(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069015
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】非導電性金属複合材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 41/88 20060101AFI20230511BHJP
C04B 41/90 20060101ALI20230511BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C04B41/88 D
C04B41/90 Z
C23C26/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180553
(22)【出願日】2021-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 慶樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 遊太
【テーマコード(参考)】
4K044
【Fターム(参考)】
4K044AA12
4K044AA13
4K044AB10
4K044BA12
4K044BC09
4K044BC14
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】高密度に金属が配置された非導電性金属複合材料を提供する。
【解決手段】ここで開示される非導電性金属複合材料の製造方法は、表面の少なくとも一部が非導電性の無機酸化物で被覆された金属粒子を含む組成物を準備すること、上記組成物を成形または所定の基材に塗布すること、および、上記組成物を焼成して非導電性金属複合材料を得ることを包含する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非導電性金属複合材料の製造方法であって、
表面の少なくとも一部が非導電性の無機酸化物で被覆された金属粒子を含む組成物を準備すること、
前記組成物を成形または所定の基材に塗布すること、および、
前記組成物を焼成して非導電性金属複合材料を得ること
を包含する、
非導電性金属複合材料製造方法。
【請求項2】
前記金属粒子の電子顕微鏡像に基づく平均粒径において、前記焼成後の平均粒径をDa(nm)、前記焼成前の平均粒径をDb(nm)としたとき、Da≦Dbを具備する、請求項1に記載の非導電性金属複合材料製造方法。
【請求項3】
前記焼成の温度が、前記無機酸化物で被覆された金属粒子の焼結温度以下である、請求項1または2に記載の非導電性金属複合材料製造方法。
【請求項4】
前記金属粒子が、Pt、Au、Ag、Pd、Rh、Ir、RuおよびOsからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の非導電性金属複合材料製造方法。
【請求項5】
前記無機酸化物が、シリカ、アルミナ、ジルコニアおよびイットリアからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の非導電性金属複合材料製造方法。
【請求項6】
前記組成物を所定の基材に塗布することを含み、当該基材が絶縁性器物である、請求項1~5のいずれか一項に記載の非導電性金属複合材料製造方法。
【請求項7】
食器の装飾部の製造に用いられる組成物であって、
表面の少なくとも一部が非導電性の無機酸化物で被覆された金属粒子を含み、
前記金属粒子と、前記無機酸化物との体積比(無機酸化物/金属粒子)が0.1以上0.8以下である、
組成物。
【請求項8】
前記金属粒子が内部に空隙を有する、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記金属粒子が、Pt、Au、Ag、Pd、Rh、IrおよびRuからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属を含む、請求項7または8に記載の組成物。
【請求項10】
前記無機酸化物が、シリカ、アルミナ、ジルコニアおよびイットリアからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を含む、請求項7~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
表面の少なくとも一部に非導電性の無機酸化物を含む被覆層が形成された金属粒子を含む非導電性金属複合材料であって、
前記非導電性金属複合材料全体を100vol%としたとき、前記金属粒子の体積割合が30vol%以上であり、
前記被覆層が形成された金属粒子の90個数%以上が、他の3個以上の前記被覆層が形成された金属粒子と接触しており、
前記被覆層の平均厚み(nm)と、前記金属粒子の電子顕微鏡像に基づく平均粒径(nm)において、(前記平均厚み/前記平均粒径)の値が0.01以上0.15以下であり、
体積抵抗率が1×10-1Ω・cm以上である、
非導電性金属複合材料。
【請求項12】
前記金属粒子の電子顕微鏡像に基づく粒径の変動係数が0.6以下である、請求項11に記載の非導電性金属複合材料。
【請求項13】
前記金属粒子の電子顕微鏡像に基づく平均粒径が10nm以上1000nm以下である、請求項11または12に記載の非導電性金属複合材料。
【請求項14】
食器の装飾部として用いられる、請求項11~13のいずれか一項に記載の非導電性金属複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非導電性金属複合材料と、その製造に用いられる組成物と、当該非導電性金属複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
陶磁器、ガラス、タイルなどに代表されるセラミックス製品の表面には、優美または豪華な印象を与えるために、金色や銀色の装飾(加飾)が施されたものがある。このようなセラミックス製品のなかには、電子レンジによって加熱されることが想定される製品(例えば、食器等)がある。そのため、電子レンジが発する高周波電磁波(例えば周波数2.45GHz程度)によって、装飾部がスパークしないことが望ましい。
【0003】
例えば、特許文献1には、Au、Bi、In、Si,Baを含む液状の上絵付用水金が開示されている。特許文献1によれば、この水金を焼成することで、Au等の色調を示す導電性金属と、シリカ等の非導電性酸化物とが析出し、電子レンジが発する高周波電磁波に晒されても損傷せず、かつ、金色系又は銀色系の明るい色調を有する装飾体が実現される、とされている。
【0004】
また、特許文献2には、窯業器物の表面に貴金属による装飾である複数の板状要素を有する表面装飾器物が開示されている。この技術では、板状要素の長さを所定の値以上、板状要素の配置間隔を所定の値以上とし、かつ、板状要素をフリット層で被覆することで、電子レンジの使用でも損傷せず、優れた化学的耐久性及び発色性を有する表面装飾器物が実現される、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6-48779号公報
【特許文献2】特開平9-235169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、装飾部では、電子レンジの高周波電磁波に耐える非導電性を有することに加え、良好な発色を実現するために、金属部分の存在密度が高いことが好ましい。金属部分の存在密度が低いと、デザイン上の制限を受けやすくなる。そのため、金属部分の存在密度が高く、かつ、非導電性を有する装飾部の実現が望まれる。また、色調において、金属部分の大きさ(例えば、面積、粒径)が重要であるため、金属部分の大きさを制御する技術が望まれる。
【0007】
