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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068853
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】装飾体
(51)【国際特許分類】
   B60R 13/00 20060101AFI20230511BHJP
【FI】
B60R13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180240
(22)【出願日】2021-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000105925
【氏名又は名称】サカエ理研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 彩花
【テーマコード(参考)】
3D024
【Fターム(参考)】
3D024BA03
3D024BA07
(57)【要約】
【課題】少ない工程で意匠の色の差を出すことが可能な装飾体を提供する。
【解決手段】装飾体101は、有色透明の樹脂材料で成形された有色透明材3で意匠面Sfが構成され、且つ、有色透明材3の裏面Srにめっき部処理が施されている。有色透明材3は、裏面Srの少なくとも一部に、板厚方向の断面が鋸歯状であるセレーションカットが施されている。鋸歯の溝底を結ぶ仮想面を基準面Soとする。一つの鋸歯を構成する二面のうち、基準面Soに対する仰角が相対的に小さい側の面をダーク面Sa、基準面Soに対する仰角が相対的に大きい側の面を遮面Sbと定義する。ダーク面Saの仰角θaは43°以上50°以下であり、遮面Sbの仰角θbは85°以上87°以下である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有色透明の樹脂材料で成形された有色透明材(3)で意匠面(Sf)が構成され、且つ、前記有色透明材の意匠面とは反対側の面である裏面(Sr)にめっき部処理が施された装飾体であって、
前記有色透明材は、前記裏面の少なくとも一部に、板厚方向の断面が鋸歯状であるセレーションカットが施されており、
鋸歯の溝底を結ぶ仮想面を基準面(So)とし、一つの鋸歯を構成する二面のうち、前記基準面に対する仰角が相対的に小さい側の面をダーク面(Sa)、前記基準面に対する仰角が相対的に大きい側の面を遮面(Sb)と定義すると、
前記ダーク面の仰角(θa)は43°以上50°以下であり、
前記遮面の仰角(θb)は85°以上87°以下である装飾体。
【請求項2】
前記セレーションカットにおける前記基準面からの鋸刃の高さ(H)は0.5mm以上2mm以下である請求項1に記載の装飾体。
【請求項3】
前記有色透明材の板厚(T)は5mm以下であり、
前記意匠面から前記基準面までの距離である基礎厚さ(To)は2mm以上である請求項1または2に記載の装飾体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有色透明の樹脂材料で形成された板状の装飾体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンブレム等の車両外装部品に用いられる板状の装飾体として、透明樹脂部材の裏面に塗装や印刷等で模様や色を付したものが知られている。この種の装飾体は、<1>金型による表面意匠の成形、<2>黒部の塗装(又は印刷)、<3>めっき部のシルバーメタリック塗装(又は蒸着)の工程により製造される。
【0003】
その他、例えば特許文献1に開示された車両の外装部品は、黒色系のベース部材の表面部分に透明な樹脂材料で構成された意匠部材が固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開第2008-195161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
黒部塗装及びめっき部塗装の両工程を行って意匠の色の差を出す従来品の製法では、工程が多くなるという問題がある。
【0006】
本発明はこのような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、少ない工程で意匠の色の差を出すことが可能な装飾体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による装飾体は、有色透明の樹脂材料で成形された有色透明材(3)で意匠面(Sf)が構成され、且つ、有色透明材の意匠面とは反対側の面である裏面(Sr)にめっき部処理が施されている。
