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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068846
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】殺菌照明装置及び白色LED素子
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/08 20060101AFI20230511BHJP
   C09K 11/64 20060101ALI20230511BHJP
   C09K 11/59 20060101ALI20230511BHJP
   C09K 11/61 20060101ALI20230511BHJP
   C09K 11/72 20060101ALI20230511BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20230511BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20230511BHJP
【FI】
A61L2/08 104
C09K11/64
C09K11/59
C09K11/61
C09K11/72
C09K11/08 J
H01L33/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180224
(22)【出願日】2021-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】518386405
【氏名又は名称】オーリックス シーオー., エルティーディー.
(71)【出願人】
【識別番号】309018490
【氏名又は名称】株式会社ユーテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】アン,ジョン ウク
(72)【発明者】
【氏名】窪田 勉
【テーマコード(参考)】
4C058
4H001
5F142
【Fターム(参考)】
4C058AA00
4C058BB06
4C058DD11
4C058KK01
4C058KK32
4H001CA02
4H001CA05
4H001XA07
4H001XA08
4H001XA13
4H001XA14
4H001XA15
4H001XA17
4H001XA20
4H001XA38
4H001XA56
4H001YA63
5F142DA02
5F142DA03
5F142DA43
5F142DA44
5F142DA48
5F142DA53
5F142DA73
5F142GA21
5F142HA01
(57)【要約】
【課題】一般照明機能とウイルス殺菌機能を兼ね備えた殺菌照明装置及び白色LED素子を提供する。
【解決手段】本発明に係る殺菌照明装置は、波長が380nm以上で410nm未満に位置した中心波長が405nmの紫光と同一の波長帯で励起される高演色白色LED素子からなる光源を備え、前記光源の光放射光強度が0.031mW/cm以上を有することを特徴とする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長が380nm以上で410nm未満に位置した中心波長が405nmの紫光と同一の波長帯で励起される高演色白色LED素子からなる光源を備え、前記光源の光放射光強度が0.031mW/cm以上を有することを特徴とする殺菌照明装置。
【請求項2】
前記光源は、405nmの紫光で励起される青色、緑色、黄色、赤色、深赤色の可視光発光を生じる5種類の蛍光体を含み、その発光スペクトルは450~700nmにかけて、青色領域に発光ピークを持たない滑らかな発光強度分布を示し、その相対発光強度比は10:1であり、平均演色評価数(Ra)が90以上及び光束が600lm以上の照明特性を有する請求項1に記載の殺菌照明装置。
【請求項3】
前記白色LED素子は、深赤色蛍光体としてCaAlSiN2:Euを含有し、赤色蛍光体としてCaAlSi(ON)2:Euを含有し、黄色蛍光体として(Ba,Sr)Si2(O,Cl)2N2:Euを含有し、緑色蛍光体としてSiAlON:Euを含有し、青色蛍光体として(Sr,Br)10(PO4)6Cl2:Euを含有し、ポルフィリン化合物の吸収スペクトルに類似した発光スペクトルを設計可能な特徴を有する請求項1又は2に記載の殺菌照明装置。
