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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068643
(43)【公開日】2023-05-17
(54)【発明の名称】ジイモニウム化合物及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C09B 69/06 20060101AFI20230510BHJP
   C09B 53/02 20060101ALI20230510BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230510BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20230510BHJP
   C08K 5/19 20060101ALI20230510BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20230510BHJP
【FI】
C09B69/06
C09B53/02 CSP
C08L101/00
C08L69/00
C08K5/19
G02B5/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174120
(22)【出願日】2022-10-31
(31)【優先権主張番号】P 2021179766
(32)【優先日】2021-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】513244753
【氏名又は名称】カーリットホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山野辺 進
(72)【発明者】
【氏名】田村 正明
【テーマコード(参考)】
2H148
4J002
【Fターム(参考)】
2H148CA04
2H148CA12
2H148CA17
4J002AA001
4J002BB031
4J002BC031
4J002BD031
4J002BD101
4J002BD131
4J002BD141
4J002BD151
4J002BD161
4J002BE021
4J002BE061
4J002BF021
4J002BG011
4J002BG041
4J002BG051
4J002BG101
4J002BK001
4J002CB001
4J002CD001
4J002CF061
4J002CG011
4J002CL011
4J002CL021
4J002CL031
4J002CM041
4J002EN136
4J002ET006
4J002FD206
4J002GP00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高耐熱性を有するジイモニウム化合物及びそれを含有する樹脂組成物の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるジイモニウム化合物、及びこれを用いて得られる樹脂組成物並びに近赤外線カットフィルタ。

(式(1)中、R~Rの少なくとも1個はメチル基である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示されるジイモニウム化合物。
【化1】
(式(1)中、R~Rの少なくとも1個はメチル基である。)
【請求項2】
式(1)中のR~Rがメチル基である請求項1に記載のジイモニウム化合物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたジイモニウム化合物を含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項4】
さらにポリカーボネートを含有する請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載されたジイモニウム化合物を含有する樹脂層を少なくとも積層してなることを特徴とする近赤外線カットフィルタ。
【請求項6】
融点が250℃以上である請求項1に記載のジイモニウム化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は赤外領域に吸収を有するジイモニウム化合物及びその用途に関し、特に耐熱性に優れるジイモニウム化合物及びそれを含有する熱硬化性樹脂組成物による樹脂層を積層することにより得られる近赤外線カットフィルタ(光学フィルタ)に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラ等に使用されているCCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の撮像素子は、可視域~1100nm付近の近赤外域に渡る分光感度を有しており、これに対して人間の目は400~700nm付近の波長の光を感じることができる。よって撮像素子と人間の目では分光感度に大きな差があるため、撮像素子の前面に近赤外域の光を吸収する近赤外線カットフィルタを備えて、人間の目の視感度に補正することが必要である。
