(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068736
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】自動車のバッテリーケース保護構造及びフロアクロスメンバ
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20230511BHJP
B60K 1/04 20190101ALI20230511BHJP
【FI】
B62D25/20 G
B60K1/04 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180008
(22)【出願日】2021-11-04
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】樋貝 和彦
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 毅
【テーマコード(参考)】
3D203
3D235
【Fターム(参考)】
3D203AA02
3D203AA31
3D203AA33
3D203BB06
3D203BB08
3D203BB12
3D203BB22
3D203CA02
3D203CA07
3D203CA25
3D203CA52
3D203CA53
3D203CA69
3D203CB04
3D203CB19
3D203DB05
3D235AA02
3D235BB03
3D235BB07
3D235BB18
3D235CC15
3D235DD35
3D235EE63
3D235FF07
3D235FF09
3D235FF12
3D235HH26
3D235HH44
(57)【要約】
【課題】側面衝突時のバッテリーケースの変形を抑制し、軽量化が可能で、キャビン容積を低下させたり車両設計の自由度を低下させたりすることなく、制振性にも優れる自動車のバッテリーケース保護構造及びフロアクロスメンバを提供する。
【解決手段】本発明に係る自動車のバッテリーケース保護構造1は、フロア3と、バッテリーケース5と、一対のサイドシル7と、バッテリーケース5の上方を車幅方向に横切ってバッテリーケース5よりも車幅方向両側に突出するようにフロア3の上面に設けられるフロアクロスメンバ9とを備え、フロアクロスメンバ9は、天板部13a、縦壁部13b及びフランジ部13cを有するハット断面部材13と、ハット断面部材13の少なくとも縦壁部13bの内面及び/又は外面に貼付又は塗布された樹脂15と、樹脂15を覆うように配設されて樹脂15と接着された補強板17とを備えてなることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車を構成する車体の床部分の少なくとも一部を構成するフロアと、
該フロア下に搭載されてバッテリーを格納するバッテリーケースと、
前記フロアの車体幅方向の両端部に設けられて車体前後方向に延在する一対のサイドシルと、
前記バッテリーケースの上方を車幅方向に横切って前記バッテリーケースよりも車幅方向両側に突出するように前記フロアの上面に設けられると共に両端部が前記一対のサイドシルの側面に当接するフロアクロスメンバとを備えて構成された自動車の車体構造において前記バッテリーケースを保護するバッテリーケース保護構造であって、
前記フロアクロスメンバは、天板部、縦壁部及びフランジ部を有するハット断面部材と、該ハット断面部材の少なくとも前記縦壁部の内面及び/又は外面に貼付又は塗布された樹脂と、該樹脂を覆うように配設されて該樹脂と接着された補強板とを備えてなることを特徴とする自動車のバッテリーケース保護構造。
【請求項2】
前記樹脂は、前記フロアクロスメンバにおける前記バッテリーケースより車幅方向に突出する範囲にのみ一定の厚みで配設されていることを特徴とする請求項1記載の自動車のバッテリーケース保護構造。
【請求項3】
前記樹脂は、前記フロアクロスメンバにおける前記バッテリーケースの上方に位置する範囲にのみ一定の厚みで配設されていることを特徴とする請求項1記載の自動車のバッテリーケース保護構造。
【請求項4】
前記樹脂は、前記フロアクロスメンバの全長に亘って配設され、その厚みが、前記バッテリーケースの上方に位置する範囲は一定であり、その他の範囲は車幅方向の外方に向かって漸次薄くなっていることを特徴とする請求項1記載の自動車のバッテリーケース保護構造。
【請求項5】
前記樹脂の厚みが0.1~5mm、前記補強板の厚みが0.15~1mmであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の自動車のバッテリーケース保護構造。
【請求項6】
自動車の車体の床部分の少なくとも一部を構成するフロアと、
該フロア下に搭載されてバッテリーを格納するバッテリーケースと、
前記フロアの車体幅方向の両端部に設けられて車体前後方向に延在する一対のサイドシルと、を有する自動車の車体構造に取り付けられ、前記車体への取付状態において、前記バッテリーケースの上方を車幅方向に横切って前記バッテリーケースよりも車幅方向両側に突出するように前記フロアの上面に設けられると共に両端部が前記一対のサイドシルの側面に当接するフロアクロスメンバであって、
天板部、縦壁部及びフランジ部を有するハット断面部材と、該ハット断面部材の少なくとも前記縦壁部の内面及び/又は外面に貼付又は塗布された樹脂と、該樹脂を覆うように配設されて該樹脂と接着された補強板とを備えてなることを特徴とするフロアクロスメンバ。
【請求項7】
前記樹脂は、取付状態において前記バッテリーケースより車幅方向に突出する範囲にのみ一定の厚みで配設されていることを特徴とする請求項6記載のフロアクロスメンバ。
【請求項8】
前記樹脂は、取付状態において前記バッテリーケースの上方に位置する範囲にのみ一定の厚みで配設されていることを特徴とする請求項6記載のフロアクロスメンバ。
【請求項9】
前記樹脂は、長手方向の全長に亘って配設され、その厚みが、取付状態において前記バッテリーケースの上方に位置する範囲は一定であり、その他の範囲は車幅方向の外方に向かって漸次薄くなっていることを特徴とする請求項6記載のフロアクロスメンバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のバッテリーケースを保護するバッテリーケース保護構造及び、該バッテリーケース保護構造に用いられるフロアクロスメンバに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の骨格部品の一つであるフロアクロスメンバは、自動車のフロア(フロアパネル)上において車体幅方向に延在することで車体の剛性や強度を向上させる機能を有するものである。
