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特開2023-68540無機固体電解質分散体及び無機固体電解質分散体の製造方法
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  • 特開-無機固体電解質分散体及び無機固体電解質分散体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068540
(43)【公開日】2023-05-17
(54)【発明の名称】無機固体電解質分散体及び無機固体電解質分散体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20230510BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230510BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230510BHJP
   C01G 25/00 20060101ALI20230510BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20230510BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/052
H01M10/0562
C01G25/00
H01B13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021179732
(22)【出願日】2021-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000132161
【氏名又は名称】株式会社スギノマシン
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100116159
【弁理士】
【氏名又は名称】玉城 信一
(72)【発明者】
【氏名】山田 侑矢
(72)【発明者】
【氏名】原島 謙一
(72)【発明者】
【氏名】田中 邦明
【テーマコード(参考)】
4G048
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AA04
4G048AC06
4G048AC08
4G048AD04
4G048AD06
5G301CA02
5G301CA05
5G301CA11
5G301CA12
5G301CA14
5G301CA15
5G301CA18
5G301CA19
5G301CA23
5G301CA25
5G301CA27
5G301CA28
5G301CD01
5H029AJ14
5H029AM11
5H029HJ01
5H029HJ05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】無機固体電解質分散体中の無機固体電解質が均一分散性を有し、かつ、長期分散保持性をも有する無機固体電解質分散体を提供する。
【解決手段】全固体電池の固体電解質に用いられる無機固体電解質粉末が溶媒中に分散してなる無機固体電解質分散体であって、レーザ回折式粒度分布測定法により測定される体積基準の粒度分布から得られる前記無機固体電解質粉末のメジアン径(D50)が6.5μm以下であり、前記メジアン径(D50)を基準としたときの標準偏差(σ50)が3.5μm以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全固体電池の固体電解質に用いられる無機固体電解質粉末が溶媒中に分散してなる無機固体電解質分散体であって、
レーザ回折式粒度分布測定法により測定される体積基準の粒度分布から得られる前記無機固体電解質粉末のメジアン径(D50)が6.5μm以下であり、前記メジアン径(D50)を基準としたときの標準偏差(σ50)が3.5μm以下である、無機固体電解質分散体。
【請求項2】
前記無機固体電解質分散体のうち、ジルコニアの含有量が23質量%以下である請求項1に記載の無機固体電解質分散体。
【請求項3】
湿式微粒化装置を用いて、請求項1又は2に記載の無機固体電解質分散体を製造する無機固体電解質分散体の製造方法。
【請求項4】
