(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068338
(43)【公開日】2023-05-17
(54)【発明の名称】スフェロイド及びその作製方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20230510BHJP
C12N 5/0793 20100101ALI20230510BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20230510BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20230510BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/0793
C12N5/077
C12N5/0775
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021179345
(22)【出願日】2021-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】島 史明
(72)【発明者】
【氏名】牧野 朋未
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BC01
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】本発明は、網状の血管構造を内部に有する神経系スフェロイドを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の一側面に係るスフェロイドは、神経細胞又はグリア細胞と、幹細胞と、血管内皮細胞とを含み、且つ上記血管内皮細胞の集合が網状の血管構造を形成している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経細胞又はグリア細胞と、幹細胞と、血管内皮細胞とを含み、且つ
前記血管内皮細胞の集合が網状の血管構造を形成している、スフェロイド。
【請求項2】
グリア細胞と、幹細胞と、血管内皮細胞とを含み、
該グリア細胞はスフェロイド表面の少なくとも一部を覆っている、請求項1に記載のスフェロイド。
【請求項3】
グリア細胞がアストロサイトである、請求項2に記載のスフェロイド。
【請求項4】
血管内皮細胞が脳微小血管内皮細胞である、請求項1~3のいずれか一項に記載のスフェロイド。
【請求項5】
幹細胞が脂肪由来幹細胞である、請求項1~4のいずれか一項に記載のスフェロイド。
【請求項6】
細胞接着性の細胞培養基材上で、神経細胞又はグリア細胞と、幹細胞と、血管内皮細胞とを共培養する工程を備え、
神経細胞又はグリア細胞、幹細胞、及び血管内皮細胞のそれぞれは、共培養の開始時にスフェロイドを形成していない、請求項1~5のいずれか一項に記載のスフェロイドを作製する方法。
【請求項7】
神経細胞又はグリア細胞と、幹細胞と、血管内皮細胞とを共培養する工程が、グリア細胞と、幹細胞と、血管内皮細胞とを共培養する工程である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
共培養を、神経幹細胞用培地と血管内皮細胞用培地との混合培地中で行う、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
共培養を、Rhoキナーゼ阻害剤を含む培地中で行う、請求項6~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
細胞接着性の細胞培養基材が、フッ素化ポリイミド樹脂を含む細胞培養基材である、請求項6~9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスフェロイド及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞を三次元培養することで、臓器の構造を模した組織を作製することに注目が集まっている。例えば、神経系の細胞と血管系の細胞とを含む神経系スフェロイドは、脳組織に類似した構造を有するため、アルツハイマー型認知症又は血管障害に起因する脳疾患の病理メカニズムの解明、及び創薬分野での薬剤スクリーニングへの応用が期待される。例えば、非特許文献1では、人工多能性幹細胞(iPS細胞)由来の神経前駆細胞からなるスフェロイドと、血管内皮細胞からなるスフェロイドとを融合させることで脳様スフェロイドを作製する試みが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】L. Song et al., Sci. Rep. 9, 5977(2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
神経系の細胞と血管系の細胞とを含む従来の神経系スフェロイドにおいて、血管構造は網状に形成されていなかった。本発明はかかる課題に鑑みてなされたものであり、網状の血管構造を有する神経系スフェロイドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面に係るスフェロイドは、神経細胞又はグリア細胞と、幹細胞と、血管内皮細胞とを含み、且つ上記血管内皮細胞の集合が網状の血管構造を形成している。
