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特開2023-68483センシング繊維部材及びセンシング布帛
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068483
(43)【公開日】2023-05-17
(54)【発明の名称】センシング繊維部材及びセンシング布帛
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/16 20060101AFI20230510BHJP
   D02G 3/38 20060101ALI20230510BHJP
   D02G 3/26 20060101ALI20230510BHJP
   H10N 30/60 20230101ALI20230510BHJP
   H10N 30/30 20230101ALI20230510BHJP
   H10N 30/857 20230101ALI20230510BHJP
【FI】
G01L1/16 B
D02G3/38
D02G3/26
H01L41/087
H01L41/113
H01L41/193
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021179632
(22)【出願日】2021-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】515162442
【氏名又は名称】旭化成アドバンス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】594149804
【氏名又は名称】カジナイロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】森田 茂
(72)【発明者】
【氏名】宇野 真由美
(72)【発明者】
【氏名】小森 真梨子
(72)【発明者】
【氏名】吉村 貫生
【テーマコード(参考)】
4L036
【Fターム(参考)】
4L036MA05
4L036MA06
4L036MA33
4L036MA39
4L036PA21
4L036PA26
4L036RA25
4L036UA25
(57)【要約】
【課題】長尺での加工が可能であり、量産性に優れ、従来の圧電材料を用いた接触センシング繊維部材(圧電糸)に比較して格段に低コストである、センシング繊維部材、及びそれを用いた布帛の提供。
【解決手段】線状導電体である芯糸の周りに、鞘糸を設けた少なくとも2本の芯鞘構造糸が、該鞘糸を介して互いに近接した複合糸条の外周に、感圧材料である被覆樹脂が配され、該被覆樹脂が該複合糸条に接触した状態で、該被覆樹脂により固定されているセンシング繊維部材であって、該センシング繊維部材に対する応力印加を、線状導電体間の電気特性の変化により感知することができる、前記センシング繊維部材、並びにこれを用いた布帛。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状導電体である芯糸の周りに、鞘糸を設けた少なくとも2本の芯鞘構造糸が、該鞘糸を介して互いに近接した複合糸条の外周に、感圧材料である被覆樹脂が配され、該被覆樹脂が該複合糸条に接触した状態で、該被覆樹脂により固定されているセンシング繊維部材であって、該センシング繊維部材に対する応力印加を、線状導電体間の電気特性の変化により感知することができる、前記センシング繊維部材。
【請求項2】
前記センシング繊維部材が、該センシング繊維部材への物体の接触、又は該センシング繊維部材の伸縮若しくは曲げ変形を感知する、請求項1に記載のセンシング繊維部材。
【請求項3】
前記鞘糸が、絶縁体又は圧電体である、請求項1又は2に記載のセンシング繊維部材。
【請求項4】
前記芯鞘構造糸の以下の式:
撚り係数K=(SS+SC)1/2×R
{式中、SSは、芯糸としての線状導電体の繊度(dtex)であり、SCは、鞘糸としての鞘糸の総繊度(dtex)であり、そしてRは、鞘糸の巻き付け数(撚り数)(回/m)である。}で表される撚り係数Kが、7000以上30,000以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のセンシング繊維部材。
【請求項5】
前記芯鞘構造糸が、芯糸としての線状導電体の周囲を2本の鞘糸で巻き付けた、ダブル芯鞘構造糸であり、該2本の鞘糸の巻き付け方向が、同一方向である、請求項1~4のいずれか1項に記載のセンシング繊維部材。
【請求項6】
前記芯糸としての線状導電体は、マルチフィラメント導電性繊維である、請求項1~5のいずれか1項に記載のセンシング繊維部材。
【請求項7】
前記互いに近接して配置される2本の芯鞘構造糸において、鞘糸である鞘糸の巻き付け方向が同じであり、該2本の芯鞘構造糸同士が、該鞘糸の巻き付け方向と反対の方向に、諸撚された諸撚糸が、被覆樹脂により固定されたものである、請求項1~6のいずれか1項に記載のセンシング繊維部材。
【請求項8】
前記鞘糸が、紡績糸からなる、請求項1~7のいずれか1項に記載のセンシング繊維部材。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のセンシング繊維部材が配された織物、編物または組紐の形態にあるセンシング布帛。
【請求項10】
布帛の経緯方向それぞれに、線状導電体である芯糸の周りに鞘糸を設けた少なくとも1本の芯鞘構造糸が配され、該経緯方向に配された芯鞘構造糸の交差点に、感圧材料である被覆樹脂が配され、該被覆樹脂が該交差点に接触した状態で、該被覆樹脂が固定されている、センシング布帛。
【請求項11】
