(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069346
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】送電システム
(51)【国際特許分類】
H02J 50/05 20160101AFI20230511BHJP
【FI】
H02J50/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021181135
(22)【出願日】2021-11-05
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】近藤 尚弥
(72)【発明者】
【氏名】笹谷 卓也
(72)【発明者】
【氏名】平野 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】岩本 藤行
(57)【要約】 (修正有)
【課題】負荷リアクタンスが急減した非定常状態のときに、共振型インバータが熱破壊することを防ぎつつ、当該負荷リアクタンスを相殺でき、所定の期間内のみ期間外とは異なる信号で動作するインピーダンス整合機能を有した送電システムを提供する。
【解決手段】送電システム10は、負荷RLに交流電力を送電する送電回路11と、二つ以上のスイッチング素子SW1、SW2と一つ以上のコンデンサC1、C2を有し、送電回路と負荷との間を整合する自動整合回路12と、スイッチング素子に駆動信号を出力して駆動する駆動回路13と、負荷のリアクタンスを検出するリアクタンス検出回路14と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷に交流電力を送電する送電回路(11、111)と、
二つ以上のスイッチング素子(SW1、SW2;SW1~SW4)と一つ以上のコンデンサ(C1、C2;C1)を有し、前記送電回路と前記負荷との間を整合する自動整合回路(12、112;212;312;412;512)と、
前記スイッチング素子に駆動信号を出力して駆動する駆動回路(13、113a、113b)と、
前記負荷のリアクタンスを検出するリアクタンス検出回路(14、114)と、を備え、
前記駆動回路は、前記送電回路の出力と同期して周期的且つ位相の異なる二つの信号を出力し、うち一方の信号は前記送電回路の出力電圧に対し0から180°の範囲内で所定の位相差を有し、他方の信号は前記送電回路の出力電圧に対し前記所定の位相差に180°加えた位相差を有し、前記異なる二つの信号として、所定の期間内ではそれぞれ期間外での信号に対し、さらに位相が遅れた駆動信号を前記自動整合回路の前記スイッチング素子に出力する機能を有した送電システム。
【請求項2】
前記所定の期間とは、前記負荷のリアクタンスの単位時間当たりの減少量が所定以上となることを前記検出回路が検出している期間とする請求項1記載の送電システム。
【請求項3】
前記所定の期間とは、前記検出回路が前記負荷のリアクタンスを所定以上と検出している期間とする請求項1記載の送電システム。
【請求項4】
前記リアクタンス検出回路は、前記自動整合回路の前記コンデンサの両端電圧、又は前記コンデンサの両端電圧と比例関係を持つ電圧の減少速度を検出し、
前記減少速度が所定以上であった場合に、前記駆動回路の前記異なる二つの信号として、前記所定の期間内ではそれぞれ期間外の信号に対し、さらに位相が遅れた駆動信号を前記自動整合回路の前記スイッチング素子に出力する機能を有する請求項2記載の送電システム。
【請求項5】
前記リアクタンス検出回路は、前記自動整合回路の前記コンデンサの両端電圧、又は前記コンデンサの両端電圧と比例関係を持つ電圧を検出し、
前記検出した値が所定以上であった場合に、前記駆動回路の前記異なる二つの信号として、前記所定の期間内ではそれぞれ期間外の信号に対し、さらに位相が遅れた駆動信号を前記自動整合回路の前記スイッチング素子に出力する機能を有する請求項3記載の送電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インピーダンス整合機能を有した送電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
送電システムが、例えば送電電極上を走行する電動走行車に送電電極から電界又は磁界により非接触給電する場合、電動走行車側で負荷変動する。この種の送電システムは負荷変動しても所望の出力を保つことが重要である。