【0006】
スフェロイドは、グリア細胞と、幹細胞と、血管内皮細胞とを含んでよく、該グリア細胞はスフェロイド表面の少なくとも一部を覆っていてよい。グリア細胞はアストロサイトであってよく、血管内皮細胞は脳微小血管内皮細胞であってよく、幹細胞は脂肪由来幹細胞であってよい。
【0007】
本発明の一側面に係るスフェロイドを作製する方法は、細胞接着性の細胞培養基材上で、神経細胞又はグリア細胞と、幹細胞と、血管内皮細胞とを共培養する工程を備え、神経細胞又はグリア細胞、幹細胞、及び血管内皮細胞のそれぞれは、共培養の開始時にスフェロイドを形成していない。
【0008】
神経細胞又はグリア細胞と、幹細胞と、血管内皮細胞とを共培養する工程は、グリア細胞と、幹細胞と、血管内皮細胞とを共培養する工程であってよい。共培養は、神経幹細胞用培地と血管内皮細胞用培地との混合培地中で行ってもよい。共培養は、Rhoキナーゼ阻害剤を含む培地中で行ってもよい。細胞接着性の細胞培養基材は、フッ素化ポリイミド樹脂を含む細胞培養基材であってよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、網状の血管構造を有する神経系スフェロイドが提供される。網状の血管構造を有する神経系スフェロイドは、脳組織により類似した構造を有するため、脳疾患の病理メカニズムの解明及び薬剤スクリーニングへの応用がより期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係るスフェロイドの模式的な断面図である。
【
図2】
図2の(A)及び(B)は、実施例1のスフェロイドの形成過程を示す画像である。
【
図3】
図3の(A)は実施例1のスフェロイドの蛍光画像のz-スタックを横から見た画像であり、
図3の(B)は実施例1のスフェロイドの水平方向の断面画像である。
【
図4】
図4は、実施例2のスフェロイドの形成過程を示す画像である。
【
図5】
図5の(A)は実施例2のスフェロイドの蛍光画像のz-スタックを横から見た画像であり、
図5の(B)は実施例2のスフェロイドの水平方向の断面画像である。
【
図6】
図6の(A)は実施例2のスフェロイドの蛍光画像のz-スタックを横から見た画像であり、
図6の(B)は実施例2のスフェロイドの水平方向の断面画像である。
【
図7】
図7は、実施例3のスフェロイドの形成過程を示す画像である。
【
図8】
図8の(A)は実施例3のスフェロイド(ROCK阻害剤20μM)の蛍光画像のz-スタックを横から見た画像であり、
図8の(B)は実施例3の当該スフェロイドの水平方向の断面画像である。
【
図9】
図9は、実施例4のスフェロイドの形成過程を示す画像である。
【
図10】
図10の(A)は実施例4のスフェロイド(ROCK阻害剤10μM)の蛍光画像のz-スタックを横から見た画像であり、
図10の(B)は実施例4の当該スフェロイドの水平方向の断面画像である。
【
図11】
図11の(A)は実施例4のスフェロイド(ROCK阻害剤20μM)の蛍光画像のz-スタックを横から見た画像であり、
図11の(B)は実施例4の当該スフェロイドの水平方向の断面画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一側面に係るスフェロイドは、神経細胞又はグリア細胞と、幹細胞と、血管内皮細胞とを含み、該血管内皮細胞が集合して網状の血管構造を形成している。
【0012】
神経細胞の由来は特に限定されず、ヒト由来又はヒト以外の動物由来の神経細胞を用いることができる。また、神経細胞は、中枢神経系神経細胞及び末梢神経系神経細胞のいずれであってもよいが好ましくは中枢神経系(脳又は脊髄由来)神経細胞であり、より好ましくは脳由来の神経細胞である。
【0013】
グリア細胞は、アストロサイト、ミクログリア、及びオリゴデンドロサイトからなる群より選ばれる一種以上の細胞であってよい。グリア細胞の由来は特に限定されず、ヒト由来又はヒト以外の動物由来のグリア細胞を用いることができる。グリア細胞は、例えばヒトアストロサイト等のアストロサイトであってよい。
【0014】
スフェロイドは、神経細胞若しくはグリア細胞のいずれか一方のみ又は両方を含むことができる。スフェロイドは、少なくともグリア細胞を含むことが好ましい。
【0015】
幹細胞は、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、iPS細胞等の多能性幹細胞であってもよく、神経幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)であってもよく、又は癌幹細胞であってもよい。間葉系幹細胞としては、由来は特に限定されず、脂肪由来幹細胞、骨髄由来幹細胞、臍帯由来幹細胞、及び歯髄由来幹細胞が挙げられる。幹細胞の由来は特に限定されず、ヒト由来又はヒト以外の動物由来の幹細胞を用いることができる。幹細胞は、例えば、ヒト脂肪由来幹細胞(human adipose derived stem cell:AdSC)であってよい。
