IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ブリヂストンの特許一覧

<>
  • 特開-タイヤ成形用金型及びタイヤ製造方法 図1
  • 特開-タイヤ成形用金型及びタイヤ製造方法 図2
  • 特開-タイヤ成形用金型及びタイヤ製造方法 図3
  • 特開-タイヤ成形用金型及びタイヤ製造方法 図4
  • 特開-タイヤ成形用金型及びタイヤ製造方法 図5
  • 特開-タイヤ成形用金型及びタイヤ製造方法 図6
  • 特開-タイヤ成形用金型及びタイヤ製造方法 図7
  • 特開-タイヤ成形用金型及びタイヤ製造方法 図8
  • 特開-タイヤ成形用金型及びタイヤ製造方法 図9
  • 特開-タイヤ成形用金型及びタイヤ製造方法 図10
  • 特開-タイヤ成形用金型及びタイヤ製造方法 図11
  • 特開-タイヤ成形用金型及びタイヤ製造方法 図12
  • 特開-タイヤ成形用金型及びタイヤ製造方法 図13
  • 特開-タイヤ成形用金型及びタイヤ製造方法 図14
  • 特開-タイヤ成形用金型及びタイヤ製造方法 図15
  • 特開-タイヤ成形用金型及びタイヤ製造方法 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068580
(43)【公開日】2023-05-17
(54)【発明の名称】タイヤ成形用金型及びタイヤ製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/02 20060101AFI20230510BHJP
   B29D 30/06 20060101ALI20230510BHJP
【FI】
B29C33/02
B29D30/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021179839
(22)【出願日】2021-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100213436
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 直俊
(72)【発明者】
【氏名】石原 泰之
【テーマコード(参考)】
4F202
4F215
【Fターム(参考)】
4F202AH20
4F202CA21
4F202CU01
4F202CU03
4F202CU20
4F202CX06
4F202CX10
4F215AH20
4F215VL27
4F215VP39
(57)【要約】
【課題】タイヤの離型の初期におけるセグメントの駆動に必要な駆動力を低減することができるタイヤ成形用金型及びタイヤ製造方法を提供することである。
【解決手段】タイヤ成形用金型1は、円周方向に並ぶ複数のセグメント21に分割された円環状のトレッド成形部20と、トレッド成形部20が、径方向外側に開かれる際に、セグメント21を径方向外側に傾斜させる傾斜機構40,50と、を備え、傾斜機構40,50は、トレッド成形部20が開かれた後に、セグメント21の傾きを戻す。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周方向に並ぶ複数のセグメントに分割された円環状のトレッド成形部と、
前記トレッド成形部が、径方向外側に開かれる際に、前記セグメントを径方向外側に傾斜させる傾斜機構と、を備え、
前記傾斜機構は、前記トレッド成形部が開かれた後に、前記セグメントの傾きを戻すタイヤ成形用金型。
【請求項2】
前記傾斜機構は、前記トレッド成形部が開かれた後、且つ、前記トレッド成形部がタイヤのトレッドから完全に離間する前に、前記セグメントの傾きを戻す、請求項1に記載のタイヤ成形用金型。
【請求項3】
前記傾斜機構は、
前記セグメントの前記トレッド成形部の軸心の方向の一端側に設けられ、前記セグメントの移動方向及び前記トレッド成形部の軸心のそれぞれに垂直な回動軸と、
前記回動軸を中心として回動自在に前記セグメントを支持するベース部材と、
前記トレッド成形部が開かれる際に、前記回動軸を回動の中心として回動させて前記セグメントを傾斜させる第一傾斜機構と、
前記トレッド成形部が開かれた後に、前記回動軸を回動の中心として回動させて前記セグメントの傾きを戻す第二傾斜機構と、を含む、請求項1又は2に記載のタイヤ成形用金型。
【請求項4】
前記セグメントの径方向外側に配置され、前記セグメントを規定位置に保持する保持位置と、前記セグメントの径方向外側への傾斜を許容する解放位置との間で移動自在のアウターリングを更に備えている請求項3に記載のタイヤ成形用金型。
【請求項5】
前記アウターリングは、
前記トレッド成形部を閉じる際に前記セグメントを径方向内側に付勢する第一傾斜面部を有し、
前記セグメントの前記軸心の方向に沿い移動することにより前記トレッド成形部を閉じる請求項4に記載のタイヤ成形用金型。
【請求項6】
前記アウターリングは、前記トレッド成形部が開かれる際に、前記セグメントに形成された係合溝と係合し、前記セグメントを径方向外側に引き出すレール部を有し、
前記係合溝及び前記レール部は、前記第一傾斜面部の傾斜方向に沿い配置され、
前記レール部は、
一方の端部に形成された凸部と平坦部とを有し、
前記第一傾斜機構として、前記セグメントを前記凸部で径方向外側に付勢して回動させ、
前記第二傾斜機構として、前記係合溝を前記平坦部に沿わせることにより、前記セグメントを径方向外側に付勢して前記セグメントを回動させて前記セグメントの傾きを戻す請求項5に記載のタイヤ成形用金型。
【請求項7】
前記アウターリングは、前記トレッド成形部が開かれる際に、前記セグメントを係止させて前記セグメントを径方向内側にけん引する第二傾斜面部を有し、
前記第二傾斜面部は、前記第一傾斜面部に沿い配置され、
前記傾斜機構は、
前記第一傾斜機構として、前記セグメントの一方の端部と連結し、前記第二傾斜面部に係止される第一リンク部と、
前記第二傾斜機構として、前記セグメントにおける前記第一リンク部が連結する側とは別の端部と連結し、前記第二傾斜面部に係止される第二リンク部と、を有し、
前記第一リンク部は、前記第二傾斜面部にけん引されて、前記セグメントを径方向外側にけん引して前記セグメントを傾斜させ、
前記第二リンク部は、前記第二傾斜面部にけん引されて、前記セグメントを径方向外側にけん引して前記セグメントの傾きを戻す請求項5に記載のタイヤ成形用金型。
【請求項8】
前記第一リンク部は、前記セグメントが傾斜した後、前記第二傾斜面部への係止を解除される請求項7に記載のタイヤ成形用金型。
【請求項9】
前記トレッド成形部が開かれる際に、第一の前記セグメントを傾けた後、第二の前記セグメントを傾ける請求項1から8の何れか一項に記載のタイヤ成形用金型。
【請求項10】
円周方向に並ぶ複数のセグメントに分割された円環状のトレッド成形部を備えたタイヤ成形用金型を用いたタイヤ製造方法であって、
