(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068747
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】ワイピング装置及び溶融めっき装置
(51)【国際特許分類】
C23C 2/20 20060101AFI20230511BHJP
C23C 2/40 20060101ALI20230511BHJP
C23C 2/00 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C23C2/20
C23C2/40
C23C2/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180024
(22)【出願日】2021-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】天野 陽子
(72)【発明者】
【氏名】片山 祐次
(72)【発明者】
【氏名】木村 剛哲
【テーマコード(参考)】
4K027
【Fターム(参考)】
4K027AA05
4K027AA22
4K027AB42
4K027AC52
4K027AD22
4K027AD23
4K027AE24
(57)【要約】
【課題】エッジオーバーコート及びスプラッシュを、より安定して抑制することが可能な、ワイピング装置を提供する。
【解決手段】溶融めっき浴から引き上げられる鋼板PにワイピングガスGを吹き付けるワイピングノズル2a、2bと、ワイピングノズル2a、2bの間にあって鋼板Pの搬送路Rの幅方向の両側に配置され、先端にエアーを吸引する吸引口3aが設けられ、かつ、鋼板Pの搬送路Rの幅方向に沿って延在する吸引管3と、が備えられ、吸引管3には、鋼板Pの搬送方向またはその反対方向に向けて幅が減少する狭幅部3bが設けられ、搬送路Rを搬送される鋼板Pの板厚方向に沿う吸引口3aの最大幅が、搬送中の鋼板Pの板厚方向の予想変位幅よりも大きな幅とされ、吸引管3は、吸引口3aが搬送中の鋼板Pの端部に対向するように配置されており、ワイピングノズル2a、2bは、狭幅部3bに近接して配置可能とされている、ワイピング装置1を採用する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融めっき浴から連続して引き上げられる鋼板の板面に向けてワイピングガスを吹き付け可能な一対のワイピングノズルと、
前記一対のワイピングノズルの間にあって前記鋼板の搬送路の幅方向の両側に配置され、先端にエアーを吸引する吸引口が設けられ、かつ、前記鋼板の搬送路の幅方向に沿って延在する吸引管と、が備えられ、
前記吸引管には、前記鋼板の搬送方向またはその反対方向に向けて幅が減少する狭幅部が設けられ、
前記搬送路を搬送される前記鋼板の板厚方向に沿う前記吸引口の最大幅が、搬送中の前記鋼板の板厚方向の予想変位幅よりも大きな幅とされ、
前記吸引管は、前記吸引口が搬送中の前記鋼板の端部に対向するように配置されており、
前記一対のワイピングノズルは、前記吸引管を間に挟みつつ、前記狭幅部に近接して配置可能とされている、ワイピング装置。
【請求項2】
前記吸引管の前記吸引口が、前記鋼板の搬送方向またはその反対方向に向けて幅が減少する幅減少領域により構成されている、請求項1に記載のワイピング装置。
【請求項3】
前記吸引管の前記吸引口が、本体領域と、前記鋼板の搬送方向またはその反対方向に向けて幅が減少する幅減少領域と、により構成されている、請求項1に記載のワイピング装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のワイピング装置と、溶融めっき浴を収容可能な溶融めっき槽と、前記溶融めっき槽内に設置されたシンクロールと、を少なくとも備える、溶融めっき装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイピング装置及び溶融めっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
連続式の溶融めっき装置では、鋼板を溶融めっき浴に浸漬させることで、鋼板に溶融金属を付着させる。次いで、めっき浴槽内に設置されたシンクロールによって鋼板の進行方向を転換させて、鋼板をめっき浴槽から上方に引き上げる。次いで、ワイピングノズルによるガスワイピングを行うことでめっき付着量を調整する。そして、鋼板に付着した溶融金属を冷却し凝固させることで、鋼板表面に溶融めっき層を形成する。
【0003】
ワイピングノズルによるガスワイピングは、鋼板を挟んで鋼板の両側に配置されたワイピングノズルから、鋼板の板面にワイピングガスを吹き付ける。このガスワイピングによって、過剰な溶融金属が払拭されて、溶融金属の付着量が制御される。ガスワイピングを行うことにより、溶融めっき層は、板幅方向および板長手方向に均一な厚みとなる。
