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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069225
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】炭酸カルシウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 11/18 20060101AFI20230511BHJP
【FI】
C01F11/18 C
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180957
(22)【出願日】2021-11-05
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】598039965
【氏名又は名称】白石工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】阪口 裕允
(72)【発明者】
【氏名】江口 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】織田 徹
(72)【発明者】
【氏名】南里 泰徳
【テーマコード(参考)】
4G076
【Fターム(参考)】
4G076AA16
4G076AB06
4G076BA34
4G076BC02
4G076BD01
4G076CA01
4G076CA02
4G076CA07
4G076CA28
4G076CA29
(57)【要約】      (修正有)
【課題】炭酸カルシウムの製造場所以外に設置された燃焼炉等の排ガス中の炭酸ガスを高濃度の水酸化ナトリウム水溶液に吸収させ、高濃度の炭酸ナトリウムとして製造場所へ運搬して利用することを可能とし、総体的に環境中への炭酸ガス放出量を抑制し、地球温暖化の改善に寄与する、炭酸カルシウムの製造方法を提供する。
【解決手段】13-21%の濃度の水酸化ナトリウム水溶液に炭酸ガスを吸収させ、15-24%以下の濃度の炭酸ナトリウム水溶液を得る炭酸ガス吸収工程と、酸化カルシウムと、濃度が0-6%未満の水酸化ナトリウム水溶液とを反応させて、BET比表面積が5-40m/gの水酸化カルシウムの懸濁液である石灰乳を得る水化工程と、該石灰乳に、該炭酸ガス吸収工程で得た該炭酸ナトリウム水溶液を添加して反応させる炭酸化工程とを含む、炭酸カルシウムの製造方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
13-21%の濃度の水酸化ナトリウム水溶液に炭酸ガスを吸収させ、15-24%以下の濃度の炭酸ナトリウム水溶液を得る炭酸ガス吸収工程と、
酸化カルシウムと、濃度が0-6%未満の水酸化ナトリウム水溶液とを反応させて、BET比表面積が5-40m/gの水酸化カルシウムの懸濁液である石灰乳を得る水化工程と、
該石灰乳に、該炭酸ガス吸収工程で得た該炭酸ナトリウム水溶液を添加して反応させる、炭酸化工程と、
を含む、炭酸カルシウムの製造方法であって、
該炭酸化工程にて、該石灰乳の初期濃度を11-19%、該炭酸ナトリウム水溶液の濃度を15-24%とし、20-40℃の範囲で反応させ、BET比表面積が4-20m/gの紡錘状カルサイト結晶形炭酸カルシウムを得ることを特徴とする、前記製造方法。
【請求項2】
該炭酸ガス吸収工程において利用されなかった炭酸ガスを、再度該炭酸ガス吸収工程に使用する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
該炭酸化工程の後に、水酸化ナトリウムを含む濾液と炭酸カルシウムとに分離する、固液分離工程と、
該固液分離工程で得られた炭酸カルシウムを洗浄液で洗浄する、洗浄工程と、
をさらに含む、請求項1または2のいずれかに記載の製造方法。
【請求項4】
該固液分離工程で得られた該濾液および該洗浄工程で得られた使用済み洗浄液に、高濃度の水酸化ナトリウム水溶液を添加するか、もしくは、該濾液および該使用済み洗浄液を加熱することにより濃縮し、水酸化ナトリウムを13-21%の濃度で含む水溶液を得、該水溶液を該炭酸ガス吸収工程に利用する、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
該固液分離工程で得られた該濾液および該洗浄工程で得られた該使用済み洗浄液を、水酸化ナトリウムの濃度が6%未満となるように調整した水溶液を得、該水溶液を該水化工程に利用する、請求項3または4に記載の製造方法。
【請求項6】
以下の工程:
13-21%の濃度の水酸化ナトリウム水溶液に炭酸ガスを吸収させ、15-24%以下の濃度の炭酸ナトリウム水溶液を得る炭酸ガス吸収工程と、
酸化カルシウムと、濃度が0-6%未満の水酸化ナトリウム水溶液とを反応させて、BET比表面積が5-40m/gの水酸化カルシウムの懸濁液である石灰乳を得る水化工程と、
該石灰乳に、該炭酸ガス吸収工程で得た該炭酸ナトリウム水溶液を添加して反応させる、炭酸化工程と、
を含む、炭酸カルシウムの製造方法であって、
該炭酸化工程にて、該石灰乳の初期濃度を11-24%、該炭酸ナトリウム水溶液の濃度を15-24%とし、40-80℃の範囲で反応させ、BET比表面積が3-10m/gの針状アラゴナイト結晶形炭酸カルシウムを得ることを特徴とする、前記製造方法。
【請求項7】
該炭酸ガス吸収工程において利用されなかった炭酸ガスを、再度該炭酸ガス吸収工程に使用する、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
