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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068602
(43)【公開日】2023-05-17
(54)【発明の名称】イモ焼酎
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/06 20060101AFI20230510BHJP
   C12H 6/02 20190101ALI20230510BHJP
   C12G 3/02 20190101ALI20230510BHJP
【FI】
C12G3/06
C12H6/02
C12G3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021206946
(22)【出願日】2021-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2021179285
(32)【優先日】2021-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】302026508
【氏名又は名称】宝酒造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100135839
【弁理士】
【氏名又は名称】大南 匡史
(72)【発明者】
【氏名】増田 光平
(72)【発明者】
【氏名】堀江 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】高橋 悠典
【テーマコード(参考)】
4B115
【Fターム(参考)】
4B115MA03
4B115NB01
4B115NG10
4B115NP02
(57)【要約】
【課題】新たな香味を備えたイモ焼酎を提供する。
【解決手段】アルコール濃度25v/v%換算で、カプロン酸エチル含量が2~10mg/L、リナロール含量が125~450μg/L、β-ダマセノン含量が30~100μg/Lであることを特徴とするイモ焼酎が提供される。酢酸イソアミル含量が7.5~35mg/Lであることが好ましい。原料の少なくとも一部が橙色サツマイモ及び赤色サツマイモであることが好ましい。掛原料と麹原料がいずれもサツマイモのみである全量イモ焼酎であることが好ましい。本発明のイモ焼酎は、リンゴ様と柑橘様の華やかな香味と、サツマイモ様の甘い香味を兼ね備えた、香味良好で風味に優れたものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール濃度25v/v%換算で、カプロン酸エチル含量が2~10mg/L、リナロール含量が125~450μg/L、β-ダマセノン含量が30~100μg/Lであることを特徴とするイモ焼酎。
【請求項2】
前記カプロン酸エチル含量が3~5mg/L、前記リナロール含量が150~400μg/L、前記β-ダマセノン含量が30~50μg/Lであることを特徴とする請求項1に記載のイモ焼酎。
【請求項3】
アルコール濃度25v/v%換算で、酢酸イソアミル含量が7.5~35mg/Lであることを特徴とする請求項1又は2に記載のイモ焼酎。
【請求項4】
アルコール濃度25v/v%換算で、酢酸イソアミル含量が10~20mg/Lであることを特徴とする請求項1又は2に記載のイモ焼酎。
【請求項5】
アルコール濃度25v/v%換算で、カプロン酸エチル含量が2~10mg/L、リナロール含量が125~450μg/L、β-ダマセノン含量が30~100μg/L、酢酸イソアミル含量が10~20mg/Lであることを特徴とするイモ焼酎。
【請求項6】
原料の少なくとも一部が橙色サツマイモ及び赤色サツマイモであることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のイモ焼酎。
【請求項7】
掛原料と麹原料がいずれもサツマイモのみである全量イモ焼酎であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のイモ焼酎。
【請求項8】
