(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068850
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】セラミック電子部品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20230511BHJP
【FI】
H01G4/30 513
H01G4/30 516
H01G4/30 517
H01G4/30 201C
H01G4/30 201D
H01G4/30 311D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180229
(22)【出願日】2021-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】末正 里樹
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AC04
5E001AC09
5E001AH03
5E001AJ01
5E082AA01
5E082AB03
5E082BC38
5E082BC39
5E082EE05
5E082EE18
5E082EE19
5E082EE23
5E082EE37
5E082EE45
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5E082GG10
5E082LL02
(57)【要約】
【課題】 内部電極層の連続性と、誘電体層の絶縁信頼性と、を両立するセラミック電子部品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 セラミック電子部品は、セラミックを主成分とする誘電体層と、第1金属を主成分とする内部電極層と、が交互に積層された積層チップを備え、積層方向において対向する前記内部電極層の第1面および第2面のうち一方の面は、前記第1金属よりも酸化しやすい第2金属の酸化金属膜によって被覆され、かつ、前記第1面および前記第2面のうち他方の面は前記酸化金属膜によって被覆されていない、又は、前記一方の面は前記酸化金属膜によって被覆され、かつ、前記他方の面を被覆する前記酸化金属膜の面積は、前記一方の面を被覆する前記酸化金属膜の面積よりも小さい。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックを主成分とする誘電体層と、第1金属を主成分とする内部電極層と、が交互に積層された積層チップを備え、
積層方向において対向する前記内部電極層の第1面および第2面のうち一方の面は、前記第1金属よりも酸化しやすい第2金属の酸化金属膜によって被覆され、かつ、前記第1面および前記第2面のうち他方の面は前記酸化金属膜によって被覆されていない、又は、前記一方の面は前記酸化金属膜によって被覆され、かつ、前記他方の面を被覆する前記酸化金属膜の面積は、前記一方の面を被覆する前記酸化金属膜の面積よりも小さい、
ことを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項2】
前記第1金属は、ニッケルであることを特徴とする請求項1記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記酸化金属膜は、酸化クロム膜であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記内部電極層に対する前記酸化金属膜の割合は、0.1at%~5at%であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項記載のセラミック電子部品。
【請求項5】
前記内部電極層に対する前記酸化金属膜の割合は、3at%以下であることを特徴とする請求項4に記載のセラミック電子部品。
【請求項6】
前記内部電極層に対する前記酸化金属膜の割合は、1.5at%以下であることを特徴とする請求項4に記載のセラミック電子部品。
【請求項7】
誘電体グリーンシート上に、第1金属を主成分とする内部電極層パターンと、前記内部電極層パターンの第1面および第2面の一方の面に前記第1金属よりも酸化しやすい第2金属を主成分とする被膜パターンと、をスパッタで成膜することによって積層単位を形成する工程と、
複数の前記積層単位を積層することによって積層体を形成する工程と、
前記積層体を焼成する工程と、を含む、
ことを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【請求項8】
前記内部電極層パターンに対する前記被膜パターンの割合は、0.1at%~5at%であることを特徴とする請求項7に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項9】