【0003】
撮像素子に用いられる近赤外線カットフィルタとしては、リン酸塩系ガラスにCuOを添加したガラスフィルタが知られている。しかしながら、この近赤外線吸収能を有するガラスは非常に高価である。また、ガラスであるために加工性に問題があり、光学特性の設計の自由度も狭く、球面への対応も煩雑である。さらにガラスの厚みを薄くするには限界があり、撮像光学系に組み込む際にはスペースの確保や軽量化に問題がある。
【0004】
そこで、近赤外線吸収色素を含有する樹脂組成物を撮像素子表面あるいはフィルタ基材表面にコートすることで、薄膜化や球面等への成形が可能な近赤外線カットフィルタを作製する技術開発が行われている。近赤外線吸収色素として、具体的には、ジイモニウム化合物系色素、クロモン型スクアリリウム化合物系色素、フタロシアニン化合物系色素、ナフタレン化合物系色素等が知られている。
【0005】
ジイモニウム化合物は、カチオン部分の末端基やアニオン部分の化学構造を変更することでその耐熱性や耐湿熱性、溶媒への溶解性、樹脂基材への分散性等の物性が変化することが知られている。しかし、従来知られているジイモニウム化合物ではその耐熱性が不十分であり、樹脂組成物と混合及び加工成形した際に熱劣化を生じ得るため、近赤外線カットフィルタの薄膜化、ひいては撮像素子のさらなる小型軽薄化のネックとなっている。
このような背景から近年、近赤外線の吸収波長領域が広く、耐熱性に優れたジイモニウム化合物並びにそれを用いた近赤外線カットフィルタ、及びそれを作製するための樹脂組成物の開発が強く求められている。
【0006】
特許文献1には、近赤外線吸収能を有するジイモニウム化合物として、ジイモニウムカチオンとテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素アニオン2個からなる塩であるジイモニウム塩化合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-246464号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は高耐熱性を有するジイモニウム化合物及びそれを含有する樹脂組成物の提供を目的とする。また、それを用いて作製される広範囲の近赤外線吸収能かつ高耐熱性を有する近赤外線カットフィルタの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は鋭意検討の結果、後述の特定化学構造を有するジイモニウム化合物が極めて耐熱性に優れ、当該ジイモニウム化合物を含有する熱硬化性樹脂組成物から得られた樹脂層を積層することによって、前記課題を解決する近赤外線カットフィルタの製造に資することを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明は以下の(イ)~(へ)に示すものである。
【0011】
(イ):下記式(1)で示されるジイモニウム化合物。
【0012】
【化1】
【0013】
式(1)中、R~Rの少なくとも1個はメチル基である。
【0014】
(ロ):式(1)中のR~Rがメチル基である(イ)に記載のジイモニウム化合物。
【0015】
(ハ):上記(イ)又は(ロ)に記載されたジイモニウム化合物を含有することを特徴とする樹脂組成物。
【0016】
(二):さらにポリカーボネートを含有する(ハ)に記載の樹脂組成物。
【0017】
(ホ):上記(イ)又は(ロ)に記載されたジイモニウム化合物を含有する樹脂層を少なくとも積層してなることを特徴とする近赤外線カットフィルタ。
【0018】
(ヘ):融点が250℃以上である(イ)に記載のジイモニウム化合物。
【発明の効果】
【0019】
本発明のジイモニウム化合物は、近赤外線吸収色素として耐熱性に優れ、長期間にわたって近赤外線吸収能力が低下することなく、かつ、樹脂基材との分散・加工性に優れ、広範囲の近赤外線吸収能を有するという特徴がある。また化合物自体が重金属を含有しないので環境に対する問題がない。
【0020】
従って、本発明のジイモニウム化合物を近赤外線吸収色素として含有させた樹脂組成物は、撮像素子に用いられる光学フィルタ(近赤外線カットフィルタ)に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のジイモニウム化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である。
【0022】
【化2】
【0023】
式(1)中、R~Rの少なくとも1個はメチル基である。このうち、式(1)において、R~Rが全てメチル基であるものが、耐熱性及び近赤外線吸収能力の点で更に好ましい。
【0024】
本発明の式(1)で表されるジイモニウム化合物は、公知の方法で得ることができる。即ち、p-フェニレンジアミンと1-クロロ-4-ニトロベンゼンをウルマン反応させて得られた生成物を還元することにより得られる下記式(2)、
【0025】
【化3】
【0026】
