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  • 特開-深穴加工方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068832
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】深穴加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 49/00 20060101AFI20230511BHJP
   B23B 41/02 20060101ALI20230511BHJP
   B23B 47/18 20060101ALI20230511BHJP
   B23Q 17/22 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
B23B49/00 A
B23B41/02
B23B47/18 B
B23Q17/22 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180201
(22)【出願日】2021-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】中川 純一
【テーマコード(参考)】
3C029
3C036
【Fターム(参考)】
3C029AA24
3C036AA13
3C036DD08
3C036LL08
(57)【要約】
【課題】 片持ち支持したドリル工具を軸線に沿って移動させ先端部を被削物に押し当てて深穴を加工していく深穴加工方法において、加工途中での曲がりを検知し、この曲がりを定量化してドリル工具の制御に反映させ得る深穴加工方法の提供。
【解決手段】 開口からの軸線に沿った後方位置におけるドリル工具の振動変位を非接触変位センサで計測し、振動変位を周波数解析し200Hzよりも低周波数側の所定周波数の振動変位に対する寄与分からドリル工具の移動を制御することを特徴とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
片持ち支持したドリル工具を軸線に沿って前方へと移動させ先端部を被削物へと押し当てて開口からボーリング孔を加工していく深穴加工方法であって、
前記開口からの前記軸線に沿った後方位置における前記ドリル工具の振動変位を非接触変位センサで計測し、前記振動変位を周波数解析し200Hzよりも低周波数側の所定周波数の前記振動変位に対する寄与分から前記ドリル工具の前記移動を制御することを特徴とする深穴加工方法。
【請求項2】
複数の前記所定周波数を選択し、前記所定周波数ごとの前記振動変位に対する寄与分を積算して前記ドリル工具の前記移動を制御することを特徴とする請求項1記載の深穴加工方法。
【請求項3】
前記振動変位の前記寄与分の積算値が閾値を超えたときに前記ドリル工具の前記移動を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の深穴加工方法。
【請求項4】
前記ドリル工具の送り速度により前記移動を制御することを特徴とする請求項1乃至3のうちの1つに記載の深穴加工方法。
【請求項5】
前記ドリル工具はチューブと前記チューブの先端に取り付けられた丸棒状のヘッド本体とを含み、前記ヘッド本体は前方端部の外周縁上に取り付けられた切刃とこれと前記外周縁の対向位置に取り付けられたガイドパッドとを備えることを特徴とする請求項1乃至4のうちの1つに記載の深穴加工方法。
【請求項6】
前記移動の制御は、前記ガイドパッドの位置を変化させて行うことを特徴とする請求項5記載の深穴加工方法。
【請求項7】
前記非接触変位センサは渦電流によるセンサであることを特徴とする請求項1乃至6のうちの1つに記載の深穴加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、片持ち支持したドリル工具を軸線に沿って移動させ先端部を被削物に押し当てて深穴を加工していく深穴加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
片持ち支持したドリル工具を軸線に沿って移動させ先端部を被削物に押し当ててボーリング孔(深穴)を加工していく深穴加工では、ドリル工具の軸ぶれによるボーリング孔の曲がりが奥部へ行くほど拡大するため、ドリル工具の直進制御が重要となる。
【0003】
例えば、特許文献1では、BTA(Boring&Trepanning Association)方式と呼ばれる先端部にカッターヘッドを設けたボーリングバーを用い、該バーとボーリング孔との間から切削油を供給して切屑をボーリングバー内部の通路穴から切屑受けに排出しながら深穴加工する方法について述べている。ここでは、ボーリングバーの先端内側に反射体を設け、後方側からレーザー光を当てて光位置検出器でヘッドの曲がり変位量を検出し、ガイドパッドの出没を調整してボーリング孔の曲がりを矯正する方法を開示している。
【0004】
また、特許文献2では、同様にBTA方式において、切刃とガイドパットとを含むカッターヘッドの軸線に沿って反対側に配設された工具保持具の外周に設けられた歪ゲージからなる歪検出器によりこの保持部分に生じたボーリングバーの歪量を検出し、この歪量を打ち消すようにボーリングバーを制御する方法を開示している。ボーリングバーの進行方向の制御は、ガイドパットをカッターヘッドから押し引きして変位させて行うとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平03-26412号公報
