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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068545
(43)【公開日】2023-05-17
(54)【発明の名称】粒状肥料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C05G 5/12 20200101AFI20230510BHJP
【FI】
C05G5/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021179739
(22)【出願日】2021-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000206439
【氏名又は名称】大川原化工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】中山 真志
(72)【発明者】
【氏名】田中 貴將
【テーマコード(参考)】
4H061
【Fターム(参考)】
4H061AA01
4H061AA02
4H061BB15
4H061DD01
4H061EE44
4H061EE45
4H061EE61
4H061EE62
4H061EE63
4H061FF08
4H061GG26
4H061GG41
4H061LL13
4H061LL15
(57)【要約】
【課題】尿素等の水溶性肥料の溶出抑制効果に優れる粒状肥料を提供する。
【解決手段】実施形態に係る粒状肥料は、(A)1質量%水溶液とした場合の粘度が25mPa・s以上1000mPa・s以下であるアルギン酸および/またはその塩と、(B)水溶性肥料と、(C)無機粉体と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1質量%水溶液とした場合の粘度が25mPa・s以上1000mPa・s以下であるアルギン酸および/またはその塩、(B)水溶性肥料、ならびに(C)無機粉体、を含む粒状肥料。
【請求項2】
(D)カルボキシメチルセルロースおよび/またはその塩、ならびに(E)澱粉、をさらに含む、請求項1に記載の粒状肥料。
【請求項3】
前記カルボキシメチルセルロースおよび/またはその塩は、1質量%水溶液とした場合の粘度が500mPa・s以下である、請求項2に記載の粒状肥料。
【請求項4】
前記粒状肥料に対する前記カルボキシメチルセルロースおよび/またはその塩の比率が0.1質量%以上10質量%以下である、請求項2または3に記載の粒状肥料。
【請求項5】
前記澱粉100質量部に対する前記カルボキシメチルセルロースおよび/またはその塩の量が100質量部以上2000質量部以下である、請求項2~4のいずれか1項に記載の粒状肥料。
【請求項6】
前記アルギン酸および/またはその塩100質量部に対する前記カルボキシメチルセルロースおよび/またはその塩の量が100質量部以下である、請求項2~5のいずれか1項に記載の粒状肥料。
【請求項7】
前記無機粉体が、ゼオライトおよびベントナイトから選択される1種以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の粒状肥料。
【請求項8】
前記無機粉体のふるい粒度が300μm以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の粒状肥料。
【請求項9】
前記水溶性肥料および前記無機粉体とともに前記アルギン酸および/またはその塩としてアルギン酸多価金属塩を含む、ゲルからなる粒状体を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の粒状肥料。
【請求項10】
前記水溶性肥料および前記無機粉体とともに前記アルギン酸および/またはその塩としてアルギン酸多価金属塩を含む、ゲルからなる粒状体と、
アルギン酸多価金属塩を含む被膜であって前記粒状体を被覆する2層以上の被膜と、を含む請求項1~9のいずれか1項に記載の粒状肥料。
【請求項11】
1質量%水溶液とした場合の粘度が25mPa・s以上1000mPa・s以下である水溶性のアルギン酸塩と、水溶性肥料と、無機粉体と、水を含む混合液を調製すること、および、
前記混合液を、多価金属イオンを用いてゲル化させて粒状体を得ること、
を含む、粒状肥料の製造方法。
【請求項12】
1質量%水溶液とした場合の粘度が25mPa・s以上1000mPa・s以下である水溶性のアルギン酸塩と、無機粉体と、水を含む混合液を調製すること、
前記混合液を、多価金属イオンを用いてゲル化させて粒状のゲルを得ること、および、
水溶性肥料の水溶液を前記ゲルに含浸させて、前記水溶性肥料を含む粒状体を得ること、
を含む、粒状肥料の製造方法。
【請求項13】
前記混合液が、さらにカルボキシメチルセルロースおよび/またはその塩、ならびに澱粉を含む、請求項11または12に記載の粒状肥料の製造方法。
【請求項14】
1質量%水溶液とした場合の粘度が25mPa・s以上1000mPa・s以下であるアルギン酸塩の水溶液を前記粒状体の表面に付与し、次いで多価金属イオンを用いて前記水溶液をゲル化させて被膜を形成することを複数回実施して、2層以上の被膜を形成することを、さらに含む、請求項11~13のいずれか1項に記載の粒状肥料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒状肥料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肥料に対するコスト低減の要求は高く、安価で窒素成分含有率の高い尿素への期待が高まっている。尿素等の水溶性肥料を含む粒状肥料として、例えば、特許文献1には、粒状尿素の表面をタルクで被覆した被覆粒状尿素や、熱可塑性樹脂等の樹脂で尿素を被覆してなる粒状の樹脂被覆肥料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-7167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
