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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068661
(43)【公開日】2023-05-17
(54)【発明の名称】複合積層体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20230510BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20230510BHJP
   B32B 7/12 20060101ALI20230510BHJP
【FI】
B32B15/08 N
B32B5/28
B32B7/12
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175671
(22)【出願日】2022-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2021179532
(32)【優先日】2021-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】511041857
【氏名又は名称】ART&TECH株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 泰
(72)【発明者】
【氏名】城野 秀治
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AK07A
4F100AK07E
4F100AK42B
4F100AK42D
4F100AT00
4F100BA05
4F100DG15B
4F100DG15D
4F100EJ821
4F100EJ822
4F100EJ82B
4F100EJ82D
4F100EJ82G
4F100GB48
4F100JG10
4F100JJ06
(57)【要約】
【課題】繊維を有する複合層に熱可塑性樹脂のフィルム層が堅固に接合されることで、熱可塑性樹脂により強固に一体化された板状部材を構成できる複合積層体を用いた複合積層体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】複合積層体100は、熱可塑性樹脂からなり、厚みが均一なフィルム層111、113、フィルム層111、113に接し、不織布および不織布の網目内に浸潤し固着された熱可塑性樹脂で形成される複合層112、114ならびにフィルム層111、113と複合層112、114とに挟まれて設けられたヒータ線を有する本体層110と、複合層112、114に接し、熱可塑性樹脂で形成された基盤樹脂層120と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなり、厚みが均一なフィルム層、前記フィルム層に接し、不織布および前記不織布の網目内に浸潤し固着された熱可塑性樹脂で形成される複合層ならびに前記フィルム層と前記複合層とに挟まれて設けられた回路部材を有する本体層と、
前記複合層に接し、熱可塑性樹脂で形成された基盤樹脂層と、を備えることを特徴とする複合積層体。
【請求項2】
前記本体層は、前記フィルム層および前記複合層が互い違いに複数設けられた多層構造を有することを特徴とする請求項1記載の複合積層体。
【請求項3】
前記回路部材は、絶縁線および前記絶縁線に巻き回されている1または複数の導電線からなる合線であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の複合積層体。
【請求項4】
前記合線は、前記絶縁線の周囲に前記導電線が設けられて形成されるカバリング線であり、
前記絶縁線は、加熱時に収縮することを特徴とする請求項3記載の複合積層体。
【請求項5】
前記絶縁線は、ポリエステルウーリー糸または高収縮糸であることを特徴とする請求項3記載の複合積層体。
【請求項6】
端縁が、前記基盤樹脂層が前記本体層を被覆して形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の複合積層体。
【請求項7】
前記回路部材は、端子が露出せず全体が埋設されていることを特徴とする請求項6記載の複合積層体。
【請求項8】
熱可塑性樹脂からなるフィルムと不織布とを所定の設計に基づいて配置し、前記フィルムと前記不織布との間に回路部材を配置する工程と、
前記フィルムと前記不織布とを前記フィルムを形成する熱可塑性樹脂の融点以下軟化点以上の温度で熱圧着し積層シートを形成する工程と、
前記積層シートにおける前記不織布で形成された主面に熱可塑性樹脂を射出成型する工程をさらに含むことを特徴とする複合積層体の製造方法。
【請求項9】