前記湿式微粒化装置のチャンバー及びノズルがセラミック製である請求項3に記載の無機固体電解質分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機固体電解質分散体及び無機固体電解質分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン電池等の電池(液体電解質材を用いた電池)は、正極材(Ni、Mn、Co、LiCoO等)と負極材(グラファイト等)をセパレータ(多孔質樹脂)で区切り、隙間に液状のバインダ(高分子材料)を介在させる構造になっている。これまで、正極材、負極材、セパレータ、バインダ自体の改良や、電池としてのパッケージ方法の改良等が鋭意研究されている。
【0003】
近年、そうした液体を前提とした液体電解質材に対して、液体のバインダ(電解質材)に代わり、無機固体電解質を用いることで、セパレータが不要で、電気を発生させるために正極材と負極材を往来する電荷の移動の自由度を高め、電流の出力効率を向上させる取り組みがなされている。正極材、負極材、無機固体電解質を用いた電池は、すべて固体で構成されることから全固体電池と言われる。全固体電池に用いられる無機固体電解質としては、酸化物系固体電解質と硫化物系固体電解質が検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1においては、無機固体電解質と酸変性セルロースナノファイバーとを組合せた固体電解質組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6714172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように固体電解質材料に種々の改良、改善を行い、電池特性の向上を目指す検討が多い中、全固体電池を製造する際の生産性を高めるための固体電解質材料についての検討はまだ多くはなされていない。
【0007】
例えば、電池特性の向上が期待される固体電解質材料であっても、これを電極材料等に塗布ための塗布液(無機固体電解質分散体)中で固体電解質材料の分散性が均一でなかったり、塗布液作製直後から塗布するまでの一定時間の保管で分散性が低下したりすると、全固体電池を製造する際の生産性を下げてしまうことがある。
【0008】
そこで、本発明では、無機固体電解質分散体中の無機固体電解質が均一分散性を有し、かつ、長期分散保持性をも有する無機固体電解質分散体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは下記本発明に想到し当該課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0010】
[1] 全固体電池の固体電解質に用いられる無機固体電解質粉末が溶媒中に分散してなる無機固体電解質分散体であって、レーザ回折式粒度分布測定法により測定される体積基準の粒度分布から得られる前記無機固体電解質粉末のメジアン径(D50)が6.5μm以下であり、前記メジアン径(D50)を基準としたときの標準偏差(σ50)が3.5μm以下である、無機固体電解質分散体。
[2] 前記無機固体電解質分散体のうち、ジルコニアの含有量が23質量%以下である[1]に記載の無機固体電解質分散体。
[3] 湿式微粒化装置を用いて、[1]又は[2]に記載の無機固体電解質分散体を製造する無機固体電解質分散体の製造方法。
[4] 前記湿式微粒化装置のチャンバー及びノズルがセラミック製である[3]に記載の無機固体電解質分散体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、無機固体電解質分散体中の無機固体電解質が均一分散性を有し、かつ、長期分散保持性をも有する無機固体電解質分散体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態の湿式微粒化装置の概略構成を示す模式図である。
図2】電子顕微鏡写真であり、(a)は未処理の無機固体電解質分散体(酸化物系)の電子顕微鏡写真であり、(b)は微粒化装置で50パス処理した無機固体電解質分散体(酸化物系)の電子顕微鏡写真である。
図3】沈殿状況を示す写真であり、(a)は未処理の無機固体電解質分散体(酸化物系)の沈殿状況を示す写真であり、(b)は微粒化装置で20パス処理し、48時間経過後の無機固体電解質分散体(酸化物系)の写真である。
図4】電子顕微鏡写真であり、(a)は未処理の無機固体電解質分散体(硫化物系)の電子顕微鏡写真であり、(b)は微粒化装置で20パス処理した場合の無機固体電解質分散体(硫化物系)の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(本実施形態)を説明する。