該炭酸化工程の後に、水酸化ナトリウムを含む濾液と炭酸カルシウムとに分離する、固液分離工程と、
該固液分離工程で得られた炭酸カルシウムを洗浄液で洗浄する、洗浄工程と、
をさらに含む、請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項9】
該固液分離工程で得られた該濾液および該洗浄工程で得られた使用済み洗浄液に、高濃度の水酸化ナトリウム水溶液を添加するか、もしくは、該濾液および該使用済み洗浄液を加熱することにより濃縮し、水酸化ナトリウムを13-21%の濃度で含む水溶液を得、該水溶液を該炭酸ガス吸収工程に利用する、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
該固液分離工程で得られた該濾液および該洗浄工程で得られた該使用済み洗浄液を、水酸化ナトリウムの濃度が6%未満となるように調整した水溶液を得、該水溶液を該水化工程に利用する、請求項8または9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼炉等の煙道排ガスを利用して炭酸カルシウムを合成する方法に関する。特に、本発明は、紡錘状または針状の炭酸カルシウムを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的な炭酸カルシウムの合成方法として、石灰乳中に炭酸ガスを吹き込み炭酸化させる炭酸ガス化合法が知られている。炭酸ガス化合法にて使用する炭酸ガスとしては、炭酸カルシウム製造プラントに近接して設置されている石灰焼成炉の煙道排ガスが利用されることが多い。このほか、炭酸ガスの供給源として、ボイラーやごみ焼却炉等の排ガスも利用することもできる。しかしながら、この場合、炭酸カルシウム製造プラントを焼成炉の近くに設置することができないことがあり、炭酸ガスの供給源となる施設から炭酸カルシウム製造プラントまで通じる煙道排ガス配管を敷設する必要が生じる。煙道排ガスを利用する場合も、炭酸ガスの供給量が一定ではない煙道排ガスの炭酸ガス濃度は通常均一ではなく、炭酸化を効率よく行うことができないという問題があった。さらに煙道排ガスの温度制御ができないため、生成する炭酸カルシウムの性状が煙道排ガス温度の影響を受けやすく、所望の形状の炭酸カルシウムを製造することができない、という問題もあった。一方、炭酸ガス化合法による炭酸カルシウムの合成反応では、炭酸ガスが一旦水に溶解する必要があるため、反応時間が長く、反応効率も高くない。炭酸ガスの吸収効率を高めるために低温で反応させることが多く、高温での反応には適していない。炭酸ガスのすべてが反応に使用されることはなく、使われなかった炭酸ガスは大気中に放出されるという問題もあった。
【0003】
特許文献1には、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)水溶液に炭酸ガスを吸収させて炭酸ソーダ(炭酸ナトリウム)とし、炭酸ソーダと石灰乳(水酸化カルシウム水懸濁液)とを反応させて炭酸カルシウムを製造する方法が開示されている。特許文献1の方法では、炭酸ガス濃度が不均一であっても苛性ソーダ水溶液への吸収が可能であり、炭酸ガスを貯蔵しておくことができる。そのため、炭酸ガス発生場所から離れた場所に炭酸カルシウム製造プラントを設置することが可能となる。炭酸ソーダの水への溶解度は炭酸ガスのそれよりも遥かに高く、またその溶解度は高温下でも低下しないため、高温かつ高濃度の条件下での炭酸カルシウムの製造が可能になる。先に説明した炭酸ガス化合法で反応に使われなかった炭酸ガスを苛性ソーダ水溶液にて回収できれば、大気に放出される炭酸ガスの量の削減も期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-293537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の製造方法では、低濃度の苛性ソーダに炭酸ガスを吸収させると炭酸ガスの吸収効率が低下するため、炭酸ガスを最大限に利用することができない。この場合、得られる炭酸ソーダの濃度も低くなるため、得られる炭酸カルシウムの生産性、製造効率も低下する。また特許文献1の製造方法で得られる炭酸カルシウムの粒子の大きさや結晶形、形状は不明確である。そこで本発明は、場合によっては排ガス等を利用し、カルサイト、アラゴナイト形態に制御された炭酸カルシウムを効率的に連続して製造することを第一の目的とする。
さらに本発明は、炭酸ガス吸収工程時に利用されなかった炭酸ガスを再度炭酸化工程に再使用すること、ならびに、炭酸カルシウムの製造工程で得られた濾液や使用済み洗浄液に含まれている水酸化ナトリウムを、炭酸ガス吸収工程や水化工程に再循環してこれを再使用することを第二の目的とする。
すなわち、本発明は、炭酸カルシウムの製造場所以外に設置された燃焼炉等の排ガス中の炭酸ガスを高濃度の水酸化ナトリウム水溶液に吸収させ、高濃度の炭酸ナトリウムとして製造場所へ運搬して利用することを可能とし、さらに本発明を実施することで、総体的に環境中への炭酸ガス放出量を抑制し、地球温暖化の改善に寄与することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の工程:13-21%の濃度の水酸化ナトリウム水溶液に炭酸ガスを吸収させ、15-24%以下の濃度の炭酸ナトリウム水溶液を得る炭酸ガス吸収工程と、
