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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068951
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】赤外LED素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/44 20100101AFI20230511BHJP
【FI】
H01L33/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180435
(22)【出願日】2021-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉山 徹
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 和幸
(72)【発明者】
【氏名】新森 辰則
【テーマコード(参考)】
5F241
【Fターム(参考)】
5F241AA34
5F241CA05
5F241CA65
5F241CA74
5F241CA93
5F241CB11
5F241CB15
(57)【要約】
【課題】湿度の高い環境下に設置された場合であっても、動作電圧の上昇を招きにくい赤外LED素子を提供する。
【解決手段】ピーク発光波長が1000nm以上を示す赤外LED素子であって、支持基板と、支持基板の上層に配置されたp型又はn型の第一半導体層と、第一半導体層の上層に配置された活性層と、活性層の上層に配置され第一半導体層とは異なる導電型の第二半導体層と、第二半導体層の上面に接触して配置されたコンタクト電極と、コンタクト電極の上面に接触して配置されたパッド電極と、コンタクト電極と第二半導体層との接触領域の外側の位置において第二半導体層の上面に接触して配置された保護層とを備え、支持基板の主面に直交する方向から見てコンタクト電極と保護層とが重なりを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピーク発光波長が1000nm以上を示す赤外LED素子であって、
支持基板と、
前記支持基板の上層に配置されたp型又はn型の第一半導体層と、
前記第一半導体層の上層に配置された活性層と、
前記活性層の上層に配置され前記第一半導体層とは異なる導電型の第二半導体層と、
前記第二半導体層の上面に接触して配置されたコンタクト電極と、
前記コンタクト電極の上面に接触して配置されたパッド電極と、
前記コンタクト電極と前記第二半導体層との接触領域の外側の位置において、前記第二半導体層の上面に接触して配置された保護層とを備え、
前記支持基板の主面に直交する方向から見て、前記コンタクト電極と前記保護層とが重なりを有することを特徴とする、赤外LED素子。
【請求項2】
前記保護層及び前記コンタクト電極の一方は、他方の一部上面に乗り上がるように配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の赤外LED素子。
【請求項3】
前記保護層は、前記第二半導体層の上面と前記コンタクト電極の上面とを連絡するように配置されていることを特徴とする、請求項2に記載の赤外LED素子。
【請求項4】
前記パッド電極は、前記コンタクト電極の上面に乗り上げられた前記保護層の領域の上面に配置されていることを特徴とする、請求項3に記載の赤外LED素子。
【請求項5】
前記コンタクト電極は、前記第二半導体層の上面と前記保護層の上面とを連絡するように配置されていることを特徴とする、請求項2に記載の赤外LED素子。
【請求項6】
前記パッド電極の電極幅は、前記コンタクト電極の電極幅と同等以下であることを特徴とする、請求項5に記載の赤外LED素子。
【請求項7】
前記保護層は、前記第二半導体層の上面のうち、前記コンタクト電極が形成されていない領域の全面を覆うように配置されていることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の赤外LED素子。
【請求項8】
前記保護層は、SiO2、SiN、Al23、及びAlNからなる群に属する1種以上を含むことを特徴とする、請求項7に記載の赤外LED素子。
【請求項9】
前記第二半導体層は、InP、GaInAsP、AlGaInAs、GaInAs、及びAlInAsからなる群に属する1種以上を含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の赤外LED素子。
【請求項10】
前記コンタクト電極は、前記第二半導体層の構成材料とGeとを含む合金であることを特徴とする、請求項9に記載の赤外LED素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外LED素子に関し、特にピーク発光波長が1000nm以上の赤外LED素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、波長1000nm以上の赤外領域を発光波長とする半導体発光素子は、防犯・監視カメラ、ガス検知器、医療用のセンサ、又は産業機器等の用途で幅広く用いられている。
【0003】
発光波長が1000nm以上の半導体発光素子は、例えば、以下の手順で製造される(下記特許文献1参照)。すなわち、成長基板としてのInP基板上に、InP基板に格子整合する、第一導電型の半導体層、活性層(「発光層」と称されることもある。)、及び第一導電型とは異なる第二導電型の半導体層を順次エピタキシャル成長させる。その後、半導体ウェハ上に電流注入のための電極を形成し、チップ状に切断して製造される。
【0004】
半導体発光素子の製造手順として、以下の方法も知られている(下記特許文献2参照)。すなわち、成長基板上にLED構造のエピタキシャル半導体層を結晶成長させてLEDウェハを作製する。次に、このLEDウェハを高反射膜を介して導電性の支持基板に接合する。その後、成長基板を薄膜化するか、又は完全に除去する。ただし、特許文献2に記載された発光素子の発光波長は、1000nmよりも短い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6617218号公報
【特許文献2】特開2012-129357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来のLED素子において、素子の上面を誘電体からなる保護層で覆うことは知られている。この保護層は、半導体層と大気との間の屈折率差を縮小することで全反射を抑制して光出力を向上させる目的や、素子の表面に異物等が付着するのを防止して突発故障を抑制する目的で、形成される。
【0007】
しかし、本発明者の鋭意研究によれば、素子の上面を覆うように保護層を設けてなる、ピーク発光波長が1000nm以上の赤外LED素子を作製し、高湿下での保管試験を行ったところ、動作電圧(順方向電圧)が上昇するという新規な現象が確認された。この点については、図4を参照して後述される。
【0008】
更に、本発明者は、AlGaAsを主材料とする可視光(赤色)のLED素子を作製して、同様の試験を行ったところ、動作電圧の上昇を確認できなかった。つまり、高湿下で保管することで動作電圧が上昇するという現象は、ピーク発光波長が1000nm以上の赤外LED素子に特有の課題であると結論付けられる。
