(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068720
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】非水電解液電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/454 20210101AFI20230511BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20230511BHJP
H01M 50/531 20210101ALI20230511BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20230511BHJP
H01M 6/16 20060101ALI20230511BHJP
H01M 50/44 20210101ALI20230511BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20230511BHJP
H01M 50/46 20210101ALI20230511BHJP
H01M 10/0587 20100101ALI20230511BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20230511BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230511BHJP
H01M 50/449 20210101ALI20230511BHJP
【FI】
H01M50/454
H01M50/403 C
H01M50/531
H01M10/0566
H01M6/16 D
H01M50/44
H01M50/489
H01M50/46
H01M10/0587
H01M10/058
H01M10/052
H01M50/449
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021179978
(22)【出願日】2021-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】弁理士法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 隼輝
(72)【発明者】
【氏名】本池 紘一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 翔
(72)【発明者】
【氏名】平田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】花村 玲
【テーマコード(参考)】
5H021
5H024
5H029
5H043
【Fターム(参考)】
5H021AA06
5H021BB11
5H021CC02
5H021CC04
5H021EE02
5H021EE04
5H021EE08
5H021EE11
5H021HH01
5H021HH03
5H021HH10
5H024AA02
5H024AA03
5H024AA12
5H024BB14
5H024CC02
5H024CC12
5H024DD09
5H024DD11
5H024FF15
5H024FF16
5H024FF18
5H024HH13
5H024HH15
5H029AJ12
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029BJ02
5H029BJ14
5H029CJ05
5H029DJ04
5H029DJ11
5H029DJ15
5H029EJ12
5H029HJ04
5H029HJ14
5H043AA04
5H043AA19
5H043BA07
5H043BA17
5H043BA19
5H043CA03
5H043CA12
5H043CB06
5H043EA11
5H043LA21E
(57)【要約】
【課題】安全性が高くセパレータ内の電解液不足の発生を抑制可能な非水電解液電池を提供する。
【解決手段】渦巻き状に巻回された状態で円筒形の電池缶に収納された電極体は、それぞれシート状の正極及び負極5と、正極または負極5の一方の電極(
図2の例では負極5)を挟むセパレータ積層体6,7を有する。セパレータ積層体6,7は、それぞれ、長手方向の第1の辺に沿って設けられた溶着領域6c,7cと、第1の辺に対向する長手方向の第2の辺に沿って設けられた溶着領域6d,7dにて互いに溶着された2以上(