未加硫の生タイヤの加硫成形後に前記トレッド成形部を開く際に前記セグメントを前記トレッド成形部の径方向外側に傾斜させる第一工程と、
前記トレッド成形部が開かれた後に、前記セグメントの傾きを戻す第二工程と、を含むタイヤ製造方法。
【請求項11】
前記第二工程は、前記トレッド成形部が開かれた後、且つ、前記トレッド成形部がタイヤのトレッドから完全に離間する前に実行される、請求項10に記載のタイヤ製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ成形用金型及びタイヤ製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、未加硫の生タイヤを加硫成形してタイヤを製造する際に用いられるタイヤ成形用金型として、タイヤのトレッドを成形する円環状のトレッド成形部(トレッドモールド)が、円周方向に並ぶ複数のセグメントに分割されると共に、それぞれのセグメントが径方向に移動することで開閉するように構成されたものが知られている(例えば、特許文献1から3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-326332号公報
【特許文献2】特開2000-334740号公報
【特許文献3】特開2009-149079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来のタイヤ成形用金型又はタイヤ製造方法では、加硫成形後にタイヤをトレッド成形部から離型する際に、各セグメントがタイヤのトレッドに対する姿勢を維持したまま径方向外側に向けて移動するため、各セグメントのトレッドを成形するトレッド意匠面の全体が当該トレッドから同時に剥離しようとして、セグメントがタイヤから離型するまでの間におけるセグメントの駆動に大きな駆動力が必要になるという問題点があった。
【0005】
例えば、タイヤの離型の初期には、セグメントのトレッド意匠面をトレッドから剥離し、また、タイヤの意匠面パターンから、このパターンに対応するセグメントの突起が抜く必要がある。そのため、セグメントのトレッド意匠面がトレッドから剥離する際における、トレッド意匠面とトレッドとの密着を外すために大きな駆動力が必要であった。また、セグメントがタイヤから離型するまでの間における、タイヤの意匠面パターンから、このパターンに対応するセグメントの突起が抜ける際のアンダーカット抵抗により、セグメントの駆動に大きな駆動力が必要になるという問題点があった。
【0006】
本発明は、かかる実状に鑑みて為されたものであって、その目的は、タイヤの離型の初期におけるセグメントの駆動に必要な駆動力を低減することができるタイヤ成形用金型及びタイヤ製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係るタイヤ成形用金型は、
円周方向に並ぶ複数のセグメントに分割された円環状のトレッド成形部と、
前記トレッド成形部が、径方向外側に開かれる際に、前記セグメントを径方向外側に傾斜させる傾斜機構と、を備え、
前記傾斜機構は、前記トレッド成形部が開かれた後に、前記セグメントの傾きを戻す。
【0008】
上記構成によれば、タイヤの離型の初期におけるセグメントの駆動に必要な駆動力を低減することができる。
【0009】
具体的には、トレッド成形部がセグメントの径方向外側に開かれる際に、セグメントが径方向外側に傾けられることで、セグメントをセグメントのトレッド意匠面がトレッドから剥離する際における、トレッド意匠面とトレッドとの密着を外すための駆動力を低減することができる。また、トレッド成形部が開かれた後に、セグメントの傾きが戻されることで、セグメントがタイヤから離型するまでの間における、タイヤの意匠面パターンから、パターンに対応するセグメントの突起をまっすぐに引き抜くことができるようになり、当該突起が抜ける際のアンダーカット抵抗を小さくして、セグメントの駆動に必要な駆動力を低減することができる。
【0010】
本発明に係るタイヤ成形用金型は、更に、
記傾斜機構は、前記トレッド成形部が開かれた後、且つ、前記トレッド成形部がタイヤのトレッドから完全に離間する前に、前記セグメントの傾きを戻すようであってもよい。
【0011】
上記構成によれば、トレッド成形部がタイヤのトレッドから完全に離間する前に、セグメントの傾きを戻すことで、パターンに対応するセグメントのいずれの突起もタイヤの意匠面パターンから、まっすぐに引き抜くことができるようになり、当該突起が抜ける際のアンダーカット抵抗を確実に小さくして、セグメントの駆動に必要な駆動力を低減することができる。
【0012】
本発明に係るタイヤ成形用金型は、更に、
前記傾斜機構は、
前記セグメントの前記トレッド成形部の軸心の方向の一端側に設けられ、前記セグメントの移動方向及び前記トレッド成形部の軸心のそれぞれに垂直な回動軸と、
前記回動軸を中心として回動自在に前記セグメントを支持するベース部材と、
前記トレッド成形部が開かれる際に、前記回動軸を回動の中心として回動させて前記セグメントを傾斜させる第一傾斜機構と、
前記トレッド成形部が開かれた後に、前記回動軸を回動の中心として回動させて前記セグメントの傾きを戻す第二傾斜機構と、を含んでもよい。
【0013】
上記構成によれば、回動軸を回動の中心としてセグメントを回動させて傾斜又は傾斜状態から傾きを戻させることができる。この際、第一傾斜機構がセグメントを傾斜させ、また、第二傾斜機構がセグメントの傾斜を戻すことができる。
【0014】
本発明に係るタイヤ成形用金型は、更に、
前記セグメントの径方向外側に配置され、前記セグメントを規定位置に保持する保持位置と、前記セグメントの径方向外側への傾斜を許容する解放位置との間で移動自在のアウターリングを更に備えてもよい。
【0015】
上記構成によれば、アウターリングによって、セグメントを規定位置に保持する状態と、セグメントの径方向外側への傾斜を許容する状態とを切り替えることができる。
【0016】
本発明に係るタイヤ成形用金型は、更に、
前記アウターリングは、
前記トレッド成形部を閉じる際に前記セグメントを径方向内側に付勢する第一傾斜面部を有し、
前記セグメントの前記軸心の方向に沿い移動することにより前記トレッド成形部を閉じてもよい。
【0017】
上記構成によれば、トレッド成形部を閉じる場合は、軸心の方向に沿い移動して、この移動に伴ってアウターリングの第一傾斜面部でセグメントを径方向内側に付勢してセグメントを径方向内側に移動させて閉じることができる。
【0018】
本発明に係るタイヤ成形用金型は、更に、
前記トレッド成形部が開かれる際に、前記セグメントに形成された係合溝と係合し、前記セグメントを径方向外側に引き出すレール部を有し、
前記係合溝及び前記レール部は、前記第一傾斜面部の傾斜方向に沿い配置され、
前記レール部は、
一方の端部に形成された凸部と凸部と平坦部とを有し、
前記第一傾斜機構として、前記セグメントを前記凸部で径方向外側に付勢して回動させ、
