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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069183
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルム及び包装体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20230511BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
B32B27/36
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180862
(22)【出願日】2021-11-05
(71)【出願人】
【識別番号】506346152
【氏名又は名称】株式会社ベルポリエステルプロダクツ
(71)【出願人】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(74)【代理人】
【識別番号】100188260
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 愼二
(72)【発明者】
【氏名】笠戸 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】上田 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】山 真弘
(72)【発明者】
【氏名】野崎 茜
(72)【発明者】
【氏名】三瀬 喜之
(72)【発明者】
【氏名】小幡 佳楠
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AA23
3E086AB01
3E086AD01
3E086BA04
3E086BA15
3E086BB51
3E086BB85
3E086DA08
4F100AK41A
4F100AK41B
4F100AL01A
4F100AL01B
4F100AL05A
4F100AL05B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA16
4F100CB03A
4F100EC03
4F100EH20
4F100GB15
4F100JC00A
4F100JC00B
4F100JK10
4F100JK16
4F100JL12
4F100JL12A
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ラミネートが完了するまでの工程における取り扱い性が高く、包装体に高い耐衝撃性とリサイクル性を付与することが可能なポリエステルフィルムを提供すること。
【解決手段】複数の層が積層したポリエステルフィルムの厚さTは30μm~70μmである。各層は、ポリエチレンテレフタレートを主とするポリエステル樹脂の混合物である。第1の層におけるポリエチレンテレフタレート以外のモノマー成分の共重合成分濃度と、そのポリエステル樹脂の質量比との積の総和である共重合成分率が20mol%~35mol%である。フィルム全体の厚さに対する各層の厚さを加味したフィルム全体の共重合成分率は15%以下である。隣接する2つの層において、ポリエステル樹脂を構成する成分の種類が同一であるポリエステル樹脂の小さい方のブレンド比の総和が0.25~1である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の層から第nの層の樹脂が順に積層し、nが2以上の自然数であるポリエステルフィルムであって、
前記ポリエステルフィルムの厚さTは30μm~70μmであり、
各層は、酸成分とアルコール成分との重合体であるポリエステル樹脂を少なくとも1種類含み、
前記酸成分は、主たる成分としてテレフタル酸成分を含み、
前記アルコール成分は、主たる成分としてエチレングリコール成分を含み、
前記酸成分及び前記アルコール成分のうちの少なくとも一方は、前記テレフタル酸成分及び前記エチレングリコール成分以外の共重合成分をさらに含み、
各ポリエステル樹脂における前記酸成分の総量100mol%に対する前記共重合成分の割合と前記アルコール成分の総量100mol%に対する前記共重合成分の割合との合計を共重合成分濃度と表記し、
各層に含まれる各ポリエステル樹脂の質量比率をブレンド比と表記し、
各層における各ポリエステル樹脂の前記共重合成分濃度にブレンド比を掛け合わせた数値の和を共重合成分率と表記し、
前記第1の層から前記第nの層の共重合成分率を、それぞれ、c1~cnと表記し、
前記第1の層から前記第nの層の厚さを、それぞれ、t1~tnと表記し、
隣接する2つの層において、ポリエステル樹脂を構成する成分の種類が同一であるポリエステル樹脂を同種樹脂と表記し、
隣接する2つの層の同種樹脂のうち、前記ブレンド比が小さいほうの数値を最小ブレンド比と表記し、隣接する2つの層における前記最小ブレンド比の総和を同種樹脂使用率Pと表記するとき、
下記(1)~(3)の条件を満たす、ポリエステルフィルム:
(1)c1=20mol%~35mol%;
(2)c1×t1/T+…+cn×tn/T≦15;及び
(3)P=0.25~1.0。
【請求項2】
前記共重合成分は、イソフタル酸成分及びネオペンチルグリコール成分からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記第1の層は、第1のポリエステル樹脂と、第2のポリエステル樹脂と、の混合物であり、
前記第1のポリエステル樹脂において、前記酸成分は前記テレフタル酸成分及びイソフタル酸成分からなり、前記アルコール成分は前記エチレングリコール成分からなり、
前記第2のポリエステル樹脂において、前記酸成分は前記テレフタル酸成分からなり、前記アルコール成分は、前記エチレングリコール成分及びネオペンチルグリコール成分からなる、請求項1又は2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記第1のポリエステル樹脂における前記イソフタル酸成分は、第1のポリエステル樹脂の酸成分の総量に対して1mol%~30mol%であり、
前記第2のポリエステル樹脂における前記ネオペンチルグリコール成分は、第2のポリエステル樹脂のアルコール成分の総量に対して20mol%~50mol%である、請求項3に記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記第1のポリエステル樹脂の前記ブレンド比は0.08~0.5であり、
前記第2のポリエステル樹脂の前記ブレンド比は0.5~0.92である、請求項3又は4に記載のポリエステルフィルム。
【請求項6】
前記第1の層の厚さは5μm~25μmである、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項7】
前記第1の層に隣接する第2層は、第3のポリエステル樹脂と、第4のポリエステル樹脂と、の混合物であり、
前記第3のポリエステル樹脂において、前記酸成分は前記テレフタル酸成分及びイソフタル酸成分からなり、前記アルコール成分は前記エチレングリコール成分からなり、