そこで、本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、高密度に金属が配置された非導電性金属複合材料を提供することにある。また、他の目的は、当該非導電性金属複合材料の製造に用いられる組成物を提供することにある。さらに、当該非導電性金属複合材料の製造方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現するべく、ここで開示される非導電性金属複合材料の製造方法は、表面の少なくとも一部が非導電性の無機酸化物で被覆された金属粒子を含む組成物を準備すること、上記組成物を成形または所定の基材に塗布すること、および、上記組成物を焼成して非導電性金属複合材料を得ることを包含する。
かかる構成によれば、金属粒子表面に被覆された無機酸化物によって金属粒子同士の焼結を抑制することができるため、非導電性の金属複合材料を実現できる。また、組成物中に予め無機酸化物で被覆された金属粒子を含むことで、高密度に金属が配置された非導電性金属複合材料を製造することができる。
【0009】
ここで開示される非導電性金属複合材料の製造方法の好適な一態様では、上記金属粒子の電子顕微鏡像に基づく平均粒径において、上記焼成後の平均粒径をDa(nm)、上記焼成前の平均粒径をDb(nm)としたとき、Da≦Dbを具備する。
このような性質を有する金属粒子を用いることで、金属粒子の熱膨張により被覆層が破壊される(割れる)のを抑制することができる。これにより、より確実に非導電性である金属複合材料を製造することができる。
【0010】
また、ここで開示される非導電性金属複合材料の製造方法の好適な一態様では、上記焼成の温度が、上記無機酸化物で被覆された金属粒子の焼結温度以下である。これにより、金属粒子同士が焼結するのをより抑制することができるため、より体積抵抗率の高い非導電性金属複合材料を製造することができる。
【0011】
また、ここで開示される非導電性金属複合材料の製造方法の好適な一態様では、上記金属粒子が、Pt、Au、Ag、Pd、Rh、Ir、RuおよびOsからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属を含む。かかる構成によれば、光沢が良好な非導電性金属複合材料を実現することができる。
【0012】
また、ここで開示される非導電性金属複合材料の製造方法の好適な一態様では、上記無機酸化物が、シリカ、アルミナ、ジルコニアおよびイットリアからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を含む。かかる構成によれば、無機酸化物の透明性が高いため、より発色が良好な非導電性金属複合材料を実現することができる。
【0013】
また、ここで開示される非導電性金属複合材料の製造方法の好適な一態様では、上記組成物を所定の基材に塗布することを含み、当該基材が絶縁性器物である。かかる構成によれば、例えば電子レンジの高周波電磁波でスパークしない食器を製造することができる。
【0014】
また、本開示により、食器の装飾部の製造に用いられる組成物(絵具)が提供される。ここで開示される組成物は、表面の少なくとも一部が非導電性の無機酸化物で被覆された金属粒子を含み、上記金属粒子と、上記無機酸化物との前記無機酸化物との体積比(無機酸化物/金属粒子)が0.1以上0.8以下である。かかる組成物によれば、高密度に金属が配置された非導電性金属複合材料を製造することができる。
【0015】
ここで開示される組成物の好適な一態様では、上記金属粒子が内部に空隙を有する。かかる構成によれば、組成物を焼成した際に、金属粒子において内部焼結が起こるため、金属粒子の膨張による被覆層の割れが抑制される。これにより、金属粒子間の焼結を抑制することができる。
【0016】
また、ここで開示される組成物の好適な一態様では、上記金属粒子が、Pt、Au、Ag、Pd、Rh、Ir、RuおよびOsからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属を含む。かかる構成によれば、光沢が良好な非導電性金属複合材料を実現することができる。
【0017】
また、ここで開示される組成物の好適な一態様では、上記無機酸化物が、シリカ、アルミナ、ジルコニアおよびイットリアからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を含む。かかる構成によれば、より抵抗率の高い非導電性金属複合材料を実現することができる。
【0018】
また、本開示により、非導電性金属複合材料が提供される。ここで開示される非導電性金属複合材料は、表面の少なくとも一部に非導電性の無機酸化物を含む被覆層が形成された金属粒子を含み、上記非導電性金属複合材料全体を100vol%としたとき、上記金属粒子の体積割合が30vol%以上であり、上記被覆層が形成された金属粒子の90個数%以上が、他の3個以上の前記被覆層が形成された金属粒子と接触しており、上記被覆層の平均厚み(nm)と、上記金属粒子の電子顕微鏡像に基づく平均粒径(nm)において、(上記平均厚み/上記平均粒径)の値が0.01以上0.15以下であり、体積抵抗率が1×10-1Ω・cm以上である。ここで開示される製造方法によれば、かかる構成の高密度に金属が配置された非導電性金属複合材料を実現することができる。
【0019】
また、ここで開示される非導電性金属複合材料の好適な一態様では、上記金属粒子の電子顕微鏡像に基づく粒径の変動係数が0.6以下である。かかる構成によれば、金属粒子の粒径のばらつきが小さいので、金属粒子をより高密度に配置することができる。
【0020】
また、ここで開示される非導電性金属複合材料の好適な一態様では、上記金属粒子の電子顕微鏡像に基づく平均粒径が10nm以上1000nm以下である。かかる構成によれば、非導電性金属複合材料の発色がより良好になる。
【0021】
また、ここで開示される非導電性金属複合材料は、金属が高密度に配置されているため、電子レンジの加熱にも対応した、発色が良好な食器の装飾部として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】ここで開示される非導電性金属複合材料に含まれる金属粒子の構成を模式的に示した断面図であり、(A)~(C)はそれぞれ非導電性金属複合材料で観察され得る一態様を示している。
【
図2】例1の乾燥体および焼成体を表面から観察したFE-SEM像であり、(A)は乾燥体、(B)は焼成体を示す。
【
図3】例2の乾燥体および焼成体を表面から観察したFE-SEM像であり、(A)は乾燥体、(B)は焼成体を示す。
【
図4】例3の乾燥体および焼成体を表面から観察したFE-SEM像であり、(A)は乾燥体、(B)は焼成体を示す。
【
図5】例4の乾燥体および焼成体を表面から観察したFE-SEM像であり、(A)は乾燥体、(B)は焼成体を示す。
【
図6】例5の乾燥体および焼成体を表面から観察したFE-SEM像であり、(A)は乾燥体、(B)は焼成体を示す。
【
図7】例6の乾燥体および焼成体を表面から観察したFE-SEM像であり、(A)は乾燥体、(B)は焼成体を示す。
【
図8】例7の乾燥体および焼成体を表面から観察したFE-SEM像であり、(A)は乾燥体、(B)は焼成体を示す。
【
図9】例8の乾燥体および焼成体を表面から観察したFE-SEM像であり、(A)は乾燥体、(B)は焼成体を示す。
【
図10】例9の乾燥体および焼成体を表面から観察したFE-SEM像であり、(A)は乾燥体、(B)は焼成体を示す。
【
図11】例11の乾燥体および焼成体を表面から観察したFE-SEM像であり、(A)は乾燥体、(B)は焼成体を示す。
【
図12】例12の乾燥体および焼成体を表面から観察したFE-SEM像であり、(A)は乾燥体、(B)は焼成体を示す。
【
図13】例13の乾燥体および焼成体を表面から観察したFE-SEM像であり、(A)は乾燥体、(B)は焼成体を示す。
【
図14】例14の乾燥体および焼成体を表面から観察したFE-SEM像であり、(A)は乾燥体、(B)は焼成体を示す。
【
図15】例15の乾燥体および焼成体を表面から観察したFE-SEM像であり、(A)は乾燥体、(B)は焼成体を示す。
【
図16】例16の乾燥体および焼成体を表面から観察したFE-SEM像であり、(A)は乾燥体、(B)は焼成体を示す。
