IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立製作所の特許一覧

<>
  • 特開-可剥離性保護膜に保護された車両 図1
  • 特開-可剥離性保護膜に保護された車両 図2
  • 特開-可剥離性保護膜に保護された車両 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068591
(43)【公開日】2023-05-17
(54)【発明の名称】可剥離性保護膜に保護された車両
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/04 20060101AFI20230510BHJP
   B32B 7/06 20190101ALI20230510BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20230510BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20230510BHJP
   B32B 7/027 20190101ALI20230510BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20230510BHJP
   C09D 133/04 20060101ALI20230510BHJP
   C09D 5/20 20060101ALI20230510BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20230510BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20230510BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230510BHJP
【FI】
B32B15/04 Z
B32B7/06
B32B27/20 Z
B32B27/30 A
B32B7/027
C09D201/00
C09D133/04
C09D5/20
B05D7/14 M
B05D5/00 A
B05D7/24 303A
B05D7/14 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021179863
(22)【出願日】2021-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】勝村 宣仁
(72)【発明者】
【氏名】鵜原 治
(72)【発明者】
【氏名】山岡 康宏
(72)【発明者】
【氏名】安森 大祐
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AE03
4D075BB21Z
4D075BB24Z
4D075CA07
4D075CA13
4D075CA14
4D075CA17
4D075CA40
4D075CA47
4D075CA48
4D075DB01
4D075DB07
4D075DC11
4D075EA06
4D075EB22
4D075EB38
4D075EB53
4D075EC10
4D075EC13
4D075EC30
4D075EC53
4D075EC54
4F100AB04C
4F100AB10A
4F100AB31A
4F100AK25C
4F100AK51B
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100CA23C
4F100CC01B
4F100DE01C
4F100DE02C
4F100GB32
4F100JA05C
4F100JD04
4F100JK06C
4F100JL14C
4F100JM01
4F100YY00C
4J038CG131
4J038KA08
4J038KA20
4J038MA10
4J038NA10
4J038PB07
4J038PC02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】長期に亘って優れた水分不透過性および適度な密着力を有する可剥離性保護膜に保護された車両を提供する。
【解決手段】金属構造物11と、金属構造物に形成された塗装膜21と、塗装膜に形成された可剥離性保護膜31とを備え、可剥離性保護膜は、樹脂4と、金属の板状のフィラー5とを有する可剥離性保護膜に保護された車両。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属構造物と、
前記金属構造物に形成された塗装膜と、
前記塗装膜に形成された可剥離性保護膜とを備え、
前記可剥離性保護膜は、
樹脂と、金属の板状のフィラーとを有する可剥離性保護膜に保護された車両。
【請求項2】
請求項1に記載の可剥離性保護膜に保護された車両において、
前記可剥離性保護膜における前記フィラーの濃度が、
1重量%以上50重量%以下である可剥離性保護膜に保護された車両。