前記第二傾斜機構として、前記レール部を前記平坦部に沿わせることにより、前記セグメントを径方向外側に付勢して前記セグメントを回動させて前記セグメントの傾きを戻してもよい。
【0019】
上記構成によれば、レール部は、セグメントの一方の端部を凸部で径方向外側に付勢して回動させて傾斜させることができる。また、セグメントを傾斜させた後、レール部は、係合溝を平坦部に沿わせることにより、セグメントを径方向外側に付勢してセグメントを回動させて傾斜状態から傾きを戻すことができる。
【0020】
本発明に係るタイヤ成形用金型は、更に、
前記アウターリングは、前記トレッド成形部が開かれる際に、前記セグメントを係止させて前記セグメントを径方向内側にけん引する第二傾斜面部を有し、
前記第二傾斜面部は、前記第一傾斜面部に沿い配置され、
前記傾斜機構は、
前記第一傾斜機構として、前記セグメントの一方の端部と連結し、前記第二傾斜面部に係止される第一リンク部と、
前記第二傾斜機構として、前記セグメントにおける前記第一リンク部が連結する側とは別の端部と連結し、前記第二傾斜面部に係止される第二リンク部と、を有し、
前記第一リンク部は、前記第二傾斜面部にけん引されて、前記セグメントを径方向外側にけん引して前記セグメントを傾斜させ、
前記第二リンク部は、前記第二傾斜面部にけん引されて、前記セグメントを径方向外側にけん引して前記セグメントの傾きを戻してもよい。
【0021】
上記構成によれば、第二傾斜面部は、第一リンク部を径方向外側にけん引してセグメントを傾斜させることができる。また、セグメントを傾斜させた後、第二傾斜面部は、第二リンク部を径方向外側にけん引してセグメントの傾きを戻すことができる。
【0022】
本発明に係るタイヤ成形用金型は、更に、
前記第一リンク部は、前記セグメントが傾斜した後、前記第二傾斜面部への係止を解除されてもよい。
【0023】
上記構成によれば、第一リンク部が第二傾斜面部への係止を解除されることで、第二傾斜面部が第一リンク部を径方向外側にけん引してセグメントを傾斜させた後、第二傾斜面部が第二リンク部を径方向外側にけん引してセグメントの傾きを戻す際に、すみやかにセグメントの傾きを戻すことができる。
【0024】
本発明に係るタイヤ成形用金型は、更に、
前記トレッド成形部が開かれる際に、第一の前記セグメントを傾けた後、第二の前記セグメントを傾けてもよい。
【0025】
上記構成によれば、同時に全てのセグメントを傾けることを要せず、セグメントの駆動に必要な駆動力の最大値を低減することができる。
【0026】
上記目的を達成するための本発明に係るタイヤ製造方法は、
円周方向に並ぶ複数のセグメントに分割された円環状のトレッド成形部を備えたタイヤ成形用金型を用いたタイヤ製造方法であって、
未加硫の生タイヤの加硫成形後に前記トレッド成形部を開く際に前記セグメントを前記トレッド成形部の径方向外側に傾斜させる第一工程と、
前記トレッド成形部が開かれた後に、前記セグメントの傾きを戻す第二工程と、を含む。
【0027】
本発明に係るタイヤ製造方法は、更に、
前記第二工程は、前記トレッド成形部が開かれた後、且つ、前記トレッド成形部がタイヤのトレッドから完全に離間する前に実行されてもよい。
【0028】
上記方法によれば、上述のタイヤ成形用金型と同様の作用又は効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の一実施の形態であるタイヤ成形用金型の正面視での断面図である。
図2】トレッド成形部の平面視での断面図である。
図3】第一実施形態における、タイヤ成形用金型の要部の詳細構造を拡大して示す正面視での断面図である。
図4】第一実施形態における、1つのセグメントの下部の詳細構造を拡大して示す正面視での断面図である。
図5】第一実施形態における、1つのセグメントをトレッド成形部の径方向における外側から見た図である。
図6】第一実施形態における、タイヤの離型の初期におけるタイヤ成形用金型の要部の状態を示す正面視での断面図である。
図7図6に示す状態から更にタイヤの離型が進んだ状態におけるタイヤ成形用金型の要部の状態を示す正面視での断面図である。
図8】タイヤの離型が完了した状態におけるタイヤ成形用金型の要部の状態を示す正面視での断面図である。
図9】トレッド成形部が完全に開いた状態におけるタイヤ成形用金型の要部の状態を示す正面視での断面図である。
図10】第一実施形態の変形例における、タイヤ成形用金型の要部の詳細構造を拡大して示す正面視での断面図である。
図11】第二実施形態における、タイヤ成形用金型の要部の詳細構造を拡大して示す正面視での断面図である。
図12図11のA-A断面図である。
図13図11のB-B断面図である。
図14】第二実施形態における、タイヤの離型の初期におけるタイヤ成形用金型の要部の状態を示す正面視での断面図である。
図15図14に示す状態から更にタイヤの離型が進んだ状態におけるタイヤ成形用金型の要部の状態を示す正面視での断面図である。
図16】タイヤの離型が完了した状態におけるタイヤ成形用金型の要部の状態を示す正面視での断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(第一実施形態)
以下、本実施形態に係るタイヤ成形用金型及びタイヤ製造方法を、図面を参照しつつ詳細に例示説明する。なお、各図において共通する部材・部位には同一の符号を付している。
【0031】
図1に示す本発明の一実施の形態に係るタイヤ成形用金型1は、未加硫(加硫前)の合成ゴムを主体として形成された生タイヤを、加硫しつつ所定の形状に成形してタイヤ2を製造するために用いられるものである。
【0032】
なお、タイヤ2は、合成ゴムを主体として、一対のサイドウォール2a、2bとトレッド2cとを有し、内部に空気や窒素等の気体が充填される空間を備えた形状に形成された中空タイヤである。
【0033】
タイヤ成形用金型1は、サイドウォール成形部10とトレッド成形部20とを備えている。
【0034】
サイドウォール成形部10は、例えば、下側コンテナ3の上面に固定された円環状の下側サイドウォール成形部11と、上側コンテナ4の下面に固定された円環状の上側サイドウォール成形部12とを備えた構成とすることができる。
【0035】
サイドウォール成形部10は、下側サイドウォール成形部11と上側サイドウォール成形部12との間に、円環状のタイヤ2ないし生タイヤを、その中心軸がサイドウォール成形部10の中心軸Oと同軸となる姿勢で配置(収納)することができる。
【0036】
下側サイドウォール成形部11は、中心軸Oを中心とした円環状で上向きの下側サイドウォール意匠面11aを備えており、下側サイドウォール意匠面11aによりタイヤ2ないし生タイヤの一方(図1において下方を向く側)のサイドウォール2aの外側面を成形することができる。
【0037】
同様に、上側サイドウォール成形部12は、中心軸Oを中心とした円環状で下向きの上側サイドウォール意匠面12aを備えており、上側サイドウォール意匠面12aによりタイヤ2ないし生タイヤの他方(図1において上方を向く側)のサイドウォール2bの外側面を成形することができる。
