(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068497
(43)【公開日】2023-05-17
(54)【発明の名称】樹脂組成物、及び、電力ケーブル
(51)【国際特許分類】
C08L 23/08 20060101AFI20230510BHJP
C08L 31/04 20060101ALI20230510BHJP
C08L 9/02 20060101ALI20230510BHJP
C08K 3/06 20060101ALI20230510BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230510BHJP
H01B 9/02 20060101ALI20230510BHJP
H01B 1/24 20060101ALI20230510BHJP
【FI】
C08L23/08
C08L31/04 S
C08L9/02
C08K3/06
C08K3/04
H01B9/02 B
H01B1/24 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021179656
(22)【出願日】2021-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】村松 宏晃
【テーマコード(参考)】
4J002
5G301
【Fターム(参考)】
4J002AC07X
4J002BB06W
4J002BF03W
4J002DA037
4J002DA046
4J002FD117
4J002FD146
4J002GQ01
5G301DD04
(57)【要約】
【課題】外部半導電層の剥離性の向上と、電力ケーブルの生産性の向上と、を両立可能にするための外部半導電層用の樹脂組成物の提供。
【解決手段】樹脂組成物は、酢酸ビニルの含有量が20重量%以上40重量%以下であるエチレン酢酸ビニルを100重量部と、アクリロニトリルブタジエンゴムを5重量部以上30重量部以下と、架橋剤としての硫黄を0.01重量部以上1.0重量部以下と、導電性カーボンブラックを20重量部以上150重量部以下と、の重量比率で含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸ビニルの含有量が20重量%以上40重量%以下であるエチレン酢酸ビニルを100重量部と、
アクリロニトリルブタジエンゴムを5重量部以上30重量部以下と、
架橋剤としての硫黄を0.01重量部以上1.0重量部以下と、
導電性カーボンブラックを20重量部以上150重量部以下と、の重量比率で含む、
樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂組成物において、
エチレン酢酸ビニルにおける酢酸ビニルの含有量が20重量%以上33重量%以下である、
樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物において、
導電性カーボンブラックを20重量部以上70重量部以下の重量比率で含む、
樹脂組成物。
【請求項4】
導体芯線と、絶縁層と、半導電層と、を備える電力ケーブルであって、
前記絶縁層は、前記導体芯線の外周を取り囲むように配置され、
前記半導電層は、請求項1~請求項3の何れか一項に記載の樹脂組成物から構成され、前記絶縁層に密着し且つ前記絶縁層の外周を取り囲むように配置される、
電力ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン酢酸ビニルをベース樹脂として含む樹脂組成物と、その樹脂組成物から構成される半導電層を有する電力ケーブルと、に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、導体芯線を半導電層や絶縁層等で多層状に覆った構造を有する電力ケーブルが提案されている。例えば、従来の電力ケーブルの一つは、導体芯線を、内部半導電層、絶縁層、外部半導電層、電磁遮蔽層、及び、シース等でこの順に多層状に覆った構造を有している(例えば、特許文献1~3を参照)。なお、内部半導電層は、一般に、導体芯線と絶縁層との間に生じ得る微小な隙間を低減して、送電時にそのような微小な隙間に局所的なコロナ放電(いわゆる部分放電)が生じて絶縁層が損傷することを抑制する目的で、設けられている。外部半導電層についても同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-302856号公報
【特許文献2】特開2015-141877号公報
