(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069013
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】排ガス浄化用触媒の製造方法および排ガス浄化用触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 37/02 20060101AFI20230511BHJP
B01J 23/63 20060101ALI20230511BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
B01J37/02 101Z
B01J23/63 A
B01J37/02 301C
B01D53/94 222
B01D53/94 ZAB
B01D53/94 241
B01D53/94 245
B01D53/94 280
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180551
(22)【出願日】2021-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】大島 立寛
(72)【発明者】
【氏名】大橋 達也
(72)【発明者】
【氏名】田▲崎▼ 凌
【テーマコード(参考)】
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
4D148AA06
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4G169FA03
4G169FA06
4G169FB14
4G169FB15
4G169FB30
(57)【要約】
【課題】高温環境による貴金属触媒の移動を抑制し、温度特性の低下を防止できる技術を提供する。
【解決手段】ここに開示される製造方法は、複数のセルを仕切る隔壁16を有し、SiCを含有するSiC基材10を準備する基材準備工程と、SiC基材10の隔壁16の表面に、少なくともPd粒子22を含有するPd触媒層20を形成する触媒層形成工程とを備えている。そして、ここに開示される製造方法では、触媒層形成工程において、Si又はSiCを含むSi部材(例えばSiC基材10の隔壁16)にPd粒子22を直接担持させることによってPd触媒層20を形成する。このようにSi部材(SiC基材10)とPd粒子22とを予め接触させておくことによって、高温環境下でPd粒子22が移動して凝集することを抑制し、温度特性の低下を防止できる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセルを仕切る隔壁を有し、SiCを含有するSiC基材を準備する基材準備工程と、
前記SiC基材の隔壁の表面に、少なくともPdを含有するPd触媒層を形成する触媒層形成工程と
を備え、
前記触媒層形成工程において、Si又はSiCを含むSi部材に前記Pdを直接担持させることによって前記Pd触媒層を形成する、排ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項2】
前記触媒層形成工程において、金属酸化物担体を実質的に含有しないPd触媒層を形成する、請求項1に記載の排ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項3】
前記金属酸化物担体は、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化プラセオジム、酸化ランタン、酸化ニオブ、酸化イットリウムからなる群から選択される少なくとも一種を含む金属酸化物粒子である、請求項2に記載の排ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項4】
前記触媒層形成工程は、
前記Pdを含有するPd溶液を調製する溶液調製工程と、
前記SiC基材の隔壁の表面に前記Pd溶液を付与する溶液付与工程と、
前記隔壁の表面に付着した前記Pd溶液を焼成する焼成工程と
を備えている、請求項1~3のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項5】
前記触媒層形成工程は、
前記Pdを含有するPd溶液に、Si又はSiCを含むSi含有粒子を分散させたPd-Siスラリーを調製するスラリー調製工程と、
前記SiC基材の隔壁の表面に前記Pd-Siスラリーを付与するスラリー付与工程と、
前記隔壁の表面に付着した前記Pd-Siスラリーを焼成する焼成工程と
を備えている、請求項1~3のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項6】
複数のセルを仕切る隔壁を有し、SiCを含有するSiC基材と、
前記SiC基材の隔壁の表面に形成され、少なくともPdを含有するPd触媒層と
を備え、
前記Pd触媒層において、Si又はSiCを含むSi部材に前記Pdが直接担持されている、排ガス浄化用触媒。
【請求項7】
前記Pd触媒層は、金属酸化物担体を実質的に含有しない、請求項6に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項8】
前記金属酸化物担体は、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化プラセオジム、酸化ランタン、酸化ニオブ、酸化イットリウムからなる群から選択される少なくとも一種を含む金属酸化物粒子である、請求項7に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項9】
前記Si部材は、前記SiC基材の隔壁であり、当該SiC基材の隔壁に前記Pdが担持されている、請求項6~8のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項10】
前記Si部材は、Si又はSiCを含むSi含有粒子であり、当該Si含有粒子に前記Pdが担持されている、請求項6~8のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒に関する。詳しくは、SiC基材を備えた排ガス浄化用触媒の製造方法および当該製造方法によって得られた排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関から排出される排ガスには、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)などの有害成分が含まれている。内燃機関の排気通路には、これらの有害成分を浄化する排ガス浄化用触媒が配置されている。一般的な排ガス浄化用触媒は、複数のガス流路(セル)が隔壁で仕切られたハニカム構造の基材と、当該基材の隔壁表面に形成された触媒層とを備えている。この触媒層は、通常、アルミナ粒子等の金属酸化物担体に貴金属触媒が担持された触媒材料によって形成される。