線状導電体である芯糸の周りに鞘糸を設けた芯鞘構造糸の外周に、感圧材料である被覆樹脂が配された被覆鞘芯構造糸が、少なくとも2本配されたセンシング繊維部材であって、応力印加時に互いの被覆樹脂が接触した状態で固定されるセンシング繊維部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センシング繊維部材に関する。より詳しくは、本発明は、線状導電体である芯糸の周りに、鞘糸を設けた少なくとも2本の芯鞘構造糸が、該鞘糸を介して互いに近接した複合糸条の外周に、感圧材料である被覆樹脂が配された、接触や荷重の印加を検知できるセンシング繊維部材、及び該センシング繊維部材が配されたセンシング布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、柔軟性や伸縮性のある繊維基材の上に電気的な機能素子を設けたスマートテキスタイル技術が提案されている。これらは、柔軟な繊維基材上に、各種のセンサ、バッテリー、ヒーター、ペルチェ素子等の機能素子を設けるものであり、非常に柔軟で人体や曲面への実装に適した製品が実現できるため、今後のいわゆるSociety5.0と呼ばれる、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させた超スマート社会において非常に重要である。
【0003】
上記センサの1つとして、従来、接触に対するセンシング機能をもつ繊維部材として、図1に示すような、圧電型の加工糸(以下、圧電糸ともいう。)や圧電センサが提案されている。以下の特許文献1~5に記載されるように、一般に、圧電型の加工糸(圧電糸、圧電繊維ともいう。)は、導電性繊維(1)の周りをポリ乳酸やポリフッ化ビニリデン等の圧電材料(2)で被覆し、さらにその周りを金属メッキなどの導体(3)で被覆した構造を有している。ポリ乳酸は、結晶性のヘリカルキラル高分子であり、その一軸延伸フィルムは圧電性を有している。圧電性とは、応力を印加すると表面電荷が発生し、分極を生じる性質である。これにより内層側の導電性繊維(1)と外側の導体(3)との間に、例えば、図1に示すように荷電が発生する。また、この逆の場合もある。この場合、圧電材料を配向させることが必要であり、メッキ工程において生産性を高めることが困難であるという問題があるため、現状、加工糸1m当たり約1000円~10000円と非常に高価なものとなっている。また、図1に示すような構造では、1万m以上といった長尺の加工糸を製造することは、現状、困難であるため、圧電糸を織物や経編の経糸として使用することが非常に困難である。
【0004】
また、以下の特許文献6、7に記載されるように、2つの近接した電極間の、接触や荷重が加えられた際の静電容量の変化を検知することにより、接触又は荷重を感知する接触センシング繊維部材が知られており、それ以外にも、1つの電極に対して導体(人体など)が近接する際の静電容量の変化を検知する技術は知られている。しかしながら、従来技術では、2つの電極間の絶縁体として、主にウレタンやシリコーンなどの絶縁体が使われており、電極間の距離を大きく変化させることが困難なため、高コストであり設計上の制約が多かった。また、特許文献8に記載されるように、1つの電極を利用する場合、静電容量変化が非常に微小であるため、この微小信号を検知するための高度な信号処理回路を用いる必要があるが、現状、接触の感度は低く、また、近接センサとしての感度が低いものしか得られていない。
【0005】
他方、以下の特許文献9、10に記載されるように、バルキー性に優れた芯鞘構造糸や高生産性で且つ高品質な芯鞘構造糸に関する技術は知られているが、これらの芯鞘構造糸に関する技術をセンシング繊維部材として用いることは記載されておらず示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6025854号公報
【特許文献2】特許第6689943号公報
【特許文献3】特開2020-090768号公報
【特許文献4】特開2020-036027号公報
【特許文献5】特許第6107069号公報
【特許文献6】特許第5754946号公報
【特許文献7】特開2006-234716号公報
【特許文献8】特開2016-173685号公報
【特許文献9】特開平10-25635号公報
【特許文献10】特開2013-231246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記した技術水準に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、長尺での加工が可能であり、量産性に優れ、織物の織糸や編物の編糸として使用も可能であり、従来の圧電材料を用いた接触に対する接触センシング繊維部材(圧電糸)に比較して格段に低コストである、センシング繊維部材、及び該センシング繊維部材が配されたセンシング布帛を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決すべく、本発明者らは鋭利検討し実験を重ねた結果、以下の構造とすることで、前記課題を解決しうることを予想外に見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
[1]線状導電体である芯糸の周りに、鞘糸を設けた少なくとも2本の芯鞘構造糸が、該鞘糸を介して互いに近接した複合糸条の外周に、感圧材料である被覆樹脂が配され、該被覆樹脂が該複合糸条に接触した状態で、該被覆樹脂により固定されているセンシング繊維部材であって、該センシング繊維部材に対する応力印加を、線状導電体間の電気特性の変化により感知することができる、前記センシング繊維部材。
[2]前記センシング繊維部材が、該センシング繊維部材への物体の接触、又は該センシング繊維部材の伸縮若しくは曲げ変形を感知する、前記[1]に記載のセンシング繊維部材。
[3]前記鞘糸が、絶縁体又は圧電体である、前記[1]又は[2]に記載のセンシング繊維部材。
[4]前記芯鞘構造糸の以下の式:
撚り係数K=(SS+SC)1/2×R
