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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068738
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】船舶
(51)【国際特許分類】
   B63H 9/061 20200101AFI20230511BHJP
   B63H 9/10 20060101ALI20230511BHJP
   B63B 15/02 20060101ALI20230511BHJP
   B63B 35/00 20200101ALI20230511BHJP
   B63H 9/072 20200101ALI20230511BHJP
【FI】
B63H9/061
B63H9/10
B63B15/02 Z
B63B35/00 T
B63H9/06 D
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180010
(22)【出願日】2021-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000151346
【氏名又は名称】株式会社タツノ
(74)【代理人】
【識別番号】110000431
【氏名又は名称】弁理士法人高橋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大滝 勉
(57)【要約】
【課題】電力消費量が少なく、長期間に亘り運行することが出来る海洋ドローンの提供。
【解決手段】本発明の船舶(10:海洋ドローン)は、剛性を有する翼(1)と、翼(1)を支持するマスト(2)と、マスト(2)が取り付けられた船体(3)を有し、再生エネルギー生成装置(4:例えば太陽電池)を備えており、前記翼(1)は、翼で受けることにより流体力(或いはその成分)(航空機の主翼に作用する揚力に相当)を生成する機能と、マスト(2)に対する相対位置を変化させる機能を有している。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
剛性を有する翼と、
翼を支持するマストと、
マストが取り付けられた船体を有し、
再生エネルギー生成装置を備えており、
前記翼は、翼で受けることにより流体力を生成する機能と、マストに対する相対位置を変化させる機能を有することを特徴とする船舶。
【請求項2】
自律的に稼働する機体である請求項1の船舶。
【請求項3】
前記マストには通気口を多数形成されている請求項1、2の何れかの船舶。
【請求項4】
太陽電池が前記翼の表面に貼付されている請求項1~3の何れか1項の船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に関し、特に海洋ドローンと呼ばれる水上を運行する船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
無人車両や無人航空機、自律的に稼働する機体であるドローンは、各種分野における利用が進んでいる(例えば、特許文献1参照)。
例えば、魚群探査や潜水艦探査その他の探査、船舶往来監視、臨時灯台、遭難探査、捜索及び救助活動、各種配達、釣り客のための魚群追尾、養殖における適用等については、海上(河川や湖沼の水上を含む)を運行するドローンである海洋ドローンの適用が期待されている。
【0003】
ここで、海洋ドローンの適用分野については、長期間に亘る運行が要求される場合が多々存在する。
しかし、海洋ドローンにおける燃料積載量には限界があり、一定の運行期間が経過した場合には、燃料補給のために燃料供給設備に停泊して燃料供給を行う必要がある。電力で駆動する海洋ドローンの場合も同様であり、長期間あるいは長距離を運行して蓄電量が減少した場合には、充電設備で充電をする必要がある。
また、海洋情報の調査及び監視のためのエネルギー自立型海洋ドローン及びその方法が提案されているが(特許文献1)、燃料補給或いは充電をせずに長期間、長距離運行することは出来ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-209966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、電力消費量が少なく、長期間に亘って運行することが出来る海洋ドローンの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の船舶(10:海洋ドローン)は、
