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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068970
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】髄内釘
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/72 20060101AFI20230511BHJP
   A61B 17/78 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
A61B17/72
A61B17/78
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180471
(22)【出願日】2021-11-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2020年11月16日から日本全国の病院(主に整形外科)に向けて商品を販売開始。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2020年11月16日から商品のパンフレット、サンプル、手技書、説明資料を用いて商品PRとしての営業活動を開始。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 学校法人久留米大学医学部整形外科学教室が2020年12月12日付けで発行した「久留米大学医学部整形外科同門会誌 整形外科教室 2020 No.27」において商品の紙面広告を掲載。 学校法人久留米大学医学部整形外科学教室(学会事務局)が2021年5月13日付けで発行した「整形外科と災害外科 第141回 西日本整形・災害外科学会学術集会 抄録集 第70巻」において商品の紙面広告を掲載。
(71)【出願人】
【識別番号】312002864
【氏名又は名称】プロスパー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520311710
【氏名又は名称】株式会社プロステック
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【弁理士】
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(72)【発明者】
【氏名】水上 雅規
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 邦浩
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160LL27
4C160LL43
(57)【要約】
【課題】大腿骨近位側箇所の骨折に対して、施術の過程に伴う不具合を抑止できると共に、大腿骨内の理想的な位置に配置して、骨片を繋いで強固に固定することが可能な髄内釘を提供する。
【解決手段】本発明を適用した髄内釘の一例である髄内釘1は、施術時にラグスクリュー2、サブピン3、ロッキングスクリュー4、ロッキングスクリュー5、セットスクリュー及びエンドキャプと組み合わせて使用する部材である。また、各部材は、骨接合具Aを構成する部材である。髄内釘1では、大腿骨の長手方向に沿って近位側から遠位側を見た方向、かつ、後顆が下方に位置する方向から見た視点(正対視)で、シャフト部11の弯曲部110の曲がりの方向が、大腿骨Fの外弯形状に合わせて、5°外旋した角度となっている。
【選択図】図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大腿骨の近位側を骨折した場合に、前記大腿骨内の近位部側から挿入して、各骨片を整復して固定する際に使用されると共に、貫通孔が形成された筒状の本体を有し、前記本体の一端部側を構成し、前記貫通孔と交差したスクリュー孔が形成された本体近位部と、前記本体近位部に連設され、前記本体の中間部を構成し、前記本体近位部の外周径よりも小さな外周径かつ同一径で形成され、前記本体の他端部側に向かって延びるシャフト部と、前記シャフト部に連設され、前記本体の他端部側を構成する本体遠位部、を備える髄内釘であって、
前記シャフト部は、前記大腿骨の内外方向に沿った視点において、前記大腿骨の前方側から後方側に向けて曲がった弯曲部が形成され、
前記弯曲部は、
前記髄内釘を前記大腿骨内に挿入した際に、
前記大腿骨の長手方向に沿って近位側から遠位側を見た方向、かつ、後顆が下方に位置する方向から見た正対視で、前記大腿骨の後顆及び大転子後縁が同一平面上に位置する面である基準面上の線であり、2つの前記後顆を結ぶ線である第1の基準線と、前記正対視で前記第1の基準線と略直交する線であり、前記シャフト部の前記一端側の軸心である第1の軸心を通る線である第2の基準線を基準にして、
前記正対視で、
前記第2の基準線上の前記第1の軸心と前記弯曲部の頂点とを結ぶ線である第1の弯曲対応線と、前記第2の基準線がなす角度である第1の角度において、
前記第2の基準線から見て前記弯曲部の頂点が内側方向に位置する際には、前記第1の角度は、所定の内弯角度となり、または、
前記第2の基準線から見て前記弯曲部の頂点が外側方向に位置する際には、前記第1の角度は、所定の外弯角度となる
髄内釘。
【請求項2】
前記第1の角度において、
前記所定の内弯角度は、1°から25°の範囲内となり、または、
前記所定の外弯角度は、1°から25°の範囲内となる
請求項1に記載の髄内釘。
【請求項3】
前記スクリュー孔は、
前記髄内釘を前記大腿骨内に挿入した際に、
前記正対視で、
前記第1の基準線と前記スクリュー孔の形成方向がなす角度である第2の角度の範囲において、
前記第1の基準線を基準に、前記スクリュー孔の形成方向が前記後方側に傾くように位置する際には、前記第2の角度は、0°から2°の範囲内であり、または、
前記第1の基準線を基準に、前記スクリュー孔の形成方向が前記前方側に傾くように位置する際には、前記第2の角度は、0°から35°の範囲内である
請求項1または請求項2に記載の髄内釘。
【請求項4】
前記大腿骨の内外方向に沿った視点において、前記大腿骨における小転子直下の位置から膝蓋骨直上に対応する位置の範囲で、曲率半径が514mm~1358mmの範囲内で、前方に弯曲した前記大腿骨に合わせて、前記弯曲部の曲がりが形成された
請求項1、請求項2または請求項3に記載の髄内釘。
【請求項5】
前記本体は、全長が265mm~400mmの範囲で形成され、
前記シャフト部に前記弯曲部が形成されたことで、前記大腿骨の内外方向に沿った視点において、前記本体近位部の軸心である第2の軸心の位置に相当する線である第3の基準線から、前記本体遠位部の先端の中心位置までの距離が13mm以上となる
請求項1、請求項2、請求項3または請求項4に記載の髄内釘。
【請求項6】
前記弯曲部は、第1のベント部、第2のベント部、第3のベント部、及び、第4のベント部の4つのベント部で構成され、
前記大腿骨の内外方向に沿った視点において、
前記第1のベント部の弯曲開始位置は、前記本体近位部の一端から120mmの位置であり、
前記第2のベント部の弯曲開始位置は、前記本体近位部の一端から150mmの位置であり、
前記第3のベント部の弯曲開始位置は、前記本体近位部の一端から175mmの位置であり、
前記第4のベント部の弯曲開始位置は、前記本体近位部の一端から205mmの位置であり、
前記第1のベント部の弯曲開始位置及び前記第2のベント部の弯曲開始位置の間の範囲の曲率半径は457mmであり、
前記第2のベント部の弯曲開始位置及び前記第3のベント部の弯曲開始位置の間の範囲の曲率半径は475mmであり、
前記第3のベント部の弯曲開始位置及び前記第4のベント部の弯曲開始位置の間の範囲の曲率半径は637mmである
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4または請求項5に記載の髄内釘。
【請求項7】
前記正対視で、かつ、前記髄内釘の前記大腿骨内への挿入開始前の状態で、
前記スクリュー孔の形成方向は、前記第1の基準線と略平行であり、
前記第2の基準線上の前記第1の軸心と前記弯曲部の頂点とを結ぶ線である第2の弯曲対応線と、前記第2の基準線がなす角度である第3の角度の範囲において、
前記第2の基準線から見て前記弯曲部の頂点が内側方向に位置し、前記第3の角度は、0°~60°の範囲内、または、
前記第2の基準線から見て前記弯曲部の頂点が外側方向に位置し、前記第3の角度は、0°~27°の範囲内である
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5または請求項6に記載の髄内釘。
【請求項8】
前記第2の基準線から見て前記弯曲部の頂点が内側方向に位置し、前記第3の角度は7°である
請求項7に記載の髄内釘。
【請求項9】
前記正対視で、かつ、前記髄内釘の前記大腿骨内への挿入開始前の状態で、
前記第2の基準線上の前記第1の軸心と前記弯曲部の頂点とを結ぶ線である第2の弯曲対応線と、前記第2の基準線がなす角度である第3の角度の範囲において、
前記第2の基準線から見て前記弯曲部の頂点が内側方向に位置し、前記第3の角度は、1°~25°の範囲内、または、
前記第2の基準線から見て前記弯曲部の頂点が外側方向に位置し、前記第3の角度は、1°~25°の範囲内であり、
前記第1の基準線と前記スクリュー孔の形成方向がなす角度である第4の角度の範囲において、
前記第1の基準線を基準に、前記スクリュー孔の形成方向が前記前方側に傾くように位置し、前記第4の角度は、0°~35°の範囲内であり、または、
前記第1の基準線を基準に、前記スクリュー孔の形成方向が前記後方側に傾くように位置し、前記第4の角度は、0°~2°の範囲内である
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5または請求項6に記載の髄内釘。
【請求項10】
前記第2の基準線から見て前記弯曲部の頂点が外側方向に位置し、前記第3の角度は5°であり、
前記第1の基準線を基準に、前記スクリュー孔の形成方向が前記前方側に傾くように位置し、前記第4の角度は12°である