{式中、SSは、芯糸としての線状導電体の繊度(dtex)であり、SCは、鞘糸としての鞘糸の総繊度(dtex)であり、そしてRは、鞘糸の巻き付け数(撚り数)(回/m)である。}で表される撚り係数Kが、7000以上30,000以下である、前記[1]~[3]のいずれかに記載のセンシング繊維部材。
[5]前記芯鞘構造糸が、芯糸としての線状導電体の周囲を2本の鞘糸で巻き付けた、ダブル芯鞘構造糸であり、該2本の鞘糸の巻き付け方向が、同一方向である、前記[1]~[4]のいずれかに記載のセンシング繊維部材。
[6]前記芯糸としての線状導電体は、マルチフィラメント導電性繊維である、前記[1]~[5]のいずれかに記載のセンシング繊維部材。
[7]前記互いに近接して配置される2本の芯鞘構造糸において、鞘糸である鞘糸の巻き付け方向が同じであり、該2本の芯鞘構造糸同士が、該鞘糸の巻き付け方向と反対の方向に、諸撚された諸撚糸が、被覆樹脂により固定されたものである、前記[1]~[6]のいずれかに記載のセンシング繊維部材。
[8]前記鞘糸が、紡績糸からなる、前記[1]~[7]のいずれかに記載のセンシング繊維部材。
[9]前記[1]~[8]のいずれかに記載のセンシング繊維部材が配された織物、編物又は組紐の形態にあるセンシング布帛。
[10]布帛の経緯方向それぞれに、線状導電体である芯糸の周りに鞘糸を設けた少なくとも1本の芯鞘構造糸が配され、該経緯方向に配された芯鞘構造糸の交差点に、感圧材料である被覆樹脂が配され、該被覆樹脂が該交差点に接触した状態で、該被覆樹脂が固定されている、センシング布帛。
[11]線状導電体である芯糸の周りに鞘糸を設けた芯鞘構造糸の外周に、感圧材料である被覆樹脂が配された被覆鞘芯構造糸が、少なくとも2本配されたセンシング繊維部材であって、応力印加時に互いの被覆樹脂が接触した状態で固定されるセンシング繊維部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る接触センシング繊維部材は、長尺での加工が可能であり、量産性に優れ、織物の織糸や編物の編糸として使用可能であり、従来の圧電材料を用いた接触センシング繊維部材(圧電糸)に比較して格段に低コストである。すなわち、本発明に係るセンシング繊維部材は、線状導電体である芯糸の周りに、一般的なポリエステル、ナイロン、綿、セルロース系繊維等の絶縁体又はポリ乳酸等の圧電体(piezo electric材料)からなる鞘糸を設けた少なくとも2本の芯鞘構造糸が、該鞘糸を介して互いに近接した複合糸条の外周に、圧電体(piezo electric材料)又は圧力に応じて電気抵抗が変化する材料(piezo resistive材料)等の感圧材料である被覆樹脂が配され、固定することにより、非常に低コストで接触センシング繊維を実現できるものである。また、ノウハウが確立している繊維加工技術であるカバーリング技術や紡績技術を用いるため、長尺での加工が可能であり、量産性に優れるため、織物や編物等の繊維部材への加工が容易となる。
したがって、本発明に係る接触センシング繊維部材、及びこれを用いたセンシング布帛は、柔軟性や伸縮性のある繊維基材の上に電気的な機能素子を設けたスマートテキスタイル用途、例えば、踏んだら検知可能なラグ、人の出入り検知用防犯マット、人数カウント用マット等、脈拍や心拍などの生体信号のセンサ、接触センシング織編物、例えば、看護や介護等の現場での見守りセンサ、工場等の生産現場での接触センサ、車両シートベルト等へのセンサ埋め込み用部材、例えば、車両用シートベルト、ハンドル、ダッシュボード等への接触センサの埋め込み等の各種用途に広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】従来の圧電型の加工糸(圧電糸)の模式図である。
図2】本実施形態のセンシング繊維部材の模式図である。
図3】本実施形態のセンシング繊維部材の被覆樹脂含浸・被覆前の外観、及び拡大写真である。
図4】本実施形態のセンシング繊維部材の樹脂被覆後の外観拡大写真である。
図5】芯鞘構造糸の製造装置の概略図である。
図6図5のB部における、上記製造装置で得られる芯鞘構造糸の模式図である。
図7】実施例1で得た被覆樹脂(圧電体)で固定した諸撚糸に荷重を印加した時の電流値の変化を示すグラフである。
図8】実施例2で得た被覆樹脂(圧電体)で固定した諸撚糸に荷重を印加した時の電流値の変化を示すグラフである。
図9】実施例3で得た被覆樹脂(圧電体)で固定した諸撚糸に荷重を印加した時の電流値の変化を示すグラフである。
図10】実施例4で得た被覆樹脂(圧電体)で固定した諸撚糸に荷重を印加した時の電流値の変化を示すグラフである。
図11】実施例5で得た被覆樹脂(圧電体)で固定した諸撚糸に荷重を印加した時の電流値の変化を示すグラフである。
図12】比較例で得た被覆樹脂(圧電体)脂で固定した諸撚糸に荷重を印加した時の電流値の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の第一の実施形態は、線状導電体である芯糸の周りに、鞘糸を設けた少なくとも2本の芯鞘構造糸が、該鞘糸を介して互いに近接した複合糸条の外周に、感圧材料である被覆樹脂が配され、該被覆樹脂が該複合糸条に接触した状態で、該被覆樹脂により固定されているセンシング繊維部材であって、該センシング繊維部材に対する応力印加を、線状導電体間の電気特性の変化により感知することができる、前記センシング繊維部材である。
本実施形態のセンシング繊維部材は、該センシング繊維部材への物体の接触、又は該センシング繊維部材の伸縮若しくは曲げ変形を感知できるセンシング繊維部材であることが好ましい。また、鞘糸は、絶縁体又は圧電体であることが好ましい。
【0013】
