(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006905
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】伸線加工方法及び超電導線材
(51)【国際特許分類】
B21C 1/00 20060101AFI20230111BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20230111BHJP
H01B 12/10 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
B21C1/00 H
H01B13/00 Z
H01B12/10
B21C1/00 C
B21C1/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021109756
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】謝 政庭
(72)【発明者】
【氏名】洪 允晶
【テーマコード(参考)】
4E096
5G321
【Fターム(参考)】
4E096EA12
4E096EA24
4E096EA25
4E096EA27
5G321DA03
(57)【要約】
【課題】伸線加工方法において、不均一な変形形状の抑制による加工安定性を確保する。
【解決手段】中心材と、前記中心材を囲むように配置された複数の第1の周辺線と、前記第1の周辺線の外側に配置された外郭材と、を有する第1の線材の断面径を伸線加工により縮小する伸線加工方法であって、前記第1の周辺線の長手方向に対して垂直な断面における形状は、前記外郭材に接する長辺と、前記中心材に接する短辺と、隣接する前記周辺線と接する第1の斜辺及び第2の斜辺とから構成される略等脚台形である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心材と、前記中心材を囲むように配置された複数の第1の周辺線と、前記第1の周辺線の外側に配置された外郭材と、を有する第1の線材の断面径を伸線加工により縮小する伸線加工方法であって、
前記第1の周辺線は、
圧縮性材と、前記圧縮性材を覆う金属シース材と、を有し、
前記第1の周辺線の長手方向に対して垂直な断面における形状は、
前記外郭材に接する長辺と、前記中心材に接する短辺と、隣接する前記周辺線と接する第1の斜辺及び第2の斜辺とから構成される略等脚台形であることを特徴とする伸線加工方法。
【請求項2】
前記中心材は、
円状の金属棒で形成されたコア材と、前記コアを覆う円状の第1の金属管で形成された被覆材と、を有し、
前記外郭材は、
外層材と、内層材を有し、
前記内層材は、円状の第2の金属管で形成されており、
前記外層材は、円状の第3の金属管で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の伸線加工方法。
【請求項3】
前記第1の周辺線の長辺は、前記外郭材の内周側に位置し、
前記第1の周辺線の短辺は、前記中心材の外周側に位置することを特徴とする請求項1に記載の伸線加工方法。
【請求項4】
前記第1の線材を用意し、
前記第1の線材の前記断面径を前記伸線加工により縮小し、
前記外郭材から前記第1の周辺線の前記長辺の左右両側に優先的にひずみを導入して、第2の周辺線を有する第2の線材を形成することを特徴とする請求項1に記載の伸線加工方法。
【請求項5】
前記第2の周辺線の断面は、
前記外郭材に接する第1辺、前記中心材に接する第2辺、隣接する前記第2の周辺線と接する第3辺及び第4辺とから構成される略環状扇形であることを特徴とする請求項4に記載の伸線加工方法。
【請求項6】
前記第1辺の中点における前記圧縮性材の第1の平均気孔率は、
前記第1辺と前記第3辺との交点である第1点における前記圧縮性材の第2の平均気孔率及び前記第1辺と前記第4辺との交点である第2点における前記圧縮性材の第3の平均気孔率のいずれよりも大きいことを特徴とする請求項5に記載の伸線加工方法。
【請求項7】
前記第2辺の中点における前記圧縮性材の第4の平均気孔率は、