請求項9に記載の髄内釘。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、髄内釘に関する。詳しくは、大腿骨近位側箇所の骨折に対して、施術の過程に伴う不具合を抑止できると共に、大腿骨内の理想的な位置に配置して、骨片を繋いで強固に固定することが可能な髄内釘に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、外科手術を要する骨折治療の現場においては、施術対象骨の長手方向軸線に沿って挿入する髄内釘と、軸周に雄ネジが形成されたラグスクリューを組み合わせた骨接合具が使用されており、特に大腿骨近位側箇所の骨折に対する骨接合術で利用されている。
【0003】
こうした骨接合術に用いる髄内釘は、従来、多くの異なる形態が既に知られているが、例えば、大腿骨転子部骨折、大腿骨転子下骨折、大腿骨転子間骨折、または、大腿骨頚基部骨折を修復するために、近位端から大腿骨へ打ち込まれる髄内釘が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、このような近位端から大腿骨へ打ち込まれる髄内釘を用いた施術では、大腿骨を近位側から遠位側に向けてリーマーで穿孔し、形成された孔に髄内釘を挿入する。
【0005】
また、髄内釘の近位部に形成されたスクリュー孔を介してラグスクリューを挿通させ、その先端を骨頭内の中心部近傍に位置させる。
【0006】
また、髄内釘の上部に取り付けたセットスクリューを介して、挿入したラグスクリューを押圧して固定する。このように、髄内釘及びラグスクリューを介して、骨折した箇所の骨片を繋いで強固に固定することができる。また、ラグスクリューの先端を骨頭内に位置させることで、骨折部位に適度な圧迫をかけ、骨癒合を促すことが可能となる。
【0007】
また、従前の髄内釘には、大腿骨への適合性を高めるため、大腿骨の頸部が前方に傾いた角度である前捻角に対応して、ラグスクリューを挿通するスクリュー孔の形成方向を設定した構造が提案されている。
【0008】
ここで、「前捻角」とは、図1(a)に示すように、大腿骨Fの骨頭F1の中心と、頸部F2の中心(外縁との距離が等しい位置)を結ぶ軸である大腿骨頸部軸S1と、大腿骨Fの遠位部における内側顆F3及び外側顆F4の2つ(後顆)を結ぶ軸である大腿骨顆部軸S2とがなす角度θである。
【0009】
なお、図1(a)は、右大腿骨の近位側から遠位側を見た構図であり、骨頭とその周辺部の構造を示している。また、図1(a)中の符号Hは股関節を示している。
【0010】
この前捻角は、個人差はあるものの、一般的に、大腿骨の頸部が前方に傾いた(図1(a)で見る左上方に傾いた)形状、即ち、大腿骨顆部軸S2に対して大腿骨頸部軸S1が前方に開いた角度となる。なお、人によっては、大腿骨の頸部が後方に傾いた形状(後捻角)もありうる。
【0011】
そして、この前捻角の傾きにより、骨頭も前方に傾いて位置するため、従前の髄内釘には、スクリュー孔の形成方向を予め、前捻角の傾きを考慮して形成したものも採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特表2017-535401
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ここで、前捻角の傾きを考慮してスクリュー孔を形成した髄内釘を含め、従前の髄内釘を用いた骨接合術では、以下のような問題が発生する。
【0014】
まず、前提として、大腿骨の形状は、側面視した場合、図2(a)に示すように、大腿骨近位部と大腿骨遠位部の間に位置する骨幹部F5は、前方側に曲がりの頂点Pを有した、前方に弯曲した形状(符号C1。以下、「前弯形状」と称する)となっている。
【0015】
ここで、図2(a)は、人体における冠状面に沿って、人体の内側から外側に向かって右大腿骨を見た構図(側面視)での右大腿骨の形状を示している。また、図2(b)は、人体における矢状面に沿って、人体の前方から後方に向かって右大腿骨を見た構図(正面視)での右大腿骨の形状を示している。
【0016】
なお、図1(b)では、人体を横切る面である、冠状面K1、矢状面K2、及び、横断面K3のそれぞれを図示している。ここで、冠状面K1は、身体を前後に二分する面である。また、矢状面K2は、身体を前から後ろにとおり、左右を二分にする面、または、これに平行な面である。また、横断面K3は、身体を上下に二分する面である。本明細書では、方向を特定するにあたり、必要に応じて、冠状面、矢状面、及び、横断面の表記や、これらの面に沿った方向という表記を用いる場合がある。
【0017】
また、図2(a)及び図2(b)では、大腿骨内部で長手方向に沿って伸びる髄腔中心Mと、髄腔中心の両端部の位置M1と、髄腔中心のうち前弯形状の頂点Pに対応する位置M2(髄腔中心のうち曲がりの頂点となる位置)を示している。
【0018】
なお、一般的に、この前弯形状は、大腿骨のうち、小転子直下の位置(図2(b)の符号L1で示す位置)から膝蓋骨Qの直上に対応する位置(図2(b)の符号L2で示す位置)の範囲で曲がった形状となっている(図2(b)参照)。なお、本願明細書における大腿骨の「前弯形状」とは、大腿骨の全長を対象とした、その曲がりを指すものではなく、上述した小転子直下の位置から膝蓋骨Qの直上に対応する位置までの範囲である、髄内釘で担保すべき範囲の曲がりを意味する。
【0019】
また、図3に示すように、大腿骨では、大腿骨の長手方向に沿って近位側から遠位側を見た方向、かつ、後顆が下方に位置する方向から見た正対視(以下、同じ方向から見た視点を「正対視」と称する。)で、後顆(内側顆F3及び外側顆F4)を結ぶ基準線Aと略直交する線であり、髄腔中心の両端部の位置M1を通る線である基準線Bに対して、上記の前弯形状における曲がりの方向が傾いている(図3では符号C2で示す、後述する外弯形状)。
【0020】
より詳しくは、図3の正対視において、基準線Bに対する前弯形状における曲がりの方向の傾きとは、髄腔中心の両端部の位置M1と髄腔中心のうち前弯形状の頂点Pに対応する位置M2とを結ぶ基準線Cと、基準線Bがなす角度θで表される。
【0021】
なお、図3で示した基準線Aは、図4(a)に示すように、大腿骨の後顆(内側顆F3及び外側顆F4)と、大腿骨の大転子後縁F6(大転子の後方側)が同一平面に位置する面である基準面X上に位置する線である。また、基準線Aは上述した大腿骨顆部軸S2に相当する線である。また、図3に示す大腿骨は、左大腿骨である。
【0022】
なお、図4(b)は、人体における冠状面に沿って、人体の外側から内側に向かって左大腿骨を見た状態での、後顆(内側顆F3及び外側顆F4)の位置及び大腿骨の大転子後縁F6の位置を示す図であり、図4(c)は、左大腿骨の長手方向に沿って遠位側から近位側を見た状態での後顆(内側顆F3及び外側顆F4)の位置を示す図である。
【0023】
そして、大腿骨の形状は一般的に、図3に示す正対視において、前弯形状における曲がりの方向が、基準線Bと一致しないケースが多い。即ち、基準線Aに対して略垂直な方向(図3における12時の方向)に、前弯形状における曲がりの方向が位置しておらず、基準線Bから見て、外側または内側のいずれかに傾いた形状(図3における時計周りの方向、または、反時計周りの方向に傾いた形状)となっている。
【0024】
こうした正対視において、基準線Bに対する前弯形状における曲がりの方向の傾きについて、図3に示すように、前弯形状における曲がりの方向が、基準線Bから見て外側に傾いた形状(図3における反時計周りの方向に傾いた形状)を「外弯形状」と呼ぶ。
【0025】
また、図3とは異なり、正対視において、基準線Bに対する前弯形状における曲がりの方向が、基準線Bから見て内側に傾いた形状(図3における時計周りの方向に傾いた形状)を「内弯形状」と呼ぶ。なお、ここでいう「内外」とは、人体における冠状面に沿った方向を意味する。
【0026】
また、図5に、内弯形状の一例として、右大腿骨の後顆(内側顆F3及び外側顆F4)と、大腿骨の大転子後縁F6が同一平面上に位置する基準面Xと、前弯形状における曲がりの方向が、基準線Bから見て内側に傾いた状態を示す傾斜面Yを示している。
【0027】
図5に示すように、基準面Xに対して傾斜面Yは傾いた面となり、前弯形状における曲がりの方向が、斜めに傾いている形状となっている。
【0028】
このように、大腿骨の形状の特徴として、基準線Bに対する前弯形状における曲がりの方向の傾きとして、外弯形状、または、内弯形状となることが多い。
【0029】
以上のように、大腿骨の形状は、側面視した場合に前弯形状を有している。また、正対視した場合に、基準線Bに対する前弯形状における曲がりの方向の傾きとして、外弯形状、となることが多く、人により、内弯形状をとることもある(以下、単に「外弯形状」及び「内弯形状」と称する)。
【0030】
こうした大腿骨の形状を前提として、従前の髄内釘は、大腿骨における外弯形状、または、内弯形状に対応した形状となっていない。
【0031】
即ち、前捻角の傾きを考慮してスクリュー孔を形成した従前の髄内釘300は、例えば、図6(a)~図6(e)に示すような形状である。
【0032】
図6(a)及び図6(b)は、髄内釘300を正面視(大腿骨への挿入時に前方側から後方側を見た視点)した状態の形状を示している。また符号300aはシャフトを示す。また、図6(b)には、髄内釘300と組み合わせて用いるラグスクリュー301と、ロッキングスクリュー302を示している。
【0033】
また、図6(c)に、髄内釘300を側面視(大腿骨への挿入時に、人体における冠状面に沿った内外方向から見た視点)した状態の形状を示している。また、図6(d)には、髄内釘300を正対視(大腿骨への挿入時に近位側から遠位側を見た視点)した状態の形状を示し、図6(e)には、大腿骨の長手方向に対して、髄内釘300を真っすぐ挿入した状態(正対視)を示すイメージ図を示している。
【0034】
この髄内釘300は、図6(a)及び図6(b)に示すように、シャフト300aの部分は、図中の上下方向に沿って真っすぐ伸びた形状となっている。
【0035】
また、図6(c)に示すように、髄内釘300を側面視した形状では、シャフト300aには、弯曲部が形成されている。この弯曲部は、上述した大腿骨の前弯形状に対応して、髄内釘300のシャフト300aの形状を適合させるための形状であり、大腿骨に挿入した際には、人体における矢状面に沿って、前方から後方に向かって弯曲した部分となる。
【0036】
また、図6(d)に示すように、髄内釘300では、正対視で、ラグスクリュー301を挿入するスクリュー孔の形成方向が、前捻角の傾きを考慮して、符号θ1で示す角度で形成されている。
【0037】