前記第4のポリエステル樹脂において、前記酸成分は前記テレフタル酸成分からなり、前記アルコール成分は、前記エチレングリコール成分及びネオペンチルグリコール成分からなる、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項8】
前記第3のポリエステル樹脂における前記イソフタル酸成分は、第3のポリエステル樹脂の酸成分の総量に対して2mol%~10mol%であり、
前記第4のポリエステル樹脂における前記ネオペンチルグリコール成分は、第4のポリエステル樹脂のアルコール成分の総量に対して20mol%~40mol%である、請求項7に記載のポリエステルフィルム。
【請求項9】
前記第3のポリエステル樹脂の前記ブレンド比は0.75~0.95であり、
前記第4のポリエステル樹脂の前記ブレンド比は0.05~0.25である、請求項7又は8に記載のポリエステルフィルム。
【請求項10】
n=2又は3である、請求項1~9のいずれか一項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項11】
シーラント用ポリエステルフィルムであり、
前記第1の層がヒートシール層となる、請求項1~10のいずれか一項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項12】
前記エチレングリコール成分がバイオマス由来の成分である、請求項1~11のいずれか一項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項13】
被包装物と、
前記被包装物を包装する、請求項1~12のいずれか一項に記載のポリエステルフィルムと、を有し、
前記第1の層同士が熱溶融接合されている、包装体。
【請求項14】
前記被包装物は、前記ポリエステルフィルムによって密閉されている、請求項13に記載の包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリエステル樹脂が積層したポリエステルフィルムに関する。本開示は、当該ポリエステルフィルムを用いた包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
パウチ包装に使用されるラミネート材は様々な材料により構成されており、最内層、いわゆるシーラント層として、ポリエステルフィルムが使用されることがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載のポリエステルフィルムにおいては、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする樹脂と、ポリブチレンテレフタレートとの混合樹脂が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-165059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、環境対応としてリサイクルを考慮した包材の「モノマテリアル(単一素材)化」の検討が進められている。ポリエチレンテレフタレートのモノマテリアル化を目指す場合は、特許文献1に記載のポリエステルフィルムに使用されているポリブチレンテレフタレートはリサイクル性を阻害する「異物」として扱われることになる。このため、ポリエステルフィルムは、リサイクル性の観点からモノマテリアル化に配慮して、同種の樹脂で構成されたポリエステルフィルムであることが求められている。
【0006】
パウチ包装においては、ポリエステルフィルムのヒートシール層同士を熱圧着して貼り合わせることによって被包装物を包装する。このため、被包装物の漏出を防止するためにはヒートシール部の耐衝撃性が高いことが求められる。
【0007】
また、ラミネート材作製時にポリエステルフィルムにシワが発生するとポリエステルフィルムの生産性が低下する。このため、フィルム搬送工程及び巻き取り工程においてシワの発生が抑制されたポリエステルフィルムが求められる。
【0008】
そこで、ポリエチレンテレフタレートを基本骨格とするポリエステル樹脂を用いて、耐衝撃性の高い包装体を製造可能であり、かつ取扱い性が良好なポリエステルフィルムが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の第1視点によれば、第1の層から第nの層の樹脂が順に積層し、nが2以上の自然数であるポリエステルフィルムが提供される。ポリエステルフィルムの厚さTは30μm~70μmである。各層は、酸成分とアルコール成分との重合体であるポリエステル樹脂を少なくとも1種類含む。酸成分は、主たる成分としてテレフタル酸成分を含む。アルコール成分は、主たる成分としてエチレングリコール成分を含む。酸成分及びアルコール成分のうちの少なくとも一方は、テレフタル酸成分及びエチレングリコール成分以外の共重合成分をさらに含む。各ポリエステル樹脂における酸成分の総量100mol%に対する共重合成分の割合とアルコール成分の総量100mol%に対する共重合成分の割合との合計を共重合成分濃度と表記する。各層に含まれる各ポリエステル樹脂の質量比率をブレンド比と表記する。各層における各ポリエステル樹脂の共重合成分濃度にブレンド比を掛け合わせた数値の和を共重合成分率と表記する。第1の層から第nの層の共重合成分率を、それぞれ、c1~cnと表記する。第1の層から第nの層の厚さを、それぞれ、t1~tnと表記する。隣接する2つの層において、ポリエステル樹脂を構成する成分の種類が同一であるポリエステル樹脂を同種樹脂と表記する。隣接する2つの層の同種樹脂のうち、ブレンド比が小さいほうの数値を最小ブレンド比と表記する。隣接する2つの層における最小ブレンド比の総和を同種樹脂使用率Pと表記する。このとき、下記(1)~(3)の条件が満たされる。
(1)c1=20mol%~35mol%;
(2)c1×t1/T+…+cn×tn/T≦15;及び
(3)P=0.25~1.0。
【0010】
本開示の第2視点によれば、被包装物と、被包装物を包装する第1視点に係るポリエステルフィルムと、を有する包装体が提供される。第1の層同士が熱溶融接合されている。
【発明の効果】
【0011】
本開示のポリエステルフィルムの第1の層同士は、耐衝撃性の高いシールを形成することができる。
【0012】
本開示のポリエステルフィルムは、搬送等の取扱い工程においてシワの発生が抑制されている。これにより、ポリエステルフィルム及び包装物の生産効率を高めることができる。
【0013】
本開示のポリエステルフィルムは、すべての層がポリエチレンテレフタレートを主体としている。これにより、本開示のポリエステルフィルムはリサイクル性が高い。
【0014】
本開示の包装体は、高い耐衝撃性を有している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上記第1視点の好ましい形態によれば、共重合成分は、イソフタル酸成分及びネオペンチルグリコール成分からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0016】
上記第1視点の好ましい形態によれば、第1の層は、第1のポリエステル樹脂と、第2のポリエステル樹脂と、の混合物である。第1のポリエステル樹脂において、酸成分はテレフタル酸成分及びイソフタル酸成分からなり、アルコール成分はエチレングリコール成分からなる。第2のポリエステル樹脂において、酸成分はテレフタル酸成分からなり、アルコール成分は、エチレングリコール成分及びネオペンチルグリコール成分からなる。
