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特開2023-68813アンテナバラン、およびアンテナバランを用いたアンテナアレイシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068813
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】アンテナバラン、およびアンテナバランを用いたアンテナアレイシステム
(51)【国際特許分類】
   H01P 5/10 20060101AFI20230511BHJP
   H01Q 1/28 20060101ALI20230511BHJP
   H01Q 21/06 20060101ALI20230511BHJP
   H03H 7/42 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
H01P5/10 C
H01Q1/28
H01Q21/06
H03H7/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180169
(22)【出願日】2021-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(72)【発明者】
【氏名】平原 大地
【テーマコード(参考)】
5J021
5J046
【Fターム(参考)】
5J021AB03
5J021CA04
5J021FA05
5J021HA07
5J046AB07
5J046BA03
5J046KA03
5J046TA03
(57)【要約】
【課題】小型化を実現することができるアンテナバラン、およびアンテナバランを用いたアンテナアレイシステムを提供すること。
【解決手段】第1の層に、第1の容量素子の第1電極と、第1のインダクタンス素子と、第2の容量素子の第1電極とを備える第1の導電体と、第1の層と対向して配置される第2の層に、第1の容量素子の第2電極と、第2のインダクタンス素子と、第2の容量素子の第2電極とを備える第2の導電体と、を備えるアンテナバラン。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の層に、第1の容量素子の第1電極と、第1のインダクタンス素子と、第2の容量素子の第1電極とを備える第1の導電体と、
前記第1の層と対向して配置される第2の層に、前記第1の容量素子の第2電極と、第2のインダクタンス素子と、前記第2の容量素子の第2電極とを備える第2の導電体と、
を備えるアンテナバラン。
【請求項2】
前記第1の容量素子は、前記第1の容量素子の前記第1電極と前記第1の容量素子の前記第2電極とで絶縁体を挟んだMIM(Metal-Insulator-Metal)構造の容量素子であり、
前記第2の容量素子は、前記第2の容量素子の前記第1電極と前記第2の容量素子の前記第2電極とで前記絶縁体を挟んだMIM構造の容量素子であり、
前記第1のインダクタンス素子と、前記第2のインダクタンス素子とは、メアンダライン構造のインダクタンス素子である、
請求項1に記載のアンテナバラン。
【請求項3】
前記第1の容量素子と、前記第1のインダクタンス素子とで左手系導波路を構成し、
前記第2の容量素子と、前記第2のインダクタンス素子とで右手系導波路を構成し、
給電正負を反転した場合には関係が逆となり、
並行線路による右手系導波路に対してそれぞれのアンテナの接続点に左手系導波路を構成する、
請求項2に記載のアンテナバラン。
【請求項4】
前記第1の容量素子、前記第1のインダクタンス素子、前記第2の容量素子、および前記第2のインダクタンス素子で周波数の不感帯域を形成する、
請求項3に記載のアンテナバラン。
【請求項5】
請求項1から請求項4のうちいずれか1項に記載のアンテナバランを多段に縦続接続したアレイ部、
を備える、
アンテナバランを用いたアンテナアレイシステム。
【請求項6】
前記第1の容量素子、前記第1のインダクタンス素子、前記第2の容量素子、および前記第2のインダクタンス素子で、広帯域化した周波数の通過帯域と不感帯域とのいずれか一方あるいは両方を形成する、
請求項5に記載のアンテナバランを用いたアンテナアレイシステム。
【請求項7】
前記アレイ部を複数備え、それぞれの前記アレイ部の間に、平衡アンテナを備える、