ここで、髄内釘300は、大腿骨の前弯形状に対応させて、シャフト300aに弯曲部を形成しているが、この弯曲部の曲がりの方向は、図6(e)に示すように、正対視した状態で、後顆(内側顆F3及び外側顆F4)を結ぶ基準線Aに対して、垂直な方向(符号Y1を付した線)となっている。
【0038】
つまり、外弯形状を有する大腿骨につき、その長手方向に対して、髄内釘300を真っすぐに挿入した場合(大腿骨の長手方向にシャフト300aの長手方向を一致させた場合)、大腿骨の外弯形状C2、即ち、上記基準線Cと、シャフト300aにおける弯曲部の曲がりの方向(符号Y1の線)とは、一致しない位置関係となる(図6(e)参照)。
【0039】
なお、実際には、後述するように、外弯形状を有する大腿骨に、髄内釘300を真っすぐ挿入すると、挿入途中で、大腿骨皮質骨と髄内釘300が接触して、さらに遠位側に挿入することが困難となることがある。そのため、図6(e)は、髄内釘300を遠位側の所定位置(至適深度)まで挿入できたと仮定した、位置関係を示すためのイメージ図である。
【0040】
このように、髄内釘300のシャフト300aの弯曲部の曲がりの方向は、大腿骨の外弯形状における曲がりの方向と異なっている。
【0041】
そのため、外弯形状を有する大腿骨に対して、髄内釘300を用いて施術を行う場合には、大腿骨の近位側から遠位側に向けて(図7(a)の符号Dで示す方向)、髄内釘300の先端を挿入していくと、大腿骨の外弯形状における曲がりの方向と、シャフト300aの弯曲部の曲がりの方向が異なることに起因し、骨幹部の途中で髄内釘300の先端が大腿骨皮質骨に接触して、挿入が困難な状態となる(図7(a)参照)。
【0042】
そして、髄内釘300のさらなる挿入が困難な状態を回避するため、髄内釘300を支持するターゲット機器(図示省略)ごと、髄内釘300を外旋(大腿骨を基準に外側方向に回転)させ(図7(b)の符号R1で示す方向に回転)、髄内釘300の先端が、大腿骨皮質骨に接触しないようにして、さらに遠位側に向けて挿入する(図7(b)の符号Dで示す方向)。
【0043】
なお、図7(a)の右図、及び、図7(b)の右図は、それぞれ、大腿骨内部における髄内釘300の先端と皮質骨との位置関係を示す概略拡大図である。
【0044】
ここで、髄内釘300を外旋して、大腿骨の遠位側に挿入すると、髄内釘300を外旋させたことで、ラグスクリュー301を挿入するスクリュー孔の形成方向も回転することになる。即ち、元々、前捻角の傾きを考慮して、符号θ1で示す角度(図6(d)及び図6(e)参照)で形成されているスクリュー孔の形成方向が、さらに前方側へと傾いてしまう。
【0045】
この結果、回転したスクリュー孔に、ラグスクリュー301を挿入すると、図8(a)に示すように、ラグスクリュー301の先端位置が、骨頭F1の中心より前方側に来ることになる。なお、図8(a)では、符号fを付した矢印が、前方側に向かう方向を示している。
【0046】
即ち、本来、ラグスクリュー301を介して、施術後に、骨頭の内反、または、回旋を防止することを考慮すると、ラグスクリュー301の先端は、骨頭F1の中心近傍に位置するように配置されることが好ましいが、髄内釘300を外旋したことで、ラグスクリュー301の先端位置が、所望の骨頭F1の中心近傍より前方側にずれてしまう。つまり、髄内釘300では、不適切なラグスクリュー301の設置位置になるおそれがあった。
【0047】
また、こうした、ラグスクリュー301の先端位置が、骨頭F1の中心近傍より前方側に来る位置のずれに対して、大腿骨を外部から圧迫して(図8(b)の符号P1で示す方向に圧迫)ラグスクリュー301の先端位置が、骨頭F1の中心近傍に来るように整復する作業が行われる。この圧迫により、骨頭F1は強制的に前方側に位置がずれることになる。
【0048】
そして、大腿骨を外部から圧迫して、骨頭F1を強制的に前方側に位置をずらした際に、圧迫に伴い、固定対象となる骨片同士の間にギャップが生じてしまう不具合があった(図8(b)の符号P2で示す箇所参照)。
【0049】
また、圧迫して、骨頭を前側にずらすことで、骨幹部が元の形に戻ろうとして進退し、膝が内旋(内側に向けて回転)し、歩行に影響が生じる、いわゆる過前捻の状態となるおそれがあった。
【0050】
また、髄内釘300は、前捻角の角度に合わせて、スクリュー孔の形成方向に一定の角度を付けて、スクリュー孔を形成しているため、この予め設定した一定の角度に、圧迫による角度の変更が加わり、この角度の変更によっても、使用者の歩行能力の低下が生じることがあった。なお、図8(a)及び図8(b)には右大腿骨を示している。
【0051】
このように、従前の髄内釘は、外弯形状を有する大腿骨に対して使用した場合に、挿入時に不具合が生じたり、大腿骨内の理想的な位置に、髄内釘やラグスクリューを配置できなかったりするため、大腿骨近位側箇所の骨折に対して、骨片を充分に固定し、骨癒合を促すことができなかった。
【0052】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、大腿骨近位側箇所の骨折に対して、施術の過程に伴う不具合を抑止できると共に、大腿骨内の理想的な位置に配置して、骨片を繋いで強固に固定することが可能な髄内釘を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0053】
上記の目的を達成するために、本発明の髄内釘は、大腿骨の近位側を骨折した場合に、前記大腿骨内の近位部側から挿入して、各骨片を整復して固定する際に使用されると共に、貫通孔が形成された筒状の本体を有し、前記本体の一端部側を構成し、前記貫通孔と交差したスクリュー孔が形成された本体近位部と、前記本体近位部に連設され、前記本体の中間部を構成し、前記本体近位部の外周径よりも小さな外周径かつ同一径で形成され、前記本体の他端部側に向かって延びるシャフト部と、前記シャフト部に連設され、前記本体の他端部側を構成する本体遠位部、を備える髄内釘であって、前記シャフト部は、前記大腿骨の内外方向に沿った視点において、前記大腿骨の前方側から後方側に向けて曲がった弯曲部が形成され、前記弯曲部は、前記髄内釘を前記大腿骨内に挿入した際に、前記大腿骨の長手方向に沿って近位側から遠位側を見た方向、かつ、後顆が下方に位置する方向から見た正対視で、前記大腿骨の後顆及び大転子後縁が同一平面上に位置する面である基準面上の線であり、2つの前記後顆を結ぶ線である第1の基準線と、前記正対視で前記第1の基準線と略直交する線であり、前記シャフト部の前記一端側の軸心である第1の軸心を通る線である第2の基準線を基準にして、前記正対視で、前記第2の基準線上の前記第1の軸心と前記弯曲部の頂点とを結ぶ線である第1の弯曲対応線と、前記第2の基準線がなす角度である第1の角度において、前記第2の基準線から見て前記弯曲部の頂点が内側方向に位置する際には、前記第1の角度は、所定の内弯角度となり、または、前記第2の基準線から見て前記弯曲部の頂点が外側方向に位置する際には、前記第1の角度は、所定の外弯角度となるように構成されている。
【0054】
なお、ここでいう「前、後、内、及び、外」の表記は、いずれも、人体を横切る面に沿った方向で規定される用語である。即ち、前後方向とは、人体を横切る面の1つである、矢状面に沿った方向であり、内外方向とは、人体を横切る面の1つである、冠状面に沿った方向である。また、矢状面に沿った方向で、人体を基準として、人体から見た前側を「前、または、前方」と称し、人体から見た後ろ側を「後ろ、または、後方」と称する。また、冠状面に沿った方向で、人体を基準として、人体の中心に向かう方を、「内、または、内側」と称し、人体の中心から離れる方向を、「外、または、外側」と称する。また、ここでいう「近位、遠位」の表記は、骨の長手方向において、人体の中心に近い方を「近位」と称し、人体の中心から離れる方向を「遠位」と称する。
【0055】
ここで、シャフト部に、大腿骨の内外方向に沿った視点において、大腿骨の前方側から後方側に向けて曲がった弯曲部が形成されたことによって、髄内釘を大腿骨内部の所望位置に配置した際に、大腿骨を側面視した状態で見られる、大腿骨の前弯形状に、シャフト部の形状を適合させやすくなる。なお、ここでいう大腿骨の「前弯形状」とは、人体における冠状面に沿った内外方向から大腿骨を側面視した場合に、その骨幹部が、前方側に曲がりの頂点を有した、前方に弯曲した形状を意味する。
【0056】
また、弯曲部について、髄内釘を大腿骨内に挿入した際に、大腿骨の長手方向に沿って近位側から遠位側を見た方向、かつ、後顆が下方に位置する方向から見た正対視で、大腿骨の後顆及び大転子後縁が同一平面上に位置する面である基準面上の線であり、2つの後顆を結ぶ線である第1の基準線と、正対視で第1の基準線と略直交する線であり、シャフト部の一端側の軸心である第1の軸心を通る線である第2の基準線を基準にして、正対視で、第2の基準線上の第1の軸心と弯曲部の頂点とを結ぶ線である第1の弯曲対応線と、第2の基準線がなす角度である第1の角度において、第2の基準線から見て弯曲部の頂点が内側方向に位置する際には、第1の角度が、所定の内弯角度となることによって、第2の基準線に対する、シャフト部における弯曲部の曲がりの方向の傾きを、大腿骨の内弯形状に適合させやすくなる。即ち、正対視で、大腿骨の後顆(内側顆及び外側顆)を結ぶ基準線Aと略直交する線であり、髄腔中心の両端部の位置を通る線である基準線Bに対して、大腿骨の前弯形状における曲がりの方向が、基準線Bから見て内側に傾いた、いわゆる「内弯形状」に対し、シャフト部における弯曲部の曲がりの方向を、同じ方向に傾けた形状となる。これにより、内弯形状を有する大腿骨に対しても、髄内釘を無理なく、至適位置に配置することができる。
なお、以下、「大腿骨の長手方向に沿って近位側から遠位側を見た方向、かつ、後顆が下方に位置する方向から見た正対視」については、単に、「正対視」と称する。また、ここでいうシャフト部の一端側の軸心である第1の軸心とは、同一径で形成されたシャフト部のうち、一端側、即ち、本体遠位部との境界部分となる位置における軸心(円形となる断面の中心)を意味するものである。
【0057】
