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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069210
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】サスペンション装置
(51)【国際特許分類】
   B60G 17/015 20060101AFI20230511BHJP
   F16F 9/46 20060101ALI20230511BHJP
   F16F 9/48 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
B60G17/015 A
F16F9/46
F16F9/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180931
(22)【出願日】2021-11-05
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】宮谷 修
【テーマコード(参考)】
3D301
3J069
【Fターム(参考)】
3D301AA02
3D301AA69
3D301DA23
3D301DA28
3D301DA33
3D301DA38
3D301DB25
3D301DB28
3D301DB29
3D301DB30
3D301DB42
3D301DB44
3D301EC01
3D301EC06
3J069AA54
3J069DD47
3J069EE38
3J069EE43
3J069EE57
(57)【要約】
【課題】車体の姿勢を制御できるものの安価なサスペンション装置を提供することである。
【解決手段】本実施の形態のサスペンション装置1は、車体Bと車体Bの左右のそれぞれに車輪を有する左右輪列を1つ以上含んで車体Bに対して前後方向に複数列に亘って設けられた車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrとを有する車両Vに対して、車体Bと少なくとも1つ以上の左右輪列の車輪Wrl,Wrr(Wfl,Wfr)との間に介装されるとともに、伸長側或いは収縮側の減衰力のみの調整が可能な減衰力可変ダンパ2と、車両Vが収集して車両Vから得た情報に基づいて減衰力可変ダンパ2の減衰力を制御するコントローラ4とを備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、前記車体の左右のそれぞれに車輪を有する左右輪列を1つ以上含んで前記車体に対して前後方向に複数列に亘って設けられた車輪とを有する車両に対して、前記車体と少なくとも1つ以上の左右輪列の車輪との間に介装されるとともに、伸長側或いは収縮側の減衰力のみの調整が可能な減衰力可変ダンパと、
前記車両が収集した情報を前記車両から得て前記情報に基づいて前記減衰力可変ダンパの前記減衰力を制御するコントローラとを備えた
ことを特徴とするサスペンション装置。
【請求項2】
前記減衰力可変ダンパは、伸長側の減衰力の調整のみが可能であって、前記車体と前記車体の後方側の左右輪列の車輪との間に介装される
ことを特徴とする請求項1に記載のサスペンション装置。
【請求項3】
前記減衰力可変ダンパは、ノーマルの減衰力とノーマルよりも高いハードの減衰力との2段階に減衰力の調整が可能である
ことを特徴とする請求項1または2に記載のサスペンション装置。
【請求項4】
前記減衰力可変ダンパは、
シリンダと、
前記シリンダ内に軸方向へ移動可能に挿入されるロッドと、
前記シリンダ内に軸方向へ移動可能に挿入されるとともに前記ロッドに連結されて前記シリンダ内を液体が充填される伸側室と圧側室とに区画するピストンと、
ソレノイドを有して前記ソレノイドへの通電のオンオフによって通過する液体の流れに与える抵抗を2段階に調整可能な減衰力調整バルブとを有する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のサスペンション装置。
【請求項5】
前記減衰力可変ダンパにおける前記ソレノイドのそれぞれは、直列に接続されており、
前記コントローラは、前記ソレノイドへ通電する駆動回路を1つのみ有している
ことを特徴とする請求項4に記載のサスペンション装置。
【請求項6】
前記車体と前記減衰力可変ダンパが介装される左右輪列以外の車輪との間の全てに介装される減衰力調整が不能なパッシブダンパを備えた
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のサスペンション装置。
【請求項7】
前記コントローラは、前記車両から制動、加速、旋回の少なくとも1つを把握可能な情報に基づいて前記減衰力可変ダンパの前記減衰力を制御する
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のサスペンション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
4輪車両における乗心地の向上や走行状態に適した車体の姿勢を実現する等の目的で、車体と4輪各輪との間に介装される減衰力可変ダンパと、各減衰力可変ダンパの減衰力を制御するコントローラとを備えたサスペンション装置が種々提案されている。
【0003】
このようなサスペンション装置では、4輪各輪に配置される減衰力可変ダンパは、伸長作動時と収縮作動時の減衰力の調整が可能であって、コントローラは、各減衰力可変ダンパの減衰力を独立して制御するようになっている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-47723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなサスペンション装置では、スカイフック制御によって車体の振動を抑制するために必要となる減衰力を各減衰力可変ダンパに発揮させる。そのため、コントローラは、4輪各輪の直上の車体の上下方向の加速度を検知するための3つの加速度センサと、各減衰力可変ダンパのストロークを検知する4つのストロークセンサを備えている。また、各減衰力可変ダンパは、コントローラから供給される電流量に応じて開弁圧を調整するソレノイドバルブを備えている。
【0006】
