(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069089
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】ドリルパイプ多段接続体
(51)【国際特許分類】
E21B 47/13 20120101AFI20230511BHJP
E21B 17/04 20060101ALI20230511BHJP
H01F 38/14 20060101ALI20230511BHJP
H02J 50/10 20160101ALI20230511BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
E21B47/13
E21B17/04
H01F38/14
H02J50/10
H02J7/00 301D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180700
(22)【出願日】2021-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】504194878
【氏名又は名称】国立研究開発法人海洋研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】512135274
【氏名又は名称】富士ウェーブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121337
【弁理士】
【氏名又は名称】藤河 恒生
(72)【発明者】
【氏名】井上 朝哉
(72)【発明者】
【氏名】石渡 隼也
(72)【発明者】
【氏名】粟井 郁雄
【テーマコード(参考)】
2D129
5G503
【Fターム(参考)】
2D129AB01
2D129AB25
2D129BA26
2D129BA27
2D129CB03
2D129CB15
2D129CB16
2D129CB18
2D129EC06
2D129JA05
5G503BA02
5G503BB01
5G503CA10
5G503GB08
5G503GD07
(57)【要約】
【課題】途中箇所で観測機器が容易に取り付けられるドリルパイプ多段接続体を提供する。
【解決手段】このドリルパイプ多段接続体の観測用ドリルパイプの第1トリプレクサ23は、第1送受電コイル21からの高周波電力と制御信号を各々電力分割部25、制御信号分割部27に伝送し合成観測信号を第1送受電コイル21に伝送し、電力分割部25は、高周波電力の一部を分割して充電部26に供与し、制御信号分割部27は、制御信号の一部を分割して観測機器28を制御し、観測信号合成部29は、内部観測信号と観測信号の合成観測信号を第1トリプレクサ23に伝送し、第2トリプレクサ24は、電力分割部25からの高周波電力と制御信号分割部27からの制御信号を第2送受電コイル22に伝送し第2送受電コイル22からの観測信号を観測信号合成部29に伝送し、制御信号分割部27と観測機器28と観測信号合成部29には充電部26から電力が供給される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端部に第1送受電コイルが設けられ、第2端部に第2送受電コイルが設けられたドリルパイプが多段接続され、隣接する該ドリルパイプ間では、非接触で前記第1送受電コイルに前記第2送受電コイルから高周波電力と制御信号が伝送され、前記第1送受電コイルから前記第2送受電コイルに観測信号が伝送されるドリルパイプ多段接続体であって、
多段接続された前記ドリルパイプは、少なくとも1個の観測用ドリルパイプを含んでおり、
該観測用ドリルパイプは、前記第1送受電コイルと前記第2送受電コイルの間に、第1トリプレクサ、第2トリプレクサ、電力分割部、充電部、制御信号分割部、観測機器及び観測信号合成部を備えており、
前記第1トリプレクサは、前記第1送受電コイルから伝送された前記高周波電力と前記制御信号をそれぞれ前記電力分割部、前記制御信号分割部に伝送し、前記観測信号合成部から伝送された合成観測信号を前記観測信号として前記第1送受電コイルに伝送し、
前記電力分割部は、前記第1トリプレクサから伝送された前記高周波電力の一部を分割して前記充電部に供与し、かつ、残りの前記高周波電力を前記第2トリプレクサに伝送し、
前記充電部は、前記電力分割部から供与された前記高周波電力の前記一部を充電し、
前記制御信号分割部は、前記充電部から電力が供給され、前記第1トリプレクサから伝送された前記制御信号の一部を分割して前記観測機器を制御し、かつ、残りの前記制御信号を前記第2トリプレクサに伝送し、
