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特開2023-68868細胞表面に発現するタンパク質を介した細胞同士の結合、融合、又はそれらの阻害活性を測定する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068868
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】細胞表面に発現するタンパク質を介した細胞同士の結合、融合、又はそれらの阻害活性を測定する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20230511BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20230511BHJP
【FI】
C12Q1/02 ZNA
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180269
(22)【出願日】2021-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】509013703
【氏名又は名称】公立大学法人福島県立医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】521319306
【氏名又は名称】福島セルファクトリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100156443
【弁理士】
【氏名又は名称】松崎 隆
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 慎哉
(72)【発明者】
【氏名】今井 順一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 慈子
(72)【発明者】
【氏名】星 裕孝
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA05
4B063QQ79
4B063QR48
4B063QR56
4B063QR77
4B063QS13
4B063QS39
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】 本発明は細胞膜上に発現するタンパク質同士の結合をより短時間で定量的に測定できる手法の提供を課題とする。
【解決手段】 細胞表面に発現するタンパク質を介した細胞同士の結合を測定する方法であって、膜タンパク質を発現する細胞と、膜タンパク質に結合するタンパク質を細胞表面に発現する細胞とを培養する工程と、培養工程後の細胞同士の結合状態を測定する工程と含む、測定方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞表面に発現するタンパク質を介した細胞同士の結合を測定する方法であって、
膜タンパク質を発現する細胞と、前記膜タンパク質に結合するタンパク質を細胞表面に発現する細胞とを培養する工程と
前記培養工程後の細胞同士の結合状態を測定する工程と
含む、測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の測定方法であって、
前記測定工程において測定される細胞が生細胞である、測定方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の測定方法であって、
前記培養工程が浮遊培養である、測定方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の測定方法であって、
前記測定工程が経時的に細胞同士の結合状態を測定する工程である、測定方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の測定方法であって、
前記測定工程がフローサイトメーターを用いて測定する工程である、測定方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の測定方法であって、
前記測定工程が細胞の大きさの測定を含む、測定方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の測定方法であって、
前記膜タンパク質に結合するタンパク質が膜融合能を有するタンパク質であり、
前記測定工程が細胞同士の融合状態を測定する工程である、測定方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の測定方法であって、
前記膜タンパク質がウイルスの標的タンパク質であり、前記膜タンパク質に結合し、かつ、膜融合能を有するタンパク質が前記ウイルス由来の前記標的タンパク質に結合するタンパク質である、測定方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の測定方法であって、
前記膜タンパク質がACE2受容体タンパク質であり、前記膜タンパク質に結合し、かつ、膜融合能を有するタンパク質がSARS-CoV2のSタンパク質である、測定方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の測定方法を用いて、細胞表面に発現するタンパク質を介した細胞同士の結合に対する被検試料の結合阻害活性または結合促進活性を測定する方法であって、
前記培養工程が、前記被検試料の存在下、膜タンパク質を発現する細胞と、前記膜タンパク質に結合するタンパク質を細胞表面に発現する細胞とを培養する工程であり、
前記測定工程において測定した細胞同士の結合状態から前記被検試料の結合阻害活性または結合促進活性を評価する、測定方法。
【請求項11】
請求項10に記載の測定方法であって、
前記培養工程が浮遊培養であり、
前記測定工程が生細胞を経時的に測定する工程である、測定方法。
【請求項12】
請求項10または11に記載の測定方法であって、
前記被検試料が抗体、レクチン、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、低分子化合物、血液、唾液、涙液、尿、または、リンパ液である、測定方法。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか一項に記載の測定方法であって、
前記被検試料の中和活性を測定する、測定方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞表面に発現するタンパク質を介した細胞同士の結合を測定する方法に関する。また本発明は、細胞表面に発現するタンパク質を介した細胞同士の結合に対する被検試料の結合阻害活性または結合促進活性を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)、RSウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)等のエンベロープ型ウイルスの多くは、宿主細胞へ侵入する最初の段階でウイルス外膜に発現しているタンパク質が宿主細胞の細胞膜タンパク質(受容体)と結合し、その後、ウイルス外膜と宿主細胞の細胞膜が融合すると考えられている。例えば、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の場合には、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイクタンパク質(Sタンパク質)がヒト細胞の細胞膜に発現しているACE2受容体に結合した後に、Furinと想定されるヒトタンパク質分解酵素によりS1とS2に切断され、その後、S2は、ヒトタンパク質分解酵素であるTMPRSS2で切断されてウイルス外膜とヒト細胞の細胞膜が融合すると考えられている(非特許文献1)。
【0003】
さらに、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイクタンパク質の受容体であるACE2を発現するヒト細胞と新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイクタンパク質を発現する細胞を共培養すると、シナプスのような細胞間の接触が起こり、細胞間融合が始まり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者の肺に見られるような合胞体(シンシティア/syncytia)が形成されることが見出されている。スパイクタンパク質のACE2への結合による膜融合の分子機構を見るために、顕微鏡を用いた細胞融合アッセイ法およびLuciferase reporter assay法が開発されている(非特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Hoffmann et al., “SARS-CoV-2 Cell Entry Depends on ACE2 and TMPRSS2 and Is Blocked by a Clinically Proven Protease Inhibitor”, Cell, 181, 271-280 (2020)
【非特許文献2】Sanders, D. W. et al., “SARS-CoV-2 requires cholesterol for viral entry and pathological syncytia formation”, eLife, 1-47 (2021)