【0003】
上記構成の排ガス浄化触媒には、炭化ケイ素(SiC)を含む基材(以下、「SiC基材」という)が使用されることがある。例えば、排ガス浄化触媒は、好適な排ガス浄化作用を発揮させるために、貴金属触媒の活性温度まで昇温した状態で使用する必要がある。ここで、通常の排気系において排ガス浄化用触媒を昇温させるのは排ガスからの熱である。このため、エンジン始動直後などの排ガス温度が低い状況においては、好適な排ガス浄化作用が発揮できなくなる可能性がある。これに対して、近年では、通電加熱式触媒(EHC:Electrically Heated Catalyst)が注目されている(特許文献1~4参照)。この通電加熱式触媒は、導電性を有し、抵抗発熱体として機能するSiC基材を備えている。このSiC基材を備えた通電加熱式触媒は、通電によって基材内部を容易に昇温させることができるため、排ガス温度が低い状況でも好適な浄化作用を発揮できる。また、SiC基材は、高温環境におけるクラックが生じにくいため、ディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)などにも使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6052250号
【特許文献2】特許第6364374号
【特許文献3】特開平11-230132号
【特許文献4】特開2004-351292号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上の通り、排ガス浄化用触媒の分野では、SiC基材が広く使用されている。しかしながら、SiC基材を備えた排ガス浄化触媒は、高温環境において触媒層中の貴金属触媒がSiC基材の隔壁側に移動するという問題を有している。この貴金属触媒の移動が進行すると、貴金属触媒同士の接触頻度が増大して凝集が促進されるため、好適な排ガス浄化性能(例えば温度特性)が発揮されにくくなるおそれがある。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、高温環境による貴金属触媒の移動を抑制し、温度特性の低下を防止できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、ここに開示される排ガス浄化用触媒の製造方法(以下、単に「製造方法」ともいう。)が提供される。
【0008】
ここに開示される製造方法は、複数のセルを仕切る隔壁を有し、SiCを含有するSiC基材を準備する基材準備工程と、SiC基材の隔壁の表面に、少なくともPdを含有するPd触媒層を形成する触媒層形成工程とを備えている。そして、ここに開示される製造方法では、触媒層形成工程において、Si又はSiCを含むSi部材にPdを直接担持させることによってPd触媒層を形成する。
【0009】
種々の実験の結果、上記SiC基材への貴金属触媒の移動は、貴金属触媒としてパラジウム(Pd)を使用した場合に特に顕著に生じることが確認された。本発明者らは、このような現象が生じる原因について、Pdは、Si単体やSiCとの反応性が非常に強く、これらを多く含むSiC基材の隔壁に向かって誘導されやすいためと考察した。ここに開示される技術は、かかる知見に基づいてなされたものである。すなわち、ここに開示される製造方法では、Si単体やSiCを含むSi部材にPdを直接担持させている。このようにSi部材とPdとを予め接触させておくことによって、高温環境下でPdが移動することを抑制し、貴金属触媒(Pd)の凝集による温度特性の低下を防止できる。
【0010】
ここに開示される製造方法の好適な一態様では、触媒層形成工程において、金属酸化物担体を実質的に含有しないPd触媒層を形成する。これによって、高温環境下でのPdの移動をより好適に防止できる。
【0011】
なお、上記金属酸化物担体の一例として、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化プラセオジム、酸化ランタン、酸化ニオブ、酸化イットリウムからなる群から選択される少なくとも一種を含む金属酸化物粒子が挙げられる。これらの金属酸化物粒子を含有しないPd触媒層を形成することによって、高温環境下でのPdの移動をさらに好適に防止できる。
【0012】
ここに開示される製造方法の好適な一態様では、触媒層形成工程は、Pdを含有するPd溶液を調製する溶液調製工程と、SiC基材の隔壁の表面にPd溶液を付与する溶液付与工程と、隔壁の表面に付着したPd溶液を焼成する焼成工程とを備えている。これによって、Si部材(SiC基材の隔壁)にPdが直接担持されたPd触媒層を容易に形成できる。
【0013】
ここに開示される製造方法の好適な一態様では、触媒層形成工程は、Pdを含有するPd溶液に、Si又はSiCを含むSi含有粒子を分散させたPd-Siスラリーを調製するスラリー調製工程と、SiC基材の隔壁の表面にPd-Siスラリーを付与するスラリー付与工程と、隔壁の表面に付着したPd-Siスラリーを焼成する焼成工程とを備えている。これによって、Si部材(Si含有粒子)にPdが直接担持されたPd触媒層を容易に形成できる。
【0014】
また、ここに開示される技術の他の側面として排ガス浄化用触媒が提供される。ここに開示される排ガス浄化用触媒は、複数のセルを仕切る隔壁を有し、SiCを含有するSiC基材と、SiC基材の隔壁の表面に形成され、少なくともPdを含有するPd触媒層とを備えている。そして、ここに開示される排ガス浄化用触媒では、Pd触媒層において、Si又はSiCを含むSi部材にPdが直接担持されている。これによって、高温環境下でPdが移動することを抑制し、温度特性の低下を防止できる。
【0015】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の好適な一態様では、Pd触媒層は、金属酸化物担体を実質的に含有しない。これによって、高温環境下でのPdの移動をより好適に防止できる。
【0016】