図12に内燃機関車(ICE)におけるフロアクロスメンバ周辺の構造を示す。なお、
図12は車体幅方向の図中左半分を図示したものである。
内燃機関車(ICE)のフロア3の中央部には、フロア下に設けられる排気系や動力伝達機構を通すため、上方向に凸となるように形成されたフロアトンネル21が、車体前後方向に延びるように設けられている。
フロアトンネル21が設けられたフロア3の場合、フロアクロスメンバ23は、
図12に示すように、一端がフロアトンネル21に接合され、他端はサイドシル7(
図12はサイドシル7を構成するサイドシルインナ7aのみ図示)に接合される。
【0003】
一方、電気自動車の場合は排気系やチェンジ機構が設けられないので、上述したフロアトンネル21を設ける必要がない。そこで最近は、大容量バッテリーの搭載及びキャビン内空間の確保のため、フロアトンネル21を設けず、フロア3をフラットに設計することが多くなっている。
上記のようにフロアトンネルを有さないフロアの場合、フロアクロスメンバは、フロア下に搭載されるバッテリーケースの上方を車体幅方向に横切って、左右のサイドシルをつなぐように設けられる。このようにすることで、側面衝突の際にフロアクロスメンバがバッテリーケースの変形を低減し、バッテリーケースの内部に格納されたバッテリーの損傷を防止する。
【0004】
上記のようにフロアクロスメンバは、自動車の側面衝突時の衝突荷重からバッテリーケースを保護する機能を有するので、高レベルな強度が求められる部品である。そこでフロアクロスメンバの剛性を向上させるため、厚肉化やHP1.5GPを超える超ハイテン化が進んでいるが、それに伴う重量アップや製造コストが課題となっている。そこで下記のように車両構造変更に関わる多くの技術が存在している。
【0005】
例えば特許文献1では、「車両のフロアパネルと、前記フロアパネルの下方に車幅方向に互いに離間して配置され車両前後方向に延びる一対のサイドメンバと、前記フロアパネルの上方に前記車幅方向に延びて配置されるフロアクロスメンバと、を備えた車体のフロア構造であって、前記一対のサイドメンバの間において、前記フロアクロスメンバの下部には前記サイドメンバの外側の下部より上方に位置する凹部を有し、前記フロアパネルは前記凹部に沿って形成され、前記一対のサイドメンバに着脱可能に連結される強度部材を備えたことを特徴とする車体のフロア構造」が開示されている。
上記技術は、フロアクロスメンバの下部に、上側に凹む凹部が設けられていることにより、フロアパネル下のスペースを増加させて電池ユニットの搭載スペースを確保できる、としている。また、エンジン車においては、上記強度部材(ブレース)によって一対のサイドメンバを連結することで、側面衝突に対する強度を確保できる、としている。
【0006】
また、特許文献2には、「車両のフロアと、前記フロア下に搭載されたバッテリパックと、前記バッテリパック上方を横切るように車両左右方向に延びて前記フロアに設けられたクロスメンバと、を備え、前記クロスメンバは、右半分および左半分のそれぞれに中央に向けて高くなる傾斜部を有する、車両の下部車体構造」が開示されている。
特許文献2においては、側面衝突時、傾斜部が衝突荷重を中央部に伝えて中央部を押し上げ、クロスメンバが上方に向けて屈曲するので、バッテリパックがある下方への変形が抑止され、バッテリパックへの衝突荷重の入力が抑制される、としている。
【0007】
また、特許文献3には、「車両のフロアパネルの車両幅方向の両外側にそれぞれ配設され、車両前後方向に沿って延在された一対のロッカと、車両幅方向を長手方向として配置されると共に長手方向の両端部が前記一対のロッカにそれぞれ固定され、車両前後方向に離間して配置された複数のクロスメンバと、を備え、車両前後方向に隣り合うクロスメンバの離間距離は、前記車両の側面衝突時に入力された入力荷重に対する前記ロッカの曲げ反力が前記入力荷重以上となるように設定されている車両側部構造」が開示されている。
特許文献3においては、車両の側面衝突時において必要なサイドシル(ロッカ)の曲げ反力Nを確保することができ、例えばポール衝突の際に、ポールの車両幅方向の内側への侵入を抑制することができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2018-161934号公報
【特許文献2】特開2019-151294号公報
【特許文献3】特開2019-31219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した特許文献1の技術は、側面衝突に対して一定の効果をもたらす一方で、部品点数の増加によって重量やコストが増加し、車体製造が複雑化する。
また、特許文献2の技術は、バッテリーケースの変形が抑えられるが、フロアクロスメンバが上方(車両内部方向)に向かって凸となるように屈曲しているため、キャビン容積が小さくなり設計自由度が著しく低下する。
また、特許文献3の技術は、車両の側面衝突時において必要なサイドシルの曲げ反力を確保することができるが、フロアクロスメンバの設置位置が限定される。フロアクロスメンバはシートレールの固定にも使用されるので、フロアクロスメンバの設置位置が限定されると車両設計の自由度が大幅に低下する。
【0010】
上述のように、側面衝突時に発生するサイドシルからの大荷重がバッテリーケースに入力することを防ぐ機能向上の技術開示は多くあるが、大幅な重量アップや製造コストアップを伴ったり、車両設計の自由度を低下させたりするという問題があった。