コントローラは、3つの加速度センサから求めた4輪各輪の直上の車体の上下方向の速度を求めて、当該速度にスカイフック減衰係数を乗じて各減衰力可変ダンパに発揮させるべき減衰力を求める。また、減衰力可変ダンパが発揮する減衰力の大きさは、ストローク速度に依存して変化するため、コントローラは、4つのストロークセンサで検知したストローク変位を微分して各減衰力可変ダンパのストローク速度を求め、当該ストローク速度にて前述の通りに求めた減衰力を出力させるためにソレノイドバルブへ供給する電流量を求める。そして、コントローラは、各減衰力可変ダンパのソレノイドバルブを駆動するために4つの駆動回路を備えており、求めた電流量通りに各減衰力可変ダンパのソレノイドバルブへ駆動回路を通じて電流を供給する。
【0007】
このように、従来のサスペンション装置は、それぞれ伸長側および収縮側の両側の減衰力の調整が可能な減衰力可変ダンパと、少なくとも3つの加速度センサ、4つのストロークセンサおよび4つの駆動回路とを備えたコントローラとを構成要素としており、4つの減衰力可変ダンパの減衰力を制御してきめ細やかに車体の姿勢を制御できる点で優れているものの、非常に高価であって高価格帯の高級車にしか搭載できないシステムとなっている。
【0008】
そこで、本発明は、車体の姿勢を制御できるものの安価なサスペンション装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のサスペンション装置は、車体と車体の左右のそれぞれに車輪を有する左右輪列を1つ以上含んで車体に対して前後方向に複数列に亘って設けられた車輪とを有する車両に対して、車体と少なくとも1つ以上の左右輪列の車輪との間に介装されるとともに、伸長側或いは収縮側の減衰力のみの調整が可能な減衰力可変ダンパと、車両Vが収集して車両Vから得た情報に基づいて減衰力可変ダンパの減衰力を制御するコントローラとを備えている。
【0010】
このように構成されたサスペンション装置によれば、減衰力可変ダンパが伸長側或いは収縮側の減衰力のみの調整が可能であるので、減衰力可変ダンパが簡素化されて安価となるとともに、コントローラは車両がもともと収集する情報を利用して減衰力可変ダンパの減衰力を調整するので、サスペンション装置が独自にセンサ類を保有する必要がない。
【0011】
また、サスペンション装置における減衰力可変ダンパは、伸長側の減衰力の調整のみが可能であって、車体と車体の後方側の左右輪列の車輪との間に介装されてもよい。このように構成されたサスペンション装置によれば、減衰力可変ダンパの伸長側の減衰力をハードにできるから、車体の旋回時のロールと制動時のピッチングを抑制しつつも車体の重心を低下させて走行時の車体の姿勢を安定させ得るとともに、収縮作動時の乗心地の悪化を抑制できる。
【0012】
さらに、減衰力可変ダンパがノーマルの減衰力とノーマルよりも高いハードの減衰力との2段階に減衰力の調整が可能であってもよい。減衰力可変ダンパ2の減衰力調整バルブの構成が簡素となるので、サスペンション装置をより一層安価にできる。
【0013】
そして、サスペンション装置における減衰力可変ダンパは、シリンダと、シリンダ内に軸方向へ移動可能に挿入されるロッドと、シリンダ内に軸方向へ移動可能に挿入されるとともにロッドに連結されてシリンダ内を液体が充填される伸側室と圧側室とに区画するピストンと、ソレノイドを有してソレノイドへの通電のオンオフによって通過する液体の流れに与える抵抗を2段階に調整可能な減衰力調整バルブとを備えている。このように構成されたサスペンション装置によれば、減衰力可変ダンパ、コントローラの構成が非常に簡素となるので、より一層安価となる。
【0014】
また、減衰力可変ダンパにおけるソレノイドのそれぞれが直列に接続されており、コントローラがソレノイドへ通電する駆動回路を1つのみ有してもよい。このように構成されたサスペンション装置によれば、1つの減衰力可変ダンパに故障がある場合のフェールセーフを自動的に行える点で有利となる。
【0015】
そして、サスペンション装置は、車体と減衰力可変ダンパが介装される左右輪列以外の車輪との間の全てに介装される減衰力調整が不能なパッシブダンパを備えてもよい。このように構成されたサスペンション装置によれば、車体の姿勢の制御に必要となる左右輪列のみに減衰力可変ダンパを設置して、それ以外の左右輪列に減衰力可変ダンパよりも安価なパッシブダンパを設置しているので、サスペンション装置1をより一層安価にできる。
【0016】
さらに、サスペンション装置におけるコントローラは、車両から制動、加速、旋回の少なくとも1つを把握可能な情報に基づいて減衰力可変ダンパの減衰力を制御してもよい。このように構成されたサスペンション装置によれば、車体のピッチング、ロール或いはスクォートを抑制できる。
【発明の効果】
【0017】
以上より、本発明のサスペンション装置によれば、車体の姿勢を制御できるとともに安価にできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】車両に設置された一実施の形態におけるサスペンション装置の構成図である。
図2】減衰力可変ダンパの概略縦断面図である。
図3】パッシブダンパの概略縦断面図である。
図4】コントローラの構成の一例を示したである。
図5】コントローラにおける演算処理装置の処理手順の一例を示したフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。サスペンション装置1は、図1に示すように、車体Bと車体Bに対して左右に列をなして前後方向に前列と後列の2列に亘って配置される車輪Wfr、Wfl,Wrr,Wrlとを備えた車両Vに対して、車体Bと後列の車輪Wrr,Wrlとの間にそれぞれ介装される減衰力可変ダンパ2と、車体Bと前列の車輪Wfr,Wflとの間にそれぞれ介装されるパッシブダンパ3と、減衰力可変ダンパ2の減衰力を制御するコントローラ4とを備えて構成されている。
【0020】
以下、各部について説明する。車両Vは、本実施の形態では、車体Bの前後左右の4箇所に車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrを備えた四輪車両とされており、車体Bの左右のそれぞれに左右方向で並んだ車輪Wfl,Wfrと車輪Wrl,Wrrとがそれぞれ左右輪列を作っていて、車輪Wfl,Wfrと車輪Wrl,Wrrとでできた2つの左右輪列が車体Bに対して前後方向に配置されている。本実施の形態では、車両Vは、四輪車両であるので、前側の左右輪列の車輪Wfl,Wfrを前輪と称し、後側の左右輪列の車輪Wrl,Wrrを後輪と称する。また、前後輪の左右を別を明示する必要がある場合、必要に応じて前列左側の車輪Wflを前左輪と、前列右側の車輪Wfrを前右輪と、後列左側の車輪Wrlを後左輪と、後列右側の車輪Wrrを後右輪とそれぞれ称することとする。
【0021】
本実施の形態のサスペンション装置1では、減衰力可変ダンパ2は、車体Bに対して左右方向に一対の組となって車体Bと左右輪列をなす後列の車輪Wrl,Wrrとの間に介装される。減衰力可変ダンパ2が設けられる後列の車輪Wrl,Wrrの列以外の左右輪列である前列の車輪Wfl,Wfrと車体Bとの間にはパッシブダンパ3が介装されている。