剛性を有する翼(1)と、
翼(1)を支持するマスト(2)と、
マスト(2)が取り付けられた船体(3)を有し、
再生エネルギー生成装置(4:例えば太陽電池)を備えており、
前記翼(1)は、翼で受けることにより流体力(或いはその成分)(航空機の主翼に作用する揚力に相当)を生成する機能と、マスト(2)に対する相対位置を変化させる機能を有することを特徴としている。
本発明の船舶は、例えば、自律的に稼働する機体であるドローン(10:海洋ドローン)である。
本発明の船舶(10:海洋ドローン)は、単一の船体のみを有していても良いし、複数の船体を有していても良い(双胴船或いは三胴船であっても良い)。
また、翼(1)の剛性は、翼(1)の変形制御を行わない限り、風によって変形しない程度の剛性に設定されている。
【0007】
本発明においてマスト(2)には通気口を多数形成する(例えば、篭状に形成されており、或いは、パンチングメタルで構成する)ことが出来る。
そして本発明において、太陽電池が翼の表面に貼付することが出来る。
【発明の効果】
【0008】
上述の構成を具備する本発明の船舶(10:海洋ドローン)によれば、風を翼(1)で受けることにより、翼(1)に作用する流体力(航空機の主翼に作用する揚力に相当)により翼(1)及び海洋ドローン(10)の推進力を得ることが出来る。すなわち、本発明の海洋ドローン(10)では、風を翼(1)に受けることにより推進力を生じ、電力は翼(1)その他の航行用機器の制御にのみ消費される。そのため、電力により推進する場合に比較して、電力消費量が遥かに少ない。そのため、夜間、曇天を含めて長期間に亘り、充電せずに運行することが出来る。
同様に、燃料により駆動する機関等で推進力を得る従来のドローンに比較して、本発明の海洋ドローン(10)は燃料充填のために停止する頻度が極めて少なくなり、長期間、長距離に亘って運行することが出来る。
また、消費電力が少ない本発明の海洋ドローン(10)は、例えば太陽光発電の様な再生エネルギーのみで消費電力を賄うことができるので、環境に対して与える影響が極めて小さく、所謂「環境に優しい」「低炭素」ドローンを提供することが出来る。
【0009】
上述した様に、本発明の海洋ドローン(10)では、剛性がある翼(1)に風が当たることにより、航空機の主翼に作用する揚力に相当する流体力或いはその成分により推進力を得ている。そして、翼(1)は帆布等の可撓性材料製の帆に比較して、マスト(2)に対する相対位置を変動することが容易であるため、本発明の海洋ドローン(10)によれば、可撓性の帆で運行する場合に比較して、効率的に風を推進力に変更することが出来る。
そして、例えば翼(1)を水平方向(風と平行な方向)に延在する様に位置させることにより、或いは、翼(1)の内圧を変化させて翼(1)の断面形状や断面積を変化させることにより、可撓性の帆を用いた場合に比較して、海上で遭遇が想定される荒天、強風に対する耐性が良好である。
【0010】
本発明は上述した様に剛性を有する翼(1)に作用する流体力により推進力を得ており、翼(1)を支持するマスト(2)はヨット等のマストに比較して太くする必要がある。しかし、マストを太くすると、航行する際の空気抵抗が大きくなる。
それに対して、本発明においてマスト(2)に通気口を多数形成すれば、航行時には空気がマスト(2)の通気口を通過するので、マスト(2)が太くても空気抵抗を小さくすることが出来る。
また、本発明において太陽電池(4)を翼(1)の表面に貼付すれば、蓄電量が不足する恐れがある場合に、翼(1)を水平方向に位置させて、太陽電池(4)による発電量を増加することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る海洋ドローンの説明正面図である。
図2】本発明の実施形態に係る海洋ドローンの説明上面図である。
図3】本発明の実施形態に係る海洋ドローンの説明側面図である。
図4】実施形態において、海洋ドローンの進行方向と風との関係を示す説明図である。
図5図4と同様に海洋ドローンの進行方向と風との関係を示す説明図であって、図4とは異なる状態の説明図である。
図6図4図5と同様に海洋ドローンの進行方向と風との関係を示す説明図であって、図4図5とは異なる状態の説明図である。
図7】実施形態における翼をマストに取り付ける構造を例示する説明図である。
図8】船体と翼の相対的な位置関係が調整可能であることを示す説明図である。
図9】海洋ドローンが沈没した状態を示す説明図である。
図10】一方の船体の空気を排出して水を供給した状態を示す説明図である。