酸化カルシウムと、濃度が0-6%未満の水酸化ナトリウム水溶液とを反応させて、BET比表面積が5-40m/gの水酸化カルシウムの懸濁液である石灰乳を得る水化工程と、
該石灰乳に、該炭酸ガス吸収工程で得た該炭酸ナトリウム水溶液を添加して反応させる、炭酸化工程と、
を含む、炭酸カルシウムの製造方法に係る。
炭酸カルシウムの製造方法においては、該炭酸化工程にて、該石灰乳の初期濃度を11-19%、該炭酸ナトリウム水溶液の濃度を15-24%とし、20-40℃の範囲で反応させ、BET比表面積が4-20m/gの紡錘状カルサイト結晶形炭酸カルシウムを得ることを特徴とする。
【0007】
ここで、該炭酸ガス吸収工程において利用されなかった炭酸ガスを、再度該炭酸化工程に使用することができる。
【0008】
該炭酸化工程の後に、水酸化ナトリウムを含む濾液と炭酸カルシウムとに分離する、固液分離工程と、
該固液分離工程で得られた炭酸カルシウムを洗浄液で洗浄する、洗浄工程と、
をさらに含むことができる。
【0009】
また、該固液分離工程で得られた該濾液および該洗浄工程で得られた使用済み洗浄液に、高濃度の水酸化ナトリウム水溶液を添加するか、もしくは、該濾液および該使用済み洗浄液を加熱することにより濃縮し、水酸化ナトリウムを13-21%の濃度で含む水溶液を得、該水溶液を該炭酸化工程に利用することができる。
【0010】
該固液分離工程で得られた該濾液および該洗浄工程で得られた該使用済み洗浄液を、水酸化ナトリウムの濃度が6%未満となるように調整した水溶液を得、該水溶液を該水化工程に利用することも好ましい。
【0011】
さらに本発明は、以下の工程:
13-21%の濃度の水酸化ナトリウム水溶液に炭酸ガスを吸収させ、15-24%以下の濃度の炭酸ナトリウム水溶液を得る炭酸ガス吸収工程と、
酸化カルシウムと、濃度が0-6%未満の水酸化ナトリウム水溶液とを反応させて、BET比表面積が5-40m/gの水酸化カルシウムの懸濁液である石灰乳を得る水化工程と、
該石灰乳に、該炭酸ガス吸収工程で得た該炭酸ナトリウム水溶液を添加して反応させる、炭酸化工程と、
を含む、炭酸カルシウムの製造方法に係る。
炭酸カルシウムの製造方法においては、該炭酸化工程にて、該石灰乳の初期濃度を11-24%、該炭酸ナトリウム水溶液の濃度を15-24%とし、40-80℃の範囲で反応させ、BET比表面積が3-10m/gの針状アラゴナイト結晶形炭酸カルシウムを得ることを特徴とする。
【0012】
ここで、該炭酸ガス吸収工程において利用されなかった炭酸ガスを、再度該炭酸ガス吸収工程に使用することができる。
【0013】
該炭酸化工程の後に、水酸化ナトリウムを含む濾液と炭酸カルシウムとに分離する、固液分離工程と、
該固液分離工程で得られた炭酸カルシウムを洗浄液で洗浄する、洗浄工程と、
をさらに含むことができる。
【0014】
また、該固液分離工程で得られた該濾液および該洗浄工程で得られた使用済み洗浄液に、高濃度の水酸化ナトリウム水溶液を添加するか、もしくは、該濾液および該使用済み洗浄液を加熱することにより濃縮し、水酸化ナトリウムを13-21%の濃度で含む水溶液を得、該水溶液を該炭酸ガス吸収工程に利用することができる。
【0015】
該固液分離工程で得られた該濾液および該洗浄工程で得られた該使用済み洗浄液を、水酸化ナトリウムの濃度が6%未満となるように調整した水溶液を得、該水溶液を該水化工程に利用することも好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来の方法に比べて工程中の炭酸ナトリウム水溶液および水酸化ナトリウムを高濃度に調製すること、従来法に比べて高濃度の水酸化カルシウムスラリーを使用することにより、効率よく所望の粒子形状の炭酸カルシウムを連続して得ることができる。また煙道排ガスおよび工程中の未反応の炭酸ガスを工程に戻して利用すること、および上記の反応液の高濃度化により、製造時に発生する炭酸ガスおよび水酸化ナトリウムを含むアルカリ性廃液放出量を抑制でき、環境への負荷を少なくすることができる。加えて、製造場所以外に設置された燃焼炉等の排ガス中の炭酸ガスを利用することも可能となるため、従来は環境中に放出されていた炭酸ガスの固定法としても有用である。
本発明の製造方法では、所望の粒子径の炭酸カルシウムを得ることができる。抄紙、塗工顔料、プラスチック、シーラント、ゴム、食品等の各用途に適した炭酸カルシウムを、連続的に、制御して製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の製造方法を説明するフロー図である。
図2図2は、実施例1で得られた、紡錘状の炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率:20000倍)である。
図3図3は、実施例2で得られた、針状形状の炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率:10000倍)である。
図4図4は、実施例3で得られた、針状形状の炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率:10000倍)である。
図5図5は、実施例4で得られた、針状形状の炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率:10000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態について、さらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態にのみ限定されるものではない。