前記第2辺と前記第3辺との交点である第3点における前記圧縮性材の第5の平均気孔率及び前記第2辺と前記第4辺との交点である第4点における前記圧縮性材の第6の平均気孔率のいずれよりも小さいことを特徴とする請求項5に記載の伸線加工方法。
【請求項8】
円筒状の前記金属シース材の中に前記圧縮性材を充填した複合体と、
前記複合体の最大径より小さい穴径を持つ円形ダイスと、
入口側の穴と出口側の穴を有し、前記出口側の穴が、前記長辺と、前記短辺と、前記第1の斜辺及び前記第2の斜辺とから構成される前記略等脚台形の形状を持つ略等脚台形ダイスと、
をそれぞれ用意し、
前記円形ダイスに前記複合体を通して、前記複合体の断面径を縮小して断面形状が円形の前記第1の周辺線を形成し、
前記断面形状が円形の前記第1の周辺線を前記略等脚台形ダイスに通して、断面形状が前記略等脚台形の前記第1の周辺線を形成することを特徴とする請求項1に記載の伸線加工方法。
【請求項9】
前記断面形状が円形の前記第1の周辺線を前記略等脚台形ダイスに通して、断面形状が前記略等脚台形の前記第1の周辺線を形成する際に、
前記第1の周辺線における前記圧縮性材と前記金属シース材との間に隙間がないように、前記略等脚台形ダイスの出口側の穴の前記長辺と前記短辺と前記第1の斜辺及び前記第2の斜辺を、前記断面形状が円形の前記第1の周辺線における前記圧縮性材の最大径より小さくすることを特徴とする請求項8に記載の伸線加工方法。
【請求項10】
芯材と、前記芯材を囲むように配置された複数の周辺線と、前記周辺線の外側に配置された外郭材と、を有する超電導線材であって、
前記周辺線は、
多孔質材と、前記多孔質材を覆う周辺線被覆材と、を有し、
前記周辺線の長手方向に対して垂直な断面における形状は、
前記外郭材に接する第1辺、前記芯材に接する第2辺、隣接する前記周辺線と接する第3辺及び第4辺とから構成される略環状扇形であり、
前記第1辺の中点における前記多孔質材の第1の平均孔径は、
前記第1辺と前記第3辺との交点である第1点における前記多孔質材の第2の平均孔径及び前記第1辺と前記第4辺との交点である第2点における前記前記多孔質材の第3の平均孔径のいずれよりも大きく、
前記第2辺の中点における前記多孔質材の第4の平均孔径は、
前記第2辺と前記第3辺との交点である第3点における前記多孔質材の第5の平均孔径及び前記第2辺と前記第4辺との交点である第4点における前記多孔質材の第6の平均孔径のいずれよりも小さいことを特徴とする超電導線材。
【請求項11】
前記芯材は、
円状の金属棒で形成されたコア材と、前記コアを覆う円状の第1の金属管で形成された被覆材と、を有し、
前記外郭材は、
外層材と、内層材を有し、
前記内層材は、円状の第2の金属管で形成されており、
前記外層材は、円状の第3の金属管で形成されていることを特徴とする請求項10に記載の超電導線材。
【請求項12】
芯材と、前記芯材を囲むように配置された複数の周辺線と、前記周辺線の外側に配置された外郭材と、を有する超電導線材であって、
前記周辺線は、
多孔質材と、前記多孔質材を覆う周辺線被覆材と、を有し、
前記周辺線の長手方向に対して垂直な断面における形状は、
前記外郭材に接する第1辺、前記芯材に接する第2辺、隣接する前記周辺線と接する第3辺及び第4辺とから構成される略環状扇形であり、
前記多孔質材の孔径は、
(1)前記第1辺と前記第3辺との交点である第1点、
(2)前記第1辺と前記第4辺との交点である第2点、
(3)前記第2辺の中点、
における孔径の最小値よりも常に大きく、
前記第1辺の中点の前記多孔質材の孔径は、
前記第1点及び前記第2点の孔径の最大値よりも大きいことを特徴とする超電導線材。
【請求項13】
前記芯材は、
円状の金属棒で形成されたコア材と、前記コアを覆う円状の第1の金属管で形成された被覆材と、を有し、
前記外郭材は、
外層材と、内層材を有し、
前記内層材は、円状の第2の金属管で形成されており、
前記外層材は、円状の第3の金属管で形成されていることを特徴とする請求項12に記載の超電導線材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸線加工方法及び超電導線材に関する。
【背景技術】
