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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068880
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】マスク
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/11 20060101AFI20230511BHJP
   A62B 18/02 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
A41D13/11 B
A41D13/11 D
A62B18/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180302
(22)【出願日】2021-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】細江 幸宏
【テーマコード(参考)】
2E185
【Fターム(参考)】
2E185AA07
2E185BA16
2E185CC32
(57)【要約】
【課題】通気性を減衰することなく、生産コストを抑えて形状保持性を確保できるマスクを提供する。
【解決手段】本発明に係るマスク1は、通気性を有する生地が複数のシート体11ないし14として積層されて形成されたマスク本体10と、マスク本体10の左右両端部に取り付けられた一対の耳掛け部20とを備え、マスク本体10における最外側層(シート体11)の生地が着色される。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性を有する生地が複数のシート体として積層されて形成されたマスク本体と、
前記マスク本体の左右両端部に取り付けられた一対の耳掛け部とを備え、
前記マスク本体における最外側層の生地が、着色されることを
特徴とするマスク。
【請求項2】
請求項1に記載のマスクにおいて、
前記最外側層の曲げヒステリシス値が、内側層の曲げヒステリシス値よりも大きいことを
特徴とするマスク。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のマスクにおいて、
前記マスク本体が、左右方向に沿って折り畳まれたプリーツを備えることを
特徴とするマスク。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載のマスクにおいて、
前記マスク本体が、外周辺近傍を周回し、楕円形状に配置された溶着部を備えることを
特徴とするマスク。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載のマスクにおいて、
前記最外側層が、2枚のシート体からなることを
特徴とするマスク。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載のマスクにおいて、
前記最外側層の曲げヒステリシス値が、0.01gf・cm/cm以上であることを
特徴とするマスク。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか一項に記載のマスクにおいて、
前記最外側層の曲げ剛性値が、0.05gf・cm/cm以上であることを
特徴とするマスク。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか一項に記載のマスクにおいて、
前記最外側層と隣接する内側層との動摩擦係数が、0.3以上であることを
特徴とするマスク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通気性を減衰することなく、生産コストを抑えて形状保持性を確保できるマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
マスクには、空気中の浮遊物が口や鼻を通して体内に取り込まれるのを防ぐのと同時に、口や鼻からの分泌物を空気中に撒き散らすことを防ぐなどの役割がある。このため、マスクは、着用者の顔との密着性を高めることが重要となる。
その反面、口元や鼻の空間が十分に保たれていないと、呼吸がしづらく、また、蒸れなどにより不快に感じてしまうことがある。