【0038】
サイドウォール成形部10は、下側コンテナ3に対して上側コンテナ4が図1に示す位置から上方(タイヤ2の中心軸に沿って両者が離れる方向)に相対移動することで開かれ、タイヤ2はサイドウォール成形部10から離型される。一方、上側コンテナ4が図1に示す元の位置にまで下方に移動することにより、サイドウォール成形部10は、開いた状態からタイヤ2ないし生タイヤの成形が可能な状態にまで閉じられる。
【0039】
なお、サイドウォール成形部10の構成は、例えば、上側コンテナ4に対して下側コンテナ3が下方に相対移動して開かれる構成とするなど、その構成は適宜変更可能である。
【0040】
トレッド成形部20は、サイドウォール成形部10と同軸の円環状となっている。トレッド成形部20は、下側サイドウォール成形部11及び上側サイドウォール成形部12の径方向外側に隣接して配置されている。トレッド成形部20の径方向内側を向く内周面は、タイヤ2のトレッド2cの外周面を成形するトレッド意匠面20aとなっている。
【0041】
図2に示すように、トレッド成形部20は、円周方向に並ぶ複数のセグメント21に分割されている。それぞれのセグメント21は平面視において円弧状となっている。それぞれのセグメント21は、円周方向に組み合わされて全体として円環状の金型となるトレッド成形部20を構成している。本実施形態では、トレッド成形部20は、円周方向の長さが互いに同一の9つのセグメント21に分割された構成とされている。なお、トレッド成形部20の円周方向への分割数は、7個から13個とするのが好ましいが、これに限らず適宜変更可能である。
【0042】
図3に示すように、本実施形態では、トレッド成形部20を構成する複数のセグメント21は、それぞれホルダ22と意匠面分割金型部23とを有している。
【0043】
ホルダ22は、例えば低炭素鋼などの金属製のブロックを切削加工して形成されたものとすることができる。
【0044】
意匠面分割金型部23は、タイヤ2のトレッド2cを成形するトレッド意匠面20aを構成する部分であり、平面視において円弧状であり、径方向内側を向く面がトレッド意匠面20aの円周方向に分割された一部を構成している。意匠面分割金型部23は、対応するホルダ22の径方向内側に配置され、図示しないボルト等の固定部材を用いてホルダ22に固定されている。
【0045】
意匠面分割金型部23は、トレッド意匠面20aに、トレッド意匠面20aから径方向内側に向けて径方向に沿って突出する複数の突起24が設けられた構成とすることができる。複数の突起24は、加硫成形の際に、タイヤ2のトレッド2cにトレッドパターン2dを形成する溝ないしサイプ等を成形するものである。複数の突起24は、タイヤ幅方向に延びるもの、タイヤ周方向に延びるものなど、トレッドパターン2dに対応した種々の形状ないし大きな(長さ)のものとすることができる。
【0046】
意匠面分割金型部23は、例えばアルミニウム合金などの熱伝導性の高い金属材料を鋳造して形成されたものとするのが好ましい。この場合、例えば、鋼材によりリブ状ないしブレード状に形成された突起24を、意匠面分割金型部23を鋳造する際に意匠面分割金型部23に一体化させて設けた構成とすることができる。
【0047】
図3に示すように、それぞれのセグメント21は、トレッド成形部20の軸心の方向の一端側(図3に示す場合では下端側)に、当該セグメント21の移動方向(径方向)及びトレッド成形部20の軸心のそれぞれに垂直な回動軸5を備えている。本実施形態では、一例として、回動軸5がホルダ22の下端側部分に設けられている場合を説明している。回動軸5は、意匠面分割金型部23に設けてもよい。
【0048】
それぞれのセグメント21の下方には、当該セグメント21に対応した個別のベース部材6が配置されている。ベース部材6は、回動軸5を支持することで、回動軸5を中心として回動自在にセグメント21を支持している。すなわち、セグメント21は、ベース部材6に対して回動軸5を中心として回動自在となっている。
【0049】
トレッド成形部20は、それぞれのセグメント21が規定位置にある状態でタイヤ2を加硫成形した後、それぞれのセグメント21が回動軸5を中心として規定位置から径方向外側に向けて回動することで、トレッド意匠面20aからトレッド2cを離型させるように開くことができる。
【0050】
本実施形態では、図4に示すように、タイヤ成形用金型1は、下側コンテナ3と下側サイドウォール成形部11とに支持されて当該セグメント21の径方向に沿って延びるガイドレール25を備えている。ガイドレール25は、ベース部材6をトレッド成形部20の径方向に移動自在に支持する。これにより、ベース部材6は、トレッド成形部20の軸心(中心軸O、図1図2参照)を中心とした径方向に移動することができるようになっている。
【0051】
また、図4に示すように、ベース部材6と下側サイドウォール成形部11との間には、ベース部材6をトレッド成形部20の径方向外側に向けて付勢するスライド用バネ部材26が配置されている。それぞれのセグメント21は対応するスライド用バネ部材26により、径方向外側に向けて付勢されている。ベース部材6が径方向に移動すると、これに支持されるセグメント21もベース部材6と共に径方向に移動する。
【0052】
それぞれのセグメント21と当該セグメント21に対応するベース部材6との間には、タイヤ2の加硫成形後にトレッド成形部20が径方向外側に開かれるときに、当該セグメント21に、セグメント21の上端側が回動軸5を中心として径方向外側に移動する方向にセグメント21を回動させる外力を付与する外力付与機構30が設けられている。
【0053】
本実施形態では、外力付与機構30は、セグメント21に外力としてバネ力を付与する回動用バネ部材31を備えた構成となっている。なお、外力付与機構30は、セグメント21に外力としてバネ力を付与する回動用バネ部材31を備えた構成に限らず、例えばエアシリンダー等の駆動源によりセグメント21に外力を付与する構成とすることもできる。
【0054】
より具体的には、図4に示すように、外力付与機構30は、ベース部材6の上面に上下方向に延びる垂直姿勢で固定された軸体32を備えている。軸体32は、セグメント21を構成するホルダ22に設けられた穴部22aに挿通され、その上端に設けられたフランジ部33が穴部22aに配置されている。回動用バネ部材31は圧縮コイルバネであり、フランジ部33と穴部22aの底壁との間に圧縮した状態で配置されている。これにより、セグメント21には、外力付与機構30から、セグメント21の上端側が回動軸5を中心として径方向外側に移動する方向にセグメント21を回動させる外力が付与されている。
【0055】
図1図3図4に示すように、外力付与機構30が付与する外力に抗してセグメント21を規定位置に保持するために、それぞれのセグメント21の径方向外側には、アウターリング7が配置されている。
