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特開2023-6876疾患罹患予測システム、保険料算出システム、疾患罹患予測方法及び保険料算出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006876
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】疾患罹患予測システム、保険料算出システム、疾患罹患予測方法及び保険料算出方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 29/00 20060101AFI20230111BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20230111BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20230111BHJP
   C12Q 1/689 20180101ALN20230111BHJP
【FI】
A01K29/00 E
A01K29/00 G
C12M1/34 A ZNA
C12Q1/6869 Z
C12Q1/689 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021109714
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】514235307
【氏名又は名称】アニコム ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100169236
【弁理士】
【氏名又は名称】藤村 貴史
(72)【発明者】
【氏名】松本 拳悟
(72)【発明者】
【氏名】鷲見 寛
(72)【発明者】
【氏名】堀江 亮
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB02
4B029FA03
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ06
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QR62
(57)【要約】
【課題】簡易な方法で、動物が特定の疾患に罹患する可能性があるかを予測する疾患罹患予測システム及び疾患罹患予測方法を提供する。
【解決手段】動物から採取した試料中におけるフソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科(Veillonellaceae)に属する菌の有無に関する情報を受け付ける受付手段と、前記受付手段に入力されたフソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科(Veillonellaceae)に属する菌の有無に関する情報から、当該動物の乾性角結膜炎への罹患可能性を予測判定する判定手段と、を備える疾患罹患予測システムである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物から採取した試料中におけるフソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科(Veillonellaceae)に属する菌の有無に関する情報を受け付ける受付手段と、前記受付手段に入力されたフソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科(Veillonellaceae)に属する菌の有無に関する情報から、当該動物の乾性角結膜炎への罹患可能性を予測判定する判定手段と、を備える疾患罹患予測システム。
【請求項2】
動物から採取した試料中におけるフソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科(Veillonellaceae)に属する菌の有無に関する情報を受け付ける受付手段と、前記受付手段に入力されたフソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科(Veillonellaceae)に属する菌の有無に関する情報から、当該動物のアレルギー性皮膚炎への罹患可能性を予測判定する判定手段と、を備える疾患罹患予測システム。
【請求項3】
動物から採取した試料中におけるフソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科(Veillonellaceae)に属する菌の有無に関する情報を受け付ける受付手段と、前記受付手段に入力されたフソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科(Veillonellaceae)に属する菌の有無に関する情報から、当該動物の炎症性腸疾患への罹患可能性を予測判定する判定手段と、を備える疾患罹患予測システム。
【請求項4】
前記試料が、糞便である請求項1~3のいずれか一項記載の疾患罹患予測システム。
【請求項5】
動物から採取した試料中におけるフソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科(Veillonellaceae)に属する菌の有無に関する情報を受け付ける受付手段と、前記受付手段に入力されたフソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科(Veillonellaceae)に属する菌の有無に関する情報を用いて、保険料を算出又は修正する保険料算出手段と、を備える保険料算出システム。
【請求項6】
動物から採取した試料中におけるフソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科(Veillonellaceae)に属する菌の有無に関する情報から、当該動物の乾性角結膜炎への罹患可能性を予測判定するステップを備える疾患罹患予測方法。
【請求項7】
動物から採取した試料中におけるフソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科(Veillonellaceae)に属する菌の有無に関する情報から、当該動物のアレルギー性皮膚炎への罹患可能性を予測判定するステップを備える疾患罹患予測方法。
【請求項8】
動物から採取した試料中におけるフソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科(Veillonellaceae)に属する菌の有無に関する情報から、当該動物の炎症性腸疾患への罹患可能性を予測判定するステップを備える疾患罹患予測方法。
【請求項9】
前記試料が、糞便である請求項6~8のいずれか一項記載の疾患罹患予測方法。
【請求項10】
動物から採取した試料中におけるフソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科(Veillonellaceae)に属する菌の有無に関する情報を用いて、保険料を算出又は修正するステップを備える保険料算出方法。