図2の例では2)のセパレータ6a,6b,7a,7bを有する積層体であって、長手方向の、第1の辺に沿って設けられた溶着領域20aと第2の辺に沿って設けられた溶着領域20bにて互いに溶着されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
渦巻き状に巻回された状態で円筒形の電池缶に収納された電極体を備え、
前記電極体は、
それぞれシート状の正極及び負極と、
それぞれ、長手方向の第1の辺に沿って設けられた第1の溶着領域と、前記第1の辺に対向する前記長手方向の第2の辺に沿って設けられた第2の溶着領域にて互いに溶着された2以上のセパレータを有する積層体であって、前記正極または前記負極の一方の電極を挟み、前記長手方向の、前記第1の辺に沿って設けられた第3の溶着領域と前記第2の辺に沿って設けられた第4の溶着領域にて互いに溶着された、第1セパレータ積層体及び第2セパレータ積層体と、
を有する非水電解液電池。
【請求項2】
前記第1の溶着領域と前記第3の溶着領域、及び前記第2の溶着領域と前記第4の溶着領域は、前記第1セパレータ積層体及び前記第2セパレータ積層体の短手方向に異なる位置に設けられている、請求項1に記載の非水電解液電池。
【請求項3】
前記一方の電極に電気的に接続されたタブを有し、
前記第1セパレータ積層体及び前記第2セパレータ積層体の前記長手方向には、前記第3の溶着領域または前記第4の溶着領域がない、第1の非溶着領域と第2の非溶着領域とが設けられており、
前記タブは、前記第1の非溶着領域を介して、前記第1セパレータ積層体と前記第2セパレータ積層体による貼り合わせ構造体の外部に取り出されている、
請求項1または2に記載の非水電解液電池。
【請求項4】
前記第3の溶着領域及び前記第4の溶着領域の前記長手方向の長さは、前記第1セパレータ積層体及び前記第2セパレータ積層体の前記長手方向の長さの40%以上、80%以下である、請求項1乃至3の何れか一項に記載の非水電解液電池。
【請求項5】
前記2以上のセパレータは、少なくとも微多孔性フィルムによる第1のセパレータと不織布による第2のセパレータとを有し、前記第2のセパレータの融点は前記第1のセパレータの融点よりも高い、請求項1乃至4の何れか一項に記載の非水電解液電池。
【請求項6】
前記第1のセパレータと前記第2のセパレータのうち、前記第1のセパレータが前記一方の電極に接している、請求項5に記載の非水電解液電池。
【請求項7】
前記負極は、リチウム金属またはリチウム合金を有しており、
前記一方の電極は、前記負極である、
請求項1乃至6の何れか一項に記載の非水電解液電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液電池として、シート状の正極とシート状の負極とをシート状のセパレータを介して巻回した電極体を有するものがある。このような非水電解液電池は、正極と負極との対向面積を大きくしやすいため、大電流を使用する用途に適している。しかし、大電流で放電した際には、セパレータ内の電解液(非水電解液)が不足し、十分な電流が流せなくなる場合があった。
【0003】
従来、微多孔性フィルムに対して電解液をより多く保持し得る不織布を、微多孔性フィルムと重ね合せたセパレータを含む電池が提案されている(たとえば、特許文献1-5参照)。
【0004】
一方、非水電解液電池において、電池への衝撃や振動、異常な加熱などによってセパレータが正極と負極との隔離を保てない場合、短絡が発生し発熱や破裂に至る可能性がある。たとえば、リチウム(Li)イオン二次電池やリチウム一次電池のセパレータとして用いられるポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)製の微多孔性フィルムは、加熱によって容易かつ大幅に収縮し短絡が発生する可能性や、衝撃や振動によって位置ずれが生じることで短絡が発生する可能性がある。
【0005】
従来、短絡の防止と電解液の吸液性を向上させるために、正極または負極のどちらか一方の極板の表裏に存在するセパレータ同士の両端を一定間隔でミシン目状に熱溶着しつつ捲回する捲回型電池が提案されている(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-192403号公報
【特許文献2】特開2006-139918号公報
【特許文献3】特開2009-217936号公報
【特許文献4】特開2007-250414号公報
【特許文献5】特開平9-306513号公報
【特許文献6】特開2004-199924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の非水電解液電池には、安全性とセパレータ内の電解液不足について改善の余地がある。