【0016】
血管内皮細胞は、脳微小血管内皮細胞、静脈由来内皮細胞、又は動脈由来内皮細胞であってよく、好ましくは脳微小血管内皮細胞である。血管内皮細胞の由来は特に限定されず、ヒト由来又はヒト以外の動物由来の血管内皮細胞を用いることができる。血管内皮細胞は、例えば、ヒト脳微小血管内皮細胞であってよい。
【0017】
スフェロイドは、周皮細胞、平滑筋細胞等、血管内皮細胞以外の血管を構成する細胞をさらに含んでよい。血管を構成する細胞の由来は特に限定されず、ヒト由来又はヒト以外の動物由来の細胞を用いることができる。
【0018】
幹細胞と血管内皮細胞の比は、例えば1:1~10:1であってよく、より具体的には、例えば、5:1~10:1、2:1~3:1、又は1:1~2:1であってよい。血管内皮細胞と神経細胞の比は、例えば1:0.5~1:20であってよく、より具体的には、例えば、1:10~1:20、1:5~1:10、又は1:0.5~1:3であってよい。血管内皮細胞とグリア細胞の比は、例えば1:0.5~1:30であってよく、より具体的には、例えば、1:20~1:30、1:10~1:15、又は1:5~1:10であってよい。
【0019】
スフェロイドは、上記血管該内皮細胞を含む網状の血管構造を内部に有する。本明細書において、「血管構造」とは、未成熟な血管構造及び成熟した血管構造の両方を包含し、具体的には、管腔を形成する血管内皮細胞の連続的な単層を少なくとも有する構造を指す。血管内皮細胞の層は基底膜で覆われていてもよく、周皮細胞又は平滑筋細胞が接着していてもよい。網状の血管構造とは、血管が分岐し又は互いに接続することにより形成された、網状の構造を意味する。血管構造は、スフェロイドの全体にわたって形成されていることが好ましいが、スフェロイドの一部に局所的に形成されていてもよい。網状の血管構造を有することにより、栄養及び酸素がスフェロイドの全体に行き渡りやすい。なお、ドーム部と平坦部を含む形状のスフェロイドであって、平坦部から該平坦部に対して垂直方向に沿って複数の血管構造が形成されているスフェロイドについては、本発明の範囲に含めることを意図していない。
【0020】
スフェロイドがグリア細胞を含む場合、グリア細胞は、スフェロイド表面の少なくとも一部を覆うように存在する。スフェロイドの表面の一部又は全体がグリア細胞により覆われていると、グリア細胞から産生された液性因子等のタンパク質がスフェロイド内部へ拡散し、細胞間の相互作用が強くなることで各細胞の機能発現が向上すると考えられる。一部のグリア細胞は、幹細胞とともにスフェロイドの内部に存在していてもよい。
【0021】
スフェロイドは、例えば略球状であってよい。ただし、スフェロイドが細胞培養基材に接着している場合は、スフェロイドはその接着面において平坦部を有してもよい。スフェロイドの大きさは特に限定されず、スフェロイドは、例えば、10~1500μm、10~1000μm、又は10~800μmの直径を有してよい。ここで、スフェロイドの直径は、例えば、画像解析ソフト又は粒度分布計を用いて常法により測定される。
【0022】
図1に、一実施形態に係る略球状のスフェロイドの模式的な断面図を示す。スフェロイド10は、グリア細胞と、幹細胞と、血管内皮細胞と、を含むスフェロイドであり、幹細胞の凝集体1と、幹細胞の凝集体1中に形成された網状の血管構造3と、幹細胞の凝集体1の表面を覆うグリア細胞の層5とを含む。を含む。
【0023】
グリア細胞の層5は、幹細胞の凝集体1の表面の少なくとも一部又は全体を覆う、連続的又は断続的な層である。グリア細胞の層5の厚みは特に限定されず、グリア細胞の層5は、細胞単層であっても細胞重層であってもよい。グリア細胞の一部は幹細胞の凝集体1中に存在していてもよく、また、グリア細胞の層5はスフェロイド10の内部に向かって延在していてもよい。
【0024】
スフェロイド10に神経細胞が含まれる場合、神経細胞は、グリア細胞の有無にかかわらず、幹細胞とともに凝集体1を形成する。スフェロイド10はグリア細胞を含むが、スフェロイド10はグリア細胞を含まなくてもよく、その場合、グリア細胞の層5は形成されない。
【0025】
一実施形態において、スフェロイドは、細胞接着性の細胞培養基材に接着されていてよい。細胞培養基材に接着されたスフェロイドには、スフェロイドを損傷することなく安全に運搬することができるという利点があり、また、スフェロイドを単離することなくスクリーニング又は各種評価に用いることが可能であるという利点もある。
【0026】
細胞培養基材は細胞を接着できる基材であれば特に限定されず、公知の接着培養用の基材であってよく、より具体的には公知の接着培養用の培養容器であってよい。すなわち、基材の表面の一部又は全部は細胞接着性を有する。細胞接着性の表面とは、培養液中で細胞が該表面上に沈降したときに、該細胞がある一定の接着点で接着することのできる表面のことである。
【0027】
より具体的には、基材は細胞接着性物質を含んでよい。細胞接着性物質は、例えば、タンパク質又は合成樹脂であってよい。タンパク質は、例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、又はラミニンであってよい。合成樹脂は、例えば、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリジメチルシロキサン、又はこれらの混合物であってよい。合成樹脂は、好ましくはフッ素化ポリイミド樹脂である。フッ素化ポリイミド樹脂とは、いいかえれば含フッ素ポリイミド樹脂である。