【非特許文献3】Ya-Wen Cheng et al., “D614G Substitution of SARS-CoV-2 Spike Protein Increases Syncytium Formation and Virus Titer via Enhanced Furin-Mediated Spike Cleavage”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、ウイルスのスパイクタンパク質と宿主細胞の受容体との結合や中和活性を検証するためには、ビアコアを用いたアッセイ法、ELISAを用いたアッセイ法またはシュードウイルスを用いたアッセイ法が存在する。しかしながら、ビアコアやELISAを用いたアッセイ法は、使用するタンパク質が人工的なものであるため、必ずしも生体の反応を反映しているとは言えない。さらに、ビアコアを用いたアッセイ法は、タンパク質とタンパク質との結合力を測定するのみで、その阻害活性まで検出することができない。また、シュードウイルスを用いたアッセイでは、ウイルスの宿主細胞への感染阻害率を測定できるが、実験に数日間を要する。また、ウイルスのスパイクタンパク質を発現させた細胞とその受容体を発現させた細胞を共培養させて合胞体(シンシティア/syncytia)の形成を観察することにより、短時間(数時間)でスパイクタンパク質と受容体との結合を確認できるが、定量的な測定が難しかった。
上記課題に鑑み、本発明は細胞膜上に発現するタンパク質を介した細胞同士の結合をより短時間で定量的に測定できる手法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ウイルスのスパイクタンパク質を発現させた細胞とその受容体を発現させた細胞を共培養して形成した合胞体(シンシティア/syncytia)を定量的に測定する方法を見出した。また、中和抗体や感染阻害薬候補物質などとともに当該細胞同士を共培養することにより、当該合胞体(シンシティア/syncytia)の形成阻害活性または形成促進活性を測定することができることを見出した。
さらに本発明者らは、細胞同士の合胞体形成に限らず、細胞同士の結合の形成についても同様に定量的に測定することができることを見出した。また、結合阻害薬候補物質や結合促進薬候補物質などとともに当該細胞同士を共培養することにより、結合阻害活性または結合促進活性を測定することができることを見出した。本発明は上記知見により完成されたものであり、以下の態様を含む:
【0007】
すなわち、本発明の一態様は、
〔1〕細胞表面に発現するタンパク質を介した細胞同士の結合を測定する方法であって、
膜タンパク質を発現する細胞と、前記膜タンパク質に結合するタンパク質を細胞表面に発現する細胞とを培養する工程と
前記培養工程後の細胞同士の結合状態を測定する工程とを含む、測定方法に関する。
ここで本発明の細胞同士の結合を測定する方法は一実施の形態において、
〔2〕上記〔1〕に記載の測定方法であって、
前記測定工程において測定される細胞が生細胞であることを特徴とする。
また本発明の細胞同士の結合を測定する方法は一実施の形態において、
〔3〕上記〔1〕または〔2〕に記載の測定方法であって、
前記培養工程が浮遊培養であることを特徴とする。
また本発明の細胞同士の結合を測定する方法は一実施の形態において、
〔4〕上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の測定方法であって、
前記測定工程が経時的に細胞同士の結合状態を測定する工程であることを特徴とする。
また本発明の細胞同士の結合を測定する方法は一実施の形態において、
〔5〕上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の測定方法であって、
前記測定工程がフローサイトメーターを用いて測定する工程であることを特徴とする。
また本発明の細胞同士の結合を測定する方法は一実施の形態において、
〔6〕上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の測定方法であって、
前記測定工程が細胞の大きさの測定を含むことを特徴とする。
また本発明の細胞同士の結合を測定する方法は一実施の形態において、
〔7〕上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の測定方法であって、
前記膜タンパク質に結合するタンパク質が膜融合能を有するタンパク質であり、
前記測定工程が細胞同士の融合状態を測定する工程であることを特徴とする。
また本発明の細胞同士の結合を測定する方法は一実施の形態において、
〔8〕上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の測定方法であって、
前記膜タンパク質がウイルスの標的タンパク質であり、前記膜タンパク質に結合し、かつ、膜融合能を有するタンパク質が前記ウイルス由来の前記標的タンパク質に結合するタンパク質であることを特徴とする。
また本発明の細胞同士の結合を測定する方法は一実施の形態において、
〔9〕上記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の測定方法であって、
前記膜タンパク質がACE2受容体タンパク質であり、前記膜タンパク質に結合し、かつ、膜融合能を有するタンパク質がSARS-CoV2のSタンパク質であることを特徴とする。
【0008】
また本発明は別の態様において、
〔10〕上記〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の測定方法を用いて、細胞表面に発現するタンパク質を介した細胞同士の結合に対する被検試料の結合阻害活性または結合促進活性を測定する方法であって、
前記培養工程が、前記被検試料の存在下、膜タンパク質を発現する細胞と、前記膜タンパク質に結合するタンパク質を細胞表面に発現する細胞とを培養する工程であり、
前記測定工程において測定した細胞同士の結合状態から前記被検試料の結合阻害活性または結合促進活性を評価する、測定方法に関する。
ここで本発明の被検試料の結合阻害活性または結合促進活性を測定する方法は一実施の形態において、
〔11〕上記〔10〕に記載の測定方法であって、
前記培養工程が浮遊培養であり、
前記測定工程が生細胞を経時的に測定する工程であることを特徴とする。
また本発明の被検試料の結合阻害活性または結合促進活性を測定する方法は一実施の形態において、
〔12〕上記〔10〕または〔11〕に記載の測定方法であって、
前記被検試料が抗体、レクチン、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、低分子化合物、血液、唾液、涙液、尿、または、リンパ液であることを特徴とする。
また本発明の被検試料の結合阻害活性または結合促進活性を測定する方法は一実施の形態において、
〔13〕上記〔10〕~〔12〕のいずれかに記載の測定方法であって、
前記被検試料の中和活性を測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の測定方法によれば、細胞膜上に発現するタンパク質を介した細胞同士の結合をより短時間で定量的に測定することができる。また本方法の培養工程を被検試料とともに実施することで被検試料の結合阻害活性または結合促進活性をより短時間で定量的に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、宿主細胞(Expi293F細胞)、ACE2受容体タンパク質発現細胞(SSC#000465)、Sタンパク質発現細胞(SSC#000486)、宿主細胞(Expi293F細胞)とSタンパク質発現細胞(SSC#000486)との組み合わせ、または、ACE2受容体タンパク質発現細胞(SSC#000465)とSタンパク質発現細胞(SSC#000486)との組み合わせを3時間接着培養した際の培養開始時点(0分)、1時間後、2時間後、3時間後における細胞の状態を顕微鏡下(明視野)で撮像した写真図を示す。
図2図2は、宿主細胞(Expi293F細胞)、ACE2受容体タンパク質発現細胞(SSC#000465)、Sタンパク質発現細胞(SSC#000486)、宿主細胞(Expi293F細胞)とSタンパク質発現細胞(SSC#000486)との組み合わせ、または、ACE2受容体タンパク質発現細胞(SSC#000465)とSタンパク質発現細胞(SSC#000486)との組み合わせを3時間浮遊培養した際の培養開始時点(0分)、1時間後、2時間後、3時間後における細胞の状態を顕微鏡下(明視野)で撮像した写真図を示す。
図3図3は、宿主細胞(Expi293F細胞)、ACE2受容体タンパク質発現細胞(SSC#000465)、Sタンパク質発現細胞(SSC#000486)、宿主細胞(Expi293F細胞)とSタンパク質発現細胞(SSC#000486)との組み合わせ、または、ACE2受容体タンパク質発現細胞(SSC#000465)とSタンパク質発現細胞(SSC#000486)との組み合わせを3時間接着培養した際の培養開始時点(0分)、1時間後、2時間後、3時間後における細胞の状態を図1の場合よりも顕微鏡下(明視野)で拡大して撮像した写真図を示す。
図4図4は、宿主細胞(Expi293F細胞)、ACE2受容体タンパク質発現細胞(SSC#000465)、Sタンパク質発現細胞(SSC#000486)、宿主細胞(Expi293F細胞)とSタンパク質発現細胞(SSC#000486)との組み合わせ、または、ACE2受容体タンパク質発現細胞(SSC#000465)とSタンパク質発現細胞(SSC#000486)との組み合わせを3時間浮遊培養した際の培養開始時点(0分)、1時間後、2時間後、3時間後における細胞の状態を図2の場合よりも顕微鏡下(明視野)で拡大して撮像した写真図を示す。
