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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068911
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】粉体の回収方法および粉体の回収設備
(51)【国際特許分類】
   C22B 1/00 20060101AFI20230511BHJP
   B03C 1/00 20060101ALI20230511BHJP
   B03C 1/005 20060101ALI20230511BHJP
   B03C 1/14 20060101ALI20230511BHJP
   B03C 1/10 20060101ALI20230511BHJP
   B01D 12/00 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C22B1/00 601
B03C1/00 A
B03C1/005
B03C1/14
B03C1/10 A
B01D12/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180362
(22)【出願日】2021-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】小野 信行
【テーマコード(参考)】
4D056
4K001
【Fターム(参考)】
4D056EA01
4D056EA03
4D056EA08
4K001AA10
4K001BA15
4K001BA22
4K001CA04
4K001CA06
(57)【要約】
【課題】含油粉体からの油分除去エネルギーを低減し、かつ油分除去率および固液分離速度を高めることが可能な、粉体の回収方法および粉体の回収設備を提供する。
【課題手段】油分が付着し、かつ、磁着物を含む粉体から前記油分を分離して前記粉体を回収する粉体の回収方法であって、前記粉体と、水とを、粘度が0.003~2.00Pa・Sの範囲内となるよう混合してスラリーを生成するスラリー化工程と、前記スラリーに第1揮発性疎水性溶剤を添加した後、混合し、第1エマルジョンを形成する第1エマルジョン化工程と、前記第1エマルジョンから、磁力選別により第1粉体相を分離して回収する第1磁選工程と、を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油分が付着し、かつ、磁着物を含む粉体から前記油分を分離して前記粉体を回収する粉体の回収方法であって、
前記粉体と、水とを、粘度が0.003~2.00Pa・Sの範囲内となるよう混合してスラリーを生成するスラリー化工程と、
前記スラリーに第1揮発性疎水性溶剤を添加した後、混合し、第1エマルジョンを形成する第1エマルジョン化工程と、
前記第1エマルジョンから、磁力選別により第1粉体相を分離して回収する第1磁選工程と、
を有することを特徴とする、粉体の回収方法。
【請求項2】
前記スラリー化工程もしくは前記第1エマルジョン化工程において、前記スラリーに高分子凝集剤を添加することを特徴とする、請求項1に記載の粉体の回収方法。
【請求項3】
前記第1揮発性疎水性溶剤の比重が、1.05超、2.0未満であることを特徴とする、請求項1または2に記載の粉体の回収方法。
【請求項4】
前記第1揮発性疎水性溶剤の常圧での沸点が95℃未満であることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の粉体の回収方法。
【請求項5】
前記第1エマルジョン化工程と第1磁選工程からなる洗浄ステップを1回以上繰り返すことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の粉体の回収方法。
【請求項6】
前記第1磁選工程で得られた前記第1粉体相を、前記第1揮発性疎水性溶剤の沸点超の水温である温水槽に投入し、前記第1粉体相中に残存している前記第1揮発性疎水性溶剤を揮発除去する残留溶剤揮発工程と、
前記残留溶剤揮発工程で得られた前記第1粉体相を含むスラリーを脱水機にて脱水する脱水工程と、を有することを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の粉体の回収方法。
【請求項7】
前記第1磁選工程で得られた前記第1粉体相を、前記第1揮発性疎水性溶剤の沸点超の温度で乾燥させる乾燥工程を有することを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の粉体の回収方法。
【請求項8】
前記第1磁選工程の後、
回収した前記第1粉体相に第2揮発性疎水性溶剤を添加した後に混合して第2エマルジョンを形成する第2エマルジョン化工程と、
前記第2エマルジョンから磁力選別により第2粉体相を分離して回収する第2磁選工程を有することを特徴とする、請求項1~5の何れか一項に記載の粉体の回収方法。
【請求項9】
第2エマルジョン化工程と第2磁選工程からなるすすぎステップを1回以上繰り返すことを特徴とする請求項8に記載の粉体の回収方法。
【請求項10】
前記洗浄ステップと前記すすぎステップを1つのカウンターフロー槽内にて行う向流型連続プロセスであることを特徴とする請求項9に記載の粉体の回収方法。
【請求項11】
前記第2エマルジョン化工程において、前記第1粉体相に高分子凝集剤を添加することを特徴とする、請求項8~10のいずれかに記載の粉体の回収方法。
【請求項12】
前記第2揮発性疎水性溶剤の比重が、1.05超、2.0未満であることを特徴とする、請求項8~11のいずれかに記載の粉体の回収方法。
【請求項13】
前記第2揮発性疎水性溶剤の常圧での沸点が95℃未満であることを特徴とする、請求項8~12のいずれかに記載の粉体の回収方法。
【請求項14】
前記第2磁選工程で得た前記第2粉体相を、前記第2揮発性疎水性溶剤の沸点超の水温である温水槽に投入し、前記第2粉体相中に残存している前記第2揮発性疎水性溶剤を揮発除去する残留溶剤揮発工程と、
前記残留溶剤揮発工程で得られた前記第2粉体相を含むスラリーを脱水機にて脱水する脱水工程と、を有することを特徴とする、請求項8~13のいずれかに記載の粉体の回収方法。
【請求項15】
前記第2磁選工程で得られた前記第2粉体相を、前記第2揮発性疎水性溶剤の沸点超の温度で乾燥させる乾燥工程を有することを特徴とする、請求項8~13のいずれかに記載の粉体の回収方法。
【請求項16】
第1揮発性疎水性溶剤と第2揮発性溶剤が同じ溶剤であることを特徴とする請求項8~15のいずれか一項に記載の粉体の回収方法。
【請求項17】
前記粉体中の前記磁着物の含有率が、20質量%以上であることを特徴とする、請求項1~16のいずれかに記載の粉体の回収方法。
【請求項18】
前記油分の付着した粉体が、油分の付着したスケールおよび油分の付着した研摩屑のいずれか一方、もしくは混合物であることを特徴とする、請求項1~17のいずれか一項に記載の粉体の回収方法。
【請求項19】
油分が付着し、かつ、磁着物を含む粉体から前記油分を分離して前記粉体を回収する粉体の回収設備であって、
前記粉体と、水とを混合してスラリーを生成するスラリー化装置と、
前記スラリーに第1揮発性疎水性溶剤を添加した後、混合し、第1エマルジョンを形成する第1エマルジョン化装置と、
前記第1エマルジョンから、磁力により第1粉体相を分離して回収する第1磁気分離機と、
を有することを特徴とする、粉体の回収設備。
【請求項20】
さらに、
回収した前記第1粉体相に第2揮発性疎水性溶剤を添加した後に混合して第2エマルジョンを形成する第2エマルジョン化装置と、
前記第2エマルジョンから、磁力により第2粉体相を分離して回収する第2磁気分離機と、
を有することを特徴とする、請求項19に記載の粉体の回収設備。
【請求項21】
前記第1エマルジョン化装置、前記第1磁気分離機、前記第2エマルジョン化装置、および前記第2磁気分離機が、1つのカウンターフロー槽内に縦列に配置され、前記第1粉体相および前記第2粉体相の流れと、水相および溶剤相の流れが向流である向流型連続回収設備であることを特徴とする請求項20に記載の粉体の回収設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体の回収方法および粉体の回収設備に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄業をはじめとする各種製造業では、親水性粒子を含む粉体が水または水溶液中で分散した混合物が大量に排出される。混合物は、含水スラリーの形態で排出されることが多い。混合物に含まれる粉体は多種多様であり、例えば製鉄業の分野であればスケール、研磨屑等である。
【0003】
例えばスケールおよび研磨屑には、工業生産に際して不可避的に発生する油分と水分(例えば、圧延で使用する圧延油や潤滑油、冷却水)が混入する。このような油分と水分を含むスケールや研磨屑は、5~50%の水分と、数%の油分を含有する。そのため、リサイクルまたは効率的な使用等を目的として、スケール、研磨屑などの粉体から油分および水分を除去する必要がある。
【0004】
油分を含む粉体(以下、含油粉体とも称する。)から油分を除去する方法として、従来では、ロータリーキルンなどで燃焼処理する方法が知られている。しかし、含油粉体の油分濃度は低いため、燃焼処理する場合には助燃燃料が必要となることから、多量のエネルギーを要するという問題があった。特に、含油粉体の油分濃度がより低い場合には、助燃燃料としてCOG(コークス炉ガス)、重油等のような高級(高価)なエネルギーが使用される場合があり、このような場合に上記の問題がより深刻になっていた。また、燃焼処理する場合には、CO排出量も増えるので、近年特に課題となっているCO削減にも反することとなる。
【0005】
また、油分の付着したスケール(以下、含油スケールとも称する)の場合、燃焼処理し油分を除去した後のスケールは、焼結工程等での鉄源として使用されることが多い。しかし、燃焼処理中にスケール中の主成分であるFeO(ウスタイト)およびFe(マグネタイト)がFe(ヘマタイト)まで酸化してしまい、焼結工程におけるコークス使用量を増加させてしまう問題があった。
【0006】
このような問題に対し、燃焼処理を行わずに含油粉体から油分を分離する方法が種々検討されている。