【0022】
なお、車体Bに対して左右のそれぞれに2つの車輪を含んだ左右輪列は、1つの車両に対して3列以上設けられてもよく、減衰力可変ダンパ2は、1列以上の左右輪列の車輪と車体との間に介装され、パッシブダンパ3は、減衰力可変ダンパ2が設けられる左右輪列以外の左右輪列の車輪と車体との間に介装される。よって、減衰力可変ダンパ2は、車両Vの前側と後側の各左右輪列の全ての車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrと車体Bとの間に介装されてもよいし、車両Vの前側の左右輪列の車輪Wfl,Wfrと車体Bとの間に介装されてもよい。なお、減衰力可変ダンパ2は、車両Vの前側と後側の左右輪列の全ての車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrと車体Bとの間に介装される場合、パッシブダンパ3は車両Vには設置されない。このように減衰力可変ダンパ2は、一対の組となって車両Vに対して車体Bの左右のそれぞれに配置されて左右輪列をなす車輪と車体Bとの間に介装されるため、車両Vに対する減衰力可変ダンパ2の設置数は必ず2の倍数となる。
【0023】
車両Vは、車体Bの左右のそれぞれに配置される2つの車輪を含む左右輪列以外に車体Bの左右方向で1輪のみが配置される列を備えていてもよく、その場合には、車体Bの左右のそれぞれに配置される2つの車輪を持つ左右輪列に減衰力可変ダンパ2を設置すればよい。よって、車両Vが前列或いは後列のいずれかが1輪のみを有する3輪車である場合、車体Bの左右のそれぞれに2つの車輪を持つ左右輪列に減衰力可変ダンパ2を設ければよい。つまり、車体Bの左右のそれぞれに車輪を有する列を左右輪列として、車両Vは、車体Bと、車体Bに対して前後方向に左右輪列を1つ以上含んで複数列に亘って設けられた車輪とを有しており、減衰力可変ダンパ2は、車体Bと少なくとも1つ以上の左右輪列の車輪との間に介装されていればよい。つまり、車両Vが車体Bの左右のそれぞれに車輪を有する左右輪列を1つ以上含んで複数列に亘って設けられた車輪とを有するとは、車両Vが、前後方向に車輪の列を複数備えており、当該列のうち少なくとも1つは、車体Bの左右のそれぞれに車輪を持つ左右輪列であることを意味しており、前述のように車両Vは、3輪車であってもよいし、車体Bの前後左右に車輪を備えた4輪車であってもよいし、さらには車体Bに対して前後方向に3つ以上の左右輪列を備えた6輪以上の車輪を備えた車両であってもよい。
【0024】
また、車両Vは、エンジン回転数、車速、車輪速、操舵角、加速度、ヨーレート、スロットル開度、ブレーキのオンオフ信号等といった車両Vの各種情報を検知して計測信号を出力するセンサ類51と、センサ類51で検知した情報のやり取りやECU(Electronic Control Unit)52と図示しないECU52の制御対象との相互の通信を行うためのCAN(Controller Area Network)バス53とを備えている。このように車両Vでは、搭載したセンサ類51で検知した車両Vの情報は、ECU52を介してCANバス53上に送信され、CANバス53に接続されたECU52や前記した図外の制御対象で車両Vの情報を利用できるようになっている。
【0025】
つづいて、減衰力可変ダンパ2は、たとえば、図2に示すように、シリンダ11と、シリンダ11内に軸方向へ移動可能に挿入されるロッド12と、シリンダ11内に軸方向へ移動可能に挿入されるとともにロッド12に連結されてシリンダ11内を液体が充填される伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン13と、シリンダ11の外周を覆うとともにシリンダ11との間にリザーバRを形成する外筒14と、伸側室R1と圧側室R2とを連通する伸側減衰通路15と、伸側減衰通路15に設けた減衰力調整バルブDVと、圧側室R2と伸側室R1とを連通する圧側通路16と、圧側通路16を開閉するチェックバルブ17と、シリンダ11の端部に設けられて圧側室R2とリザーバRとを仕切るバルブケース18と、圧側室R2とリザーバRとを連通する圧側減衰通路19と、圧側減衰通路19に設けたベースバルブ20と、リザーバRと圧側室R2とを連通する吸込通路21と、吸込通路21に設けた吸込チェックバルブ22とを備えている。
【0026】
そして、減衰力可変ダンパ2は、ロッド12を車体Bに外筒14を後輪Wrl,Wrrに連結することで、車体Bと後輪Wrl,Wrrとの間の2箇所に設置される。
【0027】
図2に示すように、シリンダ11は、筒状であって、上端内周にロッド12が摺動自在に挿入されるとともにロッド12のシリンダ11に対する軸方向への移動を案内する環状のロッドガイド23が嵌合されるとともに、下端内周にバルブケース18が嵌合された状態で有底筒状の外筒14内に収容される。これらシリンダ11、ロッドガイド23およびバルブケース18は、外筒14の開口端を加締めることによって、外筒14内で固定される。
【0028】
伸側減衰通路15および圧側通路16は、ピストン13に設けられており、チェックバルブ17および減衰力調整バルブDVもピストン13に設けられている。
【0029】
減衰力調整バルブDVは、ソレノイドSolと伸側減衰通路15を開閉する弁体Vbとを備えている。より詳細には、減衰力調整バルブDVは、伸側減衰通路15を介して伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れに抵抗を与えるようになっており、伸側室R1内の圧力が圧側室R2内の圧力を上回って両者の差が開弁圧に達すると弁体Vbが伸側減衰通路15を開いて前述の液体の流れを許容しつつ当該流れに抵抗を与える。減衰力調整バルブDVは、伸側減衰通路15を介して圧側室R2から伸側室R1へ向かおうとする液体の流れに対しては閉弁して当該流れを阻止する。
【0030】
また、ソレノイドSolは、通電によって発揮する推力で弁体Vbを閉弁方向に付勢するため、ソレノイドSolへ通電すると減衰力調整バルブDVは、開弁圧を大きくて伸側減衰通路15を伸側室R1から圧側室R2へ向かって流れる液体の流れに与える抵抗を大きくする。反対に、ソレノイドSolへ通電しない状態では、減衰力調整バルブDVは、開弁圧をソレノイドSolの通電時と比較して小さくして伸側減衰通路15を伸側室R1から圧側室R2へ向かって流れる液体の流れに与える抵抗を小さくする。このように、減衰力調整バルブDVは、ソレノイドSolへの通電のオンオフによって開弁圧を大小2段階に切換できる。なお、前述した減衰力調整バルブDVは、ソレノイドSolへの通電の有無によって開弁圧を大小2段階に調整できるようになっているが、ソレノイドSolへの通電の有無によって流路面積を大小2段階に変更するバルブであってもよい。流路面積の変更によって抵抗を調整する場合には、減衰力調整バルブDVは、たとえば、伸側減衰通路15の一部を構成する孔と孔の開口面積を調整するスプールと、スプールを駆動するソレノイドとを備えて構成すればよい。