発泡性を有することを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載のイモ焼酎。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イモ焼酎に関する。さらに詳細には、本発明は、カプロン酸エチル、リナロール、β-ダマセノンを特定量含有するイモ焼酎に関する。本発明のイモ焼酎は、リンゴ様と柑橘様の華やかな香味と、サツマイモ様の甘い香味を兼ね備えた、香味良好で風味に優れたものである。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の嗜好が多様化しており、イモ焼酎についても多様な香りや味わい等が求められている。例えば、バナナ様、ライチ様、マスカット様、等の風味を有するイモ焼酎が市販されている。
【0003】
イモ焼酎の特徴香に、原料サツマイモを起源とするリナロール、α-テルピネオール、シトロネロール、ネロール及びゲラニオールなどのモノテルペンアルコールが関与しているという研究報告がある(非特許文献1)。また、一般に、酒類においては、エステル成分が香味に寄与しており、例えば、酢酸イソアミルやカプロン酸エチルが果実様の香気を有することが知られている。さらに、β-ダマセノンが甘い香気を有することが知られている。
【0004】
イモ焼酎の香味を増強する技術としては、例えば、特許文献1~4に開示されたものがある。
特許文献1には、ストレスを受けたサツマイモを原料として醸造及び蒸留により製造した焼酎であって、リナロール、α-テルピネオール、シトロネロール、ネロール及びゲラニオールから選ばれたモノテルペン類化合物の何れか1種類の成分濃度が200μg/L以上で且つ該モノテルペン類化合物の総成分濃度が600μg/L以上の芳香成分及び香り豊かな焼酎が開示されている。
特許文献2には、麹を使用して原料を糖化及び/又は醸造することにより得られる酒類において、前記麹として、テルペン配糖体を含有する芋粉体を製麹して得られる芋粉麹を用いて、仕込み原料を糖化及び/又は醸造することによって製造されることを特徴とする酒類の製造方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、原料に橙色サツマイモを用いた、リナロールを高含有するイモ焼酎が開示されている。
特許文献4には、サツマイモの表面に略V字状の切れ込みを形成する表面処理、前記表面処理で入れた切れ込みの底部に沿って、一定の深さの切れ込みを形成する表面処理、酵素剤の散布、エチレンガス雰囲気下、かつ、所定の温度及び所定の湿度環境下での一定時間静置を行う工程を有する、焼酎の製造方法が開示されており、モノテルペンアルコールやローズオキサイドを高めた芋焼酎が開示されている。
【0006】
前述のように、モノテルペンアルコールが香りに寄与していることは知られてはいるが、モノテルペンアルコールと他の香味成分とを組み合わせて、香味を向上させることについては、十分に検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-17334号公報
【特許文献2】特開2005-245249号公報
【特許文献3】特開2018-143170号公報
【特許文献4】特開2021-23180号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】太田剛雄、「甘藷焼酎の香気」、日本醸造協会誌、1991年、第86巻、第4号、p.250-254
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のように、消費者の嗜好が多様化しており、イモ焼酎についても多様な香りや味わい等が求められている。リンゴ様と柑橘様の華やかな香味と、サツマイモ様の甘い香味を兼ね備えたイモ焼酎は、消費者の多様な嗜好を満たす一例である。そこで本発明は、消費者の多様な嗜好にさらに対応すべく、リンゴ様と柑橘様の華やかな香味と、サツマイモ様の甘い香味を兼ね備えたイモ焼酎を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、従来のイモ焼酎にはない、リンゴ様と柑橘様の華やかな香味と、サツマイモ様の甘い香味を兼ね備えたイモ焼酎を提供すべく、鋭意検討を行った。その結果、エステル成分であるカプロン酸エチルや酢酸イソアミル、モノテルペンアルコールであるリナロール、及びローズケトンの一種であるβ-ダマセノンを特定量含有させることにより、リンゴ様と柑橘様の華やかな香味と、サツマイモ様の甘い香味を兼ね備えた、香味良好で風味に優れた新規のイモ焼酎を得ることに成功した。
【0011】
上記した知見に基づいて提供される本発明の一つの様相は、アルコール濃度25v/v%換算で、カプロン酸エチル含量が2~10mg/L、リナロール含量が125~450μg/L、β-ダマセノン含量が30~100μg/Lであることを特徴とするイモ焼酎である。