図11】海洋ドローンが沈没した状態から復元して通常の航行時に戻った状態を示す説明図である。
図12】実施形態における船体の説明下面図である。
図13】一体化したキールと舵の動きを示す説明下面図である。
図14】図示の実施形態における制御を実行するための機構を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1図3に本発明の実施形態に係る海洋ドローン10(船舶)の全体構造が示されている。海洋ドローン10は自律的に稼働する様に構成されており、剛性を有する翼1と、翼1を支持するマスト2と、マスト2が取り付けられた船体3(ハル)を有している。図示の実施形態では、海洋ドローン10は船体3を二個有する双胴船として構成されており、左右一対の船体3の接続部3A(図1)の左右方向の概略中央にマスト2が設けられている。図1図3における符号1Hは、翼1が風を受け、或いは中空部に流体を充填した等の理由で移動し或いは形状変化した場合において、翼1が変化する範囲を示している。また図1図3において、符号Sは海面を示している。
マスト2に取り付けられる翼1は、帆布の様な可撓性を有する部材そのものではなく、剛性を有している。翼1の剛性としては、後述する変形制御を行わない限り、風によって変形しない程度の剛性が設定されている。
翼1の剛性は、例えば航空機の主翼の剛性等に比較すると遥かに小さく設定されている。図示の実施形態に係る翼1は可撓性材料により中空形状に構成され、中空部に流体(例えば空気)を充填している。すなわち図示の実施形態における翼1は、可撓性材料製の中空部材に空気を充填する程度の剛性で足りる。その様に設定された剛性であれば、例えば大波を被っても翼1は破損しない。
図1において、翼1の断面形状1Sが破線で表示されている。
【0013】
図2図3で示す様に、翼1は風Wを受けることにより発生する流体力Fが翼1に作用する。流体力Fは飛行機の翼に作用する揚力と同様の力であり、流体力Fが推進力として船舶10(海洋ドローン)に作用する。
図2図3において、揚力に相当する流体力Fの船舶進行方向の成分を符号F1、船舶側方方向の成分を符号F2で示している。翼1が受ける風の方向と翼1が受ける流体力F(揚力に相当)との関係は、図4図6を参照して後述する。
図示の実施形態に係る船舶10(海洋ドローン)では、推進力は風により得ているため、電力の供給量が小さくても、長期間に亘って海上を移動することが出来る。
また、燃料により駆動する機関等で推進力を得る従来の海洋ドローンに比較して、図示の実施形態に係る海洋ドローン10においては、燃料充填のために停止する頻度は極めて少なくなり、長期間、長距離の運行が可能である。
【0014】
図1図3に明確には図示されていないが、翼1の表面であって、太陽側の面には太陽電池4が貼着されている。図2には太陽電池の一部を符号4で模式的に示している。翼1の太陽側の面(例えば、翼1の上面)に太陽電池4を貼着したのみでは、太陽電池4による発電量は小さい。しかし、上述した様に、図示の実施形態に係る海洋ドローン10は翼1が風を受けることにより推進力を得ており、(基本的に、)太陽電池4で発電された電力で推進力を得ている訳ではない。
翼1に貼着された太陽電池4は、翼位置調整、翼内圧調整等の各種制御(図14を参照して後述する)に必要な制御機構の駆動のために必要な電力のみを供給すれば良く、多大な発電量は必要ではない。
ここで、太陽電池4(太陽光発電)の様な再生エネルギーで消費電力を賄うことができるので、図示の実施形態に係る海洋ドローンは環境に対して与える影響が極めて軽微である。
図示はされていないが、太陽電池以外の再生エネルギー(潮力発電、風力発電、その他による電気)を用いて、図示の実施形態に係る海洋ドローンの制御に必要なエネルギーを得ることが可能である。
【0015】
図1図3において、翼1はマスト2に対して1箇所で回転可能に支持されている。マスト2の複数個所で翼1が支持されている訳ではない。翼1をマスト2に支持する構成を模式的に符号9で示されている。
翼1がマスト2に対して1点のみで支持されているため、マスト2に対して翼1が相対的に位置を変更或いは移動し易くなっており、風向に応じて翼1を適切に移動し、翼1に作用する流体力(揚力に相当)を効率的に発生せしめ、海洋ドローン10を効率的に航行することが出来る。
翼1をマストに支持する構造、翼1のマスト2に対する相対移動の態様については、図7を参照して詳述する。
【0016】
海洋ドローン10では、風向センサー32(図14参照:図1図3では図示せず)により風向を検知して、翼1を移動して、翼1に作用する力(揚力に相当)を連続的に切り替えている。そのため、太いマスト2が必要となる。
