(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069231
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】被加工骨保持具
(51)【国際特許分類】
B23Q 3/12 20060101AFI20230511BHJP
B23Q 11/10 20060101ALI20230511BHJP
B23B 31/00 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
B23Q3/12 J
B23Q11/10 A
B23B31/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180966
(22)【出願日】2021-11-05
(71)【出願人】
【識別番号】390003665
【氏名又は名称】株式会社日進製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100174388
【弁理士】
【氏名又は名称】龍竹 史朗
(72)【発明者】
【氏名】山添 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】村岡 嵩平
(72)【発明者】
【氏名】辻 秀和
(72)【発明者】
【氏名】井上 健二
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩次
(72)【発明者】
【氏名】錦織 晃
【テーマコード(参考)】
3C011
3C016
3C032
【Fターム(参考)】
3C011EE01
3C016FA40
3C032FF11
(57)【要約】
【課題】患者への負担を軽減できる被加工骨保持具を提供する。
【解決手段】被加工骨保持具1は、棒状であり側壁に雄螺子部114aが形成されるとともに、被加工骨Boの貫通孔H1、H2に挿通される挿通部113、114と、棒状であり一端部で挿通部113に連続するとともに、中心軸方向に直交する断面の面積が貫通孔H2の中心軸方向に直交する断面の面積よりも大きい支持部112と、を有する基台11と、内壁に挿通部114の雄螺子部114aに螺合する雌螺子部121bが形成された螺子孔121aを有し挿通部114に螺着され被加工骨Boに当接した状態で、支持部112とともに被加工骨Boを挟持する挟持部材12と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺の柱状であり長手方向に沿って延在する貫通孔が形成された被加工骨を保持する被加工骨保持具であって、
棒状であり長手方向に沿った側壁に第1の雄螺子部が形成されるとともに、前記貫通孔に挿通される挿通部と、棒状であり長手方向における一端部で前記挿通部に連続するとともに、長手方向に直交する断面の面積が前記貫通孔の前記被加工骨の長手方向に直交する断面の面積よりも大きく前記被加工骨を支持する支持部と、を有する基台と、
内壁に前記第1の雄螺子部に螺合する第1の雌螺子部が形成された第1の螺子孔を有し前記挿通部に螺着され前記被加工骨に当接した状態で、前記支持部の前記一端部とともに前記被加工骨を挟持する挟持部材と、を備える、
被加工骨保持具。
【請求項2】
前記挿通部は、前記挿通部の長手方向における他端部に前記挿通部の長手方向に直交する方向において前記挿通部の長手方向に沿った中心軸から離れる方向へ突出する少なくとも1つの突出部を有し、
前記被加工骨は、前記貫通孔の延在方向における両端部の少なくとも一方の前記貫通孔の内壁に形成された前記少なくとも1つの突出部が係合する係合溝が形成されている、
請求項1に記載の被加工骨保持具。
【請求項3】
前記支持部は、前記支持部の長手方向に沿った側壁に第2の雄螺子部が形成され、
内壁に前記第2の雄螺子部に螺合する第2の雌螺子部が形成された第2の螺子孔を有し前記支持部に螺着され、前記被加工骨に当接した状態で前記支持部の長手方向に沿った中心軸周りに回転されることにより前記被加工骨を押し出す押出部材を更に備える、
請求項1または2に記載の被加工骨保持具。
【請求項4】
前記基台に設けられ、前記被加工骨が前記支持部の前記一端部と前記挟持部材とで挟持された状態で、前記被加工骨の側壁に冷却液を供給することにより前記被加工骨を冷却する冷却液供給部を更に備える、
請求項1から3のいずれか1項に記載の被加工骨保持具。
【請求項5】
前記挟持部材は、
前記第1の螺子孔を有する本体部と、
回転軸が前記第1の螺子孔の中心軸と一致し、前記本体部に対して前記回転軸周りの回転が規制されるとともに、前記回転軸方向へ移動自在な状態で配置された第1クラッチ部材と、