【請求項3】
請求項1に記載の可剥離性保護膜に保護された車両において、
前記フィラーは、
長辺が30μm以上100μm以下であり、短辺が前記長辺の1/10以下の板状の粒子である可剥離性保護膜に保護された車両。
【請求項4】
請求項3に記載の可剥離性保護膜に保護された車両において、
前記フィラーは、ステンレスである可剥離性保護膜に保護された車両。
【請求項5】
請求項1に記載の可剥離性保護膜に保護された車両において、
前記樹脂は、メタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルの重合体であり、ガラス転移温度20℃以下である可剥離性保護膜に保護された車両。
【請求項6】
請求項1に記載の可剥離性保護膜に保護された車両において、
前記塗装膜と前記可剥離性保護膜との間の剥離強度が、
0.1N/10mm以上1.4N/10mm以下である可剥離性保護膜に保護された車両。
【請求項7】
金属構造物と、前記金属構造物に形成された塗装膜とを有する車両に可剥離性保護膜を形成する方法であって、
樹脂とフィラーと溶媒とを含む組成物を、前記塗装膜に塗布し、
硬化させることで可剥離性保護膜を形成する車両の可剥離性保護膜形成方法。
【請求項8】
請求項7に記載の車両の可剥離性保護膜形成方法において、
前記溶媒を乾燥により除去し、前記可剥離性保護膜を形成する車両の可剥離性保護膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可剥離性保護膜に保護された車両に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車や鉄道などの車両は、製造から使用までの間の輸送や保管時において、異物の付着や太陽光線、物理的な損傷などから車両表面の塗装を保護する必要がある。このような塗装の保護を行う手法として、例えば、アクリル系共重合体エマルジョンを含有する可剥離性コーティング剤水分散物を用いて塗装表面に保護膜を形成する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。上記技術によれば、保護膜に適度な密着力を付与することで、輸送や保管時の密着性と、使用する際の可剥離性とを両立させながら、車両の塗装を保護する効果が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-286934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような従来の技術を用いて保護膜を形成する場合、保管期間が比較的短い場合は概ねその目的を達成することができる。しかしながら、1年を超えるような長期に亘る保管条件下(特に、高温高湿環境下)では、大気中の水蒸気が保護膜を浸透して塗装膜を変質させることで膨れやシミが発生したり、日光などの照射により保護膜自体が劣化して適度な密着力(密着性や可剥離性)が損なわれることがある。
【0005】
本発明の目的は、長期に亘って優れた水分不透過性および適度な密着力を有する可剥離性保護膜に保護された車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の好ましい一例としては、金属構造物と、前記金属構造物に形成された塗装膜と、前記塗装膜に形成された可剥離性保護膜とを備え、
前記可剥離性保護膜は、樹脂と、金属の板状のフィラーとを有する可剥離性保護膜に保護された車両である。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、長期に亘って優れた水分不透過性および適度な密着力を有する保護膜に保護された車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1である塗装部の概略構成図である。
図2】透過水率(相対比)を示す図である。
図3】塗装部を有する車両を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における車両は、表面に塗装が施された塗装部を有する車両であって、塗装部は、金属構造物と、金属構造物上に形成された塗装膜と、塗装膜上に形成された可剥離性保護膜(保護膜)とを備える。この可剥離性保護膜は、塗装膜の表面に接するように配置され、樹脂と金属の板状のフィラーとを含むものである。
【0010】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明するが、本発明は、図面に記載の実施例にのみ限定されるものではない。また、車両における塗装部以外の構成は、公知技術に係る車両の構成と同様であるので、その詳細な説明を省略する。
【0011】
図1は、実施例1を示す図である。具体的には、図1は、金属構造物11、塗装膜21、および可剥離性保護膜31を有する塗装部の概略構成図である。
【0012】
図3は、車両401を示す図である。車両401は、車輪402、側引き戸403、窓404、塗装部405、パンタグラフ406を備える。