【0019】
本発明の一の実施形態は、以下の工程:13-21%の濃度の水酸化ナトリウム水溶液に炭酸ガスを吸収させ、15-24%以下の濃度の炭酸ナトリウム水溶液を得る炭酸ガス吸収工程と;酸化カルシウムと、濃度が0-6%未満の水酸化ナトリウム水溶液とを反応させて、BET比表面積が5-40m/gの水酸化カルシウムの懸濁液である石灰乳を得る水化工程と;該石灰乳に、該炭酸ガス吸収工程で得た該炭酸ナトリウム水溶液を添加して反応させる、炭酸化工程と;
を含む、炭酸カルシウムの製造方法であって、
該炭酸化工程にて、該石灰乳の初期濃度を11-19%、該炭酸ナトリウム水溶液の濃度を15-24%とし、20-40℃の範囲で反応させ、BET比表面積が4-20m/gの紡錘状カルサイト結晶形炭酸カルシウムを得ることを特徴とする、前記製造方法である。本実施形態は、炭酸ガス吸収工程と、水化工程と、炭酸化工程とを少なくとも含む炭酸カルシウムの製造方法である。炭酸ガス吸収工程は、水酸化ナトリウム水溶液に炭酸ガス(二酸化炭素)を吸収させ、炭酸ナトリウム水溶液を得る工程である。水酸化ナトリウムは一般に苛性ソーダとも呼ばれ、市販品を適宜利用することができる。水酸化ナトリウム水溶液は、水酸化ナトリウムを水に溶解して得られるほか、製紙工程で得られる水酸化ナトリウムを含む液体(いわゆる「白液」)を用いることもできる。本工程で用いられる水酸化ナトリウム水溶液の水酸化ナトリウムの濃度は、13-21%、好ましくは15-20%とすることができる。本工程で水酸化ナトリウム水溶液の濃度を最大で21%とすることにより、炭酸ガスの吸収効率を向上させることができる。本実施形態において、水酸化ナトリウム水溶液に吸収させる炭酸ガスは、二酸化炭素単独の気体のほか、炭酸ガスと他の気体とを含む混合気体であっても良いものとする。本実施形態で使用する炭酸ガスとして、炭酸ガスを含む排ガスを利用することができる。このような排ガスとして、たとえば、石灰焼成炉、ボイラー、ごみ焼却炉、セメント焼成炉、耐火物加熱炉、製鋼用転炉、製鋼用溶鉱炉、キュポラ、コークスガス発生炉、石炭ガス発生炉、石油分解用炉、ガラス製造反射炉、オイルガス発生炉およびアセチレン発生炉からの排ガスを挙げることができる。水酸化ナトリウム水溶液に炭酸ガスを吸収させると、炭酸ナトリウムが生成する。炭酸ナトリウムの濃度が15-24%になるまで、炭酸ガスを吸収させることができる。なお、本明細書においては特に断らない限り、%は重量%のことである。
なお、炭酸ガス吸収工程において利用されなかった炭酸ガスは、そのまま大気中に放出するのではなく、炭酸化工程の水酸化ナトリウム水溶液に吸収させるように再使用することが環境保全の観点から非常に好ましい。
【0020】
実施形態において、水化工程は、酸化カルシウムと濃度が0-6%未満の水酸化ナトリウム水溶液とを反応させて石灰乳を得る工程である。ここで石灰乳とは、水酸化カルシウムの水懸濁液(水酸化カルシウム水スラリー)のことである。水化工程に用いる酸化カルシウムは、一般に生石灰とも呼ばれる、カルシウムの酸化体である。酸化カルシウムは市販のものを適宜利用することができる。本工程で酸化カルシウムと反応させる水酸化ナトリウム水溶液の濃度は、0-6%未満である。本工程で得られる水酸化カルシウムは、一般に消石灰とも呼ばれるカルシウムの水酸化物である。水化工程においては、BET比表面積が5-40m/gの水酸化カルシウムの懸濁液を得ることが好ましい。BET比表面積は、日本工業規格JIS Z 8830「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」にしたがい測定することができる。反応させる酸化カルシウムと水酸化ナトリウム水溶液の量や濃度を調整することにより、BET比表面積が5-40m/gの水酸化カルシウムを得ることができる。酸化カルシウムの量に対して水酸化ナトリウム水溶液の量を多くすると、BET比表面積の大きい水酸化カルシウムを得ることができる。反対に酸化カルシウムの量に対して水酸化ナトリウム水溶液の量を少なくすると、BET比表面積の小さい水酸化カルシウムを得ることができる。また、水化工程において、濃度の高すぎる水酸化ナトリウム水溶液を使用すると、得られる水酸化カルシウムのBET比表面積が高くなる傾向があり、所望のBET比表面積を有する水酸化カルシウムが得られない上に、石灰乳の粘度が高くなり取り扱いが困難になる。特に本工程で得られる石灰乳に含まれている水酸化カルシウムのBET比表面積を15-40m/gとすることが、以下に説明する炭酸化工程で得られる炭酸カルシウムの大部分の結晶形を紡錘状とする上で好ましい。なお、水化工程と、上記の炭酸ガス吸収工程とは、並行して同時に行うことができ、炭酸ガス吸収工程に次いで水化工程、あるいは、水化工程に次いで炭酸ガス吸収工程、のように、続けて行うことも可能である。水化工程で適切な範囲のBET比表面積を有する水酸化カルシウムを得ることは、本実施形態にて最終的に所望の形態の炭酸カルシウムを得るために重要である。
【0021】