【特許文献3】特許第6347415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した従来の電力ケーブルを実際に使用する際、一般に、電力ケーブルの端部において外部半導電層及びその外側にある各層を絶縁層から剥離した上で、接続相手先への終端接続処理等を行うことになる。このような処理の作業性を向上する観点から、外部半導電層を絶縁層から容易に剥離可能であることが好ましい。
【0005】
絶縁層から外部半導電層を容易に剥離可能にする(以下、外部半導電層の「剥離性を向上する」ともいう。)には、例えば、外部半導電層を構成する樹脂の架橋の度合いを高めることが考えられる。一例として、上述した従来の電力ケーブル(特許文献3を参照)では、絶縁層を覆うように外部半導電層を押出成形した後、別途、外部半導電層を構成する樹脂の架橋の度合いを高めるため、所定の蒸気圧下での架橋工程を行っている。
【0006】
しかし、上述したような架橋の度合いを高めるための工程を電力ケーブルの製造工程に含めると、その工程に要する時間や処理の分だけ、電力ケーブルの生産性が損なわれることになる。このように、従来、外部半導電層の剥離性の向上と、電力ケーブルの生産性の向上と、を両立することは困難であった。
【0007】
本発明の目的の一つは、半導電層の剥離性の向上と、電力ケーブルの生産性の向上と、を両立可能にするための半導電層用の樹脂組成物、及び、その樹脂組成物を用いた電力ケーブル、の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するために、本発明に係る樹脂組成物は、以下を特徴としている。
【0009】
酢酸ビニルの含有量が20重量%以上40重量%以下であるエチレン酢酸ビニルを100重量部と、
アクリロニトリルブタジエンゴムを5重量部以上30重量部以下と、
架橋剤としての硫黄を0.01重量部以上1.0重量部以下と、
導電性カーボンブラックを20重量部以上150重量部以下と、の重量比率で含む、
樹脂組成物であること。
【0010】
更に、前述した目的を達成するために、本発明に係る電力ケーブルは、以下を特徴としている。
【0011】
導体芯線と、絶縁層と、半導電層と、を備える電力ケーブルであって、
前記絶縁層は、前記導体芯線の外周を取り囲むように配置され、
前記半導電層は、請求項1~請求項3の何れか一項に記載の樹脂組成物から構成され、前記絶縁層に密着し且つ前記絶縁層の外周を取り囲むように配置される、
電力ケーブルであること。
【発明の効果】
【0012】
発明者による実験及び考察によれば、電力ケーブルの絶縁層(例えば、架橋ポリエチレン製の樹脂層)に密着するように本発明に係る樹脂組成物を押出成形して半導電層を構成したとき、この半導電層が以下の特性を有する。第1に、エチレン酢酸ビニルにおける酢酸ビニルの含有量が20重量%以上40重量%以下であることで、絶縁層から半導電層を剥離するにあたり、剥離作業に適した適度な剥離性が得られる。第2に、エチレン酢酸ビニル100重量部に対するアクリロニトリルブタジエンゴムの重量比率が5重量部以上30重量部以下であり、且つ、エチレン酢酸ビニル100重量部に対する架橋剤としての硫黄の重量比率が0.01重量部以上1.0重量部以下であることで、アクリロニトリルブタジエンゴムの架橋の度合いが不十分であることにより剥離性が損なわれることを抑制しつつ、押出成形の際に良好な押出加工性を保つことができ、早期架橋によって半導電層の外観が損なわれることを抑制できる。第3に、エチレン酢酸ビニル100重量部に対する導電性カーボンブラックの重量比率が20重量部以上150重量部以下であることで、半導電層が適度な導電性を有しつつ、押出成形の際に良好な押出加工性を保つことができる。
【0013】
更に、発明者による実験及び考察によれば、本発明に係る樹脂組成物を押出成形すれば、押出成形機の内部等でアクリロニトリルブタジエンゴムが硫黄によって架橋されるとともに、全体として適度な架橋の度合いを有する半導電層が得られる。そのため、本発明に係る樹脂組成物を用いれば、上述した従来の電力ケーブルで採用されているような架橋の度合いを高めるための工程を、別途行う必要がない。
【0014】
したがって、本発明に係る樹脂組成物を用いて電力ケーブルの半導電層を構成することで、半導電層の剥離性の向上と、電力ケーブルの生産性の向上と、を両立することができる。換言すると、本発明に係る電力ケーブルは、半導電層の剥離性の向上と、電力ケーブルの生産性の向上と、を両立することができる。
【0015】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明に係る電力ケーブルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る樹脂組成物及び電力ケーブル1について説明する。
【0018】
<ケーブルの構成>