【請求項4】
405nmLEDと白色LEDの構成比(数量割合)が、1対0から0対1である請求項1~3のいずれかの請求項に記載の殺菌照明装置。
【請求項5】
405nmLEDと白色LEDの構成比(数量割合)が、1対3である請求項1~3のいずれかの請求項に記載の殺菌照明装置。
【請求項6】
相関色温度が2000K以上12000K未満であり、脂質膜を有するウイルス及び脂質膜を持たないウイルスの不活性化に好ましい相関色温度は、5000K~11000Kである請求項1~5のいずれかの請求項に記載の殺菌照明装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかの請求項に記載の殺菌照明装置に搭載可能な白色LED素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は405nmの紫光を含む高演色白色LED(Light-emitting Diode)による新型コロナウイルス及びその変異体を始めとする様々なウイルスに対する殺菌効果を発現させる殺菌照明装置及び白色LED素子に関する。
【背景技術】
【0002】
2019年12月以来、新型コロナウイルス(ウイルスの名称SARS-CoV-2、ウイルス感染症の名称COVID-19)による感染症は世界的に深刻な問題である。ワクチンが開発されても、このウイルスの変異体(WHOによると、VOCとしてα、β、γ、δ)が発生しており、感染拡大の流れは止まっていない。
【0003】
新型コロナウイルス及びその変異体(変異ウイルス)が発見されてから、紫外線及び可視光領域の光照射による新型コロナウイルスへの不活性化(殺菌)実験が試みられている。特に、紫外線LED(UV-C)による殺菌効果の実証試験は、世界各国でなされている。ごく最近、理化学研究所のグループは、253.7nmの紫外線照射により、液体培地中の新型コロナウイルスが不活性化する基礎的メカニズムを世界で初めて解明した(非特許文献1参照)。
【0004】
一方、可視光線である405nm紫光照射によるバクテリアの不活性化、ピロリ菌の除菌及びメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の殺菌に関する基礎実験は、2004年から、田口、白井らによって行われている(特許文献1、非特許文献2参照)。また、2017年、水疱瘡口内炎ウイルス(インデイアナ株)を用いて、各種ポルフィリン化合物と反応させることにより、活性酸素(ROS)の発生を促し、ウイルスの不活性化効果を検証した論文がある(非特許文献3参照)。
【0005】
また、2020年には、新型コロナウイルスに関する不活性化実験に関する査読の無い論文ではあるが、世界で初めて、405nmの紫光がウイルスの不活性化効果に寄与するとの報告がなされている(非特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5435619号
【非特許文献1】C.W.Lo et al., ”UVC disinfectsSARS-CoV-2 by induction of viral genome damage withoput apparrant effects onviral morphology and proteins” Scientific Reports (2021) 11:13804.
【非特許文献2】田口、”近紫外発光デバイスの応用”光学 35巻5号 (2006) pp.260-264.
【非特許文献3】De Santis R et al., “Rapidinactivation of SARS-Co-2 with LED irradiation of visible spectrum wavelengths” https://doi.org/10.1101/2020.06.16.20134577(June,22,2020)
【非特許文献4】C. Cruz-Oliveira et al.,”Mechanismsof Vesicular Stomatitis Virus Inactivation by Protoporphyrin IX,Zinc-Protoporphyrin IX, and Mesoporphyrin IX” AntimicrobialAgents and Chemotherapy, Vol. 61, Issue 6 (2017) pp.1-14.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記したような高出力UV-C光の照射は、人間の生活空間・環境には安全性の面で問題が有り、一般的な生活空間での照明器具への応用は危険である。