【0028】
フッ素化ポリイミド樹脂は、例えば、4,4’-ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物(6FDA)/1,4-ビス(アミノフェノキシ)ベンゼン(TPEQ)共重合体、6FDA/1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPER)共重合体、6FDA/4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA)/TPEQ共重合体、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸(BPADA)/2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン(HFBAPP)共重合体、6FDA/2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン(BAPP)共重合体、6FDA/2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)共重合体、6FDA/4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)共重合体、6FDA/4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)共重合体、又は6FDA/2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン(BAPS)共重合体であってよい。
【0029】
フッ素化ポリイミド樹脂の重量平均分子量は、例えば、5000~2000000であり、好ましくは8000~1000000であり、より好ましくは20000~500000である。なお、本明細書において、重量平均分子量は、下記手法により測定される。
【0030】
(重量平均分子量の測定)
装置:HCL-8220GPC(東ソー株式会社製)
カラム:TSKgel Super AWM-H
溶離液(LiBr・H2O、リン酸入りN-メチルピロリドン):0.01mol/L
測定方法:0.5質量%の溶液を溶離液で作製し、ポリスチレンで作製した検量線に基づいて分子量を算出する。
【0031】
一実施形態において、基材は、開口部を有する凹部を複数備えていてよい。凹部の底面は細胞接着性を有していてよく、より具体的には、凹部の底面は上記細胞接着性物質により構成されていてよい。
【0032】
凹部の個数は特に限定されず、基材の1cm2あたりの凹部の個数は、1個以上、10個以上、20個以上、30個以上、又は50個以上であってよく、1000個以下、500個以下、300個以下、200個以下、又は100個以下であってよい。本実施形態に係る基材における凹部の総数は、例えば、1個以上、10個以上、100個以上、1000個以上、10000個以上、又は50000個以上であってよい。
【0033】
凹部の開口部の形状は特に限定されず、例えば、円、多角形、又は楕円であってよい。開口部の口径は、例えば、2000μm以下、10~2000μm、10~1000μm、10~700μm、10~600μm、又は10~500μmであってよい。本明細書において、ある部位の口径とは、該部位に外接する円の直径、すなわち該部位の最大長さのことである。
【0034】
凹部の底面の形状は特に限定されず、例えば、円、多角形、又は楕円であってよい。底面の形状は、開口部の形状と同一であっても異なってもよい。底面の口径は、開口部の口径と同一であっても異なってもよく、開口部の口径より小さくても大きくてもよい。底面の口径は、例えば、10~2000μm、10~1000μm、10~700μm、10~600μm、10~500μm、10~400μm、又は10~300μmであってよい。凹部の底面は、平坦な面であってよく、平坦かつ平滑な面であってよい。
【0035】
開口部と、それに隣接する開口部との間の距離、すなわち間隙の長さは、特に限定されない。間隙の長さは、例えば、800μm以下、700μm以下、600μm以下、500μm以下、300μm以下、200μm以下、又は100μm以下であってよい。
【0036】
凹部の深さは特に限定されず、例えば、100nm~500nm、10μm~1000μm、又は10μm~300μmであってよい。
【0037】
本実施形態において、基材の全表面のうち凹部の底面以外の表面、すなわち凹部の内側面と基材の上面(凹部の辺縁部ともいえる)は細胞非接着性であってよい。細胞非接着性の表面とは、細胞が全く接着しないか、一時的に弱く接着しても自然に脱離する、表面のことである。より具体的には、基材の全表面のうち凹部の底面以外の表面は、細胞非接着性物質から構成されていてよい。
【0038】