【0031】
なお、ロッド12は筒状とされており、ピストン13内に収容されるソレノイドSolへ通電するための配線24がロッド12内を通じて減衰力可変ダンパ2外へ引き出されている。車両Vに設置される複数の減衰力可変ダンパ2のソレノイドSolのそれぞれは、配線24を通じて直列に接続されてコントローラ4の駆動回路42に接続されている。
【0032】
チェックバルブ17は、圧側室R2内の圧力が伸側室R1内の圧力を上回ると開弁して圧側通路16を介して圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れのみを許容し、圧側通路16を介して伸側室R1から圧側室R2へ向かおうとする液体の流れに対しては閉弁して当該流れを阻止する。
【0033】
圧側減衰通路19および吸込通路21は、バルブケース18に設けられており、ベースバルブ20および吸込チェックバルブ22もバルブケース18に設けられている。ベースバルブ20は、圧側減衰通路19を介して圧側室R2からリザーバRへ向かう液体の流れに抵抗を与えるようになっており、圧側室R2内の圧力がリザーバR内の圧力を上回って両者の差が開弁圧に達すると開弁して前述の液体の流れを許容しつつ当該流れに抵抗を与える。ベースバルブ20は、圧側減衰通路19を介してリザーバRから圧側室R2へ向かおうとする液体の流れに対しては閉弁して当該流れを阻止する。ベースバルブ20は、圧側減衰通路19を開閉するバルブではなく、オリフィスやチョークといったバルブとされてもよい。
【0034】
吸込チェックバルブ22は、リザーバR内の圧力が圧側室R2内の圧力を上回ると開弁して吸込通路21を介してリザーバRから圧側室R2へ向かう液体の流れのみを許容し、吸込通路21を介して圧側室R2からリザーバRへ向かおうとする液体の流れに対しては閉弁して当該流れを阻止する。
【0035】
なお、減衰力可変ダンパ2に使用される液体は、作動油の他、水、水溶液等の液体を利用できる。また、減衰力可変ダンパ2が電気粘性流体や磁気粘性流体を液体として伸側室R1、圧側室R2およびリザーバR内に充填している場合、減衰力調整バルブDVは、伸側減衰通路15に電界或いは磁界を作用させるコイル等を備えていてもよく、コイルへの通電の有無によって伸側減衰通路15を流れる液体の流れに与える抵抗を大小調節するようにしてもよい。
【0036】
このように構成された減衰力可変ダンパ2は、シリンダ11に対してピストン13が図2中上方へ移動する伸長作動時には、ピストン13によって圧縮される伸側室R1内の圧力が上昇して拡大される圧側室R2内の圧力を上回り、両者の差圧が開弁圧に達すると減衰力調整バルブDVが開弁して伸側減衰通路15を通じて伸側室R1の液体が圧側室R2へ移動する。また、減衰力可変ダンパ2の伸長作動時には、ロッド12がシリンダ11内から退出するため、チェックバルブ22が開弁して、シリンダ11内から退出するロッド12の体積分の液体が吸込通路21を介してリザーバR内からシリンダ11内に供給される。よって、減衰力可変ダンパ2は、伸長作動時には、減衰力調整バルブDVによって伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れに抵抗を与えて伸側室R1内の圧力を上昇させてピストン11の上方への移動を妨げる減衰力を発生する。また、減衰力可変ダンパ2は、リザーバR内から液体をシリンダ11内に供給して、ロッド12がシリンダ11内から退出する体積を補償する。そして、減衰力調整バルブDVは、ソレノイドSolへの通電の有無によって開弁圧を大小2段階に調整できるので、減衰力可変ダンパ2は、伸長作動時であって、ソレノイドSolへ通電しない状態では、ノーマルの減衰力を発生し、ソレノイドSolへ通電した状態では、ノーマルの減衰力よりも高いハードの減衰力を発生できる。
【0037】
他方、減衰力可変ダンパ2は、シリンダ11に対してピストン13が図2下方へ移動する収縮作動時には、ピストン13によって圧縮される圧側室R2の液体はチェックバルブ17を開いて拡大される伸側室R1へ圧側通路16を通じて移動する。また、減衰力可変ダンパ2の収縮作動時には、ロッド12がシリンダ11内へ侵入するため、ベースバルブ20が開弁して、シリンダ11内へ侵入するロッド12の体積分の液体が圧側減衰通路19を介してリザーバRへ排出される。よって、減衰力可変ダンパ2は、収縮作動時には、ベースバルブ20によって圧側室R2からリザーバRへ向かう液体の流れに抵抗を与えて、シリンダ11内の圧力を上昇させてピストン11の下方への移動を妨げる減衰力を発生する。また、減衰力可変ダンパ2は、シリンダ11内から液体をリザーバRへ排出して、ロッド12がシリンダ11内へ侵入する体積を補償する。
【0038】
以上のように減衰力可変ダンパ2は、伸長作動時には、ソレノイドSolへの通電のオンオフによってノーマルの減衰力とノーマルよりも高いハードの減衰力を発生し、収縮作動時には減衰力を発生するものの減衰力の調整はできない。つまり、減衰力可変ダンパ2は、伸長側の減衰力のみの調整が可能なダンパとして構成されている。
【0039】
なお、本実施の形態の減衰力可変ダンパ2は、図2に示したところでは、シリンダ11の外周にリザーバRを形成する外筒14を備えた所謂複筒型のダンパとされているが、バルブケース18、圧側減衰通路19、ベースバルブ20、吸込通路21、吸込チェックバルブ22、外筒14およびリザーバRを廃止して、シリンダ11内にフリーピストンで圧側室R2の下方に気室を区画するとともに、圧側通路16にチェックバルブ17に変わりに液体の流れに抵抗を与える圧側減衰バルブを設けて構成される所謂単筒型のダンパとされてもよい。
【0040】