【0011】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、側面衝突時のバッテリーケースの変形を抑制するとともに、軽量化が可能であり、制振性にも優れ、キャビン容積を低下させたり車両設計の自由度を低下させたりすることなく、自動車のバッテリーケース保護構造及び該バッテリーケース保護構造に用いられるフロアクロスメンバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明に係る自動車のバッテリーケース保護構造は、自動車を構成する車体の床部分の少なくとも一部を構成するフロアと、該フロア下に搭載されてバッテリーを格納するバッテリーケースと、前記フロアの車体幅方向の両端部に設けられて車体前後方向に延在する一対のサイドシルと、前記バッテリーケースの上方を車幅方向に横切って前記バッテリーケースよりも車幅方向両側に突出するように前記フロアの上面に設けられると共に両端部が前記一対のサイドシルの側面に当接するフロアクロスメンバとを備えて構成された自動車の車体構造において前記バッテリーケースを保護するバッテリーケース保護構造であって、前記フロアクロスメンバは、天板部、縦壁部及びフランジ部を有するハット断面部材と、該ハット断面部材の少なくとも前記縦壁部の内面及び/又は外面に貼付又は塗布された樹脂と、該樹脂を覆うように配設されて該樹脂と接着された補強板とを備えてなることを特徴とするものである。
【0013】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記樹脂は、前記フロアクロスメンバにおける前記バッテリーケースより車幅方向に突出する範囲にのみ一定の厚みで配設されていることを特徴とするものである。
【0014】
(3)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記樹脂は、前記フロアクロスメンバにおける前記バッテリーケースの上方に位置する範囲にのみ一定の厚みで配設されていることを特徴とするものである。
【0015】
(4)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記樹脂は、前記フロアクロスメンバの全長に亘って配設され、その厚みが、前記バッテリーケースの上方に位置する範囲は一定であり、その他の範囲は車幅方向の外方に向かって漸次薄くなっていることを特徴とするものである。
【0016】
(5)また、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のものにおいて、前記樹脂の厚みが0.1~5mm、前記補強板の厚みが0.15~1mmであることを特徴とするものである。
【0017】
(6)本発明に係るフロアクロスメンバは、自動車の車体の床部分の少なくとも一部を構成するフロアと、該フロア下に搭載されてバッテリーを格納するバッテリーケースと、前記フロアの車体幅方向の両端部に設けられて車体前後方向に延在する一対のサイドシルと、を有する自動車の車体構造に取り付けられ、前記車体への取付状態において、前記バッテリーケースの上方を車幅方向に横切って前記バッテリーケースよりも車幅方向両側に突出するように前記フロアの上面に設けられると共に両端部が前記一対のサイドシルの側面に当接するフロアクロスメンバであって、天板部、縦壁部及びフランジ部を有するハット断面部材と、該ハット断面部材の少なくとも前記縦壁部の内面及び/又は外面に貼付又は塗布された樹脂と、該樹脂を覆うように配設されて該樹脂と接着された補強板とを備えてなることを特徴とするものである。
【0018】
(7)また、上記(6)に記載のものにおいて、前記樹脂は、取付状態において前記バッテリーケースより車幅方向に突出する範囲にのみ一定の厚みで配設されていることを特徴とするものである。
【0019】
(8)また、上記(6)に記載のものにおいて、前記樹脂は、取付状態において前記バッテリーケースの上方に位置する範囲にのみ一定の厚みで配設されていることを特徴とするものである。
【0020】
(9)また、上記(6)に記載のものにおいて、前記樹脂は、長手方向の全長に亘って配設され、その厚みが、取付状態において前記バッテリーケースの上方に位置する範囲は一定であり、その他の範囲は車幅方向の外方に向かって漸次薄くなっていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明においては、天板部、縦壁部及びフランジ部を有するハット断面部材と、ハット断面部材の少なくとも縦壁部の内面及び/又は外面に貼付又は塗布された樹脂と、樹脂を覆うように配設されて樹脂と接着された補強板とを備えてなるフロアクロスメンバを備えたことにより、フロアクロスメンバの剛性が向上して側面衝突時のバッテリーケースの変形を抑制できると共に、フロアクロスメンバの軽量化及び制振性の向上も可能となる。
また、フロアクロスメンバの設置位置を限定するものではないので、車両設計の自由度を低下させることがない。さらに、従来のフロアクロスメンバの形状を大きく変える必要もないのでキャビン容積が小さくなることもない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るバッテリーケース保護構造を説明する図であり、
図1(a)は分解斜視図、
図1(b)は
図1(a)のA-A断面図である。
【
図2】
図1に示すバッテリーケース保護構造において、フロアクロスメンバの長手方向における樹脂の貼付(塗布)範囲を説明する図である。
【
図3】
図1のフロアクロスメンバの比較例として、従来のフロアクロスメンバの断面を示す図である。
【
図4】
図1のフロアクロスメンバの縦壁部の面剛性を評価するためのモデル(発明モデル)と、
図3の従来のフロアクロスメンバの縦壁部の面剛性を評価するためのモデル(従来モデル)を説明する図である。
【
図5】
図4の従来モデルと発明モデルの面剛性を評価した結果を示すグラフである。
【
図6】側面衝突時におけるフロアクロスメンバの変形状態を説明する図である。
【
図7】フロアクロスメンバの長手方向における樹脂の貼付(塗布)範囲の他の態様を説明する図である(その1)。
【
図8】フロアクロスメンバの長手方向における樹脂の貼付(塗布)範囲の他の態様を説明する図である(その2)。
【
図9】フロアクロスメンバの周方向における樹脂の貼付(塗布)範囲の他の態様を説明する図である。
【
図10】実施例1に係る試験体の周方向における樹脂の塗布(貼付)範囲を示す図であり、
図9(a)、
図9(b)は発明例、
図9(c)は比較例である。
【
図11】実施例1に係る発明例1及び比較例1の衝突試験時の荷重-ストローク曲線を示す図である。
【
図12】内燃機関車(ICE)のフロアにおけるフロアクロスメンバの周辺の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一実施の形態に係る自動車のバッテリーケース保護構造1(以下、単に「バッテリーケース保護構造1」という)について
図1、
図2に基づいて説明する。