芯糸としての線状導電体は、導電性である限り特に制限はないが、導電性繊維、例えば、炭素繊維、金属繊維等、材質自体が導電性を有する線状導電体であってもよく、導電性のない繊維に導電性を付与した線状導電体でもよい。前者としては、各種金属からなる1本又は複数本の金属ワイヤーを用いることができる。複数本の金属ワイヤー(マルチフィラメント)を用いる場合、フィラメント数が多く、直径が比較的小さいワイヤーを用いることが、しなやかさや風合いを良好にできる点で好ましい。例えば、直径が1μm~1mm程度、フィラメント数が10~200程度の金属マルチフィラメントを用いれば、強度と風合いを両立して得ることが容易に可能となる。中でも、ステンレス製のマルチフィラメントを用いることが、耐久性や耐腐食性が高く、比較的安価なため好ましい。後者としては、ナイロン等の繊維の周りに銀、銅などの金属めっきを施したものを用いることが、風合いや柔軟性を高められる観点から、好ましい。この場合、導電性繊維がマルチフィラメントからなることが、良好な導電性を得られる点、また、強度を高められる点から好ましい。金属めっきの代わりに、銅箔などの金属箔を繊維の周りに巻き付けたものや、金属等の導電性材料をスプレーしたものを用いてもよい。また、ナイロンに代えて、ポリアリレート等を用いれば引張強度をさらに高めることができる。あるいは、ウレタンやシリコーン等の弾性体の周りにストレッチャブルな金属インクを用いて導電性を付与した線状導電体を用いてもよい。この場合、ストレッチャブルな繊維部材を得ることができる。また、線状導電体として、導電性材料と絶縁性材料の混合物を線状にしたものを用いてもよい。例えば、ナイロンやポリエステル等の樹脂にカーボン系導電性材料や金属を混合した材料を線状に加工した材料を用いれば、導電性は劣るものの風合いが良好な線状導電体を得ることができる。
【0014】
線状導電体、例えば、導電性繊維の繊度は、良好な風合いが得やすくなる観点から、10dtex~15000dtexであることが好ましく、より好ましくは20dtex~5000dtexである。また、マルチフィラメントである場合、単糸繊度は、良好な風合いを得やすいことと、高い導電性が得やすくなる観点から、1dtex~30dtexであることが好ましく、より好ましくは2dtex~10dtexである。フィラメント数については、10~200とすることがより好ましい。フィラメント数を10以上とすることは、良好な風合いが得られやすく、また、良好な導電性を確保しやすくなる点で好ましい。但し、フィラメント数が多すぎるとコストが高くなってしまい、剛性も、より高くなるため逆に風合いが低下する場合がある。これらを総合して、上記のフィラメント数の範囲とすることが好ましい。
【0015】
線状導電体を成す導電性材料は、複合糸条を構成する少なくとも2本の芯鞘構造糸間で同一の材料を用いてもよいし、異種材料を用いてもよく、任意の材料の組み合わせを用いることができる。但し、同一の導電性材料を用いることが、生産が効率的に可能である点で好ましい。異種材料の組み合わせとしては、例えば、鉄と銅、鉄と銀、アルミニウムと銅、銀と銅など、任意のものを用いることができる。
【0016】
本明細書中、「鞘糸」は、前記した複合糸条に配される芯糸としての線状導電体のうちの対になる2本同士を電気的に絶縁することができる限り、特に制限はなく、ポリエステル、ナイロン(ポリアミド)等の一般的な繊維の他、ポリ乳酸(PLA)等の圧電体、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の強誘電体を包含する。但し、鞘糸は、無荷重状態で、又は芯鞘構造糸製造時、又は後述する被覆樹脂での固定時に、前記した芯糸としての線状導電体同士の間で電気的なショートを起こし難いものとするため、被覆性、センシング性能の観点から、斑なく、被覆厚みを均一化できるマルチフィラメント合成長繊維又は紡績糸のいずれかであることが好ましい。鞘糸の材料としては、無荷重等のセンシングの作用がない状態(アイドリング状態)で絶縁性が確保できるものであれば特に制限はないが、コスト、入手の容易性の観点から、ポリエステル(PET、PBT等)、ナイロン(Ny、ポリアミド)、エポキシ系、アクリル系等の合成繊維が好ましく、セルロース繊維等の天然繊維、半合成繊維、再生繊維であっても構わない。また、鞘糸の材料として、ポリ乳酸(PLA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の圧電体、強誘電体や、生分解性樹脂を用いることができる。圧電体であれば、アイドリング状態で絶縁性を保持でき、かつ、応力印加時にはその圧電特性に応じた出力信号も合わせて得られるため、センサ感度が高くなる。但し、鞘糸としては、コスト面や織編物にした時の風合い等の面からは、ポリエステル、ナイロン、アクリル系等の衣料用に用いられる繊維を使用することが好ましい。
【0017】
鞘糸の繊度は、無荷重時の絶縁性を確保しやすい観点から、15dtex~25000dtexであることが好ましく、より好ましくは30dtex~8000dtexである。また、マルチフィラメントである場合、単糸繊度は、良好な風合いがより得られやすい観点から、1dtex~10dtexであることが好ましく、より好ましくは2dtex~8dtexである。
【0018】
芯鞘構造糸の製造方法も特に制限はないが、例えば、特許文献9に記載される以下の方法が挙げられる。
尚、本願明細書中、用語「芯鞘構造糸」とは、前記線状導電体の周囲に前記鞘糸が形成された後の糸条を意味する。
図5は、鞘糸(14)が巻かれたボビン(11)を、2本足フライヤ(12)を装着したカバーリング装置に仕掛けて稼働させた場合の模式図である。図6は、図5のB部の拡大図を示している。芯糸9は中空スピンドル10の中空部を通って、上方のスネールガイド(図示せず)を通り、テイクアップロール(図示せず)でテイクアップされる。鞘糸14は2本足フライヤ12の一方の足ガイド15と16へ通され、中空スピンドルの回転(ボビンの同調)によりボビンから解舒され、鞘糸14は芯糸9に捲回されながらスネールガイドを通り、テイクアップされる。フライヤ12の足数を2本にする理由は、フライヤが回転した時にフライヤ12のバランスをとるためである。
