(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068811
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】鋼管補強部材、地盤補強工法、および地盤補強構造
(51)【国際特許分類】
E21D 9/04 20060101AFI20230511BHJP
【FI】
E21D9/04 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180167
(22)【出願日】2021-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】阿形 淳
(72)【発明者】
【氏名】妙中 真治
【テーマコード(参考)】
2D054
【Fターム(参考)】
2D054AC15
2D054AC20
(57)【要約】
【課題】鋼管補強部材の撤去、廃棄時の部材の分別を効率的に実施でき、施工効率の向上を図ることができる。
【解決手段】トンネル掘削時に地盤Gの崩落を防ぐために、地盤Gに打ち込まれて補強される鋼管補強部材であって、地盤G内に打ち込まれる鋼管2と、鋼管2の先端において鋼管2から切り離した状態で回転可能に設けられた地盤掘削用のドリルビット3と、鋼管2の外周面に鋼管2の管軸方向Xに複数箇所に設けられ、管軸Oに対して傾斜する羽根部21と、を備え、複数箇所の羽根部21のうち最大径の羽根部21は、ドリルビット3の外径よりも大きい構成の鋼管補強部材を提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削時の地盤の崩落を防ぐために、地盤に打ち込まれて補強される鋼管補強部材であって、
前記地盤内に打ち込まれる鋼管と、
前記鋼管の先端において前記鋼管から切り離した状態で回転可能に設けられた地盤掘削用のドリルビットと、
前記鋼管の外周面に前記鋼管の管軸方向に複数箇所に設けられ、管軸に対して傾斜する羽根部と、を備え、
前記複数箇所の羽根部のうち最大径の羽根部は、前記ドリルビットの外径よりも大きいことを特徴とする鋼管補強部材。
【請求項2】
前記羽根部は、前記管軸に対する傾斜角度が0°より大きく45°未満であることを特徴とする請求項1に記載の鋼管補強部材。
【請求項3】
前記羽根部は、前記管軸方向から見て周方向に隣り合う前記羽根部同士の少なくとも一部が重なっていることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼管補強部材。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の鋼管補強部材を使用した地盤補強工法であって、
前記ドリルビットを回転させながら前記羽根部が設けられた前記鋼管を前記地盤に打ち込むことを特徴とする地盤補強工法。
【請求項5】
前記鋼管補強部材を前記地盤に打ち込んだ後、前記鋼管補強部材の周囲地盤の一部に、前記鋼管補強部材からモルタルを注入することを特徴とした請求項4に記載の地盤補強工法。
【請求項6】
前記モルタルが注入される部分の前記鋼管は、窪み付き鋼管、突起付き鋼管、または孔あき鋼管であることを特徴とする請求項5に記載の地盤補強工法。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の鋼管補強部材を用いて補強された地盤補強構造であって、
掘削時の地盤に前記鋼管補強部材が打ち込まれ、
前記複数箇所の羽根部のうち一部の羽根部は、地盤開放面側で崩壊荷重が作用する崩壊領域内に配置され、
前記複数箇所の羽根部のうち他の羽根部は、前記崩壊領域よりも前方の定着領域内に配置されていることを特徴とする地盤補強構造。
【請求項8】
前記鋼管補強部材の周囲地盤の一部に注入されて硬化したモルタル充填領域が設けられていることを特徴とした請求項7に記載の地盤補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管補強部材、地盤補強工法、および地盤補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軟弱地盤でのトンネル掘削時には、崩落防止を目的としてAGF工法(All Ground Fasten、長尺鋼管先受け工法)や鏡補強工法が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
