(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068350
(43)【公開日】2023-05-17
(54)【発明の名称】食品性能改良剤、これを用いた食品及びその食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/104 20160101AFI20230510BHJP
A23L 7/10 20160101ALN20230510BHJP
A21D 13/80 20170101ALN20230510BHJP
A21D 13/00 20170101ALN20230510BHJP
A21D 2/08 20060101ALN20230510BHJP
A23L 7/109 20160101ALN20230510BHJP
【FI】
A23L7/104
A23L7/10 E
A21D13/80
A21D13/00
A21D2/08
A23L7/109 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021179369
(22)【出願日】2021-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】500015984
【氏名又は名称】清田産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121784
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 稔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘明
(72)【発明者】
【氏名】上原 由佳子
(72)【発明者】
【氏名】石川 瑠菜
【テーマコード(参考)】
4B023
4B032
4B046
【Fターム(参考)】
4B023LC05
4B023LC08
4B023LE02
4B023LE07
4B023LE11
4B023LE26
4B023LE30
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4B023LG06
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4B023LK17
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4B032DP73
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4B046LE11
4B046LG46
4B046LP01
4B046LQ04
(57)【要約】
【課題】主として小麦粉若しくは米や米粉などの穀類又は芋類を原材料とする食品の食味、及び、製造後の経時的な食味、特に常温での中長期間保存や冷蔵保存される食品の食味を改良することのできる食品性能改良剤、これを用いた食品及びその食品の製造方法を提供する。
【解決手段】食品性能改良剤は、ペクチンポリガラクチュロナーゼ活性を有するペクチナーゼを含有する。特に、ペクチナーゼは、ペクチンポリガラクチュロナーゼであってもよい。この食品性能改良剤を製造段階で添加して食品を製造する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主として小麦粉若しくは米や米粉などの穀類又は芋類を原材料とする食品の食味及び/又は食味安定性を改良するための食品性能改良剤であって、
酵素としてペクチンポリガラクチュロナーゼ活性を有するペクチナーゼを含有することを特徴とする食品性能改良剤。
【請求項2】
前記ペクチナーゼは、ペクチンポリガラクチュロナーゼであることを特徴とする請求項1に記載の食品性能改良剤。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれか1つに記載の食品性能改良剤を使用して製造したことを特徴とする食品性能が改良されてなる食品。
【請求項4】
主として小麦粉若しくは米や米粉などの穀類又は芋類を原材料とする食品の食味及び/又は食味安定性が改良されてなる食品の製造方法であって、
前記小麦粉若しくは米や米粉などの穀類又は芋類からなる原材料又は仕掛工程品に、酵素としてペクチンポリガラクチュロナーゼ活性を有するペクチナーゼを含有する食品性能改良剤を付与する付与工程と、