【0008】
有色透明材は、裏面の少なくとも一部に、板厚方向の断面が鋸歯状であるセレーションカットが施されている。
【0009】
鋸歯の溝底を結ぶ仮想面を基準面(So)とする。一つの鋸歯を構成する二面のうち、基準面に対する仰角が相対的に小さい側の面をダーク面(Sa)、基準面に対する仰角が相対的に大きい側の面を遮面(Sb)と定義する。ダーク面の仰角(θa)は43°以上50°以下であり、遮面の仰角(θb)は85°以上87°以下である。
【0010】
好ましくは、セレーションカットにおける基準面からの鋸刃の高さ(H)は、0.5mm以上2mm以下である。また、好ましくは、有色透明材の板厚(T)は5mm以下であり、意匠面から基準面までの距離である基礎厚さ(To)は2mm以上である。
【0011】
本発明では、有色透明材の裏面に、好適条件のセレーションカットを施すことで、成形及びめっき部処理の2工程で意匠の色の差を出すことができる。よって、従来品の製法に比べ工程を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態による装飾体の(a)正面図、(b)Ib-Ib線断面の模式図。
図2】比較例の装飾体の(a)正面図、(b)IIb-IIb線断面の模式図。
図3図1のセレーションカット部の断面模式図。
図4】(a)図3の拡大図、(b)IVb部拡大図。
図5】正面からの光に対する作用を説明する図。
図6】正面上方からの光に対する作用を説明する図。
図7】ダーク面に対し直角に入射する光に対する作用を説明する図。
図8】ダーク面の面直方向から少し外れた角度で入射する光に対する作用を説明する図。
図9】有色透明材の板厚と透過率との関係を示す図。
図10】セレーションカットを施した有色透明材のL値測定方法を示す図。
図11】セレーションカットの高さとL値測定結果との関係を示す図。
図12】第2実施形態による装飾体の(a)正面図、(b)XIIb-XIIb線断面の模式図。
図13】ダイヤカット形状Aの(a)正面図、(b)XIIIb-XIIIb線断面の模式図。
図14】ダイヤカット形状Aの斜視図。
図15】ダイヤカット形状Bの(a)正面図、(b)XVb-XVb線断面の模式図。
図16】ダイヤカット形状Bの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態による装飾体を図面に基づいて説明する。この装飾体は、有色透明の樹脂材料で板状に形成され、エンブレム等の車両外装部品として用いられる。図1に示す第1実施形態と、図12に示す第2実施形態とはセレーションカットの鋸刃の方向のみが異なり、基本的な作用効果は同じである。
【0014】
(第1実施形態)
図1図2を参照し、車両のエンブレムを想定した装飾体として、第1実施形態と比較例とを対比して説明する。この比較例は一般的な従来品に相当する。以下の明細書中、一部を除き第1実施形態を「本実施形態」と記す。図1(a)に本実施形態の装飾体101の正面図を示し、図2(a)に比較例の装飾体109の正面図を示す。図1(b)及び図2(b)に各図(a)の縦断面を示す。なお、図2(b)では裏面Srのセレーションカット部4の詳細な図示を省略し、図3に断面模式図を示す。
【0015】
一般に樹脂部材の断面図には樹脂ハッチングを付すところ、本願の図面では有色透明材の断面図における樹脂ハッチングを省略する。これは、例えば図5図8で光の線がハッチングの線と重なって見にくくなることを防ぐ等の理由による。そこで、[図面の説明の欄]には「断面図」ではなく「断面を示す模式図」と記す。
【0016】
本実施形態及び比較例の装飾体101、109はいずれも、有色透明の樹脂材料で成形された有色透明材3で意匠面Sfが構成されている。有色透明材3はPMMA(アクリル)材やPC(ポリカーボネート)材で成形される。また、本実施形態で有色とは暗色系のスモーク色を意味する。
【0017】
また、本実施形態及び比較例の装飾体101、109はいずれも、有色透明材3の意匠面Sfとは反対側の面である裏面Srに「めっき部処理」としてめっき部塗装が施されている。正面図にて白抜きされた部分がめっき部5を表す。めっき部塗装は、具体的にはシルバーメタリック塗装である。なお、「めっき部処理」は蒸着により行われてもよい。
【0018】
さらに比較例の装飾体109では、めっき部5に加えて黒部6が塗装(又は印刷)されている。エンブレムでは黒部6とめっき部5との意匠の色の差を出すことが求められる。しかし、黒部塗装及びめっき部塗装の両工程を行って意匠の色の差を出す比較例の製法では、工程が多くなるという問題がある。
【0019】