例えば、鏡補強工法の具体的な施工例として、一般的にトンネル掘削中の鏡面に鋼管を打ち込み、モルタルを注入することで地盤に定着させる。これにより地盤の崩落を抑止し鏡面までのトンネル部分の施工を行う時間を確保することができる。鋼管とモルタルによる鏡面の補強が完了した後、鏡面から前方の補強した地盤を鋼管とモルタルが定着した補強部材ごと掘削し、トンネルを延伸していく施工手順となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した鏡補強工法などにおいて補強部材を地盤に打ち込んで補強した後に、その補強部材を地盤とともに掘削する施工では、以下のような問題があった。
すなわち、近年の環境規制強化により掘削土から補強部材を選別し、さらに補強部材の鋼管とモルタルを分離したのちに廃棄物として処理する必要がある。一方で、鋼管とモルタルを使用した補強部材の効果を最大限に発揮するためには双方の密着性を高める必要があり、例えば鋼管にずれ止め加工をするなどの対策が取られることが多い。このことが逆に補強部材廃棄時の鋼管とモルタルの分離を困難としており、多大な労力とコストが必要になることから、その点で改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、鋼管補強部材の撤去、廃棄時の部材の分別を効率的に実施でき、施工効率の向上を図ることができる鋼管補強部材、地盤補強工法、および地盤補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明に係る鋼管補強部材では、掘削時の地盤の崩落を防ぐために、地盤に打ち込まれて補強される鋼管補強部材であって、前記地盤内に打ち込まれる鋼管と、前記鋼管の先端において前記鋼管から切り離した状態で回転可能に設けられた地盤掘削用のドリルビットと、前記鋼管の外周面に前記鋼管の管軸方向に複数箇所に設けられ、管軸に対して傾斜する羽根部と、を備え、前記複数箇所の羽根部のうち最大径の羽根部は、前記ドリルビットの外径よりも大きいことを特徴としている。
【0007】
また、本発明に係る地盤補強工法では、上述した鋼管補強部材を使用した地盤補強工法であって、前記ドリルビットを回転させながら前記羽根部が設けられた前記鋼管を前記地盤に打ち込むことを特徴としている。
【0008】
また、本発明に係る地盤補強構造では、上述した鋼管補強部材を用いて補強された地盤補強構造であって、掘削時の地盤に前記鋼管補強部材が打ち込まれ、前記複数箇所の羽根部のうち一部の羽根部は、地盤開放面側で崩壊荷重が作用する崩壊領域内に配置され、前記複数箇所の羽根部のうち他の羽根部は、前記崩壊領域よりも前方の定着領域内に配置されていることを特徴としている。
【0009】
本発明によれば、地盤掘削時に補強対象の地盤に羽根部を備えた鋼管を打ち込むことで、打ち込まれた鋼管補強部材の羽根部が地盤の崩壊に対して抵抗することにより、地盤を効果的に補強することができる。つまり、本発明では、羽根部が鋼管の管軸方向に複数箇所に存在しているので、地盤開放面側で崩壊荷重が作用する崩壊領域内と、崩壊領域よりも前方(地盤解放面側と反対側)の定着領域内との両方に羽根部を存在させた状態で鋼管を地盤に打ち込むことができる。しかも、本発明では、複数箇所の羽根部のうち最大径の羽根部がドリルビットの外径よりも大きくすることにより、ドリルビットの径よりも外側に位置し、ドリルビットの通過によって緩んだ低強度の地盤ではなく、強度を保った地盤からの抵抗を羽根部で受けることができる。
【0010】
これにより、崩壊荷重が作用する崩壊領域内に存在する羽根部は、崩壊荷重の作用に伴い地盤開放面側に近づくように回転する。さらに、その回転に対抗するように定着領域内に存在する羽根部は逆回転するため、鋼管補強部材には引張力が発生し、地盤崩壊に対して鋼管補強部材が抵抗して地盤開放面の崩落を防止できる補強を行うことができる。
つまり、本発明では、鋼管補強部材の施工後において、従来のように補強した鋼管の全体にわたってモルタルを地盤に注入して地盤と鋼管の定着を図る補強方法に比べて、羽根部を崩壊荷重に対する抵抗として有効に作用させることができる。これにより、地盤開放面における地盤の崩落を抑止することができ、施工時間を確保することができる。