例えば、特許文献1では、含油スケールに抽出剤として有機溶剤を混合して攪拌することで、含油スケールから油分を有機溶剤に抽出し、比重差を利用して遠心力を作用させ、溶剤相と水相とスケール相に分離する方法が開示されている。
また、特許文献2では、スケールを含むエマルジョンに対して、液体サイクロンにて遠心力を作用させて、含油粉体を含む混合物から油分を分離して、粉体を回収するという方法が開示されている。
また、特許文献3では、金属帯研削ラインで発生したスラッジを含む研削油混合物を濾過して研削油を少量含むスラッジ混合物を得るという方法が開示されている。
【0007】
さらに、特許文献4には、油と水の混合物を攪拌して得られた油エマルジョンに対し、凝集剤と磁性粒子を加え、さらに攪拌して磁性フロックとし、その後、磁気分離によって油と水を分離する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015-132011号公報
【特許文献2】特開2017-177018号公報
【特許文献3】特開平7-116960号公報
【特許文献4】特開2003-277771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、高額な遠心分離機が必要となるという課題があった。さらに、後述する向流型連続プロセスを行い、油分除去率を向上させる場合、複数の抽出と相分離をポンプと配管で連結し、かつ、それらを制御する制御系統が必要であることから、高額な遠心分離機が複数台必要となるとともに、複雑になり、操業トラブルが生じやすいという課題があった。
特許文献2に記載の方法では、微細な粒子の含有率が高い粉体の場合、液体サイクロンでの粒子の回収率が低下するという課題があった。
また、特許文献3に記載の方法で、水と油分と親水性粒子を含む粉体が混合されたスラリーを濾過すると、濾過面の目詰まりが頻繁に発生する問題があった。さらに、濾過速度が小さいため、濾過装置が非常に大きくなり、安定操業が難しいという課題があった。
また特許文献4に記載の方法では、磁性粒子に付着した油分を分離し、低油分含有率まで低下しないという課題があった。
このように、燃焼処理を行わずに処理する特許文献1~4のいずれの技術によっても、含油粉体からの油分分離の問題を十分に解決することができていない。
【0010】
以上のような背景から、含油粉体から油分を除去して高純度の粉体を回収する方法においては、油分を除去する際のエネルギー(油分除去エネルギー)の消費が少なく、さらに粉体回収率の高い方法が切望されている。
【0011】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、従来の燃焼処理による油分分離とは異なり、含油粉体からの油分除去エネルギーを低減し、かつ油分除去率および粉体回収率を高めることが可能な、粉体の回収方法および粉体の回収設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0013】
[1]油分が付着し、かつ、磁着物を含む粉体から前記油分を分離して前記粉体を回収する粉体の回収方法であって、
前記粉体と、水とを、粘度が0.003~2.00Pa・Sの範囲内となるよう混合してスラリーを生成するスラリー化工程と、
前記スラリーに第1揮発性疎水性溶剤を添加した後、混合し、第1エマルジョンを形成する第1エマルジョン化工程と、
前記第1エマルジョンから、磁力選別により第1粉体相を分離して回収する第1磁選工程と、
を有することを特徴とする、粉体の回収方法。
[2]前記スラリー化工程もしくは前記第1エマルジョン化工程において、前記スラリーに高分子凝集剤を添加することを特徴とする、上記[1]に記載の粉体の回収方法。
[3]前記第1揮発性疎水性溶剤の比重が、1.05超、2.0未満であることを特徴とする、上記[1]または[2]に記載の粉体の回収方法。
[4]前記第1揮発性疎水性溶剤の常圧での沸点が95℃未満であることを特徴とする、上記[1]~[3]のいずれかに記載の粉体の回収方法。
[5]前記第1エマルジョン化工程と第1磁選工程からなる洗浄ステップを1回以上繰り返すことを特徴とする、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の粉体の回収方法。
[6]前記第1磁選工程で得られた前記第1粉体相を、前記第1揮発性疎水性溶剤の沸点超の水温である温水槽に投入し、前記第1粉体相中に残存している前記第1揮発性疎水性溶剤を揮発除去する残留溶剤揮発工程と、
前記残留溶剤揮発工程で得られた前記第1粉体相を含むスラリーを脱水機にて脱水する脱水工程と、を有することを特徴とする、上記[1]~[5]のいずれかに記載の粉体の回収方法。
[7]前記第1磁選工程で得られた前記第1粉体相を、前記第1揮発性疎水性溶剤の沸点超の温度で乾燥させる乾燥工程を有することを特徴とする、上記[1]~[5]のいずれかに記載の粉体の回収方法。
[8]前記第1磁選工程の後、回収した前記第1粉体相に第2揮発性疎水性溶剤を添加した後に混合して第2エマルジョンを形成する第2エマルジョン化工程と、前記第2エマルジョンから磁力選別により第2粉体相を分離して回収する第2磁選工程を有することを特徴とする、上記[1]~[5]の何れか一項に記載の粉体の回収方法。
[9]第2エマルジョン化工程と第2磁選工程からなるすすぎステップを1回以上繰り返すことを特徴とする上記[8]に記載の粉体の回収方法。
[10]前記洗浄ステップと前記すすぎステップを1つのカウンターフロー槽内にて行う向流型連続プロセスであることを特徴とする上記[9]に記載の粉体の回収方法。
[11]前記第2エマルジョン化工程において、前記第1粉体相に高分子凝集剤を添加することを特徴とする、上記[8]~[10]のいずれかに記載の粉体の回収方法。
[12]前記第2揮発性疎水性溶剤の比重が、1.05超、2.0未満であることを特徴とする、上記[8]~[11]のいずれかに記載の粉体の回収方法。
[13]前記第2揮発性疎水性溶剤の常圧での沸点が95℃未満であることを特徴とする、上記[8]~[12]のいずれかに記載の粉体の回収方法。
[14]前記第2磁選工程で得た前記第2粉体相を、前記第2揮発性疎水性溶剤の沸点超の水温である温水槽に投入し、前記第2粉体相中に残存している前記第2揮発性疎水性溶剤を揮発除去する残留溶剤揮発工程と、前記残留溶剤揮発工程で得られた前記第2粉体相を含むスラリーを脱水機にて脱水する脱水工程と、を有することを特徴とする、上記[8]~[13]のいずれかに記載の粉体の回収方法。
[15]前記第2磁選工程で得られた前記第2粉体相を、前記第2揮発性疎水性溶剤の沸点超の温度で乾燥させる乾燥工程を有することを特徴とする、上記[8]~[13]のいずれかに記載の粉体の回収方法。
[16]第1揮発性疎水性溶剤と第2揮発性溶剤が同じ溶剤であることを特徴とする上記[8]~[15]のいずれか一項に記載の粉体の回収方法。
[17]前記粉体中の前記磁着物の含有率が、20質量%以上であることを特徴とする、上記[1]~[16]のいずれかに記載の粉体の回収方法。
[18]前記油分の付着した粉体が、油分の付着したスケールおよび油分の付着した研摩屑のいずれか一方、もしくは混合物であることを特徴とする、上記[1]~[17]のいずれか一項に記載の粉体の回収方法。
【0014】
[19]油分が付着し、かつ、磁着物を含む粉体から前記油分を分離して前記粉体を回収する粉体の回収設備であって、
前記粉体と、水とを混合してスラリーを生成するスラリー化装置と、
前記スラリーに第1揮発性疎水性溶剤を添加した後、混合し、第1エマルジョンを形成する第1エマルジョン化装置と、
前記第1エマルジョンから、磁力により第1粉体相を分離して回収する第1磁気分離機と、
を有することを特徴とする、粉体の回収設備。
[20]さらに、回収した前記第1粉体相に第2揮発性疎水性溶剤を添加した後に混合して第2エマルジョンを形成する第2エマルジョン化装置と、前記第2エマルジョンから、磁力により第2粉体相を分離して回収する第2磁気分離機と、を有することを特徴とする、上記[19]に記載の粉体の回収設備。
[21]前記第1エマルジョン化装置、前記第1磁気分離機、前記第2エマルジョン化装置、および前記第2磁気分離機が、1つのカウンターフロー槽内に縦列に配置され、前記第1粉体相および前記第2粉体相の流れと、水相および溶剤相の流れが向流である向流型連続回収設備であることを特徴とする上記[20]に記載の粉体の回収設備。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る上記態様によれば、含油粉体からの油分除去エネルギーを低減し、かつ油分除去率および粉体回収率を高めることが可能な、粉体の回収方法および粉体の回収設備を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、含油スケール中の油分と水分の存在形態を示す模式図である。
図2図2は、本実施形態に係る粉体の回収方法を説明するフローチャートである。
図3図3は、本実施形態に係る粉体の回収方法の概要を説明するための模式図である。
図4図4は、本実施形態に係る粉体の回収設備と、それを用いた連続処理(連続プロセス)を示す模式図である。
図5図5は、発明例1-8~発明例1-12における、水および粉体の配合比(水/粉体(g/g))とスラリーの粘度(Pa・s)との関係を示すグラフである。
図6図6は、発明例1-8~発明例1-12における、スラリーの粘度(Pa・s)と油分除去率(%)の関係を示すグラフである。
図7図7は、発明例1-10、発明例1-17~1-19における、洗浄用溶剤と粉体との配合比(洗浄用溶剤/粉体(g/g))と油分除去率(%)との関係を示すグラフである。
図8図8は、<実施例5>における、溶剤中の油分濃度と溶剤相の吸光度との関係を示すグラフである。
図9図9は、<実施例5>における、溶剤相の吸光度とケーキ中の油分濃度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態に係る粉体の回収方法および粉体の回収設備について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0018】
まず、粉体の回収方法における処理対象物、溶液等について、本発明者によって得られた新たな知見と合わせて説明する。