実施形態において、炭酸化工程は、水化工程で得られた石灰乳と、炭酸ガス吸収工程で得られた炭酸ナトリウム水溶液とを反応させて、炭酸カルシウムを得る工程である。この工程は、一般に苛性化工程とも呼ばれる。この工程で、石灰乳の固形分濃度は11-23%に調整して用いることが非常に好ましい。特に石灰乳の初期濃度を11-19%、炭酸ナトリウム水溶液の濃度を15-24%として反応させることが好ましい。炭酸ナトリウム水溶液は、前記の炭酸ガス吸収工程で得られた15-24%以下の濃度の炭酸ナトリウム水溶液の濃度を適宜調整して用いる。この際、炭酸化工程をおこなう反応スケールにもよるが、石灰乳に炭酸ナトリウム水溶液を徐々に添加すること、たとえば、60-180分間、100-150分間等、ある程度の時間をかけて添加することが非常に好ましい。また、炭酸化工程の反応は、反応液を撹拌して行うのが好ましい。好ましくは、石灰乳に炭酸ナトリウム水溶液を徐々に添加してこれらが完全に混合するまでの時間(完全混合時間)が3-25秒間、あるいは5-22秒間となるように撹拌機を調整することができる。反応容器を撹拌する手段として、従来から用いられているプロペラ撹拌機、パドル翼撹拌機、リボン撹拌機、タービン翼撹拌機、馬蹄翼撹拌機、糸巻翼撹拌機、ミキサー撹拌機、磁気撹拌機等を使用することができる。
初期固形分濃度を調整した石灰乳に、炭酸ガス吸収工程で得られ、濃度を調整した炭酸ナトリウム水溶液を添加して、温度20-40℃の範囲で反応させることで、BET比表面積が4-20m/gの紡錘状カルサイト結晶形炭酸カルシウムを得ることができる。炭酸化工程の反応温度が高すぎても、低すぎても、加熱や冷却に必要なエネルギー等に必要なコストが増大するほか、所望のBET比表面積ならびに形状を有する炭酸カルシウムを得ることができなくなる。本工程の反応では、炭酸カルシウムと水酸化ナトリウムが生じ、水溶性の水酸化ナトリウムは反応液中に溶解し、水溶性の低い炭酸カルシウムは固体として析出する。
【0022】
炭酸化工程の反応により生じた炭酸カルシウムを、反応液から分離して、固体の状態で取り出す固液分離工程をさらに含んでいて良い。また固液分離工程で得られた固体の炭酸カルシウムを洗浄液で洗浄する、洗浄工程をさらに含んでいて良い。固液分離工程で得られた炭酸カルシウムは、水で洗浄することが好ましい。固液分離工程において固体の炭酸カルシウムを分離した後に残った液(濾液)と、洗浄工程で得られた使用済み洗浄液は、水酸化ナトリウム水溶液である。この水酸化ナトリウム水溶液を、上記の炭酸ガス吸収工程に再利用することができる。濾液および使用済み洗浄液を炭酸ガス吸収工程に再利用する場合は、水酸化ナトリウムの濃度が13-21%となるように調整することが好適である。水酸化ナトリウムの濃度の調整は、たとえば、高濃度の水酸化ナトリウム水溶液(13%以上の濃度を有する水酸化ナトリウム水溶液)を添加するか、固体の水酸化ナトリウムを添加するか、もしくは該濾液および使用済み洗浄液を加熱することにより濃縮することにより行う。
また固液分離工程で得られた濾液および洗浄工程で得られた使用済み洗浄液は、上記の水化工程に再利用することも可能である。濾液および使用済み洗浄液を水化工程に再利用する場合は、水酸化ナトリウムの濃度が6%未満となるように調整することが好適である。水酸化ナトリウムの濃度の調整は、たとえば、水により希釈することにより行う。
【0023】
続いて、本発明の二の実施形態は、以下の工程:13-21%の濃度の水酸化ナトリウム水溶液に炭酸ガス(二酸化炭素)を吸収させ、15-24%以下の濃度の炭酸ナトリウム水溶液を得る炭酸ガス吸収工程と;酸化カルシウムと、濃度が0-6%未満の水酸化ナトリウム水溶液とを反応させて、BET比表面積が5-40m/gの水酸化カルシウムの懸濁液である石灰乳を得る水化工程と;該石灰乳に、該炭酸ガス吸収工程で得た該炭酸ナトリウム水溶液を添加して反応させる、炭酸化工程と;を含む、炭酸カルシウムの製造方法であって、
該炭酸化工程にて、該石灰乳の初期濃度を11-24%、該炭酸ナトリウム水溶液の濃度を15-24%とし、40-80℃の範囲で反応させ、BET比表面積が3-10m/gの針状アラゴナイト結晶形炭酸カルシウムを得ることを特徴とする、前記製造方法である。本実施形態も、一の実施形態と同様、炭酸ガス吸収工程と、水化工程と、炭酸化工程とを少なくとも含む炭酸カルシウムの製造方法である。二の実施形態の炭酸ガス吸収工程は、水酸化ナトリウム水溶液に炭酸ガスを吸収させ、炭酸ナトリウム水溶液を得る工程である。二の実施形態の炭酸ガス吸収工程は、上記の一の実施形態の炭酸ガス吸収工程と全く同様に行うことができる。
炭酸ガス吸収工程において利用されなかった炭酸ガスは、そのまま大気中に放出するのではなく、炭酸化工程の水酸化ナトリウム水溶液に吸収させるように再使用することが環境保全の観点から非常に好ましいことも、上記の一の実施形態と同様である。
【0024】
二の実施形態の水化工程は、酸化カルシウムと濃度が0-6%未満の水酸化ナトリウム水溶液とを反応させて石灰乳を得る工程である。二の実施形態の水化工程は、上記の一の実施形態の炭酸ガス吸収工程と全く同様に行うことができる。なお、二の実施形態においても、水化工程と、上記の炭酸ガス吸収工程とは、並行して同時に行うことができ、炭酸ガス吸収工程に次いで水化工程、あるいは、水化工程に次いで炭酸ガス吸収工程、のように、続けて行うことも可能である。特に本工程で得られる石灰乳に含まれている水酸化カルシウムのBET比表面積を5-20m/gとすることが、以下に説明する炭酸化工程で得られる炭酸カルシウムの大部分の結晶形を針状アラゴナイトとする上で好ましい。水化工程で適切な範囲のBET比表面積を有する水酸化カルシウムを得ることは、本実施形態にて最終的に所望の形態の炭酸カルシウムを得るために重要である。
【0025】
