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特開2023-68598含硫温泉水浸漬による抗酸化力の強いエルゴチオネイン及びグルタチオン高含有アーモンド麹の製造法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068598
(43)【公開日】2023-05-17
(54)【発明の名称】含硫温泉水浸漬による抗酸化力の強いエルゴチオネイン及びグルタチオン高含有アーモンド麹の製造法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/14 20060101AFI20230510BHJP
   A23L 33/17 20160101ALI20230510BHJP
   A23L 33/175 20160101ALI20230510BHJP
   A23L 33/20 20160101ALI20230510BHJP
【FI】
C12N1/14 B
A23L33/17
A23L33/175
A23L33/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021191580
(22)【出願日】2021-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】503165026
【氏名又は名称】三友商事株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今野 宏
(72)【発明者】
【氏名】中島 敏朗
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
【Fターム(参考)】
4B018MD01
4B018MD23
4B018MD57
4B018MD80
4B018ME01
4B018ME06
4B065AA58X
4B065AC14
4B065AC15
4B065BB02
4B065BB27
4B065BC03
4B065BC18
4B065BD22
4B065CA17
4B065CA24
4B065CA42
(57)【要約】
【課題】脱皮アーモンドを麹原料として用いる抗酸化力の優れたエルゴチオネイン、グルタチオン含量の高いアーモンド麹を作る方法を開示する。
【解決手段】アーモンドを含硫温泉水に浸漬し、吸水をしてアーモンドの表皮を剥離させた脱皮アーモンドを再度含硫温泉水に浸漬後、蒸煮し冷却後これに一定量のα化された米粉等の澱粉にリパーゼ活性の高い麹AOK139(受託番号:FERM P-20550)を接種、加湿保温し菌糸に覆われた繭玉状のアーモンド麹を得た後に除湿減温し、胞子を形成させることによって抗酸化力の強いエルゴチオネイン、グルタチオンリッチな健康食品素材としての美味な乾燥アーモンド麹が得られる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱皮アーモンドを含硫温泉水に浸漬し吸水させて、蒸煮し冷却後リパーゼ活性の高い麹菌に一定量のα化された米粉等の澱粉末を混合した粉体で冷却アーモンドをコーティングすることによって皮膜を形成させ、加温、保湿し当該麹菌を増殖させ菌糸が脱皮アーモンド皮膜を覆った後に、除湿減温環境下に一定期間静置することにより、胞子を形成させた抗酸化力の強いエルゴチオネイン及びグルタチオンを高含有するアーモンド麹の製造法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアーモンドを麹原料としてこれに含硫温泉水に浸漬した後に蒸煮し、冷却後に澱粉末で皮膜を形成させることによって麹菌を培養するアーモンド麹の製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アーモンドは低糖質であることに加え、ビタミンやミネラルなどの含量が高い上に、脂肪や糖の吸収を抑制する働きが期待されているオレイン酸を豊富に含んでいるので、栄養食品として人気がある。アーモンドは直接食べられる場合が多く、料理の素材として使われることは少なく、ましてや発酵させたアーモンドはその外皮に強い抗菌作用や原料中に炭水化物やタンパク質が少ないため、微生物の作用を受け難く発酵素材として使用されることはなかった。
【0003】
また、皮膜が剥離された裸のアーモンドは脂質が多いため、急速に油脂の酸化が進行する。一方、麹菌の増殖を阻害していたアーモンド皮膜が除去されたため、麹菌は増殖しやすくなるが、麹菌の増殖に必須の炭水化物やタンパク質が少ない上にアーモンド粒表層の油脂やポリフェノールのために麹菌の増殖が難しいことがアーモンドを麹化することができない理由であった。
【0004】