前記回路部材は、絶縁線および前記絶縁線に巻き回されている1または複数の導電線からなる合線であることを特徴とする請求項8記載の複合積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂の加飾成形技術として、樹脂を繊維内に浸潤させて部材を作製する方法が知られている(例えば、特許文献1、2)。その際に浸潤させる樹脂として、例えばPVB(ポリビニルブチラール)等が用いられる。樹脂と繊維層とが一体化されることで、十分な強度を有する部材を得ることができる。このような部材では、射出成形される基盤樹脂層も、不織布層の各繊維の隙間に浸潤しつつ固着される。
【0003】
特許文献1記載のハウジングでは、不織布層が接着樹脂層を介して加飾層に接着されている。接着樹脂層には、例えば軟化により接着樹脂層内の気泡を逃すことができる程度の粘度を有するPVB(ポリビニルブチラール)が用いられている。特許文献1には、ハウジングを構成する基盤樹脂層の材料の一例としてポリプロピレンが用いられることや、接着樹脂層が導線を内蔵していることも開示されている。
【0004】
特許文献2には、インモールド成形により溶融樹脂を射出して成形される樹脂成形体に一体化されるテキスタイル調インモールド用シートが開示されている。特許文献2記載のシートには、繊維シート層とテキスタイル素材層とを接着する接着剤としてポリビニルブチラール(PVB)系接着剤が挙げられている。特許文献2には、プレフォーム成形体を予めトリミング処理し、射出成形することで端面に切断面が形成されない処理方法も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-175641号公報
【特許文献2】再表2015-029453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリプロピレンは、低コストで調達できるだけでなく、耐薬品性にも優れており、様々な用途への応用の可能性を有している。本発明の発明者らは、不織布の繊維内に浸潤させる樹脂としてポリプロピレンのみを用い、一体化した積層体の作製に取り組んできた。しかし、ポリプロピレンで形成された複数のシートを重ねて熱圧着しても、生成物からシート由来の層が剥がれ、ポリプロピレンのみの部材として全体を強固に一体化できないというのが成形分野では常識である。
【0007】
特許文献1には、基盤樹脂層の材料の一例としてポリプロピレンが挙げられており、一見、ポリプロピレンと繊維のみでハウジングを形成できるようにも見える。しかし、加飾層と繊維層との接合には、PVB(ポリビニルブチラール)等の樹脂を用いており、繊維以外をポリプロピレンのみで形成するという発想はない。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、繊維を有する複合層にポリプロピレンに代表される熱可塑性樹脂のフィルム層が堅固に接合されることで、熱可塑性樹脂により強固に一体化された板状部材を構成できる複合積層体を用いた複合積層体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記の目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明の複合積層体は、熱可塑性樹脂からなり、厚みが均一なフィルム層、前記フィルム層に接し、不織布および前記不織布の網目内に浸潤し固着された熱可塑性樹脂で形成される複合層ならびに前記フィルム層と前記複合層とに挟まれて設けられたヒータ線を有する本体層と、前記複合層に接し、熱可塑性樹脂で形成された基盤樹脂層と、を備える。
【0010】
このように両面からポリプロピレンに代表される熱可塑性樹脂が不織布の網目内に浸潤し固着されているため、繊維を有する複合層に熱可塑性樹脂のフィルム層が堅固に接合される。これにより、熱可塑性樹脂により強固に一体化された板状部材を構成できる。特に熱可塑性樹脂としてポリプロピレンを用いた場合には、耐塩酸性に優れたポリプロピレンで複合積層体の表面を形成できる。フィルム層の真下にヒータ線を設けると表面に熱を電動しやすくなり熱効率を向上できる。
【0011】
(2)また、上記(1)記載の複合積層体において、前記本体層は、前記フィルム層および前記複合層が互い違いに複数設けられた多層構造を有することを特徴としている。これにより、熱可塑性樹脂のフィルムを複数枚重ねた構造により複合積層体の強度を向上できる。
【0012】
(3)また、上記(1)または(2)記載の複合積層体において、前記回路部材は、絶縁線および前記絶縁線に巻き回されている1または複数の導電線からなる合線であることを特徴としている。このように導電線が絶縁線に巻き付いていることで、導電線に緩みが生じる。その結果、複合積層体は、優れた形状安定性を有し、製造時に工程を効率化しつつ導電線の断線を防止できる。