【0002】
高温超伝導線材は、混合粉末を金属管に詰め、混合粉末を詰めた複数の金属管を更に管に導入し、伸線加工方法で細長い線材に加工することにより製造される。この手法は、一般的に金属管あるいは金属棒に使用される伸線加工方法が適用されている。伸線加工方法の一例である引抜加工法は、例えば、特許文献1に記載されている。
【0003】
上記引抜加工法は、伸線される素材の最大径より小さい穴径を持つダイス穴に素材を通すことにより、穴径と同様に素材の断面径が小さくなる加工方法である。目的とする断面径になるまで、ダイス穴径が徐々に小さくなるダイス穴に素材を通す工程を複数回行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、高温超伝導線は、線材の長手方向に垂直な断面の中央部に位置する円筒状の銅管と銅管の周囲に配置された混合粉末を詰めた複数の円筒状の鉄管と複数の円筒状の鉄管の外側に配置された円筒状のモネル管で構成されており、複数の材料で構成された線材を伸線加工する。
【0006】
引抜加工法を用いる場合、ダイス穴に素材を通す工程を繰り返し行うことにより細長い線材が製造される。複数の円筒状の金属材および圧縮性材料(例えば、混合粉末)で構成された線材の伸線加工では、最外周側に位置する金属管から変形が開始する。伸線加工中に、最外周側に位置する金属管から内部の素材に圧力が加わる箇所が一定であるため、そこに応力が局部的に集中する。なお、断面中央部に位置する金属管の周囲に配置された圧縮性材料を詰めた金属管の形状を円筒状とする場合、円筒状の金属管同士の接触状態は伸線加工途中において点接触となる。
【0007】
この結果、線材の内部において局部的に応力集中と不均一な平均気孔率分布が生ずるため、断線と線材の性能劣化などの不良を起こす可能性がある。また、金属管同士の接触状態が不安定であるため、伸線加工中の素材に対する圧縮が不均一になる。
【0008】
例えば、高温超伝導線に混合粉末を詰めた複数の円筒状の鉄管を用いる場合、伸線加工時の線材内部の局所変形と不安定な接触状態により、加工性の低下が発生するため、不均一な変形形状の抑制による加工安定性確保が課題である。
【0009】
特に、高温超伝導線においては不均一な変形により混合粉末の平均気孔率分布が不均一になるため、超伝導線材の性能低下が発生し、加工安定性による超電導線の品質ばらつき抑制が課題である。
【0010】
本発明の目的は、伸線加工方法において、不均一な変形形状の抑制による加工安定性を確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様の伸線加工方法は、中心材と、前記中心材を囲むように配置された複数の第1の周辺線と、前記第1の周辺線の外側に配置された外郭材と、を有する第1の線材の断面径を伸線加工により縮小する伸線加工方法であって、前記第1の周辺線は、圧縮性材と、前記圧縮性材を覆う金属シース材と、を有し、前記第1の周辺線の長手方向に対して垂直な断面における形状は、前記外郭材に接する長辺と、前記中心材に接する短辺と、隣接する前記周辺線と接する第1の斜辺及び第2の斜辺とから構成される略等脚台形であることを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様の超電導線材は、芯材と、前記芯材を囲むように配置された複数の周辺線と、前記周辺線の外側に配置された外郭材と、を有する超電導線材であって、前記周辺線は、多孔質材と、前記多孔質材を覆う周辺線被覆材と、を有し、前記周辺線の長手方向に対して垂直な断面における形状は、前記外郭材に接する第1辺、前記芯材に接する第2辺、隣接する前記周辺線と接する第3辺及び第4辺とから構成される略環状扇形であり、前記第1辺の中点における前記多孔質材の第1の平均孔径は、前記第1辺と前記第3辺との交点である第1点における前記多孔質材の第2の平均孔径及び前記第1辺と前記第4辺との交点である第2点における前記前記多孔質材の第3の平均孔径のいずれよりも大きく、前記第2辺の中点における前記多孔質材の第4の平均孔径は、前記第2辺と前記第3辺との交点である第3点における前記多孔質材の第5の平均孔径及び前記第2辺と前記第4