誘電体グリーンシート上に、内部電極層パターンを形成することによって積層単位を形成する工程と、
複数の前記積層単位を積層することによって積層体を形成する工程と、
前記積層体を焼成する工程と、を含み、
前記内部電極層パターンを形成する際に、第1金属と、前記第1金属よりも酸化しやすい第2金属とを含む複合膜を、前記第2金属の割合を1at%~5at%としてスパッタで成膜することを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【請求項10】
前記第1金属はニッケルであり、前記第2金属はクロムである、
請求項7から請求項9のいずれか1項に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車載端末および携帯端末等において高容量・高信頼性を有するハイエンド積層セラミックコンデンサの需要が高まっている。ハイエンド積層セラミックコンデンサは、高周波回路および電力回路においてDCデカップリング、ノイズバイパス、電圧安定化などの用途で使用される。
【0003】
小型かつ高容量を実現するため、積層セラミックコンデンサの内部電極層および誘電体層の薄層化が進んでいる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Polotai, Anton V., et al. "Effect of Cr additions on the microstructural stability of Ni electrodes in ultra-thin BaTiO 3 multilayer capacitors." Journal of electroceramics 18.3-4 (2007): 261-268
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、薄層化によって、内部電極層が断裂したり、誘電体層の信頼性が低下したりするおそれがある。例えば特許文献1では、ニッケル(Ni)を主成分とする内部電極層にクロム(Cr)を含有させることで、内部電極層の球状化を防ぎ、内部電極層の連続性を高めることが提案されている。しかしながら、例えば、非特許文献1で報告されているように、内部電極層に添加されたCrは誘電体層との界面において、酸素欠陥の生成を促し、誘電体層の絶縁信頼性を低下させることが知られている。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、内部電極層の連続性と、誘電体層の絶縁信頼性と、を両立するセラミック電子部品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るセラミック電子部品は、セラミックを主成分とする誘電体層と、第1金属を主成分とする内部電極層と、が交互に積層された積層チップを備え、積層方向において対向する前記内部電極層の第1面および第2面のうち一方の面は、前記第1金属よりも酸化しやすい第2金属の酸化金属膜によって被覆され、かつ、前記第1面および前記第2面のうち他方の面は前記酸化金属膜によって被覆されていない、又は、前記一方の面は前記酸化金属膜によって被覆され、かつ、前記他方の面を被覆する前記酸化金属膜の面積は、前記一方の面を被覆する前記酸化金属膜の面積よりも小さい、ことを特徴とする。
【0009】
上記セラミック電子部品において、前記第1金属は、ニッケルであるとしてもよい。
【0010】
上記セラミック電子部品において、前記酸化金属膜は、酸化クロム膜であるとしてもよい。
【0011】
上記セラミック電子部品において、前記内部電極層に対する前記酸化金属膜の割合は、0.1at%~5at%であるとしてもよい。
【0012】
上記セラミック電子部品において、前記内部電極層に対する前記酸化金属膜の割合は、3at%以下であるとしてもよい。
【0013】
上記セラミック電子部品において、前記内部電極層に対する前記酸化金属膜の割合は、1.5at%以下であるとしてもよい。
【0014】
本発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、誘電体グリーンシート上に、第1金属を主成分とする内部電極層パターンと、前記内部電極層パターンの第1面および第2面の一方の面に前記第1金属よりも酸化しやすい第2金属を主成分とする被膜パターンと、をスパッタで成膜することによって積層単位を形成する工程と、複数の前記積層単位を積層することによって積層体を形成する工程と、前記積層体を焼成する工程と、を含む、ことを特徴とする。
【0015】