【0056】
アウターリング7は、セグメント21の径方向外側に配置され、セグメント21を規定位置に保持する保持位置と、トレッド成形部20の径方向外側へのセグメント21の傾斜を許容する解放位置との間で移動自在となっている。
【0057】
アウターリング7は、上側サイドウォール成形部12を介して上側コンテナ4に固定されており、上側コンテナ4と共に下側コンテナ3ないしベース部材6に支持されたセグメント21に対して上下方向に相対移動することができる。なお、規定位置とは、セグメント21が、意匠面分割金型部23に設けられたトレッド意匠面20aが、他のセグメント21の意匠面分割金型部23に設けられたトレッド意匠面20aに対して円周方向に沿って連続的に連なる姿勢となる位置である。
【0058】
アウターリング7は、径方向内側を向く内周面に、上方に向けて徐々に外径が小さくなるように傾斜する第一傾斜面部7aを備えている。また、アウターリング7は、径方向内側を向く外周面に、上方に向けて徐々に外径が小さくなるように傾斜する第二傾斜面部7bを備えている。第二傾斜面部7bは、第一傾斜面部7aに沿う面となっている。
【0059】
一方、それぞれのセグメント21は、径方向外側を向く外周面に、上方に向けて徐々に外径が小さくなるように傾斜するテーパー面21aを備えている。本実施形態では、テーパー面21aは、ホルダ22の外周面に設けられている。テーパー面21aは、第一傾斜面部7aとおおよそ沿う傾斜面とされている。
【0060】
アウターリング7は、図1図3に示す保持位置にあるときに、第一傾斜面部7aをセグメント21のテーパー面21aに当接させて、セグメント21を規定位置に保持する。アウターリング7は、上側コンテナ4が上方に移動してトレッド成形部20が開かれるときに、上側コンテナ4と共に保持位置よりも上方側にある解放位置にまで軸心の方向に沿い移動することができる。なお、アウターリング7は、解放位置から保持位置にセグメントの軸心の方向に沿い移動することによりトレッド成形部20を閉じることができる。
【0061】
それぞれのセグメント21と当該セグメント21に対応するベース部材6及びアウターリング7との間には、タイヤ2の加硫成形後にトレッド成形部20を径方向外側に開かれるときに、当該セグメント21に、回動軸5を中心として径方向外側又は径方向内側に回動させて、セグメント21の傾斜状態を調整する傾斜機構が設けられている。傾斜機構は、セグメント21を径方向外側に傾斜させると共に、傾斜したセグメント21の傾きを戻す外力をセグメント21に対して付与する。
【0062】
傾斜機構は、トレッド成形部20が開かれた後、且つ、トレッド成形部20がタイヤのトレッドから完全に離間する前に、セグメント21の傾きを戻すよう構成されている。
【0063】
傾斜機構は、図3図5に示すように、上述の回動軸5(図3参照)と、ベース部材6と、に加えて、更に、トレッド成形部20が開かれる際に、回動軸5を回動の中心として回動させてセグメント21を傾斜させる第一傾斜機構としての第一リンク部50と、トレッド成形部20が開かれた後(開き始めた後)に、回動軸5を回動の中心として回動させてセグメント21の傾きを戻す第二傾斜機構としての第二リンク部40と、を含む。
【0064】
第一リンク部50は、図3に示すように、アルファベットの大文字のU字形状に近い形状をした部材である。本実施形態の第一リンク部50は、U字形状における谷部分から見て一端側が他端側よりも長い。第一リンク部50は、セグメント21からアウターリング7に掛け渡されている。第一リンク部50は、セグメント21の一方の端部と連結し、第二傾斜面部7bに係止可能とされている。本実施形態では、第一リンク部50は、その一端側がセグメント21(本実施形態では一例としてホルダ22)の上端部側において、トレッド成形部20の周方向に延出する支持軸65に軸支されてセグメント21と連結している。また、第一リンク部50は、下側コンテナ3の上面から延出するリンク支持部60の支持軸61に軸支され、また、第二傾斜面部7bに係止可能とされている。
【0065】
第一リンク部50の一端側には長穴51が形成されている。第一リンク部50は、この長穴51に支持軸65を挿通されて、セグメント21に連結されている。また、第一リンク部50は、U字形状の谷の部分におけるセグメント21側の端部を支持軸61に軸支され、支持軸61を回動中心として回動可能とされている。第一リンク部50は、他端側が第二傾斜面部7bよりもトレッド成形部20の径方向外側に配置され、第二傾斜面部7bと係合可能とされている。本実施形態では、第一リンク部50は、他端側における先端側(上端部)に第二傾斜面部7bに対向する突起52が形成されている。
【0066】
第一リンク部50は、アウターリング7の規定位置から解放位置への移動に伴って、第二傾斜面部7bにけん引されて、セグメント21の上端部を径方向外側にけん引してセグメント21を傾斜させる。本実施形態では、セグメント21の回動軸5を中心とした径方向外側への回動により、セグメント21の上端側を径方向外側に移動させてセグメント21を傾斜させる。なお、以下の説明では、アウターリング7が規定位置から解放位置への移動していくことを、単に、アウターリング7の上昇、などと記載する場合がある。
【0067】
第二リンク部40は、図3に示すように、アルファベットのU字形状に近い形状をした部材である。本実施形態の第二リンク部40は、U字形状における谷部分から見て一端側が他端側よりも短いかほぼ同じ長さである。第二リンク部40は、セグメント21からアウターリング7に掛け渡されている。第二リンク部40は、セグメント21における第一リンク部50が連結する側とは別の端部と連結し、第二傾斜面部7bに係止可能とされている。本実施形態では、第二リンク部40は、セグメント21(本実施形態では一例としてホルダ22)の下端部側、すなわち、第一リンク部50がセグメント21に連結される位置よりも下側において、トレッド成形部20の周方向に延出する支持軸64に軸支されてセグメント21と連結している。また、第二リンク部40は、リンク支持部60の支持軸61と、第二傾斜面部7bとに係止されている。
【0068】
第二リンク部40の一端側には長穴41が形成されている。第二リンク部40は、この長穴41に支持軸64を挿通されて、セグメント21に係止されている。また、第二リンク部40は、U字形状の谷の部分におけるセグメント21側の端部を支持軸61に軸支され、支持軸61を回動中心として回動可能とされている。第二リンク部40は、他端側が第二傾斜面部7bよりもトレッド成形部20の径方向外側に配置され、第二傾斜面部7bと係合可能とされている。本実施形態では、第二リンク部40は、他端側における先端側(上端部)に第二傾斜面部7bに対向する突起42が形成されている。突起42は、第一リンク部50の突起52よりも上側に配置されている。突起42は、突起52よりも、第二傾斜面部7bから径方向外側に離間した位置に配置されている。