肥料の持続性を高めて農作業の省力化を図るためには、粒状肥料からの尿素等の水溶性肥料の溶出をコントロールすることが求められる。
【0005】
本発明の実施形態は、水溶性肥料の溶出抑制効果に優れる粒状肥料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] (A)1質量%水溶液とした場合の粘度が25mPa・s以上1000mPa・s以下であるアルギン酸および/またはその塩、(B)水溶性肥料、ならびに(C)無機粉体、を含む粒状肥料。
[2] (D)カルボキシメチルセルロースおよび/またはその塩、ならびに(E)澱粉、をさらに含む、[1]に記載の粒状肥料。
[3] 前記カルボキシメチルセルロースおよび/またはその塩は、1質量%水溶液とした場合の粘度が500mPa・s以下である、[2]に記載の粒状肥料。
[4] 前記粒状肥料に対する前記カルボキシメチルセルロースおよび/またはその塩の比率が0.1質量%以上10質量%以下である、[2]または[3]に記載の粒状肥料。
[5] 前記澱粉100質量部に対する前記カルボキシメチルセルロースおよび/またはその塩の量が100質量部以上2000質量部以下である、[2]~[4]のいずれか1項に記載の粒状肥料。
[6] 前記アルギン酸および/またはその塩100質量部に対する前記カルボキシメチルセルロースおよび/またはその塩の量が100質量部以下である、[2]~[5]のいずれか1項に記載の粒状肥料。
[7] 前記無機粉体が、ゼオライトおよびベントナイトから選択される1種以上である、[1]~[6]のいずれか1項に記載の粒状肥料。
[8] 前記無機粉体のふるい粒度が300μm以下である、[1]~[7]のいずれか1項に記載の粒状肥料。
[9] 前記水溶性肥料および前記無機粉体とともに前記アルギン酸および/またはその塩としてアルギン酸多価金属塩を含む、ゲルからなる粒状体を含む、[1]~[8]のいずれか1項に記載の粒状肥料。
[10] 前記水溶性肥料および前記無機粉体とともに前記アルギン酸および/またはその塩としてアルギン酸多価金属塩を含む、ゲルからなる粒状体と、アルギン酸多価金属塩を含む被膜であって前記粒状体を被覆する2層以上の被膜と、を含む[1]~[9]のいずれか1項に記載の粒状肥料。
【0007】
[11] 1質量%水溶液とした場合の粘度が25mPa・s以上1000mPa・s以下である水溶性のアルギン酸塩と、水溶性肥料と、無機粉体と、水を含む混合液を調製すること、および、前記混合液を、多価金属イオンを用いてゲル化させて粒状体を得ること、を含む、粒状肥料の製造方法。
[12] 1質量%水溶液とした場合の粘度が25mPa・s以上1000mPa・s以下である水溶性のアルギン酸塩と、無機粉体と、水を含む混合液を調製すること、前記混合液を、多価金属イオンを用いてゲル化させて粒状のゲルを得ること、および、水溶性肥料の水溶液を前記ゲルに含浸させて、前記水溶性肥料を含む粒状体を得ること、を含む、粒状肥料の製造方法。
[13] 前記混合液が、さらにカルボキシメチルセルロースおよび/またはその塩、ならびに澱粉を含む、[11]または[12]に記載の粒状肥料の製造方法。
[14] 1質量%水溶液とした場合の粘度が25mPa・s以上1000mPa・s以下であるアルギン酸塩の水溶液を前記粒状体の表面に付与し、次いで多価金属イオンを用いて前記水溶液をゲル化させて被膜を形成することを複数回実施して、2層以上の被膜を形成することを、さらに含む、[11]~[13]のいずれか1項に記載の粒状肥料の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、水溶性肥料の溶出抑制効果に優れる粒状肥料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態に係る粒状肥料は、(A)アルギン酸および/またはその塩と、(B)水溶性肥料と、(C)無機粉体と、を含む。一実施形態において、粒状肥料は、(D)カルボキシメチルセルロースおよび/またはその塩と、(E)澱粉と、をさらに含むことが好ましい。
【0010】
[(A)アルギン酸および/またはその塩]
アルギン酸は、褐藻類などに含まれる多糖類であり、マンヌロン酸とグルロン酸の重合体である。アルギン酸は、水に不溶であり、アルカリ金属やアンモニウムと塩を形成することで水溶性となり、アルカリ土類金属などの多価金属イオンと塩を形成することで水不溶性となってゲル化する。従って、アルギン酸塩としては、水溶性の塩として、アルギン酸アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)、アルギン酸アンモニウム塩が挙げられ、また、水不溶性塩として、アルギン酸アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩)などのアルギン酸多価金属塩が挙げられる。
【0011】
粒状肥料に含まれる形態は、アルギン酸でもアルギン酸塩でもよいが、好ましくはゲル化した状態で含まれることである。すなわち、粒状肥料は、多価金属イオンを用いて水溶性のアルギン酸塩をイオン架橋させることにより形成されたゲルからなることが好ましい。そのため、粒状肥料において、(A)成分は、アルギン酸多価金属塩として含まれることが好ましく、より好ましくはアルギン酸アルカリ土類金属塩であり、特に好ましくはアルギン酸カルシウム塩である。
【0012】
本実施形態では、アルギン酸および/またはその塩として、1質量%水溶液とした場合の粘度が25mPa・s以上1000mPa・s以下であるものを用いる。該粘度が25mPa・s以上であることにより、粒状肥料の成形性に優れる。該粘度が1000mPa・s以下であることにより、粒状肥料の作製時における混合液(スラリー)の粘度を低減することができる。該粘度は、30mPa・s以上であることが好ましく、より好ましくは100mPa・s以上であり、また、600mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは500mPa・s以下である。
【0013】
