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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068666
(43)【公開日】2023-05-17
(54)【発明の名称】建築物の生産方法、及び建築物
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/14 20060101AFI20230510BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20230510BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20230510BHJP
   B33Y 50/00 20150101ALI20230510BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20230510BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20230510BHJP
【FI】
E04G21/14
B33Y10/00
B33Y70/00
B33Y50/00
B33Y50/02
B28B1/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176612
(22)【出願日】2022-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2021179621
(32)【優先日】2021-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521399777
【氏名又は名称】セレンディクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100154748
【弁理士】
【氏名又は名称】菅沼 和弘
(72)【発明者】
【氏名】飯田 國大
【テーマコード(参考)】
2E174
4G052
【Fターム(参考)】
2E174AA03
2E174BA05
2E174DA01
2E174DA14
2E174DA51
4G052DA01
4G052DA08
4G052DB12
4G052DC06
(57)【要約】
【課題】従来の建築物と比較して、自然災害等に耐える強度を維持したうえで、時間(施工期間)及びコストを削減可能な建築物を提供すること。
【解決手段】デジタルデータに基づいて、3DプリンタPTRのヘッダPHから出力されるコンクリート、モルタル又はセラミックの材料M)を、z方向に積層させていくことで、家の壁面が形成される。即ち、3DプリンタPTRが材料Mを配置させる対象の層LYR4を対象層LYR4として、3DプリンタPTRは、当該対象層LYR4の下層LYR3に対して、x又はy方向に平行な方向に一定距離LXずらして、当該対象層LYR4に材料Mを配置する。このようなステップが繰り返されることで、z方向に対して角度を出した壁面1Tが形成される。その結果「球体」の家が生産される。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物のデジタルデータに基づいて、3Dプリンタのヘッダから出力されるコンクリート、モルタル又はセラミックの材料を、第1方向に積層させていくことで、建築物の少なくとも一部を生産する、建築物の生産方法であって、
前記3Dプリンタが前記材料を配置させる対象の層を対象層として、前記3Dプリンタが、当該対象層の下層に対して、前記第1方向と略90度の第2方向に一定距離ずらして、当該対象層に前記材料を配置する配置ステップを繰り返すことで、
前記第1方向に対して角度を出して、前記建築物の少なくとも一部を生産する、
建築物の生産方法。
【請求項2】
前記配置ステップの前に、所定の硬化促進剤を前記材料に混入する硬化促進剤直前混入ステップ、
をさらに含む請求項1に記載の建造物の生産方法。
【請求項3】
前記層をサポートするための所定のサポート材を層内又は層間に配置させるサポート材配置ステップ、
をさらに含む請求項2に記載の建築物の生産方法。
【請求項4】
戦記配置ステップを繰り返すことで、前記建築物の屋根まで一体成型する、
請求項1に記載の建築物の生産方法。
【請求項5】
前記配置ステップを繰り返すことで、前記第1方向においてカテナリー曲線の形状を有する前記建築物を生産する、
請求項1に記載の建築物の生産方法。
【請求項6】
前記配置ステップを繰り返すことで、前記第1方向において鶏卵の形状を有する前記建築物を生産する、
