(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068428
(43)【公開日】2023-05-17
(54)【発明の名称】ガスアトマイズ用ノズル及びこれを用いたガスアトマイズ装置
(51)【国際特許分類】
B22F 9/08 20060101AFI20230510BHJP
B05B 7/08 20060101ALI20230510BHJP
【FI】
B22F9/08 A
B05B7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021179549
(22)【出願日】2021-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉村 一樹
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 和也
(72)【発明者】
【氏名】倉田 直人
【テーマコード(参考)】
4F033
4K017
【Fターム(参考)】
4F033QA08
4F033QB02Y
4F033QB03X
4F033QB13Y
4F033QB19
4F033QD02
4F033QD03
4F033QD19
4F033QD25
4F033QE14
4F033QF15Y
4K017EB07
4K017FA09
4K017FA15
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ガスノズルと溶湯管との間に生じる隙間への、噴射ガスの侵入を低減し、溶湯管の閉塞を抑制する。
【解決手段】溶湯管7が挿入される孔部8eを備えるガスノズル本体8aと、前記孔部8eの周りに沿って配置されると共に前記孔部8eの中心線に対し所定の傾斜角で設けられ、高圧ガスを噴射するためのガス流路を形成する環状のスリット8dと、前記スリット8dに連通し、スリット8dに高圧ガスを供給する環状のバッファ空間8cと、前記バッファ空間8cに高圧ガスを供給するガス供給部9を備え、前記溶湯管7が挿入される前記孔部8eの下端を、前記スリット8dの噴射口位置8gよりも噴射ガスの流れ方向下流側に位置させると共に、前記孔部8eを形成しているガスノズル本体8aの内径側下端部には切り欠き8hが設けられ、この切り欠き8hは前記噴射口位置8gよりも下流側に位置しているガスアトマイズ用ノズル8。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶湯管が挿入される孔部を備えるガスノズル本体と、前記孔部の周りに沿って配置されると共に前記孔部の中心線に対し所定の傾斜角で設けられ、高圧ガスを噴射するためのガス流路を形成する環状のスリットと、前記スリットに連通し、スリットに高圧ガスを供給する環状のバッファ空間と、前記バッファ空間に高圧ガスを供給するガス供給部を備え、
前記溶湯管が挿入される前記孔部の下端を、前記スリットの噴射口位置よりも噴射ガスの流れ方向下流側に位置させると共に、
前記孔部を形成しているガスノズル本体の内径側下端部には切り欠きが設けられ、この切り欠きは前記噴射口位置よりも下流側に位置していることを特徴とするガスアトマイズ用ノズル。
【請求項2】
請求項1に記載のガスアトマイズ用ノズルにおいて、
前記孔部の中心線に対する前記スリットの傾斜角は、20~30度であることを特徴とするガスアトマイズ用ノズル。
【請求項3】
請求項1に記載のガスアトマイズ用ノズルにおいて、
前記ガス供給部は、前記ガスノズル本体の外周部に、等間隔に複数設けられ、各ガス供給部は環状の前記バッファ空間に対し、高圧ガスを垂直方向から供給するように構成されていることを特徴とするガスアトマイズ用ノズル。
【請求項4】
請求項3に記載のガスアトマイズ用ノズルにおいて、
前記ガス供給部は、前記ガスノズル本体の外周部に周方向に二カ所設けられていることを特徴とするガスアトマイズ用ノズル。
【請求項5】
請求項1に記載のガスアトマイズ用ノズルにおいて、
前記切り欠きの幅をW、前記スリットの出口幅をWsとしたとき、
W/Ws=0.1~0.6
に構成していることを特徴とするガスアトマイズ用ノズル。
【請求項6】