【0014】
[無機固体電解質分散体]
本実施形態に係る無機固体電解質分散体は、全固体電池の固体電解質材に用いられる無機固体電解質粉末が溶媒中に分散してなる。
【0015】
(無機固体電解質粉末)
本実施形態に係る無機固体電解質粉末における無機固体電解質とは、無機の固体電解質のことであり、固体電解質とは、その内部においてイオンを移動させることができる固体状の電解質をいう。主たるイオン伝導性材料として有機物を含むものではないため、有機固体電解質(ポリエチレンオキシド(PEO)等に代表される高分子電解質、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)などに代表される有機電解質塩)とは明確に区別される。また、無機固体電解質は定常状態では固体であるため、通常カチオン及びアニオンに解離又は遊離していない。この点で、電解液、又は、ポリマー中でカチオン及びアニオンが解離若しくは遊離している無機電解質塩(LiPF、LiBF、LiFSI、LiCl等)とも明確に区別される。無機固体電解質は周期表第一族若しくは第二族に属する金属のイオンの伝導性を有するものであれば特に限定されず電子伝導性を有さないものが一般的である。
【0016】
無機固体電解質粉末は、レーザ回折式粒度分布測定法により測定される体積基準の粒度分布から得られるメジアン径(D50)が6.5μm以下であり、5μm以下であることが好ましく、3.5μm以下μmであることがより好ましく、2.5μm以下μmであることがさらに好ましく、なかでも、2μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。また、実際的には、当該メジアン径(D50)は0.1μm以上となる。
【0017】
また、上記メジアン径(D50)を基準としたときの標準偏差(σ50)は3.5μm以下であり、2μm以下であることが好ましく、下限は実際的には0.1μm程度である。
標準偏差(σ50)が3.5μmを超えると、均一分散性が得られ難くなったり、長期分散保持性が低下しやすくなったりすることがある。
【0018】
無機固体電解質は、(i)酸化物系無機固体電解質と、(ii)硫化物系無機固体電解質とが代表例として挙げられ、高いイオン伝導度と粒子間界面接合の容易さの点では、硫化物系無機固体電解質が好ましい。また、低コストの点では、酸化物系固体電解質が好ましい。本実施形態に係る全固体電池が全固体リチウムイオン二次電池である場合、無機固体電解質はリチウムイオンのイオン伝導度を有することが好ましい。
【0019】
(i)酸化物系無機固体電解質
酸化物系無機固体電解質は、酸素原子(O)を含有し、かつ、周期表第一族若しくは第二族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。酸化物系無機固体電解質は、イオン伝導度として、1×10-6S/cm以上であることが好ましく、5×10-6S/cm以上であることがより好ましく、1×10-5S/cm以上であることが特に好ましい。上限は特に制限されないが、1×10-1S/cm以下であることが実際的である。
【0020】
具体的な化合物例としては、例えばLixaLayaTiO〔xa=0.3~0.7、ya=0.3~0.7〕(LLT)、LixbLaybZrzbMbbmbnb(MbbはAl、Mg、Ca、Sr、V、Nb、Ta、Ti、Ge、In、Snの少なくとも1種以上の元素でありxbは5≦xb≦10を満たし、ybは1≦yb≦4を満たし、zbは1≦zb≦4を満たし、mbは0≦mb≦2を満たし、nbは5≦nb≦20を満たす。)、LixcycMcczcnc(MccはC、S、Al、Si、Ga、Ge、In、Snの少なくとも1種以上の元素でありxcは0<xc≦5を満たし、ycは0<yc≦1を満たし、zcは0<zc≦1を満たし、ncは0<nc≦6を満たす。)、Lixd(Al,Ga)yd(Ti,Ge)zdSiadmdnd(ただし、1≦xd≦3、0≦yd≦1、0≦zd≦2、0≦ad≦1、1≦md≦7、3≦nd≦13)、Li(3-2xe)MeexeDeeO(xeは0以上0.1以下の数を表し、Meeは2価の金属原子を表す。Deeはハロゲン原子又は2種以上のハロゲン原子の組み合わせを表す。)