なお、上記金属酸化物担体の一例として、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化プラセオジム、酸化ランタン、酸化ニオブ、酸化イットリウムからなる群から選択される少なくとも一種を含む金属酸化物粒子が挙げられる。これによって、高温環境下でのPdの移動をさらに好適に防止できる。
【0017】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の好適な一態様では、Si部材は、SiC基材の隔壁であり、当該SiC基材の隔壁にPdが担持されている。これによって、高温環境下でのPdの移動を適切に防止できる。
【0018】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の好適な一態様では、Si部材は、Si又はSiCを含むSi含有粒子であり、当該Si含有粒子にPdが担持されている。かかる態様においても、高温環境下でのPdの移動を適切に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1の実施形態に係る排ガス浄化用触媒を模式的に示す斜視図である。
【
図2】第1の実施形態に係る排ガス浄化用触媒のSiC基材を筒軸方向(ガス流通方向)に沿って切断した際の断面図である。
【
図3】
図2に示すSiC基材の隔壁における層構造を模式的に示す断面図である。
【
図4】第2の実施形態に係る排ガス浄化用触媒のSiC基材の隔壁における層構造を模式的に示す断面図である。
【
図5】比較例1における耐久試験前後のFE-EPMA分析結果である。
【
図6】比較例2における耐久試験前後のFE-EPMA分析結果である。
【
図7】比較例3における耐久試験前後のFE-EPMA分析結果である。
【
図8】実施例1における耐久試験前後のFE-EPMA分析結果である。
【
図9】従来の排ガス浄化用触媒のSiC基材の隔壁における層構造を模式的に示す断面図である。
【
図10】
図9に示す排ガス浄化用触媒が高温環境に晒された後の状態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、ここに開示されるの好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここに開示される技術の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここに開示される技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術知識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書における図面は、ここに開示される技術の内容を理解するために模式的に示したものであり、各図における寸法関係(長さ、幅、厚みなど)は、実際の寸法関係を反映するものではない。
【0021】
[第1の実施形態]
以下、ここに開示される技術の第1の実施形態について説明する。
図1は、第1の実施形態に係る排ガス浄化用触媒を模式的に示す斜視図である。
図2は、第1の実施形態に係る排ガス浄化用触媒のSiC基材を筒軸方向(ガス流通方向)に沿って切断した際の断面図である。
図3は、
図2に示すSiC基材の隔壁における層構造を模式的に示す断面図である。なお、
図1及び
図2中の矢印Aは、排ガスの流通方向を示すものである。
【0022】
1.排ガス浄化用触媒
先ず、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒の構造について説明する。本実施形態に係る排ガス浄化用触媒1は、種々の内燃機関(例えば、ディーゼルエンジンやガソリンエンジン)の排気系(排気管)に配置され、当該内燃機関から排出された排ガス中の有害成分(HC、CO、NOx等)を浄化する。
図1~
図3に示す通り、この排ガス浄化用触媒1は、SiC基材10と、Pd触媒層20とを備えている。
【0023】
(1)SiC基材
SiC基材10は、炭化ケイ素(SiC)を含有する基材である。かかるSiC基材10は、炭化ケイ素(SiC)を主成分とする従来公知の排ガス浄化触媒用の基材を特に制限なく使用できる。このSiC基材は、導電性を有し、抵抗発熱体として機能し得るため、通電加熱式触媒の基材として好適である。なお、SiC基材10は、ここに開示される技術の効果を著しく阻害しない範囲内で、SiC以外の成分を含有していてもよい。例えば、本明細書において、「SiC基材」とは、基材の総重量を100wt%としたときのSiCの含有率が20wt%以上(好適には50wt%以上、より好適には70wt%以上)である基材のことをいう。SiC基材に含まれ得るSiC以外の成分としては、Si単体が挙げられる。本実施形態形態に示されるような通電加熱式触媒用のSiC基材10では、導電率の調節を目的として、SiC基材にSi単体が添加されることがある。
【0024】
図1に示すように、本実施形態におけるSiC基材10の外形は円筒形である。なお、SiC基材10の外形は、特に限定されず、楕円筒形、多角筒形などであってもよい。また、
図1及び
図2に示すように、SiC基材10は、ハニカム構造の基材である。すなわち、SiC基材10は、複数のセル(ガス流路)12と、各々のセル12を仕切る隔壁16とを備えている。なお、各々のセルの形状は、特に限定されず、正方形、平行四辺形、長方形、台形などの四角形状;三角形状、六角形状、八角形状などのその他の多角形状;円形等であってよい。
【0025】
また、
図2に示すように、本実施形態におけるSiC基材10は、ストレートフロー型の基材である。すなわち、SiC基材10は、複数のセル12と、隣接した2つのセル12を仕切る隔壁16とを備えている。そして、各々のセル12は、排ガスが流入する開口部であるガス流入口12aと、排ガスが流出する開口部であるガス流出口12bとを備えている。かかる構成のSiC基材10の内部に導入された排ガスは、SiC基材10のセル12を通過し、隔壁16の表面に形成されたPd触媒層20(
図3参照)と接触しながら下流側に流通する。
【0026】
なお、本実施形態に係る排ガス浄化触媒1は、通電加熱式触媒として用いられる。具体的には、本実施形態では、SiC基材10の外周面に電極40が取り付けられている。かかる電極40は、従来公知の通電加熱式触媒が備える電極を特に制限なく使用できる。この電極40の一例として、金属電極やカーボン電極等が挙げられる。そして、この電極40は、SiC基材10の外周面に沿って取り付けられた電極層42と、電源装置(図示省略)に接続可能な電極端子44とを備えている。そして、電源装置から供給された電流は、電極端子44と電極層42を介してSiC基材10の全体に拡散される。これによって、抵抗発熱体であるSiC基材10が発熱するため、排ガス温度が低い場合でも基材内部を貴金属触媒の活性温度まで昇温させることができる。