【0017】
上記第1視点の好ましい形態によれば、第1のポリエステル樹脂におけるイソフタル酸成分は、第1のポリエステル樹脂の酸成分の総量に対して1mol%~30mol%である。第2のポリエステル樹脂におけるネオペンチルグリコール成分は、第2のポリエステル樹脂のアルコール成分の総量に対して20mol%~50mol%である。
【0018】
上記第1視点の好ましい形態によれば、第1のポリエステル樹脂のブレンド比は0.08~0.5である。第2のポリエステル樹脂のブレンド比は0.5~0.92である。
【0019】
上記第1視点の好ましい形態によれば、第1の層の厚さは5μm~25μmである。
【0020】
上記第1視点の好ましい形態によれば、第1の層に隣接する第2層は、第3のポリエステル樹脂と、第4のポリエステル樹脂と、の混合物である。第3のポリエステル樹脂において、酸成分はテレフタル酸成分及びイソフタル酸成分からなり、アルコール成分はエチレングリコール成分からなる。第4のポリエステル樹脂において、酸成分はテレフタル酸成分からなり、アルコール成分は、エチレングリコール成分及びネオペンチルグリコール成分からなる。
【0021】
上記第1視点の好ましい形態によれば、第3のポリエステル樹脂におけるイソフタル酸成分は、第3のポリエステル樹脂の酸成分の総量に対して2mol%~10mol%である。第4のポリエステル樹脂におけるネオペンチルグリコール成分は、第4のポリエステル樹脂のアルコール成分の総量に対して20mol%~40mol%である。
【0022】
上記第1視点の好ましい形態によれば、第3のポリエステル樹脂のブレンド比は0.75~0.95である。第4のポリエステル樹脂のブレンド比は0.05~0.25である。
【0023】
上記第1視点の好ましい形態によれば、n=2又は3である。
【0024】
上記第1視点の好ましい形態によれば、シーラント用ポリエステルフィルムである。第1の層がヒートシール層となる。
【0025】
上記第1視点の好ましい形態によれば、エチレングリコール成分がバイオマス由来の成分である。
【0026】
上記第2視点の好ましい形態によれば、被包装物はポリエステルフィルムによって密閉されている。
【0027】
本明細書及び特許請求の範囲において、各酸成分及び各アルコール成分にはその誘導体も含まれ得る。例えば、酸成分には酸成分の誘導体(例えばエステル)も含まれ得る。
【0028】
ポリエステル樹脂の組成は、原料のモノマーの仕込み組成と必ずしも同一にはならない場合がある。以下において、組成を示すモル%(mol%)濃度の表記は、明記が無い限り、原料のモノマーの仕込み量ではなく、作製された樹脂の持つ成分としてのモル%濃度を意味する。
【0029】
第1実施形態に係る本開示のポリエステルフィルムについて説明する。
【0030】
本開示のポリエステルフィルムは、組成が異なる及び/又は同一の複数のポリエステル樹脂が積層したフィルムである。以下においては、第1の層から第nの層(nは2以上の自然数)が順に積層したポリエステルフィルムについて説明する。積層数(n)は例えば2~5とすることができる。nは2又は3であると好ましい。
【0031】
各層のポリエステル樹脂は、酸成分とアルコール成分との重合体であるポリエステル樹脂を少なくとも1種類含む。各層のポリエステル樹脂は、組成の異なる2又は3種類のポリエステル樹脂の混合物であると好ましい。
【0032】
本開示において、各層におけるポリエステル樹脂の質量比をブレンド比と称する。例えば、第1の層が、第1の層の質量に対して、20質量%の第1のポリエステル樹脂と、80質量%の第2のポリエステル樹脂と、を含む場合、第1のポリエステル樹脂のブレンド比は0.2となり、第2のポリエステル樹脂のブレンド比は0.8となる。すなわち、各層におけるブレンド比の総和は1となる。
【0033】
各層のポリエステル樹脂において、酸成分は、主としてテレフタル酸成分を含む。アルコール成分は、主としてエチレングリコール成分を含む。各層のポリエステル樹脂は、ポリエチレンテレフタレート(PET;polyethylene terephthalate)を主たる骨格として有する。
【0034】
酸成分は、テレフタル酸以外の成分をさらに含むことができる。アルコール成分は、エチレングリコール成分以外の成分をさらに含むことができる。本開示においては、テレフタル酸成分及びエチレングリコール成分以外の成分を共重合成分という。酸成分の共重合成分としては、例えば、イソフタル酸成分を挙げることができる。アルコール成分の共重合成分としては、例えば、ネオペンチルグリコール(2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール)成分を挙げることができる。各層に含まれるポリエステル樹脂は、イソフタル酸成分及びネオペンチルグリコール成分からなる群から選択される少なくとも1つの共重合成分を含むことができる。
【0035】
酸成分は、本開示のポリエステルフィルムの本質的な性質を変えない範囲において、他の酸成分を含有してもよい。他の酸成分としては、例えば、オルソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、ダイマー酸、1,4-シクロヘキサジカルボン酸、ジメチルテレフタレート、ジメチルイソフタレート、及びこれらの誘導体が挙げられる。これらの他の酸成分は、いずれかを単独で添加してもよいし、2種以上を任意の割合で添加してもよい。
【0036】
アルコール成分は、本開示のポリエステルフィルムの本質的な性質を変えない範囲において、他のアルコール成分を含有してもよい。他のアルコール成分としては、例えば、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、及びこれらの誘導体が挙げられる。これらの他のアルコール成分は、いずれかを単独で添加してもよいし、2種以上を任意の割合で添加してもよい。
【0037】
ポリエステル樹脂のモノマー成分は、化石燃料由来の成分であってもよいし、バイオマス由来の成分であってもよい。
【0038】
バイオマス由来成分は、例えば、加速器質量分析(AMS;Accelerator Mass Spectrometry)を用いて放射性炭素数を計測することによって検出することができる。AMS測定により、12Cの同位体である14C及び13Cの量を測定し、14C及び13Cの量からバイオマス由来原料の使用量を測定することができる。
【0039】
第1の層について説明する。第1の層は、露出しているポリエステルフィルムの末端の層である。本開示のポリエステルフィルムをシーラント材として使用する場合、第1の層はヒートシール層として機能することができる。
【0040】
第1の層は、第1のポリエステル樹脂と、第2のポリエステル樹脂と、の混合物とすることができる。第1のポリエステル樹脂及び第2のポリエステル樹脂のうち、少なくとも一方は、共重合成分としてイソフタル酸成分を含むことができる。少なくとも他方は、共重合成分としてネオペンチルグリコール成分を含むことができる。
【0041】