回転軸が前記第1クラッチ部材の回転軸と一致し前記第1クラッチ部材に締結される第2クラッチ部材と、
前記第1クラッチ部材を前記第2クラッチ部材へ押し付ける方向へ付勢する付勢部材と、
前記第2クラッチ部材に固定された把持部と、を有し、
前記把持部により前記第1クラッチ部材を前記回転軸周りに回転させるときのトルクが、前記付勢部材により前記第1クラッチ部材を前記第2クラッチ部材へ押し付ける力により規定される基準トルクを超えると、前記第2クラッチ部材が前記第1クラッチ部材に対して空転する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の被加工骨保持具。
【請求項6】
前記基台は、前記支持部の他端部に連続し、複数のチャック爪を有するワーク保持装置の前記複数のチャック爪によりセンタリングチャックされる被保持部を更に有する、
請求項1から5のいずれか1項に記載の被加工骨保持具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工骨保持具に関する。
【背景技術】
【0002】
剥離骨折等を治療するための骨接合術において使用する螺子を、患者の骨から採取した骨片を切削加工することにより作製する技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。ここでは、骨片をチャック装置に掴ませた状態で、骨片にバイトを当接させることにより切削加工を行う。この種の切削加工に使用されるチャック装置として、例えば等間隔角度で配設された複数のチャック爪によりワークをセンタリングチャックするワーク保持装置が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-239825号公報
【特許文献2】特開2012-228766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、螺子を作製するために使用する骨片は、患者への負担を軽減する観点からなるべく少量とすることが要請されている。しかしながら、特許文献2に記載されたワーク保持装置を使用する場合、少なくとも複数のチャック爪により掴む部分を確保できる大きさの骨片が必要となるため、その分、骨の採取量が増えてしまい患者への負担が増大する虞がある。
【0005】
本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、患者への負担を軽減できる被加工骨保持具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る被加工骨保持具は、
長尺の柱状であり長手方向に沿って延在する貫通孔が形成された被加工骨を保持する被加工骨保持具であって、
棒状であり長手方向に沿った側壁に第1の雄螺子部が形成されるとともに、前記貫通孔に挿通される挿通部と、棒状であり長手方向における一端部で前記挿通部に連続するとともに、長手方向に直交する断面の面積が前記貫通孔の前記被加工骨の長手方向に直交する断面の面積よりも大きく前記被加工骨を支持する支持部と、を有する基台と、
内壁に前記第1の雄螺子部に螺合する第1の雌螺子部が形成された第1の螺子孔を有し前記挿通部に螺着され前記被加工骨に当接した状態で、前記支持部の前記一端部とともに前記被加工骨を挟持する挟持部材と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、基台が、被加工骨の貫通孔に挿通される挿通部と、長手方向に直交する断面の面積が被加工骨の貫通孔の被加工骨の長手方向に直交する断面の面積よりも大きい支持部と、を有する。また、挟持部材が、基台の挿通部に螺着され被加工骨に当接した状態で、支持部とともに被加工骨を挟持する。これにより、被加工骨の側壁を掴むこと無く被加工骨を堅固に保持することができるので、患者から採取すべき被加工骨の量を低減することができ、それ故、患者への負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る切削加工装置の概略図である。
【
図2】実施の形態1に係る被加工骨保持具およびスクロールチャックの斜視図である。
【
図3】実施の形態1に係る被加工骨保持具およびスクロールチャックの
図2のA-A線における断面矢視図である。
【
図4】実施の形態1に係る被加工骨保持具の
図3のB-B線における断面矢視図である。
【
図5】実施の形態2に係る被加工骨保持具およびスクロールチャックの斜視図である。
【
図6】実施の形態2に係る被加工骨保持具およびスクロールチャックの