【0027】
(2)Pd触媒層
図3に示すように、Pd触媒層20は、SiC基材10の隔壁16に形成されている。Pd触媒層20は、少なくともパラジウム(Pd)を含有する層である。このPdは、一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)に対する酸化浄化機能に優れている。一方で、Pdは、Si単体やSiCに対する反応性が高く、高温環境に晒された際にSi単体やSiCが多く存在する部材(典型的にはSiC基材10の隔壁16)に誘導されやすいという特性も有している。これに対して、ここに開示される排ガス浄化用触媒では、Si又はSiCを含むSi部材にPdを直接担持させたPd触媒層が形成される。具体的には、第1の実施形態における「Si部材」は、SiC基材10の隔壁16である。上述した通り、SiC基材10は、SiCを主成分としており、かつ、Si単体を含有し得るため、「Si又はSiCを含むSi部材」ということができる。そして、第1の実施形態におけるPd触媒層20は、SiC基材10の隔壁16に粒子状のPd(Pd粒子22)を直接担持させることによって形成されている。これによって、高温環境による貴金属触媒(Pd粒子22)の移動を抑制し、温度特性の低下を防止できる。以下、従来の排ガス浄化用触媒と比較しながら、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒1の効果について説明する。
【0028】
図9は、従来の排ガス浄化用触媒のSiC基材の隔壁における層構造を模式的に示す断面図である。一方、
図10は、
図9に示す排ガス浄化用触媒が高温環境に晒された後の状態を模式的に示す断面図である。
図9に示す排ガス浄化用触媒では、SiC基材110の隔壁116の表面にPd触媒層120が形成されている。また、
図9中の符号130は、Pd以外の貴金属触媒(Pt、Rhなど)を含む第2触媒層130である。
図9に示す従来のPd触媒層120は、アルミナ粒子等の金属酸化物担体123にPd粒子122を担持させた触媒材料125を含有している。かかる構成の排ガス浄化用触媒が高温環境に晒された場合、金属酸化物担体123に担持されていたPd粒子122がSiC基材110の隔壁116に向かって移動し、Pd触媒層120の下側(隔壁116と接する領域)にPd粒子122が凝集したPd凝集領域120aが形成される(
図10参照)。一方で、Pd触媒層120の上側(隔壁116と反対側の領域)には、Pd粒子122が殆ど残留しない触媒消失領域120bが生じる。このようなPd粒子122の移動が生じると、移動中にPd粒子122同士が接触して凝集が促進されるため、Pd触媒層120の触媒性能(典型的には温度特性)が低下するおそれがある。
【0029】
一方で、本実施形態におけるPd触媒層20は、上述した通り、SiC基材10の隔壁16にPd粒子22を直接担持させることによって形成されている。すなわち、本実施形態では、Si部材(SiC基材の隔壁16)とPd粒子22とが予め接触しているため、高温環境におけるPd粒子22の移動を抑制することができる。従って、本実施形態によると、移動に伴うPd粒子22の凝集が抑制されるため、温度特性の低下を適切に防止することができる。
【0030】
なお、Pd触媒層20の厚みや長さは、ここに開示される技術を限定するものではなく、必要に応じて適宜調節できる。例えば、本実施形態におけるPd触媒層20は、SiC基材10の隔壁16の表面に沿うように形成された薄膜状の層であってもよい。Pd触媒層20の厚みは、SiC基材10の寸法や排ガスの流量等を考慮して調節することが好ましい。例えば、Pd触媒層20の厚みは、0.5nm以上500nm以下でもよく、1nm以上100nm以下でもよく、1.5nm以上50nm以下でもよく、2nm以上15nm以下でもよい。また、隔壁16の延伸方向におけるPd触媒層20の長さも特に限定されない。例えば、Pd触媒層20は、隔壁16の全長(100%)に亘って形成されていてもよい。さらに、Pd触媒層20の長さは、隔壁16の全長の90%以下でもよく、80%以下でもよく、70%以下でもよい。一方、Pd触媒層20の長さの下限は、隔壁16の全長の20%以上でもよく、30%以上でもよく、40%以上でもよく、50%以上でもよく、60%以上でもよい。
【0031】
また、Pd粒子22の大きさも特に限定されない。Pd粒子22の平均粒子径は、400nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましく、50nm以下がさらに好ましく、10nm以下が特に好ましい。このような小さなPd粒子22を形成することによって、排ガスとPdとの表面積を増大させて排ガス浄化性能を向上させることができる。一方、Pd粒子22の平均粒子径の下限値は、0.5nm以上が好ましく、0.7nm以上がより好ましく、1.5nm以上がさらに好ましく、2nm以上が特に好ましい。このように、一定以上の大きさのPd粒子22を形成することによって、シンタリングによる粒子粗大化を抑制できる。なお、Pd粒子の平均粒子径は、電子顕微鏡(例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)など)にて確認された100個のPd粒子の粒径の平均値として求めることができる。
【0032】
また、Pd触媒層20は、Pd以外の貴金属触媒を含有していてもよい。このような他の貴金属触媒としては、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、およびイリジウム(Ir)などが挙げられる。詳しくは後述するが、Pdと他の貴金属触媒とが混在した触媒層を有する排ガス浄化用触媒では、PdのみがSiC基材の隔壁に誘導される。しかし、ここに開示される技術によると、このような混合触媒層におけるPdの移動も適切に抑制することができる。
【0033】
