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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068929
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】成形食品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20230511BHJP
   A23L 29/256 20160101ALI20230511BHJP
   A23L 29/231 20160101ALI20230511BHJP
   A23L 29/269 20160101ALI20230511BHJP
   A23L 29/238 20160101ALI20230511BHJP
   A23L 29/244 20160101ALI20230511BHJP
   A23L 7/126 20160101ALI20230511BHJP
【FI】
A23L5/00 A
A23L29/256
A23L29/231
A23L29/269
A23L29/238
A23L29/244
A23L7/126
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180389
(22)【出願日】2021-11-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 下記の日付および場所にて、伊那食品工業株式会社が、発明した成形食品(商品名:寒天グラノーラBAR)を販売した。 1.令和3年7月15日、「かんてんぱぱショップ 北丘本店」において販売した。 2.令和3年7月15日、「健康パビリオン売店」において販売した。 3.令和3年7月15日、「かんてんぱぱショップ 駅前いなっせ店」において販売した。 4.令和3年7月15日、「かんてんぱぱショップ 小布施店」において販売した。 5.令和3年7月15日、「かんてんぱぱショップ ぱてぃお大門店」において販売した。 6.令和3年7月15日、「かんてんぱぱショップ TOiGO店」において販売した。 7.令和3年7月15日、「かんてんぱぱショップ 安曇野店」において販売した。 8.令和3年7月15日、「かんてんぱぱショップ 松本店」において販売した。 9.令和3年7月15日、「かんてんぱぱショップ 軽井沢店」において販売した。 10.令和3年7月22日、「かんてんぱぱショップ <札幌> 宮の森店」において販売した。 11.令和3年7月22日、「かんてんぱぱショップ <仙台> 仙台泉店」において販売した。 12.令和3年7月22日、「かんてんぱぱショップ <東京> 初台店」において販売した。 13.令和3年7月22日、「かんてんぱぱショップ <名古屋> 小牧店」において販売した。 14.令和3年7月22日、「かんてんぱぱショップ <大阪> 千里山店」において販売した。 15.令和3年7月22日、「かんてんぱぱショップ <岡山> 岡山店」において販売した。 16.令和3年7月22日、「かんてんぱぱショップ <福岡> 梅光園店」において販売した。 17.令和3年7月22日、「かんてんぱぱショップ フレンドリーショップ横浜店」において販売した。 18.令和3年10月1日、https://shop.kantenpp.co.jpのアドレスのウェブサイトで公開されている伊那食品工業株式会社の「かんてんぱぱ オンラインショップ」にて販売した。
(71)【出願人】
【識別番号】000118615
【氏名又は名称】伊那食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】西澤 彩佳
【テーマコード(参考)】
4B025
4B035
4B041
【Fターム(参考)】
4B025LB25
4B025LE03
4B025LG01
4B025LG26
4B025LG29
4B025LG42
4B025LG44
4B025LP01
4B025LP09
4B025LP12
4B035LC03
4B035LC16
4B035LE07
4B035LG17
4B035LG19
4B035LG20
4B035LG22
4B035LG23
4B035LG24
4B035LG25
4B035LG27
4B035LP01
4B035LP21
4B035LP32
4B035LP43
4B041LC03
4B041LD01
4B041LE05
4B041LH05
4B041LH07
4B041LH08
4B041LH10
4B041LH16