ここで、アルギン酸および/またはその塩について、「1質量%水溶液とした場合の粘度」とは、水溶性塩の場合にはその1質量%水溶液の粘度であり、水不溶性の場合には水溶性塩(例えば、ナトリウム塩)に置換して濃度1質量%の水溶液にしたときの粘度である。例えば、水溶性のアルギン酸塩を用いてゲル化させることにより粒状肥料を形成した場合、粒状肥料に含まれるのは水不溶性のアルギン酸多価金属塩であるが、この場合の「1質量%水溶液とした場合の粘度」はゲル化前の水溶性のアルギン酸塩(例えば、ナトリウム塩)についての1質量%水溶液粘度である。なお、粘度の測定温度は25℃とする。
【0014】
粒状肥料における(A)アルギン酸および/またはその塩の含有量は、特に限定されず、例えば、粒状肥料100質量%に対して0.1質量%以上10質量%以下でもよく、0.3質量%以上5質量%以下でもよく、0.5質量%以上3質量%以下でもよい。
【0015】
[(B)水溶性肥料]
水溶性肥料は、粒状肥料に肥料成分として配合される。一実施形態において、水溶性肥料は水に溶かして無機粉体に吸着保持され、上記ゲル化および乾燥を経て粒状肥料が形成されるため、粒状肥料に含まれる形態としては無機粉体に担持されている。
【0016】
水溶性肥料としては、例えば、尿素、塩安、硫安、硝安、塩化カリ、硝酸カリ、硝酸ソーダ、燐安カリ、燐安アンモニア、燐安石灰等が挙げられ、これらはいずれか一種用いてもよく、二種以上併用してもよい。水溶性肥料としては、尿素が好ましい。
【0017】
粒状肥料における(B)水溶性肥料の含有量は、特に限定されず、例えば、粒状肥料100質量%に対して10質量%以上75質量%以下でもよく、20質量%以上70質量%以下でもよく、25質量%以上65質量%でもよく、30質量%以上65質量%以下でもよい。
【0018】
[(C)無機粉体]
無機粉体は、粒状肥料において水溶性肥料を担持する担体として用いられる水不溶性の固体粒子であり、無機担体粒子とも称される。
【0019】
無機粉体としては、カチオン交換性を有する各種粉体を用いることができ、例えば、ゼオライト、ベントナイト、タルク、カオリン、アロフェン、イモゴライト、スチブンサイト、ヘクトライト、サポナイト、アタパルジャイト、パリゴルスカイト、セピオライトなどが挙げられる。これらの中でも、ゼオライトおよびベントナイトから選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0020】
ゼオライトは、多孔性の結晶性アルミノ珪酸塩であり、例えば、A型、X型、Y型、P型などが挙げられる。ゼオライトは、カチオン交換性を持つとともに多孔性であるため、細孔内に水溶性肥料を吸着保持することができる。
【0021】
ベントナイトは、モンモリロナイトを主成分とする粘土の総称であり、カチオン交換性の高い層状構造を持つ。そのため、層間に水溶性肥料を吸着保持することができる。
【0022】
無機粉体としては、例えばふるい粒度が1000μm以下のものを用いることができるが、好ましくはふるい粒度が300μm以下のものを用いることである。無機粉体のふるい粒度が300μm以下であることにより、粒状肥料の成形性を向上することができ、また水溶性肥料の溶出を抑制することができる。ふるい粒度は250μm以下であることが好ましい。ふるい粒度の下限は特に限定されず、例えば10μm以上でもよく、50μm以上でもよい。
【0023】
ここで、ふるい粒度とは、98質量%以上(好ましくは100質量%)の無機粉体が通過可能なふるいの最小目開きのサイズ(μm)をいう。例えば、ふるい粒度が300μmとは、無機粉体の98質量%以上(好ましくは100質量%以上)が目開き300μmのふるいは通過するが、それよりも小さい目開きのふるいは追加しない場合をいう。
【0024】
粒状肥料における(C)無機粉体の含有量は、特に限定されないが、粒状肥料の成形性の観点から、例えば、粒状肥料100質量%に対して15質量%以上85質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以上75質量%以下であり、さらに好ましくは25質量%以上70質量%以下であり、30質量%以上65質量%以下でもよい。
【0025】
[(D)カルボキシメチルセルロースおよび/またはその塩]
カルボキシメチルセルロースおよび/またはその塩(以下、CMCということがある。)は、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基がカルボキシメチルエーテル基に置換された構造を持つものであり、カルボキシ基を有するものでもよく、カルボン酸塩の形態を持つでもよく、両者を併用してもよい。CMCを配合することより、粒状肥料からの水溶性肥料の溶出をコントロールすることができる。
【0026】
カルボキシメチルセルロース塩としては、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩が好ましく、より好ましくはナトリウム塩である。
【0027】
CMCとしては、1質量%水溶液とした場合の粘度が500mPa・s以下であるものが好ましく用いられる。該粘度が500mPa・s以下であることにより、粒状肥料の作製時における混合液(スラリー)の粘度を低減することができ、そのため、成形性を向上することができ、また水溶性肥料を担持する無機粉体の配合量を増やすことができる。該粘度は300mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは100mPa・s以下であり、更に好ましくは50mPa・s以下である。該粘度の下限は、特に限定されないが、例えば、1mPa・s以上でもよく、2mPa・s以上でもよい。なお、粘度の測定温度は25℃とする。
【0028】
CMCのエーテル化度は、特に限定されず、例えば、0.4以上1.5以下でもよく、より好ましくは0.5以上1.0以下でもよく、0.6以上0.9以下でもよい。
【0029】
粒状肥料が(D)CMCを含む場合、その含有量は、特に限定されないが、粒状肥料100質量%に対して0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。このような範囲内にすることにより水溶性肥料の溶出コントロール効果を高めることができる。CMCの含有量は、より好ましくは0.3質量%以上5質量%以下であり、更に好ましくは0.5質量%以上2質量%以下である。