上記カバーリング装置を縦方向に2段並べ、2つのボビンから2種のカバー糸(同種でも異種でもよい)を順にカバーリングする、いわゆるダブルカバーリングを行ってもよい。このとき、各々のカバー糸を同方向にカバーリング(2種のカバー糸がいずれもS撚、又はいずれもZ撚)すれば、厚みを均一に、かつ、絶縁性繊維の隙間を確実に埋めることができ、センシング性能を向上させることができ、特に好ましい。
カバー糸は、風合い及び被覆性を向上させやすい観点から、仮撚り加工糸(ウーリー糸)であることもできる。
【0019】
図2図3図4に、本実施形態のセンシング繊維部材として、2本の芯鞘構造糸(7)を撚り糸とする一例を示す。このとき、前記互いに近接して配置される2本の芯鞘構造糸(7)における、芯糸としての線状導電体(5)の周囲に配置される鞘糸としての鞘糸(6)の巻き付け方向が同じであり、該2本の芯鞘構造糸同士が、該鞘糸の巻き付け方向と反対の方向に諸撚された諸撚糸(8)であることが好ましい。諸撚り(カバーリングの巻き付け方向と反対方向に撚りをかけること)により、できあがった糸条(芯鞘構造糸)のトルクは弱くなり、製造工程での取り扱いが容易になる。また、諸撚糸であれば、当然に、前記2本の芯鞘構造糸が互いに近接して配置され、また、該2本の芯鞘構造糸同士が、交差する接点を有することになる。
【0020】
前記芯鞘構造糸の以下の式:
撚り係数K=(SS+SC)1/2×R
{式中、SSは、芯材としての線状導電体の繊度(dtex)であり、SCは、被覆材の総繊度(dtex)であり、そしてRは、被覆材の巻き付け数(撚り数)(回/m)である。}で表される撚り係数Kは、7000以上30,000以下であることが好ましい。撚り糸係数Kが、7000以上であれば、2本の線状導電体同士の電気的短絡が生じにくくなり、他方、30,000以下であれば、センサ出力を大きく得ることがより容易になる。尚、ダブルカバーリングの場合は、一層目と二層目それぞれのカバーリング時の撚り係数を算出して、平均した値とする。撚り係数Kは、より好ましくは10,000以上20,000以下である。
【0021】
本実施形態のセンシング繊維部材では、こうして得られた2本の芯鞘構造糸が、該鞘糸を介して互いに近接し、感圧材料である被覆樹脂が含浸され、さらに、該被覆樹脂が該線状導電体に接触した状態で、該被覆樹脂により固定されている。それゆえ、該センシング繊維部材に対する荷重印加を、線状導電体間の電気特性の変化により感知することができる。
【0022】
感圧材料である被覆樹脂は、鞘糸同士の空隙に含侵して配され、2本の線状導電体の間の少なくとも一部の箇所(センシングの作用点)において、感圧材料のみが構成された構造をとる。ここで、感圧材料の固定は、センシングの作用点において、連続的に形成された被覆樹脂を用いて2本の線状導電体間を完全に固定してもよいし、感圧材料を含侵させた芯鞘構造糸を少なくとも2本用いて互いに密着させてもよい。センサ出力をより大きくできる点では、前者のように2本の線状導電体間を完全に固定し、連続媒体として被覆樹脂を作製することが、より好ましい。
被覆樹脂による含浸では、先述の通り、互いに接触する鞘糸の間の隙間が被覆樹脂により埋められつつ、芯鞘構造糸の周りが被覆樹脂により被覆され、被覆樹脂の硬化に伴い、芯鞘構造糸の形状が固定される。2本の芯鞘構造糸を近接させるためにこれらを諸撚りする場合、被覆樹脂の硬化に伴い、2本の芯鞘構造糸の形状が固定される。また、鞘糸が絶縁体である場合には、2本の芯鞘構造糸は、被覆樹脂が線状導電体に接触した状態で、被覆樹脂により固定される。これにより、荷重印加により被覆樹脂(圧電体又は感圧材料)から発生する分極や電気抵抗の変化を、線状導電体を介して、電気的に感知できるようになる。尚、鞘糸が圧電体である場合には、荷重により、被覆樹脂からだけでなく、鞘糸からも発生する電圧を、線状導電体を介して、電気的に感知できる。
【0023】
被覆樹脂は、感圧材料である。本実施形態において、被覆樹脂に用いられる感圧材料とは、応力の印加を電気的に検知できる材料のことであり、圧電体、又は圧力の印加によって電気的特性が変化する材料(狭義の感圧材料)を含む。圧電体の材料としては、フッ化ビニリデン(VDF)と三フッ化エチレン(TrFE)の共重合体(以下、P(VDF/TrFE))ポリマーや、ポリ乳酸を用いることができる。圧力の印加によって電気的特性が変化する材料としては、シリコーンやウレタンなどの弾性体材料やゴムの中に、金属等からなる導電性の粒子が分散している材料を用いることができる。この場合、圧力が加わると分散粒子同士の距離が近くなる、あるいは分散粒子同士が電気的に接触することにより、電気抵抗値が低減することで、圧力印加を検知することができる。
【0024】
以下、被覆樹脂の含浸方法の一例について述べる。
例えば、諸撚糸を、P(VDF/TrFE)ポリマー溶液に含侵させ乾燥させて被覆樹脂で固定されたセンシング繊維部材を作製することができる。一例として、P(VDF/TrFE)として、VDF:TrFE=75:25mol%の材料を用いる場合、これを炭酸ジエチルに溶解して濃度6.9wt%、10.1wt%の溶液を調製する。溶液の濃度は、2本の芯鞘構造糸の隙間が埋まる程度の濃度であればよい。溶液は、液温を88℃~94℃の範囲内に保ち、一晩加熱攪拌する。この溶液を常温に戻し、上記の諸撚糸を浸漬し引き上げ、吊り下げた状態で80℃10時間、10hPa中で真空乾燥し、鞘糸の間に圧電体樹脂を含浸した状態で該鞘糸を該圧電体樹脂で被覆・固定した諸撚糸を作製することができる。本実施形態では、上記の材料や溶媒、作製方法に限定されるものではなく、溶液に含侵させる方法を用いる場合の溶媒は、圧電体材料が均一に溶解するものであれば何であってもよく、P(VDF/TrFE)ポリマーを分散させた印刷用ペーストを用いても構わない。