上記セラミック電子部品の製造方法において、前記内部電極層パターンに対する前記被膜パターンの割合は、0.1at%~5at%であるとしてもよい。
【0016】
本発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、誘電体グリーンシート上に、内部電極層パターンを形成することによって積層単位を形成する工程と、複数の前記積層単位を積層することによって積層体を形成する工程と、前記積層体を焼成する工程と、を含み、前記内部電極層パターンを形成する際に、第1金属と、前記第1金属よりも酸化しやすい第2金属とを含む複合膜を、前記第2金属の割合を1at%~5at%としてスパッタで成膜することを特徴とする。
【0017】
上記セラミック電子部品の製造方法において、前記第1金属はニッケルであり、前記第2金属はクロムであるとしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、内部電極層の連続性と、誘電体層の信頼性と、を両立するセラミック電子部品およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1(a)は、積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図であり、
図1(b)は、積層セラミックコンデンサの上面図である。
【
図2】
図2(a)は、
図1(b)のA-A線断面図であり、
図2(b)は、
図1(b)のB-B線断面図である。
【
図3】
図3は、内部電極層が薄層化された積層セラミックコンデンサの概略断面図である。
【
図4】
図4(a)及び
図4(b)は、内部電極層と誘電体層との境界近傍の詳細を説明するための図である。
【
図5】
図5(a)及び
図5(b)は、被膜が内部電極層の上面を被覆する面積と、被膜が内部電極層の下面を被覆する面積と、の大小関係の推定について説明する図である。
【
図6】
図6(a)~
図6(c)は、TEM画像において誘電体層と内部電極層の積層方向に沿って各サンプル点について各元素濃度をライン分析した場合の分析結果を例示する図である。
【
図7】
図7は、
図6(a)の距離について説明するための図である。
【
図8】
図8は、積層セラミックコンデンサの製造方法を例示するフローチャートである。
【
図9】
図9(a)~
図9(c)は、積層工程を例示する図である。
【
図13】
図13(a)は、比較例1の断面SEM像である。
図13(b)は、実施例1の断面SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0021】
(実施形態)
図1(a)は、実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図であり、
図1(b)は、積層セラミックコンデンサ100の上面図である。また、
図2(a)は、
図1(b)のA-A線断面図であり、
図2(b)は、
図1(b)のB-B線断面図である。
【0022】
図1(a)~
図2(b)で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、略直方体形状を有する積層チップ10と、積層チップ10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、積層チップ10の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。外部電極20a,20bは、積層チップ10の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、互いに離間している。
【0023】
積層チップ10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、卑金属材料を含む内部電極層12とが、交互に積層された構成を有する。各内部電極層12の端縁は、積層チップ10の外部電極20aが設けられた端面と、外部電極20bが設けられた端面において、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、誘電体層11と内部電極層12との積層体において、積層方向の最外層には内部電極層12が配置され、当該積層体の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13の材料は、誘電体層11とセラミック材料の主成分が同じでも構わない。
【0024】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.110mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.1mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0025】