、LixfSiyfzf(1≦xf≦5、0<yf≦3、1≦zf≦10)、Lixgygzg(1≦xg≦3、0<yg≦2、1≦zg≦10)、LiBO-LiSO、LiO-B-P、LiO-SiO、LiBaLaTa12、LiPO(4-3/2w)(wはw<1)、LISICON(Lithiumsuperionicconductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO、ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.55Li0.35TiO、NASICON(Natriumsuperionicconductor)型結晶構造を有するLiTi12、Li1+xh+yh(Al,Ga)xh(Ti,Ge)2-xhSiyh3-yh12(ただし、0≦xh≦1、0≦yh≦1)、ガーネット型結晶構造を有するLiLaZr12(LLZ)、Li6.25LaZrAl0.2512(LLZO)等が挙げられる。またLi、P及びOを含むリン化合物も望ましい。例えばリン酸リチウム(LiPO)、リン酸リチウムの酸素の一部を窒素で置換したLiPON、LiPOD1(D1は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Ta、W、Pt、Au等から選ばれた少なくとも1種)等が挙げられる。また、LiA1ON(A1は、Si、B、Ge、Al、C、Ga等から選ばれた少なくとも1種)等も好ましく用いることができる。
【0021】
(ii)硫化物系無機固体電解質
硫化物系無機固体電解質は、硫黄原子(S)を含有し、かつ、周期表第一族若しくは第二族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。硫化物系無機固体電解質は、元素として少なくともLi、S及びPを含有し、リチウムイオン伝導性を有しているものが好ましいが、目的又は場合に応じて、Li、S及びP以外の他の元素を含んでもよい。
【0022】
硫化物系無機固体電解質としては、例えば、下記式(1)で示される組成を満たすリチウムイオン伝導性硫化物系無機固体電解質が挙げられる。
【0023】
a1b1c1d1e1・・・式(1)
式中、LはLi、Na及びKから選択される元素を示し、Liが好ましい。Mは、B、Zn、Sn、Si、Cu、Ga、Sb、Al及びGeから選択される元素を示す。Aは、I、Br、Cl及びFから選択される元素を示す。a1~e1は各元素の組成比を示し、a1:b1:c1:d1:e1は1~12:0~5:1:2~12:0~10を満たす。a1は1~9が好ましく、1.5~7.5がより好ましい。b1は0~3が好ましく、0~1がより好ましい。d1は2.5~10が好ましく、3.0~8.5がより好ましい。e1は0~5が好ましく、0~3がより好ましい。
【0024】
各元素の組成比は、下記のように、硫化物系無機固体電解質を製造する際の原料化合物の配合比を調整することにより制御できる。
【0025】
硫化物系無機固体電解質は、非結晶(ガラス)であっても結晶化(ガラスセラミックス化)していてもよく、一部のみが結晶化していてもよい。例えば、Li、P及びSを含有するLi-P-S系ガラス、又はLi、P及びSを含有するLi-P-S系ガラスセラミックスを用いることができる。
硫化物系無機固体電解質は、例えば硫化リチウム(LiS)、硫化リン(例えば五硫化二燐(P))、単体燐、単体硫黄、硫化ナトリウム、硫化水素、ハロゲン化リチウム(例えばLiI、LiBr、LiCl)及び上記Mであらわされる元素の硫化物(例えばSiS、SnS、GeS)の中の少なくとも2つ以上の原料の反応により製造することができる。
【0026】
Li-P-S系ガラス及びLi-P-S系ガラスセラミックスにおける、LiSとPとの比率は、LiS:Pのモル比で、好ましくは60:40~90:10、より好ましくは68:32~78:22である。LiSとPとの比率をこの範囲にすることにより、リチウムイオン伝導度を高いものとすることができる。具体的には、リチウムイオン伝導度を好ましくは1×10-4S/cm以上、より好ましくは1×10-3S/cm以上とすることができる。上限は特にないが、1×10-1S/cm以下であることが実際的である。
【0027】