請求項1に記載の建築物の生産方法。
【請求項7】
前記配置ステップを繰り返すことで、前記建築物の少なくとも一部として、地面より下の部分も形成する
請求項1に記載の建築物の生産方法。
【請求項8】
前記配置ステップを繰り返すことで、前記第2方向において、前記層を2重構造に形成する、
請求項1に記載の建築物の生産方法。
【請求項9】
前記建築物の前記デジタルデータに対して強度分析を実行し、当該強度分析の結果に基づいて強度が弱い箇所を特定し、当該箇所に補強部材を封入する補強部材封入ステップ、
をさらに備える請求項1に記載の建築物の生産方法。
【請求項10】
前記材料を含む素材を単一素材にする、
請求項1に記載の建築物の生産方法。
【請求項11】
建築物のデジタルデータに基づいて、3Dプリンタのヘッダから出力されるコンクリート、モルタル又はセラミックの材料が、第1方向に積層されていくことで、その少なくとも一部が生産される建築物であって、
前記3Dプリンタが前記材料を配置させる対象の層を対象層として、前記3Dプリンタが、当該対象層の下層に対して、前記第1方向と略90度の第2方向に一定距離ずらして、当該対象層に前記材料を配置する配置ステップが繰り返されることで、
前記少なくとも一部が前記第1方向に対して角度が出るように形成される、
建築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の生産方法、及び建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建築物、特に家については、施工するためのコスト及び時間(施工期間)が非常にかかるという課題があった。
この課題を解決すべく、3Dプリンタ(例えば特許文献1参照)で建築物を生産する技術が想定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-128073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、3Dプリンタで生産される従来の建築物は、自然災害等に耐える強度を維持する必要があるため、鉄筋等の構造体を人が挿入していた。このため、施工するためのコスト及び時間(施工期間)はさほど削減できない状況である。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、従来の建築物と比較して、自然災害等に耐える強度を維持したうえで、時間(施工期間)及びコストを削減可能な建築物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一態様の建築物の生産方法は、
建築物のデジタルデータに基づいて、3Dプリンタのヘッダから出力されるコンクリート、モルタル又はセラミックの材料を、第1方向に積層させていくことで、建築物の少なくとも一部を生産する、建築物の生産方法であって、
前記3Dプリンタが前記材料を配置させる対象の層を対象層として、前記3Dプリンタが、当該対象層の下層に対して、前記第1方向と略90度の第2方向に一定距離ずらして、当該対象層に前記材料を配置する配置ステップを繰り返すことで、
前記第1方向に対して角度を出して、前記建築物の少なくとも一部を生産する、
ものである。
【0007】
また上記目的を達成するため、本発明の一態様の建築物は、
建築物のデジタルデータに基づいて、3Dプリンタのヘッダから出力されるコンクリート、モルタル又はセラミックの材料が、第1方向に積層されていくことで、その少なくとも一部が生産される建築物であって、
前記3Dプリンタが前記材料を配置させる対象の層を対象層として、前記3Dプリンタが、当該対象層の下層に対して、前記第1方向と略90度の第2方向に一定距離ずらして、当該対象層に前記材料を配置する配置ステップが繰り返されることで、
前記少なくとも一部が前記第1方向に対して角度が出るように形成される、
ものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来の建築物と比較して、自然災害等に耐える強度を維持したうえで、時間(施工期間)及びコストを削減可能な建築物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の生産方法の一実施形態により生産された家の一例の斜視図である。
図2】本発明の生産方法の一実施形態により生産された家の一例の正面側側面図である。
図3】本発明の生産方法の一実施形態により生産された家の一例の背面側側面図である。
図4】本発明の生産方法の一実施形態により生産された家の一例の右側側面図である。