前記観測機器は、前記充電部から電力が供給され、前記制御信号分割部により制御されて観測した情報を内部観測信号として前記観測信号合成部に伝送し、
前記観測信号合成部は、前記充電部から電力が供給され、前記観測機器から伝送された前記内部観測信号と前記第2トリプレクサから伝送された前記観測信号と合成して前記合成観測信号を前記第1トリプレクサに伝送し、
前記第2トリプレクサは、前記電力分割部から伝送された前記高周波電力と前記制御信号分割部から伝送された前記制御信号を前記第2送受電コイルに伝送し、前記第2送受電コイルから伝送された前記観測信号を前記観測信号合成部に伝送するドリルパイプ多段接続体。
【請求項2】
請求項1に記載のドリルパイプ多段接続体において、
前記制御信号分割部は、制御信号増幅器、制御信号分割器及び制御信号復調器を有しており、
前記制御信号増幅器は、前記充電部から電力が供給され、前記第1トリプレクサから伝送された前記制御信号を増幅して前記制御信号分割器に伝送し、
前記制御信号分割器は、前記制御信号増幅器により増幅された前記制御信号の前記一部を分割して前記制御信号復調器に伝送し、かつ、残りの前記制御信号を前記第2トリプレクサに伝送し、
前記制御信号復調器は、前記充電部から電力が供給され、前記制御信号分割器から伝送された前記制御信号の前記一部を復調して前記観測機器を制御するドリルパイプ多段接続体。
【請求項3】
請求項1に記載のドリルパイプ多段接続体において、
前記制御信号分割部は、制御信号分割器、制御信号復調器及び制御信号出力増幅器を有しており、
前記制御信号分割器は、前記第1トリプレクサから伝送された前記制御信号の前記一部を分割して前記制御信号復調器に伝送し、かつ、残りの前記制御信号を前記制御信号出力増幅器に伝送し、
前記制御信号復調器は、前記充電部から電力が供給され、前記制御信号分割器から伝送された前記制御信号の前記一部を復調して前記観測機器を制御し、
前記制御信号出力増幅器は、前記充電部から電力が供給され、前記制御信号分割器から伝送された残りの前記制御信号を増幅して前記第2トリプレクサに伝送するドリルパイプ多段接続体。
【請求項4】
請求項1に記載のドリルパイプ多段接続体において、
前記制御信号分割部は、制御信号増幅器、制御信号分割器、制御信号復調器及び制御信号出力増幅器を有しており、
前記制御信号増幅器は、前記充電部から電力が供給され、前記第1トリプレクサから伝送された前記制御信号を増幅して前記制御信号分割器に伝送し、
前記制御信号分割器は、前記制御信号増幅器により増幅された前記制御信号の前記一部を分割して前記制御信号復調器に伝送し、かつ、残りの前記制御信号を前記制御信号出力増幅器に伝送し、
前記制御信号復調器は、前記充電部から電力が供給され、前記制御信号分割器から伝送された前記制御信号の前記一部を復調して前記観測機器を制御し、
前記制御信号出力増幅器は、前記充電部から電力が供給され、前記制御信号分割器から伝送された残りの前記制御信号を増幅して前記第2トリプレクサに伝送するドリルパイプ多段接続体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のドリルパイプ多段接続体において、
前記観測信号合成部は、観測信号増幅器、観測信号変調器及び観測信号合成器を有しており、
前記観測信号増幅器は、前記充電部から電力が供給され、前記第2トリプレクサから伝送された前記観測信号を増幅して前記観測信号合成器に伝送し、
前記観測信号変調器は、前記充電部から電力が供給され、前記観測機器から伝送された前記内部観測信号を変調して前記観測信号合成器に伝送し、
前記観測信号合成器は、前記観測信号変調器から伝送された前記内部観測信号と前記観測信号増幅器により増幅された前記観測信号と合成して前記合成観測信号を前記第1トリプレクサに伝送するドリルパイプ多段接続体。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載のドリルパイプ多段接続体において、
前記観測信号合成部は、観測信号変調器、観測信号合成器及び観測信号出力増幅器を有しており、
前記観測信号変調器は、前記充電部から電力が供給され、前記観測機器から伝送された前記内部観測信号を変調して前記観測信号合成器に伝送し、
前記観測信号合成器は、前記観測信号変調器から伝送された前記内部観測信号と前記第2トリプレクサから伝送された前記観測信号と合成して前記合成観測信号を前記観測信号出力増幅器に伝送し、
前記観測信号出力増幅器は、前記充電部から電力が供給され、前記観測信号合成器から伝送された前記合成観測信号を増幅して前記第1トリプレクサに伝送するドリルパイプ多段接続体。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載のドリルパイプ多段接続体において、