【0004】
ワイピングノズルは、鋼板の幅方向に延設されたスリットからワイピングガスを噴出するものである。このスリットは、多様な鋼板の幅に対応するため、鋼板の幅よりも長くなっており、すなわちスリットは鋼板の板幅方向の端部の外側まで延びている。
【0005】
ワイピングノズルから噴出されたワイピングガスは、高速噴流として鋼板に衝突した後に、上下方向に分流する。これにより、過剰な溶融金属が上下方向に払拭され、均一なめっき厚を有する溶融めっき層が得られる。
【0006】
しかし、鋼板の板幅方向の端部では、端部に衝突したワイピングガスの噴流が、上下方向のほか、横方向にも分散するため、噴流の衝突力が減少する。このため、鋼板の端部におけるめっき厚は、板幅方向の中心部におけるめっき厚に比べて厚くなる、いわゆるエッジオーバーコートが発生する。
【0007】
また、鋼板の端部に衝突した噴流の乱れによって、溶融金属が周囲に飛び散る、いわゆるスプラッシュが発生する場合がある。スプラッシュによって飛び散った溶融金属は、鋼板表面またはワイピングノズルに再付着する場合があり、鋼板の表面品質の低下を招くおそれがある。
【0008】
このような問題を解決する試みとして、例えば特許文献1に記載のように、主に付着金属の厚さを制御するガスを噴射する主ノズルに、主ノズルから噴射されるガスの噴射方向に対して傾斜した、主ノズルから噴射するガスよりも低速のガスを噴射する副ノズルを設け、副ノズルからの低速の噴流によって主ノズルから噴射される噴流の拡散を防止することが提案されている。
【0009】
また、特許文献2に記載のように、溶融めっき浴から引き上げられる鋼板を挟んで配置された一対のワイピングノズルから、ワイピングガスを鋼板に吹き付けるワイピング装置において、一対のワイピングノズル間の鋼板の幅方向の両側に、鋼板と平行にそれぞれ配置され、エアーを吸引する吸込口が鋼板の側端面に向かって配置され、断面形状が鋼板の引き上げ方向に幅広である吸引管を備えたワイピング装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007-84878号公報
【特許文献2】特許第5851492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1に記載のように、主ノズル上に副ノズルが固定された場合、鋼板の両側の主ノズル間の距離が拡大するなどして変更されると、副ノズルが主ノズルの噴流を阻害することになるため、ワイピング効果が減少する。
【0012】
特許文献2に記載のワイピング装置では、エッジオーバーコート及びスプラッシュの発生がある程度まで抑制される。ところで、特許文献2に記載のワイピング装置は、吸引管の断面形状が鋼板の引き上げ方向に幅広とされ、鋼板の板厚方向では幅狭とされている。
【0013】
ここで、溶融めっき浴から引き上げられる鋼板は、鋼板の端部の位置が板厚方向に振れて変動しながらワイピングノズル同士の間を通過することがある。また、鋼板の端部の位置が、鋼板の中央部の板厚中心位置からずれて安定したまま、ワイピングノズル同士の間を通過することがある。このように、鋼板の端部の位置が、予定されていた通過位置から外れてしまうことがある。特許文献2において、鋼板の端部の位置が通過予定位置から外れると、吸引管によるワイピングガスの分離効果や、エアーの吸引効果が弱まり、エッジオーバーコート及びスプラッシュを抑制できない場合がある。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、エッジオーバーコート及びスプラッシュを、より安定して抑制することが可能な、ワイピング装置および溶融めっき装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
[1] 溶融めっき浴から連続して引き上げられる鋼板の板面に向けてワイピングガスを吹き付け可能な一対のワイピングノズルと、
前記一対のワイピングノズルの間にあって前記鋼板の搬送路の幅方向の両側に配置され、先端にエアーを吸引する吸引口が設けられ、かつ、前記鋼板の搬送路の幅方向に沿って延在する吸引管と、が備えられ、
前記吸引管には、前記鋼板の搬送方向またはその反対方向に向けて幅が減少する狭幅部が設けられ、
前記搬送路を搬送される前記鋼板の板厚方向に沿う前記吸引口の最大幅が、搬送中の前記鋼板の板厚方向の予想変位幅よりも大きな幅とされ、
前記吸引管は、前記吸引口が搬送中の前記鋼板の端部に対向するように配置されており、
前記一対のワイピングノズルは、前記吸引管を間に挟みつつ、前記狭幅部に近接して配置可能とされている、ワイピング装置。
[2] 前記吸引管の前記吸引口が、前記鋼板の搬送方向またはその反対方向に向けて幅が減少する幅減少領域により構成されている、[1]に記載のワイピング装置。