【0011】
本発明では、上述したように、モルタルの使用することなく、もしくはモルタルの使用量を最小限に抑制することで、羽根部によって崩壊領域の崩壊荷重に抵抗することが可能となる。そして、地盤掘削時には補強した鋼管補強部材とともに地盤を掘削することになるが、施工の完了後に、補強した鋼管補強部材を撤去、廃棄する際に、地盤(土砂)、羽根部を備えた鋼管、及びモルタルを分別する作業にかかる手間や時間を大幅に低減することができ、施工効率の向上を図ることができる。
【0012】
本発明に係る鋼管補強部材では、前記羽根部は、前記管軸に対する傾斜角度が0°より大きく45°未満であることが好ましい。
【0013】
この場合には、鋼管補強部材が地盤から管軸方向に受ける力に対して羽根部をスムーズに回転させることができる。すなわち、傾斜角度が45°以上となる場合には、上記の管軸方向に地盤から受ける力が羽根部の傾斜角度に沿った第1分力と、羽根部に対して垂直な第2分力とに分解され、この傾斜角度が大きくなると第2分力が次第に大きくなり、かつ第2分力の方向が管軸に平行に近づくため、羽根部の回転を阻害する抵抗力として作用してしまう。本発明では、このような羽根部の回転を阻害する抵抗力を抑えて、ドリルビットとは別で鋼管と共に羽根部を回転させることができる。
【0014】
本発明に係る鋼管補強部材では、前記羽根部は、前記管軸方向から見て周方向に隣り合う前記羽根部同士の少なくとも一部が重なっていることが好ましい。
【0015】
この場合には、鋼管補強部材が地盤から管軸方向に羽根部で受ける面積を大きく取ることができるため、その地盤から管軸方向に受ける力を羽根部によって余さず受けることができ、より高い補強効果が得られる。
【0016】
また、本発明に係る地盤補強工法では、前記鋼管補強部材を前記地盤に打ち込んだ後、前記鋼管補強部材の周囲地盤の一部に、前記鋼管補強部材からモルタルを注入することを特徴としてもよい。
【0017】
また、本発明に係る地盤補強構造では、前記鋼管補強部材の周囲地盤の一部に注入されて硬化したモルタル充填領域が設けられていることを特徴としてもよい。
【0018】
このような構成とすることにより、定着領域の一部のみにモルタルを注入することができるので、鋼管補強部材の一部をモルタルを使用して定着領域に対して確実に定着することができる。
【0019】
また、本発明に係る地盤補強工法では、前記モルタルが注入される部分の前記鋼管は、窪み付き鋼管、突起付き鋼管、または孔あき鋼管であることを特徴としてもよい。
【0020】
このような構成とすることにより、モルタル充填領域においてモルタルと鋼管との密着性を高めることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の鋼管補強部材、地盤補強工法、および地盤補強構造によれば、鋼管補強部材の撤去、廃棄時の部材の分別を効率的に実施でき、施工効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第1実施形態による地盤補強構造を示す縦断面図である。
【
図2】
図1に示す地盤補強構造に使用される鋼管補強部材の側面図である。
【
図3】
図2に示す鋼管補強部材の鋼管の内側を示した側面図である。
【
図5】鋼管補強部材の複数箇所に設けられる羽根部を示した側面図である。
【
図7】鋼管に羽根部を加工する製造方法を示した側面図である。
【
図8】ねじ継手のカップリングに羽根部を設けた一例を示した断面図である。
【
図9】ねじ継手のニップルに羽根部を設けた一例を示した断面図である。
【
図10】第2実施形態による地盤補強構造を示す縦断面図である。
【
図11】モルタル注入時における鋼管補強部材の構成を示す縦断面図である。
【
図12】第3実施形態による地盤補強構造を示す縦断面図である。
【
図13】第1変形例による鋼管補強部材の複数箇所に設けられる羽根部を示した図であって、
図5に示すB-B線矢視断面図に相当する図である。
【
図14】第2変形例による羽根部を鋼管に備えた鋼管補強部材の側面図である。
【
図15】第2変形例による羽根部を鋼管に備えた鋼管補強部材の他の例の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態による鋼管補強部材、地盤補強工法、および地盤補強構造について、図面に基づいて説明する。