細胞非接着性物質は、細胞の表面に存在するタンパク質、糖鎖等の分子に結合しない物質であれば特に限定されない。細胞非接着性物質としては、例えば、ポリエチレングリコール及びその誘導体、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)及びその誘導体、ポリヒドロキシエチルメタクリレート(poly-HEMA)及びその誘導体等を含む化合物あるいはそれら化合物の重合体、セグメント化ポリウレタン(SPC)及びその誘導体等を含む化合物、アルブミン等のタンパク質、細胞が接着しない糖鎖(アガロース、セルロース等)等を、細胞の種類に応じて適宜選択して用いることができる。これらの物質は、1種又は2種以上を使用することができる。なかでも、細胞接着性部位との接着性、基材の製造工程の簡素化、培養によって得られる細胞の均一性向上等の観点から、MPC及びその誘導体あるいはそれらの重合体が好ましく、より好ましくはMPCポリマーが挙げられる。
【0039】
別の実施形態において、基材は、細胞接着性表面と細胞非接着性表面とで形成された微細パターンを備える、細胞培養用シートであってよい。一例として、細胞培養用シートは、細胞接着性物質の層と、該層の表面に設けられた細胞非接着性物質のマスクとで形成された微細パターンを有してよい。微細パターンは、例えば凹部であってよい。この場合、凹部の深さは細胞非接着性物質のマスクの厚みに依存する。したがって、凹部の深さの下限は、細胞がマスクの非接着性を認識できる最小厚みである。凹部の深さは、例えば、10μm未満であってよく、100nm~500nmであってよい。凹部の個数、凹部の開口部及び底面の形状及び口径、並びに凹部間の距離は、上記実施形態と同様であってよい。
【0040】
微細パターンの形成は、例えば、マイクロコンタクトプリンティング法、スピンコーティング法、キャスティング法、ロールコーティング法、ダイコーティング法、グラビアコーティング法、スプレイコーティング法、バーコーティング法、フレキソ印刷法、ディップコーティング法、インクジェット法、又はパターニング法により行ってもよい。パターニング法とは、ベース材表面に形成された凹凸構造の間隙に、該間隙に生じる毛細管力を利用して所望の物質を注入することにより、微細パターンを形成する方法である。
【0041】
顕微鏡を用いてスフェロイドを観察する観点から、基材の厚みは、好ましくは400μm以下であり、より好ましくは200μm以下である。基材の面積は特に限定されず、例えば、0.01~10000cm2又は0.03~5000cm2であってよい。
【0042】
本発明の一側面に係るスフェロイドの作製方法は、細胞接着性の細胞培養基材上で、神経細胞又はグリア細胞と、幹細胞と、血管内皮細胞とを共培養する工程を備える。神経細胞とグリア細胞の両方を含むスフェロイドを作製する場合、上記共培養する工程では、神経細胞と、グリア細胞と、幹細胞と、血管内皮細胞とを共培養する。この方法により、本発明の上記側面に係るスフェロイドを作製することができる。細胞接着性の細胞培養基材及び各細胞の詳細は上述のとおりである。
【0043】
神経細胞又はグリア細胞、幹細胞、及び血管内皮細胞のそれぞれは、共培養の開始時にスフェロイドを形成していない。すなわち、上記共培養する工程は、異なる細胞からなるスフェロイド同士を共培養することによって融合させる工程ではない。
【0044】
共培養に用いる培地は、細胞の増殖に必要な成分を含む培地であればよく、例えば、イーグル最小必須培地(EMEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、α-MEM、グラスゴーMEM(GMEM)、IMDM、RPMI1640、ハムF-12、MCDB培地、ウィリアムス培地E等の基本培地に、必要に応じて、血清、成長因子、分化誘導因子、抗生物質、ホルモン、アミノ酸、糖、塩類等の成分を添加して得られる培地であってよい。スフェロイドの内部に網状の血管構造を形成する観点から、培地は、好ましくは血管内皮細胞用培地を含む培地であり、より好ましくは神経幹細胞用培地又はアストロサイト用培地と、血管内皮細胞用培地との混合培地であり、さらに好ましくは神経幹細胞用培地と血管内皮細胞用培地との混合培地である。
【0045】
血管内皮細胞用培地とは、血管内皮細胞の培養に適した組成を有する培地であって、典型的には、血管内皮増殖因子(VEGF)、ヒト上皮成長因子(hEGF)、ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(hFGF-β)、ヘパリン等の成分を基本培地中に含む。血管内皮細胞用培地としては、例えば、ロンザ社製のEGM(登録商標)-2 BulletKit(登録商標)(カタログ番号:CC-3162)を用いて調製されるEGM(登録商標)-2培地等の市販品を用いることができる。EGM(登録商標)-2培地には、hEGF、VEGF、R3インスリン様成長因子1(R3 IGF-1)、アスコルビン酸、ヒドロコルチゾン、hFGF-β、ヘパリン、ウシ胎児血清(FBS)、及びゲンタマイシン等の抗生物質が含まれる。
【0046】