誘電体層11は、例えば、一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主相とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。例えば、当該セラミック材料として、BaTiO3(チタン酸バリウム),CaZrO3(ジルコン酸カルシウム),CaTiO3(チタン酸カルシウム),SrTiO3(チタン酸ストロンチウム),MgTiO3(チタン酸マグネシウム),ペロブスカイト構造を形成するBa1-x-yCaxSryTi1-zZrzO3(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等のうち少なくとも1つから選択して用いることができる。Ba1-x-yCaxSryTi1-zZrzO3は、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸バリウムカルシウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸カルシウムおよびチタン酸ジルコン酸バリウムカルシウムなどである。
【0026】
図2(a)で例示するように、外部電極20aに接続された内部電極層12と外部電極20bに接続された内部電極層12とが対向する領域は、積層セラミックコンデンサ100において電気容量を生じる領域である。そこで、当該電気容量を生じる領域を、容量領域14と称する。すなわち、容量領域14は、異なる外部電極に接続された隣接する内部電極層12同士が対向する領域である。
【0027】
外部電極20aに接続された内部電極層12同士が、外部電極20bに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域を、エンドマージン15と称する。また、外部電極20bに接続された内部電極層12同士が、外部電極20aに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域も、エンドマージン15である。すなわち、エンドマージン15は、同じ外部電極に接続された内部電極層12が異なる外部電極に接続された内部電極層12を介さずに対向する領域である。エンドマージン15は、電気容量を生じない領域である。
【0028】
図2(b)で例示するように、積層チップ10において、積層チップ10の2側面から内部電極層12に至るまでの領域をサイドマージン16と称する。すなわち、サイドマージン16は、上記積層構造において積層された複数の内部電極層12が2側面側に延びた端部を覆うように設けられた領域である。サイドマージン16も、電気容量を生じない領域である。
【0029】
積層セラミックコンデンサの小型大容量化のために、誘電体層11および内部電極層12の薄層化が求められている。
図3は、内部電極層が薄層化された積層セラミックコンデンサ1000の概略断面図である。
図3の断面は、
図1(b)のA-A線断面に相当する。
【0030】
内部電極層12を薄層化しようとすると、高連続率を維持することが困難となる。これは、以下の理由による。
【0031】
内部電極層12を金属粉末の焼成によって得る場合、焼結が進むと表面エネルギーを最小にしようとするために内部電極層12を金属粉成分が球状化する。誘電体層11の主成分セラミックよりも内部電極層12の金属成分の焼結が進みやすいため、誘電体層11の主成分セラミックが焼結するまで温度を上げると、内部電極層12の金属成分は過焼結となり、球状化しようとする。この場合、切れるキッカケ(欠陥)があれば、当該欠陥を基点に内部電極層12が切れ、
図3に示すように連続率が低下する。
【0032】
そこで、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100では、各内部電極層12の上面(第1面)および下面(第2面)のうち一方の面が、内部電極層12の主成分金属(第1金属)よりも酸化しやすい金属(第2金属)の酸化物の被膜17で被覆されている。
図4(a)及び
図4(b)は、内部電極層12と誘電体層11との境界近傍の詳細を説明するための図である。なお、
図4(a)以降の断面図における内部電極層12の積層数は、
図2(a)及び
図2(b)の断面図における内部電極層12の積層数と異なる。具体的には、
図4(a)以降の断面図では、図の明瞭化のため、内部電極層12の積層数を4としている。
【0033】
図4(a)及び
図4(b)に示すように、内部電極層12の上面および下面のうち一方の面は、被膜17によって覆われている。被膜17の積層方向の厚みは、例えば、1~50nmである。
【0034】