図5図5は、宿主細胞(Expi293F細胞)、ACE2受容体タンパク質発現細胞(SSC#000465)、Sタンパク質発現細胞(SSC#000486)、宿主細胞(Expi293F細胞)とSタンパク質発現細胞(SSC#000486)との組み合わせを3時間接着培養した際の培養開始時点(0分)、1時間後、2時間後、3時間後における細胞の状態を顕微鏡下(明視野)で撮像した写真図を示す。
図6図6は、ACE2受容体タンパク質発現細胞(SSC#000465)とSタンパク質発現細胞(SSC#000486)との組み合わせによる共培養、ならびに、当該共培養において各抗体(Total Ig of SARS-CoV-2 convalescent(ABT#04770)、または、anti-SARS-CoV-2 S protein Human Ab(cat#91361))を添加して共培養した際の培養開始時点(0分)、1時間後、2時間後、3時間後における細胞の状態を顕微鏡下(明視野)で撮像した写真図を示す。
図7図7は、ACE2受容体タンパク質発現細胞(SSC#000465)とSタンパク質発現細胞(SSC#000486)との共培養において抗体(anti-SARS-CoV-2 S protein Human Ab(cat#91345))を添加して共培養した際の培養開始時点(0分)、1時間後、2時間後、3時間後における細胞の状態を顕微鏡下(明視野)で撮像した写真図を示す。
図8図8は下記実施例4において行った細胞融合試験およびフローサイトメトリを用いた細胞融合解析を説明する概略図である。
図9図9は下記実施例4において行ったanti-SARS-CoV-2 S protein Human Ab(cat#91361))の細胞融合阻害試験の解析結果から得られた抗体濃度と細胞融合形成阻害率との関係を示すグラフを示す。図中、N1は一回目の試験結果を反映したグラフを示し、N2は二回目の試験結果を反映したグラフを示し、n=2は一回目と二回目の試験結果を反映したグラフを示す。
図10図10は下記実施例4において行ったTotal Ig of SARS-CoV-2 convalescent(ABT#04770)の細胞融合阻害試験の解析結果から得られた抗体濃度と細胞融合形成阻害率との関係を示すグラフを示す。図中、N1は一回目の試験結果を反映したグラフを示し、N2は二回目の試験結果を反映したグラフを示し、n=2は一回目と二回目の試験結果を反映したグラフを示す。
図11図11は下記実施例4において行ったanti-SARS-CoV-2 Human Ab (cat#91345)の細胞融合阻害試験の解析結果から得られた抗体濃度と細胞融合形成阻害率との関係を示すグラフを示す。図中、N1は一回目の試験結果を反映したグラフを示し、N2は二回目の試験結果を反映したグラフを示し、n=2は一回目と二回目の試験結果を反映したグラフを示す。
図12図12は下記実施例4において行った、anti-SARS-CoV-2 S protein Human Ab (Active motif、cat#91361)を被検試料として用いた細胞融合阻害試験(一回目)におけるフローサイトメトリによる解析結果を示すドットプロット図である。ドットプロット図中、VL1はACE2受容体タンパク質発現細胞の蛍光シグナルを示し、BL1はSタンパク質発現細胞の蛍光シグナルを示し、FSCは前方散乱光シグナルを示す。SCは単細胞を示し、Syncytiumは融合細胞を示す(以下、図12以降のドットプロット中に示すVL1、BL1、FSC、SC、Syncytiumは同じものを示す)。
図13図13は下記実施例4において行った、anti-SARS-CoV-2 S protein Human Ab (Active motif、cat#91361)を被検試料として用いた細胞融合阻害試験(一回目)におけるフローサイトメトリによる解析結果を示すドットプロット図である。図13中、Ab(-)は抗体を添加していないコントロール区の結果を示し、91361は各濃度(640pg、3.2ng、16ng)のanti-SARS-CoV-2 S protein Human Ab (Active motif、cat#91361)を被検試料として用いた試験区の結果を示す。
図14図14は下記実施例4において行った、anti-SARS-CoV-2 S protein Human Ab (Active motif、cat#91361)を被検試料として用いた細胞融合阻害試験(一回目)におけるフローサイトメトリによる解析結果を示すドットプロット図である。図14中、91361は各濃度(80ng、400ng、2μg、10μg)のanti-SARS-CoV-2 S protein Human Ab (Active motif、cat#91361)を被検試料として用いた試験区の結果を示す。
図15図15は下記実施例4において行った、anti-SARS-CoV-2 S protein Human Ab (Active motif、cat#91361)を被検試料として用いた細胞融合阻害試験(二回目)におけるフローサイトメトリによる解析結果を示すドットプロット図である。
図16図16は下記実施例4において行った、anti-SARS-CoV-2 S protein Human Ab (Active motif、cat#91361)を被検試料として用いた細胞融合阻害試験(二回目)におけるフローサイトメトリによる解析結果を示すドットプロット図である。
図17図17は下記実施例4において行った、anti-SARS-CoV-2 S protein Human Ab (Active motif、cat#91361)を被検試料として用いた細胞融合阻害試験(二回目)におけるフローサイトメトリによる解析結果を示すドットプロット図である。
図18図18は下記実施例4において行った、Total Ig of SARS-CoV-2 convalescent(ABT#04770)を被検試料として用いた細胞融合阻害試験(一回目)におけるフローサイトメトリによる解析結果を示すドットプロット図である。
図19図19は下記実施例4において行った、Total Ig of SARS-CoV-2 convalescent(ABT#04770)を被検試料として用いた細胞融合阻害試験(一回目)におけるフローサイトメトリによる解析結果を示すドットプロット図である。図19中、Ab(-)は抗体を添加していないコントロール区の結果を示し、ABT#04770は各濃度(640pg、3.2ng、16ng)のTotal Ig of SARS-CoV-2 convalescent(ABT#04770)を被検試料として用いた試験区の結果を示す。
図20図20は下記実施例4において行った、Total Ig of SARS-CoV-2 convalescent(ABT#04770)を被検試料として用いた細胞融合阻害試験(一回目)におけるフローサイトメトリによる解析結果を示すドットプロット図である。図20中、ABT#04770は各濃度(80ng、400ng、2μg、10μg)のTotal Ig of SARS-CoV-2 convalescent(ABT#04770)を被検試料として用いた試験区の結果を示す。
図21図21は下記実施例4において行った、Total Ig of SARS-CoV-2 convalescent(ABT#04770)を被検試料として用いた細胞融合阻害試験(二回目)におけるフローサイトメトリによる解析結果を示すドットプロット図である。
図22図22は下記実施例4において行った、Total Ig of SARS-CoV-2 convalescent(ABT#04770)を被検試料として用いた細胞融合阻害試験(二回目)におけるフローサイトメトリによる解析結果を示すドットプロット図である。
図23図23は下記実施例4において行った、Total Ig of SARS-CoV-2 convalescent(ABT#04770)を被検試料として用いた細胞融合阻害試験(二回目)におけるフローサイトメトリによる解析結果を示すドットプロット図である。
図24図24は下記実施例4において行った、anti-SARS-CoV-2 Human Ab (cat#91345)を被検試料として用いた細胞融合阻害試験(一回目)におけるフローサイトメトリによる解析結果を示すドットプロット図である。
図25図25は下記実施例4において行った、anti-SARS-CoV-2 Human Ab (cat#91345)を被検試料として用いた細胞融合阻害試験(一回目)におけるフローサイトメトリによる解析結果を示すドットプロット図である。図25中、Ab(-)は抗体を添加していないコントロール区の結果を示し、91345は各濃度(640pg、3.2ng、16ng)のanti-SARS-CoV-2 Human Ab (cat#91345)を被検試料として用いた試験区の結果を示す。
図26図26は下記実施例4において行った、anti-SARS-CoV-2 Human Ab (cat#91345)を被検試料として用いた細胞融合阻害試験(一回目)におけるフローサイトメトリによる解析結果を示すドットプロット図である。図26中、91345は各濃度(80ng、400ng、2μg、10μg)のanti-SARS-CoV-2 Human Ab (cat#91345)を被検試料として用いた試験区の結果を示す。
図27図27は下記実施例4において行った、anti-SARS-CoV-2 Human Ab (cat#91345)を被検試料として用いた細胞融合阻害試験(二回目)におけるフローサイトメトリによる解析結果を示すドットプロット図である。
図28図28は下記実施例4において行った、anti-SARS-CoV-2 Human Ab (cat#91345)を被検試料として用いた細胞融合阻害試験(二回目)におけるフローサイトメトリによる解析結果を示すドットプロット図である。