で表される化合物を有機溶媒中、好ましくはDMF(ジメチルホルムアミド)、DMI(ジメチルイミダゾリノン)又はNMP(N-メチルピロリドン)等の水溶性極性溶媒中、30~160℃、好ましくは50~140℃で、所望のR1~R8に対応するハロゲン化化合物(例えば、R~R8がメチル基のときはCH3Br)と反応させて、全ての置換基(R1~R8)が同一である下記式(3)の化合物(以下、全置換体と記す)を得ることができる。
【0027】
【化4】
【0028】
本発明のジイモニウム化合物の合成方法としては、公知の方法によりジイモニウム化合物を調製した後、そのアニオン部分をテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸と交換すればよい。
【0029】
より具体的には、例えば、国際公開公報WO2006/082945に記載の方法に従って調製されたテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸をアニオン成分とし、これに銀を作用させてテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸銀と、上記一般式(3)で表されるイモニウム化合物を、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と略記する)、アセトニトリル等の有機溶媒中、温度30~150℃で反応させ、析出した銀を濾別した後、水、酢酸エチルまたはヘキサン等の溶媒を加え、生じた沈殿を濾過することにより、本発明のジイモニウム化合物を得ることができる。
【0030】
このようにして得られた本発明のジイモニウム塩化合物は、近赤外線吸収色素として有用なものであるが、これを利用し、キャスト法や溶融押し出し法等の公知の方法により、近赤外線吸収能を有する樹脂組成物を作製することができる。
【0031】
このうちキャスト法は、本発明のジイモニウム化合物(近赤外線吸収色素)を、高分子樹脂及び溶剤を混合させた溶液中に、溶解または分散させた後、ポリエステルやポリカーボネート等の透明なフィルム、パネルまたはガラス基板上に当該溶液を塗布、乾燥させてフィルム状に成膜させる方法である。
【0032】
上記樹脂としては、透明な樹脂が用いられ、例えば、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート、ウレタン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリイソシアナート、ポリアリレート、エポキシ系樹脂等があげられる。
【0033】
また、上記溶媒としては、樹脂を溶解することが可能であれば特に限定はされないが、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等の有機溶剤またはこれらを混合させた溶媒を用いることができる。
【0034】
一方、溶融押し出し法は、本発明のジイモニウム化合物を高分子樹脂中に、溶融、混練させた後、押し出し成型によりパネル状に成型させるものである。本発明のジイモニウム化合物は高耐熱性を有するため、高温での溶融、混錬をすることができる。
【0035】
上記樹脂としては、透明な樹脂が用いられ、例えば、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0036】
本発明のジイモニウム化合物は、近赤外線吸収色素としてこれを単独で用いるか、あるいは、波長850nm付近の近赤外線遮断性能を補うため、フタロシアニン類やジチオール系金属錯体等の公知色素を添加させて用いることができる。また、耐光性を向上させるためにベンゾフェノン系やベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収色素を添加させて用いてもよい。さらに、必要に応じて、可視光領域に吸収を持つ公知色素を添加させて、色調を調えてもよい。
【0037】
本発明において、ジイモニウム化合物の融点とは、熱重量-示差熱分析装置(TG-DTA)(例えば、NEXTA STA300(日立ハイテクサイエンス社製)に準ずる装置)を用い、アルミニウム製のオープパンにジイモニウム化合物約5mgを計量し、ジイモニウム化合物を10℃/分の速度で昇温した時の融解ピークを記録し、ジイモニウム化合物の融解ピークの最大値に対する温度(℃)である。
【0038】
本発明の近赤外線カットフィルタ(光学フィルタ)は、基材上に設けたものでも、又、基材自体であってもよい。基材としては、一般に光学フィルタに使用できるものであれば特に制限されないが、通常、ガラス若しくは樹脂製の基材が使用される。層の厚みは通常0.05μm~10mm程度であるが、近赤外線カット率等の目的に応じて適宜決定される。また、CCDやCMOS等の撮像素子自体を基材とすることもできる。
【0039】