二の実施形態において、炭酸化工程は、水化工程で得られた石灰乳と、炭酸ガス吸収工程で得られた炭酸ナトリウム水溶液とを反応させて、炭酸カルシウムを得る工程である。この工程は、一般に苛性化工程とも呼ばれる。この工程で、石灰乳の固形分濃度は11-24%に調整して用いることが非常に好ましい。特に石灰乳の初期濃度を11-24%、炭酸ナトリウム水溶液の濃度を15-24%として反応させることが好ましい。炭酸ナトリウム水溶液は、前記の炭酸ガス吸収工程で得られた15-24%以下の濃度の炭酸ナトリウム水溶液の濃度を適宜調整して用いる。この際、炭酸化工程をおこなう反応スケールにもよるが、石灰乳に炭酸ナトリウム水溶液を徐々に添加すること、たとえば、60-180分間、100-150分間等、ある程度の時間をかけて添加することが非常に好ましい。また、炭酸化工程の反応は、反応液を撹拌して行うのが好ましい。好ましくは、石灰乳に炭酸ナトリウム水溶液を徐々に添加してこれらが完全に混合するまでの時間(完全混合時間)が3-25秒間、あるいは5-22秒間となるように撹拌機を調整することができる。反応容器を撹拌する手段として、従来から用いられているプロペラ撹拌機、パドル翼撹拌機、リボン撹拌機、タービン翼撹拌機、馬蹄翼撹拌機、糸巻翼撹拌機、ミキサー撹拌機、磁気撹拌機等を使用することができる。
初期固形分濃度を調整した石灰乳に、炭酸ガス吸収工程で得られ、濃度を調整した炭酸ナトリウム水溶液を添加して、温度40-80℃の範囲で反応させることで、BET比表面積が3-10m/gの針状アラゴナイト結晶形炭酸カルシウムを得ることができる。
炭酸化工程の反応温度が高すぎても、低すぎても、加熱や冷却に必要なエネルギー等に必要なコストが増大するほか、所望のBET比表面積ならびに形状を有する炭酸カルシウムを得ることができなくなる。また、針状アラゴナイト結晶を多く含む炭酸カルシウムを製造すべく、水酸化カルシウムのBET比表面積を上記のように調整した場合、炭酸化工程の反応温度を高くすると、アラゴナイト結晶(針状)の形状が太くなる傾向がある。本工程の反応では、炭酸カルシウムと水酸化ナトリウムが生じ、水溶性の水酸化ナトリウムは反応液中に溶解し、水溶性の低い炭酸カルシウムは固体として析出する。
【0026】
二の実施形態において、炭酸化工程の反応により生じた炭酸カルシウムを、反応液から分離して、固体の状態で取り出す固液分離工程をさらに含んでいて良い。また固液分離工程で得られた固体の炭酸カルシウムを洗浄液で洗浄する、洗浄工程をさらに含んでいて良い。固液分離工程で得られた炭酸カルシウムは、水で洗浄することが好ましい。固液分離工程において固体の炭酸カルシウムを分離した後に残った液(濾液)と、洗浄工程で得られた使用済み洗浄液は、水酸化ナトリウム水溶液である。この水酸化ナトリウム水溶液を、上記の炭酸ガス吸収工程に再利用することができる。濾液および使用済み洗浄液を炭酸ガス吸収工程に再利用する場合は、水酸化ナトリウムの濃度が13-21%となるように調整することが好適である。水酸化ナトリウムの濃度の調整は、たとえば、高濃度の水酸化ナトリウム水溶液(13%以上の濃度を有する水酸化ナトリウム水溶液)を添加するか、固体の水酸化ナトリウムを添加するか、もしくは該濾液および使用済み洗浄液を加熱することにより濃縮することにより行う。
また固液分離工程で得られた濾液および洗浄工程で得られた使用済み洗浄液は、上記の水化工程に再利用することも可能である。濾液および使用済み洗浄液を水化工程に再利用する場合は、水酸化ナトリウムの濃度が6%未満となるように調整することが好適である。水酸化ナトリウムの濃度の調整は、たとえば、水により希釈することにより行う。
【0027】
続いて図1を用いて、本発明の一および二の実施形態のフローを説明する。図1は、燃焼炉等から排出された排ガス中の炭酸ガスを利用して本発明の一および二の実施形態の炭酸カルシウムの製造方法を行うフローを示すものである。図中、1:炭酸ガス吸収工程、2:水化工程、3:炭酸化工程、4:固液分離工程、5:洗浄工程である。燃焼炉等から排出された排ガスは、適宜除塵処理を行い、炭酸ガスを含む精製ガスを得る。一方、製造用水と高濃度の水酸化ナトリウム水溶液とを適宜混合する等の方法により濃度13-21%に調整した水酸化ナトリウム水溶液を用意し、ここに精製ガスを吸収させる(炭酸ガス吸収工程1)。こうして、15-24%以下の濃度の炭酸ナトリウム水溶液を得る。炭酸ガス吸収工程1では吸収しきれなかった未反応ガスは、矢印10のように戻されて、再度炭酸ガス吸収工程1に使用される。
一方、酸化カルシウムと水化用水(0-6%未満の濃度の水酸化ナトリウム水溶液)とを用意して、これらを反応させ(水化工程2)、必要な場合は分級操作等を行い、BET比表面積が5-40m/gの水酸化カルシウムの懸濁液である精製石灰乳を得る。
こうして得た精製石灰乳に、炭酸ナトリウム水溶液を反応させる(炭酸化工程3)と、炭酸カルシウムが生成する。生成した炭酸カルシウムを濾過し(固液分離工程4)、得られた固体の炭酸カルシウムは洗浄液を用いて洗浄する(洗浄工程5)。固液分離工程4で得られた濾液ならびに洗浄工程5で得られた使用済み洗浄液は回収して、炭酸ガス吸収工程1の水酸化ナトリウム水溶液、あるいは、水化工程2の水化用水として再使用される(矢印20および30)。
【0028】
一の実施形態は、図1の炭酸化工程3にて、石灰乳の初期濃度を11-19%、炭酸ナトリウム水溶液の濃度を15-24%とし、20-40℃の範囲で反応させる。これにより、BET比表面積が4-20m/gの紡錘状カルサイト結晶形炭酸カルシウムを得ることができる。一方、二の実施形態は、図1の炭酸化工程3にて、石灰乳の初期濃度を11-24%、炭酸ナトリウム水溶液の濃度を15-24%とし、40-80℃の範囲で反応させる。これにより、BET比表面積が3-10m/gの針状アラゴナイト結晶形炭酸カルシウムを得ることができる。