【0003】
従来、変動する負荷に対してアダプティブに整合する自動整合技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。非接触給電技術では、送受電電極の位置ズレ等により負荷にリアクタンス成分を生じた場合、バッテリへの供給電力が低下する。この原因は、2通り考えられており、第1にシステム全体の力率の低下、第2に入力(負荷)インピーダンスが最適値から外れることによる送電電力の低下、が挙げられる。特に、第2の原因は、送電電極に投入する交流電力を作り出す送電回路が共振型インバータの場合に生じる現象である。
【0004】
このような問題に対し、例えば特許文献1の技術では、スイッチング素子とコンデンサで構成された自動整合回路を搭載することで、送電回路の出力端子から見た自動整合回路と負荷の合計インピーダンスZAのリアクタンスをゼロにする、つまり自動整合回路により負荷のリアクタンス成分を相殺することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、自動整合回路は、二つ以上のスイッチング素子と一つ以上のコンデンサを組み合わせて構成されている。自動整合回路の整合作用により負荷リアクタンスを完全に相殺するには、送電電極に投入する交流電力を作り出す送電回路の出力電圧(本願のVs相当)と自動整合回路の出力電圧(本願のVA相当)の位相差を90°に調整する必要がある。そのため、自動整合回路を構成するスイッチング素子に送電回路の出力電圧から所定位相(例えば、90°、270°)だけずらした駆動信号を出力してスイッチング素子を駆動する。
【0007】
しかし、自動整合回路は、負荷リアクタンスが変動したときに当該負荷リアクタンスを相殺して定常状態に至るまでの間、応答時間を必要とする。その応答時間の間、負荷リアクタンスを相殺しきれていない状態となる。この状態を、本願では非定常状態と称する。詳細は後述するが、応答時間より短い時間で負荷リアクタンスが大きく減少した時に、共振型インバータが熱破壊する虞があることが判明している。応答時間は、自動整合回路が負荷リアクタンスを相殺するだけのエネルギーをコンデンサに充電あるいは放電する時間であり、自動整合回路を構成するコンデンサの容量値を小さくすることで短くできるが、逆に、コンデンサにかかるリップル電圧が増加する。これにより、コンデンサやスイッチング素子に必要な耐電圧を増加させてしまうことになり,さらに、自動整合回路の整合精度を低下させてしまうことになる。このため、この方法を用いて応答速度を短縮するには限界がある。
【0008】
本発明は、上記を鑑みてなされたもので、その目的は、負荷リアクタンスが急減した非定常状態のときに、共振型インバータが熱破壊することを防ぎつつ,当該負荷リアクタンスを相殺でき、所定の期間内のみ期間外とは異なる信号で動作するインピーダンス整合機能を有した送電システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、送電回路、自動整合回路、駆動回路、及びリアクタンス検出回路を備える。送電回路は、負荷に交流電力を送電する。自動整合回路は、二つ以上のスイッチング素子と一つ以上のコンデンサを有し、送電回路の出力端子から見た自動整合回路と負荷の合計インピーダンス(ZA)のリアクタンスをゼロに近づける。駆動回路は、スイッチング素子に駆動信号を出力して駆動する。リアクタンス検出回路は、負荷のリアクタンスを検出する。
【0010】
駆動回路は、送電回路の出力と同期して周期的且つ位相の異なる二つの信号を出力し、うち一方の信号は送電回路の出力電圧に対し0から180°の範囲内で所定の位相差を有し、他方の信号は送電回路の出力電圧に対し所定の位相差に180°加えた位相差を有し、異なる2つの信号は、所定の期間内ではそれぞれ期間外での信号に対し、さらに位相が遅れた信号を出力する。
【0011】
請求項1記載の発明によれば、所定の期間内のみ期間外とは異なる信号で動作し、駆動回路が所定の位相差よりも位相が遅れた駆動信号を自動整合回路のスイッチング素子に出力している。これにより、負荷リアクタンスが急減した非定常状態の時に生じる共振型インバータの搭載部品の発熱を抑制し、熱破壊の虞を無くすことが出来、負荷リアクタンスを相殺できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態における送電システムの電気的構成ブロック図
