(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068788
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】走査電子顕微鏡及び輝度調整方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/2251 20180101AFI20230511BHJP
G01N 23/2204 20180101ALI20230511BHJP
H01J 37/22 20060101ALI20230511BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20230511BHJP
H01J 37/20 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
G01N23/2251
G01N23/2204
H01J37/22 502E
H01J37/22 502F
H01J37/28 B
H01J37/20 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180110
(22)【出願日】2021-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡壁 一貴
【テーマコード(参考)】
2G001
5C101
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA07
2G001BA15
2G001CA03
2G001FA02
2G001FA09
2G001FA18
2G001FA25
2G001GA06
2G001HA01
2G001HA13
2G001JA08
2G001JA09
2G001JA17
2G001KA01
2G001MA02
2G001MA04
2G001NA03
2G001NA13
2G001NA17
2G001PA02
2G001PA05
2G001PA06
2G001PA11
2G001PA13
2G001PA17
2G001QA01
5C101AA03
5C101EE48
5C101FF04
5C101HH26
5C101JJ06
(57)【要約】
【課題】電子画像の輝度分布を客観的に再現性良く調整する。
【解決手段】標準試料の電子画像に基づいてヒストグラム78が作成される。第1ピークの頂点位置P1aと第2ピークの頂点位置P2aの中間位置Cxが標準中間位置C0に合うように、検出信号のオフセットが自動調整される。その後、頂点位置P1bと頂点位置P2bの間隔Dxが標準間隔D0に合うように、検出信号のゲインが調整される。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標準試料における第1元素領域及び第2元素領域に跨って設定された観測領域に対して電子線を照射し、前記観測領域から出る電子を検出する観測部と、
前記電子の検出により生成された検出信号に基づいて、前記観測領域の電子画像を形成する形成部と、
前記電子画像の実輝度分布が標準輝度分布に合うように、前記検出信号又は前記電子画像に対してオフセット調整及びゲイン調整を適用する調整部と、
を含み、
実試料の観測に先立って又はその観測の途中で、前記標準試料の観測により前記オフセット調整及び前記ゲイン調整が実施される、
ことを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1記載の走査電子顕微鏡において、
前記調整部は、前記実輝度分布から特定される2つの実ピーク位置が前記標準輝度分布を代表する2つの標準ピーク位置に合うように、前記オフセット調整及び前記ゲイン調整を実施する、
ことを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項2記載の走査電子顕微鏡において、
前記調整部は、
前記2つの実ピーク位置の中間位置が前記2つの標準ピーク位置の中間位置に合うように、前記オフセット調整を実施するオフセット調整部と、
前記2つの実ピーク位置の間隔が前記2つの標準ピーク位置の間隔に合うように、前記ゲイン調整を実施するゲイン調整部と、
を含む、ことを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項3記載の走査電子顕微鏡において、
前記オフセット調整が先に実施され、それに続いて前記ゲイン調整が実施される、
ことを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項1記載の走査電子顕微鏡において、