図5のC-C線における断面矢視図である。
【
図7】実施の形態3に係る被加工骨保持具およびスクロールチャックの断面図である。
【
図8】実施の形態3に係る挟持部材を示し、(A)は一部破断した側面図であり、(B)は断面図であり、(C)は(A)のD-D線における断面矢視図である。
【
図9】(A)は変形例に係る被加工骨保持具およびチャックの断面図であり、(B)は他の変形例に係る被加工骨保持具および固定具の断面図である。
【
図10】変形例に係る被加工骨保持具およびスクロールチャックの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施の形態1)
以下、本実施の形態に係る被加工骨保持具について、図面を参照しながら説明する。本実施の形態に係る被加工骨保持具は、長尺の柱状であり長手方向に沿って延在する貫通孔が形成された被加工骨を保持する。この被加工骨保持具は、基台と、基台とともに被加工骨を挟持する挟持部材と、を備える。基台は、棒状であり長手方向に沿った側壁に第1の雄螺子部が形成されるとともに、被加工骨の貫通孔に挿通される挿通部と、棒状であり長手方向における一端部で挿通部に連続するとともに、長手方向に直交する断面の面積が前述の貫通孔の被加工骨の長手方向に直交する断面の面積よりも大きい支持部と、を有する。また、挟持部材は、内壁に基台の第1の雄螺子部に螺合する第1の雌螺子部が形成された第1の螺子孔を有し、基台の挿通部に螺着され被加工骨に当接した状態で、基台の支持部の一端部とともに被加工骨を挟持する。
【0010】
図1に示すように、本実施の形態に係る切削加工装置1000は、工具1002が固定されるヘッド1005と、ヘッド1005に対向して配置され被加工骨Boを保持する保持ユニット1003と、を備える。ここで、工具1002は、例えば被加工骨Boに雄螺子部を形成するためのドリルである。また、切削加工装置1000は、矩形箱状であり側壁の一部に被加工骨Boを保持する被加工骨保持具1を出し入れするための開口部1010bが形成されるとともに、内側にヘッド1005および保持ユニット1003を収容する筐体1010を備える。そして、保持ユニット1003には、被加工骨Boを保持する被加工骨保持具1を保持するスクロールチャック100が設けられている。
【0011】
スクロールチャック100は、
図2に示すように、回転軸J0周りに回転可能であり、複数(
図2では3つ)のチャック爪102と、スクロールチャック本体103と、ベース部材101と、を有するワーク保持装置である。スクロールチャック本体103は、平面視円形状であり、各チャック爪102をスクロールチャック本体103の径方向に沿って摺動自在に保持し、各チャック爪102を径方向に同時に摺動させることにより各チャック爪102で被加工骨保持具1をセンタリングチャックする。被加工骨Boは、長尺の円柱状である。そして、被加工骨Boには、
図3に示すように、その長手方向に沿って延在する貫通孔H1、H2が形成されている。ベース部材101には、スクロールチャック100を回転駆動するモータ201により回転されるシャフト202が挿通される貫通孔101aが形成されている。ここで、シャフト202の先端部には、回転軸J0に沿って延出し被加工骨保持部1の位置決めを行うための位置決めピン202aが設けられている。
【0012】
被加工骨保持具1は、基台11と、基台11とともに被加工骨Boを挟持する挟持部材12と、被加工骨Boの加工後において被加工骨Boを押し出すための押出部材13と、を有する。基台11は、被加工骨Boの貫通孔H1、H2に挿通される挿通部113、114と、被加工骨Boを支持する支持部112と、スクロールチャック100によりチャックされる被保持部111と、を有する。挿通部114は、棒状であり長手方向に沿った側壁に雄螺子部114aが形成されている。挿通部113は、挿通部114の長手方向における被保持部111側に位置する。挿通部113、114は、それらの長手方向に沿った中心軸J1がスクロールチャック100の回転軸J0と一致する姿勢で配置されている。挿通部113は、
図4に示すように、断面六角形の柱状である。そして、被加工骨Boの貫通孔H2の内壁には、挿通部113の6つの角部113aそれぞれが係合する係合溝BTが形成されている。
【0013】
図3に戻って、支持部112は、円柱棒状であり長手方向における一端部で挿通部113に連続している。そして、支持部112のその長手方向に直交する断面の面積が、被加工骨Boの貫通孔H2の被加工骨Boの長手方向に直交する断面の面積よりも大きい。これにより、挿通部113と支持部112との間に、被加工骨Boの貫通孔H2の端縁が係止される段部112aが形成されている。また、支持部112の長手方向に沿った側壁には、雄螺子部112bが形成されている。