【0030】
(D)CMCの(A)アルギン酸および/またはその塩に対する量は、特に限定されないが、水溶性肥料の溶出抑制効果を高める観点から、アルギン酸および/またはその塩100質量部に対して100質量部以下であることが好ましく、より好ましくは70質量部以下である。アルギン酸および/またはその塩に対するCMCの量の下限は特に限定されず、例えばアルギン酸および/またはその塩100質量部に対して10質量部以上でもよく、30質量部以上でもよい。
【0031】
[(E)澱粉]
本実施形態に係る粒状肥料において、(D)CMCを配合する場合、(D)CMCとともに(E)澱粉を配合することが好ましい。CMCと澱粉を組み合わせることにより、粒状肥料の成形性を向上することができるとともに、水溶性肥料の溶出抑制効果を高めることができる。詳細には、澱粉を配合せずにCMCを配合すると、粒状肥料の成形性が悪化することがあるが、澱粉と組み合わせることによりCMCによる成形性の悪化を抑えることができる。また、CMCと澱粉と組み合わせることにより、水溶性肥料の溶出をコントロールするCMCの配合量を増やすことができ、溶出抑制効果を高めることができる。
【0032】
澱粉としては、例えば、トウモロコシ、米、小麦、ジャガイモ、ソラマメ、緑豆、小豆、サツマイモ、サトイモ、サゴヤシ、クズ、タピオカ等に由来する澱粉が挙げられ、これらの植物由来の澱粉をいずれか一種または二種以上組み合わせ用いてもよい。澱粉としては、また、例えば、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、架橋澱粉、過ヨウ素酸酸化澱粉、ヒドロキシプロピル化澱粉、粒状化澱粉、アルファ化澱粉、湿熱処理澱粉等の加工澱粉を用いてもよい。
【0033】
澱粉としては、アミロース含量が25質量%以下のものを用いることが好ましい。一実施形態において、澱粉は粒状肥料を作製する際にα化ないし糊化して用いられ、アミロース含量が25質量%以下であることにより、比較的低温で糊化させることができる。澱粉のアミロース含量は、10質量%以上25質量%以下であることがより好ましい。ここで、アミロース含量は、簡便にはメガザイム社製「アミロース/アミロペクチン分析キット」を利用して測定することができる。
【0034】
粒状肥料が(E)澱粉を含む場合、その含有量は、特に限定されず、粒状肥料100質量%に対して0.01質量%以上5質量%以下でもよく、0.05質量%以上1質量%以下でもよく、0.1質量%以上0.5質量%以下でもよい。
【0035】
(D)CMCと(E)澱粉との質量比は、特に限定されないが、澱粉100質量部に対するCMCの量が100質量部以上2000質量部以下であることが好ましく、より好ましくは200質量部以上1500質量部以下であり、さらに好ましくは250質量部以上1000質量部以下である。澱粉100質量部に対するCMCの量が2000質量部以下であることにより、澱粉による水溶性肥料の溶出抑制効果を高めることができる。
【0036】
[その他の成分]
本実施形態に係る粒状肥料には、上記成分の他に、必要に応じて他の成分を含んでもよい。他の成分としては、例えば、水溶性肥料以外の肥料成分、界面活性剤、防腐剤、固結防止材などの一般に肥料に用いられる各種添加剤が挙げられる。
【0037】
[製造方法]
粒状肥料の製造方法は、特に限定されないが、第1の実施形態において、(1)(A)水溶性のアルギン酸塩と(B)水溶性肥料と(C)無機粉体と水を含む混合液を調製し、(2)該混合液を、多価金属イオンを用いてゲル化させて粒状体を得る方法が挙げられる。
【0038】
上記(1)の工程において、混合液には、(D)CMCおよび(E)澱粉がさらに含まれることが好ましい。一実施形態において、水溶性のアルギン酸塩(例えば、アルギン酸ナトリウム)は水に溶解させる。水溶性肥料は無機粉体に吸着保持させる。詳細には、水溶性肥料を水に溶解させ、該水溶液に無機粉体を加えて混合することにより、水溶性肥料を無機粉体に吸着させる。CMCは水に溶解させ、澱粉は水と混合し熱を加えて糊化させる。これらを均一に混合することにより、水溶性のアルギン酸塩、水溶性肥料、無機粉体、CMC、澱粉および水を含む混合液が得られる。なお、混合順序は特に限定されない。該混合液は、アルギン酸塩とCMCと澱粉を含む水溶液に、水溶性肥料が吸着した無機粉体が分散してなるものであり、スラリー状ないしペースト状の形態を有してもよい。
【0039】
上記(2)の工程では、多価金属イオンを用いてアルギン酸塩をイオン架橋させることによりゲル化させる。詳細には、多価金属イオンを含む水溶液中に上記混合液を滴下するかまたは押出して、混合液をゲル化させ、粒状に成形する。
【0040】
多価金属イオンとしては、例えば、カルシウムイオン、バリウムイオン、マグネシウムイオンなどのアルカリ土類金属イオンが好ましく、より好ましくはカルシウムイオンである。多価金属イオンを含む水溶液としては、アルカリ土類金属塩の水溶液が挙げられ、例えば、カルシウム塩水溶液としては、塩化カルシウムや硫酸カルシウムなどの無機塩または有機塩の水溶液を用いてもよい。多価金属イオンの濃度としては、ゲル化させることができれば特に限定されず、例えば多価金属化合物の濃度として1~5質量%でもよい。
【0041】
上記混合液を、多価金属イオンを含む水溶液に滴下した場合、そのまま粒状のゲルを得ることができる。一方、混合液を、多価金属イオンを含む水溶液に押出した場合、棒状のゲルが得られるので、これを所定長さに切断することにより粒状(円柱状、角柱状など)のゲルが得られる。
【0042】
上記(2)の工程において、ゲル化させた後、乾燥させてもよい。すなわち、一実施形態に係る粒状肥料におけるアルギン酸塩のゲルはキセロゲルでもよい。また、乾燥後にふるい分けすることにより所定の大きさを持つ粒状肥料を得てもよい。
【0043】