このように減衰力可変ダンパ2が単筒型のダンパとされても、減衰力調整バルブDVによって伸長作動する際に減衰力を高低2段階に調整できる。なお、減衰力可変ダンパ2が収縮側の減衰力のみを調整可能とする場合、図2に示した構成中のベースバルブ20を廃止して代わりに減衰力調整バルブDVを圧側減衰通路19に設けて、減衰力調整バルブDVを廃止して伸側減衰通路15に伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れに抵抗を与えるバルブを設ければよい。このように減衰力可変ダンパ2を構成すれば、減衰力調整バルブDVのソレノイドSolへの通電のオンオフの切換によって収縮側の減衰力のみを高低調整できる。また、減衰力可変ダンパ2を単筒型のダンパとして収縮側の減衰力のみを高低調整する場合、圧側通路15にチェックバルブ17の代わりに減衰力調整バルブDVを設けて、減衰力調整バルブDVを廃止して伸側減衰通路15に伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れに抵抗を与えるバルブを設ければよい。このように減衰力可変ダンパ2を構成すれば、減衰力調整バルブDVのソレノイドSolへの通電のオンオフの切換によって収縮側の減衰力のみを高低調整できる。なお、減衰力可変ダンパ2は、本実施の形態のサスペンション装置1では、車両Vの後輪Wrl,Wrrと車体Bとの間に介装されるので、減衰力可変ダンパ2の伸長側のノーマルの減衰力の特性と収縮側の減衰力の特性は、車両Vの各前輪Wrl,Wrrの直上の車体Bの振動抑制に適するように設定される。
【0041】
パッシブダンパ3は、減衰力調整が不能であって、外力によって伸縮作動すると伸縮を妨げる減衰力を発生するダンパである。パッシブダンパ3を構成する部品のうち、減衰力可変ダンパ2の構成部品と同じ部品については説明が重複するので減衰力可変ダンパ2の構成部品と同じ符号を付して詳しい説明を省略する。
【0042】
パッシブダンパ3は、たとえば、図3に示すように、シリンダ11と、シリンダ11内に軸方向へ移動可能に挿入されるロッド12と、シリンダ11内に軸方向へ移動可能に挿入されるとともにロッド12に連結されてシリンダ11内を液体が充填される伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン13と、シリンダ11の外周を覆うとともにシリンダ11との間にリザーバRを形成する外筒14と、伸側室R1と圧側室R2とを連通する伸側減衰通路15と、伸側減衰通路15に設けた伸側減衰バルブ25と、圧側室R2と伸側室R1とを連通する圧側通路16と、圧側通路16を開閉するチェックバルブ17と、シリンダ11の端部に設けられて圧側室R2とリザーバRとを仕切るバルブケース18と、圧側室R2とリザーバRとを連通する圧側減衰通路19と、圧側減衰通路19に設けたベースバルブ20と、リザーバRと圧側室R2とを連通する吸込通路21と、吸込通路21に設けた吸込チェックバルブ22とを備えている。パッシブダンパ3は、減衰力可変ダンパ2では伸側減衰通路15に減衰力調整バルブDVを備えていたが、伸側減衰通路15に減衰力調整バルブDVの代わりに伸側減衰バルブ25を備えている点のみが減衰力可変ダンパ2と異なっている。伸側減衰バルブ25は、伸側減衰通路15を介して伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れに抵抗を与えるようになっており、伸側室R1内の圧力が圧側室R2内の圧力を上回って両者の差が開弁圧に達すると開弁して前述の液体の流れを許容しつつ当該流れに抵抗を与える。伸側減衰バルブ25は、伸側減衰通路15を介して圧側室R2から伸側室R1へ向かおうとする液体の流れに対しては閉弁して当該流れを阻止する。伸側減衰バルブ25は、伸側減衰通路15を開閉するバルブではなく、オリフィスやチョークといったバルブとされてもよい。
【0043】
そして、パッシブダンパ3は、ロッド12を車体Bに外筒14を前輪Wfl,Wfrに連結することで、車体Bと前輪Wfl,Wfrとの間の2箇所に設置される。
【0044】
このように構成されたパッシブダンパ3は、シリンダ11に対してピストン13が図2中上方へ移動する伸長作動時には、ピストン13によって圧縮される伸側室R1内の圧力が上昇して拡大される圧側室R2内の圧力を上回り、両者の差圧が開弁圧に達すると伸側減衰バルブ25が開弁して伸側減衰通路15を通じて伸側室R1の液体が圧側室R2へ移動する。また、減衰力可変ダンパ2の伸長作動時には、ロッド12がシリンダ11内から退出するため、チェックバルブ22が開弁して、シリンダ11内から退出するロッド12の体積分の液体が吸込通路21を介してリザーバR内からシリンダ11内に供給される。よって、パッシブダンパ3は、伸長作動時には、伸側減衰バルブ25によって伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れに抵抗を与えて伸側室R1内の圧力を上昇させてピストン11の上方への移動を妨げる減衰力を発生する。また、パッシブダンパ3は、リザーバR内から液体をシリンダ11内に供給して、ロッド12がシリンダ11内から退出する体積を補償する。
【0045】
他方、パッシブダンパ3は、シリンダ11に対してピストン13が図2下方へ移動する収縮作動時には、ピストン13によって圧縮される圧側室R2の液体はチェックバルブ17を開いて拡大される伸側室R1へ圧側通路16を通じて移動する。また、減衰力可変ダンパ2の収縮作動時には、ロッド12がシリンダ11内へ侵入するため、ベースバルブ20が開弁して、シリンダ11内へ侵入するロッド12の体積分の液体が圧側減衰通路19を介してリザーバRへ排出される。よって、減衰力可変ダンパ2は、収縮作動時には、ベースバルブ20によって圧側室R2からリザーバRへ向かう液体の流れに抵抗を与えて、シリンダ11内の圧力を上昇させてピストン11の下方への移動を妨げる減衰力を発生する。また、減衰力可変ダンパ2は、シリンダ11内から液体をリザーバRへ排出して、ロッド12がシリンダ11内へ侵入する体積を補償する。
【0046】
以上のようにパッシブダンパ3は、伸長作動時には、伸側減衰バルブ25によって減衰力を発生し、収縮作動時にはベースバルブ20によって減衰力を発生するものの、伸縮時に発生する減衰力の調整はできない。つまり、パッシブダンパ3は、減衰力の調整が不能なダンパとして構成されている。なお、パッシブダンパ3は、本実施の形態のサスペンション装置1では、車両Vの前輪Wfl,Wfrと車体Bとの間に介装されるので、パッシブダンパ3の伸長側と収縮側の減衰力特性は、車両Vの各前輪Wfl,Wfrの直上の車体Bの振動抑制に適するように設定される。
【0047】
なお、本実施の形態のパッシブダンパ3は、図3に示したところでは、シリンダ11の外周にリザーバRを形成する外筒14を備えた所謂複筒型のダンパとされているが、バルブケース18、圧側減衰通路19、ベースバルブ20、吸込通路21、吸込チェックバルブ22、外筒14およびリザーバRを廃止して、シリンダ11内にフリーピストンで圧側室R2の下方に気室を区画するとともに、圧側通路16にチェックバルブ17に変わりに液体の流れに抵抗を与える圧側減衰バルブを設けて構成される所謂単筒型のダンパとされてもよい。