1つの側面では、本発明は、安全性が高くセパレータ内の電解液不足の発生を抑制可能な非水電解液電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つの実施態様では、渦巻き状に巻回された状態で円筒形の電池缶に収納された電極体を備え、前記電極体は、それぞれシート状の正極及び負極と、それぞれ、長手方向の第1の辺に沿って設けられた第1の溶着領域と、前記第1の辺に対向する前記長手方向の第2の辺に沿って設けられた第2の溶着領域にて互いに溶着された2以上のセパレータを有する積層体であって、前記正極または前記負極の一方の電極を挟み、前記長手方向の、前記第1の辺に沿って設けられた第3の溶着領域と前記第2の辺に沿って設けられた第4の溶着領域にて互いに溶着された、第1セパレータ積層体及び第2セパレータ積層体と、を有する非水電解液電池が提供される。
【発明の効果】
【0009】
1つの側面では、本発明は、安全性が高くセパレータ内の電解液不足の発生を抑制可能な非水電解液電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施の形態の円筒形の非水電解液電池の一例を示す断面図である。
【
図2】セパレータ積層体の一例を説明する斜視図である。
【
図3】セパレータ積層体の2つのセパレータが溶着される溶着領域と、2つのセパレータ積層体が溶着される溶着領域とが短手方向において重なる場合を示す図である。
【
図4】2種類の溶着領域の重なりの有無による特性差の評価結果を示す図である。
【
図5】セパレータの数と溶着の有無による特性差の確認結果を示す図である。
【
図6】2種類の溶着領域の長手方向の長さを変化させた例を示す図である。
【
図7】2種類の溶着領域の長手方向の長さを変化させたときの吸液速度、放電容量及び自由落下試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、発明を実施するための形態を、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施の形態の円筒形の非水電解液電池の一例を示す断面図である。
非水電解液電池1は、たとえば、リチウム金属やリチウム合金を負極活物質とし、二酸化マンガンや酸化銅などを正極活物質とするリチウム一次電池である。なお、非水電解液電池1は、黒鉛やシリコンなどを負極活物質とし、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)などを正極活物質とするリチウム二次電池などであってもよい。
【0012】
非水電解液電池1は、渦巻き状に巻回された状態で有底の円筒形の電池缶2に非水電解液3と共に収納された電極体10を備えている。電極体10は、電池缶2の円筒軸2aを巻き軸として巻回されている。
【0013】
電極体10は、それぞれシート状の正極4及び負極5と、正極4と負極5の一方の電極(
図1の例では負極5)を挟み、後述のように長手方向の2辺に沿って設けられた溶着領域にて互いに溶着されたセパレータ積層体6,7を有する。
【0014】
非水電解液3は、非水系溶媒に添加剤を加えたものである。非水系溶媒として、たとえば、プロピレンカーボネート(PC)と、エチレンカーボネート(EC)と、1,2-ジメトキシエタン(DME)を、重量比率で、PC:EC:DME=10:10:80で混合したものを用いることができる。添加剤として、たとえば、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、過塩素酸リチウム(LiClO4)などの支持塩を用いることができる。
【0015】
正極4は、たとえば、正極合剤(たとえば、正極活物質と導電材とバインダを混合させたもの)を芯体に圧延し、所定の大きさに切断した後に乾燥させてシート状にしたものである。芯体として、たとえば、ラス板、平織り金網、エキスパンドメタル、金属箔などを用いることができる。芯体の材質として、正極電位に対する耐食性があるものであることが望ましい。そのような材質として、SUS316、SUS444などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
負極5は、リチウム金属またはリチウム合金をシート状に成形したものである。リチウム合金として、たとえば、リチウム-アルミニウム(Al)合金、リチウム-マグネシウム(Mg)合金、リチウム-スズ(Sn)合金、リチウム-亜鉛(Zn)合金、リチウム-アンチモン(Sb)合金、リチウム-ケイ素(Si)合金などを用いることができる。