前記観測信号合成部は、観測信号増幅器、観測信号変調器、観測信号合成器及び観測信号出力増幅器を有しており、
前記観測信号増幅器は、前記充電部から電力が供給され、前記第2トリプレクサから伝送された前記観測信号を増幅して前記観測信号合成器に伝送し、
前記観測信号変調器は、前記充電部から電力が供給され、前記観測機器から伝送された前記内部観測信号を変調して前記観測信号合成器に伝送し、
前記観測信号合成器は、前記観測信号変調器から伝送された前記内部観測信号と前記観測信号増幅器により増幅された前記観測信号と合成して前記合成観測信号を前記観測信号出力増幅器に伝送し、
前記観測信号出力増幅器は、前記充電部から電力が供給され、前記観測信号合成器から伝送された前記合成観測信号を増幅して前記第1トリプレクサに伝送するドリルパイプ多段接続体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力と制御信号と観測信号を伝送できるドリルパイプ多段接続体に関する。
【背景技術】
【0002】
海底又は地下における科学掘削や石油、天然ガス等の資源掘削などを行う際、一般的に、所定長さのドリルパイプが多段に接続されたドリルパイプ多段接続体が海上又は地上の設備から降ろされて用いられる。ドリルパイプ多段接続体の先端部には、掘削用の刃(ビット)が取り付けられ、また、その先端部又は周囲の状態を観測する観測機器(例えば、各種センサーやカメラなど)が取り付けられることが少なくない。海上又は地上の設備と観測機器の間では、観測機器への電力と制御信号及び観測機器からの観測信号をドリルパイプ多段接続体を通して伝送する技術が各種提案されている。その中には、特許文献1~4に示すように、安定した伝送のために、ドリルパイプの継ぎ目において非接触で電力と制御信号と観測信号(又は電力と制御信号のみ)を伝送することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-148784号公報
【特許文献2】特開2021-136800号公報
【特許文献3】米国公開特許公報US2004/0104797
【特許文献4】米国公開特許公報US2014/0144614
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、海底又は地下における科学掘削や資源掘削などにおけるドリルパイプ多段接続体は、先端部のみならず途中の必要な箇所でドリルパイプ多段接続体の状態又は周囲の状態の観測が必要な場合もある。
【0005】
本発明は、係る事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、ドリルパイプの継ぎ目において非接触で電力と制御信号と観測信号を伝送し、かつ、途中の必要な箇所で観測機器が容易に取り付けられるようにすることができるドリルパイプ多段接続体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載のドリルパイプ多段接続体は、第1端部に第1送受電コイルが設けられ、第2端部に第2送受電コイルが設けられたドリルパイプが多段接続され、隣接する該ドリルパイプ間では、非接触で前記第1送受電コイルに前記第2送受電コイルから高周波電力と制御信号が伝送され、前記第1送受電コイルから前記第2送受電コイルに観測信号が伝送されるドリルパイプ多段接続体であって、多段接続された前記ドリルパイプは、少なくとも1個の観測用ドリルパイプを含んでおり、該観測用ドリルパイプは、前記第1送受電コイルと前記第2送受電コイルの間に、第1トリプレクサ、第2トリプレクサ、電力分割部、充電部、制御信号分割部、観測機器及び観測信号合成部を備えており、前記第1トリプレクサは、前記第1送受電コイルから伝送された前記高周波電力と前記制御信号をそれぞれ前記電力分割部、前記制御信号分割部に伝送し、前記観測信号合成部から伝送された合成観測信号を前記観測信号として前記第1送受電コイルに伝送し、前記電力分割部は、前記第1トリプレクサから伝送された前記高周波電力の一部を分割して前記充電部に供与し、かつ、残りの前記高周波電力を前記第2トリプレクサに伝送し、前記充電部は、前記電力分割部から供与された前記高周波電力の前記一部を充電し、前記制御信号分割部は、前記充電部から電力が供給され、前記第1トリプレクサから伝送された前記制御信号の一部を分割して前記観測機器を制御し、かつ、残りの前記制御信号を前記第2トリプレクサに伝送し、前記観測機器は、前記充電部から電力が供給され、前記制御信号分割部により制御されて観測した情報を内部観測信号として前記観測信号合成部に伝送し、前記観測信号合成部は、前記充電部から電力が供給され、前記観測機器から伝送された前記内部観測信号と前記第2トリプレクサから伝送された前記観測信号と合成して前記合成観測信号を前記第1トリプレクサに伝送し、前記第2トリプレクサは、前記電力分割部から伝送された前記高周波電力と前記制御信号分割部から伝送された前記制御信号を前記第2送受電コイルに伝送し、前記第2送受電コイルから伝送された前記観測信号を前記観測信号合成部に伝送する。