前記付与工程後の前記原材料又は仕掛工程品において、前記酵素を賦活化する賦活工程とを有していることを特徴とする食品の製造方法。
【請求項5】
前記ペクチナーゼは、ペクチンポリガラクチュロナーゼであることを特徴とする請求項4に記載の食品の製造方法。
【請求項6】
前記賦活工程には、前記付与工程後の前記原材料又は仕掛工程品に加熱処理を施す加熱工程が含まれ、
前記加熱工程において、前記食品性能改良剤を付与した食品の原材料又は仕掛工程品に対して、5℃~50℃の温度範囲で加熱処理を施すことを特徴とする請求項4又は5に記載の食品の製造方法。
【請求項7】
前記食品は、長期保存または冷蔵保存される食品であることを特徴とする請求項4~6のいずれか1つに記載の食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食味や食味安定性などの食品の性能を改良するための食品性能改良剤、並びに、これを用いた食品及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品業界において、食味改良など食品の性能を向上させることは重要なテーマである。例えば、焼き菓子ラングドシャや山型食パンなどは、サクサクとした食感が求められる。特に、山型食パンなどの釜伸び(オーブンでパンを焼く時にパン生地が膨らむこと)する食パンは、サックリした軽い食感が求められる。
【0003】
これに対応して、α-アミラーゼやヘミセルラーゼなどを作用させて軽い食感を出すことはできても、サクサクとした食感は困難であった。また、加工デンプン等を加えることで一定の効果を出すことはできるが、食品に加工デンプン表示が必要となる。また、酢酸架橋デンプンを使用した場合には、酢酸臭がするという問題があった。
【0004】
また、焼き菓子や、食パンは常温で中長期間保存されるが、保存時に食品の食感が硬くなるという問題があった。これは、調理段階においてα化していた小麦粉のデンプンが、経時的にβ化するいわゆる老化によるものと考えられている。そこで、中長期間保存される食品にしっとり感を付与し、硬さを解消することが求められている。更に、昨今の社会問題である食品の廃棄ロスを減らすためにも、賞味期間を長く設定することが求められ、保存時の食感変化が大きな課題となっている。
【0005】
これに対応して、中長期間保存しても良好な食感を出す方法としては、上述のα-アミラーゼや加工デンプンなどで対処されている。しかし、これらの対処では、食感変化が弱い、加工デンプン表示を必要とするなどの問題が残る。また、老化の問題に対しては、加工デンプンでの対処では不十分で、更に老化を改善する方法が求められている。
【0006】
また、冷蔵保存するようなスフレチーズケーキやシュー皮などは、水分活性Aw(食品の保存性の指標)が0.9以上あり、水分を多く含有し日持ちしにくい製品とされる。これら水分を多く含む製品は、冷蔵保存することが多い。また、冷蔵保存時には、常温より早いスピードで老化が起きる。従って、水分を多く含む製品においては、食感をよりしっとりと保ち続ける(しっとり感)必要がある。更に、これらの食品のうちスフレチーズケーキなどは、水分活性Awが0.9未満の食品に比べ、舌の上で滑らかに溶ける食感(くちどけ感)が求められることも多い。
【0007】
これに対応して、α-アミラーゼなどを作用させることにより、若干しっとり感やくちどけ感を出して老化時の食感のほぐれ感を保つことができる。しかし、チーズやチョコを含む食品の場合には、舌の上で滑らかに溶ける濃厚な食感を出すことができず、滑らかな食感を保つことは困難であった。食感が滑らかに溶けず濃厚でないと感じた場合には、食品に含まれるチーズやチョコが少ないような安っぽい食感となってしまう印象が課題であった。
【0008】
また、炊飯直後の米飯は、もちもちしており、みずみずしいが、保存時にはその食感がデンプンのβ化などによる老化が認められ硬くなる。保存時の米飯に良好な食感を出す方法としては、pH調整剤、炊飯油、デンプン改質酵素などで対処されている。しかし、これらの対処では、食感変化が弱い、違和感のある呈味が付与される、食品添加物表示を必要とするなどの問題が残る。なお、デンプン改質酵素による方法は、多く検討され一定の評価があるものの、冷蔵時の老化に関しては十分なものではなかった。
【0009】