【0019】
本実施形態の粉体の回収方法は、磁力を用いて油分が除去された粉体を回収する方法である。そのため、本実施形態の粉体の回収方法における処理対象物は、油分が付着し、かつ磁着物を含む粉体(含油粉体)であり、例えば、圧延工程で発生するスケールや研磨屑などである。ここでいうスケールとは、油分および水分を含有するスケールであり、含油スケールまたは含油スラッジと呼ばれることもある。
【0020】
処理対象物である含油粉体の粒子径は特に限定されないが、例えば、含油粉体としては平均粒子径5μm~200μmの粉体を対象とすることができる。なお、粉体の粒子径は、レーザー回折・散乱法で測定することができ、平均粒子径は体積基準とする。
【0021】
次に、含油粉体が含油スケールである場合を例に挙げ、含油スケール中の油分と水分の存在形態について説明する。
図1は、含油スケール中の油分と水分の存在形態を示す模式図である。なお、図1に示す各構成要素の形状および寸法比率は、説明の便宜上、実際それらと異なるよう図示しているが、本実施形態における含油粉体は、図1に限定されるものではない。含油スケール中の水分および油分は、図1に示すように、バルク中の油水分、間隙中の油水分、毛管中の油水分、スケールに吸着している油水分として存在している。油水分とは、油分と水分が混合している状態のものをいう。また、ここでいうバルクとは、スケール粒子の界面に触れていない、スケール粒子の外部領域を指す。
【0022】
バルク中の油水分とは、スケール粒子群周辺に存在している水分と油分である。間隙中の油水分とは、スケール等の大小の固形粒子が凝集してできた隙間に囲まれている水分と油分である。毛管中の油水分とは、スケール表面の毛管内において毛管圧で結合している水分と油分である。スケール等の粒子に吸着している油水分とは、スケールに化学的に吸着している水分と油分である。
【0023】
バルク中の油水分は、スケール等の粒子群との結合力が殆ど無く、外圧を作用させることで安易に分離できる水分と油分であり、機械的な力、例えば、加圧型脱水機や遠心脱水機による脱水・脱油、又は、静置による自然脱水・脱油等の操作で、分離することができる。
【0024】
一方、間隙中の油水分は、スケール等の固形粒子に囲まれているため、機械的な力による脱水・脱油、又は、静置による脱水・脱油等の操作で分離することは非常に困難である。
【0025】
また毛管中の油水分は、スケール等の粒子表面の毛管内部に毛管力によって保持された水分や油分で、間隙中の油水分と同様、機械的な力による脱水・脱油、又は、静置による脱水・脱油等の操作で分離することは困難である。
【0026】
またスケール等の粒子に吸着している油水分は、粒子表面や内部に化学的に結合している水分・油分であり、温度の上昇による揮発や、化学反応でしか分離できない水分や油分である。つまり、間隙中の油水分、毛管中の油水分、粒子に吸着している油水分は、通常の脱水・脱油操作(遠心脱水機やフィルタープレスによる機械的な脱水・脱油操作、又は、静置による自然脱水・脱油等)では、容易に分離することはできない。
【0027】
このような課題について本発明者は、油水分、特に油分を分離・除去する手段として溶剤を用いる方法について検討した。検討の結果から、バルク中、間隙中および毛管中の油分ならびに粒子に付着している油分を溶剤によって吸着し粉体から分離させることができると考え、さらに検討を進めた。
【0028】
含油スケールに有機溶剤を添加後、撹拌し、含油スケール中の油分を抽出する場合、バルク中の油分は容易に有機溶剤に接触するため、抽出されやすい。一方、間隙中および毛管中の各油分は、スケールに囲まれており、かつ、間隙中および毛管中には水分も油分と同時に存在する。そのため、間隙中および毛管中の各油分と有機溶剤は、水分とスケールに遮断されてしまい、有機溶剤と間隙中および毛管中の各油分とは容易に接触できない。つまり、間隙中の油分および毛管中の油分については、有機溶剤の添加・攪拌だけでは、含油スケール中の油分は抽出されにくく、油分の含有率は低下しにくい。
【0029】
本発明者は、通常の脱水・脱油操作では容易に分離できない間隙中の油分と毛管中の油分を、揮発し易い疎水性の有機溶剤(以下、揮発性疎水性溶剤とも称する。)で抽出した後、間隙および毛管中にある揮発性疎水性溶剤を揮発させることで、含油スケール中の油分を低減できることを見出した。
【0030】
また、含油粉体から油分を分離する手段として疎水性の有機溶剤を用いた場合、有機溶剤と含油粉体と水の混合液を強撹拌すると、溶剤液滴間の水相に多くの粉体粒子が分散したエマルジョン(乳濁液)となり、溶剤により油分を抽出することができる。しかしエマルジョン化が不十分な場合、溶剤による油分の抽出が十分に進行しないことが分かった。エマルジョン化が不十分な領域では、水と含油粉体とからなるスラリー中で、粉体が十分な流動性を確保できていないために、溶剤が均一に混合されず、溶剤と粉体が接触する確率が著しく減少するため、油分の抽出が進みにくいと考えられる。そのため、疎水性の有機溶剤と含油粉体の混合液をエマルジョンとする際、エマルジョン化する領域を十分に把握した上で、混合比率を決定していくことが重要である。
【0031】
また、一般には、疎水性の有機溶剤と水の混合液を強撹拌して静置すると、一時的にエマルジョンが生じるが、短時間でエマルジョン状態が解消することが多い。しかし、上述した微細な含油粉体と有機溶剤と水の混合液のように、親水性(ぬれ性)が高い微細粉体を含有する混合液を強撹拌して静置すると、油分の抽出を促進できる一方、エマルジョンが容易に破壊されずに安定化してしまうことがある。これは、固形分である微細粉体が乳化剤として機能して、微細な水滴と有機溶剤相との界面、若しくは、微細な有機溶剤液滴と水相との界面に微細粉体が介在することで、エマルジョンが安定化するからである。エマルジョンが安定化すると、疎水性の有機溶剤と水と微細粉体とを容易に分離できなくなってしまうので、粉体を回収するためには、エマルジョンを破壊する必要がある。
【0032】
そこで本発明者は、エマルジョンを破壊し、かつ、油分および水分が除去された磁着物を含む粉体を回収する方法として、磁気的な選別(以下、単に磁選ともいう)が可能な磁気分離機を用いてエマルジョンに磁力を作用させる方法を検討した。その結果、磁力によってエマルジョンを破壊して粉体相を分離できるとともに、油分が除去された粉体相のみを回収できることを見出した。このように、エマルジョンに磁力を作用させることにより、エマルジョン中の磁着物を含む粉体は、磁力の作用する方向へ移動されるため、短時間でエマルジョンは解消(解乳化)、すなわち破壊される。
【0033】
以上説明した新たな知見に基づき、本発明はなされた。
次に、本発明の一実施形態である粉体の回収方法および粉体の回収設備について、図面を参照しながら説明する。
【0034】
<1.粉体の回収方法>
図2は、本実施形態に係る粉体の回収方法を示すフローチャートである。また図3は、本実施形態に係る粉体の回収方法の概要を説明するための模式図である。
図2に示すように、本実施形態に係る粉体の回収方法は、スラリー化工程S1と、第1エマルジョン化工程S2-1と、第1磁選工程S2-2を含む。
以下、各工程について、図3を参照しながら説明する。なお説明の便宜上、図3では、磁気分離機を各工程に配置した場合を示しているが、本実施形態に係る粉体の回収方法は、使用される装置および設備によって限定されるものではない。
【0035】
(スラリー化工程S1)
スラリー化工程S1は、油分の付着した粉体(含油粉体)10と水20とを容器内で混合してスラリー30を生成する工程である(図3(a))。
スラリー化工程S1では、まず、容器内に粉体10と水20を投入して攪拌(混合)することで、粉体10を水20中に分散させてスラリー30を生成する。
【0036】
含油粉体10は、磁着物を含む粉体であり、スケールや研磨屑等が挙げられる。含油粉体10は、スケールと研磨屑の混合物であってもよい。スケールは、主成分がFeOおよびFeであり磁性体であるが、磁着性が低い成分が含まれる場合がある。このように含油粉体10が磁着物と非磁着物で構成される場合には、磁力による回収効率の向上の観点から、磁着物の含有率の高い含油粉体10を用いることが好ましく、具体的には、磁着物の含有量は20質量%以上であることが好ましい。また、磁着物の含有量が低い場合、例えば、20質量%未満の場合には、含油粉体10に鉄粉等の磁着物を新たに添加して、含油粉体10全体における磁着物の合計含有量を20質量%以上に増加させてもよい。そうすることで、元々の含油粉体中の磁着物と新たに添加した磁着物とを共に磁力によって回収することもできる。但し、新たに添加する磁着物の割合は、元々含油粉体中に存在した磁着物の割合よりも少なくすることが、回収物の再利用を考えるとエネルギー的に好ましい。
【0037】
ここで、スケールとは例えば、熱間圧延時、スラブ表面に生成されるFeOおよびFeが主成分である酸化鉄を指す。このようなスケールは、熱間圧延時に微細に粉砕され、クーラント水とともに排出される。つまり、クーラント水中に微細なスケールが分散した含水スラリー(含水スケール)が排出されるため、このような場合は、当該含水スラリーを使用する場合は、スラリー化工程S1を省略して後述する第1エマルジョン工程に直接含水スラリーを使用してもよい。なお、熱間圧延時に生成した含水スラリーには、一般的に、油分が3~8質量%(粉体の総質量に対する質量%)で含まれることが多い。
【0038】
本実施形態で用いる含油粉体10の比重は特に限定しないが、1.05超としてよい。また、含油粉体10は、スケールや研磨屑などの親水性粒子であることが好ましい。親水性粒子は、水に対する親和性を有する粒子であり、水に混ざり易い性質を有する。含油粉体10は、親水性粒子のみで構成されているのがより好ましいが、本発明の効果を阻害しない範囲内であれば他の種類の粒子、例えば疎水性粒子を含んでいてもよい。疎水性粒子は水に対する疎水性を有する粒子であり、例えば、コークス粉、プラスチック粉などが挙げられる。
【0039】
含油粉体10の比重は、後工程の第1エマルジョン化工程S2-1で使用する第1揮発性疎水性溶剤(以下、洗浄用溶剤とも称する。)50の比重よりも大きいことが好ましい。これにより、後にエマルジョンを破壊して相分離を図る際に、含油粉体10の粒子間に存在する水20を第1揮発性疎水性溶剤50で置換することができ、結果、含油粉体10の乾燥に要するエネルギーを低減できる。