図29図29は下記実施例4において行った、anti-SARS-CoV-2 Human Ab (cat#91345)を被検試料として用いた細胞融合阻害試験(二回目)におけるフローサイトメトリによる解析結果を示すドットプロット図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一態様は、細胞表面に発現するタンパク質を介した細胞同士の結合を測定する方法であって、膜タンパク質を発現する細胞と、膜タンパク質に結合するタンパク質を細胞表面に発現する細胞とを培養する工程と、培養工程後の細胞同士の結合状態を測定する工程と含む、測定方法に関する。
本態様によれば、細胞表面に発現する膜タンパク質と当該膜タンパク質に結合するタンパク質との相互作用を介して結合する細胞同士の結合の状態を測定することができる。
【0012】
本明細書において「膜タンパク質」は、細胞膜上に発現し、他のタンパク質と相互作用しうる領域を提示させることのできるタンパク質をいう。「膜タンパク質」は、細胞膜上に発現し、他のタンパク質と相互作用しうる領域の提示が可能なものである限り限定されず、天然型の膜タンパク質や当該膜タンパク質の一部からなるフラグメントまたはそれらの変異体、膜貫通ドメインと他のポリペプチドとからなる融合ポリペプチド、天然型または人工型の膜タンパク質に結合しうるペプチドまたは化合物を有するタンパク質などであってもよい。なお本明細書においてタンパク質またはポリペプチドは糖タンパク質または糖ペプチドを含む。また「膜タンパク質」の由来も宿主細胞において細胞表面に提示できる限りにおいて限定されず、宿主細胞が本来的に発現しているタンパク質であっても、異種タンパク質であってもよい。ヒト細胞に対するウイルス感染の現象(細胞同士の結合または融合の現象)を測定の対象とする場合には、膜タンパク質および宿主細胞はヒト由来膜タンパク質およびヒト細胞であることが好ましいが、この組み合わせに限定されない。「膜タンパク質」の具体例としては、以下に限定されないが、ACE2受容体、Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV) の宿主受容体dipeptidyl peptidase 4 (DPP4) および宿主のプロテアーゼtransmembrane protease serine 2 (TMPRSS2)、免疫グロブリン様タンパク質、ICAM-1、シアル酸、9-O-アセチルシアル酸、アセチルコリンレセプター、CD4、β2マイクログロブリンなどのウイルスが細胞へ侵入する際の標的タンパク質、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)、トランスポーター、イオンチャネル、サイトカイン受容体、Herpes Simplex Virus-1 (HSV-1)の受容体の1つであるpaired immunoglobulin-like type 2 receptorα (PILRα)などを挙げることができる。
【0013】
本明細書において「膜タンパク質に結合するタンパク質」は、細胞膜上に発現し、上記「膜タンパク質」と相互作用しうるタンパク質をいう。「膜タンパク質」は、細胞膜上に発現し、上記膜タンパク質と相互作用しうる限り限定されず、天然型の膜タンパク質や当該膜タンパク質の一部からなるフラグメントまたはそれらの変異体、膜貫通ドメインと他のポリペプチドとからなる融合ポリペプチド、天然型または人工型の膜タンパク質に結合しうるペプチドまたは化合物を有するタンパク質などであってもよい。また「膜タンパク質に結合するタンパク質」は宿主細胞が本来的に発現しているタンパク質であっても、異種タンパク質であってもよい。ヒト細胞に対するウイルス感染の現象(細胞同士の結合または融合の現象)を測定の対象とする場合には、以下に限定されないが、例えばウイルス由来膜タンパク質およびヒト細胞の組み合わせとすることができる。「膜タンパク質に結合するタンパク質」の具体例としては、以下に限定されないが、コロナウイルス(例えば、SARS-CoV2)のSタンパク質、MERS-CoV のSタンパク質、HSV-1のGlycoprotein B (gB)、Glycoprotein D (gD)、Glycoprotein H (gH) およびGlycoprotein L (gL)、免疫グロブリン様タンパク質、ICAM-1、シアル酸、9-O-アセチルシアル酸、アセチルコリンレセプター、CD4、β2マイクログロブリンなどのウイルスが細胞へ侵入する際の標的タンパク質、トランスポーター、イオンチャネル、サイトカイン受容体などを挙げることができる。
【0014】
「膜タンパク質」と「膜タンパク質に結合するタンパク質」との組み合わせとしては、例えば、ウイルスのスパイクタンパク質とその標的タンパク質、サイトカインとその受容体などを挙げることができるが、これらに限定されない。またウイルスのタンパク質とその標的タンパク質との組み合わせの例としては、SARS-CoV2のSタンパク質とACE2、MERS-CoV のSタンパク質とDPP4およびTMPRSS2、HSV-1のgB、gD、gHおよびgLとPILRαを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0015】
「膜タンパク質」または「膜タンパク質に結合するタンパク質」を発現する細胞としては、当該タンパク質のいずれかを細胞表面に発現することができ、他方のタンパク質を発現する細胞とタンパク質の相互作用を介して結合することができる細胞であれば制限されない。本発明に用いることのできる細胞としては動物細胞が好ましく、動物種や由来する組織は制限されず、発現させるタンパク質に応じて適宜好ましい細胞を選択することができる。動物細胞としては哺乳動物細胞又は鳥類細胞を挙げることができる。哺乳動物細胞の具体例は、以下に限定されないが、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、シカ、エルク、スイギュウ、雄牛、ラクダ、ラマ、ウサギ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、又は非ヒト霊長類(サル、アカゲザル、カニクイザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなど)細胞を挙げることができる。好ましくは、ヒト細胞である。
「膜タンパク質を発現する細胞」および「膜タンパク質に結合するタンパク質を細胞表面に発現する細胞」は、当該タンパク質を内在的に発現している細胞をそのまま用いてもよいし、内在的に発現しているタンパク質の発現を亢進するように遺伝子組換えした細胞や外来性タンパク質を発現するように遺伝子組換えした細胞を用いてもよい。遺伝子組換えの操作は当業者に公知であり、対象とするタンパク質や細胞ごとに適宜好ましい手段を採用することができる。また細胞の種類は同一とすることが好ましいが、細胞同士結合できる限りにおいて異種でも良い。
【0016】
本明細書において、「細胞同士の結合を測定する」とは、細胞同士の結合状態を観察すること、結合している細胞の塊の数を計測すること、融合した細胞の数を計測すること、細胞を染色し、結合または融合した細胞の蛍光強度を測定すること等を含むが、これに限らない。本発明に係る細胞表面に発現するタンパク質を介した細胞同士の結合を測定する方法は、膜タンパク質を発現する細胞と、膜タンパク質に結合するタンパク質を細胞表面に発現する細胞とを培養する工程を含む。
培養の形態はタンパク質同士の相互作用を介した細胞同士の結合が観察できる限り制限されず、例えば、接着培養や浮遊培養とすることができる。好ましい実施の形態において培養の形態は浮遊培養である。浮遊培養とすることで細胞間の相互作用の頻度を任意の条件に設定することができ好ましい。
浮遊培養としては、浮遊培養用96 well plateプレート(Sumilon, cat#MS-8096R)などの市販の培養プレートまたは容器を用いることができる。細胞間の相互作用の頻度を調整するには、例えば細胞密度の条件を調整すればよく当業者であれば適宜好ましい条件を設定することができる。
培養に用いる培養液や温度、時間、pH、その他の培養条件は発現させるタンパク質や細胞に応じて公知の培養液を用いることができ、また適宜好ましい条件とすることができる。培養時間は細胞同士の結合が観察できるように設定することができ、以下に限定されず、30分、1時間、6時間、12時間、24時間、48時間などとすることができる。
【0017】
本発明に係る細胞表面に発現するタンパク質を介した細胞同士の結合を測定する方法は、培養工程後の細胞同士の結合状態を測定する工程を含む。
本明細書において「細胞同士の結合状態」には、細胞表面のタンパク質同士が相互作用して細胞同士が接着して結合する状態に加えて、細胞表面のタンパク質同士が相互作用した結果、細胞同士が融合した状態(細胞融合)も含む。「細胞融合」とは、細胞と細胞が結合して隔壁が消失し一つになることを意味し、例えば、ウイルスのスパイクタンパク質を発現させた細胞とその受容体を発現させた細胞とが融合し合胞体を形成することを含む。本明細書において「細胞同士の結合状態」や「細胞同士の融合状態」というとき、細胞同士が1対1で結合または融合した状態のほか、複数の細胞(3つ以上の細胞)が結合または融合した状態も含む。
よって、本発明に係る細胞表面に発現するタンパク質を介した細胞同士の結合を測定する方法は、細胞表面に発現するタンパク質を介した細胞同士の融合を測定する方法も含む。当該測定方法は、膜タンパク質を発現する細胞と、膜タンパク質に結合するタンパク質を細胞表面に発現する細胞とを培養する工程と、培養工程後の細胞同士の融合状態を測定する工程と含む。
【0018】
「細胞の結合状態」の測定は、細胞培養と同時に経時的に画像解析を行うことができる公知の生細胞解析システムや公知のフローサイトメーターを用いることができる。