図1は本実施の形態のバッテリーケース保護構造1を示す模式図である。図中の矢印FRの向きが車体の前方、矢印UPの向きが車体の上方を示している。
図2は
図1のバッテリーケース保護構造1の垂直断面における車幅方向の一部を示す模式図である。
【0024】
バッテリーケース保護構造1は、
図1に示すように、電気自動車のフロア3と、フロア3の下に搭載されるバッテリーケース5と、フロア3の車体幅方向の両端部に設けられる一対のサイドシル7(
図1はサイドシル7を構成するサイドシルインナ7aの一部のみ図示)と、車幅方向に延びるようにフロア3の上面に設けられるフロアクロスメンバ9とを備えて構成された電気自動車の車体下部構造において、側面衝突による荷重からバッテリーケース5を保護するものである。
以下、各構成を詳細に説明する。
【0025】
<フロア>
フロア3は、電気自動車を構成する車体の床部分の少なくとも一部を構成する部材(パネル)である。フロア3は、内燃機関車(ICE)のフロアにあるようなフロアトンネル21(
図12参照)が設けられていないので、バッテリーケース5の空間及びキャビン空間が確保しやすい形状となっている。
【0026】
<バッテリーケース>
バッテリーケース5は、電気自動車のバッテリーを格納するものであり、バッテリーを格納する有底枠体からなるバッテリーケースロア5aと、バッテリーケースロア5aを覆う蓋であるバッテリーケースアッパ5bと、バッテリーケースロア5aの内部に車体幅方向に延びるように設けられたバッテリーケースクロス5cによって構成されている。
バッテリーケースクロス5cは、バッテリーケース5自体の剛性を向上させる補剛部材であり、側面衝突時のバッテリーケース5の変形を抑制する。
【0027】
<サイドシル>
サイドシル7は、車体前後方向に延びるように配置されてフロア3の車幅方向の両外側にそれぞれ接合されている。サイドシル7は、車体の内側に配置されるサイドシルインナ7aと、車体の外側に配置されるサイドシルアウタ7bによって構成されている(
図2参照)。
サイドシルインナ7aの下部には、
図2に示すように、断面L字状の固定部品11の水平部が接合されており、固定部品11の垂直部はバッテリーケース5の側壁部5d(具体的にはバッテリーケースロア5aの側壁部)に接合されている。上記のように、バッテリーケース5は固定部品11を介してサイドシル7に固定されている。
【0028】
<フロアクロスメンバ>
フロアクロスメンバ9は、
図1(b)に示すように、ハット断面形状の部品である。また、フロアクロスメンバ9は、
図2に示すように、フロア3の上面にバッテリーケース5の上方を車幅方向に横切るように設けられ、その両端部がバッテリーケース5の側壁部5dよりも車幅方向両側に突出して、サイドシルインナ7aに接合されている。
【0029】
上記のように、フロアクロスメンバ9がバッテリーケース5の上方において、バッテリーケース5よりも車幅方向両側に突出して設けられていることにより、側面衝突時の荷重はバッテリーケース5より先にフロアクロスメンバ9に入力され、バッテリーケース5に入力する荷重が低減する。
【0030】
フロアクロスメンバ9は、
図1(b)に示すように、ハット断面部材13と、ハット断面部材13の内面に貼付又は塗布された樹脂15と、樹脂15を覆うように設けられた補強板17とを備えている。
【0031】
ハット断面部材13は、天板部13a、縦壁部13b及びフランジ部13cを有するハット断面形状の金属製(例えば鋼板製)の部材である。ハット断面部材13のフランジ部13cがフロア3の上面に接合されている、また、縦壁部13bの車幅方向両端部に形成された縦壁フランジ部13dがサイドシルインナ7aに接合されている。ハット断面部材13の素材としては、強度及び剛性を高めるため、例えば980MPa以上の高強度ハイテン材が用いられる。
【0032】
ハット断面部材13の縦壁部13bの内面には、樹脂15が所定の接着強度で貼付又は塗布されている。樹脂15は、予め成形されたもの(射出成形樹脂部品)をハット断面部材13に貼付してもよいし、成形前の樹脂をハット断面部材13に塗布して焼付することによって形成してもよい。
【0033】
樹脂15の厚みの下限は、樹脂15を塗布して形成する場合には均一に塗布可能な0.1mm程度、フィルム状の樹脂15を貼付する場合には20μm程度となる。
また、樹脂15の厚みの上限は、コストの観点から5mm程度とするのが好ましい。
【0034】
さらに、樹脂15を覆うように補強板17が設けられている。補強板17は、ハット断面部材13の縦壁部13bより樹脂15が剥離するのを防止し、後述するように樹脂と協働して縦壁部13bの面剛性を向上して、フロアクロスメンバ9の剛性を向上するものであり、ハット断面部材13の縦壁部13bにスポット溶接によって固定されている。また、補強板17と樹脂15は所定の強度で接着されている。
本実施の形態における縦壁部13bの面剛性向上の効果は、後述するように補強板17の素材の引張強度に大きく依存しないため、ハット断面部材13の素材よりも引張強度は低くてもよく、製造コスト低減の観点から、引張強度270MPa級~590MPa級でよい。また、補強板17は、樹脂15のハット断面部材13の縦壁部13bから剥離するのを防止すればよいので、補強板17の板厚はハット断面部材13の素材の板厚よりも薄肉でよく、軽量化及び製造コスト低減の観点から、板厚0.15~1mmの鋼板がよい。
引張強度270MPa級~590MPa級としたのは、270MPa級が通常使用される鋼板において最も引張強度が低く、590MPa級を越えるとコストが大きく上昇するためである。この範囲の中では、特にJIS規格SPCC等の普通鋼と呼ばれる安価な一般的な冷間圧延鋼板のグレードである270MPa級(いわゆる、軟鋼)がコスト面から好ましい。また、板厚0.15~1mmとしたのは、0.15mm未満では製造コストが上昇し、1mmを超えると軽量化効果が低下するためである。
【0035】
従来の一般的なフロアクロスメンバ23は、
図3に示すように、金属製のハット断面部材13のみで構成されていたが、この場合、強度及び剛性を高めるには、ハット断面部材13の板厚を厚くする必要があり、重量が増加していた。
【0036】
この点、ハット断面部材13に樹脂15と補強板17を設けた本実施の形態のフロアクロスメンバ9は、樹脂15と補強板17を設けた部分の見かけの板厚が厚くなっているが、金属よりも低密度の樹脂15を用いているので、従来のようにハット断面部材13自体の板厚を厚くする場合と比べて重量が増加しにくい。
