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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006875
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】死亡予測システム及び死亡予測方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 29/00 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
A01K29/00 B
A01K29/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021109713
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】514235307
【氏名又は名称】アニコム ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100169236
【弁理士】
【氏名又は名称】藤村 貴史
(72)【発明者】
【氏名】松本 拳悟
(72)【発明者】
【氏名】鷲見 寛
(72)【発明者】
【氏名】堀江 亮
(57)【要約】
【課題】簡易な方法で、動物が近い将来死亡する可能性があるかを予測する死亡予測システム及び死亡予測方法を提供する。
【解決手段】動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータを受け付ける受付手段と、前記受付手段に入力された動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータからその動物が所定期間内に死亡するか否かを予測判定する判定手段と、を備える死亡予測システムである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータを受け付ける受付手段と、前記受付手段に入力された動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータからその動物が所定期間内に死亡するか否かを予測判定する判定手段と、を備える死亡予測システム。
【請求項2】
前記動物が10歳以上である請求項1記載の死亡予測システム。
【請求項3】
前記判定手段が、学習済みモデルを用いて、前記受付手段に入力された動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータからその動物が所定期間内に死亡するか否かを予測判定する請求項1又は2記載の死亡予測システム。
【請求項4】
前記学習済みモデルが、腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータと、その動物が、腸内細菌叢サンプルの取得時又は腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータの取得時から所定期間内に死亡したか否かに関する情報との関係を学習した学習済みモデルである請求項3記載の死亡予測システム。
【請求項5】
前記判定手段が、所定の菌科に属する菌の有無又は占有率をスコア化して得られたスコアに基づいて、動物が所定期間内に死亡するか否かを予測判定する請求項1又は2記載の死亡予測システム。
【請求項6】
前記所定の菌科が、カンピロバクター科(Campylobacteraceae)、クロストリジウム科(Clostridiaceae)、コプロバチルス科(Coprobacillaceae)、デスルフォビブリオ(Desulfovibrionaceae)、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、エンテロコッカス科(Enterococcaceae)、エリュシペロトリクス科(Erysipelotrichaceae)、フソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、乳酸桿菌科(Lactobacillaceae)、パラプレボテラ科(Paraprevotellaceae)、
ポルフィロモナス科(Porphyromonodaceae)、プレボテラ科(Prevotellaceae)、ツリシバクター科(Turicibacteraceae)、ベイノレラ科(Veillonellaceae)、コマモナス科(Comamonadaceae)、ロイコノストック科(Leuconostocaceae)、シュードモナス科(Pseudomonadaceae)、及びスフィンゴバクテリウム科(Sphingobacteriaceae)からなる群から選ばれる1つ以上である請求項1~5のいずれか一項記載の死亡予測システム。
【請求項7】
動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータからその動物が所定期間内に死亡するか否かを予測判定する死亡予測方法。
【請求項8】
前記所定の菌科が、カンピロバクター科(Campylobacteraceae)、クロストリジウム科(Clostridiaceae)、コプロバチルス科(Coprobacillaceae)、デスルフォビブリオ(Desulfovibrionaceae)、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、エンテロコッカス科(Enterococcaceae)、エリュシペロトリクス科(Erysipelotrichaceae)、フソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、乳酸桿菌科(Lactobacillaceae)、パラプレボテラ科(Paraprevotellaceae)、
ポルフィロモナス科(Porphyromonodaceae)、プレボテラ科(Prevotellaceae)、ツリシバクター科(Turicibacteraceae)、ベイノレラ科(Veillonellaceae)、コマモナス科(Comamonadaceae)、ロイコノストック科(Leuconostocaceae)、シュードモナス科(Pseudomonadaceae)、及びスフィンゴバクテリウム科(Sphingobacteriaceae)からなる群から選ばれる1つ以上である請求項7記載の死亡予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、死亡予測システム及び死亡予測方法に関し、詳しくは、動物の腸内細菌叢に関するデータから、その動物の死亡可能性に関する情報を提供する死亡予測システム及び死亡予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