図1に示すように、本実施形態に係る電力ケーブル1は、導体芯線10と、導体芯線10に密着するとともに導体芯線10の外周を取り囲む内部半導電層11と、内部半導電層11に密着するとともに内部半導電層11の外周を取り囲む絶縁層12と、絶縁層12に密着するとともに絶縁層12の外周を取り囲む外部半導電層13と、外部半導電層13に密着するとともに外部半導電層13の外周を取り囲む遮蔽層14と、遮蔽層14を取り囲むシース15と、を備える。なお、外部半導電層13が本発明における「半導電層」に対応する。
【0019】
本例では、導体芯線10は、金属導体で構成されている。導体芯線10は、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、及び、アルミニウム合金で構成されてもよい。内部半導電層11は、導電性付与樹脂材料で構成されている。内部半導電層11は、例えば、ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体などのポリオレフィン系樹脂を基材として、この基材に導電性カーボンを添加した樹脂組成物で構成されてもよい。絶縁層12は、架橋ポリエチレンで構成されている。絶縁層12は、例えば、ジクミルパーオキシド等の有機過酸化物などの熱活性化架橋剤をポリエチレンに添加したもので構成されてもよい。外部半導電層13は、詳細は後述するように、エチレン酢酸ビニルをベース樹脂として含む樹脂組成物で構成されている。遮蔽層14は、遮蔽用金属テープで構成されている。遮蔽層14は、例えば、銅製のテープ等で構成されてもよい。
【0020】
電力ケーブル1の製造手順は、例えば、以下の通りである。まず、導体芯線10を覆うように、内部半導電層11、絶縁層12、及び、外部半導電層13をこの順に押出成形する。これら押出成形は、順次に行ってもよく、一括して行ってもよい。次いで、外部半導電層13の外周に、遮蔽層14を巻き付ける。その後、遮蔽層14を覆うようにシース15を押出成形することで、電力ケーブル1が得られる。
【0021】
外部半導電層13は、より詳細には、酢酸ビニル(VA)の含有量が20重量%以上40重量%以下であるエチレン酢酸ビニル(EVA)を100重量部と、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)を5重量部以上30重量部以下と、架橋剤としての硫黄を0.01重量部以上1.0重量部以下と、導電性カーボンブラックを20重量部以上150重量部以下と、の重量比率で含む樹脂組成物を、絶縁層12を取り囲むように押出成形することで構成されている。この押出成形は、押出成形機を用いて、樹脂組成物を加熱及び混練しながら、絶縁層12の外周を取り囲む筒形状の外部半導電層13を所定の押出トルクで押出口から押し出すように、行われる。この樹脂組成物を押出成形することで、押出成形機の内部等でアクリロニトリルブタジエンゴムが硫黄によって架橋(加硫)されるとともに、全体として適度な架橋の度合いを有する外部半導電層13が得られることになる。
【0022】
外部半導電層13を構成する樹脂組成物の組成と、樹脂組成物から得られる外部半導電層13の特性と、について、以下により詳細に説明する。
【0023】
エチレン酢酸ビニルにおける酢酸ビニルの含有量が20重量%以上であることで、外部半導電層13が絶縁層12に過度に密着することを抑制できる。一方、エチレン酢酸ビニルにおける酢酸ビニルの含有量が40重量%以下であることで、外部半導電層13が絶縁層12から過度に剥離しやすくなることを抑制できる。
【0024】
更に、アクリロニトリルブタジエンゴムの重量比率が5重量部以上であることで、外部半導電層13の全体としての架橋の度合いが過度に小さくなり、押出成形の際に及ぼされる加熱処理によって外部半導電層13の剥離性が過度に低くなることを抑制できる。一方、アクリロニトリルブタジエンゴムの重量比率が30重量部以下であることで、押出成形の際に良好な押出加工性を保つこと(即ち、押出トルクの過度な上昇を抑制すること)ができる。
【0025】
更に、架橋剤としての硫黄の重量比率が0.01重量部以上であることで、アクリロニトリルブタジエンゴムの架橋の度合いが過度に小さくなり、押出成形の際に及ぼされる加熱処理によって外部半導電層13の剥離性が過度に低くなることを抑制できる。一方、架橋剤としての硫黄の重量比率が1.0重量部以下であることで、外部半導電層13の外観が損なわれることが抑制される。
【0026】
更に、導電性カーボンブラックの重量比率が20重量部以上であることで、外部半導電層13が十分な導電性を有することになる。一方、導電性カーボンブラックの重量比率が150重量部以下であることで、押出成形の際に良好な押出加工性を保つことができる。
【0027】