【0040】
含油粉体10の粒子径は特に問わないが、含油粉体10の体積基準50%粒子径(d50)が200μm以下であることが好ましい。本実施形態では、含油粉体10の粒子間に存在する水20を第1揮発性疎水性溶剤50で置換することで、含油粉体10の乾燥に要するエネルギーを低減するとともに、効率よく粉体を回収するものである。第1揮発性疎水性溶剤50は水20に比べて低いエネルギーで蒸発する。したがって、含油粉体10の粒子間に存在する水20を第1揮発性疎水性溶剤50で置換することで、含油粉体10の乾燥に要するエネルギーを低減することができる。そして含油粉体10の粒子径が小さいほど、含油粉体10の粒子間に存在する間隙が大きくなるため、より多くの水20を第1揮発性疎水性溶剤50で置換することができ、結果、上記効果が増大する。このような観点から、含油粉体10の粒子径は小さいことが好ましく、含油粉体10の体積基準50%粒子径(d50)が100μm以下であることが好ましい。より好ましくは80μm以下であり、更により好ましくは50μm以下である。一方、含油粉体10の体積基準50%粒子径が1μm未満であると、間隙水に対して毛管水及び吸着水が多くなる。その結果、含油粉体10の親水性が非常に高くなり、本実施形態の処理を行っても含油粉体10の粒子間に存在する水20を除去しにくくなる可能性がある。そのため、含油粉体10の体積基準50%粒子径の下限値は1μm以上であることが好ましい。
【0041】
含油粉体10の体積基準50%粒子径(d50)は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた以下の測定方法によって測定可能である。具体的にはまず、測定対象となる試料を水でスラリー化し、分散剤としてヘキサメタりん酸ナトリウム溶液を少量添加して混合液とし、さらに、混合液の撹拌及び超音波照射を行うことで混合液中に試料を分散させる。ついで、混合液をレーザー回折式粒度分布測定装置にセットし、粒度分布を測定する。
【0042】
スラリー化工程S1における水20の添加量は、粉体10が水20中でスラリー状になる量以上とする。なお、後段の第1エマルジョン化工程で、スラリー30に第1揮発性疎水性溶剤50を添加するため、スラリー30の粘性は上昇する。そのため、スラリー化工程S1における粘性は目標とする粘性よりも低くしておく方がよい。具体的には、スラリー化工程S1におけるスラリーの粘度を2.00Pa・S以下になるように、粉体10に対して水20を添加する。スラリーの粘度は、好ましくは0.65Pa・S以下、より好ましくは0.50Pa・S以下、さらに好ましくは、0.35Pa・S以下とする。一方、スラリー化工程S1において水の添加量が多すぎると、第1エマルジョン化工程以降で、含油粉体10と第1揮発性疎水性溶剤50の接触確率が低下してしまう。このような場合には、粉体10からの油分の抽出時間を長くしたり、撹拌強度を大きくしたりする必要があり、作業効率の観点から好ましくない。したがって、含油粉体10に対する水20の添加量は、スラリーの粘度が0.003Pa・S以上になるように調整する。より好ましくは、0.1Pa・S以上である。
【0043】
スラリーの粘度は、まず回転粘度計により粘性抵抗トルクを測定し、得られた粘性抵抗トルクを粘度に換算することで求めることができる。具体的には、まず作成したスラリー300mlをトールビーカーに入れ、回転粘度計のローター部を浸漬させた状態で回転させることにより、ローター部に作用するスラリーの粘性抵抗トルクを測定する。その後、得られた粘性抵抗トルクを粘度に換算する。
【0044】
ここで、スラリー化工程S1における粘性の限定理由について、本発明者の検討結果を合わせて以下、説明する。
本発明者は、第1エマルジョン化工程S2-1におけるエマルジョン化の度合いと油分の抽出の進行度合いの相関について検討したところ、エマルジョン化が不十分であると洗浄用溶剤による油分の抽出も不十分となる、という新たな知見を得た。これは、エマルジョン化が不十分である場合では、含油粉体がスラリー中で十分な流動性を確保できていないために、洗浄用溶剤を添加しても当該溶剤が均一に混合されず、油分の抽出が促進されないためと考えられる。すなわち、エマルジョン中において、含油粉体から油分を抽出するためには、含油粉体の1つ1つの粒子が洗浄用溶剤の液滴に接することが必要となる。そのためには、水相中で含油粉体が自由に移動できるようにする必要がある。この「水相中を自由に移動できる」ことを評価する指標を検討した結果、本発明者はスラリーの粘性でもって評価できることを見出した。スラリー中の含油粉体の比率が上昇するとスラリーの粘度は急激に上昇し、スラリーの流動性が大幅に低下するため、その後、エマルジョン化を図っても、含油粉体と洗浄用溶剤の液滴は接触する機会が急激に減少してしまう。このようなことから、本実施形態では上記のとおり、スラリー化工程S1におけるスラリーの粘度を2.00Pa・S以下とすることが重要である。
【0045】
また、本実施形態では、安定したエマルジョン化の観点から、予め粉体10と水20とを混合してスラリー30を作成しておき、その次の工程で、スラリー30に第1揮発性疎水性溶剤50を添加することとする。
粉体10と水20と第1揮発性疎水性溶剤50を同時に混ぜて混合した場合、水20と粉体10との混合が進みにくく、エマルジョン化が難しくなる場合がある。特に、水/粉体の混合比(g/g)が小さくなると、エマルジョン化しにくくなり、油分の除去性能が低下する。よって、スラリー化工程S1において、水20と粉体10を予め混合し、スラリー化させた後に、得られたスラリーに第1揮発性疎水性溶剤50を添加して混合することでエマルジョン化していく方が好ましい。
【0046】
スラリー化工程S1で使用する混合装置としては、特に限定しないが、例えば、粉体10と水20の混合物を撹拌する撹拌翼を備えた容器、ラインミキサーなどを使用することができる。
【0047】
(洗浄ステップS2)
(第1エマルジョン化工程S2-1)
第1エマルジョン化工程S2-1は、スラリー化工程S1で生成したスラリー30に、第1揮発性疎水性溶剤50を添加して攪拌することでエマルジョン40を形成する工程である(図3(b))。
第1エマルジョン化工程S2-1では、まず、粉体10と水20からなるスラリー30が入った容器内に比重が1.05超、2.0未満の第1揮発性疎水性溶剤50を添加し、さらに攪拌してエマルジョン40を形成する。なお、第1エマルジョン化工程S2-1では、スラリー30を、スラリー化工程S1で使用した容器から別の容器へ移し替えて、エマルジョン40を形成してもかまわない。
【0048】
一般に、エマルジョンとは、相互に混じり合わない2種の液体であって、一方の液体中に他方の液体が微細な液滴となって分散している分散系溶液を意味し、乳濁液とも称される。本実施形態に係るエマルジョン40は、比重の異なる2種の液体(水20と第1揮発性疎水性溶剤50)と、固形分の粉体10が懸濁した分散系溶液を意味する。
【0049】
第1揮発性疎水性溶剤50は、揮発性および疎水性を有する液体、即ち、水に対する親和性が低い(水に溶解し難い、若しくは水と混ざり難い)性質を有する液体である。第1揮発性疎水性溶剤50は、例えば、常温(25℃)での水に対する溶解度が0g/L以上、10.0g/L以下の液体である。第1揮発性疎水性溶剤50の水への溶解度が高いと、粉体10の粒子間に存在する水20を第1揮発性疎水性溶剤50で置換した際に、第1揮発性疎水性溶剤50中に多くの水20が残る。この場合、粉体相回収工程S4後の粉体10の乾燥に要するエネルギーを十分に低減することができない可能性がある。このような観点から、第1揮発性疎水性溶剤50の水への溶解度は常温で10.0g/L以下であることが好ましく、5.0g/L以下であることがより好ましい。この場合、第1揮発性疎水性溶剤50中に残留する水20をさらに低減することができる。
【0050】
なお、本実施形態における「疎水性」とは、親油性を含む性質であってもよく、第1揮発性疎水性溶剤50は、例えば、疎水性を有する有機溶剤又は各種の油等であってよい。
【0051】
第1揮発性疎水性溶剤50の比重は、含油粉体から油分を分離させる磁選に大きな影響を及ぼさないため、特に限定されない。なお、エマルジョン破壊後の各要素の比重差を考慮すると、第1揮発性疎水性溶剤50の比重は、水より大きく、回収対象となる粉体10の比重よりも小さいことが好ましい。具体的には、第1揮発性疎水性溶剤50の比重は1.05超、2.0未満とすることが好ましい。これにより、エマルジョンを破壊した後に生じる水と第1揮発性疎水性溶剤50とを比重差で分離することができる。ただし、上記のとおり、第1揮発性疎水性溶剤50の比重は、当該範囲に限らず、1.05以下でもよく、エマルジョンを破壊した後に生じる水と第1揮発性疎水性溶剤50とを比重差で分離することができればよい。
【0052】
第1揮発性疎水性溶剤50の沸点は、常圧で95℃未満であることが好ましい。沸点の上限値が95℃未満であれば、後工程で粉体相を回収した後、粉体相中に残留した第1揮発性疎水性溶剤50を、容易に(例えば安価なエネルギー源である水蒸気で)除去することができる。なお、第1揮発性疎水性溶剤50の沸点の下限値は特に限定しないが、油分の抽出操作は常温で行いやすいことから、50℃以上とすることが好ましい。
【0053】
また、第1揮発性疎水性溶剤50の揮発熱量は、水の揮発熱量より小さいことが好ましい。この場合、第1揮発性疎水性溶剤50を揮発除去しやすくなり、粉体10と分離しやすくなる。
【0054】
また、第1揮発性疎水性溶剤50として用いる溶剤としては、粉体10より効率的に油分を除去するため、KB値(カウリブタノール値)の大きい溶剤を選択することが好ましい。第1揮発性疎水性溶剤50としてKB値の大きな溶剤を用いることで、油分をより吸収しやすくなる。KB値の観点からは、第1揮発性疎水性溶剤50として、例えばトリクロロエチレン、1-ブロモプロパンなどを使用することが好ましい。また、第1揮発性疎水性溶剤50として、ハイドロフルオロエーテルを用いてもよい。
【0055】
油分の付着した粉体10に対する第1揮発性疎水性溶剤50の添加量(洗浄用溶剤添加率)は、特に限定しないが、使用する溶剤の種類や、使用設備等に応じて、適宜決定してよい。油分の除去率の観点からは添加量が多い方が好ましい。