辺との交点である第4点における前記多孔質材の第6の平均孔径のいずれよりも小さいことを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様の超電導線材は、芯材と、前記芯材を囲むように配置された複数の周辺線と、前記周辺線の外側に配置された外郭材と、を有する超電導線材であって、前記周辺線は、多孔質材と、前記多孔質材を覆う周辺線被覆材と、を有し、前記周辺線の長手方向に対して垂直な断面における形状は、前記外郭材に接する第1辺、前記芯材に接する第2辺、隣接する前記周辺線と接する第3辺及び第4辺とから構成される略環状扇形であり、前記多孔質材の孔径は、(1)前記第1辺と前記第3辺との交点である第1点、(2)前記第1辺と前記第4辺との交点である第2点、(3)前記第2辺の中点、における孔径の最小値よりも常に大きく、前記第1辺の中点の前記多孔質材の孔径は、
前記第1点及び前記第2点の孔径の最大値よりも大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、伸線加工方法において、不均一な変形形状の抑制による加工安定性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(a)は、中心材、略等脚台形の断面形状をもつ周辺線及び外郭材で構成される線材の伸線加工前の断面図であり、(b)は、圧縮性材料と金属管で構成される周辺線の伸線加工前の断面図である。
【
図2】(a)は、中心材、円状の周辺線及び外郭材で構成される線材の伸線加工前の断面図であり、(b)は、圧縮性材料と金属管で構成される周辺線の伸線加工前の断面図である。
【
図4】(a)は、中心材、略等脚台形の断面形状をもつ周辺線及び外郭材で構成される線材の伸線加工後の断面図であり、(b)は、圧縮性材料と金属管で構成される周辺線の伸線加工後の断面図である。
【
図5】(a)は、中心材、円状の周辺線及び外郭材で構成される線材の伸線加工後の断面図であり、(b)は、圧縮性材料と金属管で構成される周辺線の伸線加工後の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態は、高温超伝導線材あるいは複数の金属管あるいは金属棒と圧縮性材料(例えば、混合粉末)で構成された素材の伸線加工に関する。例えば、高温超伝導線の製造工程において金属管と金属管の周囲に複数本配置された混合粉末を詰めた円筒状の金属管を束ねて大きな金属管に組込んだ状態で、ダイスによる引抜加工法などを用いて、線材の断面径を縮小する。
【0017】
伸線加工途中で、線材の断面径の縮小により、最外周側に位置する大きな金属管から混合粉末を詰めた円筒状の金属管に局所的な圧力が加わるため、形状が不均一な変形が生じることになり、断線の危険を生じる可能性がある。
【0018】
その上、不均一な変形により混合粉末の内部において局部の平均気孔率が大きくなり、平均気孔率分布も不均一になる。その結果、超伝導線の臨界電流密度が低下することが懸念された。また、加工初期において混合粉末を詰めた円筒状の金属管同士の接触状態が点接触であるため、このような不安定な加工状態により、伸線加工後の大きな断面形状のばらつきが発生する可能性がある。
【0019】
断線の少なく、かつ性能が高い高温超伝導線材を得るためには、伸線加工途中において線材内部の変形挙動を均一化して、加工安定性を改善する必要がある。
【0020】
このため、実施形態では、金属管と金属管の周囲に複数本配置された混合粉末と金属管からなる周辺線を束ねて大きな金属管に組込んだ状態の線材に対して、複数本配置された混合粉末と金属管からなる周辺線の断面形状を円形にせずに、略等脚台形をもつ断面形状とする。
【0021】
例えば、線材における複数本配置された周辺線の断面形状による伸線加工後の相当ひずみと平均気孔率は、CAE(Computer Aided Engineering)により検討した結果を用いる。CAEの検討では、伸線加工前の線材の最大断面径を35%以上縮小する伸線加工をCAEにより検討する。
【0022】
線材の断面径が初期の断面径より35%以上小さくなった際の周辺線に生じる相当ひずみと平均気孔率を測定し、その結果を用いて伸線加工前の周辺線を台形状に加工しておくことによる効果をCAEで評価した。