【
図17】例2の焼成体のTEM-EDX元素マッピング像を示す。
【
図18】例6の焼成体のTEM-EDX元素マッピング像を示す。
【
図19】例9の焼成体のTEM-EDX元素マッピング像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、ここで開示される技術の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって実施に必要な事柄(例えば、組成物が塗布される基材の製造等)は、本明細書により教示されている技術内容と、当該分野における当業者の一般的な技術常識とに基づいて理解することができる。ここで開示される技術の内容は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において範囲を示す「A~B」との表記は、A以上B以下を意味しており、Aを上回り且つBを下回る場合を包含する。
【0024】
ここで開示される非導電性金属複合材料は、金属が高密度に配置されているのにも関わらず、非導電性を有している。これにより、非導電性であることが要求される材料に、金属の特性(例えば、金属光沢、強磁性等)を好適に付加することができる。なお、本明細書において、「非導電性」とは、四探針法で測定される体積抵抗率が1×10-1Ω・cm以上である性質のことをいう。
【0025】
図1は、ここで開示される非導電性金属複合材料に含まれる金属粒子の構成を模式的に示した断面図である。非導電性金属複合材料は、金属粒子12を含んでおり、金属粒子12の表面の少なくとも一部は非導電性の被覆層14に覆われている。
図1の(A)に示されるように、金属粒子12の表面全体が被覆層14で覆われていてもよく、また、
図1の(B)に示されるように、金属粒子12の表面の一部が被覆層14で覆われていなくてもよい。
図1の(A)および(B)では、被覆層14が金属粒子12の間に存在していることで、金属粒子12同士が結合(ネッキング)しておらず、金属粒子12同士が離れて配置されているため、非導電性が実現されている。また、金属複合材料全体が非導電性を有する範囲において、
図1の(C)に示すように、金属粒子12がネッキングしたネック部16を有していてもよい。また、非導電性金属複合材料は、金属粒子12間に空隙を有し得る。
【0026】
金属粒子12は、非導電性金属複合材料の用途に応じて適宜変更され得るものであり、例えば、貴金属元素、遷移金属元素等を含み得る。貴金属元素としては、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、オスミウム(Os)が挙げられる。貴金属元素は、非導電性金属複合材料に優れた金属光沢を与えるため、例えば非導電性金属複合材料を食器の装飾部として用いる場合に好適である。遷移金属元素としては、例えば鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)等が挙げられる。Fe、Ni、Coは、強磁性を示す金属であり、例えば非導電性金属複合材料を圧粉磁心に用いる場合に好適である。
【0027】
金属粒子12の平均粒径は、10nm以上であることが好ましく、例えば、20nm以上、30nm以上、40nm以上であり得る。平均粒径が10nm未満であると、金属光沢が不十分となる場合や、プラズモン吸収による発色が発生し、色調の制御が困難になる場合がある。また、金属粒子12の平均粒径は、典型的には1000nm以下であることが好ましく、例えば、200nm以下、150nm以下、100nm以下であり得る。平均粒径が1000nmを超えると、導電性が高くなる場合や、非導電性金属複合材料の表面に凹凸が生じやすくなり、発色が不良になる場合がある。なお、本明細書において「平均粒径」とは、電子顕微鏡(例えば走査型電子顕微鏡(SEM))によって得られる粒子の画像から無作為に選択された200個以上の粒子の定方向径(フェレ―径)の算術平均の値ことをいう。また、粒子同士がネッキングしている場合には、ネック部の両端のくびれを直線で結ぶことで粒子を分割し、別々の粒子として測定するものとする。
【0028】
金属粒子12の粒径の変動係数は、好ましくは0.6以下であり、より好ましくは0.3以下、さらに好ましくは0.25以下、特に好ましくは0.2以下(例えば0.15以下)である。変動係数が小さいほど粒子のばらつきが小さいため、発色の安定性が向上し、発色を制御しやすくなる。なお、変動係数は、標準偏差を算術平均で割った値(標準偏差/算術平均)で求めることができる。
【0029】
被覆層14は、非導電性材料を含んでおり、典型的には非導電性の無機酸化物で構成されている。かかる無機酸化物としては、例えば、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、イットリア(Y2O3)等の透明性の高い無機酸化物が挙げられる。これにより、金属粒子12の光沢および発色が良好に発揮され得る。また、なお、無機酸化物の透明性により、電子顕微鏡観察で、金属粒子12の粒径の測定が可能となる。
【0030】
被覆層14の平均厚みは、例えば、10nm以下であるとよく、6nm以下、4nm以下、2nm以下であり得る。被覆層14の平均厚みが小さいほど、金属粒子12をより高密度に配置することができる。被覆層14の平均厚みの下限は、非導電性金属複合材料が非導電性を有する限り特に限定されるものではないが、例えば、0.5nm以上であり得る。なお、本明細書における被覆層14の平均厚みは、EDX分析から算出した金属粒子12と被覆層14との体積比率(具体例は後述の試験例を参照)に基づいて、平均粒径を有する金属粒子12の表面に均一な厚みの被覆層14が形成されていると仮定した場合の厚みのことをいう。かかる厚みは、被覆層14の平均厚みをT、金属粒子12の平均粒径の1/2である半径をr、被覆層14の体積:金属粒子12の体積=A:Bとしたとき、以下の式:
(4/3)π(T+r)3:(4/3)πr3=(A+B):B
から求めることができる。
【0031】
被覆層14の平均厚みと、金属粒子12の平均粒径との比(平均厚み/平均粒径)は、非導電性の確保の観点から、0.01以上であるとよく、例えば、0.015以上、0.02以上であり得る。また、金属粒子12を高密度に配置する観点から、かかる比は、0.15以下であるとよく、例えば、0.1以下、0.05以下、0.025以下であり得る。
【0032】
非導電性金属複合材料における金属粒子12の体積割合は、非導電性金属複合材料を全体の体積を100vol%としたとき、例えば、30vol%以上であり、好ましくは50vol%以上、より好ましくは60vol%以上、さらに好ましくは70vol%以上、特に好ましくは80vol%以上であり、例えば、85vol%以上、90vol%以上であり得る。金属粒子12の体積割合が高いほど、金属粒子12の金属特性(例えば、金属光沢、強磁性等)が効果的に発揮される。例えば、金属粒子12が貴金属元素で構成されている場合には、光沢および色調に優れた非導電性金属複合材料とすることができる。また、金属粒子12の体積割合の上限は、非導電性金属複合材料が非導電性を有する限り特に限定されるものではないが、例えば、99vol%以下、95vol%以下であり得る。なお、非導電性金属複合材料全体の上記体積割合には、金属粒子12間に存在し得る空隙の体積を含めないものとする。金属粒子12の体積比は、例えば、EDX元素分析の結果から計算で求めることができる。
【0033】