【0017】
なお、負極5の表面にリチウムと合金化する金属を配置して、合金化層が形成されるようにしてもよい。たとえば、負極5の表面にアルミニウム箔を配置してリチウムと合金化されるようにしてもよい。また、負極5の表面に配置する金属は、合金化する元素であれば特に限定されるものではなく、たとえば、マグネシウム・スズ・亜鉛・ケイ素などを用いることができる。また、負極5の表面に配置するものは金属箔に限らず、板、粉末やそれを加工したものであってもよい。
【0018】
セパレータ積層体6,7の例については後述する(
図2参照)。
非水電解液電池1は、さらに、封口板11、負極端子12、金属製のワッシャ13、樹脂製のガスケット14、正極タブ15、負極タブ16を有する。
【0019】
封口板11は、中央に開口を有する円盤状部を有し、当該円盤状部の縁は上方に向かって屈曲している。負極端子12とワッシャ13とは、ガスケット14を介してかしめられている。封口板11の縁端と電池缶2の上部縁端とはレーザ溶接などにより溶接されている。これにより電池缶2の缶口が封口され電池缶2内が封止されている。
【0020】
負極5と負極端子12の下面とは、負極タブ16を介して電気的に接続されている。また、正極4と電池缶2の内面とは、正極タブ15を介して電気的に接続されている。
図2は、セパレータ積層体の一例を説明する斜視図である。
図2には、巻回される前のセパレータ積層体6,7の長手方向の一部が示されている。
【0021】
図2の例では、セパレータ積層体6は、2つのセパレータ6a,6bを有する積層体であり、セパレータ積層体7も、2つのセパレータ7a,7bを有する積層体である。なお、セパレータ積層体6,7は、それぞれ3つ以上のセパレータを有する積層体であってもよい。
【0022】
セパレータ6a,6bは、長手方向の第1の辺に沿って設けられた溶着領域6cと、第1の辺に対向する第2の辺に沿って設けられた溶着領域6dにより互いに溶着されている。セパレータ7a,7bも同様に、長手方向の第1の辺に沿って設けられた溶着領域7cと、第1の辺に対向する第2の辺に沿って設けられた溶着領域7dにより互いに溶着されている。
【0023】
また、セパレータ積層体6,7は、負極5を挟み、長手方向の、第1の辺に沿って設けられた溶着領域20aと、第1の辺に対向する第2の辺に沿って設けられた溶着領域20bにより互いに溶着されている。
【0024】
溶着領域6c,6d,7c,7d,20a,20bは、何れも負極5の上面(及び下面)とは対向していない部分に設けられている。
たとえば、セパレータ6a,7aは、ポリオレフィン製の微多孔性フィルムであり、セパレータ6b,7bは、セパレータ6a,7aの融点より高い、不織布(たとえば、シート状の樹脂製不織布(ポリプロピレン製不織布など))である。樹脂製不織布の例として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、セルロースなどがある。微多孔性フィルムは、より低温でシャットダウン性能があることが好ましい。
【0025】
溶着領域6c,6d,7c,7dにおける溶着は予め行われ、その後、セパレータ積層体6,7により負極5を挟んだ状態で、溶着領域20a,20bにおける溶着が行われる。
【0026】
溶着方法として、超音波溶着が好適であるが、熱溶着などの方法を用いることもできる。なお、セパレータ積層体6,7の短手方向は、長手方向と比較してセパレータずれなどが生じにくいため溶着が行われていなくてもよい。より安全性を求める用途の場合は、セパレータ積層体6,7の短手方向に溶着が行われていてもよい。
【0027】
また、溶着領域20a,20bは、セパレータ積層体6,7の長手方向全長にわたって設けられていなくてもよい。
図1に示したような負極タブ16の取り出し用、巻きじわ軽減用の非溶着領域が設けられていてもよい(
図8参照)。後述のように、適度に非溶着領域を設けると、巻きじわの軽減や、非水電解液3の吸液性(吸液速度)の向上が期待できる。なお、溶着領域6c,6d,7c,7dについても、セパレータ積層体6,7の長手方向全長にわたって設けられていなくてもよい(
図9参照)。
【0028】
上記のように、本実施の形態の非水電解液電池1によれば、正極4と負極5との間に介在するセパレータ数が2つ以上(
図2の例では2つ)であるため、非水電解液3が保持される空間が、セパレータ数が1つの場合の当該空間よりも広がる。たとえば、セパレータ6a,6b間の空間及びセパレータ7a,7b間の空間においても非水電解液3が保持される。これにより、セパレータ内の電解液不足の発生を抑制でき、非水電解液電池1の大電流特性を維持できる。