前記観測領域を特定する座標情報を格納した記憶部と、
前記座標情報に基づいて、前記電子線の照射領域を前記観測領域に合わせる制御部と、
を含むことを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項6】
請求項1記載の走査電子顕微鏡において、
複数の実試料を保持する複数の実試料保持部及び前記標準試料を保持する標準試料保持部を有する試料ホルダを含み、
前記試料ホルダにおいて前記複数の実試料保持部が環状に配列されており、
前記試料ホルダにおいて前記標準試料保持部が前記複数の実試料保持部に囲まれている、
ことを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項7】
請求項6記載の走査電子顕微鏡において、
前記複数の実試料の観測に先立って、前記標準試料の観測により前記オフセット調整及び前記ゲイン調整が実施され、
前記複数の実試料の観測の途中で、前記標準試料の観測により前記オフセット調整及び前記ゲイン調整が実施される、
ことを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項8】
標準試料における第1元素領域及び第2元素領域に跨って設定された観測領域に対して電子線を照射し、前記観測領域から出る電子を検出する工程と、
前記電子の検出により生成された検出信号に基づいて、前記観測領域の電子画像を形成する工程と、
前記電子画像の実輝度分布が標準輝度分布に合うように、前記検出信号又は前記電子画像に対してオフセット調整及びゲイン調整を適用する工程と、
を含み、
実試料の観測に先立って又はその観測の途中において、前記標準試料の観測により前記オフセット調整及び前記ゲイン調整が実施される、
ことを特徴とする輝度調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査電子顕微鏡及び輝度調整方法に関し、特に、電子画像の輝度分布の調整に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子解析において走査電子顕微鏡が用いられる。例えば、試料に対する電子線の二次元走査により得られる検出信号に基づいて電子画像(反射電子画像、二次電子画像等)が形成される。その電子画像が二値化された上で、二値化された電子画像の解析により、試料に含まれる各粒子が特定される。具体的には、粒子の個数、各粒子のサイズ、及び、各粒子の形状が特定される。特定された各粒子に対してX線分光法に基づく組成分析が実施され、各粒子を構成している元素が特定される。試料は、例えば、製品を洗浄した後の洗浄液であり、個々の粒子が異物に相当する。
【0003】
電子画像に基づく粒子解析に先立って、電子画像の輝度分布(輝度ヒストグラム)が調整される。具体的には、検出信号のオフセットを調整するオフセット調整、及び、検出信号のゲインを調整するゲイン調整が実施される。粒子解析以外の目的から、電子画像の輝度分布が調整されることもある。
【0004】
特許文献1には、実試料から取得された実輝度分布を複数の基準輝度分布と比較することにより、電子画像の輝度分布を自動調整する技術が開示されている。特許文献1には、標準試料を利用した輝度分布の自動調整については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
測定対象となった試料の電子画像に基づいて輝度分布をマニュアルで調整すると、客観性及び再現性を十分に確保できず、測定者によって試料解析結果に差が生じてしまう。理想的な輝度分布に対して実際の輝度分布が近付きあるいは一致するように輝度分布を自動的に調整することが望まれる。
【0007】
本発明の目的は、電子画像の輝度分布を客観的に再現性良く調整することにある。あるいは、本発明の目的は、電子画像に基づく粒子解析のための輝度調整技術を提供することにある。あるいは、本発明の目的は、走査電子顕微鏡の状態が時間的に変化しても電子画像の輝度分布を適正なものに維持することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る走査電子顕微鏡は、標準試料における第1元素領域及び第2元素領域に跨って設定された観測領域に対して電子線を照射し、前記観測領域から出る電子を検出する観測部と、前記電子の検出により生成された検出信号に基づいて、前記観測領域の電子画像を形成する形成部と、前記電子画像の実輝度分布が標準輝度分布に合うように、前記検出信号又は前記電子画像に対してオフセット調整及びゲイン調整を適用する調整部と、を含み、実試料の観測に先立って又はその観測の途中で、前記標準試料の観測により前