請求項5または請求項6に記載のアンテナバランを用いたアンテナアレイシステム。
【請求項8】
上空を移動する移動体に搭載される、
請求項5から請求項7のうちいずれか1項に記載のアンテナバランを用いたアンテナアレイシステム。
【請求項9】
前記移動体は、人工衛星である、
請求項8に記載のアンテナバランを用いたアンテナアレイシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナバラン、およびアンテナバランを用いたアンテナアレイシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、地球を周回する人工衛星などには、地上に設置されている無線基地局との間で通信や電波観測を行うためのアンテナが搭載されている。人工衛星などでは、特に線状アンテナを用いる低周波領域において、安定した接地導体を得られない環境である場合や、周囲に物理的あるいは電気的に干渉物が存在する場合があり、接地導体を共有する不平衡アンテナを用いるのは難しい場合がある。その対策として、モノポールアンテナではなく、例えば、ダイポールアンテナなどが用いられる場合がある。しかし、この場合には、アンテナサイズが大きくなる。そして、アンテナ効率を必要とする場合には、さらに、例えば、不平衡-平衡回路などが必要となる場合がある。
【0003】
従来から、平衡アンテナは、アンテナバランと呼ばれる不平衡-平衡変換器と組み合わされて用いられる(例えば、特許文献1)。アンテナバランとは、電気的に対称な動作をさせる平衡アンテナに正しく給電を行って、通信の効率化や外部との干渉を改善するための変換装置である。通信において目的とする周波数が高く(波長λが短く)、かつ必要な通信帯域幅が狭い場合、アンテナバランとして、通信を行う波長λに基づく寸法(例えば、λ/4)の構造を持つものが多く用いられる。また、アンテナバランは、不平衡-平衡変換器回路を多段に縦続接続することによって、通信の広帯域化を図る手法も提案されている。
【0004】
近年では、アンテナの小型化が求められている。このため、近年では、通信の周波数が低い場合や、広い通信帯域幅が必要な場合に、小型化を実現することが可能なコイルなどの電子部品を利用してアンテナバランの小型化を実現することも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-021631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、宇宙空間などのような特殊な環境下でアンテナが使用される場合などでは、アンテナバランの小型化のために電子部品の利用が許容されないこともある。このため、十分な接地導体が得られない接地制約があり、電子部品を利用することができない特殊な環境下でアンテナが使用される場合には、アンテナバランを小型化するのは困難な場合があった。
【0007】
本発明は、上記の課題認識に基づいてなされたものであり、小型化を実現することができるアンテナバラン、およびアンテナバランを用いたアンテナアレイシステムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係るアンテナバランは、第1の層に、第1の容量素子の第1電極と、第1のインダクタンス素子と、第2の容量素子の第1電極とを備える第1の導電体と、前記第1の層と対向して配置される第2の層に、前記第1の容量素子の第2電極と、第2のインダクタンス素子と、前記第2の容量素子の第2電極とを備える第2の導電体と、を備えるアンテナバランである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、アンテナバラン、およびアンテナバランを用いたアンテナアレイシステムの小型化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係るアンテナアレイシステムの構成の一例を示す図である。
図2】実施形態に係るアンテナバランの構造の一例を示す図である。
図3】実施形態に係るアンテナバランの等価回路を示す回路図である。
図4】実施形態に係るアンテナバランの位相特性の一例を示す図である。
図5】実施形態に係るアンテナバランの通過特性の一例を示す図である。
図6】実施形態に係るアンテナバランアレイの構造の一例を示す図である。
図7】実施形態に係るアンテナアレイシステムの搭載例を示す図である。