【0029】
本発明の実施形態の炭酸カルシウムの製造方法によれば、比較的高い濃度の水酸化ナトリウム水溶液に炭酸ガスを効率よく吸収させることができる。この際、炭酸ガスの濃度に関わらず、所望の濃度の炭酸ナトリウム水溶液を得ることができる。また炭酸化工程では所定の初期濃度の炭酸ナトリウム水溶液と、所定の初期固形分濃度の石灰乳とを所定の温度範囲で所定の時間反応させることにより、所望の形状の炭酸カルシウムを製造することが可能となる。
【0030】
本発明の実施形態の炭酸カルシウムの製造方法は、炭酸ガスおよび水酸化ナトリウム水溶液を繰り返し再利用することができるので、環境に排出する二酸化炭素ならびに廃液が少なく、環境への負荷を低減することができる。
【実施例0031】
以下、本発明の実施例を説明する。
[実施例1]
【0032】
[実施例1]紡錘状カルサイト結晶形炭酸カルシウムの合成(1)
(1)炭酸ガス吸収工程
濃度12.9%の水酸化ナトリウム水溶液に、30体積%の炭酸ガスを含有する二酸化炭素-空気混合ガスを、水溶液のpHが11.5になるまで導入した。濃度16.0%の炭酸ナトリウム水溶液630kgを得た。
(2)水化工程
水に酸化カルシウムを混合し、水化させて水酸化カルシウムの懸濁液である石灰乳を得た。得られた水酸化カルシウムのBET比表面積を日本工業規格JIS Z 8830にしたがい測定したところ、15.9m/gであった。石灰乳の濃度を調整して、固形分濃度15.0%の石灰乳を389kg得た。
(3)炭酸化工程
水化工程で得られた389kgの石灰乳を、プロペラ撹拌機を備えた反応タンクに導入した。ここに炭酸化工程で得られた炭酸ナトリウム水溶液630kgを120分間かけて添加し、反応液を撹拌した。この時、反応タンク内での完全混合時間が21秒間となるようにプロペラ撹拌機を作動させ、反応タンク内温度は25℃となるように調整した。得られた炭酸カルシウム懸濁液を濾過し、濾過ケーキを水で洗浄した後、105℃の恒温乾燥機で1時間乾燥した。炭酸カルシウム粉体を79kg得た。得られた炭酸カルシウムを電子顕微鏡にて観察したところ紡錘状形状をしていた。図2は、実施例1で得られた炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率20000倍)である。この紡錘状カルサイト結晶形炭酸カルシウムのBET比表面積(JIS Z 8830にしたがい測定)は、5.9m/gであった。(表1、炭酸化工程反応温度25℃の行、炭酸ナトリウム水溶液濃度16%の列)
【0033】
[実施例2]針状アラゴナイト結晶形炭酸カルシウムの合成(1)
(1)炭酸ガス吸収工程
濃度12.9%の水酸化ナトリウム水溶液に、30体積%の炭酸ガスを含有する二酸化炭素-空気混合ガスを、水溶液のpHが11.5になるまで導入した。濃度16.0%の炭酸ナトリウム水溶液630kgを得た。
(2)水化工程
水に酸化カルシウムを混合し、水化させて水酸化カルシウムの懸濁液である石灰乳を得た。得られた水酸化カルシウムのBET比表面積を日本工業規格JIS Z 8830にしたがい測定したところ、15.9m/gであった。石灰乳の濃度を調整して、固形分濃度15.0%の石灰乳を389kg得た。
(3)炭酸化工程
水化工程で得られた389kgの石灰乳を、プロペラ撹拌機を備えた反応タンクに導入した。ここに炭酸化工程で得られた炭酸ナトリウム水溶液630kgを120分間かけて添加し、反応液を撹拌した。この時、反応タンク内での完全混合時間が21秒間となるようにプロペラ撹拌機を作動させ、反応タンク内温度は50℃となるように調整した。得られた炭酸カルシウム懸濁液を濾過し、濾過ケーキを水で洗浄した後、105℃の恒温乾燥機で1時間乾燥した。炭酸カルシウム粉体を79kg得た。得られた炭酸カルシウムを電子顕微鏡にて観察したところ針状形状であるアラゴナイトであった。図3は、実施例2で得られた炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率10000倍)である。この針状アラゴナイト結晶形炭酸カルシウムのBET比表面積(JIS Z 8830にしたがい測定)は、6.3m/gであった。(表1、炭酸化工程反応温度50℃の行、炭酸ナトリウム水溶液濃度16%の列)
【0034】
[実施例3]針状アラゴナイト結晶形炭酸カルシウムの合成(2)
(1)炭酸ガス吸収工程
濃度15.6%の水酸化ナトリウム水溶液に、30体積%の炭酸ガスを含有する二酸化炭素-空気混合ガスを、水溶液のpHが11.5になるまで導入した。濃度19.0%の炭酸ナトリウム水溶液666kgを得た。
(2)水化工程
水に酸化カルシウムを混合し、水化させて水酸化カルシウムの懸濁液である石灰乳を得た。得られた水酸化カルシウムのBET比表面積を日本工業規格JIS Z 8830にしたがい測定したところ、15.9m/gであった。石灰乳の濃度を調整して、固形分濃度20.0%の石灰乳を366kg得た。
(3)炭酸化工程