本発明の測定方法は一実施の形態において、「細胞同士の結合状態」を生細胞解析システムを用いて測定することができる。生細胞解析システムを用いる場合、培養中の細胞の状態をそのまま解析することができる。また生細胞解析システムを用いる場合、位相差像により細胞の結合状態の確認することもできるし、蛍光標識を用いた蛍光シグナルを測定することもできる。
本発明の測定方法は一実施の形態において、「細胞同士の結合状態」をフローサイトメーターを用いて測定することができる。フローサイトメーターを用いて細胞同士の結合の状態を測定することで、短時間で大量の細胞の結合状態を定量的に測定することができる。浮遊培養など非接着性培養細胞を測定対象とする場合は培養液中の細胞をそのままフローサイトメーターの解析に用いることができる。接着培養した細胞をフローサイトメーターにより解析する場合、物理的または酵素処理などにより細胞を培養皿より剥離する。酵素処理は温和な条件とすることが好ましい。以下に限定されないが例えばPBSまたは0.25%トリプシン/PBS を少量(φ50mm ディッシュ:0.5ml、φ35mm ディッシュ:0.2ml 程度)加え、37℃で約5分間インキュベートすることが好ましい。またフローサイトメーターの解析前に孔径100μmなどのフィルターを通して培養液中の夾雑物や目詰まりの原因になる可能性のある大きさの細胞塊または融合細胞を取り除くことが好ましい。フローサイトメーターを用いる場合、測定の対象シグナルとしてはフローサイトメーターにより測定できるものであれば限定されず、前方散乱光(forward scatter:FSC)シグナル、側方散乱光(side scatter:SSC)シグナル、および蛍光シグナルなどを挙げることがでできる。特に、前方散乱光(forward scatter:FSC)シグナルを測定することで細胞のサイズを測定することができ、これにより1対1の細胞同士の結合やそれ以上の複数の細胞同士の結合の状態を測定することができる。測定するシグナルは例えば蛍光発光シグナルもしくは前方散乱光シグナル、または、それらの組み合わせとすることができる。なおフローサイトメーターは市販の装置を用いることができる。
【0019】
蛍光シグナルを測定する場合には、細胞の結合状態を観察可能なように公知の蛍光標識手段を用いて生じさせた蛍光を測定することができる。このような蛍光標識手段としては、CellTrace violet、CellTrace CFSE、CellTrace Far Red、Cell Explorer Live Cell Tracking Kit Blue Fluorescence、Cell Explorer Fixable Live Cell Tracking Kit Green Fluorescence、Cell Explorer Live Cell Tracking Kit Orange Fluorescenceを挙げることができる。また、公知の蛍光タンパク質をそれぞれの細胞に導入し、生じさせた蛍光を測定することができる。さらに、公知の蛍光タンパク質を分割し、それぞれの細胞に導入し、細胞融合後に生じる蛍光を測定することもできる。
当業者であれば用いる蛍光標識手段により細胞の結合状態を評価することができる。例えば、「膜タンパク質を発現する細胞」と「膜タンパク質に結合するタンパク質を細胞表面に発現する細胞」とのそれぞれに異なる蛍光標識を付した場合、両方の蛍光シグナルを測定できた細胞(または細胞塊)を結合した状態にある細胞と評価することができる。
【0020】
本発明の測定方法は一実施の形態において、測定工程における「膜タンパク質を発現する細胞」、「膜タンパク質に結合するタンパク質を細胞表面に発現する細胞」、および、それらが結合した細胞が生細胞である。また本発明の測定方法は一実施の形態において、培養後の細胞をパラホルムアルデヒドなどを用いて固定する工程を含まない。
生細胞を測定することにより経時的な変化を測定することができ好ましい。
【0021】
本発明の別の態様は、上記の測定方法を用いて、細胞表面に発現するタンパク質を介した細胞同士の結合に対する被検試料の結合阻害活性または結合促進活性を測定する方法に関する。当該測定方法は、被検試料の存在下、膜タンパク質を発現する細胞と、膜タンパク質に結合するタンパク質を細胞表面に発現する細胞とを培養する工程と、培養工程後の細胞同士の結合状態を、フローサイトメーターを用いて測定する工程であって、測定した細胞同士の結合状態から被検試料の結合阻害活性または結合促進活性を評価する工程を含む。
本測定方法によれば、被検試料存在下の共培養後における細胞の状態を測定することで、タンパク質を介した細胞同士の結合に対する被検試料の結合阻害活性または結合促進活性を測定することができる。また、細胞同士が共培養により融合する場合には、細胞融合の形成阻害活性または形成促進活性を測定することができる。さらに、タンパク質を介した細胞同士の結合が、ウイルスが細胞へ侵入する際の標的タンパク質と当該標的タンパク質に結合するウイルス由来タンパク質を介した細胞同士の融合であり、かつ、被検試料が抗体である場合、本測定方法は当該抗体の「中和活性」として評価することもできる。
【0022】
「被検試料」としては、低分子化合物、高分子化合物、有機化合物、無機化合物、多糖類、ポリマー、脂質、核酸およびその類似体、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体、レクチン、および、それらの組み合わせにより構成される化合物、ならびに、血液、唾液、涙液、尿、リンパ液などの体液を含む。「被検試料」として好ましくは、抗体、レクチン、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、低分子化合物;血液、唾液、涙液、尿、リンパ液などの体液等を挙げることができる。被検試料は上記に列挙する試料の精製物や調製物を用いることもできる。
ヒトなどから採取した血液などの体液を本発明の測定方法における被検試料として用いることにより、血液中にウイルスに対する中和活性を有する抗体の存在を確認できる。
【0023】
本明細書において「低分子化合物」とは分子量約10,000以下の化合物であって、高分子化合物、核酸、ポリペプチドと区別される化合物を意味する。「高分子化合物」とは分子量約10,000を超える化合物であって、低分子化合物、核酸、ポリペプチドと区別される化合物を意味する。「多糖類」とはグルコースやマンノース等の単糖が複数重合した化合物を意味し、多糖類を構成する単糖の種類や結合方法、分子量や主鎖と側鎖の形態など限定されない。「有機化合物」とは炭素が原子結合の中心となる化合物を意味し、「無機化合物」とは炭素が原子結合に含まれない化合物を意味する。「ポリマー」とは二つ以上の単量体が重合してできた化合物を意味する。「脂質」とは生物体内に存在して、水に溶けず有機溶媒に溶ける有機化合物を意味する。脂質には、以下に限定されないが、プロスタグランジンのような生理活性物質が含まれる。「核酸」とはデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)などを意味する。「ペプチド」とは2~50個程度のアミノ酸がペプチド結合したものを意味する。「ポリペプチド」とは、多数のアミノ酸が縮重反応によりペプチド結合が形成されてできた重合体を意味する。
【0024】
被検試料の存在下、膜タンパク質を発現する細胞と、膜タンパク質に結合するタンパク質を細胞表面に発現する細胞とを培養するとは、被検試料の存在下において細胞の共培養を実施する形態であれば限定されず、予め被検試料を添加した培地を用いて共培養してもよいし、細胞を共培養している培地に対して被検試料を添加してもよい。また、共培養を実施する前に、予め一方または両方の細胞を被検試料の存在下で前培養しておき、前培養した細胞を共培養に用いても良い。
【0025】
本明細書中で挙げたすべての特許、特許出願、及び出版物は、参照として本明細書中に組み込まれる。
以下、本発明について実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されない。
【実施例0026】
(実施例1.Human ACE2安定発現細胞およびSARS CoV-2 S protein安定発現細胞の作製)
本実施例ではExpi293F cellにHuman ACE2発現プラスミドベクター、または、SARS CoV-2 S protein発現プラスミドベクターを導入し、Human ACE2安定発現細胞およびSARS CoV-2 S protein安定発現細胞を作製した。
【0027】
1-1.試薬および実験材料
本実施例で用いた細胞、培養液、トランスフェクションキット、および、試薬の情報を下記に示す:
(i)細胞・試薬
・Expi293F cell (Thermo Fisher Scientific, cat#A14527)
・Expi293 Expression Medium (Thermo Fisher Scientific, cat#A1435102)
・ExpiFectamine 293 Transfection kit (Thermo Fisher Scientific, cat#A14524)
・Hygromycin B (50 mg/mL) , (Thermo Fisher Scientific, cat#10687010)
・抗ACE2抗体 (R&D systems, cat#MAB9332)
・抗SARS-CoV-2 S protein抗体 (AcroBiosystems, cat#SAD-S35)
・AlexaFluor 488-conjugated Anti-Mouse IgG (Jackson Immuno research, cat#715-545-151)