具体的な硫化物系無機固体電解質の例として、原料の組み合わせ例を下記に示す。例えば、LiS-P、LiS-P-LiCl、LiS-P-HS、LiS-P-HS-LiCl、LiS-LiI-P、LiS-LiI-LiO-P、LiS-LiBr-P、LiS-LiO-P、LiS-LiPO-P、LiS-P-P、LiS-P-SiS、LiS-P-SiS-LiCl、LiS-P-SnS、LiS-P-Al、LiS-GeS、LiS-GeS-ZnS、LiS-Ga、LiS-GeS-Ga、LiS-GeS-P、LiS-GeS-Sb、LiS-GeS-Al、LiS-SiS、LiS-Al、LiS-SiS-Al、LiS-SiS-P、LiS-SiS-P-LiI、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiSiO、LiS-SiS-LiPO、Li10GeP12、Li10SnP12などが挙げられる。ただし、各原料の混合比は問わない。このような原料組成物を用いて硫化物系無機固体電解質料を合成する方法としては、例えば非晶質化法を挙げることができる。非晶質化法としては、例えば、メカニカルミリング法、溶液法及び溶融急冷法を挙げられる。常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。
【0028】
(溶媒)
無機固体電解質材分散体における無機固体電解質粉末は溶媒中に分散してなる。当該溶媒は、非水分散媒を含有することが好ましい。無機固体電解質材分散体が非水分散媒を含有すると、無機固体電解質粒子の分解、劣化を防止できたり、粒子の表面酸化を抑えたりすることができる。また、無機固体電解質粒子とともにバイオマスナノファイバーを混合する際に、これらが均一に混合されやすくなる。
【0029】
本実施形態において、無機固体電解質材分散体のおける溶媒が非水分散媒を含有するとは、当該溶媒が非水分散媒のみを含有する(水分散媒を含有しない)形態に加えて、水分散媒を含有する形態を包含する。ただし、水分散媒を含有する形態において、溶媒中の含水量は50ppmを越えることはない。
【0030】
非水分散媒とは、通常、水以外の非水分散媒をいい、溶媒中の含水量は50ppm以下であれば水を含有した非水分散媒(水と非水分散媒との混合分散物)を包含する意味である。
【0031】
このような非水分散媒としては、無機固体電解質材分散体に含まれる各成分を分散させるものであればよく、例えば、各種の有機溶媒が挙げられる。非水分散媒として使用できる有機溶媒としては、アルコール化合物溶媒、エーテル化合物溶媒、アミド化合物溶媒、アミノ化合物溶媒、ケトン化合物溶媒、芳香族化合物溶媒、脂肪族化合物溶媒、ニトリル化合物溶媒、エステル化合物溶媒等が挙げられる。中でも、アミド化合物溶媒、炭化水素化合物溶媒(芳香族化合物溶媒及び脂肪族化合物溶媒)、エーテル化合物溶媒、ケトン化合物溶媒、エステル化合物溶媒が好ましい。
【0032】
アルコール化合物溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、1-プロピルアルコール、2-プロピルアルコール、2-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオールが挙げられる。
【0033】
エーテル化合物溶媒としては、アルキレングリコール(トリエチレングリコール等)、アルキレングリコールモノアルキルエーテル(エチレングリコールモノメチルエーテル等)、アルキレングリコールジアルキルエーテル(エチレングリコールジメチルエーテル等)、ジアルキルエーテル(ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等)、環状エーテル(テトラヒドロフラン、ジオキサン(1,2-、1,3-及び1,4-の各異性体を含む)等)が挙げられる。
【0034】
アミド化合物溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、2-ピロリジノン、ε-カプロラクタム、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルプロパンアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミドなどが挙げられる。
【0035】
アミノ化合物溶媒としては、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミンなどが挙げられる。
ケトン化合物溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、ジプロピルケトン、ジブチルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、イソブチルプロピルケトン、sec-ブチルプロピルケトン、ペンチルプロピルケトン、ブチルプロピルケトンなどが挙げられる。