【0007】
請求項2に記載のドリルパイプ多段接続体は、請求項1に記載のドリルパイプ多段接続体において、前記制御信号分割部は、制御信号増幅器、制御信号分割器及び制御信号復調器を有しており、前記制御信号増幅器は、前記充電部から電力が供給され、前記第1トリプレクサから伝送された前記制御信号を増幅して前記制御信号分割器に伝送し、前記制御信号分割器は、前記制御信号増幅器により増幅された前記制御信号の前記一部を分割して前記制御信号復調器に伝送し、かつ、残りの前記制御信号を前記第2トリプレクサに伝送し、前記制御信号復調器は、前記充電部から電力が供給され、前記制御信号分割器から伝送された前記制御信号の前記一部を復調して前記観測機器を制御する。
【0008】
請求項3に記載のドリルパイプ多段接続体は、請求項1に記載のドリルパイプ多段接続体において、前記制御信号分割部は、制御信号分割器、制御信号復調器及び制御信号出力増幅器を有しており、前記制御信号分割器は、前記第1トリプレクサから伝送された前記制御信号の前記一部を分割して前記制御信号復調器に伝送し、かつ、残りの前記制御信号を前記制御信号出力増幅器に伝送し、前記制御信号復調器は、前記充電部から電力が供給され、前記制御信号分割器から伝送された前記制御信号の前記一部を復調して前記観測機器を制御し、前記制御信号出力増幅器は、前記充電部から電力が供給され、前記制御信号分割器から伝送された残りの前記制御信号を増幅して前記第2トリプレクサに伝送する。
【0009】
請求項4に記載のドリルパイプ多段接続体は、請求項1に記載のドリルパイプ多段接続体において、前記制御信号分割部は、制御信号増幅器、制御信号分割器、制御信号復調器及び制御信号出力増幅器を有しており、前記制御信号増幅器は、前記充電部から電力が供給され、前記第1トリプレクサから伝送された前記制御信号を増幅して前記制御信号分割器に伝送し、前記制御信号分割器は、前記制御信号増幅器により増幅された前記制御信号の前記一部を分割して前記制御信号復調器に伝送し、かつ、残りの前記制御信号を前記制御信号出力増幅器に伝送し、前記制御信号復調器は、前記充電部から電力が供給され、前記制御信号分割器から伝送された前記制御信号の前記一部を復調して前記観測機器を制御し、前記制御信号出力増幅器は、前記充電部から電力が供給され、前記制御信号分割器から伝送された残りの前記制御信号を増幅して前記第2トリプレクサに伝送する。
【0010】
請求項5に記載のドリルパイプ多段接続体は、請求項1~4のいずれか1項に記載のドリルパイプ多段接続体において、前記観測信号合成部は、観測信号増幅器、観測信号変調器及び観測信号合成器を有しており、前記観測信号増幅器は、前記充電部から電力が供給され、前記第2トリプレクサから伝送された前記観測信号を増幅して前記観測信号合成器に伝送し、前記観測信号変調器は、前記充電部から電力が供給され、前記観測機器から伝送された前記内部観測信号を変調して前記観測信号合成器に伝送し、前記観測信号合成器は、前記観測信号変調器から伝送された前記内部観測信号と前記観測信号増幅器により増幅された前記観測信号と合成して前記合成観測信号を前記第1トリプレクサに伝送する。
【0011】
請求項6に記載のドリルパイプ多段接続体は、請求項1~4のいずれか1項に記載のドリルパイプ多段接続体において、前記観測信号合成部は、観測信号変調器、観測信号合成器及び観測信号出力増幅器を有しており、前記観測信号変調器は、前記充電部から電力が供給され、前記観測機器から伝送された前記内部観測信号を変調して前記観測信号合成器に伝送し、前記観測信号合成器は、前記観測信号変調器から伝送された前記内部観測信号と前記第2トリプレクサから伝送された前記観測信号と合成して前記合成観測信号を前記観測信号出力増幅器に伝送し、前記観測信号出力増幅器は、前記充電部から電力が供給され、前記観測信号合成器から伝送された前記合成観測信号を増幅して前記第1トリプレクサに伝送する。
【0012】