【0029】
また、非水電解液電池1では、溶着領域6c,6dで固定したセパレータ6a,6bによるセパレータ積層体6と、溶着領域7c,7dで固定したセパレータ7a,7bによるセパレータ積層体7とで負極5が挟まれ、溶着領域20a,20bでセパレータ積層体6,7が溶着されている。これにより、急激な温度上昇によるセパレータ6a,6b,7a,7bの収縮や、衝撃や振動などによる位置ずれによる短絡の発生が抑制され、安全性を高めることができる。
【0030】
また、セパレータ積層体6,7が、微多孔性フィルムであるセパレータ6a,7aよりも融点が高い不織布であるセパレータ6b,7bを有することで、温度上昇によるセパレータ積層体6,7の収縮が抑制され、セパレータ積層体6,7の形状を維持できる。
【0031】
また、セパレータ6b,7bよりも融点が低い微多孔性フィルムであるセパレータ6a,7aが、負極5に接するように配置されているため、微多孔性フィルムが溶解することで、セパレータ積層体6,7同士の熱融着が行いやすくなり、生産性が向上する。
【0032】
また、溶着領域6c,7cと溶着領域20a、及び溶着領域6d,7dと溶着領域20bが、短手方向に異なる位置に設けられていることで、溶着が容易に行えるようになり、溶着の際にセパレータ積層体6,7に穴あきなどの不具合が生じることを抑制できる。
【0033】
(電池特性の評価結果)
以下、セパレータ6a,6b,7a,7bの種類や、溶着領域6c,7c,20a,20bの位置や形態を種々変更した場合の、非水電解液電池1の電池特性についての評価結果を示す。
【0034】
なお、評価に用いた非水電解液電池1は、直径17mm、高さ33.5mmの円筒形のリチウム一次電池である。正極4は、電解二酸化マンガン(EMD)、導電材(炭素(C))、フッ素系のバインダを質量比90:5:5の割合で混合した正極合剤をラス芯体に圧延し、所定の大きさに切断した後に乾燥させてシート状にしたものである。また、負極5は、リチウムアルミニウム合金である。非水電解液3は、プロピレンカーボネートと、エチレンカーボネートと、1,2-ジメトキシエタンを、重量比率で、PC:EC:DME=10:10:80で混合したものに、支持塩として、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム支持塩を0.5M添加したものである。
【0035】
溶着領域6c,7c,20a,20bにおける溶着は、超音波溶着により行われた。
評価した電池特性は、放電容量と、自由落下試験において非水電解液電池1の電圧低下が起こるまでの自由落下回数と、非水電解液が溶着領域20a,20bを通過して浸透する際の、溶着領域20a,20bによる吸液速度である。
【0036】
放電容量の確認の際は、560Ωの抵抗が負荷として用いられた。自由落下試験は、IEC(International Electrotechnical Commission)60086に規定されているTest JにおけるZ軸方向と同様の条件にて行われた。吸液速度の評価は、JIS L 1907/バイレック法により行われた。
【0037】
図3は、セパレータ積層体の2つのセパレータが溶着される溶着領域と、2つのセパレータ積層体が溶着される溶着領域とが短手方向において重なる場合を示す図である。
図3には、溶着領域6c,7cと溶着領域20aとが短手方向において重なっている例が示されている。なお、
図3では、溶着領域6d,7d,20bについては、図示が省略されている。
【0038】
図4は、2種類の溶着領域の重なりの有無による特性差の評価結果を示す図である。
図4では、セパレータ積層体の2つのセパレータが溶着される溶着領域(
図3の例では溶着領域6c,7c)と、2つのセパレータ積層体が溶着される溶着領域(
図3の例では溶着領域20a)である2種類の溶着領域が、短手方向において重なる(位置が同じ)場合を比較例1としている。また、上記のような2種類の溶着領域が短手方向において重ならない(位置が異なる)場合(
図2に示したような場合)を実施例1としている。
【0039】
比較例1では、溶着領域20a,20bにおける溶着の際に、セパレータ積層体6,7に破れや穴あきが確認された。また、比較例1では、自由落下試験において非水電解液電池1の電圧低下が起こるまでの自由落下回数は、500回であった。比較例1では、2種類の溶着領域が重なることで各溶着領域の形状が不安定になり、自由落下におけるセパレータ6a,6b,7a,7bの位置ずれにより内部短絡が生じ、電圧低下が起こりやすくなったものと考えられる。
【0040】