・AlexaFluor 488-conjugated Anti-Human IgG (Jackson Immuno research, cat# 709-545-149)
・Opti-MEMI reduced serum medium (Opti-MEMI, 100 mL) (Thermo Fisher Scientific, cat#31985062)
(ii)発現プラスミドベクター
・Human ACE2発現プラスミドベクター: Clone ID: N0860-C11-1_FDD_23674/pcDNA3.2 V5-DEST-Hyg
Human ACE2発現プラスミドベクターは、pcDNA3.2 V5-DEST-Hygベクターに組換え反応を利用してHuman ACE2 (angiotensin I converting enzyme 2)タンパク質(NP_068576.1;配列番号1)のORF(配列番号2)をコードする塩基配列を挿入することにより構築したプラスミドベクターである(配列番号3)。
・SARS CoV-2 S protein発現プラスミドベクター: Clone ID: MBG_00367 (NCP-CoV(2019-nCoV) Spike ORF mammalian expression plasmid (Codon Optimized) (Sino Biological, cat# VG40589-UT))
(iii)機器
・Cell Sorter (SONY, cat#SH800S)
【0028】
1-2.操作手順
(i) 細胞の培養
Expi293F cellをExpi293 Expression Mediumを用い、8 % CO2存在下37℃で振盪培養を行った。
(ii) Human ACE2安定発現細胞およびSARS CoV-2 S protein安定発現細胞の作製
トランスフェクション前日にExpi293F cellを2 x 106 cells/mlの濃度で継代し、一晩培養した。Expi Fectamine 293 Transfection kit に含まれるExpiFectamine 293 Reagent 80μlとOpti-MEMI 1420μlを混合し、5分間インキュベート後、各タンパク質発現プラスミドベクター 30μgを含むOpti-MEMI 溶液1500μlと混合し、室温で20 分間インキュベートしトランスフェクション溶液とした。125mlフラスコに25.5mlの培地中7.5 x 107 cellsになるように当日継代したExpi293F cellへ上記のトランスフェクション溶液を添加し、トランスフェクションを行った。トランスフェクション48時間後、ExpiFectamine 293 Transfection kit に含まれるExpiFectamine 293 Transfection enhancer 1, 150μlとExpiFectamine 293 Transfection enhancer 2, 1.5mlの混合溶液を細胞に添加した。使用した発現プラスミドベクターはHygromycin耐性遺伝子を有するため、50 μg/ml hygromycin Bを含む培地で培養し、各タンパク質発現プラスミドベクターが導入された細胞の選択を行った。得られた細胞をそれぞれSSC#000364 (human ACE2安定発現細胞), SSC#000456 (SARS CoV-2 S protein安定発現細胞) とした。
【0029】
(iii)Human ACE2安定発現細胞のクローニング
上記(ii)で作製したHuman ACE2安定発現細胞(SSC#000364)群について抗ACE2抗体による免疫染色を行い、Cell Sorterにより解析した。Human ACE2安定発現細胞(SSC#000364)群のうちACE2の高発現細胞6.8%を含む範囲にゲートを設定後、Cell sortによりACE2高発現細胞群を取得し、SSC#000442とした。さらにSSC#000442について同様の解析を行い、SSC#000442のACE2高発現細胞42.42%を含む範囲にゲートを設定後、Single cell sortにより細胞のクローニングを行った。取得した11クローン (SSC#000465-475) についてフローサイトメトリによる解析およびウエスタンブロット解析によりACE2の発現を確認した。そのうちSSC#000465がACE2の発現量が高く、フローサイトメトリによる解析の波形がシャープであったため今後の解析に用いることとした。
【0030】
(iv)SARS CoV-2 S protein安定発現細胞のクローニング
上記(ii)で作製したSARS CoV-2 S protein安定発現細胞(SSC#000456)群について抗SARS-CoV-2 S protein抗体による免疫染色を行い、Cell Sorterにより解析した。SARS CoV-2 S protein安定発現細胞(SSC#000456)群のうちS proteinの高発現細胞5.99%を含む範囲にゲートを設定後、Single cell sortにより細胞のクローニングを行った。取得した6クローン (SSC#000482-487) についてフローサイトメトリによる解析およびウエスタンブロット解析によりS proteinの発現を確認した。そのうちSSC#000486がS proteinの発現量が高く、フローサイトメトリによる解析の波形がシャープであったため今後の解析に用いることとした。
【0031】
(実施例2. Human ACE2安定発現細胞およびSARS CoV-2 S protein安定発現細胞を用いた細胞融合アッセイ)
本実施例では実施例1で作製したHuman ACE2安定発現細胞およびSARS CoV-2 S protein安定発現細胞を接着培養または浮遊培養により共培養を行い、培養後の細胞融合の状態をリアルタイム生細胞解析システムにより解析した。
【0032】
2-1.試薬および実験材料
(i)細胞・試薬
・Expi293F cell (Thermo Fisher Scientific, cat#A14527)
・Human ACE2安定発現細胞 (SSC#000465)
・SARS CoV-2 S protein安定発現細胞 (SSC#000486)
・Expi293 Expression Medium (Thermo Fisher Scientific, cat#A1435102)
・接着培養用Cell culture treated flat bottom microplate, Black, clear bottom (greiner bio-one, cat#655090)
・浮遊培養用96 well plateプレート (Sumilon, cat#MS-8096R)
(ii)機器
・Incucyte(登録商標)ライブセル解析システム(Sartorius)
【0033】
2-2.操作手順
(i) 細胞の培養
Expi293F cell、ならびに、上記実施例1で得られたHuman ACE2安定発現細胞(SSC#000465)およびSARS CoV-2 S protein安定発現細胞(SSC#000486)をExpi293 Expression Mediumを培地として用いて8 % CO2存在下37℃でそれぞれ振盪培養を行った。
(ii) Human ACE2安定発現細胞およびSARS CoV-2 S protein安定発現細胞の共培養
Expi293F cell、Human ACE2安定発現細胞(SSC#000465)、もしくは、SARS CoV-2 S protein安定発現細胞(SSC#000486)を単独で培養を行った。またExpi293F cellとSARS CoV-2 S protein安定発現細胞(SSC#000486)との共培養、および、Human ACE2安定発現細胞(SSC#000465)とSARS CoV-2 S protein安定発現細胞(SSC#000486)との共培養を行った。培養は、上記培地を用いた接着培養または浮遊培養の形態で0~180分行った。接着培養は接着培養用96 well plate (greiner bio-one, cat#655090)の各wellに5 x 105 cells/wellとなるように細胞を播種した。共培養の試験区では、2種類の細胞の総数が5 x 104 cells/wellとなるように各細胞を半数ずつ播種した。浮遊培養は、浮遊培養用96 well plate (Sumilon, cat#MS-8096R) を用いて接着培養と同じ条件で行った。培養中の細胞の融合状態についてIncucyte(登録商標)ライブセル解析システムを用いた蛍光シグナルおよび明視野の観察を30分ごとに行った。
【0034】
2-3.結果
明視野下での観察の結果、各細胞を単独で接着培養した試験区およびExpi293F cellとSARS CoV-2 S protein安定発現細胞(SSC#000486)とを接着培養により共培養した試験区においては180分経過後であっても細胞融合を確認することはできなかった。一方、Human ACE2安定発現細胞(SSC#000465)とSARS CoV-2 S protein安定発現細胞(SSC#000486)との共培養した試験区では、細胞融合を観察することができ、細胞融合の割合は経時的に増加していた。図1は、各試験区の培養開始時(0分)、または、培養開始から60分、120分、もしくは、180分経過時点の細胞の状態を明視野下で撮像した画像を示す。図3は細胞の状態を図1の場合よりも顕微鏡下(明視野)で拡大して撮像した写真図を示す。