【0003】
この口元空間を確保するマスクとして、特許文献1に開示されるものがある。
この特許文献1に開示のマスクは、鼻隆起部分に対応する鼻ワイヤー(ノーズグリップ)に加え、ボックスプリーツを構成する不織布層の間に口ワイヤー(マウスバー)が設けられている。この鼻ワイヤーや口ワイヤーが湾曲することにより、マスクの形状保持性を確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3126242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のマスクにおいて、口ワイヤーは、不織布間に配置した後、その両側を熱融着することで所定の位置に位置決めする必要があり、この熱融着部分とともに通気性を阻害することとなり、また、従来のマスクと比して、製造工程が複雑化する。また、口元用のワイヤーを別途準備する必要があるため、材料コストが増加してしまうという課題を有していた。
【0006】
本発明は、上記課題を解消するためになされたものであり、通気性を減衰することなく、生産コストを抑えて形状保持性を確保できるマスクを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の開示に係るマスクは、通気性を有する生地が複数のシート体として積層されて形成されたマスク本体と、マスク本体の左右両端部に取り付けられた一対の耳掛け部とを備え、マスク本体における最外側層の生地が、着色されるものである。
【0008】
このように本発明の開示によれば、最外側層の生地が通気性を損なうことなく全面に均一に着色されることで、生地の繊維と着色に用いられる着色剤の相互作用により最外側層の曲げヒステリシス値を大きく構成できることから、マスクの生産コストを抑えつつ、マスク本体自体の剛性が強固なものとしてマスクの形状保持性を確保することができる。
【0009】
本発明の開示に係るマスクは、必要に応じて、最外側層の曲げヒステリシス値が、内側層の曲げヒステリシス値よりも大きくされるものである。
【0010】
このように本発明の開示によれば、着色されていない内側層の曲げヒステリシス値と比べて、着色された最外側層の曲げヒステリシス値を大きくすることができることから、マスク本体自体の剛性が強固なものとして口元空間を大きく確保できる。すなわち、マスク本体を構成する最外側層とこの最外側層に追従して膨らむことが可能な内側層とを最外側層側に膨らませてマスクを使用し続けた場合であっても、最外側層の高い形状保持性により、マウスバーなどを使用することなく着用者の呼吸時にマスク本体の最内側層が顔面に貼りつくことがないこととなり、口元空間を確保することができる。
また、最外側層が着色されることで、最外側層と内側層との電気的特性を異なるものとし、これに起因して生じる静電気によって、内側層と膨らみ形状が維持された最外側層との密着性を高めることとなり、マスク本体の最内側層が顔面に貼りつくことなく、口元空間を確保することができる。
【0011】
本発明の開示に係るマスクは、必要に応じて、マスク本体が、左右方向に沿って折り畳まれたプリーツを備えるものである。
【0012】
このように本発明の開示によれば、マスク本体がプリーツを備えることから、折り畳まれた屈曲構成による強い支持構造と着色による生地自体の剛性とが相俟って、口元空間をより強固に支持して確保できる。すなわち、着用者の使用に際し、プリーツを展開することでマスク本体をより膨らませることができるとともに、マスク本体の膨らみ形状を最外側層の高い形状保持性によって維持し、着用者の呼吸時にマスク本体の最内側層が顔面に貼りつくことがないこととなり、より口元空間を維持しやすくすることができる。
【0013】
本発明の開示に係るマスクは、必要に応じて、マスク本体が、外周辺近傍を周回して、楕円形状に配置された溶着部を備えるものである。
【0014】
このように本発明の開示によれば、溶着部が外周辺近傍を周回した楕円形状となるように配置されていることから、マスク本体の周縁部が着色により剛性を強化されたシート体を左右両側から支持して口元空間をより大きく確保できる。
【0015】
本発明の開示に係るマスクは、必要に応じて、最外側層が、2枚のシート体からなるものである。
【0016】