【0013】
(4)また、上記(3)記載の複合積層体において、前記合線は、前記絶縁線の周囲に前記導電線が設けられて形成されるカバリング線であり、前記絶縁線は、加熱時に収縮することを特徴としている。これにより、絶縁線の収縮に伴い導電線が緩み、導電線の断線防止機能を強化できる。
【0014】
(5)また、上記(3)または(4)記載の複合積層体において、前記絶縁線は、ポリエステルウーリー糸または高収縮糸であることを特徴としている。これにより、導電線の緩みを大きくし、導電線の断線防止機能を強化できる。
【0015】
(6)また、上記(1)または(2)記載の複合積層体において、端縁が、前記基盤樹脂層が前記本体層を被覆して形成されていることを特徴としている。これにより、端縁を封止でき、確実な回路の絶縁が可能になる。
【0016】
(7)また、上記(6)記載の複合積層体において、前記回路部材は、端子が露出せず全体が埋設されていることを特徴としている。これにより、取出し電極を無くした非接触の通電構造において水の浸透等による漏電を防止できる。
【0017】
(8)熱可塑性樹脂からなるフィルムと不織布とを所定の設計に基づいて配置し、前記フィルムと前記不織布との間に回路部材を配置する工程と、前記フィルムと前記不織布とを前記フィルムを形成する熱可塑性樹脂の融点以下軟化点以上の温度で熱圧着し積層シートを形成する工程と、前記積層シートにおける前記不織布で形成された主面に熱可塑性樹脂を射出成型する工程をさらに含むことを特徴としている。
【0018】
このように、軟化点より高く融点より低い温度で熱圧着されることで、フィルムを形成する熱可塑性樹脂が不織布の網目内に浸潤し、アンカー効果により強固に網目に固着する。得られた複合積層体は、熱可塑性樹脂を表層材とする様々なハウジングを形成できる。
【0019】
(9)前記回路部材は、絶縁線および前記絶縁線に巻き回されている1または複数の導電線からなる合線であることを特徴としている。これにより、工程を効率化しつつ導電線の断線を防止でき、優れた形状安定性を有する複合積層体を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】複合積層体を示す断面図である。
図2】PPフィルムと不織布とを熱圧着する工程を示す斜視図である。
図3】(a)~(d)プレフォーム成形およびトリミングの工程を示す断面図である。
図4】(a)、(b)射出成形の工程を示す断面図である。
図5】(a)、(b)それぞれ導線および素子を埋設した複合積層体を示す断面図である。
図6】(a)~(c)は、それぞれカバリング線(導電線2本)、カバリング線(導電線1本)および撚り線を示す平面図である。
図7】複合積層体を備えた暖房便座を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の発明者らは、試行錯誤を重ね、熱可塑性樹脂フィルム間に不織布を挟むことで強固に一体化することを見出し、本発明に至った。ポリプロピレンを不織布の網目内に浸潤し固着させることで複数の層を一体化できる。特に、ポリプロピレンフィルム(以下、PPフィルム)のみを単純に積層して熱圧着しても得られた積層体は層状に剥離するが、フィルム間に不織布を挟むことでそれらは強固に一体化する。以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0022】
[第1実施形態]
[複合積層体の構成]
まず、複合積層体の構成および製造方法を説明する。図1は、複合積層体100を示す断面図である。複合積層体100は、本体層110および基盤樹脂層120を備えている。本体層110は、フィルム層111、113および複合層112、114で構成されている。フィルム層111、113および複合層112、114は、互い違いに積層されている。
【0023】
フィルム層111、113は、PPフィルム(熱可塑性樹脂フィルム)が熱圧着されて形成された層である。厚みが均一のPPフィルムの一定割合が熱圧着により不織布の繊維内に浸潤されて形成されるため厚みが均一である。
【0024】
複合層112、114は、不織布および不織布の網目内に浸潤し固着されたポリプロピレン(熱可塑性樹脂)で形成されている。不織布の材料は特に限定されない。不織布は、スパンボンド系不織布が好ましい。不織布は、特にポリエステルを含むスパンボンド系不織布が好ましいが、ポリエステルを含む抄紙系不織布またはフェルトであってもよい。
【0025】
複合層112、114は、フィルム層111、113に接しており、フィルム層111、113から連続するポリプロピレンが、不織布の網目内に浸潤している。そのアンカー効果により、複合層112、114とフィルム層111、113とが強固に接合している。これにより、ポリプロピレンにより強固に一体化された板状部材を構成できる。