一方、405nmの紫光を含む白色LED光の照射による新型コロナウイルスの不活性化効果の詳細及び実証試験については、まだ報告されていない。
【0008】
そこで、本発明は、上記した課題を解決すべく、基礎的な不活性化実験に基づき、新型コロナウイルス(脂質エンベロープを有する)とネコカリシウイルス(脂質エンベロープを含まない)の殺菌メカニズムを考察し、一般照明機能とウイルス殺菌機能を兼ね備えた殺菌照明装置及び白色LED素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、可視光線である405nmの紫光により可視蛍光体を励起・発光させた高演色白色LED素子及び前述光源装置を用いて新型コロナウイルス及びネコカリシウイルス(ノロウイルス代替)に関する不活性化に関する実験を行い、照射時間4時間後に、それぞれのウイルスに対して不活性化率約99%以上を達成した。
【0010】
本発明の高演色白色LED光源は、405nmの紫光と可視光の発光スペクトルの分布を有し、新型コロナウイルスの不活性化効果を最大限にするために、400~410nm最大ピークと平坦なスペクトル分布である450~700nm帯の強度を最適化したものから構成される。それぞれの発光強度比は、ポルフィリンの吸収スペクトル強度に近くなるように設計された。405nm紫光を含む白色LEDは、可視光線を発生させる半導体発光デバイスで、人体に安全であり、殺菌と照明機能を兼ね備えた白色LED照明器具に搭載可能のため、現存するLED照明光源を代替えすることが出来る。
【0011】
本発明では、内因性又は外因性光感受性タンパク質(ポルフィリン産生化合物を含有)からなるウイルスに405nmの紫色光を含む白色LEDの光を照射して、前述両方の光照射効果により、ポルフィリンのSORET帯及びQ帯を直接励起し、生体内に一重項の電子配置を有する活性酸素(1O2)を発生させて(非特許文献4)、ウイルスの核酸(一本鎖プラス鎖RNA)及び細胞膜を攻撃し破壊することで、ウイルスを不活性化させる手法を採用している。
【0012】
新型コロナウイルスは、宿主である人間の口腔内及び鼻腔内で感染し、その後、唾液及び粘液などと結合した後、咳及び唾などの飛沫感染で空気中に飛散し、その後、ウイルスの表面にあるスパイク糖タンパク質(Sタンパク)が再度人間のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2受容体)に感染し増殖する(後述図5)。従って、新型コロナウイルス及びその変異体は、何らかの形で、外因性の光感受性物質(タンパク質)と結合している可能性が高い。
【0013】
本発明は、このように、空気中に飛沫した感染ウイルス及び血液(ヘム)などに結合したウイルスの状態に、405nm紫光と白色LED光を同時照射してウイルスを殺菌する方法である。新型コロナウイルスに対して、不活性化効果を最大限に発現させる為、高出力の405nm光とQ帯の吸収スペクトルに類似するスペクトル波長分布を有する白色LED光源が本発明の基本である。また、本発明では、一つのパッケージ(PKG)内にこれらの構造を同時に備えた2 in1 PKG構造を作製し、スペクトル分布を最適化することで、ウイルス不活性化を達成できることが特徴である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ウイルス不活性化効果に有効な405nm紫光と照明機能を有する白色光の強度を制御する組み合わせにより、長時間にわたり効果的に新型コロナウイルス及びその変異体を始めとする様々なウイルスの不活性化を達成することが出来る。UV-Cの様な瞬時の殺菌効果ではなく、人間に安全な可視光の紫光と可視光を利用しているので、比較的長時間連続してウイルスの不活性化(殺菌)が必要な安全な場所に有効である。そして、一般照明機能のみならず、ウイルスの不活性化(殺菌)効果をもたらすので、病院などの医療機関及び介護施設を始めとして、一般家庭及び商業施設など幅広い場所での応用が期待出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】405nm紫光を含む殺菌照明用高演色白色LED光源の各相関色温度(Tcc)に対する発光スペクトルの変化を示す図である。