4B041LK09
4B041LK11
4B041LP01
4B041LP12
(57)【要約】
【課題】糖度が抑えられると共に、適度な硬さ(柔らかさ)の食感に仕上げることができ、またはより硬いもしくはより柔らかい食感に仕上げることも可能であり、簡易な工程および小規模な設備で連続生産が可能な成形食品、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る成形食品は、バインダーによって結着された食品素材が成形された成形食品であって、前記バインダーは、糖質とゲル化剤とを含有し、前記ゲル化剤は、単独でまたは複数種類の組み合わせでゲル化作用を有する多糖類を含有することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダーによって結着された食品素材が成形された成形食品であって、
前記バインダーは、糖質とゲル化剤とを含有し、
前記ゲル化剤は、単独でまたは複数種類の組み合わせでゲル化作用を有する多糖類を含有すること
を特徴とする成形食品。
【請求項2】
前記ゲル化剤は、寒天、カラギナン、ペクチン、キサンタンガム、ガラクトマンナン、タマリンドシードガムおよびグルコマンナンからなる群より選ばれる少なくとも一種類を含有すること
を特徴とする請求項1記載の成形食品。
【請求項3】
食品素材と、ゲル化剤および糖質を含有するバインダーとを押出機に導入し、前記押出機内で加熱混合し、前記押出機外に押出した後、成形する工程を含み、
前記押出機に導入する前記バインダーは、ゲル状であること
を特徴とする成形食品の製造方法。
【請求項4】
食品素材と、ゲル化剤および糖質を含有するバインダーとを押出機に導入し、前記押出機内で加熱混合し、前記押出機外に押出した後、成形する工程を含み、
前記ゲル化剤は、単独でまたは複数種類の組み合わせでゲル化作用を有する多糖類を含有すること
を特徴とする成形食品の製造方法。
【請求項5】
前記ゲル化剤は、寒天、カラギナン、ペクチン、キサンタンガム、ガラクトマンナン、タマリンドシードガムおよびグルコマンナンからなる群より選ばれる少なくとも一種類を含有すること
を特徴とする請求項3または請求項4記載の成形食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形食品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
穀類、種実類、豆類、ドライフルーツ等に例示される食品素材が結着剤であるバインダーによって結着されて成形された成形食品が知られている。一例として、「おこし」等の名称で知られる菓子や、「シリアルバー」等の名称で知られる様々な用途で食される食品等が挙げられる。
【0003】
成形食品においては、食品素材同士を結着させるバインダーが必要になる。従来、上記「おこし」等に例示される菓子類では、煮詰めた糖液をバインダーとして、これをパフ状のシリアル等の食品素材と混合し、冷却することによってこれらを結着させていた。この場合、結着対象である食品素材に対する糖液の比率をある程度高くしないと食品素材同士を結着させられないため、成形食品は高糖度になって甘味が強いものになる。また、糖液が結晶化するため、成形食品は硬い食感のものになる。
【0004】
一方、特許文献1(特開2015-211653号公報)記載の上記「シリアルバー」の一形態であるシリアルブロック菓子では、溶解させたグミをバインダーとすることが記載されている。これによれば、糖類に加えてゼラチンを含有するグミ生地を用いることで粘性が抑えられて取扱いやすくはなるが、結着対象である食品素材に対する糖液の比率をある程度高くしないと食品素材同士を結着させられないことには変わりなく、成形食品は高糖度になって甘味が強いものになる。このように高糖度で甘味が強すぎることは、様々な用途で食される成形食品において改良が求められる課題の一つである。また、従来のおこしにしても、特許文献1記載のシリアルブロック菓子にしても、糖液を煮詰めたりグミを溶解させたりする必要があるため、バインダーの連続供給を行うには複数の溶解設備が必要になる。したがって、製品の連続生産を行うには設備的な課題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-211653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の課題に対して、近年、成形食品のバインダーとして、糖液に澱粉もしくはプルランを混合したものが用いられるようになっている。