発明者はアーモンドを麹化することによってエルゴチオネイン、グルタチオン含量が上昇することを見出した。それぞれ2点の機能性成分について説明する。
【0005】
最初にエルゴチオネインについて説明する。
「エルゴチオネインについて」:エルゴチオネインはキノコ類などの菌類や一部の細菌のみが合成できる成分で、含硫アミノ酸の一種である。水に溶ける性質を持ち、熱や酸に強く、120℃で2時問処理してもほとんど影響を受けない。エルゴチオネインは元々多くの生物に存在するが、動食物では合成できず、キノコなどの菌類が主に生産する。エルゴチオネインを生産することのできない植物は土壌細菌を作り出したエルゴチオネインを根から吸収し、また動物は植物を摂取することによってエルゴチオネインを体に貯蔵する。
【0006】
エルゴチオネインは抗酸化力が強く、DNAの損傷や過酸化脂質の生成を防ぐ働きが知られている。エルゴチオネインは主にキノコから抽出されるが、キノコが子実体を形成するには長い培養時間が必要となる。
【0007】
エルゴチオネインを産生する子嚢菌や担子菌を培養後、エルゴチオネインを抽出精製する方法が特許文献1及び特許文献2に開示されている。
【0008】
エルゴチオネイン生産量を上げるためには、エルゴチオネイン分子に硫黄分子を含むため含硫アミノ酸であるメチオニン、システィン、ヒスチジンを添加することにより、これらのアミノ酸が前駆物質となりタモギタケ、ヒラタケ、エリンギなどのキノコがエルゴチオネインを蓄積する知見が先行技術として特許文献3に開示されている。
【0009】
また、キノコを菌糸体培養し、生成した菌糸体からエルゴチオネインを抽出することを特徴とするエルゴチオネイン製造法が特許文献4に開示されている。
【0010】
また、エルゴチオネインはヒスチジンから生合成され、エルゴチオネインの硫黄原子はシスティンから供給されることが非特許文献1で知られる。
【先行技術文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007-300916 特許文献1
【特許文献2】特開2008-110988 特許文献2
【特許文献3】特許4865083 特許文献3
【特許文献4】特許5231025 特許文献4
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】高木俊夫、SHとSSの生化学.有機合成化学35巻5号 P332-342(1977)
【0013】
次にグルタチオンの説明をする。
「グルタチオンについて」:グルタチオンは、レグルタミン酸、L-システィン及びグリシンから構成される低分子ペプチドであり、天然の抗酸化物質である。グルタチオンは動物、植物及び微生物を含む生物において広く見出されている。動物細胞におけるその代謝及び生理学的機能、ならびにグルタチオンを過剰生成するためのプロセスは既に知らされていて、機能性健康食品製品の有望な成分でもある。
【0014】
食品分野において、グルタチオン食品の風味改善などを目的とし用いられている。システィンなどの含硫アミノ酸及びγ-グルタミル-L-レシスティンなどのペプチドは、食品の風味改善などを目的として用いられている。
【0015】
しかし、システィンは細胞毒性を示すためシスティンそのものの細胞内高含有化は困難である。よって、システィンに代えてγ-グルタミル-L-システィンを細胞内に高含有する方法が報告されている。それによると、γ-グルタミル-L-システィンを含む酵母エキスを加熱または酵素処理することにより、システィンを高含有する食品素材を得られるという特許文献5が開示されている。
【0016】
グルタチオンは天然に広く存在するが、グルタチオンの工業的製造法としてはパン酵母▲Saccharomyces cerevisiae▼やSCPとして知られる▲Candida utilis▼などの酵母菌体からの抽出方法が一般的である。
【0017】
具体的には▲Saccharomyces cerevisiae▼の培養において培地にシスティン等のアミノ酸を添加する方法が特許文献6に開示されている。
【0018】
また酵母の培養において、培地に微量の金属イオン(亜鉛等)を添加する方法が特許文献7に開示されている。
【0019】
さらにはこれら酵母にメタノール・ギ酸などのCI化合物を添加する方法も特許文献8に開示されている。
【0020】
またこれら酵母の突然変異処理により取得されているポリエン系抗生物質耐性株を用いる方法も特許文献9に開示されている。
【0021】
現在では、酵母のグルタチオン合成経路及び代謝経路に関与する酵素をコドする遺伝子が数多く明らかにされているため、グルタチオン合成に関与する遺伝子の操作によってグルタチオン含有率の高い酵母菌株を育種する試みも特許文献10、特許文献11、特許文献12に開示されている。
【0022】