しかし、マスト2を太くすると、マスト2が風に当たる断面積が大きくなり、海洋ドローン10の航行の抵抗となる。そのため、明確には図示されていないが、マスト2は篭状の部材により構成され、或いは多数の貫通孔(通気口)を有している。風が篭の目或いは貫通孔を通過することにより、風がマストに衝突することによる抵抗を小さくして、海洋ドローン10航行の際の抵抗を減少している。
マスト2に多数の貫通孔を形成することに代えて、マスト2をパンチングメタルで構成することも出来る。
【0017】
図1図3で示されている様に、船体3(ハル)の下面(底面)において、バラストキール5は厚さ寸法が小さく設定されており、舵6(、図3)と別体に形成されている。バラストキール5及び舵6は可撓性を有する材料により構成されて柔軟構造となっており、バラストキール5と舵6(ラダー)はそれぞれ船体3に取り付けられている。
ただし、バラストキール5と舵6(ラダー)とを一体的に形成することも出来る。
また、図1図3において、船体3の進行方向における前後2箇所に、図1における左右側方に張り出している一対の水中翼7が設けられており、浮上水抵抗を少なくしている。そのため、軽量のバラストキール5で海洋ドローン10の姿勢を保つことが出来る。
図示はされていないが、マスト2に支持されている翼1及び水中翼7の表面には微細な凹凸が形成され(いわゆる「サメ肌状」に構成され)、流体抵抗を小さくしている。これにより、風を受ける際の抵抗及び水の抵抗を減少している。
【0018】
図示はされていないが、船体3下部の錘8(図1)を船体長手方向について複数区画に分割して構成し、分割した錘8の区画間は弾性材料(例えば、板バネ等)で連結することが出来る。
海洋ドローン10が暗礁その他の障害物と衝突し錘8(船体下部の錘:図1参照)が破損する可能性が存在する。錘8が破損すると海洋ドローン10は航行不能となる。それに対して、錘8を複数分割して構成し、区画間を弾性体(図示せず)で連結すれば、障害物と衝突しても、衝撃は図示しない弾性体により吸収され、或いは、弾性体の変形により衝撃力が逃がされるので、錘8の破損が防止される。変形した弾性体は弾性反発力で元の状態に復帰する。
ただし、図示の実施形態の様な双胴船の場合には、前記錘が省略される場合もある。
【0019】
図1図3においては、海洋ドローン10は双胴船としたが、実施形態に係る海洋ドローン10は双胴船に限定されることはなく、単一の船体を有する単胴船であっても良い。また、主船体と、主船体から張り出した横桁に取り付けられた2つの小さなアウトリガー船体(フロート)で構成される三胴船(トリマラン又はダブルアウトリガー)であっても良い。
図示の簡略化のため、添付図面において、実施形態に係る海洋ドローンを双胴船ではなく単胴船で示す場合がある。
【0020】
翼1が風を受けることにより、海洋ドローン10が受ける力について、図4図6を参照して説明する。
図4図6において、図示の簡略化のため、海洋ドローン10は単胴船として示している。図4図6において示す風の向き、作用する力、モーメント等は、双胴船や三胴船でも同様である。
図4は斜め前方からの向かい風Wを海洋ドローン10が受けた場合を示しており、ヨットにおける「クローズドホールド」に相当する。
図5は海洋ドローン10の側方から風Wを受けた場合を示しており、ヨットにおける「アビーム」に相当する。
図6は海洋ドローン10の後方から順風を受けた場合を示しており、ヨットにおける「ランニング」に相当する。
【0021】
図4図5において、海洋ドローン10の船体3のマスト2に支持された翼1が風Wを受けることにより、翼1には流体力Fが作用する。この流体力Fは、航空機の主翼に作用する揚力に相当し、流体力Fは海洋ドローン10の推進力として作用する。そして海洋ドローン10は、流体力Fの方向に進む。
翼1が風Wを受けることにより、同時に、マスト2にはモーメントM1が作用し、船舶10(海洋ドローン)全体にモーメントM2が作用する。
図6では、翼1全体に風Wが衝突した反作用として力F-1が作用する。この力F-1は、翼1及び海洋ドローン10の推進力として作用する。
なお、図示はしないが、所謂「向かい風」の場合には、ヨット等の従来の帆船と同様に、斜め前方45°に左右交互に進行して、いわゆる「千鳥」状或いは「ジクザグ」状に海洋ドローン10が航行する。
【0022】
図4図6において、海洋ドローン10を安定して航行させるため、海洋ドローン10全体に作用するモーメントM2が最小となる様に、翼1の向きを調整して流体力F(揚力に相当)、或いは翼1に作用する力F-1を発生させる。