【0009】
上記の事実は、保護膜を設けた状態で作製されたピーク発光波長が1000nm以上の赤外LED素子を、防犯・監視カメラ等の上述した用途で利用した場合、同素子が搭載された装置の設置環境によっては、動作電圧が上昇したり不点灯になる可能性を示唆する。
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑み、湿度の高い環境下に設置された場合であっても、動作電圧の上昇を招きにくい赤外LED素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る赤外LED素子は、ピーク発光波長が1000nm以上を示す赤外LED素子であって、
支持基板と、
前記支持基板の上層に配置されたp型又はn型の第一半導体層と、
前記第一半導体層の上層に配置された活性層と、
前記活性層の上層に配置され前記第一半導体層とは異なる導電型の第二半導体層と、
前記第二半導体層の上面に接触して配置されたコンタクト電極と、
前記コンタクト電極の上面に接触して配置されたパッド電極と、
前記コンタクト電極と前記第二半導体層との接触領域の外側の位置において、前記第二半導体層の上面に接触して配置された保護層とを備え、
前記支持基板の主面に直交する方向から見て、前記コンタクト電極と前記保護層とが重なりを有することを特徴とする。
【0012】
本発明者は、高湿試験によって動作電圧が上昇した素子を分析及び検討したところ、電極(より詳細にはコンタクト電極)の一部が剥離していることを確認した。コンタクト電極の一部が半導体層から剥離すると、両者の密着性が低下するため、コンタクト抵抗が上昇する。つまり、電極の剥離が、動作電圧が上昇した直接的な原因であると考えられる。
【0013】
電極が剥離した理由として、本発明者は、高湿環境下で電極の一部が酸化した結果、半導体層に対する電極の密着性が低下したことに起因するものと推察している。
【0014】
赤外LED素子は、半導体層の上面に接触したコンタクト電極と、コンタクト電極の上面にボンディングワイヤが接続されるパッド電極とを有する。上述したように、半導体層の上面には保護層が設けられる。より詳細には、コンタクト電極が形成されていない半導体層の上面に保護層が設けられる。
【0015】
保護層を成膜する際には、フォトリソグラフィ技術とエッチング技術が用いられる。例えば、半導体層の上面にコンタクト電極を成膜後、半導体層の上面とコンタクト電極の上面を含む全面に保護層が成膜される。その後、コンタクト電極の上面の保護層がエッチングによって除去されることで、コンタクト電極の上面が露出される。その後、露出したコンタクト電極の上面にパッド電極が形成される。
【0016】
上記エッチング処理においては、不要な領域の形成膜を除去するために、パターニングされたフォトマスクが用いられる。エッチング処理は、コンタクト電極の上面を露出させる目的で行われるため、マスク幅はコンタクト電極の幅に対応して設計される。しかし、マスク幅は、加工精度及び設計誤差を考慮して、コンタクト電極の幅に対して余裕を持たせた状態で設計される。つまり、マスク幅は、コンタクト電極の幅よりも少し大きく設計される。
【0017】
このようなマスクを用いてエッチングが行われることで、エッチング後に露出するコンタクト電極と、保護層との間には、微小な隙間が生じる(図11参照)。図11は、隙間80を誇張表記した、赤外LED素子90の一部構造の模式的な断面図である。赤外LED素子90は、半導体層81の上面に、コンタクト電極82と、保護層83と、パッド電極84とを備える。なお、図11は、半導体層81について図示が簡素化されているが、実際には、n型半導体層とp型半導体層と、これらの半導体層の間に挟まれた活性層を含む。
【0018】
図11に示す赤外LED素子90によれば、コンタクト電極82と保護層83との間に、半導体層81が露出している領域(隙間80)が確認される。半導体層81とコンタクト電極82とが接触する界面には、コンタクト電極82の材料と半導体層81の材料とを含む合金が形成されている。図11には、合金化されている領域が模式的にハッチングされている(領域82a)。この結果、隙間80の端部の位置において、合金化されている領域82aが露出する。以上の見地から、湿度の高い水蒸気が、隙間80を通じて合金化された領域82a内に入り込むことで、半導体層81と接触するコンタクト電極82の一部が酸化し、コンタクト電極82が剥離する現象が生じたものと推察される。
【0019】
なお、上記の説明では、半導体層81の上面にコンタクト電極82を成膜した後、半導体層81の上面とコンタクト電極82の上面を含む全面に保護層83を成膜し、その後に保護層83をエッチングする製造手順を例に挙げた。しかし、半導体層81の上面に保護層83を成膜した後、半導体層81の上面と保護層83の上面を含む全面にコンタクト電極82の材料を成膜し、その後に電極材料をエッチングしてコンタクト電極82を形成する場合においても、同様の理由により、コンタクト電極82と保護層83との間に隙間80が形成され得る。
【0020】
これに対し、本発明の赤外LED素子によれば、支持基板の主面に直交する方向から見て、コンタクト電極と保護層とが重なりを有するように構成されている。このため、コンタクト電極と第二半導体層との接触領域が露出されることがない。つまり、高湿環境下に設置されても、湿度の高い空気(水蒸気)がコンタクト電極と第二半導体層との接触領域に入り込みにくく、電極の剥離が抑制される。
【0021】
なお、ピーク発光波長が1000nm以上を示す赤外LED素子は、半導体層にInが含まれる。赤外LED素子に含まれる材料としては、Al、Ga、In、As、P、Au、Ge、及びNi等が考えられるが、これらの材料の中では、Inが最もイオン化エネルギーが低く酸化しやすい。よって、Inを含む半導体材料が電極材料と合金化することで酸化の影響を強く受けやすくなり、動作電圧が上昇するという課題が発現化したものと推察される。このことは、上述したように、AlGaAsを主成分とする赤色LED素子においては、動作電圧が上昇するという課題が発現化しなかったことにも整合する。
【0022】
本発明は、ピーク発光波長が1000nm以上を示す赤外LED素子において、支持基板の主面に直交する方向から見て、コンタクト電極と保護層とが重なりを有するように構成されている。つまり、本発明によれば、ピーク発光波長が1000nm以上を示す赤外LED素子という、高湿環境下で動作電圧が上昇しやすい素子において、合金化領域への水蒸気の流入を防ぎ、電極の剥離を抑制する効果が奏される。
【0023】
前記保護層及び前記コンタクト電極の一方は、他方の一部上面に乗り上がるように配置されていても構わない。
【0024】
これによれば、コンタクト電極と第二半導体層との接触領域の外周を、保護層によって確実に覆うことができる。
【0025】
前記保護層は、前記第二半導体層の上面と前記コンタクト電極の上面とを連絡するように配置されていても構わない。
【0026】
この構成によれば、コンタクト電極と第二半導体層との接触領域の幅を、コンタクト電極の電極幅と同等にすることができ、動作電圧の上昇を更に招来しにくい。