【0012】
本様相のイモ焼酎は、カプロン酸エチルと、リナロールと、β-ダマセノンを特定量含有しており、リンゴ様と柑橘様の華やかな香味と、サツマイモ様の甘い香味を兼ね備えた、香味良好で風味に優れた酒質を有する。
【0013】
好ましくは、前記カプロン酸エチル含量が3~5mg/L、前記リナロール含量が150~400μg/L、前記β-ダマセノン含量が30~50μg/Lである。
【0014】
さらに、アルコール濃度25v/v%換算で、酢酸イソアミル含量が7.5~35mg/Lであるイモ焼酎としてもよい。
【0015】
かかる構成により、リンゴ様と柑橘様の華やかな香味を引き立たせることができ、サツマイモ様の甘い香味とのバランスがよい優れた酒質となる。
【0016】
さらに、アルコール濃度25v/v%換算で、酢酸イソアミル含量が10~20mg/Lであるイモ焼酎としてもよい。
【0017】
かかる構成により、リンゴ様と柑橘様の華やかな香味をより一層引き立たせることができ、サツマイモ様の甘い香味とのバランスがよい優れた酒質となる。
【0018】
本発明の他の様相は、アルコール濃度25v/v%換算で、カプロン酸エチル含量が2~10mg/L、リナロール含量が125~450μg/L、β-ダマセノン含量が30~100μg/L、酢酸イソアミル含量が10~20mg/Lであることを特徴とするイモ焼酎である。
【0019】
本様相のイモ焼酎は、カプロン酸エチルと、リナロールと、β-ダマセノンと、酢酸イソアミルを特定量含有しており、リンゴ様と柑橘様の華やかな香味と、サツマイモ様の甘い香味を兼ね備えた、香味良好で風味に優れた酒質を有する。さらに、リンゴ様と柑橘様の華やかな香味をより一層引き立たせることができ、サツマイモ様の甘い香味とのバランスがよい優れた酒質となる。
【0020】
好ましくは、原料の少なくとも一部が橙色サツマイモ及び赤色サツマイモである。
【0021】
本様相のイモ焼酎は、原料の少なくとも一部が橙色サツマイモ(果肉がオレンジ色のサツマイモ)と赤色サツマイモ(皮が赤いサツマイモ)である。原料に橙色サツマイモを用いると、柑橘様の香味がさらに増強される。また、原料に赤色サツマイモを用いると、サツマイモ様の甘い香味がさらに増強される。
【0022】
好ましくは、掛原料と麹原料がいずれもサツマイモのみである全量イモ焼酎である。
【0023】
本様相のイモ焼酎では、掛原料と麹原料がいずれもサツマイモのみである(全量イモ焼酎)。かかる構成により、柑橘様の香味やサツマイモ様の甘い香味が、さらに増強され、さらに香味良好で風味に優れた酒質の全量イモ焼酎となる。
【0024】
前記イモ焼酎は、発泡性を有するものであってもよい。
【0025】
かかる構成により、柑橘様の香味とサツマイモ様の甘い香味を維持しつつも、リンゴ様の香味を強く感じる酒質を有する発泡性のイモ焼酎を提供することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のイモ焼酎は、カプロン酸エチル、リナロール、及びβ-ダマセノンを特定量含有しており、リンゴ様と柑橘様の華やかな香味と、サツマイモ様の甘い香味を兼ね備えた、香味良好で風味に優れた酒質を有する。さらに、酢酸イソアミルを特定量含有することにより、リンゴ様と柑橘様の華やかな香味を引き立たせることができ、サツマイモ様の甘い香味とのバランスがよい優れた酒質となる。さらに、原料の少なくとも一部に橙色サツマイモと赤色サツマイモを用いること、掛原料と麹原料をいずれもサツマイモのみとすること(全量イモ焼酎)により、リンゴ様と柑橘様の華やかな香味と、サツマイモ様の甘い香味がさらに増強される。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態について具体的に説明する。なお、以下の説明においては、特に断らない限り、カプロン酸エチル含量、リナロール含量、β-ダマセノン含量、酢酸イソアミル含量の値は、全てアルコール濃度25v/v%換算での値である。ここで「アルコール濃度」とはエチルアルコール(エタノール)の濃度をいう。すなわち、本明細書において「アルコール」と記載した場合は、特に断らない限りエチルアルコール(エタノール)を指す。
【0028】
本発明のイモ焼酎は、アルコール濃度25v/v%換算で、カプロン酸エチル含量が2~10mg/L、リナロール含量が125~450μg/L、β-ダマセノン含量が30~100μg/Lであることを特徴としている。