非導電性金属複合材料における金属粒子12と、被覆層14に含まれる無機酸化物との体積比(無機酸化物/金属粒子)は、例えば、1以下であるとよく、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.6以下、さらに好ましくは0.4以下、特に好ましくは0.2以下であって、例えば0.15以下、0.11以下であり得る。かかる体積比が小さいほど、金属粒子12の体積に対する無機酸化物の体積の割合が小さいため、金属粒子12の粒子間距離をより小さくすることができる。その結果、非導電性金属複合材料における金属粒子12の体積割合を高めることができる。また、かかる体積比の下限は、非導電性金属複合材料が非導電性である限り特に限定されるものではないが、例えば、0.05以上、0.1以上であり得る。なお、かかる体積比は、例えば、EDX元素分析によって得られる金属粒子を構成する元素と、無機酸化物に含まれる酸素以外の構成元素(例えば、シリカの場合Si)との重量比を用いて計算で求めることができる。後述する試験例に計算の一例を示している。
【0034】
非導電性金属複合材料における金属粒子12と、被覆層14に含まれる無機酸化物とのモル比(無機酸化物/金属粒子)は、例えば、0.5以下であるとよく、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.1以下、さらに好ましくは0.05以下である。かかるモル比が低いほど、金属粒子12に対する無機酸化物の存在量が少なくなるため、より被覆層14の厚みを減らし、金属粒子12をより高密度に配置することができる。また、かかるモル比の下限は、非導電性金属複合材料が非導電性を有する限り特に限定されるものではないが、例えば0.01以上であり得る。なお、かかるモル比は、EDX元素分析によって測定することができる。具体的には、金属粒子12を構成する金属元素と、無機酸化物に含まれる元素との比率を測定することで求めることができる。
【0035】
非導電性金属複合材料は、金属粒子12が高密度に配置されているため、非導電性金属複合材料を表面から観察したとき、金属粒子12が占める面積割合が高くなる。例えば、金属粒子12の面積と、被覆層14の面積との面積比(被覆層/金属粒子)は、0.5以下であるとよく、好ましくは0.35以下、より好ましくは0.25以下、さらに好ましくは0.15以下である。かかる面積比の値が小さい程、非導電性金属複合材料の表面において金属粒子12が占める割合が高くなる。これにより、非導電性金属複合材料の金属光沢がより向上し得る。また、上記面積比の下限は、非導電性金属複合材料が非導電性を有する限り特に限定されるものではなく、例えば0.1以上であり得る。
なお、上記面積比は、例えば、非導電性金属複合材料の表面からのEDX元素マッピング像を画像解析することによって求めることができる。
【0036】
以下、ここで開示される非導電性金属複合材料の製造方法について説明する。ここで開示される非導電性金属複合材料の製造方法は、表面の少なくとも一部が非導電性の無機酸化物で被覆された金属粒子を含む組成物を準備すること(以下「準備工程」ともいう)、前記組成物を成形または所定の基材に塗布すること(以下、「成形/塗布工程」ともいう)、および、前記組成物を焼成して非導電性金属複合材料を得ること(以下、「焼成工程」ともいう)を包含する。
【0037】
準備工程では、ここで開示される組成物を調製する。ここで開示される組成物は、表面の少なくとも一部が無機酸化物によって被覆された金属粒子を含む。このような構成の金属粒子の製造例を以下に説明する。なお、かかる金属粒子の製造方法は、以下の製造例に限定されるものではない。
【0038】
金属粒子の生成のためには、まず、目的の金属元素を含む金属化合物を溶解した金属粒子生成用溶液を調製する。ここで用いられる金属化合物としては、目的の金属(例えばPt)の塩又は錯体を好ましく用いることができる。塩としては、例えば、塩化物、臭化物、ヨウ化物などのハロゲン化物や、水酸化物、硫化物、硫酸塩、硝酸塩、等が挙げられる。錯体としては、アンミン錯体、シアノ錯体、ハロゲノ錯体、ヒドロキシ錯体、等が挙げられる。
【0039】
上述した金属化合物を溶解する溶媒としては、例えば、水系溶媒を用いることができる。水系溶媒としては、水(例えば、純水、脱イオン水等)または水を主体とする混合液(例えば、水と低級アルコールとの混合溶液)を用いることができる。なお、本明細書において、「水を主体とする混合液」は、混合液のうち50vol%以上が水である混合液のことをいう。
【0040】
金属粒子生成用溶液中の上記金属化合物の混合量は特に限定されるものではないが、例えば、上記金属化合物の濃度が0.01M~0.2M(例えば0.01M~0.08M)となるように溶液を調製することができる。かかる溶液を調製する際、金属化合物と溶媒の他に種々の添加剤を加えることができる。かかる添加剤としては、例えば、保護剤、錯化剤等が挙げられる。
【0041】
保護剤としては、ポリビニルピロリドン(PVP)を使用することが好ましい。PVPは、その後の還元処理によって生成される金属粒子の表面に付着することができる。金属粒子の表面に付着したPVPは、後述するアルカリ条件下(例えばアンモニア存在下)のゾルゲル反応を促すことができるため、金属粒子表面により均一に無機酸化物を被覆させることができる。また、粒子内部にも保護剤(PVP)を取り込んだ構造となるため、保護剤の燃え抜けによる体積収縮も起こり得る。PVPの混合量は、上記金属化合物に含まれる金属元素の質量を100wt%としたとき、例えば、10~1000wt%とすることができる。
【0042】
また、PVPを使用する場合には、金属粒子生成用溶液に低級アルコールが含まれることが好ましい。PVPを使用する場合には、生成される金属粒子の粒径は10nm未満のシングルナノサイズになり易い。そのため、10nm~1000nm程度の粒径で、粒度分布がシャープ(即ち、変動係数が小さい)な金属粒子を得ることは困難である。また、金属粒子の粒径を増大させるために、例えば、上記金属化合物の濃度を上げる、PVP混合量を減らす等をすると、金属粒子の凝集やネッキングが発生し易くなる。そこで、本発明者らが検討したところ、低級アルコールを溶液に混合することにより、PVP存在下であっても、10nm~1000nm程度の平均粒径を有し、かつ、粒径のばらつきが少ない(例えば変動係数0.6以下)金属粒子を効率よく得られることが見出された。
【0043】
また、上述のようにPVPおよび低級アルコールを混合して製造された金属粒子は、多結晶体になり易く、金属粒子の内部に空隙を有し得る。典型的には、被覆層に含まれる無機酸化物は、金属粒子よりも熱膨張率が低いため、熱処理によって金属粒子の膨張により割れが生じやすい。そこで、多結晶体を有する金属粒子であれば、熱処理により粒界の消失によって高結晶化や緻密化が生じ、金属粒子の体積収縮を生じさせることができる。また、内部に空隙を有する金属粒子であれば、熱処理により内部焼結が生じ、金属粒子の体積収縮を生じさせることができる。その結果、金属粒子の熱膨張による被覆層の割れが抑制され、金属粒子同士の焼結を抑制することができる。
なお、金属粒子をX線回折(XRD)法によって分析することで、結晶子径が分かるため、金属粒子が多結晶体であるかを評価することができる。また、金属粒子の内部の空隙の割合(空隙率)は、例えば、0.1%~20%以下であって、0.5%~15%、1%~10%程度であり得る。金属粒子の内部の空隙率は、例えば、次式:
空隙率(%)=100×(1-(定容積膨張法による乾式密度測定で得られた金属粉の見かけ密度)/(金属材料の文献上の真密度))
により求めることができる。
【0044】
低級アルコールの割合は、例えば、金属粒子生成用溶液全体の20vol%~40vol%であるとよく、30vol%~35vol%が好ましい。なお、低級アルコールは、上記金属化合物を溶解させる前に金属粒子生成用溶液に混合されていてもよく、上記金属化合物の溶解後に混合してもよい。低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロパノール等が挙げられる。
【0045】
錯化剤としては、例えば、アンモニア水、シアン化カリウム、等を用いることができる。錯化剤を適量加えることにより、所望の金属元素が中心金属イオンとなった錯体を液中で容易に形成することができる。これによって、その後の還元処理によって目的の金属粒子を容易に生成することができる。
【0046】