図8】実施形態に係るアンテナバランの構造の別の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照し、本発明のアンテナバラン、およびアンテナバランを用いたアンテナシステムの実施形態について説明する。低周波受信のアンテナシステムにおいて、それぞれのアンテナが独立して安定した接地導体を得られない環境や、周囲に機械的または電気的に干渉物が存在する環境では、ダイポールアンテナのような平衡アンテナを用いる必要がある。その場合、ダイポールアンテナのサイズは低周波領域において大きな寸法となり搭載制約を受けるが、それに加えてアンテナ効率を高めるための導波路型アンテナバラン回路も大きなサイズとなり課題となる。
【0012】
[アンテナアレイシステムの構成]
図1は、実施形態に係るアンテナアレイシステムの構成の一例を示す図である。図1に示すアンテナアレイシステム1は、例えば、複数のアンテナ10と、実施形態に係るアンテナバラン20とが複数縦続されたアンテナアレイシステムである。
【0013】
アンテナ10は、例えば、ダイポールアンテナなどの平衡アンテナである。図1に示すアンテナアレイシステム1では、給電点30から給電された不平衡の電力(例えば、同軸ケーブルなどの不平衡の送電線を介して給電された電力であってもよい)を、アンテナバラン20によってアンテナ10に適した平衡の位相の電力に変換して給電する。この場合、アンテナバラン20が給電点30から給電された電力を変換する位相は、180°である。
【0014】
さらに、図1に示すアンテナアレイシステム1では、三つのアンテナバラン20を縦続接続させた三段のアンテナバランアレイ20Aを構成し、それぞれのアンテナバランアレイ20Aによって変換した給電点30からの電力を、対応するアンテナ10に給電する構成を示している。より具体的には、アンテナバランアレイ20Aの1段目に給電点30が接続され、それぞれのアンテナバラン20によって変換した電力を、3段目のアンテナバラン20から、アンテナ10において対となっているアンテナ10aおよびアンテナ10bとのそれぞれに給電する構成を示している。アンテナバラン20を縦続接続させることにより、アンテナ10における通信帯域幅を広げる、つまり、広帯域化させることができる。
【0015】
アンテナバランアレイ20Aは、特許請求の範囲における「アレイ部」の一例である。
【0016】
アンテナバラン20は、低周波の通信に着目した不平衡-平衡変換器である。アンテナバラン20は、コイルなどの電子部品を利用したものではなく、メタマテリアル技術に基づく右手/左手系複合(Composite Right/Left-Handed:CRLH)導波路の回路技術が用いたインダクタンス素子(L)と容量素子(C)との構成である。これにより、アンテナバラン20は、単純な導波路型バランよりも小型化を実現することができる。より具体的には、単純な導波路型バランでは、例えば、動作周波数のλ/4の寸法で構成する(アンテナ10の半分の長さ相当の寸法で構成する)ことが必要となるが、アンテナバラン20では、電子部品の寸法に相当するような、例えば、λ/40の寸法で構成できる。
【0017】
[アンテナバランの構成]
図2は、実施形態に係るアンテナバラン20の構造の一例を示す図である。図2には、一つのアンテナバラン20の構造を示している。アンテナバラン20は、所定の薄さの導電体20-1と、導電体20-2と、を備える。図2の(a)には、アンテナバラン20を構成した場合の導電体20-1と導電体20-2の配置の一例を示している。図2の(b)には、図2の(a)に示すアンテナバラン20の断面の構造を示している。図2の(b)に示すように、アンテナバラン20において、導電体20-1と導電体20-2とは、絶縁体ISを挟んで対向して配置される。言い換えれば、アンテナバラン20は、導電体20-1と導電体20-2との二層の導電体で形成される。絶縁体ISは、例えば、樹脂など、容量素子を形成する際に用いられる誘電体である。図2の(c)と図2の(d)とのそれぞれには、図2の(a)に示すアンテナバラン20を分解したときの導電体20-1または導電体20-2の形状の一例(ただし、絶縁体ISは省略している)を示している。
【0018】
導電体20-1は、特許請求の範囲における「第1の層」および「第1の導電体」の一例である。導電体20-2は、特許請求の範囲における「第2の層」および「第2の導電体」の一例である。