【0029】
本発明のイモ焼酎におけるカプロン酸エチル含量は、アルコール濃度25v/v%換算で2~10mg/Lである。カプロン酸エチル含量は、好ましくは3~5mg/Lである。カプロン酸エチル含量が2mg/L未満であると、リンゴ様の香味にやや欠ける酒質となるおそれがある。カプロン酸エチル含量が10mg/L超であると、リンゴ様の香味が強すぎ、酒質のバランスを崩すおそれがある。
【0030】
本発明のイモ焼酎におけるリナロール含量は、アルコール濃度25v/v%換算で125~450μg/Lである。リナロール含量は、好ましくは150~400μg/Lである。リナロール含量が125μg/L未満であると、柑橘様の香味にやや欠ける酒質となるおそれがある。リナロール含量が450μg/L超であると、柑橘様の香味が強すぎ、酒質のバランスを崩すおそれがある。
【0031】
本発明のイモ焼酎におけるβ-ダマセノン含量は、アルコール濃度25v/v%換算で30~100μg/Lである。β-ダマセノン含量は、好ましくは30~50μg/Lである。β-ダマセノン含量が30μg/L未満であると、サツマイモの甘い香味にやや欠ける酒質となるおそれがある。β-ダマセノン含量が100μg/L超であると、甘さが強くなりすぎ、酒質のバランスを崩すおそれがある。
【0032】
カプロン酸エチル含量、リナロール含量、及びβ-ダマセノン含量の特に好ましい組み合わせとしては、カプロン酸エチル含量が3~5mg/L、リナロール含量が150~400μg/L、かつβ-ダマセノン含量が30~50μg/Lの組み合わせが挙げられる。これにより一層、リンゴ様と柑橘様の華やかな香味と、サツマイモ様の甘い香味が増強される。
【0033】
上記の3成分に加えて、アルコール濃度25v/v%換算で酢酸イソアミル含量が7.5~35mg/Lとなるイモ焼酎とすることができる。これにより、リンゴ様と柑橘様の華やかな香味が増強され、サツマイモ様の甘い香味とのバランスがよい優れた酒質となる。前記酢酸イソアミル含量は、好ましくは、10~20mg/Lである。酢酸イソアミル含量が7.5mg/L未満であると、果実様の香味にやや欠ける酒質となるおそれがある。酢酸イソアミル含量が35mg/L超であると、果実様の香味が強すぎ、酒質のバランスを崩すおそれがある。
【0034】
カプロン酸エチル含量、リナロール含量、β-ダマセノン含量、酢酸イソアミル含量の特に好ましい組み合わせとしては、カプロン酸エチル含量が3~5mg/L、リナロール含量が150~400μg/L、β-ダマセノン含量が30~50μg/L、かつ酢酸イソアミル含量が10~20mg/Lの組み合わせが挙げられる。これにより一層、リンゴ様と柑橘様の華やかな香味が増強され、サツマイモ様の甘い香味とのバランスがよい優れた酒質とすることができる。
【0035】
本発明でいう「焼酎」とは、酒税法上の焼酎である。焼酎の発酵方法、蒸留方法に特に限定は無い。焼酎には、連続式蒸留焼酎と単式蒸留焼酎の両方が含まれる。
【0036】
本発明のイモ焼酎で用いる掛原料はサツマイモである。用いるサツマイモは、リナロールを特定量含有させるために、橙色サツマイモが好ましく、また、β-ダマセノンを特定量含有させるために、赤色サツマイモが好ましい。
【0037】
橙色サツマイモとは、β-カロテンを高生産することで、サツマイモ内部がニンジンやカボチャのような橙色のサツマイモであり、干し芋、パンやお菓子などの色付けに使用されている。橙色サツマイモの例としては、アヤコマチ、サニーレッド、ハマコマチ、タマアカネ、ジェイレッド、安納芋、フルーツこがね、マロンゴールド、隼人芋、紅きらら、ヒタチレッド等の品種が挙げられる。本発明では、特にアヤコマチ、サニーレッド、ハマコマチ、タマアカネ、ジェイレッドが好適に使用できる。
また、赤色サツマイモとは、皮が赤いサツマイモであり、紅さつま、紅はるか、紅あずま、高系14号等の品種が挙げられる。
【0038】
本発明のイモ焼酎で用いる麹原料としては、米、大麦、裸麦、ライ麦、とうもろこし、サツマイモ等が挙げられる。好ましくは、サツマイモである。
【0039】
なお、麹原料に米を用いる場合には、得られるイモ焼酎は「米麹イモ焼酎」である。麹原料にサツマイモを用いる場合には、得られるイモ焼酎は「全量イモ焼酎」である。本発明においては、麹原料と掛原料にサツマイモを用いた全量イモ焼酎であることが好ましく、麹原料と掛原料に橙色サツマイモと赤色サツマイモを用いた全量イモ焼酎であることが特に好ましい。
【0040】