【0024】
(第1実施形態)
図1に示す本実施形態による鋼管補強部材1は、地盤補強工法においてトンネルの地盤Gを補強するため、トンネル掘削時に切羽の鏡面Ga(地盤開放面)の崩壊防止を目的として、鏡面Gaの地盤Gに対して断面内で複数が略水平方向に打ち込まれて施工され、地盤Gへの密着性と引張強度が同時に要求される長尺鏡ボルト工法(トンネル鏡補強工法)として使用されている。
図1は、複数の鋼管補強部材1を使用した地盤補強工法によって施工された地盤補強構造を示している。
本実施形態の鋼管補強部材1は、1本が例えば略3mの鋼管を複数本、接続継手で直列に接続されている。
【0025】
ここで、鏡面Ga(切羽)の前方の地盤Gは、
図1で示す二点鎖線で囲まれ鏡面Gaに近い領域(崩壊領域G1)で崩壊土砂になっており、崩壊荷重Pが作用する領域となっている。崩壊領域G1は、鏡面Gaの前方部分から上方(地上側)に向けた部分にわたる範囲である。なお、上記の二点鎖線の崩壊領域G1の範囲は、地盤Gの地質条件、トンネル断面(鏡面Ga)の大きさ、形状等の施工条件によって変化する。また、崩壊領域G1より前方(鏡面Gaから離れる方向)は、地盤崩壊が起こり難い領域(定着領域G2)となる。鏡面Gaから地盤Gに打ち込まれる鋼管補強部材1は、崩壊領域G1を通過し、鋼管補強部材1の長手方向(後述する管軸方向X)で先端部から中間部まで定着領域G2に位置するように打ち込まれる。
【0026】
図2に示すように、鋼管補強部材1において、鋼管の中心軸(管軸O)に沿う方向を管軸方向Xとし、管軸Oに直交する方向を径方向といい、管軸方向Xから見て管軸O回りに周回する方向を周方向とする。管軸方向Xにおいて、鋼管補強部材1を打ち込む前進側を前側、前方、先端側X1といい、その反対側を後側、後方、基端側X2という。そして、径方向で管軸O側を内側、内側の反対側で管軸Oから離れる側を外側として、以下説明する。
【0027】
図2及び
図3に示すように、鋼管補強部材1は、地盤補強工法で地盤Gに打ち込まれる鋼管2と、鋼管2の先端に設けられる地盤掘削用のドリルビット3と、鋼管2とドリルビット3との間に配置されるケーシングシュー4と、鋼管2の内側に配置されドリルビット3を後方から固定するインナーロッド5と、を備えている。
すなわち、鋼管補強部材1は、ドリルビット3には基端側X2に配置される不図示の掘削機械からの動力を伝達するインナーロッド5が接続されており、インナーロッド5の回転とともに地盤Gが掘削され、鋼管補強部材1もそれに伴い地盤Gに埋設される。
【0028】
ドリルビット3は、ケーシングシュー4の前方に設けられ、管軸Oを中心にして鋼管2およびケーシングシュー4から切り離した状態で回転可能に設けられている。ドリルビット3は、前方から見て円形に形成され、先端部の外周縁に沿って複数の切削ビット31を有している。ドリルビット3は、インナーロッド5の先端部に固定されている。
【0029】
図3に示すように、インナーロッド5は、鋼管補強部材1を地盤Gに打ち込む際の回転駆動力を、上述した掘削機械からドリルビット3に伝達するためのものであり、ドリルビット3と一体に設けられている。インナーロッド5は、鋼管2及びケーシングシュー4の内側に配置されている。インナーロッド5は、ドリルビット3を後方から固定して支持する固定部51と、固定部51と後方の回転駆動源(ここでは、例えばドリルジャンボの駆動装置)とを連結されるロッド本体52と、とを備えている。ロッド本体52は、鋼管2よりも細い外径であり、回転しても鋼管2に接触しないようになっている。鋼管2の継ぎ足しとともに、ロッド本体52も延長される。
【0030】
ドリルビット3およびインナーロッド5は、鋼管2およびケーシングシュー4とは切り離された状態で一体的に回転する。
ドリルビット3は、地盤Gを掘削する際の回転によって、硬い岩盤に対して管軸方向Xに前後に脈動する。この際にインナーロッド5の外周面の一部がケーシングシュー4の内周面に対して繰り返し衝突することになる。
【0031】
ケーシングシュー4は、鋼管2の先端部に対してねじ継手によって回転不能な状態で連結されている。ケーシングシュー4は、後方の基端側X2に雄ねじ加工された雄ねじを有するピン(図示省略)が設けられている。
【0032】
鋼管2は、