【0037】
そして、金属製のハット断面部材13と補強板17で樹脂を挟んだサンドイッチ構造としたことにより、縦壁部13bの面剛性を向上させることができる。ここで、縦壁部の面剛性とは、縦壁部の端部より縦壁部の面内方向に荷重が入力し、座屈変形が開始する前の剛性(曲げ剛性)である。この点について、
図4、
図5に基づいて説明する。
【0038】
図4に、従来のフロアクロスメンバ23(
図3参照)の縦壁部13bの面剛性を評価するためのモデルとして、鋼板(ハット断面部材13)のみから構成された従来モデルと、本実施の形態のフロアクロスメンバ9(
図1(b)参照)の縦壁部13bの面剛性を評価するためのモデルとして、サンドイッチ構造(3層の積層構造)とした発明モデルを示す。
図4において
図1、
図3と対応する部分には同一の符号を付す。
【0039】
従来モデルのように鋼板のみから構成される場合の面剛性は、一般的に材料のヤング率Eと、断面2次モーメントIとの積EIで与えられる。
これに対し、発明モデルのようにサンドイッチ構造となっている場合の面剛性EIは、下記式(1)を用いて求めることができる。
【0040】
【0041】
上記式(1)において、Lは積層材の幅、iは材料、nは層の数、Eiは材料iのヤング率、hiはi=1の材料から材料iの層までの厚み、λはi=1の材料の表面から積層材の中立面までの距離である。
【0042】
図4の従来モデルと発明モデルを略同一の重量とした場合の面剛性EIの違いを比較したのでその結果を
図5に示す。
図5は、従来モデルのハット断面部材13の厚みを1.2t(総厚み1.2t)とし、本発明モデルのハット断面部材13の厚みを0.6t、樹脂15の厚みを1.5t、補強板17の厚みを0.3t(総厚み2.4t)とし、それぞれの面剛性EIを式(1)を用いて算出したものである。
図5における両モデルの重量比は、従来モデルの重量を基準(1.00)としたとき、発明モデルは0.97であった。
図5に示されるように、発明モデルの面剛性(1.65×10
-7GPa・m
4)は従来モデル(0.31×10
-7GPa・m
4)の5.3倍に向上した。このように、発明モデルのハット断面部材13(金属製)の板厚を従来モデルよりも薄くして、金属よりも低密度でヤング率の低い樹脂15に置き換えて、補強板17とのサンドイッチ構造の総厚みを従来モデルの板厚よりも厚くすることにより、発明モデルは、従来モデルと同程度の重量でも面剛性を著しく上昇させることができる。
【0043】
次に、樹脂15及び補強板17をハット断面部材13の縦壁部13bに設けた理由について、
図6を用いて説明する。
図6は、車体の側面がポール19に衝突した場合のフロアクロスメンバ9の変形の様子を模式的に示した平面図である。
図6(a)は衝突前の状態、
図6(b)は衝突後の状態を示している。
図6(a)に示す位置にポール19があるとき、
図6(b)の黒矢印の方向に車体が移動して車体の左側面がポール19に衝突すると、ポール19と衝突した部分の両側のフロアクロスメンバ9の変形は、衝突した部分に向かって屈曲する折れモードとなることが多い。
【0044】
図6(b)のような折れモードの変形時には、天板部13aが面内変形となるのに対し、縦壁部13bは面外変形となるので、縦壁部13bは天板部13aより変形しやすい。したがって、縦壁部13bに樹脂15及び補強板17を設けて縦壁部13bの面剛性を高めることにより、フロアクロスメンバ9の折れモードに対する耐力が向上するので効果的である。
【0045】
なお、ハット断面部材13と樹脂15と補強板17とが一体となって荷重を受けることで面剛性が効果的に向上するので、ハット断面部材と樹脂、及び、樹脂と補強板は所定の強度で接着されている必要がある。この点について具体例をあげて説明する。
【0046】
例えば、ハット断面部材13の板厚を1.0mm、樹脂15の厚みを1.0mm、補強板17(鉄製)の板厚を0.6mmとした場合、ハット断面部材13と樹脂15、樹脂15と補強板17とがそれぞれ接着されていれば、面剛性EIは271.5GPa・mm4となる(鉄のヤング率を206GPa、樹脂のヤング率を2GPaとした)。ここで、樹脂15と補強板17が接着されていない場合には、接着されているハット断面部材13と樹脂15の面剛性EIは19.3GPa・mm4、補強板17単体の面剛性EIは3.7GPa・mm4であるので、合計しても23GPa・mm4となり、全体としての面剛性が著しく低下する。
したがって、ハット断面部材13と樹脂15と補強板17が一体で荷重を受けられるよう、ハット断面部材13と樹脂15が十分な強度で接着され、かつ、樹脂15と補強板17が十分な強度で接着されていることが重要である。
【0047】
接着強度としては、例えば5MPa以上が好ましい。接着強度が5MPa以上あれば、
図6のような折れモードの変形において、90°程度までの曲げ変形であれば、鋼板から接着剤が剥離しない。
なお、フロアクロスメンバ9の端部に関しては、衝突の初期に軸圧壊して蛇腹状に座屈変形する場合があり(
図6(b)参照)、曲げ変形よりも変形量が大きくなる。変形の初期に樹脂15が剥離すると、次の(蛇腹)変形時の耐力が低下するため、軸圧壊のように大きな変形が想定される部位は接着強度を10MPa以上とするのがより好ましい。
また、
図6のように2つのフロアクロスメンバ9の間にポール19が衝突するような場合は、フロアクロスメンバ9の変形が折れモードとなるが、1つのフロアクロスメンバ9の軸方向にポール19が衝突する場合には、フロアクロスメンバ9の変形量は
図6(b)の場合よりもさらに大きくなる。そのような場合にも接着強度を10MPa以上としておけば、樹脂の剥離を防止できる。
【0048】
なお、本発明はフロアクロスメンバ9の長手方向における樹脂15の貼付(又は塗布)範囲を限定するものではないので、長手方向の全長に亘って樹脂15を設けてもよいし、フロアクロスメンバ9の剛性を向上させたい範囲にのみ樹脂15を設けてもよい。したがって、例えば
図2のように、フロアクロスメンバ9におけるバッテリーケース5より車幅方向に突出する範囲にのみ一定の厚みで樹脂15を貼付(又は塗布)するようにしてもよい。
図2の例は、サイドシル7のみで衝突エネルギーを吸収するように設計した場合を想定し、フロアクロスメンバ9の折れ(曲げ変形)や座屈変形の発生しやすい範囲(