これに対し本実施形態の装飾体101では、黒部塗装を廃止し、有色透明材3の裏面Srに板厚方向の断面が鋸歯状であるセレーションカットが施されている。第1実施形態ではセレーションカット部4の鋸刃が縦方向に形成されている。比較例の黒部6に代えて、光が減衰されたセレーションカット部4で暗さを表現することで、成形及びめっき部塗装の2工程で意匠の色の差を出すことができる。よって、比較例の製法に比べ工程を減らすことができる。
【0020】
本実施形態の技術的特徴は次の通りである。
【0021】
1.スモーク色を呈する有色透明材3を使用することで、スモーク効果により無色透明材と比較して光を減衰させるため、より暗く見える。
【0022】
2.需要者が観察する意匠面Sfが有色透明材3で構成されている。塗装面を意匠面にしてしまうと、乱反射した全ての光がそのまま目に入ってしまうため、明るいままで暗くならない。
【0023】
3.有色透明材3の裏面Srに施されるセレーションカットの形状及び角度等の寸法の条件を指定することにより、色の差を明確に出すことが可能になる。詳細は後述する。
【0024】
4.裏面Srのめっき部5の塗装は主にメタリック塗装を使用する。メタリック塗装部で乱反射を起こさせ明るく見せることで、セレーションカットによる暗い部分とのコントラスト効果が生じる。
【0025】
[セレーションカットの条件]
次に図3図4を参照し、本実施形態のセレーションカットにおける形状、及び、角度や板厚等の寸法に関する好適条件について説明する。有色透明材3は、裏面Srの少なくとも一部に、板厚方向の断面が鋸歯状であるセレーションカットが施されている。鋸歯の溝底を結ぶ仮想面を基準面Soとする。一つの鋸歯を構成する二面のうち、基準面Soに対する仰角θaが相対的に小さい側の面を「ダーク面Sa」、基準面Soに対する仰角θbが相対的に大きい側の面を「遮面Sb」と定義する。
【0026】
図3に示すように、有色透明材3の板厚Tは5mm以下とする。一般に自動車外装部品では、板厚が5mmを超えるものは厚すぎるためである。また成形品質の確保の点から、基準面Soからの鋸刃の高さHは0.5mm以上2mm以下とし、意匠面Sfから基準面Soまでの距離である基礎厚さToは2mm以上とする。
【0027】
図4(a)に示すように、ダーク面Saの仰角θaは43°以上50°以下とする。下限値は、有色透明材3を構成する樹脂材料の臨界角、すなわち、「光の入射角がその角度を超えると反射する最小の角度」を根拠とする。有色透明材3の樹脂材料として使用されるPMMA材の臨界角は42.2°であり、PC材の臨界角は39.12°である。そのため、より大きいPMMA材の臨界角42.2°に基づき43°を下限値とすることで、PMMA材、PC材の両方に対して臨界角より大きい角度範囲が設定される。
【0028】
上限値は一般的な金型強度、成形条件により決まる。一般に凹凸形状を有する成形品では、幅対高さ比(H/W)が1を上限とするのが好ましく、それより大きいと強度が保てなくなり、製品として成り立たない。ここで、図4(b)に示すように、金型製作上、鋸刃の先端は、エンドミルの先端Rに倣ってR0.1~0.3の角丸め形状となっている。角Rが無いと仮定すると、θa=50°での幅対高さ比(H/W)は1より少し大きいが、角Rが有る分だけ高さHが低くなる。したがって、θa=50°を上限値とすることで幅対高さ比(H/W)を1以内に抑えることができる。なお、図4(b)以外の図では角Rの図示を省略する。
【0029】
また、図4(a)に示すように、遮面Sbの仰角θbは85°以上87°以下とする。理論的には遮面Sbの仰角θbは90°であってもよいが、実際には成形時の抜き勾配を3~5°確保する必要があるためである。
【0030】
以上をまとめると、セレーションカットの好適な条件は次の通りである、
T≦5mm
0.5mm≦H≦2mm
2mm≦To
43°≦θa≦50°
85°≦θb≦87°
【0031】
[光の入射方向と暗さの維持との関係]
図5図8を参照し、各方向から入射する光をセレーションカット部4で減衰して暗さを維持する作用について説明する。この説明では、入射角が臨界角以上のとき、光が有色透明材3の表面で正反射することを前提とする。
【0032】
(1.正面光)
図5に示すように、意匠面Sfの正面から入射した光は、ダーク面Saで反射して遮面Sbに当たって減衰される。したがって意匠面Sfは暗く見える。
【0033】
(2.正面上方からの光)
図6に示すように、意匠面Sfの正面上方から入射した光も、ダーク面Saで反射して遮面Sbに当たって減衰される。したがって意匠面Sfは暗く見える。
【0034】
(3.ダーク面に対し直角に入射する光)