さらに、海洋ドローン10全体に作用するモーメントM2のバランスが取れる様に翼に作用する力F、F-1が生じる様に、翼1の向きを調整する。図7を参照して後述する様に、翼1の向きの調整は、翼1とマスト2の取付部の構造により、風向(或いは風速)に応じて自動的に翼1が回動することにより行うことが出来る。
海洋ドローン10は翼1の向きを適宜調整すれば航行できる。そして、海洋ドローンの進行速度は遅くても、安定して長距離を長期間に亘って走行することが出来る。
風向(或いは風速)に基づく翼1の向きの調整、制御については、図14(翼位置調整制御)を参照して後述する。
【0023】
マスト2に翼1を取り付ける構造について、図7を参照して説明する。
図1図3で上述した様に、翼1はマスト2に対して1箇所で回転可能に支持されている。図7において、翼1がマスト2に対して支持されている箇所において、明確には示されないが、ベアリング9の内輪(符号なし)がマスト2の表面(外周面)に固定されており、ベアリング9の外輪(符号なし)には翼1側の軸11(翼側軸)が(軸11の軸心を中心に)回動自在(矢印R)に支持されている。
翼1は翼側軸11に固定されている。また、ベアリング9はマスト2に対して、図示の実施形態では45°傾斜する様に取り付けられている。
構成の理解を容易にするため、図7においては、ベアリング9、翼側軸11におけるマスト2の背面側に位置する部分についても表示している。
ベアリング9の外輪を内輪に対して回動する際は、図示しない駆動装置(例えばモータ等の従来技術)を利用することが出来る。また、翼側軸11を軸心回りに回動させる際にも、前記外輪を内輪に対して回動させるのとは別の図示しない駆動装置(例えばモータ等の従来技術)を利用することが出来る。
【0024】
海洋ドローン10が受ける風Wの向きや風速に応じて翼1を移動或いは回動し、翼1に作用する流体力Fを連続的に切り替える際には、ベアリング9の外輪を内輪に対して回動し、外輪及び翼側軸11を介して翼1をマスト2の円周方向における適正な位置に移動(回動)して(矢印C)、翼側軸11を軸心回りに回動させる(矢印R)ことにより、翼型軸11に固定された翼1の仰角その他を変動させることが出来る(図14の翼位置調整制御)。
風Wの向きや風速に応じて翼1を移動(回動)し、翼1に作用する流体力Fの大きさと方向を切り替えることにより、海洋ドローン10を効率的に航行することが出来る。
【0025】
上述した様に、海洋ドローン10の運行制御に必要な電力は太陽電池4(図2)で発電してまかなっている。そのため、夜間については陸地における停泊施設で停泊するばあいがある。また、台風や強風により、風による運航が困難な場合も存在し、同様に、陸地における停泊施設で停泊する場合がある。
図示の実施形態においては、図8で示す様に、停泊時や強風時には、翼1を水平にして、翼1が風Wに当たる面積を最小にして、風Wにより海洋ドローン10が予期せぬ移動をしてしまうことを防止している。
図8において、図示の簡略化のため、海洋ドローン10は単胴船として示されている。
図8(1)は、船体3に設置されたマスト2に支持される翼1を海面Sに対して水平にした状態を示している。翼1を海面Sに対して水平にした状態では、翼1における風Wを受ける断面積A1は翼1の想定される姿勢(位置)において最少であり、風Wが翼1に作用する力も最少である。図8(1)において、符号1Hは、翼1が風を受けた等の理由により移動(回動)し、その姿勢或いは形状が変化した場合において、翼1の端部が位置し得る範囲を示している。
一方、図8(2)は海洋ドローン10の航行時の翼1の姿勢における一例を示しており、図8(2)の例では、翼1は海面Sに対して垂直に近い姿勢となっている。翼1を海面Sに対して垂直に近い姿勢とした状態では、翼1における風Wを受ける断面積A2は大きくなり、風Wが翼1に作用する力も大きくなる。
【0026】
図8(1)、(2)において、断面積A1とA2を比較すれば明らかな様に、図8(1)で示す様に翼1の姿勢を水平にした方が、図8(2)で示す様に翼1の姿勢を垂直に近い場合に比較して、翼1に風Wが当たる面積が小さくなり、翼1に作用する力が小さくなる。そのため、図8(1)の状態であれば、停泊時や強風時には風Wにより海洋ドローン10の予期せぬ移動を防止出来る。
また、何らかの理由で日中も停泊施設で停泊する場合に、図8(1)で示す様には翼1の姿勢を水平にすれば、翼1の太陽電池4が日光を受光する面積が最大になり、太陽電池4による発電量を多くすることが出来る。なお、図8(1)では翼1の太陽側の面に貼着される太陽電池4の一部を模式的に表示している。