水化工程で得られた366kgの石灰乳を、プロペラ撹拌機を備えた反応タンクに導入した。ここに炭酸化工程で得られた炭酸ナトリウム水溶液666kgを120分間かけて添加し、反応液を撹拌した。この時、反応タンク内での完全混合時間が21秒間となるようにプロペラ撹拌機を作動させ、反応タンク内温度は50℃となるように調整した。得られた炭酸カルシウム懸濁液を濾過し、濾過ケーキを水で洗浄した後、105℃の恒温乾燥機で1時間乾燥した。炭酸カルシウム粉体を99kg得た。得られた炭酸カルシウムを電子顕微鏡にて観察したところ針状形状であるアラゴナイトであった。図4は、実施例3で得られた炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率10000倍)である。この針状アラゴナイト結晶形炭酸カルシウムのBET比表面積(JIS Z 8830にしたがい測定)は、8.5m/gであった。(表2、炭酸化工程反応温度50℃の行、炭酸ナトリウム水溶液濃度19%の列)
【0035】
[実施例4]針状アラゴナイト結晶形炭酸カルシウムの合成(3)
(1)炭酸ガス吸収工程
濃度12.9%の水酸化ナトリウム水溶液に、30体積%の炭酸ガスを含有する二酸化炭素-空気混合ガスを、水溶液のpHが11.5になるまで導入した。濃度16.0%の炭酸ナトリウム水溶液630kgを得た。
(2)水化工程
水に酸化カルシウムを混合し、水化させて水酸化カルシウムの懸濁液である石灰乳を得た。得られた水酸化カルシウムのBET比表面積を日本工業規格JIS Z 8830にしたがい測定したところ、15.9m/gであった。石灰乳の濃度を調整して、固形分濃度15.0%の石灰乳を389kg得た。
(3)炭酸化工程
水化工程で得られた389kgの石灰乳を、プロペラ撹拌機を備えた反応タンクに導入した。ここに炭酸化工程で得られた炭酸ナトリウム水溶液630kgを120分間かけて添加し、反応液を撹拌した。この時、反応タンク内での完全混合時間が21秒間となるようにプロペラ撹拌機を作動させ、反応タンク内温度は80℃となるように調整した。得られた炭酸カルシウム懸濁液を濾過し、濾過ケーキを水で洗浄した後、105℃の恒温乾燥機で1時間乾燥した。炭酸カルシウム粉体を79kg得た。得られた炭酸カルシウムを電子顕微鏡にて観察したところ針状形状であるアラゴナイトであった。図5は、実施例4で得られた炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率10000倍)である。この針状アラゴナイト結晶形炭酸カルシウムのBET比表面積(JIS Z 8830にしたがい測定)は、3.4m/gであった。(表1、炭酸化工程反応温度80℃の行、炭酸ナトリウム水溶液濃度16%の列)
【0036】
[紡錘状カルサイト結晶形炭酸カルシウムのその他の合成例]
実施例1において、濃度の異なる炭酸ナトリウム水溶液を種々調製した。実施例1の水化工程で得られた固形分濃度15.0%の石灰乳に、上記の濃度の異なる炭酸ナトリウム水溶液を徐々に添加してプロペラ撹拌機を用いて撹拌し、反応タンク内温度を20℃/25℃/40℃として、炭酸化工程を行った。各合成例の結果を以下の表1に記載する。
【0037】
[針状アラゴナイト結晶形炭酸カルシウムのその他の合成例]
実施例2において、濃度の異なる炭酸ナトリウム水溶液を種々調製した。実施例2の水化工程で得られた固形分濃度15.0%の石灰乳に、上記の濃度の異なる炭酸ナトリウム水溶液を徐々に添加してプロペラ撹拌機を用いて撹拌し、反応タンク内温度を50℃/65℃/70℃/80℃として、炭酸化工程を行った。各合成例の結果を以下の表1に記載する。
また、実施例3において、濃度の異なる炭酸ナトリウム水溶液を種々調製した。実施例3の水化工程で得られた固形分濃度20.0%の石灰乳に、上記の濃度の異なる炭酸ナトリウム水溶液を徐々に添加してプロペラ撹拌機を用いて撹拌し、反応タンク内温度を40℃/50℃/60℃/70℃/80℃として、炭酸化工程を行った。各合成例の結果を以下の表2に記載する。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
表1、表2は、各合成例にて生成した炭酸カルシウムの結晶形状とBET比表面積とを記載したものである。たとえば、実施例1は、表1の炭酸化工程反応温度25℃の行、炭酸ナトリウム水溶液濃度19%の列の「紡錘状 6」に記載されている。実施例1の方法でBET比表面積6m/g(表中のBET比表面積の値は、実測値を四捨五入した値)の紡錘状カルサイト結晶形の炭酸カルシウムが得られたという意味である。また表1、表2中、「-」は、当該条件では炭酸ナトリウム水溶液から炭酸ナトリウムが析出するため、規定の条件での反応が難しかったことを意味する。
表1、表2に示されている通り、本発明の方法で、炭酸化工程の初期石灰乳の固形分濃度、炭酸ナトリウム水溶液濃度、および反応温度を調整することにより、所望の結晶形状とBET比表面積とを有する炭酸カルシウムを作り分けることができる。
【0041】
本発明の方法は、比較的高濃度の水酸化ナトリウム水溶液に炭酸ガスを吸収させるので、炭酸ガスを効率よく用いることができる。本発明の方法により、針状結晶、および紡錘状結晶の炭酸カルシウムを製造することができた。炭酸化工程における石灰乳と炭酸ナトリウム水溶液の濃度、反応温度ならびに反応時間、混合時間等を変えることにより、所望の結晶形を有する炭酸カルシウムを作り分けることができる。本発明の方法は、炭酸ガスや、濾液等を再利用するので、環境に与える負荷を総体的に低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の方法により製造した炭酸カルシウムは、特に、シーリング材、接着剤、ゴム組成物、プラスチック組成物および紙等の充填剤として利用されるほか、紙塗工用顔料ならびに塗料やインキ用の顔料として広く用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5