【
図3】負荷リアクタンスの変化に対する送電電力依存性
【
図5】従来技術における負荷リアクタンス急増・急減時の非定常状態における損失変化を表す図
【
図6】E級インバータのスイッチング素子損失と負荷リアクタンスの相関性
【
図7】第1実施形態における負荷リアクタンス急減時の非定常状態における損失変化を表す図
【
図8】従来技術における非定常状態の期間中の自動整合回路のコンデンサ電圧の変化を表す図
【
図9】第1実施形態における非定常状態の期間中の自動整合回路のコンデンサ電圧の変化を表す図
【
図10】第2実施形態における送電システムの具体的な電気的構成図
【
図11】第2実施形態における負荷リアクタンス急減時の非定常状態における損失変化を表す図
【
図12】第3実施形態における自動整合回路の電気的構成図のその1
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、送電システム10に係る幾つかの実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各実施形態において実質的に共通する部位には同一符号又は類似符号、例えば十、一の位に同一符号を付して説明する。
【0014】
(第1実施形態)
以下、送電システム10の第1実施形態について
図1から
図9を参照しながら説明する。
図1に示すように、送電システム10は、送電回路としての共振型インバータ11、自動整合回路12、駆動回路13、及び、リアクタンス検出回路14を備え、負荷RLに電力を送電するように構成されている。
【0015】
共振型インバータ11は、図示しないスイッチング素子、インダクタ、及びコンデンサを組み合わせて構成され、共振作用を用いて交流電力を生成する共振型インバータであり、スイッチング素子をオンオフすることで直流電圧を交流変換した交流電圧を出力電圧Vsとする構成である。共振型インバータ11は、自動整合回路12を通じて負荷RLに交流電力を送電するよう構成されている。
【0016】
自動整合回路12は、スイッチング素子SW1、SW2及びコンデンサC1、C2をハーフブリッジ型に構成している。スイッチング素子SW1、SW2は、ボディダイオードD1、D2がそれぞれ付加されたNチャネル型のMOSFETにより構成されている。自動整合回路12は、スイッチング素子SW1、SW2のドレイン/ソースが直列接続されると共に、この直列接続ノード間に二つのコンデンサC1、C2を接続して構成され、共通接続ノードNout-Nin間の電圧を出力電圧VAとしている.また,コンデンサC1及びC2の直列接続回路の両端電圧をVCAとしている。
【0017】
共振型インバータ11は、その一出力端子がスイッチング素子SW1、SW2の共通接続ノードNinに接続されている。2つのコンデンサC1、C2の共通接続ノードNoutには負荷RLの一端子が接続されている。共振型インバータ11の他出力端子と負荷RLの他端子は共通接続されている。これにより、自動整合回路12は平衡型の構成となっており、共振型インバータ11と負荷RLとの間を自動的にインピーダンス整合する。
【0018】
リアクタンス検出回路14は、共振型インバータ11、自動整合回路12、及び負荷RLからのフィードバック信号に基づいて、負荷RLの変動により変化する負荷リアクタンスXloadを検出する。
【0019】
駆動回路13は、スイッチング素子SW1、SW2を駆動する回路であり、駆動回路13は、共振型インバータ11の出力と同期して周期的且つ位相の異なる二つの信号を出力する。駆動回路13が出力する一方の信号の電圧は、共振型インバータ11の出力電圧Vsの位相φを基準の0°とすると、通常時(後述する所定の期間T1外)には0から180°の範囲内の所定の位相φ1(例えば、90°)を有して出力する。駆動回路13が出力する他方の信号の電圧は、通常時には共振型インバータ11の出力電圧Vsに対し所定の位相φ1に180°加えた位相φ2(例えば、270°)を有して出力する。
【0020】
図2に使用例を示したが、送電システム10は、電動走行車20に非接触給電する際に用いられる。電動走行車20は、車体の下部に設置された受電電極21、整流回路22、及びバッテリ23を内蔵しており、受電電極21から交流電力を受電すると整流回路22により直流変換してバッテリ23に充電する。電動走行車20は、バッテリ23に充電された電力を用いて走行できる。