被膜17の積層方向における厚みは、以下のようにして求めることができる。まず、積層セラミックコンデンサ100のTEM画像において、誘電体層11と内部電極層12との積層方向に沿って各サンプル点について各成分元素濃度をライン分析し、積層方向の各サンプル点におけるNiの濃度及びTiの濃度を得る。次に、Ni濃度およびTi濃度を微分し、Ni濃度の微分値が最も大きい値となる点と、Ti濃度の微分値が最も小さい値となる点との間の積層方向における距離を、被膜17の厚みとする。
【0035】
内部電極層12に対する被膜17の割合は、0.1at%~5at%である。内部電極層12に対する被膜17の割合は、隣接する2層の誘電体層11の間において、内部電極層12の主成分金属の原子数をN1とし、被膜17を構成する金属酸化物中の金属の原子数をN2とした場合、N2/(N1+N2)×100で表される。内部電極層12に対する被膜17の割合は、3at%以下が好ましく、1.5at%以下がより好ましい。
【0036】
内部電極層12の主成分金属は、例えばニッケル(Ni)である。内部電極層12の主成分金属がNiの場合、被膜17は、Niよりも酸化しやすいクロム(Cr)、アルミニウム(Al)、又は鉄(Fe)の酸化物の被膜である。被膜17は、当該酸化物のみで構成されていなくてもよく、拡散してきた他の元素を含んでいてもよい。内部電極層12の主成分金属は、Niに限られるものではなく、Niに近い融点を有する金属であってもよい。
【0037】
内部電極層12の上面および下面のうち他方の面は、被膜17によって被覆されていない、あるいは、被膜17が他方の面を被覆する面積は、被膜17が一方の面を被覆する面積よりも小さい。なお、被膜17が他方の面を被覆する面積は、
被膜17が一方の面を被覆する面積の1/2以下であり、好ましくは、1/5以下であり、より好ましくは1/10以下である。
【0038】
被膜17が内部電極層12の上面を被覆する面積と、被膜17が内部電極層12の下面を被覆する面積と、の大小関係は、以下のようにして推定することができる。
図5(a)及び
図5(b)は、被膜17が内部電極層12の上面を被覆する面積と、被膜17が内部電極層12の下面を被覆する面積と、の大小関係の推定について説明する図である。
【0039】
図5(a)は、積層セラミックコンデンサ100の上面図である。積層セラミックコンデンサ100の幅方向において、
図5(a)に一点鎖線で示す複数の位置における切断面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を得る。
【0040】
図5(b)は、積層セラミックコンデンサ100の切断面の概要図である。各切断面のSEM写真において、同一の内部電極層12について、上面および下面上の被膜17の長さを測定する。例えば、
図5(a)において一点鎖線LN1で示す位置における切断面のSEM像において、内部電極層12の上面の被膜17の長さの合計がLU1、下面の被膜17の長さの合計がLL1であり、一点鎖線LN2で示す位置における切断面のSEM像において、内部電極層12の上面の被膜17の長さの合計がLU2、下面の被膜17の長さの合計がLL2であるとする。また、一点鎖線LN3で示す位置における切断面のSEM像において、内部電極層12の上面の被膜17の長さの合計がLU3、下面の被膜17の長さの合計がLL3であり、一点鎖線LN4で示す位置における切断面のSEM像において、内部電極層12の上面の被膜17の長さの合計がLU4、下面の被膜17の長さの合計がLL4であるとする。この場合、例えば、各切断面における内部電極層12の上面の被膜17の長さの合計(LU1+LU2+LU3+LU4)が、各切断面における内部電極層12の下面の被膜17の長さの合計(LL1+LL2+LL3+LL4)よりも大きい場合、被膜17が内部電極層12の上面を被覆する面積が、下面を被覆する面積よりも大きいと推定できる。
下面の被膜17の面積を相対的に小さく形成できるのは、上面の被膜17を構成する金属酸化物の金属が内部電極層12内または内部電極層12の途切れ部分から拡散して、下面側にも被膜17が形成される可能性があるためである。この場合、被膜17による下面の被覆面積は上面に対して小さくなる。
なお、被膜17の面積の大小について説明したが、本メカニズムで形成される場合、金属酸化物の金属の濃度が上面の被膜17より低い被膜17を下面に形成してもよい。本分析により、上下面の濃度差は0.1~5at%となる。
【0041】
図6(a)~
図6(c)は、積層セラミックコンデンサ100のTEM画像において、誘電体層11と内部電極層12との積層方向に沿って各サンプル点について各成分元素濃度をライン分析した場合の分析結果を例示する図である。
図6(a)~