酸成分がイソフタル酸成分を共重合成分として含まない場合、テレフタル酸成分は、酸成分の総量に対して、90mol%以上であると好ましい。テレフタル酸成分は、例えば、酸成分の総量に対して、93mol%以上、96mol%以上、又は100mol%とすることができる。テレフタル酸成分は、例えば、酸成分の総量に対して、100mol%、97mol%以下、又は94mol%以下とすることができる。
【0042】
酸成分がイソフタル酸成分を共重合成分として含む場合、テレフタル酸成分は、酸成分の総量に対して、70mol%以上であると好ましい。テレフタル酸成分は、例えば、酸成分の総量に対して、73mol%以上、75mol%以上、80mol%以上、85mol%以上、90mol%以上、又は93mol%以上とすることができる。テレフタル酸成分は、酸成分の総量に対して、99mol%以下であると好ましい。テレフタル酸成分は、例えば、酸成分の総量に対して、98mol%以下、97mol%以下、又は96mol%以下とすることができる。
【0043】
酸成分がイソフタル酸成分を共重合成分として含む場合、イソフタル酸成分は、酸成分の総量に対して、1mol%以上であると好ましい。イソフタル酸成分は、例えば、酸成分の総量に対して、2mol%以上、3mol%以上、又は4mol%以上とすることができる。イソフタル酸成分が1mol%未満であると、良好なヒートシール性を得ることが困難となる。イソフタル酸成分は、酸成分の総量に対して、30mol%以下であると好ましい。イソフタル酸成分は、例えば、第1のポリエステル樹脂における酸成分の総量に対して、27mol%以下、25mol%以下、20mol%以下、15mol%以下、10mol%以下、又は7mol%以下とすることができる。
【0044】
アルコール成分がネオペンチルグリコール成分を共重合成分として含まない場合、エチレングリコール成分は、例えば、アルコール成分の総量に対して、90mol%以上であると好ましい。エチレングリコール成分は、例えば、アルコール成分の総量に対して、93mol%以上、96mol%以上、又は100mol%とすることができる。エチレングリコール成分は、例えば、アルコール成分の総量に対して、100mol%、97mol%以下、又は94mol%以下とすることができる。
【0045】
アルコール成分がネオペンチルグリコール成分を共重合成分として含む場合、エチレングリコール成分は、アルコール成分の総量に対して、50mol%以上であると好ましい。エチレングリコール成分は、例えば、アルコール成分の総量に対して、55mol%以上、60mol%以上、65mol%以上、又は70mol%以上とすることができる。例えば、エチレングリコール成分は、アルコール成分の総量に対して、80mol%以下であると好ましい。エチレングリコール成分は、例えば、アルコール成分の総量に対して、75mol%以下、70mol%以下、又は65mol%以下とすることができる。
【0046】
アルコール成分がネオペンチルグリコール成分を共重合成分として含む場合、ネオペンチルグリコール成分は、アルコール成分の総量に対して、20mol%以上であると好ましい。ネオペンチルグリコール成分は、例えば、アルコール成分の総量に対して、25mol%以上、30mol%以上、又は35mol%以上とすることができる。ネオペンチルグリコール成分が20mol%未満であると、良好なヒートシール性を得ることが困難となる。ネオペンチルグリコール成分は、アルコール成分の総量に対して、50mol%以下であると好ましい。ネオペンチルグリコール成分は、例えば、アルコール成分の総量に対して、45mol%以下、40mol%以下、35mol%以下、又は30mol%以下とすることができる。
【0047】
第1の層における第1のポリエステル樹脂において、酸成分はテレフタル酸成分及びイソフタル酸成分からなり、アルコール成分はエチレングリコール成分からなることができる。第2のポリエステル樹脂において、酸成分はテレフタル酸成分からなり、アルコール成分は、エチレングリコール成分及びネオペンチルグリコール成分からなることができる。
【0048】
例えば、第1の層における第1のポリエステル樹脂において、酸成分は、70mol%~99mol%のテレフタル酸成分と、1mol%~30mol%のイソフタル酸成分と、を含むことができる。第1の層における第1のポリエステル樹脂において、アルコール成分は、100mol%のエチレングリコール成分を含むことができる。
【0049】
例えば、第1の層における第2のポリエステル樹脂において、酸成分は、100mol%のテレフタル酸成分を含むことができる。第1の層における第2のポリエステル樹脂において、アルコール成分は、50mol%~80mol%のエチレングリコール成分と、20mol%~50mol%のネオペンチルグリコール成分と、を含むことができる。
【0050】
第1の層における第1のポリエステル樹脂のブレンド比は0.08以上であると好ましい。第1のポリエステル樹脂のブレンド比は、例えば、0.1以上、0.12以上、0.18以上、0.25以上、又は0.3以上とすることができる。第1のポリエステル樹脂のブレンド比は0.5以下であると好ましい。第1のポリエステル樹脂のブレンド比は、例えば、0.45以下、0.4以下、0.35以下、0.3以下、0.25以下、0.22以下、又は0.18以下とすることができる。
【0051】
第1の層における第2のポリエステル樹脂のブレンド比は0.5以上であると好ましい。第2のポリエステル樹脂のブレンド比は、例えば、0.55以上、0.6以上、0.65以上、0.7以上、0.75以上、0.78以上、又は0.82以上とすることができる。第2のポリエステル樹脂のブレンド比は0.92以下であると好ましい。第2のポリエステル樹脂のブレンド比は、例えば、0.9以下、0.88以下、0.82以下、0.75以下、又は0.7以下とすることができる。
【0052】
本開示において、各ポリエステル樹脂における酸成分の総量100mol%に対する共重合成分の割合とアルコール成分の総量100mol%に対する共重合成分の割合との合計を共重合成分濃度と称する。例えば、第1のポリエステル樹脂において、イソフタル酸成分が酸成分の総量に対して5mol%であり、ネオペンチルグリコール成分がアルコール成分の総量に対して10mol%であるとき、第1のポリエステル樹脂の共重合成分濃度は15mol%となる。
【0053】
本開示において、ある層における各ポリエステル樹脂の共重合成分濃度とブレンド比の積の総和を共重合成分率と称する。第1の層から第nの層の共重合成分率を、それぞれ、c1~cnと表記する。例えば、第1の層において、第1のポリエステル樹脂の共重合成分濃度が10mol%であり、第1のポリエステル樹脂のブレンド比が0.3であり、第2のポリエステル樹脂の共重合成分濃度が20mol%であり、第2のポリエステル樹脂のブレンド比が0.7である場合、共重合成分率c1は10mol%×0.3+20mol%×0.7=17mol%となる。
【0054】
第1の層の共重合成分率c1は20mol%以上であると好ましい。共重合成分率c1は、例えば、22mol%以上、25mol%以上、又は30mol%以上とすることができる。共重合成分率c1が20mol%未満であると、第1の層をヒートシール層として用いた場合に接合力が弱くなってしまう。第1の層の共重合成分率c1は35mol%以下であると好ましい。共重合成分率c1は、例えば、32mol%以下、30mol%以下、28mol%以下、26mol%以下、又は24mol%以下とすることができる。共重合成分率c1が35mol%を超えると、熱による樹脂の軟化の程度が大きくなり、シールの圧力によってヒートシール部の厚さが減少してしまう。このため、シール部の耐衝撃性が低下してしまう。