図2】新型コロナウイルス及びネコカリシウイルス(ノロウイルス代替)の不活性化実験で使用した白色LED光源(15Wダウンライト、Tcc=6772K)の発光スペクトルとポルフィリンの吸収スペクトルの比較を示す図である。
図3】BSL-3実験室にて不活性化試験に用いたダウンライト照明器具15W(XENOCARE 405 WHITE)とウイルス不活性化実験(光源とウイルス液容器)の配置の概略図である。
図4】新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の不活性化曲線を示す図である。
図5】新型コロナウイルの構造の模式図である。
図6】ネコカリシウイルス(FCV)の不活性化曲線を示す図である。
図7】新型コロナウイルスとネコカリシウイルスの生存率及びシミュレーション曲線を示す図である。
図8】405nm紫光と白色光による新型コロナウイルスの不活性化モデルの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[1] 殺菌照明用白色LED光源
本発明で用いたLED光源は、高出力405nmの紫光と別途405nmで励起された演色性の高い白色光を発生する白色LED素子の組み合わせで構成される。
【0017】
この構造は、基本的に、2種類のLEDが電気回路配線基板上に実装されている表面実装型(SMD)である。405nmのLEDチップはシリコーン樹脂(シリカ含有)で封止されている。一方、高演色白色LEDは、シリコーン樹脂に蛍光体を分散して封止した構造である。これらの2種類のLED chipは、別々のパッケージ(PKG)に実装されている。または、これら2種類のLEDは、一つのPKGに実装されていても良い。また、LEDの実装は、COB基板でも良い。
【0018】
図1は、405nmLEDと白色LEDの組み合わせによる15WのLED光源モジュールの発光スペクトルの相関色温度(Tcc=6052K、7166K,11940K)依存性を示す。この図から明らかな様に、450~700nmにかけて、発光スペクトルの強度分布は平坦である。Tccの増加と共に、405nmとこの平坦な発光スペクトル分布との発光強度比は増加する。405nmLEDからの発光と405nm励起の白色LEDからの発光は中心波長が405nmに位置しているため、重なって同一の波長位置に現れる。ここで、注目すべき点は、一般的な照明用白色LEDと異なり、450nm付近に鋭い青色発光が見られないことである。特に、405nmの紫光のみでは、そのTccが約100000Kであり、一般照明としては使用できない。
【0019】
色温度(Tco)を405nmの紫色から白色の相関色温度(Tcc)に変化させた時、表1に示す様に、電気的光学的特性が変化する。Tccが6000K~12000Kにおいて非常に優れた照明特性を示す。特に、Tcc=6052Kに於いては、平均演色評価数(Ra)が約99と超高演色特性を有し、赤色と青色の色相を示すR9とR12の値は最も優れている、更に、色再現性(Rf)及び色域(Rg)を示す評価指数の値も一般照明特性には十分な値を維持している。
【0020】
以上のように、本発明で製造される白色LED素子及び光源装置は、優れた一般照明特性を維持しながら、新型コロナウイルスの不活性化を最大限に行う為のスペクトル分布を有している。
【0021】
【表1】
【0022】
発明者のグループは、これまでに、数種類のウイルス(ブタ流行性下痢ウイルス、RSウイルス、ロタウイルス)の不活性化に関する基礎的研究を行い、ウイルス不活性化効果を最大限に発揮することが出来る白色LEDのTccとその電気的光学的特性を追究してきた。その結果、新型コロナウイルスの不活性化には、約6700Kの相関色温度が最適条件であることが解った。即ち、405nmLEDと約6200Kの白色LEDの組み合わせが、ウイルスの不活性化に有効であるとの結論に達した。
【0023】
図2は、15Wダウンライト照明器具のTcc=6772Kにおける発光スペクトル分布及びポルフィリンの吸収特性を示す。この図では、白色LEDの相関色温度をTcc=6200K に設定し、405nmLEDと白色LEDの数を3:1にしてスペクトル分布を最適化した。この様な設計を行うことにより、ダウンライトの相関色温度はTcc=6772Kになる。
【0024】