一方、下記特許文献1において、新規デンプン性組成物およびその製造方法が提案されている。この方法は、デンプン中のアミロースおよびアミロペクチンの含有量を、酵素処理によって人為的に変化させることを意図したものである。すなわち、デンプンからアミロースのみを除去すれば、より老化し難いデンプンが生成されるとする。この方法によれば、単にα-アミラーゼで処理するのではなく、デンプン中のアミロースおよびアミロペクチンに対して独特の作用を有する酵素でデンプンを処理する。
【0010】
しかし、下記特許文献1においては、従来のα-アミラーゼとは異なる特殊な酵素を使用しなければならない。また、実施例の食品への応用においては、わらび餅、炊飯米、及び、餅への効果について説明するが、製造直後の食感を官能評価するものであって、経時的な老化、常温での中長期間保存や冷蔵保存に対する効果が示されていない。
【0011】
なお、食品の食味や食味安定性に関しては、その食品の原材料の主成分や副成分により、また調理される食品に求められる食味の種類により個別具体的に対応することも重要と考えられる。このことから、本発明者らは、以前に下記特許文献2において、穀類や芋類などからなる原材料に含まれるペクチンに着目し、これを改質する特定の酵素を利用する食品の食味及び食味安定性を改良する食品性能改良剤を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001-103991号公報
【特許文献2】特願2020-152754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、上記特許文献2においては、穀類や芋類などからなる原材料とする食品に対して、特定の活性を有する酵素を利用することにより食品の食味や食味安定性を改良した。更に、本発明者らは、上記特許文献2とは主たる活性の異なる酵素を利用して、同様の食品或いは他の食品、及び、同様の食味或いは他の食味について上記課題を解決できることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明は、上記の諸問題に対処して、主として小麦粉若しくは米や米粉などの穀類又は芋類を原材料とする食品の食味、及び、製造後の経時的な食味、特に常温での中長期間保存や冷蔵保存される食品の食味を改良することのできる食品性能改良剤、これを用いた食品及びその食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、上記特許文献2とは異なる活性を有する酵素に着目し、この酵素を利用することにより食品の食味と食味安定性を改良できることを見出して本発明の完成に至った。
【0016】
即ち、本発明に係る食品性能改良剤は、請求項1の記載によれば、
主として小麦粉若しくは米や米粉などの穀類又は芋類を原材料とする食品の食味及び/又は食味安定性を改良するための食品性能改良剤であって、
酵素としてペクチンポリガラクチュロナーゼ活性を有するペクチナーゼを含有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、請求項2の記載によれば、請求項1に記載の食品性能改良剤であって、
前記ペクチナーゼは、ペクチンポリガラクチュロナーゼであることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る食品は、請求項3の記載によれば、
請求項1又は2のいずれか1つに記載の食品性能改良剤を使用して製造したことを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る食品の製造方法は、請求項4の記載によれば、
主として小麦粉若しくは米や米粉などの穀類又は芋類を原材料とする食品の食味及び/又は食味安定性が改良されてなる食品の製造方法であって、
前記小麦粉若しくは米や米粉などの穀類又は芋類からなる原材料又は仕掛工程品に、酵素としてペクチンポリガラクチュロナーゼ活性を有するペクチナーゼを含有する食品性能改良剤を付与する付与工程と、
前記付与工程後の前記原材料又は仕掛工程品において、前記酵素を賦活化する賦活工程とを有していることを特徴とする食品の製造方法。
【0020】
また、本発明は、請求項5の記載によれば、請求項4に記載の食品の製造方法であって、
前記ペクチナーゼは、ペクチンポリガラクチュロナーゼであることを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、請求項6の記載によれば、請求項4又は5に記載の食品の製造方法であって、