なお、上述した樹脂組成物に含まれるエチレン酢酸ビニルは、絶縁層12からの剥離性を更に向上する観点から、酢酸ビニルの含有量が20重量%以上33重量%以下であることが更に好ましい。更に、上述した樹脂組成物は、外部半導電層13の導電性を更に向上し且つ押出成形の容易さを更に向上する観点から、導電性カーボンブラックを20重量部以上70重量部以下の重量比率で含むことが更に好ましい。
【0028】
なお、外部半導電層13を構成する樹脂組成物は、必要に応じて、加硫促進剤、滑剤、及び、酸化防止剤等を含有してもよい。
【0029】
<外部半導電層の特性の評価>
以下、外部半導電層13の絶縁層12からの剥離性、外部半導電層13の導電性、及び、外部半導電層13の外観の観点から、外部半導電層13の特性を評価する。具体的には、発明者は、下記表1~表4に示す組成を有する樹脂組成物(実施例1~10、及び、比較例1~25)の各々で構成した外部半導電層13を用いて、試験サンプルとしての電力ケーブル1のサンプルを製造し、上述した剥離性、導電性、及び、外観を評価した。なお、表1~表4の中の各組成を表す数値の単位は、重量部である。
【0030】
各サンプルにおいて、外部半導電層13の厚さは0.7mmである。更に、外部半導電層13の上述した特性を評価するという試験の性質上、各サンプルには、遮蔽層14及びシース15は設けていない。
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
表1~表4に示すエチレン酢酸ビニル(EVA)に関し、酢酸ビニル(VA)の含有量が32%であるEVAは、三井・ダウ ポリケミカル株式会社製のエバフレックス(登録商標)の品番V523であり、酢酸ビニル(VA)の含有量が20%であるEVAは、東ソー株式会社製のウルトラセン(登録商標)の品番684であり、酢酸ビニル(VA)の含有量が42%であるEVAは、東ソー株式会社製のウルトラセン(登録商標)の品番760であり、酢酸ビニル(VA)の含有量が19%であるEVAは、東ソー株式会社製のウルトラセン(登録商標)の品番636である。表1~表4に示すアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)は、日本ゼオン株式会社製のNipol(登録商標)の品番DN3380である。表1~表4に示す導電性カーボンブラックは、デンカ株式会社製のデンカブラック(登録商標)である。表1~表4に示す硫黄は、鶴見化学工業株式会社製のSULFAX(登録商標)200Sである。
【0036】
各サンプル(実施例1~10、及び、比較例1~25)について、絶縁層12の外周に押出成形された外部半導電層13の外観を、目視で観察した。外観の合否は、外部半導電層13の表面に凹凸、荒れ及び発泡があるか否かを確認し、凹凸等が無ければ合格(○)と判断し、凹凸等があれば不合格(×)と判断した。
【0037】
表1に示すように、実施例1~10の全ての外観が合格(○)であった。一方、表2~表4に示すように、比較例1~9,12~15,18~25の外観は合格(○)であり、比較例10,11,16,17の外観が不合格(×)であった。特に、実施例5と比較例10との比較、実施例6と比較例11との比較、実施例9と比較例16との比較、及び、実施例10と比較例17との比較から、硫黄の重量比率が1.0重量部以下であるとき、外部半導電層13の外観が良好であることが明らかになった。
【0038】
更に、各サンプル(実施例1~10、及び、比較例1~25)について、外部半導電層13を押出成形する際の押出加工性を評価した。押出加工性の合否は、外部半導電層13を押出成形する過程で、押出トルクに過度な上昇が無ければ合格(○)と判断し、押出トルクに過度な上昇があれば不合格(×)と判断した。
【0039】
表1に示すように、実施例1~10の全ての押出加工性が合格(○)であった。一方、表2~表4に示すように、比較例1~19の押出加工性は合格(○)であり、比較例20~25の押出加工性が不合格(×)であった。特に、実施例1,2と比較例20との比較、及び、実施例3,4と比較例21との比較から、導電性カーボンブラックの重量比率が150重量部以下であるとき、押出加工性が良好であることが明らかになった。
【0040】
更に、実施例1,3と比較例22との比較、実施例2,4と比較例23との比較、及び、実施例7,8と比較例24,25との比較から、NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)が30重量部以下であるとき、押出加工性が良好であることが明らかになった。
【0041】
更に、各サンプル(実施例1~10、及び、比較例1~25)について、外部半導電層13の導電性を、株式会社川口電機製作所製のデジタルオームメータR-506を用いて、4端子法で評価した。導電性の合否は、測定された抵抗値が1.0×104Ωcm以下であれば合格(○)と判断し、測定された抵抗値が1.0×104Ωcmよりも大きければ不合格(×)と判断した。