図4に示すように、掘削時に回転するドリルビット3から独立し、管軸O回りに自由に回転可能である。すなわち、鋼管2は、ドリルビット3の回転による拘束は無く、回転自由の状態である。鋼管2は、先端側X1において内面に雌ねじ加工され、ケーシングシュー4のピンの雄ねじに螺合される雌ねじを有するボックス(図示省略)を備えている。鋼管2として、例えば、JIS G3444に規定される一般構造用炭素鋼鋼管、建築構造用炭素鋼鋼管などを用いることができる。鋼管2は、例えば76.3mm~114.3mmの外径のものが採用される。
【0033】
図5に示すように、鋼管補強部材1として使用される鋼管2は、上述したように複数本が雄ねじと雌ねじからなるねじ継手部20によって連結され、管軸方向Xに直列に接続される。鋼管2同士を連結するねじ継手部20については、一般的な雄ねじと雌ねじによる継手のほか、後述するカップリング2A(
図8参照)やニップル2B(
図9参照)を用いた継手を採用することが可能である。
【0034】
図2に示すように、鋼管2の外周面2aには、管軸方向Xに複数箇所(本実施形態では3箇所)に複数枚の羽根部21から構成された羽根群210が設けられている。羽根群210は、鋼管2の外周面2aの周方向に沿って複数枚の羽根部21が配列されている。羽根部21は、径方向外側に突出するとともに管軸Oに対して傾斜している。
【0035】
本実施形態では、
図5に示すように、鋼管2の管軸方向Xで複数箇所に配置される羽根群210は、先端側X1の第1羽根群211と、管軸方向Xで中間部に配置された第2羽根群212と、基端側X2の第3羽根群213と、が設けられている。各羽根群210は、それぞれ同一方向に傾斜した同一形状となっている。
【0036】
羽根部21は、
図4に示すように、管軸Oに対する傾斜角度θが0°より大きく45°未満に設定されている。なお、傾斜角度θが一枚の羽根部21の中で変動する場合には、傾斜角度θの変動範囲を0°<θ<45°の範囲とすることが好ましい。本実施形態の羽根部21は、後方から見て基端側X2から先端側X1に向かうに従い漸次、反時計回りの方向に向けて緩やかに湾曲した状態で傾斜している。
羽根部21の管軸方向に延びる長さは、適宜設定されるが、らせん状に延びた形状とすることも可能である。
【0037】
鋼管補強部材1は、地盤Gから受ける力(管軸方向Xで先端側X1から基端側X2に向かう力)が羽根部21の傾斜角度θに沿った第1分力F1と羽根部21に対して垂直な第2分力F2とに分解される。この傾斜角度θが大きくなると第2分力F2が次第に大きくなり、かつ第2分力F2の方向が管軸Oに平行に近づくため、羽根部21の回転を阻害する抵抗力として作用してしまう。これを防止するために、本実施形態の鋼管補強部材1では、羽根部21の傾斜角度θを0°<θ<45°の範囲に設定し、
図2に示すように、崩壊領域G1から受ける力(崩壊荷重P)に対して羽根部21を管軸O回りの方向(
図2に示す矢印E1方向)にスムーズに回転させることが可能に構成されている。
【0038】
図4に示すように、複数の羽根部21の最大径D1は、ドリルビット3の外径D2よりも大きくなるように設定されている。なお、本実施形態では全ての羽根部21が同一形状であるので、全ての羽根部21が最大径D1の対象である。
これにより、本実施形態の鋼管補強部材1では、羽根部21の外周部21aがドリルビット3の外周縁3aよりも径方向外側に位置しているので、ドリルビット3が掘削して通過した緩んだ地盤よりも外側で、ドリルビット3で掘削されていない前記地盤より硬い地盤に羽根部21の外周部21aを配置させることができる。すなわち、羽根部21によって硬い地盤に抵抗させることができ、鋼管補強部材1の地盤Gへの打ち込み後に崩壊荷重Pに対する抵抗力が効果的に作用する。
【0039】
また、
図6に示すように、各羽根群210のそれぞれにおいて、管軸方向Xから見て周方向に隣り合う羽根部21同士の少なくとも一部が重なっている。このように重なっていることで、羽根部21は地盤Gからの力を余さず受けることができ、より高い補強効果が得られる。
【0040】
羽根部21の製作方法としては、鋼管2に羽根部21の部材を後付けで溶接する方法や、溶接ビードの余盛を羽根状に盛り上げて羽根部21とする方法を採用できる。また、
図7に示すように、真直の羽根部材を一体で設けた鋼管2(