金属粒子生成用溶液を調製する際、一定の範囲内に温度条件を維持しながら攪拌するとよい。このときの温度条件としては、20℃~60℃(より好ましくは30℃~50℃)程度であるとよい。また、攪拌の回転速度は、100rpm~1000rpm(より好ましくは300rpm~800rpm、例えば500rpm)程度であるとよい。
【0047】
次いで、このように調製した金属粒子生成用溶液中に適当な還元剤を添加して還元処理することによって金属粒子を生成する。還元剤としては、例えば、炭酸ヒドラジン、ヒドラジン、抱水ヒドラジン、フェニルヒドラジン、硫酸ヒドラジン、ヒドラジン二塩酸塩、アルキルヒドラジンなどのヒドラジン化合物を用いることができる。また、還元剤の他の例として、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸などの有機酸およびその塩(酒石酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩)や、水素化ホウ素ナトリウムなどが挙げられる。これらの中でも、毒劇物ではなく、かつ、均一で表面が滑らかな金属粒子を形成し得る炭酸ヒドラジン、酒石酸塩(例えば、酒石酸ナトリウム)、クエン酸塩(例えば、クエン酸ナトリウム)などを好ましく用いることができる。
【0048】
還元剤の添加量は、反応系の状態に合わせて適切に設定すればよいため、特に制限されるものではない。また、還元剤の濃度を適宜調整することにより、金属粒子の粒径を制御することができる。一般的には、還元剤の濃度を高くすることにより、金属粒子の粒径を小さくすることができる。また、還元処理の際に、金属粒子生成用溶液にpH調整剤を添加して、pHを8以上、例えば9~11程度に調整することが好ましい。pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、アンモニア水、その他の塩基性化合物等を用いることができる。還元処理時間は、適宜設定することができる。特に制限はないが、例えば、0.5時間~3時間程度が好ましい。このようにして、金属粒子が液中に生成され、金属粒子分散液を得ることができる。
なお、金属粒子を好適に析出させるために、還元剤を添加した後に混合液を撹拌しながら還元反応を進行させるとよい。このときの撹拌の手段は、特に限定されないが、例えば、マグネチックスターラーや超音波撹拌機などを用いた撹拌を好適に採用することができる。
【0049】
組成物に含まれる金属粒子の平均粒径は、好ましくは10nm以上であって、例えば20nm以上、30nm以上、40nm以上、50nm以上であり得る。平均粒径が10nm未満であると、製造される非導電性金属複合材料の金属光沢が不十分となる場合があり、プラズモン吸収による発色が発生し色調の制御が困難になり得る。また、金属粒子の平均粒径は、典型的には1000nm以下であることが好ましく、例えば、200nm以下、150nm以下、110nm以下、100nm以下であり得る。平均粒径が1000nmを超えると、非導電性金属複合材料の導電性が高くなる場合や、非導電性金属複合材料の表面に凹凸が生じやすくなり、例えば発色が不良になる場合がある。
【0050】
また、組成物に含まれる金属粒子の粒径の変動係数は、好ましくは0.3以下であり、より好ましくは0.2以下、さらに好ましくは0.17以下、特に好ましくは0.15以下(例えば0.1以下)である。粒径のばらつきが小さいほど、焼成体(非導電性金属複合材料)においても金属粒子の粒径のばらつきが抑制され、発色の安定性を向上させることができる。
【0051】
金属粒子は、焼成により粒径が増大しないことが好ましく、換言すれば、焼成後の金属粒子の平均粒径をDa(nm)、焼成前の金属粒子の平均粒径をDb(nm)としたとき、Da≦Dbを具備することが好ましい。また、焼成による金属粒子の収縮率(粒子収縮率)は、0%以上であること(収縮しない(即ち0%)又は収縮する場合0%より大きいこと)が好ましく、2%以上、5%以上、10%以上であり得る。金属粒子の収縮率が0%以上であれば、金属粒子表面の無機酸化物が金属粒子の熱膨張によって、破壊されるのを抑制し、金属粒子同士が焼結によって結合するのを抑制し易くなる。一方で、粒子収縮率が高すぎる場合、非導電性金属複合材料において金属粒子が高密度に配置されにくくなる場合があるため、粒子収縮率は、例えば25%以下が好ましく、20%以下、15%以下であり得る。なお、粒子収縮率は次式:
((Db-Da)/Db)×100
によって求めることができる。
【0052】
次いで、上記得られた金属粒子分散液を用いて、ゾルゲル法により金属粒子表面に無機酸化物の被覆を形成する。かかる方法では、金属粒子分散液にアルコキシドを混合することで、アルコキシドと水とを接触させる。これにより、アルコキシドが加水分解されるため、無機酸化物が金属粒子表面に生成され、無機酸化物で被覆された金属粒子を得ることができる。なお、かかる反応の際、金属粒子表面により均一に無機酸化物を被覆するため、金属粒子分散液を撹拌しながらアルコキシドを混合することが好ましい。かかる反応の処理時間は、特に制限されるものではないが、例えば、12時間~24時間程度とすることができる。
【0053】
アルコキシドとしては、一般にゾルゲル法に用いられるものであれば、特に制限なく使用することができ得る。一例では、無機酸化物としてシリカを被覆させる場合には、アルコキシドとして、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン(TEOS)、1,2-ビストリメトキシシリルエタン、Si原子に1~4のアルコキシ基が結合したシリコンアルコキシド、グリシジル基等の官能基を導入したシリコンアルコキシド等を好ましく用いることができる。
【0054】
アルコキシドの混合量は、特に限定されるものではないが、例えば、アルコキシドの混合量が少なすぎる場合には、金属粒子の表面に被覆される無機酸化物の量が不十分になり得る。そのため、アルコキシドと、上記金属化合物とのモル比(アルコキシド/金属化合物)が、例えば、0.01以上であるとよく、0.035以上、0.065以上、0.1以上であり得る。また、アルコキシドの混合量が多すぎる場合には、金属粒子の表面に被覆される無機酸化物の量が多くなりすぎるため、非導電性金属複合材料において金属粒子を高密度に配置できなくなる場合がある。そのため、上記モル比は、例えば、1以下であるとよく、0.5以下、0.45以下、0.4以下、0.3以下または0.2以下であり得る。
【0055】
また、ゾルゲル法において、アルコキシドの加水分解反応の反応速度を調整し、金属粒子の表面により均一に無機酸化物を被覆させるため、金属粒子分散液をアルカリ条件下に調整することが好ましい。アルカリ条件としては、例えば、金属粒子分散液をpH8以上、例えばpH9~13程度に調整するとよい。かかる調整には、pH調整剤には、例えば、水酸化ナトリウム、アンモニア、その他の塩基性化合物等を用いることができ、なかでも、アンモニアを用いることが好ましい。
【0056】
このようにして、表面の少なくとも一部が非導電性の無機酸化物で被覆された金属粒子を製造することができる。なお、製造された粒子は液中に分散しているため、例えば静置による沈降あるいは遠心分離させた後に上澄みを除くことで回収することができる。また、純水や低級アルコール等により洗浄処理をすることが好ましい。
【0057】
上記製造された無機酸化物で被覆された金属粒子において、無機酸化物と金属粒子とのモル比(無機酸化物/金属粒子)は、例えば、0.5以下であるとよく、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.1以下、さらに好ましくは0.05以下である。かかるモル比が低いほど、金属粒子に対する無機酸化物の存在量が少なくなるため、より無機酸化物の厚みを減らし、金属粒子をより高密度に配置することができる。また、かかるモル比の下限は、非導電性金属複合材料が非導電性である限り特に限定されるものではなく、例えば0.01以上であり得る。なお、かかるモル比は、EDX元素分析によって測定することができる。
【0058】