図5】本発明の生産方法の一実施形態により生産された家の一例の左側側面図である。
図6】本発明の生産方法の一実施形態により生産された家の一例の上面図である。
図7】本発明の生産方法の一実施形態により生産された家の一例の下面図である。
図8図1乃至図7の家の生産方法、即ち本発明の生産方法の一実施形態を説明する図である。
図9図1乃至図7の「球体」の壁面を有する家を生産するための、図8の本発明の生産方法の一実施形態に採用された球体壁面生成手法の概要を説明する図である。
図10図1乃至図7の「球体」の壁面を有する家を生産するための、図8の本発明の生産方法の一実施形態に採用された2重構造手法の概要を説明する図である。
図11図1乃至図7の「球体」の壁面を有する家を生産するための、図8の本発明の生産方法の一実施形態に採用された弱箇所補強手法における、デジタルデータに対する強度分析の結果の一例を示す図である。
図12図8の本発明の生産方法の一実施形態により生産された家のxz平面の断面図である。
図13図8の本発明の生産方法の一実施形態により、図1乃至図7の「球体」の壁面を屋根まで一体成型して家を生産するための一例を示すフロー図である。
図14図8の本発明の生産方法の一実施形態により、事前に成形された複数のプレキャスト部材を組み合わせて図1乃至図7の「球体」の壁面を有する家を生産するための一例を示すフロー図である。
図15図14に示すプレキャスト部材の成形の手法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の生産方法の一実施形態により生産された家の一例の斜視図である。
図2は、本発明の生産方法の一実施形態により生産された家の一例の正面側側面図である。
図3は、本発明の生産方法の一実施形態により生産された家の一例の背面側側面図である。
図4は、本発明の生産方法の一実施形態により生産された家の一例の右側側面図である。
図5は、本発明の生産方法の一実施形態により生産された家の一例の左側側面図である。
図6は、本発明の生産方法の一実施形態により生産された家の一例の上面図である。
図7は、本発明の生産方法の一実施形態により生産された家の一例の下面図である。
【0011】
図1乃至図7及びそれ以降の図において、家1が設置される地面を含む平面をxy平面として、家1の正面(ドアが存在する面)の法線と略並行な方向をy方向と呼び、当該y方向と垂直な方向をx方向と呼び、地面(xy平面)と垂直な方向をz方向と呼ぶ。
【0012】
図1乃至図7の家1において、グレーのハッチ部分は、ドアと窓を示し、はいずれも透明ガラスであり、それ以外の部分は、壁面を示している。
【0013】
図8は、図1乃至図7の家の生産方法、即ち本発明の生産方法の一実施形態を説明する図である、
本発明の生産方法の一実施形態では、積層造形を行う3DプリンタPTRが工場に配置される。
3DプリンタPTRは、コンクリート、モルタル又はセラミックの材料を、2本のホースTM,TKを通過させて、貯蔵部BFに一旦貯蔵させて、ヘッダPHから吐出させる。3DプリンタPTRは、予め用意された家1の3次元モデルに基づいて、xy平面に平行な所定面に対して材料を配置させることで1つの層を形成すると、さらに、ヘッダPHを略z方向(略垂直方向)に移動させて、当該層に積み重ねるように次の層を形成する。このようにして、3DプリンタPTRは、略z方向(略垂直方向)に複数の層を積み重ねることで、家1の壁面1Tを成形する。
このように、本発明の生産方法の一実施形態は、予め用意された家1の3次元モデルに基づいて、積層造形を行う3DプリンタPTRのヘッダPHから出力されるコンクリート、モルタル又はセラミックの材料を、略z方向(略垂直方向)に積層させていくことで、家1の壁面を成形する手法(以下、「3Dプリント積層造形工法」と呼ぶ)を採用した生産方法である。
【0014】
このように、本発明の生産方法の一実施形態は、3Dプリント積層造形工法を採用しているので、従来の家を造る場合と比較して、コストと工期(時間)という点で削減することができる。
具体的には、従来の家のコストの多くは、木材の物流費が占めていた。即ち、木材は、ヨーロッパやカナダで伐採され、日本の港に運びこまれ、さらに日本の工場へ運びこまれて加工されていた。このため、約100日間、大工や左官が、従来の家の建築のために現場に車で通う等する必要があった。このように、従来の家のコストの半分は物流費である。
また、日本国では、大工や左官の減少が大きな課題となっており、人件費も従来の家のコストの多くを占めることになる。