また、弯曲部について、髄内釘を大腿骨内に挿入した際に、大腿骨の長手方向に沿って近位側から遠位側を見た方向、かつ、後顆が下方に位置する方向から見た正対視で、大腿骨の後顆及び大転子後縁が同一平面上に位置する面である基準面上の線であり、2つの後顆を結ぶ線である第1の基準線と、正対視で第1の基準線と略直交する線であり、シャフト部の一端側の軸心である第1の軸心を通る線である第2の基準線を基準にして、正対視で、第2の基準線上の第1の軸心と弯曲部の頂点とを結ぶ線である第1の弯曲対応線と、第2の基準線がなす角度である第1の角度において、第2の基準線から見て弯曲部の頂点が外側方向に位置する際には、第1の角度が、所定の外弯角度となることによって、第2の基準線に対する、シャフト部における弯曲部の曲がりの方向の傾きを、大腿骨の外弯形状に適合させやすくなる。即ち、正対視で、大腿骨の後顆(内側顆及び外側顆)を結ぶ基準線Aと略直交する線であり、髄腔中心の両端部の位置を通る線である基準線Bに対して、大腿骨の前弯形状における曲がりの方向が、基準線Bから見て外側に傾いた、いわゆる「外弯形状」に対し、シャフト部における弯曲部の曲がりの方向を、同じ方向に傾けた形状となる。これにより、外弯形状を有する大腿骨に対しても、髄内釘を無理なく、至適位置に配置することができる。
【0058】
また、第1の角度において、所定の内弯角度が、1°から25°の範囲内となる場合には、シャフト部における弯曲部の曲がりの方向を、内弯形状で多くみられる傾きの角度に適合させやすくなる。
【0059】
また、第1の角度において、所定の外弯角度が、1°から25°の範囲内となる場合には、シャフト部における弯曲部の曲がりの方向を、外弯形状で多くみられる傾きの角度に適合させやすくなる。
【0060】
また、スクリュー孔について、髄内釘を大腿骨内に挿入した際に、正対視で、第1の基準線とスクリュー孔の形成方向がなす角度である第2の角度の範囲において、第1の基準線を基準に、スクリュー孔の形成方向が後方側に傾くように位置する際には、第2の角度が、0°から2°の範囲内である場合には、大腿骨の、いわゆる後捻角の角度が、第1の基準線から後方側に向けて、0°から2°の範囲で傾いている形状に対して、スクリュー孔の形成方向を合わせることができる。即ち、ラグスクリューを、後捻角の角度に適合させやすくなる。この結果、正対視で、大腿骨の頸部や骨頭が、後方に向かって傾いていても、骨頭の中心近傍にラグスクリューの先端を位置させやすくなる。また、第2の角度を0°から2°の範囲内とすることで、後捻角の角度で多くみられる傾きの角度に適合させやすくなる。
【0061】
また、スクリュー孔について、髄内釘を大腿骨内に挿入した際に、正対視で、第1の基準線とスクリュー孔の形成方向がなす角度である第2の角度の範囲において、第1の基準線を基準に、スクリュー孔の形成方向が前方側に傾くように位置する際には、第2の角度が、0°から35°の範囲内である場合には、大腿骨の、いわゆる前捻角の角度が、第1の基準線から前方側に向けて、0°から35°の範囲で傾いている形状に対して、スクリュー孔の形成方向を合わせることができる。即ち、ラグスクリューを、前捻角の角度に適合させやすくなる。この結果、正対視で、大腿骨の頸部や骨頭が、前方に向かって傾いていても、骨頭の中心近傍にラグスクリューの先端を位置させやすくなる。また、第2の角度を0°から35°の範囲内とすることで、前捻角の角度で多くみられる傾きの角度に適合させやすくなる。
【0062】
また、大腿骨の内外方向に沿った視点において、大腿骨における小転子直下の位置から膝蓋骨直上に対応する位置の範囲で、曲率半径が514mm~1358mmの範囲内で、前方に弯曲した大腿骨に合わせて、弯曲部の曲がりが形成された場合には、大腿骨を側面視した状態で見られる、大腿骨の前弯形状に、より一層、シャフト部の形状を適合させやすくなる。即ち、大腿骨の前弯形状につき、その曲率半径が514mm~1358mmの範囲の曲がり具合に対して、シャフト部の弯曲部の曲がりを設定することで、大腿骨に対して、髄内釘を無理なく、至適位置に配置することができる。
【0063】
また、本体は、全長が265mm~400mmの範囲で形成され、シャフト部に弯曲部が形成されたことで、大腿骨の内外方向に沿った視点において、本体近位部の軸心である第2の軸心の位置に相当する線である第3の基準線から、本体遠位部の先端の中心位置までの距離が13mm以上となる場合には、大腿骨を側面視した状態で、髄内釘の先端の位置を、大腿骨の前弯形状に合わせて、大腿骨内部(大腿骨髄腔)の適切な位置に、より一層配置しやすくなる。即ち、例えば、髄内釘を大腿骨の内部に挿入する途中で、髄内釘が皮質骨と接触してしまう状態や、髄内釘の先端を大腿骨の遠位部側の所望の位置まで挿入した際に、髄内釘の先端が大腿骨の遠位端から外部に突出してしまう状態を抑止しやすくなる。この結果、髄内釘の大腿骨髄腔への適合性を高めることができる。
【0064】
また、弯曲部が、第1のベンド部、第2のベンド部、第3のベンド部、及び、第4のベンド部の4つのベンド部で構成され、大腿骨の内外方向に沿った視点において、第1のベンド部の弯曲開始位置は、本体近位部の一端から120mmの位置であり、第1のベンド部の弯曲開始位置及び第2のベンド部の弯曲開始位置の間の範囲の曲率半径は457mmである場合には、大腿骨の髄腔中心における前弯形状の頂点に対応する位置を越えて、髄内釘の先端を至適深度まで進める過程で、第1のベンド部の部分を、大腿骨の前弯形状の曲がり始めの骨形状に適合させることができる。これにより、髄内釘と、大腿骨近位部における前方皮質骨との接触を低減させ、髄内釘の先端を大腿骨遠位方向に向けて、スムーズに挿入可能となる。また、大腿骨近位部での、骨折損のリスクと、髄内釘を至適深度までの挿入を妨げるリスクを低減できる。なお、至適深度とは、冠状面に沿った方向で、スクリュー孔が、骨頭の中心近傍に位置することが可能となる高さを意味する。
【0065】
また、弯曲部が、第1のベンド部、第2のベンド部、第3のベンド部、及び、第4のベンド部の4つのベンド部で構成され、大腿骨の内外方向に沿った視点において、第2のベンド部の弯曲開始位置は、本体近位部の一端から150mmの位置であり、第2のベンド部の弯曲開始位置及び第3のベンド部の弯曲開始位置の間の範囲の曲率半径は475mmである場合には、大腿骨の髄腔中心における前弯形状の頂点に対応する位置に対応した形状としやすくなる。これにより、大腿骨の髄腔中心における前弯形状の頂点に対応する位置とその近傍の箇所に対しても、髄内釘を容易に挿入可能となる。また、第2のベンド部から先の部分を、大腿骨の前弯形状に適合させやすくなり、髄内釘を無理なく至適位置に配置することができる。
【0066】
また、弯曲部が、第1のベンド部、第2のベンド部、第3のベンド部、及び、第4のベンド部の4つのベンド部で構成され、大腿骨の内外方向に沿った視点において、第3のベンド部の弯曲開始位置は、本体近位部の一端から175mmの位置であり、第3のベンド部の弯曲開始位置及び第4のベンド部の弯曲開始位置の間の範囲の曲率半径は637mmである場合には、第3のベンド部を、大腿骨の前弯形状における、骨が前方側から後方側に向けて下がり出す位置(後方弯曲の開始点)の箇所に対応した形状としやすくなる。これにより、大腿骨遠位部分において、髄内釘の先端と、前方皮質骨との過度な接触を避け、大腿骨髄腔中心に髄内釘を誘導しやすくなる。また、第3のベンド部から先の部分を、大腿骨の前弯形状に適合させやすくなり、髄内釘を無理なく、至適位置に配置することができる。
【0067】
また、弯曲部が、第1のベンド部、第2のベンド部、第3のベンド部、及び、第4のベンド部の4つのベンド部で構成され、大腿骨の内外方向に沿った視点において、第4のベンド部の弯曲開始位置は、本体近位部の一端から205mmの位置であり、第3のベンド部の弯曲開始位置及び第4のベンド部の弯曲開始位置の間の範囲の曲率半径は637mmである場合には、大腿骨の前弯形状の頂点より遠位側の領域である、前弯形状の中でも、より曲がりが大きな範囲において、第4のベンド部により、髄内釘の先端が、前方皮質から突出することを抑止でき、かつ、大腿骨髄腔中心に、髄内釘を挿入することが可能となる。これにより、大腿骨髄腔中心への挿入に加え、ラグスクリューを至適位置に挿入することが可能となり、骨折部を強固に固定することができる。
【0068】
また、正対視で、かつ、髄内釘の大腿骨内への挿入開始前の状態で、スクリュー孔の形成方向が、第1の基準線と略平行であり、第2の基準線上の第1の軸心と弯曲部の頂点とを結ぶ線である第2の弯曲対応線と、第2の基準線がなす角度である第3の角度の範囲において、第2の基準線から見て弯曲部の頂点が内側方向に位置し、第3の角度が、0°~60°の範囲内、または、第2の基準線から見て弯曲部の頂点が外側方向に位置し、第3の角度が、0°~27°の範囲内である場合には、髄内釘を大腿骨に挿入して、途中で髄内釘を、所定の角度だけ、外旋、または、内旋させることで、髄内釘を大腿骨の所望位置に配置した際に、正対視で、第2の基準線に対して、第2の弯曲対応線を外側、または、内側に傾けた形状としつつ、スクリュー孔の形成方向を、第1の基準線に対して、前方、または、後方に傾けた形状とすることができる。即ち、大腿骨の外弯形状または内弯形状に対して、シャフト部の弯曲部を、外弯、または、内弯させ、かつ、大腿骨の前捻角または後捻角に対して、ラグスクリューの向きを合わせることで、髄内釘を大腿骨に適合させることができる。これにより、大腿骨の前弯形状の曲がりの方向、及び、前捻角または後捻角に適合させ、髄内釘を無理なく、至適位置に配置することができる。また、髄内釘を大腿骨内に挿入する前の状態で、正対視で、スクリュー孔の形成方向が、第1の基準線と略平行である、即ち、前捻角に対して、スクリュー孔の形成方向を予め一定角度傾けていないため、挿入時に、髄内釘を外旋、または、内旋させても、ラグスクリューの先端位置が、骨頭の中心近傍からずれることを抑止できる。
【0069】
また、第2の基準線から見て弯曲部の頂点が内側方向に位置し、第3の角度が7°である場合には、髄内釘を大腿骨に挿入して、途中で髄内釘を12°外旋させることで、髄内釘を大腿骨の所望位置に配置した際に、正対視で、第2の基準線に対して、第2の弯曲対応線を外側に5°傾けた形状(5°外湾)させつつ、スクリュー孔の形成方向を、第1の基準線に対して、前方に12°傾けた形状とすることができる。即ち、5°の外弯形状と、前捻角12°である大腿骨に対して、シャフト部の弯曲部が5°外弯し、ラグスクリューの向きを前捻角12°に適合させることができる。これにより、大腿骨の前弯形状及び前捻角に適合させ、髄内釘を無理なく、至適位置に配置することができる。また、髄内釘を大腿骨内に挿入する前の状態で、正対視で、スクリュー孔の形成方向が、第1の基準線と略平行である、即ち、前捻角に対して、スクリュー孔の形成方向を予め一定角度傾けていないため、挿入時に、髄内釘を12°外旋させても、ラグスクリューの先端位置が、骨頭の中心近傍から前方側にずれることを抑止できる。なお、本髄内釘では、大腿骨に挿入する前の状態では、正対視で、シャフト部の弯曲部は、7°内湾した形状となる。