【0069】
第二リンク部40は、アウターリング7の上昇に伴って、第二傾斜面部7bにけん引されて、傾いているセグメント21を径方向外側にけん引してセグメント21の傾きを戻す。本実施形態では、セグメント21の回動軸5を中心とした径方向内側への回動により、セグメント21の下端側を径方向外側に移動させてセグメント21を起こす。
【0070】
第一リンク部50は、図5に示すように、一例として、第二リンク部40よりも、トレッド成形部20の周方向外側に配置してよい。第二傾斜面部7bよりも径方向外側において、第一リンク部50の上端は、第二リンク部40の上端よりも下側に配置されている。
【0071】
タイヤ成形用金型1は、生タイヤの内部に配置され、加圧蒸気が供給されることにより膨張するブラダー8を備えている。また、タイヤ成形用金型1は、サイドウォール成形部10及びトレッド成形部20を加熱するためのヒーター(不図示)を備えている。ヒーターの設置場所は適宜設定可能である。
【0072】
次に、上記構成を有するタイヤ成形用金型1を用いて、生タイヤを加硫成形して所定形状のタイヤ2を製造する方法、すなわち本発明の一実施の形態であるタイヤ製造方法について説明する。
【0073】
まず、サイドウォール成形部10及びトレッド成形部20を開いた状態として、タイヤ成形用金型1の内部に生タイヤを配置し、次いで、図1図3に示すように、サイドウォール成形部10及びトレッド成形部20を閉じた状態とする。
【0074】
アウターリング7は、トレッド成形部20を閉じる際に、その第一傾斜面部7aをセグメント21に当接させて、セグメント21を径方向内側に付勢し、セグメント21を径方向内側に移動させる。トレッド成形部20が閉じた状態では、第一リンク部50の突起52及び第二リンク部40の突起42は第二傾斜面部7b(図3参照)と離間している。突起42は、突起52よりも、第二傾斜面部7bから離間させて配置されている。すなわち、突起42と第二傾斜面部7bとの距離は、突起52と第二傾斜面部7bとの距離よりも遠い。
【0075】
次に、生タイヤの内部に配置したブラダー8に加圧蒸気を供給して当該ブラダー8を膨張させ、生タイヤの両サイドウォールをそれぞれサイドウォール成形部10の下側サイドウォール意匠面11aないし上側サイドウォール意匠面12aに押し付けると共に、トレッドをトレッド成形部20のトレッド意匠面20aに押し付ける。そして、この状態で、ヒーターによってサイドウォール成形部10及びトレッド成形部20を加熱し、当該熱により生タイヤを構成する合成ゴムを加硫して、所定形状のタイヤ2に成形する。
【0076】
タイヤ2の成形が完了した後、サイドウォール成形部10及びトレッド成形部20を開き、成形されたタイヤ2を取り出す。
【0077】
ここで、タイヤ2を加硫成形した後、アウターリング7がそれぞれのセグメント21に対して保持位置から解放位置に向けて上方に移動(上昇)してトレッド成形部20が開かれていくと、図6に示すように、セグメント21がトレッド成形部20の径方向外側に傾斜される第一工程が実行される。この工程では、アウターリング7の上昇により、第一リンク部50の突起52が第二傾斜面部7bに当接し、第一リンク部50が第二傾斜面部7bに係止される。突起52が第二傾斜面部7bに当接した後、更にアウターリング7が上昇すると、突起52は第二傾斜面部7bに対して当接した状態で、第二傾斜面部7bに対して相対的に下方且つ径方向外側に滑りながら、径方向外側に向けてけん引される。これにより、第一リンク部50がセグメント21をけん引してセグメント21を径方向外側に傾斜させる。この状態では、意匠面分割金型部23のトレッド意匠面20aは、タイヤ2のトレッド2cに対して傾斜した状態となる。
【0078】
上述のセグメント21の傾斜により、タイヤ2のトレッド2cが、意匠面分割金型部23におけるトレッド意匠面20aのタイヤ2の幅方向の一端側(図6では上端側)が他端側(図6では下端側)よりも先に徐々に離型し、当該一端側からトレッド2cとトレッド意匠面20aとの間に徐々に外気が導入されるようにして、タイヤ2の離型の初期における、タイヤ2のトレッド2cのトレッド意匠面20aからの離型抵抗を低減することができる。
【0079】
なお、突起52が第二傾斜面部7bに対して当接した状態では、第二リンク部40の突起42は第二傾斜面部7bと離間した状態を維持してよい。
【0080】
更に、トレッド成形部20が開かれた後(意匠面分割金型部23におけるトレッド意匠面20aの一部が離型した後)に、セグメント21の傾きを戻す第二工程(図6から図7にかけての動作を参照)が実行される。第二工程は、意匠面分割金型部23におけるトレッド意匠面20aの一部が離型したが、突起24がトレッドパターン2dから抜けきらない状態、すなわち、セグメント21におけるトレッド意匠面20aがタイヤ2のトレッド2cから完全に離間する前に実行するとよい。この工程では、図7に示すように、アウターリング7の上昇により、突起52が第二傾斜面部7bから滑り落ち、第一リンク部50の第二傾斜面部7bへの係止が解除されると共に、第二リンク部40の突起42が第二傾斜面部7bに当接し、第二リンク部40が第二傾斜面部7bに係止される。すなわち、第一リンク部50がセグメント21の上端部を径方向外側に向けてけん引した後に、第二リンク部40がセグメント21の下端部を径方向外側に向けてけん引可能となる。詳述すると以下のとおりである。図6に示すように、突起42が第二傾斜面部7bに当接した後、更にアウターリング7が上昇すると、突起42は第二傾斜面部7bに対して当接した状態で、第二傾斜面部7bに対して相対的に下方且つ径方向外側に滑りながら、径方向外側に向けてけん引される。これにより、第二リンク部40がセグメント21の下端部をけん引してセグメント21の傾きを戻す。すなわち、第二リンク部40がセグメント21の下部をけん引することで、セグメント21は径方向内側に向けて回動しつつ、全体としては径方向外側に向けて移動しながら起こされる。第二リンク部40がセグメント21をけん引している状態では、意匠面分割金型部23のトレッド意匠面20aは、タイヤ2のトレッド2cに沿う状態(本実施形態では平行)となる。意匠面分割金型部23のトレッド意匠面20aは、タイヤ2のトレッド2cに沿う状態となることで、例えば突起24がトレッドパターン2dの溝などに沿った位置関係となり、突起24がタイヤ2のトレッド2cに対して生じるアンダーカット抵抗を低減することができる。すなわち、タイヤ2のトレッド2cのトレッド意匠面20aからの離型抵抗を低減することができる。
【0081】
図7に示すように、セグメント21の傾きが戻された後は、更なるアウターリング7の上昇に伴って、トレッド成形部20が開いていき、セグメント21が径方向外側に移動して(図7から図8にかけての動作を参照)、意匠面分割金型部23におけるトレッド意匠面20aの離型が完了する(図8参照)。更なるアウターリング7の上昇に伴って、突起42も第二傾斜面部7bから滑り落ち、第二リンク部40の第二傾斜面部7bへの係止も解除され、その後、トレッド成形部20は後述するように完全に開く(図9参照)。