これに対して、3Dプリント積層造形工法を採用することで、木材は不要となり、かつ、3Dプリンタを操作するための必要最低限の人数を除けば多くの大工や左官が不要になるため、従来の家を造る場合と比較して、コストと時間(施工期間)という点で削減することができる。
【0015】
ところで、3Dプリント積層造形工法を採用して、曲線が存在しない直方体状の壁面から構成される家を造ることも可能である。
しかしながら、このような家は鉄筋等の構造体が必要となるため、従来の家と比較してコスト及び施工の削減効果は少ないものとなる。
そこで、本発明の生産方法の一実施形態として、単に3Dプリント積層造形工法を採用するだけではなく、図1乃至図7に示すように、3Dプリント積層造形工法により「球体」の壁面から構成される家1を生産する方法が採用されている。
このように本発明の生産方法の一実施形態は、「球体」の壁面から構成される家1を造ることができる。その結果、家1の「球体」の形状自体が、自然災害等に耐える強度を維持可能な構造体の役割をはたすため、鉄筋等の構造体が不要になる。その結果、本発明の生産方法の一実施形態は、従来の家を生産する場合や、3Dプリンタで直方体状の家を生産する場合と比較して、自然災害等に耐える強度を維持したうえで、コストと時間(施工期間)という点で大幅に削減することが可能になる。
【0016】
具体的には、本発明の生産方法の一実施形態は、「球体」の壁面を形成するために、図9に示す手法(以下、「球体壁面生成手法」と呼ぶ)を採用している。
図9は、図1乃至図7の「球体」の壁面を有する家を生産するための、図8の本発明の生産方法の一実施形態に採用された球体壁面生成手法の概要を説明する図である。
ここで、図9に示すように、「球体」の壁面1Tとは、z方向(垂直方向)に対して角度を出している壁面1Tのことをいう。z方向(垂直方向)に対して角度を出しているとは、壁面1Tを構成する複数の層LYR1乃至LYRN(Nは4以上の整数値)の夫々が、略z方向(垂直方向)に隣接する他の層に対して一定の傾きを有してることである。傾きとは、層LYRK(Kは1乃至Nのうち任意の整数値)の上面の中心点と、それに隣接する他の層LYR(K+1)の上面の中心点とを結ぶ線分が、略z方向(略垂直方向)に対して一定の角度を有していることをいう。
従って、球体壁面生成手法とは、3DプリンタPTRのヘッダPHから出力されるコンクリート、モルタル又はセラミックの材料Mを配置させる対象の層LYR4(以下、「対象層LYR4」と呼ぶ)として、下層LYR3に対して略水平方向(xy平面と水平な方向)に一定距離LXだけずらして、対象層LYR4に材料Mを3DプリンタPTRにより配置させるという工程を繰り返す手法をいう。
【0017】
ここで、3DプリンタPTRでは、材料Mが、図8に図示せぬタンク等からホースTM,TKを通過してヘッダPHから出力されるまでの出力時間は、20乃至30分程度である。この出力時間の間に材料Mが固まらないようにしてある。
しかしながら、「球体壁面生成手法」により壁面1Tに角度を出す(各層を略水平方向に一定距離ずらす)と、材料Mが固まらずに、壁面1Tが崩れてしまうおそれがある。
そこで、本発明の生産方法の一実施形態は、さらに、「球体壁面生成手法」により壁面1Tに角度を出しても崩れてしまわないように、3DプリンタPTRから材料Mを出力する直前に硬化促進剤を当該材料Mに混入する手法(以下、「硬化促進剤直前混入手法」と呼ぶ)を採用している。
具体的には例えば、図8の例では、ヘッダPHの直上に貯蔵部BFを設け、当該貯蔵部BFに効果促進剤を充填しておき、ホースTM,TKから貯蔵部BFに入力された材料Mに効果促進剤を混入にしたうえで、当該貯蔵部BFからヘッダPHに出力させる、という手法が効果促進剤直前混入手法として採用されている。
【0018】
さらに、本発明の生産方法の一実施形態は、図10に示すように、壁面を2重構造にする手法(以下、「2重構造手法」と呼ぶ)を採用している。
図10は、図1乃至図7の「球体」の壁面を有する家を生産するための、図8の本発明の生産方法の一実施形態に採用された2重構造手法の概要を説明する図である。
図10に示すように、略水平方向(xy平面と水平な方向)において、2つの壁面LCと壁面LIとを部材Dで2重構造に成形する手法が、2重構造手法である。
2重構造手法を採用することで、2つの壁面LCと壁面LIとの間に断熱材H等を封入することで断熱効果を高めると共に、防音効果も高めることができる。
【0019】
ここで、一般的には、3DプリンタPTRによる生成物は割れやすいという性質がある。
そこで、本発明の生産方法の一実施形態は、さらに、図11に示すように、家1の3Dモデルのデジタルデータで強度分析を行い、その強度分析の結果に基づいて強度が弱い箇所を検出して、当該弱い箇所に補強部材を封入する手法(以下、「弱箇所補強手法」と呼ぶ)を採用している。