[3] 前記吸引管の前記吸引口が、本体領域と、前記鋼板の搬送方向またはその反対方向に向けて幅が減少する幅減少領域と、により構成されている、[1]に記載のワイピング装置。
[4] 上記[1]~[3]のいずれか一項に記載のワイピング装置と、溶融めっき浴を収容可能な溶融めっき槽と、前記溶融めっき槽内に設置されたシンクロールと、を少なくとも備える、溶融めっき装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明のワイピング装置によれば、鋼板の板厚方向に沿う吸引口の最大幅が、搬送中の鋼板の板厚方向の予想変位幅よりも大きな幅とされているので、搬送中の鋼板の端部の通過位置が予定されていた通過位置から外れてしまう場合であっても、鋼板の端部は吸引管の吸引口に常に対向する。これにより、鋼板の端部に対する吸引管によるエアーの吸引効果を維持することができ、ひいては、エッジオーバーコート及びスプラッシュが抑制可能になる。
また、吸引管に、鋼板の搬送方向またはその反対方向に向けて幅が減少する狭幅部が設けられ、一対のワイピングノズルは、この狭幅部に近接して配置可能とされているので、ワイピングノズル同士の間隔を、吸引口の最大幅よりも小さくすることができ、これにより、ワイピングノズルによる溶融めっき層の厚みの調整を適切に行うことが可能になる。
更に、吸引管を、鋼板の搬送路の幅方向に沿って延在させることで、鋼板の板幅方向外側でワイピングガス同士が直接衝突することが防止され、これによりワイピングガス同士の直接衝突による乱流発生を防止することが可能になる。
以上により、本実施形態のワイピング装置は、搬送中の鋼板の端部の位置が、予定されていた通過位置から外れてしまう場合であっても、鋼板の端部付近におけるワイピングガスの流れを常に改善できるので、エッジオーバーコート及びスプラッシュをより安定して抑制することができ、また、溶融めっき層を一定の厚みに調整することができる。
【0017】
また、本発明のワイピング装置によれば、吸引管の吸引口が、鋼板の搬送方向またはその反対方向に向けて幅が減少する幅減少領域により構成されているので、吸引口の断面積を、エアーの吸引効果を発揮させるために十分な大きさにすることができ、エッジオーバーコート及びスプラッシュを十分に抑制することができる。
【0018】
また、本発明のワイピング装置によれば、吸引管の吸引口が、本体領域と、鋼板の搬送方向またはその反対方向に向けて幅が減少する幅減少領域とにより構成されているので、吸引口の断面積を、エアーの吸引効果を発揮させるために十分な大きさにすることができ、エッジオーバーコート及びスプラッシュを十分に抑制することができる。
【0019】
次に、本発明の溶融めっき装置によれば、本発明に係るワイピング装置を備えているので、エッジオーバーコート及びスプラッシュが安定して抑制された溶融めっき鋼板を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態である溶融めっき装置を示す模式図。
【
図2】本発明の実施形態であるワイピング装置を示す図であって、鋼板の板幅方向から見た断面模式図。
【
図3】
図2の鋼板の板幅方向の端部のA-A矢視図。
【
図4】本発明の実施形態であるワイピング装置に備えられた吸引管を示す正面模式図。
【
図5】本発明の実施形態であるワイピング装置を示す図であって、ワイピングノズルを吸引管の狭幅部に近接させた状態を示す断面模式図。
【
図6】鋼板の幅方向の中央部におけるワイピングガスの流れを説明する断面模式図。
【
図7】
図3のB-B矢視図であって、鋼板の幅方向外側におけるワイピングガスの流れを説明する模式図。
【
図8】吸引管が無い場合の鋼板の幅方向外側におけるワイピングガスの流れを説明する模式図。
【
図9】本発明の実施形態であるワイピング装置に備えられた吸引管の他の例を示す模式図。
【
図13】実施例1、2及び比較例のワイピング装置について、鋼板の板幅方向における衝突ガス圧力比(Pe/Pc)の変動を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態であるワイピング装置および溶融めっき装置について図面を参照して説明する。
【0022】
図1には、本実施形態の溶融めっき装置11の模式図を示す。
図1に示す連続式の溶融めっき装置11には、溶融めっき浴12を収容可能な溶融めっき槽10と、溶融めっき槽10内に設置されたシンクロール14と、鋼板Pに付着した溶融金属の付着量を調整するワイピング装置1と、が備えられている。また、溶融めっき装置11には、
図1に示すように、非酸化性雰囲気のまま鋼板Pを溶融めっき浴12に導くためのスナウト13が備えられていてもよい。
【0023】