【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疾患罹患予測システム、保険料算出システム、疾患罹患予測方法及び保険料算出方法に関し、詳しくは、動物が特定の菌科に属する菌を保有するか否かに関するデータから、その動物が特定の疾病に罹患するか否かの予測情報を提供する疾患罹患予測システム及び疾患罹患予測方法、並びに、動物が特定の菌科に属する菌を保有するか否かに関するデータから動物の保険料を算出又は修正する保険料算出システム及び保険料算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
犬や猫、ウサギを始めとする愛玩動物、牛や豚を始めとする家畜は、人間にとってかけがえのない存在である。近年、人間が飼育する動物の平均寿命が大幅に伸びた一方で、動物がその一生の中で何らかの疾患に罹患することが多くなり、飼育者が負担する医療費の増大が問題となっている。
【0003】
動物の健康を維持するためには、日頃の食事、運動などを通じた体調管理や不調への素早い対応が重要となるが、動物は、自己の言葉で体の不調を訴えることができないため、症状が進行して、外形的に観察可能な何らかの徴候が生じたときに飼育者が初めて動物の疾患の罹患に気付くのが実情である。もし、動物がある疾患に罹患する可能性を把握することができれば、そのような疾患を避けるための対応をとることができる。
【0004】
そのため、簡易な方法で、動物が特定の疾患に罹患する可能性があるのかを知る手段が求められている。
【0005】
乾性角結膜炎(KCS)とは、涙の量が減少することにより、角膜や結膜に障害を起こす眼科疾患であり、眼の表面が乾くことにより、結膜の充血や角膜の炎症や傷、色素沈着などを引き起こす。アレルギー性皮膚炎とは、アレルギー症状を起こす原因物質であるアレルゲンによって、動物体内の免疫機構が過剰に反応するため生じる皮膚炎のことをいう。アレルゲンの種類にはノミやハウスダスト、花粉や食物などがある。炎症性腸疾患(IBD)とは、炎症細胞の腸粘膜への浸潤を特徴とする原因不明の慢性消化器疾患である。IBDは浸潤する炎症細胞の種類や部位によって、「リンパ球プラズマ細胞性腸炎」、「リンパ球プラズマ細胞性結腸炎」、「好酸球性胃腸炎」、「肉芽腫性腸炎」、「組織球性潰瘍性腸炎」などに分類されている。
【0006】
特許文献1には、腸内細菌叢中、バクテロイデス門(Bacteroidetes)の細菌を増殖させ、ファーミキューテス門(Firmicutes)の細菌を減少させることによって、腸内細菌叢を有効に調整又は改善する効果を有する腸内細菌叢調整又は改善組成物が開示されているが、動物が特定の菌科に属する菌を保有するかどうかに関するデータから当該動物が特定の疾患に罹患する可能性があるかどうかを予測する方法については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開2017/094892号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、簡易な方法で、動物が特定の疾患に罹患する可能性があるかを予測する疾患罹患予測システム及び疾患罹患予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ペット保険に加入している動物の保有する菌に関するデータ、特に腸内細菌叢に関するデータと、当該動物が特定の疾患に罹患したか及び当該動物について保険金請求がなされたかについての膨大なデータを分析、検討した結果、動物が保有する細菌のデータを用いて当該動物が特定の疾患に罹患する可能性があるかどうかを予測することが可能になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の[1]~[10]である。
[1]動物から採取した試料中におけるフソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科(Veillonellaceae)に属する菌の有無に関する情報を受け付ける受付手段と、前記受付手段に入力されたフソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科(Veillonellaceae)に属する菌の有無に関する情報から、当該動物の乾性角結膜炎への罹患可能性を予測判定する判定手段と、を備える疾患罹患予測システム。
[2]動物から採取した試料中におけるフソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科(Veillonellaceae)に属する菌の有無に関する情報を受け付ける受付手段と、前記受付手段に入力されたフソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科(Veillonellaceae)に属する菌の有無に関する情報から、当該動物のアレルギー性皮膚炎への罹患可能性を予測判定する判定手段と、を備える疾患罹患予測システム。
[3]動物から採取した試料中におけるフソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科(Veillonellaceae)に属する菌の有無に関する情報を受け付ける受付手段と、前記受付手段に入力されたフソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科(Veillonellaceae)に属する菌の有無に関する情報から、当該動物の炎症性腸疾患への罹患可能性を予測判定する判定手段と、を備える疾患罹患予測システム。
[4]前記試料が、糞便である[1]~[3]のいずれかの疾患罹患予測システム。
[5]動物から採取した試料中におけるフソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科(Veillonellaceae)に属する菌の有無に関する情報を受け付ける受付手段と、前記受付手段に入力されたフソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科(Veillonellaceae)に属する菌の有無に関する情報を用いて、保険料を算出又は修正する保険料算出手段と、を備える保険料算出システム。
[6]動物から採取した試料中におけるフソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科(Veillonellaceae)に属する菌の有無に関する情報から、当該動物の乾性角結膜炎への罹患可能性を予測判定するステップを備える疾患罹患予測方法。
[7]動物から採取した試料中におけるフソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科(Veillonellaceae)に属する菌の有無に関する情報から、当該動物のアレルギー性皮膚炎への罹患可能性を予測判定するステップを備える疾患罹患予測方法。
[8]動物から採取した試料中におけるフソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科(Veillonellaceae)に属する菌の有無に関する情報から、当該動物の炎症性腸疾患への罹患可能性を予測判定するステップを備える疾患罹患予測方法。
[9]前記試料が、糞便である[6]~[8]のいずれかの疾患罹患予測方法。