加えて、本実施形態におけるPd触媒層20は、金属酸化物担体を実質的に含有しないことが好ましい。これによって、Pd粒子22の移動をより好適に防止し、温度特性の低下を確実に防止できる。なお、本明細書における「金属酸化物担体を実質的に含有しない」とは、Pd触媒層への金属酸化物担体の意図的な添加が行われていないことを指す。したがって、金属酸化物担体と解釈され得る材料が原料や製造工程等に由来して不可避的かつ微量に含まれるような場合は、本明細書における「金属酸化物担体を実質的に含有しない」の概念に包含される。例えば、FE-EPMAによる元素マッピングに基づいたPd触媒層の分析において、金属酸化物担体と解される元素の存在量が1%以下(好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.1%以下、さらに好ましくは0.05%以下、特に好ましくは0.01%以下)である場合、「金属酸化物担体を実質的に含有しない」ということができる。なお、金属酸化物担体の一例として、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化プラセオジム、酸化ランタン、酸化ニオブ、酸化イットリウムなどを含む金属酸化物粒子が挙げられる。
【0034】
(3)第2触媒層
また、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒1は、Pd触媒層20の上側(セル側)に第2触媒層30が形成されている。
図3では詳細な図示を省略するが、第2触媒層30は、Pd以外の貴金属触媒と、当該貴金属触媒を担持する担体とを備えた触媒材料を含んでいる。Pd以外の貴金属触媒としては、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、およびイリジウム(Ir)などが挙げられる。特に、Rhは、還元浄化性能に優れており、Pd触媒層20での浄化が困難なNOxを好適に浄化できるため、排ガス浄化用触媒1全体における浄化性能の向上に貢献できる。また、第2触媒層30は、貴金属触媒や担体以外の添加物を含有していてもよい。この種の添加物の一例として、酸素吸蔵能を有するOSC材等が挙げられる。
【0035】
また、第2触媒層30は、担体として、金属酸化物担体を含有していてもよい。すなわち、第2触媒層30は、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化プラセオジム、酸化ランタン、酸化ニオブ、酸化イットリウムなどを含む金属酸化物担体を特に制限なく使用できる。なお、この場合には、第2触媒層30を、Pdを実質的に含有しない触媒層にすることが好ましい。これによって、第2触媒層30においてPdの移動が生じることを防止できる。なお、ここでの「Pdを実質的に含有しない」とは、第2触媒層へのPdの意図的な添加が行われていないことを指す。したがって、Pd元素が原料や製造工程(Pd触媒層からの拡散を含む)等に由来して不可避的かつ微量に第2触媒層に混入した場合は、本明細書における「Pdを実質的に含有しない」の概念に包含される。例えば、FE-EPMAによる元素マッピングにおいて、第2触媒層におけるPd元素の存在量が1%以下(好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.1%以下、さらに好ましくは0.05%以下、特に好ましくは0.01%以下)である場合、「Pdを実質的に含有しない第2触媒層が形成されている」ということができる。
【0036】
また、第2触媒層30の厚みや長さは、ここに開示される技術を限定するものではなく、必要に応じて適宜調節できる。例えば、第2触媒層30の厚みは、1μm以上500μm以下でもよく、10μm以上200μm以下でもよい。加えて、隔壁16の延伸方向における第2触媒層30の長さも特に限定されない。例えば、第2触媒層30は、隔壁16の全長(100%)に亘って形成されていてもよい。さらに、第2触媒層30の長さは、隔壁16の全長の90%以下でもよく、80%以下でもよく、70%以下でもよい。一方、第2触媒層30の長さの下限は、隔壁16の全長の20%以上でもよく、30%以上でもよく、40%以上でもよく、50%以上でもよく、60%以上でもよい。
【0037】
2.排ガス浄化用触媒の製造方法
次に、上記構成の排ガス浄化触媒1を製造する方法について説明する。本実施形態に係る製造方法は、基材準備工程と、触媒層形成工程とを備えている。以下、各工程について説明する。
【0038】
(1)基材準備工程
本工程では、複数のセル12を仕切る隔壁16を有し、SiCを含有するSiC基材10を準備する。SiC基材10の詳細な構造や材料は、既に説明したため省略する。なお、ここでの「準備」とは、種々の成形方法を用いたSiC基材10の作製以外に、購入や譲渡等によるSiC基材10の入手も包含する概念である。
【0039】
(2)触媒層形成工程
本工程では、SiC基材10の隔壁16の表面に、少なくともPdを含有するPd触媒層20を形成する。上述した通り、本実施形態におけるPd触媒層20では、SiC基材10の隔壁16(Si部材)にPd粒子22が直接担持されている。このようなPd触媒層20は、以下で説明する溶液調製工程と、溶液付与工程と、焼成工程とを実施することによって容易に形成することができる。
【0040】
(a)溶液調製工程
本工程では、Pd元素を含有するPd溶液を調製する。かかるPd溶液は、Pd粒子22の前駆体であり、後述の焼成工程においてPd粒子22を析出させる。Pd溶液は、Pd元素を含有していれば特に限定されず、Pdを含む触媒層の形成に使用され得る従来公知の溶液を特に制限なく使用できる。かかるPd溶液の一例として、パラジウム塩を水系媒体に溶解させた溶液が挙げられる。かかるパラジウム塩としては、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、塩化パラジウム、酢酸パラジウムなどが挙げられる。なお、Pd溶液中のPd元素の含有量は、目的とするPd触媒層20の組成に応じて適宜調節できる。例えば、Pd溶液におけるPd換算量は、0.05wt%以上が好ましく、0.1wt%以上がより好ましく、0.2wt%以上が特に好ましい。一方、Pd溶液におけるPd換算量の上限は、5wt%以下が好ましく、3wt%以下がより好ましく、2wt%以下が特に好ましい。
【0041】
なお、上述した通り、本実施形態におけるPd触媒層20は、金属酸化物担体を実質的に含有しないことが好ましい。すなわち、Pd溶液には、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化プラセオジム、酸化ランタン、酸化ニオブ、酸化イットリウムなどの金属酸化物粒子を実質的に添加しないことが好ましい。より具体的には、Pd溶液における上記金属酸化物粒子の含有量は、0.1wt%以下が好ましく、0.05wt%以下がより好ましく、0.01wt%以下がさらに好ましく、0wt%が特に好ましい。