また、図中のポルフィリンの吸収曲線から、350~410nmに現れる鋭い非対称な吸収はSORET帯と呼ばれる。一方、ブロードな吸収はQ帯(510nm,545nm,580nm,635nm)と呼ばれる。白色LEDからの発光スペクトルを比較すると、吸収と発光スペクトルの分布及び形状がほぼ一致している。また、白色LEDの405nmと530nmの発光強度比と、SORET帯とQ帯の吸収強度比が約10対1でほぼ一致している。図から明らかな様に、ポルフィリンの吸収には450nm近辺の青色吸収は全く存在しない。
【0025】
以上の事から、発明した405nm励起の高演色白色LED光源からの発光は、ポルフィリン化合物に良く吸収されることが解る。図2に示したポリフィリンの吸収特性は、メトヘモグロビン、メトミオグロビン、酸化チトクロームCなどの金属タンパク質の吸収と類似している。更には、5-アミノレブリン酸(5-ALA)の吸収とも一致する。
【0026】
以上の様に、ポルフィリン化合物の吸収スペクトル分布に近い白色LED光源の発光スペクトル分布を設計することが本発明の重要なポイントである。この様に、発光スペクトルが最適に制御された光源を用いることにより、有効に新型コロナウイルスを不活性化させることが出来る。
【0027】
表2に、新型コロナウイルスの不活性化実験に使用した白色LED 光源(15Wダウンライト)の典型的な電気的光学的特性を示す。Raは94.2を示し、R9も90ある。更に、Rf, Rgの値も優れている。
【0028】
【表2】
【0029】
[2] 殺菌照明白色LED素子
以下、405nm LEDと高演色白色LEDの作製に関して詳述する。
【0030】
(1)405nmLEDは縦型及び横型チップの3元混晶化合物半導体InGaN量子井戸構造から成る。発光は、380nmから410nmの波長帯をカバーし、中心波長が405nmに位置する。その発光分布は対称であり、発光半値幅は約15nmである。LEDチップの実装は、ワイヤーボンデイング及びフリップチップボンデイングにより行う。
(2)高演色白色LEDには、405nmによって励起される以下の5種類のEu賦活蛍光体が含まれる。
青色蛍光体として、(Sr,Br)10(PO4)6Cl2:Eu
緑色蛍光体として、SiAlON:Eu
黄色蛍光体として、(Ba,Sr)Si2(O,Cl)2N2:Eu
赤色蛍光体として、CaAlSi(ON)2:Eu
深赤色蛍光体として、CaAlSiN2:Eu
【0031】
上述のこれらの蛍光体をシリコーン樹脂と拡散剤のシリカ混合剤に、12.3:1.0:1.0:5.0:0.3の重量比で攪拌して用いる。更に、蛍光体の重量比を調整することにより、相関色温度を2000K~10000Kに調色出来る。
【0032】
[3] ウイルス殺菌用光源と発光スペクトルの特徴
新型コロナウイルス不活性化実験の実験配置図を図3に示す。実験は、食環境衛生研究所(群馬県、前橋市, 2021年7月21日から9月13日)に於いて実施された。ポリカーボネイト(PC)のカバー付き直径約18cmのダウンライトLED光源(XENOCARE 405 WHITE)とウイルス液容器の距離は30cm、ウイルス液容器は内径6cmである。光源からの配光はランベルト配光であり、照射面積は2716.8cm、照射面照度は均一である。
【0033】
不活性化試験に用いたLED殺菌光源の代表的なスペクトルは、すでに図2に示した。光源は、[1]で述べた様に2種類のLEDが搭載されている。構造は、光源内部にウイルスが侵入しないように気密性が保たれている。照明器具の駆動は、商用電源AC100Vから変換したDC電源を使用する。または、PWMによるパルス駆動でも動作できる。
放射光強度は消費電力15Wの時、光源から30cm下で、0.031mW/cmであった。照明光源の直下では、約35mW/cmである。
【0034】
図2で見られた430nmから長波長域の幅広い発光は、白色発光に用いた前述5種類の蛍光体からの発光である。更に、700nm以上の長波長の近赤外の発光も存在する。前述表2に示したように、相関色温度は6772Kである。この色温度の白色光は対象物を見やすくする照明効果が有る。放射光強度は、バクテリアの不活性化実験(特許文献1によれば、2m下で0.82mW/cm)と比較するとかなり低いことが解る。
以下、実際の新型コロナウイルスの不活性化実験に関する実施例を詳述する。
【0035】
[4]新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)評価試験
新型コロナウイルスの不活性化試験は、食環境衛生研究所(群馬県、前橋市)のバイオセーフテイ―・レベル3(BSL-3)の実験棟で実施された。試験は暗所静置下、温度25±2℃、湿度50±10%に於いて実施された。試験中、ウイルス液容器(シャーレ)にはダウンライトからの光のみが照射された。