【0013】
車両401は、表面に塗装が施された塗装部405を有する車両であって、塗装部405は、図1に示すように、概略的に、金属構造物11と、塗装膜21と、可剥離性保護膜31とにより構成されている。
【0014】
金属構造物11は、例えば、金属材料を目的物の形状に見合うように成形した板金などで構成されている。金属構造物11を構成する金属材料としては、特に限定されない。上記金属材料としては、例えば、鋼、アルミニウム合金、ステンレス鋼、ジュラルミン、CFRP(炭素強化プラスティック)等が挙げられる。
【0015】
塗装膜21は、金属構造物11上に設けられた塗装膜である。塗装膜21は、車両401の使用時(後述する可剥離性保護膜31の剥離時)において、最表部(外気10に接する部位)に配置される。塗装膜21としては、例えば、金属構造物11の腐食を防ぐための防食機能を有する塗料や、金属構造物11表面の凹凸形状を修正するために比較的厚く塗られたパテなどの下地塗料と、この下地塗料上に形成される滑らかで鮮やかな色彩を有する塗料と、を有するように構成することができる。塗装膜21は、一層で構成されていてもよく、複数の層で構成されていてもよい。
【0016】
塗装膜21は、金属構造物11から容易に剥離しないように、金属構造物11に強固に固着される。塗装膜21と金属構造物11との剥離強度としては、例えば、JIS-K5600に規定の付着性試験(クロスカット法)に準拠した粘着テープ剥離法による剥離試験において、4N/cm以上の剥離強度を有するように構成することができる。
【0017】
塗装膜21の厚みは、塗装膜21の種類等に応じて適宜選択することができる。例えば、塗装膜21が金属構造物の防錆とデザイン性の向上を目的とする塗装膜である場合、10μm~1000μmの厚みを有していてもよい。
【0018】
可剥離性保護膜31は、塗装膜21上に設けられた塗装膜である。可剥離性保護膜31は、例えば、塗装膜21を保護するための保護膜であり、例えば車両401を製造する際、塗装膜21を覆うように形成される。
【0019】
可剥離性保護膜31は、車両401を使用する際、塗装膜21から剥離される。可剥離性保護膜31は、塗装膜21の表面に接するように配置され、樹脂と金属の板状のフィラーとを含む。
【0020】
可剥離性保護膜31に含まれる樹脂4としては、例えば、アクリル系共重合体などのエマルジョン等を用いて硬化させたもの等が挙げられる。アクリル系共重合体エマルジョンとしては、例えば、アルキルアクリル酸エステルの一種もしくは二種以上および/またはアルキルメタクリル酸エステルの一種もしくは二種以上と、これらアルキルアクリル酸エステルおよび/またはアルキルメタクリル酸エステルと共重合可能な、酢酸ビニルまたはヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、アリルアルコールなどの水酸基含有ビニル単量体、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどのエポキシ基含有ビニル単量体、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、ブチルスチレン、ベンジルスチレンなどの芳香族ビニル単量体等のビニル単量体の一種もしくは二種以上と、の共重合体エマルジョン等が挙げられる。
【0021】
樹脂4としてアクリル系共重合体エマルジョンを用いて硬化させたものを用いることで、フィラー5どうしを確実に接着することができる。また、樹脂4を形成する際、高温処理を用いて硬化させることが好ましい。
【0022】
なお、上記アクリル系共重合体エマルジョンは1種または2種以上を組み合わせて、樹脂4としてガラス転移温度20℃以下として用いることができる。ガラス転移温度を20℃以下とすることで、ゴム状態を保持し、塗装膜21と密着しながらも剥離可能であり、また塗装膜21の熱膨張にも追従することにより自然剥離を防止することができる。
【0023】
フィラー5は、樹脂4の中に分散される粒子である。フィラー5の形状としては、例えば、板状の形状を採用することができる。フィラー5は、水分不透過性、水分を吸収しない物質で形成されていることが好ましい。フィラー5を構成する材料としては、例えば、ステンレス、金、銀などの金属材料が挙げられる。フィラー5を構成する材料としては、ステンレスが好ましい。
【0024】
フィラー5として上記材料で構成することで、水分不透過・不吸収性および遮光性をより高めることができる。ここで、可剥離性保護膜31にフィラー5が含まれている理由について説明する。可剥離性保護膜31にフィラー5が含まれているのは、水分不透過性および遮光性を高めるためである。
【0025】
まず、可剥離性保護膜31が水分不透過性を発現する仕組みを説明する。可剥離性保護膜31における水分不透過性は、以下に示す表面効果と内部効果とが関連しているものと推察される。
【0026】