図7に示すように、ダーク面Saに対し光が直角に入射する場合を考える。このとき、意匠面Sfへの入射角度はダーク面Saの仰角θaに等しい。光の一部はダーク面Saで正反射し、有色透明材3の内部で意匠面Sfに向かう。反射光の意匠面Sfへの入射角度はダーク面Saの仰角θaに等しく、有色透明材3の臨界角より大きいため、反射光は外部に透過せず再反射する。こうして、有色透明材3の内部で光が反射を繰り返すため暗さが維持される。反射を繰り返した光は、最終的に遮面Sbに当たって減衰する。
【0035】
(4.ダーク面の面直方向から少し外れた角度で入射する光)
図8に示すように、ダーク面Saの面直方向から少し外れた角度で入射する光の一部はダーク面Saで反射する。反射光の意匠面Sfへの入射角度(例えば40°程度)は臨界角より小さいため、外部に透過する。しかし、意匠面Sfから基準面Soまでの距離は2mm以上であるため、光が有色透明材3の内部を往復する距離は5mm以上となり、光はその間に減衰する。また、本実施形態では暗色系(スモーク色)の有色透明材3が用いられるため、光の減衰効果と併せて暗さが維持される。
【0036】
以上のように、どのような角度から入射した光も、スモーク色の有色透明材3の内部で一回から複数回反射して減衰される。また、正反射光よりも弱い拡散反射光はスモーク色の効果により更に暗くなる。よって本実施形態では、条件を満たしたセレーションカットにより、好適に意匠の色の差を出すことができる。
【0037】
[有色透明材の仕様例]
本実施形態の効果検証に使用した有色透明材は「コモグラス/530k/グレースモーク」である。図9に、この材料の板厚と透過率との関係を示す。使用した可視光線透過測定器は、TINT METER MODEL 2000JPである。板厚が2mmから5mmまで厚くなるにしたがって、透過率は約50から約20まで単調に減少する。この材料と同等の透過率特性を有する材料を用いれば、上記の作用効果は再現可能である。
【0038】
[セレーションカットを施した有色透明材の明度(L値)測定結果]
図10図11を参照し、セレーションカットにおける鋸刃の高さと明度との関係について説明する。図10に示すように、共通の条件として、セレーションカット部4を除く基礎厚さToは2mmとし、ダーク面Saの仰角θaは50°とする。有色透明材3の裏面Srには、めっき部処理5としてシルバーメタリック塗装が施されている。使用した測定器は、KONICA MINOLTA CM-700dである。
【0039】
図11に測定結果を示す。セレーションカット無しでのL値は約53であり、ダーク3価めっきに相当する数値範囲50~60に含まれる。セレーションカットが有る場合に鋸刃の高さHを0.2mmから2.0mmまで変化させると、鋸刃の高さHが0.4mm以上のときL値は30~32となり、「ほぼ黒に近い」と判断される。この結果から、セレーションカットを設けることにより、有色透明材3の暗い部分とめっき部5の明るい部分との色の差の表現が可能であることが検証できた。
【0040】
(第2実施形態)
図12に示す第2実施形態の装飾体102では、セレーションカット部4の鋸刃が横方向に形成されている。セレーションカット部4の寸法が上記条件を満たせば、鋸刃の方向によらず同様の効果が得られる。
【0041】
[応用形状]
セレーションカットの応用形状例として図13図14にダイヤカット形状Aを示し、図15図16にダイヤカット形状Bを示す。ダイヤカット形状A、Bのいずれも略長方形の単位ブロックが縦横に規則的に配置されている。ダイヤカット形状Aの単位ブロックは、左上及び右上の角から内向きに下がる傾斜ラインが左右対称に形成されている。ダイヤカット形状Bの単位ブロックは、ダイヤカット形状Aと同様の傾斜ラインが下辺の中点に向かってV字状に形成されている。
【0042】
ダイヤカット形状A、Bのいずれも、縦断面に沿って設けられたセレーションカット部4の寸法が上記条件を満たしている。上記条件を満たすセレーションカット部4を設けることで、意匠の色の暗さを出すことが可能な形状バリエーションを広げることが可能となる。
【0043】
(他の実施形態)
本発明の装飾体は、エンブレム等の車両外装部品に限らず、暗い部分と明るい部分との意匠の色の差が要求されるあらゆる物品に適用可能である。
【0044】
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0045】
101、102・・・装飾体、
3 ・・・有色透明材、
4 ・・・セレーションカット部、 5 ・・・めっき部、
Sf・・・意匠面、 Sr・・・裏面、
So...基準面、
Sa・・・ダーク面、 θa・・・ダーク面の仰角、
Sb・・・遮面、 θb・・・遮面の仰角。
H ・・・鋸刃の高さ、
T ・・・有色透明材の板厚、 To・・・基礎厚さ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16