[10]動物から採取した試料中におけるフソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科(Veillonellaceae)に属する菌の有無に関する情報を用いて、保険料を算出又は修正するステップを備える保険料算出方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、簡易な方法で、動物が特定の疾患に罹患する可能性があるかを予測する疾患罹患予測システム及び疾患罹患予測方法を提供することが可能となる。また、動物から採取した試料中におけるフソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科(Veillonellaceae)に属する菌の有無は、当該動物の将来の保険請求の可能性と関連するので、フソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科(Veillonellaceae)に属する菌の有無に関する情報を用いて、動物の保険料の算出又は修正をすることのできる保険料算出システム及び保険料算出方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の疾患罹患予測システムの一実施態様を表す模式図である。
図2】本発明の疾患罹患予測システムによる疾患罹患予測方法の流れの一例を表すフローチャート図である。
図3】本発明の保険料算出システムの一実施態様を表す模式図である。
図4】本発明の保険料算出システムによる保険料算出方法の流れの一例を表すフローチャート図である。
図5】実施例の結果を表すグラフ図である。
図6】実施例の結果を表すグラフ図である。
図7】実施例の結果を表すグラフ図である。
図8】実施例の結果を表すグラフ図である。
図9】実施例の結果を表すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<疾患罹患予測システム>
本発明の疾患罹患予測システムは、動物から採取した試料中におけるフソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科(Veillonellaceae)に属する菌の有無に関する情報を受け付ける受付手段と、前記受付手段に入力されたフソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無に関する情報から、当該動物の乾性角結膜炎、アレルギー性皮膚炎又は炎症性大腸疾患(以下、併せて「特定疾患」ともいう。)への罹患可能性を予測判定する判定手段と、を備える。
【0014】
[受付手段]
本発明の受付手段は、特定疾患への罹患の可能性を予測したい動物から採取した試料中におけるフソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無に関する情報の入力を受け付ける手段である。動物としては、犬、猫、鳥、ウサギ、フェレット等が挙げられる。対象となる動物の年齢は限定されない。菌の有無又は占有率に関するデータの受付方法は、端末へのデータの入力、送信などいずれの方法であってもよい。動物から採取した試料としては、唾液、糞便等が挙げられ、糞便が好ましい。糞便を分析することにより動物の腸内細菌叢におけるフソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無を確認することができる。
【0015】
動物から採取した試料中におけるフソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無は、唾液サンプルや糞便サンプルなど動物から採取した試料に対して、NGSなどのシーケンサーを用いたアンプリコンシーケンスなどの公知のメタゲノム解析法や細菌叢の解析方法を適用することで得ることができる。例えば、試料中に含まれるあらゆる生物のDNAやRNAの塩基配列情報を次世代シーケンサーを用いて解析することによって、当該試料中に含まれる生物を同定する方法が挙げられる。好ましくは、試料中に含まれる16SrRNA遺伝子の全部又は一部を、必要に応じて増幅して、シーケンスを行い、得られた配列をソフトウェアを用いて解析し、試料中の細菌の組成データを得る方法が挙げられる。試料中の細菌の組成データを、ソフトウェアで処理すること、あるいは、Genbank、Greengenes、SILVA databaseといった遺伝子データベースを参照することによって、試料中に含まれる細菌の菌種の帰属を決定し、特定の科に属する細菌の有無や占有率を測定することができる。
【0016】
NGS(次世代シーケンサー)を利用した16SrRNA遺伝子のアンプリコン解析(菌叢解析)の一例を具体的に説明する。まず、DNA抽出試薬を用いて試料よりDNAを抽出し、抽出したDNAからPCRによって16SrRNA遺伝子を増幅する。その後、増幅したDNA断片についてNGSを用いて網羅的に塩基配列を決定し、低クオリティリードやキメラ配列の除去を行った後、配列同士をクラスタリングしてOTU(Operational Taxonomic Unit)解析を行う。OTUとは、ある一定以上の類似性(例えば、96~97%以上の相同性)を持つ配列同士を一つの菌種のように扱うための操作上の分類単位である。従って、OTU数は菌叢を構成する菌種の数を表し、同一のOTUに属するリードの数はその種の相対的な存在量を表していると考えられる。また、各OTUに属するリード数の中から代表的な配列を選び、データベース検索により科名や属種名の同定が可能となる。このようにして、特定の科に属する菌の有無や占有率を測定することができる。
【0017】
本発明では、フソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無に関する情報として、フソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無に基づいて設定されたラベルやスコアを用いてもよい。
【0018】
菌の有無に基づいて設定されたラベルとは、菌の有無に応じて適宜設定されたラベルである。例えば、菌が存在する場合は「1」、存在しない場合は「0」といったラベルを付すことができる。
【0019】
菌の有無に基づいて設定されたスコアとは、菌の有無に応じて適宜設定されたスコアである。例えば、特定の科について、その科に属する菌が存在すれば「+1」、存在しなければ「-1」というスコアが与えられる。
このようなスコアを菌科ごとに算出し、受付手段に入力してもよい。また、受付手段に菌科に属する菌の有無を入力し、当該入力された菌の有無についてのデータに基づいて予め設定されたスコア付与基準に基づいて各菌科ごとにスコアを算出するという構成でもよい。
本発明の疾患罹患予測システムは、判定手段が、菌科ごとに算出又は入力されたスコアを合計し、得られた合計スコアに基づいて特定疾患への罹患可能性を予測判定するという構成でもよい。
【0020】
[判定手段]
本発明の判定手段は、受付手段に入力された動物から採取した試料中における所定の菌科に属する菌の有無に関する情報からその動物が所定期間内に特定疾患に罹患するか否かを予測判定する手段である。予測判定方法は特に限定されない。例えば、プロセッサが、予め設定されたプログラムを用いて動物から採取した試料中における所定の菌科に属する菌の有無に関する情報からその動物が所定期間内に特定疾患に罹患するか否かを予測判定する。また、上記のように、菌科ごとの菌の有無から、予め設定された基準に従ってスコアを算出し、当該スコアを合計した合計スコアに基づいて、疾患罹患リスクを判定するといった構成でもよい。すなわち、合計スコアが所定値以上なら、疾患罹患リスクが高く、合計スコアが所定値未満なら疾患罹患リスクが低いといった具合である。
【0021】
本発明の判定手段は、動物から採取した試料中における所定の菌科に属する菌の有無に関する情報を受け付けると、好ましくは所定期間内、より好ましくは、受付時から、試料の採取時から、又は、所定の菌科に属する菌の有無に関するデータ取得時から所定期間内に、特定疾患に罹患するかどうかの予測判定を行う。所定期間とは、好ましくは3年以内、より好ましくは2年以内、さらに好ましくは1年以内、特に好ましくは180日以内である。