【0023】
その結果、上記実施形態により、伸線加工前の周辺線を台形状に加工しておくことによって伸線加工において線材内部の変形挙動を均一化する。これにより、断線などの不良低減及び圧縮性材料の平均気孔率が30%以下となる断面領域が増えることが可能となり、線材の性能向上が可能となる。さらに、周辺線同士の接触状態の安定化によって加工後の形状ばらつき低減が可能となり、製造コストを低減することができる。
【0024】
以下、図面を用いて実施例について説明する。
【実施例0025】
以下、図面を用いて実施例1の伸線加工方法について説明する。
【0026】
図1を参照して、中心材106、略等脚台形の周辺線103及び外郭材109で構成された素材である伸線加工前の線材100について説明する。
【0027】
図1(a)に示すように、10本の略等脚台形の周辺線103を1本の中心材106の周囲に配置して、外郭材109に組込んだ場合の線材100を示す。線材の長手方向の長さは、L1である。10本の周辺線103で構成された線材100において、中心材106は円状の金属棒で形成されたコア材104とコア材104を被覆する円状の金属管で形成された被覆材105で形成されている。外郭材109は、外層材107と内層材108の2層からなり、内層材108が円状の金属管で形成され、外層材107は外径D1からなる円状の金属管で形成されている。
【0028】
図1(b)に示すように、周辺線103は、略等脚台形の圧縮性材料(例えば、混合粉末)101が金属シース材102によって被覆されている。周辺線103の断面形状は長辺I1と、短辺I2と、第1の斜辺I3と、第2の斜辺I4より構成される略等脚台形である。長辺I1は外郭材109の内周側に位置し、短辺I2は中心材106の外周側に位置する。
【0029】
比較材として、周辺線の断面形状を円形とした伸線加工前の線材も用意した。
【0030】
図2を参照して、中心材106、円形の周辺線103及び外郭材109で構成された素材である伸線加工前の線材100について説明する。中心材106と外郭材109の構成や形状や配置は
図1の伸線加工前の線材100と同様である。一方、
図2の線材において、周辺線103の断面形状は外径D3より構成される円形である。
【0031】
線材を伸線加工する加工方法としては、引抜加工、カセットロール加工、溝ロール加工などがあり、これらの加工方法の内、実施例1では引抜加工を例にして説明する。
【0032】
図3を参照して、伸線加工装置の一例である引抜加工装置の構成について説明する。
【0033】
図3に示すように、引抜加工装置は、穴230を有するダイス210及びつかみ部(チャック部)220を有する。端部B5の初期径がD1の線材100は、線材100の端部B6をつかみ部220によりつかんだ状態で、つかみ部220をB4方向に所定の引張力により引張ることにより進展させる。これにより、端部B5の断面径D1が、端部B6の断面径D2に縮小される。
【0034】
具体的には、線材100をつかみ部220によりB4方向に引張ることにより、線材100をダイス210の穴230に通す。ダイス210の穴230に通った線材100は、初期径D1がダイス径より小さくなって、断面径D2に縮小される。この結果、穴230に通った線材100の断面径が縮小しながら、長手方向の長さが長くなる。
【0035】
図1に示す中心材106、略等脚台形の周辺線103及び外郭材109で構成された素材である伸線加工前の断面径がD1の線材100と、
図2に示す中心材106、円形の周辺線103及び外郭材109で構成された素材である伸線加工前の断面径がD1の線材100を対象に、
図3の引抜加工装置により断面径をD1からD2まで縮小して、断面径がD2の線材100を作製する。
【0036】
以下に、伸線加工前の線材100の最大断面径を35%以上縮小する伸線加工をCAEにより検討した結果について説明する。
【0037】
例えば、変形抵抗が異なる金属材として、
図1と