犬や猫、ウサギを始めとする愛玩動物、牛や豚を始めとする家畜は、人間にとってかけがえのない存在である。近年、人間が飼育する動物の平均寿命が大幅に伸びた一方で、動物がその一生の中で何らかの疾患に罹患することが多くなり、飼育者が負担する医療費の増大が問題となっている。
【0003】
動物の健康を維持するためには、日頃の食事、運動などを通じた体調管理や不調への素早い対応が重要となるが、動物は、自己の言葉で体の不調を訴えることができないため、症状が進行して、外形的に観察可能な何らかの徴候が生じたときに飼育者が初めて動物の疾患の罹患に気付くのが実情であり、最悪の場合、飼い主が前触れに気付かないまま動物が突然死亡してしまうという事態もあり得る。
【0004】
もし、動物の死期が迫っていることが分かれば、死亡という最悪の結果を避けるべく、食生活や生活習慣の改善、精密検査や治療などの対策をとることが可能になる。
【0005】
そのため、簡易な方法で、動物が近い将来死亡する可能性があるのかを知る手段が求められている。
【0006】
特許文献1には、腸内細菌叢中、バクテロイデス門(Bacteroidetes)の細菌を増殖させ、ファーミキューテス門(Firmicutes)の細菌を減少させることによって、腸内細菌叢を有効に調整又は改善する効果を有する腸内細菌叢調整又は改善組成物が開示されているが、動物の腸内細菌叢に関するデータから当該動物が近い将来死亡するかどうかを予測する方法については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開2017/094892号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、簡易な方法で、動物が近い将来死亡する可能性があるかを予測する死亡予測システム及び死亡予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ペット保険に加入している動物の腸内細菌叢に関するデータと、当該動物の死亡時期についての膨大なデータを分析、検討した結果、動物の腸内細菌叢のデータを用いて当該動物が所定期間内に死亡する可能性があるかどうかを予測することが可能になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の[1]~[8]である。
[1]動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータを受け付ける受付手段と、前記受付手段に入力された動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータからその動物が所定期間内に死亡するか否かを予測判定する判定手段と、を備える死亡予測システム。
[2]前記動物が10歳以上である[1]の死亡予測システム。
[3]前記判定手段が、学習済みモデルを用いて、前記受付手段に入力された動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータからその動物が所定期間内に死亡するか否かを予測判定する[1]又は[2]の死亡予測システム。
[4]前記学習済みモデルが、腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータと、その動物が、腸内細菌叢サンプルの取得時又は腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータの取得時から所定期間内に死亡したか否かに関する情報との関係を学習した学習済みモデルである[3]の死亡予測システム。
[5]前記判定手段が、所定の菌科に属する菌の有無又は占有率をスコア化して得られたスコアに基づいて、動物が所定期間内に死亡するか否かを予測判定する[1]又は[2]の死亡予測システム。
[6]前記所定の菌科が、カンピロバクター科(Campylobacteraceae)、クロストリジウム科(Clostridiaceae)、コプロバチルス科(Coprobacillaceae)、デスルフォビブリオ(Desulfovibrionaceae)、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、エンテロコッカス科(Enterococcaceae)、エリュシペロトリクス科(Erysipelotrichaceae)、フソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、乳酸桿菌科(Lactobacillaceae)、パラプレボテラ科(Paraprevotellaceae)、
ポルフィロモナス科(Porphyromonodaceae)、プレボテラ科(Prevotellaceae)、ツリシバクター科(Turicibacteraceae)、ベイノレラ科(Veillonellaceae)、コマモナス科(Comamonadaceae)、ロイコノストック科(Leuconostocaceae)、シュードモナス科(Pseudomonadaceae)、及びスフィンゴバクテリウム科(Sphingobacteriaceae)からなる群から選ばれる1つ以上である[1]~[5]のいずれかの死亡予測システム。
[7]動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータからその動物が所定期間内に死亡するか否かを予測判定する死亡予測方法。
[8]前記所定の菌科が、カンピロバクター科(Campylobacteraceae)、クロストリジウム科(Clostridiaceae)、コプロバチルス科(Coprobacillaceae)、デスルフォビブリオ(Desulfovibrionaceae)、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、エンテロコッカス科(Enterococcaceae)、エリュシペロトリクス科(Erysipelotrichaceae)、フソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、乳酸桿菌科(Lactobacillaceae)、パラプレボテラ科(Paraprevotellaceae)、