【0082】
図9に示すように、第二リンク部40の第二傾斜面部7bへの係止が解除された後は、セグメント21は、外力付与機構30により付与される外力により駆動されて、回動軸5を中心として径方向外側へ向けて自発的に回動する。
【0083】
なお、本実施形態のタイヤ成形用金型1では、上述のごとく、図4に示すように、ベース部材6をトレッド成形部20の径方向に移動自在に支持するガイドレール25と、ベース部材6をトレッド成形部20の径方向外側に向けて付勢するスライド用バネ部材26と、を有している。これにより、図9に示すように、第二リンク部40の第二傾斜面部7bへの係止が解除された後、更にアウターリング7が解放位置にまで上昇すると、セグメント21は、外力付与機構30により付与される外力により規定位置から回動軸5を中心として径方向外側へ向けて自発的に回動しつつ、スライド用バネ部材26により付勢されて、ベース部材6と共にガイドレール25に沿って径方向外側に向けて移動する。これにより、トレッド成形部20は完全に開く。
【0084】
このように、本実施形態のタイヤ成形用金型1を用いたタイヤ製造方法では、タイヤ2を加硫成形した後、トレッド成形部20が開かれるときに、セグメント21を傾斜機構によって径方向(本実施形態の例示では、径方向外側)に傾斜させる(図6参照)ことで、タイヤ2の離型の初期に、タイヤ2のトレッド2cをトレッド意匠面20aから離型させるのに必要な力を低減することができる。また、セグメント21に加える駆動力を低減することができるので、製造に必要なエネルギーを低減し、製造コストを低減することができる。更に、タイヤ2のトレッド2cのトレッド意匠面20aからの離型抵抗を低減することができるので、離型後のタイヤ2に残留歪(永久変形)が生じることを抑制して、タイヤ2の初期性能を向上させることができる。
【0085】
意匠面分割金型部23におけるトレッド意匠面20aの一部が離型した後にセグメント21を傾斜機構によって起こして意匠面分割金型部23のトレッド意匠面20aをタイヤ2のトレッド2cに沿う状態とする(図7参照)ことで、突起24がタイヤ2のトレッド2cに対して生じるアンダーカット抵抗を低減して、タイヤ2の離型中におけるセグメント21の駆動に必要な駆動力を更に低減することができる。更に、タイヤ2をトレッド成形部20から離型させる際に、アンダーカット抵抗が過度に大きくなることを抑制して、成形後のタイヤ2のトレッド2cに永久変形が生じたり、突起24が破損したりするなどの不具合を抑制することもできる。
【0086】
なお、本実施形態のタイヤ成形用金型1では、上述のごとく、アウターリング7が解放位置にまで移動(上昇)すると、図9に示すように、セグメント21が、外力付与機構30により付与される外力により規定位置から回動軸5を中心として径方向外側へ向けて自発的に回動しつつ、スライド用バネ部材26により付勢されて、ベース部材6と共にガイドレール25に沿って径方向外側に向けて移動する構成としている。これにより、例えば、建設車両等に用いられる大型のタイヤを成形する場合など、トレッド意匠面20aに設けた突起24の突出高さが高い場合などにおいて、回動軸5を中心としてセグメント21を回動させる際に突起24がタイヤ2のトレッド2cに対して生じるアンダーカット抵抗を低減することができると共に、タイヤ2を離型する際に突起24が邪魔にならない位置にまでセグメント21を移動させてタイヤ2の離型をより容易に行い得るようにすることができる。
【0087】
更に、本実施形態のタイヤ成形用金型1では、セグメント21の径方向外側に配置され、セグメント21を規定位置に保持する保持位置と、セグメント21の回動軸5を中心とした径方向外側への回動を許容する解放位置との間で移動自在のアウターリング7を備えた構成としたので、セグメント21の開閉機構を簡素化して、タイヤ2の製造コストをより低減することができる。
【0088】
本実施形態のタイヤ成形用金型1は、タイヤ2の加硫成形後にトレッド成形部20が開かれるときに、複数のセグメント21の内の1つのセグメント(第1のセグメント)21が回動軸5(第1の回動軸)を中心として径方向外側に向けて回動した後、複数のセグメント21の内の他のセグメント(第2のセグメント)21が回動軸(第2の回動軸)5を中心として径方向外側に向けて回動する構成とすることができる。すなわち、複数のセグメント21が、セグメント21ごとに時間差を有して、順に回動する構成とすることができる。この場合、1つのセグメント21が回動軸5を中心として径方向外側に向けて回動した後、当該セグメント21に隣接するセグメント21が回動軸5を中心として径方向外側に向けて回動し、次いで、当該セグメント21に隣接するセグメント21が回動軸5を中心として径方向外側に向けて回動するというように、円周方向に向けて順にセグメント21が回動軸5を中心として径方向外側に向けて回動する構成とすることができる。このような構成により、タイヤ2の離型の初期において、トレッド意匠面20cに対して、トレッド2cが、その一部から円周方向に順に離型されるようにして、より小さな駆動力でタイヤ2のトレッド2cをトレッド意匠面20aから離型させることができる。
【0089】
(第一実施形態の変形例)
上記実施形態では、突起42は、第一リンク部50の突起52よりも上側に配置されており、突起42は、突起52よりも、第二傾斜面部7bから離間させて配置されている場合を説明した。しかし、図10に示すように、突起42を第一リンク部50の突起52よりも下側に配置し、且つ、突起52を、突起42よりも、第二傾斜面部7bから離間させて配置してもよい。この場合は、第二リンク部40がセグメント21の下端部を径方向外側に向けてけん引した後に、第一リンク部50がセグメント21の上端部を径方向外側に向けてけん引可能となる。これにより、タイヤ2を加硫成形した後、トレッド成形部20が開かれるときに、セグメント21を第二リンク部40によって径方向内側に傾斜させ、更に、意匠面分割金型部23におけるトレッド意匠面20aの一部が離型した後にセグメント21を第一リンク部50によって起こして意匠面分割金型部23のトレッド意匠面20aをタイヤ2のトレッド2cに沿う状態とし、タイヤ2の離型の初期及びタイヤ2の離型中におけるセグメント21の駆動に必要な駆動力を低減することができる。
【0090】
(第二実施形態)
第一実施形態では、タイヤ成形用金型1が、傾斜機構として第一傾斜機構と第二傾斜機構とを有し、第一傾斜機構が第一リンク部50であり、第二傾斜機構が第二リンク部40である場合を説明した。第二実施形態では、第一実施形態と異なり、第一リンク部50及び第二リンク部40に代えて、図11に示すように、傾斜機構として、セグメント21のテーパー面21aに形成された係合溝28と、アウターリング7の第一傾斜面部7aに形成されたレール部70とを含む。以下の説明では、第一実施形態と異なる部分を中心に説明し、重複する説明は適宜省略する。