図2の中心材106におけるコア材104は銅棒、外郭材109における外層材107はモネル管、中心材106における被覆材105と周辺線103における金属シース材102と外郭材109における内層材108は低炭素鋼とし、3つの金属材の内、外層材107の変形抵抗が最大、コア材104の変形抵抗が最小とした。また、周辺線103における圧縮性材料101は50%の平均気孔率を有するMgとBの混合粉末とする。
【0038】
このような中心材106、周辺線103及び外郭材109で構成された長さがL1で断面径がD2の線材100を、引抜加工により初期断面径D1を35%縮小して断面径D2とした。伸線加工後の線材100の長さは、L1からL2となる。この検討は、例えば、引抜加工途中の周辺線同士の接触状態及び引抜加工後の相当ひずみ分布と平均気孔率分布を測定することにより行った。
【0039】
図4を参照して、中心材106、略等脚台形の周辺線103及び外郭材109で構成された素材である伸線加工後の長さがL2で断面径がD2の線材100について説明する。
【0040】
図4(a)に示すように、加工後の圧縮性材料101の断面形状は伸線加工前の形状が相似形で縮小され、伸線加工前と似ている形状に変形し、伸線加工後の周辺線103の断面は略等脚台形から、外郭材109に接する第1辺I11、中心材106に接する第2辺I21、隣接する周辺線103と接する第3辺I31及び第4辺I41より構成される略環状扇形(annular sector)へ変化することが確認できた。
【0041】
CAEによる平均気孔率を測定した結果、第1辺I11の中点P11における圧縮性材料101の平均気孔率は、第1辺I11と第3辺I31との交点である第1点P12における圧縮性材料101の平均気孔率及び第1辺I11と第4辺I41との交点である第2点P13における圧縮性材料101の平均気孔率のいずれよりも大きいことを確認した。これは、このような製造工程固有で生じる特徴である。なぜならば、伸線加工中に外郭材109から圧力が加わる箇所が第1点P12及び第2点P13であるため、気孔が圧密化されるからである。
【0042】
なお、第2辺I21の中点P14における圧縮性材料101の平均気孔率は、第2辺I21と第3辺I31との交点である第3点P15における圧縮性材料101の平均気孔率及び第2辺I21と第4辺I41との交点である第4点P16における圧縮性材料101の平均気孔率のいずれよりも10%程度小さいことを確認した。これも、このような製造工程固有で生じる特徴である。なぜならば、伸線加工中に第2辺I21が外郭材109の縮小により比較材(円状の周辺線103を用いる線材100)と比べて均一に圧縮されることにより、気孔が圧密化されるからである。
【0043】
上記の2つの特徴により、伸線加工時の圧縮性材料101の平均気孔率分布が均一化し、特に第1点P12における平均気孔率及び第2点P13における平均気孔率が比較材と比べて小さくなるため、線材100における圧縮性材料101の平均気孔率が0.3以下となる断面領域が増えることを確認した。
【0044】
例えば、超電導線材の性能である臨界電流密度は線材における圧縮性材料101の平均気孔率に依存し、伸線加工前から周辺線103を台形形状に加工することで、線材100の臨界電流特性が向上すると考えられる。
【0045】
また、伸線加工前から、周辺線103を台形形状に加工しておくことにより、伸線加工の加工途中で周辺線同士の接触状態は線接触となる。このため、変形に伴い位置ずれが発生しにくくなり、断面形状が比較材(円状の周辺線103を用いる線材100)と比べて、伸線加工中の周辺線103における圧縮性材料101に対する圧縮が均一化される。このため、周辺線103を台形形状に加工して製造した線材100は成形時の加工安定性が向上することが考えられる。加工安定性改善によるばらつき低減も可能となるため、量産時において品質の安定性を確保でき、製造コスト低減が可能となる。
【0046】
さらに、伸線加工前から、周辺線103を台形形状に加工しておくことにより、伸線加工の加工途中において外郭材109から周辺線103の長辺I1での左右両側に優先的にひずみを導入することによって周辺線103の断面形状は加工前の断面形状の相似形で縮小される。このため、伸線加工中に周辺線103の金属シース材(被覆材)102に対するひずみ集中が比較材と比べて回避できることがCAEの結果から確認できた。また、均一な変形によって断線などの不良を低減することが可能となり、量産時において品質の安定性を確保でき、製造コスト低減が可能となる。