【0026】
基盤樹脂層120は、射出成形によりポリプロピレン(熱可塑性樹脂)で形成され、複合層114に接している。複合層112、114は、いずれも両面からポリプロピレンが不織布の網目内に浸潤し固着されている。
【0027】
複合積層体100では、本体層110が、フィルム層111、113および複合層112、114で構成された4層構造を有することが好ましい。4層構造以上とすることで複合積層体の強度を向上し形状を安定にすることができる。一方で、4層構造以下であれば成形が容易になる。複合積層体100を構成する熱可塑性樹脂は、ポリプロピレンであることが好ましいが、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)であってもよい。
【0028】
ただし、本体層が、フィルム層および複合層だけの2層構造であってもよいし、6層構造以上であってもよい。いずれにしても、最も表面側の層をフィルム層とし、最も基盤樹脂層に近い層を複合層とする。
【0029】
[複合積層体の製造方法]
上記のように構成された複合積層体100の製造方法を説明する。複合積層体100は、熱圧着、プレフォーム成形、トリミングおよび射出成形の工程で製造される。図2は、PPフィルム(熱可塑性樹脂フィルム)と不織布とを熱圧着する工程を示す斜視図である。
【0030】
まず、PPフィルムと不織布とを所定の設計通りに重ねて配置し熱圧着する。図2に示す例では、上からPPフィルムA1、不織布A2、PPフィルムA3、不織布A4の順に重ねた状態で上下から熱圧着を行いシート状の積層体を形成している。熱圧着は、油圧熱プレス機または多段プレス機を用いて、材料をポリプロピレンの融点以下軟化点以上の温度に加熱しつつプレスして行う。具体的には、140℃以上160℃以下の温度が好ましい。
【0031】
このように、軟化点より高く融点より低い温度で熱圧着されることで、フィルムを形成するポリプロピレンが軟化し、不織布の網目内に浸潤し、アンカー効果により強固に網目に固着する。その結果、繊維を有する複合層にポリプロピレンのフィルム層が堅固に接合された積層シートが生成される。
【0032】
PPフィルムとしては、厚さ100μm以上1500μm以下のものを用いるのが好ましく、厚さ100μm以上500μm以下のものを用いるのがさらに好ましい。また、不織布としては、厚さ50μm以上500μm以下のものを用いるのが好ましい。上記の熱圧着の結果、複合積層体100の本体層110に相当する積層シートが得られる。
【0033】
図3(a)~(d)は、プレフォーム成形およびトリミングの工程を示す断面図である。まず、積層シートB1を加熱により軟化させる。そして、図3(a)に示すように、オス金型D1とメス金型D2との間に、表面のPPフィルム側をメス金型D2に対向させて積層シートB1を配置する。
【0034】
次に、図3(b)に示すようにオス金型D1とメス金型D2とを型締めする。その結果、積層シートB1が賦形される。型締め後、図3(c)に示すように、オス金型D1とメス金型D2とを型開きし、得られた予備成形体B2を離型する。
【0035】
そして、図3(d)に示すように、不要な部分をトリミングにより除去し、プレフォーム成形体B3を得る。プレフォーム成形体B3がトリミングされることで、その後の射出成形によりトリミングによる切断面を、射出されたポリプロピレンで被覆できる。
【0036】
図4(a)、(b)は、射出成形の工程を示す断面図である。図4(a)に示すように、PPフィルム側を表にしてプレフォーム成形体B3を射出成形用のメス金型M12内に装着した上で、メス金型M12を射出成形用のオス金型M13に向けて移動すると共に、射出機の射出孔M15をオス金型M13の射出成形孔M16に押し当てた上で、射出スクリューM11を時計回りに回転させてタンクT1内の基盤樹脂層の原料P1をプレフォーム成形体B3と射出成形用のオス金型M13とで規定される空間に射出する。すなわち、積層シートの表面を形成する一方の主面とは反対側の不織布で形成される他方の主面に、ポリプロピレンを射出成型する。
【0037】
基盤樹脂層の原料P1であるポリプロピレン溶融液(熱可塑性樹脂溶融液)は、射出成形機M10で加熱溶融され、プレフォーム成形体B3が装着されたメス金型M12の中に射出されて、不織布層の各繊維の隙間に浸潤して固着される。このとき、ポリプロピレンは不織布の各繊維の隙間に浸潤し、原料P1の冷却固化時における収縮によりプレフォーム成形体B3と基盤樹脂層120との固着がより強固になる。そして、図4(b)に示すように、射出成形された基盤樹脂層120が冷却固化した後、射出機および射出成形用のオス金型M13をメス金型M12から離間し、複合積層体100が取り出される。得られた複合積層体100は、適宜、用途に応じて切削加工される。得られた複合積層体100は、ポリプロピレンを表層材とする様々な製品に応用できる。