本発明の近赤外線カットフィルタに用いられる近赤外線吸収色素の含有率も、目的とする近赤外線カット率に応じて適宜決定される。用いられる樹脂製の基材としては、例えば、ポリエチレン、ポリシクロアルカン、ポリシクロオレフィン、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル等のビニル化合物、及びそれらのビニル化合物の付加重合体、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリシアン化ビニリデン、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体、シアン化ビニリデン/酢酸ビニル共重合体等のビニル化合物又はフッ素系化合物の共重合体、ポリトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン等のフッ素を含む樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリペプチド、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン等のポリエーテル、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等が挙げられる。
【0040】
本発明の近赤外線カットフィルタ(光学フィルタ)を作製する方法は特に制限されるものではなく、それ自身公知の方法が利用でき、例えば、1)熱硬化性樹脂と硬化剤、近赤外線吸収色素から構成される熱硬化性樹脂組成物とし、成型後、加熱硬化して樹脂板又はフィルムを作製する方法、2)近赤外線吸収色素を含有する塗料を作製し、樹脂組成物とし、透明樹脂板、透明フィルム、透明ガラス板、又は撮像素子にコーティングする方法、3)近赤外線吸収色素及び樹脂(接着剤)を含有させた組成物(本発明の熱硬化性樹脂組成物)を作製し、合わせ樹脂板、合わせ樹脂フィルム、又は合わせガラス板を作製する方法、等である。
【0041】
1)の方法は、熱硬化性樹脂と硬化剤、近赤外線吸収色素からなる熱硬化性樹脂組成物を作製し、型内に注入、加熱反応させて硬化させるか、又は、金型に流し込んで型内で硬い製品となるまで加熱反応させて成形する方法が挙げられる。用いられる組成によって加工温度、フィルム化(樹脂板化)条件等が多少異なるが、通常100~200℃で30分~5時間程度の硬化条件が適用される。近赤外線吸収色素の添加量は、作製する樹脂板又はフィルムの厚み、吸収強度、可視光透過率等によって異なるが、通常、基材樹脂の1質量部に対して0.01~30質量%程度、好ましくは0.01~15質量%程度使用される。
【0042】
2)の方法は、近赤外線吸収色素をバインダー樹脂に溶解、もしくは分散させることで塗料化する方法であり、塗料化する際に溶媒を用いることもできる。溶媒としては、ハロゲン化合物、アルコール化合物、ケトン化合物、エステル化合物、脂肪族炭化水素化合物、芳香族炭化水素化合物、エーテル化合物、又は、それらを混合し溶媒として用いることができる。近赤外線吸収色素の濃度は、作製するコーティングの厚み、吸収強度、可視光透過率によって異なるが、バインダー樹脂1質量部に対して通常0.01~30質量%程度である。このようにして得られた塗料を透明樹脂板、透明フィルム、透明ガラス板、又は撮像素子等の上にスピンコーター、バーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、オフセットコーター、スプレー等でコーティングして近赤外線カットフィルタ、又はそれを具備した撮像素子を得ることができる。
【0043】
3)の方法は、シリコン系、ウレタン系、アクリル系等の樹脂化合物用の、ポリビニルブチラール接着剤、エチレン-酢酸ビニル系接着剤等の合わせガラス用のそれ自身公知の透明接着剤に、近赤外線吸収色素を0.1~30質量%程度添加した熱硬化性樹脂組成物を用い、透明な樹脂板同士、樹脂板と樹脂フィルム、樹脂板とガラス、樹脂フィルム同士、樹脂フィルムとガラス、ガラス同士を接着することにより近赤外線カットフィルタを作製する。尚、それぞれの方法で混練・混合の際、紫外線吸収剤、可塑剤等の樹脂成形に用いる通常の添加剤を加えてもよい。
【実施例0044】
以下に実施例を用いて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例中、「質量%」は単に「%」と、「重量部」は単に「部」と略記する。
【0045】
実施例1
(1)DMF100部に、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸銀31.9部及びN,N,N’,N’-テトラキス(p-ジメチルアミノフェニル)-p-フェニレンジアミン11.8部を加え、60℃で3時間反応させ、生成した銀を濾別した。次いで、当該濾液に水315部を添加し、生成した沈殿を濾過後、乾燥させて、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸N,N,N’,N’-テトラキス(p-ジメチルアミノフェニル)-p-フェニレンジイモニウム33.3部を得た。このものは近赤外線吸収色素であり、最大吸収波長(以下、「λmax」と略記する。)が1046nm、モル吸光係数が93000[L・mol-1・cm-1]であった。
(2)得られた色素を190℃、210℃、230℃の各温度にてそれぞれ加熱した場合の耐熱性を評価した。具体的には、アセトンに当該色素粉末を溶解し、10~20mg/Lの濃度に調整した溶液を準備した。この溶液を分光光度計で測定し、波長1000nmにおける初期(加熱前)のモル吸光係数を測定した。