ポルフィロモナス科(Porphyromonodaceae)、プレボテラ科(Prevotellaceae)、ツリシバクター科(Turicibacteraceae)、ベイノレラ科(Veillonellaceae)、コマモナス科(Comamonadaceae)、ロイコノストック科(Leuconostocaceae)、シュードモナス科(Pseudomonadaceae)、及びスフィンゴバクテリウム科(Sphingobacteriaceae)からなる群から選ばれる1つ以上である[7]の死亡予測方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、簡易な方法で、動物が近い将来死亡する可能性があるかを予測する死亡予測システム及び死亡予測方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の死亡予測システムの一実施態様を表す模式図である。
図2】本発明の死亡予測システムの一実施態様を表す模式図である。
図3】本発明の死亡予測システムによる死亡予測方法の流れの一例を表すフローチャート図である。
図4】実施例の結果を表すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<死亡予測システム>
本発明の死亡予測システムは、動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータを受け付ける受付手段と、前記受付手段に入力された動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータからその動物が所定期間内に死亡するか否かを予測判定する判定手段と、を備える。
【0014】
[受付手段]
本発明の受付手段は、死亡可能性を予測したい動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータの入力を受け付ける手段である。動物としては、犬、猫、鳥、ウサギ、フェレット等が挙げられる。また、対象となる動物の年齢は限定されないが、好ましくは6歳以上、より好ましくは9歳以上、さらに好ましくは10歳以上である。菌の有無又は占有率に関するデータの受付方法は、端末へのデータの入力、送信などいずれの方法であってもよい。
【0015】
腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無や占有率は、糞便サンプルなど動物から採取した試料に対して、NGSなどのシーケンサーを用いたアンプリコンシーケンスなどの公知のメタゲノム解析法や細菌叢の解析方法を適用することで得ることができる。例えば、試料中に含まれるあらゆる生物のDNAやRNAの塩基配列情報を次世代シーケンサーを用いて解析することによって、当該試料中に含まれる生物を同定する方法が挙げられる。好ましくは、試料中に含まれる16SrRNA遺伝子の全部又は一部を、必要に応じて増幅して、シーケンスを行い、得られた配列をソフトウェアを用いて解析し、試料中の細菌の組成データを得る方法が挙げられる。試料中の細菌の組成データを、ソフトウェアで処理すること、あるいは、Genbank、Greengenes、SILVA databaseといった遺伝子データベースを参照することによって、試料中に含まれる細菌の菌種の帰属を決定し、特定の科に属する細菌の有無や占有率を測定することができる。
【0016】
NGS(次世代シーケンサー)を利用した16SrRNA遺伝子のアンプリコン解析(菌叢解析)の一例を具体的に説明する。まず、DNA抽出試薬を用いて試料よりDNAを抽出し、抽出したDNAからPCRによって16SrRNA遺伝子を増幅する。その後、増幅したDNA断片についてNGSを用いて網羅的に塩基配列を決定し、低クオリティリードやキメラ配列の除去を行った後、配列同士をクラスタリングしてOTU(Operational Taxonomic Unit)解析を行う。OTUとは、ある一定以上の類似性(例えば、96~97%以上の相同性)を持つ配列同士を一つの菌種のように扱うための操作上の分類単位である。従って、OTU数は菌叢を構成する菌種の数を表し、同一のOTUに属するリードの数はその種の相対的な存在量を表していると考えられる。また、各OTUに属するリード数の中から代表的な配列を選び、データベース検索により科名や属種名の同定が可能となる。このようにして、特定の科に属する菌の有無や占有率を測定することができる。
【0017】
占有率に関するデータとは、動物の腸内細菌叢に含まれる各菌の占有率に関連するデータである。占有率とは、腸内細菌叢に占める各菌科に属する細菌の存在比(検出比率)であり、例えば、NGSなどのシーケンサーを用いたアンプリコンシーケンスなどの公知のメタゲノム解析法での検出結果「hit rate」として測定することができる。本発明では、占有率に関するデータとして、腸内細菌叢の占有率の数値を用いてもよく、占有率に基づいて設定されたラベルやスコアを用いてもよい。また、菌の有無についても、菌の有無に基づいて設定されたラベルやスコアを用いてもよい。
【0018】
本発明における占有率は、菌の科ごとの占有率である。科ごとの占有率とは、ある科に属する菌全体についての占有率である。つまり、科ごとの占有率を算定する場合には、腸内細菌叢における各菌種について、ある科に属する菌種の占有率を合計して、当該科の占有率を算定することができる。種レベルや属レベルまでの同定を行って、科ごとに合計してもよいし、種レベルや属レベルまでの同定を行わずに、科レベルでの同定を行って科の占有率を算定してもよい。
【0019】
占有率に基づいて設定されたラベルとは、占有率の数値の大小に応じて適宜設定されたラベルである。例えば、占有率の数値に応じて、「大」、「中」、「小」或いは「多」、「中」、「少」という3段階のラベルを設定することができる。また、ラベルの段階数は任意に設定することができ、例えば、「0」、「1」、「2」、「3」、・・・「20」といった多段階のラベルを付すこともできる。
ラベルを用いる場合は、腸内細菌叢中の占有率を測定し、入力手段に数値を入力する前に、当該測定された占有率に応じて、予め定めておいた対応表から特定のラベルを割当てて、そのラベルを受付手段に入力することができる。
また、菌の有無に基づいて設定されたラベルとは、菌の有無に応じて適宜設定されたラベルである。例えば、菌が存在する場合は「1」、存在しない場合は「0」といったラベルを付すことができる。
【0020】
占有率に基づいて設定されたスコアとは、菌の占有率の数値の大小に応じて適宜設定されたスコアである。例えば、占有率がある基準値以上の場合は「+1」、ある基準値未満の場合は「-1」というスコアが与えられる。
また、菌の有無に基づいて設定されたスコアとは、菌の有無に応じて適宜設定されたスコアである。例えば、特定の科について、その科に属する菌が存在すれば「+1」、存在しなければ「-1」というスコアが与えられる。