【0048】
以上のように、減衰力可変ダンパ2は、伸長側の減衰力のみをノーマルの減衰力とノーマルよりも高いハードの減衰力とに調整が可能であって、車両Vの前後2列の左右輪列のうち、車体Bと後側の左右輪列における車輪Wrl,Wrrとの間に対をなして1本ずつ介装されている。他方のパッシブダンパ3は、伸縮両側の減衰力の調整は不能であって、車両Vの前後2列の左右輪列のうち、車体Bと前側の左右輪列における車輪Wfl,Wfrとの間に対をなして1本ずつ介装されている。
【0049】
減衰力可変ダンパ2およびパッシブダンパ3は、車両Vの走行中に路面入力で車体Bに対して車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrが相対変位すると伸縮して前記相対変位を抑制する減衰力を発生する。減衰力可変ダンパ2の伸長側の減衰力がノーマルからハードに切換えられると、減衰力可変ダンパ2は伸長作動時にノーマルより高いハードの減衰力を発生するため、減衰力可変ダンパ2が伸長作動時にノーマルの減衰力を発生している場合に比較して車体Bが浮き上がりにくくなる。
【0050】
車両Vの走行中に車両Vの搭乗者がブレーキペダルを踏んで車両Vが制動状態になると、車体Bの前側が沈み込むとともに車体Bの後側が浮き上がるピッチングが生じるが、制動時に減衰力可変ダンパ2の伸長側の減衰力をハードに切り換えると、車体Bの後側の浮き上がりが抑制されるので、車体Bのピッチングが抑制されて車体Bの重心位置が低下して制動距離が短くなる。
【0051】
また、車両Vが旋回する場合、車体Bに作用する遠心力によって車体Bが前後方向を軸として旋回中心の反対側へ傾くロールが生じる。車体Bが左右のいずれかに傾くロールを呈する場合、後列の左右輪列の左側の車輪Wrl或いは右側の車輪Wrrのいずれかが必ず伸長作動を呈する。よって、車両Vの旋回時に減衰力可変ダンパ2の伸長側の減衰力をハードに切り換えると、左右輪列に対をなして配置されている減衰力可変ダンパ2のうち伸長作動を呈する減衰力可変ダンパ2が高いハードの減衰力を発生するので、減衰力可変ダンパ2が伸長作動時にノーマルの減衰力を発生する場合に比較して、車体Bのロール量が小さくなる。よって、車両Vの旋回時に減衰力可変ダンパ2の伸長側の減衰力をハードに切り換えると、車体Bのロールを低減でき、旋回内側後輪の接地荷重変動が抑制されて車両Vの旋回時のアンダーステアを低減できる。
【0052】
つづいて、コントローラ4は、図4に示すように、減衰力可変ダンパ2の伸長作動時の減衰力をノーマルとするかハードとするかを判断してソレノイドSolへの通電の可否を判断する処理を行う演算処理装置41と、演算処理装置41からの指令によって減衰力可変ダンパ2のソレノイドSolへ電流供給を行う駆動回路42と、車両Vに搭載されたCANバス53を通じて車両Vに設置されたセンサ類51から情報を取得するためのインターフェース回路43とを備えている。
【0053】
演算処理装置41は、本実施の形態では、インターフェース回路43を通じて車両Vが収集してCANバス53上に送信された情報を取り込んで減衰力可変ダンパ2の伸長側の減衰力をノーマルとするかハードとするかを判断する。演算処理装置41は、たとえば、図示はしないが、演算処理部と、演算処理部の処理に必要なプログラムを記憶するとともに演算処理部の処理に必要な記憶領域を提供するROM(Read Only Memory)やRAM(Ramdom Access Memory)といった記憶部とを備えており、車両Vの情報としてブレーキのオンオフ信号と操舵角とを取り込んで減衰力可変ダンパ2の伸長側の減衰力をノーマルとするかハードとするかを判断する。
【0054】
具体的には、演算処理装置41は、図5に示すように、ブレーキのオンオフ信号を取り込んで(ステップS1)、当該オンオフ信号がブレーキのオンを示しているか否かを判断する(ステップS2)。オンオフ信号がブレーキのオンを示している場合、演算処理装置41は、車両Vが制動中であるから減衰力可変ダンパ2の伸長側の減衰力をハードに設定すべきと判断する(ステップS3)。また、演算処理装置41は、操舵角を取り込んで(ステップS1)、当該操舵角が所定の操舵角閾値以上であるか否かを判断する(ステップS4)。操舵角が舵角閾値以上である場合、演算処理装置41は、車両Vが旋回中であるから減衰力可変ダンパ2の伸長側の減衰力をハードに設定すべきと判断する(ステップS3)。演算処理装置41の以上のステップS2,S4の判断は、並列的であり、ブレーキのオンオフ信号がブレーキのオンであること、或いは、操舵角が操舵角閾値以上であることのいずれかの一方の条件が満たされると、演算処理装置41は、減衰力可変ダンパ2の伸長側の減衰力をハードに設定すべきと判断する。
【0055】
そして、演算処理装置41は、減衰力可変ダンパ2の伸長側の減衰力をハードに設定すべきと判断すると、駆動回路42に対して各ソレノイドSolへ通電するよう指令を与える(ステップS5)。駆動回路42は、指令を受けて各ソレノイドSolへ通電してソレノイドSolを駆動する。よって、減衰力可変ダンパ2は、伸長側の減衰力をハードにした状態で伸縮に応じて減衰力を発生する。
【0056】
演算処理装置41は、当該信号がブレーキのオンを示しておらず、操舵角が操舵角閾値未満である場合には、減衰力可変ダンパ2の伸長側の減衰力をノーマルに設定すべきと判断する(ステップS6)。減衰力可変ダンパ2の伸長側の減衰力をノーマルに設定すべきと判断した場合、演算処理装置41は、駆動回路42に指令を与えず、駆動回路42は各ソレノイドSolへ通電を行わない。よって、減衰力可変ダンパ2は、伸長側の減衰力をノーマルにした状態で伸縮に応じて減衰力を発生する。演算処理装置41は、所定の演算周期で前述した手順の処理を繰り返し行って、減衰力可変ダンパ2を制御する。
【0057】
このようにコントローラ4は、車両Vの制動時と旋回時に、減衰力可変ダンパ2の伸長側の減衰力をハードに切り換えるので、サスペンション装置1は、車体Bのピッチングとロールとを抑制できる。なお、コントローラ4は、車両Vが制動状態であることを把握できる情報として車体Bの前後方向の加速度を取得して車体Bの前方向きの加速度が所定の加速度閾値以上である場合に減衰力可変ダンパ2の減衰力をハードに切り換えてもよい。また、コントローラ4は、車両Vが旋回状態であることを把握できる情報として車体Bのヨーレートを取得して車体Bのヨーレートの絶対値が所定のヨーレート閾値以上である場合に減衰力可変ダンパ2の減衰力をハードに切り換えてもよいし、操舵角速度を取得して操舵角速度の絶対値が閾値以上である場合に減衰力可変ダンパ2の減衰力をハードに切り換えてもよい。さらに、コントローラ4は、車両Vの運転者が緊急回避操作に行う際に出力されるブレーキ、操舵角、操舵角速度等の信号の特徴から緊急回避操作が行われていることを認識して減衰力可変ダンパ2の減衰力をハードに切り換えてもよい。