【0055】
第1の層に隣接する第2の層について説明する。
【0056】
第2の層は、第3のポリエステル樹脂と、第4のポリエステル樹脂と、の混合物とすることができる。第3のポリエステル樹脂及び第4のポリエステル樹脂のうち、少なくとも一方は、共重合成分としてイソフタル酸成分を含むことができる。少なくとも他方は、共重合成分としてネオペンチルグリコール成分を含むことができる。
【0057】
酸成分がイソフタル酸成分を共重合成分として含まない場合、テレフタル酸成分は、酸成分の総量に対して、90mol%以上であると好ましい。テレフタル酸成分は、例えば、酸成分の総量に対して、93mol%以上、96mol%以上、又は100mol%とすることができる。テレフタル酸成分は、例えば、酸成分の総量に対して、100mol%、97mol%以下、又は94mol%以下とすることができる。
【0058】
酸成分がイソフタル酸成分を共重合成分として含む場合、テレフタル酸成分は、酸成分の総量に対して、70mol%以上であると好ましい。テレフタル酸成分は、例えば、酸成分の総量に対して、73mol%以上、75mol%以上、80mol%以上、85mol%以上、90mol%以上、又は93mol%以上とすることができる。テレフタル酸成分は、酸成分の総量に対して、99mol%以下であると好ましい。テレフタル酸成分は、例えば、酸成分の総量に対して、98mol%以下、97mol%以下、又は96mol%以下とすることができる。
【0059】
酸成分がイソフタル酸成分を共重合成分として含む場合、イソフタル酸成分は、酸成分の総量に対して、1mol%以上であると好ましい。イソフタル酸成分は、例えば、酸成分の総量に対して、2mol%以上、3mol%以上、又は4mol%以上とすることができる。イソフタル酸成分は、酸成分の総量に対して、30mol%以下であると好ましい。イソフタル酸成分は、例えば、第3のポリエステル樹脂における酸成分の総量に対して、27mol%以下、25mol%以下、20mol%以下、15mol%以下、10mol%以下、又は7mol%以下とすることができる。
【0060】
アルコール成分がネオペンチルグリコール成分を共重合成分として含まない場合、エチレングリコール成分は、例えば、アルコール成分の総量に対して、90mol%以上であると好ましい。エチレングリコール成分は、例えば、アルコール成分の総量に対して、93mol%以上、96mol%以上、又は100mol%とすることができる。エチレングリコール成分は、例えば、アルコール成分の総量に対して、100mol%、97mol%以下、又は94mol%以下とすることができる。
【0061】
アルコール成分がネオペンチルグリコール成分を共重合成分として含む場合、エチレングリコール成分は、アルコール成分の総量に対して、50mol%以上であると好ましい。エチレングリコール成分は、例えば、アルコール成分の総量に対して、55mol%以上、60mol%以上、65mol%以上、又は70mol%以上とすることができる。例えば、エチレングリコール成分は、アルコール成分の総量に対して、80mol%以下であると好ましい。エチレングリコール成分は、例えば、アルコール成分の総量に対して、75mol%以下、70mol%以下、又は65mol%以下とすることができる。
【0062】
アルコール成分がネオペンチルグリコール成分を共重合成分として含む場合、ネオペンチルグリコール成分は、アルコール成分の総量に対して、20mol%以上であると好ましい。ネオペンチルグリコール成分は、例えば、アルコール成分の総量に対して、25mol%以上、30mol%以上、又は35mol%以上とすることができる。ネオペンチルグリコール成分は、アルコール成分の総量に対して、50mol%以下であると好ましい。ネオペンチルグリコール成分は、例えば、アルコール成分の総量に対して、45mol%以下、40mol%以下、35mol%以下、又は30mol%以下とすることができる。
【0063】
第2の層における第3のポリエステル樹脂において、酸成分はテレフタル酸成分及びイソフタル酸成分からなり、アルコール成分はエチレングリコール成分からなることができる。第4のポリエステル樹脂において、酸成分はテレフタル酸成分からなり、アルコール成分は、エチレングリコール成分及びネオペンチルグリコール成分からなることができる。
【0064】
例えば、第2の層における第3のポリエステル樹脂において、酸成分は、70mol%~99mol%のテレフタル酸成分と、1mol%~30mol%のイソフタル酸成分と、を含むことができる。第2の層における第3のポリエステル樹脂において、アルコール成分は、100mol%のエチレングリコール成分を含むことができる。
【0065】
例えば、第2の層における第4のポリエステル樹脂において、酸成分は、100mol%のテレフタル酸成分を含むことができる。第2の層における第4のポリエステル樹脂において、アルコール成分は、50mol%~80mol%のエチレングリコール成分と、20mol%~50mol%のネオペンチルグリコール成分と、を含むことができる。
【0066】
第2の層における第3のポリエステル樹脂のブレンド比は0.5以上であると好ましい。第3のポリエステル樹脂のブレンド比は、例えば、0.55以上、0.6以上、0.65以上、0.7以上、0.75以上、0.78以上、又は0.82以上とすることができる。第3のポリエステル樹脂のブレンド比は0.92以下であると好ましい。第3のポリエステル樹脂のブレンド比は、例えば、0.9以下、0.88以下、0.82以下、0.75以下、又は0.7以下とすることができる。
【0067】
第2の層における第4のポリエステル樹脂のブレンド比は0.08以上であると好ましい。第4のポリエステル樹脂のブレンド比は、例えば、0.1以上、0.12以上、0.18以上、0.25以上、又は0.3以上とすることができる。第4のポリエステル樹脂のブレンド比は0.5以下であると好ましい。第4のポリエステル樹脂のブレンド比は、例えば、0.45以下、0.4以下、0.35以下、0.3以下、0.25以下、0.22以下、又は0.18以下とすることができる。
【0068】
第2の層の共重合成分率c2は5mol%以上であると好ましい。共重合成分率c2は、例えば、7mol%以上、8mol%以上、又は9mol%以上とすることができる。共重合成分率c2が5mol%未満であると、融点の高いポリエステル樹脂が原料の大部分を占めることになり、製膜時の押出機の温度を高温に維持する必要があり、エネルギー原単位が高くなってしまう。第2の層の共重合成分率c2は20mol%以下であると好ましい。共重合成分率c2は、例えば、18mol%以下、15mol%以下、又は12mol%以下とすることができる。共重合成分率c2が20mol%を超えると、フィルム全体が共重合率の高い状態となってしまい、次工程での搬送性等、取り扱いにくいフィルムとなってしまう。
【0069】