このようにして得られる第1の実施形態に係る粒状肥料は、水溶性のアルギン酸塩、水溶性肥料、無機粉体および水(好ましくはさらにCMCおよび澱粉)を含む混合液を、多価金属イオンを用いたゲル化により粒状に成形して得られたものである。そのため、該粒状肥料は、水溶性肥料および無機粉体(好ましくはさらにCMCおよび澱粉)とともにアルギン酸多価金属塩を含む、ゲルからなる粒状体である。一実施形態において、粒状肥料は、水溶性肥料を吸着させた無機粉体とCMCと澱粉を含有するアルギン酸塩のゲルであり、水溶性肥料を吸着させた個々の無機粉体はCMCおよび澱粉を含むアルギン酸塩のゲルにより被覆されており、これにより無機粉体に吸着された水溶性肥料の外部への溶出速度が調節されてもよい。
【0044】
第2の実施形態に係る粒状肥料の製造方法は、(1’)(A)水溶性のアルギン酸塩と(C)無機粉体と水を含む混合液を調製し、(2’)前記混合液を、多価金属イオンを用いてゲル化させて粒状のゲルを得て、(2”)(B)水溶性肥料の水溶液を前記ゲルに含浸させて水溶性肥料を含む粒状体を得る方法である。上記第1の実施形態では、水溶性肥料を予め混合液に配合しておいてゲル化させるのに対し、第2の実施形態では、ゲル化させた後に水溶性肥料の水溶液を含浸させることにより水溶性肥料を粒状肥料中に導入する点で、両者は相違する。
【0045】
すなわち、(1’)の工程において、混合液には、水溶性のアルギン酸塩と無機粉体と水が含まれる。水溶性肥料については、一部配合しておいてもよいが、配合しなくてもよい。混合液には、(D)CMCおよび(E)澱粉がさらに含まれることが好ましい。一実施形態において、水溶性のアルギン酸塩(例えば、アルギン酸ナトリウム)は水に溶解させる。CMCは水に溶解させ、澱粉は水と混合し熱を加えて糊化させる。これらを無機粉体とともに均一に混合することにより、水溶性のアルギン酸塩、無機粉体、CMC、澱粉および水を含む混合液が得られる。なお、混合順序は特に限定されない。該混合液は、アルギン酸塩とCMCと澱粉を含む水溶液に無機粉体が分散してなるものであり、スラリー状ないしペースト状の形態を有してもよい。
【0046】
(2’)の工程では、第1の実施形態における(2)の工程と同様であり、多価金属イオンを用いてアルギン酸塩をイオン架橋させることによりゲル化させる。詳細については、(2)の工程で上述したとおりであり、説明は省略する。なお、ゲル化させた後に乾燥してもよく、これにより(2”)の工程において水溶性肥料の水溶液をより早く含浸させることができる。
【0047】
(2”)の工程では、(2’)の工程で得られた粒状のゲルに水溶性肥料の水溶液を含浸させる。これにより粒状のゲル中に水溶性肥料が浸み込むので、水溶性肥料が含む粒状体が得られる。このように含浸させた後、乾燥してもよい。従って、一実施形態に係る粒状肥料におけるアルギン酸塩のゲルはキセロゲルでもよい。また、乾燥後にふるい分けすることにより所定の大きさを持つ粒状肥料を得てもよい。
【0048】
このようにして得られる第2の実施形態に係る粒状肥料は、水溶性のアルギン酸塩、無機粉体および水(好ましくはさらにCMCおよび澱粉)を含む混合液を、多価金属イオンを用いたゲル化により粒状に成形し、該粒状のゲルに水溶性肥料の水溶液を含浸させて得られたものである。そのため、該粒状肥料は、第1の実施形態と同様、水溶性肥料および無機粉体(好ましくはさらにCMCおよび澱粉)とともにアルギン酸多価金属塩を含む、ゲルからなる粒状体である。一実施形態において、(2”)の工程によりゲル中に導入された水溶性肥料は無機粉体に吸着保持されていてもよい。
【0049】
第3の実施形態に係る粒状肥料の製造方法は、上記第1の実施形態の(1)および(2)の工程、または、第2の実施形態の(1’)、(2’)および(2”)に加えて、(3)得られた粒状体の表面に被膜を形成する工程を含む。被膜は一層のみで構成してもよいが、水溶性肥料の溶出をより一層抑制するために、2層以上に多層化することが好ましい。
【0050】
詳細には、(3)の工程は、(2)の工程または(2”)の工程で得られた粒状体を用いて、上記(A)のアルギン酸塩の水溶液を該粒状体の表面に付与すること(3-1)、および、多価金属イオンを用いて該アルギン酸塩の水溶液をゲル化させて被膜を形成すること(3-2)、を含み、これら(3-1)および(3-2)を複数回実施してもよい。これにより2層以上の被膜を形成することができる。
【0051】
(3)の工程を行う前に、(2)の工程において多価金属イオンを含む水溶液中でゲル化させて得られた粒状体の表面を水で洗浄してもよく、また、水で洗浄した後の粒状体を多価金属イオンの濃度がより低い水溶液に浸漬してもよい。
【0052】
(3-1)の工程で用いるアルギン酸塩は、上記(A)成分、即ち、1質量%水溶液とした場合の粘度が25mPa・s以上1000mPa・s以下であるアルギン酸塩である。アルギン酸塩の水溶液の付与方法としては、特に限定されず、アルギン酸塩の水溶液中に上記粒状体を浸漬してもよく、粒状体に表面にアルギン酸塩の水溶液を噴霧してもよく、特に限定されない。
【0053】
付与するアルギン酸塩の水溶液の濃度は、特に限定されず、例えば0.01~2質量%でもよく、0.05~1質量%でもよい。
【0054】
(3-1)の工程で付与したアルギン酸塩の水溶液は、粒状体の表面に薄く付与されていることが好ましく、余分な水溶液を落とすために、例えば当該水溶液への浸漬後に圧空エアーを吹き付けてもよい。
【0055】
(3-1)の工程において付与する水溶液には、アルギン酸塩とともに、上記(D)のCMCおよび/または上記(E)の澱粉を含んでもよい。水溶液に含まれるCMCと澱粉の量は特に限定されない。例えば、CMCは、アルギン酸塩100質量部に対して10~100質量部でもよく、30~70質量部でもよい。また、CMCは、澱粉100質量部に対して100~2000質量部でもよく、200~1500質量部でもよく、250~1000質量部でもよい。
【0056】
(3-2)の工程において、上記粒状体の表面に付与された水溶液をゲル化させる方法としては、例えば、水溶液が付与された粒状体を、多価金属イオンを含む水溶液中に浸漬する方法が挙げられる。多価金属イオンとしては、上記(2)および(2’)と同様のものが用いられる。多価金属イオンの濃度としては、ゲル化させることができれば特に限定されず、例えば多価金属化合物の濃度として0.5~5質量%でもよい。