このようなスコアを菌科ごとに算出し、受付手段に入力してもよい。また、受付手段に菌科に属する菌の有無や占有率を入力し、当該入力された菌の有無についてのデータや占有率に基づいて予め設定されたスコア付与基準に基づいて各菌科ごとにスコアを算出するという構成でもよい。
本発明の死亡予測システムは、判定手段が、菌科ごとに算出又は入力されたスコアを合計し、得られた合計スコアに基づいて死亡可能性を予測判定するという構成でもよい。
【0021】
[判定手段]
本発明の判定手段は、受付手段に入力された動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータからその動物が所定期間内に死亡するか否かを予測判定する手段である。予測判定方法は特に限定されない。例えば、プロセッサが、予め設定されたプログラムを用いて動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータからその動物が所定期間内に死亡するか否かを予測判定する。また、上記のように、菌科ごとの菌の有無や占有率から、予め設定された基準に従ってスコアを算出し、当該スコアを合計した合計スコアに基づいて、死亡リスクを判定するといった構成でもよい。すなわち、合計スコアが所定値以上なら、死亡リスクが高く、合計スコアが所定値未満なら死亡リスクが低いといった具合である。
【0022】
本発明の判定手段は、動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータを受け付けると、所定期間内、好ましくは、受付時から、腸内細菌叢サンプルの取得時から、又は、動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータから所定期間内に、死亡するかどうかの予測判定を行う。所定期間とは、好ましくは3年以内、より好ましくは2年以内、さらに好ましくは1年以内である。
【0023】
本発明の判定手段は、学習済みモデルを使って予測判定する構成であってもよい。このような学習済みモデルとしては、腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータと、その動物が、腸内細菌叢サンプルの取得時又は腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータの取得時から所定期間内に死亡したか否かに関する情報との関係を学習した学習済みモデルであることが好ましい。学習済みモデルとしては、さらに、腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータと、その動物が、腸内細菌叢サンプルの取得時又は腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータの取得時から所定期間内に死亡したか否かに関する情報とを教師データとして学習を行った学習済みモデルが好ましい。このような教師データに用いる所定期間内に死亡したか否かに関する情報における所定期間としては、3年以内が好ましく、2年以内がより好ましく、1年以内がさらに好ましい。
【0024】
前記学習済みモデルとしては、人工知能(AI)が好ましい。人工知能(AI)とは、人間の脳が行っている知的な作業をコンピュータで模倣したソフトウェアやシステムであり、具体的には、人間の使う自然言語を理解したり、論理的な推論を行ったり、経験から学習したりするコンピュータプログラムなどのことをいう。人工知能としては、汎用型、特化型のいずれであってもよく、ディープニューラルネットワーク、畳み込みニューラルネットワーク等のいずれであってもよく、公開されているソフトウェアを使用することができる。
【0025】
学習済みモデルを生成するために、人工知能に教師データを用いて学習させる。学習としては、機械学習とディープラーニング(深層学習)のいずれであってもよいが、機械学習が好ましい。ディープラーニングは、機械学習を発展させたものであり、特徴量を自動的に見つけ出す点に特徴がある。本発明では、特徴量として、腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータを用いる。
【0026】
学習済みモデルを生成するための学習方法としては、特に制限されず、公開されているソフトウェアを用いることができる。例えば、NVIDIAが公開しているDIGITS (the Deep Learning GPU Training System)を用いることができる。その他、例えば、「サポートベクターマシン入門」(共立出版)等において公開されている公知のサポートベクターマシン法(Support Vector Machine法)等によって学習させてもよい。
【0027】
機械学習としては、教師無し学習及び教師あり学習のいずれでもあり得るが、教師あり学習が好ましい。教師あり学習の手法としては特に限定されず、例えば、決定木(ディシジョン・ツリー)、アンサンブル学習、勾配ブースティング等を挙げることができる。公開されている機械学習のアルゴリズムとしては、例えば、XGBoost、CatBoostやLightGBMが挙げられる。
【0028】
学習のための教師データは、例えば、動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータと、その動物が腸内細菌叢サンプル(例えば、糞便サンプル)の取得時、又は、腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータの取得時から所定期間内に、好ましくは3年以内、より好ましくは2年以内、さらに好ましくは1年以内、特に好ましくは180日以内に死亡したか、死亡しなかったかという死亡の有無である。死亡したか否かは、ダミー変数に置き換えることができる。教師データとしての動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無や占有率に関するデータは、上記受付方法で説明した腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無や占有率に関するデータと同様である。当該動物が所定期間内に死亡したかどうかの情報は、例えば、保険請求の事実(「事故」ともいう。)に関連して、動物病院あるいは保険をかけた飼い主等から入手可能である。
【0029】
[出力]
本発明の判定手段による予測判定の出力の形式は特に限定されず、例えば、パソコンやスマートフォンなどの端末の画面上において、「今後1年以内に死亡する可能性あり」、「今後1年以内に死亡する可能性は高い」あるいは、「今後1年以内に死亡する可能性は○%」といった表示をすることで予測判定を出力することができる。
本発明の死亡予測システムは、判定手段から判定結果を受信し、判定結果を出力する出力手段を別途有していてもよい。