図6(b)参照)の縦壁部13bの面剛性を向上させるようにしたものである。この例は樹脂15の使用量が必要最小限であるので、部品を軽量化して製造コストを抑えることができる。
【0049】
また、他の態様としては、
図7に示すようにフロアクロスメンバ9におけるバッテリーケース5の上方に位置する範囲にのみ一定の厚みで樹脂を配設するようにしてもよい。ここで、「バッテリーケース5の上方」とは、少なくともバッテリーケース5におけるバッテリーを格納する部分の上方を含んでいればよい。したがって、
図7の例のようにバッテリーケース5の一方の側壁部5d(具体的にはバッテリーケースロア5aの側壁部)から他方の側壁部(図示なし)までの間の部分の上方に位置する範囲に樹脂15を設ければよい。
【0050】
図7の例は、フロアクロスメンバ9の端部のみ縦壁部13bの面剛性が低いので、当該部分のみ曲げ変形や座屈変形が生じやすくなっている。これにより、側面衝突時にサイドシル7とともにフロアクロスメンバ9の端部も変形するので、衝突エネルギー吸収能力が向上する。
また、バッテリーケース5から外側に突出する部分を除く大部分に樹脂15を配置するので、樹脂15を長手方向の全長に亘って配置した場合と同等のバッテリーケース変形抑止効果及び軽量化効果を得ることができる。
【0051】
図2、
図7の例は樹脂15を一定の厚みで設けたものであったが、樹脂15の厚みは必ずしも一定でなくてもよく、部分的に変化してもよい。例えば、
図8に示すようにフロアクロスメンバ9の全長に亘って樹脂15を配設する場合に、バッテリーケース5の側壁部5dから外方に突出する部分において、樹脂15の厚みが車幅方向の外方に向かって漸次薄くなるようにしてもよい。
【0052】
このようにすると、フロアクロスメンバ9におけるバッテリーケース5から突出した部分は、外方に向かって縦壁部13bの面剛性が低くなるので、フロアクロスメンバ9に荷重が入力した際に、面剛性が低い端部側から変形が始まる。このようにバッテリーケース5から離れた部分から変形が始まるように制御できるので、バッテリーケース5の変形抑止効果は
図7の例より向上する。
【0053】
なお、上記はハット断面部材13の縦壁部13bにのみ樹脂15及び補強板17を設けたものであったが(
図1(b)参照)、本発明においては少なくとも縦壁部13bに樹脂15及び補強板17が設けられていればよいので、
図9に示すように、縦壁部13bと天板部13aに樹脂15及び補強板17が設けられたものであってもよい。
【0054】
<樹脂厚の決定方法>
前述したように、本発明はフロアクロスメンバ9の樹脂15の厚みを限定するものではないが、樹脂15が薄すぎると縦壁部13bの面剛性向上の効果が低くなり、厚すぎると軽量化の効果が低くなる場合がある。よって、両者のバランスを考慮して樹脂厚を決定するのが好ましい。以下に、そのような樹脂厚の決定方法の一例について説明する。
【0055】
まず、検討のベースとなるようなハット断面部材13を用意し、重量と、縦壁部13bの面剛性を求める。
ここでは、板厚1.6mmの鋼板製のハット断面部材13を用意し、重量(フロアの重量を含む)と縦壁部13bにおける面剛性を求めた(下記表1の≪ベース≫参照)。
【0056】
次に、本実施の形態に係るフロアクロスメンバ9を構成するハット断面部材13として、上記ベースとなるハット断面部材13の板厚よりも板厚が薄いものを用意する。
ここでは、板厚0.8mm≪No.1≫、1.0mm≪No.2≫、1.2mm≪No.3≫の3種類のハット断面部材13を用意した。補強板17は、板厚0.4mmの鋼板製のものを用いることした(≪No.1≫~≪No.3≫で共通)。
【0057】
上記≪No.1≫~≪No.3≫のハット断面部材13と補強板17を用いて
図9のようなフロアクロスメンバ9を構成する場合に、縦壁部13bの面剛性が≪ベース≫の面剛性と同程度になるように調整したときの樹脂厚を求めた(A)。
また、フロアクロスメンバ9の重量が≪ベース≫の重量と同程度になるように調整したときの樹脂厚を求めた(B)。その結果を表1に示す。
なお。表1の重量にはフロアの重量(0.9kg共通)も含まれている。また、面剛性は縦壁部におけるものとする。
【0058】
【0059】
表1に示す≪No.1≫~≪No.3≫のAは、ハット断面部材13の板厚を≪ベース≫よりも薄くして、鋼板よりもヤング率の低い樹脂15を設け、補強板17とのサンドイッチ構造の総厚みを≪ベース≫の板厚よりも厚くして≪ベース≫の面剛性(70GPa・mm4)と同程度の面剛性を確保しつつ、鋼板よりも低密度の樹脂を用いることによる軽量化の効果を最大化したものである。その軽量化率は、≪No.1≫で21%、≪No.2≫で12%、≪No.3≫で4%となっている。
【0060】
一方、≪No.1≫~≪No.3≫のBは、≪ベース≫の重量(3.59kg)と同程度の重量となるまで樹脂厚を厚くし、Aよりもサンドイッチ構造の総厚みを厚くして、面剛性向上の効果を最大化したものである。その面剛性向上率は、≪No.1≫で1599%、≪No.2≫で796%、≪No.3≫で171%となっている。
【0061】
表1の結果に基づき、≪ベース≫よりも面剛性を低下させずに最大限軽量化できるAの場合の樹脂厚を下限値とし、≪ベース≫よりも重量を増加させずに最大限面剛性を向上できるBの場合の樹脂厚を上限値として、樹脂厚を決定する。したがって、≪No.1≫(ハット断面部材の板厚hc=0.8mm、補強板の板厚hp=0.4mm)の場合は、0.45mm~4.0mmの範囲内で樹脂厚を設定すればよい。同様に、≪No.2≫(ハット断面部材の板厚hc=1.0mm、補強板の板厚hp=0.4mm)の場合は、0.25mm~2.5mmの範囲内、≪No.3≫(ハット断面部材の板厚hc=1.2mm、補強板の板厚hp=0.4mm)の場合は、0.02mm~0.8mmの範囲内で樹脂厚を設定すればよい。
上記のようにすることで、軽量化と面剛性(曲げ剛性)向上のバランスを考慮して樹脂15の厚みを決定することができる。
【0062】
以上のように、本実施の形態によれば、ハット断面部材13の少なくとも縦壁部13bの内面に貼付又は塗布された樹脂15と、樹脂15を覆うように配設されて接着された補強板17とを備えてなるフロアクロスメンバ9を備えたことにより、フロアクロスメンバ9の剛性が向上して側面衝突時のバッテリーケース5の変形が従来よりも抑制されると共にフロアクロスメンバ9の軽量化も可能である。
また、フロアクロスメンバ9の設置位置を限定するものではないので、車両設計の自由度を低下させることもなく、キャビン容積を低下させるものでもない。