【0070】
また、正対視で、かつ、髄内釘の大腿骨内への挿入開始前の状態で、第2の基準線上の第1の軸心と弯曲部の頂点とを結ぶ線である第2の弯曲対応線と、第2の基準線がなす角度である第3の角度の範囲において、第2の基準線から見て弯曲部の頂点が内側方向に位置し、第3の角度が、1°~25°の範囲内、または、第2の基準線から見て弯曲部の頂点が外側方向に位置し、第3の角度が、1°~25°の範囲内であり、第1の基準線とスクリュー孔の形成方向がなす角度である第4の角度の範囲において、第1の基準線を基準に、スクリュー孔の形成方向が前方側に傾くように位置し、第4の角度が、0°~35°の範囲内であり、または、第1の基準線を基準に、スクリュー孔の形成方向が後方側に傾くように位置し、第4の角度が、0°~2°の範囲内である場合には、髄内釘を外旋、または、内旋させることなく大腿骨に挿入して、髄内釘を大腿骨の所望位置に配置した際に、正対視で、第2の基準線に対して、第2の弯曲対応線を外側、または、内側に傾けた形状としつつ、スクリュー孔の形成方向を、第1の基準線に対して、前方、または、後方に傾けた形状とすることができる。即ち、大腿骨の外弯形状または内弯形状に対して、シャフト部の弯曲部を、外弯、または、内弯させ、かつ、大腿骨の前捻角または後捻角に対して、ラグスクリューの向きを合わせることで、髄内釘を大腿骨に適合させることができる。これにより、大腿骨の前弯形状の曲がりの方向、及び、前捻角または後捻角に適合させ、髄内釘を無理なく、至適位置に配置することができる。また、外旋または内旋することなく髄内釘を大腿骨内に挿入することが可能である。また、髄内釘を大腿骨内に挿入する前の状態で、正対視で、スクリュー孔の形成方向が、予め、第1の基準線に対して、前方側または後方側に傾いているため、所望位置までまっすぐ髄内釘を挿入するだけで、ラグスクリューが前捻角または後捻角に対応し、ラグスクリューの先端位置が、骨頭の中心近傍からずれることを抑止できる。
【0071】
また、第2の基準線から見て弯曲部の頂点が外側方向に位置し、第3の角度が5°であり、第1の基準線を基準に、スクリュー孔の形成方向が前方側に傾くように位置し、第4の角度が12°である場合には、髄内釘を外旋させることなく大腿骨に挿入して、髄内釘を大腿骨の所望位置に配置した際に、正対視で、第2の基準線に対して、第2の弯曲対応線を外側に5°傾けた形状(5°外湾)させつつ、スクリュー孔の形成方向を、第1の基準線に対して、前方に12°傾けた形状とすることができる。即ち、5°の外弯形状と、前捻角12°である大腿骨に対して、シャフト部の弯曲部が5°外弯し、ラグスクリューの向きを前捻角12°に適合させることができる。これにより、大腿骨の前弯形状及び前捻角に適合させ、髄内釘を無理なく、至適位置に配置することができる。また、外旋することなく髄内釘を大腿骨内に挿入することが可能である。また、髄内釘を大腿骨内に挿入する前の状態で、正対視で、スクリュー孔の形成方向が、予め、第1の基準線に対して、前方側に12°傾いているため、所望位置までまっすぐ髄内釘を挿入するだけで、ラグスクリューが前捻角12°に対応し、ラグスクリューの先端位置が、骨頭の中心近傍から前方側にずれることを抑止できる。なお、本髄内釘では、大腿骨に挿入する前の状態では、正対視で、シャフト部の弯曲部は、5°外湾した形状となる。
【発明の効果】
【0072】
本発明に係る髄内釘は、大腿骨近位側箇所の骨折に対して、施術の過程に伴う不具合を抑止できると共に、大腿骨内の理想的な位置に配置して、骨片を繋いで強固に固定することが可能なものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0073】
図1】(a)は、大腿骨を近位側から遠位側に向かう方向で見た、大腿骨の前捻角を示すための概略図であり、(b)は、人体を横切る面である、冠状面、矢状面、及び、横断面を示す概略図である。
図2】(a)は、人体における冠状面に沿った内外方向における内側から外側に向かって大腿骨を見た構図(側面視)での右大腿骨の形状を示す概略側面図であり、(b)は、人体における矢状面に沿った前後方向における前方から後方に向かって大腿骨を見た構図(正面視)での右大腿骨の形状を示す概略正面図である。
図3】大腿骨における外弯形状を示すための概略図である。
図4】(a)は、大腿骨の後顆と、大腿骨の大転子後縁が同一平面(基準面)に位置する状態を示す図であり、(b)は、内外方向に沿って外側から内側を見た状態での、後顆の位置及び大腿骨の大転子後縁の位置を示す図であり、(c)は、大腿骨の長手方向に沿って遠位側から近位側を見た状態での後顆の位置を示す図である。
図5】大腿骨における内弯形状を示すための概略図である。
図6】(a)~(d)は、従前の髄内釘の形状を示す図であり、(e)は、大腿骨の外弯形状と、シャフトにおける弯曲部の曲がりの方向との位置関係を示す図である。
図7】(a)は、従前の髄内釘を大腿骨に挿入し、その先端が大腿骨皮質骨に接触した状態を示す概略図であり、(b)は、従前の髄内釘を外旋させ、遠位部側に挿入しようとする状態を示す概略図である。
図8】(a)は、従前の髄内釘で、ラグスクリューの先端位置が、骨頭の中心より前方側に来た状態を示す概略図であり、(b)は、大腿骨を外部から圧迫して、固定対象となる骨片同士の間にギャップが生じてしまう状態を示す概略図である。
図9】本発明の第1の実施の形態である髄内釘を有する骨接合具について、(a)は、骨接合具を前方から後方に向かってみた正面図であり、(b)は、骨接合具を外側から内側に向かってみた側面図である。
図10】骨接合具を大腿骨の所望位置に挿入した状態を示す図である。
図11】(a)は、髄内釘を前方から後方に向かってみた正面図であり、(b)は、髄内釘を内側から外側に向かってみた側面図である。
図12】大腿骨に髄内釘を挿入する直前の状態で、髄内釘を基端側から先端側に向かって見た概略図である。
図13】髄内釘を大腿骨内に挿入して、正対視で、髄内釘を12°外旋した状態を示す概略図である。
図14】髄内釘のシャフト部における4カ所のベンド部の位置を示す図であり、(aa)は、髄内釘を前方から後方に向かってみた正面図であり、(b)は、髄内釘を外側から内側に向かってみた側面図である。
図15】4カ所のベンド部を示す概略拡大図である。
図16】大腿骨の前弯形状における骨の曲がりはじめの箇所と、髄内釘における第1のベンド部の弯曲開始位置との対応関係を示す図である。
図17】大腿骨の前弯形状における骨の曲がりの頂点の箇所と、髄内釘における第2のベンド部の弯曲開始位置との対応関係を示す図である。
図18】大腿骨の前方皮質骨と、髄内釘における第3のベンド部の弯曲開始位置との対応関係を示す図である。
図19】大腿骨の前弯形状の中でも、より曲がりが大きな範囲と、髄内釘における第4のベンド部の弯曲開始位置との対応関係を示す図である。
図20】本発明の第2の実施の形態である髄内釘を有する骨接合具について、(a)は、骨接合具を前方から後方に向かってみた正面図であり、(b)は、骨接合具を外側から内側に向かってみた側面図である。
図21】(a)は、髄内釘を前方から後方に向かってみた正面図であり、(b)は、髄内釘を外側から内側に向かってみた側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0074】
以下、本発明の実施の形態について説明し、本発明の理解に供する。
なお、以下で使用する「前(前方)」、「後(後方)」、「内(内側)」、及び、「外(外側)」の表記は、いずれも上記のとおり、人体を横切る面に沿った各方向を示す用語として使用する。また、以下では、髄内釘(またはシャフト)について、施術対象者の体幹に対して近位となる髄内釘の部位を「基端側」と称し、施術対象者の体幹に対して遠位となる髄内釘の部位を「先端側」と称する。
【0075】
また、図2(a)を基準に、大腿骨を側面視した場合で、骨幹部が、前方側に曲がりの頂点Pを有した、前方に弯曲した形状を「前弯形状」と称する。
【0076】
また、図3を基準に、大腿骨の長手方向に沿って近位側から遠位側を見た方向、かつ、後顆が下方に位置する方向から見た視点を「正対視」と称する。また、図3を基準に、正対視で、後顆(内側顆F3及び外側顆F4)を結ぶ線を「基準線A」と称し、この基準線Aと略直交する線であり、髄腔中心の両端部の位置M1を通る線を「基準線B」と称する。
【0077】
また、図3を基準に、正対視で、基準線Bに対する前弯形状における曲がりの方向の傾きについて、前弯形状における曲がりの方向が、基準線Bから見て外側に傾いた形状を「外弯形状」と称する。
【0078】
また、正対視において、基準線Bに対する前弯形状における曲がりの傾きについて、前弯形状の曲がりの方向が、基準線Bから見て内側に傾いた形状を「内弯形状」と称する。
【0079】
[本発明の第1の実施の形態]
図9(a)及び図9(b)に示すように、本発明を適用した髄内釘の一例である髄内釘1は、施術時にラグスクリュー2、サブピン3、ロッキングスクリュー4、ロッキングスクリュー5、セットスクリュー(図示省略)及びエンドキャプ(図示省略)と組み合わせて使用する部材である。また、各部材は、骨接合具Aを構成する部材である。
【0080】
なお、図9(a)は、骨接合具Aを前方から後方に向かってみた正面図である。また、図9(b)は、骨接合具Aを外側から内側に向かってみた側面図である。
【0081】
本実施の形態において骨接合具Aの各構成部材は、チタン合金により形成されることが好ましいが、これに限定するものではなく、生体親和性に優れ、耐疲労強度が高いもの、例えば、アルミニウム、バナジウム等の合金、ステンレス鋼、各種エンジニアプラスチック等の公知素材で形成したものであってもよい。また、骨接合具を構成する各部材毎に異なる素材で形成されたものであってもよい。
【0082】
また、髄内釘1は、大腿骨の遠位側に向けて、その先端側から挿入するものであり、骨折した部位が治癒するまでに骨片がずれて癒着したり、あるいは、分離したりしないように骨片間を連結する部材である。また、髄内釘1は、骨内においてラグスクリュー2等を挿通させて保持する部材でもある。
【0083】
また、髄内釘1は、左大腿骨用の部材である。なお、以下では髄内釘1に基づき説明を行うが、本発明を適用した髄内釘は、右大腿骨用の髄内釘にも適用可能である。また、右大腿骨用の髄内釘は、右大腿骨の前弯形状、前捻角(後捻角)及び外弯形状(内弯形状)に対応した形状を有するが、基本的な構造は、髄内釘1と同様である。
【0084】