図6(c)の例では、一例として、内部電極層12の主成分金属としてNiを用い、被膜17は酸化クロム膜であり、誘電体層11の主成分セラミックとして、チタン酸バリウムを用いている。
【0042】
図6(a)では、横軸が積層方向の距離を示し、縦軸が各成分の濃度(at%)を示している。横軸の「0nm」は、
図7に示すように、内部電極層12の上面に被膜17が形成された積層セラミックコンデンサにおいて、内部電極層12と誘電体層11との界面であると予想された位置を示している。横軸の距離が大きい値になるにしたがって、積層方向に内部電極層12へと近づいていくことになる。
図6(a)で例示するように、距離「0nm」では、誘電体層11の主成分セラミックであるチタン酸バリウムを構成するチタン(Ti)濃度および酸素(O)濃度が最も高くなっている。内部電極層12に近づくにつれてTi濃度およびO濃度が低くなり、クロム(Cr)濃度にピークが現れ、内部電極層12の主成分金属であるニッケル(Ni)濃度が高くなっていく。なお、
図6(a)の例では、ノイズを減らすために、9点で平均化して平滑化している。
【0043】
図6(b)は、
図6(a)のNi濃度、Cr濃度およびTi濃度について微分した結果を示している。最急峻変化点を特定することで、内部電極層12の界面および誘電体層11の界面を特定することができる。
図6(b)の例では、Ni濃度の微分値が最も大きい値となる位置が、内部電極層12の界面である。また、Ti濃度の微分値が最も大きい値となる位置が、誘電体層11の界面である。この誘電体層11の界面と内部電極層12の界面との間に、Crが多く存在していることになる。
【0044】
図6(c)は、
図6(a)の結果について、縦軸を対数で表した図である。
図6(c)で例示するように、誘電体層11の界面と内部電極層12の界面との間に、Cr濃度のピークが現れている。
【0045】
このような構成によれば、内部電極層12の主成分金属よりも酸化しやすい金属の酸化物の被膜17によって、内部電極層12の金属成分の球状化が抑制されるため、内部電極層12の連続率を向上させることができる。また、被膜17は、内部電極層12の上面および下面のうち一方の面を被覆しているため、内部電極層12の両面が被膜17によって被覆されている場合よりも、被膜17の主成分金属による酸素欠陥の誘発を抑制することができる。これにより、内部電極層12の連続性と、誘電体層11の絶縁信頼性と、を両立した積層セラミックコンデンサ100を得ることができる。
【0046】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。
図8は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0047】
(原料粉末作製工程:S1)
まず、誘電体層11を形成するための誘電体材料を用意する。誘電体層11に含まれるAサイト元素およびBサイト元素は、通常はABO3の粒子の焼結体の形で誘電体層11に含まれる。例えば、BaTiO3は、ペロブスカイト構造を有する正方晶化合物であって、高い誘電率を示す。このBaTiO3は、一般的に、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを反応させてチタン酸バリウムを合成することで得ることができる。誘電体層11を構成するセラミックの合成方法としては、従来種々の方法が知られており、例えば固相法、ゾル-ゲル法、水熱法等が知られている。本実施形態においては、これらのいずれも採用することができる。
【0048】
得られたセラミック粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、Mn(マンガン),V(バナジウム),Cr(クロム),希土類元素(Y(イットリウム),Dy(ジスプロシウム),Tm(ツリウム),Ho(ホロミウム),Tb(テルピウム),Yb(イッテルビウム),Sm(サマリウム),Eu(ユウロビウム),Gd(ガドリニウム),およびEr(エルビウム))の酸化物、並びに、Co(コバルト),Ni(ニッケル),Li(リチウム),B(ホウ素),Na(ナトリウム),K(カリウム)およびSi(シリコン)の酸化物もしくはガラスが挙げられる。
【0049】
例えば、セラミック原料粉末に添加化合物を含む化合物を湿式混合し、乾燥および粉砕してセラミック材料を調製する。例えば、上記のようにして得られたセラミック材料について、必要に応じて粉砕処理して粒径を調節し、あるいは分級処理と組み合わせることで粒径を整えてもよい。以上の工程により、誘電体材料が得られる。
【0050】
(積層工程:S2)
次に、得られた誘電体材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材51上に誘電体グリーンシート52を塗工して乾燥させる。基材51は、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムである。
