74aが外側に向くように付け替えもしくは機械制御により半転される。これにより、回転切削刃80が真下の位置にある待機位置の状態においては、刃カバー部74の下方から回転切削刃80の周面の下半分が露出する。また、加工位置調節機構90が動作して回転切削刃80を鋼管10の内周面10aよりも内側(回転部40の中心に近い側)に位置させる。
【0036】
次に、スライド機構36が動作して本体部30を鋼管10側に前進させる。そして、回転切削刃80を鋼管10内に挿入し、
図5(b)に示すように、回転切削刃80の先端をメッキ層の切削する幅寸法W分、鋼管10の端面から前進した位置とする。次に、加工位置調節機構90が手動もしくは自動で動作して切削部70を押圧部50ごとスライド移動させ、回転切削刃80が鋼管10の内周面10aよりも若干内側となる位置とする。
【0037】
次に、切削刃モータ82が稼動して回転軸82aが回転動作する。この回転軸82aの回転駆動力は第1、第2の巻掛伝動部材64a、64b及び第1~第4の受車部材62a~64dによって切削刃シャフト80aに伝達して、回転切削刃80が回転する。
【0038】
次に、押圧部50のプッシャ部材54が動作して押圧シャフト56を押し出す。これにより、回転切削刃80が刃台座部84ごと外側に押し出されて、鋼管10の内周面10aに押圧され、回転切削刃80との接触部分が切削される。これにより、内周面10aの表面に存在するメッキ層は除去される。そして、回転切削刃80による切削が進行するとストッパ部材であるローラ72の周面が鋼管10の内周面10aに当接し、ここで回転切削刃80の径方向への移動は停止する。このときの回転切削刃80による内周面10aの切削深さは、前述のようにストッパ部材の接触面と回転切削刃80の接触面の段差の高さDとなる。
【0039】
また、これと前後して回転部モータ42が動作して回転部40が軸筒40aを軸として1回転する。これにより、回転切削刃80は鋼管10の内周面10aを切削しながら、内周面10aに沿って1周する。そして、内周面10aのメッキ層は回転切削刃80が当接した一定の幅Wで、ストッパ部材が規定した深さDで切削除去される。
【0040】
また、回転部40が1回転すると回転部モータ42は停止して回転部40の回転動作は停止する。次に、押圧部50のプッシャ部材54が押圧シャフト56を初期位置に引き戻す。これにより、回転切削刃80が刃台座部84ごと内側に引き戻され、鋼管10の内周面10aから離間する。次に、切削刃モータ82が停止し、回転切削刃80の回転が停止する。次に、スライド機構36が動作して本体部30を後退動作させ待機位置にスライド移動させる。これにより、本発明に係る鋼管メッキ除去装置100による鋼管10の内周面10aのメッキ層の除去が完了する。
【0041】
上記のようにして、鋼管10の一方の端部の内周面10a、外周面10bのメッキ層の除去が完了すると、この鋼管10を逆向きにして再度、鋼管メッキ除去装置100に投入する。そして、上記と全く同様にしてもう一方の端部の内周面10a、外周面10bのメッキ層の除去が行われる。これにより、鋼管10の両端のメッキ層の除去が完了する。
【0042】
以上のように、本発明に係る鋼管メッキ除去装置100は、スライド機構36が規定する幅Wとストッパ部材(ローラ72)が規定する深さDで、鋼管10の端部の内周面10a及び外周面10bを切削する。これにより、鋼管10のメッキ層を予め設定された均一な寸法で除去することができる。また、本発明に係る鋼管メッキ除去装置100は、回転部40が1回転することで、回転切削刃80が鋼管10の内周面10aもしくは外周面10bに沿って1周し、鋼管10の内周面10aもしくは外周面10bのメッキ層の除去を行う。これにより、従来よりも迅速にメッキ層の除去を行うことができる。
【0043】
尚、本例で示した鋼管メッキ除去装置100の各部の構成、動作機構、形状、寸法、デザイン、動作手順等は一例であるから、特に本例に限定される訳ではなく、本発明は本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0044】
10 鋼管
10a 内周面
10b 外周面
20 台座部
22 鋼管保持部
30 本体部
40 回転部
50 押圧部
61a 第1のリンク部材(リンク部材)
61b 第2のリンク部材(リンク部材)
64a 第1の巻掛伝動部材(巻掛伝動部材)
64b 第2の巻掛伝動部材(巻掛伝動部材)
70 切削部
72 ローラ(ストッパ部材)
74 刃カバー部
74a 開口部
80 回転切削刃
100 鋼管メッキ除去装置