図1に示す溶融めっき装置11では、スナウト13内を搬送される鋼板Pを、溶融めっき浴12に浸漬させることで、鋼板Pに溶融金属を付着させる。次いで、シンクロール14によって鋼板Pの搬送方向を上向きに転換させて、鋼板Pを溶融めっき浴12から上方に向けて引き上げる。次いで、ワイピング装置1によるガスワイピングを行うことでめっき付着量を調整する。その後、鋼板Pに付着した溶融金属を冷却し凝固させることで、鋼板Pの表面に溶融めっき層を形成し、溶融めっき鋼板とする。
【0024】
次に、本実施形態のワイピング装置1について
図2及び
図3を参照して説明する。
図2及び
図3に示すように、本実施形態のワイピング装置1には、一対のワイピングノズル2a、2bと、一対のワイピングノズル2a、2bの間にあって鋼板Pの搬送路Rの幅方向の両側に配置された吸引管3と、が備えられている。鋼板Pの搬送路Rは、搬送中の鋼板Pが通過する領域である。
【0025】
ワイピングノズル2a、2bは、
図2及び
図3に示すように、溶融めっき浴12から連続して引き上げられる鋼板Pの搬送路Rを挟む位置に配置されている。ワイピングノズル2a、2bには、鋼板Pの板幅方向(搬送路Rの幅方向)に沿って延設された直線状のスリット4a、4bが設けられている。スリット4a、4bは、多様な鋼板Pの幅に対応するため、
図3に示すように鋼板Pの板幅よりも長く形成されており、鋼板Pの板幅方向の端部Eより外側まで延びている。このスリット4a、4bは、鋼板Pの板面の方向に向けて開口されている。
【0026】
ワイピングノズル2a、2bは、スリット4a、4bからそれぞれワイピングガスGを噴出させて、鋼板Pの板面にワイピングガスGを吹き付ける。鋼板Pの板面に吹き付けられたワイピングガスGは、高速噴流として鋼板Pに衝突した後に上下方向に分離され、過剰な溶融金属を払拭する。
【0027】
吸引管3は、一対のワイピングノズル2a、2bの間にあって、鋼板Pの搬送路Rの幅方向の両側に配置されている。吸引管3は中空管であり、吸引管3の先端には、エアーを吸引する吸引口3aが設けられている。また、吸引管3は、鋼板Pの搬送路Rの幅方向に沿って延在している。吸引管3の途中には、吸引管3をエゼクタとして作動させるための駆動ガスgを供給する供給管3mが設けられている。この供給管3mに高圧の駆動ガスgを送り込むことにより、吸引管3から鋼板Pの板幅方向の端部E周辺のエアーが吸引される。
【0028】
図4に、吸引口3aの側から視た吸引管3の正面模式図を示す。
図4に示すように、吸引管3には、鋼板Pの搬送方向の反対方向(図中下向きの方向)に向けて幅が減少する狭幅部3bが設けられている。
図4に示す吸引管3は、その断面形状が略三角形状とされている。吸引管3は、略逆三角形状の狭幅部3bを有する。狭幅部3bは吸引管3の管壁である。狭幅部3bは吸引管3の内部流路を区画する。吸引管3の狭幅部3bの側面3dは、
図4に示すように傾斜面とされている。また、吸引管3の狭幅部3bを構成する上面3fは、平坦面とされている。
【0029】
図4に示すように、吸引管3の吸引口3aは、鋼板Pの板厚方向に沿う最大幅Wmaxを有する。
図4に示す吸引管3の最大幅Wmaxは、狭幅部3bに区画された内部空間の最大幅である。最大幅Wmaxは、搬送中の鋼板Pの板厚方向の予想変位幅よりも大きな幅とされている。
【0030】
溶融めっき装置11においては、鋼板Pに付着した溶融金属が凝固するまでの時間を見越して、シンクロール14と、シンクロール14の後段に設置された図示略のロールとのロール間距離が比較的長く設計されている。このロール間には、鋼板Pに接触する部材がない。このため、このロール間に設定された搬送路Rを通過する鋼板Pは、その板幅方向の端部Eの通過位置が、板幅方向に振れる場合がある。また、鋼板Pは、ワイピングノズル2a、2bの中間位置を通過するように予定されているが、板幅方向の端部Eの通過位置が、予定された通過位置から外れる場合もある。
【0031】
そこで、ワイピングノズル2a,2bの間を通過する鋼板Pの端部Eの板厚方向の変位幅を計測し、計測された変位幅のうちの最大変位幅を予想変位幅とする。そして、この予想変位幅に対して、吸引口3aの最大幅Wmaxを大きくする。これにより、操業中に鋼板Pの板幅方向の端部Eの通過位置が、板幅方向に変位した場合でも、吸引口3aが鋼板Pの端部Eに必ず対向するようになる。なお、予想変位幅の決定方法は、上記した方法に限定されるものではなく、シミュレーション等により予測したものでもよい。
【0032】
図4に示すように、吸引管の吸引口3aは、鋼板Pの搬送方向またはその反対方向に向けて幅が減少する幅減少領域3hにより構成されている。幅減少領域3hは、吸引管3の狭幅部3bにより区画される領域である。狭幅部3bの最大幅が、吸引管3の最大幅Wmaxとなる。
【0033】
次に、ワイピングノズル2a、2bと吸引管3との位置関係について説明する。
図2及び
図3に示すように、吸引管3は、ワイピングノズル2a、2bの先端に設けられたスリット4a、4bの幅方向端部の間に位置している。スリット4a、4bの位置は、
図2に示すように、吸引管3の狭幅部3bに対向する位置にあってもよい。また、スリット4a、4bの位置は、