【0057】
(3)の工程では、(3-1)の工程と(3-2)の工程を複数回繰り返して行う。すなわち、例えば、(3-2)の工程で多価金属イオンを含む水溶液に粒状体を浸漬した後、当該水溶液から粒状体を取り出し、得られた粒状体に対して(3-1)の工程においてアルギン酸塩の水溶液を付与し、次いで、得られた粒状体を(3-2)の工程において多価金属イオンを含む水溶液に浸漬する。(3-1)と(3-2)の工程の繰り返し回数は特に限定しないが、例えば2~4回でもよく、2回または3回でもよい。
【0058】
(3-1)と(3-2)の工程を複数回実施した後、得られた粒状体を乾燥してもよい。また、乾燥後にふるい分けすることにより所定の大きさを持つ粒状肥料を得てもよい。
【0059】
このようにして得られる第3の実施形態に係る粒状肥料は、水溶性のアルギン酸塩、水溶性肥料、無機粉体および水(好ましくはさらにCMCおよび澱粉)を含む混合液を、多価金属イオンを用いたゲル化により粒状に成形し、得られた粒状体(コア粒子)の表面をアルギン酸多価金属塩(好ましくはさらにCMCと澱粉)を含むゲルからなる2層以上の被膜で被覆してなるものでもよい。あるいはまた、第3の実施形態に係る粒状肥料は、水溶性のアルギン酸塩、無機粉体および水(好ましくはさらにCMCおよび澱粉)を含む混合液を、多価金属イオンを用いたゲル化により粒状に成形し、該粒状のゲルに水溶性肥料の水溶液を含浸させ、得られた粒状体(コア粒子)の表面をアルギン酸多価金属塩(好ましくはさらにCMCと澱粉)を含むゲルからなる2層以上の被膜で被覆してなるものでもよい。
【0060】
そのため、第3の実施形態に係る粒状肥料は、水溶性肥料および無機粉体(好ましくはさらにCMCおよび澱粉)とともにアルギン酸多価金属塩を含むゲルからなる粒状体(コア粒子)と、アルギン酸多価金属塩(好ましくはさらにCMCおよび澱粉)を含む被膜であって前記粒状体を被覆する2層以上の被膜と、を含む。
【0061】
一実施形態において、粒状肥料は、水溶性肥料を吸着させた無機粉体とCMCと澱粉を含有するアルギン酸塩のゲルからなる粒状体(コア粒子)と、該粒状体を被覆するアルギン酸塩のゲルからなる2層以上の被膜と、を含んでもよい。
【0062】
第3実施形態に係る粒状肥料において、2層以上の被膜に含まれるアルギン酸多価金属塩の量は特に限定されない。例えば、コア粒子に含まれるアルギン酸およびその塩の含有量100質量部に対して、2層以上の被膜に含まれるアルギン酸多価金属塩の合計で1~10質量部でもよく、2~6質量部でもよい。
【0063】
被膜にアルギン酸多価金属塩とともにCMCと澱粉が含まれる場合、それらの量は特に限定されない。2層以上の被膜に含まれるCMCの量は、例えば、コア粒子に含まれるCMCの含有量100質量部に対して、2層以上の被膜に含まれるCMCの合計で1~75質量部でもよく、5~50質量部でもよい。また、2層以上の被膜に含まれる澱粉の量は、コア粒子に含まれる澱粉の含有量100質量部に対して、2層以上の被膜に含まれる澱粉の合計で1~20質量部でもよく、4~10質量部でもよい。
【0064】
第3実施形態によれば、水溶性肥料を含むコア粒子を、アルギン酸多価金属塩を含む被膜で覆い、当該被膜を2層以上として多層化したことにより、水溶性肥料の外部への溶出をより抑制することができ、より長期間にわたって水溶性肥料の溶出を抑えることができる。
【0065】
本実施形態に係る粒状肥料の形状(個々の粒の形状)は特に限定されず、球状、円盤状、円柱状または直方体(立方体も含む。)でもよい。粒状肥料の個々の粒の大きさは、特に限定されず、例えば、球状の場合、直径が1~10mmでもよく、5~8mmでもよい。また、球状以外の形状の場合、上記直径の球状と同等の体積を持つ大きさであることが好ましい。
【0066】
本実施形態に係る粒状肥料においては、その他の素材をその外層として粉衣してもよい。例えば、粒状肥料の表面に、撥水性のステアリン酸カルシウムやステアリン酸マグネシウム等のステアリン酸塩、ワックス等をコーティングしてもよい。
【実施例0067】
以下、実施例及び比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されない。
【0068】
実施例および比較例で用いた原料の物性測定方法は以下のとおりである。
【0069】
[1質量%水溶液粘度の測定]
アルギン酸塩またはCMCを試料として、試料(約2.2g)を共栓付き300mL三角フラスコに入れて精秤した。ここに、計算式「試料(g)×(99-水分量(質量%))」により算出される量の水を加えて12時間静置し、さらに5分間混合した。得られた溶液を用いて、JIS Z8803に準じてBM型粘度計(単一円筒型回転粘度計)を用いて25℃における粘度を測定した。その際、(a)ロータ回転数を60rpmとして測定し、(b)上記(a)での測定値が8000mPa・s以上の場合にはロータ回転数を30rpmに変更して測定し、(c)上記(b)での測定値が16000mPa・s以上の場合にはロータ回転数を12rpmに変更して測定した。なお、上記計算式中の「水分量」は、試料(約1g)を秤量瓶に精密に量りとり、105±2℃の定温乾燥器中において4時間乾燥し、デシケーター中で冷却し、重さを量り、その減量から「水分量(質量%)=(減量(g)/試料(g))×100」により算出した。
【0070】
[エーテル化度]
試料であるCMC0.6gを105℃で4時間乾燥した。乾燥物の質量を精秤した後、ろ紙に包んで磁製ルツボ中で灰化した。灰化物を500mLビーカーに移し、水250mLおよび0.05mol/Lの硫酸水溶液35mLを加えて30分間煮沸した。冷却後、過剰の酸を0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液で逆滴定した。なお、指示薬としてフェノールフタレインを用いた。測定結果を用いて下記式よりエーテル化度を算出した。
エーテル化度=162×A/(10000-80A)
式中、A=(af-bf)/乾燥物の質量(g)
A:試料1g中の結合アルカリに消費された0.05mol/Lの硫酸水溶液の量(mL)