【0027】
前記パッド電極は、前記コンタクト電極の上面に乗り上げられた前記保護層の領域の上面に配置されていても構わない。
【0028】
この構成によれば、パッド電極の電極幅を、コンタクト電極の電極幅と同等とした場合であっても、パッド電極のほぼ全面をワイヤボンディング領域として利用できる。
【0029】
前記コンタクト電極は、前記第二半導体層の上面と前記保護層の上面とを連絡するように配置されていても構わない。
【0030】
前記パッド電極の電極幅は、前記コンタクト電極の電極幅と同等以下であるものとしても構わない。
【0031】
前記保護層は、前記第二半導体層の上面のうち、前記コンタクト電極が形成されていない領域の全面を覆うように配置されていても構わない。この場合において、前記保護層は、SiO2、SiN、Al23、及びAlNからなる群に属する1種以上を含むものとしても構わない。
【0032】
前記第二半導体層は、InP、GaInAsP、AlGaInAs、GaInAs、及びAlInAsからなる群に属する1種以上を含むものとしても構わない。
【0033】
前記コンタクト電極は、前記第二半導体層の構成材料とGeとを含む合金であるものとしても構わない。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、湿度の高い環境下に設置された場合であっても、動作電圧が上昇しにくい赤外LED素子が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】赤外LED素子の第一実施形態の構成を模式的に示す断面図である。
図2図1の一部拡大図である。
図3A図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図3B図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、別の一工程における断面図である。
図3C図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、別の一工程における断面図である。
図3D図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、別の一工程における断面図である。
図3E図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、別の一工程における断面図である。
図3F図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、別の一工程における断面図である。
図3G図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、別の一工程における断面図であり、一部分が模式的に拡大表示されている。
図3H図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、別の一工程における断面図であり、一部分が模式的に拡大表示されている。
図4】実施例1と比較例1の各素子を高湿環境下で保管したときの、保管時間と順方向電圧の変動率との関係を示すグラフである。
図5】赤外LED素子の第二実施形態の構成の一部拡大図であり、図2にならって図示されている。
図6】赤外LED素子の第三実施形態の構成の一部拡大図であり、図2にならって図示されている。
図7A】第三実施形態の赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図であり、一部分が模式的に拡大表示されている。
図7B】第三実施形態の赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図であり、一部分が模式的に拡大表示されている。
図8】赤外LED素子の第四実施形態の構成の一部拡大図であり、図2にならって図示されている。
図9】赤外LED素子の別実施形態の構成を模式的に示す断面図である。
図10図9の一部拡大図である。
図11】従来の赤外LED素子の構造の一部断面図であり、一部分が誇張して図示されている。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明に係る赤外LED素子の各実施形態につき、図面を参照して説明する。以下の各図面は模式的に示されたものであり、図面上の寸法比と実際の寸法比とは必ずしも一致しない。また、図面間においても寸法比が一致していない場合がある。
【0037】
本明細書において、「ある層Q1の上層に別の層Q2が形成されている」という表現は、層Q1の面上に直接層Q2が形成されている場合はもちろん、層Q1の面上に薄膜を介して層Q2が形成されている場合も含む意図である。なお、ここでいう「薄膜」とは、膜厚20nm以下の層を指し、好ましくは10nm以下の層を指すものとして構わない。なお、この段落内で用いた符号Q1、Q2は、一般的な層を指し示す符号として用いられており、図面内に登場するものではない。
【0038】
本明細書において、「GaInAsP」という記述は、GaとInとAsとPの混晶であることを意味し、組成比の記述を単に省略して記載したものである。「AlGaInAs」等の他の記載も同様である。
【0039】
[第一実施形態]
図1は、第一実施形態の赤外LED素子の構造を模式的に示す断面図である。図1に示す赤外LED素子1は、支持基板11の上層に配置された半導体積層体20を備える。図1は、所定の位置においてXY平面に沿って赤外LED素子1を切断したときの模式的な断面図に対応する。以下の説明では、適宜、図1に付されたX-Y-Z座標系が参照される。
【0040】
以下の説明では、方向を表現する際に正負の向きを区別する場合には、「+X方向」、「-X方向」のように、正負の符号を付して記載される。また、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「X方向」と記載される。すなわち、本明細書において、単に「X方向」と記載されている場合には、「+X方向」と「-X方向」の双方が含まれる。Y方向及びZ方向についても同様である。以下の例では、支持基板11の主面がXZ平面に平行であり、その法線方向(Y方向)に光が取り出されるものとして説明される。
【0041】
赤外LED素子1は、半導体積層体20内(特に後述される活性層25内)で、赤外光Lを生成する。より詳細には、図1に示すように、赤外光L(L1,L2)は、活性層25を基準としたときに+Y方向に取り出される。赤外光Lは、ピーク波長が1000nm以上である。なお、ここでいうピーク波長とは、光スペクトルにおいて光出力が最も高い波長に対応する。つまり、赤外LED素子1は、ピーク発光波長が1000nm以上の素子である。
【0042】
〈素子構造〉
以下、赤外LED素子1の構造について詳細に説明する。ただし、以下の説明における各層の膜厚や組成については典型的な一例であり、本発明はこれらの数値に限定されるものではない。
【0043】
(支持基板11)