【0022】
本発明の判定手段は、学習済みモデルを使って予測判定する構成であってもよい。このような学習済みモデルとしては、動物から採取した試料や腸内細菌叢におけるフソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無についてのデータと、その動物が、試料の取得時又は所定の菌科に属する菌の有無に関するデータの取得時から所定期間内に特定疾患に罹患したか否かに関する情報との関係を学習した学習済みモデルであることが好ましい。学習済みモデルとしては、さらに、動物から採取した試料中、例えば腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無に関するデータと、その動物が、試料の取得時又は所定の菌科に属する菌の有無に関するデータの取得時から所定期間内に特定疾患に罹患したか否かに関する情報とを教師データとして学習を行った学習済みモデルが好ましい。このような教師データに用いる所定期間内に特定疾患に罹患したか否かに関する情報における所定期間としては、3年以内が好ましく、2年以内がより好ましく、1年以内がさらに好ましく、180日以内が特に好ましい。
【0023】
前記学習済みモデルとしては、人工知能(AI)が好ましい。人工知能(AI)とは、人間の脳が行っている知的な作業をコンピュータで模倣したソフトウェアやシステムであり、具体的には、人間の使う自然言語を理解したり、論理的な推論を行ったり、経験から学習したりするコンピュータプログラムなどのことをいう。人工知能としては、汎用型、特化型のいずれであってもよく、ディープニューラルネットワーク、畳み込みニューラルネットワーク等のいずれであってもよく、公開されているソフトウェアを使用することができる。
【0024】
学習済みモデルを生成するために、人工知能に教師データを用いて学習させる。学習としては、機械学習とディープラーニング(深層学習)のいずれであってもよいが、機械学習が好ましい。ディープラーニングは、機械学習を発展させたものであり、特徴量を自動的に見つけ出す点に特徴がある。本発明では、特徴量として、動物から採取した試料中、例えば腸内細菌叢におけるフソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無に関するデータを用いる。
【0025】
学習済みモデルを生成するための学習方法としては、特に制限されず、公開されているソフトウェアを用いることができる。例えば、NVIDIAが公開しているDIGITS (the Deep Learning GPU Training System)を用いることができる。その他、例えば、「サポートベクターマシン入門」(共立出版)等において公開されている公知のサポートベクターマシン法(Support Vector Machine法)等によって学習させてもよい。
【0026】
機械学習としては、教師無し学習及び教師あり学習のいずれでもあり得るが、教師あり学習が好ましい。教師あり学習の手法としては特に限定されず、例えば、決定木(ディシジョン・ツリー)、アンサンブル学習、勾配ブースティング等を挙げることができる。公開されている機械学習のアルゴリズムとしては、例えば、XGBoost、CatBoostやLightGBMが挙げられる。
【0027】
学習のための教師データは、例えば、動物から採取した試料、例えば腸内細菌叢におけるフソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無についてのデータと、その動物が試料の採取時、又は、所定の菌科に属する菌の有無に関するデータの取得時から所定期間内に、好ましくは3年以内、より好ましくは2年以内、さらに好ましくは1年以内、特に好ましくは180日以内に特定疾患に罹患したか、罹患しなかったかという疾患罹患の有無である。特定疾患に罹患したか否かは、ダミー変数に置き換えることができる。教師データとしての動物から採取した試料中における所定の菌科に属する菌の有無に関するデータは、上記受付方法で説明した腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無に関するデータと同様である。当該動物が所定期間内に特定疾患に罹患したかどうかの情報は、例えば、保険請求の事実(「事故」ともいう。)に関連して、動物病院あるいは保険をかけた飼い主等から入手可能である。
【0028】
[出力]
本発明の判定手段による予測判定の出力の形式は特に限定されず、例えば、パソコンやスマートフォンなどの端末の画面上において、「今後1年以内に乾性角結膜炎に罹患する可能性あり」、「今後1年以内にアレルギー性皮膚炎に罹患する可能性は高い」あるいは、「今後1年以内に炎症性大腸疾患に罹患する可能性は○%」といった表示をすることで予測判定を出力することができる。
本発明の疾患罹患予測システムは、判定手段から判定結果を受信し、判定結果を出力する出力手段を別途有していてもよい。
【0029】
本発明の疾患罹患予測システムは、さらに、疾患罹患予測の結果に応じて、生活改善方法を提案する提案手段を備えていてもよい。例えば、提案手段は、判定手段から出力される予測結果を受け取り、予測結果に応じて、予測される疾患罹患リスクを回避するための食事、疾患になりにくい細菌を含むサプリ、低塩分、低カロリーの食事、低糖質の食事、ダイエットメニュー等を提案したり、推奨することができる。提案手段は、学習済みモデルを有していてもよい。
【0030】
また、本発明の疾患罹患予測システム又は疾患罹患予測方法が出力する予測結果に応じて、特定疾患への罹患を防ぐための飲料、食事、サプリメントを製造あるいはカスタマイズすることもできる。疾患罹患予測に関連するサービスとして、本発明の疾患罹患予測システム又は疾患罹患予測方法による予測、予測結果の提供、予測結果に応じた飲料、食事、サプリメントを製造あるいはカスタマイズ、当該飲料、食事、サプリメントの提案、推奨という形態もとり得る。また、このようなサービスを提供した後に、さらに本発明の疾患罹患予測方法を実施し、特定疾患への罹患可能性が低下したのかどうかを提示するといった方法も可能である。上記飲料、食事、サプリメントには、食餌療法用飲料、ダイエット食品、栄養補助用添加物等が含まれる。
このように、予測結果に応じた食事やフードの提案、製造、カスタマイズをすることによって、特定疾患への罹患リスクの低減や回避が期待される。
【0031】
[フソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)]
フソバクテリウム科は、フソバクテリウム目に属する科であり、フソバクテリウム属を含む。
【0032】
[ベイロネラ科(Veillonellaceae)]
ベイロネラ科は、Clostridiales目に属する科であり、属として、例えば、ベイロネラ属、
Acidaminococcus、Anaeroarcus、Anaerovibrio、Dialister、Megamonas、Megasphaera、Mitsuokella、Pectinatus、
Phascolarctobacterium、Propionispira、SelenomonasSucciniclasticum、を含む。
【0033】
[他の菌科]
本発明の疾患罹患予測システムは、フソバクテリウム科及びベイロネラ科以外の他の菌科に属する菌の有無や占有率(hit rate)に関するデータを予測判定に用いてもよい。