各温度下にて当該色素粉末を60分静置した後、同様に調整した溶液のモル吸光係数を測定し、加熱後のモル吸光係数の初期(加熱前)のモル吸光係数に対する百分率を色素残存率として評価した。この結果を表1に示す。
【0046】
比較例1
DMF100部に、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸銀20.3部及びN,N,N’,N’-テトラキス(p-ジイソブチルアミノフェニル)-p-フェニレンジアミン11.8部を加え、60℃で3時間反応させ、生成した銀を濾別した。次いで、当該濾液に水200部を添加し、生成した沈殿を濾過後、乾燥させて、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸N,N,N’,N’-テトラキス(p-ジイソブチルアミノフェニル)-p-フェニレンジイモニウム24.8部を得た。このものは近赤外線吸収色素であり、最大吸収波長(以下、「λmax」と略記する。)が1077nm、モル吸光係数が105000[L・mol-1・cm-1]であった。
得られた色素について実施例1と同様に評価した。この結果を表1に示す。
【0047】
比較例2
DMF157.5部に、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド酸銀15.7部及びN,N,N’,N’-テトラキス(p-ジメチルアミノフェニル)-p-フェニレンジアミン11.8部を加え、60℃で3時間反応させ、生成した銀を濾別した。次いで、当該濾液に水315部を添加し、生成した沈殿を濾過後、乾燥させて、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド酸N,N,N’,N’-テトラキス(p-ジメチルアミノフェニル)-p-フェニレンジイモニウム19.2部を得た。このものは近赤外線吸収色素であり、最大吸収波長(以下、「λmax」と略記する。)が1046nm、モル吸光係数が93000[L・mol-1・cm-1]であった。
得られた色素について実施例1と同様に評価した。この結果を表1に示す。
【0048】
比較例3
DMF100部に、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド酸銀10部及びN,N,N’,N’-テトラキス(p-ジイソブチルアミノフェニル)-p-フェニレンジアミン11.8部を加え、60℃で3時間反応させ、生成した銀を濾別した。次いで、当該濾液に水200部を添加し、生成した沈殿を濾過後、乾燥させて、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド酸N,N,N’,N’-テトラキス(p-ジイソブチルアミノフェニル)-p-フェニレンジイモニウム15.7部を得た。このものは近赤外線吸収色素であり、最大吸収波長(以下、「λmax」と略記する。)が1077nm、モル吸光係数が105000[L・mol-1・cm-1]であった。
得られた色素について実施例1と同様に評価した。この結果を表1に示す。
【0049】
比較例4
DMF100部に、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸銀20.3部及びN,N,N’,N’-テトラキス(p-ジブチルアミノフェニル)-p-フェニレンジアミン11.8部を加え、60℃で3時間反応させ、生成した銀を濾別した。次いで、当該濾液に水200部を添加し、生成した沈殿を濾過後、乾燥させて、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸N,N,N’,N’-テトラキス(p-ジブチルアミノフェニル)-p-フェニレンジイモニウム24.8部を得た。このものは近赤外線吸収色素であり、最大吸収波長(以下、「λmax」と略記する。)が1072nm、モル吸光係数が102000[L・mol-1・cm-1]であった。
得られた色素について実施例1と同様に耐熱性を評価した。この結果を表1に示す。
【0050】
比較例5
DMF100部に、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド酸銀10部及びN,N,N’,N’-テトラキス(p-ジブチルアミノフェニル)-p-フェニレンジアミン11.8部を加え、60℃で3時間反応させ、生成した銀を濾別した。次いで、当該濾液に水200部を添加し、生成した沈殿を濾過後、乾燥させて、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド酸N,N,N’,N’-テトラキス(p-ジブチルアミノフェニル)-p-フェニレンジイモニウム15.7部を得た。このものは近赤外線吸収色素であり、最大吸収波長(以下、「λmax」と略記する。)が1072nm、モル吸光係数が102000[L・mol-1・cm-1]であった。
得られた色素について実施例1と同様に耐熱性を評価した。この結果を表1に示す。
【0051】
比較例6