前記賦活工程には、前記付与工程後の前記原材料又は仕掛工程品に加熱処理を施す加熱工程が含まれ、
前記加熱工程において、前記食品性能改良剤を付与した食品の原材料又は仕掛工程品に対して、5℃~50℃の温度範囲で加熱処理を施すことを特徴とする。
【0022】
また、本発明は、請求項7の記載によれば、請求項4~6のいずれか1つに記載の食品の製造方法であって、
前記食品は、長期保存または冷蔵保存される食品であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
上記構成によれば、本発明に係る食品性能改良剤は、主として小麦粉若しくは米や米粉などの穀類又は芋類を原材料とする食品の食味及び/又は食味安定性を改良する。この食品性能改良剤は、酵素としてペクチンポリガラクチュロナーゼ活性を有するペクチナーゼを含有する。また、このペクチナーゼは、ペクチンポリガラクチュロナーゼであってもよい。また、本発明に係る食品は、この食品性能改良剤を使用して製造される。これらのことにより、主として小麦粉若しくは米や米粉などの穀類又は芋類を原材料とする食品の食味、及び、製造後の経時的な食味、特に常温での中長期間保存や冷蔵保存される食品の食味を改良することのできる食品性能改良剤及びこれを用いた食品を提供することができる。
【0024】
また、上記構成によれば、本発明に係る食品の製造方法は、付与工程と賦活工程とを有している。付与工程においては、小麦粉若しくは米や米粉などの穀類又は芋類からなる原材料又は仕掛工程品に、酵素としてペクチンポリガラクチュロナーゼ活性を有するペクチナーゼを含有する食品性能改良剤を付与する。また、賦活工程においては、付与工程後の原材料又は仕掛工程品に付与した酵素を賦活化する。
【0025】
また、上記構成によれば、ペクチナーゼは、ペクチンポリガラクチュロナーゼであってもよい。また、賦活工程には、前記付与工程後の前記原材料又は仕掛工程品に加熱処理を施す加熱工程が含まれていてもよい。この加熱工程において、食品性能改良剤を付与した食品の原材料又は仕掛工程品に対して、5℃~50℃の温度範囲で加熱処理を施すようにしてもよい。これらのことにより、主として小麦粉若しくは米や米粉などの穀類又は芋類を原材料とする食品の食味、及び、製造後の経時的な食味、特に常温での中長期間保存や冷蔵保存される食品の食味を改良することのできる食品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において食味や食味安定性を改良する食品は、主として小麦粉若しくは米や米粉などの穀類又は芋類を原材料とする。ここで、穀類(豆類を含む)とは、一般にはイネ科の植物及びマメ科、タデ科の植物を指し、デンプン質を主体とする種子を食用とする物と定義される。例えば、小麦、大麦、イネ(米)、蕎麦、アワ、キビ、ヒエ、トウモロコシ、その他の豆類などが挙げられる。また、芋類には、ジャガイモ、サツマイモ、キャッサバ、コンニャクイモ、タロイモ、サトイモ、ヤムイモ、その他多くのものが挙げられる。
【0027】
これらの穀類又は芋類は、デンプンを主たる構成要素とすると共に、ペクチンを含有している。ペクチナーゼは、ペクチンを分解する触媒能をもつ酵素の総称であって、ペクチンポリガラクチュロナーゼ、ペクチンリアーゼ、ペクチンエステラーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、ペクチントランスエリミナーゼなどがある。本発明においては、これらのペクチナーゼのうち、特にペクチンポリガラクチュロナーゼ活性の強い酵素を使用することが好ましい。ペクチンポリガラクチュロナーゼ活性を有するペクチナーゼは、主にペクチン酸のグルコシド結合を加水分解することができる。
【0028】
本発明において使用するペクチンポリガラクチュロナーゼ活性を有するペクチナーゼは、粗酵素の状態であってもよく、複合酵素のペクチナーゼであってもよい。また、ペクチンポリガラクチュロナーゼとして分画された酵素でもよい。分画されたペクチンポリガラクチュロナーゼを使用した場合にも本発明の効果が発現するが、その作用機作については明確ではない。なお、ペクチナーゼを使用する場合には、ペクチンリアーゼ、ペクチンエステラーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、ペクチントランスエリミナーゼなど他の活性を有する複合酵素を使用するようにしてもよい。
【0029】