支持基板11は、例えばSi又はGe等の半導体や、Cu又はCuW等の金属材料で構成される。支持基板11が半導体からなる場合には、導電性を示すように高濃度にドーパントがドープされているものとして構わない。一例として、支持基板11は、ホウ素(B)が1×1019/cm3以上のドーパント濃度でドープされた、抵抗率が10mΩcm以下のSi基板である。ドーパントとしては、ホウ素(B)以外には、例えば、リン(P)、砒素(As)、アンチモン(Sb)等が利用できる。高い放熱性と低い製造コストとを両立する観点からは、支持基板11としてはSi基板が好適に用いられる。
【0044】
支持基板11の厚み(Y方向に係る長さ)は、特に限定されないが、例えば50μm~500μmであり、好ましくは100μm~300μmである。
【0045】
(導電層16)
図1に示す赤外LED素子1は、支持基板11の上層に形成された導電層16を備える。本実施形態において、導電層16は、より詳細には接合層13と反射層15を含む。
【0046】
接合層13は低融点のハンダ材料からなり、例えばAu、Au-Zn、Au-Sn、Au-In、Au-Cu-Sn、Cu-Sn、Pd-Sn、Sn等で構成される。図3Eを参照して後述されるように、この接合層13は、半導体積層体20が上面に形成された成長基板3と、支持基板11とを貼り合わせるために利用される。接合層13の厚みは、特に限定されないが、例えば0.5μm~5.0μmであり、好ましくは1.0μm~3.0μmである。
【0047】
反射層15は、活性層25内で生成された赤外光Lのうち、支持基板11側(-Y方向)に進行する赤外光L2を反射させて、+Y方向に導く機能を奏する。反射層15は、導電性材料であって、且つ、赤外光Lに対して高い反射率を示す材料で構成される。反射層15の赤外光Lに対する反射率は、70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのが特に好ましい。
【0048】
赤外光Lのピーク波長が1000nm~2000nmである場合、反射層15はAg、Ag合金、Au、Al、Cu等の金属材料を用いることができる。反射層15を構成する材料は、活性層25で生成される光の波長に応じて適宜選択される。
【0049】
反射層15の厚みは、特に限定されないが、例えば0.1μm~2.0μmであり、好ましくは0.3μm~1.0μmである。
【0050】
図1では図示しないが、導電層16は、反射層15と接合層13との間に、接合層13を構成するハンダ材料の拡散を抑制するためのバリア層を更に含むものとしても構わない。バリア層の材料としては、例えば、Ti、Pt、W、Mo、Ni等を含む材料で実現できる。一例として、Ti/Pt/Auの積層体で構成される。バリア層の厚みは、特に限定されないが、例えば0.05μm~3μmであり、好ましくは0.2μm~1μmである。このバリア層が介在することで、接合層13の材料が反射層15側に拡散して反射層15の反射率が低下するのを防止できる。バリア層は、接合層13と支持基板11との間にも設けられていても構わない。
【0051】
光取り出し効率を向上させる観点からは、図1に示すように、赤外LED素子1が反射層15を備えるのが好適であるが、本発明において、赤外LED素子1が反射層15を備えるか否かは任意である。
【0052】
(絶縁層17)
図1に示す赤外LED素子1は、反射層15の上層に形成された絶縁層17を備える。絶縁層17は、電気的絶縁性を示し、且つ赤外光Lに対する透過性の高い材料で構成される。絶縁層17の赤外光Lに対する透過率は、70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのが特に好ましい。
【0053】
赤外光Lのピーク波長が1000nm~2000nmである場合においては、絶縁層17はSiO2、SiN、Al23、AlN等の材料を用いることができる。絶縁層17の材料は、活性層25で生成される光の波長に応じて適宜選択される。
【0054】
(半導体積層体20)
図1に示す赤外LED素子1は、絶縁層17の上層に形成された半導体積層体20を有する。半導体積層体20は複数の半導体層の積層体であり、第一半導体層23と、活性層25と、第二半導体層27とを含む。半導体積層体20を構成する各半導体層は、後述される成長基板3と格子整合してエピタキシャル成長が可能な材料で構成される。
【0055】
《第一半導体層23》
第一半導体層23は、例えばp型の半導体層である。第一半導体層23は、支持基板11に近い領域に配置され相対的なドーパント濃度が高いコンタクト層(以下、便宜上「第一コンタクト層」という。)と、活性層25に近い領域に配置され第一コンタクト層よりも相対的なドーパント濃度が低いクラッド層(以下、便宜上「第一クラッド層」という。)とを含むものとしてもよい。
【0056】
この場合、第一コンタクト層は例えばp型のGaInAsPで構成される。第一コンタクト層の厚みは限定されないが、例えば、10nm~1000nmであり、好ましくは50nm~500nmである。また、第一コンタクト層のp型ドーパント濃度は、好ましくは5×1017/cm3~3×1019/cm3であり、より好ましくは、1×1018/cm3~2×1019/cm3である。
【0057】
第一半導体層23に含まれる第一クラッド層は、第一コンタクト層の上層に形成されており、例えばp型のInPで構成される。第一クラッド層の厚みは限定されないが、例えば、1000nm~10000nmであり、好ましくは2000nm~5000nmである。第一クラッド層のp型ドーパント濃度は、活性層25から離れた位置において、好ましくは1×1017/cm3~3×1018/cm3であり、より好ましくは、5×1017/cm3~3×1018/cm3である。
【0058】
第一半導体層23に含まれるp型ドーパントとしては、Zn、Mg、Be等を利用することができ、Zn又はMgが好ましく、Znが特に好ましい。
【0059】
《活性層25》
本実施形態において、活性層25は、第一半導体層23の上層に形成された半導体層である。活性層25の材料は、狙いとする波長の光を生成可能であり、且つ図3Aを参照して後述される成長基板3と格子整合してエピタキシャル成長が可能な材料から適宜選択される。
【0060】
ピーク波長が1000nm~2000nmの赤外光Lを出射する赤外LED素子1を実現したい場合、活性層25は、GaInAsP、AlGaInAs、又はInGaAsの単層構造としても構わないし、GaInAsP、AlGaInAs、又はInGaAsからなる井戸層と、井戸層よりもバンドギャップエネルギーの大きいGaInAsP、AlGaInAs、InGaAs、又はInPからなる障壁層とを含むMQW(Multiple Quantum Well:多重量子井戸)構造としても構わない。
【0061】
活性層25の膜厚は、活性層25が単層構造の場合は、50nm~2000nmであり、好ましくは、100nm~300nmである。また、活性層25がMQW構造の場合は、膜厚5nm~20nmの井戸層及び障壁層が、2周期以上50周期以下の範囲で積層されて構成される。
【0062】
活性層25は、n型又はp型にドープされていても構わないし、アンドープでも構わない。n型にドープされる場合には、ドーパントとしては、例えばSiを利用できる。
【0063】
《第二半導体層27》
本実施形態において、第二半導体層27は、活性層25の上層に配置されている。第二半導体層27は、活性層25に近い領域に配置され相対的なドーパント濃度が低いクラッド層(以下、便宜上「第二クラッド層」という。)と、活性層25に遠い領域に配置され第二クラッド層よりも相対的なドーパント濃度が高いコンタクト層(以下、便宜上「第二コンタクト層」という。)とを含むものとしてもよい。