【0030】
本発明の死亡予測システムは、さらに、死亡予測の結果に応じて、生活改善方法を提案する提案手段を備えていてもよい。例えば、提案手段は、判定手段から出力される予測結果を受け取り、予測結果に応じて、予測される死亡リスクを回避するための食事、疾患になりにくい細菌を含むサプリ、低塩分、低カロリーの食事、低糖質の食事、ダイエットメニュー等を提案したり、推奨することができる。提案手段は、学習済みモデルを有していてもよい。
【0031】
また、本発明の死亡予測システム又は死亡予測方法が出力する予測結果に応じて、死亡を防ぐための飲料、食事、サプリメントを製造あるいはカスタマイズすることもできる。死亡予測に関連するサービスとして、本発明の死亡予測システム又は死亡予測方法による予測、予測結果の提供、予測結果に応じた飲料、食事、サプリメントを製造あるいはカスタマイズ、当該飲料、食事、サプリメントの提案、推奨という形態もとり得る。また、このようなサービスを提供した後に、さらに本発明の死亡予測方法を実施し、死亡可能性が低下したのかどうかを提示するといった方法も可能である。上記飲料、食事、サプリメントには、食餌療法用飲料、ダイエット食品、栄養補助用添加物等が含まれる。
このように、予測結果に応じた食事やフードの提案、製造、カスタマイズをすることによって、死亡リスクの低減や回避が期待される。
【0032】
[好適な科]
上記のように、本発明は、所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータを用いるものである。所定の菌科としては、特に限定されないが、カンピロバクター科(Campylobacteraceae)、クロストリジウム科(Clostridiaceae)、コプロバチルス科(Coprobacillaceae)、デスルフォビブリオ(Desulfovibrionaceae)、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、エンテロコッカス科(Enterococcaceae)、エリュシペロトリクス科(Erysipelotrichaceae)、フソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、乳酸桿菌科(Lactobacillaceae)、パラプレボテラ科(Paraprevotellaceae)、ポルフィロモナス科(Porphyromonodaceae)、プレボテラ科(Prevotellaceae)、ツリシバクター科(Turicibacteraceae)、ベイノレラ科(Veillonellaceae)、コマモナス科(Comamonadaceae)、ロイコノストック科(Leuconostocaceae)、シュードモナス科(Pseudomonadaceae)、及びスフィンゴバクテリウム科(Sphingobacteriaceae)からなる群から選ばれる1つ以上が好ましい。
【0033】
[カンピロバクター科(Campylobacteraceae)]
カンピロバクター科は、イプシロンプロテオバクテリア綱カンピロバクター目に属する科であり、カンピロバクター属を含む。
【0034】
[クロストリジウム科(Clostridiaceae)]
クロストリジウム科は、クロストリジウム目の科であり、クロストリジウム属を含む。
【0035】
[コプロバチルス科(Coprobacillaceae)]
コプロバチルス科は、エリュシペロトリクス目に属する科であり、コプロバチルス属(Coprobacillus)を含む。
【0036】
[デスルフォビブリオ(Desulfovibrionaceae)]
デスルフォビブリオ科は、デルタプロテオバクテリア綱デスルフォビブリオ目に属する科であり、デスルフォビブリオ属を含む。
【0037】
[腸内細菌科(Enterobacteriaceae)]
腸内細菌科(エンテロバクタ-科ともいう。)は、プロテオバクテリア門ガンマプロテオバクテリア綱エンテロバクター目に属する科である。エンテロバクター科には、属として、例えば、エンテロバクター属、エシェリキア属、クレブシエラ属、サルモネラ属、セラチア属、エルシニア属、Arsenophonus、Biostraticola、Candidatus Blochmannia、Brenneria、Buchnera、Budvicia、Buttiauxella、Cedecea、Citrobacter、Cosenzaea、Cronobacter、Dickeya、Edwardsiella、Erwiniaなどが含まれる。
【0038】
[エンテロコッカス科(Enterococcaceae)]
エンテロコッカス科は、ラクトバシラス目に属するグラム陽性の真正細菌の科である。 代表的な属として、エンテロコッカス属(Enterococcus)、Melissococcus、Pilibacter、テトラジェノコッカス属(Tetragenococcus)及びVagococcusが含まれる。
【0039】
[エリュシペロトリクス科(Erysipelotrichaceae)]
エリュシペロトリクス科は、エリュシペロトリクス目に属する科であり、属として、例えば、Allobaculum、Bulleidia、Erysipelothrix、Holdemaniaが含まれる。
【0040】
[フソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)]
フソバクテリウム科は、フソバクテリウム目に属する科であり、フソバクテリウム属を含む。
【0041】
[ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)]
ラクノスピラ科は、クロストリジウム綱クロストリジウム目に含まれる科であり、ラクノスピラ属を含む。
【0042】
[乳酸桿菌科(Lactobacillaceae)]
乳酸桿菌科(ラクトバシラス科ともいう。)はラクトバシラス目に属する科であり、ラクトバシラス属を含む。
【0043】
[パラプレボテラ科(Paraprevotellaceae)]
パラプレボテラ科は、バクテロイデス目に属する科であり、パラプレボテラ属を含む。また、パラプレボラ科を独立した科とせずに、パラプレボテラ属をプレボテラ科に含める分類方法もある。
【0044】
[ポルフィロモナス科(Porphyromonodaceae)]
ポルフィロモナス科は、バクテロイデス目に属する科であり、ポルフィロモナス属を含む。
【0045】
[プレボテラ科(Prevotellaceae)]
プレボテラ科は、バクテロイデス目に属する科であり、プレボテラ属を含む。
【0046】
[ツリシバクター科(Turicibacteraceae)]