また、本発明において使用するペクチナーゼは、ペクチンポリガラクチュロナーゼ活性を有するものであれば、その基原を特に限定するものではない。ペクチナーゼの基原としては、例えば、Aspergillus kawachii、Aspergillus usamii mutant shirousamii、Aspergillus oryzae、Aspergillus sojae、Aspergillus tamarii、Aspergillus niger、Aspergillus awamori、Aspergillus pulverulentus、Aspergillus aculeatus、Trichoderma viride、Rhizopus oryzaeなどが挙げられる。なお、本発明においては、Rhizopus oryzae、Aspergillus nigerを基原とするペクチナーゼを使用することが好ましい。
【0030】
なお、本発明においては、食品の製造段階(調理段階)の材料にペクチンポリガラクチュロナーゼ活性を有するペクチナーゼを含有する食品性能改良剤を付与し、調理の際に材料を馴染ませ酵素を賦活する段階(賦活工程)で酵素活性が発現するものと考えられる。本発明において、賦活工程とは、所定のpHや温度によって酵素機能が発現する状態をいう。従って、必ずしも酵素の至適pH付近や至適温度付近である必要はない。例えば、0℃~15℃の温度範囲、或いはそれ以上の温度範囲や、逆に0℃以下の温度範囲であってもよい。
【0031】
また、賦活工程には、酵素付与後の原材料又は仕掛工程品に加熱処理を施す加熱工程が含まれていてもよい。賦活工程中の加熱工程においては、特に酵素の至適pH付近や至適温度付近が含まれることとなり、酵素活性がより発現するものと考えられる。従って、加熱処理においては、5℃~50℃の温度範囲、より好ましくは10℃~45℃の温度範囲で加熱処理を施すことがよい。なお、75℃程度を超える温度での加熱処理においては、役割を終えた酵素を失活させる効果を持たせることもできる。
【0032】
また、食品性能改良剤には、ペクチンポリガラクチュロナーゼ活性を有するペクチナーゼ以外に、他の添加剤を併用することができる。例えば、酵素活性を阻害しないと考えられるデキストリン、マルトトリオース、マルトースなどのα-グルカン類を併用してもよい。また、ペクチナーゼ以外の酵素、例えば、デンプンを分解するα-アミラーゼやセルロースを分解するセルラーゼなどを併用してもよい。
【0033】
本発明に係る食品性能改良剤を食品の製造に使用することにより、食品の食味が改良され、食味安定性、特に常温での中長期間保存や冷蔵保存した際の食味安定性が改良される。食品性能改良剤の効果については、後述する各実施例において詳細に説明するが、例えば、食味安定性の改良については、常温で中長期間保存される焼き菓子や食パンなどのサクサク感、釜伸びする食パンのサックリした軽い食感、冷蔵保存されるスフレチーズケーキやシュー皮などのしっとり感、くちどけ感、チーズやチョコを含む食品の舌の上で滑らかに溶ける濃厚な食感が経時的に維持される。また、米飯の場合にも、炊飯直後のもちもち感やみずみずしさが維持される。
【0034】
本発明による食品の食味改良については、上述のデンプンのβ化による老化の防止では説明がつかない。また、経時的な食味安定性の改良についても、デンプンのβ化による老化の防止だけによるものか否かは明確ではない。しかし、本発明者は、次のように考えている。原材料に含まれるペクチンにペクチンポリガラクチュロナーゼが作用することで、ペクチン鎖が分解され、細胞壁内に間隙が増加する。その結果、加熱時に水が揮発しやすくなり、結果サクサクした食感などの食味が改良される。また、水が揮発しやすくなったことで、デンプン鎖内に含まれる初期の水分が減じ、その結果、水分が飛ぶことによる経時的な変化が抑制され、サクサク感の食味安定性が向上する。
【0035】
次に、本発明に係る食品性能改良剤を使用した食品及びその製造方法について、各実施例により具体的に説明する。なお、本発明は、以下に説明する各実施例にのみ限定されるものではなく、ここに挙げた具体的な食品にのみ限定されるものではない。
【0036】