このように本発明の開示によれば、最外側層が2枚のシート体からなることから、より最外側層の曲げヒステリシス値を大きくすることができ、形状保持性を高くできることとなり、より口元空間を維持することができる。また、着色層を2層とすることから、色ムラを低減できることとなり、マスクを外部から視認した際の見た目をよくすることができる。
また、最外側層を1枚の着色シート体とする場合、2枚の着色シート体からなるマスクと同様の形状保持性を得るためには、着色シート体を濃く着色する必要がある。濃く着色すると、シート体が必要以上に硬くなってしまい、使用感(肌ざわり)が悪化してしまう。これに対し、2枚の着色シート体からなるマスクは、2枚のシート体の形状保持力が合わさって高い形状保持性を実現することから濃く着色する必要がなく、高い形状保持性を実現するとともに、マスクとしての適度な軟らかさを両立させることができる。
【0017】
本発明の開示に係るマスクは、必要に応じて、最外側層の曲げヒステリシス値が、0.01gf・cm/cm以上とされるものである。
【0018】
このように本発明の開示によれば、最外側層の曲げヒステリシス値を0.01gf・cm/cm以上とすることから、軟らかい素材と比べて形状保持性を高く維持することができることとなり、より口元空間を維持しやすくすることができる。
【0019】
本発明の開示に係るマスクは、必要に応じて、最外側層の曲げ剛性値が、0.05gf・cm/cm以上とされるものである。
【0020】
このように本発明の開示によれば、最外側層の曲げ剛性値を0.05gf・cm/cm以上とすることから、シート体にプリーツを形成する際に折れ目を付けやすくするとともに、これに追従してより柔らかい素材である内側層にも折れ目を付けやすくなることとなり、マスクを使用する際のプリーツの展開範囲を十分に確保することができる。
【0021】
本発明の開示に係るマスクは、必要に応じて、最外側層と隣接する内側層との動摩擦係数が、0.3以上とされるものである。
【0022】
このように本発明の開示によれば、最外側層と隣接する内側層との動摩擦係数を0.3以上とすることから、着用者の口元の動きに応じて最外側層とこれに隣接する内側層との間にズレが生じても、より大きな動摩擦力でこれらシート体間のズレを抑えようとする力が働くこととなり、最外側層と内側層との密着性が高まり、マスク全体の形状保持性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1の実施形態に係るマスクの正面図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係るマスクの背面図である。
図3図1のA-A断面拡大図である。
図4】本発明の第1の実施形態に係るマスクの他の例を示す断面拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(本発明の第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態に係るマスクを図1ないし図3に基づいて説明する。
マスク1において着用の際に着用者の顔面に接触する方向を背面側とし、この反対方向を正面側とする。また、マスク1において、着用者の着用時に正面側から見て、上下方向、左右方向とする。
【0025】
各図において本実施形態に係るマスク1は、通気性を有する生地が複数のシート体11ないし14として積層されて形成されたマスク本体10と、マスク本体10の左右両端部に取り付けられた一対の耳掛け部20とを備える。
【0026】
マスク本体10は、左右方向の幅を同一とする、矩形状の複数のシート体11ないし14から構成される。最外側層であるシート体11は、内側層であるシート体12ないし14よりも上下方向に長尺に形成され、シート体11の上部及び下部が最内側層であるシート体14の裏面側(着用者側)に折り込まれている。裏面側に折り込まれることで、マスク本体10の背面の上部及び下部がマスク本体10の正面と同じ色となり、上部及び下部から視認した際の見た目をよくすることができる。
マスク本体10は、シート体11が折り込まれた上部において、左端部から右端部にかけて直線状に溶着された上端溶着部30と、上端溶着部30の下方において、後述するグリップ溶着部38の左右両端からプリーツ15aにかけて円弧状に溶着された一対の上部溶着部31、32によって、折り込まれたシート体11を含むシート体11ないし14を溶着し、結合させている。