【0064】
第二半導体層27に含まれる第二クラッド層は、例えばn型のInPである。第二クラッド層の厚みは限定されないが、例えば100nm~10000nmであり、好ましくは、500nm~5000nmである。第二クラッド層のn型ドーパント濃度は、好ましくは1×1017/cm3~5×1018/cm3であり、より好ましくは、5×1017/cm3~4×1018/cm3である。第二クラッド層にドープされるn型不純物材料としては、Sn、Si、S、Ge、Se等を利用することができ、Siが特に好ましい。
【0065】
第二半導体層27に含まれる第二コンタクト層は、例えばn型のInPである。第二コンタクト層の厚みは限定されないが、例えば10nm~1000nmであり、好ましくは、50nm~500nmである。第二コンタクト層のn型ドーパント濃度は、好ましくは5×1017/cm3~1×1019/cm3であり、より好ましくは、1×1018/cm3~5×1018/cm3である。
【0066】
図1に示す例では、第二半導体層27の+Y側の表面に凹凸部50が形成されている。凹凸部50が形成されることで、活性層25から+Y方向に進行した赤外光L(L1,L2)が第二半導体層27の表面で活性層25側に反射される光量が低下され、光取り出し効率が高められる。ただし、本発明において、第二半導体層27の表面に凹凸部50を設けるか否かは任意である。
【0067】
第一半導体層23及び第二半導体層27の材料は、活性層25で生成された赤外光Lを吸収しない材料であって、且つ、成長基板3(後述する図3A参照)と格子整合してエピタキシャル成長が可能な材料から適宜選択される。成長基板3としてInP基板を採用する場合には、第一半導体層23及び第二半導体層27の材料は、InPの他、GaInAsP、AlGaInAs、GaInAs、AlInAs等を利用することが可能である。
【0068】
本実施形態では、第一半導体層23がp型半導体であり、第二半導体層27がn型半導体であるものとして説明されるが、両者の導電型が逆転しても構わない。
【0069】
(内部電極31)
図1に示す赤外LED素子1は、絶縁層17内の複数の箇所においてY方向に貫通して形成された、内部電極31を有する。内部電極31は、第一半導体層23と、導電層16とを電気的に接続する。内部電極31は、XZ平面に平行な方向(すなわち、支持基板11の主面に平行な方向)に分散した複数の位置に設けられている。
【0070】
内部電極31は、第一半導体層23(より詳細には第一コンタクト層)に対してオーミック接続の形成が可能な材料で構成されている。一例として、内部電極31は、AuZn、AuBe、又は少なくともAuとZnを含む積層構造(例えばAu/Zn/Au等)で構成される。
【0071】
この内部電極31は、支持基板11の主面に平行な方向(XZ方向)に関して、活性層25内の広い範囲にわたって均質に電流を流す目的で設けられている。かかる観点から、内部電極31はXZ平面に沿った面方向に規則的な形状を有して分散した状態で配置されるのが好ましい。ただし、本発明において、Y方向に見た場合の内部電極31の配置パターンの形状は任意であるし、更にいえば赤外LED素子1が内部電極31を備えるか否かも任意である。内部電極31を備えない場合は、例えば絶縁層17を備えずに、導電層16を直接第一半導体層23に接触させてもよい。
【0072】
(裏面電極33)
図1に示す赤外LED素子1は、支持基板11の半導体積層体20とは反対側(-Y側)の面上に形成された、裏面電極33を備える。裏面電極33は支持基板11に対してオーミック接触が実現されている。裏面電極33は、一例として、Ti/Au、Ti/Pt/Au等の材料で構成され、これらの材料を複数備えるものとしても構わない。
【0073】
(保護層37)
図1に示す赤外LED素子1は、半導体積層体20の側面と上面を覆うように配置された保護層37を備える。保護層37は、半導体積層体20に対して異物が付着したり、水分が流入するのを防止する目的で設けられている。
【0074】
図1に示すように、保護層37が半導体積層体20の上面を覆うように配置される場合は、保護層37は、絶縁層17と同様に、電気的絶縁性を示し、且つ赤外光Lに対する透過性の高い材料で構成される。保護層37の赤外光Lに対する透過率は、70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのが特に好ましい。
【0075】
赤外光Lのピーク波長が1000nm~2000nmである場合においては、保護層37はSiO2、SiN、Al23、AlN等の材料を用いることができ、この中では相対的にガスバリア性の高いSiN、又はSiO2がより好ましい。保護層37は、絶縁層17と同種の材料であっても構わない。
【0076】
保護層37は、後述するパッド電極42の上面を露出するように設けられている。そして、本実施形態の赤外LED素子1においては、保護層37の一部が、後述するコンタクト電極41の上面に位置している。この点に関しては、図2を参照して後述される。
【0077】
保護層37の膜厚は任意であるが、例えば、100nm~1000nmである。ただし、図1に示すように、保護層37が半導体積層体20の上面を覆うように配置されている場合には、保護層37の膜厚を、赤外光Lの主発光波長をλとし、保護層37の屈折率をnとしたときに、(2k-1)×λ/(4n)(ただし、kは自然数である。)に設定するのが好適である。このような膜厚で保護層37を形成することで、保護層37を通過した赤外光L1を干渉により強め合うことができる。
【0078】
(コンタクト電極41)
図1に示す赤外LED素子1は、第二半導体層27の上面に接触して配置されたコンタクト電極41を有する。コンタクト電極41は、第二半導体層27との間で電気的な接続を確保する電極である。
【0079】
図示は省略されるが、コンタクト電極41は、例えば半導体積層体20の辺に沿うように、X方向及びZ方向に複数本が延在する構成が採用される。これにより、支持基板11の主面に平行な方向(XZ方向)に関して、活性層25内の広い範囲にわたって均質に電流を流すことができる。また、複数本を延在させることで、コンタクト電極41の下層に位置する半導体積層体20(ここでは第二半導体層27)の面を露出できるため、遮光領域の面積を小さくすることができる。ただし、本発明において、コンタクト電極41のパターン形状は任意である。
【0080】
一例として、コンタクト電極41は、X方向及びZ方向のうちの一方向には1本が延在し、他の方向には複数本が延在する構成であっても構わない。別の例として、コンタクト電極41は、X方向及びZ方向の双方に1本が延在する構成であっても構わない。更に別の例として、コンタクト電極41は、X方向及びZ方向に対して非平行な方向に延在する構成であっても構わない。更に別の例として、コンタクト電極41は、半導体積層体20の上面(+Y側の面)に、アイランド状に1箇所又は複数箇所に配置されていても構わない。
【0081】
コンタクト電極41は、一例として、AuGe/Ni/Au、又はAu/Ge/Au等の材料で構成され、これらの材料を複数備えるものとしても構わない。
【0082】
(パッド電極42)