これによれば、煮詰めた糖液等を用いるよりは成形食品の糖度が抑えられて甘味が抑えられる。また、糖液を煮詰めたりする必要がないため、バインダーの連続供給にも適している。しかしながら、このような糖液に澱粉もしくはプルランを混合したバインダーでは、保存性を向上させるために製品の水分量を抑える必要が生じる。そのため、当該バインダーと食品素材との混合物を型に押付けて成形した後、当該成形物を焼成したり熱風乾燥したりする加熱乾燥工程が必要となり、さらにはその後に冷却工程が必要となって、工程が煩雑になると共に大規模な設備が必要になるという新たな課題が生じる。さらに、加熱乾燥工程を経た成形食品は硬い食感のものに限られてしまい、食感に自由度を持たせられないという課題も生じる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、糖度が抑えられると共に、適度な硬さ(柔らかさ)の食感に仕上げることができ、またはより硬いもしくはより柔らかい食感に仕上げることも可能であり、簡易な工程および小規模な設備で連続生産が可能な成形食品、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明は、一実施形態として以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0009】
本発明に係る成形食品の製造方法は、食品素材と、ゲル化剤および糖質を含有するバインダーとを押出機に導入し、前記押出機内で加熱混合し、前記押出機外に押出した後、成形する工程を含み、前記押出機に導入する前記バインダーは、ゲル状であることを特徴とする。
【0010】
または、本発明に係る成形食品の製造方法は、食品素材と、ゲル化剤および糖質を含有するバインダーとを押出機に導入し、前記押出機内で加熱混合し、前記押出機外に押出した後、成形する工程を含み、前記ゲル化剤は、単独でまたは複数種類の組み合わせでゲル化作用を有する多糖類を含有することを特徴とする。
【0011】
これによれば、結着対象である食品素材に対する糖質の比率を低くしても、ゲル化剤の結着作用によって食品素材同士を好適に結着させられ、適度な硬さ(柔らかさ)を有する食感を持った成形食品が実現できる。具体的には、成形食品の糖度をバインダー糖度で70程度まで抑えて、甘味を抑えることができる。また、難溶性のゲル状バインダーを用いることで、ゼリー強度を調整したり、食品素材と混合する際の当該ゲルの溶解、崩壊具合を調整したりして、成形食品をより硬いもしくはより柔らかい食感に仕上げることもでき、食感にバリエーションを持たせることができる。さらに、予め作り置きまたは保存しておいたゲル状バインダーをそのまま押出機に導入し、押出機内で食品素材と共に加熱混合し、押出機外に押出すだけで食品素材同士を結着させることができ、あとは自然冷却によって一定の水分を飛ばすだけで、一定の保存性を有する成形食品を製造できる。したがって、簡易な工程且つ小規模な設備でバインダーの連続供給および製品の連続生産が可能になると共に、製造コストを抑えることができる。
【0012】
また、前記ゲル化剤は、寒天、カラギナン、ペクチン、キサンタンガム、ガラクトマンナン、タマリンドシードガムおよびグルコマンナンからなる群より選ばれる少なくとも一種類を含有することが好ましい。なお、ゲル化剤としてこれらの多糖類を配合(添加)するにあたっては、これらが含有されるように配合(添加)すればよく、必ずしも精製物・洗浄物に限定されない。一例として、グルコマンナンにおいては、こんにゃく粉を配合(添加)することによりこれを含有させてもよい。
【0013】
そして、本発明に係る成形食品は、バインダーによって結着された食品素材が成形された成形食品であって、前記バインダーは、糖質とゲル化剤とを含有し、前記ゲル化剤は、単独でまたは複数種類の組み合わせでゲル化作用を有する多糖類を含有することを特徴とする。
【0014】
また、前記ゲル化剤は、寒天、カラギナン、ペクチン、キサンタンガム、ガラクトマンナン、タマリンドシードガムおよびグルコマンナンからなる群より選ばれる少なくとも一種類を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、成形食品について、糖度が抑えられると共に、適度な硬さ(柔らかさ)の食感に仕上げることができ、またはより硬いもしくはより柔らかい食感に仕上げることも可能になる。また、簡易な工程および小規模な設備で連続生産が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本願でいう糖度は、屈折計で測定されるブリックス値(Brix値)をいう。
