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特開2023-68418カール部を備えたスタック性金属カップ
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  • 特開-カール部を備えたスタック性金属カップ 図1
  • 特開-カール部を備えたスタック性金属カップ 図2
  • 特開-カール部を備えたスタック性金属カップ 図3
  • 特開-カール部を備えたスタック性金属カップ 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068418
(43)【公開日】2023-05-17
(54)【発明の名称】カール部を備えたスタック性金属カップ
(51)【国際特許分類】
   A47G 19/00 20060101AFI20230510BHJP
【FI】
A47G19/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021179531
(22)【出願日】2021-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】篠島 信宏
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 健
(72)【発明者】
【氏名】田中 章太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 江利華
【テーマコード(参考)】
3B001
【Fターム(参考)】
3B001AA02
3B001BB10
3B001CC22
(57)【要約】
【課題】カール部を有していながら安価に製造することができ、また、軸方向に負荷が加わった場合にも、スタックされたカップを容易に引き抜くことができるスタック性金属カップを提供する。
【解決手段】下端が閉じられている筒状胴部3を備え、胴部13の上端が開口している形態の金属カップ1において、筒状胴部3の上端部には、内方に凸の形状となっているカール部13が形成されており、カール部13の内方先端によって画定する開口部内径Dは、筒状胴部13の下端外面によって画定する底部径dよりも大きく設定されてスタッキング可能となっていることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端が閉じられている筒状胴部を備え、該胴部の上端が開口している形態の金属カップにおいて、
前記筒状胴部の上端部には、内方に凸の形状となっているカール部が形成されており、
前記カール部の内方先端によって画定する開口部内径は、前記筒状胴部の下端によって画定する底部径よりも大きく設定されてスタッキング可能となっていることを特徴とする金属カップ。
【請求項2】
側断面で見て、前記カール部は、内方への突出幅Wが1~5mmの範囲にあり、且つ軸方向長さHが1~5mmの範囲にある請求項1に記載の金属カップ。
【請求項3】
前記筒状胴部には、内方に延びている段差が形成されており、スタッキングした際、スタッキングされた上側の金属カップの該段差の外面部分が、下側の金属カップのカール部に接触して、スタッキング状態が保持される請求項1または2に記載の金属カップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積み重ねて保管できるスタック性金属カップに関する。
【背景技術】
【0002】
喫飲などのために使用されるカップ形状の器としては、従来、紙やプラスチック製のものが広く使用されていた。これらの素材から成形された器は、軽量であり、しかも成形容易であるため、安価であり、使い捨ての用途に適しているからである。しかしながら、近年における資源の枯渇、ゴミ問題などの環境上の観点から、金属カップが注目されている。金属カップは、紙やプラスチック製のカップに比して、強度や耐久性が高く、繰り返し使用に適しており、資源の枯渇化やゴミの発生を大幅に抑制することができるからである。
【0003】
しかしながら、金属カップは、強度が高く、変形し難いという特性のために、スタック性に難がある。即ち、スタック性を持たせるためには、上端の開口内径を底部の外径よりも大きく設定し、側壁部が、上端から底部に向かってテーパー状に絞られた形態を有している(例えば特許文献1参照)。しかし、このような形態では、金属カップをスタックしたとき、上側のカップの側壁外面が、下側のカップの側壁内面に密着してしまい、特に軸方向に負荷がかかると、スタックされたカップが抜けにくくなるという問題がある。
【0004】
また、金属カップでは、開口部の上端部分に金属の鋭利な端部が露出していると、持ち運びや喫飲時などに鋭利な端部が人体に当たって傷つけてしまうなどの不都合を生じる。このような不都合を防止するため、金属カップの開口部上端には、一般に、外方に向かって凸の形態を有する外方カール部が形成されている(例えば特許文献2参照)。しかしながら、このような外方カール部を形成した場合にも、該カール部の先端が人体に接触しないように、カールさせるなどの工夫が必要であり、生産コストが高くなるなどの問題がある。