【0036】
芳香族化合物溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
脂肪族化合物溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、シクロオクタン、パラフィン、ガソリン、ナフサ、灯油、軽油などが挙げられる。
ニトリル化合物溶媒としては、例えば、アセトニトリル、プロピロニトリル、イソブチロニトリルなどが挙げられる。
エステル化合物溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酪酸プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸ブチル、酪酸イソブチル、ペンタン酸ブチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸プロピル、イソ酪酸イソプロピル、イソ酪酸イソブチル、ピバル酸プロピル、ピバル酸イソプロピル、ピバル酸ブチル、ピバル酸イソブチルなどが挙げられる。
【0037】
溶媒に含有される非水分散媒は、1種であっても、2種以上であってもよく、2種以上であることが好ましい。
溶媒が2種以上の非水分散媒を含有する場合、炭化水素化合物溶媒、エーテル化合物溶媒、ケトン化合物溶媒及びエステル化合物溶媒からなる群から選択される2種以上の非水分散媒の組み合わせが好ましい。
【0038】
無機固体電解質材分散体中の無機固体電解質粉末の含有量は、生産性を考慮すると、1~20質量%であることが好ましく、1~15質量%がより好ましく、1~10質量%がさらに好ましい。
【0039】
また、無機固体電解質材分散体には、バイオマスナノファイバーを添加することもできる。バイオマスナノファイバーとしては、セルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、キトサンナノファイバー、シルクナノファイバー等である。バイオマスナノファイバーの平均繊維径は、10~100nmであることが好ましく、10~40nmであることがより好ましく、10~25nmであることがさらに好ましい。バイオマスナノファイバーの平均長さは、0.5~100μmであることが好ましく、1~30μmであることがより好ましい。
【0040】
[無機固体電解質分散体の製造方法]
本実施形態に係る無機固体電解質分散体の製造方法は、湿式微粒化装置を用いて、既述の本発明の無機固体電解質水分散体を製造する方法である。
【0041】
(湿式微粒化装置)
図1は、本実施形態にて使用される湿式微粒化装置の概略構成を示す模式図である。
当該湿式微粒化装置1は、図1に示すように、原料タンク2と、給液ポンプ3と、増圧機4と、高圧フィルタ5と、チャンバー6と、熱交換器7とを有する。原料タンク2は、スラリー状の無機固体電解質粉末を貯留する。給液ポンプ3は、原料タンク2の無機固体電解質粉末を増圧機4に供給する。増圧機4は、給液ポンプ3から供給された無機固体電解質粉末を加圧する。高圧フィルタ5は、加圧された無機固体電解質粉末の粗大粒子をフィルタ処理する。チャンバー6は、無機固体電解質粉末をノズル(不図示)から噴射圧力100~245MPa、噴射速度440~700m/sで高圧噴射することで、微粒化処理を行う。
【0042】
また、無機固体電解質粉末を処理するための湿式微粒化装置1には、通常の原料を処理する場合よりも高い密閉性が求められる。酸化物系固体電解質材分散体を処理する場合等、無機固体電解質粉末を酸化させないように、密閉性が求められる。さらに、硫化物系固体電解質分散体を処理する場合等、無機固体電解質粉末(酸化物系)が湿気または水分と反応することで毒性の高い気体が発生したとしても外部に放出しないように、密閉性が求められる。また、無機固体電解質粉末(硫化物系)を処理する場合等、内部の気体管理が必要なケースもある。そのため、湿式微粒化装置1には、密閉性を確保しながら、内部の気体を循環させる構造が求められる。
【0043】
本実施形態の湿式微粒化装置1は、グローブボックス等で湿式微粒化装置1を覆うことによって、気閉性が確保される。さらに、湿式微粒化装置1は、不活性ガス供給部8aと、ガス循環精製部9とを備えることが可能でこれにより、グローブボックス内の気体の安全性を確保することもできる。不活性ガス等の通気や量を調整するための酸素濃度計14と水分濃度計15が設けられていてもよい。