【0056】
本実施形態では、スラリー30に対し、第1揮発性疎水性溶剤50に加えて、さらに高分子凝集剤が添加されてもよい。本実施形態の粉体の回収方法は、磁力を用いて、粉体を回収するが、粉体に磁着性の低い成分もしくは非磁着物が多く含まれる場合は、磁力による回収が不十分となる場合がある。そのため、粉体に磁着性の低い成分もしくは非磁着物が多く含まれる場合は、第1揮発性疎水性溶剤50と合わせて高分子凝集剤を添加することが好ましい。これにより、磁着物と非磁着物を凝集させることができるため、磁力によって粉体を回収する場合、非磁着物も合わせて回収することができる。高分子凝集剤としては、アニオン系の高分子凝集剤を使用することが好ましく、例えば、カルボン酸系、スルホン酸系である。なお、高分子凝集剤の添加のタイミングは、第1エマルジョン化工程S2-1に限らず、スラリー化工程S1であってもよい。
【0057】
粉体に含まれる、磁着性の低い成分もしくは非磁着物の含有量が多いかどうかは、粉体中の磁着物の割合によって判断してよい。例えば、磁着物の割合が20質量%未満の場合、粉体に含まれる、磁着性の低い成分もしくは非磁着物の含有量が多いと判断してもよいし、実際に磁力によって粉体を回収して、回収割合の状況によって判断することもできる。また、高分子凝集剤を添加する以外にも、前述したように、鉄粉等の磁着物を新たに添加して、粉体中の磁着物の割合を増やすことで、回収割合を改善することもできる。高分子凝集剤の添加と新たな磁着物の添加を併用することもできる。
【0058】
(第1磁選工程S2-2)
第1磁選工程S2-2は、第1エマルジョン化工程S2-2で形成した第1エマルジョン40から、磁力選別により第1粉体相10aを分離して回収するする工程である(図3(c))。
【0059】
第1磁選工程S2-2は、第1磁気分離機80を用いて実施する。第1磁気分離機80としては、磁選効率の観点からドラム型の分離機を用いることが好ましい。以下、第1磁気分離機80としてドラム型の分離機を用いた場合について説明する。
【0060】
まず、エマルジョン40と第1磁気分離機80のドラム81を、図3(c)に示すように、接触させるとともに、ドラム81内に固定されている磁石82によりエマルジョン40に磁力を作用させる。エマルジョン40に磁力が作用すると、エマルジョン40中の粉体10のみがドラム81表面に磁着され、ドラム81の回転に伴って、粉体相(第1粉体相)10aが回収される。
【0061】
エマルジョン40の粉体10がドラム81表面に磁着されると、エマルジョン中の溶剤液滴が合一して溶剤相となり、その結果、エマルジョン40が破壊され、水20と第1揮発性疎水性溶剤50とに分離される。
【0062】
以上の工程により、油分が除去された粉体を回収することができる。
なお、ドラム81表面に磁着された粉体相10a中には、残留水、残留溶剤が付着している場合がある。そのような場合には、ドラム81表面に磁着された粉体相10aに対し、図3(c)に示すような絞りロール83によって圧力を加え脱液するとよい。脱液手段としては、絞りロール83に限らず、後述するような絞りガイド84(図4参照)を用いてもよい。
【0063】
また、以上説明した、第1エマルジョン化工程S2-1および第1磁選工程S2-2からなる洗浄ステップS2を2回以上繰り返し行ってもよい。これにより、油分除去率をさらに高めることができる。
【0064】
またさらに、残留溶剤の除去効率をさらに高めるために、以下のすすぎステップS3、ならびに、残留溶剤揮発工程をさらに実施してもよい。
【0065】
(すすぎステップ工程S3)
(第2エマルジョン化工程S3-1)
(第2磁選工程S3-2)
本実施形態では、洗浄ステップS2に得られた粉体相10aに、第2揮発性疎水性溶剤51を添加した後に混合して第2エマルジョン41を形成する第2エマルジョン化工程S3-1(図3(d))、および第2エマルジョンから磁力選別により第2粉体相10aaを分離して回収する第2磁選工程(図3(e))を実施してもよい。
【0066】
上記のとおり、ドラム81表面に磁着された粉体相10a中には、残留水、残留溶剤が付着している場合がある。そこで、洗浄ステップS2に得られた粉体相10aを用いて、再度、エマルジョン化と磁力選別を実施することで、より油分の除去された粉体(第2粉体相10aa)を回収することができる。
【0067】
第2エマルジョン化工程S3-1、および第2磁選工程S3-2の具体的な実施方法および実施条件は、それぞれ、第1エマルジョン化工程S2-1、および第1磁選工程S2-2と同様としてよい。
【0068】
例えば、第1揮発性疎水性溶剤50と第2揮発性疎水性溶剤51は同じ溶剤を使用してもよく、違ってもよい。ただし、後述する残留溶剤揮発工程や乾燥工程の実施効率の観点からは、第1揮発性疎水性溶剤50と第2揮発性疎水性溶剤51は同じ溶剤とすることが好ましい。
【0069】
また、第2揮発性疎水性溶剤51の比重は、第1揮発性疎水性溶剤50と同様に、含油粉体から油分を分離させる磁選に大きな影響を及ぼさないため、特に限定されない。なお、エマルジョン破壊後の各要素の比重差を考慮すると、水より大きく、回収対象となる粉体10の比重よりも小さいことが好ましい。具体的には、第2揮発性疎水性溶剤51の比重は1.05超、2.0未満とすることが好ましい。これにより、エマルジョンを破壊した後に生じる水と第2揮発性疎水性溶剤51とを比重差で分離することができる。ただし、上記のとおり、第2揮発性疎水性溶剤51の比重は、当該範囲に限らず、1.05以下でもよく、エマルジョンを破壊した後に生じる水と第1揮発性疎水性溶剤50とを比重差で分離することができればよい。
【0070】
また、第2エマルジョン化工程S3-1および第2磁選工程S3-2からなるすすぎステップS3を2回以上繰り返し行ってもよい。これにより、油分除去率をさらに高めることができる。
【0071】
また、本実施形態では、回収作業の効率化、ならびに回収速度の向上の観点から、洗浄ステップS2とすすぎステップS3を1つのカウンターフロー槽内にて行う向流型連続プロセスで実施することが好ましい。向流型連続プロセスを採用した回収設備の詳細については、後述する。
【0072】
また、第2揮発性疎水性溶剤51の添加量は、次のように算出することが好ましい。
まず、すすぎステップS3において除去された残留溶剤相を、比重分離によって油分をほとんど含まない水相と、油分を含む溶剤相とに分離し、そのうちの油分を含む溶剤相の吸光度を測定する。得られた吸光度の測定値から、すすぎステップS3後の粉体相中の残留油分量を推定し、この残留油分量の推定値が目標値以下となるよう、第2揮発性疎水性溶剤51の添加量を調整する。
【0073】
つまり、すすぎステップS3によって除去された残留溶剤相中に油分が多く含む場合(吸光度が高い場合)は、粉体相10aから除去しきれなかった油分が多く残っていると判断でき、その場合は第2揮発性疎水性溶剤51の添加量を増やす。一方、すすぎステップS3によって除去された残留溶剤相中に油分がほぼ残っていない場合(吸光度が低い場合)は、粉体相10aから油分を十分に除去できていると言えるため、第2揮発性疎水性溶剤51の添加量を減らせばよい。これにより、残留溶剤相を効率的に粉体相10aから除去することができ、また、すすぎステップS3によって除去された油分を含む残留溶剤相の吸光度によって、回収後の粉体相中の残留油分量を制御することができる。
【0074】
すすぎステップS3によって除去された油分を含む残留溶剤相の吸光度は、例えば、測定対象である残留溶剤相を密閉セルに入れ、吸光度計で吸光度を測定する。また油分は、一般的に黄色を帯びているため、油分を含んだ残留溶剤相の吸光度を測定する際の吸収波長は、350~500nm付近を用いればよい。
【0075】
なお、洗浄ステップS2により排出された廃液(洗浄廃液)から回収した油分を含む溶剤相については、蒸留した後に、油分を含まない揮発性疎水性溶剤として再生させてもよい。この再生させた揮発性疎水性溶剤は、第1揮発性疎水性溶剤もしくは第2揮発性疎水性溶剤として使用することができる。
また、すすぎステップS3により排出された廃液(すすぎ廃液)から回収した溶剤相に関しては、油分の含有量が少ないことから、第1揮発性疎水性溶剤(洗浄用溶剤)としても使用ができる。このような再利用の観点からも、第1揮発性疎水性溶剤50と第2揮発性疎水性溶剤51は同じものを使用するのが好ましい。
【0076】
(残留溶剤揮発工程S4)
すすぎステップS3後、回収後の粉体相10aa中に残留している第1揮発性疎水性溶剤50および第2揮発性疎水性溶剤51を除去する残留溶剤揮発工程S4を実施してもよい。回収後の粉体相10aa中には、排出しきれなかった第1揮発性疎水性溶剤50および第2揮発性疎水性溶剤51が残留している場合がある。このような場合には、これらを除去することが好ましい。具体的には、例えば、乾燥除去や揮発除去によりこれらの溶剤を除去すればよい。
【0077】
乾燥除去によって第1揮発性疎水性溶剤50および第2揮発性疎水性溶剤51を除去する場合、乾燥温度は第1揮発性疎水性溶剤50の沸点超の温度とすることが好ましい。これにより粉体相10aaから効率的に各溶剤を乾燥除去できる。なお、すすぎ工程において第2揮発性疎水性溶剤51として第1揮発性疎水性溶剤50とは異なる疎水性溶剤を用いた場合は、第1揮発性疎水性溶剤50および第2揮発性疎水性溶剤51の沸点のうちいずれか高い方の温度で乾燥除去すればよい。
【0078】
乾燥させる手段は特に限定しないが、例えば、間接加熱型乾燥器、真空間接加熱型乾燥器などを用いて乾燥させてよい。
【0079】
揮発除去によって第1揮発性疎水性溶剤50および第2揮発性疎水性溶剤51を除去する場合は、まず、第1揮発性疎水性溶剤50の沸点超の水温である温水槽に投入して第1揮発性疎水性溶剤50を揮発除去する。温水槽に投入された粉体相10aaはスラリー化するため、溶剤を揮発除去した後は、当該スラリーを脱水機にて脱水する。これにより、各溶剤が除去された粉体10を回収することができる。脱水機としては、第1磁気分離機80と同様の磁気分離機を使用してもよいし、遠心分離機、スクリュープレス、ろ過型脱水機などを使用してもよい。なお、すすぎステップS3において第2揮発性疎水性溶剤51として第1揮発性疎水性溶剤50とは異なる疎水性溶剤を用いた場合は、温水槽の水温は、第1揮発性疎水性溶剤50および第2揮発性疎水性溶剤51の沸点のうちいずれか高い方とすればよい。