【0038】
[第2実施形態]
[回路部材埋設型の複合積層体の構成]
上記の複合積層体100の本体層には回路部材を埋設することができる。図5(a)、(b)は、それぞれ本体層に導線および素子を埋設した複合積層体200、300を示す断面図である。
【0039】
複合積層体200は、基本的に複合積層体100と同様に構成されているが、本体層210には回路部材231が埋設され、これに関連する特徴を有している。
【0040】
本体層210には、フィルム層211と複合層212とに挟まれて設けられた回路部材231が設けられている。このように、ポリプロピレンにより強固に一体化され、かつ内部に設けられた回路部材231で機能を付加された複合積層体200を構成できる。
【0041】
図5(a)に示す例では、フィルム層211と複合層212との間に、回路部材231として断面円形の導線を設けている。回路部材231に用いられる導線は、例えばヒータ線である。複合積層体200は、回路部材231を挟んで熱圧着することで形成されるため、回路部材231に押圧された複合層212には、導線の断面形状に応じた半円形の窪みが生じている。このように複合層212が柔軟に変形するため、フィルム層211上の表面を平滑にすることができる。
【0042】
複合積層体200の端縁は、基盤樹脂層120が本体層210を被覆して形成されていることが好ましい。これにより、本体層210の端縁210aを基盤樹脂層120で被覆でき、確実な回路の絶縁が可能になる。回路部材231は、端子が露出せず全体が埋設される。これにより、取出し電極を無くした非接触の通電構造において水の浸透等による漏電を防止できる。
【0043】
なお、上記の例では、回路部材231が、フィルム層211と複合層212との間に設けられているが、複合層212とフィルム層113との間またはフィルム層113と複合層114との間に設けられていてもよい。すなわち、回路部材231は、本体層を構成する複数の層構造の内部に埋設されていればよく、その場合、いずれの層の間に埋設されていてもよい。ただし、回路部材231は、本体層210と基盤樹脂層120との間に埋設することはできない。
【0044】
一方、複合積層体300も、基本的に複合積層体200と同様に構成されているが、本体層310に埋設されている回路部材331およびこれに関連する特徴が異なる。図5(b)に示す例では、フィルム層311と複合層312との間に、回路部材331として断面平板状の素子を設けている。製造工程で回路部材331に押圧された複合層312には、素子の断面形状に応じた平板形の窪みが生じている。
【0045】
複合積層体200、300の製造工程は、複合積層体100のものと同様である。ただし、PPフィルムおよび不織布の配置の際にそれらの間に回路部材231、331を配置する点が異なる。
【0046】
[第3実施形態]
[合線の形態]
上記の実施形態における回路部材231として、絶縁線および前記絶縁線に巻き回されている1または複数の導電線からなる合線を用いてもよい。合線には、具体的には様々な形態のものを用いることができる。図6(a)~(c)は、それぞれカバリング線231a(導電線2本)、カバリング線231b(導電線1本)および撚り線231cを示す平面図である。
【0047】
図6(a)に示すカバリング線231aは、絶縁線232aおよび2本の導電線233aからなる。2本の導電線233aは、たすき掛けで絶縁線232aに巻き回されている。このように導電線233aが絶縁線232aに巻き付いていることで、導電線233aに緩みが生じる。その結果、製造時に導電線の断線を防止できる。特にカバリング線の構造においては、芯線である絶縁線が製造工程で収縮することで、導電線233aに緩みが生じる。
【0048】
絶縁線232aは、ポリエステル製であることが好ましい。これにより、製造工程で250℃以下の温度まで溶けずに導電線233aの緩みを維持できる。また、絶縁線232aは、ポリエステルウーリー糸または高収縮糸であることが好ましい。これにより、導電線の緩みを大きくし、導電線233aの断線防止機能を強化できる。
【0049】
ポリエステルウーリー糸は、毛糸のようなふくらみと伸縮性を持った長繊維糸である。ポリエステルウーリー糸は、かさ高があるため、周囲に巻き回された導電線233aは、ポリエステルウーリー糸中にめり込み合線として一体化できる。ポリエステルウーリー糸は、特にホットメルトポリプロピレンを十分中に含浸して保てる点で優れている。なお、ウーリー糸は、特にポリエステル製であることが好ましいがこれに限定されない。
【0050】