記オフセット調整及び前記ゲイン調整が実施される、ことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る輝度調整方法は、標準試料における第1元素領域及び第2元素領域に跨って設定された観測領域に対して電子線を照射し、前記観測領域から出る電子を検出する工程と、前記電子の検出により生成された検出信号に基づいて、前記観測領域の電子画像を形成する工程と、前記電子画像の実輝度分布が標準輝度分布に合うように、前記検出信号又は前記電子画像に対してオフセット調整及びゲイン調整を適用する工程と、を含み、実試料の観測に先立って又はその観測の途中において、前記標準試料の観測により前記オフセット調整及び前記ゲイン調整が実施される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電子画像の輝度分布を客観的に再現性良く調整できる。あるいは、本発明によれば、電子画像に基づく粒子解析のための輝度調整技術を提供できる。あるいは、本発明によれば、走査電子顕微鏡の状態が時間的に変化しても電子画像の輝度分布を適正なものに維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る走査電子顕微鏡を示すブロック図である。
【
図2】信号処理回路の構成例を示すブロック図である。
【
図7】実施形態に係る輝度調整方法を示す説明図である。
【
図8】実施形態に係る輝度調整方法を示すフローチャートである。
【
図9】走査電子顕微鏡の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る走査電子顕微鏡は、観測部、形成部、及び、調整部を有する。観測部は、標準試料における第1元素領域及び第2元素領域に跨って設定された観測領域に対して電子線を照射し、観測領域から出る電子を検出する。形成部は、電子の検出により生成された検出信号に基づいて、観測領域の電子画像を形成する。調整部は、電子画像の実輝度分布が標準輝度分布に合うように、検出信号又は電子画像に対してオフセット調整及びゲイン調整を適用する。実試料の観測に先立って又はその観測の途中で、標準試料の観測によりオフセット調整及び前記ゲイン調整が実施される。
【0014】
上記構成によれば、標準試料の電子画像を得て、その実輝度分布が標準輝度分布に合うように、オフセット調整及びゲイン調整が実施される。よって、電子画像の輝度分布を客観的に再現性良く調整できる。オフセット調整及びゲイン調整の後に粒子解析を行うならば、粒子解析精度を高められる。標準試料の実際の測定結果を利用してオフセット調整及びゲイン調整を行えるので、走査電子顕微鏡の状態が時間的に変化しても、その変化の影響を受け難い。
【0015】
検出信号に対してオフセット調整及びゲイン調整が適用されてもよい。その場合、アナログ検出信号又はデジタル検出信号が調整対象となる。電子画像に対してオフセット調整及びゲイン調整が適用されてもよい。オフセット調整及びゲイン調整を順次又は同時に行うことにより、電子画像の実輝度分布が適正化される。観測部は、試料上において電子ビームを走査して、それにより生成される電子(反射電子、二次電子等)を検出する測定部である。オフセット調整及びゲイン調整に際して、標準輝度分布それ自体が利用されてもよいし、標準輝度分布を代表する複数の特徴量が利用されてもよい。例えば、ある製品の母材の中に特定の材料からなる異物が含まれている場合、第1元素及び第2元素の一方が母材元素であり、第1元素及び第2元素の他方が異物元素である。母材と異物材料の組み合わせごとに標準輝度分布が用意される。母材と複数の異物材料の組み合わせに対応する標準輝度分布が用意されてもよい。
【0016】
実施形態において、調整部は、実輝度分布から特定される2つの実ピーク位置が標準輝度分布を代表する2つの標準ピーク位置に合うように、オフセット調整及びゲイン調整を実施する。この構成によれば、オフセット調整及びゲイン調整を迅速かつ簡便に行える。標準輝度分布は目標輝度分布とも言い得る。
【0017】
実施形態において、調整部は、オフセット調整部、及び、ゲイン調整部を有する。オフセット調整部は、2つの実ピーク位置の中間位置が2つの標準ピーク位置の中間位置に合うように、オフセット調整を実施する。ゲイン調整部は、2つの実ピーク位置の間隔が2つの標準ピーク位置の間隔に合うように、ゲイン調整を実施する。二段階の調整を行うことにより調整プロセスの複雑化を回避できる。
【0018】
実施形態においては、オフセット調整が先に実施され、それに続いてゲイン調整が実施される。ゲイン調整を先に実施した場合、一方のピーク(又は一部のピーク)が観測レンジを超えて見えなくなってしまう可能性が高まる。オフセット調整を先に実施した場合、そのような問題が生じる可能性を低減できる。