【0042】
また、Pd溶液は、有機系の増粘剤を含有していることが好ましい。かかる増粘剤としては、ヒドロキシルエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ペクチン、キサンタンガム等の水溶性の樹脂材料が挙げられる。これらの増粘剤を添加することによって、Pd溶液の粘度を調節して、SiC基材10の隔壁16にPd溶液を適切に付与できる。そして、有機系の増粘剤は、焼成工程において焼失するため、ここに開示される技術の効果を阻害しにくいという利点も有している。なお、Pd溶液の粘度は、SiC基材10の構造(セル径や長さなど)を考慮して適宜設定することが好ましい。一例として、Pd溶液の粘度は、10mPa~1000mPa程度が適当であり、100mPa~800mPa程度が好ましい。なお、ここでの粘度は、市販のコーンプレート型粘度計を使用し、回転数を1~100rpmとし、温度を25℃とし、せん断速度を380s-1としたときの値である。
【0043】
(b)溶液付与工程
本工程では、SiC基材10の隔壁16の表面にPd溶液を付与する。本工程における具体的な手順の一例として、ガス流入口12aからセル12の内部にPd溶液を導入し、ガス流出口12bからセル12を吸引するという手順が挙げられる。これによって、隔壁16の表面にPd溶液を適切に付着させることができる。なお、本工程は、隔壁16の表面にPd溶液を付与することができればよく、上述した吸引法に限定されない。例えば、ガス流入口12aからセル12の内部にPd溶液を導入した後にガス流入口12aから圧縮空気を供給する圧送法を採用することもできる。
【0044】
また、本工程では、隔壁16表面にPd溶液を付着させた後に乾燥処理を行ってもよい。これによって、Pd溶液中の有効成分(典型的にはPd元素)を隔壁16表面に好適に定着させることができる。なお、乾燥処理における加熱温度は、50℃~200℃が好ましく、100℃~150℃がより好ましい。また、乾燥時間は、0.5時間~5時間が好ましく、1時間~3時間がより好ましい。
【0045】
(c)焼成工程
次に、排ガス浄化用触媒1の製造では、内部にPd溶液が供給されたSiC基材10を焼成する。このとき、本実施形態では、Pd溶液を隔壁16の表面に直接付与しているため、Pd粒子22が隔壁16の表面に直接担持されたPd触媒層20が形成される。かかるPd触媒層20は、SiCやSi単体を含むSiC基材10の隔壁16とPd粒子22とが予め接触しているため、移動に伴うPd粒子22の凝集を適切に抑制できる。
【0046】
なお、本工程における焼成条件は、特に限定されず、SiC基材10の構造やPd溶液の組成に応じて適宜調節することができる。例えば、焼成温度は、300℃以上でもよく、350℃以上でもよく、400℃以上でもよく、450℃以上でもよい。一方、焼成温度の上限値は、1000℃以下でもよく、900℃以下でもよく、800℃以下でもよく、700℃以下でもよく、600℃以下でもよい。また、焼成時間は、0.5時間以上でもよく、1時間以上でもよく、1.5時間以上でもよい。焼成時間の上限は、8時間以下でもよく、6時間以下でもよく、4時間以下でもよい。
【0047】
また、本実施形態に係る製造方法では、Pd触媒層20の形成において、固形分(金属酸化物粒子など)を実質的に含有しないPd溶液を使用している。かかるPd溶液は、隔壁16が有する微小な細孔の内部に導入されやすいため、焼成後のSiC基材10の隔壁16内にPd粒子22が形成される可能性がある(
図3および
図8参照)。ここに開示される技術を限定することを意図するものではないが、本実施形態に係る製造方法によると、隔壁16の内部におけるPdの存在量が10%以上(典型的には20%以上、例えば30%以上)になり得る。なお、ここでの「隔壁の内部におけるPdの存在量」は、FE-EPMAによる元素マッピングにおいて確認されたPd元素の総数(100%)に対する、隔壁内部で確認されたPd元素の比率(%)である。
【0048】
(3)第2触媒層形成工程
また、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒1では、Pd触媒層20の上側に第2触媒層30が形成されている。かかる第2触媒層30の形成は、従来公知の方法を特に制限なく使用できる。例えば、第2触媒層形成工程は、貴金属元素を含有する溶液(貴金属溶液)に、金属酸化物担体を分散させた第2層用スラリーを調製する工程と、当該第2層用スラリーをPd触媒層20の上面に付与する工程と、Pd触媒層20の上面に付着した第2層用スラリーを焼成する工程とを備えていてもよい。これらの工程を実施することによって、Pd触媒層20の上側に第2触媒層30を形成できる。なお、第2層用スラリーは、上述した第2触媒層30の前駆物質を含有していればよく、詳細な成分は特に限定されない。
【0049】
なお、本実施形態に係る製造方法では、Pd触媒層20と第2触媒層30を別々に形成している。しかし、かかる手順は、ここに開示される技術を限定するものではなく、Pd触媒層20と第2触媒層30を同時に形成することもできる。具体的には、隔壁16の表面にPd溶液を付与して乾燥させた後に、当該乾燥したPd溶液の上に第2層用スラリーを付与して同時に焼成すれば、Pd触媒層20と第2触媒層30を同時に形成できる。但し、第2触媒層30に含まれる金属酸化物担体の一部がPd触媒層20に混入することを防止するという点を考慮すると、Pd触媒層20と第2触媒層30は、別々に形成した方が好ましい。
【0050】
[第2の実施形態]
以上、ここに開示される技術の第1の実施形態について説明した。しかし、ここに開示される技術は、上述した第1の実施形態に限定されるものではなく、様々な形態を採用することができる。以下、ここに開示される技術の第2の実施形態について説明する。
図4は、第2の実施形態に係る排ガス浄化用触媒のSiC基材の隔壁における層構造を模式的に示す断面図である。
【0051】
上述した通り、第1の実施形態における「Si部材」は、SiC基材10の隔壁16であり、当該隔壁16にPd粒子22を直接担持させている(
図3参照)。しかしながら、ここに開示される技術における「Si部材」は、Si単体又はSiCを含む部材であればよく、SiC基材の隔壁に限定されない。例えば、「Si部材」は、Si単体又はSiCを含む担体粒子(Si含有粒子24)であってもよい(