上記製造された無機酸化物で被覆された金属粒子における、金属粒子と、被覆された無機酸化物との体積比(無機酸化物/金属粒子)は、例えば、1以下であるとよく、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.6以下、さらに好ましくは0.4以下、特に好ましくは0.2以下であって、例えば0.15以下、0.11以下であり得る。かかる体積比が小さいほど、金属粒子の体積に対する無機酸化物の体積の割合が小さいため、金属粒子がより高密度に配置された非導電性金属複合材料を製造することができる。また、かかる体積比の下限は、特に限定されるものではないが、例えば、0.05以上、0.1以上であり得る。なお、かかる体積比は、具体的な算出方法は、非導電性金属複合材料における金属粒子12と被覆層14との体積比を求める方法と同様であり、EDX元素分析によって得られる金属粒子を構成する元素と、無機酸化物に含まれる酸素以外の構成元素(例えば、シリカの場合Si)との重量比を用いて算出することができる。
【0059】
また、上記製造された無機酸化物で被覆された金属粒子において、無機酸化物(被覆層)の平均厚みは、例えば、10nm以下であるとよく、6nm以下、4nm以下、2nm以下であり得る。被覆層の平均厚みが小さいほど、金属粒子がより高密度に配置された非導電性金属複合材料を製造することができる。被覆層の平均厚みの下限は、特に限定されるものではないが、例えば、0.5nm以上であり得る。なお、被覆層の平均厚みは、EDX分析から算出した金属粒子と被覆層との体積比率に基づいて、平均粒径を有する金属粒子の表面に均一な厚みの被覆層が形成されていると仮定した場合の厚みのことをいう。具体的な算出方法は、上述した非導電性金属複合材料における被覆層14の平均厚みと同様である。
【0060】
また、このように製造された無機酸化物で被覆された金属粒子は、被覆層の平均厚みと、金属粒子の平均粒径との比(平均厚み/平均粒径)は、製造される非導電性金属複合材料の非導電性の確保の観点から、0.01以上であるとよく、例えば、0.015以上、0.02以上であり得る。また、金属粒子を高密度に配置する観点から、かかる比は、0.15以下であるとよく、例えば、0.1以下、0.05以下、0.025以下であり得る。
【0061】
ここで開示される組成物は、ここで開示される技術の効果を著しく損なわない限りにおいて、上記製造された無機酸化物で被覆された金属粒子のほかに、例えば、有機溶媒、マトリクス形成材料、その他添加物等を含み得る。有機溶媒としては、例えば、1,4-ジオキサン、1,8-シネオール、2-ピロリドン、2-フェニルエタノール、N-メチル-2-ピロリドン、p-トルアルデヒド、安息香酸ベンジル、安息香酸ブチル、オイゲノール、カプロラクトン、ゲラニオール、サリチル酸メチル、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、シクロペンチルメチルエーテル、シトロネラール、ジ(2-クロロエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジヒドロカルボン、ジブロモメタン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ニトロベンゼン、ピロリドン、プロピレングリコールモノフェニルエーテル(PhFG)、プレゴン、ベンジルアセテート、イソブタノール、ベンジルアルコール、ベンズアルデヒド、ピネン、パインオイル、テレピン油、ラベンダー油等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を混合して使用することができる。
【0062】
マトリクス形成材料は、焼成によって酸化物の状態で非晶質マトリクスを形成し得る材料である。非晶質マトリクスは、非導電性金属複合材料の発色性、導電性、接着性、安定性、強度、耐化学性等を調整し得る。マトリクス形成材料としては、例えば、金属レジネート、金属錯体等が挙げられる。マトリクス形成材料に含まれる金属元素としては、例えば、ビスマス(Bi)、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)や、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素等であり得る。このなかでも、Biを含むマトリクス形成材料を採用することが好ましい。Biを含むことで、非導電性金属複合材料の基材への接着強度を向上させることができる。
【0063】
その他添加物としては、例えば、有機バインダ、保護剤、界面活性剤、増粘剤、pH調整剤、防腐剤、消泡剤、可塑剤、安定剤、酸化防止剤などが挙げられる。
【0064】
上記製造された無機酸化物で被覆された金属粒子と、上記の任意成分とを混合することで、ここで開示される組成物を得ることができる。かかる組成物は、従来公知方法で混錬することで、ペースト状(スラリー、ディスパーションなどの形態を含む。以下同じ。)の混錬物として得ることができる。
【0065】
次いで、成形/塗布工程について説明する。成形/塗布工程では、上記調製した組成物を成形または所定の基材に塗布する。組成物を成形する場合には、成形方法は特に限定されるものではなく、例えば、加圧成形、プレス成形等を実施することができる。組成物を所定の基材に塗布する場合には、基材の種類は特に限定されるものではなく、例えば、陶器、磁器、土器、石器、ガラスなどの絶縁性器物を好適に採用することができる。また、塗布方法は特に限定されるものではなく、例えば、刷毛塗り、スクリーン印刷、インクジェット印刷等を採用することができる。
【0066】
成形または塗布された組成物は、焼成前に乾燥させてもよい。乾燥方法は特に限定されず、例えば、自然乾燥、熱風乾燥、真空乾燥等を実施することができる。
【0067】
次いで、焼成工程について説明する。焼成工程では、成形または塗布された組成物を焼成することで、組成物の焼成体である非導電性金属複合材料を得ることができる。焼成温度は、典型的には、組成物に含まれる無機酸化物で被覆された金属粒子の焼結温度以下とすることができるが、金属粒子の焼結温度は、金属粒子の構成元素、粒径、形状、無機酸化物の種類、膜厚などにより変化するため、適宜変更することができる。一例では、金属粒子がPt粒子、無機酸化物がシリカであるとき、焼成温度を、例えば、400℃~800℃の範囲に設定することができ、かかる焼成温度による焼成時間を10分~30分程度に設定することができる。
【0068】
このようにして製造された非導電性金属複合材料は、金属粒子が高密度に配置されているのにも関わらず、金属粒子同士がネッキングしている割合が低いため、体積抵抗率が高くなり、非導電性を有している。上記方法で製造された非導電性金属複合材料においては、金属粒子がネッキングしている割合は、例えば、50個数%以下であって、40個数%以下、30個数%以下、20個数%以下、10個数%以下、さらには5個数%以下(例えば1個数%以下)であり得る。なお、本明細書におけるネッキングしている粒子の割合は、電子顕微鏡(例えばSEM)によって得られる粒子の画像から無作為に200個以上の金属粒子を選択して、ネッキングしている粒子の個数を数えることで求めることができる。なお、このときネッキングしている金属粒子は1個として数えるものとする。
【0069】
また、このようにして製造された非導電性金属複合材料は、被覆された金属粒子同士が接触して配置され得、例えば、被覆された金属粒子の90個数%以上が、他の被覆された金属粒子の3個以上と接触している。このような場合であっても、金属粒子の表面に被覆層を有しているため、接触部分の多くは被覆層を介して接触しているため、非導電性が実現されている。なお、非導電性を有する限りにおいて、接触部分は、被覆層同士、被覆層と金属粒子、金属粒子同士のいずれであってもよいが、接触部分のうち、被覆層を介した接触が80%以上であることが好ましく、90%以上がより好ましい。かかる接触部分の評価は、TEM-EDXに基づいて実施することができ、例えば、無作為に選択した100個以上の金属粒子を観察することで上記割合を求めることができる。