また、マスク本体10は、シート体11が折り込まれた下部において、左下部から右下部にかけて円弧状に溶着された下部溶着部33と、下部溶着部33の下方において、左右両端を円弧状に溶着した、一対の下端溶着部34、35によって、折り込まれたシート体11を含むシート体11ないし14を溶着し、結合させている。
【0027】
シート体11ないし14は、それぞれ不織布であり、スパンボンド不織布、サーマルボンド不織布、スパンレース不織布、エアスルー不織布、メルトブロー不織布、ニードルパンチ不織布、湿式不織布など公知の不織布を使用できる。
例えば、シート体11をスパンボンド不織布、シート体12を抗菌フィルターとしてのエアスルー不織布、シート体13を捕集フィルターとしてのメルトブロー不織布、シート体14を湿式不織布とすることができる。
【0028】
シート体11ないし14の不織布を構成する材料としては、一般にマスクの材料として公知の材料を用いることができる。具体的には、ポリエステル(PET)系繊維、ポリプロピレン(PP)系繊維、ポリエチレン(PE)系繊維、レーヨン系繊維、ナイロン系繊維、アセテート系繊維、羊毛系繊維、コットン系繊維、ウレタン系繊維等が挙げられる。加工性及び形状保持性の観点から、特に、PET系繊維やPP系繊維、PE系繊維等からなる不織布を使用することが好ましい。
【0029】
シート体11は、染料又は顔料によって着色されている。シート体11は、着色されることにより、シート体11の曲げヒステリシス(曲げ回復性)2HB(以下、ヒステリシス値、とも記載する場合がある)及び曲げ剛性B(以下、曲げ剛性値、とも記載する場合がある)が調整されている。染料及び顔料の種類や単位面積あたりの付量は特に制限されず、マスクとしての機能を損なわない範囲において適宜選択される。シート体11の色調としては、例えば、光沢のないマットカラーを選択することができる。
シート体11の着色方法としては、予め着色された繊維を用いる方法や、不織布を作製後に染料や顔料で染色等する方法を採用することができる。
着色剤としては、グレー系、パープル系、ブルー系、ネイビー系、グリーン系、イエロー系、ベージュ系、ピンク系、レッド系等の色が好ましい。
また、シート体11の色調としては、マットカラーの他に、プリーツ形成時などに加えられるプレス圧によって、着色された色調に光沢を有する構造色とすることもできる。また、シート体11を構成する繊維の断面を略円状とすることでマット調を、また、扁平状とすることで光沢を有する構造色とすることもできる。
【0030】
必要に応じて、シート体11には、模様を付与することもできる。柄模様としては、迷彩柄、ヒョウ柄等の模様が好ましい。
【0031】
シート体11の曲げヒステリシス2HBの下限値は、好ましくは0.01gf・cm/cmであり、より好ましくは0.02gf・cm/cmであり、更に好ましくは0.1gf・cm/cmであり、特に好ましくは0.2gf・cm/cmである。シート体11の曲げヒステリシス2HBの上限値としては、マスクとしての機能を損なわない範囲において特に制限されないが、好ましくは0.5gf・cm/cmであり、より好ましくは0.4gf・cm/cmである。曲げヒステリシス2HBは、値が大きいほど回復性が悪い、すなわち、形状保持性が高いことを示す。
シート体11の曲げ剛性Bの下限値は、好ましくは0.05gf・cm/cmであり、より好ましくは0.07gf・cm/cmであり、更に好ましくは0.1gf・cm/cmであり、特に好ましくは0.2gf・cm/cmである。シート体11の曲げ剛性Bの上限値としては、マスクとしての機能を損なわない範囲において特に制限されないが、好ましくは0.5gf・cm/cmであり、より好ましくは0.4gf・cm/cmである。曲げ剛性Bは、値が大きいほど曲げ硬いことを示す。
シート体11の曲げヒステリシス2HB及び曲げ剛性Bは、曲げ試験機によって測定することができる。
【0032】
このように、最外側層となるシート体11の曲げヒステリシス値を0.01gf・cm/cm以上とすることから、軟らかい素材と比べて形状保持性を高く維持することができることとなり、より口元空間を維持しやすくすることができる。一方で、曲げヒステリシス値を0.5gf・cm/cm以下とすることで、マスク製造時に不織布にプリーツを入りやすくすることができる。