図1に示す赤外LED素子1は、コンタクト電極41の上面に接触して配置されたパッド電極42を有する。パッド電極42は、給電のためのボンディングワイヤを接触させる領域を確保する目的で設けられている。パッド電極42は、例えばTi/Au、Ti/Pt/Au等で構成される。なお、本実施形態の赤外LED素子1においては、パッド電極42は、コンタクト電極41の上面41aに乗り上げられた保護層37の上面37aの一部にも接触している(後述する図2参照)。
【0083】
典型的な例として、パッド電極42は、例えば半導体積層体20の各辺(チップサイズ)が800μm~2500μm程度である場合に、内径90μm~120μm程度の円形状を呈する。このとき、コンタクト電極41の線幅は10μm~30μm程度である。チップサイズが800μmを超える高出力型の赤外LED素子1においては、高い電流を注入する観点から、パッド電極42を複数箇所に設けるものとしてもよい。
【0084】
Y方向に見たときに、コンタクト電極41及びパッド電極42(以下、便宜上「上部電極」と総称する。)の専有面積は、好ましくは第二半導体層27の占有面積の20%以下であり、より好ましくは15%以下である。上部電極の専有面積が高くなりすぎると、光取り出し面の面積が低下してしまうため、光取り出し効率が低下する可能性がある。
【0085】
〈コンタクト電極41と保護層37との位置関係〉
図2は、図1から、コンタクト電極41の近傍(領域A1)を拡大した図面である。
【0086】
図2に示すように、本実施形態の赤外LED素子1においては、保護層37の一部がコンタクト電極41の上面41aに乗り上がるような態様で配置されている。すなわち、保護層37は、第二半導体層27の上面27aと、コンタクト電極41の上面41aとを連絡するように配置されている。この結果、Y方向(支持基板11の主面に直交する方向)に見たときに、コンタクト電極41と保護層37とは重なりを有している。
【0087】
コンタクト電極41の形成に際しては、後述されるように、電極材料を蒸着した後に加熱工程(アニール工程)が行われる。このとき、コンタクト電極41と第二半導体層27との界面において、コンタクト電極41の材料と、第二半導体層27の材料とが合金化される(合金化領域40)。図2では、合金化領域40を模式的にハッチングにて図示している。
【0088】
上記によれば、合金化領域40の幅は、コンタクト電極41と第二半導体層27とが接触する領域の幅に対応する。そして、本実施形態の赤外LED素子1によれば、コンタクト電極41の上面41aの一部領域に保護層37が乗り上げている。この結果、合金化領域40の端部の上面を、保護層37によって確実に覆うことができる。
【0089】
つまり、図11を参照して上述した従来の素子のように、合金化領域40が露出することが抑制される。この結果、仮に赤外LED素子1が高湿環境下に保管された場合であっても、合金化領域40内に水蒸気が浸入することが抑制され、コンタクト電極41が剥がれにくくなる。よって、動作電圧の上昇が抑制される。
【0090】
〈製造方法〉
上述した赤外LED素子1の製造方法の一例について、図3A図3Hの各図を参照して説明する。図3A図3Hは、いずれも製造プロセス内における一工程における断面図である。ただし、説明の都合上、図3G図3Hは、一部が模式的に拡大された状態で図示されている。以下の各手順は、赤外LED素子1の製造に影響のない範囲内であれば、その順序は適宜前後しても構わない。
【0091】
(ステップS1)
図3Aに示すように、例えばInPからなる成長基板3をMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置内に搬送し、成長基板3上に、第二半導体層27、活性層25、及び第一半導体層23を順次エピタキシャル成長させて、半導体積層体20を形成する。本ステップS1において、成長させる層の材料や膜厚に応じて、原料ガスの種類及び流量、処理時間、環境温度等が適宜調整される。各半導体層(23,25,27)の材料例は上述した通りである。
【0092】
成長基板3としては、InPが好適に利用される。ただし、ピーク波長が1070nm以下の赤外LED素子1を製造するに際しては、成長基板3としてGaAsを利用しても構わない。
【0093】
(ステップS2)
エピタキシャルウェハをMOCVD装置から取り出し、第一半導体層23の表面にフォトリソグラフィ法によってパターニングされたレジストマスクを形成する。その後、真空蒸着装置を用いて内部電極31の形成材料(例えばAuZn)を成膜した後、リフトオフ法によってレジストマスクが剥離される。その後、例えば、450℃、10分間の加熱処理によってアロイ処理(アニール処理)が施されることで、第一半導体層23と内部電極31との間のオーミック接触が実現される。
【0094】
次に、プラズマCVD法によって例えばSiO2からなる絶縁層17が成膜される。その後、フォトリソグラフィ法及びエッチング法により、内部電極31の上層に位置する絶縁層17が取り除かれて、内部電極31が露出される(図3B参照)。
【0095】
(ステップS3)
図3Cに示すように、絶縁層17及び内部電極31を覆うように、反射層15が形成され、その後に接合層13aが形成される。例えば、真空蒸着装置によって、例えばAl/Auが所定の膜厚で成膜されることで反射層15が形成され、引き続き、Au-Snが所定の膜厚で成膜されることで接合層13aが形成される。なお、上述したように、反射層15と接合層13aとの間に、例えばTi/Pt/Auが所定の膜厚で成膜されることでバリア層を形成してもよい。
【0096】
(ステップS4)
図3Dに示すように、成長基板3とは別の支持基板11を準備し、その上面に例えばAu-Snからなる接合層13bが形成される。なお、図示されていないが、支持基板11の面上に、コンタクト用の金属層(例えばTi)を形成し、その上層に接合層13bを形成するものとして構わない。また、接合層13bを形成する前に、上述したバリア層を形成しても構わない。
【0097】
(ステップS5)
図3Eに示すように、接合層13(13a,13b)を介して、成長基板3と支持基板11とが、例えば280℃の温度、1MPaの圧力下で貼り合わせられる。この処理により、成長基板3上の接合層13aと支持基板11上の接合層13bとが溶融されて、接合層13として一体化される。
【0098】
(ステップS6)
半導体積層体20側の面にレジストを塗布して保護した後、露出した成長基板3に対して、研削研磨処理又は塩酸系エッチャントによるウェットエッチング処理を行う。これにより、成長基板3が剥離されて、第二半導体層27が露出する(図3F参照)。
【0099】
(ステップS7)
露出した第二半導体層27の上面のうち、コンタクト電極41を形成する予定の領域をマスクした状態で、第二半導体層27の表面に対してウェットエッチングを行って、凹凸部50(図1参照)を形成する。このウェットエッチングの際には、例えば塩酸を含む混合液が好適に用いられる。ただし、第二半導体層27の上面に凹凸部50を形成しない場合は、本ステップS7は不要である。
【0100】
(ステップS8)