【0019】
導電体20-1および導電体20-2のそれぞれは、例えば、銅板や鉄板などの金属板である。導電体20-1および導電体20-2のそれぞれは、例えば、アルミや真鍮など、アンテナ10と同様の金属材料の板であってもよい。導電体20-1と導電体20-2とのそれぞれには、本来持つ並行線路としての右手系に加えて、左手系メアンダラインインダクタLL&LRと、他方の導電体との間で形成される左手系MIM(Metal-Insulator-Metal)キャパシタCR&CLとでCRLH導波路を構成する。より具体的には、端子P1から端子P2において、右手系並行線路に並列に加わる左手系のインダクタンス素子LLと、右手系並行線路に直列に加わる左手系の容量素子CLが形成される。端子P1から端子P3において、右手系並行線路に並列に加わる左手系のインダクタンス素子LRと、右手系並行線路に直列に加わる左手系の容量素子CRが形成される。図2では実施形態の一例として、バラン長Lの半分(L/2)までの領域に別々の導電体層でインダクタンス素子LLとインダクタンス素子LRとが形成されている場合を示しており、CRLH回路によりバラン長Lは、例えば、λ/40(0.025λ)の長さとなる。
【0020】
図2の(b)に示すように、導電体20-1と導電体20-2とが絶縁体ISを挟んで対向して配置されることにより、アンテナバラン20では、第1電極CL-Aと第2電極CL-Bとのそれぞれを電極とするMIM構造の容量素子CLが構成され、第1電極CR-Aと第2電極CR-Bとのそれぞれを電極とするMIM構造の容量素子CRが構成される。第1電極CL-Aおよび第2電極CL-Bの大きさ(面積)を変えることにより、容量素子CLの容量値を変更(調整、最適化)することができ、第1電極CR-Aおよび第2電極CR-Bの面積を変えることにより、容量素子CRの容量値を調整することができる。
【0021】
図2に示すように、導電体20-1および導電体20-2において、細く形成した導電体の部分(以下、説明を容易にするため、「導電線」という)を折り返すように形成する(メアンダライン構造を形成する)ことにより、アンテナバラン20では、インダクタンス素子LLおよびインダクタンス素子LRのそれぞれが構成される。メアンダライン構造における導電線の長さや幅(細さ)、折り返す回数を変えることにより、インダクタンス素子LLおよびインダクタンス素子LRのインダクタンス値を調整することができる。
【0022】
容量素子CLは、特許請求の範囲における「第1の容量素子」の一例であり、インダクタンス素子LLは、特許請求の範囲における「第1のインダクタンス素子」の一例である。容量素子CRは、特許請求の範囲における「第2の容量素子」の一例であり、インダクタンス素子LRは、特許請求の範囲における「第2のインダクタンス素子」の一例である。
【0023】
アンテナバラン20では、端子P1側において導電体20-1および導電体20-2に給電点30を接続する。そして、アンテナバラン20では、導電体20-1の端子P2と、導電体20-2の端子P3にアンテナ10を接続する。より具体的には、アンテナバラン20を構成する導電体20-1の端子P1に給電点30からの電力を送電する同軸ケーブルの心線を接続し、導電体20-2の端子P1に同軸ケーブルのグラウンド(接地)線を接続する。この接続は、逆であってもよい。そして、アンテナバラン20を構成する導電体20-1の端子P2に、アンテナ10の一方(例えば、アンテナ10a)を接続し、導電体20-2の端子P3に、アンテナ10の他方(例えば、アンテナ10b)を接続する。
【0024】
ここで、アンテナバラン20の等価回路について説明する。図3は、実施形態に係るアンテナバラン20の等価回路を示す回路図である。図3には、アンテナバラン20のそれぞれに接続される給電点30の負荷インピーダンスZ30と、一方のアンテナ10の負荷インピーダンスZ11と、他方のアンテナ10の負荷インピーダンスZ12ともを併せて示している。
【0025】