【0047】
図5を参照して、中心材106、円形の周辺線103及び外郭材109で構成された素材である伸線加工後の長さがL2で断面径がD2の線材100について説明する。
【0048】
図5に示すように加工後の圧縮性材料101の断面形状は伸線加工前の形状が相似形で縮小されず、局部的に伸線加工前とは異なる形状に変形し、伸線加工後の周辺線103の断面は円形から外郭材109に接する第1辺Z1、中心材106に接する第2辺Z2、隣接する周辺線103と接する第3辺Z3及び第4辺Z4より構成される略台形へ変化することが確認できた。
【0049】
また、CAEによる平均気孔率を測定した結果、第1辺Z1の中点P1における圧縮性材料101の平均気孔率は、第1辺Z1と第3辺Z3との交点である第1点P2における圧縮性材料101の平均気孔率及び第1辺Z1と第4辺Z4との交点である第2点P3における圧縮性材料101の平均気孔率のいずれよりも小さいことを確認した。これは、このような製造工程固有で生じる特徴である。なぜならば、伸線加工中に外郭材109から圧力が加わる箇所が第1辺Z1の中点P1であるため、気孔が局所的に圧密化されるからである。
【0050】
なお,第2辺Z2の中点P4における圧縮性材料101の平均気孔率は、第2辺Z2と第3辺Z3との交点である第3点P5における圧縮性材料101の平均気孔率及び第2辺Z2と第4辺Z2との交点である第4点P6における圧縮性材料101の平均気孔率のいずれよりも20%程度小さいことを確認した。これも、このような製造工程固有で生じる特徴である。なぜならば、伸線加工中に第2辺Z2が外郭材109の縮小により本発明の線材(略等脚台形状の周辺線103を用いる線材100)と比べて不均一に圧縮されることにより、気孔が圧密化されるからである。
【0051】
上記の2つの特徴により、伸線加工時の圧縮性材料101の平均気孔率分布が不均一になることが確認できた。また、伸線加工の加工途中で周辺線同士の接触状態は点接触となるなめ、変形と伴い位置ずれが発生しやすくなり、周辺線103における圧縮性材料101に対する圧縮が不均一である。
【0052】
さらに、伸線加工前の周辺線103の断面形状が円状でなるため、外郭材109から周辺線103の長辺I1での中心側に優先的にひずみを導入することによって局部的に伸線加工前とは異なる形状に変形する。このため、周辺線103の金属シース材(被覆材)102に対するひずみ集中が発生し、特に第1辺Z1の中点P1における金属シース材(被覆材)102の相当ひずみが被覆材102の他の箇所よい大きいことが分かった。
【0053】
以下に本発明に用いた略等脚台形の周辺線103を作製する手順について説明する。
【0054】
図6に略等脚台形の周辺線103を作製するための台形ダイスを示す。
【0055】
金属シース材102と圧縮性材料101からなる複合体を円状の穴230を有するダイス210(
図3参照)による伸線加工を実施する。伸線加工による断面積減少を繰り返すことで、内部の圧縮性材料101を緻密化する。
【0056】
そして、最終加工段階で
図6に示す略等脚台形形状の入口側の穴250と略等脚台形形状の出口側の穴260からなる略等脚台形ダイス240を通すことで、
図1(b)に示す断面形状が長辺I1と、短辺I2と、第1の斜辺I3と、第2の斜辺I4より構成される略等脚台形の周辺線103を作製する。
【0057】
図6(b)に示すように入口側の穴250の断面は、長辺I10と、短辺I20と、第1の斜辺I30と、第2の斜辺I40より構成される略等脚台形である。また、
図6(c)に示すように出口側の穴260の断面は、長辺I1と、短辺I2と、第1の斜辺I3と、第2の斜辺I4より構成される略等脚台形である。
【0058】
一方、周辺線103が略等脚台形ダイス240を通過するときに、周辺線103における金属シース材102と圧縮性材料101の間に隙間が生じる。隙間が残るまま、線材100に用いる場合は、伸線加工の途中で圧縮性材料101の不均一な変形や成形不良が発生する可能性がある。