【0014】
被保持部111は、外径が支持部112の外径よりも長い円柱状であり、支持部112における挿通部113側とは反対側の他端側に連続している。被保持部111は、前述のスクロールチャック100の複数のチャック爪102によりセンタリングチャックされる。また、被保持部111は、その支持部112側とは反対側の端面に、前述のシャフト202の位置決めピン202aの先端部が嵌入される凹部111aが形成されている。
【0015】
挟持部材12は、内壁に挿通部114の雄螺子部114aに螺合する雌螺子部121bが形成された螺子孔121aを有する本体部121と、本体部121の螺子孔121aの延在方向における一端部からその延在方向に直交する方向で外側へ張り出した外鍔部123と、を有する。そして、挟持部材12が、基台11の挿通部114に螺着され被加工骨Boに当接した状態で、支持部112の挿通部113側の一端部に形成された段部112aとともに被加工骨Boを挟持する。
【0016】
押出部材13は、例えばナットであり、支持部112の雄螺子部112bに螺合する雌螺子部13bが形成された螺子孔13aを有する。被加工骨Boの加工後において、押出部材13を被加工骨Boの底面に当接させた状態で支持部112の長手方向に沿った中心軸周りに回転させることにより、被加工骨Boを基台11の挿通部114の先端部側へ押し出すことができる。
【0017】
次に、本実施の形態に係る被加工骨保持具1を用いていわゆるイモ螺子を作製する工程について説明する。まず、被加工骨保持具1に保持される被加工骨Boを作製する。具体的には、初めに例えば円筒状の刃具を用いて患者から円柱状の骨片を採取する。次に、取り出した骨片の円形の断面に直交する方向に延在する貫通孔(
図3のH1、H2)を骨片に穿設する。次に、挿通部113の角部113aが嵌入する係合溝BTを形成する。このようにして、被加工骨Boが作製される。
【0018】
次に、被加工骨Boを基台11の挿通部113、114に挿通する。このとき、被加工骨Boの係合溝BTが、挿通部113の角部113aに嵌合する。これにより、被加工骨Boの切削加工時において被加工骨Boが挿通部113、114に対して回転軸J0周りに相対的に回転移動することを防止できる。続いて、挟持部材12を挿通部114に螺合させて被加工骨Boの端部に当接させることにより基台11の支持部112と挟持部材12とで被加工骨Boを挟持する。ここで、挟持部材12の外鍔部123の外径は、例えば被加工骨Boに雄螺子部を形成するためのドリルのような工具1002(
図1参照)の内径よりも小さく設定されており、工具1002と干渉しないようになっている。その後、被加工骨Boを保持した被加工骨保持具1を、その被保持部111の凹部111aにスクロールチャック100の位置決めピン202aの先端部を嵌入させる。次に、スクロールチャック100のチャック爪102により保持させる。このように、被加工骨保持具1の被保持部111の凹部111aにスクロールチャック100の位置決めピン202aの先端部を嵌入させた状態でスクロールチャック100に保持させることにより、被加工骨Boの切削加工を繰り返す際の被加工骨Boの保持位置のばらつきを抑制することができる。続いて、スクロールチャック100を回転させながら、スクロールチャック100の回転軸J0に沿った一方向から工具1002を被加工骨Boに近づけて接触させることにより切削加工(螺子切り加工)を行う。このようにして、いわゆるイモ螺子が作製される。
【0019】
ところで、スクロールチャック100で被加工骨Boを掴む場合において、被加工骨Boの長さが短いと、いわゆる掴み代が十分に確保できずに保持力が低下してしまう。このため、被加工骨Boの加工中に被加工骨Boがスクロールチャック100から外れてしまう虞がある。一方、患者の骨の一部から骨片を採取して例えば骨折治療用の螺子を作製する場合、その螺子の基となる被加工骨Boの大きさを小さくすることにより、骨片の採取量を少なくすることが患者への負担を軽減する観点から好ましい。これに対して、本実施の形態に係る被加工骨保持具1によれば、基台11が、被加工骨Boの貫通孔H1、H2に挿通される挿通部113、114と、長手方向に直交する断面の面積が被加工骨Boの貫通孔H2の被加工骨Boの長手方向に直交する断面の面積よりも大きい支持部112と、を有する。また、挟持部材12が、基台11の挿通部114に螺着され被加工骨Boに当接した状態で、支持部112とともに被加工骨Boを挟持する。これにより、被加工骨Boの側壁を直接掴むこと無く被加工骨Boを堅固に保持することができる。従って、被加工骨Boの切削加工の加工精度を安定させることができるとともに、被加工骨Boにいわゆる掴み代に相当する部分が不要となるので、その分、患者から採取すべき被加工骨Boの量を低減することができ、それ故、患者への負担を軽減することができる。