a:0.05mol/Lの硫酸水溶液の使用量(mL)
f:0.05mol/Lの硫酸水溶液の力価
b:0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液の滴定量(mL)
:0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液の力価
【0071】
実施例および比較例で用いた原料を以下に示す。
[アルギン酸塩]
・アルギン酸塩1:アルギン酸ナトリウム、1質量%水溶液粘度=357mPa・s、株式会社キミカ製「アルギテックスM」
・アルギン酸塩2:アルギン酸ナトリウム、1質量%水溶液粘度=31mPa・s、株式会社キミカ製「アルギテックスLL」
・アルギン酸塩3:アルギン酸ナトリウム、1質量%水溶液粘度=4mPa・s、株式会社キミカ製「キミカアルギンULV-L3」
【0072】
[無機粉体]
・無機粉体1:ゼオライト。東ソー株式会社製「トヨビルダー」を、目開き150μmのふるいを通過させて得られたゼオライト。ふるい粒度150μm以下。
・無機粉体2:ゼオライト。東ソー株式会社製「トヨビルダー」を、目開き250μmのふるいを通過させて得られたゼオライト。ふるい粒度250μm以下。
・無機粉体3:ゼオライト。東ソー株式会社製「トヨビルダー」を、目開き1000μmのふるいを通過させ、次いで目開き500μmのふるいを通過せずに残ったゼオライト。ふるい粒度500~1000μm。
・無機粉体4:ベントナイト。株式会社ホージュン製「スーパークレイ」を、目開き250μmのふるいを通過させて得られたベントナイト。ふるい粒度250μm。
【0073】
[CMC]
・CMC1:下記製法により得られたカルボキシメチルセルロースナトリウム。エーテル化度=0.75、1質量%水溶液粘度=4mPa・s。
【0074】
(CMC1の製法)
2軸の攪拌翼を備えた容量3Lのニーダー型反応機に、家庭用ミキサーで粉砕した低密度パルプ100gを仕込んだ。イソプロパノール(IPA):水を80:20の質量比で混合した含水有機溶媒500gに、水酸化ナトリウム60gを溶解した後、パルプを仕込んだ前記反応機内に投入し、35℃で60分間撹拌してアルカリセルロース化反応を行い、アルカリセルロースを得た。次いで、モノクロル酢酸55gを上記含水有機溶媒33gに溶解し25℃に調整後、前記アルカリセルロースを35℃に維持したまま60分かけて添加した後、30分かけて80℃まで昇温し、80℃にて60分間エーテル化反応を行った。エーテル化反応後、20質量%過酸化水素水溶液10gを添加し、100℃で90分間減粘反応を行った。上記反応後、未反応の過剰の水酸化ナトリウムを、50質量%の酢酸で中和し、pH6.5~7.5とした。スラリー状となった上記中和物を反応機より取り出し、遠心分離によりIPAを除去して、粗カルボキシメチルセルロースナトリウム塩を得た。この粗カルボキシメチルセルロースナトリウム塩を、70質量%メタノール水溶液で洗浄し、副生物の食塩、グリコール酸ナトリウムおよび酢酸ナトリウムを除去した。この洗浄操作を2回繰り返した後、90~105℃で4時間乾燥し、粉砕してカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC1)を得た。
【0075】
・CMC2:下記製法により得られたカルボキシメチルセルロースナトリウム。エーテル化度=0.66、1質量%水溶液粘度=200mPa・s。
【0076】
(CMC2の製法)
2軸の攪拌翼を備えた容量3Lのニーダー型反応機に、家庭用ミキサーで粉砕した低密度パルプ100gを仕込んだ。IPA:水を80:20の質量比で混合した含水有機溶媒500gに、水酸化ナトリウム60gを溶解した後、パルプを仕込んだ前記反応機内に投入し、35℃で30分間撹拌してアルカリセルロース化反応を行い、アルカリセルロースを得た。次いで、モノクロル酢酸52gを上記含水有機溶媒31gに溶解し25℃に調整後、前記アルカリセルロースを35℃に維持したまま60分かけて添加した後、30分かけて80℃まで昇温し、80℃にて60分間エーテル化反応を行った。エーテル化反応後、20質量%過酸化水素水溶液0.2gを添加し、100℃で90分間減粘反応を行った。上記反応後、未反応の過剰の水酸化ナトリウムを、50質量%の酢酸で中和し、pH6.5~7.5とした。スラリー状となった上記中和物を反応機より取り出し、遠心分離によりIPAを除去して、粗カルボキシメチルセルロースナトリウム塩を得た。この粗カルボキシメチルセルロースナトリウム塩を、70質量%メタノール水溶液で洗浄し、副生物の食塩、グリコール酸ナトリウムおよび酢酸ナトリウムを除去した。この洗浄操作を2回繰り返した後、90~105℃で4時間乾燥し、粉砕してカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC2)を得た。
【0077】
[澱粉]
・澱粉1:α化澱粉。アミロース含量=22.5質量%、日澱化学製「アミコールNo.30」
・澱粉2:コーンスターチ。アミロース含量=25質量%、王子コーンスターチ製「コーンスターチ」
【0078】
[実施例1]
尿素75質量部を水150質量部に湯煎で溶解し、次いで無機粉体2を125質量部加えて混合し、10分間放置した後、アルギン酸塩1からなる2質量%アルギン酸ナトリウム水溶液を150質量部加えて、均一なペーストを作製した。得られたペーストを1質量%塩化カルシウム水溶液に滴下し、粒状のゲルを作製した。得られたゲルを105℃×90分間乾燥し、篩分けして、粒径約5mmの球状の粒状肥料を作製した。
【0079】
[実施例2]
尿素75質量部を水150質量部に湯煎で溶解し、次いでCMC1を1.5質量部加えて溶解させ、さらに澱粉1を0.3質量部加えて均一になるように溶解(糊化)させた。次いで無機粉体2を125質量部加えて混合し、10分間放置した後、アルギン酸塩1からなる2質量%アルギン酸ナトリウム水溶液を150質量部加えて、均一なペーストを作製した。得られたペーストを1質量%塩化カルシウム水溶液に滴下し、粒状のゲルを作製した。得られたゲルを105℃×90分間乾燥し、篩分けして、粒径約5mmの球状の粒状肥料を作製した。