【0051】
次に、
図9(a)で例示するように、誘電体グリーンシート52上に、内部電極層パターン53を成膜する。
図9(a)では、一例として、誘電体グリーンシート52上に4層の内部電極層パターン53が所定の間隔を空けて成膜されている。本実施形態では、内部電極層パターン53を、内部電極層12の主成分金属(例えば、Ni)のターゲットを用いたスパッタで成膜する。
【0052】
次に、
図9(b)で例示するように、内部電極層パターン53上に、被膜パターン54を成膜する。本実施形態では、被膜パターン54を、被膜17を構成する金属酸化物の金属(例えば、Cr)のターゲットを用いたスパッタで成膜する。被膜パターン54の成膜量が多すぎると、酸素欠陥を誘発し、内部電極層12の両面を被膜17で被覆した場合と同様に、誘電体層11の絶縁信頼性が低下する。一方、被膜パターン54の成膜量が少なすぎると、内部電極層パターン53の主成分金属の球状化を抑制できず、連続率の低下を抑制できない。そのため、内部電極層パターン53の成膜量に対する被膜パターン54の成膜量を、0.1at%~5at%とする。なお、内部電極層パターン53の成膜量に対する被膜パターン54の成膜量は、内部電極層パターン53に含まれる、内部電極層12の主成分金属の原子数をN3とし、被膜パターン54に含まれる、被膜17を構成する金属酸化物の金属の原子数をN4とすると、N4/(N3+N4)×100で表される。内部電極層パターン53の成膜量に対する被膜パターン54の成膜量は、3at%以下が好ましく、1.5at%以下がより好ましい。
【0053】
内部電極層パターン53及び被膜パターン54が成膜された誘電体グリーンシート52を、積層単位とする。
【0054】
次に、誘電体グリーンシート52を基材51から剥がしつつ、
図9(c)で例示するように、積層単位を積層する。次に、積層単位が積層されることで得られた積層体の上下にカバーシート55を所定数(例えば2~10層)だけ積層して熱圧着させ、所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)にカットする。
図9(c)の例では、点線に沿ってカットする。カバーシート55は、誘電体グリーンシート52と同じ成分であってもよく、添加化合物が異なっていてもよい。
【0055】
(焼成工程:S3)
このようにして得られたセラミック積層体を、N2雰囲気で脱バインダ処理した後に外部電極20a,20bの下地層となる金属ペーストをディップ法で塗布し、酸素分圧10-5~10-8atmの還元雰囲気中で1100~1300℃で10分~2時間焼成する。このとき、還元雰囲気内の酸素又は誘電体材料内の酸素によって、被膜パターン54の主成分金属が酸化される。被膜パターン54の主成分金属は、内部電極層パターン53の主成分金属よりも酸化しやすい。そのため、被膜17は内部電極層パターン53の主成分金属が焼結するよりも先に形成され、被膜17に沿って内部電極層パターン53の主成分金属の焼成が進む。これにより、内部電極層パターン53の主成分金属の過焼結による球状化が抑制され、焼成工程後に得られる内部電極層12の連続率を向上させることができる。
【0056】
(再酸化処理工程:S4)
その後、N2ガス雰囲気中で600℃~1000℃で再酸化処理を行ってもよい。
【0057】
(めっき処理工程:S5)
その後、外部電極20a,20bの下地層上に、めっき処理により、Cu,Ni,Sn等の金属コーティングを行う。以上の工程により、積層セラミックコンデンサ100が完成する。
【0058】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の製造方法によれば、内部電極層パターン53の一方の面に、内部電極層パターン53の主成分金属よりも酸化しやすい金属を主成分金属とする被膜パターン54をスパッタで成膜し、焼成する。これにより、被膜パターン54の主成分金属が酸化して形成された被膜17に沿って、内部電極層パターン53の主成分金属の焼成が進む。これにより、内部電極層パターン53の主成分金属の過焼結による球状化を抑制できるため、内部電極層12の連続率の低下を抑制することができる。また、内部電極層パターン53の一方の面に被膜パターン54を成膜するため、内部電極層パターン53の両面に被膜パターン54を成膜する場合と比較して、酸素欠陥の生成が抑制され、絶縁信頼性の高い誘電体層11を得ることができる。
【0059】
なお、上記実施形態では、誘電体グリーンシート52上に、内部電極層パターン53を成膜し、内部電極層パターン53上に被膜パターン54を成膜していたが、これに限られるものではない。
図10(a)及び