【0042】
表1に示すように、実施例1~10の全ての導電性が合格(○)であった。一方、表2~表4に示すように、比較例1~13,15~25の導電性は合格(○)であり、比較例14の導電性が不合格(×)であった。特に、実施例1と比較例14との比較から、導電性カーボンブラックの重量比率が20重量部以上であるときに、外部半導電層13の導電性が良好であることが明らかになった。
【0043】
更に、各サンプル(実施例1~10、及び、比較例1~25)について、常温での剥離性を評価した。常温での剥離性の合否は、外部半導電層13に12.7mm幅の帯状の剥離片(即ち、切り込み)を設け、引張試験機を用いてこの剥離片を速度500mm/分の速さで絶縁層12から剥離し、測定された剥離力が10N以上40N以下であれば合格(○)と判断し、測定された剥離力が10N未満又は40Nよりも大きければ不合格(×)と判断した。
【0044】
表1に示すように、実施例1~10の全ての常温での剥離性が合格(○)であった。一方、表2~表4に示すように、比較例9~25の剥離性は合格(○)であり、比較例1~8の剥離性は不合格(×)であった。特に、実施例7と比較例1との比較、実施例8と比較例2との比較、実施例5,9と比較例3との比較、及び、実施例6,10と比較例4との比較から、エチレン酢酸ビニルにおける酢酸ビニルの含有量が40重量%以下であるときに、外部半導電層13の常温での剥離性が良好であることが明らかになった。更に、実施例7と比較例5との比較、実施例8と比較例6との比較、実施例9と比較例7との比較、実施例10と比較例6との比較から、エチレン酢酸ビニルにおける酢酸ビニルの含有量が20重量%以上であるときに、外部半導電層13の常温での剥離性が良好であることが明らかになった。
【0045】
更に、各サンプル(実施例1~10、及び、比較例1~25)について、加熱後の剥離性を評価した。加熱後の剥離性の合否は、各サンプルを120℃の環境下で96時間にわたって加熱した後、50℃の環境下に1時間放置した上で、加熱後の剥離性を評価した。加熱後の剥離性の合否は、外部半導電層13に12.7mm幅の帯状の剥離片(即ち、切り込み)を設け、この剥離片を試験者が手で剥離可能であれば合格(○)と判断し、外部半導電層13が絶縁層12に融着している等の理由でこの剥離片を試験者が手で剥離不能であれば不合格(×)と判断した。
【0046】
表1に示すように、実施例1~10の全ての加熱後の剥離性が合格(○)であった。一方、表2~表4に示すように、比較例1~8,10,11,14,16,17,20~25の加熱後の剥離性は合格(○)であり、比較例9,12,13,15,18,19の加熱後の剥離性は不合格(×)であった。特に、実施例5と比較例12との比較、実施例5と比較例13との比較、実施例7と比較例9との比較、実施例7と比較例15との比較、実施例9と比較例18との比較、及び、実施例10と比較例19との比較から、アクリロニトリルブタジエンゴムの重量比率が5重量部以上であり、硫黄の重量比率が0.01重量部以上であるときに、外部半導電層13の加熱後の剥離性が良好であることが明らかになった。
【0047】
<作用・効果>
以上説明したように、本実施形態に係る電力ケーブル1では、外部半導電層13が、酢酸ビニルの含有量が20重量%以上40重量%以下であるエチレン酢酸ビニルを100重量部と、アクリロニトリルブタジエンゴムを5重量部以上30重量部以下と、架橋剤としての硫黄を0.01重量部以上1.0重量部以下と、導電性カーボンブラックを20重量部以上150重量部以下と、の重量比率で含む樹脂組成物で構成されている。
【0048】
これにより、第1に、エチレン酢酸ビニルにおける酢酸ビニルの含有量が20重量%以上40重量%以下であることで、絶縁層12から外部半導電層13を剥離するにあたり、剥離作業に適した適度な剥離性が得られる。第2に、エチレン酢酸ビニル100重量部に対するアクリロニトリルブタジエンゴムの重量比率が5重量部以上30重量部以下であり、且つ、エチレン酢酸ビニル100重量部に対する架橋剤としての硫黄の重量比率が0.01重量部以上1.0重量部以下であることで、アクリロニトリルブタジエンゴムの架橋の度合いが不十分であることにより剥離性が損なわれることを抑制しつつ、押出成形の際に良好な押出加工性を保つことができ、早期架橋によって外部半導電層13の外観が損なわれることを抑制できる。第3に、エチレン酢酸ビニル100重量部に対する導電性カーボンブラックの重量比率が20重量部以上150重量部以下であることで、外部半導電層13が適度な導電性を有しつつ、押出成形の際に良好な押出加工性を保つことができる。
【0049】