【0017】
本実施形態に係る成形食品は、バインダーによって結着された食品素材が成形された成形食品であって、前記バインダーは、糖質とゲル化剤とを含有し、前記ゲル化剤は、単独でまたは複数種類の組み合わせでゲル化作用を有する多糖類を含有することを特徴とする。
【0018】
食品素材としてはバインダーによって結着され得る物であれば特に限定されず、一例として、穀類、種実類、豆類、ドライフルーツ等が挙げられる。これらのうち、複数種類がミックスされたものであってもよい。また、これらの素材がそのまま用いられてもよいが、または、これらが適当な大きさにカットされたものや、粉体にされたものであってもよい。また、これらの素材がフレーク状もしくはパフ状等に加工されたものであってもよく、また、これらが脱脂されたものや、発酵されたものであってもよい。さらには、これらの素材に対して、目的に応じて、適宜、調味料、ビタミン、ミネラル、香料、着色料等や、乳化剤、賦形剤等が加えられたものであってもよい。
【0019】
なお、上記の穀類は、一般に「シリアル」と総称される素材であって、雑穀等が含まれる。また、上記の種実類には、アーモンド、マカダミアナッツ、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピーナッツ、ピスタチオ、クルミ等のナッツ類や、クリ等が含まれる。また、上記のドライフルーツに係るフルーツ(果物)は、園芸学上の果物だけでなく、需要者に果物として一般に認識されているものを含み、したがって、例えば、イチゴ、バナナ等を含む。
【0020】
また、食品素材同士を結着させる結着剤であるバインダーとして、本実施形態に係るバインダーは、結着作用を有する糖質、および、ゲル化作用を有するゲル化剤を含有している。糖質としては特に限定されず、一例として、単糖類、二糖類、水飴、糖アルコール、オリゴ糖、デキストリン、澱粉等が挙げられる。これらのうち、複数種類がミックスされたものであってもよい。なお、これらの糖質は精製されたものに限定されず、例えば、メープルシロップ、ハチミツ等を用いてもよい。
【0021】
また、ゲル化剤としては、単独でまたは複数種類の組み合わせでゲル化作用を有する多糖類を含有している。このような多糖類としては、一例として、寒天、カラギナン、ペクチン、キサンタンガム、ガラクトマンナン、タマリンドシードガム、グルコマンナン等が挙げられる。なお、ガラクトマンナンは、マンノースの主鎖およびガラクトースの側鎖から構成される多糖類であり、マンノースとガラクトースとの比率(マンノース:ガラクトース)の違いによって分けられる、グアーガム(比率2:1)、タラガム(比率3:1)、ローカストビーンガム(比率4:1)、カシアガム(比率5:1)等が含まれる。これらの多糖類のうち、寒天、カラギナン、ペクチン、タマリンドシードガム、グルコマンナン等は単独でゲル化作用を有し、キサンタンガムやガラクトマンナン等は、例えばカラギナンおよびガラクトマンナン、キサンタンガムおよびガラクトマンナンといった複数種類の組み合わせでゲル化作用を有する。また、カラギナンおよびグルコマンナン、キサンタンガムおよびグルコマンナンのように、適切に組み合わせることで相乗効果を生じて、ゲル化作用がより強まる場合がある。したがって、これらの多糖類のうち、複数種類がミックスされたものであってもよい。
【0022】
つまり、本実施形態に係るゲル化剤は、寒天、カラギナン、ペクチン、キサンタンガム、ガラクトマンナン、タマリンドシードガム、およびグルコマンナン等からなる群より選ばれる少なくとも一種類を含有している。そして、本実施形態に係るバインダーは、当該ゲル化剤のゲル化作用によって、「ゲル状バインダー」すなわち「バインダーゼリー」として製造されることを特徴とする。一例として、ゲル化剤と糖質とを所定量の水に溶き、これを加熱して十分に溶解させた後、または、ゲル化剤を所定量の水に溶き、これを加熱して溶解させたものに糖質を加え十分に溶解させた後、型、袋または固形の容器等に充填し、冷却してゲル化させることで製造される。ゲル化剤、糖質および水を、それぞれ適宜複数回に分けて加えてもよい。これらのゲル化剤や糖質には、市販品を用いればよい。また、ゲル化剤として用いる多糖類は、精製物に限定されず、例えば、グルコマンナンの場合、こんにゃく粉、こんにゃく粉のアルコール洗浄品、高純度の精製品等、いずれの形態(段階)のものを用いてもよい。この場合、精製の程度によってゲル化作用の強さ等が変化しても、適宜配合量を調整することで所望のゲル状バインダーを製造できるが、上記のグルコマンナンについては、これを同配合でこんにゃく粉に置換してもグルコマンナンと同等の発明の効果が発揮されることが確認されており、グルコマンナンとしてこんにゃく粉をそのまま配合(添加)できる。