神経幹細胞用培地とは、神経幹細胞の培養に適した組成を有する培地であって、典型的には、hEGF、hFGF-β、神経生存因子-1(NSF-1)等の成分を基本培地中に含む。神経幹細胞用培地としては、例えば、コージンバイオ社製のKBM Neural Stem Cell等の市販品を用いることができる。KBM Neural Stem Cellには、コージンバイオ社製のKBM XB2を添加してもよい。
【0047】
アストロサイト用培地とは、アストロサイトの培養に適した組成を有する培地であって、典型的には、hEGF、L-グルタミン酸、インスリン等の成分を基本培地中に含む。アストロサイト用培地としては、例えば、ロンザ社製のAGM(登録商標) BulletKit(登録商標)(カタログ番号:CC-3186)を用いて調製されるAGM(登録商標) Astrocyte Growth Medium、サイエンセル社製のアストロサイト用培地(カタログ番号:1801)等の市販品を用いることができる。AGM(登録商標) Astrocyte Growth Mediumには、FBS、L-グルタミン酸、インスリン、hEGF、アスコルビン酸、及びゲンタマイシン等の抗生物質が含まれる。
【0048】
細胞の生存を維持し、かつ細胞を増殖させる観点から、共培養に用いる培地は、好ましくは血清を含む。また、スフェロイドの形成率を向上させる観点から、共培養に用いる培地はRhoキナーゼ(ROCK)阻害剤をさらに含むことが好ましい。培地中のROCK阻害剤の濃度は、例えば、0.01~50μMであってよく、具体的には、例えば0.01~1μM又は5~50μMであってよい。
【0049】
培養温度は特に限定されないが、通常は25~40℃程度である。培養時の相対湿度は特に限定されず、例えば、40~95%RHであってよい。
【0050】
培養の時間は特に限定されず、細胞の増殖速度と所望のスフェロイドの大きさに応じて、適宜決定することができる。培養の時間は、例えば、4時間~30日(4時間~720時間)、1日~14日(24時間~336時間)、又は1日~7日(24時間~168時間)であってよい。
【0051】
幹細胞と血管内皮細胞の比は、例えば1:1~10:1であってよく、具体的には、例えば、5:1~10:1、2:1~3:1、又は1:1~2:1であってよい。血管内皮細胞と神経細胞の比は、例えば1:0.5~1:20であってよく、具体的には、例えば、1:10~1:20、1:5~1:10、又は1:0.5~1:3であってよい。血管内皮細胞とグリア細胞の比は、例えば1:0.5~1:30であってよく、具体的には、例えば、1:20~1:30、1:10~1:15、又は1:5~1:10であってよい。
【0052】
細胞を培養する前に、細胞培養基材を脱泡することが好ましい。脱泡処理の方法は特に限定されず、霧吹き、ピペッティング、振盪、加温及び冷却、遠心処理、真空脱気、超音波処理等の一般的な方法を利用することができる。
【実施例0053】
<ヒト神経細胞(NHN)の準備>
培養フラスコ(培養面積25cm2)にAlphaBioCoat(カタログ番号:AC001、ニューロミクス社製)を2mL加え、37℃の5%(v/v)CO2インキュベーター内で30分静置した後、10mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で培養フラスコを2回洗浄して、フラスコ内の培養面をAlphaBioCoatでコーティングした。ヒト神経細胞(脳由来;カタログ番号:NHC001、ニューロミクス社より購入)の凍結細胞を37℃の恒温水槽で溶解させ、10mLの神経細胞専用培地(カタログ番号:HNM001、ニューロミクス社製)に加えた。この細胞懸濁液を上記培養フラスコに加え、37℃の5%(v/v)CO2インキュベーター内で培養した。培地交換は2~3日に一度行った。培養後、培養フラスコから培地を除去して細胞剥離液アキュターゼ(登録商標)(プロモセル社製)を2mL添加し、37℃の5%(v/v)CO2インキュベーター内で培養フラスコを5分程度静置して細胞を剥離した。次いで、細胞剥離液をチューブに回収し、培養フラスコを8mLの培地で洗浄して、該培地をチューブへ移した。500×gで3分間遠心処理を施し、細胞を0.5mLの神経幹細胞専用培地で懸濁させて、細胞数をカウントした。
【0054】
<ヒトアストロサイト(NHA)の準備>
ヒトアストロサイト(カタログ番号:CC-2565、ロンザ社より購入)の凍結細胞を37℃の恒温水槽で溶解させ、15mLのアストロサイト専用培地(カタログ番号:CC-3186、ロンザ社製、又はカタログ番号:1801、サイエンセル社製)に加えた。この細胞懸濁液を培養フラスコ(培養面積75cm2)に加え、37℃の5%(v/v)CO2インキュベーター内で培養した。培地交換は2日に一度行った。培養後、培養フラスコから培地を除去して細胞剥離液アキュターゼ(登録商標)を5mL添加し、37℃の5%(v/v)CO2インキュベーター内で培養フラスコを5分程度静置して細胞を剥離した。次いで、細胞剥離液をチューブに回収し、培養フラスコを10mLの培地で洗浄して、該培地をチューブへ移した。210×gで5分間遠心処理を施し、細胞を1mLの神経幹細胞専用培地又はアストロサイト専用培地で懸濁させて、細胞数をカウントした。
【0055】
<ヒト脂肪由来幹細胞(AdSC)の準備>