高収縮糸は、熱により収縮する糸である。高収縮糸には、高収縮ポリエステル繊維を用いることができる。加熱時に芯線である高収縮糸が収縮することで、導電線の緩みが大きくなる。絶縁線232aは、熱融着糸であってもよい。この場合、熱圧着の温度で融着するものを用いることで、合線を複合層に一体化できる。
【0051】
導電線233aには、信号伝達用または電力供給用であれば、例えば銅線が用いられる。ヒータ用であれば、ニッケルクロムが用いられてもよい。カバリングに用いられる導電線233aは、3本以内であることが好ましい。これにより、合線の径を小さくできるため、複合積層体の表面の平滑性を維持できる。図2(b)に示すカバリング線231bは、絶縁線232bおよび1本の導電線233bからなる。平滑性を優先する場合には、1本の導電線233bを用いるのが有効である。
【0052】
図6(c)に示す撚り線231cは、絶縁線232cおよび導電線233cからなる。絶縁線232cおよび導電線233cは、ひねりを加えられ、絡み合っている。これにより、導電線233cに緩みが生じる。また、撚り線231cであれば、2本の線を撚ることで容易に導電線233cに緩みを与えられる。
【0053】
なお、ポリ塩化ビニルを被覆した導電線は用いない。ポリ塩化ビニルは、融点が低すぎ、60℃で軟化し、熱加工時に溶けたり発泡したりするため、ポリ塩化ビニルを用いて製造した複合積層体は、気泡を含み、商品化が困難である。
【0054】
[暖房便座]
上記のような回路部材231としてヒータ線を用いた積層複合体を備えた暖房便座を構成することができる。図7は、複合積層体200を備えた暖房便座400を示す斜視図である。暖房便座400は、ヒータ線に電流を流すことで表面の温度を40℃程度に維持できる。ヒータ線の材料は特に限定されない。
【0055】
複合積層体200を暖房便座400に適用することで、耐塩酸性に優れたポリプロピレンで表面を形成できる。なお、フィルム層211の真下にヒータ線231を設けると表面に熱を伝導しやすくなり熱効率を向上できる。
【0056】
[ワイヤーハーネス]
複合積層体は、機器への電力を供給する合線および機器を制御する電気信号を伝える導線を埋設したワイヤーハーネスに用いることができる。導線を複合層の間に埋設しているため、回路のショート等の不具合の生じにくいワイヤーハーネスを実現できる。タッチパネルやアンテナを複合積層体に内蔵させることも可能である。
【0057】
[実験1]
不回路部材を埋設せずにPPフィルムとスパンボンド系の不織布を交互に合計4枚重ねて積層し、熱圧着を行った。圧力3.9MPaで油圧熱プレス機を用いて1分間プレスした。プレス後は、いずれも10~20%合計の厚さが減少した。その際のPPフィルムの厚さ、不織布の厚さ、温度は、表1に示す通りである。
【0058】
得られた積層シートを切断し、切断面を顕微鏡で観察した。また、積層シートの剥離試験を行った。剥離試験はJISK6854に準拠し、3kN/mで行った。切断面の観察から分かる繊維切れの有無および剥離の有無は表1に示す通りである。
【表1】
【0059】
(1)PPフィルムの厚さと温度
PPフィルムの厚さと温度条件を変えてプレスを行った。いずれも厚さ100μmの不織布を用いた。厚さ200μmのPPフィルムを用いて155℃でプレスを行ったところ、剥離しなかった。同様の条件で厚さ300μmのPPフィルムを用いた場合も剥離しなかった。一方、厚さ500μmのPPフィルムを用いて155℃でプレスを行ったところ、剥離が生じた。
【0060】
厚さ500μmのPPフィルムを用いて158℃でプレスを行ったところ、剥離しなかった。厚さ1500μmのPPフィルムを用いても同様だった。厚さ2000μmのPPフィルムを用いて158℃でプレスを行ったところ、剥離が生じた。
【0061】
(2)不織布の厚さ
不織布の厚さを変えてプレスを行った。厚さ40μmの不織布を用いて158℃でプレスを行い、得られた積層シートの切断面を観察したところ、不織布の繊維切れが生じていた。厚さ50μmの不織布を用いて同様にプレスし、切断面を観察したところ、不織布の繊維切れは生じていなかった。
【0062】
厚さ500μmの不織布を用いて158℃でプレスを行い、剥離試験を行ったところ剥離は生じなかった。一方、厚さ600μmの不織布を用いて158℃でプレスを行なったところ剥離が生じた。また、同じ条件で、PPフィルムのみを2枚積層し、熱圧着したところ、剥離が生じた。
【0063】
[実験2]
厚さ500μmのPPフィルムおよび厚さ100μmの不織布を交互に合計2枚重ね、158℃でプレスを行い2層構造の積層シートを作製したところ、剥離は生じなかったものの積層シートに撓みが生じた。
【0064】
[実験3]