請求項1に記載のガスアトマイズ用ノズルにおいて、
前記ガスノズル本体における孔部の下端側内面には凹凸溝が形成されていることを特徴とするガスアトマイズ用ノズル。
【請求項7】
溶湯管が挿入される孔部を備えるガスノズル本体と、前記孔部の周りに沿って配置されると共に前記孔部の中心線に対し所定の傾斜角で設けられ、高圧ガスを噴射する環状のスリットと、前記スリットに連通し、スリットに高圧ガスを供給する環状のバッファ空間と、前記バッファ空間に高圧ガスを供給するガス供給部を備え、
前記ガスノズル本体における孔部の下端側内面には凹凸溝が形成されていることを特徴とするガスアトマイズ用ノズル。
【請求項8】
請求項7に記載のガスアトマイズ用ノズルにおいて、
前記孔部の下端は、前記スリットの噴射口位置よりも噴射ガスの流れ方向下流側に位置していることを特徴とするガスアトマイズ用ノズル。
【請求項9】
請求項7に記載のガスアトマイズ用ノズルにおいて、
前記孔部を形成しているガスノズル本体の内径側下端部には切り欠きが設けられていることを特徴とするガスアトマイズ用ノズル。
【請求項10】
溶解槽と、該溶解槽の下部に設けられた噴霧槽と、前記溶解槽の内部に設けられ金属の溶湯を貯留する溶湯貯留容器と、前記溶湯貯留容器内の溶湯を前記噴霧槽内に流下させる溶湯管と、前記溶湯管から流下する溶湯に向けて高圧ガスを噴射するガスアトマイズ用ノズルを備え、溶湯管から流下する溶湯を微細化して金属粉末を製造するガスアトマイズ装置であって、
前記ガスアトマイズ用ノズルとして、請求項1~9の何れか一項に記載のガスアトマイズ用ノズルを使用していることを特徴とするガスアトマイズ装置。
【請求項11】
請求項10に記載のガスアトマイズ装置において、
前記ガスノズル本体の孔部を貫通して設置された前記溶湯管の先端側の外周面はテーパ面に構成され、
環状の前記スリットは、下部側ほど径が小さくなる円錐状に形成されており、このスリットは前記溶湯管の中心線に対して所定の角度で傾斜し、
前記スリットにより形成されるガス流路の内径側の面と、前記溶湯管の先端側のテーパ面とは、同一の傾斜角に構成されて同一の軸線上に存在するように構成し、
前記溶湯管と前記ガスノズル本体との間に形成される隙間の開口部は、前記スリットの噴射口位置よりも噴射ガスの流れ方向下流側に位置するよう構成していることを特徴とするガスアトマイズ装置。
【請求項12】
請求項10に記載のガスアトマイズ装置において、
前記ガス供給部には、アトマイズ用の高圧ガスを供給するガス供給管が接続され、このガス供給管は前記バッファ空間の外周側を形成しているガスノズルの壁面の接線方向に対して垂直方向に設置されていることを特徴とするガスアトマイズ装置。
【請求項13】
請求項12に記載のガスアトマイズ装置において、
前記ガス供給管はガスノズルの外周部に、周方向に等間隔に二か所接続されていることを特徴とするガスアトマイズ装置。
【請求項14】
請求項10に記載のガスアトマイズ装置において、
前記溶湯管の下部側の前記ガスノズル本体の孔部と対向する外周面には凹凸溝が形成されていることを特徴とするガスアトマイズ装置。
【請求項15】
請求項14に記載のガスアトマイズ装置において、
前記ガスノズル本体における孔部の下端側内面には、前記溶湯管に形成された前記凹凸溝と対向する位置に凹凸溝が形成されていることを特徴とするガスアトマイズ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶湯ノズルから金属の溶湯を流下させ、流下途中の溶湯にガス噴射ノズルからガスを噴射して、溶湯を急冷粉状化し、金属粉末を製造するためのガスアトマイズ用ノズル及びこれを用いたガスアトマイズ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の溶湯を流下させる溶湯管と、この溶湯管の外周側に位置し、溶湯管からの溶湯流に向けて高圧ガスを噴射するガスアトマイズ用ノズル(以下、ガスノズルともいう)と、ガスノズルに高圧ガスを供給する環状のガス供給室とを有し、溶湯をガスアトマイズにより微細化して金属粉末を製造するガスアトマイズ装置が知られている。このガスアトマイズ装置においては、操業中に噴射ガスにより溶湯が冷却され、溶湯管の先端に溶湯(溶融金属)が凝固して固着することがある。この固着した溶湯により溶湯管の出口が閉塞してしまうことがある。