【0021】
共振型インバータ11、自動整合回路12、及び送電電極15は、電気的に接続されており、電動走行車20が送電電極15の上を走行すると、送電電極15が発生させる電界又は磁界により受電電極21を通じて電動走行車20の内部に非接触給電できる。電動走行車20の側では様々な影響により負荷変動する。なお、この場合の負荷RLは、送電電極15から給電対象となるバッテリ23までと定義される。一例として、自動整合回路12を持たず、共振型インバータ11と負荷RLが直接接続された場合の、共振型インバータ11と負荷RLのパラメータとの送電電力の特性を
図3に示した。この場合、
図1に記載したインピーダンスZ
Aと負荷RLのインピーダンスは同じになる。
図3に示したように、共振型インバータの送電電力を多くするには、インピーダンスZ
A(=R
ZA+jX
ZA)を適切なインピーダンスとなるように、自動整合回路12を追加して負荷RLとの間で整合を図ると良い。このとき、リアクタンスX
ZAはその絶対値がゼロに近いほど効率的に送電できる。
【0022】
図1に示したように、送電システム10は、自動整合回路12及びリアクタンス検出回路14により負荷RL側の負荷リアクタンスX
loadの変化を検出した結果に基づいて、自動整合回路12の駆動信号を変化させる駆動回路13を備えている。この駆動回路13は、駆動信号を自動整合回路12に印加することでインピーダンスZ
Aを調整し、共振型インバータと負荷RLとの間でインピーダンスを自動整合するように構成されている。
【0023】
以下、共振型インバータ11、駆動回路13、リアクタンス検出回路14の具体例について
図4を参照しながら説明する。なお、
図4と
図1との間で対応する構成に対し、百の位に1を付した符号を用いて説明する。
【0024】
図1に示した共振型インバータ11は、
図4に示すようにE級動作するE級インバータ111により構成されている。E級インバータ111は、自動整合回路112へ出力電圧Vsを出力するとともに、出力電圧Vsと位相を同期させた信号を駆動回路113a、113bに出力する。駆動回路113aは、
図1に示した駆動回路13の一方の信号を出力する回路に対応して位相φ
1の駆動信号を出力する構成であり、駆動回路113bは、
図1の駆動回路13の他方の信号を出力する回路に対応して位相φ
2の駆動信号を出力する構成である。
【0025】
このとき、E級インバータ111の出力電圧Vsの位相φ=0°としたとき、E級インバータ111は、この出力電圧Vsの位相φに同期した位相φ=0°のクロック信号電圧を駆動回路113a、113bに出力する。
【0026】
駆動回路113aは、E級インバータ111から取得したクロック信号の電圧位相を90°遅延させる遅延回路31、遅延回路31の出力電圧の位相をさらに所定の位相α°だけ遅延させる遅延回路32、これらの遅延回路31、32の出力をリアクタンス検出回路114の検出結果に基づいて切り替えるマルチプレクサ33を備え、駆動回路113aは、マルチプレクサ33を通じてスイッチング素子SW1のゲートに駆動信号を出力する。ここで、α°は0°を超え90°未満の所定の角度である。
【0027】
他方、駆動回路113bは、E級インバータ111から取得したクロック信号の電圧位相を270°遅延させる遅延回路34、遅延回路34の出力電圧の位相をさらに所定の位相α°だけ遅延させる遅延回路35、これらの遅延回路34、35の出力をリアクタンス検出回路114の検出結果に基づいて切り替えるマルチプレクサ36を備え、駆動回路113bは、マルチプレクサ36を通じてスイッチング素子SW2のゲートに駆動信号を出力する。
【0028】
すなわち駆動回路113a、113bは、E級インバータ111から取得したクロック信号を、それぞれ位相90+α°、位相270+α°だけ遅延させることで、自動整合回路112の駆動信号を生成する。
【0029】
リアクタンス検出回路114は、電圧検出回路41、遅延回路42、電圧検出回路43、及びコンパレータ44を備え、負荷リアクタンスXloadに基づく信号を検出するフィードバック回路である。
【0030】
電圧検出回路41は、自動整合回路112のコンデンサC1及びC2の直列接続回路の両端電圧VCAを検出する。
【0031】