【0080】
上述したように、すすぎステップS3後の粉体相(粉体ケーキ)10aaに含まれる液体の一部分は第1揮発性疎水性溶剤50、または、第2揮発性疎水性溶剤51である。そのため、より少ないエネルギー(気化熱量)で粉体相10aaを乾燥することができる。なお、後述する実施例で示されるように、粉体相の乾燥に要するエネルギーは示差走査熱量測定(DSC、Differential scanning calorimetry)によって測定することができるが、他の方法、例えばカールフィッシャー法によっても測定することができる。
【0081】
以上、本実施形態に係る粉体の回収方法について説明してきたが、各工程を行う際の温度、圧力は特に制限されず、例えば常温常圧下で行ってもよい。
また、上記では、すすぎステップS3の後に残留溶剤揮発工程S4を実施したが、すすぎステップS3を省略し、洗浄ステップS2の後に残留溶剤揮発工程S4を実施しても構わない。
【0082】
また、本実施形態に係る粉体の回収方法は、スラリー化工程S1~残留溶剤揮発工程S4の各工程を回分処理で実施することも可能であるが、固液分離速度、粉体回収速度および生産性の観点からは、これら工程を同時並行で処理する連続処理で実施することが好ましい。
【0083】
本実施形態に係る粉体の回収方法によれば、磁気分離機を用い、揮発性の疎水性溶剤を利用した油分の抽出・除去を行うため、従来の燃焼処理方法に比べ、含油粉体からの油分除去エネルギーを大幅に低減できる。また回収された粉体相中の間隙は、揮発性疎水性溶剤が多く含まれることから、容易に除去することができ、油分をほとんど含まない低水分かつ高純度の粉体を、効率的に回収することができる。すなわち、本実施形態に係る粉体の回収方法によれば、油分除去率および固液分離速度を高めることが可能な、新規かつ改良された粉体の回収方法を提供することができる。
【0084】
<2.粉体の回収設備>
次に、上述した本実施形態の粉体の回収方法を実施するための粉体の回収設備の一実施形態について説明する。
【0085】
本実施形態に係る粉体の回収設備は、油分の付着した粉体から油分を分離して粉体を回収する設備である。本実施形態の粉体の回収設備における各装置は回分式(図3参照)で設けてもよいが、回収作業の効率化、ならびに回収速度の向上の観点から、エマルジョン化装置と磁気分離機を1つのカウンターフロー槽内に配置し、各工程を同時に実施しながら連続して処理を進める、いわゆる向流型連続プロセスとなるよう設けてもよい。
以下の説明では、本実施形態の回収設備の一例として、向流型連続プロセスで実施する場合を例に挙げ、説明する。
【0086】
図4は、本実施形態に係る粉体の回収設備1と、それを用いた連続処理(連続プロセス)を示す模式図である。
本実施形態の粉体の回収設備1は、スラリー化装置60と、第1エマルジョン化装置70と、磁力によって第1粉体相を分離して回収する第1磁気分離機80とを備える。第1エマルジョン化装置70及び第1磁気分離機80は、スラリー及び各揮発性疎水性溶剤が充填されたカウンターフロー槽100内に、上流から下流に向かって縦列に配置されている。なお、本実施形態でいう「上流」とは、第1エマルジョン化装置70側であり、「下流」とは第2磁気分離機90側である。つまり、上流から下流に向けた流れとは、粉体相の搬送方向を意味する。一方、水相および溶剤相の流れは、下流から上流に向けた流れとなり、粉体相の流れと向流となる。
【0087】
スラリー化装置60は、スラリー化工程S1を実行する装置であり、油分が付着した粉体10と水20とを攪拌・混合してスラリー30を生成する。スラリー化装置60としては公知のものを使用することができ、例えば、粉体10及び水20の混合液を撹拌する撹拌翼とモータを備えた容器、ラインミキサーなどを使用することができる。
【0088】
スラリー化装置60は、後段の第1エマルジョン化装置70と、例えば配管を介して接続することができる。配管にはポンプPが接続されており、ポンプPによってスラリー30がエマルジョン化装置70に送出される。なお、図4では、設備の上方よりスラリー30を投入しているが、設備側面より投入しても構わない。
【0089】
第1エマルジョン化装置70は、第1エマルジョン化工程S2-1を実行する装置であり、スラリー30と第1揮発性疎水性溶剤50を攪拌・混合し、エマルジョン40を形成する。なお本実施形態は向流型であるため、溶剤相は下流から上流に向け流れる。つまり第1エマルジョン化装置70で用いられる第1揮発性疎水性溶剤50は、下流側から流入する形態となるため、第1揮発性疎水性溶剤50の投入位置は、第1エマルジョン化装置70よりも下流側とする。具体的には、第1揮発性疎水性溶剤50は第2エマルジョン化装置71の上方より投入されることが望ましい。ただし、第1揮発性疎水性溶剤50の投入位置は、1箇所に限らず、第1エマルジョン化装置70の上方から投入されてもよい。第1エマルジョン化装置70については公知のものを使用することができ、例えば、スラリー30と第1揮発性疎水性溶剤50との混合物を撹拌する撹拌翼とモータを備えた容器、ラインミキサーなどを使用することができる。
【0090】
本実施形態の回収設備1は、粉体相の流れと、水相および溶剤相の流れとが向流である向流型連続回収設備であるため、後段のすすぎステップS3で用いられる第2揮発性疎水性溶剤51は、洗浄ステップS1に流れ込む。つまり、第1エマルジョン化装置70では、第1揮発性疎水性溶剤50と第2揮発性疎水性溶剤51の2つの溶剤が適用されることになるため、第1揮発性疎水性溶剤50と第2揮発性疎水性溶剤51は、同種の溶剤を用いることが好ましい。
【0091】
第1エマルジョン化装置70は、モータMで撹拌翼を回転させることにより、スラリー30と第1揮発性疎水性溶剤50とを撹拌して、混合する。その結果、粉体10と水20と第1揮発性疎水性溶剤50が強攪拌されるため、上述したエマルジョン40を生成することができる。さらに、第1揮発性疎水性溶剤50が油分の抽出剤として作用して、粉体10から油分が抽出される。
【0092】
第1磁気分離機80は、第1磁選工程S2-2を実行する装置であり、磁力によって第1粉体相を分離して回収する。第1磁気分離機80は、第1エマルジョン化装置70の下流側に配置される。磁選効率の観点からドラム型の分離機を用いることが好ましい。以下、第1磁気分離機80としてドラム型の分離機を用いた場合について説明する。
【0093】
第1磁気分離機80は、ドラム81と、ドラム81内に設けられた磁石82と、ドラム81上部に設けられた絞りガイド84を備える。第1磁気分離機80は、ドラム81及び磁石82の少なくとも一部がエマルジョン40に浸漬するように設けられ、ドラム81内に固定されている磁石82によりエマルジョン40に磁力が作用する。エマルジョン40に磁力が作用すると、エマルジョン40中の粉体10のみがドラム81表面に磁着され、ドラム81の回転に伴って、粉体相(第1粉体相)10aが回収される。
【0094】
エマルジョン40の粉体10がドラム81表面に磁着されると、エマルジョン中の溶剤液滴が合一して溶剤相となり、その結果、エマルジョン40が破壊され、水20と第1揮発性疎水性溶剤50とに分離される。
【0095】
絞りガイド84は、ドラム81の上方に設けられた脱液手段である。絞りガイド84によって、回収された粉体相10aに付着している残留水および残留溶剤に圧力を加えることで、第1粉体相10aを脱液することができる。
【0096】
以上、本実施形態の粉体の回収設備1について説明したが、粉体相10a中の残留溶剤の除去効率をさらに高めるために、以下の第2エマルジョン化装置、第2磁気分離機をさらに備えてもよい。
【0097】
第2エマルジョン化装置71は、第2エマルジョン化工程S3-1を実行する装置であり、第1磁気分離機80によって回収された第1粉体相10aに、さらに第2揮発性疎水性溶剤51を添加した後、攪拌・混合し、エマルジョン40を形成する。ここで用いる第2揮発性疎水性溶剤51は第1揮発性疎水性溶剤50と同種の溶剤である。また、第2エマルジョン化装置71としては、第1エマルジョン化装置70と同構成の装置を採用してよい。
【0098】
第2磁気分離機90は、第2磁選工程S3-2を実行する装置である。第1磁気分離機80によって回収された第1粉体相10aには、油分を含んだ溶剤が残留、もしくは、粉体表面に油分が残留している場合がある。そのため、再度、第2磁気分離機によって磁選することで、より油分の除去された粉体(第2粉体相10aa)を分離して回収することができる。第2磁気分離機90は、第1磁気分離機と同構成の装置を採用してよい。
【0099】
また本実施形態の粉体の回収設備1では、第2磁気分離機90によって回収された第2粉体相10aaに残留している溶剤を除去する(残留溶剤揮発工程S4)ための、残留溶剤除去装置73および脱水機91をさらに設けてもよい。
【0100】
残留溶剤除去装置73は、揮発除去により粉体相10aa中には、排出しきれなかった第1揮発性疎水性溶剤50および第2揮発性疎水性溶剤51を除去する装置である。具体的な構成は公知のものを使用できるが、例えば、温水を充填する温水槽および攪拌するためのモータMを備える。温水が充填された温水槽中に粉体相10aaを投入し、モータMで撹拌翼を回転させることにより、粉体相10aaに残留した溶剤を除去することができる。なお、揮発除去に使用した温水は、回収設備1の最下流にて回収し、再度、残留溶剤除去装置73内に投入されて再利用することができる。また、揮発除去により除去された溶剤は、蒸留装置(不図示)に回収され、精留されることで、再び、第1揮発性疎水性溶剤50もしくは第2揮発性疎水性溶剤51として再利用することができる。
【0101】
残留溶剤除去装置73を用いた揮発除去では、温水を用いる。そのため、第2磁気分離機90と残留溶剤除去装置73との間には、熱エネルギーが上流側へ伝熱することを回避するために断熱壁Wを設けることが望ましい。なお断熱壁Wは、第2磁気分離機90と残留溶剤除去装置73との間のカウンターフロー槽100の断面(境界)のうち、粉体相10aaを搬送および投入するための投入口以外の境界に設けられることが望ましいが、少なくとも断熱壁Wの高さが温水の水面より高い位置となればよい。また、粉体相10aaを搬送および投入するための投入口には、シール性が高いロータリーバルブなどを設け、粉体相10aaを搬送および投入することが望ましい。