【0033】
また、最外側層となるシート体11の曲げ剛性値を0.05gf・cm/cm以上とすることから、シート体11にプリーツを形成する際に折れ目を付けやすくするとともに、これに追従してより柔らかい素材である内側層であるシート体12ないし14にも折れ目を付けやすくなることとなり、マスク1を使用する際のプリーツの展開範囲を十分に確保することができる。一方で、曲げ剛性値を0.5gf・cm/cm以下とすることで、シート全体にシワが入りにくくすることができる。
【0034】
シート体11の紫外線遮蔽率は、好ましくは45ないし100%であり、より好ましくは50ないし90%であり、更に好ましくは65ないし80%である。
【0035】
このように、最外側層となるシート体11の紫外線遮蔽率を45%以上とすることから、遮光性を向上させることができる。従来、UVカット加工を施した不織布は、目付量が多く、通気性低下の原因となっていた。本発明のマスク1においては、シート体11を染色することで遮光(UVカット)するため、通気性が低下させることなく、遮光性を向上させることができる。
【0036】
シート体11とシート体12との間の動摩擦係数の下限値は、好ましくは0.3であり、より好ましくは0.35であり、更に好ましくは0.39である。シート体11とシート体12との間の動摩擦係数の上限値は、マスクとしての機能を損なわない範囲において特に制限されないが、好ましくは2であり、より好ましくは1であり、更に好ましくは0.7であり、特に好ましくは0.5である。
【0037】
このように、動摩擦係数を0.3以上とすることにより、着用者の口元の動きに応じて最外側層であるシート体11とこれに隣接する内側層であるシート体12との間にズレが生じても、より大きな動摩擦力でこれら不織布間のズレを抑えようとする力が働き、シート体11とシート体12との密着性を高めて、高い形状保持性を維持することができる。一方で、動摩擦係数を2以下とすることで、積層されたシート全体の柔軟性が低下することなく、着用時の動作に追従させることができる。
【0038】
最外側層となるシート体11は、図4に示すように、2枚のシート体11a、11bから構成するようにしてもよい。シート体11a、11bは、同じ色で着色されていてもよいし、同系色や非同系色で着色されていてもよい。シート体11は、1枚又は複数枚としてもよく、好ましくは1ないし3枚であり、より好ましくは1又は2枚である。
【0039】
このように、最外側層となるシート体11が2枚のシート体11a、11bからなることから、より最外側層の曲げヒステリシス値を大きくすることができ、形状保持性を高くできることとなり、より口元空間を維持することができる。また、着色層を2層とすることから、色ムラを低減できることとなり、マスクを外部から視認した際の見た目をよくすることができる。
【0040】
また、最外側層を1枚の着色シート体11とする場合、2枚の着色シート体11a、11bからなるマスクと同様の形状保持性を得るためには、着色シート体11を濃く着色する必要がある。濃く着色すると、シート体11が必要以上に硬くなってしまい、使用感(肌ざわり)が悪化してしまう。これに対し、2枚の着色シート体11a、11bからなるマスクは、2枚のシート体11a、11bの形状保持力が合わさって高い形状保持性を実現することから濃く着色する必要がなく、高い形状保持性を実現するとともに、マスクとしての適度な軟らかさを両立させることができる。
【0041】
シート体11の目付としては、好ましくは10ないし40g/m、より好ましくは15ないし35g/m、更に好ましくは18ないし30g/mである。
また、シート体11の厚みとしては、好ましくは0.06ないし0.5mm、より好ましくは0.08ないし0.3mm、更に好ましくは0.1ないし0.25mmである。
【0042】
マスク本体10は、マスク本体10の中央部近傍に、マスク本体10の折畳み及び展開に用いられるプリーツ15(15aないし15d)と、マスク本体10の上部に、着用者の鼻の形状に合わせて変形可能で、かつ、変形後の形状を維持可能な左右方向に長尺の線材であるノーズグリップ16とを備える。
【0043】