【0003】
この種の従来技術としては、特開2001-131613号公報(特許文献1)に記載のものなどがある。この特許文献1のものでは、ガスノズル及び溶湯管の形状を工夫し、ガス流の衝突による上向きの吹上流を抑制して、溶湯管出口の閉塞を防止することが記載されている。また、ガスノズルと溶湯管との間に隙間を形成し、ガスノズルと溶湯管を非接触として、ガスノズル内部のガス流及び噴射ガス流によって溶湯管が冷却されることにより生じる溶湯管出口の閉塞を抑制することが記載されている。
【0004】
上記特許文献1のものにおいては、ガス流の衝突による吹上流を抑制することで溶湯管出口の閉塞を防止しているが、吹上流を抑制すると、コンファインド型のガスアトマイズ装置では、その特徴の一つである溶湯管先端面での液膜形成がされ難くなり、高い微粒化性能を得ることが困難になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1のものでは、ガスノズルと溶湯管の間に隙間を形成し、ガスノズルと溶湯管を非接触とすることで、噴射ガスによる溶湯管の冷却を抑制し、溶湯管出口での閉塞を抑制している。しかし、ガスノズルと溶湯管の間に隙間がある場合、その隙間が流路となって噴射ガスの一部が侵入し、そのガスにより溶湯管が冷却されて、溶湯管の閉塞を逆に促進するという課題がある。
【0007】
本発明の目的は、ガスノズルと溶湯管との間に生じる隙間への噴射ガスの侵入を低減して溶湯管の閉塞を抑制することのできるガスアトマイズ用ノズル及びこれを用いたガスアトマイズ装置を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、溶湯管が挿入される孔部を備えるガスノズル本体と、前記孔部の周りに沿って配置されると共に前記孔部の中心線に対し所定の傾斜角で設けられ、高圧ガスを噴射するためのガス流路を形成する環状のスリットと、前記スリットに連通し、スリットに高圧ガスを供給する環状のバッファ空間と、前記バッファ空間に高圧ガスを供給するガス供給部を備え、前記溶湯管が挿入される前記孔部の下端を、前記スリットの噴射口位置よりも噴射ガスの流れ方向下流側に位置させると共に、前記孔部を形成しているガスノズル本体の内径側下端部には切り欠きが設けられ、この切り欠きは前記噴射口位置よりも下流側に位置しているガスアトマイズ用ノズルにある。
【0009】
本発明の他の特徴は、溶湯管が挿入される孔部を備えるガスノズル本体と、前記孔部の周りに沿って配置されると共に前記孔部の中心線に対し所定の傾斜角で設けられ、高圧ガスを噴射する環状のスリットと、前記スリットに連通し、スリットに高圧ガスを供給する環状のバッファ空間と、前記バッファ空間に高圧ガスを供給するガス供給部を備え、前記ガスノズル本体における孔部の下端側内面には凹凸溝が形成されているガスアトマイズ用ノズルにある。
【0010】
本発明の更に他の特徴は、溶解槽と、該溶解槽の下部に設けられた噴霧槽と、前記溶解槽の内部に設けられ金属の溶湯を貯留する溶湯貯留容器と、前記溶湯貯留容器内の溶湯を前記噴霧槽内に流下させる溶湯管と、前記溶湯管から流下する溶湯に向けて高圧ガスを噴射するガスアトマイズ用ノズルを備え、溶湯管から流下する溶湯を微細化して金属粉末を製造するガスアトマイズ装置であって、前記ガスアトマイズ用ノズルとして、本発明のガスアトマイズ用ノズルを使用していることにある。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ガスノズルと溶湯管との間に生じる隙間への噴射ガスの侵入を低減して溶湯管の閉塞を抑制することのできるガスアトマイズ用ノズル及びこれを用いたガスアトマイズ装置を得ることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明のガスアトマイズ用ノズルの実施例1を示す断面図である。
【
図3】従来のガスアトマイズ用ノズルの一例を説明する要部断面図である。
【
図4】
図1に示すガスアトマイズ用ノズルにおけるガス流れ場及び溶湯流れ場を説明する要部断面図である。