ツリシバクター科は、ツリシバクター目に属する科であり、ツリシバクター属を含む。
【0047】
[ベイロネラ科(Veillonellaceae)]
ベイロネラ科は、Clostridiales目に属する科であり、属として、例えば、ベイロネラ属、Acidaminococcus、Anaerovibrio、Dialister、Megamonas、Megasphaera、Mitsuokella、Pectinatus、Phascolarctobacterium、Propionispira、Selenomonas、Succiniclasticumを含む。
【0048】
[コマモナス科(Comamonadaceae)]
コマモナス科は、ブルクホルデリア目に含まれる科であり、コマモナス属を含む。コマモナス属は、シュードモナス属に属していた菌が遺伝子の系統解析により再分類されて新たに設けられた属である。
【0049】
[ロイコノストック科(Leuconostocaceae)]
ロイコノストック科は、ラクトバシラス目に属するグラム陽性菌の科である。代表な属にはFructobacillus、Leuconostoc、Oenococcus及びWeissellaが含まれる。
また、ロイコノストック科を独立した科とせずに、ロイコノストック属を乳酸桿菌科に含める分類方法もある。
【0050】
[シュードモナス科(Pseudomonadaceae)]
シュードモナス科は、シュードモナス目に属する科であり、シュードモナス属を含む。
【0051】
[スフィンゴバクテリウム科(Sphingobacteriaceae)]
スフィンゴバクテリウム科は、スフィンゴバクテリウム目に属する科であり、スフィンゴバクテリウム属を含む。
【0052】
本発明の死亡予測システムは、動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータのほか、当該動物の顔画像、種類、品種、年齢、性別、体重、既往歴、遺伝子の配列情報、SNP、遺伝子変異の有無等の情報を用いてもよい。
【0053】
以下、本発明の死亡予測システムの一実施態様について、図1及び図2を参照しながら説明する。
図1中、端末40は、死亡予測システムを利用したい者(ユーザ)が利用する端末である。端末40は、例えばパーソナルコンピュータ、スマートフォンやタブレット端末などが挙げられる。端末40は、CPUなどの処理部、ハードディスク、ROMあるいはRAMなどの記憶部、液晶パネルなどの表示部、マウス、キーボード、タッチパネルなどの入力部、ネットワークアダプタなどの通信部などを含んで構成される。
ユーザーは、端末40から、サーバにアクセスし、対象となる動物の腸内細菌叢の所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータ、及び、必要に応じて、顔画像(写真)、当該動物の種類、品種、年齢、体重、既往歴などの情報を入力、送信する。
また、ユーザーは、端末40がサーバにアクセスすることによって、サーバにおける死亡予測結果を受信することができる。
【0054】
また、ユーザーは、飼育している動物の腸内細菌叢を調べるための糞便サンプル採取キットの送付を受け、糞便サンプルを腸内細菌叢の測定を行う業者に送付する(図示しない)。当該業者は、当該ペットの腸内細菌叢の測定を行い、腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータを取得する。そして、当該業者が、直接、自らの端末を経由してサーバの受付手段31に当該動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータを入力、送信してもよいし、当該業者が別途郵便やメール等で当該ペットの腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータをユーザーに送付し、ユーザーが端末40を通じて、受付手段31に腸内細菌叢の占有率データ及び多様性データを入力、送信してもよい。
【0055】
本実施形態においては、サーバはコンピュータによって構成されるが、本発明にかかる機能を有する限りにおいて、どのような装置であってもよい。
記憶部10は、例えばROM、RAMあるいはハードディスクなどから構成される。記憶部10には、サーバの各部を動作させるための情報処理プログラムが記憶され、特に、判定手段11のためのソフトウェアなどが記憶される。
【0056】
判定手段11は、上記のように、ユーザー又は腸内細菌叢の測定を行った業者が入力した対象となる動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータを入力とし、当該動物が所定期間内(例えば、1年以内)に死亡するかどうか、あるいは、死亡する可能性が何%かの予測を出力するものである。判定手段としては、学習済みモデルであってもよい。そのような学習済みモデルは、例えば、XGBoost、CatBoost、LightGBM、或いは、ディープニューラルネットワーク又は畳み込みニューラルネットワークを含んで構成される。
本実施形態では、判定手段や受付手段がサーバに格納され、ユーザーの端末とインターネットやLAN等の接続手段で接続される態様を説明したが、本発明はこれに限定されず、判定手段、受付手段、インターフェース部が一つのサーバや装置内に格納される態様や、利用者が利用する端末を別途必要としない態様等であってもよい。
【0057】
本発明の死亡予測システムは、図2のように、保険料算出手段12を備えていてもよい。保険料算出手段12は、上記判定手段11が出力した死亡予測と、ユーザーが入力した当該動物の種類、品種、腸内細菌叢のデータ取得時の年齢、体重、既往歴などの情報から、当該動物の保険料を算出するソフトウェアである。例えば、ソフトウェアは、当該動物の種類、品種、腸内細菌叢のデータ取得時の年齢、体重、既往歴等に応じて、保険料の等級分けを行い、最後に、上記判定手段11が出力した死亡予測を加味して当該等級を修正し、保険料テーブル13に基づいて、最終的な保険料を算出するためのソフトウェアである。
保険料算出手段12と判定手段11は一つのソフトウェアであってもよい。
【0058】
処理演算部20は、記憶部に記憶された判定手段11や保険料算出手段12を用いて、死亡予測や保険料を算出する。
【0059】
インターフェース部(通信部)30は、受付手段31と出力手段32を備え、ユーザーの端末から、動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータやその他の情報を受け付け、ユーザーの端末に対して、死亡予測や保険料の算出結果を出力する。
【0060】
<死亡予測方法>