【0091】
係合溝28は、テーパー面21aにおいて、上下方向及び径方向に沿い延在する溝として形成されている。レール部70は、の第一傾斜面部7aにおいて、上下方向及び径方向に沿い延在するレール状の部材として形成されている。係合溝28とレール部70とは、レール部70が係合溝28に嵌り込むなどして係合可能であり、且つ、係合した状態でレール部70が係合溝28を介してセグメント21を径方向外側にけん引して引き出せる状態であり、且つ、係合した状態で係合溝28の延在方向に沿って摺動可能となる組み合わせであれば、その形状は問わない。
【0092】
本実施形態では、係合溝28は、一例として、図12図13に示すように、溝の底部分が、周方向の前後に拡大する形状をしている。係合溝28は、係合溝28の延在方向に沿って見た場合、その断面が、例えばアルファベットの大文字のT字形状とされている。図11から図13では、溝の内面の内、径方向内側の面を内側面28a、径方向外側の面を外側面28bとして示している。
【0093】
レール部70は、本実施形態では、第一傾斜面部7aから延出し、更に先端部分が周方向における前後に突出した形状とされている。レール部70は、一例として、図12図13に示すように、レール部70の延在方向に沿って見た場合、その断面がアルファベットの大文字のT字形状とされている。レール部70は、係合溝28に嵌り込んだ状態で、T字形状における先端の横棒部分が係合溝28係合するようになっている。
【0094】
図11に示すように、レール部70の径方向外側面は概ね平坦部71(図12参照)となっており、レール部70の上端部には、径方向外側に突起した凸部72が形成されている(図13参照)。凸部72は、レール部70の上端部において、レール部70の延在方向に沿う所定範囲に形成されている。レール部70における、凸部72よりも下の部分は平坦部71である。
【0095】
図11に示すように、サイドウォール成形部10及びトレッド成形部20を閉じた状態では、アウターリング7は、その第一傾斜面部7aをセグメント21に当接させている。なお、アウターリング7は、トレッド成形部20を閉じる際に、その第一傾斜面部7aをセグメント21に当接させて、セグメント21を径方向内側に付勢し、セグメント21を径方向内側に移動させる。
【0096】
サイドウォール成形部10及びトレッド成形部20を閉じた状態では、レール部70は、係合溝28の内側面28aに当接又は離間し、外側面28bとは離間している(図12図13参照)。
【0097】
図14に示すように、トレッド成形部20を開くために、アウターリング7が上昇してレッド成形部が開かれていくと、セグメント21がトレッド成形部20の径方向外側に傾斜される第一工程が実行される。この工程では、アウターリング7の上昇により、凸部72が外側面28bに当接し、凸部72が外側面28bを介してセグメント21の上端部を径方向外側に付勢し、セグメント21を回動させて傾斜させる。これにより、タイヤ2のトレッド2cが、トレッド意匠面20aのタイヤ2の幅方向の一端側(図14では上端側)が他端側(図14では下端側)よりも先に徐々に離型する。なお、凸部72が外側面28bに当接している状態では、平坦部71は外側面28bと離間している状態、又は、平坦部71の下端部のみが外側面28bに当接している状態となる。
【0098】
更に、トレッド成形部20が開かれた後(トレッド意匠面20aの一部が離型した後)に、セグメント21の傾きを戻す第二工程(図14から図15にかけての動作を参照)が実行される。第二工程は、セグメント21におけるトレッド意匠面20aがタイヤ2のトレッド2cから完全に離間する前に実行するとよい。この工程では、図15に示すように、アウターリング7の上昇により、凸部72が係合溝28から抜け出て、係合溝28の外側面28bに、平坦部71が広く当接する状態になる。これにより、セグメント21を径方向外側に付勢して、セグメント21が平坦部71に沿う状態となるように回動させて、セグメント21の傾きを戻し、トレッド意匠面20aがタイヤ2のトレッド2cに沿う状態(本実施形態では平行)とする。
【0099】
セグメント21の傾きが戻された後(図15参照)は、更なるアウターリング7の上昇に伴って、トレッド成形部20が開いていき、セグメント21が径方向外側に移動して(図15から図16にかけての動作を参照)、トレッド意匠面20aの離型が完了する(図16参照)。アウターリング7の上昇に伴って、平坦部71の下端部のみが係合溝28の外側面28bにおける上端部に当接する状態となると、セグメント21の上端部が径方向外側に傾斜する場合がある。
【0100】
レール部70が係合溝28から完全に抜け出て、且つ、アウターリング7が解放位置にまで上昇すると、セグメント21は、外力付与機構30により付与される外力により規定位置から回動軸5を中心として径方向外側へ向けて自発的に回動しつつ、スライド用バネ部材26により付勢されて、ベース部材6と共にガイドレール25に沿って径方向外側に向けて移動する。これにより、トレッド成形部20は完全に開く。
【0101】
本実施形態のように、傾斜機構が係合溝28とレール部70で構成されると、第一実施形態における第一リンク部50及び第二リンク部40のごとく、可動な部品を傾斜機構として用いる必要がなくなり、構造が簡素化されて、コストダウンが可能となる。またタイヤ成形用金型1の耐久性が向上してコストダウンが可能となる。
【0102】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0103】
1 :タイヤ成形用金型
10 :サイドウォール成形部
11 :下側サイドウォール成形部
11a :下側サイドウォール意匠面
12 :上側サイドウォール成形部
12a :上側サイドウォール意匠面
2 :タイヤ
20 :トレッド成形部
20a :トレッド意匠面
20c :トレッド意匠面
21 :セグメント
21a :テーパー面
22 :ホルダ
22a :穴部
23 :意匠面分割金型部
24 :突起
25 :ガイドレール
26 :スライド用バネ部材
28 :係合溝
28a :内側面
28b :外側面
2a :サイドウォール
2b :サイドウォール
2c :トレッド
2d :トレッドパターン
3 :下側コンテナ
30 :外力付与機構
31 :回動用バネ部材
32 :軸体
33 :フランジ部
4 :上側コンテナ
40 :第二リンク部
41 :長穴
42 :突起
5 :回動軸
50 :第一リンク部
51 :長穴
52 :突起
6 :ベース部材
60 :リンク支持部
61 :支持軸
64 :支持軸
65 :支持軸
7 :アウターリング
70 :レール部
71 :平坦部
72 :凸部
7a :第一傾斜面部
7b :第二傾斜面部
8 :ブラダー
O :中心軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16