【
図5】
図1のV-V線矢視断面図で、ガスアトマイズ用ノズルにおけるスリット上流のガス流れ場を説明する図である。
【
図6】
図1のガスアトマイズ用ノズルを用いたガスアトマイズ装置の例を示す全体構成図である。
【
図7】本発明のガスアトマイズ用ノズルの実施例2を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のガスアトマイズ用ノズル及びこれを用いたガスアトマイズ装置の具体的実施例を、図面を用いて説明する。
【実施例0014】
本発明のガスアトマイズ用ノズル及びこれを用いたガスアトマイズ装置の実施例1を、
図1から
図6を用いて以下説明する。なお、各図において、同一符号を付した部分は同一或いは相当する部分を示している。
図1は本発明のガスアトマイズ用ノズルの実施例1を示す断面図、
図2は
図1のII-II線矢視断面図、
図3は従来のガスアトマイズ用ノズルの一例を説明する要部断面図、
図4は
図1に示すガスアトマイズ用ノズルにおけるガス流れ場及び溶湯流れ場を説明する要部断面図、
図5は
図1のV-V線矢視断面図で、ガスアトマイズ用ノズルにおけるスリット上流のガス流れ場を説明する図、
図6は
図1のガスアトマイズ用ノズルを用いたガスアトマイズ装置の例を示す全体構成図である。
【0015】
本実施例で示すガスアトマイズ用ノズルは、金属または合金の溶湯にガスを吹き付けて微細な金属粉末を製造するガスアトマイズ装置に使用されるもので、一般的にコンファインド型と呼ばれるノズルであり、金属からなるガスノズル本体と、セラミックからなる溶湯管等により構成されている。
【0016】
まず、本実施例1のガスアトマイズ用ノズルを説明する前に、
図6を用いて本実施例1のガスアトマイズ用ノズルを用いたガスアトマイズ装置の全体構成を説明する。
図6において、ガスアトマイズ装置1は、溶解槽2、該溶解槽2の下部に設けられた噴霧槽3、該噴霧槽3の下部に設けられた粉末回収部4等を備えている。前記溶解槽2の内部には金属の溶湯(溶融金属)5を貯留するタンデッシュ(溶湯貯留容器)6が設けられ、前記溶湯5は前記タンデッシュ6の底部中央に設けられた溶湯管7から下方の噴霧槽3内に流下するように構成されている。
【0017】
また、前記溶湯管7の下部外周部には、前記溶湯管7から流下する溶湯に向けて高圧ガスを噴射するガスアトマイズ用ノズル8が設けられており、このガスアトマイズ用ノズル8にはガス供給管9が1本以上接続されて、このガス供給管9からアトマイズ用の高圧の不活性ガス10がガスアトマイズ用ノズル8に供給される。溶湯管7から流下する溶湯(溶融金属)に向けて高圧ガスを吹き付けることにより、溶湯(溶融金属)を微細化して金属粉末を製造する。即ち、溶湯に高圧ガスを噴射することにより、溶湯は瞬間的に液滴化と冷却が行われ、溶湯から金属粉末が生成される。
【0018】
生成された金属粉末のうち、粒径の大きな粗粉末は、粉末回収部4の中央底部に設けられた粗粉末の回収部11に溜められ、粒径の小さい微粉末は粉末回収部4から微粉末回収導管12等を介して外部の微粉末回収部(図示せず)で回収される。
【0019】
なお、
図6では、前記ガス供給管9を1本のみ示しているが、ガスアトマイズ用ノズルの周囲に2本以上設けることが好ましい。また、前記溶解槽2や噴霧槽3の内部は不活性ガスの雰囲気とされている。
【0020】
次に、
図1に示すガスアトマイズ用ノズル8の部分の構成を、
図1及び
図2を用いて説明する。
図1は本実施例1のガスアトマイズ用ノズル8を、溶湯管7及びガス供給管9と共に示している断面図である。
【0021】
ガスアトマイズ用ノズル(ガスノズル)8は、上側部材8aと下側部材8bを備え、上側部材8aと下側部材8bの間には、ガス供給管9から供給される高圧ガス13のバッファ空間となる環状のバッファ空間8cと、このバッファ空間8c内の高圧ガスを、溶湯管7から流出する溶湯(溶融金属)に向かって高速で噴射するためのガス流路を形成する環状のスリット8dが設けられている。また、前記上側部材8aのほぼ中央には、前記溶湯管7が貫通して設置される孔部8eが形成されている。
【0022】