【0019】
実施形態に係る走査電子顕微鏡は、記憶部、及び、制御部を有する。記憶部には、観測領域を特定する座標情報が格納される。制御部は、座標情報に基づいて、電子線の照射領域を観測領域に合わせる制御を実行する。照射領域の調整は、ステージ移動や電子ビーム偏向によって行える。
【0020】
実施形態に係る走査電子顕微鏡は、試料ホルダを有する。試料ホルダは、複数の実試料を保持する複数の実試料保持部及び標準試料を保持する標準試料保持部を有する。試料ホルダにおいて複数の実試料保持部が環状に配列されている。試料ホルダにおいて標準試料保持部が複数の実試料保持部に囲まれている。この構成を採用すれば、オフセット調整及びゲイン調整に際し、試料ホルダを搭載したステージの移動量を少なくできる。あるいは、任意のタイミングでオフセット調整及びゲイン調整を速やかに行える。
【0021】
実施形態においては、複数の実試料の観測に先立って、標準試料の観測によりオフセット調整及びゲイン調整が実施される。また、複数の実試料の観測の途中で、標準試料の観測によりオフセット調整及びゲイン調整が実施される。観察時間の増大に伴って電子画像の平均輝度が徐々に低下する傾向が認められる。間欠的にオフセット調整及びゲイン調整を行えば、輝度低下を補償して輝度分布を適正に維持できる。これにより粒子解析結果の信頼性を高められる。
【0022】
実施形態に係る輝度調整方法は、観測工程、形成工程、及び、調整工程を有する。観測工程では、標準試料における第1元素領域及び第2元素領域に跨って設定された観測領域に対して電子線が照射され、これにより観測領域から出る電子が検出される。形成工程では、電子の検出により生成された検出信号に基づいて、観測領域の電子画像が形成される。調整工程では、電子画像の実輝度分布が標準輝度分布に合うように、検出信号又は電子画像に対してオフセット調整及びゲイン調整が適用される。実試料の観測に先立って又はその観測の途中において、標準試料の観測によりオフセット調整及びゲイン調整が実施される。実施形態においては、全工程が自動的に実施されるが、一部の工程がマニュアルで実施されてもよい。
【0023】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る走査電子顕微鏡が示されている。この走査電子顕微鏡は、粒子解析を行う機能を備えている。例えば、製品洗浄後の洗浄水に含まれる異物粒子に対して粒子解析が適用される。その場合、製品として、工業製品や半導体製品が挙げられる。走査電子顕微鏡は、観測部10及び演算制御部12を有する。
【0024】
最初に観測部について説明する。観測部10は、測定部として機能するものである。具体的には、観測部10は、鏡筒14を有する。鏡筒14内には、電子銃、偏向レンズ、対物レンズ等が収容されている。電子銃により電子線16が生成される。
【0025】
鏡筒14の下部には試料室18が設けられている。試料室18は筐体20によって囲まれている。試料室18内にはステージ22が設けられ、ステージ22上に試料ホルダ24が固定されている。ステージ22により試料ホルダ24の位置及び姿勢が変更される。試料ホルダ24は、実試料及び標準試料を備える。実試料は測定対象つまり解析対象である。輝度分布を調整する際には標準試料が観察される。
【0026】
試料室18内には複数の検出器が設けられている。それらには、反射電子検出器、二次電子検出器、X線検出器(分光計)、等が含まれる。実施形態においては、粒子解析に際して反射電子検出器から出力される検出信号が利用される。
【0027】
次に、演算制御部12について説明する。信号処理回路26は、後に
図2に示すように、オフセット調整回路、ゲイン調整回路、及び、A/D変換器を有する。実施形態においては、アナログ検出信号に対してオフセット調整及びゲイン調整が適用されている。もちろん、デジタル検出信号に対してオフセット調整及びゲイン調整が適用されてもよい。後述する電子画像に対してオフセット調整及びゲイン調整が適用されてもよい。いずれの方式を採用しても、結果として、電子画像の輝度分布を調整し得る。
【0028】
画像形成部28は、信号処理回路26から出力された検出信号(デジタル検出信号)に基づいて電子画像を形成する。電子画像は二次元画像であり、SEM画像とも言われる。標準試料の観察時においては、標準試料の電子画像が形成され、実試料の観察時においては実試料の電子画像が形成される。
【0029】