【0027】
図示の実施形態において、翼1は内圧が調整可能に構成されており、風速、風向に対応して翼1の内圧を調整して翼1の断面形状、翼1の曲率等を変更し、(揚力に相当する力である)流体力を調整可能となっている。
翼1の内圧を調整する翼内圧調整制御は、翼内圧調整機構22(図14参照)により行われ、翼内圧調整機構22は翼内流体排出弁22Aと翼内流体充填用コンプレッサー22Bを備えている。そして、翼内流体排出弁22Aは翼1の中空部の流体(例えば空気)を翼1の外部に排出する機能を有しており、翼内流体充填用コンプレッサー22Bは翼1の中空部に流体(例えば空気)を充填する機能を有している。翼内圧調整制御については、図14を参照して後述する。
なお、翼1を可撓性のある材料で製造しても、中空部に空気を充填すれば翼1全体としては剛性を持つ。係る剛性は、翼1が風を受けて、飛行機の翼に作用する揚力に相当する流体力を生じるのに十分である。
また、翼1の内圧を変化させて翼1の断面形状や断面積を変化させることが出来る図示の実施形態に係る海洋ドローン10は、可撓性の帆を用いた場合に比較して、強風に対する耐性が良好である。
【0028】
図9図11を参照して船体3の復元について説明する。
図9図11では明確には図示されていないが、海洋ドローン10の船体3には復元制御(図14参照)が設けられている。復元機構23はバラスト内部の水を給排出するポンプ23A(図14)と、バラスト内部に空気を充填するコンプレッサー23B(図14)を有している。係るポンプ23Aとコンプレッサー23Bは、太陽電池により発電された電力により駆動する。
図示の実施形態に係る海洋ドローンが図9で示す様に転倒した場合には(いわゆる「沈」した場合には)、給排水用ポンプ23A(図14)及び空気充填用コンプレッサー23B(図14)を使用して、バラストの内部に水を給水し、或いはバラストの内部から水を排出した後、空気を充填することにより、航行が可能な状態に復元することができる。図9図11において、バラストは船体3の内部構造であるため、符号は付されていない。
図示の実施形態において、バラスト内部の水を排出するにはポンプ23A以外の機器を用いることが可能であり、バラスト内部に空気を充填するのもコンプレッサー23B以外の機器を用いることが出来る。
【0029】
海洋ドローン10が点灯した状態(「沈」した状態)を示す図9では、船体3が海面Sに浮上しているが、マスト2に取り付けられた翼1が水中に没している。この状態では、双胴船10の2つの船体3のバラスト内部には空気が充填されている。なお、図9図11では翼1、マスト2、船体3等を簡略化して表示されている。
上述した様に、翼1を可撓性のある材料で製造され、中空部に空気を充填して構成されているので、水中に没した翼1は大きな浮力を有している。そのため、図9で示す沈んだ状態の海洋ドローン10は、水中では不安定な状態である。
【0030】
図9で示す様に転倒した海洋ドローン10を転倒する以前の復元に際しては、給排水用ポンプ23A(図14)により、双胴船の一方の船体3-1(図10)のバラストのみに水を供給する。一方、他方の船体3-2(図10)のバラストは空気が入った状態を維持する。
バラストに水が供給された側の船体3-1は重量が大きくなるため、比重が増加し、図10で示す様に、船体3-1が沈み、一方、空気が入った状態の他方の船体3-2は海面Sから浮き上がる。
次に、図10の状態から、船体3-1のバラストから給排水用ポンプ23A(図14)により水を抜いて、その後、空気充填用コンプレッサー23B(図14)で空気を充填すれば、図11で示す様に、船体3-1、3-2は海面上に位置し、翼1は海面Sの上方に立ち上がり、海洋ドローン10は転倒する以前の状態(「沈」していない状態)に復元する。
係る制御は、図示の実施形態に係る無人の海洋ドローン10では、自動制御で行う。当該自動制御に際しては、海洋ドローン10が転倒したこと(「沈」したこと)は、姿勢センサー34(図14参照)で感知することが可能である。姿勢センサー34により海洋ドローン10が転倒したことを感知したならば、給排水用ポンプ23A(図14)及び空気充填用コンプレッサー23B(図14)に制御信号を発信して、図9図11を参照して説明した操作を自動制御で実行する。
【0031】
図12図13を参照して、図示の実施形態におけるバラストキール5と舵6(ラダー)について説明する。
船体3の下面(底面)を示す図12において、バラストキール5は厚さ寸法が小さく設定されており、舵6と一体に構成されている。一体に構成されたバラストキール5及び舵6は、可撓性を有する材料により柔軟構造を構成している。