【0023】
このようにして製造されるバインダーゼリーは、作り置きおよび保存が可能である。そして、予め作り置きまたは保存しておいたバインダーゼリーをそのまま押出機に導入し、押出機内で前述の食品素材と共に加熱混合することで、当該ゲルが混錬され、溶解、崩壊し、バインダーとしての結着作用が発揮され、成形機外に押出すだけで当該食品素材同士を結着させることができる。押出機内の設定温度は限定されないが、一例として、90℃~100℃程度に設定すればよい。さらに、ゲル状バインダーを用いているため、あとは自然冷却によって一定の水分を飛ばす(蒸発させる)だけで、一定の保存性を有する成形食品を製造できる。したがって、簡易な工程且つ小規模な設備でバインダーの連続供給および製品の連続生産が可能になると共に、製造コストを抑えることができる。
【0024】
また、本実施形態に係るバインダーによれば、結着対象である食品素材に対する糖質の比率を低くしても、ゲル化剤の結着作用によって食品素材同士を好適に結着させられ、適度な硬さ(柔らかさ)を有する食感を持った成形食品が実現できる。具体的には、成形食品の糖度をバインダー糖度で70程度まで抑えて、甘味を抑えることができる。また、難溶性のバインダーゼリーを用いることで、ゼリー強度を調整したり、食品素材と混合する際の当該ゲルの溶解、崩壊具合を調整したりして、成形食品をより硬いもしくはより柔らかい食感に仕上げることもでき、食感にバリエーションを持たせることができる。なお、バインダーゼリーのゼリー強度は、例えば適切なゲル化剤を選択し、それらを適切に組み合わせたり、その配合量を適切に調整したりすることで、簡易に調整できる。また、バインダーゼリーの溶解、崩壊具合は、押出機の加熱温度や、スクリューの形状、数、回転数(回転速度)等を適切に調整することで、簡易に調整できる。
【0025】
さらに、本実施形態に係るバインダーによれば、バインダーゼリーとしてゲル化させた状態で食品素材と混合することで、当該ゲルが加熱された食品素材に接触することで溶解し、結着作用を発揮して食品素材同士を結着させることから、結着に必要十分な添加量で済む。一方、従来の澱粉、プルラン等を用いた液状バインダーによれば、余剰な液体が食品素材間の間隙や周囲に流れ込んでしまうため、その分多量に添加する必要が生じる。したがって、バインダー過剰に配合されることで成形食品は甘味が強くなりやすく、食感が硬くなりやすくなる。これに対して、ゲル状バインダーによれば、当該ゲルが食品素材間の間隙に入り込んだり、食品素材の周囲等に残留したりしにくいため、その分少量の添加量で済む。その結果、バインダーが過剰に配合されることでの不具合を防止でき、材料コストも抑えることができる。
【0026】
また、バインダー中に、例えば、ジェランガム、サイリウムシードガム、アラビアガム、澱粉、加工澱粉、サクシノグルカン等の増粘剤を含有させて食感に粘弾性を付与する等、食感にさらなるバリエーションを持たせてもよい。また、目的に応じて、バインダー中に、適宜、調味料、ビタミン、ミネラル、香料、着色料等や、乳化剤、賦形剤等を含有させてもよい。
【0027】
なお、ここでいう押出機は、エクストルーダーに例示される、装置内に導入した原料を所定の温度で加熱しつつ混合しもしくは混錬し、押出し口から装置外に押出す装置のことで、エクストルーダーである場合、一軸型、二軸型の別は限定されない。また、混合時もしくは混錬時において、装置内が適宜圧力調整されるものであってもよい。
【0028】
押出機外に押出された混合物は、本実施形態に係るバインダーによって既に食品素材同士が結着された状態であり、これを、適宜所定の形状・大きさに成形すればよい。本実施形態に係る成形食品の形状および大きさは限定されず、どのような形態に成形してもよく、また、その成形方法も限定されない。一例として、押出機外に押出した混合物をそのまま自然冷却して固めた後、所定の形状・大きさにカットしてもよい(ここでいう「カット」には、型抜きを含む)。または、押出機外に押出した混合物をプレスしたりローラー等で延ばしたりして所定の形状(例えば、一定の厚みを有する板状等)に一次成形してから自然冷却し、その後所定の形状・大きさにカットしてもよい。または、混合物を押出機内から所定形状の型に押出し、そのまま自然冷却することによって成形してもよい。このような方法によって、角棒状(所謂、バー状)、立方体状または直方体状(所謂、ブロック状)、板状(所謂、シート状)等に成形したり、また、その他星形等の特定の形状に成形したりすればよい。