【0036】
4-1 供試ウイルス
試験に用いた新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、人由来分離株であり、感染者の唾液よりVero細胞を用いて分離培養後、リアルタイムPCR法を用いて、SARS-CoV-2 の一本鎖プラス鎖RNA遺伝子を増幅させ、厚生労働省通知法の基準に基づいてその確認を行った。培養細胞は、Vero細胞であり、アフリカミドリザルの肝臓上皮由来株化細胞である。
【0037】
4-2 試験手順及び方法
「ウイルス実験学総論改訂2版ウイルス中和試験法(丸善株式会社)」を参考に実施した。
試験ウイルス液(Phosphate-buffered saline :PBS)を6cm系のシャーレに3mL添加し、照射部分がその液面より30cmの位置になるようにダウンライトLED光源をセットした。
試験設定に従いLED光源による405nmを含む白色光の照射を行い、設定時間後にシャーレ内の試験ウイルスを回収した。
回収したウイルス液は、細胞維持培地で10倍段階希釈を行い、各希釈液を培養細胞に摂取後、37℃、5%CO下で5日間培養した。
培養細胞を顕微鏡にて観察し、培養細胞に現れるCPE(細胞変性)をもって、ウイルス培養の有無を確認してその濃度を算出した。
【0038】
4-3 評価
表3に示した検査点毎に、対象区に対する試験区の減少率(%)を算出し、下記の(1)式によりその減少率を計算した。
減少率(%)={(対照区―試験区)/対照区}x 100 ・・・・・ (1)
【0039】
【表3】
【0040】
4-4 試験結果
試験結果を表4に示した。対照区では、試験開始から、試験開始後4時間までの間に、ウイルス量の自然衰退が見られた。その量は、一桁以内の107.5から106.7TCID50/mLであった。一方、試験区では、開始後2時間で104.7TCID50/mL、4時間で、104.1TCID50/mLであり、(1)式から得られる減少率は、それぞれ、99.61%及び、99.74%であった。SARS
CoV-2新型コロナウイルスの不活性化率を図4に示す。
【0041】
【表4】
【0042】
以上の結果から、新型コロナウイルスは、4時間後ほぼ完全に不活性化されることが分かった。
【0043】
[5] 非エンベロープウイルスの不活性化実験と新型コロナウイルスとの比較
【0044】
新型コロナウイルスの構造は、大阪大学微生物研究所、渡辺(日本医師会COVID-19有識者会議、2020.5.22)によれば、図5に模式的に示したように、ウイルスゲノムとして一本鎖プラス鎖RNAを持ち、ウイルス粒子内部(直径100~200nm)には、Nタンパク質とウイルスゲノムRNAが結合したヌクレオカプシドが存在し、EとMタンパク質から構成されるエンベロープで包まれている。その周りにスパイク(S)タンパク質の突起が有る(国立感染症研究所HPを参考に発明者が作成)。この構造は、バクテリア及び脂質膜の無いウイルスの構造とかなり異なっている。また、新型コロナウイルスの変異体(例えば、デルタ株)もスパイクタンパク質のアミノ酸の塩基配置が異なるだけで、同様の構造を有することが透過型電子顕微鏡観察(東京都健康安全研究センターHP)から確かめられている。
【0045】
本発明では、脂質膜エンベロープを持つ新型コロナウイルスと比較する目的で、脂質膜の無い一本鎖RNA遺伝子を持つネコカリシウイルス(ノロウイルス代替)に対しても同様の実験を同一条件で行った。
【0046】
5-1 ネコカリシウイルス(ノロウイルス代替)に関する不活性化試験
ネコカリシウイルスは、新型コロナウイルスの構造と異なり、RNA遺伝子は脂質膜で覆われておらず、酸やアルカリに対して強い耐性を有することが知られている。そのため、405nm紫光を含む白色光の照射に対しても耐性が強いかどうか検証する必要が有る。
本発明では、[4]で述べたと同じように、ネコカリシウイルスに関して、以下の実験を食環境衛生研究所(群馬県、前橋市)のBSL-3にて実施した。
【0047】
5-2 供試ウイルス
ネコカリシウイルスは、feline calicivirus P9株を持ち、培養細胞はCRFK細胞(猫肝臓由来株価細胞)である。
【0048】
5-3 実験方法、手段などは、すでに述べた[4]と同様である。
【0049】
5-4 試験結果
【0050】