【0070】
また、このようにして製造された非導電性金属複合材料は、被覆された金属粒子間に空隙を有し得る。空気の抵抗率(約1016Ω・m)は、種々の無機酸化物の抵抗率(例えば、シリカ;約1014Ω・m、アルミナ;約1013Ω・m)よりも高いため、非導電性金属複合材料の抵抗率を効果的に増大させることができる。非導電性金属複合材料の体積抵抗率は、少なくとも1×10-1Ω・cm以上であって、好ましくは4×10-1Ω・cm以上、より好ましくは1Ω・cm以上、さらに好ましくは1×103Ω・cm以上、特に好ましくは1×105Ω・cm以上(例えば1×106Ω・cm以上)であり得る。
【0071】
ここで開示される非導電性金属複合材料は、例えば、食器の装飾部として好適に用いることができる。特に、絶縁性器物の表面に非導電性金属複合材料を備えることで、電子レンジの加熱によってスパークしない、電子レンジ対応の食器として用いることができる。また、非導電性金属複合材料は、例えば、圧粉磁心として好適に用いることができる。なお、ここで開示される非導電性金属複合材料の用途は、上記に限定されるものでない。
【0072】
以下、ここで開示される技術に関する試験例を説明するが、ここに開示される技術をかかる試験例に限定することを意図したものではない。
【0073】
〔試験1〕
金属粒子(Pt粒子)または表面の少なくとも一部が無機酸化物(シリカ)に被覆されたPt粒子を含む膜状の焼成体(例1~16)を製造し、耐電子レンジ性、光沢を調べた。また例2、3および9については、Pt粒子とシリカのモル比、面積比、体積比を測定した。
【0074】
(例1)
テトラクロロ白金(II)酸カリウム0.104gを、純水16.66mLに加え、マグネチックスターラーで攪拌し溶解させた後、エタノールを8.33mL加えた。ここに、ポリビニルピロリドン(PVP K90、富士フィルム和光純薬株式会社製)を0.278g加え、攪拌しながら溶解させた。さらに攪拌しながら、0.125mLの70%炭酸ヒドラジンを加え、30分間攪拌をすることでPt粒子を析出させた。そして、攪拌しながら28%アンモニア水を0.5mL加えた後、テトラエトキシシラン(TEOS)を27μL加え、一晩攪拌した。これにより、表面の少なくとも一部にシリカが被覆したPt粒子(以下、「シリカ-Pt粒子」ともいう)を得た。なお、製造で用いたテトラクロロ白金(II)酸カリウムとTEOSのモル比を「仕込みSi/Ptモル比」として表1に示す。
得られたシリカ-Pt粒子分散液を、遠心分離機を用いて沈降させ、上澄みを除去した。ここに純水を加えて再分散させた後、遠心分離機を用いて沈降させ、上澄みを除去する洗浄工程を2回繰り返した。そして、同様の洗浄工程を純水の代わりにエタノールを用いて2回行った後、さらに有機溶媒としてWAオイル(整理番号:J2012、ノリタケカンパニーリミテド製)を用いて同様の洗浄工程を実施した。得られた沈殿物を、自公転ミキサー(製品名:あわとり練太郎、株式会社シンキー製)を用いて混錬し、ペースト状のシリカ-Pt粒子-WAオイル混錬物を得た。
得られたシリカ-Pt粒子-WAオイル混錬物を、石英ガラスに塗布し、60℃で30分間乾燥させ、膜状の乾燥体とした。乾燥体を大気雰囲気下で昇温速度10℃/minで加熱し、800℃で10分間保持後、放冷した。このようにして、例1の膜状の焼成体を得た。
【0075】
(例2)
TEOS添加量を24μLに変更した以外は例1と同様にして、例2の焼成体を得た。
(例3)
TEOS添加量を18μLに変更した以外は例1と同様にして、例3の焼成体を得た。
(例4)
TEOS添加量を12μLに変更し、焼成温度を600℃に変更した以外は例1と同様にして、例4の焼成体を得た。
(例5)
TEOSの添加量を6μLに変更し、焼成温度を400℃に変更した以外は例1と同様にして、例5の焼成体を得た。
【0076】
(例6)
純水を2.08mL、エタノール添加量を1.04mL、TEOS添加量を24μLに変更した以外は例1と同様にして、例6の焼成体を得た。
(例7)
TEOS添加量を3.9μLに変更した以外は例6と同様にして、例7の焼成体を得た。
(例8)
TEOS添加量を2.1μLに変更し、焼成温度を600℃に変更した以外は例6と同様にして、例8の焼成体を得た。
(例9)
焼成温度を400℃に変更した以外は例8と同様にして、例9の焼成体を得た。
【0077】
(例10)
TEOS添加量を270μLに変更した以外は例1と同様にして、例10の焼成体を得た。
(例11)
TEOS添加量を12μLに変更した以外は例1と同様にして、例11の焼成体を得た。
(例12)
TEOS添加量を6μLに変更し、焼成温度を600℃に変更した以外は例1と同様にして、例12の焼成体を得た。
(例13)
焼成温度を800℃に変更した以外は例8と同様にして、例13の焼成体を得た。
(例14)
28%アンモニア水を添加しなかったこと以外は例1と同様にして、例14の焼成体を得た。
【0078】
(例15)
テトラクロロ白金(II)酸カリウム4.16gを、純水200mLに加え、マグネチックスターラーで攪拌し溶解させた後、エタノールを100mL加えた。ここに、ポリビニルピロリドン(PVP K90、富士フィルム和光純薬株式会社製)を33.3g加え、攪拌しながら溶解させた。さらに攪拌しながら、5mLの70%炭酸ヒドラジンを加え、30分間攪拌をすることで。Pt粒子を析出させた。
得られたPt粒子を例1と同様の方法で洗浄した。また、加熱温度を600℃に変更した以外は例1と同様にして加熱処理を行った。このようにして、例15の焼成体を得た。
(例16)
焼成温度を400℃に変更した以外は例15と同様にして、例16の焼成体を得た。
【0079】
<平均粒径の測定>
FE-SEM(株式会社日立ハイテク製、SU-8230)により各例の乾燥体および焼成体の表面を観察した。各例で200個以上のPt粒子を無作為に選び、Pt粒子の定方向径(フェレ―径)を測定し、これらの算術平均を求め、Pt粒子の平均粒径とした。また、平均粒径の変動係数を求めた。結果を表1に示す。
また、乾燥体および焼成体を表面から観察したFE-SEM像を
図2~16に示す。
図2~16は、それぞれ例1~9、11~16の乾燥体(図中(A))および焼成体(図中(B))を表面から観察した像である。
【0080】
<粒子収縮率の評価>
焼成によるPt粒子の粒子収縮率を求めた。粒子収縮率は、乾燥体における金属粒子の平均粒径をDb(nm)、焼成体におけるPt粒子の平均粒径をDa(nm)として、式:((Db-Da)/Db)×100によって求めた。結果を表1に示す。
【0081】
<PtとSiのモル比の測定>
焼成体の表面からTEM-EDX分析することでPtとSiのモル比(Si/Pt)を求めた。結果を表1に示す。
【0082】
<PtとSiの面積比の測定>
TEM-EDX元素マッピングを用いて、焼成体の表面からの画像におけるPtとSiとの面積比(Si/Pt)を画像解析ソフトを用いて測定した。結果を表1に示す。
【0083】
また、TEM-EDX元素マッピングを用いて、PtとSiの存在位置を確認した。
図17~19に例2、6、9の結果を示す。なお、図中のDFはTEM暗視野像を意味する。
【0084】
<Ptとシリカの体積比の測定>
TEM-EDXから得られたPtとSiの比率から、Ptとシリカの体積比を計算により求めた。具体的には、Ptの質量を1として、SiのPtに対する質量比をxとした。また、シリカ(SiO2)の分子量を60.08g/mol、Siの原子量を28.09g/mol、アモルファスシリカの密度を2.2g/cm3、Ptの密度を21.45g/cm3とした。そして、以下の式:
(シリカ/Pt体積比)=((x×60.08/28.09)/2.2)/(1/21.24)
により、シリカ/Pt体積比を求めた。また、かかる体積比を基に、シリカとPtとの体積を100vol%としたときのPt体積割合(vol%)を求めた。また、かかる体積比と、Pt粒子の平均粒径を用いて、平均粒径を有するPt粒子の表面に均一な厚みのシリカの被覆層が形成されていると仮定したときの、被覆層の平均厚み(nm)を求めた。さらに、被覆層の平均厚みとPt粒子の平均粒径の比(平均厚み/平均粒径)を求めた。結果を表1に示す。