図5に示すように、吸引管3の狭幅部3bに対向する位置であって、
図3よりも更に下側にあってもよい。スリット4a、4bが吸引管3の狭幅部3bに対向する位置にある場合は、ワイピングノズル2a、2bを吸引管3に可能な限り近接させてもよい。
図5に示す場合であっても、ワイピングガスGが相互に衝突する領域に、吸引管3を対向させて配置することが可能になる。
【0034】
図2に示すように、スリット4a、4bが吸引管3の狭幅部3bと対向する位置にある場合、ワイピングノズル2a、2bの先端の間隔は、吸引管3の最大幅Wmaxを超える間隔になる。一方、
図5に示すように、スリット4a、4bが吸引管3の狭幅部3bの下部と対向する位置にある場合、ワイピングノズル2a、2bの先端の間隔は、吸引管3の最大幅Wmaxよりも小さくすることが可能になる。これにより、ワイピングノズル2a、2bの間隔並びに各ワイピングノズル2a、2bと鋼板Pとの間隔は、吸引管3の形状の影響、特に最大幅Wmaxの影響を受けずに調整することが可能になり、めっき付着量を適切に調整できるようになる。
【0035】
図6、
図7、
図8は、ワイピングノズル2a,2bから噴出されたワイピングガスGの流れを可視化した図である。
図6は、鋼板Pの幅方向の中央部Cの断面図である。
図7は、
図3のB-B矢視図である。
図6に示すように、鋼板Pの板幅方向の中央部Cにおいて、鋼板Pに衝突したワイピングガスGは上下に均一に分配される。一方、
図7に示すように、吸引管3に衝突したワイピングガスGは、上下に分離された後、吸引管3の外面に沿って上下に導かれるので、板幅方向の中央部Cと同様に鋼板Pが存在するかのように吸引管3の中心がワイピングガスGの衝突点となり、安定した流れが形成される。なお、吸引管3が存在しない場合には、一対のワイピングノズル2a,2bから噴出されたワイピングガスG同士が直接衝突する。この場合は、
図6、
図7の場合のように有体物たる物体(鋼板Pあるいは吸引管3)によって気体の流れが規定されないため、各空間点ごとのガス流れのわずかな揺らぎが全て反映されて、ワイピングガス同士の衝突点が決定される。そのため
図8に示すようにワイピングガスGの衝突点が一点に固定されずに、位置が変位するため、その周辺は複雑な乱流となる。
【0036】
本実施形態のワイピング装置1によれば、ワイピングノズル2a,2bから吹き付けられたワイピングガスGが高速噴流として鋼板Pに衝突した後に上下に分離されることで、過剰な溶融金属が上下方向に払拭され、板幅方向の圧力分布が均一化されることにより均一なめっき厚が実現される。このとき、鋼板Pの幅方向の外側にワイピングノズル2a,2bから吹き付けられたワイピングガスGは、前述のように吸引管3の外面に沿って上下に導かれ、整流されるので、鋼板Pの外側でワイピングガスG同士が直接衝突することによる乱流の発生が防止される。このように、吸引管3を、鋼板Pの搬送路Rの幅方向に沿って延在させることで、鋼板Pの板幅方向外側でワイピングガスG同士が直接衝突することが防止され、ワイピングガスG同士の乱流発生を防止することが可能になる。
【0037】
また、このワイピング装置1では、上記の効果に加え、鋼板Pの端部Eに向かって配置された吸引管3の吸引口3aからのエアーの吸引によって、鋼板Pの板幅方向の端部Eから吸引管3の間に形成されるワイピングガスGの衝突点の変動が抑制され、ガス圧力低下が抑制されることで鋼板Pの板幅方向の端部Eから横方向に逃げるワイピングガスGが減少する。これにより鋼板Pの板幅方向の端部EにおけるワイピングガスGの噴流の衝突力の低下も抑制される。
【0038】
更に、本実施形態のワイピング装置1によれば、吸引管3の吸引口3aにおける鋼板Pの板厚方向に沿う最大幅Wmaxが、搬送中の鋼板Pの板厚方向の予想変位幅よりも大きな幅とされているので、鋼板Pの端部Eの位置が板厚方向に変動しながらワイピングノズル2a、2b同士の間を通過する場合、または、鋼板Pの端部Eの位置が、鋼板Pの中央部の板厚中心位置からずれて安定したまま、ワイピングノズル2a、2b同士の間を通過する場合であっても、鋼板Pの端部Eは吸引管3の吸引口3aに常に対向する。これにより、鋼板Pの端部Eに対する吸引管3によるエアーの吸引効果を維持することができ、ひいては、エッジオーバーコート及びスプラッシュを抑制できる。
【0039】
また、吸引管3に、鋼板Pの搬送方向またはその反対方向に向けて幅が減少する狭幅部3bが設けられ、一対のワイピングノズル2a、2bは、この狭幅部3bに近接して配置可能とされているので、ワイピングノズル2a、2b同士の間隔を、吸引口3aの最大幅Wmaxよりも小さくすることができ、これにより、ワイピングノズル2a、2bによる溶融めっき層の厚みの調整を適切に行うことが可能になる。
【0040】