【0044】
さらに、チャンバー6およびノズル(不図示)は、従来のステンレス等の金属製ではなく、セラミック製のものを使用することが好ましい。これにより、ステンレス等の金属と較べて、摩耗性や耐溶剤性の優れており、コンタミを極小化できる。その結果、無機固体電解質材分散体のうち、ジルコニアの含有量が23質量%以下である分散体が得られる。
なお、チャンバー6としては、ノズルからボールに向けて無機固体電解質粉末を衝突させることで微粒化する方式や、2つ以上のノズルから無機固体電解質粉末同士を衝突させることで微粒化する方式を用いることができる。
【0045】
(湿式微粒化装置を用いた無機固体電解質分散体の製造方法)
湿式微粒化装置を用いた無機固体電解質分散体の製造方法の詳細を以下に説明する。
【0046】
グローブボックス等で仕切られた湿式微粒化装置1内において、原料タンク2に無機固体電解質粉末及び溶媒を混合して投入する。
次に、原料タンク2の無機固体電解質粉末は、給液ポンプ3を介して、増圧機4の増圧室に供給される。供給された無機固体電解質粉末は、増圧機4によって加圧される。加圧された無機固体電解質粉末は、高圧フィルタ5を通った後、チャンバー6に供給され、噴射される。なお、微粒化処理を必要な回数、例えば1~50回程度、好ましくは1~40回程度、より好ましくは1~30回程度、さらに好ましくは1~20回程度、特に好ましくは1~10回程度繰り返すこともできる。
【0047】
[全固体電池の製造方法]
本実施形態の無機固体電解質分散体を用いた全固体電池の製造方法は、無機固体電解質分散体を用いた固体電解質含有層を形成する工程を有する限り、特に限定されない。固体電解質含有層は、例えば、当該分散体を基材に塗工して塗工層を形成した後、乾燥して形成することができる。
【0048】
ここで、本実施形態の無機固体電解質分散体は当該分散体中の無機固体電解質粒子が均一分散性を有するため塗工の際に無機固体電解質粒子の濃度の偏りが生じにくい。また、長期分散保持性をも有するため、当該分散体作製後、塗工までにある程度の時間が経過しても再分散処理が不要である。その結果、全固体電池を製造する際の生産性を向上させることができる。
【0049】
塗工に用いられる基材としては、例えば、集電体及び転写シートが挙げられる。転写シートとしては、例えば、フッ素系樹脂シート等の樹脂シートおよび金属シートが挙げられる。塗工方法としては、例えば、ドクターブレード法、ダイコート法、グラビアコート法、スプレー塗工法、静電塗工法、バー塗工法等の一般的な方法が挙げられる。
【0050】
乾燥温度は、例えば40℃以上であり、60~220℃であることが好ましい。塗工層の乾燥方法としては、例えば、温風・熱風乾燥、赤外線乾燥、減圧乾燥、誘電加熱乾燥等の一般的な方法が挙げられる。乾燥雰囲気としては、例えば、Arガス雰囲気及び窒素ガス雰囲気等の不活性ガス雰囲気が挙げられる。また、乾燥は、大気圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。
【実施例0051】
(実験例A:比較例1,2、実施例1~5)
溶媒である有機溶剤(Nメチル2ピロリドン)に、無機固体電解質粒子(酸化物系)であるLLZO(Li6.25LaZrAl0.2512)を濃度5質量%となるように混合して、50mlの混合液とした。この混合液を、湿式微粒化装置(株式会社スギノマシン社製、装置名「スターバースト」、ただし、チャンバー及びノズルをセラミック製(ジルコニア製)とした)を用い、圧力200MPa、ノズル0.12mmで、パス回数を表1に示す回数で湿式微粒化処理を行い、無機固体電解質水分散体を作製した。また、比較のために湿式微粒化処理をしない混合液(パス回数:0)も作製しておいた。
【0052】
次に、各分散体及び混合液の粒度分布をそれぞれ計測し、メジアン径(D50)及びその標準偏差(σ50)を求めた。測定機器として、株式会社堀場製作所製のレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置「LA-960」を用いた。結果を表1に示す。
また、湿式微粒化処理直後の各分散体と混合液における無機固体電解質粒子の分散状態(均一分散性)を観察した。さらに、湿式微粒化処理後から48時間経過後の分散状態(長期分散保持性)も観察した。結果を表1に示す。