【0025】
本発明の他の実施形態は、前記したセンシング繊維部材が配された織物、編物又は組紐の形態にあるセンシング布帛である。
上述のセンシング繊維部材を織物、編物又は組紐に配したものを、センシング布帛ともいう。センシング布帛とすることで、センシング繊維部材を配した一定の範囲におけるセンシング性能を発現できる。
本実施形態のセンシング布帛は、上述のセンシング繊維部材を織物の少なくとも一方方向に連続して存在させた、織物形状とすることができる。織物の幅方向の中央部に経糸としてセンシング繊維部材を織り込んでもよく、センシング繊維部材を経糸、緯糸のいずれか、あるいは両方に用いてもよく、センシングしたい箇所の数に応じて任意の本数で配置すればよい。例えば、経糸を5本並行に配置し、緯糸を左右に織り込んで配置させることができる。連続生産の点からは、経糸又は緯糸の一部に該センシング繊維部材を配置することが好ましい。これにより、センシング布帛は、該センシング繊維部材が織り込まれた部分への物体の接触や本部分の伸縮や曲げを感知することができる。細幅織物の一部にセンシング繊維部材を織り込んだ場合、繊維部材の形状がテープ状となるため、センシング繊維部材のみの場合と比較して、衣類や鞄等の繊維製品に取り付けやすいという利点がある。細幅織物の場合、その幅は1~200mmが好ましく、5~30mmがより好ましい。該センシング繊維部材以外の糸使いは特に限定されず、織組織についても特に限定されない。
【0026】
例えば、幅150cm~200cm程度、長さ50m程度の織物中に、経糸、緯糸ともに5~10cmピッチで上述のセンシング繊維部材を織り込んだセンシング布帛を構成することができる。このような複数本のセンシング繊維部材を織り込んだセンシング布帛を用いれば、各センシング繊維部材の位置での接触等を同時計測することができるため、与えられた接触の位置をマッピング計測することができる。かかるセンシング布帛を、例えば、ベッドパッドやシーツ、枕カバー、等に用いて、人体の有無や動き、脈拍や心拍などの生体信号を計測することも可能になる。
また、上述のセンシング糸を組み込んだ組紐形状や編物形状のセンシング布帛とすることもできる。
【0027】
布帛の形態である本発明の第二の実施形態は、織物、編物又は組紐の経緯方向それぞれに、線状導電体である芯糸の周りに鞘糸を設けた少なくとも1本の芯鞘構造糸が配され、該経緯方向に配された芯鞘構造糸の交差点に、感圧材料である被覆樹脂が配され、該被覆樹脂が該交差点に接触した状態で、該被覆樹脂が固定されている、センシング布帛である。
織物であれば、上述の芯鞘構造糸を経糸と緯糸それぞれに少なくとも1本配し、その交差点で、複合糸条の外周に上述の被覆樹脂を配することで、織物中にセンシング繊維部材構造を設けた織物形状のセンシング布帛とすることもできる。この場合、当該経緯糸の交差部分で二本の芯鞘構造糸が近接して配置されるため、この部分で既述のセンシング機能が発現し、センシング繊維部材として適用できる。かかる織物の形状としては任意のものを用いることができる。これは、本発明の他の実施形態であるセンシング布帛の1の態様、すなわち、織物の経糸と緯糸それぞれに、線状導電体である芯糸の周りに鞘糸を設けた少なくとも1本の芯鞘構造糸が配され、該経糸と緯糸に配された芯鞘構造糸の交差点に、感圧材料である被覆樹脂が配され、該被覆樹脂が該交差点に接触した状態で、該被覆樹脂が固定されている、センシング布帛を包含する。同様に、編物や組紐においても、経緯方向それぞれに少なくとも1本の芯鞘構造糸を配することができ、織物と同様にセンシング布帛とすることができる。具体的には、経編物であれば複数の筬それぞれに芯鞘構造糸を配して部分的に交差させる構造、または経糸と挿入糸それぞれに芯鞘構造糸を配して交差させる構造など、緯編物でも間隔をあけて配した芯鞘構造糸を部分的に接触交差させる構造など、組紐であれば間隔をあけて芯鞘構造糸を配して組むことで部分的に交差させる構造が挙げられる。
【0028】
本発明の第三の実施形態は、線状導電体である芯糸の周りに鞘糸を設けた芯鞘構造糸の外周に、感圧材料である被覆樹脂が配された被覆鞘芯構造糸が、少なくとも2本配されたセンシング繊維部材であって、応力印加時に互いの被覆樹脂が接触した状態で固定されるセンシング繊維部材である。
本発明の第一又は第二の実施形態では、少なくとも2本の芯鞘構造糸が、該鞘糸を介して互いに近接した複合糸条の外周に、感圧材料である被覆樹脂が配された構造であるため、複合糸条同士が固定されている。これに対し、本発明の第三の実施形態では、1本の芯鞘構造糸の外周に、感圧材料である被覆樹脂が配された被覆鞘芯構造糸を少なくとも2本配置するため、応力不印加時には各複合糸条自体は固定されていない態様を含むが、応力印加時には、互いの被覆樹脂が接触され、応力によって固定されることで、センシング性能を発現することができる。すなわち、第三の実施形態では、センシング時に鞘芯繊維2本が重なった箇所に圧力がかかるため、鞘芯繊維同士が予め固定されている状態と等価な状態になるため、第一又は第二の実施形態と同様の性能を発揮することができる。本実施形態における少なくとも2本の芯鞘構造糸の配置状態は、応力印加時に接触固定される条件を満たせば、特に限定されず、例えば第二の実施形態同様、布帛の経緯方向に各被覆鞘芯構造糸が配されて部分的に交差する態様とすることができ、布帛以外のシートや樹脂等に配置されてもよく、応力印加時だけ接触するスイッチ状の形状でもよい。
【0029】
対になる芯鞘構造糸の2つの線状導電体間の電気特性の測定は、用いる感圧材料に応じて適宜適切な測定系を用いればよい。鞘糸に含まれる感圧材料が圧電体の場合、応力の印加に応じて生じた電荷を検知できる測定系であれば何であってもよい。例えば、ソースメーター等を用いて2つの線状導電体間の電流値を常時モニターしておき、応力印加によって生じた電荷によって発生する電流を検知する方法を用いることができる。別の感圧材料の例として、圧力によって抵抗値が変化する材料を用いる場合、2つの線状導電体間の抵抗変化が読み出せる測定系を用いればよい。