本発明の死亡予測方法は、動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータからその動物が所定期間内に死亡するか否かを予測判定することを特徴とするものである。好ましくは、動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータを用意するステップと、前記動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータからその動物が所定期間内に死亡するか否かを予測判定するステップと、を備える。当該方法は、例えば、上記の死亡予測システムを用いて行うことができる。
本発明の死亡予測方法における、動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータ、及び、動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータからその動物が所定期間内に死亡するか否かを予測判定する方法及びそのための構成については、上記の死亡予測システムにおいて説明したものと同様である。
【0061】
本発明の死亡予測方法は、上記所定の菌科が、カンピロバクター科(Campylobacteraceae)、クロストリジウム科(Clostridiaceae)、コプロバチルス科(Coprobacillaceae)、デスルフォビブリオ(Desulfovibrionaceae)、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、エンテロコッカス科(Enterococcaceae)、エリュシペロトリクス科(Erysipelotrichaceae)、フソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、乳酸桿菌科(Lactobacillaceae)、パラプレボテラ科(Paraprevotellaceae)、ポルフィロモナス科(Porphyromonodaceae)、プレボテラ科(Prevotellaceae)、ツリシバクター科(Turicibacteraceae)、ベイノレラ科(Veillonellaceae)、コマモナス科(Comamonadaceae)、ロイコノストック科(Leuconostocaceae)、シュードモナス科(Pseudomonadaceae)、及びスフィンゴバクテリウム科(Sphingobacteriaceae)からなる群から選ばれる1つ以上であることが好ましい。
【0062】
本発明の死亡予測システムを利用した死亡予測方法の一実施態様に基づく死亡予測判定のフローチャートを図3に示す。この一実施態様は、説明の便宜のため、動物からの試料の取得及び腸内細菌叢についてのデータ取得を含めて説明される。ユーザーが、糞便採取キットなどを利用して動物から糞便サンプルを採取し、腸内細菌叢解析業者に送付する(ステップS1)。腸内細菌叢解析業者は、次世代シーケンサーを利用して糞便サンプルから当該動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータを解析し、取得する(ステップS2)。腸内細菌叢解析業者は、当該腸内細菌叢に関するデータをユーザーに返送する。ユーザーは、端末を通じて死亡予測システムにアクセスし、動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータを入力する(ステップS3)。死亡予測システムは、入力された動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータから、当該動物が所定期間内(例えば1年以内)に死亡する可能性がどれだけあるかを予測判定する(ステップS4)。死亡予測システムは、当該予測判定を出力し、端末40に送信し、端末40において予測判定結果が表示される(ステップS5)。
【実施例0063】
以下本発明の実施例を示す。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(糞便試料からのDNA抽出)
以下のようにして、各犬から糞便試料を採取し、DNAを抽出した。
犬の飼育者が糞便の採取キットを用いて、犬の糞便試料を採取した。当該糞便試料を受領し、水に懸濁した。
次に、糞便懸濁液200μLとLysis buffer(224μg/mLのProtenaseKを含む)810μLをビーズチューブに添加し、ビーズ式ホモジナイザーにてビーズ破砕(6,000rpm、破砕20秒、インターバル30秒、破砕20秒)を行った。その後、検体を70℃のヒートブロック上にて10分間静置することでProtenaseKによる処理を行い、続いて95℃のヒートブロック上にて5分間静置することでProtenaseKを不活化した。溶菌処理を行った検体はchemagic360(PerkinElmer)を用い、chemagicキットstool用プロトコルにてDNAの自動抽出を行い、100μLのDNA抽出液を得た。
【0064】
(メタ16SRNA遺伝子シーケンス解析)
メタ16Sシーケンス解析はillumina 16S Metagenomic Sequencing Library Preparation(バージョン15044223 B)を改変して行った。まず、16SrRNA遺伝子の可変領域V3-V4を含む460bpの領域をユニバーサルプライマー(Illumina_16S_341FおよびIllumina_16S_805RPCR)を用いたPCRで増幅した。PCR反応液は10μLのDNA抽出液、0.05μLの各プライマー(100μM)、12.5μLの2xKAPA HiFi Hot-Start ReadyMix(F.Hoffmann-LaRoche、Switzerland)、2.4μLのPCRgrade waterを混合して調製した。PCRには95℃3分間の熱変性後、95℃30秒、55℃30秒、72℃30秒のサイクルを30回繰り返し、最後に72℃5分の伸長反応を行った。増幅産物は磁気ビーズを用いて精製し、50μLのBufferEB(QIAGEN、Germany)で溶出した。精製後の増幅産物はNextera XT Index Kit v2(illumina、CA、US)を用いてPCRを行い、インデックスを付加した。PCR反応液は2.5μLの増幅産物、2.5μLの各プライマー、12.5μLの2x KAPA HiFi Hot-Start ReadyMix、5μLのPCRgrade waterを混合して調製した。PCRには95℃3分間の熱変性後、95℃30秒、55℃30秒、72℃30秒のサイクルを12回繰り返し、最後に72℃5分の伸長反応を行った。インデックス付加を行った増幅産物は磁気ビーズを用いて精製し、80-105μLのBufferEBで溶出した。各増幅産物の濃度はNanoPhotometer(Implen、CA、US)で測定し、1.4nMに調製した後、等量ずつ混合し、これをシーケンス用ライブラリーとした。シーケンス用ライブラリーのDNA濃度および増幅産物のサイズを電気泳動にて確認し、これをMiSeqにより解析した。解析にはMiSeq Reagent Kit V3を用い、2×300bpのペアエンドシーケンスを行った。得られた配列はMiSeq Reporterにて解析し、細菌の組成データを得た。