そのような他の菌科としては、特に限定されないが、例えば、カンピロバクター科(Campylobacteraceae)、クロストリジウム科(Clostridiaceae)、コプロバチルス科(Coprobacillaceae)、デスルフォビブリオ科(Desulfovibrionaceae)、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、エンテロコッカス科(Enterococcaceae)、エリュシペロトリクス科(Erysipelotrichaceae)、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、乳酸桿菌科(Lactobacillaceae)、パラプレボテラ科(Paraprevotellaceae)、ポルフィロモナス科(Porphyromonodaceae)、プレボテラ科(Prevotellaceae)、ツリシバクター科(Turicibacteraceae)、コマモナス科(Comamonadaceae)、ロイコノストック科(Leuconostocaceae)、シュードモナス科(Pseudomonadaceae)、スフィンゴバクテリウム科(Sphingobacteriaceae)が挙げられる。
【0034】
[カンピロバクター科(Campylobacteraceae)]
カンピロバクター科は、イプシロンプロテオバクテリア綱カンピロバクター目に属する科であり、カンピロバクター属を含む。
【0035】
[クロストリジウム科(Clostridiaceae)]
クロストリジウム科は、クロストリジウム目の科であり、クロストリジウム属を含む。
【0036】
[コプロバチルス科(Coprobacillaceae)]
コプロバチルス科は、エリュシペロトリクス目に属する科であり、コプロバチルス属(Coprobacillus)を含む。
【0037】
[デスルフォビブリオ科(Desulfovibrionaceae)]
デスルフォビブリオ科は、デルタプロテオバクテリア綱デスルフォビブリオ目に属する科であり、デスルフォビブリオ属を含む。
【0038】
[腸内細菌科(Enterobacteriaceae)]
腸内細菌科(エンテロバクタ-科ともいう。)は、プロテオバクテリア門ガンマプロテオバクテリア綱エンテロバクター目に属する科である。エンテロバクター科には、属として、例えば、エンテロバクター属、エシェリキア属、クレブシエラ属、サルモネラ属、セラチア属、エルシニア属、Arsenophonus、Biostraticola、Candidatus Blochmannia、Brenneria、Buchnera、Budvicia、Buttiauxella、Cedecea、Citrobacter、Cosenzaea、Cronobacter、Dickeya、Edwardsiella、Erwiniaなどが含まれる。
【0039】
[エンテロコッカス科(Enterococcaceae)]
エンテロコッカス科は、ラクトバシラス目に属するグラム陽性の真正細菌の科である。 代表的な属として、エンテロコッカス属(Enterococcus)、Melissococcus、Pilibacter、テトラジェノコッカス属(Tetragenococcus)及びVagococcusが含まれる。
【0040】
[エリュシペロトリクス科(Erysipelotrichaceae)]
エリュシペロトリクス科は、エリュシペロトリクス目に属する科であり、属として、例えば、Allobaculum、Bulleidia、Erysipelothrix、Holdemania、が含まれる。
【0041】
[ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)]
ラクノスピラ科は、クロストリジウム綱クロストリジウム目に含まれる科であり、ラクノスピラ属を含む。
【0042】
[乳酸桿菌科(Lactobacillaceae)]
乳酸桿菌科(ラクトバシラス科ともいう。)はラクトバシラス目に属する科であり、ラクトバシラス属を含む。
【0043】
[パラプレボテラ科(Paraprevotellaceae)]
パラプレボテラ科は、バクテロイデス目に属する科であり、パラプレボテラ属を含む。また、パラプレボラ科を独立した科とせずに、パラプレボテラ属をプレボテラ科に含める分類方法もある。
【0044】
[ポルフィロモナス科(Porphyromonodaceae)]
ポルフィロモナス科は、バクテロイデス目に属する科であり、ポルフィロモナス属を含む。
【0045】
[プレボテラ科(Prevotellaceae)]
プレボテラ科は、バクテロイデス目に属する科であり、プレボテラ属を含む。
【0046】
[ツリシバクター科(Turicibacteraceae)]
ツリシバクター科は、ツリシバクター目に属する科であり、ツリシバクター属を含む。
【0047】
[コマモナス科(Comamonadaceae)]
コマモナス科は、ブルクホルデリア目に含まれる科であり、コマモナス属を含む。コマモナス属は、シュードモナス属に属していた菌が遺伝子の系統解析により再分類されて新たに設けられた属である。
【0048】
[ロイコノストック科(Leuconostocaceae)]
ロイコノストック科は、ラクトバシラス目に属するグラム陽性菌の科である。代表な属にはFructobacillus、Leuconostoc、Oenococcus及びWeissellaが含まれる。
また、ロイコノストック科を独立した科とせずに、ロイコノストック属を乳酸桿菌科に含める分類方法もある。
【0049】
[シュードモナス科(Pseudomonadaceae)]
シュードモナス科は、シュードモナス目に属する科であり、シュードモナス属を含む。
【0050】
[スフィンゴバクテリウム科(Sphingobacteriaceae)]
スフィンゴバクテリウム科は、スフィンゴバクテリウム目に属する科であり、スフィンゴバクテリウム属を含む。
【0051】
本発明の疾患罹患予測システムは、所定の菌科に属する菌の有無又は占有率に関するデータのほか、動物の顔画像、種類、品種、年齢、性別、体重、既往歴、遺伝子の配列情報、SNP、遺伝子変異の有無等の情報を用いてもよい。
【0052】
以下、本発明の疾患罹患予測システムの一実施態様について、図1を参照しながら説明する。
図1中、端末40は、疾患罹患予測システムを利用したい者(ユーザ)が利用する端末である。端末40は、例えばパーソナルコンピュータ、スマートフォンやタブレット端末などが挙げられる。端末40は、CPUなどの処理部、ハードディスク、ROMあるいはRAMなどの記憶部、液晶パネルなどの表示部、マウス、キーボード、タッチパネルなどの入力部、ネットワークアダプタなどの通信部などを含んで構成される。
ユーザーは、端末40から、サーバにアクセスし、対象となる動物から採取した試料中のフソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無についての情報、及び、必要に応じて、当該動物の顔画像(写真)、種類、品種、年齢、体重、既往歴などの情報を入力、送信する。
また、ユーザーは、端末40がサーバにアクセスすることによって、サーバにおける疾患罹患予測結果を受信することができる。
【0053】