ヒト脂肪由来幹細胞(カタログ番号:PT-5006、ロンザ社より購入)の凍結細胞を37℃の恒温水槽で溶解させ、5%FBS及び1%抗生物質を含む9mLの脂肪由来幹細胞専用培地(商品名:KBM ADSC-1、コージンバイオ社製)に加えた。次いで、210×gで5分間の遠心処理を施した後、上清を除去して1mLの脂肪由来幹細胞専用培地に細胞を分散させた。この細胞懸濁液15mL(3.0×105細胞)を培養フラスコ(培養面積75cm2)に加え、37℃の5%(v/v)CO2インキュベーター内で培養した。培地交換は2日に一度行った。培養後、培養フラスコから培地を除去して細胞剥離液アキュターゼ(登録商標)を5mL添加し、室温で培養フラスコを5分程度静置して細胞を剥離した。次いで、細胞剥離液をチューブに回収し、培養フラスコを10mLの培地で洗浄して、該培地をチューブへ移した。210×gで5分間遠心処理を施し、アストロサイト専用培地又はKBM XB2(コージンバイオ社製)を含む神経幹細胞専用培地1mLで細胞を懸濁させて、細胞数をカウントした。
【0056】
<ヒト脳毛細血管内皮細胞(HBEC)の準備>
培養フラスコ(培養面積75cm2)にAttachment Factor(登録商標)(商品番号:4Z0-210、セルシステムズ社製)を5mL加え、直ちに吸引して、フラスコ内の培養面をAttachment Factorでコーティングした。ヒト脳毛細血管内皮細胞(商品番号:ACBRI 376、セルシステムズ社から購入)の凍結細胞を37℃の恒温水槽で溶解させ、15mLの血管内皮細胞専用培地(商品番号:4Z0-500-R、セルシステムズ社製)に加えた。この細胞懸濁液を上記培養フラスコに加え、37℃の5%(v/v)CO2インキュベーター内で培養した。培地交換は2日に一度行った。培養後、培養フラスコから培地を除去して細胞剥離液アキュターゼ(登録商標)を5mL添加し、37℃の5%(v/v)CO2インキュベーター内で培養フラスコを2分程度静置して細胞を剥離した。次いで、細胞剥離液をチューブに回収し、培養フラスコを10mLの培地で洗浄して、該培地をチューブへ移した。210×gで5分間遠心処理を施し、アストロサイト専用培地又はKBM XB2を含む神経幹細胞専用培地0.5mLで細胞を懸濁させて、細胞数をカウントした。
【0057】
<培養容器の準備>
以下の実施例において、培養容器としては、直径約300μmの円状の開口部及び底面を有する穴(キャビティ)を400個備える培養容器を用いた。かかる培養容器は6FDA/TPEQ共重合体を底面に含み、底面以外はMPCポリマーでコートされている。培養容器には、使用前に脱泡処理を行った。具体的には、培養容器に1mL程度のPBSを加えてピペッティングを行い、37℃の5%(v/v)CO2インキュベーター内で培養容器を15~30分間静置した。次いで、再びピペッティングを行った後、PBSをアスピレーターで吸うことで脱泡を完了した。
【0058】
<スフェロイドの観察>
以下の実施例において、得られたスフェロイドを次のようにして観察した。まず、スフェロイドを4%パラホルムアルデヒドリン酸緩衝液で15分処理して固定した。次いで、各細胞を蛍光染色した。NHNは、Alexa Fluor(登録商標) 647色素で標識された抗MAP2抗体(アブカム社製)で染色した。NHAは、抗グリア線維性酸性蛋白(GFAP)抗体(アブカム社製)及びAlexa Fluor(登録商標) 488色素で標識された2次抗体(サーモフィッシャー社製)を用いて染色した。HBECは、抗CD31抗体(BDバイオサイエンス社製)及びAlexa Fluor(登録商標) 594色素で標識された2次抗体(サーモフィッシャー社製)を用いて染色した。核はDAPIで染色した。染色されたスフェロイドに透明化試薬SCALEVIEW(登録商標)-S4(富士フイルム和光純薬株式会社製)を加え、37℃で一晩インキュベートした。透明化処理を行うことでスフェロイドの全体、すなわち底面から頂点までの観察が可能となった。透明化処理したスフェロイドを共焦点レーザー顕微鏡で観察した。
【0059】
<実施例1>
培養容器に、250細胞/穴のNHN、750細胞/穴のNHA、200細胞/穴のAdSC、及び100細胞/穴のHBECを播種した。培養容器を安全キャビネット内で15分静置した後、37℃の5%(v/v)CO2インキュベーターに入れて4時間静置した。次いで、培養容器に神経幹細胞専用培地(KBM XB2を添加したKBM Neural Stem Cell、いずれもコージンバイオ社製)及び血管内皮細胞専用培地(カタログ番号:CC-3162、ロンザ社製)を等量で混合して得られた混合培地(1%の血清を含む)を5mL加え、培養容器を再び37℃の5%(v/v)CO2インキュベーターに入れて3日間培養することで、スフェロイドを作製した。
【0060】
スフェロイドの形成過程を
図2の(A)及び(B)に示す。播種4時間後には一部の穴でスフェロイドが形成し始め(
図2の(A))、3日目には各穴にスフェロイドが形成していた(
図2の(B))。播種3日後のスフェロイドの蛍光画像を
図3の(A)及び(B)に示す。
図3の(A)は、HBECの蛍光画像のz-スタックを横から見た画像である。