柔軟構造として一体に構成されたバラストキール5及び舵6は、図13において実線及び破線で示す様に、正弦波状に変形することが出来る。
図13では明示はされていないが、一体のバラストキール5及び舵6(図13における実線及び破線)を正弦波状に変形するためのリンク機構(ラダー・バラストキール変形用リンク機構24:図14参照)が設けられている。ラダー・バラストキール変形用リンク機構24(図14)は、バラストキール5及び舵6を図13における矢印Aws方向に往復移動して、実線で示す状態から破線で示す状態に変形すること及び破線で示す状態から実線で示す状態に変形することを繰り返す。係る変形を繰り返すことにより、船体3を矢印Fw方向に進行させる力が生じる。
その様な力が発生することにより、例えば全くの無風状態であっても、海洋ドローン10を進行(航行)させることが可能となる。例えば、一定期間(海洋ドローン10の運行計画やニーズにより、ケース・バイ・ケースにより異なる)無風状態が続いた場合には、蓄電装置(図14参照)の残量がその後の航行に影響しない程度に残存している場合には、バラストキール及びラダー変形用リンク機構(図14参照)を所定時間稼働させて、無風状態であっても海洋ドローン10を必要な有効な風が吹いている位置まで推進することが出来る。
【0032】
図12図13で説明した海洋ドローン10を推進するためのリンク機構は、プロペラとは異なり、海洋ドローン10が航行する際の抵抗にはならないというメリットがある。そのため図示の実施形態では、海洋ドローン航行用のプロペラは設けられていない。プロペラは、風による航行の際に、抵抗となるからである。
なお、図12図13ではバラストキール5と舵6とが一体になっているが、両者が分割されていても、それぞれを正弦波状に変形することを繰り返し、その変形のタイミングを同期させる(シンクロする)ことにより、海洋ドローン10を推進させることが出来る。バラストキール5と舵6が分割されている場合は、明確には図示されていないが、バラストキール5を正弦波状に変形するリンク機構と、舵6を正弦波状に変形する機構を設ける。
さらに図示の実施形態において、上述したリンク機構を有しておらず、バラストキール5が変形しない場合であっても、舵6を面舵と取舵を繰り返すことにより、海洋ドローン10の推進力を得ることも出来る。
【0033】
次に図14を参照して、図示の実施形態における制御を行うための構成について説明する。
図14において、図示の実施形態で制御を行う構成は、制御ユニット20と、制御ユニット20からの制御信号に基づき機器を作動する機能を有する各機構を有している。き機器を作動する機能を有する各機構は、翼調整機構21、翼内圧調整機構22、復元機構23、ラダー・バラストキール変形用リンク機構24を含む。
制御ユニット20は、翼位置決定ブロック20A、翼内圧調整ブロック20B、復元ブロック20C、ラダー・バラストキール制御ブロック20D、記憶ブロック20Eを有している。
図14で示す様に、制御を行う構成は、翼1に貼付された太陽電池4、蓄電装置31、風向センサー32、風速センサー33、姿勢センサー34を含んでいる。
図示の煩雑を防止するため、図14では、信号伝達ラインを省略する場合がある(例えば制御ユニット20等)。
【0034】
太陽電池4で発電した電気は蓄電装置31に充電される。蓄電装置31の充電量(残量)は、情報伝達ラインSL1を介して制御ユニット20に常に送信され、制御ユニット20でモニターされている。
制御ユニット20の記憶ブロック20Eには、海洋ドローン10の運行計画、風向・風速と翼1の位置・姿勢との関係、風向及び風速と翼内圧との関係、海洋ドローン10の姿勢復元のルーチン、無風状態時のルーチン等の情報が記録されている。記憶ブロック20Eに記録された前記情報は、必要に応じて翼位置決定ブロック20A等の各ブロックに送信されて取得される。
【0035】
制御ユニット20の翼位置決定ブロック20Aは、記憶ブロック20Eから海洋ドローン10が航行するべき方向(運行計画)、風向・風速と翼1の位置・姿勢との関係を取得すると共に、風向センサー32により検出された風向と風速センサー33により計測された風速を、それぞれ信号伝達ラインSL2、SL3を介して取得し、当該取得した情報に基づき翼1の位置、姿勢を決定する機能を有している。
図面で明示されていないが、翼位置決定ブロック20Aによる翼1の位置、姿勢の決定に際しては、海洋ドローン10全体に作用するモーメントM2(図4図5参照)が最少となる様に、且つ、適正な流体力F(揚力に相当)が発生する様に決定される。