前記ガス供給管9は、ガスノズル8(またはガスノズル本体8a)の外周部に形成されたガス供給部(孔)に挿入されてガスノズル8に接続されている。前記ガス供給管(ガス供給部)9は、前記ガスノズル本体の外周部に、等間隔に複数設けられ、各ガス供給管9は環状の前記バッファ空間に対して、高圧ガスを垂直方向から供給するように構成されている。即ち、前記ガス供給管9は、前記バッファ空間8cの外周側を形成しているガスノズル8の壁面の接線方向に対して垂直方向に設置されている。また、本実施例では、前記ガス供給管(ガス供給部)9は、ガスノズル8(またはガスノズル本体8a)の外周部に、周方向等間隔に二か所設けられている。なお、前記ガス供給管(ガス供給部)9は二か所には限られず、一か所或いは周方向に等間隔に三か所以上設けるように構成しても良い。また、矢印13は高圧ガスの流れを示している。
【0023】
溶湯管7は、ガスノズル8の中央に形成された前記孔部8eに設けられ、溶湯をタンデッシュ6から噴霧槽3(
図6参照)に供給するための直径2~6mm程度の孔7aが設けられている。また、この溶湯管7の先端側の外周面はテーパ面に構成され、前記溶湯管7の下端面は平面に構成されている。
【0024】
環状の前記スリット8dは下部側ほど径が小さくなる円錐状(即ち、逆円錐状)に形成されており、このスリット8dの傾斜軸(スリットの噴射軸)bは前記孔部8eまたは前記溶湯管7の中心線aに対して所定の角度(傾斜角)θで傾斜している。
【0025】
また、前記スリット8dにより形成されるガス流路の内径側の面(内側面)8fと溶湯管7の先端外周のテーパ面7bとは同一の傾斜角θに構成された面一の面となるように構成されている。即ち、ガス流路の内側面8fと溶湯管のテーパ面7bとは同一の軸線c上に存在するように構成されている。
【0026】
前記スリット8dの傾斜角θは20~30度の範囲とすることが好ましい。また前記傾斜角θのばらつき(スリット8dの傾斜角の周方向におけるばらつき)は±1度よりも小さくなるように形成することが好ましい。
【0027】
次に、本実施例の特徴部分を、
図1を用いて説明する。溶湯管7は、ガスノズル8の略中央に設けられた孔部8eに接しており、溶湯管7と孔部8eとの間には嵌め合いを容易にするための隙間sが形成されている。本実施例のガスアトマイズ用ノズル8においては、前記隙間sの開口部s1は、スリット8dの噴射口位置8gよりも、スリットの噴射軸bに関して下流側に位置するように構成されている。
【0028】
これにより、前記開口部s1は、高圧の噴射ガス13aがスリット8dから噴射された後、不足膨張が十分進んで噴射ガスの圧力が低下する部分に位置するように設けられている。即ち、開口部s1は、スリット8dの噴射口位置8g付近には設けず、噴射口位置8gよりも下流側の不足膨張が進んだ位置に設けられている。このように構成することにより、開口部s1の圧力はガスの噴射圧力よりも大きく低下した圧力状態となる。
【0029】
さらに、本実施例では、溶湯管7とガスノズル8との間に形成される隙間sの開口部s1近傍のガスノズル8に切り欠き8hを設けている。即ち、本実施例では、ガスノズル8の上側部材(ガスノズル本体)8aにおける前記孔部8eを形成している内径側下端部8a1を、スリット8dの噴射口位置8gよりも下流側まで延ばし、この下端部の先端部分が平面となるように前記切り欠き(段差部)8hを形成している。この切り欠き8hの位置も前記噴射口位置8gよりも下流側に位置するように構成している。
【0030】
このように切り欠き8hを設けることにより、前記開口部s1の圧力をさらに低く抑えることができるので、前記開口部s1から前記隙間sに噴射ガス13aの一部が侵入するのを防止或いは抑制することができる。
【0031】
図2は、
図1のII-II線矢視断面図で、ガス供給管9の中心部を通る水平断面図である。この
図2は、ガスアトマイズ用ノズル8とガス供給管9との関係を示している。
ガス供給管9の下流には、ガス流れのバッファとなる環状の前記バッファ空間8cが設けられており、高圧ガスを供給するガス供給管9が、バッファ空間8cの外周の接線方向に対して垂直方向に設置されている。即ち、ガス供給管は前記バッファ空間の外周側を形成しているガスノズルの壁面の接線方向に対して垂直方向に設置されている。また、ガス供給管9は、ガスノズル8の上側部材8aの外周に周方向に等間隔に二か所設置されている。なお、