【0080】
[実施例3~12および比較例1]
下記表1に示す配合(質量部)に従い、各成分の量を調整し、その他は実施例1と同様にして、実施例3~12及び比較例1の粒状肥料を作製した。
【0081】
[実施例13]
水150質量部にCMC1を1.5質量部加えて溶解させ、さらに澱粉1を0.3質量部加えて均一になるように溶解(糊化)させた。次いで無機粉体2を125質量部加えて混合し、10分間放置した後、アルギン酸塩1からなる2質量%アルギン酸ナトリウム水溶液を150質量部加えて、均一なペーストを作製した。得られたペーストを1質量%塩化カルシウム水溶液に滴下し、粒状のゲルを作製した。尿素75質量部を水300質量部に湯煎で溶解し、得られた20質量%の尿素水溶液を、上記粒状のゲルに含浸させ、その後、該ゲルを105℃×90分間乾燥し、篩分けして、粒径約5mmの球状の粒状肥料を作製した。
【0082】
実施例1~13および比較例1について、粒状肥料の成形性と、得られた粒状肥料を用いて溶出性の評価を行った。評価方法は以下のとおりである。
【0083】
[成形性評価]
成形性の評価は下記基準により行った。
○:粒状化でき、粒状肥料の表面が滑らかである。
△:粒状化できるが、粒状肥料の表面がざらざらで粗い。
×:粒状化できない。
【0084】
[溶出性評価]
作製した粒状肥料約0.6gを1Lのポリ瓶に入れ、尿素の水溶液濃度として、約250ppmとなるように水を投入して密閉し、25℃で保管した。3日後、7日後、14日後に一度粒状肥料を引き上げ、ポリ瓶内の水溶液が均一になるように撹拌し、サンプリングを実施した。サンプリングした水溶液中に含まれる尿素の濃度を、CellBiolabs社の尿素測定キットとそのプロトコールに則り測定し、粒状肥料から全量溶出した場合の濃度を100質量%として、溶出した割合を算出した。
【0085】
【表1】
【0086】
結果は表1に示すとおりである。比較例1では、アルギン酸ナトリウムの1質量%水溶液粘度が低く、粒状肥料の成形性に劣っていた。
【0087】
これに対し、1質量%水溶液粘度が25mPa・s以上のアルギン酸ナトリウムとともに、尿素、無機粉体を組み合わせた実施例1、さらに、CMCおよび澱粉を組み合わせて用いた実施例2~13であると、粒状肥料の成形性に優れるとともに、尿素の溶出抑制効果に優れていた。実施例1と実施例2の対比より、CMCおよび澱粉を加えることで、要素の溶出抑制効果により優れることが分かる。また、無機粉体のふるい粒度が大きい実施例10よりもふるい粒度が小さい実施例1~9,11,12の方が、粒状肥料の成形性に優れており、尿素の溶出抑制効果にも優れていた。実施例2と実施例13との対比により、尿素はゲル形成後に含浸させるよりも、予め混合液に配合してゲル化させた方が、尿素の溶出抑制効果に優れていた。
【0088】
[実施例14]
(ア)実施例12の方法に従い、コア粒子としての粒状のゲル(粒状体)を作製した(乾燥前の段階)。
(イ)得られた粒状体を水に入れて表面を洗い、水を切った後に2質量%の塩化カルシウム水溶液に浸漬した。
(ウ)塩化カルシウム水溶液から粒状体を取り出し、ザルで塩化カルシウム水溶液をよく切った後に、アルギン酸塩1からなる1質量%のアルギン酸ナトリウム水溶液に浸漬した。
(エ)次いで、粒状体をアルギン酸ナトリウム水溶液から取り出し、ザルでアルギン酸ナトリウム水溶液をよく切った後に、2質量%の塩化カルシウム水溶液に浸漬した。
(オ)上記の(ウ)および(エ)をさらに2回実施した。
(カ)塩化カルシウム水溶液から粒状体を取り出し、ザルで塩化カルシウム水溶液をよく切った後、オーブン(102~120℃)で60分間乾燥した。
これにより、3層のアルギン酸カルシウム膜からなる被膜を持つ、粒径約5mmの球状の粒状肥料を作製した。
【0089】
[実施例15]
上記(オ)の工程を省略し、その他は実施例14と同様にして、1層のアルギン酸カルシウム膜からなる被膜を持つ、粒径約5mmの球状の粒状肥料を作製した。
【0090】
実施例12と実施例14,15の外観を比較すると、アルギン酸カルシウム膜からなる被膜の層数が多くなるに従って白っぽい外観を有していた。
【0091】
[実施例16]
上記(ウ)の工程で用いるアルギン酸ナトリウム水溶液の組成を、アルギン酸塩1が1質量%、CMC1が0.5質量%、澱粉1が0.1質量%とし、その他は実施例14と同様にして、3層のアルギン酸カルシウム膜からなる被膜を持つ、粒径約5mm粒状の粒状肥料を作製した。
【0092】
[実施例17]
上記(オ)の工程での実施数を1回とし、その他は実施例16と同様にして、2層のアルギン酸カルシウム膜からなる被膜を持つ、粒径約5mm粒状の粒状肥料を作製した。
【0093】
[実施例18]
上記(オ)の工程を省略し、その他は実施例16と同様にして、1層のアルギン酸カルシウム膜からなる被膜を持つ、粒径約5mm粒状の粒状肥料を作製した。
【0094】
実施例12と実施例16~18の外観を比較すると、アルギン酸カルシウム膜からなる被膜の層数が多くなるに従って白っぽい外観を有していた。
【0095】
実施例14~18について、粒状肥料の成形性と、得られた粒状肥料を用いて溶出性の評価を行った。評価方法は上記のとおりである。結果を表2に示す。なお、表2における「含有率」は、粒状肥料全体の質量に占める各成分の質量比率であり、コア粒子と被膜の双方に含まれる成分については両者をあわせた質量比率である。実施例14~18において、コア粒子上に形成した被膜の厚みは薄く、いずれも粒径はコア粒子としての実施例12の粒状肥料の粒径と同等であった。
【0096】
【表2】
【0097】
表2に示すように、被膜が1層である実施例15,18ではコア粒子のみからなる実施例12に対し、尿素の溶出抑制効果は同等であった。被膜を2層以上とした実施例14,16,17では、実施例12に対して尿素の溶出抑制効果に優れていた。また、被膜をアルギン酸塩のみで形成した実施例14に対して、CMCと澱粉を加えた実施例16および17では尿素の溶出抑制効果にさらに優れていた。
【0098】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。