上記のアミノ酸を添加する方法は、グルタチオン構成アミノ酸であるシスティン・グルタミン酸及びグリシンやシスティン合成と関連のあるメチオニッ(その硫黄原子がセリンのヒドロキシ基酸素原子と置き換わることによりシスタチオンニンを生成し、最終的にシスティンを生成)のように、グルタチオン生合成経路と関連性の高いアミノ酸を添加するとグルタチオン蓄積量が上昇することが非特許文献2に記載されている。
【0023】
しかしながら、グルタチオン蓄積量の上昇目的でシスティンを添加するには、50mMという高濃度のシスティンが必要になるため酵母は増殖阻害を起こす。
【先行技術文献】
【0024】
【特許文献5】国際公開第00/3047
【特許文献6】特開昭53-94089
【特許文献7】特開昭52-156994
【特許文献8】特開昭60-244284
【特許文献9】特開2003-284547
【特許文献10】特開2005-73638
【特許文献11】特開64-51098
【特許文献12】特開平10-33161
【0025】
【非特許文献2】G.Liang et al.,Bio.Eng.J.,Vo1.41.P234-240(2008)
【0026】
上述したエルゴチオネイン、グルタチオンのような含硫生理活性物質を微生物を用いて生産する先行技術に共通していることは、培養時に上述含硫生理活性物質にその前駆体で含硫アミノ酸であるメチオニン、システィン、ヒスチジンを添加したりすることによって、微生物のアミノ酸代謝の結果として上述のような含硫生理活性物質を得ることを特微としている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明の課題はアーモンドの形状を維持したままエルゴチオネイン、グルタチオン等の含硫生理活性物質を含硫アミノ酸を添加することなく温泉水を使うことにより、豊富に含むアーモンド麹を製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明では脱皮アーモンドの形状を維持したまま、リパーゼ分解能の高い麹菌(受託番号 FERM P-20550)の胞子にα化された米粉やジャガイモ澱粉、トウモロコシ澱粉等で脱皮アーモンドをコーティングすることによって、生のアーモンドを基質とした際には麹菌が増殖できないにもかかわらず、麹菌胞子の発芽を促し菌糸を増殖させることができることを知り得た。
【0029】
また当該麹菌がエルゴチオネイン、グルタチオンを高生産させるために、脱皮アーモンド浸漬時に硫化水素素イオン(HSO )あるいは硫酸イオン(SO 2-)を含む、単純硫黄泉水で浸漬することによって脱皮アーモンドは温泉水を吸水する。そこに前述のα化された澱粉を当該麹菌胞子とともに混合接種することを特徴としている。
【0030】
エルゴチオネインやグルタチオンを微生物を用いて量産するためにその前駆物質の含硫アミノ酸を添加する方法は前述のように報告されているが、硫化水素イオン(HSO )や硫酸イオン(SO 2-)を含む単純硫黄泉水を用いた上述含硫生理活性物質の増強効果は知られていない。
【発明の効果】
【0031】
そこで発明者はリパーゼ活性の高い麹菌を模索し目的に合致した菌株(FERM P-20562)を得た。発明者はこのようなアミノ酸あるいは特定のミネラルを添加するのではなく、硫黄成分を泉質に持つ温泉水で原料処理を行い、キノコに比べて増殖の早い麹菌を発酵種として用いることにより、構造式に硫黄分子を持つエルゴチオネイン、グルタチオンにおいて顕著な生産量が増加するという知見を得た。
【0032】
さらには原料であるアーモンドに含有される油脂の酸化を麹菌の持つ抗酸化作用により低減化できることを見出した。
【0033】
含硫温泉水は硫化水素イオン(HSO )や硫酸イオン(SO 2-)が知られているので、麹菌の増殖に大きな阻害効果の少ないpHが弱酸性(pH4.5~PH6,0)で比較的硫酸イオン濃度の高い温泉水を用いてアーモンドを浸漬したところ、硫酸イオン濃度とpHとエルゴチオネイン、グルタチオンの生産性に大きく影響することを見出した。
【0034】
含硫温泉水は陰イオンとして前述の硫化水素イオン(HSO )や硫酸イオン(SO 2-)が知られており、陽イオンとしてナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、アルミニウムイオン、2価鉄イオン、3価鉄イオン等が知られている。
【0035】
温泉水中では一部イオン結合し硫酸ナトリウムや硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫化鉄となり石化するが、そのほとんどは陰イオン、陽イオンとして温泉水中に溶解している。硫酸塩とアミノ酸代謝については麹菌が以下の代謝経路を経て硫酸塩から含硫アミノ酸代謝を経てアミノ酸全体の代謝を経て菌体内にアミノ酸を取り込んでいくものと考えられる。