図3に示すように、左手系導波路LHでは、端子P1から端子P2に向かう経路中に容量素子CLが直列に接続され、容量素子CLと端子P2との間にインダクタンス素子LLが並列に接続されている。一方、右手系導波路RHでは、端子P1から端子P3に向かう経路中にインダクタンス素子LRが直列に接続され、インダクタンス素子LRと端子P3との間に容量素子CRが並列に接続されている。そして、インダクタンス素子LLと容量素子CRとが直列に接続され、インダクタンス素子LLと容量素子CRとの接続点が、負荷インピーダンスZ30、負荷インピーダンスZ11、および負荷インピーダンスZ12と共通のグラウンドに接続されている。端子P1の給電点の正負(給電正負)を逆転して見れば左手系と右手系との関係は反転し、実際には図2に示したように並行線路上に形成されるため、通常の右手系回路に給電正負のそれぞれから左手系回路が追加された動作を得る。
【0026】
このように、アンテナバラン20では、図2に示す構造によって、図3に示す等価回路図のようなCRLH導波路の回路を実現している。これにより、アンテナバラン20では、給電点30から給電された電力の不平衡の位相を、アンテナ10に適した180°の平衡の位相に変換して給電することができる。
【0027】
ここで、アンテナバラン20の特性の一例について説明する。図4は、実施形態に係るアンテナバラン20の位相特性の一例を示す図である。図4に示す位相特性は、図2に示したアンテナバラン20の構造におけるバラン長Lが0.025λの場合でのS21、S31特性である。アンテナバラン20は、検証した周波数の範囲(帯域)において、特性S21と特性S31との間で、180°の位相差を維持することができる。
【0028】
次に、図5を参照してアンテナバラン20における通過特性について説明する。図5は、実施形態に係るアンテナバラン20の通過特性の一例を示す図である。アンテナバラン20は、検証した周波数の帯域において、特性S21と特性S31とのそれぞれに対して、信号強度が強い(高い)周波数と、信号強度が弱い(低い)周波数とを得ることができる。言い換えれば、アンテナアレイシステム1において、アンテナバラン20の信号強度が強い(高い)周波数の帯域を通信周波数の通過帯域とし、信号強度が弱い(低い)周波数の帯域を通信周波数の不感帯域として得ることができる。さらに言い換えれば、アンテナアレイシステム1では、アンテナバラン20によってフィルタを構成したのと同様の効果を得ることができる。
【0029】
アンテナバラン20では、図4および図5のそれぞれに示したような特性を得ることができるため、上述したように、容量素子CLおよび容量素子CRの容量値と、インダクタンス素子LLおよびインダクタンス素子LRのインダクタンス値とを調整する(つまり、最適化する)ことで、アンテナアレイシステム1の通信において要求される通信特性を実現することができる。つまり、図4に示した特性によって、対となっているアンテナ10において安定した180°の位相差を維持することができ、図5に示した特性によって、通信周波数の通過帯域と不感帯域とのいずれか一方あるいは両方を形成し、効率的な通信を行うと共に、通信に対する外部からの干渉を抑制させることができる。さらに、上述したように、複数のアンテナバラン20を縦続接続させることにより、アンテナアレイシステム1の通信の広帯域化を実現することができる。
【0030】
ここで、アンテナバラン20を縦続接続させる場合の一例について説明する。図6は、実施形態に係るアンテナバランアレイ20Aの構造の一例を示す図である。図6には、図2に示した構造のアンテナバラン20を三段に縦続接続させたアンテナバランアレイ20Aの構造を示している。図6に示すように、アンテナバランアレイ20Aを構成する場合、接続するそれぞれのアンテナバラン20を構成する導電体20-1同士、導電体20-2同士を接続させる。これにより、複数のアンテナバラン20を縦続接続させたアンテナバランアレイ20Aを容易に構成することができる。
【0031】
図6では、2段目のアンテナバラン20を構成する導電体20-1および導電体20-2のそれぞれを水平方向(図6のX軸回り)に180°回転させて接続させ、さらに、3段目のアンテナバラン20を構成する導電体20-1および導電体20-2のそれぞれを水平方向に180°回転させて接続させている場合の一例を示している。そして、図6では、1段目と2段目とのそれぞれのアンテナバラン20を構成する導電体20-1の第1電極CL-Aの導電体同士を接続させ、1段目と2段目とのそれぞれのアンテナバラン20を構成する導電体20-2の第2電極CR-Bの導電体同士を接続させている場合の一例を示している。このため、図6では、電極の導電体同士を接続させる部分の端子は省略している。