なお、各観察の評価指標は下記のとおりとした。
・均一分散性及び長期分散保持性
A:無機固体電解質粒子が分散していて、全体的に白濁した状態
B:中央部は無機固体電解質粒子が分散して白濁しているが、上部が少し透明になっているか、底部に少し固形分が溜まっていて、Aよりは良好に分散していない状態
C:無機固体電解質粒子が分散している層と分散していない透明な層に分離しており、Bよりも良好に分散していない状態
【0053】
【表1】
【0054】
ここで、湿式微粒化処理をしない混合液(比較例1)と、湿式微粒化処理で50パス処理した無機固体電解質分散体(実施例5)の電子顕微鏡写真を撮影した(両者は同一倍率とした)。電子顕微鏡としては、株式会社日立製作所製の電子顕微鏡「S-2380N」を用いた。
比較例1の顕微鏡写真では、図2(a)に示すとおり、粗大粒子が部分的に凝集していた。実施例5の顕微鏡写真では、図2(b)に示すとおり、均一に微細な粒子が分散していた。
【0055】
また、図3に示すように、比較例1の分散状態を示す写真(図3(a))及び実施例2で48時間経過後の分散状態を示す写真(図3(b))からもわかるように、実施例2では、48時間経過後も分散性を維持できていることがわかった。
【0056】
(実験例B:比較例3、実施例6~10)
湿式微粒化処理における圧力を220Paとした以外は実験例Aと同様にして無機固体電解質水分散体を作製した。作製した各無機固体電解質水分散体について、実験例Aと同様にして粒度分布をそれぞれ計測し、メジアン径(D50)及びその標準偏差(σ50)を求めた。また、均一分散性及び長期分散保持性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
(実験例C:比較例4,5、実施例11~15)
溶媒である有機溶剤(酪酸ブチル)に、無機固体電解質粒子(硫化物系)であるLSPS(Li10SnP12)を濃度5質量%となるように混合して、20mlの混合液とした。この混合液を、湿式微粒化装置(株式会社スギノマシン社製、装置名「スターバースト」)を用い、圧力200MPa、ノズル0.12mmで、パス回数を表3に示す回数で湿式微粒化処理を行い、無機固体電解質水分散体を作製した。また、比較のために湿式微粒化処理をしない混合液(パス回数:0)も作製しておいた。
【0059】
混合液及び作製した各無機固体電解質水分散体について、実験例Aと同様にして粒度分布をそれぞれ計測し、メジアン径(D50)及びその標準偏差(σ50)を求めた。また、均一分散性及び長期分散保持性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0060】
【表3】
【0061】
ここで、湿式微粒化処理をしない混合液(比較例3)と、湿式微粒化処理で20パス処理した無機固体電解質分散体(実施例12)の電子顕微鏡写真を撮影した(両者は同一倍率とした)。電子顕微鏡としては、株式会社日立製作所製の電子顕微鏡「S-2380N」を用いた。
比較例3の顕微鏡写真では、図4(a)に示すとおり、粗大粒子が部分的に凝集していた。実施例5の顕微鏡写真では、図4(b)に示すとおり、均一に微細な粒子が分散していた。
【0062】
以上から、本実施例の無機固体電解質分散体は、非凝集性(均一分散)、分散保持力の点で性能が向上していることがわかる。
【0063】
(無機固体電解質分散体のコンタミ量の検証)
湿式微粒化装置は、セラミック製(ジルコニア製)のチャンバーとノズルを採用しており、処理前と処理後のジルコニア成分(Zr)の量を検証した。
実施例5の無機固体電解質分散体及び比較例1の混合液について、誘導結合プラズマ発光分光分析装置を用いて、セラミック成分(Zr)の量を計測した。
なお、誘導結合プラズマ発光分光分析装置としては、Algilent製のICP-OES 5110型を用いた。
その結果、比較例1の混合液のジルコニア量が20質量%であったのに対して、実施例5のジルコニア量は23質量%であった。測定の誤差を考慮すれば、これらのジルコニア量から、コンタミの極小化を達成できていることがわかる。
【0064】
以上、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0065】
1 湿式微粒化装置
2 原料タンク
3 給液ポンプ
4 増圧機
5 高圧フィルタ
6 チャンバー
7 熱交換器
8 不活性ガス供給源
9 ガス循環精製部
14 酸素濃度計
15 水分濃度計



図1
図2
図3
図4