図11は、図1乃至図7の「球体」の壁面を有する家を生産するための、図8の本発明の生産方法の一実施形態に採用された弱箇所補強手法における、デジタルデータに対する強度分析の結果の一例を示している。
図11に示すように、図1乃至図7の家1の3Dモデルのデジタルデータに対する強度分析結果によれば、2つの弱い箇所WPTが存在することがわかる。
このため、当該弱い箇所WPTに対して、鉄筋やFRPの補強部材が封入される。
その結果、弱い箇所EPTが割れ難くなり、家1の耐震性が向上することになる。
なお、耐震性を重視する場合には、壁面1の全てにFRPの補強材を入れてもよい。これにより、地震発生時の壁の崩落等を防止することができる。
【0020】
以上説明したように、本発明の生産方法の一実施形態により生産された家1は、「球体」の形状を有する。
ここで、「球体」の形状というためには、図1乃至図7に示すように、地面より上部の部分が「球体」の形状を有していれば足りるが、図12に示すように、地面の下部の部分まで含めた全体が「球体」の形状を有していると好適である。
図12は、図8の本発明の生産方法の一実施形態により生産された家のxz平面の断面図を示している。
図12に示すように、家1は、地面Gより上部のみならず下部の部分も「球体」の形状を有している。これにより、家1は、水平が取れたが良い家になる。
【0021】
また、本発明の生産方法の一実施形態により生産された家1の形状が「球体」であり、当該「球体」自体が構造体の役割を果たすことは上述したが、その構造強度を増すことは重要である。
その点で、本発明の生産方法の一実施形態により生産された家1の壁面の垂直方向(z方向)の曲線、即ち、家1の天井頂点と床下底を通る方向の断面における曲線は、カテナリー曲線であると好適である。カテナリー曲線で構成される橋のように、互いが互い支える構造体の役割により構造強度が高くなるからである。
同様に、本発明の生産方法の一実施形態により生産された家1の形状は、鶏卵の形状であると好適である。互いが互い支える構造体の役割により構造強度が高くなるからである。
【0022】
ところで、本発明の生産方法の一実施形態では、3DプリンタPTRを現地に配備できる場合には、図13に示すように、屋根まで壁面を一体成型(現地で3DプリンタPTRが材料Mを一体出力)することができる。
図13は、図8の本発明の生産方法の一実施形態により、図1乃至図7の「球体」の壁面を屋根まで一体成型して家を生産するための一例を示すフロー図である。
図13において、ハッチングの無い白抜きの部分は、現地で3DプリンタPTRが材料Mを一体出力し手形成される壁面を示しており、ドットによるハッチングされた部分は、スチール製プレハブ部材を示している。
図13のステップ(A)乃至(G)の順で、現地で3DプリンタPTRが材料Mを一体出力して順次壁面を形成していき、その間に作業員等が適宜スチール製プレハブ素材を組み合わせていくことで、図1乃至図7の「球体」の壁面を有する家の生産が可能になる。
ステップ(A)は、下部壁面プリントのステップである。
ステップ(B)は、窓・ドアユニット(スチール製プレハブ部材)設置のステップである。
ステップ(C)は、下部構造を完成させるステップである。
ステップ(D)は、上部壁面プリントのステップである。
ステップ(E)は、窓・屋根ユニット、ステップ(スチール製プレハブ部材)設置のステップである。
ステップ(F)及び(G)は、完成のステップ(状態)である。ステップ(F)では素材表示されており、ステップ(G)では仕上表示されている。
【0023】
一方、本発明の生産方法の一実施形態では、3DプリンタPTRを現地に配備できない或いはしない場合には、図14に示すように、現地以外の場所で予め複数の壁面のパーツ(プレキャスト部材)を形成し、現地で複数のプレキャスト部材を組み合わせて家1Cを生産してもよい。
図14は、図8の本発明の生産方法の一実施形態により、事前に成形された複数のプレキャスト部材を組み合わせて図1乃至図7の「球体」の壁面を有する家を生産するための一例を示すフロー図である。
図14において、ハッチングの無い白抜きの部分は、現地以外の場所で事前に3DプリンタPTRが材料Mを出力し手形成される複数のプレキャスト部材を示しており、ドットによるハッチングの部分は、スチール製プレハブ部材を示している。
図14のステップ(a)乃至(f)の順で、現地で作業員等が複数のプレキャスト部材及びスチール製プレハブ素材を適宜組み合わせていくことで、図1乃至図7の「球体」の壁面を有する家1Cの生産が可能になる。