本開示において、本開示のポリエステルフィルム全体の厚さをTと表記する。第1の層から第nの層の厚さを、それぞれ、t1~tnと表記する。例えば、第1の層の厚さはt1と表記する。全体の厚さTは、例えば、実測により測定することができる。各層の厚さは、例えば、顕微鏡による断面観察により測定することができる。
【0070】
本開示のポリエステルフィルム全体の厚さTは30μm以上であると好ましい。本開示のポリエステルフィルム全体の厚さTは、例えば、35μm以上、40μm以上、45μm以上、50μm以上、55μm以上、60μm以上、又は70μm以上とすることができる。本開示のポリエステルフィルム全体の厚さTが30μm未満であると、フィルム全体の耐衝撃性が低下してしまう。本開示のポリエステルフィルム全体の厚さTは70μm以下であると好ましい。本開示のポリエステルフィルム全体の厚さTは、例えば、65μm以下、60μm以下、55μm以下、又は50μm以下とすることができる。第1の層の厚さは70μmを超えるとヒートシール層へ熱が伝わりにくく、シール強度が低下してしまう。
【0071】
第1の層の厚さt1は5μm以上であると好ましい。第1の層の厚さt1は、例えば、8μm以上、10μm以上、12μm以上、又は15μm以上とすることができる。第1の層の厚さt1が5μm未満であると、シール部の強度を確保することが困難となる。第1の層の厚さt1は25μm以下であると好ましい。第1の層の厚さt1は、例えば、22μm以下、20μm以下、18μm以下、又は15μm以下とすることができる。第1の層の厚さt1が25μmを超えると、第1の層がヒートシール層となる場合は、フィルム全体が共重合率の高い状態となってしまい、次工程での搬送性等、取り扱いにくいフィルムとなってしまう。
【0072】
本開示において、フィルム全体の厚さに対する各層のフィルムの厚さの比率と、対応する層の共重合成分率との積の総和をフィルム全体共重合成分率Cと称する。すなわち、フィルム全体共重合成分率Cは以下の式で表される。
フィルム全体共重合成分率C=c1×t1/T+…+cn×tn/T
【0073】
本開示のポリエステルフィルムにおけるフィルム全体共重合成分率Cは5%以上であると好ましい。フィルム全体共重合成分率Cは、例えば、8%以上、又は10%以上とすることができる。フィルム全体共重合成分率Cが5%未満の場合、ヒートシール層以外の層において、融点の高いポリエステル樹脂が原料の大部分を占めることになり、製膜時の押出機の温度を高温に維持する必要があり、エネルギー原単位が高くなってしまう。フィルム全体共重合成分率Cは15%以下であると好ましい。フィルム全体共重合成分率Cは、例えば、14%以下、又は13%以下とすることができる。フィルム全体共重合成分率Cが15%を超えると、フィルム全体における共重合成分(非晶成分)が多くなり、結晶化度の低いフィルムとなってしまう。結晶化度が低くなると、フィルムの滑性が低下し、搬送工程においてフィルムにシワが発生しやすくなってしまう。
【0074】
本開示において、ポリエステルフィルムにおける隣接する2つの層において、ポリエステル樹脂を構成する成分の種類が同一であるポリエステル樹脂のことを同種樹脂と称する。そして、同種樹脂間でブレンド比が小さいほうの数値を最小ブレンド比と称する。隣接する2つの層における最小ブレンド比の総和を同種樹脂使用率Pと称する。隣接する2つの層に同種樹脂が1つである場合には最小ブレンド比が同種樹脂使用率Pとなる。隣接する2つの層に複数存在する場合には、最小ブレンド比の総和が同種樹脂使用率Pとなる。
【0075】
本開示のポリエステルフィルムにおいて、同種樹脂使用率Pは0.25以上であると好ましい。同種樹脂使用率Pは、例えば、0.28以上、0.33以上、0.38以上、0.43以上、又は0.48以上とすることができる。同種樹脂使用率Pが0.25未満であると、層間剥離が発生しやすくなってしまう。同種樹脂使用率Pは、例えば、1以下、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、又は0.5以下とすることができる。
【0076】
第1の層と第2の層における同種樹脂使用率Pは0.7以下であると好ましい。
【0077】
本開示のポリエステルフィルムにおいては、層の数を3つ以上とすることができる。第3の層以降の層については、上記第2の層についての記載を援用することができ、ここでの説明は省略する。
【0078】
本開示のポリエステルフィルムにおいて、隣接する層が同じ組成である場合には(同種樹脂使用率Pが1である場合には)、同一の層とみなす。
【0079】
本開示のポリエステルフィルムは、組成、構造、特性等によって直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的ではない場合がある。このような場合には、本開示のポリエステルフィルムは、その製造方法によって特定することが許されるべきものである。
【0080】
本開示のポリエステルフィルムはシーラント材として適用することができる。この場合、第1の層をヒートシール層として適用することができる。本開示のポリエステルフィルムをシーラント材として使用した場合、耐衝撃性の高いシール部を作製することができる。
【0081】
本開示のポリエステルフィルムにおいては層間剥離が抑制されている。このため、フィルム自体の強度が高められていると共に、耐衝撃性の高い包装体を作製することができる。
【0082】
本開示のポリエステルフィルムは、搬送工程等の工程においてシワの発生が抑制されている。これにより、歩留まり及び生産性を高めることができる。
【0083】
本開示のポリエステルフィルムにおけるすべての層はポリエチレンテレフタレートを基本骨格としている。すなわち、本開示のポリエステルフィルムはモノマテリアルの包装体を作製する際にシーラントフィルムとして好適に適用することができる。
【0084】
本開示のポリエステル樹脂の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の触媒を使用して公知の重合方法によって行うことができる。本開示のポリエステル樹脂の製造方法は、未置換のポリカルボン酸を出発原料として直接エステル化する方法、ジメチルエステル等のエステル化物を出発原料としてエステル交換反応を行なう方法のいずれであってもよい。本開示のポリエステル樹脂の製造に際しては、十分な反応速度を得るため、第1段階として、公知の触媒を使用して常圧下でエステル交換反応を実施し、引き続く第2段階として、公知の触媒を使用して減圧下で重縮合反応を実行することが望ましい。重縮合反応後に、固相重合反応を行ってもよい。固相重合反応により、ポリエステル樹脂の固有粘度を高めることができる。
【0085】
本開示のポリエステルフィルムは、一般的なポリエステルフィルムの製造方法に従って製造することができる。共押出法では、各層の原料となる樹脂を所定の比率で各層の押出し機に投入し溶融した後、例えばマルチマニホールド式のTダイで合流、シート状に押出し成形し速やかにロール冷却することで無配向ポリエステルフィルムを得ることができる。この無配向フィルムは、ガラス転移温度以上の温度において、ロールの速度差を利用して走行方向の方向に延伸したり、テンターにより幅方向に延伸することにより、延伸ポリエステルフィルムを得ることができる。以降に示す試験例においては、一方向のみ延伸する一軸延伸方式にてフィルムを得たが、無延伸や二軸延伸の方式でも、条件を調整することによりフィルムを得ることができる。