上記で用いたユニバーサルプライマーの配列は以下のとおりである。このユニバーサルプライマーは市販されているものを購入することができる。
Illumina_16S_341F
5′-TCGTCGGCAGCGTCAGATGTGTATAAGAGACAGCCTACGGGNGGCWGCAG- 3’
llumina_16S_805R
5′-GTCTCGTGGGCTCGGAGATGTGTATAAGAGACAGGACTACHVGGGTATCTAATCC- 3’
【0065】
上記方法に従って、10歳以上の7018個体の犬について、腸内細菌叢の組成データを得て、各犬の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無と、占有率を測定した。なお、糞便試料の採取日から1年以内に死亡した個体(1年以内死亡個体)の数は、688個体であった。
【0066】
(糞便サンプル採取時から1年以内の死亡の調査)
上記全犬について、それぞれ糞便サンプル採取後1年以内に死亡したか否かを調査した。死亡したか否かは、ペット保険の死亡解約データ、又は動物病院からの報告を用いて、調査した。
【0067】
[実施例1]
腸内細菌叢における、所定の菌科に属する菌の有無と、1年以内に死亡した割合(「1年以内死亡率」という。)の関係について検討した。1年以内死亡率は下記式により算出した。
1年以内死亡率=各群に含まれる1年以内死亡個体数/各群の総個体数×100
10歳以上の犬の標準的な値(今回は上記7018頭における1年以内死亡率)に対して、各菌科の保有群の1年以内死亡率を比較した。結果、カンピロバクター科(Campylobacteraceae)、コプロバチルス科(Coprobacillaceae)、フソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)、コマモナス科(Comamonadaceae)、ロイコノストック科(Leuconostocaceae)、シュードモナス科(Pseudomonadaceae)、及びスフィンゴバクテリウム科(Sphingobacteriaceae)については、全体の標準値と比較して1年以内死亡率に1%以上の差分が確認された(下記表1参照)。また保有している個体における占有率について、各菌科毎に境界値を設定し、その分布を同様に比較した。結果、デスルフォビブリオ(Desulfovibrionaceae)、エンテロコッカス科(Enterococcaceae)、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、乳酸桿菌科(Lactobacillaceae)、パラプレボテラ科(Paraprevotellaceae)、ポルフィロモナス科(Porphyromonodaceae)、プレボテラ科(Prevotellaceae)、ツリシバクター科(Turicibacteraceae)、ベイノレラ科(Veillonellaceae)、及びコマモナス科(Comamonadaceae)については、保有率が境界値以上又は境界値以下である場合に、全体の標準値と比較して1年以内死亡率に1%以上の差分が確認された(下記表1参照)。
また、10歳の犬の標準的な値(今回は7018頭における1年以内死亡率)に対して、各菌科の非保有群の1年以内死亡率を比較した。結果、クロストリジウム科(Clostridiaceae)、コプロバチルス科(Coprobacillaceae)、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、エンテロコッカス科(Enterococcaceae)、エリュシペロトリクス科(Erysipelotrichaceae)、フソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、については、全体の標準値と比較して1年以内死亡率に1%以上の差分が確認された(下記表1参照)。
【0068】
[実施例2]
表1に記載された菌科について、それぞれ表中に記載された所定の基準に従ってスコアを設定した。表1中のかっこ内の数値は、各群の1年以内死亡率である。
【表1】
各糞便サンプルを採取し、1年以内に死亡したか否かを調査した全個体のそれぞれについて、合計スコアを算出し、合計スコア(判定スコア)と1年死亡率をプロットしてグラフを作成した。
即ち、表1に記載された各菌科について、保有している/していない、或いは、占有率が高い/低いによって、-2~+2のスコアを付け、それを合計したスコアを合計スコア(判定スコア)とした。
具体的には、保有群との差分が正の値になっている菌科については、その菌科を保有している場合はプラス(+1~+2)のスコアを付与し、保有していない場合は0又はマイナス(-1~-2)のスコアを付与した。一方、保有群との差分が負の値になっている菌科については、その菌科を保有している場合はマイナスのスコアを付与し、保有していない場合は0又はプラスのスコアを付与した。
また、表1中、非保有群との差分が正の値になっている菌科については、その菌科を保有していない場合はプラスのスコアを付与し、保有している場合は0のスコアを付与した。一方、非保有群との差分が負の値になっている菌科については、その菌科を保有している場合はマイナスのスコアを付与し、保有していない場合は0又はプラスのスコアを付与した。
また、表1中、高占有率との差分が正の値になっている菌科についても同様に、境界値よりも高い占有率の場合に高スコアを付与し、低い場合には低スコアを付与した。一方、高占有率との差分が負の値になっている菌科については、境界値よりも高い占有率の場合に低スコアを付与し、低い場合には高スコアを付与した。
また、表1中、低占有率との差分が正の値になっている菌科については、境界値よりも高い占有率の場合に低スコアを付与し、低い場合には高スコアを付与した。一方、低占有率との差分が負の値になっている菌科については、境界値よりも高い占有率の場合に高スコアを付与し、低い場合には低スコアを付与した。
結果を図4に示す。図4から明らかなように、合計スコア(判定スコア)が高いほど、1年死亡率も高くなることが分かった。
図1
図2
図3
図4