翼位置決定ブロック20Aにより決定した翼位置に調整するための制御信号は、信号伝達ラインSL4を介して翼調整機構21に送信される。
翼調整機構21は、翼位置決定ブロック20Aからの前記制御信号に基づき、図7を参照して上述した様に、マスト2に対して翼1を回動及び/又は移動して、翼1の位置を調節する。
【0036】
図8で上述した様に、翼1は内圧が調整可能に構成されており、風速、風向に対応して翼1の内圧を調整して翼1の断面形状、翼1表面の曲率等を変更し、翼1に作用する流体力を調整可能となっている。
制御ユニット20の翼内圧調整ブロック20Bは、記憶ブロック20Eから翼内圧に関する情報等を取得すると共に、風向センサー32により検出された風向と風速センサー33により計測された風速を、それぞれ信号伝達ラインSL2、SL3を介して取得する。そして、当該取得した情報に基づき翼1の内圧を調整すべきか否かを判断し、調整する場合、調整後の内圧値を決定する機能を有している。
翼内圧調整ブロック20Bの判断結果と調整後の内圧値に調整するための制御信号は、信号伝達ラインSL5を介して翼内圧調整機構22に送信される。
翼内圧調整機構22は、翼内圧調整ブロック20Bからの前記制御信号に基づき、翼1の内圧を降圧すべき場合は翼内流体排出弁22Aを開放し、翼1の内圧を昇圧するべき場合は翼内流体充填用コンプレッサー22Bを作動して翼1内に流体(例えば空気)を充填して、翼1の内圧を調整する。
【0037】
制御ユニット20の復元ブロック20Cは、姿勢センサー34の計測結果を、信号伝達ラインSL6を介して取得し、当該取得した計測結果に基づき海洋ドローン10が転倒した状態(図9の状態:いわゆる「沈」した状態)であるか否かを判断する機能を有している。
そして、海洋ドローン10が転倒した状態であると判断した場合には、復元のための制御信号を、信号伝達ラインSL7を介して復元機構23に送信する。その際、復元ブロック20Cは記憶ブロック20Eから復元のルーチンに関する情報を取得する。
復元機構23は、復元ブロック20Cからの制御信号に基づき、復元機構23のバラスト水給排出用ポンプ23Aと空気充填用コンプレッサー23Bを作動し、図9図11を参照して上述したルーチンに従って、海洋ドローン10が航行可能な状態に復元する機能を有している。
【0038】
制御ユニット20のラダー・バラストキール制御ブロック20Dは、例えば無風状態が所定期間以上続き、運行計画に比較して海洋ドローン10の運行距離が許容範囲を超えて短いか否かを判断する機能を有している。そして、「短い」と判断した場合には、ラダー・バラストキール制御ブロック20Dからラダー・バラストキール変形用リンク機構24に、信号伝達ラインSL8を介して制御信号を発信する。
ラダー・バラストキール制御ブロック20Dが前記判断を行う際には、記憶ブロック20Eに記録された運行計画、無風状態時のルーチンに関する情報等を取得する。
ラダー・バラストキール変形用リンク機構24は、ラダー・バラストキール制御ブロック20Dからの制御信号に基づき、図13を参照して上述した様に、ラダー6及びバラストキール5を正弦曲線状に変形することを繰り返し、海洋ドローン10を進行させる推進力を生じさせる。
上述の制御は、常に蓄電装置31内の電力の残量をチェックしつつ実行される。
蓄電装置31内の残量が少ない場合には海洋ドローン10は停泊し、翼調整機構21により、図8(1)で示す様に、翼1を水平状態にして、太陽電池4の発電量を最大にする。
【0039】
図14で示す様に、制御ユニット20は信号伝達ラインSL10を介して、全体を符号30で示す航海用装備と双方向に連携している。
ここで、航海用装備30としては、コンパス、オートパイロット、衛星測位システム、航法支援装置、プロッタ、魚群探知装置、電子海図、船舶共通通信、船舶間自動通信、自動船舶識別装置、レーダー、船灯、航海用レーダー反射器、黒色球形形象物に係る装置、各種旗、その他の自律的な判断を支援する装置、遠隔操作用の装置等が存在する。
【0040】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
また、図示の実施形態では海洋ドローンとして、海洋で航行する場合を想定して説明しているが、図示の実施形態に係る海洋ドローンは河川、湖沼でも適用することが出来る。
【符号の説明】
【0041】
1・・・翼
2・・・マスト
3・・・船体
4・・・太陽電池(再生エネルギー生成装置)
10・・・海洋ドローン(船舶)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14