遅延回路42は、電圧検出回路41の出力電圧位相を所定の位相β°だけ遅延させる。β°は0°を超え90°未満の所定の角度である。電圧検出回路43は、これらの電圧検出回路41及び遅延回路42の出力電圧の差分を検出することで、コンデンサC1及びC2の直列接続回路の両端電圧VCAの減少速度を検出する。
【0032】
コンパレータ44は、電圧検出回路43の検出電圧と所定の参照電圧Vrefとを比較し、この比較結果をマルチプレクサ33、36に出力する。このとき、コンデンサC1及びC2の電圧VCAの減少速度が所定以上となると、つまりは、電圧検出回路43の検出電圧が参照電圧Vrefを上回ると、コンパレータ44がHレベルを出力し、マルチプレクサ33、36を制御することで遅延回路32、35を通過するように切り替える。逆に、電圧VCAの減少速度が基準を下回ったとき、つまりは、電圧検出回路43の検出電圧が参照電圧Vrefを下回ったとき、コンパレータ44がLレベルを出力し、マルチプレクサ33、36を制御することで遅延回路31、34を通過するように切り替える。このようにしてフィードバック制御する。
【0033】
自動整合回路112は、スイッチング素子SW1をE級インバータ111の出力電圧Vsの位相Φ=0°と0~180°の範囲で異なる位相で動作させ、スイッチング素子SW2をSW1と180°異なる位相で動作させることで、E級インバータ111の出力電圧Vsとは異なる位相の電圧源として動作する。負荷リアクタンスXloadによって生じたE級インバータ111の出力電圧Vsと負荷電流ILとの位相差に応じて自動整合回路112の出力電圧VAがコンデンサC1、C2の充放電を繰り返す度に変化し、最終的に負荷電流ILはインバータの出力電圧Vsと同位相となる。
【0034】
<本実施形態の課題の詳細>
次に、送電回路として共振型インバータ11、E級インバータ111を用いたときに、自動整合回路12、112により負荷リアクタンスXloadを相殺する際の課題を詳細に説明する。
【0035】
図5に示すように従来技術を用いたときには、負荷リアクタンスX
loadが急減した時の非定常状態時に特に問題を生じる。負荷リアクタンスX
loadが急増した場合、非定常状態の間、負荷リアクタンスX
load>(自動整合回路112が相殺しているリアクタンス)となる。このため、
図5の左図のタイミングta以降に示すように、その差分がインピーダンスZ
Aのリアクタンス成分X
Aに誘導性リアクタンスとして現れる。
【0036】
逆に、負荷リアクタンスX
loadが急減した場合、非定常状態の間、負荷リアクタンスX
load<(自動整合回路112が相殺しているリアクタンス)となるため、
図5の右図のタイミングtb以降に示すように、その差分が容量性リアクタンスとして現れる。このとき、負荷リアクタンスX
loadの時間当たりの変化量が大きい程、非定常状態の間にインピーダンスZ
Aに生じる容量性リアクタンスの最大値は大きくなる。
【0037】
非定常状態の時間は、給電の一サイクルの数秒程度に比較しても極短時間の数μsから数ms程度である。このため、非定常状態の間のみ給電電力が低下しても大きな問題とはならない。しかし、例えば送電回路として共振型インバータ11を用いた場合、共振型インバータ11の出力端子から見たインピーダンスZAのリアクタンスXZAの数値次第では、共振型インバータ11を構成するスイッチング素子の損失が大幅に増加し、熱破壊する虞も考えられる。
【0038】
図6に一例として、自動整合回路112を持たず、E級インバータ111と負荷RLが直接接続された場合の、E級インバータ111と負荷RLのパラメータとスイッチング素子損失の特性を示す。前述した
図3に示したように、共振型インバータ11の送電電力を多くするには、共振型インバータの出力端子から見た自動整合回路と負荷の合計インピーダンスZ
A(自動整合回路が無い場合は負荷インピーダンスと等しい) の虚部X
zAをゼロに近づける必要があるが、
図6に示すように、虚部X
ZAが容量性になった場合、多大な損失が発生する虞がある。
【0039】
<本実施形態のシステム動作及び効果>
本実施形態の送電システム10では、リアクタンス検出回路114は、自動整合回路112のコンデンサC1、及びC2の直列接続回路の両端電圧V
CAの減少速度を検出している。
図7に示すように、負荷リアクタンスX
loadが急減を開始したタイミングt1において電圧V