【0086】
第2実施形態に係る本開示の包装体について説明する。
【0087】
包装体は、被包装物と、被包装物を包装する第1実施形態に係るポリエステルフィルムと、を有する。包装体は、本開示のポリエステルフィルムと他のフィルムとを積層させたラミネートフィルムとすることができる。ポリエステルフィルムはシーラント層として機能することができる。包装体は、ポリエステルフィルムの第1の層同士を熱溶融接合させることによって形成することができる。包装体の加工には本開示のポリエステルフィルムと他素材とラミネートした積層体を用いるのが一般的である。積層体に用いる他素材は特に限定されるものではなく、目的に応じて選定することができる。積層方法は特に限定されるものではなく、接着剤を塗布、乾燥後に圧着するドライラミネート方式を用いるのが一般的である。
【0088】
包装体の形態は、例えば四角形に切り出された同一寸法の2枚の積層体を本開示ポリエステルフィルムの第1の層同士が向かい合うように配置し、4辺をヒートシールする4方シール、四角形に切り出された1枚の積層体を本開示ポリエステルフィルムの第1の層が内側になる様に半分に折り曲げ、3辺をシールする3方シールが挙げられるが、目的に応じて様々な形態を適宜選定することができる。
【0089】
被包装物は、本開示のポリエステルフィルム及び/又は本開示のポリエステルフィルムを含むラミネートフィルムで包装(収容)できるものであればいずれであってもよい。被包装物は、本開示のポリエステルフィルム及び/又はラミネートフィルムで密閉することができる。例えば、被包装物は、本開示のポリエステルフィルム及び/又はラミネートフィルムでいわゆるパウチ包装することができる。
【0090】
本開示の包装体は、組成、構造、特性等によって直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的ではない場合がある。このような場合には、本開示の包装体は、その製造方法によって特定することが許されるべきものである。
【0091】
本開示の包装体は、第1の層同士が強固に接合されていると共に、フィルム自体の強度も高いので、高い耐衝撃性を有している。これにより、被包装物の漏出が抑制されている。
【実施例0092】
本開示のポリエステルフィルム及びその製造方法について、以下に例を挙げて説明する。しかしながら、本開示のポリエステルフィルム及びその製造方法は以下の例に限定されるものではない。
【0093】
表1~表4に、ポリエステルフィルムの製造に用いたポリエステル樹脂の組成を示す。
【0094】
以下の表において用いた略語を示す。
Po:ポリエステル樹脂
TPA:テレフタル酸
IPA:イソフタル酸
EG:エチレングリコール
NPG:ネオペンチルグリコール
【0095】
[ポリエステル樹脂の製造1]
試験例1の第1のポリエステル樹脂を例にして説明する。攪拌機、精留塔を設けたステンレス製オートクレーブに、酸成分としてテレフタル酸を95mol%及びイソフタル酸を5mol%、アルコール成分としてエチレングリコール100mol%(アルコール成分のモル数/酸成分のモル数=1.12)を仕込み、250℃、250kPaの条件下でエステル化を行い、その後、トリエチルリン酸、二酸化ゲルマニウムを仕込んで、275℃、100Paの減圧化下で所定の粘度まで重縮合反応を行った。冷却水中に押し出し、ストランドカッターを用いてペレット化した。得られたポリマーの固有粘度(IV)は0.65dl/gであった。その後、ドラム乾燥機で120℃(真空)で乾燥し、ドラム型の固相重合機で、真空下、207℃で固相重合した。固相重合品のIVは0.80であった。
【0096】
同様にして、イソフタル酸2mol%共重合PET(IV 0.76dl/g)を作製した。また、イソフタル酸25mol%共重合PET(IV 0.68dl/g)については、上記溶融重合のみで作製した。
【0097】
[ポリエステル樹脂の製造2]
試験例1の第2のポリエステル樹脂を例にして説明する。攪拌機、精留塔を設けたステンレス製オートクレーブに、酸成分としてテレフタル酸を100mol%、アルコール成分としてエチレングリコール75.7mol%、ネオペンチルグリコール24.3mol%(アルコール成分のモル数/酸成分のモル数=1.48)を仕込み、250℃、250kPaの条件下でエステル化を行い、その後、トリエチルリン酸、二酸化ゲルマニウムを仕込んで、275℃、100Paの減圧化下で所定の粘度まで重縮合反応を行った。冷却水中に押し出し、ストランドカッターを用いてペレット化した。得られたポリマーのIVは0.69dl/gであった。
【0098】
同様にして、ネオペンチルグリコール20mol%共重合PET(IV 0.69dl/g)、ネオペンチルグリコール40mol%共重合PET(IV 0.69dl/g)を作製した。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
【表3】
【0102】
【表4】
【0103】
作製したポリエステル樹脂を用いてポリエステルフィルムを作製した。表5~表8に、各層のブレンド比、共重合成分率及びフィルム厚さ、並びにポリエステルフィルム全体の共重合成分率、フィルム厚さ及び同種樹脂使用率を示す。表5~表8に記載の用語について以下に説明する。試験例4及び試験例9においては、第1の層から第3の層へ順に積層されている。
【0104】
第1のPo及び第2のPoとは、それぞれ、表1~表4に示す第1のポリエステル樹脂及び第2のポリエステル樹脂のことを指す。
【0105】
共重合成分とは、ポリエチレンテレフタレートの構成成分以外の成分をいう。すなわち、共重合成分は、テレフタル酸成分及びエチレングリコール成分以外の成分である。共重合成分濃度とは、各ポリエステル樹脂における酸成分の総量100mol%に対する共重合成分の割合とアルコール成分の総量100mol%に対する共重合成分の割合との合計である。表1に示す試験例1における第1のポリエステル樹脂を例にすると、酸成分における共重合成分はイソフタル酸成分であり、アルコール成分における共重合成分は添加されていない。したがって、試験例1における第1のポリエステル樹脂の共重合成分濃度は5mol%となる。
【0106】
ブレンド比とは、各層におけるポリエステル樹脂の配合比率である。表5に示す試験例1における第1の層を例にすると、第1の層は、第1の層の質量に対して、20質量%の第1のポリエステル樹脂と、80質量%のポリエステル樹脂と、を含む。第1のポリエステル樹脂のブレンド比は0.2であり、第2のポリエステル樹脂のブレンド比は0.8である。
【0107】
共重合成分率とは、各層における各ポリエステル樹脂の共重合成分濃度とブレンド比の積の総和である。表5に示す試験例1における第1の層を例にすると、第1のポリエステル樹脂における共重合成分濃度とブレンド比の積は1であり、第2のポリエステル樹脂における共重合成分濃度とブレンド比の積は24である。したがって、共重合成分率は25mol%となる。フィルム全体共重合成分率とは、フィルム全体の厚さに対する各層のフィルムの厚さの比率と各層の共重合成分率の積の総和である。表5に示す試験例1を例にすると、試験例1のポリエステルフィルム全体の厚さは50μmであるので、フィルム全体共重合成分率とは、25mol%×15μm/50μm+10mol%×35μm/50μm=14.5mol%となる。