【特許文献2】実開平06-71047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、深穴加工では、ドリル工具の直進制御が重要となるが、これには、加工途中の曲がりを検知し、この曲がりを定量化してドリル工具の制御に反映させることが求められる。一方で、ドリル工具の先端と反対側にある工具保持具の如き計測部分は、加工途中においてドリル工具の先端との位置が変化し支点を変化させるため、曲がりを定量化することが難しい。
【0007】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、片持ち支持したドリル工具を軸線に沿って移動させ先端部を被削物に押し当てて深穴を加工していく深穴加工方法において、加工途中での曲がりを検知し、この曲がりを定量化してドリル工具の制御に反映させ得る深穴加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による深穴加工方法は、片持ち支持したドリル工具を軸線に沿って前方へと移動させ先端部を被削物へと押し当てて開口からボーリング孔を加工していく深穴加工方法であって、前記開口からの前記軸線に沿った後方位置における前記ドリル工具の振動変位を非接触変位センサで計測し、前記振動変位を周波数解析し200Hzよりも低周波数側の所定周波数の前記振動変位に対する寄与分から前記ドリル工具の前記移動を制御することを特徴とする。
【0009】
かかる特徴によれば、加工途中におけるドリル工具の軸線に沿った方向の測定位置が変化しても、曲がりを定量化できて、これをドリル工具の制御に反映させ得るのである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明による深穴加工方法の一例に用いられるドリル工具及び被削物の側断面図である。
図2】ドリル工具のヘッド本体の正面図である。
図3】(a)上下方向及び(b)水平方向の振動変位成分の積算値と孔曲がりとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明による1つの実施例としての深穴加工方法について、図1及び図2を用いて説明する。
【0012】
図1に示すように、本実施例における深穴加工には、加工装置10が用いられる。加工装置10は、被削物20を切削するためのドリル工具1と、被削物20を保持して軸線Aの周りに回転させるチャック部2と、ドリル工具1を軸線Aに沿って前方(図示左方)へ移動させる送り機構(不図示)に接続された支持部3とを含む。被削物20は略棒状体であり、チャック部2により一側の端部を把持されるとともに他側を支持部3によって支持されてその長手方向を軸線Aに沿って配置されるとともに軸線A周りに回転される。
【0013】
ドリル工具1は、被削物20を切削する丸棒状のヘッド本体12と、ヘッド本体12を先端に取り付けて片持ち支持するためのチューブ11とを含む。また、ドリル工具1は、チューブ11の根元側で支持部3に支持されつつ前方に送り出し可能とされている。そしてドリル工具1はその先端部のヘッド本体12を被削物20に押し当てて被削物に開口25aを加工し、さらに開口25aからボーリング孔25を加工することができる。
【0014】
ここで、ドリル工具1は、BTA方式であり、切屑をチューブ11内部から排出するための機構を有する。すなわち、回転する被削物20の他端部に当接して切削油の流出を封じるシール21と、シール21を介して切削油を被削物20の開口25aからボーリング孔25の内周及びドリル工具1の外周の間に送り込むための通路を形成するオイルプレッシャーヘッド22と、オイルプレッシャーヘッド22の内部でチューブ11を案内するガイドブッシュ23とを備える。
【0015】
また、図2を併せて参照すると、ヘッド本体12は、前方端部に複数の切刃13(13a、13b、13c)を備え、そのうちの1つの切刃13aは外周縁上に取り付けられている。つまり、被削物20に切刃13を当接させて前方及び外周を切削し、ボーリング孔を前方へ広げることができる。また、ヘッド本体12には、少なくとも切刃13aと対向する位置を含む外周縁上にガイドパッド15が複数設けられ、ボーリング孔の内周に対する切刃13aの位置を定めることができる。また、ヘッド本体12は、切屑を内部に導入するための貫通穴14を切刃13のすくい面側に設けており、貫通穴14をチューブ11の内側に連通させている。なお、ガイドパッド15を可動式とした上で、ガイドパッド15の位置を変化させてドリル工具1の移動を制御するようにしてもよい。
【0016】
これらにより、切削油は、被削物20に形成されたボーリング孔の内部においてチューブ11の外周をヘッド本体12に向けて導かれる。さらに切削された切屑は、ヘッド本体12の外周から導かれる切削油に流されるようにして貫通穴14を通過し、チューブ11の内側を通って支持部3側に移動し、回収される。図示を省略するが、切屑を回収された切削油は循環させて再利用される。その他詳細については公知であり、ここでは説明を省略する。
【0017】
本実施例において、加工装置10は、さらに、ドリル工具1の振動変位を計測する非接触変位センサ41を備える。非接触変位センサ41は、オイルプレッシャーヘッド22の近傍で支持部3側に配置されてチューブ11の外周の変位を検出し、これによってドリル工具1の後方位置における振動変位を計測することができる。また、非接触変位センサ41は演算部42に接続され、演算部42によって振動変位の周波数解析を行うことができる。非接触変位センサ41としては、例えば渦電流による変位センサを好適に用い得る。
【0018】