【実施例0030】
以下、実施例、比較例を挙げて本発明の一例について述べるが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例として、本実施形態のセンシング繊維部材の例として、該センシング繊維部材への接触の感知に関するものを提出する。
以下の実施例、比較例に用いた各特性値の測定方法は以下のとおりのものであった。
【0031】
<接触センシング特性の測定>
接触センシング特性の評価は以下のように行った。近接する2本の線状導電体は、芯鞘構造糸の一方の末端で電気的に開放し、もう一方の末端で一定の電圧をかけ、このときの出力電流をモニタリングした。電圧印加と電流値の測定はソースメーター(SMU:ソース・メジャー・ユニット、Keithley社2614B)を用いて行い、出力電流値の常時モニタリングは自作プログラムを用いて行った。諸撚糸の場合、対をなす線状導電体部分の長さ(センシングが有効な長さ)を10cmとしたサンプルを作製してセンシング特性を測定した。
【0032】
<圧力の印加>
平らなステージ上にセンシング繊維部材を置き、この上からフォースゲージ(IMADA社製、full-range 20N)を用いて5Nの荷重を印加した。圧子は、その表面が絶縁体であるφ12.5mmの円状のものを使用した。
【0033】
<接触センシング特性の評価基準>
接触や荷重印加のないときの2本の線状導電体間に3Vの電圧を印加したときの電流値をI0とし、センシング繊維部材に対して上記の方法で5Nの荷重を印加したときの電流値とI0との差をΔIとするとき、電流値変化量の絶対値|ΔI/I0|について、以下の評価基準で判定した。
(評価基準)
◎:|ΔI/I0|が30以上である。
〇:|ΔI/I0|が10以上30未満である。
×:|ΔI/I0|が10未満である。
【0034】
[実施例1:鞘糸PLA+被膜樹脂P(VDF/TrFE)]
線状導電体として、ナイロン66繊維に銀めっきを施したマルチフィラメントからなる導電性繊維を用いた。ナイロン繊維の繊度が220dtex、銀めっき後の繊度が300dtex、フィラメント数が68本のものを線状導電体として用いた。
上記の線状導電体を芯糸として、鞘糸にポリ乳酸からなる繊維を用いてダブル芯鞘構造糸を作製した。カバーリング条件は、ネイチャーワークス社製ポリ乳酸繊維280dtex/48fマルチフィラメントを鞘糸に2ボビンを用いて各々Z撚りにし、撚り数がZ732T/mのものを用いた。得られたダブル芯鞘構造糸2本を纏めてさらにS撚りし、撚り数がS170T/mの諸撚糸を作製した。この絶縁性繊維の繊度は2000dtexであった。本諸撚糸の撚り係数K=(300+252×2)1/2×732=20756であった。
上記の諸撚糸を、フッ化ビニリデン(VDF)と三フッ化エチレン(TrFE)の共重合体(以下、P(VDF/TrFE))ポリマー溶液に含侵させ乾燥させて被覆樹脂で固定されたセンシング繊維部材を作製した。P(VDF/TrFE)には、クレハ製KF-2ポリマーW2200P(VDF/TrFE)=75/25を用い、これを炭酸ジエチルに溶解して濃度6.9wt%、10.1wt%の溶液を調製した。溶液の濃度は、2本の芯鞘構造糸の隙間が埋まる程度の濃度であればよい。溶液は、液温を88℃~94℃の範囲内に保ち、一晩加熱攪拌した。この溶液を常温に戻し、上記の諸撚糸を浸漬し引き上げ、吊り下げた状態で80℃10時間、10hPa中で真空乾燥し、鞘糸の間に圧電体樹脂を含浸した状態で該鞘糸を該圧電体樹脂で被覆・固定した諸撚糸を作製した。こうして得た圧電体樹脂で固定した諸撚糸に荷重を印加した時の電流値の変化を図7に示す。
【0035】
[実施例2:鞘糸PLA+被覆樹脂PLA]
被覆樹脂をP(VDF/TrFE)に代えてPLAとした以外は、実施例1と同様に諸撚糸を作製した。ネイチャーワークス社製ポリ乳酸ペレットを無水テトラヒドロフランに溶解し濃度0.05wt%の溶液を調製した後、65℃で4時間程度加熱し溶解し、ポリ乳酸溶液を作製した。この溶液を常温に戻し、実施例1で既述のPLAカバーリング諸撚糸を浸漬して引き上げ、自然乾燥して、PLA樹脂で被覆した諸撚糸を作製した。こうして得た圧電体樹脂で固定した諸撚糸に荷重を印加した時の電流値の変化を図8に示す。
【0036】
[実施例3:鞘糸ポリエステル+被膜樹脂P(VDF/TrFE)]
鞘糸として、ポリエチレンテレフタレート(PET)252dtex/108フィラメントのウ-リー糸を用いた以外は、実施例1と同様にP(VDF/TrFE)で被覆した諸撚糸を作製した。こうして得た圧電体樹脂で固定した諸撚糸に荷重を印加した時の電流値の変化を図9に示す。
【0037】
[実施例4:鞘糸ポリエステル+被覆樹脂PLA]
鞘糸として、ポリエチレンテレフタレート(PET)252dtex/108フィラメントのウ-リー糸を用いた以外は、実施例2と同様に圧電体樹脂としてポリ乳酸で固定した諸撚糸を作製した。こうして得た圧電体樹脂で固定した諸撚糸に荷重を印加した時の電流値の変化を図10に示す。
【0038】
[実施例5:鞘糸ナイロン+被覆樹脂PLA]
鞘糸として、276dtex/96fのナイロンからなるマルチフィラメントを用いた以外は、実施例2と同様とした諸撚糸を作製した。こうして得た圧電体樹脂で固定した諸撚糸に荷重を印加した時の電流値の変化を図11に示す。
【0039】
[比較例:鞘糸ポリエステル+被覆樹脂オレフィン系樹脂]
実施例3で用いたポリエステル鞘糸の隙間を、圧電特性を示さないオレフィン系樹脂ZEOCOAT(登録商標)ES2110-10(日本ゼオン株式会社製)を用いて固定した諸撚糸を作製した。こうして得た樹脂で固定した諸撚糸に荷重を印加した時の電流値の変化を図12に示す。