CAもまた急減を開始する。このタイミングt1以降、駆動回路113a、113bは、自動整合回路112を駆動する駆動信号の位相をα°遅延させる。
【0040】
図7に示すように、自動整合回路112の電圧V
CAは、急増/急減時において負荷リアクタンスX
loadに正の相関性を備えて変化することから、負荷リアクタンスX
loadが所定以上の減少速度となる所定の期間T1(=t1~t2)の間だけ駆動信号の位相をα°遅らせることができる。所定の期間T1とは、負荷リアクタンスX
loadの時間当たりの減少量が所定以上となることをリアクタンス検出回路114が検出している期間に相当する。駆動回路113a、113bは、所定の期間T1内では、それぞれ当該期間外の信号に対し、さらに位相をα°遅らせた信号を出力することになる。
【0041】
なお、電圧VCAの減少速度が十分下がったタイミングt2において電圧VCAは概ねゼロとなる。タイミングt2において、駆動回路113a、113bが、リアクタンス検出回路114の検出結果に基づいて自動整合回路112を駆動する駆動信号を元の位相に戻している。このとき自動整合回路112の電圧VCAは急減後の負荷リアクタンスXloadに応じた電圧まで増加する。
【0042】
これにより、E級インバータ111においてスイッチング損失の発生時間を短縮でき、E級インバータ111における発熱を抑制でき、発熱対策を簡易的に実現できる。
【0043】
<非定常状態における詳細変化の説明>
また、負荷リアクタンスX
loadが急減した時の非定常状態の所定の期間T1内の詳細な変化を
図8、
図9に比較して示している。負荷電流ILによる充電Ch、放電dChの作用により、電圧V
CAが徐々に低下する。このとき、
図8に示した従来技術での変化の様子から見て取れるように、駆動回路113a、113bが駆動信号の位相φ
1、φ
2を90°に固定して出力した場合、負荷リアクタンスX
loadの低下速度に比べ、電圧V
CAの低下速度は極端に遅い。電圧V
CAが下がりきるまでの時間は、E級インバータ111にて多大なスイッチング損失が発生する。
【0044】
本実施形態によれば、
図9に示したように、所定の期間T1の中では、駆動回路113a、113bが、電圧V
CAが低下を始めたタイミングt1から位相φ
1、φ
2をさらに+α°だけ遅延させているため、一周期当たりのコンデンサC1、C2の放電dChの量を増やすことができ、従来技術よりも電圧V
CAを素早く低下させることができる。これにより、負荷リアクタンスX
loadが急減した時に、E級インバータ111で多大なスイッチング損失が発生する時間を短縮できる。
【0045】
<まとめ>
本実施形態によれば、駆動回路113a、113bは、E級インバータ111の出力と同期して周期的且つ位相の異なる二つの信号を出力し、うち一方の信号の電圧は、E級インバータ111の出力電圧VSの位相φ(=0°)に対し所定の位相差φ+90°を有しており、他方の信号の電圧はE級インバータ111の出力電圧VSに対し所定の位相差φ+90°に180°加えた位相差を有している。
【0046】
さらに、異なる二つの信号の電圧は、所定の期間T1ではそれぞれ期間T1外での信号の電圧に対し、さらに位相がα°遅れた信号の電圧を出力している。これにより、負荷リアクタンスXloadが急減した非定常状態のときにE級インバータ111の出力端子から見た自動整合回路と負荷RLの合計インピーダンスZAのリアクタンス成分XZAが容量性となる時間を短縮し、スイッチング損失の発生時間を短縮して損失を低減できる。
【0047】
また、リアクタンス検出回路14、114が、負荷リアクタンスXloadの単位時間当たりの減少量が所定以上となることを検出している所定の期間T1の間に位相がα°遅れた信号を出力している。この方式を採用した第1実施形態によれば、後述する第2実施形態に比較して整合の精度を高くできる。
【0048】
(第1実施形態の第1変形例)
第1実施形態では、リアクタンス検出回路114がコンデンサC1及びC2の直列接続回路の両端電圧VCAを検出する形態を示したが、これに限定されるものではない。リアクタンス検出回路114によりコンデンサC1、C2の両端電圧VCAの減少勾配を検出する際には、スイッチング素子SW1のドレインソース間電圧の振幅の減少勾配を検出しても良いし、スイッチング素子SW2のドレインソース間電圧の振幅の減少勾配を検出しても良い。