【0108】
同種樹脂とは、隣接する2つの層において、ポリエステル樹脂を構成する成分の種類が同一であるポリエステル樹脂のことをいう。表1及び表5に示す試験例1を例にすると、隣接する第1の層と第2の層において、第1の層の第1のポリエステル樹脂と第2の層の第3のポリエステル樹脂が同種樹脂であり、第1の層の第2のポリエステル樹脂と第2の層の第4のポリエステル樹脂が同種樹脂である。同種樹脂使用率とは、同種樹脂間で小さいブレンド比の総和である。表1及び表5に示す試験例1を例にすると、第1の層の第1のポリエステル樹脂と第2の層の第3のポリエステル樹脂のうち、小さいブレンド比は0.2であり、第1の層の第2のポリエステル樹脂と第2の層の第4のポリエステル樹脂のうち、小さいブレンド比0.2であるので、同種樹脂使用率は0.2+0.2=0.4となる。
【0109】
バイオマス由来EGとは、バイオマス原料から製造されたエチレングリコールを使用したか否かを示す。
【0110】
[ポリエステルフィルムの製造]
各層の原料となる樹脂を下記に示す比率で各層の押出し機に投入し、溶融した後、マルチマニホールド式のTダイでシート状に押出し、得られた無配向ポリエステルフィルムをロールの速度差を利用して一方向のみ延伸する一軸延伸方式にてフィルムを得た。
【0111】
【表5】
【0112】
【表6】
【0113】
【表7】
【0114】
【表8】
【0115】
上記で得た試験例1~21のポリエステルフィルムについて、動摩擦係数、フィルム搬送性、ヒートシール強度及び耐衝撃性を試験した。表9~表12に試験結果を示す。ヒートシール強度の単位における「15mm」とは、測定サンプルの幅を意味する。
【0116】
[動摩擦係数]
JISK7125に準拠し、東洋精機製摩擦測定器TR-2を使用して、各試験例のポリエステルフィルムの表面と裏面の摩擦係数について、200gのスレッド(おもり)にて測定を行った。
【0117】
[フィルム搬送性]
フィルムスリット設備を用いて350m/分でフィルムを搬送したときに、搬送及び巻き取が良好だったものをA、搬送でフィルムにシワが見られたが巻き取りは良好だったものをB、巻き取りでフィルムにシワが発生したものをCとした。
【0118】
[ヒートシール強度]
テスター産業製ヒートシールテスターTP-701-Bを使用し、同じ試験例のポリエステルフィルムの第1の層(ヒートシール層)同士を130℃、0.2MPa、2秒の条件で貼り合せてシールを作製した。引張圧縮試験機(ミネベアミツミ製テクノグラフTG-5KN)を用いてシール部が剥離又は破断するまでの最大荷重を測定した。
【0119】
[耐衝撃性]
同じ試験例のポリエステルフィルムの第1の層同士を貼り合わせて、150mlの水を封入した四方シールパウチを作製した。シールにはテスター産業製ヒートシールテスターTP-701一Bを使用した。170~190℃、0.2MPa、2秒の条件にて150mm×150mmの2枚の同じ試験例のポリエステルフィルムの第1の層同士をシールし、水を封入したパウチを作製した。水が封入された領域は約130×130mmであった。作製したパウチを5℃で12時間冷却した後、各パウチについて耐衝撃性試験を行った。耐衝撃性試験においては、10個のサンプルを1mの高さから床に敷いた鉄板上に繰り返し最大10回落下させて、破袋又は漏水が発生した時点で試験終了とし、その落下回数を点数とした。10回目まで落下ができた場合は10回目の結果によらず10点とした。サンプル数は10個とし、点数の平均値で耐衝撃性を評価した。
A:平均点が8点以上であった;
B:平均点が4点以上8点未満であった;
C:平均点が3点未満であった。
【0120】
試験例1~10のポリエステルフィルムは、いずれも良好な結果が得られた。
【0121】
試験例11においては、ヒートシール強度試験及び耐衝撃性試験において、フィルム全体の厚さが薄いため、シール部以外の部分で破断が生じて不十分な結果となった。これより、フィルム全体の厚さは30μm以上が好ましいと考えられる。
【0122】
試験例12においては、フィルムが厚く、第1の層(ヒートシール層)に十分に熱が伝導しなかったため、ヒートシール強度が低下したものと考えられる。これより、フィルム全体の厚さは70μm以下が好ましいと考えられる。
【0123】
試験例13、14及び19においては、第1の層(ヒートシール層)における共重合成分率が低いため、シール部の接合力が低下したものと考えられる。これより、第1の層の共重合成分率は20mol%以上が好ましいと考えられる。一方、試験例15においては、フィルムの融点が低く、ヒートシール温度でフィルムが溶融してしまった。このため、ヒートシールの圧力でシール部の厚みが薄くなり、シール部の耐衝撃性が低下したものと考えられる。これより、第1の層の共重合成分率は35mol%以下が好ましいと考えられる。
【0124】
試験例16、17及び20においては、フィルム全体共重合成分率が高いため、フィルム全体において結晶化度が低下した。このため、フィルムの動摩擦係数が高くなり、フィルム搬送時にシワが発生してしまったと考えられる。これより、フィルム全体共重合成分率は15%以下が好ましいと考えられる。
【0125】
試験例18及び21においては、層間の接合力が低く、ヒートシール強度及び耐衝撃性が共に低くなった。これより、同種樹脂使用率は0.25以上であると好ましいと考えられる。
【0126】
耐衝撃性が高く、かつ動摩擦係数が低い試験例1~10のポリエステルフィルムは、いずれの層もポリエチレンテレフタレートを基本構造としている。このため、本開示のポリエステルフィルムは、高いリサイクル性を有する包装体のシーラントフィルムとして使用することができる。
【0127】
【表9】
【0128】
【表10】
【0129】
【表11】
【0130】
【表12】
【0131】
本開示のポリエステルフィルム及びその製造方法は、上記実施形態及び実施例に基づいて説明されているが、上記実施形態及び実施例に限定されることなく、本発明の範囲内において、かつ本発明の基本的技術思想に基づいて、各開示要素(請求の範囲、明細書及び図面に記載の要素を含む)に対し種々の変形、変更及び改良を含むことができる。また、本発明の請求の範囲の範囲内において、各開示要素の多様な組み合わせ・置換ないし選択が可能である。
【0132】
本発明のさらなる課題、目的及び形態(変更形態含む)は、請求の範囲を含む本発明の全開示事項からも明らかにされる。
【0133】
本書に記載した数値範囲については、別段の記載のない場合であっても、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし範囲が本書に具体的に記載されているものと解釈されるべきである。
【0134】
上記実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下の記載には限定されない。各付記は、特許請求の範囲に記載の各請求項と組み合わせることもできる。
[付記1]
本開示のポリエステルフィルムをシーラント材として使用する方法。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本開示のポリエステルフィルムは、例えば、パウチ包装、ラミネート包装等のシーラント材に適用することができる。