【実施例0036】
培養に先立ちアーモンドの皮が麹菌の増殖を阻害するため皮剥きを行う。皮剥きは含硫温泉水で洗浄後10分間沸煮すると容易に表皮が剥離するので表皮とアーモンド種子を分離する。脱皮された裸のアーモンドは含硫黄温泉水にて一晩浸漬し水切り後、1時間蒸煮し室温まで冷却する。この後、α澱粉を蒸煮アーモンドの表面を覆うように振り、α澱粉でコーティングされたアーモンドに一定量のリパーゼ活性の高い麹菌胞子を接種する。
【0037】
種付けされたアーモンドは30℃で20時間静置培養を行う。麹菌はα澱粉上に増殖するので菌膜を破らないように静かに攬絆し、さらに10時問同条件で培養を行い48時間で白い麹菌糸で覆われた繭玉状のアーモンド麹を得ることができる。エルゴチオネイン、グルタチオン含量を上げるには、さらに24時問以上培養を行い胞子が形成するまで熟成させることができる。その外観を図1に示した。アーモンド外層を白い麹菌糸によって覆われていて、呈味性の優れたアーモンド麹が得られた。
【0038】
アーモンド油脂の抽出は以下の方法で行った。蒸煮アーモンド及びアーモンド麹は3倍量の含硫温泉水で冷蔵庫内にて24時間浸漬後ミキサー磨砕(10rpm/800m1)して得られた液をただちに24時問凍結乾燥を行い、凍結乾燥された蒸煮アーモンド及びアーモンド麹に5倍量のクロロホルム:メタノール(容積比2:1)混合液(0.002%BHT含む)で2分間攬伴後、吸引ろ過を2回行い、そのろ液をロータリーエバポレーションで減圧濃縮し油脂を得た。
【0039】
油脂のTBA試験は油脂0.2mlをスクリューキャップ付耐熱試験管に測り取り、20%酢酸緩衝液(pH3.5)1.5ml、0.8%BHT氷酢酸溶液50μI、0.8%TBA試薬1.5m1、8.1%SDS水溶液0.2m1、蒸留水0.7m1を順に添加し、ボルティックスミキサーでよく混合した。次に60分間氷冷した後、60分問沸騰浴で加熱し、その後室温になるまで冷却した。これに蒸留水1.0m1、n-ブタノール:ピリジン(容積比15:1)混合液5.0m1を添加しボルティックスミキサーでよく混合した。この混合液を小試験管に移し、20℃、3000rpmで15分間遠心分離した後、上層全体の体積(m1)をピペットで測り取り、上層及び蒸留水の532nmでの吸光度を測定した。
【0040】
蒸煮アーモンドの過酸化脂質(ABS 532nm)の増加は顕著であるが、脱皮アーモンド麹の脂質安定性は極めて高く、20日問の室温保存においても変化はほとんど認められない(表1)。
【0041】
培養が終了した脱皮アーモンド麹からエルゴチオネイン、グルタチオンを抽出するには以下の方法で行った。すなわち脱皮アーモンド麹及び蒸煮アーモンドはミキサーで粉砕後、粉末0.5gを50mlサンプル瓶に測り取り、これに蒸留水10m1を加え70℃で30分間加熱抽出した。氷上に5分間置いた後、95%エタノール10mlを加え良く振り混ぜ、さらに10分問氷上に置いた。これをろ過後、ろ液を10m1ナスフラスコに測り取り減圧濃縮した。完全に乾固させたものに蒸留水2mlを加え充分に溶解懸濁後、2m1のプラスチックチューブに移し1300rpm、20℃、10分問遠心分離し、上澄み1.2m1を2m1プラスチックチューブに移し、500μ1のn-ヘキサンを用いて3回脱脂した後、水相を0,45μmのフィルターでろ過し、ろ液2μ1をHPLCにより分析した。
【0042】
エルゴチオネインの定量には日立La Chrom D-2000 Elite HPLC システムを用いた。分析条件はカラム:A sahipak CS-32HQ(Shode x,7.6mm l.D.×300mmL)、溶離液:0.1M NaHP0、カラム温度:室温、流速:0.4m1/min、検出波長:254nmで行った。
【0043】
グルタチオンの定量は総グルタチオン定量キット(同仁化学研究所製)を用いて行った。脱皮アーモンド麹は5%SSA(5・スルホサリチル酸)1ml中でホモジナイズし、8000rpmで10分間遠心分離後、上澄みを新しいチューブに移し、純水にてSSA濃度が0.5~1%になるように希釈したものを測定試料とした。各ウェルにCoenzyme working solutionとBuffer solution,Enzyme Working solutionを入れ、5分間37℃でインキュベートした。また別にGHS Standard solution及び脱皮アーモンド麹抽出溶液を各ウェルに入れ10分間37℃でインキュベートした。マイクロプレートリーダーで上記各ウェルの405~415nmの吸光度を測定し、総グルタチオン濃度を検量線より求めた。
【0044】
以上の方法により得られたアーモンド麹のエルゴチオネイン及びグルタチオンの含有量を表1に示した。