なお、原料として用いるサツマイモの剥皮の有無は問わない。また本発明では、作業性と省エネルギーの面から、生サツマイモが好適に採用される。生サツマイモは水分含量が多く、長期保存に耐えないので、収穫直後のものを用いることが好ましいが、凍結保存等をしたものを用いてもよい。また、生サツマイモは、必要に応じて、適宜の処理をして水分を減少させたものや、処理加工(浸漬、温水浸漬等)したものであってもよい。
【0041】
次に、本発明の焼酎を製造する方法について説明する。焼酎を製造する方法については特に限定はなく、焼酎の一般的な製法を基礎として行うことができる。一般に、焼酎の製造工程は、原料処理、仕込、発酵(糖化・発酵)、蒸留工程及び精製工程よりなる。なお、原料処理には、製麹工程、原料液化、液化・糖化工程も含むものとする。通常、焼酎の製造において、一次醪は穀類麹を水と混合して仕込み、酵母を添加して増殖させて得ることができる。次に、得られた一次醪に、例えば蒸きょうした掛原料を添加して二次醪とする。醪の発酵に使用する酵母は、アルコール発酵に適した醸造用の酵母であればよく、具体的には、焼酎酵母、清酒酵母、ワイン酵母、ビール酵母などが挙げられる。本発明では、カプロン酸エチルを高生成する酵母を用いることが特に好ましい。カプロン酸エチルを高生成する酵母は、市販されているものを用いてもよいし、独自に培養された酵母を用いてもよい。
【0042】
麹原料にサツマイモを用いる場合のサツマイモの処理方法には、例えば、乾熱処理が適用できる。乾熱処理には、焙炒法等の乾燥熱風による直接加熱法、熱源から隔壁を通して加熱する間接加熱法、加圧して加熱する加圧加熱法、等がある。直接加熱法の例としては焙炒法以外に気流乾燥や噴霧乾燥が挙げられる。間接加熱法の例としてはドラム乾燥が挙げられる。加圧加熱法の例としては圧力式焼成釜を用いる方法や押出成形に用いるエクストルーダー法が挙げられる。さらに、乾き飽和水蒸気を更に加熱して飽和蒸気温度を超える温度に上昇させた状態の水蒸気である過熱蒸気を用いる過熱蒸気処理も採用できる。加熱処理条件は、処理対象物の種類、形態及び加熱処理方法により適宜選択されるが、例えば、温度は120~400℃の範囲から、時間は0.1秒~数時間の範囲から適宜選択すればよい。
【0043】
蒸留工程についても特に限定はなく、通常の焼酎の製造で採用されている方法をそのまま適用することができる。例えば、甲類焼酎(連続式蒸留焼酎)を得るための連続蒸留法、乙類焼酎(単式蒸留焼酎)を得るための単式蒸留法のいずれもが採用可能である。また、醪を通常の大気圧下で蒸留する常圧蒸留法、真空ポンプで醪を大気圧より低くして蒸留する減圧蒸留法のいずれもが採用可能である。また、蒸留後に「米麹イモ焼酎」と「全量イモ焼酎」を混和し、所望の酒質のイモ焼酎を得ることも可能である。
【0044】
本発明では、前記のイモ焼酎を炭酸水等で希釈して、発泡性を有するものとすることができる。例えば、カプロン酸エチル、リナロール、及びβ-ダマセノンを特定量含有するイモ焼酎や、さらに酢酸イソアミルを特定量含有するイモ焼酎を炭酸水等で希釈したものであり、柑橘様の香味とサツマイモ様の甘い香味を維持しつつも、リンゴ様の香味を強く感じられる酒質が得られることは、確認済みである。発泡性の場合は、アルコール濃度を3~10v/v%程度の低アルコールとすることにより、リンゴ様の香味を特に強く感じられるようになる。
【0045】
本発明のイモ焼酎は、ストレート、ロック、水割り、お湯割り、等の飲み方によって、特に、柑橘様の華やかな香味とサツマイモ様の甘い香味、別の表現をすれば、サツマイモのほっこりした甘い香りを楽しむことができる。一方、本発明のイモ焼酎を発泡性、例えば炭酸割りとすることにより、特にリンゴ様の香味、別の表現をすれば、炭酸の爽快感と合うフルーティーな香りを楽しむことができる。すなわち本発明のイモ焼酎は、ユーザーの嗜好に応じた幅広い飲み方に対応できるものである。
【0046】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0047】
市販の米麹イモ焼酎(「米麹イモ焼酎A」と称する。)のカプロン酸エチル含量、リナロール含量、及びβ-ダマセノン含量をガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS分析)により測定した。米麹イモ焼酎Aのカプロン酸エチル含量は0.2mg/L、リナロール含量は55μg/L、β-ダマセノン含量は11μg/L(いずれもアルコール濃度25v/v%換算)であった。