【0020】
また、螺子として側壁全体に雄螺子部が形成されたいわゆるイモ螺子を作製する場合、まず、被加工骨Boにおけるスクロールチャック100で掴んだ部分以外の部分に雄螺子部を形成した後、被加工骨Boにおける雄螺子部が形成されていない部分が露出する形で掴み直してから未加工部分を切削加工する必要があり、1つの工程で被加工骨Boの切削加工を完了することができない。また、被加工骨Boを掴み直したときに、スクロールチャック100のチャック爪102が雄螺子部に接触するため、雄螺子部が欠損してしまう虞もある。これに対して、本実施の形態に係る被加工骨保持具1によれば、被加工骨Boを掴み直すことなく前述のイモ螺子を切削加工により作製することができるので、工程数削減によるタクトタイムの短縮、並びに、被加工骨Boの切削加工時の雄螺子部の欠損を防止することによる歩留まり向上を図ることができる。
【0021】
また、本実施の形態に係る基台11の挿通部113は、挿通部114の長手方向に直交する断面が六角形状である。そして、被加工骨Boの貫通孔H2の内壁には、挿通部113の角部113aが係合する係合溝BTが形成されている。これにより、被加工骨Boの中心軸J1周りの回転が規制されるので、被加工骨Boの加工精度を高めることができる。
【0022】
ところで、被加工骨Boの加工時において、被加工骨Boの円周方向に生じるトルク負荷により、被加工骨Boの係合溝BTが挿通部113の一部に食い込んでしまう場合がある。この場合、被加工骨Boの加工後に被加工骨Boを被加工骨保持具1からスムーズに取り外せなくなる虞がある。そして、この場合に、例えば被加工骨Boを手で把持して挿通部113から無理に引き抜こうとして被加工骨Boが欠損してしまう虞もある。これに対して、本実施の形態に係る基台11の支持部112には、支持部112の長手方向に沿った側壁に雄螺子部112bが形成されている。そして、押出部材13が、支持部112の雄螺子部112bに螺着されている。これにより、被加工骨Boの加工後に押出部材13を被加工骨Boの底面に当接させて押出部材13を支持部112の長手方向に沿った中心軸周りに回転させることにより、被加工骨Boに無理な力を作用させることなく且つ被加工骨Boを押し出す方向への比較的強い力を発生させることができる。従って、被加工骨Boの係合溝BTに挿通部113の一部が食い込んだ状態となった場合でも、被加工骨Boに無理な力を作用させることなくその状態を解消することができるので、被加工骨Boの欠損を抑制できる。
【0023】
また、本実施の形態に係る基台11は、支持部112に連続し、スクロールチャック100の複数のチャック爪102によりセンタリングチャックされる被保持部111を有する。これにより、被加工骨Boを、被加工骨保持具1を介してスクロールチャック100に固定することができるので、被加工骨Boの切削加工に適用できる切削加工装置1000のバリエーションを増やすことができる。
【0024】
(実施の形態2)
本実施の形態に係る被加工骨保持具は、基台に設けられ、被加工骨が基台の支持部と挟持部材とで挟持された状態で、被加工骨の側壁に冷却液を供給することにより被加工骨を冷却する冷却液供給部を備える点で実施の形態1に係る被加工骨保持具と相違する。
【0025】
図5に示すように、本実施の形態に係る被加工骨保持具2は、基台21と、基台21とともに被加工骨Boを挟持する挟持部材12と、押出部材13と、を有する。なお、
図5において、実施の形態1と同様の構成については
図2と同一の符号を付している。基台21には、矢印AR1に示すように、被加工骨Boの側壁に向かって冷却液を吐出することにより冷却液を被加工骨Boの側壁に供給する冷却液供給部である吐出孔211bが設けられている。冷却液としては、例えば生理食塩水が採用される。
【0026】
基台21は、
図6に示すように、被加工骨Boの貫通孔H1、H2に挿通される挿通部113、114と、被加工骨Boを支持する支持部112と、スクロールチャック100によりチャックされる被保持部211と、を有する。なお、
図6において、実施の形態1と同一の構成については