温泉水Aの例で見られるようにエルゴチオネイン、グルタチオンとも極めて高濃度の硫化水素イオンや硫酸イオンを含む強酸性温泉水処理物ではアーモンド浸漬中に完全に加水分解されてアーモンドの組織が崩壊してしまい、蒸煮することができなかった。同様の現象は温泉Bでも認められ、アーモンド組織が溶解し浸漬液が白濁していたが、アーモンドの形状は保たれていたので蒸煮し常法により麹化を行った。尚、温泉C、D及び対照区の精製水では何ら問題なくアーモンドを麹化することができた。
【0045】
エルゴチオネイン含量は温泉Cのアーモンド麹が(15.0mg/100gアーモンド麹)と4温泉水中一番高く精製水の1.58倍であった。精製水でもエルゴチオネイン生産は(9.5mg/100gアーモンド麹)と認められたので麹菌自体にエルゴチオネイン生産力があるものと考えられたので、C温泉水のエルゴチオネイン生産における実質含量は(15.0-9.5=5.5mg)であり、精製水と比べて1,58倍高かった。そこに含硫黄分子を含む硫化水素イオンや硫酸イオンが存在するとその分子を取込んで、麹菌はさらにエルゴチオネインを蓄積していく傾向にあることが伺われた。そこには含硫黄イオンの濃度によって生産性と相関がみられ、単純に硫化水素イオン濃度や硫酸イオン濃度が高ければ高いだけエルゴチオネイン含量が高まる傾向は無いことが判明した。
【0046】
硫化水索イオン(B温泉 6,1mg/l>C温泉 1.0mg/1>D温泉 0.1mg/l)についても硫酸イオン(B温泉 190.2mg>C温泉 42.1mg>D温泉 16,2mg)についても同様の傾向が伺え3温泉水中、C温泉の泉質が硫化水素イオン濃度や硫酸イオン濃度のような含硫黄イオン濃度の高いB温泉よりも高く、含硫黄イオン濃度の低いD温泉よりも高い傾向が認められたので、エルゴチオネイン濃度を高めるためには、いわゆるその生産性に黄金比が存在すると考えられた。
【0047】
同様の傾向は他の分子内に硫黄分子を持つ、グルタチオンについても認められた。すなわち、グルタチオンについては、温泉水Cのアーモンド麹が(8.0mg/100g麹)と4温泉中一番高く、精製水でもグルタチオン生産は(2,0mg/100g麹)と認められたので、麹菌自体にグルタチオン生産力があるものと考えられ、C温泉中のグルタチオン生産における実質含量は(8,0-2.0=6,0mg)であり精製水と比べて4,0倍高かった。そこに含硫黄分子を含む硫化水素イオンや硫酸イオンが存在する。その分子を取込みアーモンド麹内にグルタチオンを蓄積していく傾向にあることが伺われた。 そこには含硫黄イオン濃度によって相関性がみられ、単純に硫化水素イオン濃度や硫酸イオン濃度が高ければ高いだけグルタチオン含量が高まる傾向は無いことが明らかになった。
【0048】
さらには、含硫温泉水浸漬処理されたアーモンド麹の培養時問、48、96、168時間でのエルゴチオネイン、グルタチオンの生産量を比較した結果を表2に示した。
【0049】
発明者は麹菌を用いてアーモンドを含硫温泉水処理した上で麹化し、さらに胞子を形成させることによってC温泉水では7日間でエルゴチオネインを約1.8倍、グルタチオンを約2.4倍蓄積することを見出した。
【0050】
キノコを用いたエルゴチオネイン製造法と比べて麹培養法ではその培養期間を大幅に短縮することができることを見出した。
【0051】
胞子を形成させることがエルゴチオネイン、グルタチオンの蓄積量に影響する。胞子形成のためには培養環境を栄養体細胞の増殖期とは別に考える必要があり、環境湿度を急激に下げた乾燥状態にしておくことや、酸素分圧を変え酸欠状態に持っていったり、急激な温度の低下状況を作ったりと、栄養体細胞に物理化学的なストレスを与えることによってエルゴチオネイン、グルタチオンの蓄積量を上昇させることができると推察される。
【0052】
エルゴチオネインの場合、キノコの培養には一次培養で3週間、さらに二次培養で3週間と計約1か月半に及ぶ長時間の培養が必要になるが、アーモッド麹においては1週間程の短い培養時間で麹菌の胞子を形成させればその含量が増加することを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1
図2
【0054】
【表1】
【表2】
【手続補正書】
【提出日】2022-03-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0053
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0053】
図1】脱皮アーモンドとアーモンド麹の外観及び断面
図2】アーモンド麹の脂質安定性(室温)
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】全図
【補正方法】追加
【補正の内容】
図1
図2