また、ユーザーは、飼育している動物から採取した試料、例えば、糞便中の細菌叢を調べるための糞便試料採取キットの送付を受け、糞便試料を細菌叢の測定を行う業者に送付する(図示しない)。当該業者は、当該動物の糞便試料中の細菌叢の測定を行い、試料中におけるフソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無に関するデータを取得する。そして、当該業者が、直接、自らの端末を経由してサーバの受付手段31に当該動物の糞便試料中におけるフソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無に関するデータを入力、送信してもよいし、当該業者が別途郵便やメール等で当該動物の糞便試料中におけるフソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無に関するデータをユーザーに送付し、ユーザーが端末40を通じて、受付手段31に当該データを入力、送信してもよい。当該業者が、糞便を受領し、細菌叢の分析を行い、分析結果を本発明の疾患罹患予測システムに入力する場合、ユーザーは、飼育している動物の糞便を採取し、郵送するだけで、動物の特定疾患への罹患可能性を知ることができる。
【0054】
本実施形態においては、サーバはコンピュータによって構成されるが、本発明にかかる機能を有する限りにおいて、どのような装置であってもよい。
記憶部10は、例えばROM、RAMあるいはハードディスクなどから構成される。記憶部10には、サーバの各部を動作させるための情報処理プログラムが記憶され、特に、判定手段11のためのソフトウェアなどが記憶される。
【0055】
判定手段11は、上記のように、ユーザー又は細菌叢の測定を行った業者が入力した対象となる動物の細菌叢におけるフソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無に関するデータを入力とし、当該動物が所定期間内(例えば、1年以内)に特定疾患に罹患するかどうか、あるいは、罹患する可能性が何%かの予測を出力するものである。判定手段としては、学習済みモデルであってもよい。そのような学習済みモデルは、例えば、XGBoost、CatBoost、LightGBM、或いは、ディープニューラルネットワーク又は畳み込みニューラルネットワークを含んで構成される。
【0056】
本実施形態では、判定手段や受付手段がサーバに格納され、ユーザーの端末とインターネットやLAN等の接続手段で接続される態様を説明したが、本発明はこれに限定されず、判定手段、受付手段、インターフェース部が一つのサーバや装置内に格納される態様や、利用者が利用する端末を別途必要としない態様等であってもよい。
【0057】
<疾患罹患予測方法>
本発明の疾患罹患予測方法は、動物から採取した試料中におけるフソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無に関する情報から、当該動物の乾性角結膜炎、アレルギー性皮膚炎又は炎症性大腸疾患への罹患可能性を予測判定するステップを備えることを特徴とするものである。好ましくは、動物から採取した試料中におけるフソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無に関する情報を用意するステップと、当該情報から、当該動物の乾性角結膜炎、アレルギー性皮膚炎又は炎症性大腸疾患への罹患可能性を予測判定するステップを備える。当該方法は、例えば、上記の疾患罹患予測システムを用いて行うことができる。
【0058】
本発明の疾患罹患予測方法における、動物から採取した試料中におけるフソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無に関する情報、及び、動物から採取した試料中におけるフソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無に関する情報からその動物が所定期間内に特定疾患に罹患するか否かを予測判定する方法及びそのための構成については、上記の疾患罹患予測システムにおいて説明したものと同様である。
【0059】
本発明の疾患罹患予測システムを利用した疾患罹患予測方法の一実施態様に基づく疾患罹患予測判定のフローチャートを図2に示す。この一実施態様は、説明の便宜のため、動物からの試料の取得及び当該試料中の細菌叢、例えば腸内細菌叢についてのデータ取得を含めて説明される。ユーザーが、糞便採取キットなどを利用して動物から糞便サンプルを採取し、腸内細菌叢解析業者に送付する(ステップS1)。腸内細菌叢解析業者は、次世代シーケンサーを利用して糞便サンプルから当該動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無に関するデータを解析し、取得する(ステップS2)。腸内細菌叢解析業者は、当該腸内細菌叢に関するデータをユーザーに返送する。ユーザーは、端末を通じて疾患罹患予測システムにアクセスし、動物の腸内細菌叢におけるフソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無に関するデータを入力する(ステップS3)。疾患罹患予測システムは、入力された動物の腸内細菌叢におけるフソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無に関するデータから、当該動物が所定期間内(例えば1年以内)に特定疾患に罹患する可能性がどれだけあるかを予測判定する(ステップS4)。疾患罹患予測システムは、当該予測判定を出力し、端末40に送信し、端末40において予測判定結果が表示される(ステップS5)。
【0060】
<保険料算出システム>
本発明の保険料算出システムは、動物から採取した試料中におけるフソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無に関する情報を受け付ける受付手段と、前記受付手段に入力されたフソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無に関する情報を用いて、保険料を算出又は修正する保険料算出手段と、を備えるものである。
【0061】
本発明者等が、ペット保険に加入している動物から採取した試料、特に糞便試料中の細菌叢と当該動物の保険請求の有無についての膨大なデータを分析した結果、動物から採取した試料中におけるフソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無と、保険金請求額や保険請求回数との間に相関関係があることが見出された。そのため、ペット保険に加入しようとしている動物がフソバクテリウム科に属する菌及び/又はベイロネラ科に属する菌を保有しているかどうかを保険料算定の根拠として用いることで、将来の保険金請求の可能性を加味した保険料の算出や、品種、年齢、性別、体重、既往歴など他の要素を用いて算出された保険料の修正が可能となる。
【0062】
[受付手段]
保険料算出システムにおける受付手段は、上記の疾患罹患予測システムの受付手段と同様である。
【0063】
[保険料算出手段]
保険料算出手段は、受付手段に入力された動物から採取した試料中における所定の菌科に属する菌の有無に関する情報、及び、必要に応じて、当該動物の品種、年齢、性別、体重、既往歴といった情報からその動物に適切な保険料を算出する手段である。保険料の算出手段は特に限定されない。例えば、プロセッサが、予め設定されたソフトウェアやプログラムを用いて、動物から採取した試料中における所定の菌科に属する菌の有無に関する情報からその動物に適した保険料を算出する。保険料の算出にあたっては、予め記憶された保険料テーブルを参照してもよい。また、例えば、保険料算出手段を構成するソフトウェアは、当該動物の種類、品種、性別、体重、既往歴等に応じて、保険料の等級分けを行い、最後に、フソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無を加味して当該等級を修正し、最終的な保険料を算出するためのソフトウェアであってもよい。