図3と同一の符号を付している。被保持部211は、外径が支持部112の外径よりも長い平面視円形の箱状であり、内側に冷却液を貯留する貯留領域211cを有する。また、被保持部211における支持部112側の天壁211dには、前述の吐出孔211bが設けられている。また、被保持部211の底壁211eの外面には、シャフト2202の先端部に設けられた位置決めピン2202aの先端部が嵌入される凹部211aが形成されている。そして、凹部211aの底には、貯留領域211cに連通する貫通孔211fが貫設されている。凹部211aの内壁と位置決めピン2202aの先端部との間には、例えばオイルシール(図示せず)が介在しており水密に維持されている。
【0027】
ここで、シャフト2202および位置決めピン2202aの内部には、冷却液を被保持部211の貯留領域211c内へ供給するための供給路2202bが形成されている。この供給路2202bは、ロータリジョイント2203および供給管PI1を介してポンプ2204に接続されている。そして、ポンプ2204は、冷却液貯留タンク2205に貯留された冷却液を、供給管PI1、ロータリジョイント2203および供給路2202bを通じて被保持部211の貯留領域211cへ供給する。
【0028】
本実施の形態に係る被加工骨保持具2を使用した被加工骨Boの切削加工では、被加工骨Boが基台21の支持部112と挟持部材12とで挟持された状態で、吐出孔211bから被加工骨Boの側壁へ冷却液を供給しながら被加工骨Boの切削加工を行う。ここで、被加工骨Boを切削加工する際に発生する熱は例えば金属を切削加工する際に発生する熱よりも小さいので、比較的少量の冷却液を吐出するだけでも被加工骨Boの温度上昇を抑制できる。一方、被加工骨Boの切削加工を行う際に被加工骨Boの側壁に供給する冷却液の量が多すぎると、逆に被加工骨Boを形成する組織が損傷してしまう虞がある。従って、吐出孔211bから被加工骨Boの側壁へ供給する冷却液の量は、被加工骨Boの熱による組織の壊死および過度の冷却液供給に起因した組織の損傷を防止できる予め設定された範囲内の量に設定することが好ましい。
【0029】
ところで、被加工骨Boの切削加工では、被加工骨Boを切削する際に発生する熱により被加工骨Boの温度が上昇してしまい、特に被加工骨Boの温度が50℃以上まで上昇すると被加工骨Boを形成する組織が壊死してしまう虞がある。これに対して、本実施の形態に係る被加工骨保持具2の基台21には、被加工骨Boが基台21の支持部112と挟持部材12とで挟持された状態で、被加工骨Boの側壁に冷却液を供給する吐出孔211bが設けられている。これにより、被加工骨Boの温度上昇を抑制しながら被加工骨Boを切削加工することができるので、被加工骨Boを形成する組織の壊死を抑制することができる。
【0030】
(実施の形態3)
本実施の形態に係る被加工骨保持具は、挟持部材の構造が実施の形態1に係る被加工骨保持具と相違する。本実施の形態に係る挟持部材は、基台の挿通部の雄螺子部に螺合する雌螺子部が形成された第1の螺子孔を有する本体部と、回転軸が第1の螺子孔の中心軸と一致した状態で配置された第1クラッチと、第1クラッチに噛合する第2クラッチと、第2クラッチに固定された把持部とを有する。そして、把持部により第1クラッチを前述の回転軸周りに回転させるときのトルクが、基準トルクを超えると、第2クラッチが第1クラッチに対して空転する。
【0031】
図7に示すように、本実施の形態に係る被加工骨保持具3は、基台11と、基台11とともに被加工骨Boを挟持する挟持部材32と、押出部材13と、を有する。なお、
図7において、実施の形態1と同様の構成については
図2と同一の符号を付している。挟持部材32は、
図8(A)および(B)に示すように、本体部321と、外鍔部123と、把持部324と、噛み合いクラッチ325と、支持部327と、付勢部材328と、支持部材329と、を有する。本体部321は、円柱状であり、内側に基台11の挿通部114の雄螺子部114aに螺合する雌螺子部321bが形成された螺子孔321aを有する。支持部327は、長尺の円柱状であり、本体部321と連続一体に形成され、長手方向における本体部321に連続する一端部とは反対側の他端部に支持部材329の一部が嵌入固定される凹部327aが形成された支持部本体3271と、支持部本体3271の側壁における噛み合いクラッチ325に対向する部分から径方向に突出する突起3272と、を有する。
【0032】
噛み合いクラッチ325は、把持部324の内側に配置され、内側に支持部327が挿通される貫通孔3251aが貫設された第1クラッチ部材3251と、内側に支持部327が挿通される貫通孔3252aが貫設された第2クラッチ部材3252と、を有する。第1クラッチ部材3251は、円板状であり、厚さ方向における一面側に周方向に沿って複数の係合歯が配設されている。第1クラッチ部材3251は、回転軸J4が本体部321の螺子孔321aの中心軸J5と一致し、回転軸J4方向へ移動自在な状態で配置されている。また、第1クラッチ部材3251の貫通孔3251aの内壁には、第1クラッチ部材3251の厚さ方向に延在し、支持部327の突起3272が嵌入する溝3251bが形成されている。そして、この溝3251bには、