エピタキシャルウェハを素子毎に分離するためのメサエッチングが施される。具体的には、第二半導体層27の面のうちの非エッチング領域を、フォトリソグラフィ法によってパターニングされたレジストによってマスクした状態で、例えば臭素とメタノールの混合液によってウェットエッチング処理が行われる。これにより、マスクされていない領域内に位置する半導体積層体20の一部が除去される(図1参照)。
【0101】
(ステップS9)
図3Gに示すように、第二半導体層27の上面の所定の位置に、コンタクト電極41を形成する。ステップS7が実施されている場合には、凹凸部50が形成されていない第二半導体層27の上面にコンタクト電極41が形成される。
【0102】
詳細には例えば以下の手順で行われる。なお、以下の図3G図3Hにおいては、説明の便宜上、第二半導体層27の上面の凹凸部50の図示が省略されている。
【0103】
まず、第二半導体層27の上面にフォトレジストを塗布する。次に、コンタクト電極41の形状に応じてパターニングされたフォトマスクを所定の位置に設置した状態で、フォトマスクを介して露光用の光を照射する。これにより、フォトレジストがコンタクト電極41の形状にパターニングされ、レジストマスクが形成される。
【0104】
次に、コンタクト電極41を構成する材料の膜を例えば真空蒸着装置を用いて成膜する。典型的な例としては、AuGe/Ni/Au又はAu/Ge/Au等を成膜する。次に、フォトレジストが剥離された後、例えば450℃、10分間の加熱処理(アニール処理)が施される。これにより、コンタクト電極41が形成される。
【0105】
この加熱処理によって、コンタクト電極41と第二半導体層27との界面には、コンタクト電極41を構成する金属材料と、第二半導体層27を構成する半導体材料とが合金化されてなる領域(合金化領域40)が形成される。
【0106】
(ステップS10)
次に、図3Hに示すように、第二半導体層27の上面を覆い、且つコンタクト電極41の上面41aの一部領域に乗り上げるように、保護層37が形成される。詳細には例えば以下の手順で行われる。
【0107】
まず、コンタクト電極41の上面41aにフォトレジストを塗布する。次に、露出予定のコンタクト電極41の領域の形状、すなわち、コンタクト電極41の外縁部よりも内側の領域の形状に応じてパターニングされたフォトマスクを所定の位置に設置する。次に、フォトマスクを介して露光用の光を照射する。これにより、フォトレジストがコンタクト電極41の露出予定形状にパターニングされ、レジストマスクが形成される。
【0108】
次に、保護層37を構成する材料膜を例えば真空蒸着装置を用いて成膜した後、フォトレジストを剥離する。これにより、第二半導体層27の上面27aを覆い、且つ第二半導体層27の上面27aとコンタクト電極41の上面41aを連絡するように、保護層37が形成される。
【0109】
(ステップS11)
次に、コンタクト電極41の上面41aの一部箇所に、パッド電極42が形成される(図1図2参照)。例えば、パッド電極42を構成する膜の材料であるTi/Au、Ti/Pt/Au等を、真空蒸着装置を用いて成膜した後、リフトオフ工程が行われる。なお、本実施形態においては、パッド電極42は、コンタクト電極41の上面41aに乗り上げられた保護層37の上面37aの一部にも形成される。
【0110】
(後の工程)
ステップS11以後は、例えば以下の工程が実行される。なお、以下の手順は適宜入れ替えることができる。
【0111】
支持基板11の裏面側の厚みが調整された後、支持基板11の裏面側に裏面電極33が形成される。裏面電極33の具体的な形成方法としては、コンタクト電極41及びパッド電極42と同様に、真空蒸着装置によって裏面電極33の形成材料(例えばTi/Pt/Au)を成膜後、リフトオフすることで形成できる。
【0112】
なお、支持基板11の裏面側の厚みの調整は、必要に応じて行えばよく、必ずしも必須な工程ではない。また、厚みの程度も用途等に応じて適宜設定される。
【0113】
その後、支持基板11ごとダイシングされることでチップ化された後、各チップのパッド電極42に対して、ボンディングワイヤが取り付けられる。
【0114】
〈検証〉
本実施形態の赤外LED素子1を実施例1とした。また、Y方向に見て、コンタクト電極41と保護層37とが重なりを有しない赤外LED素子を比較例1とした。すなわち、比較例1は、図11に模式的に図示したように、保護層83とコンタクト電極82のうちの一方が他方に乗り上げてはおらず、この結果、上述したように製造プロセスの過程で隙間80が形成されていると想定される素子に対応する。
【0115】
実施例1及び比較例1のそれぞれの素子に対し、JEITA ED-4701/100A(半導体デバイスの環境及び耐久性試験方法[寿命試験I])の規格に準拠した方法で、試験を行った。詳細には、周囲温度60℃、相対湿度90%の試験環境に各素子を暴露させた状態で素子を所定時間にわたって保管した後、試験環境から取り出してから、直流20mAで通電して順方向電圧を計測した。
【0116】
図4は、試験環境下に保管された時間(保管時間)を横軸とし、試験開始時における順方向電圧に対する相対値を縦軸として表記したグラフである。なお、測定結果の信頼性を確保する観点から、実施例1及び比較例1の素子がそれぞれ25個準備され、各素子の順方向電圧の平均値が採用された。すなわち、実施例1のデータは、実施例1の構造を示す25個の素子の順方向電圧の平均値に対応し、比較例1のデータは、比較例1の構造を示す25個の素子の順方向電圧の平均値に対応する。
【0117】
図4によれば、比較例1の素子の場合、保管時間が500時間を超えると順方向電圧が上昇し始め、1000時間では30%以上も順方向電圧が高くなることが確認された。このことは、比較例1の素子を含む装置が設置される環境によっては、発光に必要な電圧が経時的に極めて高まり、頻繁に素子の交換を行うことが余儀なくされることを示唆する。これに対し、実施例1の素子の場合には、保管時間が1000時間を超えても順方向電圧が維持されており、順方向電圧の上昇を抑える効果が実現されていることが分かる。
【0118】
[第二実施形態]
赤外LED素子の第二実施形態につき、第一実施形態と異なる箇所を主として説明する。なお、以下の図面においては、第一実施形態と共通する要素は、共通の符号を付して説明が適宜割愛される。
【0119】
図5は、本実施形態の赤外LED素子1の一部分(領域A1)を、図2にならって図示した図面である。本実施形態の赤外LED素子1において、領域A1以外の箇所については、第一実施形態と同様である。
【0120】
本実施形態の赤外LED素子1は、第一実施形態と同様に、保護層37の一部がコンタクト電極41の上面41aに乗り上がるような態様で配置されている。すなわち、保護層37は、第二半導体層27の上面27aと、コンタクト電極41の上面41aとを連絡するように配置されている。この結果、Y方向に見たときに、コンタクト電極41と保護層37とは重なりを有している。ただし、本実施形態の赤外LED素子1は、第一実施形態とは異なり、パッド電極42は、コンタクト電極41の上面41aに乗り上げられた保護層37の上面37aには接触していない。
【0121】
本実施形態の赤外LED素子1においても、第一実施形態と同様に、コンタクト電極41の上面41aの一部領域に保護層37が乗り上げているため、合金化領域40の端部の上面を保護層37によって確実に覆うことができる。
【0122】