なお、本実施の形態は、制振性も向上させることができる。この点については、後述の実施例で具体的に説明する。
【0063】
上記の実施の形態ではフロアクロスメンバ9のハット断面部材13の内面に樹脂15及び補強板17が設けられた例を用いて説明したが、本発明はこれに限らず、ハット断面部材13の外面に樹脂15及び補強板17が設けられたものでもよい。また、ハット断面部材の内面及び外面にそれぞれ樹脂15及び補強板17が設けられたものでもよい。
【0064】
さらに、上記は自動車のバッテリーケース保護構造としての実施の形態を説明したものであったが、本発明はバッテリーケース保護構造の一部品であるフロアクロスメンバの構成に特徴を有するものである。
したがって、本願にはフロアクロスメンバ単体としての発明も含まれている。フロアクロスメンバの実施の形態については、上記説明と同様であるので説明を省略する。
【実施例0065】
本発明の作用効果を評価する具体的な実験を行ったので、その結果について以下に説明する。
本実施例においては、フロアクロスメンバに相当するハット断面形状の部品と、フロアパネルに相当する平板とからなる筒状の試験体(長さ200mm)を用意し、衝突特性を評価する衝突試験と、振動特性を評価する打撃振動試験を行った。
【0066】
上記試験体には、発明例として、
図10(a)のようにハット断面部材13の天板部13aと縦壁部13bに樹脂15と補強板17を設けたものや、
図10(b)のようにハット断面部材13の縦壁部13bのみに樹脂15と補強板17を設けたものを用意した。
また、比較例として、
図3のようにハット断面部材13のみから構成されるものや、
図10(c)のようにハット断面部材13の天板部13aのみに樹脂15と補強板17を設けたものを用いた。
試験体におけるハット断面部材13に鋼板を用い、平板には、いずれも板厚1.0mmの440MPaの鋼板を用いた。
なお、
図10において、
図1や
図9と対応する部分には同一の符号を付す。
【0067】
衝突試験では、試験体の軸方向(長手方向)に試験速度8.9m/sの打撃パンチで荷重を入力し、試験体を200mmから180mmまで20mm軸方向に変形させた。その際、試験体の支持部に生じる荷重と打撃パンチのストローク(軸圧壊変形量)を計測して荷重-ストローク曲線を取得し、該荷重-ストローク曲線の最大荷重(kN)を試験体の衝突に対する耐力(衝突耐力と称す)とした。衝突耐力の最大値は、軸圧壊変形の開始直後の弾性変形を経て塑性変形に転じる際の荷重を示すものであり、この値が高いほど衝突時の変形が生じにくく、衝突特性が良好であると言える。
【0068】
打撃振動試験では、吊り下げた試験体の天板部13aのエッジ付近に加速度センサーを取り付け、インパクトハンマで試験体の縦壁部13bを打撃加振し、インパクトハンマから得られる加振力と試験体で計測した加速度をFFTアナライザに取り込み、Accelerance(m/s2/N)の周波数応答関数を算出した。ここで、周波数応答関数は、5回の打撃試験結果の平均化処理により求めた。
【0069】
試験体である発明例及び比較例の詳細(ハット断面部材と補強板の鋼板の引張強度と板厚、及び樹脂厚)と上記試験の結果を表2~表6に示す。また、衝突試験において得られる荷重-ストローク曲線の一例として、発明例1と比較例1の荷重-ストローク曲線を
図11に示す。本実施例の試験結果について、5つの観点で評価したので、以下、具体的に説明する。
なお、各表において、「断面方向の樹脂・補強板の貼付け位置」に記載の「全周」とは、
図10(a)のようにハット断面部材13の天板部13aと縦壁部13bに樹脂15と補強板17を設けたことを示す。
また、各表の「面剛性」は、前述した計算式に基づいて算出した。
【0070】
<面剛性および衝突耐力の向上を目的とした発明例の評価>
下記表2の実験結果に基づき、本発明における面剛性および衝突耐力を向上させる効果について評価した。
【0071】
【0072】
比較例1は、
図3のようにハット断面部材13のみから構成される例であり、発明例1~3は、ハット断面部材13の長手方向全長に亘って、天板部13aと縦壁部13bに樹脂15と補強板17を設けた例である。
表2に示すように発明例1~3はいずれの場合も比較例1より面剛性が向上している。
【0073】
衝突特性を示す衝突耐力は、衝突試験によって得られた荷重-ストローク曲線(
図11参照)の最大荷重に相当するものであり、比較例1で310kN、発明例1で600kNであった。発明例1は重量が比較例1より増加しているものの、衝突耐力は比較例1にくらべて1.9倍以上となり、大幅に向上した。
比較例1と同程度の重量となるように調整した発明例2、3に関しても、比較例1より衝突耐力が向上した。
【0074】
また、振動特性を示す「制振性」は、打撃振動試験によって得られた周波数200HzにおけるAcceleranceの値であり、発明例1~3のいずれの場合も、比較例1と比べて振動を大幅に抑制した。
【0075】
上述のように発明例1~3は、比較例1と同程度の重量で、面剛性、衝突耐力、制振性を向上できることが示された。
【0076】
<軽量化を目的とした発明例の評価>
下記表3の実験結果に基づき、本発明における軽量化の効果について評価した。
【0077】
【0078】
表3の発明例4~6は、前述した比較例1と同等以上の面剛性、衝突耐力、制振性を維持しつつ、軽量化を実現するように調整した例である。発明例4~6は発明例1~3と同様に、ハット断面部材13の長手方向全長に亘って、天板部13aと縦壁部13bに樹脂15と補強板17を設けている(
図10(a)参照)。
発明例4~6の例はいずれも面剛性と衝突耐力は比較例1と同等以上であり、それぞれ、比較例1に対して10%、12%、21%の軽量化を実現している。また、制振性は発明例4~6のいずれの場合も大幅に向上した。
【0079】
上述のように発明例4~6は、比較例1と同等以上の面剛性、衝突耐力および制振性を確保しつつ、軽量化が可能であることが示された。
【0080】
<面剛性および衝突耐力の向上と軽量化の両方を目的とした発明例の評価>
下記表4の実験結果に基づき、本発明における面剛性・衝突耐力の向上と軽量化の両方を実現する効果について評価した。
【0081】
【0082】
表4の発明例7~9は、前述した比較例1よりも面剛性、衝突耐力が向上し、かつ、軽量化も実現するように調整した例である。発明例7~9は発明例1~6と同様に、ハット断面部材13の長手方向全長に亘って、天板部13aと縦壁部13bに樹脂15と補強板17を設けている(