つまり、図6には、2段目および3段目のそれぞれのアンテナバラン20を構成する導電体を左右に反転させ、電極の導電体の長さが延長された部分を互いに接続(直接接続)させるようにして、アンテナバラン20を三段に縦続接続させたアンテナバランアレイ20Aを構成している場合の一例を示している。しかし、アンテナバランアレイ20Aを構成する際のそれぞれの導電体の接続方法は、図6に示した一例に限定されない。例えば、2段目および3段目のそれぞれの導電体を回転させずに、つまり、インダクタンス素子を形成する位置が3段とも同じであるように、接続させてもよい。この場合、電極の導電体同士を接続させる部分の導電体の長さを延長することによって互いに接続させるようにしてもよい。
【0032】
[アンテナアレイシステムの搭載例]
次に、アンテナアレイシステム1の搭載例について説明する。図7は、実施形態に係るアンテナアレイシステム1の搭載例を示す図である。図7には、アンテナアレイシステム1を、宇宙機である人工衛星ASに搭載した場合の一例を示している。上述したように、アンテナバラン20を小型化することができる。このため、アンテナアレイシステム1は、人工衛星ASのアンテナアレイ部AAのみならず、様々な箇所に取り付ける(搭載する)ことができる。図7には、アンテナアレイシステム1を、人工衛星ASの本体部、太陽電池パドルの端部、および合成開口レーダ(Synthetic Aperture Radar:SAR)のアンテナの端部のそれぞれの位置に取り付けた場合の一例を模式的に示している。
【0033】
図7には、アンテナアレイシステム1を人工衛星ASに搭載した場合の一例を示したが、アンテナアレイシステム1は、人工衛星ASのみならず、アンテナの搭載に制約が多い宇宙機や移動体など、種々のものに搭載することができる。宇宙機は、地球の地表上空や、他の天体や物体の表面上空を所定の周回軌道に沿って周回しながら移動する人工衛星や特定の位置を対象とする静止衛星であってもよいし、他の天体や物体を観測するために出向く(さらに地球に帰還してもよい)観測衛星であってもよい。他の天体には、火星や金星などの地球と異なる他の惑星、月やタイタンなどの衛星、イトカワやリュウグウなどの小惑星などが含まれる。他の物体には、岩石などが含まれる。移動体は、人工衛星や観測衛星に代えて、例えば、飛行機、ドローンなどの他の飛翔体であってもよい。
【0034】
[アンテナバランの構成の変形例]
図2に示したアンテナバラン20の構造では、それぞれの導電体において、容量素子を構成するためのバラン長Lの電極を形成し、バラン長Lの半分(L/2)までの領域にインダクタンス素子を形成する場合を示した。しかし、アンテナバラン20を構成するそれぞれの導電体において容量素子とインダクタンス素子とのそれぞれを形成する形は、図2に示した形に限定されない。図8は、実施形態に係るアンテナバラン20の構造の別の一例を示す図である。図8には、アンテナバラン20を構成するそれぞれの導電体に、インダクタンス素子を形成する別の一例を二つ示している。
【0035】
図8の(a-1)および(a-2)には、インダクタンス素子LLおよびインダクタンス素子LRを、それぞれの容量素子のバラン長Lまでの領域に形成した場合の一例を示している。より具体的には、図8の(a-1)には、インダクタンス素子LLを、容量素子CLの第1電極CL-Aおよび容量素子CRの第1電極CR-Aのバラン長Lまでの領域に形成した導電体20-1の変形例である導電体21-1を示している。一方、図8の(a-2)には、インダクタンス素子LRを、容量素子CLの第2電極CL-Bおよび容量素子CRの第2電極CR-Bのバラン長Lまでの領域に形成した導電体20-2の変形例である導電体21-2を示している。
【0036】
図8の(b-1)および(b-2)には、インダクタンス素子LLおよびインダクタンス素子LRのそれぞれを形成する領域は、アンテナバラン20と同様であるが、導電線を異なる向きに形成した場合の一例を示している。より具体的には、図8の(b-1)には、インダクタンス素子LLを形成するための導電線の向きを、容量素子CLの第1電極CL-Aおよび容量素子CRの第1電極CR-Aのバラン長Lの方向と直交する方向にして形成した導電体20-1の変形例である導電体22-1を示している。一方、図8の(b-2)には、インダクタンス素子LRを形成するための導電線の向きを、容量素子CLの第2電極CL-Bおよび容量素子CRの第2電極CR-Bのバラン長Lの方向と直交する方向にして形成した導電体20-2の変形例である導電体22-2を示している。