また、以下の各実施例においては、ペクチンポリガラクチュロナーゼ活性を有するペクチナーゼにデキストリンなどの添加剤を併用した食品性能改良剤を使用した。なお、ペクチンポリガラクチュロナーゼ活性を有するペクチナーゼとして、Rhizopus oryzaeより産生されたペクチナーゼを使用した。このペクチナーゼは、ペクチンポリガラクチュロナーゼ活性を有する酵素(以下、各実施例において「PP」という)である。この酵素は、至適pH5.0、至適温度45℃であって、ペクチンポリガラクチュロナーゼ活性(力価)を40℃の反応条件下で、1分間にペクチン酸のグルコシド結合を加水分解して1μmolのα-D-galacturonic acid monohydrateに相当する還元糖を生成する酵素活性単位(PPU)と定義した。
【0037】
なお、本発明における食品性能改良剤の使用量は、食品中の主原料(小麦粉、米粉、米)の1g当たりのPPUで特定した。なお、本発明においては、食品性能改良剤の添加量を特に限定するものではない。例えば、小麦粉1g当たり0.002PPU以上であればよく、0.01PPU以上であることが好ましい。
【実施例0038】
本実施例1は、生洋菓子(スフレチーズケーキ)を対象とするものであり、小麦粉(薄力粉)を含む生洋菓子に対するPP含有の食品性能改良剤の作用効果を確認した。スフレチーズケーキは、水分活性Aw(食品の保存性の指標)が0.9~0.8程度と高く、小麦粉の粉っぽさやその食感が不良という課題がある。
【0039】
1.食品性能改良剤の付与工程
まず、牛乳297gに薄力粉119g、卵黄77g、グラニュー糖18g、クリームチーズ190g、マーガリン47gを混合して材料を調整した。調整した材料を8区分して、実施例1a~1dの4試料には、それぞれ、小麦粉1g当たり0.002、0.01、0.05、0.3PPUの食品性能改良剤を添加した。一方、比較例1a~1dの4試料は、それぞれ、無添加(1a)、薄力粉2%減・牛乳2%増(1b)、薄力粉2%減・マーガリン2%増(1c)、α-アミラーゼ0.3Unit添加(1d)とした。調整した各材料に、別に立てたメレンゲ(卵白148g+グラニュー糖104g)を追加し、スフレチーズケーキの生地を得た。
【0040】
2.食品の賦活工程(加熱工程を含む)
次に、各試料の生地を50gずつカップに流し、170℃で27分間焼成して実施例1a~1d及び比較例1a~1dの8試料のスフレチーズケーキを作製した。なお、本実施例1においては、生地の調整時から常温~170℃の焼成時において、特に常温から75℃程度までの間にPPが作用したと考えられる。
【0041】
3.評価
本実施例1においては、スフレチーズケーキの焼成後の見た目(出来上がった製品の高さ(嵩))と、官能評価による食感として、ふんわり感と咀嚼後の食塊の崩壊感を点数化して評価した。具体的には、評価に熟練した4名の評価員が0点(不良)~5点(良好)で評価して平均値をとった。ここで、ふんわり感とは、外観の潰れがなく、より多くの気泡を含んだ食感である状態とし、評点が高いほどふんわり感が良好であり好ましい。また、咀嚼後の食塊の崩壊感とは、何度も噛んだのちに、食感がまとまるが、そのくちどけの良さとし、評点が高いほど崩壊感が良好であり好ましい。また、総合評価として、評価項目の3項目の合計が10点以上をA、8点以上をB、それ以外をCとした。評価結果を表1に示す。
【0042】
【0043】
表1から分かるように、PP含有の食品性能改良剤を添加した実施例1a~1dの全ての試料において、総合評価A又はBと判断された。特に、0.01PPU以上添加した実施例1b~1dについては、総合評価Aという高い評価を得た。これに対して、比較例1a~1dの全ての試料において、総合評価Cという結果であった。このことにより、PP含有の食品性能改良剤を小麦粉に使用することで、スフレチーズケーキの食味改良に対して良好な効果を得ることが確認された。
本実施例2は、焼き菓子(クッキー)を対象とするものであり、小麦粉(薄力粉)を含む焼き菓子に対するPP含有の食品性能改良剤の作用効果を確認した。クッキーは、水分活性Awが0.8~0.5程度と低く、小麦粉のサクサク感が不良となる課題がある。また、バターなどが多いクッキーでは、油によるべたつきがなく、しっとりとした口残りを呈するような食感が求められている。
表2から分かるように、PP含有の食品性能改良剤を添加した実施例2a~2dの全ての試料において、総合評価Aという高い評価を得た。これに対して、比較例2a~2dの試料において総合評価C、比較例2eにおいても総合評価Bという結果であった。このことにより、PP含有の食品性能改良剤を小麦粉に使用することで、クッキーの食味改良に対して良好な効果を得ることが確認された。