【0049】
第1実施形態に示したハーフブリッジ型の自動整合回路12、112の場合、コンデンサC1及びC2の直列接続回路の両端電圧VCAは、スイッチング素子SW1及びSW2の各ドレインソース間電圧の最大値と等しい。このため、スイッチング素子SW1又はSW2のドレインソース間電圧の減少勾配が所定値より大きくなったときに駆動信号をα°遅延させると共に、所定値より小さくなった時点で駆動信号を元に戻すようにすると良い。これにより、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0050】
(第1実施形態の第2変形例)
また、リアクタンス検出回路114によりコンデンサC1、及びC2の直列接続回路の両端電圧VCAの減少勾配を検出することに代えて、自動整合回路112の電源側ノードNinと負荷側ノードNoutとの間の電圧振幅の減少勾配を検出するようにしても良い。
【0051】
自動整合回路12、112のコンデンサC1及びC2の直列接続回路の両端電圧VCAは、電源側ノードNinと負荷側ノードNoutとの間の電圧振幅の2倍に等しい。このため、前述と同様に、電圧振幅の減少勾配が所定値以上となったときに駆動信号をα°遅延させると共に、所定値を下回った時点で駆動信号を元に戻すようにすると良い。これにより、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0052】
(第1実施形態の第3変形例)
また、リアクタンス検出回路114によりコンデンサC1、及びC2の直列接続回路の両端電圧V
CAの減少勾配を検出することに代えて、E級インバータ111の出力電圧Vsに対する負荷RLへの負荷電流IL(
図1、
図4参照)の位相の進み量の増加勾配を検出するようにしても良い。負荷電流ILの位相の進み量の増加勾配が所定値以上となったときに駆動信号をα°遅延させると共に、所定値を下回った時点で元に戻すようにすると良い。これにより、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0053】
(第2実施形態)
第2実施形態について
図10及び
図11を参照しながら説明する。第2実施形態の送電システム210が第1実施形態と異なるところは、所定の期間として、リアクタンス検出回路214が負荷リアクタンスX
loadを所定の値以上、つまりは、負荷リアクタンスX
loadに比例して増加する電圧V
CAを閾値以上と検出している期間としているところにある。
【0054】
図10に示すように、駆動回路113aの遅延回路31は、E級インバータ111から取得したクロック信号を0°~180°の間の所定の位相φ
1、ここではφ
1=90°だけ遅延させ、自動整合回路112を構成するスイッチング素子SW1の駆動信号を生成する。
【0055】
また駆動回路113bの遅延回路34は、E級インバータ111から取得したクロック信号を所定の位相φ1に180°を加算した位相φ2=270°だけ遅延させ、自動整合回路112を構成するスイッチング素子SW2の駆動信号を生成する。
【0056】
リアクタンス検出回路214は、コンデンサC1及びC2の直列接続回路の両端電圧V
CAを検出する電圧検出回路43と、電圧検出回路43の出力電圧を
図11に記載した両端電圧V
CAの閾値に基づいて設定した参照電圧Vrefと比較するコンパレータ44とを備えている。ここでは、リアクタンス検出回路214は、コンデンサC1及びC2の直列接続回路の両端電圧V
CAを検出する形態を示すが、例えば分圧回路を構成するなど回路構成を変更し、コンデンサC1、C2の両端電圧V
CAと比例関係を持つ電圧を検出するようにしても良い。
【0057】
電圧検出回路43が、自動整合回路112のコンデンサC1及びC2の直列接続回路の両端電圧VCAを検出すると、マルチプレクサ33、36は、VCAが閾値以下のとき(負荷リアクタンスXloadが所定値以下の時)に遅延回路32、35を通過しないように接続し、両端電圧VCAが閾値を超えるとき(負荷リアクタンスXloadが所定値以上の時)にそれぞれ遅延回路32、35を通過するように接続する。
【0058】
すなわち、自動整合回路112のコンデンサC1及びC2の直列接続回路の両端電圧VCAが閾値電圧以上(負荷リアクタンスXloadが所定値以上)になったときに、駆動回路113a、113bは駆動信号の位相をα°遅らせるように構成されている。