図8(C)に示すように、支持部327の突起3272が嵌入されており、これにより、第1クラッチ部材3251の本体部321および支持部327に対して回転軸J4周りの回転が規制されている。
【0033】
第2クラッチ部材3252は、円板状であり、厚さ方向における一面側に周方向に沿って複数の係合歯が配設されている。ここで、第2クラッチ部材3252は、回転軸J6が第1クラッチ部材3251の回転軸J4と一致し、複数の係合歯が配設された一面側が第1クラッチ部材3251の複数の係合歯が配設された面に対向した姿勢で配置されている。そして、第2クラッチ部材3252は、その係合歯が第1クラッチ部材3251の複数の係合歯に噛合することにより第1クラッチ部材3251と締結する。
【0034】
付勢部材328は、例えば支持部327に巻回されたコイルばねであり、第1クラッチ部材3251を第2クラッチ部材3252へ押し付ける方向へ付勢している。把持部324は、有底円筒状であり、底壁に支持部材329の一部が挿通される開口部324aが設けられている。この把持部324は、開口部324aに挿通される支持部材329により枢支されている。また、把持部324は、その内側に配置された第2クラッチ部材3252に固定されており、第2クラッチ部材3252とともにその回転軸J6周りに回転可能となっている。
【0035】
ここで、第1クラッチ部材3251と第2クラッチ部材3252とが締結した状態で、ユーザが把持部324を把持して回転させると、これに伴い、支持部327および本体部321が本体部321の螺子孔321aの中心軸J5周りに回転する。これにより、挟持部材32が被加工骨Boに向かう方向へ移動して挟持部材32を被加工骨Boに当接させることができる。そして、挟持部材32が被加工骨Boに当接した状態で、更に、把持部324を回転させようとすると、第2クラッチ部材3252の回転トルクが上昇していく。そして、把持部324により第2クラッチ部材3252を回転軸J6周りに回転させるときのトルクが、予め設定された基準トルクを超えると、第2クラッチ部材3252が第1クラッチ部材3251に対して空転する。ここで、基準トルクは、付勢部材328により第1クラッチ部材3251を第2クラッチ部材3252へ押し付ける力により規定される。これにより、挟持部材32が被加工骨Boに当接した状態で、挟持部材32を被加工骨Boに押し付ける方向へ加わる力を制限することができる。
【0036】
以上説明したように、本実施の形態に係る被加工骨保持具3によれば、把持部324により第2クラッチ部材3252を回転軸J6周りに回転させるときのトルクが、予め設定された基準トルクを超えると、第2クラッチ部材3252が第1クラッチ部材3251に対して空転し、挟持部材32が被加工骨Boに当接した状態で、挟持部材32を被加工骨Boに押し付ける方向へ加わる力を制限することができる。これにより、被加工骨Boを挟持部材32と基台11の支持部112とで挟持する際の挟持力の大きさを基準トルクに対応する大きさに制限することができるので、被加工骨Boを必要以上の力で挟持することに起因した被加工骨Boの破損を抑制することができる。
【0037】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は前述の実施の形態の構成に限定されるものではない。例えば
図9(A)に示すようなチャック500に被加工骨保持具5が保持されるものであってもよい。なお、
図9(A)において、実施の形態1と同様の構成については
図3と同一の符号を付している。チャック500は、ブロック状であり被加工骨保持具5の一部が内側に配置される凹部501aと外壁から凹部501aの内側に連通する少なくとも1つの螺子孔501bとが形成されたチャック本体501と、少なくとも1つの螺子孔501bそれぞれに螺合し先端部が凹部501aの内側に配置された被加工骨保持具5の一部に当接するチャック螺子502と、を備える。また、被加工骨保持具5の基台51は、チャック500の凹部501aに嵌入される被保持部511を有する。そして、被保持部511は、チャック500の凹部501aに嵌入された状態でチャック螺子502により固定される。
【0038】
或いは、
図9(B)に示すような固定具600に被加工骨保持具6が固定されるものであってもよい。なお、
図9(B)において、実施の形態1と同様の構成については