図2に示す例ではガス供給管9を二か所としているが、等間隔に三か所以上設けるようにしても良い。
【0032】
上述した本実施例に対する比較例として
図3を用いて、従来のガスアトマイズ用ノズルの構成を説明する。
図3は従来のガスアトマイズ用ノズル8における溶湯管7とスリット8d近傍における、要部断面図である。
【0033】
従来のものでは、溶湯管7とガスノズル8の間の隙間sの開口部s1がスリット8dの噴射口位置8gよりも上流に位置している。そのため開口部s1の圧力は高くなり、白抜き矢印14で示すように隙間sへのガスの侵入が生じる。隙間sにガスが侵入すると、ガスにより溶湯管7が側面部から冷却され、溶湯管7を経由して溶湯管7の内部や外部に接する溶湯も冷却される。このため、溶湯管7の孔7aの出口近傍には、溶融金属が凝固した金属が固着し、溶湯管7の閉塞が発生し易くなる。
【0034】
前記した特許文献1のように、ガスノズルと溶湯管の間に隙間を形成し、ガスノズルと溶湯管を非接触としているものでは、その隙間が流路となって噴射ガスがより侵入し易くなり、侵入ガスによる溶湯管の冷却により溶湯管の閉塞を促進し易い。
【0035】
ガスノズルと溶湯管との間の隙間を、噴射ガスが侵入できないほど狭くすることも考えられるが、加工公差を非常に小さくする必要があり、ガスノズルや溶湯管の製作コストが高くなり、ガスノズルと溶湯管のはめ合いの作業性が悪化する。
【0036】
これに対し、本実施例では、
図1に示すように、隙間sの開口部s1がスリット8dの噴射口位置8gよりも噴射軸bの下流側に位置しているので、開口部s1付近の圧力は噴射ガスの噴射圧力よりも大きく低下し、隙間sへのガスの侵入を低減できる。
【0037】
なお、ガスの噴射圧力や流量の値により、スリット8dの噴射口位置8gから噴射されたガスの不足膨張の程度は異なるため、最適な隙間の開口部s1の位置は操業条件により異なる。このため、隙間sの開口部s1位置の調整のみでは、開口部s1において圧力が十分低下しない可能性がある。
【0038】
そこで、本実施例では、前述した切り欠き8hも設けることにより、前記切り欠き8hの部分に流れのはく離を生じさせ、このはく離を利用して開口部s1付近の圧力を更に低下させ、隙間sへのガス侵入を十分に抑制できるようにしている。このように構成することにより、様々な操業条件においても溶湯管7の閉塞を低減することが可能となる。
【0039】
上記の構成による作用効果の詳細を、
図4と
図5を用いて説明する。
図4は
図1に示す本実施例のガスアトマイズ用ノズルのガス流れ場及び溶湯流れ場を説明する図、
図5は本実施例のガスアトマイズ用ノズルにおけるガスノズル(スリット)上流のバッファ空間でのガス流れ場を説明する図である。
【0040】
図4において、ガスは環状のスリット8dから噴射されるため、溶湯管7の下流において衝突する。即ち、噴射ガス13aの焦点位置dが存在する。焦点位置dより上流側において、噴射ガス13aと溶湯管7に囲まれた領域ではガスの渦流16が発生する。
【0041】
渦流16の作用により、溶湯管7から流出した溶湯15は溶湯管7先端の端面に押し戻され、溶湯管7の下端面に液膜15aを形成する。同時に渦流16により、引き込み圧と呼ばれる負圧が生じ、前記負圧が溶湯管7から溶湯15を流出させる駆動力(引き込み力)となる。
【0042】
本実施例では前記スリット8dの角度θを20度~30度の範囲にしているので、溶湯管7下流の渦流16の領域を広く確保して負圧を発生させつつ、渦流16による吹上流により、溶湯管7先端(下端面)での液膜15aの形成を良好に行うことができる。
【0043】
例えば、θを20度未満にすると渦流16の発生位置が下流にずれて液膜形成に必要な十分な吹上流を発生させにくくなる。また、θを30度超にすると渦流16の領域が小さくなり、安定して出湯するための十分な負圧を得にくくなる。
【0044】
更に、本実施例では、ガスノズル本体に設けた切り欠き8hにより、