請求項7に記載のドリルパイプ多段接続体は、請求項1~4のいずれか1項に記載のドリルパイプ多段接続体において、前記観測信号合成部は、観測信号増幅器、観測信号変調器、観測信号合成器及び観測信号出力増幅器を有しており、前記観測信号増幅器は、前記充電部から電力が供給され、前記第2トリプレクサから伝送された前記観測信号を増幅して前記観測信号合成器に伝送し、前記観測信号変調器は、前記充電部から電力が供給され、前記観測機器から伝送された前記内部観測信号を変調して前記観測信号合成器に伝送し、前記観測信号合成器は、前記観測信号変調器から伝送された前記内部観測信号と前記観測信号増幅器により増幅された前記観測信号と合成して前記合成観測信号を前記観測信号出力増幅器に伝送し、前記観測信号出力増幅器は、前記充電部から電力が供給され、前記観測信号合成器から伝送された前記合成観測信号を増幅して前記第1トリプレクサに伝送する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のドリルパイプ多段接続体によれば、ドリルパイプの継ぎ目において非接触で電力と制御信号と観測信号を伝送し、かつ、途中の必要な箇所で観測機器が容易に取り付けられるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係るドリルパイプ多段接続体の例を示す側面視断面図である。
【
図2】同上のドリルパイプ多段接続体のドリルパイプの継ぎ目の近傍の例を拡大して示す側面視断面図である。
【
図3】同上のドリルパイプ多段接続体の伝送特性の例を示すグラフである。
【
図4】同上のドリルパイプ多段接続体の観測用ドリルパイプの回路構成の例を示すブロック図である。
【
図5】同上のドリルパイプ多段接続体の観測用ドリルパイプの第1トリプレクサの回路例を示す回路図である。
【
図6】
図5で示した回路例の通過特性の例を示すグラフである。
【
図7】同上のドリルパイプ多段接続体の観測用ドリルパイプの電力分割部の回路例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。本発明の実施形態に係るドリルパイプ多段接続体1は、
図1に示すように、ドリルパイプ2を多段接続したものである。ここでは、ドリルパイプ2A及びドリルパイプ2Bを総称してドリルパイプ2とする。多段接続されたドリルパイプ2は、大多数がドリルパイプ2Aによって構成されるが、ドリルパイプ多段接続体1の途中の必要な箇所にドリルパイプ2Bを含んでいる。例えば、約100段のドリルパイプ2Aに対して1段のドリルパイプ2Bを接続することができる。ドリルパイプ2Bは、観測用ドリルパイプである。ドリルパイプ多段接続体1には、海上又は地上の設備からドリルパイプ多段接続体1の先端部に向かう向きに、高周波電力が常時伝送され、制御信号が間欠的に(所定時間ごと)伝送される。また、ドリルパイプ多段接続体1には、ドリルパイプ多段接続体1の先端部から海上又は地上の設備に向かう向きに、制御信号に同期した観測信号が間欠的に伝送される。
【0016】
ドリルパイプ2は、硬質(典型的には鉄系の金属製)のドリルパイプ本体2aにより形成されており、長手方向(
図1では上下方向)の中空孔2bを有している。例えば、ドリルパイプ多段接続体1は海上又は地上の設備により制御され、ドリルパイプ本体2aは海底又は地底を掘削するための動力伝達物となり、中空孔2bには海水、泥水、油、天然ガスなどが流れる。ドリルパイプ2は、海上又は地上の設備側の第1端部2aaとドリルパイプ多段接続体1の先端部側の第2端部2abにねじ(本実施形態では、第1端部2aaに雌ねじ、第2端部2abに雄ねじ)を形成することにより、他のドリルパイプ2と接続される。
【0017】
ドリルパイプ2は、特に限定されるものではないが、例えば、中空孔2bの直径を約10cm程度、中空孔2bのみが形成されている部分のドリルパイプ本体2aの厚さを約1cm程度、長手方向の長さを約10m程度とすることができる。なお、ドリルパイプ2Aとドリルパイプ2Bとで、形状又は長手方向の長さが異なってもよい。
【0018】
ドリルパイプ2は、
図2に示すように、第1端部2aaに第1送受電コイル21が設けられ、第2端部2abに第2送受電コイル22が設けられている。第1送受電コイル21及びその周囲の詳細な構造については、本願の要旨ではないのでその詳細な説明は省略するが、例えば上記の特許文献1又は特許文献2における受電コイル及びその周囲の構造と同様にすることができる。また、第2送受電コイル22及びその周囲の詳細な構造については、本願の要旨ではないのでその詳細な説明は省略するが、例えば上記の特許文献1又は特許文献2における送電コイル及びその周囲の構造と同様にすることができる。
図2に示す第1送受電コイル21と第2送受電コイル22はそれぞれ、特許文献2と同様に、スパイラルコイルになっている。また、後述する
図3の特性は、特許文献2の
図6と同様な構造を用いて得たものである。なお、