【0102】
脱水機91は、温水槽にて溶剤が揮発除去されたスラリーを脱水して粉体10を回収する装置である。脱水機91の具体的な構成は、第1磁気分離機80、第2磁気分離機90と同様の構成としてよい。あるいは、遠心分離機、スクリュープレス、ろ過型脱水機などを使用してもよい。
【0103】
以上、本実施形態の回収設備1の好ましい形態について説明してきたが、上記のとおり、回収設備1として、回分式の設備でも適用可能であり、その場合でも向流型と同様の技術思想を適用できる。
【0104】
また、本実施形態の回収設備1は向流型連続回収設備であり、水相および溶剤相の流れは、下流から上流に向けた流れとなる。そのため、第2エマルジョン化装置の上方から投入された揮発性疎水性溶剤をエマルジョン化に十分に寄与させるためには、第1磁気分離機と第2エマルジョン化装置との間に、越流堰を設けることが好ましい。これにより、投入した溶剤を第2エマルジョン化装置周辺に滞留させることができ、結果、十分なエマルジョン化を図ることができる。
また、粉体10が容易にスラリー化できる場合は、粉体10を直接第1エマルジョン化装置70に投入してもよい。
また、すすぎステップS3をさらに追加し、複数回実施してもよい。こうすることで、油分除去率をさらに高めることができる。
また、第1エマルジョン化工程S2-1に、第2揮発性疎水性溶剤を添加してもよい。
【実施例0105】
次に、本実施形態の実施例(実験例)を説明する。以下に説明する各実施例では、本実施形態の効果を確認するために様々な試験を行った。なお、以下の各実施例はいずれも常温常圧下で行った。
【0106】
<実施例1>
磁着物を含む油分が付着した粉体、及び水を表1に示す条件で配合し、混合しスラリーを作成した。その後、比重が0.65~1.46である揮発性疎水性溶剤(洗浄用溶剤)を添加し、混合した。次に、表1に記載の高分子凝集剤(アニオン系高分子凝集剤)水溶液を添加し混合しエマルジョンを作成した。
【0107】
次に、得られたエマルジョン中にネオジウム磁石(表面積:14.5cm、表面における磁束密度:約5,000ガウス)を5秒間浸漬した後、ネオジウム磁石を引きあげ、磁石表面に磁着した磁着物を主体とする粉体相(脱液前ケーキ)を回収した。
【0108】
次に、磁石表面に磁着した粉体相に、ゴム板を押しあてて絞ることで、磁石表面上で脱液した。
【0109】
脱液後の粉体相を磁石表面よりかきとり、粉体相の気化熱量、および粉体相中の油分含有率を測定し油分除去率を計算した。油分除去率は、処理前の粉体中の油分含有率と処理後の粉体中の油分含有率より、油分の除去率を算出した。油分除去率が20%以上であったものを、油分除去率に優れる(合格)と評価した。
【0110】
また、磁石表面に付着した粉体相を除去した後に、再度、エマルジョン中に磁石を浸漬させ、エマルジョン中に残存している磁着物を回収した。この操作を、磁石表面に磁着物が磁着しなくなるまで、繰り返した。エマルジョン中に磁着物がなくなったのちに、エマルジョンをろ紙でろ過し、ろ紙を乾燥させ後に、ろ紙の重量増分を測定し、エマルジョン中の残存固形物量を測定した。処理前の粉体の重量と、測定されたエマルジョン中の残存固形物量より、粉体回収率を算出した。なお、粉体回収率が50質量%以上であったものを、粉体回収率に優れる(合格)と評価した。
【0111】
発明例1-1~1-5、比較例1-0は、粉体への高分子凝集剤(アニオン系高分子凝集剤)の添加率を0~0.1(質量%)にした例である。対象物のスケール中には、磁着性が低い成分が含まれ、いずれも磁着物含有率が58質量%であった。
高分子凝集剤の添加率が0質量%の発明例1-1では、粉体回収率は63質量%であったが、高分子凝集剤添加率を上昇させると、粉体回収率は97質量%以上となり、ほとんどの粉体を回収できることが判明した。よって、粉体中の磁着物含有率が低くても、高分子凝集剤を添加することで、磁着粒子と非磁着粒子が凝集し、緩く連結されることで、非磁着粒子も磁石により磁着し、回収できることが判明した。また、いずれの発明例の場合でも、回収した粉体相中の油分含有率は低下することを確認した。なお、疎水性溶剤および高分子凝集剤をともに添加しなかった比較例1-0では、油分除去率は0%、気化熱量は656J/g-dryであったが、疎水性溶剤(1-ブロモプロパン)を添加した発明例1-1では、油分除去率は66%、気化熱量は335J/g-dryとなり、間隙中の水分が約半分置換され、乾燥に要するエネルギーが置換できたといえる。
【0112】
次に、比較例1-6~1-7、発明例1-8~1-12は、洗浄用溶剤と粉体との配合比(洗浄用溶剤/粉体(g/g))を一定(0.29(g/g))にし、水および粉体の配合比(水/粉体(g/g))のみを0.18~1.06(g/g)まで変化させた例である。
【0113】
水/粉体が0.33(g/g)以下(比較例1-6および比較例1-7)では、スラリー化できておらず、スラリーの粘度測定時、測定範囲を超過(100Pa・S超)してしまい、測定自体が実施できなかった。
【0114】
一方、水/粉体が0.47(g/g)以上(発明例1-8~発明例1-12)では、十分にスラリー化でき、いずれも2.00Pa・s以下であった。また、発明例1-10~発明例1-12はいずれも、エマルジョンの状態は良好であったが、発明例1-8、1-9では、スラリー粘度が、若干高めとなり、エマルジョンの状態は発明例1-10~発明例1-12よりも若干劣ったものの、本発明の効果を阻害するほどではなかった。
【0115】
図5および図6のそれぞれは、発明例1-8~発明例1-12における、水および粉体の配合比(水/粉体(g/g))とスラリーの粘度(Pa・s)との関係、ならびにスラリーの粘度(Pa・s)と油分除去率(%)を示すグラフである。
図5および図6のグラフに示すとおり、水/粉体が小さくなると、スラリーの粘度が上昇してしまい、洗浄用溶剤との混合が不十分となる結果、油分除去率は低下する傾向となった。例えば、水スラリーの粘度が1.94Pa・Sの時(発明例1-8)、油分除去率は34質量%となり油分を除去できることを確認した。
【0116】
一方、粘度が100Pa・S超の時(比較例1-6及び比較例1-7)、油分除去率は10%以下となり、ほとんど除去できないことがわかった。スラリーの粘度が0.63Pa・Sの時(発明例1-9)、油分除去率は52質量%まで上昇し、さらに、スラリーの粘度が0.31Pa・S以下になると(発明例1-10~発明例1-12)、油分除去率は64~70質量%まで大幅に上昇し、ほぼ一定となった。これより、スラリーの粘度を0.29Pa・Sにすることで、エマルジョン中の水相内を粉体が自由に動けるようになり、エマルジョン中の溶剤液滴と粉体の接触が律速とならないと考えられる。なお気化熱量については、水スラリーの粘度の変動によって大きな差異はなかった。
以上のことから、粉体と水を混合して作成するスラリーの粘度は、2.0Pa・S以下とし、好ましくは0.63Pa・S以下とし、より好ましくは0.31Pa・S以下とする。
【0117】
次に、発明例1-10、1-13~1-16は、粉体への高分子凝集剤の添加率を一定(0.05(質量%))にし、粉体中の磁着物含有率のみを14~83(質量%)まで変化させた例である。
粉体中の磁着物含有率が14質量%(発明例1-13)では、磁選による粉体の回収率は54質量%と低かったが、粉体中の磁着物含有率が23~83質量%(発明例1-10、発明例1-14~1-16)では、磁選による粉体の回収率は78~97質量%以上となり、磁選により粉体を十分回収できた。これより、粉体中の磁着物含有率が20質量%以上であることが好ましいこといえる。
【0118】
次に、図7は、発明例1-10、発明例1-17~1-19における、洗浄用溶剤と粉体との配合比(洗浄用溶剤/粉体(g/g))と油分除去率(%)との関係を示すグラフである。
実施例1-10、発明例1-17~1-19では、洗浄用溶剤/粉体を0.21~1.23(g/g)まで変化させているが、図7のグラフに示すとおり、洗浄用溶剤/粉体が大きいほど、油分除去率が上昇し、洗浄用溶剤/粉体の配合比が0.3でほぼ油分除去率が65質量%にも達することがわかる。
【0119】
次に、発明例1-20は、粉体として油分が付着した研磨屑を用いた場合であるが、本発明例1-21でも、研磨屑から油分の分離を行うことができ、かつ研磨屑から油分が除去できることを確認した。
【0120】
次に、発明例1-21~1-23において、疎水性溶剤(洗浄用溶剤)としてトリクロロエチレン、ハイドロフルオロエーテル、n-ヘキサンを使用し、油分が除去できることを確認した。
【0121】
なお、磁着物含有率は、次のように測定した。
105℃で2hr乾燥させた粉体約50gを紙の上に2mm厚み程度で薄く載せ、ネオジウム磁石(表面における磁束密度:約5,000ガウス、直径21mm、高さ9mmの円柱状磁石)を付着させ、ネオジウム磁石表面に磁着物を磁着させた。その後、ネオジウム磁石表面から磁着物を除去した後、再度、紙の上に残っている粉体にネオジウム磁石を付着させ、ネオジウム磁石表面に磁着物を磁着させた。この磁着操作をネオジウム磁石表面に磁着物が磁着しなくなるまで繰り返した。磁着物が磁着しなくなったことを確認できたら、紙の上に残っている粉体の重量と、当初紙の上に置いた粉体の重量より、磁着物含有率を算出した。
【0122】
油分除去前の粉体および回収した粉体相(ケーキ)の各油分含有率は、次のように測定した。
まず、油分除去前の粉体および回収したケーキそれぞれについて、105℃の乾燥機で2時間乾燥させた後、ソックスレー抽出器を用いて、n-ヘキサンにて油分を抽出した。引き続き、抽出したn-ヘキサンと油分を含んだ混合物を加温し、n-ヘキサンを揮散した後、残さ物(油分)の重量を測定し、油分除去前の粉体およびケーキ中の油分含有率をそれぞれ算出した。なお油分除去率は、油分除去前の粉体の油分含有率から油分除去後のケーキ(粉体相)の油分含有率を引いた油分含有率差を分子とし、油分除去前の粉体の油分含有率を分母とした場合の値である。
【0123】
また、回収したケーキの気化熱量は、次のように測定した。