図4参照)。すなわち、第2の実施形態では、Si含有粒子24にPd粒子22が担持されたPd-Si触媒材料26によってPd触媒層20が形成されている。かかる構成を採用した場合でも、Si部材(Si含有粒子24)とPd粒子22とが予め接触しているため、移動に伴うPd粒子22の凝集を抑制し、温度特性の低下を防止できる。
【0052】
なお、本実施形態のように、Pd-Si触媒材料26を含むPd触媒層20を形成する場合には、Pd溶液にSi含有粒子を分散させたPd-Siスラリーを使用することが好ましい。このPd-Siスラリーを隔壁16の表面に付与した後に焼成処理を行うことによって、Si含有粒子24にPd粒子22が担持されたPd触媒層20を容易に形成することができる。また、本実施形態において使用される「Si含有粒子」は、Si粒子とSiC粒子を包含する概念である。どちらの粒子を使用した場合でも、高温環境におけるPd粒子22の移動を適切に抑制することができる。また、本実施形態におけるPd触媒層20の形成には、Si粒子とSiC粒子を混合した粉体材料を使用することもできる。かかるSi含有粒子を含む粉体材料の総重量を100wt%とした場合、Si粒子とSiC粒子の合計含有率は、10wt%以上が好ましく、50wt%以上がより好ましく、70wt%以上が特に好ましい。
【0053】
なお、上記Pd-Siスラリーの組成は、特に限定されず、目的とするPd触媒層20の組成に応じて適宜調節することができる。例えば、Pd-SiスラリーにおけるPd元素の含有量は、第1の実施形態におけるPd溶液中のPd元素の含有量と同程度に設定することができる。一方、Si含有粒子の分散量は、上記Pd元素の含有量との関係を考慮して調節することが好ましい。例えば、Pd-SiスラリーにおけるSi含有粒子に対するPd元素質量比(Pd/Si)は、0.1wt%以上が好ましく、0.5wt%以上がより好ましく、1wt%以上が特に好ましい。これによって、Pd粒子22を適切に担持できる程度のSi含有粒子24を確保できる。一方、上記Pd/Siは、14wt%以下が好ましく、12wt%以下がより好ましく、10wt%以下がさらに好ましく、8wt%以下が特に好ましい。これによって、十分なPd粒子22が存在するPd触媒層20を形成できる。
【0054】
なお、Pd-Siスラリーは、Si含有粒子やPd元素以外の添加物を含んでいてもよい。このような添加物としては、OSC材、金属酸化物材料、バインダ等が挙げられる。OSC材としては、酸化セリウムと酸化ジルコニウムとを含む複合酸化物(CZ複合酸化物)などが挙げられる。また、他の金属酸化物材料としては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化プラセオジム、酸化ランタン、酸化ニオブ、酸化イットリウムなどが挙げられる。また、バインダとしては、例えば、アルミナゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル等の無機バインダが挙げられる。なお、Si含有粒子やPd元素以外の添加物は、ここに開示される技術の効果を著しく阻害しない限りにおいて特に限定されず、一般的な排ガス浄化用触媒の触媒層の形成に使用される添加物を適宜使用することができる。
【0055】
[他の実施形態]
以上、ここに開示される技術の実施形態について説明した。なお、ここに開示される技術は、上述した各実施形態に限定されない。例えば、上述した各実施形態では、Pd触媒層20の上側に、Pd以外の貴金属触媒を含む第2触媒層30を形成している。しかし、第2触媒層30は、ここに開示される技術の効果に影響する構成ではなく、必要に応じて適宜省略することもできる。すなわち、第2触媒層が形成されていない排ガス浄化用触媒であっても、Si部材(SiC基材10やSi含有粒子24等)にPd粒子22が直接担持されていれば、Pdの移動を好適に抑制できる。さらに、異なる貴金属触媒を含む第3触媒層を第2触媒層のさらに上側に形成してもよい。
【0056】
また、上述した各実施形態では、ストレートフロー型のSiC基材10を用いている。しかし、SiC基材の構造は、特に限定されず、ストレートフロー型以外の構造を採用することもできる。SiC基材の他の例として、ウォールフロー型のSiC基材が挙げられる。かかるウォールフロー型の基材は、排ガス流入側の端部が開口した入側セルと、排ガス流出側の端部が開口した出側セルと、入側セルと出側セルとを仕切る多孔質の隔壁とを備えている。そして、ウォールフロー型のSiC基材を用いた排ガス浄化用触媒では、入側セルに流入した排ガスがPd触媒層と接触しながら多孔質の隔壁を通過した後に、出側セルから外部に排出される。この種のウォールフロー型の基材を用いた場合であっても、ここに開示される技術の効果を適切に発揮させることができる。
【0057】
また、上述した実施形態では、通電加熱式触媒として使用される排ガス浄化用触媒を例に挙げて説明した。しかしながら、ここに開示される技術は、通電加熱式触媒に限定されず、SiC基材を使用する排ガス浄化用触媒全般に制限なく適用できる。例えば、ディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)は、再生処理の際に高温で加熱されるため、熱サイクルによるクラックが生じにくいSiC基材が使用されることがある。また、このようなDPF用のSiC基材にも、10wt%~30wt%(例えば20wt%程度)のSi単体が含まれていることがある。ここに開示される技術は、用途に限定されず、SiCやSi単体を含むSiC基材全般におけるPdの移動を適切に抑制することができる。
【0058】
[試験例]
以下、ここに開示される技術の実施例を説明する。なお、以下の説明は、ここに開示される技術を実施例に示されるものに限定することを意図したものではない。
【0059】
<排ガス浄化触媒の作製>
(比較例1)
本例では、まず、ストレートフロー型のSiC基材(容積551mL、セル数600cpsi、隔壁厚み5ミル、セル形状6角、直径118.4mm、基材長50mm)を準備した。次に、硝酸パラジウム溶液(Pd換算量:0.6wt%)に、20wt%のアルミナ担体と、13wt%のCZ複合酸化物材料と、0.7wt%のAl2O3系バインダとを分散させたPd-Al2O3スラリーを調製した。そして、このPd-Al2O3スラリーをガス流入口から基材のセル内に導入し、ガス流出口をブロアーで吸引することによって隔壁にスラリーを付着させた。その後、120℃、2時間の乾燥処理を行った後に、500℃、2時間の焼成処理を実施し、隔壁の表面にPd-Al2O3層を形成した。
【0060】