図10(b)に示すように、誘電体グリーンシート52上に被膜パターン54を成膜し、被膜パターン54上に内部電極層パターン53を成膜してもよい。この場合、被膜パターン54及び内部電極層パターン53が成膜された誘電体グリーンシート52を、積層単位とする。そして、誘電体グリーンシート52を基材51から剥がしつつ、
図10(c)で例示するように、積層単位を積層すればよい。
【0060】
また、内部電極層12の主成分金属のターゲットと被膜17の主成分金属のターゲットとを用いて、
図11(a)に示すように、内部電極層12の主成分金属と被膜17の主成分金属とを含む複合パターン56を誘電体グリーンシート52上にスパッタで成膜してもよい。この場合、複合パターン56が成膜された誘電体グリーンシート52を積層単位とする。そして、誘電体グリーンシート52を基材51から剥がしつつ、
図11(b)で例示するように、積層単位を積層すればよい。
【0061】
内部電極層12の主成分金属のターゲットと被膜17を構成する金属酸化物の金属のターゲットとを同時にスパッタする場合、内部電極層12の主成分金属に対する被膜17を構成する金属酸化物の金属の割合を、1at%-5at%とする。内部電極層12の主成分金属に対する被膜17を構成する金属酸化物の金属の割合は、内部電極層12の主成分金属の原子数をN5、被膜17を構成する金属酸化物の金属の原子数をN6とすると、N6/(N5+N6)で表される。
【0062】
焼成工程において複合パターン56を焼成すると、複合パターン56の両面のうちチャンバに露出していた面上を中心に、被膜17が形成される。これにより、被膜17に沿って内部電極層12の主成分金属の焼成が進むため、内部電極層12の主成分金属の過焼結による球状化を抑制することができ、内部電極層12の連続率を向上することができる。
【0063】
なお、スパッタ時に、被膜17の主成分金属の割合が1at%よりも少ないと、内部電極層12の上面に十分な量の被膜17が形成されない。この場合、内部電極層12の主成分金属の球状化が抑制できず、内部電極層12の連続率の向上に寄与できない。なお、被膜17の主成分金属の割合は、1~3at%が好ましい。この場合、内部電極層12の連続率がより向上し、かつ、被膜17の主成分金属による信頼性劣化を抑えられる。
【0064】
なお、上記各実施形態においては、セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、それに限られない。例えば、バリスタやサーミスタなどの、他の電子部品を用いてもよい。
【実施例0065】
以下、実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、特性について調べた。
【0066】
(実施例1)
チタン酸バリウム粉末に対して添加物を添加し、ボールミルで十分に湿式混合粉砕して誘電体材料を得た。誘電体材料に有機バインダとしてブチラール系、溶剤としてトルエン、エチルアルコールを加えてドクターブレード法にてPETの基材上に誘電体グリーンシートを塗工した。誘電体グリーンシートの表面に、スパッタで厚さ200nmの複合パターンを成膜した。より具体的には、NiとCrとの複合層を成膜した。Niターゲットに対するCrターゲットの割合は、3.1at%とした。パターニングには、メタルマスクを用いたマスク法を採用した。複合パターンが形成された誘電体グリーンシートを、複合パターンが交互にずれるように10層積層し、所定の大きさにカットし、複合パターンが露出する2端面に外部電極用の金属導電ペーストを塗布し、焼成した、積層セラミックコンデンサを得た。
【0067】
(比較例1)
比較例1では、内部電極層パターンを成膜する際に、Niのみで200nmの成膜を行なった。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0068】
実施例1および比較例1について、内部電極層の連続率を測定した。
図12は、連続率を表す図である。
図12で例示するように、ある内部電極層12における長さL0の観察領域において、その金属部分の長さL1,L2,・・・,Lnを測定して合計し、金属部分の割合であるΣLn/L0をその層の連続率と定義することができる。
【0069】
図13(a)は、比較例1の断面SEM像である。
図13(b)は、実施例1の断面SEM像である。
図13(a)と
図13(b)との比較結果から、内部電極層の連続率に明確な差異が確認でき、誘電体層と内部電極層との間に酸化Cr膜を配置することで連続率が改善したものと理解できる。なお、実施例1では、連続率が98%と測定された。比較例1では、連続率が70%と測定された。
【0070】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。