4層構造の第1層と第2層との間に直径0.1mmヒータ線を埋設し、積層シートを作製した。得られた積層シートの表面を観察したところ、ヒータ線に由来する凹凸は無く平滑であった。得られた積層シートに対し、ヒータ線に3V、4.5Aの電流を流したところ、表面温度が5s程度で40℃に上昇した。
【0065】
[実験4]
PPフィルムと不織布とを用い、4層構造の第1層と第2層との間に直径0.3mmのカバリング線を埋設し、積層シートを作製した。カバリング線は、2本の導電線(銅線)が絶縁線(ポリエステルウーリー糸)の周りに配置されたものを用いた。そして、図3(b)に示すようなオス金型D1とメス金型D2とを用い、150℃で型締めし、成形体を得た。得られた成形体の表面を観察したところ、カバリング線に由来する凹凸は無く平滑であった。また、カバリング線の導電線に3V、4.5Aの電流を流したところ問題無く導通した。
【符号の説明】
【0066】
100 複合積層体
110 本体層
111、113 フィルム層
112、114 複合層
120 基盤樹脂層
200、300 複合積層体
210 本体層
210a 端縁
211 フィルム層
212 複合層
231 回路部材(ヒータ線等の導線)
231a カバリング線
231b カバリング線
231c 撚り線
232a~c 絶縁線
233a~c 導電線
331 回路部材(素子)
300 複合積層体
310 本体層
311 フィルム層
312 複合層
331 回路部材
400 暖房便座
A1、A2 PPフィルム
A3、A4 不織布
B1 積層シート
B2 予備成形体
B3 プレフォーム成形体
D1 オス金型
D2 メス金型
M10 射出成形機
M11 射出スクリュー
M12 射出成形用のメス金型
M13 射出成形用のオス金型
M15 射出孔
M16 射出成形孔
P1 原料(熱可塑性樹脂溶融液)
T1 タンク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2023-03-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレンからなり、厚みが均一なフィルム層ならびに前記フィルム層に接し、不織布および前記不織布の網目内に浸潤し固着されたポリプロピレンで形成される複合層を有する本体層と、
前記複合層に接し、ポリプロピレンで形成された基盤樹脂層と、を備えることを特徴とする複合積層体。
【請求項2】
前記本体層は、前記フィルム層および前記複合層が互い違いに複数設けられた多層構造を有することを特徴とする請求項1記載の複合積層体。
【請求項3】
前記フィルム層の厚さは、1500μm以下であり、
前記複合層の厚さは、500μm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の複合積層体。
【請求項4】
前記本体層は、前記フィルム層と前記複合層とに挟まれて設けられた回路部材をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の複合積層体。
【請求項5】
前記回路部材は、絶縁線および前記絶縁線に巻き回されている1または複数の導電線からなる合線であることを特徴とする請求項記載の複合積層体。
【請求項6】
前記合線は、前記絶縁線の周囲に前記導電線が設けられて形成されるカバリング線であり、
前記絶縁線は、加熱時に収縮することを特徴とする請求項記載の複合積層体。
【請求項7】
前記絶縁線は、ポリエステルウーリー糸または高収縮糸であることを特徴とする請求項記載の複合積層体。
【請求項8】
端縁が、前記基盤樹脂層が前記本体層を被覆して形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の複合積層体。
【請求項9】
前記回路部材は、端子が露出せず全体が埋設されていることを特徴とする請求項記載の複合積層体。
【請求項10】
ポリプロピレンからなるフィルムと不織布とを所定の設計に基づいて配置する工程と、
前記フィルムと前記不織布とを前記フィルムを形成するポリプロピレンの融点以下軟化点以上の温度で熱圧着し積層シートを形成する工程と、
前記積層シートにおける前記不織布で形成された主面にポリプロピレンを射出成型する工程をさらに含むことを特徴とする複合積層体の製造方法。
【請求項11】
前記フィルムの厚さは、200μm以上1500μm以下であり、前記不織布の厚さは、50μm以上500μm以下であり、前記熱圧着は155℃以上170℃以下で行うことを特徴とする請求項10記載の複合積層体の製造方法。
【請求項12】
前記所定の設計により前記フィルムと前記不織布との間に回路部材を配置することを特徴とする請求項11記載の複合積層体の製造方法。
【請求項13】
前記回路部材は、絶縁線および前記絶縁線に巻き回されている1または複数の導電線からなる合線であることを特徴とする請求項12記載の複合積層体の製造方法。