【0005】
さらに、開口上端に内方に向かって凸の内方カール部が形成された金属カップも知られている(特許文献3参照)。しかしながら、この金属カップは、スタック性を有していないものであり、内方カール部は、蓋材をヒートシールにより固定するために形成されているに過ぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2020-508874号公報
【特許文献2】特表2015-506842号公報
【特許文献3】特開2013-66916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、カール部を有していながら安価に製造することができ、また、軸方向に負荷が加わった場合にも、スタックされたカップを容易に引き抜くことができるスタック性金属カップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、下端が閉じられている筒状胴部を備え、該胴部の上端が開口している形態の金属カップにおいて、
前記筒状胴部の上端部には、内方に凸の形状となっているカール部が形成されており、
前記カール部の内方先端によって画定する開口部内径は、前記筒状胴部の下端によって画定する底部径よりも大きく設定されてスタッキング可能となっていることを特徴とする金属カップが提供される。
【0009】
本発明の金属カップにおいては、
(1)側断面で見て、前記カール部は、内方への突出幅Wが1~5mmの範囲にあり、且つ軸方向長さHが1~5mmの範囲にあること、
(2)前記筒状胴部には、内方に延びている段差が形成されており、スタッキングした際、スタッキングされた上側の金属カップの該段差の外面部分が、下側の金属カップのカール部に接触して、スタッキング状態が保持されること、
が好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の金属カップは、通常のスタック性金属カップと同様、中空部を形成する側壁上端の内径(開口部内径)が側壁下端部の外径よりも大きく設定されており、金属カップ同士を積み重ねたとき、上側のカップが下側のカップの空間内に侵入して保持されるというものであるが、開口部の上端に形成されているカール部が、従来の金属カップとは全く逆に、内方を指向している点に大きな特徴を有している。
【0011】
即ち、本発明の金属カップは、上端のカール部が内方を指向している状態でスタックされるため、スタックされている上側のカップの外面と、下側のカップの内面との間には、必ず内方のカール部に由来する空隙が形成されている。このため、スタックされた状態で軸方向に負荷が加わったとしても、上側のカップを速やかに引き抜くことができる。
【0012】
また、上記のカール部は、内側を向いているため、喫飲時などにおいても、その先端が人体に触れるおそれがなく、カール部の先端が人体に触れないようにする格別の工夫を必要とせず、従って、カール部の形成が容易であり、製造コストを安価にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の金属カップの一例を示す概略側断面図である。
図2図1の金属カップがスタックされた状態を示す側断面図。
図3】本発明の金属カップの要部である、カール部を拡大して示す側断面図。
図4】本発明の金属カップの好適な形態について、スタッキング状態を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1において、全体として1で示す本発明の金属カップは、上端が開口している筒状胴部3と、筒状胴部3の下端を閉じている底部5とからなっている。
底部5は、通常、環状の接地部7を有しており、この接地部7の外側は、屈曲しているチャイム部9により筒状胴部3の下端に連なっている。また、接地部7の内側は、ドーム状に凹んだ凹部11となっている。底部5がこのような形態を有することにより、この金属カップ1の設置状態(立設状態)が安定に保持される。
【0015】
また、本発明の金属カップ1は、スタック性を有しているため、図1に示されているように、筒状胴部3の上端が下端よりも大きく、全体として下方に行くに従い、内径及び外径が漸次縮径していくテーパー形状を有している。
【0016】
上述した基本形態を有している本発明の金属カップ1は、内方に向かって凸となっているカール部13(以下、「内方カール部」と呼ぶことがある)が上端に形成されていることが重要な特徴である。このような内方カール部13を有する金属カップ1においては、内方カール部13が最も内方に突出している部分での開口部内径Dが、筒状胴部3の下端での外径(底部径)dよりも大きく設定され、これにより、スタッキング可能となる。このスタッキング状態を示す図2から理解されるように、このような内方カール部13を有する金属カップ1をスタックすると、上側の金属カップ1aの筒状胴部3の外面3aと下側の金属カップ1bの内面3bとの間に必ず空隙CLが形成される。即ち、外面3aと内面3bとの密着が有効に回避されるため、上側のカップ1aを引き抜き易く、軸方向に負荷がかかった場合においても、容易に上側のカップ1aを引き抜きことができるのである。