図3と同一の符号を付している。ここで、固定具600は、例えば扁平なブロック状であり、厚さ方向に貫通する少なくとも1つの螺子孔600aを有する。また、被加工骨保持具5の基台61は、板状であり、固定具600における被加工骨保持具6が載置される載置面600bに載置された状態で少なくとも1つの螺子孔600aに対応する部分それぞれに螺子孔611aが穿設された被固定部611を有する。そして、被加工骨保持具6は、基台61の被固定部611を固定具600の載置面600bに載置した状態で、被固定部611の螺子孔611aに螺着した固定螺子603を固定具600の螺子孔600a,601aに螺合させることにより固定具600に固定される。
【0039】
実施の形態2では、被加工骨Boの側壁に向かって冷却液を吐出することにより冷却液を被加工骨Boの側壁に供給する吐出孔211bが基台21に設けられている被加工骨保持具2の例について説明した。但し、被加工骨保持具に設けられる冷却液供給部の構成はこれに限定されるものではない。例えば
図10に示す被加工骨保持具7のように、基台71の挿通部714の先端部から冷却液を流出し矢印AR2に示すように被加工骨Boの側壁へ冷却液を供給するものであってもよい。なお、
図10において、実施の形態2と同様の構成については
図8と同一の符号を付している。
【0040】
ここで、被加工骨保持具7は、基台71と、基台71とともに被加工骨Boを挟持する挟持部材12と、押出部材13と、を有する。基台71は、被加工骨Boの貫通孔H1、H2に挿通される挿通部713、714と、被加工骨Boを支持する支持部712と、スクロールチャック100によりチャックされる被保持部711と、を有する。そして、基台71の内部には、貯留領域211cに貯留された冷却液を挿通部714の先端部まで供給するための供給路711bが形成されている。ここで、供給路711bは、一端部で被保持部711の貯留領域211cに連通し、他端部が挿通部714の先端部で挟持部材12の螺子孔121aの内側に連通している。
【0041】
各実施の形態では、被加工骨Boを患者の骨の一部から採取する例について説明したが、これに限らず、例えばハイドロキシアパタイト・ポリ-L-乳酸複合材料(HA-PLLA)のような人工の骨材料から形成されるものであってもよい。また、被加工骨Boの代わりにタングステンのようなレアメタル或いはダイヤモンドのような高価な材料から形成された被加工物についても適用することができる。
【0042】
以上、本発明の実施の形態および変形例について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明は、実施の形態および変形例が適宜組み合わされたもの、それに適宜変更が加えられたものを含む。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、骨の切削加工を行う切削加工装置に使用される被加工骨保持具として好適である。
【符号の説明】
【0044】
1,2,3,5,6,7:被加工骨保持具、11,21,51,61,71:基台、12,32:挟持部材、13:押出部材、13a,121a, 321a,501b,600a,601a,611a:螺子孔、13b,121b,321b:雌螺子部、100:スクロールチャック、101:ベース部材、101a,211f,3251a,3252a,H1,H2:貫通孔、102:チャック爪、103:スクロールチャック本体、111,211,511,711:被保持部、111a,211a,327a,501a:凹部、112,327,712:支持部、112a:段部、112b,114a:雄螺子部、113,114,713,714:挿通部、113a:角部、121,321:本体部、123:外鍔部、201:モータ、202,2202:シャフト、202a,2202a:位置決めピン、211b:吐出孔、211c:貯留領域、211d:天壁、211e:底壁、324:把持部、324a,1010b:開口部、325:噛み合いクラッチ、327a:凹部、328:付勢部材、329:支持部材、500:チャック、501:チャック本体、502:チャック螺子、600:固定具、600b:載置面、603:固定螺子、611:被固定部、711b,2202b:供給路、1000:切削加工装置、1002:工具、1003:保持ユニット、1005:ヘッド、1010:筐体、2203:ロータリジョイント、2204:ポンプ、2205:冷却液貯留タンク、3251:第1クラッチ部材、3251b:溝、3252:第2クラッチ部材、3271:支持部本体、3272:突起、Bo:被加工骨、BT:係合溝、J0,J4,J6:回転軸、J1,J5:中心軸、PI1:供給管