マスク本体10は、左端部から右端部にかけて延在し、左右方向に沿って折り畳まれたプリーツ15を備える。プリーツ15は、マスク本体10中央部よりも上部に形成されたプリーツ15a及び15bと、マスク本体10中央部よりも下部に形成されたプリーツ15c及び15dとを備える。
プリーツ15a及び15bは、マスク本体10の正面側から見て、上方に向かって凸となる折り目であり、これによってプリーツ15a及び15bをマスク本体10の上下方向に展開することができる。また、プリーツ15c及び15dは、マスク本体10の正面側から見て、下方に向かって凸となる折り目であり、これによってプリーツ15c及び15dをマスク本体10の上下方向に展開することができる。
【0044】
このように、マスク本体10がプリーツ15(15aないし15d)を備えることから、折り畳まれた屈曲構成による強い支持構造と着色による生地自体の剛性とが相俟って、口元空間をより強固に支持して確保できる。すなわち、着用者の使用に際し、プリーツ15を展開することでマスク本体10をより膨らませることができるとともに、マスク本体10の膨らみ形状を最外側層となるシート体11の高い形状保持性によって維持し、着用者の呼吸時にマスク本体10の最内側層となるシート体14が顔面に貼りつくことがないこととなり、より口元空間を維持しやすくすることができる。
【0045】
プリーツ15の左右両端部において、シート体11ないし14は、円弧状の左端溶着部36及び右端溶着部37で溶着され、結合されている。そのため、プリーツ15a、15dの左右両端部は、プリーツ15b、15cの左右両端部よりも中央寄りの位置にて溶着され、プリーツ15a、15dは、プリーツ11b、11cよりも上下方向に展開できる左右方向の範囲が小さくなっている。
【0046】
ノーズグリップ16は、マスク本体10の上部において、シート体14とシート体14の裏面に折り込まれたシート体11との間に埋設されている。ノーズグリップ16は、その周囲を上部溶着部31と上部溶着部32との間に配置されるグリップ溶着部38にて溶着されることによって固定されている。
【0047】
マスク本体10は、その周縁部にて、グリップ溶着部38、上部溶着部31、32、左端溶着部36、右端溶着部37及び下部溶着部33により溶着されており、これら溶着部によって、左右方向を長径、上下方向を短径とする楕円形状の溶着部を形成している。
【0048】
このように、溶着部が外周辺近傍を周回した楕円形状となるように配置されていることから、マスク本体10の周縁部が着色により剛性を強化されたシート体11ないし14を左右両側から支持して口元空間をより大きく確保できる。
また、マスク本体10の周辺部は、マスク本体10の中央部と比べて、マスク本体10の膨らみ形状を形成するのに使用できる素材の範囲が狭く、マスク本体10を膨らませた状態において、マスク本体10の周縁部は膨らみ形状の頂点に向かって引っ張られる力がより強く働き、元の状態に戻りにくいこととなり、最外側層となるシート体11の高い形状保持性と相まってマスク本体10の膨らみ形状を維持しやすい、すなわち、口元空間をより維持しやすくすることができる。
【0049】
耳掛け部20は、弾性を有する紐状に形成され、その両端部がシート体14の裏面側に溶着されている。
左右一対の耳掛け部20の各両端部は、折り返されたシート体11及びシート体14の上下方向2か所に溶着されており、図2に示す例では、上端溶着部30と上部溶着部31、32との間の耳掛け溶着部39a、40a及びマスク本体10の下端部と左端溶着部36、右端溶着部37との間の耳掛け溶着部39b、40bに溶着されている。
【0050】
以上のように、最外側層となるシート体11が通気性を損なうことなく全面に均一に着色されることで、生地の繊維と着色に用いられる着色剤の相互作用により最外側層となるシート体11の曲げヒステリシス値を大きく構成できることから、マスク1の生産コストを抑えつつ、マスク本体10自体の剛性が強固なものとしてマスク1の形状保持性を確保することができる。
【0051】
また、着色されていない内側層となるシート体12ないし14の曲げヒステリシス値と比べて、着色された最外側層となるシート体11の曲げヒステリシス値を大きくすることができることから、マスク本体10自体の剛性が強固なものとして口元空間を大きく確保できる。すなわち、マスク本体10を構成する最外側層となるシート体11とこのシート体11に追従して膨らむことが可能な内側層となるシート体12ないし14とをシート体11側に膨らませてマスク1を使用し続けた場合であっても、シート体11の高い形状保持性により、マウスバーなどを使用することなく着用者の呼吸時にマスク本体10の最内側層となるシート体14が顔面に貼りつくことがないこととなり、口元空間を確保することができる。