【0085】
<耐電子レンジ性の評価>
焼成体を1000W、1分間の条件で電子レンジで加熱し、スパークの有無を確認した。結果を表1に示す。なお、スパークしなかったものを「〇」、スパークしたものを「×」とした。
【0086】
<光沢の評価>
焼成体の表面をイオンミリング研磨した後、目視により金属光沢を評価した。焼成体の表面を凡そ45度の角度から観察したとき、焼成体の表面に白金色の光沢があったものを「〇」、白金色の光沢がなかったものを「×」とした。結果を表1に示す。
【0087】
【0088】
表1に示すように、例1~9の焼成体は、耐電子レンジ性を有しており、光沢も良好であった。これらの焼成体では、Pt粒子の粒径のばらつきが小さく(変動係数0.6以下)、良好な発色を示した。また、粒子収縮率も0%~21%であったことから、焼成によってPt粒子が収縮しており(ただし、例3は粒径を維持)、Pt粒子同士の焼結が抑制されたと考えられる。
図2~10に示すFE-SEM像からも明らかなように、例1~9のいずれの焼成体でもPt粒子が高密度に配置されている一方で、Pt粒子同士の焼結が抑制されていることがわかる。また、
図4の(B)に示す例3の焼成体のように、一部の金属粒子が激しく焼結している場合や、例えば、
図6、7、9、10のそれぞれの(B)に示す焼成体のように、金属粒子同士がネッキングしている場合であっても、金属粒子全体が接合するように焼結していないことで、非導電性が実現されることが確かめられた。
【0089】
また、
図17および18に示すように、例2および6の焼成体では、SiがPt粒子の周囲を覆うように存在していることが確かめられた。さらに、
図19に示すように、例9の焼成体では、SiがPt粒子の一部の表面を覆っていることが確かめられた。また、例2、6、9のTEM-EDX元素マッピングにおいて、いずれの例においても、90個数%以上の金属粒子が、他の3個以上の金属粒子と被覆層を介して、又は、介さずに接触していることが確かめられた。これらのいずれの場合であっても、非導電性が実現されたことから、Pt粒子の表面の少なくとも一部にSiが被覆(シリカが被覆されていると推定される)され、かつ、
図2~10のようにPt粒子同士の焼結が抑制されることで、非導電性が実現されることがわかる。
【0090】
また、例2、例6、例9のPt体積割合はいずれも50vol%以上を示しており、特に例6、例9では87vol%以上という非常に高い値を示した。焼成によって有機溶媒が除去されることを考慮すると、これらの焼成体は実質的にPt粒子およびシリカによって構成されているため、この値は焼成体全体におけるPt体積割合と解することができる。即ち、金属粒子が高密度に配置された非導電性金属複合材料が実現されているといえる。
【0091】
一方で、例10の焼成体は耐電子レンジ性を有していたが、光沢が不良であった。また、例10では、乾燥体のFE-SEM観察において、シリカマトリックスにPt粒子が埋もれていたためにPt粒子の観察が不鮮明であり、Pt粒子の粒径の測定が不可能であった。このことから、例10では、シリカ被覆の原料であるTEOSをPtに対して過剰に混合したために、Pt粒子の存在密度が低下し、光沢が不良となったと考えられる。
【0092】
例11~15の焼成体は、耐電子レンジ性を有していなかった。
図11~15のそれぞれの(B)に示すFE-SEM像から明らかなように、例11~15の焼成体では、例1~9の焼成体と比較して、Pt粒子同士が激しく焼結していた。これにより、導電性が高くなり、耐電子レンジ性を有さなかったと考えられる。
【0093】
また、例11と例4と比較すると、例11の方が焼成温度が200℃高いこと以外の製造方法は同様である。また、例12と例5においても、例12の方が焼成温度が200℃高いこと以外の製造方法は同様である。また、例13と例8と例9においても、焼成温度が異なる点以外の製造方法は同様である。これらのことから、無機酸化物で被覆された金属粒子の焼結温度以下で焼成することで、非導電性金属複合材料が製造できることがわかる。
【0094】
例14では、シリカをPt粒子に被覆する反応において、28%アンモニア水を混合しなかった。そのため、液中のpHが上がらず、Pt粒子へのシリカ被覆が不十分となり、Pt粒子同士が焼結してしまったものと考えられる。
【0095】
例15は、シリカの原料であるTEOSを混合しなかった例である。そのため、例15ではPt粒子同士が焼結し易く、600℃による焼成によってPt粒子が焼結してしまったものと考えられる。また、例16は、例15の焼成温度を400℃に変更したものである。
図16に示すように、焼成温度が400℃であれば、シリカ被覆のないPt粒子でもPt粒子間で焼結しなかった。しかしながら、シリカ被覆を有さないために、導電性が高くなり、耐電子レンジ性を有さなかったものと考えられる。
【0096】
〔試験2〕
試験2では、有機溶媒をWAオイルからプロピレングリコールモノフェニルエーテル(PhFG)またはイソブタノール(IBA)に変更した。また、用いた基材を石英ガラスからスライドガラス(ソーダ石灰ガラス)に変更した。試験2で製造した焼成体(例17~19)については、試験1と同様にして耐電子レンジ性、光沢の評価を行い、さらに体積抵抗率の測定を行った。これらの結果を表2に示す。
【0097】
(例17)
テトラクロロ白金(II)酸カリウム1.04gを、純水166.6mLに加え、マグネチックスターラーで攪拌し溶解させた後、エタノールを83.3mL加えた。ここに、PVP K90(富士フィルム和光純薬株式会社製)を2.78g加え、攪拌しながら溶解させた。さらに攪拌しながら、1.25mLの70%炭酸ヒドラジンを加え、30分間攪拌をすることで、Pt粒子を析出させた。そして、攪拌しながら28%アンモニア水を5mL加えた後、TEOSを270μL加え、一晩攪拌した。これにより、シリカ-Pt粒子を得た。
得られたシリカ-Pt粒子分散液を、遠心分離機を用いて沈降させ、上澄みを除去した。ここに純水を加えて再分散させた後、遠心分離機を用いて沈降させ、上澄みを除去する洗浄工程を2回繰り返した。そして、同様の洗浄工程を純水の代わりにエタノールを用いて2回行った後、さらに有機溶媒としてPhFGを用いて同様の洗浄工程を実施した。得られた沈殿物を、自公転ミキサー(製品名:あわとり練太郎、株式会社シンキー製)を用いて混錬し、ペースト状のPt-シリカ粒子-PhFG混錬物を得た。
得られたシリカ-Pt粒子-PhFG混錬物を、スライドガラスに塗布し、60℃で30分間乾燥させ、膜状の乾燥体とした。乾燥体を大気雰囲気下で昇温速度10℃/minで加熱し、800℃で10分間保持後、放冷した。このようにして、例17の膜状の焼成体を得た。
【0098】
(例18)
PhFGの代わりにIBAを用いた以外は例17と同様にして、例18の焼成体を得た。
(例19)
TEOS添加量を480μLに変更した以外は例17と同様にして、例19の焼成体を得た。
【0099】
<体積抵抗率の測定>
焼成体の体積抵抗率を四探針法により測定した。かかる測定には、低抵抗率計Loresta-GP(三菱ケミカル株式会社製)を用いた。
【0100】
【0101】
表2に示すように、有機溶媒の種類に関わらず、耐電子レンジ性および良好な光沢を有する焼成体を得られたことがわかる。また、有機溶媒の種類に関わらず、焼成体をスライドガラスに固定化することができた。これは、スライドガラスの軟化点以上の温度で焼成したことで、スライドガラスの界面が溶融し、溶融したガラスがシリカ-Pt粒子を固定化したものと考えられる。
また、例19の焼成体は、例17および例18よりも体積抵抗率が顕著に高くなった。これは仕込みSi/Ptモル比の値を高くしたことにより、Pt粒子へのシリカ被覆量が増大したことによるものと考えられる。
【0102】
以上、ここで開示される技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0103】
12 金属粒子
14 被覆層
16 ネック部