また浮遊培養した各試験区において明視野下で観察した結果、各細胞を単独で培養した試験区およびExpi293F cellとSARS CoV-2 S protein安定発現細胞(SSC#000486)とを共培養した試験区においては、培養開始から60分の時点において細胞同士の接着が一部観察されたが細胞融合は観察できなかった。一方、Human ACE2安定発現細胞(SSC#000465)とSARS CoV-2 S protein安定発現細胞(SSC#000486)との共培養した試験区では細胞融合を観察することができ、細胞融合の割合は経時的に増加していた。図2は、各試験区の培養開始時(0分)、または、培養開始から60分、120分、もしくは、180分経過時点の細胞の状態を明視野下で撮像した画像を示す。図4は細胞の状態を図2の場合よりも顕微鏡下(明視野)で拡大して撮像した写真図を示す。
【0035】
(実施例3. Human ACE2安定発現細胞およびSARS CoV-2 S protein安定発現細胞の細胞融合に対する細胞融合阻害アッセイ)
本実施例では実施例1で作製したHuman ACE2安定発現細胞およびSARS CoV-2 S protein安定発現細胞を浮遊培養により共培養を行う際に、融合阻害剤の被検試料として各種抗体を添加した際の細胞融合の状態をリアルタイム生細胞解析システムにより解析した。
【0036】
3-1.試薬および実験材料
(i)細胞・試薬
・Expi293F cell (Thermo Fisher Scientific, cat#A14527)
・Human ACE2安定発現細胞 (SSC#000465)
・SARS CoV-2 S protein安定発現細胞 (SSC#000486)
・Expi293 Expression Medium (Thermo Fisher Scientific, cat#A1435102)
・CellTrace CFSE (invitrogen, cat#C34570)
・CellTrace Far Red (invitrogen, cat#C34572)
・Total Ig of SARS-CoV-2 convalescent (EVEC, ID: ABT#04770, cat#EVC1-001-0100, Lot#001, 1μg/μl)
・anti-SARS-CoV-2 S protein Human Ab (Active motif, cat#91361, Lot#25220006, 1mg/mL)
・anti-SARS-CoV-2 S protein Human Ab (Active motif, cat#91345, Lot#14120002, 1 mg/mL)
(ii)機器
・Incucyte(登録商標)ライブセル解析システム
3-2.操作手順
(i) 細胞の培養
Expi293F cell、ならびに、上記実施例1で得られたHuman ACE2安定発現細胞(SSC#000465)およびSARS CoV-2 S protein安定発現細胞(SSC#000486)をExpi293 Expression Mediumを培地として用いて8 % CO2存在下37℃でそれぞれ振盪培養を行った。
(ii) 細胞の蛍光染色
培養後の各細胞群より1 x 106個の細胞を回収し、滅菌したPBSで2回洗浄後、滅菌したPBS 1mlに懸濁し各細胞溶液を調製した。Expi293F cellおよびHuman ACE2安定発現細胞(SSC#000465)の各細胞溶液に対して5 mM CellTrace Far Redを1μl添加し、タッピングにより撹拌した。またSARS CoV-2 S protein安定発現細胞(SSC#000486)の細胞溶液に対して5 mM CellTrace CFSEを1μl添加し、タッピングにより撹拌した。これらの細胞溶液を8 % CO2存在下37℃で5分間インキュベートし蛍光染色を行った。蛍光染色後、10% Fetal Bovine Serumを含む培地5 mlをそれぞれに添加し、8 % CO2存在下37℃で5分間インキュベートし反応を停止した。各細胞溶液を100 g、4℃で5分間遠心分離後、上清を取り除いた。培地1 mlで各細胞を洗浄後、Expi293F cellおよびHuman ACE2安定発現細胞(SSC#000465)に対して1 x 106 cells/mLとなるように培地を添加した。またSARS CoV-2 S protein安定発現細胞(SSC#000486)に対して1.25 x 105 cells/mLとなるように培地を添加した。
(iii) SARS CoV-2 S protein安定発現細胞と抗体の前培養
上記(ii)で蛍光染色したSARS CoV-2 S protein安定発現細胞(SSC#000486)を含む細胞溶液を96 well plateへ40μl(2.5 x 104 cells含む)ずつ分注し、各抗体溶液(Total Ig of SARS-CoV-2 convalescent(ABT#04770)、anti-SARS-CoV-2 S protein Human Ab(cat#91361)、または、anti-SARS-CoV-2 S protein Human Ab(cat#91345))を抗体濃度が2μgまたは10μgとなるように添加した。その後、8 % CO2存在下37℃で60分間培養し、細胞と抗体を反応させた。抗体と反応させた後、SARS CoV-2 S protein安定発現細胞を以下の試験に用いた。
(iv) Human ACE2安定発現細胞およびSARS CoV-2 S protein安定発現細胞の共培養
上記(ii)で蛍光染色したExpi293F cell、Human ACE2安定発現細胞(SSC#000465)、もしくは、SARS CoV-2 S protein安定発現細胞(SSC#000486)を単独で培養を行った。またExpi293F cellとSARS CoV-2 S protein安定発現細胞(SSC#000486)との共培養、および、Human ACE2安定発現細胞(SSC#000465)とSARS CoV-2 S protein安定発現細胞(SSC#000486)との共培養を行った。さらに抗体の融合阻害活性を確認するために、上記(ii)で蛍光染色したHuman ACE2安定発現細胞(SSC#000465)と上記(iii)で各抗体と前培養したSARS CoV-2 S protein安定発現細胞(SSC#000486)とを共培養を行った。培養は、上記培地を用いた浮遊培養の形態で0~180分行った。浮遊培養は96 well plateの各wellに1 x 105 cells/wellとなるように細胞を播いた。共培養の試験区では、2種類の細胞の総数が1 x 105 cells/wellとなるように各細胞を半数ずつ播いた。培養中の細胞の融合状態についてIncucyte(登録商標)ライブセル解析システムを用いた蛍光シグナルおよび明視野の観察を30分ごとに行った。
【0037】
3-3.結果
蛍光シグナル測定および明視野下での観察の結果、各細胞を単独で接着培養した試験区およびExpi293F cellとSARS CoV-2 S protein安定発現細胞(SSC#000486)とを浮遊培養により共培養した試験区においては180分経過後であっても細胞融合を確認することはできなかった。またHuman ACE2安定発現細胞(SSC#000465)とSARS CoV-2 S protein安定発現細胞(SSC#000486)との共培養した試験区(抗体未添加区)では、細胞融合を観察することができ、細胞融合の割合は経時的に増加していた。
一方、各抗体と前培養したSARS CoV-2 S protein安定発現細胞(SSC#000486)とHuman ACE2安定発現細胞(SSC#000465)との共培養の試験区(抗体添加区)では、抗体未添加区において経時的に増加した細胞融合の割合を抗体の濃度依存的に抑制していた。図5~7は、各試験区の培養開始時(0分)、または、培養開始から60分、120分、もしくは、180分経過時点の細胞の状態を明視野下で撮像した画像を示す。
【0038】
(実施例4. Human ACE2安定発現細胞およびSARS CoV-2 S protein安定発現細胞を用いた細胞融合アッセイおよび細胞融合阻害アッセイ)
本実施例では実施例1で作製したHuman ACE2安定発現細胞およびSARS CoV-2 S protein安定発現細胞の共培養を行い、培養後の細胞融合の状態をフローサイトメトリにより解析した。
【0039】
4-1.試薬および実験材料
(i)細胞・試薬
・Expi293F cell (Thermo Fisher Scientific, cat#A14527)
・Human ACE2安定発現細胞 (SSC#000465)
・SARS CoV-2 S protein安定発現細胞 (SSC#000486)
・Expi293 Expression Medium (Thermo Fisher Scientific, cat#A1435102)
・CellTrace CFSE (invitrogen, cat#C34570)
・CellTrace Violet (invitrogen, cat#C34571)
・Bovine Serum Albumin (SIGMA, cat#A2153-50G)
・PBS pH7.4 (10 x) (Thermo Fisher Scientific, cat#70011044)
・Fetal Bovine Serum (SIGMA, cat#172012)
・アジ化ナトリウム (Wako, cat#198-14902)
・Buffer A (0.3% BSA, 0.02% NaN3 in PBS)
・浮遊培養用96 well plateプレート (Sumilon, cat#MS-8096R)
・pluriStrainer-Mini 100 μm (pluriSelect, cat#43-10100-50)
・Total Ig of SARS-CoV-2 convalescent (EVEC, ID: ABT#04770, cat#EVC1-001-0100, Lot#001, 1μg/μl)