図7の紙面左側の図)をねじり加工によって羽根部材に傾斜を形成して羽根部21とする(
図7の紙面右側の図)方法も採用することができる。ねじり加工で羽根部21に同一方向の傾斜をつける場合は、
図7の紙面左図に示すねじり前の羽根部21を前述の方法で製作するほか、熱管押出方法で羽根付きの鋼管部材を一体成型し、その後ねじりを加えるなどの方法としてもよい。
【0041】
図8および
図9は、複数の鋼管2同士を接続するねじ継手部20にカップリング2A(
図8参照)やニップル2B(
図9参照)を使用した場合に、これらカップリング2Aやニップル2Bの外周面に羽根部21を設けた構成を示している。
【0042】
図8に示す継手形態では、鋼管2の端部にピン22が形成されている。互いに連結する鋼管2のピン22同士を接続するカップリング2Aは、管軸方向Xの両端にボックス23を有している。そして、カップリング2Aの外周面2cに羽根部21が設けられている。
【0043】
図9に示す継手形態では、鋼管2の端部にボックス24が形成されている。互いに連結する鋼管2のボックス24同士を接続するニップル2Bは、管軸方向Xの両端にピン25を有している。そして、ニップル2Bのピン25同士の間の外周面2dに羽根部21が設けられている。
【0044】
この場合には、鋼管2に比べて長さが短く軽量なカップリング2Aやニップル2Bを対象とした羽根部21を形成する製作となることから、部材の製造効率の向上を図ることができる。
【0045】
次に、上述した鋼管補強部材1、地盤補強工法、および地盤補強構造の作用について、図面に基づいて詳細に説明する。
図1及び
図2に示すように、本実施形態によれば、トンネル掘削時に補強対象の地盤Gに羽根部21を備えた鋼管2を打ち込むことで、打ち込まれた鋼管補強部材1の羽根部21が地盤Gの崩壊に対して抵抗することにより、地盤Gを効果的に補強することができる。つまり、本実施形態では、羽根部21が鋼管2の管軸方向Xに複数箇所に存在しているので、鏡面Ga側で崩壊荷重が作用する崩壊領域G1内と、崩壊領域G1よりも前方(鏡面Ga側と反対側)の定着領域G2内との両方に羽根部21を存在させた状態で鋼管2を地盤Gに打ち込むことができる。
【0046】
しかも、本実施形態では、複数箇所の羽根部21のうち最大径の羽根部21がドリルビット3の外径よりも大きくすることにより、ドリルビット3の径よりも外側に位置し、ドリルビット3の通過によって緩んだ低強度の地盤ではなく、強度を保った地盤Gからの抵抗を羽根部21で受けることができる。
【0047】
これにより、
図2に示すように、崩壊荷重Pが作用する崩壊領域G1内に存在する羽根部21は、崩壊荷重Pの作用に伴い鏡面Ga側に近づくように第1方向E1に回転する。さらに、この第1方向E1の回転に対抗するように定着領域G2内に存在する羽根部21は第2方向E2に逆回転するため、鋼管補強部材1には引張力T1、T2が発生し、崩壊領域G1に対して鋼管補強部材1が抵抗して鏡面Gaの崩落を防止できる補強を行うことができる。ここで、鋼管補強部材1に作用する引張力は、基端側X2に作用する引張力を符号T1で示し、先端側X1に作用する引張力を符号T2で示している。
つまり、本実施形態では、鋼管補強部材1の施工後において、従来のように補強した鋼管の全体にわたってモルタルを地盤Gに注入して地盤Gと鋼管の定着を図る補強方法に比べて、羽根部21を崩壊荷重Pに対する抵抗として有効に作用させることができる。これにより、鏡面Gaにおける地盤Gの崩落を抑止することができ、トンネル施工を行う時間を確保することができる。
【0048】
本実施形態では、上述したように、モルタルの使用することなく、もしくはモルタルの使用量を最小限に抑制することで、羽根部21によって崩壊領域G1の崩壊荷重Pに抵抗することが可能となる。そして、トンネル掘削時には補強した鋼管補強部材1とともに地盤Gを掘削することになるが、トンネル施工の完了後に、補強した鋼管補強部材1を撤去、廃棄する際に、地盤(土砂)、羽根部21を備えた鋼管2、及びモルタルを分別する作業にかかる手間や時間を大幅に低減することができ、施工効率の向上を図ることができる。
【0049】
また、本実施形態では、
図4に示すように、羽根部21における管軸Oに対する傾斜角度θが0°より大きく45°未満とすることにより、鋼管補強部材1が地盤Gから管軸方向Xに受ける力に対して羽根部21をスムーズに回転させることができる。