以上により、本実施形態のワイピング装置1は、搬送中の鋼板Pの端部Eの位置が板厚方向に変動しながらワイピングノズル2a、2b同士の間を通過する場合、または、鋼板Pの端部Eの位置が、鋼板Pの中央部の板厚中心位置からずれて安定したまま、ワイピングノズル2a、2b同士の間を通過する場合であっても、鋼板Pの端部E付近におけるワイピングガスGの流れを常に改善できるので、エッジオーバーコート及びスプラッシュをより安定して抑制することができ、また、溶融めっき層を一定の厚みに調整することができる。
【0041】
また、本実施形態のワイピング装置1によれば、吸引管3の吸引口3aが、鋼板Pの搬送方向またはその反対方向に向けて幅が減少する幅減少領域3hにより構成されているので、吸引口3aの断面積を、エアーの吸引効果を発揮させるために十分な大きさにすることができ、エッジオーバーコート及びスプラッシュを十分に抑制することができる。
【0042】
更に、本実施形態の溶融めっき装置11によれば、本実施形態に係るワイピング装置1を備えているので、エッジオーバーコート及びスプラッシュが安定して抑制された溶融めっき鋼板を製造できる。
【0043】
本実施形態のワイピング装置1に備えられる吸引管3は、
図2及び
図4~
図5に示される形状に限定されるものではなく、以下に説明するような形状であってもよい。
【0044】
図9には、本発明に係る吸引管の他の例を示す。
図9には、吸引管の吸引口の形状を正面模式図で示している。
【0045】
図9(a)~
図9(d)に示す吸引管23、33、43、53は、いずれも、鋼板Pの搬送方向の反対方向に向けて幅が減少する幅減少領域23h、33h、43h、53hから構成された吸引口23a、33a、43a、53aを有する。
【0046】
図9(a)に示す吸引管23には、鋼板Pの搬送方向の反対方向(図中下向きの方向)に向けて幅が減少する狭幅部23bが設けられている。この吸引管23は、その断面形状が略三角形状とされている。吸引管23は、逆三角形状の狭幅部23bを有する。狭幅部23bは吸引管23の内部流路を区画する。吸引管23の狭幅部23bの外面は、
図9(a)に示すように、上面23f及び斜面23dからなり、いずれも平坦面とされている。
【0047】
吸引管23の吸引口23aは、鋼板Pの搬送方向の反対方向に向けて幅が減少する幅減少領域23hにより構成されている。幅減少領域23hは、吸引管23の狭幅部23bにより区画された領域であり、吸引口23aを構成する。幅減少領域23hにおける最大幅が、吸引管23の鋼板Pの板厚方向に沿う最大幅Wmaxとされている。この最大幅Wmaxは、搬送中の鋼板Pの板厚方向の予想変位幅よりも大きな幅とされている。
【0048】
図9(b)に示す吸引管33は、斜面33dが、吸引管33の内側に凹んだ凹曲面とされている以外は、
図9(a)に示した吸引管23の形状にほぼ共通する形状を有する。
【0049】
図9(c)に示す吸引管43は、斜面43dが、吸引管43の外側に突出した凸曲面とされている以外は、
図9(a)に示した吸引管23の形状にほぼ共通する形状を有する。
【0050】
図9(d)に示す吸引管53には、鋼板Pの搬送方向の反対方向(図中下向きの方向)に向けて幅が減少する狭幅部53bが設けられている。この吸引管53は、その断面形状が逆台形状とされている。吸引管53は、逆台形状の狭幅部53bを有する。狭幅部53bは吸引管53の内部流路を区画する。吸引管53の狭幅部53bの外面は、
図9(d)に示すように、上面53f及び下面53e並びに斜面53dからなり、いずれも平坦面とされている。
【0051】
吸引管53の吸引口53aは、鋼板Pの搬送方向の反対方向に向けて幅が減少する幅減少領域53hにより構成されている。幅減少領域53hは、吸引管53の狭幅部53bにより区画された領域であり、吸引口53aを構成する。幅減少領域53hにおける最大幅が、吸引管53の鋼板Pの板厚方向に沿う最大幅Wmaxとされている。この最大幅Wmaxは、搬送中の鋼板Pの板厚方向の予想変位幅よりも大きな幅とされている。
【0052】
次に、
図9(e)~
図9(h)に示す吸引管63、73、83、93は、いずれも、本体領域63g、73g、83g、93gと、鋼板の搬送方向の反対方向に向けて幅が減少する幅減少領域63h、73h、83h、93hと、から構成された吸引口63a、73a、83a、93aを有する。
図9(e)~
図9(h)中の一点鎖線は、本体領域63g、73g、83g、93gと幅減少領域63h、73h、83h、83hとの境界を表す。
【0053】
図9(e)に示す吸引管63には、本体部63cと、鋼板Pの搬送方向の反対方向(図中下向きの方向)に向けて幅が減少する狭幅部63bが設けられている。この吸引管63は、その断面形状が略四角形状とされている。本体部63cは、三角形状とされ、狭幅部63bは、逆三角形状とされる。本体部63c及び狭幅部63bは吸引管63の内部流路を区画する。吸引管63の外面は、
図9(e)に示すように、上側斜面63f及び下側斜面63dからなり、いずれも平坦面とされている。