・anti-SARS-CoV-2 S protein Human Ab (Active motif, cat#91361, Lot#25220006, 1mg/mL)
・anti-SARS-CoV-2 Human Ab (Active motif, cat#91345, clone#AM004414, Lot#14120002, 1 mg/mL)
(ii)機器
・Flow cytometer (Thermo Fisher Scientific, Attune Acoustic Focusing Cytometer Blue/Violet Laser)
【0040】
4-2.操作手順
(i) 細胞の培養
Expi293F cell、ならびに、上記実施例1で得られたHuman ACE2安定発現細胞(SSC#000465)およびSARS CoV-2 S protein安定発現細胞(SSC#000486)をExpi293 Expression Mediumを培地として用いて8 % CO2存在下37℃でそれぞれ振盪培養を行った。
(ii) 細胞の蛍光染色
培養後の各細胞群より1 x 106個の細胞を回収し、滅菌したPBSで2回洗浄後、滅菌したPBS 1mlに懸濁し各細胞溶液を調製した。Expi293F cellおよびHuman ACE2安定発現細胞(SSC#000465)の各細胞溶液に対して5 mM CellTrace Violetを1μl添加し、タッピングにより撹拌した。またSARS CoV-2 S protein安定発現細胞(SSC#000486)の細胞溶液に対して5 mM CellTrace CFSEを1μl添加し、タッピングにより撹拌した。これらの細胞溶液を8 % CO2存在下37℃で5分間インキュベートし蛍光染色を行った。蛍光染色後、10% Fetal Bovine Serumを含む培地5 mlをそれぞれに添加し、8 % CO2存在下37℃で5分間インキュベートし反応を停止した。各細胞溶液を100 g、4℃で5分間遠心分離後、上清を取り除いた。培地1 mlで各細胞を洗浄後、Expi293F cellおよびHuman ACE2安定発現細胞(SSC#000465)に対して5 x 105 cells/mLとなるように培地を添加した。またSARS CoV-2 S protein安定発現細胞(SSC#000486)に対して6.25 x 105 cells/mLとなるように培地を添加した。
(iii) SARS CoV-2 S protein安定発現細胞と抗体の前培養
上記(ii)で蛍光染色したSARS CoV-2 S protein安定発現細胞(SSC#000486)を含む細胞溶液を96 well plateへ40μl(2.5 x 104 cells含む)ずつ分注し、各抗体溶液(Total Ig of SARS-CoV-2 convalescent(ABT#04770)、anti-SARS-CoV-2 S protein Human Ab(cat#91361)、または、anti-SARS-CoV-2 Human Ab (cat#91345))10μlを添加した。その後、8 % CO2存在下37℃で60分間培養し、細胞と抗体を反応させた。抗体溶液は上記2種の抗体に対してそれぞれBuffer Aを用いて濃度64pg/μl、320pg/μl、1.6ng/μl、8ng/μl、40ng/μl、200ng/μl、または、1μg/μlに調製したものを用いた。Mock条件の試験区には抗体を含まないBuffer Aを添加した。
(iv) Human ACE2安定発現細胞およびSARS CoV-2 S protein安定発現細胞の共培養
上記(ii)で蛍光染色したHuman ACE2安定発現細胞(SSC#000465)を含む細胞溶液50μl(2.5 x 104 cells含む)を、上記(iii)で各種・各濃度の抗体溶液と前培養したSARS CoV-2 S protein安定発現細胞(SSC#000486)へそれぞれ添加した。次いで、ピペッティングにより混合後、8 % CO2存在下37℃で30分間共培養し細胞融合を行った。
各細胞1種類ずつ培養した試験区、ならびに、Expi293F cellとSARS CoV-2 S protein安定発現細胞(SSC#000486)とを共培養した試験区を細胞融合のネガティブコントロールとした。各細胞は共培養後に回収し、氷冷したBuffer A 900μlに懸濁した。
(v) Flow cytometerによる中和活性解析
上記(iv)で共培養した細胞を孔径100μmのフィルターを通した後、Flow cytometerを用いて解析した。CellTrace Violetは405 nmのレーザー光で励起し、430-470 nmの範囲の励起光を取り込む条件(条件VL1)、CellTrace CFSEは488 nmのレーザー光で励起し、515-545 nmの範囲の励起光を取り込む条件(条件BL1)で測定した。測定した細胞は前方散乱光(FSC)、側方散乱光(SSC)のドットプロット図から生細胞領域にゲート(R8)を設定し、データを取得した。取得したデータからVL1、BL1のドットプロット図を作成し、3つのゲート((1)紫色の蛍光のみを発するExpi293F cellもしくはHuman ACE2安定発現細胞(SSC#000465)、(2)緑色の蛍光のみを発するSARS CoV-2 S protein安定発現細胞(SSC#000486)、(3)紫色および緑色の蛍光を発する細胞融合を起こした細胞)を設定し、数値化した。R8の細胞中の各ゲートに含まれる細胞の割合を用いて、Mock条件のゲート(3)を細胞融合が100%の値として、各条件で何%細胞融合が起きているか計算し、抗体による細胞融合阻害の割合を算出した。IC50はY軸に細胞融合阻害の割合、X軸に抗体添加量を設定し、XLfit (IDBS) を用いて算出した。
【0041】
4-3.結果
すでにSARS-CoV-2に対して中和活性を有していることが分かっている(中和活性を有すると記載されている)anti-SARS-CoV-2 S protein Human Ab(cat#91361)の合胞体形成阻害率(細胞融合阻害率)の結果を表1に示す。表1に示すように、抗体の濃度依存的に合胞体形成阻害率は上昇した。また図9のグラフは抗体濃度と細胞融合阻害率との関係を示す。IgGの分子量は150,000として計算した。図9に示すように、anti-SARS-CoV-2 S protein Human Ab(cat#91361)の合胞体形成阻害活性(細胞融合阻害活性)に関し、二回目の試験結果からIC50=30.65 nM (4.60μg/mL)の値を得ることができた。また一回目および二回目の試験結果からIC50=66.54 M (9.98μg/mL)の値を得ることができた。このように、中和活性を有する抗体について、本発明に係る方法によっても中和活性を評価できた。
【表1】
【0042】
中和活性を有することが明記されていない市販抗体であるTotal Ig of SARS-CoV-2 convalescent(ABT#04770)の合胞体形成阻害率(細胞融合阻害率)の結果を表2に示す。また図10のグラフは抗体添濃度と細胞融合阻害率との関係を示す。表2および図10に示すように、抗体の濃度依存的に阻害率は上昇するが、上記anti-SARS-CoV-2 S protein Human Ab(cat#91361)よりも合胞体形成阻害率は低かった。
【表2】
【0043】
中和活性を有することが明記されていない市販抗体であるanti-SARS-CoV-2 Human Ab (cat#91345)の合胞体形成阻害率(細胞融合阻害率)の結果を表3に示す。また図11のグラフは抗体添濃度と細胞融合阻害率との関係を示す。表3および図11に示すように、抗体の濃度にかかわらず合胞体形成阻害効果をほとんど確認することができなかった。
【表3】
【0044】
図12~29に、各試験区におけるフローサイトメトリを用いた細胞融合解析結果を示す。anti-SARS-CoV-2 S protein Human Ab(cat#91361)を被検試料として添加した一回目の試験結果を図12~14に示し、二回目の試験結果を図15~17に示す。またTotal Ig of SARS-CoV-2 convalescent(ABT#04770)を被検試料として添加した一回目の試験結果を図18~20に示し、二回目の試験結果を図21~23に示す。またanti-SARS-CoV-2 Human Ab (cat#91345)を被検試料として添加した一回目の試験結果を図24~26に示し、二回目の試験結果を図27~29に示す。図12~29のヒストグラム中、VL1はACE2受容体タンパク質発現細胞の蛍光シグナルを示し、BL1はSタンパク質発現細胞の蛍光シグナルを示し、FSCは前方散乱光シグナルを示す。SCは単細胞を示し、Syncytiumは融合細胞を示す。図12~29におけるVL1/BL1のドットプロット図は、syncytiumのゲートに含まれる細胞数が抗体の濃度依存的に減少し、抗体の濃度依存的に合胞体形成が抑制されたことを示した。また、FSC/BL1およびFSC/VL1のドットプロット図は、2つの細胞が融合していることだけでなく、3、4、5またはそれ以上の複数の細胞が融合していることを示している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
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図12
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【配列表】
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