米麹イモ焼酎Aに、カプロン酸エチル、リナロール、β-ダマセノンを添加して、表1の濃度となるように各試料を調製した(実験例1-1~1-6)。すなわち、リナロール含量を200μg/Lに固定し、β-ダマセノン含量を40μg/Lに固定し、カプロン酸エチル含量を1~15mg/Lの範囲となるように調製した。
【0048】
実験例1-1~実験例1-6の各試料について、10名の専門のパネリストにより官能評価試験を行った。評価は下記の基準で採点し、平均値を採用した。
・米麹イモ焼酎Aに比べて香味の評価が低い場合:1点
・米麹イモ焼酎Aに比べて香味の評価がやや低い場合:2点
・米麹イモ焼酎Aに比べて香味の評価が同じ場合:3点
・米麹イモ焼酎Aに比べて香味の評価がやや高い場合:4点
・米麹イモ焼酎Aに比べて香味の評価が高い場合:5点
【0049】
結果を表1に示す。すなわち、リナロール含量が200μg/Lでβ-ダマセノン含量が40μg/Lの場合、カプロン酸エチル含量が2~10mg/Lの範囲であるときに、イモ焼酎の香味の評価が高かった(評価:3.7~4.4点)。さらに、カプロン酸エチル含量が3~5mg/Lの範囲であるときに、とりわけ良好な香味の酒質が得られることがわかった(評価:4.2~4.4点)。
【0050】
【表1】
【実施例0051】
米麹イモ焼酎Aに、カプロン酸エチル、リナロール、β-ダマセノンを添加して、表2の濃度となるように各試料を調製した(実験例2-1~2-7)。すなわち、カプロン酸エチル含量を4mg/Lに固定し、β-ダマセノン含量を40μg/Lに固定し、リナロール含量を75~500μg/Lの範囲となるように調製した。
【0052】
実験例2-1~実験例2-7の各試料について、10名の専門のパネリストにより官能評価試験を行った。評価の方法と基準は実施例1と同様とした。
【0053】
結果を表2に示す。すなわち、カプロン酸エチル含量が4mg/Lでβ-ダマセノン含量が40μg/Lの場合、リナロール含量が125~450μg/Lの範囲であるときに、イモ焼酎の香味の評価が高かった(評価:3.7~4.5点)。さらに、リナロール含量が150~400μg/Lの範囲であるときに、とりわけ良好な香味の酒質が得られることがわかった(評価:4.3~4.5点)。
【0054】
【表2】
【実施例0055】
米麹イモ焼酎Aに、カプロン酸エチル、リナロール、β-ダマセノンを添加して、表3の濃度となるように各試料を調製した(実験例3-1~実験例3-6)。すなわち、カプロン酸エチル含量を4mg/Lに固定し、リナロール含量を200μg/Lに固定し、β-ダマセノン含量を15~200μg/Lとなるように調製した。
【0056】
実験例3-1~実験例3-6の各試料について、10名の専門のパネリストにより官能評価試験を行った。評価の方法と基準は実施例1と同様とした。
【0057】
結果を表3に示す。すなわち、カプロン酸エチル含量が4mg/Lでリナロール含量が200μg/Lである場合、β-ダマセノン含量が30~100μg/Lの範囲であるときに、イモ焼酎の香味の評価が高かった(評価:3.7~4.6点)。さらに、β-ダマセノン含量が30~50μg/Lの範囲であるときに、とりわけ良好な香味の酒質が得られることがわかった(評価:4.2~4.6点)。
【0058】
【表3】
【実施例0059】
米麹イモ焼酎Aに、カプロン酸エチル、リナロール、β-ダマセノン、酢酸イソアミル、を添加して、表4の濃度となるように各試料を調製した(実験例4-1~実験例4-7)。すなわち、カプロン酸エチル含量を4mg/Lに固定し、リナロール含量を200μg/Lに固定し、β-ダマセノン含量を30μg/Lに固定し、酢酸イソアミル含量を5~50mg/Lとなるように調製した。
【0060】
実験例4-1~実験例4-7の各試料について、10名の専門のパネリストにより官能評価試験を行った。評価の方法と基準は実施例1と同様とした。
【0061】
結果を表4に示す。すなわち、カプロン酸エチル含量が4mg/Lでリナロール含量が200μg/Lでβ-ダマセノン含量が30μg/Lである場合、酢酸イソアミル含量が7.5~35mg/Lの範囲であるとき、イモ焼酎の香味の評価が高かった(評価:4.6~5.0点)。さらに、酢酸イソアミル含量が10~20mg/Lの範囲であるときに、とりわけ良好な香味の酒質が得られることがわかった(評価:5.0点)。
【0062】
【表4】
【実施例0063】
麹原料として蒸し米、掛原料として橙色サツマイモであるハマコマチと、赤色サツマイモである紅さつまを用いて、イモ焼酎の製造を行った。仕込配合を表5に示す。
【0064】