図2においては、ドリルパイプ2Aの第1送受電コイル21の近傍とドリルパイプ2Bの第2送受電コイル22の近傍を示しているが、ドリルパイプ2Aの第2送受電コイル22の近傍は、後述する電子回路部2dがなくそれ以外はドリルパイプ2Bの第2送受電コイル22の近傍と同様であり、ドリルパイプ2Bの第1送受電コイル21の近傍は、ドリルパイプ2Aの第1送受電コイル21の近傍と同様である。
【0019】
ドリルパイプ多段接続体1の隣接するドリルパイプ2、2間では、第1送受電コイル21と第2送受電コイル22が物理的には接触せずに磁気的に結合する。それにより、隣接するドリルパイプ2、2間では、非接触で第2送受電コイル22から第1送受電コイル21に高周波電力と制御信号を伝送し、第1送受電コイル21から第2送受電コイル22に観測信号を伝送する。制御信号と観測信号の周波数は、それら相互の高低関係はどちらでもよいが、高周波電力の周波数よりも高い。
【0020】
ドリルパイプ2の内部については、第1送受電コイル21から第2送受電コイル22に高周波電力と制御信号を伝送し、第2送受電コイル22から第1送受電コイル21に観測信号を伝送する。
【0021】
ドリルパイプ2Aにおいては、線路2c(通常は、同軸ケーブル)のみを介して第1送受電コイル21と第2送受電コイル22を接続するようにすることができる。このようなドリルパイプ2Aが多段接続されると、上記の特許文献1及び特許文献2で示したような1周期分を構成する単位セル(単位回路)が多段に接続された周期回路が形成されるようにすることができる。
図3に示す曲線aは、シミュレーションに基づく、長さ10mのドリルパイプ2Aを100段接続したときの伝送効率(ηmax)の例である。ドリルパイプ多段接続体1では、ドリルパイプ2、2間における第1送受電コイル21と第2送受電コイル22間での伝送による損失とドリルパイプ2の内部における線路2cでの伝送による損失が生じるが、
図3によると、約350kHzで約-5dB以上の伝送効率が可能であることが分かる。
【0022】
観測用ドリルパイプであるドリルパイプ2Bにおいては、線路2c及び電子回路部2dを介して第1送受電コイル21と第2送受電コイル22を接続するようにすることができる。ドリルパイプ2Bにおける電子回路部2dを設ける箇所及び大きさは、
図2で示すような箇所及び大きさに限られるものではない。電子回路部2dは、
図4に示すように、第1トリプレクサ23、第2トリプレクサ24、電力分割部25、充電部26、制御信号分割部27、観測機器28及び観測信号合成部29を備えている。なお、
図4においては、充電部26が供給する電力を矢印付き破線で、それ以外の信号等の流れを矢印付き実線で示している。
【0023】
第1トリプレクサ23は、第1送受電コイル21から伝送された高周波電力と制御信号をそれぞれ電力分割部25、制御信号分割部27に伝送し、観測信号合成部29から伝送された合成観測信号を観測信号として第1送受電コイル21に伝送する。
【0024】
第1トリプレクサ23は、例えば、
図5に示すような素子を有する回路とすることができる。例えば、容量素子のC1が3.1nF、C2が1.1nF、C3が1.1nF、C4が3.1nF、C5が47.8nF、C6が49.4nF、C7が47.8nF、C8が2.0nF、C9が0.87nF、C10が0.87nF、C11が2.0nF、C12が12.4nF、C13が13.2nF、C14が12.4nF、C15が0.91nF、C16が0.28nF、C17が0.28nF、C18が0.91nF、C19が5.9nF、C20が5.5nF、C21が5.9nFとし、誘導素子のL1が5μH、L2が14μH、L3が4μH、L4が4μH、L5が4μH、L6が4μH、L7が4μH、L8が4μH、L9が4μH、L10が4μH、L11が4μHとすると、端子23Aと端子23B間、端子23Aと端子23C間、端子23Aと端子23D間では、、
図6の曲線b、c、dに示すように、中心周波数をそれぞれ約350kHz、約650kHz、約800kHzとする通過特性のSパラメータを実現することができる。なお、第2トリプレクサ24も、第1トリプレクサ23と同様の回路とすることができる。
【0025】
よって、高周波電力、制御信号、観測信号の周波数をそれぞれ350kHz、650kHz、800kHzとすると、端子23Aで重畳した高周波電力、制御信号、観測信号が、端子23Bでは高周波電力、端子23Cでは制御信号、端子23Dでは観測信号にそれぞれ適切に切り分けられることが分かる。
【0026】
電力分割部25は、第1トリプレクサ23から伝送された高周波電力の一部を分割して充電部26に供与し、かつ、残りの高周波電力を第2トリプレクサ24に伝送する。