これにより、本実施形態では、このような羽根部21の回転を阻害する抵抗力を抑えて、ドリルビット3とは別で鋼管2と共に羽根部21を回転させることができる。
【0050】
また、本実施形態では、
図6に示すように、羽根部21が管軸方向Xから見て周方向に隣り合う羽根部21同士の少なくとも一部が重なっていることから、鋼管補強部材1が地盤Gから管軸方向Xに羽根部21で受ける面積を大きく取ることができる。そのため、その地盤Gから管軸方向Xに受ける力を羽根部21によって余さず受けることができ、より高い補強効果が得られる。
【0051】
上述した本実施形態による鋼管補強部材1、地盤補強工法、および地盤補強構造では、鋼管補強部材1の撤去、廃棄時の部材の分別を効率的に実施でき、施工効率の向上を図ることができる。
【0052】
(第2実施形態)
図10に示すように、第2実施形態による地盤補強工法は、鋼管補強部材1を地盤Gに打ち込んだ後、鋼管補強部材1の周囲地盤Gの一部(第2実施形態では鋼管補強部材1の先端部分)のみに鋼管補強部材1からモルタル11を注入する工法である。すなわち、第2実施形態による地盤補強構造10Aは、鋼管補強部材1の周囲地盤Gの先端部分に注入されて硬化したモルタル充填領域11Aが設けられた構造となっている。モルタル11が注入される先端部分(モルタル充填領域11A)は、鋼管補強部材1の定着領域G2の一部である。
【0053】
図11に示すように、第2実施形態では、地盤Gに鋼管補強部材1を打ち込みモルタル11を注入する際に、パッカー27を備えたモルタル注入管26を鋼管2内に挿入する。鋼管2の先端部分には、モルタル11を鋼管内から地盤Gに向けて注入するための注入口28が設けられている。注入口28は、周方向に間隔をあけて複数設けられている。モルタル注入管26は、鋼管補強部材1の打ち込み後に、インナーロッド5(
図2参照)を基端側X2に引抜き、代わりに基端側X2から鋼管2内に挿入される。鋼管2内にセットされたモルタル注入管26の先端26aは、注入口28よりも後方(基端側X2)となるように配置される。パッカー27は、モルタル注入管26の先端26aより後方(基端側X2)の位置で鋼管2内を前後に遮蔽するように配置されている。
【0054】
モルタル注入管26の先端26aより吐出されるモルタル11は、
図11の矢印に示すようにパッカー27の先端側を満たしつつ、注入口28から地盤Gに注入される。これにより、モルタル充填領域11Aにモルタル11を充填することで、鋼管補強部材1の定着部の一部の地盤Gがモルタル11により補強される。
【0055】
なお、本第2実施形態の鋼管2としては、モルタル充填領域11Aにおいてモルタル11と鋼管2との密着性を高めることを目的とし、外周面2aに凹凸形状を形成した窪み付き鋼管、突起付き鋼管、または孔あき鋼管等のプレ加工された鋼管を採用することも可能である。
【0056】
図10に示すように、このように本第2実施形態では、定着領域G2の一部のみにモルタル11を注入することができるので、鋼管補強部材1の一部をモルタル11を使用して定着領域G2に対して確実に定着することができる。
そして、地盤Gにおけるモルタル11を注入するモルタル充填領域11Aが鋼管補強部材1における部分的な範囲であるから、羽根部21が回転することに伴う鋼管2の抵抗力が失われることを防ぐことができる。すなわち、モルタル充填領域11Aが限定的であるので、崩壊荷重Pの作用する崩壊領域G1に配置した羽根部21が回転することで鋼管2に抵抗力を発生させることができ、上述したように効果的な補強を行うことができる。
【0057】
しかも、第2実施形態では、モルタル11を使用した補強となるものの、そのモルタル11の使用量は限定的である。そのため、鋼管補強部材1の撤去、廃棄時の部材の分別にかかる手間もモルタルを使用しない場合よりは多少劣るが、従来のように鋼管補強部材の全体にわたってモルタルを注入している場合に比べて施工効率を向上できる。
【0058】
(第3実施形態)
次に、
図12に示す第3実施形態は、鋼管補強部材1を天端崩落を防止する長尺フォアパイル工法(鋼管先受け工法)に適用したものである。すなわち、上述した第1実施形態では、トンネル鏡補強工法を例にとって鏡面Gaから略水平方向に鋼管補強部材1を地盤Gに打ち込む構成について説明したが、第3実施形態では鏡面Gaの上端部分から斜め前方に向けて鋼管補強部材1を打ち込む方法である。