【0059】
上記の問題への対策として、略等脚台形ダイス240の出口側の穴260の長辺I10と、短辺I20と、第1の斜辺I30と、第2の斜辺I40の寸法を加工前の断面形状が円形の周辺線103における圧縮性材料101の最大径よりにより小さくすることで、略等脚台形ダイス240を通過するときに発生する空隙をなくすことができる。
【0060】
なお、円状の周辺線103を略等脚台形ダイス200の内部に通過させるため、略等脚台形ダイス240の入口側の穴250の寸法を加工前の断面形状が円形の周辺線103における金属シース材102の最大径よりより大きくする必要がある。
周辺線103は、圧縮性材料(例えば、混合粉末)101と、圧縮性材料101を覆う金属シース材(周辺線被覆材)102とを有する。ここで、圧縮性材料101は、多孔質材で構成される。
周辺線103の長手方向に対して垂直な断面における形状は、外郭材109に接する第1辺I11、中心材106に接する第2辺I21、隣接する周辺線103と接する第3辺I31及び第4辺I41とから構成される略環状扇形である。
第1辺I11の中点P11における圧縮性材料(多孔質材)101の第1の平均孔径は、第1辺I11と第3辺I31との交点である第1点P12における圧縮性材料(多孔質材)101の第2の平均孔径及び第1辺I11と第4辺I41との交点である第2点P13における圧縮性材料(多孔質材)101の第3の平均孔径のいずれよりも大きい(構成(1))。
さらに、第2辺I21の中点P14における圧縮性材料(多孔質材)101の第4の平均孔径は、第2辺I21と第3辺I31との交点である第3点P15における圧縮性材料(多孔質材)101の第5の平均孔径及び第2辺I21と第4辺I41との交点である第4点P16における圧縮性材料(多孔質材)101の第6の平均孔径のいずれよりも小さい(構成(2))。
実施例2の一の態様の超電導線材によれば、圧縮性材料(多孔質材)101に対する圧縮が均一化される。また、金属シース材(周辺線被覆材)102に対するひずみ集中が回避できるため断線を回避できる。
上記実施例1の伸線加工方法で生じる一つの特徴が上記構成(1)である。なぜならば、線材加工中に外郭材109から圧力が加わる箇所が第1点P12及び第2点P13であるため、圧縮性材料(多孔質材)101の孔が圧縮されるからである。
同様に、上記実施例1の伸線加工方法で生じる他の特徴が上記構成(2)である。なぜなら、略等脚台形状の周辺線103が伸線加工中に第2辺I21の中点P14が圧縮されることにより、圧縮性材料(多孔質材)101の孔が圧縮されるからである。
周辺線103は、圧縮性材料101と、圧縮性材料101を覆う金属シース材(周辺線被覆材)102とを有する。ここで、圧縮性材料101は、多孔質材で構成される。
周辺線103の長手方向に対して垂直な断面における形状は、外郭材109に接する第1辺I11、中心材106に接する第2辺I21、隣接する周辺線103と接する第3辺I31及び第4辺I41とから構成される略環状扇形である。
ここで、圧縮性材料(多孔質材)101の孔径は、(1)第1辺I11と第3辺I31との交点である第1点P12、(2)第1辺I11と第4辺I41との交点である第2点P13、(3)第2辺I21の中点P14、における孔径の最小値よりも常に大きい。また、第1辺I11の中点の圧縮性材料(多孔質材)101の孔径は、第1点P12及び第2点P13の孔径の最大値よりも大きい。
なお、本発明は前述した実施例に限定されるものではなく、添付した特許請求の範囲の趣旨内における様々な変形例及び同等の構成が含まれる。例えば、前述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに本発明は限定されない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えてもよい。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えてもよい。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をしてもよい。