粒子解析部30は、実試料の電子画像に基づいて粒子解析を実行する。その場合、実試料の電子画像が閾値を用いて二値化処理され、二値化された電子画像において個々の粒子が特定され、また、個々の粒子の大きさや形状が特定される。続いて、個々の粒子に対する電子線の照射により組成分析が実施される。また、電子画像における総粒子面積から異物量が特定される。粒子解析に当たって公知の多様な手法を採用し得る。粒子解析結果は、図示されていない表示器に表示される。
【0030】
画像形成部28及び粒子解析部30はそれぞれプロセッサにより構成され得る。情報処理部32は、例えば、プログラムを実行するCPUにより構成される。
図1においては、情報処理部32が発揮する複数の機能が複数のブロックにより表現されている。情報処理部32は、ヒストグラム作成部34、オフセット調整部36、及び、ゲイン調整部38として機能する。情報処理部32は、観測部10の動作を制御する制御部としても機能する。情報処理部32が画像形成部28及び粒子解析部30として機能してもよい。
【0031】
情報処理部32には記憶部40が接続されている。記憶部40は半導体メモリ、ハードディスク等により構成される。記憶部40に格納された情報については後に
図3を用いて説明する。
【0032】
ヒストグラム作成部34は、標準試料の電子画像に基づいて輝度分布としてのヒストグラム(輝度ヒストグラム)を作成するものである。標準試料が2つの材料(例えば製品母材及び異物材料)により構成されている場合、標準試料のヒストグラムにおいて2つのピークが生じる。オフセット調整過程及びゲイン調整過程において、ヒストグラム作成部34がヒストグラムを繰り返し作成する。
【0033】
オフセット調整部36は、検出信号のオフセットを調整するものである。通常、オフセット調整により、2つのピークがヒストグラムの横軸に沿って平行移動する。ゲイン調整部38は、検出信号のゲインを調整するものである。通常、ゲイン調整により、2つのピークの間隔が変化する。ゲイン調整はコントラスト調整とも言い得る。
【0034】
実試料の観察に先立って、標準試料を用いたオフセット調整及びゲイン調整が実施され、その後の試料観察の途中において、必要なタイミングで、標準試料を用いたオフセット調整及びゲイン調整が実施される。複数の実試料を順次観察する場合、時間的に隣接する2つの実試料観察の間で、標準試料を用いたオフセット調整及びゲイン調整が実施されてもよい。電子銃の状態変化その他の理由から、観察時間の増大に伴って電子画像の輝度分布が徐々に低下する。必要なタイミングで輝度分布を調整すれば、粒子解析精度を維持又は向上できる。
【0035】
図2には、信号処理回路26の構成例が示されている。信号処理回路26は、オフセット調整回路42、ゲイン調整回路44、及び、A/D変換器46を有する。それらの順序を入れ替えてもよい。オフセット調整回路42にはアナログ検出信号48が入力されており、また、オフセット調整信号50が入力されている。オフセット調整回路42は、オフセット調整信号50に基づいてアナログ検出信号48のオフセットを調整する。
【0036】
ゲイン調整回路44には、オフセット調整後のアナログ検出信号が入力されており、また、ゲイン調整信号52が入力されている。ゲイン調整回路44は、ゲイン調整信号52に基づいて、入力されたアナログ検出信号のゲインを調整する。A/D変換器46は、ゲイン調整回路44から出力されたアナログ検出信号をデジタル検出信号に変換するものである。
【0037】
図3には、記憶部40に格納されている情報が示されている。図示の例では、記憶部40に、観察領域座標情報54、第1標準輝度56、第2標準輝度58、係数セット60、等が格納されている。観察領域座標情報54は、標準試料に対して設定される観察領域を特定する情報であり、観察領域座標情報54に基づいてステージ位置や照射位置が調整される。
【0038】
標準試料から得られるヒストグラムには、第1元素に対応する第1ピーク、及び、第2元素に対応する第2ピークが含まれる。第1元素は製品母材及び異物材料の一方であり、第2元素は製品母材及び異物材料の他方である。ヒストグラムの横軸つまり輝度軸上において、第1標準輝度56は、第1ピークの頂点の輝度(第1ピーク位置)と比較される輝度(標準位置)であり、第2標準輝度58は、第2ピークの頂点の輝度(第2ピーク位置)と比較される輝度(標準位置)である。記憶部40に対して、標準輝度分布それ自体を格納してもよいが、実施形態においては、標準輝度分布を代表する2つの特徴量つまり2つの標準輝度56,58が格納されている。各ピークの平均、重心等に基づいて各ピークの代表位置が定められてもよい。
【0039】
係数セット60は、2つの係数k1、k2により構成される。係数k1はオフセット調整時の刻みの大きさを規定する係数であり、係数k2はゲイン調整時の刻みの大きさを規定する係数である。