図10(a)参照)。
【0083】
発明例7は、比較例1よりも3%軽量化(-0.09kg)しつつ、衝突耐力を11%(+35kN)向上させた。
発明例8は、比較例1よりも7%軽量化(-0.27kg)しつつ、衝突耐力を6.4%(+20kN)向上させた。
発明例9は、発明例の中で最も樹脂厚が薄い例であるが、この場合においても4%(-0.13kg)軽量化しつつ、衝突耐力を3%(+10kN)向上させた。
また、制振性は発明例7~9のいずれの場合も大幅に向上した。
【0084】
上述のように発明例7~9は、比較例1よりも軽量化しつつ、面剛性および衝突耐力を向上できることが示された。
【0085】
<接着の有無及び接着強度の影響評価>
実施の形態で説明したように、本発明における面剛性向上の効果を適切に発揮するためには、ハット断面部材13と樹脂15及び樹脂15と補強板17とをそれぞれ接着して、当該部分が一体となって荷重を受けるようにする必要がある。また、軸圧壊に対して接着の一部が剥離して衝突耐力が低下しないよう、例えば10MPa以上の十分な接着強度で接着するのが好ましい。
【0086】
そこで、下記表5の実験結果に基づき、接着の有無によって面剛性および衝突耐力がどの程度影響を受けるかについて評価した。
【0087】
【0088】
表5における比較例1を除く4例は、いずれも比較例1と同じ引張強度の鋼板製のハット断面部材13を用いたものであり、接着強度以外はすべて同様に構成されている。
接着強度が10MPa以上である発明例10、11は、比較例1と比べて、どちらも面剛性が向上し、衝突耐力も6.4%(+20kN)向上した。また、制振性も大きく向上し、振動を大幅に抑制した。
【0089】
また、比較例2は、接着強度が0MPa、即ち、ハット断面部材13と樹脂15、樹脂15と補強板17がどちらも接着されていないので、面剛性は式(1)から算出されるものではなく、ハット断面部材13、樹脂15、補強板17の各面剛性EIの合計値となる。その結果、比較例3の面剛性は比較例1よりも45%低下し、衝突耐力も比較例1より6.5%(-20kN)低下した。また、制振性は比較例1と同じであり、改善が見られなかった。
【0090】
以上より、ハット断面部材13と樹脂15、及び、樹脂15と補強板17を接着することの有効性が示された。
【0091】
<樹脂の貼付(塗布)範囲の評価>
下記表6の実験結果に基づき、ハット断面部材13に対して樹脂15と補強板17の貼付する位置(範囲)を変えた場合について評価した。
【0092】
【0093】
表6における比較例1を除く4例は、いずれも比較例1と同じ引張強度の鋼板製のハット断面部材13を用いたものであり、樹脂15・補強板17の貼付け位置以外はすべて同様に構成されている。
発明例8(表4と同じ)は、ハット断面部材13の長手方向「全長」に亘って、「縦壁部13bと天板部13a」に樹脂15、補強板17を貼付けたものであり(
図10(a)参照)、その実験結果は前述したとおり、比較例1よりも7%軽量化(-0.27kg)しつつ、衝突耐力を6.4%(+20kN)向上させた。制振性も大幅に向上した。
【0094】
発明例12は、ハット断面部材13の長手方向「全長」に亘って、「縦壁部13bのみ」に樹脂15、補強板17を貼付けたものであり(
図10(b)参照)、比較例1よりも9%軽量化(-0.32kg)した。発明例8と比較しても、天板部13aに樹脂15と補強板17を設けていない分、軽量化の効果は大きい。衝突耐力は発明例8と比較すると若干低下するものの、比較例1より向上している。制振性も大幅に向上した。
【0095】
比較例3は、ハット断面部材13の長手方向「全長」に亘って、「天板部13aのみ」に樹脂15、補強板17を貼付けたものであり(
図10(c)参照)、比較例1よりも10%軽量化(-0.37kg)した。これはハット断面部材13には縦壁部13bが2面あるのに対して天板部13aは1面しかないので、より重量が低減したからと思われる。制振性も比較例1より向上した。
一方、衝突耐力向上の効果は、発明例8、発明例12よりも小さかった。本実施例の衝突試験は試験体の軸方向に荷重を入力するものであったので、比較例4と発明例8、12の衝突耐力の差はわずかであったが、
図6のような折れモードの変形の場合には、変形に対する耐力の差がさらに顕著となることが期待できる。なお、縦壁部13bに樹脂15、補強板17を設けることで折れモードの変形に効果的であることについては後述する実施例2で説明する。
【0096】
発明例13は、ハット断面部材13の先端部から長手方向に「40%」の範囲のみに、「縦壁部13bと天板部13a」に樹脂15、補強板17を貼付けたものであり(
図10(a)参照)、比較例1よりも20%軽量化(-0.72kg)しつつ、衝突耐力を6%(+20kN)向上させた。制振性も大幅に向上した。
【0097】
上述したように、ハット断面部材13の断面方向においては、少なくとも縦壁部13bを含む範囲に樹脂15、補強板17を設けることで効果的に面剛性および衝突耐力を向上できる。また、ハット断面部材13の長手方向においては、必ずしも全長に亘って設ける必要はなく、長手方向の一部に樹脂15、補強板17を設けた場合にも一定の効果が得られることが示された。
フロアクロスメンバ9とバッテリーケース5の変形有無の評価は、変形がない場合を〇とし、変形がある場合には、比較例a(従来例)と同等である場合を×、比較例aよりも変形の程度が小さい場合を△とした。また△は、変形の程度を(小、中)で判定した。
発明例Dは、フロアクロスメンバ9におけるポール衝突側の先端部に極軽微な座屈変形が見られたものの、曲げ折れ等の大きな変形はなく、バッテリーケース5の変形はなかった。
同様に、発明例A′及び発明例Eも、フロアクロスメンバ9におけるポール衝突側の先端部に極軽微な座屈変形が見られたものの、曲げ折れ等の大きな変形はなく、バッテリーケース5の変形はなかった。
実施例Fは、フロアクロスメンバ9におけるポール衝突側の先端部に軽微な座屈変形が見られたものの、曲げ折れ等の大きな変形はなく、バッテリーケース5の変形はなかった。
以上のように、比較例a、bにはバッテリーケース5の変形が見られたのに対し、発明例A~Fにはバッテリーケース5の変形が見られなかった。これにより本発明よれば従来例と同等以下の重量でバッテリーケースを保護する効果を向上できることが検証できた。