また、ラグスクリュー2は、骨折した部位が治癒するまでに骨片がずれて癒着したり、あるいは、分離したりしないように骨片間を連結する部材である。
【0085】
また、サブピン3は、骨折部位へ突出させて骨折した骨片間を連結させる部材である。また、サブピン3は、海綿質に食い込んで施術対象骨の骨片に加わる回転方向の力への抵抗力を生じさせる部分となり、ラグスクリュー2と協働して骨片の回旋防止効果を得るための部材である。
【0086】
また、ロッキングスクリュー4及びロッキングスクリュー5は、髄内釘1の下端を施術対象骨に固定する部材である。なお、本実施の形態において、ロッキングスクリュー4及びロッキングスクリュー5は2箇所のみに用いているが、これに限定するものではなく、髄内釘1に形成された横孔(符号省略)の数等に応じて適宜必要な本数を用いることができる。
【0087】
また、骨接合具Aは、図示しないセットスクリューを有している。セットスクリューは、髄内釘1の長軸孔の上方、かつ、その内部に設けられた部材であり、ラグスクリュー2と嵌合することで、ラグスクリュー2が後進して脱落しないように保持すると共に、ラグスクリュー2の回旋を抑制する部材である。
【0088】
また、図10は、骨接合具Aを大腿骨Fの所望位置(至適深度)に挿入した状態を示す図である。図10は、大腿骨F及び骨接合具Aを前方から後方に向かってみた正面図である。また、図10に示す大腿骨は、左大腿骨である。
【0089】
図10に示すように、髄内釘1の先端は、大腿骨骨幹部F5における大腿骨遠位部F7の近傍の位置に挿入されている。また、ラグスクリュー2の先端は、大腿骨近位部F8における大腿骨頭F1の中心位置の近傍の位置に挿入されている。
【0090】
髄内釘1の形状につき、詳細を説明する。
【0091】
図11(a)及び図11(b)には、髄内釘1のみを示しており、図11(a)は図9(a)に対応する構図であり、図11(b)は図9(b)に対応する構図である。また、図11(a)及び図11(b)には、符号2aで、髄内釘1にラグスクリュー2を挿通させた際の、ラグスクリュー2の先端の位置を模擬的に示している。
【0092】
図11(a)及び図11(b)に示すように、髄内釘1は、本体近位部10と、シャフト部11と、本体遠位部12で構成されている。また、髄内釘1は、その長手方向軸線に沿って、内部を貫通した長軸孔(図示省略)が形成された筒状体である。
【0093】
また、本体近位部10は、髄内釘1の基端部側を構成する部材である。本体近位部10には、ラグスクリュー2を挿通させるためのスクリュー孔100と、サブピン3を挿通させるためのピン孔101が形成されている。なお、スクリュー孔100の形成方向については後述する。
【0094】
また、このスクリュー孔100とピン孔101は、髄内釘1の内部を貫通した長軸孔と交差して形成されている。
【0095】
また、本体近位部10の基端部側の内部には、セットスクリュー(図示省略)が内蔵されている。
【0096】
また、本体近位部10は、外周径が略同一に形成された同径部10aと、シャフト部11の方向に向かって、外周径が徐々に小さくなる径縮部10bを有している。なお、この筒状体の一部を構成する、本体近位部10の径縮部10bと繋がったシャフト部11の端部の軸心(シャフト部11の開始位置の軸心)が、本願請求項における「シャフト部の一端側の軸心である第1の軸心」に相当する部分である。
【0097】
また、シャフト部11は、髄内釘1の長手方向に沿って伸びる部分である。また、このシャフト部11には、弯曲部110が形成されている(図11(b)参照)。
【0098】
この弯曲部110は、髄内釘1を、大腿骨の所定位置まで挿入した際に、大腿骨の前弯形状、及び、外弯形状に沿って、髄内釘1を配置するための部分となる。弯曲部110の曲がりの詳細については後述する。
【0099】
また、シャフト部11の本体遠位部12側には、2つの横止め孔111と、横止め孔112が形成されている。各孔はそれぞれ、ロッキングスクリュー4と、ロッキングスクリュー5を挿通させるための孔部であり、髄内釘1の内部を貫通した長軸孔と交差して形成されている。
【0100】
また、横止め孔111の形成方向と、横止め孔112の形成方向とは、異なる方向で形成されている。
【0101】
ここで、必ずしも、横止め孔111の形成方向と、横止め孔112の形成方向とは、異なる方向で形成される必要はない。但し、2つのロッキングスクリュー4、5を挿通させる方向を変えて、骨接合具Aを施術対象骨に対して、より強固に固定できる点から、横止め孔111の形成方向と、横止め孔112の形成方向とは、異なる方向で形成されることが好ましい。
【0102】
また、本体遠位部12は、髄内釘1の先端部側を構成する部材である。本体遠位部12は、その先端に向かって、外周径が徐々に小さくなるように形成されている。また、本体遠位部12の先端は、髄内釘1の内部を貫通した長軸孔の開口部120となっている。
【0103】
続いて、大腿骨の前捻角に対応する、スクリュー孔100の形成方向と、大腿骨の外弯形状に対応する、シャフト部11の弯曲部110の曲がりの方向について説明する。
【0104】
まず、髄内釘1におけるラグスクリュー2を挿通するスクリュー孔100の形成方向は、大腿骨に髄内釘1を挿入する直前の状態では、髄内釘1を、基端側から先端側に向かって見た視点(上記の正対視に相当する視点)で、左右方向に向かって形成されている(図12参照)。
【0105】
より詳しくは、図12で見ると、スクリュー孔100の形成方向は、図中の左右方向(時計の周方向における3時と9時を結ぶ方向)に形成されている。また、スクリュー孔100の形成方向は、髄内釘1の下方に、水平面があると想定した場合、水平面と、スクリュー孔100の形成方向がなす角度は0°(略平行)となっている。
【0106】
また、シャフト部11の弯曲部110の曲がりの方向は、大腿骨に髄内釘1を挿入する直前の状態では、髄内釘1を、基端側から先端側に向かって見た視点(上記の正対視に相当する視点)で、シャフト部11の開始位置の軸心を通る「鉛直線L3」と、シャフト部11の開始位置の軸心と弯曲部110の曲がりの頂点を結ぶ「弯曲対応線L4」について、この鉛直線L3に対して、弯曲対応線L4が、大腿骨から見て内側に位置し、かつ、鉛直線L3と弯曲対応線L4とがなす角度が7°になるように、弯曲部110の曲がりの方向が形成されている(図12参照)。この弯曲部110の曲がりの方向を、「7°内弯」していると呼ぶ。
【0107】
なお、図12は、大腿骨に髄内釘1を挿入する直前の状態における、スクリュー孔100の形成方向と、シャフト部11の弯曲部110の曲がりの方向の、各方向をイメージしやすくするため、髄内釘1に、ラグスクリュー2、ロッキングスクリュー4及びロッキングスクリュー5を取り付けて図示している。
【0108】
実際の施術では、後述するように、髄内釘1を大腿骨に挿入し、髄内釘1を外旋させ、髄内釘1を所定位置に配置した状態で、ラグスクリュー2、ロッキングスクリュー4及びロッキングスクリュー5を挿入するため、大腿骨挿入前に髄内釘1に、各部材が挿通されることはない。
【0109】
このように、髄内釘1では、上記で説明したスクリュー孔100の形成方向(水平面に略平行な0°)と、シャフト部11の弯曲部110の曲がりの方向(7°内弯)を有している。
【0110】
そして、施術の際、髄内釘1を、その先端から大腿骨内に挿入して、正対視で、作業者が髄内釘1を12°外旋する(シャフト部11の開始位置の軸心を中心に髄内釘を外側方向に回転させる)ことで、スクリュー孔100の形成方向は、基準線Aとなす角度が12°となる。また、弯曲対応線L4は、基準線Bとなす角度が5°となり、シャフト部11の弯曲部110の曲がりの方向は、5°外弯した方向となる(図13参照)。なお、図13では、シャフト部11の開始位置の軸心を符号Gで示し、弯曲部110の曲がりの頂点を符号Eで示している。
【0111】
つまり、髄内釘1は、大腿骨内に挿入して、12°外旋することで、前捻角12°で、5°の外弯形状を有する大腿骨に適合した配置を取ることができる。
【0112】
即ち、髄内釘1は、前捻角12°を有する大腿骨に対して、その骨頭F1の中心近傍に、ラグスクリュー2の先端を配置することができる。また、ラグスクリュー2の先端の位置が、骨頭F1の前側に向かうことを抑止できる。
【0113】
また、髄内釘1は、5°の外弯形状を有する大腿骨に対して、シャフト部11の弯曲部110の曲がりの方向を合わせることができる。これにより、シャフト部11の大腿骨への適合性を高めることができる。
【0114】
ここで、本発明を適用した髄内釘では、必ずしも、正対視で、水平面とスクリュー孔100の形成方向がなす角度が0°(略平行)に設定され、大腿骨への挿入した後、12°外旋して、髄内釘を大腿骨に配置するように限定されるものではない。この点は、大腿骨の前捻角の角度に合わせて設計及び配置可能である。ここで、好ましくは、前捻角及び後捻角において、よく見られる数値範囲である、基準線Aに対して、-2°から35°の範囲で、水平面とスクリュー孔100の形成方向がなす角度と、髄内釘を外旋(または内旋)する角度を設定することができる。
【0115】
また、本発明を適用した髄内釘では、必ずしも、正対視で、弯曲部110の曲がりの方向が7°内弯しており、大腿骨への挿入した後、12°外旋して、髄内釘を大腿骨に配置するように限定されるものではない。この点は、大腿骨の外弯形状または内弯形状と、その角度に合わせて設計及び配置可能である。ここで、好ましくは、大腿骨における一般的な数値範囲である、1°から25°の内弯形状、または、1°から25°の外弯形状の範囲で、弯曲部110の曲がりの方向の向き及び角度と、髄内釘を外旋(または内旋)する角度を設定することができる。
【0116】
このように、髄内釘1では、スクリュー孔100の形成方向(水平面に略平行な0°)と、シャフト部11の弯曲部110の曲がりの方向(7°内弯)に特徴を持たせ、一定の前捻角及び外弯形状を有する大腿骨への適合性を充分に高める構造となっている。
【0117】
また、本発明を適用した髄内釘では、例えば、以下の表1~表6に示す数値の組み合わせで髄内釘を設計し、これを大腿骨内に挿入して、所望の角度の前捻角、または、後捻角と、外弯形状、または、内弯形状を有する大腿骨に適合した配置を取ることができる。
【0118】
【表1】
【0119】
【表2】
【0120】
【表3】
【0121】
【表4】
【0122】
【表5】
【0123】
【表6】
【0124】