【0027】
電力分割部25は、方向性結合器を用いることができる。電力分割部25は、例えば、
図7に示すような素子を有する回路とすることができる。例えば、容量素子のC1、C2、C3、C4が181nFとし、誘導素子のL1とL3が2.27μH、L2とL4が2.28μHとし、抵抗素子のRが50Ωとすると、高周波電力の周波数が350kHzで、端子25Aに入力された高周波電力の約1/100が分割されて端子25Bから出力され、残りの約99/100が端子25Cから出力されるようにできる。分割される割合は、素子の定数を変えることによって変更することができる。
【0028】
下記表1は、100段接続(伝送距離1km)のドリルパイプ2Aごとに1段のドリルパイプ2Bを接続したときの計算値を示したものである。100段接続(伝送距離1km)のドリルパイプ2Aの伝送効率は、上記
図3に示したデータに基づいて、-5dBとした。海上又は地上の設備(伝送距離0kmとして示す)からは1000Wの高周波電力が出力されるものとした。ドリルパイプ多段接続体1の長さ(最大の伝送距離)は、10kmとした。ドリルパイプ2Bにおいて分割されて充電部26に供与される電力の割合は、伝送距離が計6kmまでは、伝送されて来た高周波電力の1/100とし、伝送距離が計7km、8km、9kmでは電力分割部25の素子の定数を変えることで段々と大きくした。これは、伝送距離が計7km、8km、9kmで分割されて充電部26に供与される電力が少なくなり過ぎないようにしたためである。
【0029】
下記表1において、入力高周波電力は、伝送距離1kmごとに設けられるドリルパイプ2Bに伝送される高周波電力であり、出力高周波電力はドリルパイプ2Bから伝送される高周波電力であり、分割高周波電力は、分割されて充電部26に供与される高周波電力である。
【0030】
【0031】
表1によると、ドリルパイプ多段接続体1の先端部及び途中の箇所において、少なくとも約6.5mWが確保できている。
【0032】
充電部26は、電力分割部25から供与された高周波電力の一部の電力を蓄積する。
【0033】
充電部26は、詳細には、ACDCコンバータ26aとDCDCコンバータ26bと充電池26cとで構成することができる。ACDCコンバータ26aは、電力分割部25から供与された高周波電力の一部を整流してDC電圧の電力に変換する。DCDCコンバータ26bは、そのDC電圧を所定の一定電圧に変換する。充電池26cは、電力を蓄積する。
【0034】
DCDCコンバータ26bは、ACDCコンバータ26aからのDC電圧の値がドリルパイプ2Bが設けられる箇所などの条件により大きく変わり得るので、可能な入力電圧が広いものが好ましく、また、降圧及び昇圧の両方が可能なものが好ましい。
【0035】
制御信号分割部27は、充電部26から電力が供給されて動作する。制御信号分割部27は、第1トリプレクサ23から伝送された制御信号の一部を分割して観測機器28を制御し、かつ、残りの制御信号を第2トリプレクサ24に伝送する。なお、第1トリプレクサ23から伝送された制御信号の一部の分割には、第1トリプレクサ23から伝送された制御信号が増幅されてからその一部が分割される場合も、増幅されないで一部が分割される場合も含まれる。また、残りの制御信号の第2トリプレクサ24への伝送には、残りの制御信号が増幅されてから第2トリプレクサ24に伝送される場合も、増幅されないで第2トリプレクサ24に伝送される場合も含まれる。
【0036】
制御信号分割部27は、具体的には、制御信号増幅器27a、制御信号分割器27b、制御信号復調器27c及び制御信号出力増幅器27dを有している構成にすることができる。
【0037】
制御信号増幅器27aは、充電部26から電力が供給されて動作する。制御信号増幅器27aは、第1トリプレクサ23から伝送された制御信号を適切な振幅に増幅して制御信号分割器27bに伝送する。
【0038】
制御信号分割器27bは、制御信号増幅器27aにより増幅された制御信号の一部を分割して制御信号復調器27cに伝送し、かつ、残りの制御信号を制御信号出力増幅器27dに伝送する。制御信号分割器27bは、電力分割部25と同様に、方向性結合器を用いることができ、また、例えば、素子の定数は異なるが、
図7に示したのと同様な回路構成とすることができる。
【0039】
制御信号復調器27cは、充電部26から電力が供給されて動作する。制御信号復調器27cは、制御信号分割器27bから伝送された制御信号の一部を復調して観測機器28を制御する。
【0040】