一方、実施例1では、溶着領域20a,20bにおける溶着の際に、セパレータ積層体6,7に破れや穴あきが確認されなかった。また、実施例1では、自由落下試験において非水電解液電池1の電圧低下が起こるまでの自由落下回数は、2900回であった。実施例1では、溶着領域6c,7cと溶着領域20a、及び溶着領域6d,7dと溶着領域20bを、短手方向に異なる位置に設けることで、溶着が容易に行えるようになったため穴あきなどの不具合の発生が生じにくくなっているものと考えられる。このため、実施例1では内部短絡が起きにくく、高い安全性が得られていることがわかる。
【0041】
図5は、セパレータの数と溶着の有無による特性差の確認結果を示す図である。
図5では、厚みが15μm、融点が120℃のポリエチレン製の微多孔性フィルムであるセパレータ6a,7aを用い、セパレータ6b,7bを用いない場合を比較例2としている。また、比較例2と同じセパレータ6a,7aを用い、厚みが35μm、融点が165℃のポリプロピレン製の不織布であるセパレータ6b,7bを用いるが、セパレータ6a,6b及びセパレータ7a,7bをそれぞれ溶着により貼り合わせない場合を、比較例3としている。また、比較例2及び3と同じセパレータ6a,7aを用い、比較例3と同じセパレータ6b,7bを用い、セパレータ6a,6b及びセパレータ7a,7bをそれぞれ溶着により貼り合わせた場合(
図2に示したような場合)を実施例1としている。
【0042】
放電容量は、セパレータ6b,7bを用いていない比較例2では1550mAhであるのに対して、セパレータ6a,7aのみならずセパレータ6b,7bを用いる比較例3及び実施例1では1700mAhに増加している。これは、セパレータ6a,6b間、セパレータ7a,7b間の空間で非水電解液3が保持され、電解液不足が抑制されることによる効果であると考えられる。
【0043】
一方、自由落下試験において非水電解液電池1の電圧低下が起こるまでの自由落下回数は、比較例2及び比較例3では500回であるのに対して、実施例1では2900回であった。これは、セパレータ6a,6b及びセパレータ7a,7bをそれぞれ溶着により貼り合わせたことによって、自由落下による衝撃や振動によるセパレータ6a,6b,7a,7bの位置ずれの発生が抑制されることによる効果であると考えられる。
【0044】
つまり、セパレータ6a,6bを溶着領域6c,6dで、セパレータ7a,7bを溶着領域7c,7dでそれぞれ溶着により貼り合わせたことで、高い安全性が得られていることがわかる。
【0045】
次に、2種類の溶着領域の長手方向の長さを変化させたときの電池特性の変化の評価結果を示す。
図6は、2種類の溶着領域の長手方向の長さを変化させた例を示す図である。
【0046】
図6では、溶着領域6c,7cを減少させる(長手方向の長さを短くさせる)場合と、溶着領域20aを減少させる(長手方向の長さを短くさせる)場合が示されている。溶着領域20aを減少させる場合については、溶着領域20aの長手方向の長さが、セパレータ積層体6,7の長手方向の長さの40%以上、80%以下である場合と、20%以下の場合の2例が示されている。
【0047】
なお、
図6では、溶着領域6d,7d,20bについては、図示が省略されているが、これらについても同様に長手方向の長さを変化させることができる。
図7は、2種類の溶着領域の長手方向の長さを変化させたときの吸液速度、放電容量及び自由落下試験結果を示す図である。
【0048】
図7には、セパレータ積層体6,7の長手方向に渡って設けられている溶着領域6c,6d,7c,7d,20a,20bの割合が異なる8例が示されている。なお、短手方向の溶着領域6c,6d,7c,7d,20a,20bの長さ(溶着幅)は、溶着装置に応じた一定の値である。
【0049】
上記割合は、長手方向に部分的に非溶着領域がある場合には、割合(%)=(非溶着領域を除く溶着領域の部分の長手方向の合計長さ/セパレータ積層体6,7の長手方向の長さ)×100である。
【0050】
比較例4では、溶着領域6c,6d,7c,7dと溶着領域20a,20bの2種類の溶着領域についての上記割合が共に100%である。実施例1~4、比較例5では、溶着領域6c,6d,7c,7dについての上記割合は100%であるが、溶着領域20a,20bについての上記割合は、実施例1については80%、実施例2については60%、実施例3については40%、実施例4については20%、比較例5については0%である。なお、溶着領域20a,20bにおいて、非溶着領域の位置は、短手方向において同じ位置に設けられている(