ここで、表1~表6に示す各数値の組み合わせでは、まず、スクリュー孔100の形成方向は、大腿骨に髄内釘1を挿入する直前の状態において、正対視で、水平面に略平行な0°となるように形成されている。
【0125】
また、例えば、表1において、大腿骨への挿入前のシャフト部11の弯曲部の曲がりが0°(外弯または内弯なし)であれば、これを大腿骨に挿入して、1°外旋させることで、前捻角1°で、かつ、1°外弯した大腿骨に対応する髄内釘となる。
【0126】
また、例えば、表3において、大腿骨への挿入前のシャフト部11の弯曲部の曲がりが2°内弯であれば、これを大腿骨に挿入して、1°外旋させることで、前捻角1°で、かつ、1°内弯した大腿骨に対応する髄内釘となる。
【0127】
さらに、例えば、表5において、大腿骨への挿入前のシャフト部11の弯曲部の曲がりが3°外弯であれば、これを大腿骨に挿入して、2°内旋させることで、後捻角2°で、かつ、1°外弯した大腿骨に対応する髄内釘となる。
【0128】
このように、本発明の髄内釘では、髄内釘を大腿骨内に挿入して、所望の角度の前捻角、または、後捻角と、外弯形状、または、内弯形状を有する大腿骨に適合した配置を取ることができる。
【0129】
なお、上記表1~表3の各数値の組み合わせは、左大腿骨用の髄内釘だけでなく、右大腿骨用の髄内釘に対しても適用可能な内容である。
【0130】
また、必ずしも、スクリュー孔100の形成方向が、大腿骨に髄内釘1を挿入する直前の状態において、正対視で、水平面に略平行な0°となるように形成される必要はない。例えば、水平面となす角度を変えて、対象となる大腿骨の前捻角、または、後捻角と、外弯形状、または、内弯形状に合わせて、シャフト部11の弯曲部の曲がりの方向と角度、及び、挿入した後の回転する方向と角度を適宜設定することができる。
【0131】
次に、大腿骨の前弯形状に対応する、シャフト部11の弯曲部110の曲がりの方向について説明する。
【0132】
まず、髄内釘1は、その基端13から先端14までが265mmの長さに形成されている。また、シャフト部11の弯曲部110は、長手方向に沿って、4カ所にベンド部(弯曲)が設けられ、その全体の曲がりが形成されている。
【0133】
図14(a)及び図14(b)には、第1のベンド部、第2のベンド部、第3のベンド部、及び第4のベンド部のそれぞれにつき、各弯曲開始位置を符号A~Dで示している。また、図14(a)は、髄内釘1を前方から後方に向かってみた正面図である。また、図14(b)は、髄内釘1を外側から内側に向かってみた側面図である。
【0134】
図14(b)に示すように、髄内釘1のシャフト部11の弯曲部110は、全体として、図中の左側から右側に向けて曲がっており、この曲がりは、大腿骨の前弯形状における前方から後方に向かう曲がりに対応している。なお、図14(a)及び図14(b)は、左大腿骨用の髄内釘を示しているが、右大腿骨用の髄内釘でも、左用と同様に、シャフト部の弯曲部が、大腿骨の前弯形状における前方から後方に向かう曲がりに対応している。
【0135】
また、髄内釘1は、弯曲部110の曲がりが形成されたことで、側面視した状態で、本体近位部10の軸心の延長線に相当する基準線L5と、先端14の中心位置との距離hが15mmとなっている。
【0136】
また、第1のベンド部の弯曲開始位置Aは、髄内釘1の基端13からの距離が120mmである。また、第2のベンド部の弯曲開始位置Bは、髄内釘1の基端13からの距離が150mmである。また、第3のベンド部の弯曲開始位置Cは、髄内釘1の基端13からの距離が175mmである。さらに、第4のベンド部の弯曲開始位置Dは、髄内釘1の基端13からの距離が205mmである。
【0137】
また、髄内釘1では、図15に示すように、位置AB間の曲率半径が457.2055mm、位置BC間の曲率半径が475.1435mm、位置CD間の曲率半径が637.797mmとなっている。また、位置AC間の曲率半径が439.8625mm、位置BD間の曲率半径が543.8545mmとなっている。
【0138】
このように、髄内釘1では、4カ所のベンド部を形成して弯曲部110の全体の曲がりを構成している。また、この4カ所のベンド部を形成することで、基準線L5と髄内釘1の先端14の中心位置との距離hが15mmとなる。
【0139】
ここで、必ずしも、髄内釘1は、その基端13から先端14までが265mmの長さに限定されるものではなく、その長さは適宜設定することができる。また、本発明を適用した髄内釘は、その全長が265mmから400mmの範囲で設定されることが好ましい。また、全長が265mmに設定されることで、日本人高齢者、特に女性の大腿骨の、略平均的な長さに適合させやすくなる。
【0140】
また、必ずしも、髄内釘1におけるシャフト部11の弯曲部110が、長手方向に沿って、4カ所にベンド部(弯曲部)を設けられ、全体の曲がりが形成される必要はなく、弯曲部の曲がりは適宜設定することができる。また、大腿骨の前弯形状の一般的な数値範囲である、小転子直下の位置から膝蓋骨直上に対応する位置の範囲で、曲率半径が514mm~1358mmの範囲内の曲がりに対応して、弯曲部の曲がりが形成されることが好ましい。
【0141】
また、必ずしも、髄内釘1は、弯曲部110の曲がりが形成されたことで、側面視した状態で、本体近位部10の軸線の延長線に相当する基準線L5と、先端14の中心位置との距離hが15mmとなるものに限定されるものではなく、適宜設定することができる。但し、髄内釘1の全長を265mmにして、距離hを15mmに設定することで、日本人高齢者、特に、女性の大腿骨の略平均的な長さと前弯形状に合わせて、髄内釘の先端を、大腿骨内部(大腿骨髄腔)の適切な位置に、より一層配置しやすくなる。また、本発明では、髄内釘の全長に応じて、本体近位部の軸線の延長線に相当する基準線と、先端の中心位置との距離hが13mm以上に設定されることが好ましい。
【0142】
また、施術対象者の大腿骨の長さに合わせて、髄内釘の全長と、基準線L及び髄内釘の先端の中心位置との距離hの関係を次のように設定することが可能である。一例として、髄内釘の全長が300mm~320mmで、距離hが17~22mmとの設定や、髄内釘の全長が340mm~360mmで、距離hが22~25mmとの設定が考えられる。
【0143】
また、シャフト部11の弯曲部110における4カ所のベンド部について、髄内釘1の基端から各弯曲開始位置までの距離と、曲率半径の値は、適宜設定することができる。但し、上記の髄内釘1の設計とすることで、以下に説明する作用が生じる。
【0144】
まず、第1のベンド部の弯曲開始位置Aが、髄内釘1の基端13からの距離が120mmであり、側面視で、位置AB間の曲率半径が457.2055mmに設定されたことで、大腿骨の髄腔中心における前弯形状の頂点に対応する位置を越えて、髄内釘の先端14を至適深度まで進める過程で、第1のベンド部の部分を、大腿骨の前弯形状の曲がり始めの骨形状に適合させることができる。
【0145】
これにより、髄内釘1と、大腿骨近位部における前方皮質骨F9との接触を低減させ、髄内釘1の先端14を大腿骨遠位方向に向けて、スムーズに挿入可能となる。また、大腿骨近位部での、骨折損のリスクと、髄内釘を至適深度までの挿入を妨げるリスクを低減できる。
【0146】
この点について、図16において、符号Aで第1のベンド部の弯曲開始位置を示し、符号F9で、大腿骨近位部における前方皮質骨を示している。
【0147】
また、第2のベンド部の弯曲開始位置Bは、髄内釘1の基端13からの距離が150mmであり、側面視で、位置BC間の曲率半径が475.1435mmに設定されたことで、大腿骨の髄腔中心における前弯形状の頂点に対応する位置に対応した形状としやすくなる。
【0148】
これにより、大腿骨の髄腔中心における前弯形状の頂点に対応する位置とその近傍の箇所に対しても、髄内釘を容易に挿入可能となる。また、第2のベンド部から先の部分を、大腿骨の前弯形状に適合させやすくなり、髄内釘1を無理なく至適位置に配置することができる。
【0149】
この点について、図17において、符号Bで第2のベンド部の弯曲開始位置を示し、符号M2で、大腿骨の髄腔中心における前弯形状の頂点に対応する位置を示している。
【0150】
また、第3のベンド部の弯曲開始位置Cは、髄内釘1の基端13からの距離が175mmであり、側面視で、位置CD間の曲率半径が637.797mmに設定されたことで、第3のベンド部を、大腿骨の前弯形状における、骨が前方側から後方側に向けて下がり出す位置(後方弯曲の開始点)の箇所に対応した形状としやすくなる。
【0151】
これにより、大腿骨遠位部分において、髄内釘1の先端14と、前方皮質骨F10との過度な接触を避け、大腿骨髄腔中心に髄内釘を誘導しやすくなる。
【0152】
この点について、図18において、符号Cで第3のベンド部の弯曲開始位置を示し、符号F10で前方皮質骨を示している。
【0153】
また、第4のベンド部の弯曲開始位置Dは、髄内釘1の基端13からの距離が205mmであり、側面視で、位置CD間の曲率半径が637.797mmに設定されたことで、大腿骨の前弯形状の頂点より遠位側の領域である、前弯形状の中でも、より曲がりが大きな範囲Tにおいて、第4のベンド部により、髄内釘1の先端14が、前方皮質から突出することを抑止でき、かつ、大腿骨髄腔中心に、髄内釘を挿入することが可能となる。
【0154】
これにより、大腿骨髄腔中心への挿入に加え、ラグスクリューを至適位置に挿入することが可能となり、骨折部を強固に固定することができる。
【0155】
この点について、図19において、符号Dで第4のベンド部の弯曲開始位置を示し、符号M2で、大腿骨の髄腔中心における前弯形状の頂点に対応する位置を示し、符号Tで、大腿骨における前弯形状の頂点より遠位側の領域である、前弯形状の中でも、より曲がりが大きな範囲を示している。
【0156】
このように、髄内釘1では、シャフト部11の弯曲部110における4カ所のベンド部の位置及び曲がりを設定することで、大腿骨の前弯形状の曲がりの形状に合わせて、髄内釘1を充分に適合させることが可能となる。
【0157】
続いて、本発明を適用した髄内釘1を、大腿骨に挿入する際の施術の流れを簡易的に説明する。
【0158】
(1)大腿骨の体幹近位側から遠位側へリーマーで穿孔し、形成された孔に髄内釘1を挿入する。
【0159】
(2)大腿骨の内部(大腿髄腔)で、髄内釘1の先端を所定の位置まで挿入し、髄内釘1を取り付けたターゲット機器ごと、髄内釘1を12°外旋させる。正対視で、スクリュー孔100の形成方向を大腿骨の前捻角に合わせ、かつ、シャフト10の弯曲部110の曲がりの方向を5°外旋させた状態とする。また、X線撮影装置を使用し、挿入した髄内釘1のスクリュー孔100の位置を微調整する。