ネコカリシウイルスの試験結果を表5に示す。対照区については試験開始から4時間で、ウイルスの自然減衰が見られた。その割合は、105.5から104.5TCID50/mLであった。試験区では、試験開始後2時間で、103.5TCID50/mL、4時間後で102.5TCID50/mLであった。従って、減少率は、それぞれ、97.53%、99.00%であった。これらの減少率は、新型コロナウイルスの不活性化結果と比べると、僅かに低いが、実用的な殺菌レベルにあると考えられる。表5には、新型コロナウイルスの減少率と比較した値も示した。2時間後、2.03%、4時間後0.74%の差であった。
図6にネコカリシウイルスの不活性化曲線を示す。
【0051】
【表5】
【0052】
以上の実験結果から、脂質膜の無いネコカリシウイルスに於いても、4時間の照射で減少率は、99%であり、新型コロナウイルスとほぼ同様な不活性化効果が有ることが確証された。
【0053】
6. 新型コロナウイルス不活性化効果の考察
以上の実施例から、脂質エンベロープの有無に関わらず、実験に用いたウイルスは本発明の白色LED素子及び照明装置で不活性化(殺菌)されることが明らかとなった。
【0054】
以下、本発明では、405nmの紫光を含む白色光の照射で何故新型コロナウイルスが不活性化されるかに関して、現在のウイルス感染学上未知の部分も多々あるが、その推論されるメカニズムを考察する。
【0055】
一つの可能性として、前述図5で見られたように、新型コロナウイルスの構造は、すべてタンパク質で構成されているため、前述したように内部にポルフィリン化合物を含有している可能性(内因性ポルフィリン)が有ると考えられる。
【0056】
又は、今回の実験に用いた新型コロナウイルスは、感染者の唾液から採取されたので、新型コロナウイルスが血液(ヘモグロビン)、歯周病菌(ポリフィロモナス・ジンジバリス)などのポルフィリン産生化合物と結合している可能性(外因性ポルフィリン)が有る。これらの結合物質は、ポリフィリン化合物で合成されているため、比較的低い放射光強度でも、効率良く紫光と白色光を吸収して活性酸素(ROS)又はフリーラジカル酸素を発生し、新型コロナウイルのタンパク質からなる細胞の破壊及びRNA遺伝子の損傷によりウイルスを不活性化できるものと考えられる。
【0057】
図7に、表4と表5、及び、図4図6から求められた新型コロナウイルスとネコカリシウイルスの光照射時間(t)に対する生存率(%)を示す。実験点は、それぞれ、新型コロナウイルス(●)とネコカリシウイルス(〇)の生存率を示し、鎖線の曲線は以下に説明するシミュレーション曲線である。
新型コロナウイルスの生存率は、100%(初期値)から実験で得られた不活性化実験の減少率(%)を引いたもので定義される。
【0058】
図7から明らかな様に、新型コロナウイルスの生存率は、開始から2時間の間に急激に減少し、2時間後に、0.39%になり、4時間で0.25%になっている。一方、ネコカリシウイルスは、2時間後に約2.8%、4時間後に約1%の割合で生存している。即ち、エンベロープの無いネコカリシウイルスの生存率は、新型コロナウイルスの生存率に比べて、2時間後でもウイルスは約7倍生存していることになる。一般に、脂質エンベロープを持つウイルスは、感受性が高く、逆に、エンベロープを持たないウイルスは不活性化されにくいとされている。
【0059】
実験で得られた新型コロナウイルスの生存率は照射光の積算時間(t)の関数として減少する。この割合N(t)は、比較的早い時間で急激に不活性化し、時間が経つにつれてゆっくりと不活性化が進むと考えられる。
【0060】
従って、ウイルスの生存に関する速度方程式は、2つの1次反応方程式で律速されると仮定出来る。
N(t)=Nαexp(-αt)+Nβexp(-βt) ・・・・・(2)
ここで、
Nα:早い反応過程で初期に存在するウイルス数
α:反応時定数(光源の放射光強度に依存する)
Nβ:遅い反応過程で存在するウイルス数
β:反応時定数(光源の放射光強度に依存する)
【0061】
シミュレーションを行うことにより、新型コロナウイルスの生存率は、Nα=99、Nβ=1、α=2.79、β=2の値を上述(2)式に代入することで、実験結果と良く合うことが解った。反応時定数のαとβは、光源の光放射強度に依存するので、強度が強くなると生存率の減衰は早くなる。
【0062】
図7のシミュレーション曲線から、(2)式の律速過程は、光照射の初期段階で、ウイルスの99%が死滅し、更に長時間の光照射で、残りのウイルスがゆっくりと死滅してゆくものと考えられる。
【0063】