表面効果は、外部の水分(外気10中の湿気など)が可剥離性保護膜31に侵入するのを阻止する効果である。可剥離性保護膜31は、樹脂4とフィラー5とが例えばランダムに混在した状態となっている。このため、フィラー5が可剥離性保護膜31の表面31sの少なくとも一部を占有している分、その占有割合に応じて水分が可剥離性保護膜31の内部に侵入するのが阻止され、この可剥離性保護膜31に水分不透過性を発現させる。
【0027】
内部効果は、可剥離性保護膜31に侵入した水分が可剥離性保護膜31の内部を浸透するのを阻止する効果である。可剥離性保護膜31中にはフィラー5が含まれているため、侵入した水分はフィラー5の妨害により塗装膜21に向かって直線的に浸透することができない。このため、塗装膜21に向かって水分が浸透する際、水分が通過する水分浸透経路40が直線的な浸透に比べてより長くなり(図1の可剥離性保護膜31中の実線参照)、結果として水分の浸透が抑制される。このように、可剥離性保護膜31が存在することで、上述した表面効果と内部効果とにより優れた水分不透過性が発現すると考えられる。
【0028】
次に、可剥離性保護膜31が遮光性を発現する仕組みを説明する。可剥離性保護膜31にはフィラー5が含まれており、このフィラー5が、例えば日光などのような外部からの光線を反射したり吸収する。このため、光線が塗装膜21に到達するのを抑制することができ、また塗装膜21近傍の樹脂4が劣化するのを防止することで長期に亘って適度な密着力(密着性および可剥離性)を維持することができる。
【0029】
なお、フィラー5は、板状の粒子であることが好ましい。板状のフィラー5は、図2に示すように、その長辺方向が、概して可剥離性保護膜31の表面31s(塗装膜21と反対側の面)の面方向と同じ方向に配向する傾向にある。このため、外部からの水分が通過する水分浸透経路40の長さが長くなり、水分不透過性を高めることができる。かかる場合、板状のフィラー5は、長辺が30μm以上100μm以下でありかつ短辺が長辺の1/10以下の粒子を含んでいることがより好ましい。
【0030】
そのような範囲とする理由は、フィラー5の面は、辺が長い方がよいが、辺の長さが30μm未満だとフィラーが小さくなり形状が球状となるので水分不透過性が劣る。また、フィラーの面における辺の長さが100μmを超えると形状が大きくなり重量が大きくなる。その場合には、フィラーが溶液中に沈んでしまい、その溶液を使って塗布作業をする際に作業性が悪くなってしまう。
【0031】
短辺が長辺の1/10以下のフィラーは、フィラー5を積み重ねることができ、水分浸透経路40の長さを確実に確保することができ、水分不透過性を効果的に高めることができる。
【0032】
可剥離性保護膜31におけるフィラー5の濃度は、1重量%以上50重量%以下であることが好ましい。フィラー5の濃度を上記範囲とすることで、十分な水分不透過性を確保すると共に、フィラー5どうしを確実に接着することができる。可剥離性保護膜31の厚みは、特に限定されない。可剥離性保護膜31の厚みとしては、例えば、10μm以上1000μm以下としてもよい。これにより、塗装膜21と可剥離性保護膜31との密着性および可剥離性を両立することができる。
【0033】
塗装膜21と可剥離性保護膜31との間の剥離強度は、0.1N/10mm以上1.4N/10mm以下であることが好ましい。これにより、塗装膜21と可剥離性保護膜31との密着性と可剥離性とを両立することができる。
【0034】
剥離強度の下限値としては、0.3N/10mmが好ましく、0.5N/10mmがより好ましい。剥離強度の下限値を上記値とすることで、塗装膜21と可剥離性保護膜31との密着性を高めることができる。
【0035】
剥離強度の上限値としては、1.4N/10mmが好ましく、1N/10mmがより好ましい。剥離強度の上限値を上記値とすることで、可剥離性保護膜31の塗装膜21からの可剥離性をより確実に発現させることができる。
【0036】
可剥離性保護膜31を塗装膜21から剥離する際の剥離態様としては、可剥離性保護膜31が塗装膜21との界面21sにおいて連続して剥離可能であることが好ましい。具体的には、例えば、剥離しようとする可剥離性保護膜31の端部をつまみ、剥離方向に沿って10cm/秒~10m/秒の速度で可剥離性保護膜31を剥離したときに、可剥離性保護膜31がちぎれることなく連続して塗装膜21から剥離できることが好ましい。これにより、過大な手間をかけずに可剥離性保護膜31を円滑に剥離することができる。
【0037】
次に、車両401の塗装部405の形成方法について説明する。まず、所定の形状に成形された金属構造物11を用意し、この金属構造物11上に、塗装膜21、可剥離性保護膜31の順で塗装膜と可剥離性保護膜31とを形成する。
【0038】
塗装膜21の形成方法としては、その構成(種類や機能など)に応じ、公知の技術を適宜適用することができる。可剥離性保護膜31の形成方法としては、例えば、塗装膜21上に、可剥離性保護膜31の形成に用いる重合体(または、重合体単体、または重合体および硬化剤)とフィラー5と溶媒とを含む組成物を塗布し、所定温度で所定時間加熱硬化することで可剥離性保護膜31を形成する。