【0160】
(3)ラグスクリュー2の挿入予定部位に係る大腿骨側面を穿孔し、形成した孔にラグスクリュー2を挿入し、髄内釘1のスクリュー孔100に挿通させ、大腿骨頭F1内の中心近傍に、ラグスクリュー2の先端部が届くまで差し入れる。
【0161】
(4)大腿骨頭F1内の中心近傍にラグスクリュー2の先端部が届いた後、髄内釘1の長軸孔上方に内蔵されたセットスクリューの嵌合突部を、ラグスクリュー2の長溝へ嵌め入れ、上方から押圧してラグスクリュー2を固定する。
【0162】
(5)サブピン3の挿入予定部位に係る大腿骨側面を穿孔し、形成した孔にサブピン3を挿入し、髄内釘1のピン孔101及び髄内釘1内に配置されているセットスクリューのピン孔に挿通させる。
【0163】
(6)挿着されたセットスクリューの上部から更にエンドキャップを取着してサブピン3を、髄内釘1から外れにくくする。
【0164】
以上の流れにより、髄内釘1を有する骨接合具Aを施術対象となる大腿骨に挿入し、骨接合具Aで、大腿骨近位部側の骨折部位を、強固に固定することができる。
【0165】
本実施の形態の効果として、以下の主な効果が挙げられる。
【0166】
まず、髄内釘1では、正対視で、シャフト部11の弯曲部110の曲がりの方向を、大腿骨Fの外弯形状に合わせて、5°外旋した角度とすることができる。これにより、大腿骨Fの外弯形状に対して、髄内釘1を適合させることができる。
【0167】
また、大腿骨Fに、髄内釘1を先端14から挿入する際に、髄内釘1を12°外旋させることで、容易に挿入することができる。また、この12°外旋させる作業により、正対視で、シャフト部11の弯曲部110の曲がりの方向が、5°外弯した角度を取ることができる。
【0168】
さらに、この12°外旋させる作業により、正対視で、スクリュー孔100の形成方向が、大腿骨Fの前捻角に対応するように、基準線Aとのなす角度を12°にすることができる。
【0169】
また、この12°外旋の作業では、スクリュー孔100の形成方向は、ラグスクリュー2の先端が、大腿骨頭F1の中心近傍に位置する向きとなるため、ラグスクリュー2の先端が、大腿骨頭F1の前方側に位置してしまう状態を抑止できる。
【0170】
また、これにより、ラグスクリュー2の先端のずれに対して、大腿骨を外部から圧迫して、ラグスクリュー2の先端位置が、骨頭F1の中心近傍に来るように整復する作業を回避することができる。そのため、圧迫に伴い、固定対象となる骨片同士の間にギャップが生じてしまうことや、膝が内旋して、過前捻の状態となることを抑止できる。
【0171】
また、髄内釘1では、シャフト部11の弯曲部110を、4つのベント部で形成し、各ベント部の位置及び曲がりを設定することで、大腿骨の前弯形状の曲がりの形状に合わせて、髄内釘1を充分に適合させることができる。
【0172】
[本発明の第2の実施の形態]
続いて、本発明の第2の実施の形態である髄内釘1aについて説明する。なお、以下の説明では、上述した本発明の第1の実施の形態と異なる特徴について説明を行い、第1の実施の形態と重複する部材については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0173】
図20(a)及び図20(b)に示すように、本発明を適用した髄内釘の一例である髄内釘1aは、施術時にラグスクリュー2、サブピン3、ロッキングスクリュー4、ロッキングスクリュー5、セットスクリュー及びエンドキャップと組み合わせて使用する部材である。また、各部材は、骨接合具Bを構成する部材である。
【0174】
なお、図20(a)は、骨接合具Bを前方から後方に向かってみた正面図である。また、図20(b)は、骨接合具Bを外側から内側に向かってみた側面図である。
【0175】
また、図21(a)及び図21(b)には、髄内釘1aのみを示しており、図21(a)は図20(a)に対応する構図であり、図21(b)は図20(b)に対応する構図である。また、図21(a)及び図21(b)には、符号20aで、髄内釘1aにラグスクリュー2を挿通させた際の、ラグスクリュー2の先端の位置を模擬的に示している。
【0176】
図21(a)及び図21(b)に示すように、髄内釘1aは、本体近位部7と、シャフト部8と、本体遠位部9で構成されている。また、髄内釘1aは、その長手方向軸線に沿って、内部を貫通した長軸孔(図示省略)が形成された筒状体である。
【0177】
また、本体近位部7には、ラグスクリュー2を挿通させるためのスクリュー孔100aと、サブピン3を挿通させるためのピン孔101が形成されている。なお、スクリュー孔100aの形成方向については後述する。
【0178】
また、このスクリュー孔100aとピン孔101は、髄内釘1aの内部を貫通した長軸孔と交差して形成されている。
【0179】
また、本体近位部7の基端部側の内部には、セットスクリュー(図示省略)が内蔵されている。
【0180】
また、シャフト部8には、弯曲部110aが形成されている(図21(b)参照)。
【0181】
この弯曲部110aは、髄内釘1aを、大腿骨の所定位置まで挿入した際に、大腿骨の前弯形状、及び、外弯形状に沿って、髄内釘1aを配置するための部分となる。弯曲部110aの曲がりの詳細については後述する。
【0182】
また、シャフト部8の本体遠位部9側には、2つの横止め孔111と、横止め孔112が形成されている。
【0183】
続いて、大腿骨の前捻角に対応する、スクリュー孔100aの形成方向と、大腿骨の外弯形状に対応する、シャフト部8の弯曲部110aの曲がりの方向について説明する。
【0184】
まず、髄内釘1aにおけるラグスクリュー2を挿通するスクリュー孔100aの形成方向は、大腿骨に髄内釘1を挿入する直前の状態では、髄内釘1aを、基端側から先端側に向かって見た視点(上記の正対視に相当する視点)で、髄内釘1aの下方に、水平面があると想定した場合、水平面と、スクリュー孔100aの形成方向がなす角度が12°となっている(水平面に対して12°斜め上方に向いている。図示省略)。
【0185】
また、シャフト部8の弯曲部110aの曲がりの方向は、大腿骨に髄内釘1aを挿入する直前の状態では、髄内釘1aを、基端側から先端側に向かって見た視点(上記の正対視に相当する視点)で、シャフト部8の開始位置の軸心を通る「鉛直線L6(図示省略)」と、シャフト部8の開始位置の軸心と弯曲部110aの曲がりの頂点を結ぶ「弯曲対応線L7(図示省略)」について、この鉛直線L6に対して、弯曲対応線L7が、大腿骨から見て外側に位置し、かつ、鉛直線L6と弯曲対応線L7とがなす角度が5°になるように、弯曲部110aの曲がりの方向が形成されている。この弯曲部110aの曲がりの方向を、5°外弯していると呼ぶ。
【0186】
このように、髄内釘1aでは、上記で説明したスクリュー孔100aの形成方向(水平面に対して12°)と、シャフト部8の弯曲部110aの曲がりの方向(5°外弯)を有している。
【0187】
そして、施術の際、髄内釘1aを、その先端から大腿骨内にまっすぐ挿入して、正対視で、作業者が髄内釘1を外旋することなく、スクリュー孔100aの形成方向は、基準線Aとなす角度が12°となる。また、弯曲対応線L7は、基準線Bとなす角度が5°となり、シャフト部8の弯曲部110aの曲がりの方向は、5°外弯した方向となる。
【0188】
つまり、髄内釘1aは、大腿骨内に挿入して、外旋することなく、前捻角12°で、5°の外弯形状を有する大腿骨に適合した配置を取ることができる。
【0189】
即ち、髄内釘1aは、前捻角12°を有する大腿骨に対して、その骨頭F1の中心近傍に、ラグスクリュー2の先端を配置することができる。また、ラグスクリュー2の先端の位置が、骨頭F1の前側に向かうことを抑止できる。
【0190】
また、髄内釘1aは、5°の外弯形状を有する大腿骨に対して、シャフト部8の弯曲部110aの曲がりの方向を合わせることができる。これにより、シャフト部8の大腿骨への適合性を高めることができる。
【0191】
このように、髄内釘1aでは、スクリュー孔100aの形成方向(水平面に対して12°)と、シャフト部8の弯曲部110aの曲がりの方向(5°外弯)に特徴を持たせ、一定の前捻角及び外弯形状を有する大腿骨への適合性を充分に高める構造となっている。
【0192】
ここで、本発明の第2の実施の形態では、必ずしも、大腿骨に髄内釘1を挿入する直前の状態において、正対視で、水平面と、スクリュー孔100aの形成方向がなす角度が12°となり、弯曲部110aの曲がりの方向が、5°外弯した形状となる必要はない。対象となる大腿骨の前捻角、または、後捻角と、外弯形状、または、内弯形状に合わせて、例えば、正対視で、水平面と、スクリュー孔の形成方向がなす角度が-2°から35°の範囲内で設定され、弯曲部の曲がりの方向が、1°から25°の範囲で外弯した形状、または、1°から25°の範囲で内弯した形状を取ることもできる。
【0193】
以上のとおり、本発明に係る髄内釘は、大腿骨近位側箇所の骨折に対して、施術の過程に伴う不具合を抑止できると共に、大腿骨内の理想的な位置に配置して、骨片を繋いで充分に固定することが可能なものとなっている。
【0194】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0195】
A 骨接合具
1 髄内釘
10 本体近位部
10a 同径部
10b 径縮部
11 シャフト部
110 弯曲部
12 本体遠位部
120 (長軸孔の)開口部
13 (髄内釘の)基端
14 (髄内釘の)先端
100 スクリュー孔
101 ピン孔
2 ラグスクリュー
3 サブピン
4 ロッキングスクリュー
5 ロッキングスクリュー
F 大腿骨
F1 (大腿)骨頭
F2 (大腿)頸部
F3 内側顆
F4 外側顆
F5 (大腿骨)骨幹部
F6 大転子後縁
F7 (大腿骨)遠位部
F8 (大腿骨)近位部
F9 (大腿骨の前方側の)皮質骨
S1 大腿骨頸部軸
S2 大腿骨顆部軸
M 髄腔中心
M1 髄腔中心の両端部
M2 髄腔中心のうち前弯形状の頂点に対応する位置
L1 (大腿骨の)小転子直下の位置
L2 (大腿骨の)膝蓋骨直上に対応する位置
L3 鉛直線
L4 弯曲対応線
L5 側面視で本体近位部の軸心の延長線に相当する線
G シャフト部の開始位置の軸心

B 骨接合具
1a 髄内釘
7 本体近位部
8 シャフト部
9 本体遠位部
100a スクリュー孔
110a 弯曲部
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