【0054】
吸引管63の吸引口63aは、本体領域63gと、鋼板Pの搬送方向の反対方向に向けて幅が減少する幅減少領域63hにより構成されている。本体領域63gは、吸引管63の本体部63cにより区画された領域であり、幅減少領域63hは、吸引管63の狭幅部63bにより区画された領域であり、いずれも吸引口63aを構成する。本体領域63g及び幅減少領域63hの境界における幅が、吸引管63の鋼板Pの板厚方向に沿う最大幅Wmaxとされている。この最大幅Wmaxは、搬送中の鋼板Pの板厚方向の予想変位幅よりも大きな幅とされている。
【0055】
図9(f)に示す吸引管73は、上斜面73fが、吸引管73の外側に凹んだ凸曲面とされている以外は、
図9(e)に示した吸引管63の形状にほぼ共通する形状を有する。
【0056】
図9(g)に示す吸引管83には、本体部83cと、鋼板Pの搬送方向の反対方向(図中下向きの方向)に向けて幅が減少する狭幅部83bが設けられている。この吸引管83は、その断面形状が略五角形状とされている。本体部83cは、略台形状とされ、狭幅部83bは、逆三角形状とされる。本体部83c及び狭幅部83bは吸引管83の内部流路を区画する。吸引管83の外面は、
図9(g)に示すように、上面83f及び上側斜面83e並びに下側斜面83dからなり、いずれも平坦面とされている。
【0057】
吸引管83の吸引口83aは、本体領域83gと、鋼板Pの搬送方向の反対方向に向けて幅が減少する幅減少領域83hにより構成されている。本体領域83gは、吸引管83の本体部83cにより区画された領域であり、幅減少領域83hは、吸引管83の狭幅部83bにより区画された領域であり、いずれも吸引口83aを構成する。本体領域83g及び幅減少領域83hの境界における幅が、吸引管83の鋼板Pの板厚方向に沿う最大幅Wmaxとされている。この最大幅Wmaxは、搬送中の鋼板Pの板厚方向の予想変位幅よりも大きな幅とされている。
【0058】
図9(h)に示す吸引管93には、鋼板Pの搬送方向の反対方向(図中下向きの方向)に向けて幅が減少する狭幅部93bが設けられている。
図9(h)に示す吸引管93は、その断面形状が略五角形状とされている。吸引管93は、下側に位置する略逆三角形状の狭幅部93bと、狭幅部93bの上側に位置する略矩形状の本体部93cとを有する。狭幅部93b及び本体部93cはいずれも吸引管93の管壁である。狭幅部93bと本体部93cはともに吸引管93の内部流路を区画する。吸引管93の狭幅部93bの外面93dは、
図9(h)に示すように、傾斜面とされている。また、吸引管93の本体部93cを構成する外面は、側面93eと上面93fとからなり、いずれも平坦面とされている。
【0059】
図9(h)に示すように、吸引管93の吸引口93aは、鋼板Pの板厚方向に沿う最大幅Wmaxを有する。
図9(h)に示す吸引管93の最大幅Wmaxは、本体部93cに区画された内部空間の幅である。最大幅Wmaxは、搬送中の鋼板Pの板厚方向の予想変位幅よりも大きな幅とされている。
【0060】
図9(h)に示すように、吸引管の吸引口93aは、本体領域93gと、鋼板Pの搬送方向またはその反対方向に向けて幅が減少する幅減少領域93hと、により構成されている。
図9(h)中の一点鎖線は、本体領域93gと幅減少領域93hとの境界を表す。本体領域93gは、吸引管93の本体部93cにより区画される領域である。また、幅減少領域93hは、吸引管93の狭幅部93bにより区画される領域である。本体領域93g及び幅減少領域93hは相互に連通している。いずれの領域とも、吸引口93aを構成する。本体領域93gの幅が、吸引管3の最大幅Wmaxとなる。
【0061】
図9(a)~
図9(h)に示した吸引管23~93はいずれも、先に説明した吸引管3と同様に、ワイピングノズル2a、2bの先端に設けられたスリット4a、4bの幅方向端部の間に位置する。スリット4a、4bの位置は、本体部63c~93cに対向する位置にあってもよいし、狭幅部23b~93bに対向する位置にあってもよい。本体部を有しない吸引管23~53の場合のスリット4a、4bの位置は、狭幅部23b~53bに対向する位置であればよい。スリット4a、4bが吸引管23~83の狭幅部23b~83bに対向する位置にある場合は、ワイピングノズル2a、2bを吸引管23~83に可能な限り近接させてもよい。これにより、ワイピングノズル2a、2bの間隔は、吸引管23~83の形状の影響、特に最大幅Wmaxの影響を受けずに調整することが可能になり、めっき付着量を適切に調整できるようになる。
【0062】
図9(a)~
図9(h)に示した吸引管23~93を備えたワイピング装置によれば、吸引管23~93に、鋼板Pの搬送方向の反対方向に向けて幅が減少する狭幅部23b~93bが設けられ、一対のワイピングノズル2a、2bは、この狭幅部23b~93bに近接して配置可能とされているので、ワイピングノズル2a、2b同士の間隔を、吸引口23a~93aの最大幅Wmaxよりも小さくすることができ、これにより、ワイピングノズル2a、2bによる溶融めっき層の厚みの調整を適切に行うことが可能になる。