【表5】
【0065】
一次仕込みは、精米歩合70%の白米を常法により水浸漬、水切り、蒸きょう及び放冷して、市販の焼酎用白麹菌を接種し、米麹を調製した。この米麹に汲水及び酵母(カプロン酸エチル高生産の焼酎用協会4号)を加え、25℃で7日間培養を行い、一次醪とした。
【0066】
二次仕込みは、生サツマイモ(ハマコマチおよび紅さつま)を洗浄後、両端と病根部を切除し、50分間蒸きょうしたもの(蒸しサツマイモ)を、掛原料として用いて行った。一次醪に蒸しサツマイモ及び汲水を加え二次仕込みを行い、25℃で14日間発酵させた(実施例5)。対照として、掛原料に黄金千貫を用い、焼酎用2号酵母を使用して、同様に発酵させた(比較例5)。
【0067】
得られた発酵醪を蒸留した。蒸留は、常法により単式蒸留機を用いて常圧蒸留(中留カットアルコール度数10v/v%)により行った。得られた蒸留液に冷却ろ過を実施し、アルコール濃度25v/v%となるように割水して、イモ焼酎を得た。
【0068】
得られたイモ焼酎のカプロン酸エチル含量、リナロール含量、及びβ-ダマセノン含量を測定した。また、実施例5と比較例5のイモ焼酎について、10名の専門のパネリストにより官能評価試験を行った。評価は、下記の評価基準を採用した。
・A:リンゴ様と柑橘様の華やかな香味と、サツマイモ様の甘い香味が顕著にある
・B:リンゴ様と柑橘様の華やかな香味と、サツマイモ様の甘い香味がある
・C:サツマイモ様の甘い香味があるが、リンゴ様と柑橘様の華やかな香味が少ない
・D:サツマイモ様の甘い香味が少なく、リンゴ様と柑橘様の華やかな香味も少ない
【0069】
結果を表6に示す。すなわち、実施例5のイモ焼酎は、アルコール濃度25v/v%換算で、カプロン酸エチル含量が3.8mg/Lであった。また、アルコール濃度25v/v%換算で、リナロール含量が125μg/Lであり、β-ダマセノン含量が30μg/Lであった。一方で、比較例5のイモ焼酎は、アルコール濃度25v/v%換算で、カプロン酸エチル含量が0.2mg/Lであった。また、アルコール濃度25v/v%換算で、リナロール含量が50μg/Lであり、β-ダマセノン含量が10μg/Lであった。
【0070】
官能評価試験の結果、カプロン酸エチル高生産の焼酎用協会4号酵母を用いて、橙色サツマイモと赤色サツマイモを掛原料としたイモ焼酎である実施例5は、リンゴ様と柑橘様の華やかな香味と、サツマイモ様の甘い香味を有していた(評価B)。一方で、焼酎用2号酵母を用いて、黄金千貫を掛原料とした比較例5は、サツマイモ様の甘い香味が少なく、リンゴ様と柑橘様の華やかな香味も少ないといった結果であった(評価D)。
【0071】
【表6】
【実施例0072】
赤色サツマイモである紅さつまを麹原料とし、橙色サツマイモであるハマコマチと赤色サツマイモである紅さつまを掛原料として、全量イモ焼酎の製造を行った。仕込配合を表7に示す。
【0073】
【表7】
【0074】
麹原料として焙炒サツマイモを採用した。具体的には、生サツマイモ(紅さつま)を洗浄後、両端と病根部を切除し、3mm×5mm×5mm角に裁断し、裁断物を調製した。該裁断物を焙炒機で240℃、120秒の条件で焙炒処理し、焙炒サツマイモを得た。該焙炒サツマイモを放冷後、市販の焼酎用白麹を接種し、製麹〔前半30時間は高温経過(38~40℃)、後半15時間は低温経過(33~35℃)〕して焙炒サツマイモ麹を得た。二次仕込には蒸したサツマイモ(ハマコマチと紅さつま)を用いて、発酵条件などの他の試験方法は、実施例5と同様の方法で行った(実施例6)。対照は、麹原料および掛原料に黄金千貫を用いて、焼酎用2号酵母を使用して、全量イモ焼酎とした(比較例6)。
【0075】
得られたイモ焼酎のカプロン酸エチル含量、リナロール含量、β-ダマセノン含量を測定した。また、実施例6と比較例6のイモ焼酎について、10名の専門のパネリストにより官能評価試験を行った。評価には、実施例5と同様の評価基準を採用した。
【0076】
結果を表8に示す。すなわち、実施例6の全量イモ焼酎は、アルコール濃度25v/v%換算で、カプロン酸エチル含量が3.8mg/Lであった。また、アルコール濃度25v/v%換算で、リナロール含量が395μg/Lであり、β-ダマセノン含量が43μg/Lであった。
一方、比較例6の全量イモ焼酎では、アルコール濃度25v/v%換算で、カプロン酸エチル含量が0.2mg/Lであった。また、アルコール濃度25v/v%換算で、リナロール含量が110μg/Lであり、β-ダマセノン含量が28μg/Lであった。
【0077】