DMF132部に、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸銀26.8部及びN,N,N’,N’-テトラキス(p-ジエチルアミノフェニル)-p-フェニレンジアミン11.8部を加え、60℃で3時間反応させ、生成した銀を濾別した。次いで、当該濾液に水264部を添加し、生成した沈殿を濾過後、乾燥させて、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸N,N,N’,N’-テトラキス(p-ジエチルアミノフェニル)-p-フェニレンジイモニウム29.6部を得た。このものは近赤外線吸収色素であり、最大吸収波長(以下、「λmax」と略記する。)が1057nm、モル吸光係数が99700[L・mol-1・cm-1]であった。
得られた色素について実施例1と同様に耐熱性を評価した。この結果を表1に示す。
【0052】
比較例7
DMF132部に、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド酸銀13.2部及びN,N,N’,N’-テトラキス(p-ジエチルアミノフェニル)-p-フェニレンジアミン11.8部を加え、60℃で3時間反応させ、生成した銀を濾別した。次いで、当該濾液に水264部を添加し、生成した沈殿を濾過後、乾燥させて、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド酸N,N,N’,N’-テトラキス(p-ジエチルアミノフェニル)-p-フェニレンジイモニウム17.7部を得た。このものは近赤外線吸収色素であり、最大吸収波長(以下、「λmax」と略記する。)が1057nm、モル吸光係数が99700[L・mol-1・cm-1]であった。
得られた色素について実施例1と同様に耐熱性を評価した。この結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1中、「カチオンの末端基」は、式(1)のR~Rが該当の末端基であることを示し、「TEPB」は、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素アニオンを示し、「TFSI」は、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを示す。
【0055】
上記のとおり、本発明の実施例のジイモニウム化合物は、高耐熱性を有する。
【0056】
実施例2
実施例1で得られたジイモニウム化合物0.5部とポリカーボネート樹脂(パンライトL-1250Y、帝人(株)製)99.5部を二軸混練機(ラボプラストミル、東洋精機製作所(株)製)の供給口に投入し、温度260℃で溶融混錬して樹脂組成部を得た。得られた樹脂組成物を、熱プレス機を用いて温度230℃でプレスして、厚さ0.25mmの赤外線カットフィルタを得た。
【0057】
比較例8
実施例1のジイモニウム化合物を、比較例1に代えた以外は実施例2と同様にして、赤外線カットフィルタを得た。
【0058】
比較例9
実施例1のジイモニウム化合物を、比較例2に代えた以外は実施例2と同様にして、赤外線カットフィルタを得た。
【0059】
比較例10
実施例1のジイモニウム化合物を、比較例3に代えた以外は実施例2と同様にして、赤外線カットフィルタを得た。
【0060】
比較例11
実施例1のジイモニウム化合物を、比較例4に代えた以外は実施例2と同様にして、赤外線カットフィルタを得た。
【0061】
比較例12
実施例1のジイモニウム化合物を、比較例5に代えた以外は実施例2と同様にして、赤外線カットフィルタを得た。
【0062】
比較例13
実施例1のジイモニウム化合物を、比較例6に代えた以外は実施例2と同様にして、赤外線カットフィルタを得た。
【0063】
比較例14
実施例1のジイモニウム化合物を、比較例7に代えた以外は実施例2と同様にして、赤外線カットフィルタを得た。
【0064】
得られた赤外線カットフィルタの波長1000nm、および500nmの透過率を分光光度計で測定した結果を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
表2中、「カチオンの末端基」は、式(1)のR~Rが該当の末端基であることを示し、「TEPB」は、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素アニオンを示し、「TFSI」は、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを示す。
【0067】
上記のとおり、本発明の実施例の近赤外線カットフィルタは、広範囲の近赤外線吸収能及び高耐熱性を有する。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のジイモニウム化合物を含有した近赤外線吸収能を有する樹脂組成物は種々の用途に用いることができ、例えばPDP用近赤外線遮断フィルタ、自動車ガラス用ないし建材ガラス用近赤外線遮断フィルタ等に好適に用いることができる。更に、本発明の近赤外線吸収色素は、従来の用途である、CD-R、DVD-R等の光記録媒体用の色素またはクエンチャーとしても用いることができる。
【0069】
本発明の近赤外線カットフィルタは、撮像素子用途やディスプレイの前面板に限らず、近赤外線をカットする必要があるフィルタフィルム、例えば、断熱フィルム、光学製品、サングラス等にも使用することが出来る。