以上の考察から、新型コロナウイルスの不活性化過程を考える。非特許文献1で明らかにされたように、UV-Cの照射では、脂質膜の損傷は無く、エネルギーの高い光子(243nm光は、エネルギー約5.1eVに相当)により直接RNA遺伝子のみが破壊されている。一方、405nm励起の白色LEDからの光照射による新型コロナウイルスの不活性化メカニズムは、前述UV-Cの光損傷とは異なると考えられる。
【0064】
新型コロナウイルスは、感染者の唾液と一緒に飛沫し空気中に滞留すると考えられる。従って、何らかの形で、ポルフィリン産生物と結合している可能性が高い。図8に示すように、大気中に存在する新型コロナウイルスの大半は、感染者から吐き出された咳、唾などに付着した状態で空気中に浮遊している。405nmの紫光と白色の光が同時照射されている空間にこの様な結合状態のウイルスが入ると、ウイルス粒子の中に取り込まれた内因性及び外因性ポルフィリンがこれらの光を吸収し、内部に活性酸素を発生させて脂質タンパク質を酸化・破壊し、RNAを損傷させてウイルスを死滅させると考えられる。
【0065】
具体的には、図2のポルフィリンの最大吸収ピークに従った405nm光(約3.1eVの光子に相当)及び白色光の吸収が起こり、細胞内で電子励起(基底状態So→励起状態S1)が生じ、3重項基底状態の酸素分子(O2)が、1重項酸素分子(1O2)に変換される。この活性酸素(1O2)は非常に反応性が強く周辺の細胞を破壊するエネルギーを有する。更に、この活性酸素は、ウイルスタンパク質の窒素(N)と結合し、ラジカル分子NOを生成する可能性もある。
【0066】
新型コロナウイルス単体の大きさは、図8に示した様に、直径約100~200nm程度とされているが、これらのウイルスは粒子の集合体となって空気中に飛沫されている。結果的に、ウイルス集合体の粒径サイズは、数100nm~数μm程度ある。あまり大きなウイルス集合体(数10~100μm以上)は体積が増して重くなり落下する。図中のL(m)は、光源と対照物との距離、Pの記号はポルフィリン産生物を模式的に示した。通常の照明環境に於いて、照明器具としてLEDスタンド等を設置したテーブルの距離L1は、約30~50cmであり、床面までの距離L2は、約1~2mである。
【0067】
更に、本発明の405nm紫光と白色光は、波長が380~780nmなので、ウイルス集合体の内部まで浸透し、有効に活性酸素を発生さすことが可能である。また、赤色から近赤外線(600~780nm)による脂質タンパク質の光損傷も寄与(RNA遺伝子の逆転写制御など)していると考えられる。
【0068】
前述した様に、本発明では、中心波長が405nmの紫光を含む高演色白色LED照明装置を用いて新型コロナウイル及びネコカリシウイルス(ノロウイルス代替)の不活性化(殺菌)実験を行い、4時間後に両方のウイルスが99%以上殺菌された。そして、本発明の殺菌照明装置及び白色LED素子は、ポルフィリンのSORET帯とQ帯の吸収に近い発光スペクトル分布を有し、ウイルスの不活性化(殺菌)効果と一般照明機能である高効率・高演色特性を有するため、紫外線(UV-C)と異なり、人体に安全であるので、現存する白色LED照明光源及び器具を代替えすることが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0069】
突如発生したCOVID-19による日常生活の崩壊は、世界的なパンデミック下では深刻な環境条件を作り出している。多くの国民は、過度な行動制限が課されている。現在、ワクチン接種による感染症への予防は一定の効果が有るとされているが、現状では、経口治療薬はまだ実用化されていない。この様な危機的状況を一日でも早く打破するために、新しい感染医学・工学の技術革新が喫緊の課題である。従って、通常の照明器具とウイルス不活性化(殺菌)が同時に行えるような照明器具の登場は急務である。また、新型コロナウイルス以外に、将来どのような感染ウイルスが発生し、猛威を振るうか解らない。未来に備えて、感染予防に役立つ人間に安全な殺菌照明器具の登場が望まれる。そこで、本発明は十分に寄与できるものと考えられる。また、発明された白色LED素子は、医療用内視鏡、ステント及び腹腔鏡などに搭載可能であり医療用光源としての可能性も秘めている。現存する一般照明器具及び医療用光源を405nm励起の白色LED代替えすることによりこの危機的状況を救うことが出来る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8