なお、本実施形態の赤外LED素子1は、上記ステップS11において、パッド電極42の形成箇所を異ならせる以外は、第一実施形態と同様の方法で製造できる。
【0123】
[第三実施形態]
赤外LED素子の第三実施形態につき、第一実施形態と異なる箇所を主として説明する。なお、以下の図面においては、第一実施形態と共通する要素は、共通の符号を付して説明が適宜割愛される。
【0124】
図6は、本実施形態の赤外LED素子1の一部分(領域A1)を、図2にならって図示した図面である。本実施形態の赤外LED素子1において、領域A1以外の箇所については、第一実施形態と同様である。
【0125】
第一実施形態の赤外LED素子1では、保護層37の一部がコンタクト電極41の上面41aに乗り上がるように配置されていた。これに対し、本実施形態の赤外LED素子1は、コンタクト電極41の一部が、保護層37の上面37aの一部に乗り上がるように配置されている。つまり、コンタクト電極41は、第二半導体層27の上面27aと、保護層37の上面37aとを連絡するように配置されている。
【0126】
そして、パッド電極42は、コンタクト電極41の上面に接触する一方、保護層37の上面37aには接触していない。つまり、本実施形態において、パッド電極42の電極幅は、コンタクト電極41の電極幅と同等以下である。
【0127】
本実施形態の赤外LED素子1においても、上記各実施形態と同様に、Y方向に見たときに、コンタクト電極41と保護層37とは重なりを有している。
【0128】
上述したように、合金化領域40の幅は、コンタクト電極41と第二半導体層27とが接触する領域(接触領域)の幅に対応する。そして、本実施形態の赤外LED素子1によれば、保護層37の上面37aの一部領域にコンタクト電極41が乗り上げている。この結果、合金化領域40の端部の上方には保護層37が位置することになり、やはり、第一実施形態と同様に、合金化領域40の端部の上面を保護層37によって確実に覆うことができる。
【0129】
本実施形態の赤外LED素子1の製造に際しては、ステップS1~S8までを第一実施形態と共通の工程とすることができる。
【0130】
(ステップS9a)
ステップS8の実行後、図7Aに示すように、第二半導体層27の上面の所定の位置に保護層37が形成される。なお、より詳細には、半導体積層体20の側面と、第二半導体層27の上面のうちのコンタクト電極41を形成する予定の領域を除く領域とに、保護層37が形成される。保護層37の形成方法は、第一実施形態におけるステップS10に準じて実行される。
【0131】
(ステップS10a)
次に、図7Bに示すように、露出している第二半導体層27の上面と、保護層37の上面37aの一部とを連絡するように、コンタクト電極41を形成する。コンタクト電極41の形成方法は、第一実施形態におけるステップS9に準じて実行される。
【0132】
その後は、第一実施形態のステップS11以後と共通の工程が採用できる。
【0133】
[第四実施形態]
赤外LED素子の第四施形態につき、第一実施形態と異なる箇所を主として説明する。なお、以下の図面においては、第一実施形態と共通する要素は、共通の符号を付して説明が適宜割愛される。
【0134】
図8は、本実施形態の赤外LED素子1の一部分(領域A1)を、図2にならって図示した図面である。本実施形態の赤外LED素子1において、領域A1以外の箇所については、第一実施形態と同様である。
【0135】
本実施形態の赤外LED素子1は、第三実施形態と同様に、コンタクト電極41の一部が保護層37の上面37aに乗り上がるような態様で配置されている。すなわち、コンタクト電極41は、第二半導体層27の上面27aと、保護層37の上面37aとを連絡するように配置されている。
【0136】
一方、本実施形態において、パッド電極42は、コンタクト電極41の上面に加えて、保護層37の上面37aにも接触している。つまり、本実施形態において、パッド電極42の電極幅は、コンタクト電極41の電極幅よりも広い。
【0137】
本実施形態の赤外LED素子1においても、上記各実施形態と同様に、Y方向に見たときに、コンタクト電極41と保護層37とは重なりを有している。
【0138】
本実施形態の赤外LED素子1においても、第三実施形態と同様に、保護層37の上面37aの一部領域にコンタクト電極41が乗り上げているため、合金化領域40の端部の上面を保護層37によって確実に覆うことができる。
【0139】
なお、本実施形態の赤外LED素子1は、上記ステップS11において、パッド電極42の形成箇所を異ならせる以外は、第三実施形態と同様の方法で製造できる。
【0140】
[別実施形態]
上記各実施形態では、半導体積層体20の側面を覆う保護層37が、半導体積層体20の上面においても、端部(周縁部)からコンタクト電極41の近傍にかけて形成されているものとして説明した。しかし、コンタクト電極41の近傍のみを、保護層37とは別の部材からなる保護層38で形成しても構わない(図9参照)。この場合、保護層38は、必ずしも絶縁性材料でなくてもよく、更には赤外光Lに対する透過率が低い材料であっても構わない。典型的な例としては、保護層38をITOとすることができる。
【0141】
図10は、図9から、コンタクト電極41の近傍(領域A1)を拡大した図面であり、図2にならって図示されている。図9図10に示す赤外LED素子1は、Y方向から見たときに、保護層38とコンタクト電極41とが重なりを有するように配置されているため、合金化領域40の端部の上面が保護層38によって覆われる。この結果、上記の第一実施形態と同様、仮に高湿環境下に保管された場合であっても、合金化領域40内に水蒸気が浸入することが抑制でき、コンタクト電極41が剥がれにくくなる。よって、動作電圧の上昇が抑制される。
【0142】
なお、この別実施形態では、第一実施形態の赤外LED素子1の構成を一部変形した場合を例に挙げて説明した。すなわち、第一実施形態の赤外LED素子1においては、図2に示すように、保護層37の一部がコンタクト電極41の上面41aに乗り上がるような態様で配置されていたが、この別実施形態では、図10に示すように、保護層38の一部がコンタクト電極41の上面41aに乗り上がるような態様で配置されている。しかし、コンタクト電極41の近傍に保護層37とは別材料からなる保護層38を設ける構成は、第二実施形態以下の各実施形態に対しても同様に適用が可能である。
【符号の説明】
【0143】
1 :赤外LED素子
3 :成長基板
11 :支持基板
13,13a,13b :接合層
15 :反射層
16 :導電層
17 :絶縁層
20 :半導体積層体
23 :第一半導体層
25 :活性層
27 :第二半導体層
27a :上面
31 :内部電極
33 :裏面電極
37 :保護層
37a :保護層の上面
38 :保護層
38a :保護層の上面
40 :合金化領域
41 :コンタクト電極
41a :コンタクト電極の上面
42 :パッド電極
50 :凹凸部
80 :隙間
81 :半導体層
82 :コンタクト電極
82a :合金化領域
83 :保護層
84 :パッド電極
90 :従来の赤外LED素子
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図3H
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11