【0064】
<保険料算出方法>
本発明の保険料算出方法は、動物から採取した試料中におけるフソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無に関する情報を用いて、保険料を算出又は修正するステップを備えることを特徴とするものである。好ましくは、動物から採取した試料中におけるフソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無に関する情報を用意するステップと、当該情報を元に、当該動物の保険料を算出又は修正するステップを備えることが好ましい。当該方法は、例えば、上記の保険料算出システムを用いて行うことができる。
【0065】
以下、本発明の保険料算出システムの一実施態様について、図3を参照しながら説明する。図1と共通する部分については適宜省略する。
【0066】
ユーザーは、飼育している動物から採取した試料、例えば、糞便中の細菌叢を調べるための糞便試料採取キットの送付を受け、糞便試料を細菌叢の測定を行う業者に送付する(図示しない)。当該業者は、当該動物の糞便試料中の細菌叢の測定を行い、試料中におけるフソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無に関するデータを取得する。そして、当該業者が、直接、自らの端末を経由してサーバの受付手段31に当該動物の糞便試料中におけるフソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無に関するデータを入力、送信してもよいし、当該業者が別途郵便やメール等で当該動物の糞便試料中におけるフソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無に関するデータをユーザーに送付し、ユーザーが端末40を通じて、受付手段31に当該データを入力、送信してもよい。当該業者が、糞便を受領し、細菌叢の分析を行い、分析結果を本発明の保険料算出システムに入力する場合、ユーザーは、飼育している動物の糞便を採取し、郵送するだけで、動物の保険料を知ることができる。
【0067】
図3中、保険料算出手段12は、ユーザーが入力した当該動物の種類、品種、細菌叢のデータ取得時の年齢、体重、既往歴などの情報から、当該動物の保険料を算出するソフトウェアである。例えば、当該ソフトウェアは、当該動物の種類、品種、腸内細菌叢のデータ取得時の年齢、体重、既往歴等に応じて、保険料の等級分けを行い、最後に、フソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無を加味して当該等級を修正し、保険料テーブル13に基づいて、最終的な保険料を算出するためのソフトウェアである。
保険料算出手段12とは別に、特定疾患への罹患を予測する判定手段11を備えていてもよく、保険料算出手段12と判定手段11とは一つのソフトウェアであってもよい。
【0068】
処理演算部20は、記憶部に記憶された判定手段11や保険料算出手段12を用いて、疾患の罹患の予測や保険料を算出する。
【0069】
インターフェース部(通信部)30は、受付手段31と出力手段32を備え、ユーザーの端末から、動物の試料中の細菌叢、例えば腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無に関するデータやその他の情報を受け付け、ユーザーの端末に対して、疾患罹患予測や保険料の算出結果を出力する。
【0070】
本発明の保険料算出システムを利用した保険料算出方法の一実施態様に基づく保険料算出のフローチャートを図4に示す。この一実施態様は、説明の便宜のため、動物からの試料の取得及び当該試料中の細菌叢、例えば腸内細菌叢についてのデータ取得を含めて説明される。ユーザーが、糞便採取キットなどを利用して動物から糞便サンプルを採取し、腸内細菌叢解析業者に送付する(ステップS1)。腸内細菌叢解析業者は、次世代シーケンサーを利用して糞便サンプルから当該動物の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無に関するデータを解析し、取得する(ステップS2)。腸内細菌叢解析業者は、当該腸内細菌叢に関するデータをユーザーに返送する。ユーザーは、端末を通じて保険料算出システムにアクセスし、動物の腸内細菌叢におけるフソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無に関するデータを入力する(ステップS3)。保険料算出システムは、入力された動物の腸内細菌叢におけるフソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無に関するデータから、当該動物の保険料を算出する(ステップS4)。保険料算出システムは、当該予測判定を出力し、端末40に送信し、端末40において算出結果が表示される(ステップS5)。
【実施例0071】
以下本発明の実施例を示す。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(糞便試料からのDNA抽出)
以下のようにして、各犬から糞便試料を採取し、DNAを抽出した。
犬の飼育者が糞便の採取キットを用いて、犬の糞便試料を採取した。当該糞便試料を受領し、水に懸濁した。
次に、糞便懸濁液200μLとLysis buffer(224μg/mLのProtenaseKを含む)810μLをビーズチューブに添加し、ビーズ式ホモジナイザーにてビーズ破砕(6,000rpm、破砕20秒、インターバル30秒、破砕20秒)を行った。その後、検体を70℃のヒートブロック上にて10分間静置することでProtenaseKによる処理を行い、続いて95℃のヒートブロック上にて5分間静置することでProtenaseKを不活化した。溶菌処理を行った検体はchemagic360(PerkinElmer)を用い、chemagicキットstool用プロトコルにてDNAの自動抽出を行い、100μLのDNA抽出液を得た。
【0072】
(メタ16SRNA遺伝子シーケンス解析)
メタ16Sシーケンス解析はillumina 16S Metagenomic Sequencing Library Preparation(バージョン15044223 B)を改変して行った。まず、16SrRNA遺伝子の可変領域V3-V4を含む460bpの領域をユニバーサルプライマー(Illumina_16S_341FおよびIllumina_16S_805RPCR)を用いたPCRで増幅した。PCR反応液は10μLのDNA抽出液、0.05μLの各プライマー(100μM)、12.5μLの2xKAPA HiFi Hot-Start ReadyMix(F.Hoffmann-LaRoche、Switzerland)、2.4μLのPCRgrade waterを混合して調製した。PCRには95℃3分間の熱変性後、95℃30秒、55℃30秒、72℃30秒のサイクルを30回繰り返し、最後に72℃5分の伸長反応を行った。増幅産物は磁気ビーズを用いて精製し、50μLのBufferEB(QIAGEN、Germany)で溶出した。精製後の増幅産物はNextera XT Index Kit v2(illumina、CA、US)を用いてPCRを行い、インデックスを付加した。PCR反応液は2.5μLの増幅産物、2.5μLの各プライマー、12.5μLの2x KAPA HiFi Hot-Start ReadyMix、5μLのPCRgrade waterを混合して調製した。PCRには95℃3分間の熱変性後、95℃30秒、55℃30秒、72℃30秒のサイクルを12回繰り返し、最後に72℃5分の伸長反応を行った。インデックス付加を行った増幅産物は磁気ビーズを用いて精製し、80-105μLのBufferEBで溶出した。各増幅産物の濃度はNanoPhotometer(Implen、CA、US)で測定し、1.4nMに調製した後、等量ずつ混合し、これをシーケンス用ライブラリーとした。シーケンス用ライブラリーのDNA濃度および増幅産物のサイズを電気泳動にて確認し、これをMiSeqにより解析した。解析にはMiSeq Reagent Kit V3を用い、2×300bpのペアエンドシーケンスを行った。得られた配列はMiSeq Reporterにて解析し、細菌の組成データを得た。