図3の(B)はスフェロイドの水平方向の断面画像を示し、細胞核(左上)、NHA(中央上)、HBEC(右上)、及びNHN(左下)の其々の蛍光(白色)、並びにスフェロイドの明視野画像(中央下)示す。これらの画像が示すように、スフェロイド内に、HBECにより形成された管腔を有する網状の血管構造が形成されていた。また、NHAはスフェロイドの表面及び内部に存在していた。
【0061】
スフェロイドの粒子径を、顕微鏡画像から画像解析ソフト(WinROOF、三谷商事株式会社製)を用いて計測した。スフェロイドの粒子径は206±29μmであった(n=100)。
【0062】
<実施例2>
播種する細胞を1000細胞/穴のNHA、200細胞/穴のAdSC、並びに100又は200細胞/穴のHBECに変更し、混合培地の量を4mLに変更した以外は、実施例1と同様にしてスフェロイドを作製した。
【0063】
スフェロイドの形成過程を
図4に示す。播種4時間後には一部の穴でスフェロイドが形成し始め、3日目には各穴にスフェロイドが形成していた。HBECの播種数が100細胞/穴の場合の播種3日後のスフェロイドの蛍光画像を
図5の(A)及び(B)に示し、HBECの播種数が200細胞/穴の場合の播種3日後のスフェロイドの蛍光画像を
図6の(A)及び(B)に示す。
図5の(A)及び
図6の(A)は、HBECの蛍光画像のz-スタックを横から見た画像である。
図5の(B)及び
図6の(B)はスフェロイドの水平方向の断面画像を示し、細胞核(左上)、NHA(右上)、及びHBEC(左下)の其々の蛍光(白色)、並びにスフェロイドの明視野画像(右下)を示す。これらの画像が示すように、HBECの播種数によらず、スフェロイド内に、HBECにより形成された管腔を有する網状の血管構造が形成されていた。また、NHAはスフェロイドの表面を覆うように存在していた。
【0064】
<実施例3>
混合培地にROCK阻害剤(Y-27632、富士フィルム和光純薬社製)を終濃度で10又は20μM添加した以外は、実施例2と同様にしてスフェロイドを作製した。HBECの播種数は100細胞/穴に調整した。
【0065】
スフェロイドの形成過程を
図7に示す。播種4時間後には一部の穴でスフェロイドが形成し始め、3日目には各穴にスフェロイドが形成していた。播種3日後のスフェロイド(ROCK阻害剤20μMを培地に添加したもの)の蛍光画像を
図8の(A)及び(B)に示す。
図8の(A)は、HBECの蛍光画像のz-スタックを横から見た画像である。
図8の(B)はスフェロイドの水平方向の断面画像を示し、細胞核(左上)、NHA(右上)、及びHBEC(左下)の其々の蛍光(白色)、並びにスフェロイドの明視野画像(右下)を示す。これらの画像が示すように、スフェロイド内に、HBECにより形成された管腔を有する網状の血管構造が形成されていた。また、NHAはスフェロイドの表面を覆うように存在していた。一部のNHAはスフェロイド内部にも存在していた。
【0066】
下式に従いスフェロイド形成率を算出した。
スフェロイド形成率(%)={スフェロイドの数(個)}/{穴の合計数(個)}×100
スフェロイド形成率は、ROCK阻害剤の濃度が10μMのときは99%であり、20μMのときは84%であった。比較として、培地にROCK阻害剤を添加せず同様の実験を行ったところ、スフェロイドの形成率は74%であった。神経幹細胞専用培地と血管内皮細胞専用培地との混合培地には1%含まれるが、該培地にROCK阻害剤を添加することで、細胞の過剰な運動が抑制されて、スフェロイドの形成率が向上することがわかった。
【0067】
<実施例4>
混合培地にROCK阻害剤(Y-27632、富士フィルム和光純薬社製)を終濃度で10又は20μM添加した以外は、実施例1と同様にしてスフェロイドを作製し、実施例3と同様にしてスフェロイド形成率を算出した。HBECの播種数は100細胞/穴に調整した。
【0068】
スフェロイドの形成過程を
図9に示す。播種4時間後には一部の穴でスフェロイドが形成し始め、3日目には各穴にスフェロイドが形成していた。ROCK阻害剤の濃度によらず、いずれの条件でもスフェロイドが形成された。播種3日後のスフェロイドの蛍光画像を
図10(ROCK阻害剤10μM)、
図11(ROCK阻害剤20μM)の(A)及び(B)に示す。
図10、
図11の(A)は、HBECの蛍光画像のz-スタックを横から見た画像である。
図10、
図11の(B)はスフェロイドの水平方向の断面画像を示し、細胞核(左上)、NHA(上中央)、HBEC(右上)、及びNHN(左下)の其々の蛍光(白色)、並びにスフェロイドの明視野画像(中央下)を示す。これらの画像が示すように、スフェロイド内に、HBECにより形成された管腔を有する網状の血管構造が形成されていた。また、NHAは一部スフェロイドの表面を覆うように存在していた。一部のNHAはスフェロイド内部にも存在していた。NHNはスフェロイドの表面近傍、及び内部に存在していた。スフェロイド形成率は、ROCK阻害剤の濃度が10μMのときは95%であり、20μMのときは92%であった。比較として、培地にROCK阻害剤を添加せず同様の実験を行ったところ、スフェロイドの形成率は75%であった。実施例3の細胞と併せて神経細胞を用いた場合も、培地にROCK阻害剤を添加することで、細胞の過剰な運動が抑制されてスフェロイドの形成率が向上することがわかった。