【0059】
第3実施形態でも、上述した第1実施形態や第2実施形態と同様の羽根部を有する鋼管を備えた鋼管補強部材1が使用され、崩壊荷重Pが作用する崩壊領域G1に対して羽根部が鋼管とともに回転することにより鋼管補強部材1に抵抗力が生じる。
【0060】
(第1変形例)
図13に示すように、第1変形例による鋼管補強部材1Aは、第1羽根群211の羽根部21の周方向の取り付け位置と、第2羽根群212の羽根部21の周方向の取り付け位置と、が異なっている。第1羽根群211および第2羽根群212は、それぞれ羽根部21が周方向に等間隔で4枚設けられている。鋼管補強部材1Aは、先端側X1から見て、第1羽根群211の周方向に隣り合う羽根部21、21同士の間に第2羽根群212の羽根部21が少なくとも一部(ここでは鋼管2側の部分、径方向内側の部分)が重なった状態で配置されている。
【0061】
第1変形例では、このような羽根部21の羽根形状とすることにより、羽根部21は地盤Gからの力を余さず受けることができ、より高い補強効果が得られる。
【0062】
(第2変形例)
次に、
図14および
図15に示す第2変形例による鋼管補強部材1B、1Cは、羽根部21A、21Bの形状を変えたものである。
図14に示す鋼管補強部材1Bの羽根部21Aは、傾斜方向に直線状に延びて鋼管2の外周面2aに設けられている。すなわち、羽根部21Aは、平板状のものである。
【0063】
図15に示す鋼管補強部材1Cの羽根部21Bは、上述した第1実施形態の羽根部21(
図2参照)の湾曲方向(傾斜の向き)が周方向に逆になっている。すなわち、羽根部21Bは、後方から見て基端側X2から先端側X1に向かうに従い漸次、時計回りの方向に向けて緩やかに湾曲した状態で傾斜している。
【0064】
以上、本発明による鋼管補強部材、地盤補強工法、および地盤補強構造の実施形態について説明したが、本発明は前記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0065】
例えば、本実施形態では、羽根部21における管軸Oに対する傾斜角度θが0°より大きく45°未満となるように構成された鋼管補強部材1を採用しているが、羽根部21の傾斜角度θを45°以上としてもよい。
【0066】
また、本実施形態のように、羽根部21が管軸方向Xから見て周方向に隣り合う羽根部21同士の少なくとも一部が重なっていることに限定されることはなく、隣り合う羽根部21同士の間に隙間を有し、互いに離れていてもよい。
【0067】
さらに、本実施形態では、羽根群210において周方向に配列される複数枚の羽根部21がすべて同じ形状としているが、これに限定されることはない。同一の羽根群210において、複数種類の形状の羽根部21が配列されていてもよい。
【0068】
また、上述した本第2実施形態では、鋼管補強部材1の先端部にモルタル11を注入する補強方法としているが、モルタル11の充填位置は定着領域G2内であれば鋼管補強部材1の先端部であることに限定されることはない。
【0069】
また、本実施形態では、鋼管補強部材、地盤補強工法、および地盤補強構造の対象としてトンネル施工を一例とし、地盤に対して横向きに鋼管を打ち込む施工について説明したが、本発明の鋼管補強部材、地盤補強工法、および地盤補強構造の適用対象はトンネルであることに限定されることはない。例えば、本発明の鋼管を縦向きに地盤に打ち込む杭に適用することも可能である。すなわち、地盤内に打ち込む鋼管の向きに制限されることはなく、補強する地盤の施工対象も本実施形態のようなトンネル施工の他、杭施工などにも採用できる。
【0070】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、前記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 鋼管補強部材
2 鋼管
2a 外周面
3 ドリルビット
4 ケーシングシュー
5 インナーロッド
10 地盤補強構造
11 モルタル
21、21A、21B 羽根部
210 羽根群
G 地盤
Ga 鏡面(地盤開放面)
G1 崩壊領域
G2 定着領域
P 崩壊荷重
X 管軸方向
X1 先端側
X2 基端側