【0037】
これらのように、アンテナバラン20を構成するそれぞれの導電体に容量素子とインダクタンス素子とのそれぞれを形成する形は、容量素子CLおよび容量素子CRの容量値と、インダクタンス素子LLおよびインダクタンス素子LRのインダクタンス値とを調整(最適化)することによって、アンテナアレイシステム1に要求される通信特性を実現することができる範囲内で、いかなるように形成してもよい。従って、図2および図8に示した一例では、それぞれの容量素子とインダクタンス素子とを形成する導電体20-1と導電体20-2との二層の導電体でアンテナバラン20を形成する場合を示したが、アンテナバラン20を形成する導電体の層数は、二層に限らない。例えば、アンテナバラン20を、四層の導電体で形成してもよい。より具体的には、絶縁体ISを挟んで対向する二つの層で容量素子を形成し、さらに別の絶縁体を挟んでそれぞれの導電体の相と対向する外側の二つの層のそれぞれに、インダクタンス素子を形成してもよい。このとき、それぞれの容量素子を形成する導電体の層と、インダクタンス素子を形成する導電体の層とを変更してもよい。
【0038】
上述したように、実施形態のアンテナバラン20では、個別の電子部品を利用することなく、CRLH導波路の回路技術を用いたアンテナバランを実現する。これにより、実施形態のアンテナバラン20を用いたアンテナアレイシステム1では、安定した接地導体を得られない環境や、周囲に干渉物が存在する環境などの特殊な環境で使用される場合であっても、安定した位相差を維持して効率的な通信を行うと共に、通信に対する外部からの干渉を抑制させることができる。さらに、実施形態のアンテナバラン20を用いたアンテナアレイシステム1は、多くの放射線が存在し、非常に高温あるいは低温となり、容易に保守(メンテナンス)を行うことができない、つまり、長寿命であることが要求される宇宙空間などのさらに特殊な環境においても、同様の効果を得るとともに、実施形態のアンテナバラン20が個別の電子部品や特殊な材料を利用しないことにより、長寿命化を実現することができる。そして、実施形態のアンテナバラン20は、CRLH導波路の回路技術を用いることによって小型化を実現することができるため、実施形態のアンテナバラン20を用いたアンテナアレイシステム1の人工衛星ASなどへの搭載を容易にするとともに、軽量化も実現することができる。
【0039】
上述した実施形態では、移動体が地球の地表上空の所定の周回軌道上を周回しながら移動する人工衛星であるものとした場合について説明した。しかし、移動体は、弾道飛行を行うロケットであってもよい。このロケットが多段式のロケットである場合、例えば、衛星搭載部など、人工衛星ASが搭載された状態でロケットの上段部(最上段部)に結合されて打ち上げられ、人工衛星ASを所定の周回軌道上に送出する機構も、地球の地表上空を周回すること(人工衛星ASより短い時間である場合も含む)と同様に考えられる。そして、このような衛星搭載部との間で通信を行うアンテナアレイシステムとしても、実施形態のアンテナバラン20を用いたアンテナアレイシステム1を使用することが考えられる。
【0040】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形および置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0041】
1・・・アンテナアレイシステム
10,10a,10b・・・アンテナ
20・・・アンテナバラン
20A・・・アンテナバランアレイ
20-1・・・導電体
20-2・・・導電体
CL・・・容量素子
CL-A・・・第1電極
CL-B・・・第2電極
CR・・・容量素子
CR-A・・・第1電極
CR-B・・・第2電極
LL・・・インダクタンス素子
LR・・・インダクタンス素子
P1・・・端子
P2・・・端子
P3・・・端子
Z30・・・負荷インピーダンス
Z11・・・負荷インピーダンス
Z12・・・負荷インピーダンス
LH・・・左手系導波路
RH・・・右手系導波路
30・・・給電点
AS・・・人工衛星(宇宙機)
AA・・・アンテナアレイ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8