ステップ(a)は、下部壁面部材(プレキャスト部材)の設置のステップである。
ステップ(b)は、窓・ドアユニット(スチール製プレハブ部材)設置のステップである。
ステップ(c)は、上部壁面部材(プレキャスト部材)の設置のステップである。
ステップ(d)は、窓・屋根ユニット、ステップ(スチール製プレハブ部材)設置のステップである。
ステップ(e)及び(f)は、完成のステップ(状態)である。ステップ(e)では素材表示されており、ステップ(f)では仕上表示されている。
【0024】
図15は、図14に示すプレキャスト部材の成形の手法の一例を示す図である。
図15に示すように、3DプリンタPTRは、「球体」の一部に対応する(曲面を有する)型板Kに対して材料Mを配置させることで1つの層を形成すると、さらに、ヘッダPHを略垂直方向に移動させて、当該層に積み重ねるように次の層を形成する。このようにして、3DプリンタPTRは、略垂直方向に複数の層を積み重ねることで、プレキャスト部材11を成形する。
この場合、角度が出たプレキャスト部材11を崩れ難くすべく、3DプリンタPTRから材料Mを出力する直前に硬化促進剤を当該材料Mに混入する上述の硬化促進剤直前混入手法が採用されている。
さらに、角度が出たプレキャスト部材11をより崩れ難くすべく、図15に示すようにメッシュの補強材MHを封入してもよい。また、角度が出たプレキャスト部材11をより崩れ難くするという点で、図示はしないが、サポート材(砂、小石、発泡スチロール)を層内又は層間に配置させてもよい。
【0025】
ところで、本発明の生産方法の一実施形態により生産された家1は、構造強度、耐火性、耐水性、断熱、及び内外仕上げ美しいという特長を併せ持つとさらに好適である。
構造強度という観点では、「球体」の形状の他に、壁面1Tを形成するための材料Mを含む素材が単一素材であると好適である。耐火性という観点では、単一素材であると好適である。耐水性という観点では、素材に耐水物を加えると好適である。断熱という観点では、2重構造手法(図10参照)を採用すると好適である。美しいという観点では、例えば素材がセラミックの場合には焼き物のように形成させたり、素材がコンクリートの場合には色付けをすると好適である。
以上のことから、本発明の生産方法の一実施形態として、壁面1Tを形成するための材料Mを含む素材を単一素材にする手法を採用すると好適である。
【0026】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0027】
生産方法により生産される物は、上述の実施形態では家1とされたが特にこれに限定されず、建築物であれば足りる。
また、3DプリンタPTRにより材料Mが配置されて形成される対象は、上述の実施形態では壁面11とされたが特にこれに限定されず、建築物の少なくとも一部であれば足りる。
また、3DプリンタPTRの材料を配置させる層の方向は、上述の実施形態では略垂直方向(z方向)とされたが、特にこれに限定されず、任意の第1方向でよい。この場合、建物を「球体」の形状にするために第1方向の角度を出すためには、第1方向と略90度の第2方向に各層が一定距離ずれていれば足りる。
【0028】
以上を換言すると、本発明が適用される生産方法は、次のような構成を有していれば足り、各種各様な実施の形態を取ることができる。
建築物(例えば図1乃至図7の家1)のデジタルデータに基づいて、3Dプリンタ(例えば図8の3DプリンタPTR)のヘッダ(例えば図8のヘッダPH)から出力されるコンクリート、モルタル又はセラミックの材料(例えば図9の材料M)を、第1方向(例えば図8及び図9のz方向:垂直方向)に積層させていくことで、建築物の少なくとも一部(例えば図8及び図9の壁面1T)を生産する、建築物の生産方法であって、
前記3Dプリンタが前記材料を配置させる対象の層を対象層(例えば図9の層LYR4)として、前記3Dプリンタが、当該対象層の下層(例えば図9の層LYR3)に対して、前記第1方向と略90度の第2方向(例えば図8及び図9のx方向又はy方向と平行な方向:水平方向)に一定距離(例えば距離LX)ずらして、当該対象層に前記材料を配置する配置ステップ(例えば図9に示すステップ)を繰り返すことで、
前記第1方向に対して角度を出して(例えば図1乃至図7に示すように、「球体」の形状にして)、前記建築物の少なくとも一部を生産する、
建築物の生産方法であれば足りる。
【0029】
このようにして、3Dプリンタを用いて「球体」の形状の建築物(家1等)の生産が可能になる。
その結果、従来の建築物の生産や、3Dプリンタを用いた直方体形状の建築物の生産と比較して、自然災害等に耐える強度を維持したうえで、時間(施工期間)及びコストを大幅に削減することができる。