【0039】
以上のように、車両401の塗装部405は、上記構成であるので、長期に亘って優れた水分不透過性および適度な密着力(密着性および可剥離性)を維持することができる。その結果、塗装膜21との適度な密着力が損なわれたり、塗装膜21に膨れやシミが発生するのを防止することができる。なお、本発明は、上述した実施形態の構成に限定されるものではない。
【0040】
次に、本発明の実施例1および比較例を説明する。
<塗装部の作製>
実施例1および比較例で用いた材料を説明する。
[A]金属構造物
(A-1)金属材料:アルミ合金(A5052)、厚み:3mm、表面形状:平坦(段差なし)
[B]塗装膜
(B-1)溶液剤系塗料 ウレタン樹脂塗料(日本ペイント社製)
[C]可剥離性保護膜
(C-1)アクリル系共重合体エマルジョン(アルキルアクリル酸エステル)(リンレイ社製、型番:PA-2)
(C-2)フィラー:板状ステンレス粒子(東洋アルミニウム社製、平均粒径60μm)
(C-3)溶媒:蒸留水
【実施例0041】
金属構造物として金属材料(A-1)上に、溶液剤系塗料(B-1)を塗布し、50℃で加熱処理することで厚み50μmの塗装膜を作製した。次に、上記塗装膜上に、アクリル系共重合体エマルジョンC-1を40重量部、フィラーC-2を40重量部、および溶媒C-3を60重量部含有する組成物(可剥離性保護膜の溶液)を塗布した。その後、50℃で10分間加熱処理することで、溶媒C-3を乾燥などにより除去することで、厚み250μmの外層を形成(可剥離性保護膜を構成)し、実施例1の構成を得た(図1参照)。
【0042】
本実施例の可剥離性保護膜は、アクリル系共重合体の樹脂成分が50重量%、フィラーC-2が50重量%の組成からなる可剥離性保護膜である。
【0043】
次に比較例1について説明する。
【0044】
実施例1と同様に形成した塗装膜上に、アクリル系共重合体エマルジョンC-1を40重量部、および溶媒C-3を60重量部含有する組成物(フィラーなしの溶液)を塗布した後、50℃で10分間加熱処理することで厚み500μmの保護膜を作製し、比較例1を得た。
【0045】
本比較例1の可剥離性保護膜は、フィラーC-2を有しない組成の可剥離性保護膜である。
【0046】
次に比較例2について説明する。
【0047】
実施例1と同様に形成した塗装膜上に、アクリル系共重合体エマルジョンC-1を40重量部、フィラーC-2を50重量部、および溶媒C-3を60重量部含有する組成物を塗布した後、50℃で10分間加熱処理することで厚み500μmの保護膜を作製し、比較例2を得た。
【0048】
比較例2の可剥離性保護膜は、フィラーC-2を50重量%より多く含有した組成の可剥離性保護膜である。
【0049】
次に、実施例1、比較例1、比較例2の評価について説明する。
【0050】
水分不透過性、並びに密着力(密着性および可剥離性)を評価し、その結果を図2に示す。
[水分不透過性]
実施例1および比較例1、比較例2のそれぞれについて、温度60℃、湿度90%の環境下に100時間暴露することで加速試験を行った後、JIS Z0208に規定の防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法)に準拠して透湿度を測定し、この測定値を水分不透過性の指標とした。
【0051】
図2は、透過水率(相対比)の測定結果を示す図である。
図2に示すように、実施例1は、比較例1に比べて0.7、比較例2に比べて0.5の程度、透過水率が小さい。そのため、実施例1は、比較例1および比較例2に対して水分の不透過性が良好であった。
[密着力(密着性および可剥離性)]
実施例1および比較例2のそれぞれについて、[水分不透過性]の加速試験と同様の加速試験を行った後、180°剥離試験を行い、その測定値(剥離強度)を密着性の指標とした。
【0052】
実施例1の剥離強度は0.85N/10mmであり、かつ剥離方向に沿って10cm/秒~10m/秒の速度で可剥離性保護膜を塗装膜から剥離したときに、可剥離性保護膜がちぎれることなく連続して塗装膜から剥離することができ、良好な剥離性が得られた。
【0053】
一方で比較例2は連続して塗装膜から剥離することが難しく、20mm程度の剥離を行うと、ちぎれてしまい、良好な剥離性を得ることができなかった。
【0054】
本実施例により、長期に亘って優れた水分不透過性を維持することができる。また、製品の流通時の一時的な保護、例えば流通時に屋外に一時的に保管したり屋外に晒される恐れのある場合に有効な、製品の一時保護を目的とする可剥離性保護膜、および本保護膜に保護された車両を実現できる。
【符号の説明】
【0055】
4 樹脂、5 フィラー、11 金属構造物、21 塗装膜、31 可剥離性保護膜、401 車両、402 車輪、403 側引き戸、404 窓、405 塗装部、406 パンタグラフ
図1
図2
図3