【0040】
図4には、粒子解析において使用される試料ホルダの一例が示されている。試料ホルダ24は、図示の例において、ベース64上に設けられた実試料保持部列62及び標準試料保持部63を有している。実試料保持部列62は、環状に配列された6個の実試料保持部62Aにより構成される。標準試料保持部63は、試料ホルダ24の中央部に設けられており、6個の実試料保持部62Aにより囲まれている。
【0041】
各実試料保持部62Aは凹部を有し、その中に、円形シートとしてのフィルタ66が配置されている。フィルタ66は、洗浄液中の粒子を捕集する部材である。各凹部内においてフィルタ66が動かないように、錘としてのリング68が各凹部内に配置されている。標準試料保持部63の中央に井戸状の窪みが形成されており、その中に円柱状の標準試料70が挿入されている。
【0042】
図5には、標準試料70が示されている。
図5における下段(Aを参照)には標準試料70の側面が示され、
図5における上段(Bを参照)には標準試料70の上面が示されている。材料72は、例えば、異物に相当する元素により構成される。材料72は円柱状の形態を有している。材料72は例えば銅により構成される。材料72の上面72Aには、矩形のシート74が貼付されている。シート74は製品母材に相当する元素により構成され、その元素は例えば炭素である。シート74が粘着テープにより構成されてもよい。シート74として金属薄片や樹脂フィルム等が用いられてもよい。上面72Aにおいて材料72の表面とシート74の表面とに跨って観察領域76が設定される。
【0043】
図6には、観察領域76が拡大して示されている。母材元素領域200Aは、具体的には炭素領域である。異物元素領域200Bは、具体的には銅領域である。母材元素領域200A及び異物元素領域200Bに跨って観察領域76が設定されている。観察領域76の半分が母材元素領域200Aに属する部分76Aであり、観察領域76の他の半分が異物元素領域200Bに属する部分76Bである。部分76A及び部分76Bは同じ面積を有している。
【0044】
図7には、実施形態に係る輝度調整方法が示されている。
図7の上段に示すヒストグラム78は、標準試料の電子画像から作成されたヒストグラムである。横軸は輝度Iを示しており、縦軸は画素数Nを示している。
【0045】
第1標準位置(第1標準輝度)及び第2標準位置(第2標準輝度)の中間位置として、標準中間位置(標準中間輝度)C0が特定される。標準中間位置(標準中間輝度)C0は、目標中間位置(目標中間輝度)とも言い得る。また、第1標準位置及び第2標準位置の間隔として、標準間隔(標準輝度差)D0が特定される。標準間隔(標準輝度差)D0は、目標間隔(目標輝度差)とも言い得る。中間位置はセンター位置とも言い得る。
【0046】
ヒストグラム78には、第1ピーク80及び第2ピーク82が含まれる。例えば、第1ピーク80は母材元素ピーク及び異物元素ピークの内の一方であり、第2ピーク82は母材元素ピーク及び異物元素ピークの内の他方である。第1ピーク80の頂点位置P1aと第2ピーク82の頂点位置P2aに基づいて、実中間位置Cxが求められる。実中間位置Cxが上記の標準中間位置C0に一致するように、オフセット調整が実施される(符号84を参照)。
【0047】
図7の中段には、オフセット調整後のヒストグラムが示されている。第1ピークの頂点位置P1bと第2ピークの頂点位置P2bの差として、実間隔Dxが求められる。実間隔Dxが上記の標準間隔D0に一致するように、ゲイン調整が実施される(符号86を参照)。
【0048】
図7の下段には、オフセット調整及びゲイン調整後のヒストグラムが示されている。実間隔Dxが標準間隔D0に一致している。第1ピークの頂点位置P1cが上記の第1標準位置に一致しており、第2ピークの頂点位置P2cが上記の第2標準位置に一致している。なお、実中間位置Cxが標準中間位置C0に一致している状態を維持しつつ、ゲイン調整が実施されてもよい。ゲイン調整後に再びオフセット調整を行ってもよい。
【0049】
ヒストグラムに含まれる複数のピークの特定に際しては公知の各種の技術を用い得る。例えば、ヒストグラムに対してノイズ除去処理やスムージング処理を適用した上でヒストグラムに対して2回の微分処理(変曲点抽出処理)を施すことにより、各ピークを特定してもよい。
【0050】
図8には、実施形態に係る輝度調整方法がフローチャートとして示されている。ステージ上に、標準試料及び実試料を備えた試料ホルダが搭載される。S10では、観察領域座標情報が参照される。S12では、使用する標準試料に対応する2つの標準輝度(第1標準輝度及び第2標準輝度)が特定される。
【0051】