更に、上述した組成の樹脂組成物を押出成形すれば、押出成形機の内部等でアクリロニトリルブタジエンゴムが硫黄によって架橋されるとともに、全体として適度な架橋の度合いを有する外部半導電層13が得られる。そのため、上述した樹脂組成物を用いれば、上述した従来の電力ケーブルで採用されているような架橋の度合いを高めるための工程を、別途行う必要がない。
【0050】
したがって、上述した組成の樹脂組成物を用いて電力ケーブル1の外部半導電層13を構成することで、外部半導電層13の剥離性の向上と、電力ケーブル1の生産性の向上と、を両立することができる。換言すると、電力ケーブル1は、外部半導電層13の剥離性の向上と、電力ケーブル1の生産性の向上と、を両立することができる。
【0051】
<他の態様>
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0052】
ここで、上述した本発明に係る樹脂組成物、及び、電力ケーブル1の特徴をそれぞれ以下[1]~[4]に簡潔に纏めて列記する。
【0053】
[1]
酢酸ビニルの含有量が20重量%以上40重量%以下であるエチレン酢酸ビニルを100重量部と、
アクリロニトリルブタジエンゴムを5重量部以上30重量部以下と、
架橋剤としての硫黄を0.01重量部以上1.0重量部以下と、
導電性カーボンブラックを20重量部以上150重量部以下と、の重量比率で含む、
樹脂組成物。
【0054】
上記[1]の構成の樹脂組成物を押出成形して、電力ケーブルの絶縁層(例えば、架橋ポリエチレン製の樹脂層)に密着するように半導電層を構成したとき、この半導電層が以下の特性を有する。第1に、エチレン酢酸ビニルにおける酢酸ビニルの含有量が20重量%以上40重量%以下であることで、絶縁層から半導電層を剥離するにあたり、剥離作業に適した適度な剥離性が得られる。第2に、エチレン酢酸ビニル100重量部に対するアクリロニトリルブタジエンゴムの重量比率が5重量部以上30重量部以下であり、且つ、エチレン酢酸ビニル100重量部に対する架橋剤としての硫黄の重量比率が0.01重量部以上1.0重量部以下であることで、アクリロニトリルブタジエンゴムの架橋の度合いが不十分であることにより剥離性が損なわれることを抑制しつつ、押出成形の際に良好な押出加工性を保つことができ、早期架橋によって半導電層の外観が損なわれることを抑制できる。第3に、エチレン酢酸ビニル100重量部に対する導電性カーボンブラックの重量比率が20重量部以上150重量部以下であることで、半導電層が適度な導電性を有しつつ、押出成形の際に良好な押出加工性を保つことができる。
【0055】
更に、上述した樹脂組成物を押出成形すれば、押出成形機の内部等でアクリロニトリルブタジエンゴムが硫黄によって架橋されるとともに、全体として適度な架橋の度合いを有する半導電層が得られる。そのため、上述した従来の電力ケーブルで採用されているような架橋の度合いを高めるための工程を、別途行う必要がない。
【0056】
したがって、上述した樹脂組成物を用いて電力ケーブルの半導電層を構成することで、半導電層の剥離性の向上と、電力ケーブルの生産性の向上と、を両立することができる。
【0057】
[2]
上記[1]に記載の樹脂組成物において、
エチレン酢酸ビニルにおける酢酸ビニルの含有量が20重量%以上33重量%以下である、
樹脂組成物。
【0058】
上記[2]の構成の樹脂組成物を用いて半導電層を構成すれば、半導電層の絶縁層からの剥離性を更に向上することができる。
【0059】
[3]
上記[1]又は上記[2]に記載の樹脂組成物において、
導電性カーボンブラックを20重量部以上70重量部以下の重量比率で含む、
樹脂組成物。
【0060】
上記[3]の構成の樹脂組成物を用いて半導電層を構成すれば、半導電層の導電性を更に向上し且つ押出成形の容易さを更に向上することができる。
【0061】
[4]
導体芯線(10)と、絶縁層(12)と、半導電層(13)と、を備える電力ケーブル(1)であって、
前記絶縁層(12)は、前記導体芯線(10)の外周を取り囲むように配置され、
前記半導電層(13)は、上記[1]~上記[3]の何れか一つに記載の樹脂組成物から構成され、前記絶縁層(12)に密着し且つ前記絶縁層(12)の外周を取り囲むように配置される、
電力ケーブル(1)。
【0062】
上記[4]の構成の電力ケーブルによれば、上記[1]の構成の樹脂組成物の作用効果について上述したとおり、半導電層の剥離性の向上と、電力ケーブルの生産性の向上と、を両立することができる。なお、必要に応じ、絶縁層と、導体芯線と、の間に他の層(例えば、内部半導電層)が設けられてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 ケーブル(電力ケーブル)
10 導体芯線
11 内部半導電層
12 絶縁層
13 外部半導電層(半導電層)