【0030】
前記配置ステップの前に、所定の硬化促進剤を前記材料に混入する(例えば図8のヘッダPHの直上に貯蔵部BFで材料Mに硬化促進剤を混入する)硬化促進剤直前混入ステップ、
をさらに含むことができる。
【0031】
これにより、建築物の少なくとも一部が角度を出しても(「球体」の形状にしても)崩れることを防止することが可能になる。
【0032】
前記層をサポートするための所定のサポート材を層内又は層間に配置させるサポート材配置ステップ、
をさらに含むことができる。
【0033】
これにより、建築物の少なくとも一部が角度を出しても(「球体」の形状にしても)崩れることをさらに一段と防止することが可能になる。
【0034】
戦記配置ステップを繰り返すことで、前記建築物の屋根まで一体成型する(例えば図13参照)、
ことができる。
【0035】
これにより、時間(施工期間)及びコストの削減効果がより顕著なものとなる。
【0036】
前記配置ステップを繰り返すことで、前記第1方向においてカテナリー曲線の形状を有する前記建築物を生産する、
ことができる。
【0037】
これにより、カテナリー曲線で構成される橋のように、互いが互い支える構造体の役割により建築物の構造強度を向上させることができる。
【0038】
前記配置ステップを繰り返すことで、前記第1方向において鶏卵の形状を有する前記建築物を生産する、
ことができる。
【0039】
これにより、互いが互い支える構造体の役割により建築物の構造強度を向上させることができる。
【0040】
前記配置ステップを繰り返すことで、前記建築物の少なくとも一部として、地面より下の部分も形成する(例えば図12の地面Gの下に形成する)
ことができる。
【0041】
これにより、水平が取れたが良い建築物が生産される。
【0042】
前記配置ステップを繰り返すことで、前記第2方向において、前記層を2重構造(例えば図10の2つの壁面LCと壁面LIによる2重構造)に形成する、
ことができる。
【0043】
これにより、断熱効果及び防音効果に優れた建築物が生産される。
【0044】
前記建築物の前記デジタルデータに対して強度分析を実行し、当該強度分析の結果(例えば図11参照)に基づいて強度が弱い箇所(例えば図11の箇所WPT)を特定し、当該箇所に補強部材を封入する補強部材封入ステップ、
をさらに備えることができる。
【0045】
これにより、割れ難い建築物の生産が可能になる。
【0046】
前記材料を含む素材を単一素材にする、
ことができる。
【0047】
これにより、構造強度、耐火性、耐水性、断熱、及び内外仕上げ美しいという特長を併せ持つ建築物の生産が可能になる。
【0048】
また、本発明が適用される建築物は、次のような構成を有していれば足り、各種各様な実施の形態を取ることができる。
建築物のデジタルデータに基づいて、3Dプリンタ(例えば図8の3DプリンタPTR)のヘッダ(例えば図8のヘッダPH)から出力されるコンクリート、モルタル又はセラミックの材料(例えば図9の材料M)を、第1方向(例えば図8及び図9のz方向:垂直方向)に積層させていくことで、その少なくとも一部(例えば図8及び図9の壁面1T)が生産される建築物(例えば図1乃至図7の家1)であって、
前記3Dプリンタが前記材料を配置させる対象の層を対象層(例えば図9の層LYR4)として、前記3Dプリンタが、当該対象層の下層(例えば図9の層LYR3)に対して、前記第1方向と略90度の第2方向(例えば図8及び図9のx方向又はy方向と平行な方向:水平方向)に一定距離(例えば距離LX)ずらして、当該対象層に前記材料を配置する配置ステップ(例えば図9に示すステップ)が繰り返されることで、
前記少なくとも一部が前記第1方向に対して角度が出る(例えば図1乃至図7に示すように、「球体」の形状になる)ように形成される、
建築物であれば足りる。
【0049】
このようにして、従来の家や、3Dプリンタを用いた直方体形状の建築物と比較して、自然災害等に耐える強度を維持したうえで、時間(施工期間)及びコストを大幅に削減することが可能な、3Dプリンタを用いた「球体」の形状の建築物の提供が可能になる。
【符号の説明】
【0050】
1、1B、1C・・・家、1T・・・壁面、11・・・プレキャスト部材、PTR・・・3Dプリンタ、TM,TK・・・ホース、BF・・・貯蔵部、PH・・・ヘッダ、LYR1,LYR2,LYR3,LYR4・・・層、LC,LI・・・層
図1
図2
図3
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