【実施例0029】
糖質およびゲル化剤を含有するバインダーゼリーを製造して、当該バインダーゼリーによって食品素材を結着させて成形食品を製造した。
【0030】
(方法)
バインダーゼリーは、糖質であるグラニュー糖および水飴(酵素糖化水飴)と、ゲル化剤である所定の多糖類と、水とを配合して製造した。グラニュー糖、水飴、多糖類はいずれも市販品を用いた。グラニュー糖の一部とゲル化剤とを混合したものを水に溶き入れ、これを加熱して十分に溶解させた後、残りのグラニュー糖および水飴を加えて煮詰め、設定糖度のバインダー(溶液)を得た後、これを型または袋に充填して冷却し、ゲル化させてバインダーゼリーを得た。
【0031】
また、成形食品は、食品素材である市販のシリアル、アーモンドクランチ、およびダイス状ドライマンゴーと、バインダーゼリーとを配合して製造した。シリアル、アーモンドクランチ、およびダイス状ドライマンゴーをロッキングミキサーで混合して均一にしたものを押出機のホッパーにセットし、押出機内に定量送り出すと共に、バインダーゼリーをポンプによりノズルから押出機内に、食品素材とバインダーとが設定した配合比率になるように調整した定量送り出し、押出機内で加熱混合し、押出機外に押出した。押出機は、機種名:TEX-32F(日本製鋼所製)を用いて、スクリュー構成はストレート形を基本とし、加熱温度は100℃とした。次いで、押出した混合物をベルト上でプレスして板状にし、自然冷却した後、それぞれ20mm×20mm×120mmの形状・大きさにカットした。
【0032】
(測定・評価)
得られたバインダーゼリーのゼリー強度を測定し、得られた成形食品の食品素材同士の結着性および食感を評価した。
【0033】
ゼリー強度
ゼリー強度測定用試料は、得られたバインダー(溶液)を内径45mmの円筒状容器に60g充填し、20℃で15時間静置してゲル化させて作製した。この試料に対して、テクスチャーアナライザ(英弘精機製)を用いて、断面積1cmの円柱状プランジャを20mm/分の速度で試料の深さ20mmまで進入させ、その際の最大応力をゼリー強度とした。
【0034】
結着性
得られた成形食品を密閉包装して室温で1週間保存し、下記の基準で評価した。評価は10名のパネラーが独立して行い、最も多い評価を評価結果とした。
◎:食品素材同士がしっかりと結着し、輸送にも耐え得る強度を持つ。
○:食品素材同士がしっかりと結着しているが、◎に比べると結着が弱く、強い衝撃には欠けや割れが生じる。
△:食品素材同士が結着しているが、〇に比べると結着が弱い。
×:食品素材同士が結着せず、ばらばらで形を留めていない。
【0035】
食感
得られた成形食品を食し、下記の基準で評価した。評価は10名のパネラーが独立して行い、最も多い評価を評価結果とした。
◎:食品素材同士の結着が適度であり、好ましい食感である。
○:やや硬くまたはやや柔らかく◎には劣るが、好ましい食感である。
△:結着の程度は×よりは良いが、やや食感が好ましくない。
×:食品素材同士の結着が強過ぎてまたは弱過ぎて、食感が悪い。
【0036】
(試験1)
ゲル化剤をゼリー強度が異なる複数種類の寒天とし、当該寒天の配合量(単位は、「質量%」。以下同じ)を変化させて、各実施例に係るバインダーゼリーを製造した。寒天を表1に示す各例の配合量、グラニュー糖を35質量%、さらに水飴をバインダー糖度が75になるように調整して配合し、残部を水とした。
一方、ゲル化剤を配合せずに、グラニュー糖および水飴ならびに水を、上記実施例同様に配合して比較例1に係るバインダーを製造した。
また、実施例に係るバインダーゼリーおよび比較例に係るバインダーを用いた成形食品については、シリアルを35質量%、アーモンドクランチを25質量%、ダイス状ドライマンゴーを25質量%、バインダーゼリーを15質量%で、それぞれ配合した。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1に示すように、糖質および水のみからなるバインダー(比較例1)では、糖質の比率が低すぎて食品素材同士を結着させられず(結着性評価:×)、好ましい食感も得られなかった(食感評価:×)。これに対して、寒天を含有させたバインダーゼリー(実施例1~21)では、寒天の種類(ゼリー強度)や配合量に関わらずいずれも優れた結着性および好ましい食感が得られた(結着性評価:〇以上、食感評価:〇以上)。すなわち、バインダーゼリーにおける寒天の配合量を、0.2質量%~1.2質量%とする全範囲で優れた結着性および好ましい食感が得られたが、特に0.4質量%~0.8質量%の範囲では、より優れた効果が発揮された。このように、ゲル化剤を含有させたバインダーゼリーによれば、優れた結着性および適度な硬さ(柔らかさ)の好ましい食感を有する成形食品が実現できると共に、ゲル化剤の種類を適切に選択し、またはその配合量を適切に調整することで、より硬いもしくはより柔らかい食感に仕上げることもできる。