次に、硝酸ロジウム溶液(Rh換算量:0.03wt%)に、16wt%のアルミナ粉末と、9.2wt%のCZ複合酸化物材料と、0.15wt%のAl2O3系バインダとを分散させたRh-Al2O3スラリーを調製した。なお、上記CZ複合酸化物材料は、CeO2とZrO2を主成分とし、Pr2O3とNd2O3とLa2O3とY2O3とを微量に含む複合材料である。次に、上記Rh-Al2O3スラリーをガス流入口から基材のセル内に導入し、ガス流出口をブロアーで吸引することによって、Pd-Al2O3層上にスラリーを付与した。その後、120℃、2時間の乾燥処理を行った後に、500℃、2時間の焼成処理を実施した。これによって、Pd-Al2O3層の上にRh-Al2O3層が形成された排ガス浄化用触媒を作製した。なお、この排ガス浄化用触媒におけるPdの使用量は2g/Lであり、Rhの使用量は0.15g/Lである。また、Pd-Al2O3層とRh-Al2O3層は、SiC基材の隔壁の全長に亘って形成しており、これらの触媒層の合計コート量は228.8g/Lである。
【0061】
(比較例2)
本例では、Rh-Al2O3スラリーを隔壁の表面に付与してRh-Al2O3層を形成した後に、Pd-Al2O3スラリーをRh-Al2O3層の上に付与してPd-Al2O3層を形成した。これによって、比較例2では、Rh-Al2O3層の上にPd-Al2O3層が形成された排ガス浄化用触媒を作製した。なお、Rh-Al2O3層とPd-Al2O3層の形成順序を異ならせた点以外は、比較例1と同じ条件である。
【0062】
(比較例3)
本例では、先ず、比較例2と同様に、Rh-Al
2O
3スラリーを隔壁の表面に付与してRh-Al
2O
3層を形成した。次に、硝酸パラジウム溶液(Pd換算量:0.5wt%)に増粘剤(ヒドロキシエチルセルロース)を添加したPd溶液を調製した。そして、このPd溶液をガス流入口から基材のセル内に導入し、ガス流入口をブロアーで吸引することによって、Rh-Al
2O
3層にPd溶液を付与した。その後、120℃、2時間の乾燥処理を行った後に、500℃、2時間の焼成処理を実施して比較例3の排ガス浄化用触媒を作製した。作製後の排ガス浄化用触媒では、RhとPdを含む一層の触媒層(Pd・Rh-Al
2O
3層)が形成されていた(
図7参照)。これは、Pd溶液がRh-Al
2O
3層の内部に浸透したためと推測される。
【0063】
(実施例1)
本例では、最初にPd溶液を隔壁の表面に付与してPd触媒層を形成し、その後にRh-Al2O3スラリーをPd層の上に付与してRh-Al2O3層を形成した。すなわち、実施例1では、SiC基材の隔壁にPd粒子を直接担持させたPd触媒層を形成し、当該Pd触媒層の上側にRh-Al2O3層を形成した。なお、実施例1で使用したPd溶液とRh含有スラリーは、比較例3と同じものである。
【0064】
<評価試験>
(高温耐久試験)
台上に設置したV型8気筒ガソリンエンジンの排気系に、実施例1および比較例1~3の排ガス浄化触媒を装着し、触媒床温1000℃で、所定のフューエルカットを含む条件で50時間の耐久試験を施した。
【0065】
(Pd移動度の評価)
耐久試験前後の実施例1および比較例1~3の排ガス浄化触媒の隔壁を所定サイズに切り出し、樹脂に埋設後、断面を研磨した。断面にカーボンを蒸着し、この断面について、FE-EPMA装置「JXA-8530F」(JEOL製)を用いて分析を行った。各例における耐久試験前後のPdマッピング画像を
図5~
図8に示す。
【0066】
次に、上記FE-EPMAによるPdマッピング画像に基づいて、基材表面に移動したPdの割合(Pd移動割合)を算出した。かかるPd移動割合の算出手順は、次の通りである。まず、EPMA画像における隔壁の最表面を0位置とし、当該隔壁上に形成されたコート層(Pd層およびRh層)の最上面をX位置とし、0位置からX位置に向かって2.5μm進んだ位置をY位置とした。サンプルの0位置からX位置に向かう0-X線上におけるPd元素の強度分布を測定し、Pd元素の強度の積算値aを算出した。次に積算値aを100と換算するよう、0-X線上のPd元素の強度を補正した。次に、0位置からY位置に向かう0-Y線上におけるPd元素の強度分布を測定し、Pd元素の強度の積算値bを算出した。そして、本試験例では、「(耐久後サンプルの積算値b)―(耐久前サンプルの積算値b)」の値をPd移動割合(%)とみなした。算出結果を表1に示す。
【0067】
(温度特性の評価)
排ガス浄化用触媒をエンジンベンチの排気系に設置し、理論空燃比でエンジンの燃焼状態を制御した。熱交換器を用いて、触媒への流入ガス温度を、昇温速度10℃/分で200℃から500℃まで昇温させた。エンジンの吸入空気量は25g/秒とした。昇温中の触媒への流入ガスおよび触媒からの流出ガスのガス成分を分析して、総炭化水素量(THC:Total Hydrocarbon)を50%浄化できる温度(T50-THC)を算出し、温度特性を評価した。測定結果を表1に示す。
【0068】
【0069】
<評価結果>
先ず、
図5~
図7に示すように、比較例1~3のいずれにおいても、耐久試験後に触媒消失領域が生じており、Pd-Al
2O
3層(又はPd・Rh-Al
2O
3層)からSiC基材へのPdの移動が確認された。そして、表1に示すように、比較例1~3では、Pdの移動割合が12%以上であった。一方、実施例1では、
図8中のSiC基材の隔壁の表面を示す補助線に沿うような非常に薄いPd層(Pd膜)が確認されると共に、SiC基材の隔壁内部にPdの一部が浸透していた。そして、
図8および表1に示すように、実施例1では、耐久試験後においても、上述したPdの分布(隔壁表面のPd膜および隔壁内部に浸透したPd)に大きな変化が確認されなかった。このことから、Si単体又はSiCを含むSi部材(ここではSiC基材の隔壁)とPdとを予め接触させておくことによって、Pdの移動を抑制できることが分かった。さらに、表1に示すように、Pdの移動が確認された比較例1~3では、温度特性の低下(T50-THCの高温化)が確認された。これは、高温環境下の移動によってPdの粒子が凝集・粗大化して触媒活性が低下したためと推測される。一方、Pd元素の移動が抑制された実施例1では、耐久試験後でも好適な温度特性を維持することができた。
【0070】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0071】
1 排ガス浄化用触媒
10 基材
12 セル
12a ガス流入口
12b ガス流出口
16 隔壁
20 Pd触媒層
22 Pd粒子
24 Si含有粒子
30 第2触媒層
40 電極
42 電極層
44 電極端子