上記で用いたユニバーサルプライマーの配列は以下のとおりである。このユニバーサルプライマーは市販されているものを購入することができる。
Illumina_16S_341F
5′-TCGTCGGCAGCGTCAGATGTGTATAAGAGACAGCCTACGGGNGGCWGCAG- 3’

llumina_16S_805R
5′-GTCTCGTGGGCTCGGAGATGTGTATAAGAGACAGGACTACHVGGGTATCTAATCC- 3’
【0073】
上記方法に従って、0歳以上の19040個体(平均年齢は3.4歳)のトイプードルについて、腸内細菌叢の組成データを得て、各犬の腸内細菌叢における所定の菌科に属する菌の有無を測定した。なお、19040個体のうち、糞便サンプル採取前後180日(計360日)以内に保険請求があった個体(事故群)は、7805個体であり、当該期間内に保険請求がなかった個体(無事故群)は、11235個体であった。
【0074】
[実施例1]
上記19040個体のうち、事故群のトイプードルについて、フソバクテリウム科に属する菌の有無、ベイロネラ科に属する菌の有無を調べ、それら菌の有無と年間保険金支払額との関係を調べた。
結果を図5に示す。
図5中、「F無V無」とは、フソバクテリウム科に属する菌及びベイロネラ科に属する菌のいずれも保有していない個体群のことを指す。
「F無V有」とは、フソバクテリウム科に属する菌は保有していないが、ベイロネラ科に属する菌は保有している個体群のことを指す。
「F有V無」とは、フソバクテリウム科に属する菌は保有しているが、ベイロネラ科に属する菌は保有していない個体群のことを指す。
「F有V有」とは、フソバクテリウム科に属する菌及びベイロネラ科に属する菌のいずれも保有している個体群のことを指す。
図5から明らかなように、全ての年齢層において、F無V無の個体群が、年間保険金総額が多く、多額の保険金が支払われていることが分かる。また、F有V有の個体群は、年間保険金総額が少なく、保険金支払いが少ない傾向があった。(F有V有0歳時の金額を基準額とした。)
このように、動物の糞便試料中のフソバクテリウム科に属する菌の有無、ベイロネラ科に属する菌の有無と、保険金支払額については一定の相関があることが確認された。
【0075】
[実施例2]
上記19040個体のうち、事故群のトイプードルについて、フソバクテリウム科に属する菌の有無、ベイロネラ科に属する菌の有無を調べ、それら菌の有無と年間保険利用回数との関係を調べた。
結果を図6に示す。
図6から明らかなように、全ての年齢層において、F無V無の個体群が、年間保険利用回数が多く、動物病院で治療を受けてペット保険を利用する回数が多いことが分かる。また、F有V有の個体群は、年間保険利用回数が少なく、ペット保険を利用する回数が少ない傾向があった。(F有V有0歳時の回数を基準回数1とした。)
このように、動物の糞便試料中のフソバクテリウム科に属する菌の有無、ベイロネラ科に属する菌の有無と、保険利用回数については一定の相関があることが確認された。
【0076】
[実施例3]
上記19040個体について、フソバクテリウム科に属する菌の有無、ベイロネラ科に属する菌の有無を調べ、それら菌の有無と乾性角結膜炎への罹患の有無との関係を調べた。なお、19040個体全体のうち、糞便試料採取前後180日(計360日)以内に乾性角結膜炎への罹患が確認されたのは、22個体であった。
F無V無、F無V有、F有V無、F有V有のそれぞれの個体群について、乾性角結膜炎への罹患率(それぞれの個体群における乾性角結膜炎に罹患した個体の割合)を計算した。結果を図7に示す。
図7から明らかなように、F無V無、F無V有、F有V無、F有V有の順に乾性角結膜炎への罹患率が下がっていたことから、フソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無と乾性角結膜炎との関連性を示すことができる可能性が見出された。ひいては、フソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無を調べることで、動物が乾性角結膜炎への罹患するかどうかを予測判定できることが分かった。
【0077】
[実施例4]
上記19040個体について、フソバクテリウム科に属する菌の有無、ベイロネラ科に属する菌の有無を調べ、それら菌の有無とアレルギー性皮膚炎への罹患の有無との関係を調べた。なお、19040個体全体のうち、糞便試料採取前後180日(計360日)以内にアレルギー性皮膚炎への罹患が確認されたのは、444個体であった。
F無V無、F無V有、F有V無、F有V有のそれぞれの個体群について、アレルギー性皮膚炎への罹患率(それぞれの個体群におけるアレルギー性皮膚炎に罹患した個体の割合)を計算した。結果を図8に示す。
図8から明らかなように、F無V無、F有V無、F無V有、F有V有の順にアレルギー性皮膚炎への罹患率が下がっていたことから、フソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無とアレルギー性皮膚炎との関連性を示すことができる可能性が見出された。ひいては、フソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無を調べることで、動物がアレルギー性皮膚炎への罹患するかどうかを予測判定できることが分かった。
【0078】
[実施例5]
上記19040個体について、フソバクテリウム科に属する菌の有無、ベイロネラ科に属する菌の有無を調べ、それら菌の有無と炎症性大腸疾患への罹患の有無との関係を調べた。なお、19040個体全体のうち、糞便試料採取前後180日(計360日)以内に炎症性大腸疾患への罹患が確認されたのは、12個体であった。
F無V無、F無V有、F有V無、F有V有のそれぞれの個体群について、炎症性大腸疾患への罹患率(それぞれの個体群における炎症性大腸疾患に罹患した個体の割合)を計算した。結果を図9に示す。
図9から明らかなように、F無V有、F無V無、F有V有、F有V無の順に炎症性大腸疾患への罹患率が下がっていたことから、フソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無と炎症性大腸疾患との関連性を示すことができる可能性が見出された。ひいては、フソバクテリウム科に属する菌の有無及び/又はベイロネラ科に属する菌の有無を調べることで、動物が炎症性大腸疾患への罹患するかどうかを予測判定できることが分かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9