図8参照)。比較例6、比較例7は、溶着領域20a,20bについての上記割合は100%であるが、溶着領域6c,6d,7c,7dについての上記割合は、比較例6については80%、比較例7については40%である。なお、溶着領域6c,7cと溶着領域6d,7dにおいて、非溶着領域の位置は、短手方向において同じ位置に設けられている。
【0051】
図7に示すように、吸液速度は、比較例4、比較例5、実施例1~4の比較から明らかなように、溶着領域20a,20bについての上記割合が減少するほど上がる。これは、非水電解液3が上記長手方向から浸透するため、上記割合が少ないほど浸透が速くなるためである。このように、吸液速度が速くなることで、製造工数を削減できる。
【0052】
ただし、溶着領域20a,20bについて上記割合が小さすぎる(たとえば、実施例4では20%)と自由落下試験の結果が悪化するため、上記割合は40%以上80%以下であることが望ましい(
図6参照)。
【0053】
一方、比較例4、比較例6、比較例7の比較から明らかなように、溶着領域6c,6d,7c,7dについての上記割合が減少すると、吸液速度は変わらず、自由落下試験の結果は悪化する。このため、溶着領域6c,6d,7c,7dについての上記割合は100%であることが望ましい。ただ、溶着領域6c,6d,7c,7dについての上記割合が100%より小さく、溶着領域20a,20bについての上記割合も100%より小さい場合は、吸液速度が向上する場合もある(
図9参照)。
【0054】
なお、上記8例について放電容量の値は変わらなかった。
ところで、前述のように、溶着領域20a,20bがない非溶着領域は、
図1に示したような負極タブ16の取り出し用や、巻きじわ軽減用として用いることができる。
【0055】
図8は、非溶着領域の使用例を示す図である。
図8の例では、溶着領域20bがない非溶着領域30,31が設けられており、負極5に電気的に接続された負極タブ16が、非溶着領域30を介して、セパレータ積層体6,7による貼り合わせ構造体の外部に取り出されている。
【0056】
一方、非溶着領域31は、巻きじわを軽減させる機能を有する。
溶着領域20a側についても、長手方向において非溶着領域30と同じ位置に、非溶着領域30と同じ長さの非溶着領域32が設けられており、長手方向において非溶着領域31と同じ位置に、非溶着領域31と同じ長さの非溶着領域33が設けられている。
【0057】
(変形例)
図9は、変形例を示す図である。
図9では、溶着領域6c,7cと溶着領域20aが、それぞれ長手方向に周期的に設けられており、溶着領域6c,7cと溶着領域20aの長手方向の長さが同じ場合と異なる場合、長手方向において溶着領域6c,7cと、溶着領域20aが設けられる位相が同じ場合と異なる場合の組合せによる4つの変形例が示されている。
【0058】
これら4つの変形例について、
図7に示したような吸液速度の確認と自由落下試験を行ったところ、自由落下試験の結果については4つの変形例の間で顕著な差異は見られなかった。
【0059】
一方、吸液速度については、溶着領域6c,7cと、溶着領域20aの長手方向の長さが同じ場合で、長手方向において溶着領域6c,7cと、溶着領域20aが設けられる位相が同じ場合(溶着領域6c,7cについての非溶着領域と、溶着領域20aについての非溶着領域の長手方向の位置が同じ場合)が、最も速かった。その次に吸液速度が速かったのは、溶着領域20aの長手方向の長さが異なる、2つの変形例である。
【0060】
なお、
図9では、溶着領域6d,7d,20bについては、図示が省略されているが、これらについても上記と同様のことが言える。
以上、実施の形態に基づき、本発明の非水電解液電池の一観点について説明してきたが、これらは一例にすぎず、上記の記載に限定されるものではない。
【0061】
たとえば、上記では、
図2に示したように負極5がセパレータ積層体6,7に挟まれるものとして説明したが、正極4がセパレータ積層体6,7に挟まれるものであってもよい。その場合、
図1の非水電解液電池1において、負極5が渦巻き状に巻回された状態で電池缶2に収納された電極体10の最外周に位置する。そして、負極タブ16の代わりに正極4に電気的に接続された正極タブが用いられ、正極タブ15の代わりに負極5に電気的に接続された負極タブが用いられ、負極端子12の代わりに正極端子が用いられる。
【符号の説明】
【0062】
1 非水電解液電池
2 電池缶
2a 円筒軸
3 非水電解液
4 正極
5 負極
6,7 セパレータ積層体
6a,6b,7a,7b セパレータ
6c,6d,7c,7d,20a,20b 溶着領域
10 電極体
11 封口板
12 負極端子
13 ワッシャ
14 ガスケット
15 正極タブ
16 負極タブ
30~33 非溶着領域