さらに、最外側層となるシート体11が着色されることで、シート体11とシート体12ないし14との電気的特性を異なるものとし、これに起因して生じる静電気によって、シート体12ないし14と膨らみ形状が維持されたシート体11との密着性を高めることとなり、マスク本体10のシート体14が顔面に貼りつくことなく、口元空間を確保することができる。
【実施例0052】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
(1)試料の作製
以下のようにして、試料1ないし5を作製した。
【0054】
(1.1)試料1の作製
スパンボンド法にて製造した不織布(原料:PET、目付:20g/m、厚み:0.12mm)を用い、着色不織布である試料1を作製した。着色剤の色として、パープル系を用いた。
作製後の色差をKONICA MINOLLTA社製の色彩色差計(CM-3600A)を用いて測定した。試料接地面が透けないよう、目付150g/m以上になるようシートを重ねて測定した。不織布の色差は、L値33.87、a値24.40、b値-26.38であった。
【0055】
(1.2)試料2の作製
試料1の作製において、着色剤の色をグレー系とした以外は同様にして、着色不織布である試料2を作製した。
不織布の色差は、L値35.93、a値1.29、b値-0.20であった。
【0056】
(1.3)試料3の作製
試料1の作製において、着色剤の色をピンク系とした以外は同様にして、着色不織布である試料3を作製した。
不織布の色差は、L値85.05、a値23.41、b値-0.62であった。
【0057】
(1.4)試料4の作製
試料1の作製において、着色された層を2層とした以外は同様にして、試料4を作製した。
【0058】
(1.5)試料5の作製
試料1の作製において、スパンボンド不織布を着色しなかった以外は同様にして、試料5を作製した。
【0059】
(2)評価
(2.1)曲げヒステリシス2HB及び曲げ剛性Bの測定
作製した試料1ないし3のそれぞれについて、20℃、65%RHの環境下で、自動化純曲げ試験機KESFB-2AUTO-A(カトーテック株式会社製)で2.5cm-1の曲率を与えながら、縦方向1cm幅あたりの曲げモーメントMを計測した。
次に、曲率Kが2.5cm-1での曲げモーメントMの平均傾斜(dM/dK)を算出することで、曲げヒステリシス値2HB及び曲げ剛性値Bを得た。
測定結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示されるように、単層又は2層の着色層を有する試料1ないし4は、着色層を有しない試料5と比較して、曲げヒステリシス値2HB及び曲げ剛性値Bが大きいことが確認された。
特に、曲げヒステリシス値2HBにおいて、着色ありの2層からなる試料4は、着色なしの単層からなる試料5と比較して、40倍以上の違いが見られた。また、曲げ剛性Bにおいて、着色ありの2層からなる試料4は、着色なしの単層からなる試料5と比較して、5倍以上の違いが見られた。
以上から、本発明のマスクは、高い形状保持性を有し、口元空間を確保することができることが明らかとなった。また、口元空間確保のためのプリーツを形成する際に折れ目を付けやすいことが示された。
【0062】
(2.2)紫外線遮蔽率の測定
作製した試料1、4及び5について、JIS L 1925:2019に準拠して、紫外線遮蔽率を測定した。
具体的には、試料1、4及び5のそれぞれについて、分光光度計V-650(日本分光社製)を用い、波長290ないし400nmの範囲で各波長の光を透過する割合を計測し、下記式(1)に基づいて紫外線遮蔽率を算出した。
紫外線遮蔽率(%)=100-紫外線に対する平均透過率(%) (1)
測定結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
単層又は2層の着色層を有する試料1及び4は、着色層を有しない試料5と比較して、紫外線遮蔽率が大きいことが確認された。