【0039】
(試験2)
ゲル化剤をゼリー強度30の寒天とし、水飴の配合量を変化させて各実施例に係る糖度が異なるバインダーゼリーを製造した。寒天を0.8質量%、グラニュー糖を35質量%、さらに水飴をバインダー糖度が表2に示す各例の通りになるように調整して配合し、残部を水とした。
また、実施例に係るバインダーゼリーを用いた成形食品については、試験1と同じ配合とした。結果を表2に示す(実施例3を再掲する)。
【0040】
【表2】
【0041】
試験1では、糖質の配合量が少なく(糖度75)食品素材同士を結着させられないバインダーであっても、これにゲル化剤である寒天を含有させることで食品素材同士を好適に結着できることが示されたが(実施例3)、試験2では、表2に示すように、当該寒天を含有させたバインダーゼリーによれば、糖質の配合量をさらに少なくしても食品素材同士を好適に結着できることが示された。具体的には、バインダー糖度を71にした場合(実施例24)であっても、優れた結着性(結着性評価:〇)および好ましい食感(食感評価:〇)が得られた。全体の結果から、バインダー糖度としては70~85の範囲が好適である。
【0042】
(試験3)
ゲル化剤を、寒天以外でゲル化作用を有する様々な多糖類とし、それぞれ所定の配合量を配合して各実施例に係るバインダーゼリーを製造した。多糖類を表3に示す各例の配合量、グラニュー糖を35質量%、さらに水飴をバインダー糖度が75になるように調整して配合し、残部を水とした。ただし、実施例35は、タマリンドシードガムを表3に示す0.5質量%、グラニュー糖を35質量%、さらに水飴をバインダー糖度が50になるように調整して配合し、残部を水とした。
一方、比較例2としてゲル化剤である多糖類に代えてゼラチンを、比較例3としてゲル化剤である多糖類に代えてプルランを、それぞれ表3に示す各例の配合量で配合し、また、グラニュー糖および水飴ならびに水を、上記実施例同様に配合して各比較例に係るバインダーを製造した(糖度:75)。なお、比較例2に係るゼラチンはゲル状バインダーに製造され、比較例3に係るプルランは液状バインダーに製造された。
また、実施例に係るバインダーゼリーおよび比較例に係るバインダーを用いた成形食品については、試験1と同じ配合とした。結果を表3に示す。
【0043】
【表3】
【0044】
表3に示すように、寒天以外でゲル化作用を有する多糖類をゲル化剤として含有させた各バインダーゼリー(実施例30~35)についても、いずれも優れた結着性(接着性評価:〇以上)および適度な硬さ(柔らかさ)の好ましい食感(食感評価:〇)が得られた。特にゲル化剤をタマリンドシードガムとしたバインダーゼリーによれば(実施例35)、糖質の配合量を少なくしてバインダー糖度を50にした場合であっても、食品素材同士を好適に結着できた。試験1および試験3の結果から、バインダーゼリーにおけるゲル化剤の配合量としては、0.2質量%~1.2質量%の範囲が好適で、より好ましくは0.4質量%~1.0質量%、さらに好ましくは0.4質量%~0.8質量%が好適である。
【0045】
(試験4)
ゲル化剤をゼリー強度30の寒天とし、当該寒天を0.8質量%、グラニュー糖を35質量%、さらに水飴をバインダー糖度が75になるように調整して配合し、残部を水として、バインダーゼリー製造した。当該バインダーゼリーを用い、表4に示す各例の通りの配合で、食品素材とバインダーゼリーとの配合比率を変化させて、成形食品を製造した。結果を表4に示す(実施例3を再掲する)。
【0046】
【表4】
【0047】
表4に示すように、バインダーゼリーの配合量が10質量%以上の成形食品(実施例37~41、実施例3)で、優れた結着性が得られた(結着性評価:〇以上)。また、バインダーゼリーの配合量が35質量%以下の成形食品(実施例36~40、実施例3)で、適度な硬さ(柔らかさ)の好ましい食感が得られた(食感評価:〇以上)。全体の結果から、成形食品におけるバインダーゼリーの配合量としては、7質量%~40質量%の範囲が好適で、より好ましくは10質量%~35質量%の範囲が好適である。なお、バインダーゼリーの配合量が45質量%以上(実施例41)になると、糖質の配合量が多くなり糖度が高くなるため、甘味が強くなった。