【0058】
なお、減衰力可変ダンパ2を車体Bと前輪Wfl,Wfrとの間にそれぞれ介装し、パッシブダンパ3を車体Bと後輪Wrl,Wrrとの間にそれぞれ介装する場合、車体Bがロールする際に、前列の左右輪列の左側の車輪Wfl或いは右側の車輪Wfrのいずれかが必ず伸長作動を呈する。よって、車両Vの旋回時に減衰力可変ダンパ2の伸長側の減衰力をハードに切り換えると、左右輪列に対をなして配置されている減衰力可変ダンパ2のうち伸長作動を呈する減衰力可変ダンパ2が高いハードの減衰力を発生するので、減衰力可変ダンパ2が伸長作動時にノーマルの減衰力を発生する場合に比較して、車体Bのロール量が小さくなる。よって、車両Vの旋回時に減衰力可変ダンパ2の伸長側の減衰力をハードに切り換えると、車体Bのロールを低減できる。また、この場合、減衰力可変ダンパ2の伸長側の減衰力をハードに切り換えると、車体Bの前側が浮き上がって後側が沈み込むのを抑制できるから、車両Vの加速時にスクォートを抑制できる。スクォートを抑制するために、コントローラ4は、車両Vから車両Vが加速していることを把握できる情報を取得して減衰力可変ダンパ2の減衰力をハードに切り換えればよい。コントローラ4は、車両Vが加速していることを把握できる情報を車両Vから得ればよいので、たとえば、CANバス53を通じてスロットル開度や車体Bの前後方向加速度を取得すればよい。コントローラ4は、スロットル開度が所定のスロットル開度閾値以上になると、減衰力可変ダンパ2の減衰力をハードに切り換えてもよいし、車体Bの後方側への加速度が所定の加速度閾値以上になると減衰力可変ダンパ2の減衰力をハードに切り換えてもよい。
【0059】
減衰力可変ダンパ2を車体Bと前列の車輪Wfl,Wfrとの間にそれぞれ介装し、パッシブダンパ3を車体Bと後列の車輪Wrl,Wrrとの間にそれぞれ介装する場合であって、制動時の車体Bのピッチングとを抑制したい場合、減衰力可変ダンパ2の収縮側の減衰力をノーマルとハードの2段階に調節できるようにすればよい。なお、車体Bがロールする場合に同一の左右輪列中の左輪Wfl或いは右輪Wfrのいずれか一方は必ず収縮作動を呈する。よって、減衰力可変ダンパ2が収縮側の減衰力をハードへ切り換え可能である場合、減衰力可変ダンパ2の減衰力をハードに切り換えれば、減衰力可変ダンパ2が収縮側でノーマルの減衰力を発生する場合に比較して、車体Bのロール量を小さくできる。
【0060】
また、減衰力可変ダンパ2が収縮側の減衰力をハードへ切り換え可能である場合、減衰力可変ダンパ2を車体Bと後列の車輪Wrl,Wrrとの間にそれぞれ介装し、パッシブダンパ3を車体Bと前列の車輪Wfl,Wfrとの間にそれぞれ介装すると、減衰力可変ダンパ2の収縮側の減衰力をハードに切り換えた場合、車体Bの旋回時のロールに加えて、車体Bの加速時のスクォートを抑制できる。
【0061】
このように、減衰力可変ダンパ2は、伸長側のみの減衰力をノーマルとハードの2段階に切り換え可能とされるだけでなく、収縮側のみの減衰力をノーマルとハードの2段階に切り換え可能とされてもよい。そして、車体Bのピッチングを抑制したい場合とスクォートを抑制したい場合に応じて、減衰力可変ダンパ2を車体Bの前側の左右輪列と後側の左右輪列のいずれかを選択して車両Vに設置すればよい。
【0062】
なお、車両Vのサスペンションに使用されるダンパにあっては、一般的に、収縮側の減衰力よりも伸長側の減衰力の方が高く設定されており、車体Bが車輪から離間する際により高い減衰力を発生する。このようにダンパの伸長側と収縮側の減衰力の特性を設定すると、車体Bが振動を繰り返すと重心が低下傾向になり走行時の車体の姿勢が安定するとともに、収縮側の減衰力がハードにならないので突き上げ入力によって車両Vにおける乗心地が悪化するのを防止できる。よって、減衰力可変ダンパ2の伸長側の減衰力のみがノーマルとハードに切り換え可能である場合には、減衰力可変ダンパ2の収縮側の減衰力のみをノーマルとハードに切り換え可能とする場合に比較して、ハードの減衰力をより高くできるので、車体Bのロールと、車体Bのピッチング或いはスクォートの抑制効果が高くなり、乗心地の悪化を抑制できる。
【0063】
また、減衰力可変ダンパ2は、車両Vにおける全部の左右輪列に介装されてもよい。よって、本実施の形態では、車両Vは、4輪自動車であるので、車体Bと前列と後列の左右輪列の車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの全てとの間に減衰力可変ダンパ2を介装してもよい。この場合、減衰力可変ダンパ2は、伸長側の減衰力を2段階に切り換え可能であっても、収縮側の減衰力を2段階に切り換え可能であっても、全ての減衰力可変ダンパ2の減衰力をハードにすれば、車体Bのロール、ピッチングおよびスクォートを抑制できる。
【0064】
さらに、サスペンション装置1が旋回時の車体Bのロールのみ、或いは、ピッチングのみ、或いは、スクォートのみを抑制したい場合には、車両Vの旋回時にのみ、制動時にのみ、或いは、加速時にのみに、減衰力可変ダンパ2の減衰力をハードに切り換えてもよい。
【0065】
以上、本実施の形態のサスペンション装置1は、車体Bと車体Bの左右のそれぞれに車輪を有する左右輪列を1つ以上含んで車体Bに対して前後方向に複数列に亘って設けられた車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrとを有する車両Vに対して、車体Bと少なくとも1つ以上の左右輪列の車輪Wrl,Wrr(Wfl,Wfr)との間に介装されるとともに、伸長側或いは収縮側の減衰力のみの調整が可能な減衰力可変ダンパ2と、車両Vが収集して車両Vから得た情報に基づいて減衰力可変ダンパ2の減衰力を制御するコントローラ4とを備えている。
【0066】
このように構成されたサスペンション装置1では、減衰力可変ダンパ2が伸長側或いは収縮側の減衰力のみの調整が可能であるので、減衰力可変ダンパ2が簡素化されて安価となるとともに、コントローラ4は車両Vがもともと収集する情報を利用して減衰力可変ダンパ2の減衰力を調整するので、サスペンション装置1が独自にセンサ類を保有する必要がない。よって、本実施の形態のサスペンション装置1によれば、独自のセンサ類が不要で、減衰力調整には構造が簡素な減衰力可変ダンパ2のみを利用するので、減衰力可変ダンパ2の減衰力調整によって車体Bの姿勢を制御して車体Bのロール、ピッチング或いはスクォートを抑制できるもののシステム全体を安価にできる。
【0067】