制御信号は、上記のとおり、間欠的に伝送されるが、間欠的に伝送される単位ごとにチャネル情報が付加されるようにすることができる。制御信号復調器27cは、復調した後、自己のチャネルに一致すれば観測機器28を動作させるようにすることができる。そうすると、ドリルパイプ多段接続体1において複数個所で観測機器28を動作させて観測信号を取得する場合に、複数個の観測機器28に対応する観測信号を時間軸上で各々を分けて伝送することができるようになる。なお、チャネルの数は、限定されるものではない。
【0041】
制御信号出力増幅器27dは、充電部26から電力が供給されて動作する。制御信号出力増幅器27dは、制御信号分割器27bから伝送された残りの制御信号の電力を増幅して第2トリプレクサ24に伝送する。
【0042】
なお、場合により、御信号増幅器27a又は制御信号出力増幅器27dのいずれかを省略することも可能である。
【0043】
観測機器28は、充電部26から電力が供給されて動作する。観測機器28は、制御信号分割部27により制御されて観測した情報を内部観測信号として観測信号合成部29に伝送する。観測機器28としては、ドリルパイプ多段接続体1自体の状態又は周囲の状態を観測する様々な観測機器(例えば、圧力、温度、回転、振動等を観測する各種センサーやカメラなど)が可能である。
【0044】
観測信号合成部29は、充電部26から電力が供給されて動作する。観測信号合成部29は、観測機器28から伝送された内部観測信号と第2トリプレクサ24から伝送された観測信号と合成して合成観測信号を第1トリプレクサ23に伝送する。
【0045】
観測信号合成部29は、具体的には、観測信号増幅器29a、観測信号変調器29b、観測信号合成器29c及び観測信号出力増幅器29dを有している構成にすることができる。
【0046】
観測信号増幅器29aは、充電部26から電力が供給されて動作する。観測信号増幅器29aは、第2トリプレクサ24から伝送された観測信号を適切な振幅に増幅して観測信号合成器29cに伝送する。
【0047】
観測信号変調器29bは、充電部26から電力が供給されて動作する。観測信号変調器29bは、観測機器28から伝送された内部観測信号を変調して観測信号合成器29cに伝送する。
【0048】
観測信号合成器29cは、観測信号変調器29bから伝送された内部観測信号と観測信号増幅器29aにより増幅された観測信号と合成して合成観測信号を観測信号出力増幅器29dに伝送する。
【0049】
観測信号出力増幅器29dは、充電部26から電力が供給されて動作する。観測信号出力増幅器29dは、観測信号合成器29cから伝送された合成観測信号の電力を増幅して第1トリプレクサ23に伝送する。
【0050】
なお、場合により、観測信号増幅器29a又は観測信号出力増幅器29dのいずれかを省略することも可能である。
【0051】
第2トリプレクサ24は、電力分割部25から伝送された高周波電力と制御信号分割部27から伝送された制御信号を第2送受電コイル22に伝送し、第2送受電コイル22から伝送された観測信号を観測信号合成部29に伝送する。
【0052】
このように、ドリルパイプ2Bにおいては、充電部26は、常時伝送されてくる高周波電力の一部の電力を蓄積し、その電力を間欠的に動作する制御信号分割部27、観測機器28及び観測信号合成部29に供給するので、間欠的に動作する制御信号分割部27、観測機器28及び観測信号合成部29は、電力不足にならずに適切に動作することができる。
【0053】
従って、ドリルパイプ多段接続体1においては、ドリルパイプ2の継ぎ目において非接触で電力と制御信号と観測信号を伝送し、かつ、途中の必要な箇所で観測機器28が容易に取り付けられるようにすることができる。
【0054】
以上、本発明の実施形態に係るドリルパイプ多段接続体について説明したが、本発明は、上述の実施形態に記載したものに限られることなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でのさまざまな設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 ドリルパイプ多段接続体
2、2A、2B ドリルパイプ
2a ドリルパイプ本体
2aa 第1端部
2ab 第2端部
2b 中空孔
2c 線路
2d 電子回路部
21 第1送受電コイル
22 第2送受電コイル
23 第1トリプレクサ
24 第2トリプレクサ
25 電力分割部
26 充電部
26a ACDCコンバータ
26b DCDCコンバータ
26c 充電池
27 制御信号分割部
27a 制御信号増幅器
27b 制御信号分割器
27c 制御信号復調器
27d 制御信号出力増幅器
28 観測機器
29 観測信号合成部
29a 観測信号増幅器
29b 観測信号変調器
29c 観測信号合成器
29d 観測信号出力増幅器