【0017】
また、内方カール部13を拡大して示す図3を参照して、内方カール部13は、内方に凸の形状を有しているため、カール部13の先端13aが、少なくとも内方から外方に向かって延びており、先端13aは筒状胴部3の内部に存在し且つ外部から隠された状態に位置している。即ち、格別の工夫をしなくとも、カール部13の先端13aが人体に接触するという不都合を有効に回避することができ、生産コストの増大を回避することができる。
例えば、カール部13が外方に凸となっている形態では、その先端13aが外部に存在するため、カール加工に際して、カールの程度を大きくし、先端13aが上向きになるまでカールさせたり、或いは先端13において金属が露出しないように樹脂で被覆するなどの工夫が必要となってしまい、必然的にカール部13の形成に時間がかかったり、或いは樹脂材料が必要となったりして、製造コストが高くなってしまう。しかるに、カール部13が内方に凸の形状を有している本発明では、製造コストの増大をもたらすことなく、カール部13の先端13aの露出による不都合を回避することができる。
【0018】
上述した本発明の金属カップ1においては、スタック性が損なわれない限りにおいて(即ち、少なくともD>dの条件を満足する)、内方カール部13が小さいことが望ましく、例えば、内方への突出幅Wが1~5mmの範囲、特に1.5~3mmの範囲にあり、且つ軸方向長さHが1~5mmの範囲、特に2~4mmの範囲にあることが好ましい。即ち、内方カール部13が必要以上に大きいと、スタック性が損なわれてしまったり、或いはカール部13の形成のために、必要以上にハイトの高いカップ(カール部形成前のカップ)を成形しなければならなくなってしまうからである。なお、カール部13が過度に小さいと、カール部13自体が鋭利となってしまうので、突出幅Wや軸方向長さHは、上記の範囲にあるのがよい。
【0019】
本発明において、金属カップ1の構成素材である金属は、種々の金属ないし合金材であってよく、例えば、アルミニウム、銅、鉄或いは、これらの金属を含む合金、さらにはブリキなどの錫めっき鋼板や化成処理を施したアルミニウム板などの表面処理鋼板であってよい。一般的には、スチール、ステンレススチール、アルミニウムもしくはアルミニウム合金などが好適であるが、特に軽量性や加工性などの観点から、アルミニウム若しくはその合金が好適である。
さらに、金属カップ1の内面は、有機樹脂被覆が積層されていてもよい。有機樹脂被覆としては、アクリル系塗料、ウレタン系塗料、シリコン系塗料、フッ素系塗料などの塗料に由来する被覆や、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の熱可塑性樹脂であり、耐腐食性や、過酷な成形加工に際しての表面荒れやなどを抑制するために設けられる。
【0020】
また、本発明では、カール部13が内方に凸の形態を有していることから、その外面にも、上記と同様の有機樹脂被覆が形成されていることが好適である。
【0021】
このような金属カップ1は、例えば、金属製の薄肉の素板(内面となる側には、前述した有機樹脂被覆が形成されていてよい)を用いての打抜き、絞り、再絞り-しごき加工を行い、次いで底部についてドーミング加工を行い、その後、洗浄乾燥、外面塗料の焼付、印刷、仕上げニス塗布焼付、内面塗料塗布焼付、カール加工などが行われる。なお、筒状胴部3の上端から下方に向かっての縮径は、再絞りを複数回行うことにより行うことができる。
【0022】
上記のような金属カップ1において、底部5の中心部分の厚みは、このカップ1の成形に用いる素板の厚みに相当し、カップ1の用途によっても相違するが、一般に0.10乃至0.50mmの厚みを有しており、胴部3の厚みやカップのハイト(接地部7から筒状胴部3の上端までの高さ)は、しごきの程度によって異なり、しごき率を次第に高くしてしごき加工を多段で行うにつれて、胴部3は薄肉化され、且つハイトHは高くなる。
【0023】
上述した本発明において、図1及び図2では、筒状胴部3は、ストレートなテーパー壁となっているが、途中で、内方に延びている段差が形成されていてもよいし、さらにスタック性が損なわれない程度に、屈曲した部分が途中に形成されていてもよい。
【0024】
例えば、図4の例では、筒状胴部3の上方部分(内方カール部13の下方)に、内方に延びている段差15が形成されている。このような段差15を形成すると、スタッキングしたとき、スタックされた上側の金属カップ1aの段差15は、下側のカップ1bの内方カール部13と接触し、内方カール部13の上に載る形で保持される。このため、前述した空隙CLは形成されているけれども、スタック状態が安定に保持される。
【0025】
上述した本発明の金属カップ1は、スタック性に優れ、多数を積み重ねて保持できるため、保管性、搬送性等の点で優れており、例えば、各種飲料を喫飲するための容器などとして好適に使用される。
【符号の説明】
【0026】
1:金属カップ
1a:スタック状態において、上側のカップ
1b:スタック状態において、下側のカップ
3:胴部
5:底部
7:接地部
9:チャイム部
11:ドーム状凹部
13:カール部
13a:カール部先端
15:段差
図1
図2
図3
図4