まず遠心分離用容器の底部に沈積したケーキから5~8mgの試料を採取し、湿潤状態のままの試料をすばやく示差走査熱量測定(DSC、Differential scanning calorimetry)装置(DSC8230、リガク社製)に設置した。ついで、試料を常温(室温)から80℃に昇温し、このときの気化熱量を測定した。試料量が非常に少ないため、秤量作業から示差走査熱量測定を行うまでに、試料中の揮発性疎水性液体は揮発してしまう。このため、測定される気化熱量は、試料中の水分のみによる気化熱量であると推察される。すなわち、この気化熱量が少ないほど、ケーキに持ち込まれる水等の量が少なくなり、回収後のケーキを乾燥させる際のエネルギーが少なくなると言える。
【0124】
また、粉体の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法で測定し、体積基準の平均粒子径を求めた。
【0125】
また、スラリーの粘度は、まず回転粘度計により粘性抵抗トルクを測定し、得られた粘性抵抗トルクを粘度に換算することで求めた。具体的には、まず作成したスラリー300mlをトールビーカーに入れ、回転粘度計のローター部を浸漬させた状態で回転させることにより、ローター部に作用するスラリーの粘性抵抗トルクを測定した。その後、得られた粘性抵抗トルクを粘度に換算した。なお、回転粘度計は、「VISCOMETER DVL-8型(東機産業製)」を用いた。
【0126】
【表1A】
【0127】
【表1B】
【0128】
<実施例2>
発明例1-10で得た脱液後の粉体相10g(油分含有率:1.8質量%)を、油分を含まない疎水性溶剤(1-ブロモプロパン)3.0gと水7.6gと混合して再度スラリー化しエマルジョンを作成し、すすぎ工程を行った。その後、エマルジョン中にネオジウム磁石(表面積14.5cm)を浸漬した後、ネオジウム磁石を引きあげ、磁石表面に磁着した磁着物を主体とする粉体相を回収した。
【0129】
次に、磁石表面に磁着した粉体相に対し2種の方法によって脱液を実施した。一方は、ゴム板を押しあて絞ることで、磁石表面上で脱液し(「絞り」)、もう一方は、粉体相を遠沈管に入れ、遠心分離(1,750G、10秒間)を行い、脱液した(「遠心分離」)。脱液後の粉体相を磁石表面よりかきとり、もしくは、遠沈管の下部に堆積した脱液後ケーキを取り出し、脱液後ケーキの気化熱量、粉体中の油分含有率を測定した。その結果を表2に示す。表2に示すとおり、脱液方法に関係なく、すすぎを実施することで、油分含有率は0.2(質量%)まで低下し、すすぎ工程における油分低下効果を確認できた。
【0130】
【表2】
【0131】
<実施例3>
実施例3では、まず、油分の付着したスケール(水分20質量%、油分5質量%-dry)に水を添加した後、混合し、スラリー(固形物含有率:50%質量、粘度:0.15Pa・S)を作成した(第1スラリー化工程)。ついで第1スラリー化工程で作成したスラリーを容器に612g/分で投入し、さらに洗浄用溶剤(1-ブロモプロパン、比重:1.35、沸点:71℃)を88g/分で投入し、かつ、スケール量に対してアニオン系高分子凝集剤が0.05質量%になるように、アニオン系高分子凝集剤水溶液を添加し、攪拌することで、エマルジョンを作成した(第1エマルジョン化工程)。
【0132】
次に、第1エマルジョン化工程で作成したエマルジョンを700g/分で、図3(c)に示す、ドラム81と絞りガイド83を備えた第1磁選分離機80に連続投入した。ドラム81の表面は約9,000ガウスである。
投入したエマルジョンを、ドラム81の表面に磁着させ、粉体相と、余剰の水と洗浄用溶剤とに分離した。磁着した粉体相(脱液前ケーキ)は絞りガイドで脱水され、脱液後の粉体ケーキとして回収した。
【0133】
次に、回収した脱液後の粉体ケーキ1,000gに対し、油分を含まないすすぎ用溶剤(1-ブロモプロパン、比重:1.35、沸点:71℃)160gと水500gを添加し、攪拌することでエマルジョンを作成し(第2エマルジョン化工程、図3(d)参照)、その後、図3(e)に示す、ドラムと絞りガイドを備えた第2磁選分離機に612g/分で連続投入した。
【0134】
投入したエマルジョンを、ドラムの表面に磁着させ、粉体相と、余剰の水とすすぎ用溶剤とに分離した。磁着した粉体相(脱液前ケーキ)は絞りガイドで脱水され、脱液後の粉体ケーキとして回収した。
【0135】
実施例3で回収した、洗浄後の脱液後粉体ケーキ、すすぎ後の脱液後粉体ケーキそれぞれに対して、油分含有率、気化熱量を測定した。その結果を表3に示す。表3により、当初、スケールには5質量%の油分が付着していたが、洗浄工程後の脱液後ケーキでは1.8質量%(油分除去率:64質量%)となり、すすぎ工程後の脱液ケ-キでは0.1質量%(油分除去率:98質量%)となり、すすぎ工程により油分はほとんどすべて除去できることを確認した。
【0136】
【表3】
【0137】
<実施例4>
実施例3で回収したすすぎ工程後の脱液後の粉体ケーキ1kgを、90℃に調整した温水2リットル中に投入しスラリーとし、1分間攪拌することで、回収したスケール中に残存していた疎水性溶剤を揮発させた。その後、スラリーを回収し、回分式の遠心分離装置にて1750Gの遠心力を30秒作用させ、固液分離を行い、再度、粉体ケーキを得た。遠心分離による水分除去後の粉体ケーキ中の残留溶剤含有率を測定したところ、残留溶剤は検出されなかった。
【0138】
次に、実施例3で回収したすすぎ工程後の脱液後の粉体ケーキ1kgを解砕した後、乾燥皿に厚さ5mm以下となるよう薄く敷き詰め、120℃に調整した乾燥炉内で10分間乾燥させ、スケール中に残存していた疎水性溶剤を揮発させた。乾燥後、粉体ケーキ中の残留溶剤含有率を測定したところ、残留溶剤は検出されなかった。
【0139】
なお、本実施例において、ケーキ中の残留溶剤含有率は、次のように測定した。
溶剤を揮発除去させたケーキと純水を混合し試料水とし、試料水を密閉容器に入れた。次いで、試料を溶剤の沸点より30~50℃高い温度にて10~20分加温し、試料水中から密閉容器内の空気層中に溶剤成分を揮散させた。その後、密閉容器内の気相部分をシリンジで採取し、シリンジ内のガス成分をガスクロマトグラフにて測定し、ケーキ中の残留溶剤濃度を算出した。
【0140】
<実施例5>
実施例3で、すすぎ溶剤の投入量のみを0g~300gに変化させたこと以外は同じ条件にて試験を行い、すすぎ廃液およびすすぎ工程後の脱液後粉体ケーキを回収した。回収したすすぎ廃液を静置し、比重分離によって水相と溶剤相とに分離した。分離した溶剤相はJIS P 3801規定の「5種A」のろ紙でろ過し、わずかに混入しているスケール分を除去し、ろ過後の溶剤を回収した。
【0141】
回収したろ過後の溶剤中の油分濃度と、吸収波長400nmでの溶剤相の吸光度との関係を調べたところ、図8に示すような関係が得られた。この関係から、吸光度1.5以下の領域で、溶剤中の油分濃度と溶剤相の吸光度との関係がほぼ正の相関があることがわかった。
【0142】
また、ろ過後の溶剤相の吸光度(吸収波長400nm)とケーキ中の油分濃度との関係を調べたところ、図9のような関係が得られた。このような関係から、すすぎ廃液中の溶剤相の吸光度を測定することにより、ケーキ中の油分濃度を推定することができるといえる。このことから、例えばスケール等の粉体中の油分濃度をある目標値以下としたい場合、すすぎ廃液中の溶剤相の吸光度からケーキ中の残留油分量を推定し、当該残留油分量の推定値が前記目標値以下となるようすすぎ用溶剤の添加量を調整すればよい。こうすることで、粉体中の油分濃度を効率的に目標値以下とできるとともに、すすぎ溶剤の使用量を適切なものに制御でき、溶剤の過剰な投入等のロスを抑制できる。
例えば、図9の関係をみるに、ケーキ(粉体)中の油分濃度を0.2%以下にするには、吸光度が0.5以下であることが必要であるといえ、吸光度が当該範囲内となるようすすぎ溶剤の投入量を調整する。
【0143】
また、すすぎ廃液中の溶剤相の吸光度(吸収波長400nm)が0.5の時、この溶剤中の油分濃度は30mg/ml-溶剤と小さいことから、第1の揮発性疎水性溶剤(洗浄用溶剤)として使用できることを確認した。
【0144】
<実施例6>
図4に示す向流型連続回収設備を用いて、カウンターフロー方式によって、油分が付着したスケールからの油分抽出を行った。
【0145】
油分が付着したスケール(油分:4.6%、水分:20%)を3.8kg/分でスラリー化装置に投入し、水と混合し、スラリー濃度55質量%のスラリーを生成した。スラリーの粘度は、0.2Pa・Sであった。その後、第1エマルジョン化装置に投入し、さらに第1磁気分離機により磁選を実施した(洗浄ステップ)。さらに、第2エマルジョン化装置に、油分を含まない揮発性疎水性溶剤(1-ブロモプロパン)を1.9kg/分で投入し、水を2.2L/分で投入し、第1磁気分離機による磁選後の粉体ケーキと水と揮発性疎水性溶剤を混合し、エマルジョン化し、さらに第2磁気分離機により磁選を実施した(すすぎステップ)。このように、洗浄ステップおよびすすぎステップでスケールに付着した油分を揮発性疎水性溶剤で抽出し、脱液した後、90℃に調整した残留溶剤除去装置に投入し、粉体ケーキ中に残留している溶剤を揮発させるとともに、水でスラリー化させた。その後、脱水機にて、磁選による脱水を行い、ケーキを回収した。なお、洗浄ステップとすすぎステップで投入した水と油分を含んだ溶剤は、スケールの流れとは反対の方向(図4の場合、紙面左側方向)に移動する。相分離槽にて水と油分を含んだ溶剤とに相分離し、分離した水は再度、スラリー化工程もしくは、第2エマルジョン化工程に投入し、再度使用した。また、油分を含んだ溶剤は、図示していない蒸留装置にて蒸留し、油分と溶剤とに分離し、再生した溶剤は第2エマルジョン化工程に投入した。回収したケーキ中の油分は0.38質量%であり、油分除去率は、約92%であった。水分は28質量%であった。
【符号の説明】
【0146】
1 粉体の回収設備
10 粉体(含油粉体)
10a 第1粉体相(粉体相)
10aa 第2粉体相(粉体相)
20 水
30 スラリー
40 エマルジョン
50 第1の揮発性疎水性溶剤(洗浄用溶剤)
51 第2の揮発性疎水性溶剤(すすぎ用溶剤)
60 スラリー化装置
70 第1エマルジョン化装置
71 第2エマルジョン化装置
73 残留溶剤除去装置
80 第1磁気分離機
81 ドラム
82 磁石
90 第2磁気分離機
91 脱水機
100 カウンターフロー槽
W 断熱壁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9