S14では、観察領域座標情報に基づいてステージ位置が制御される。これにより観察領域が実際の照射領域として定められる。S16では、オフセット調整回路にオフセット初期値が与えられ、ゲイン調整回路にゲイン初期値が与えられる。この段階でオートフォーカス等の各種自動調整が実施されてもよい。
【0052】
S18では、標準試料に対して電子線が照射される。具体的には観察領域それ全体にわたって電子線が走査される。これにより得られた検出信号に基づいて電子画像(SEM画像)が形成される。S20では、電子画像に基づいてヒストグラムが作成される。S22では、ヒストグラムに含まれるピーク数が計数される。通常、ピーク数は2である。ピーク数が2以外の数値である場合、S26においてステージ位置が変更される。つまり、ピーク数が2になるように、観察領域が変更される。ピーク数として2以外の数値が所定回数求められた時点でエラー処理が実行されてもよい。
【0053】
S28では、ヒストグラムにおける2つのピーク位置から実中間位置が特定され、また、第1標準輝度(第1標準位置)及び第2標準輝度(第2標準位置)から標準中間位置が特定される。実測中間位置と標準中間位置の差分が第1差分として演算される。第1差分が第1許容範囲内にあればS34が実行され、第1差分が第1許容範囲を超える場合、S32においてオフセットが変更される。例えば、第1差分に対して係数k1を乗じることにより、オフセット変更量が特定される。オフセットの変更後、S18以降の各工程が再び実行される。
【0054】
S30では、ヒストグラムにおける2つのピーク位置から実間隔が特定され、また、第1標準輝度(第1標準位置)及び第2標準輝度(第2標準位置)から標準間隔が特定される。実間隔と標準間隔の差分が第2差分として演算される。第2差分が第2許容範囲内にあれば本処理が終了する。第2差分が第2許容範囲を超える場合、S38においてゲインが変更される。例えば、第2差分に対して係数k2を乗じることにより、ゲイン変更量が特定される。ゲインの変更後、S18以降の各工程が再び実行される。
【0055】
以上のオフセット調整及びゲイン調整により、標準試料から得られたヒストグラムが理想的なヒストグラムに近付けられる。その後、ヒストグラムに基づいて閾値が決定される。例えば、第1ピークと第2ピークの中間位置が閾値として定められる。
【0056】
オフセット調整及びゲイン調整の完了後に、実試料が観察され、これにより実試料の電子画像が取得される。その電子画像が上記の閾値によって二値化される。二値化された電子画像に基づいて粒子解析が実施される。個々の粒子の組成を解析する場合には個々の粒子に対して電子線が照射され、それにより生成される特性X線のスペクトルが解析される。粒子解析方法として公知の様々な方法を採用し得る。
【0057】
図9には、走査電子顕微鏡の動作がフローチャートとして示されている。S40では標準試料を用いて輝度分布が調整される。その場合には
図7及び
図8に示した輝度調整方法が実行される。S42では、実試料が観測され、それに得られた電子画像に対して粒子解析が適用される。S44において、未観測の実試料が残っていると判断された場合、S46において所定条件が満たされるか否かが判断される。例えば、先の輝度分布調整から一定時間が経過している場合に所定条件が満たされる。あるいは、1つの実試料の観測が完了した場合に、所定条件が満たされたとしてもよい。所定条件が満たされた場合、S40において輝度分布調整が再び実施される。S44において、未観測の実試料が残っていないと判断された場合、本処理が終了する。
【0058】
図10には、標準試料テーブル88が示されている。複数の標準試料を選択的に使用する場合に標準試料テーブル88が用いられる。標準試料テーブル88は、複数の標準試料に対応する複数のレコード90により構成される。各レコード90は、標準試料番号92、第1元素情報94、第2元素情報96、第1標準輝度98、第2標準輝度100を含み、更に必要に応じて、他の情報102を含むものである。他の情報102として、加速電圧、照射電流、観察倍率、等が挙げられる。
【0059】
実施形態に係る輝度調整方法によれば、電子画像の輝度分布を客観的に再現性良く調整できる。特に、標準試料を用いているので、走査電子顕微鏡の状態が時間的に変化しても電子画像の輝度分布を適正なものに維持できる。
【符号の説明】
【0060】
10 観察部、12 演算制御部、22 ステージ、24 試料ホルダ、26 信号処理回路、28 画像形成部、30 粒子解析部、32 情報処理部、34 ヒストグラム作成部、36 オフセット調整部、38 ゲイン調整部、42 オフセット調整回路、44 ゲイン調整回路、70 標準試料。