官能評価試験の結果、赤色サツマイモである紅さつまを麹原料として、橙色サツマイモであるハマコマチと赤色サツマイモである紅さつまを掛原料として、カプロン酸エチル高生産の焼酎用協会4号酵母を用いた実施例6は、リンゴ様と柑橘様の華やかな香味と、サツマイモ様の甘い香味が顕著にあるといった評価であった(評価A)。一方で、酵母を焼酎用協会2号酵母として、麹原料及び掛原料に黄金千貫を用いた比較例6は、サツマイモ様の甘い香味があるが、リンゴ様と柑橘様の華やかな香味が少ないといった評価であった(評価C)。
【0078】
【表8】
【実施例0079】
実施例6の表7と同様の配合で、自社所有の吟醸酵母(カプロン酸エチルおよび酢酸イソアミル高生成酵母)を用いて、全量芋焼酎を製造した(実施例7)。対照は、麹原料および掛原料に黄金千貫を用いて、焼酎用2号酵母を使用して、全量イモ焼酎とした(比較例7)。発酵条件などの他の試験方法は、実施例5と同様の方法で行った。
【0080】
得られたイモ焼酎のカプロン酸エチル含量、リナロール含量、β-ダマセノン含量、酢酸イソアミル含量を測定した。また、実施例7と比較例7のイモ焼酎について、10名の専門のパネリストにより官能評価試験を行った。評価には、実施例5と同様の評価基準を採用した。
【0081】
結果を表9に示す。すなわち、実施例7の全量イモ焼酎は、アルコール濃度25v/v%換算で、カプロン酸エチル含量が4.3mg/Lであった。また、アルコール濃度25v/v%換算で、リナロール含量が425μg/Lであり、β-ダマセノン含量が45μg/Lであり、酢酸イソアミル含量が15.1mg/Lであった。
一方、比較例7の全量イモ焼酎では、アルコール濃度25v/v%換算で、カプロン酸エチル含量が0.2mg/Lであった。また、アルコール濃度25v/v%換算で、リナロール含量が110μg/Lであり、β-ダマセノン含量が28μg/Lであり、酢酸イソアミル含量が5.3mg/Lであった。
【0082】
官能評価試験の結果、赤色サツマイモである紅さつまを麹原料として、橙色サツマイモであるハマコマチと赤色サツマイモである紅さつまを掛原料として、自社所有の吟醸酵母を用いた実施例7は、リンゴ様と柑橘様の華やかな香味と、サツマイモ様の甘い香味が顕著にあるといった評価であった(評価A)。一方で、酵母を焼酎用協会2号酵母として、麹原料及び掛原料に黄金千貫を用いた比較例7は、サツマイモ様の甘い香味があるが、リンゴ様と柑橘様の華やかな香味が少ないといった評価であった(評価C)。
【0083】
【表9】
【実施例0084】
実施例6及び実施例7の全量イモ焼酎を炭酸水で希釈してアルコール濃度7v/v%に調整したものを作製した。この発泡性の全量イモ焼酎について、10名の専門のパネリストにより官能評価試験を行った。その結果、柑橘様の香味とサツマイモ様の甘い香味を維持しつつも、リンゴ様の香味を強く感じられる酒質であると全員が評価した。
【実施例0085】
実施例6及び実施例7の全量イモ焼酎について、飲み方と官能特性の違いについて調べた。すなわち、表10に示すように、飲み方として氷を入れてロックとした場合と、炭酸水で希釈した場合について10名の専門のパネリストにより官能評価試験を行った(実験例9-1~実験例9-6)。
【0086】
【表10】
【0087】
官能評価試験の結果を表11に示す。実施例6と実施例7のイモ焼酎について、飲み方をロックとした場合には、サツマイモ様の甘い香味が強く、サツマイモのほっこりした甘い香りがあるといった評価であった。また、実施例6と実施例7のイモ焼酎について、飲み方を炭酸割り(炭酸水で希釈)とした場合には、リンゴ様の香味が強く、炭酸の爽快さとフルーティーな香りが調和しているといった評価であった。炭酸水で希釈してアルコール度数を12.5v/v%とした場合と、アルコール度数を7.5v/v%とした場合を比較すると、7.5v/v%の方が、よりリンゴ様の香味を強く感じられることがわかった。
【0088】
【表11】
【0089】
(参考例)
上記米麹イモ焼酎Aに加えて、市販されているイモ焼酎6種(B~G)について、カプロン酸エチル含量、リナロール含量、β-ダマセノン含量、及び酢酸イソアミル含量を測定した。その結果を表12に示す。これらの市販されているイモ焼酎において、アルコール濃度25v/v%換算で、カプロン酸エチル含量が2~10mg/L、リナロール含量が125~450μg/L、β-ダマセノン含量が30~100μg/L、かつ酢酸イソアミル含量が7.5~35mg/Lとなるものはなかった。
【0090】
【表12】