特に、着色ありの単層からなる試料1は、着色なしの単層からなる試料5と比較して、紫外線遮蔽率が約7%の上昇であったのに対し、着色ありの2層からなる試料4は、約27%の上昇が見られた。
以上から、本発明のマスクは、高い遮光性(UVカット能)を有することが明らかとなった。
【0065】
(2.3)動摩擦係数の測定
作製した試料1及び5について、JIS K 7125:1999に準拠して、動摩擦係数を測定した。
具体的には、自動強伸度試験機AUTOGRAPH AG-10kN-X(島津製作所製)を用いて、20℃、65%RH環境下で、巾80mmのエアスルー不織布(原料:PP及びPE、目付:20g/m)を相手材として、荷重200gfの各試料を100mm/minの引張速度で試料1及び試料5を1分間引っ張った際の動摩擦係数を測定した。
測定結果を表3に示す。
【0066】
【表3】
【0067】
着色層を有する試料1は、着色層を有しない試料5と比較して、動摩擦係数が大きいことが確認された。すなわち、試料1は、着用者の口元の動きに応じて最外側層である着色層とこれに隣接する内側層との間にズレが生じても、より大きな動摩擦力でこれら不織布間のズレを抑えようとする力が働くことを意味する。
以上から、本発明のマスクは、最外側層と内側層との密着性を高め、高い形状保持性を有することが明らかとなった。
【0068】
(実施例2)
(1)マスクの作製
以下のようにして、マスクAないしCを作製した。
【0069】
(1.1)マスクAの作製
最外側層から最内側層に向かって、試料1、エアスルー不織布(原料:PP及びPE、目付:20g/m)、メルトブロー不織布(原料:PP、目付:20g/m)、湿式不織布(原料:PET、PE及びPP、目付:20g/m)の順に4層に積層した不織布を用いて、プリーツ型のマスク(プリーツ展開前の大きさが縦巾90mm×横巾175mm)を作製した。
また、マスク本体の上部にはノーズグリップを設けた。
【0070】
(1.2)マスクBの作製
マスクAの作製において、最外側層である単層からなる試料1を着色層2層からなる試料4に変更した以外は同様にして、マスクBを作製した。
【0071】
(1.3)マスクCの作製
マスクAの作製において、最外側層である単層からなる試料1を着色されていない試料5に変更した以外は同様にして、マスクCを作製した。
【0072】
(2)評価
作製したマスクAないしCについて、使用感評価を実施した。被験者の数は、各例において、成人男性4名、女性6名とした。着色層を有するマスクAは、着色層を有しないマスクCと比較して、形状保持性を有して口元空間が広く、通気性が高いことが確認された。また、マスクBは、マスクAと比較して、更に形状保持性を有して口元空間が広く、通気性が高いことが確認された。
すなわち、最外側層のみ着色し、適度な硬さを付与することで、高い形状保持性を実現するとともに、マスクとしての適度な着用時の最内層側の軟らかさ、呼吸のしやすさを両立させることができる。また、着色層を2層とした場合には、色ムラを低減でき、マスクを外部から視認した際の見た目が向上することが確認された。
【0073】
加えて、マスクAにおいて、色を変更したマスクを作製した。具体的には、グレー系(L値35.93、a値1.29、b値-0.20)、ピンク系(L値85.05、a値23.41、b値-0.62)、ブルー系(L値32.68、a値2.67、b値-30.82)、グリーン系(L値55.01、a値-43.18、b値18.40)、イエロー系(L値65.97、a値18.45、b値48.04)、レッド系(L値31.64、a値32.23、b値7.65)の色の不織布を用いてマスクを作製することができた。これらは、上記同様に、形状保持性を有して口元空間が広く、通気性が高いことが確認された。
また、マスクAにおいて、模様柄を付与したマスクを作製することもできた。具体的には、迷彩柄、ヒョウ柄のマスクを作製することができた。
【符号の説明】
【0074】
1 マスク
10 マスク本体
11、11a、11b、12、13、14 シート体
15、15a、15b、15c、15d プリーツ
16 ノーズグリップ
20 耳掛け部
30 上端溶着部
31、32 上部溶着部
33 下部溶着部
34、35 下端溶着部
36 左端溶着部
37 右端溶着部
38 グリップ溶着部
39a、39b、40a、40b 耳掛け溶着部

図1
図2
図3
図4