図4に示すように、前記隙間sの開口部s1近傍において、スリット8dから噴射されたガス流れのはく離流れ17を発生させることができ、これにより前記開口部S1近傍での圧力を低下させることができる。
【0045】
切り欠き8hの幅Wについては、スリット8dの幅Wsに対して0.1~0.6倍程度であることが好ましい。即ち、前記切り欠きの幅をW、前記スリットの出口幅をWsとしたとき、
W/Ws=0.1~0.6
に構成すると良い。但し、本発明はこの範囲に限定されるものではないが、W/Wsを0.1未満とした場合、切り欠き(段差部)8hにより生じるはく離流れ17による圧力低下の効果を得にくくなる。一方、W/Wsを0.6超にした場合、はく離流れ17による圧力損失が、W/Ws=0.1の場合と比較し、約10倍以上と大きくなり、微粒化性能の低下が顕著になる。
【0046】
本実施例では、上述した構成としたことにより、噴射ガスの一部がガスノズル8と溶湯管7との間の隙間sへ侵入することを低減でき、溶湯管7が閉塞するのを抑制できると共に、高い微粒化性能を得ることも可能となる。
【0047】
図5はガス供給管9及びガスが供給されるスリット8d上流のバッファ空間8cにおけるガス流れ場を示したものである。本実施例では、ガス供給管9を、ガスノズル8の外周部の二か所に、周方向に等間隔となるように設置し、且つバッファ空間8cの周方向に対して垂直方向に設置している。この構成とすることにより、ガス供給管9からバッファ空間8cへ流入した高圧ガス13は、
図5に示すように、バッファ空間8c内を周方向に流れると共に、高圧ガス13の一部はスリット8dへ流れ込む。また、各ガス供給管9から供給された高圧ガス同士が衝突することにより、スリット8dの接線方向に対して垂直方向から高圧ガスを前記スリット8dへ流入させることができる。
【0048】
これにより噴射ガス13a(
図1参照)の周方向速度成分を最小化することが可能となり、溶湯管7下流における渦流16(
図4参照)が形成され易くなる。従って、本実施例によれば、溶湯15(
図4参照)に対する吹上流が促進され、
図4に示す溶湯の液膜15aの薄膜化により高い微粒化性能を得ることができる。
【0049】
なお、特許文献1に示すような従来のガスアトマイズ装置では、高圧ガスがバッファ空間に流入する際、周方向速度成分が生じるようにして旋回流を発生させているが、このようなものでは旋回中心の圧力が低下し、溶湯管7の下流側に、渦流16が形成され難くなる。
【0050】
以上説明した本実施例1は、溶湯管7とガスノズル8の間の隙間sの開口部s1が、噴射口位置8gよりも下流側の噴射ガスの膨張部に位置する構成とし、更にガスノズル8の切り欠き(段差部)8hにおいて流れがはく離するはく離域を形成するように構成している。従って、前記開口部s1において圧力を低下させることで、前記隙間sへの噴射ガスの侵入を低減できるので、隙間sへの噴射ガス侵入による溶湯管7の冷却を抑制できる。この結果、溶湯管の出口で溶融金属が凝固して溶湯管が閉塞するのを抑制できる。
【0051】
また、本実施例によれば、溶湯に対する吹上流が促進されるので、溶湯の液膜15aの薄膜化を促進でき、この結果、上記特許文献1に示すもののように微粒化性能は損なわれず、高い微粒化性能も得ることができる。
【0052】
更に、ガスノズル8と溶湯管7との間の隙間sを、噴射ガスが侵入できないほど狭くしてガス侵入を防止すると、ガスノズル8と溶湯管7の加工公差を非常に小さくする必要がある。これに対し本実施例の構成とすることにより、加工公差を小さくする必要がなくなり、ガスノズル8や溶湯管7の製作コストを抑制でき、ガスノズル8と溶湯管7のはめ合いの作業性も向上できるから、操業コストを抑えることもできる効果がある。
しかし、上述したひだ状の突起(凹凸溝)を設けることだけでも、隙間sへのガスの侵入抑制効果を得ることができるので、本実施例2は、隙間sの開口部s1の位置や切り欠き8hの構成を備えていないガスアトマイズ用ノズルに対しても効果が得られる。
なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。また、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。