ところで、このようなドリル工具1による深穴加工においては、ドリル工具1がボーリング孔の内部に深く進入するよう片持ち支持とされるため、曲がりの発生が問題になる。そのため、ドリル工具1の直進制御を重要とする。例えば、ドリル工具1はその移動による被削物20に対する送り速度を低くすることで直進性を向上させることができる。しかし、深穴加工の全工程を通して低い送り速度で加工すると作業効率を大きく低下させてしまう。そこで、曲がりを加工途中の初期段階で検知してこの曲がりを定量化した上で、ドリル工具1の制御に反映させることが考慮される。
【0019】
ところが、曲がりを加工途中で検知しようとしても、被削物20の内部にあるボーリング孔25の曲がりの検知は難しい。そこで、本願発明者らは、試験的にドリル工具1のチューブ11において多数の物理変数を取得し、曲がりに対応するものがないか調査した。その結果、振動変位を周波数解析して得た振動変位に対する寄与分が曲がりに対応し得ることを見出した。ここで、寄与分は、振動変位の一部であり、周波数解析して得られた周波数スペクトルにおける所定周波数での振動変位成分である。
【0020】
そこで、本実施例においては、上記したようにチューブ11の振動変位を非接触変位センサ41で計測できるようにした。そして、演算部42によって計測した振動変位の周波数解析を行い、200Hzよりも低周波数側の所定周波数での振動変位に対する寄与分に基づいてドリル工具1の移動を制御して、例えば被削物20に対する送り速度を調整するのである。なお、周波数解析の結果、各周波数における振動変位に対する寄与分は200Hzよりも低周波側において大きかったことから、200Hzよりも低周波数側において所定周波数を定めることにした。
【0021】
ここで、所定周波数での振動変位に対する寄与分と曲がりの大きさとの理論的な関係は不明であっても、例えば実験的に振動変位に対する寄与分と曲がりの大きさとを対応させたテーブルを作成しておくことで、加工中に曲がりの大きさを定量的に推定することができる。そして、推定された曲がりの大きさに応じてドリル工具1の移動を制御し、曲がりの拡大を抑制することができるのである。つまり、加工途中におけるドリル工具1の軸線Aに沿った方向の位置が変化しても、非接触変位センサ41の位置において計測した振動変位に基づいて曲がりを検知して定量化できるので、これをドリル工具1の動作の制御に反映させることができる。
【0022】
例えば、所定周波数での振動変位に対する寄与分を観察しつつ、予め定めておいた閾値を超えたときに送り速度を低下させるように制御することで、作業効率を低下させることなく曲がりの拡大を抑制し得る。なお、上記したようにガイドパッド15を可動式とした場合には、定めた閾値を超えたときにガイドパッド15の位置を変化させてドリル工具1の移動を制御するようにしてもよい。
【0023】
また、所定周波数として複数の周波数を選択してもよい。複数の周波数を選択することで、振動を広く捉えることができて、曲がりの大きさとの対応関係を安定させ得る。この場合、例えば、選択した複数の所定周波数における振動変位に対する寄与分を積算し、求めた積算値をドリル工具1の制御に反映することができる。例えば、かかる積算値が閾値を超えたときにドリル工具1の送り速度を低下させるなどして制御する。また、所定周波数は200Hz以下で定めるので、200Hz以下全体に一定の幅で所定周波数を定め、それぞれの振動変位に対する寄与分を求めた上でこれらを積算して、同様にドリル工具1の制御に反映することもできる。
【0024】
[振動計測試験]
上記した加工装置10を用いた深穴加工における振動変位を計測して振動解析し、曲がりの実測値との関係を求めた結果について図3を用いて説明する。なお、非接触変位センサ41はチューブ11の上面と側面の2カ所のそれぞれに対向するように2つ設置し、上下方向の振動変位及び水平方向の振動変位をそれぞれ計測した。
【0025】
ここでは、φ67のヘッド本体を用いて、長さ約7700mm、外径約205mmの丸棒の全長を貫通するボーリング孔を片側から1工程で開ける深穴加工を行った。加工中の送り500mm毎に振動変位の計測を行い、加工完了後に振動変位を計測したときに切削中であった部位のそれぞれで孔曲がりを実測した。
【0026】
計測した振動変位の300秒間分のデータを高速フーリエ変換して10Hz~200Hzまでの0.03125Hz毎に振動変位成分(各周波数での振動変位に対する寄与分)を算出して周波数スペクトルを得た。そして、全ての振動変位成分を加算した積算値を得た。さらに、振動を計測したときに切削中であった地点の孔曲がりを振動変位成分の積算値と対応させてグラフ上にプロットした。
【0027】
図3(a)及び(b)に示すように、上下方向及び左右方向ともに、振動変位成分の積算値の増加に伴い曲がりも増加する傾向が観察された。また、この傾向は回帰分析によって直線近似できて良好な相関を有する。つまり、このような直線を作成しておくことで、同様の加工における振動変位成分の積算値から加工中であっても孔曲がりを推定することができる。よって、積算値に予め閾値を定めておくことで、この閾値を超えたときにドリル工具1の移動を制御して孔曲がりの拡大を抑制することができる。
【0028】
なお、同じ孔曲がりであってもボーリング孔に対するドリル工具1の位置(加工深さ)によって振動変位成分の積算値が異なる。そこで、例えば、ボーリング孔の加工深さに応じて積算値の閾値を定めるようにしてもよい。ただし、積算値の増加に伴い孔曲がりも増加することに違いはなく、加工深さ全体を通して1つの閾値を用いることで簡便に孔曲がりを抑制するようドリル工具1の移動を制御することができる。
【0029】
以上、本発明の代表的な実施例を説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0030】
1 ドリル工具
10 加工装置
11 チューブ
12 ヘッド本体
13 切刃
20 被削物
25 ボーリング孔
A 軸線

図1
図2
図3