また、本実施の形態のサスペンション装置1におけるコントローラ4は、車両Vが収集して車両Vから得た情報に基づいて減衰力可変ダンパ2の減衰力を制御する。よって、搭乗者の操作以外にも衝突回避制御や運転支援制御を行う車両Vにサスペンション装置1が搭載される場合には、サスペンション装置1は、搭乗者の車両Vの運転操作に先んじて衝突回避制御や運転支援制御による制動や旋回が行われる状況において、車両Vの情報からいち早く車両Vの制動や旋回を検知して車体Bの姿勢制御をいち早く実施できる。
【0068】
なお、本実施の形態のサスペンション装置1では、減衰力可変ダンパ2は、前述したところでは、伸長側或いは収縮側の減衰力をノーマルとノーマルより高いハードとの2段階に調整できるように構成されているが、伸長側或いは収縮側の減衰力を多段階或いは無段階に高低調整可能であってもよい。ただし、減衰力可変ダンパ2がノーマルの減衰力とノーマルよりも高いハードの減衰力との2段階に減衰力の調整が可能である場合には、減衰力可変ダンパ2の減衰力調整バルブDVの構成が簡素となるので、サスペンション装置1をより一層安価にできる。また、コントローラ4は、車両Vの制動時に、CANバス53を通じて得た車速に応じたオンデューティ比で駆動回路42からソレノイドSolへ電流供給してもよい。また、コントローラ4は、車両Vの制動時に、CANバス53を通じてブレーキ圧に応じたオンデューティ比で駆動回路42からソレノイドSolへ電流供給してもよい。さらに、コントローラ4は、車両Vの旋回時に、操舵角を微分して得た操舵角速度に応じたオンデューティ比で駆動回路42からソレノイドSolへ電流供給してもよい。このようにすると、減衰力をノーマルとハードとの2段階に切り換え可能な減衰力可変ダンパ2を利用しても、前記オンデューティ比の変更によって、減衰力をノーマルとハードとの間で任意に高低調整できる。
【0069】
また、本実施の形態のサスペンション装置1では、減衰力可変ダンパ2は、伸長側の減衰力の調整のみが可能であって、車体Bと車体Bの後方側の左右輪列の車輪Wrl,Wrrとの間に介装されている。このように構成されたサスペンション装置1によれば、減衰力可変ダンパ2の伸長側の減衰力をハードにできるから、車体Bの旋回時のロールと制動時のピッチングを抑制しつつも車体Bの重心を低下させて走行時の車体の姿勢を安定させ得るとともに、収縮作動時の乗心地の悪化を抑制できる。
【0070】
さらに、本実施の形態のサスペンション装置1における減衰力可変ダンパ2は、シリンダ11と、シリンダ11内に軸方向へ移動可能に挿入されるロッド12と、シリンダ11内に軸方向へ移動可能に挿入されるとともにロッド12に連結されてシリンダ11内を液体が充填される伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン13と、ソレノイドSolを有してソレノイドSolへの通電のオンオフによって通過する液体の流れに与える抵抗を2段階に調整可能な減衰力調整バルブDVとを備えている。このように構成されたサスペンション装置1によれば、ソレノイドSolへの通電のオンオフによって簡単に減衰力可変ダンパ2の減衰力をノーマルとハードの2段階に切り換えでき、通電制御が容易となるとともに減衰力可変ダンパ2の構成が非常に簡素となる。また、ソレノイドSolへの通電のオンオフによって減衰力可変ダンパ2の減衰力をノーマルとハードとに切り換えできるので、コントローラ4における駆動回路構成を非常に簡素にできる。さらに、コントローラ4は、減衰力可変ダンパ2の減衰力をノーマルとハードのいずれかに設定すればよく、複雑な演算を行う必要がないため、演算処理装置41に安価なマイクロコンピュータを利用できる。このように構成されたサスペンション装置1はより一層安価となる。
【0071】
なお、左輪と右輪のいずれかの減衰力可変ダンパ2のみに故障がある場合、減衰力可変ダンパ2は、車体Bと少なくとも1つ以上の左右輪列の左輪と右輪との間に対を成して設置されるので、故障していない減衰力可変ダンパ2の減衰力のみがハードに切り替わると車体Bが左右の一方のみロールとピッチング或いはスクォートしやすくなってしまい不安定となる可能性がある。ところが、本実施の形態におけるサスペンション装置1では、減衰力可変ダンパ2におけるソレノイドSolのそれぞれが直列に接続されており、コントローラ4がソレノイドSolへ通電する駆動回路42を1つのみ有している。このように構成されたサスペンション装置1によれば、車両Vに設置される減衰力可変ダンパ2の設置数がいくつでも、1つの駆動回路42で減衰力可変ダンパ2の減衰力の切り替えが可能であるとともに、複数の減衰力可変ダンパ2の内に1つのソレノイドSol或いはソレノイドSolへ通電するための配線24に故障がある場合に全ての減衰力可変ダンパ2の減衰力調整が強制的に行えなくなるため、車体Bが左右の一方のみロールとピッチング或いはスクォートしやすくなるという状況を自動的に回避できる。駆動回路42に対して各減衰力可変ダンパ2のソレノイドSolを並列に接続することもできるが、ソレノイドSolが直列に接続されていてコントローラ4がソレノイドSolへ通電する駆動回路42を1つのみ有しているサスペンション装置1によれば、前述した通り、1つの減衰力可変ダンパ2に故障がある場合のフェールセーフを自動的に行える点で有利となる。
【0072】
また、本実施の形態のサスペンション装置1は、車体Bと減衰力可変ダンパ2が介装される左右輪列以外の車輪との間の全てに介装される減衰力調整が不能なパッシブダンパ3を備えている。このように構成されたサスペンション装置1によれば、車体Bの姿勢の制御に必要となる左右輪列のみに減衰力可変ダンパ2を設置して、それ以外の左右輪列に減衰力可変ダンパ2よりも安価なパッシブダンパ3を設置しているので、サスペンション装置1をより一層安価にできる。
【0073】
そして、本実施の形態のサスペンション装置1におけるコントローラ4は、車両Vから制動、加速、旋回の少なくとも1つを把握可能な情報に基づいて減衰力可変ダンパ2の減衰力を制御している。このように構成されたサスペンション装置1によれば、車体Bのピッチング、ロール或いはスクォートを抑制できる。
【0074】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0075】
1・・・サスペンション装置、2・・・減衰力可変ダンパ、3・・・パッシブダンパ、4・・・コントローラ、11・・・シリンダ、12・・・ロッド、13・・・ピストン、42・・・駆動回路、B・・・車体、DV・・・減衰力調整バルブ、R1・・・伸側室、R2・・・圧側室、Sol・・・ソレノイド、V・・・車両、Wfl,Wfr,Wrl,Wrr・・・車輪
図1
図2
図3
図4
図5