【0063】
図9(a)~
図9(d)に示した吸引管23~53の場合、吸引口23a~53aが、鋼板Pの搬送方向の反対方向に向けて幅が減少する幅減少領域23h~53hにより構成されているので、吸引口23a~53aの断面積を、エアーの吸引効果を発揮させるために十分な大きさにすることができ、エッジオーバーコート及びスプラッシュを十分に抑制することができる。
【0064】
図9(e)~
図9(f)に示した吸引管63~93の場合、吸引口63a~93aが、本体領域63g~93gと、鋼板Pの搬送方向の反対方向に向けて幅が減少する幅減少領域63h~93hとにより構成されているので、吸引口63a~93aの断面積を、エアーの吸引効果を発揮させるために十分な大きさにすることができ、エッジオーバーコート及びスプラッシュを十分に抑制することができる。
【0065】
以上により、
図9(a)~
図9(h)に示した吸引管23~93を備えたワイピング装置は、搬送中の鋼板Pの端部Eの位置が板厚方向に変動しながらワイピングノズル同士の間を通過する場合、または、鋼板Pの端部Eの位置が、鋼板Pの中央部の板厚中心位置からずれて安定したまま、ワイピングノズル同士の間を通過する場合であっても、鋼板Pの端部E付近におけるワイピングガスGの流れを常に改善できるので、エッジオーバーコート及びスプラッシュをより安定して抑制することができ、また、溶融めっき層を一定の厚みに調整することができる。
【実施例0066】
以下、本発明の実施例について説明する。連続して通板される溶融めっき後の鋼板に対して、
図10~
図12に示す吸引管を用いてワイピングを行った場合の、通板中の鋼板の板幅方向における衝突ガス圧力比(Pe/Pc)の変動を調べた。
【0067】
衝突ガス圧力比(Pe/Pc)は、吸引管による整流化効果を示す指標であり、鋼板の板幅方向の中央部に対する、板幅方向の任意の測定位置における衝突ガス圧力比(Pe/Pc)である(Pe:鋼板の板幅方向端部から3mm内側の測定位置における衝突ガス圧力、Pc:鋼板の板幅方向中央部の衝突ガス圧力)。衝突ガス圧力比(Pe/Pc)の値が低くなるほど、具体的には0.8未満になると、エッジオーバーコートが発生しやすくなることが、予備実験の結果から明らかになっている。
【0068】
図10に示す実施例1の吸引管103は、
図2~4に示した吸引管3と同様の形状のものであり、最大幅Wmaxを、鋼板Pの予想変位幅dよりも大きくした吸引管である。この吸引管103は狭幅部103bを有する。
図10に示す例では、ワイピングノズル2a、2bの間隔Dが吸引管103の最大幅Wmaxよりも大きくされている。
【0069】
図11に示す実施例2の吸引管203は、実施例1と同様の形状のものであり、吸引管203の最大幅Wmaxを、鋼板Pの予想変位幅dよりも大きくした吸引管である。この吸引管203は狭幅部203bを有する。
図11に示す例では、ワイピングノズル2a、2bの間隔Dが吸引管203の最大幅Wmaxよりも小さくされている。すなわち、ワイピングノズル2a、2bの先端が、吸引管203の狭幅部203bに隣接している。
【0070】
図12に示す比較例の吸引管303は、楕円形状とされており、その短径方向が鋼板の板厚方向に沿うように配置されている。この吸引管303は、短径が最大幅Wmaxとなっていて、最大幅Wmaxが鋼板Pの予想変位幅dよりも小さくされた吸引管である。
図12に示す例では、ワイピングノズルの間隔Dが吸引管の最大幅Wmaxよりも大きくされている。
【0071】
図10~
図12に示す例において、ワイピングノズルの内圧Pnに対する吸引管の駆動ガスgの圧力Paの比(Pa/Pn)をPa/Pn=80とし、板幅700mm、板長さ1000m超の鋼板をワイピング装置に通過させつつ、衝突ガス圧力比(Pe/Pc)を測定した。
図13に、ワイピング中の衝突ガス圧力比(Pe/Pc)の変動を示す。
図13の横軸は鋼板の板長さであり、縦軸はPe/Pcである。
【0072】
図13に示すように、実施例1および2は、ワイピング中の衝突ガス圧力比(Pe/Pc)が常に0.8を超えており、エッジオーバーコートが安定して抑制され、また、スプラッシュも抑制できることがわかる。
一方、比較例は、ワイピング中の衝突ガス圧力比(Pe/Pc)が常に0.8未満になることが多くなり、エッジオーバーコートを抑制できないことがわかる。
1…ワイピング装置、2a、2b…ワイピングノズル、3…吸引管、3a…吸引口、3b…狭幅部、3h…幅減少領域、10…溶融めっき槽、11…溶融めっき装置、12…溶融めっき浴、14…シンクロール、d…予想変位幅、E…鋼板の端部、G…ワイピングガス、R…鋼板の搬送路、Wmax…吸引口の最大幅。