【0040】
実施例1~5、比較例で作製したセンシング繊維部材の構成、圧電センシング特性を以下の表1に示す。
【表1】
【0041】
[実施例6:センシング布帛]
実施例3で得られた、センシング繊維部材を経糸の一部に配し、それ以外は経緯とも繊度84dtex、36フィラメントのポリエステル繊維を配し、通常の製織方法で、幅150cm、幅方向に両端とも2.5cm空けて、5cm間隔で30本のセンシング繊維部材が配された、平織からなるセンシング布帛を得た。本布帛について、繊維センシング部材が配された長さ1mの範囲で切り取り、30本全てのセンシング繊維部材についてランダムな3箇所ずつでセンシング特性を測定した結果、上記圧電センシング特性が全て◎評価であることを確認した。
【0042】
[実施例7:センシング繊維部材]
線状導電体として、ナイロン66繊維に銀めっきを施したマルチフィラメントからなる導電性繊維を用いた。ナイロン繊維の繊度が220dtex、銀めっき後の繊度が300dtex、フィラメント数が68本のものを線状導電体として用いた。
上記の線状導電体を芯糸として、鞘糸にポリ乳酸からなる繊維を用いてダブル芯鞘構造糸を作製した。カバーリング条件は、ネイチャーワークス社製ポリ乳酸繊維280dtex/48fマルチフィラメントを鞘糸に2ボビンを用いて1ボビンをS撚り、もう1ボビンをZ撚りにし、撚り数がSとZ732T/mのものを用いた。
本芯鞘構造糸1本ずつを諸撚りせずに実施例1記載の条件と同様にP(VDF/TrFE)樹脂に含侵させることにより、被覆樹脂が配された芯鞘構造糸を2本作製した。これらを互いに交差させ、交差した点において、2本被覆樹脂が配された芯鞘構造糸が互いに密着した状態となるよう配置した。本交差した点について、センシング特性を測定した結果、上記圧電センシング特性が全て◎評価であることを確認した。
【0043】
[実施例8:センシング布帛]
線状導電体として、ナイロン繊維の繊度が220dtex、銀めっき後の繊度が300dtex、フィラメント数が68本のものを用い、鞘糸として、ポリエチレンテレフタレート(PET)252dtex/108フィラメントのウ-リー糸を用いて芯鞘構造糸を作製した。カバーリング条件は、2ボビンを用いて1ボビンをS撚り、もう1ボビンをZ撚りにし、撚り数がSとZ732T/mのものを用いた。
こうして得た芯鞘構造糸を経糸及び緯糸の一部に配し、それ以外は経緯とも繊度78dtex、34フィラメントのナイロン繊維を配し、通常の製織方法で、幅150cm、経糸および緯糸に5cm間隔で3本ずつ、合計6本のセンシング繊維部材が配された、平織からなるセンシング布帛を得た。本布帛について、繊維センシング部材が配された長さ1mの範囲で切り取り、芯鞘構造糸同士の交点9箇所について、P(VDF/TrFE)樹脂を含侵させ、交点に配された2つの線状導電体同士の間をP(VDF/TrFE)樹脂で固定した。P(VDF/TrFE)溶液として、実施例1で述べたのと同様に、クレハ製KF-2ポリマーW2200P(VDF/TrFE)=75/25を、炭酸ジエチルで溶解した濃度6.9wt%溶液を用い、ディップコータを用いて芯鞘構造糸同士の交点に含侵させた。これを実施例1記載と同様の乾燥条件で乾燥させることにより、センシング布帛を作製した。本全ての交点な9箇所についてセンシング特性を測定した結果、上記圧電センシング特性が全て◎評価であることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係る接触センシング繊維部材は、長尺での加工が可能であり、量産性に優れ、織物や経編の経糸として使用可能であり、従来の圧電材料を用いた接触に対する接触センシング繊維部材(圧電糸)に比較して格段に低コストである。すなわち、本発明に係る接触センシング繊維部材は、従来技術の圧電糸におけるような圧電材料の特殊な配置を必要とせず(図1参照)、一般的な繊維材料であるポリエステル、ナイロン等の鞘糸を用いて、これを圧電体又は感圧材料である被覆樹脂で固定するだけで、荷重のセンシングが可能であるため、非常に低コストで接触センシング繊維を実現でき、また、ノウハウが確立している繊維加工技術である芯鞘複合糸の製造技術、例えば、カバーリング技術を用いるため、長尺での加工が可能であり、量産性に優れ、さらに、圧電糸に比較して、非常に風合い良い加工糸が実現できるため、織物や編物等の繊維部材への加工が容易となる。
本発明に係る接触センシング繊維部材は、静電容量だけでなく、抵抗値が変化するため、荷重を連続的に印加している状態を検知することができる。
したがって、本発明に係る接触センシング繊維部材及びセンシング布帛は、柔軟性や伸縮性のある繊維基材の上に電気的な機能素子を設けたスマートテキスタイル用途、例えば、踏んだら検知可能なラグ、人の出入り検知用防犯マット、人数カウント用マット等、脈拍や心拍などの生体信号のセンサ、接触センシング織編物、例えば、看護や介護等の現場での見守りセンサ、工場等の生産現場での触覚をデジタル化して伝達するセンサ、車両シートベルト等へのセンサ埋め込み用部材、例えば、車両用シートベルト、ハンドル、ダッシュボード等への接触センサ(生体センサ)の埋め込み、人の動きの検知センサ、見守りセンサ等の各種用途に広く利用可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 導電性繊維
2 圧電材料
3 導体
4 従来技術の圧電糸
5 芯糸としての線状導電体
6 鞘糸(圧電体又は絶縁体)
6’ 感圧材料である被覆樹脂
7 芯鞘構造糸
8 芯鞘構造糸を諸撚りした諸撚糸
9 芯糸
10 スピンドル
11 ボビン
12 フライヤ
13 フライヤキャップ
14 鞘糸
15 フライヤ足ガイド
16 フライヤ足ガイド
17 フライヤ足ガイド
18 フライヤ足ガイド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12