【0059】
これにより、従来技術では誘導性を持った負荷リアクタンスX
loadの大きさに比例してどこまでも大きくなる電圧V
CAに対して制限が掛かる。
図11に示すように、負荷リアクタンスX
loadが急減したときに生じる容量性リアクタンスの大きさを抑えることができ、結果としてX
loadが急減した時に生じるE級インバータ111のスイッチング素子損失の最大値を小さくできる。
【0060】
また、本実施形態によれば、負荷リアクタンスXloadに依存した電圧VCAの絶対値を検出すれば良くなることから、第1実施形態のリアクタンス検出回路114に比較してリアクタンス検出回路214をシンプルに構成できる。
【0061】
(第2実施形態の第1変形例)
第1実施形態の第1変形例と同様に、第2実施形態の構成においても、リアクタンス検出回路214によりコンデンサC1及びC2の直列接続回路の両端電圧VCAの絶対値を検出する際、スイッチング素子SW1のドレインソース間電圧の振幅の絶対値を検出しても良いし、スイッチング素子SW2のドレインソース間電圧の振幅の絶対値を検出しても良い。これにより、第2実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0062】
(第2実施形態の第2変形例)
第1実施形態の第2変形例と同様に、第2実施形態の構成においても、リアクタンス検出回路214によりコンデンサC1及びC2の直列接続回路の両端電圧VCAの絶対値を検出することに代えて、自動整合回路112の電源側ノードNinと負荷側ノードNoutとの間の電圧振幅の絶対値を検出するようにしても良い。これにより、第2実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0063】
(第3実施形態)
第3実施形態について
図12から
図14を参照しながら説明する。自動整合回路112の構成は、前述実施形態の
図3に示したハーフブリッジ型の平衡回路に限られない。
【0064】
例えば、
図12に自動整合回路312を示すように、スイッチング素子SW1~SW4を用いてフルブリッジ構成としながら平衡回路により構成しても良い。スイッチング素子SW1~SW4は、それぞれボディダイオードD
1~D
4が付加されたNチャネル型のMOSFETにより構成されている。もちろん、Pチャネル型のMOSFETでもゲート駆動信号の極性を逆にすれば第1実施形態と同様の効果が得られ、ボディダイオードの代わりにファストリカバリダイオードをMOSFETのドレインソース間と並列に配置しても同様の効果が得られる。
【0065】
このとき駆動回路113a、113bは、スイッチング素子SW1及びSW4を同時にオンオフ駆動すると共に、スイッチング素子SW2及びSW3を同時にオンオフ駆動する。スイッチング素子SW1及びSW4とスイッチング素子SW2及びSW3とは相補的にオンオフ駆動される。
【0066】
また、
図13に他の自動整合回路412の構成例を示している。自動整合回路412はハーフブリッジ構成としながら非平衡回路により構成されている。さらに
図14に他の自動整合回路512の構成例を示している。自動整合回路512は、スイッチング素子SW1~SW4を用いてフルブリッジ構成としながら非平衡回路により構成されている。このような自動整合回路412、512の構成を適用した場合でも同様の作用効果を奏することになる。
【0067】
(他の実施形態)
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、種々変形して実施することができ、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。例えば、以下に示す変形又は拡張が可能である。
【0068】
駆動回路113aが、E級インバータ111の出力電圧Vsの位相φ(=0°)に対して遅延させる位相差を90°とした形態を説明したが、0から180°の範囲内で適宜調整しても良い。この場合、駆動回路113bは、その信号に対して180°遅延させる信号を駆動信号として自動整合回路112に出力すれば良い。
【0069】
送電回路として共振型インバータ11、E級インバータ111を適用したが、これに限られるものではない。一般に、多くの交流電力を送電する送電回路は、制御のため電源出力の周波数と同等以上の周波数のクロックや制御信号を使用して電力を送電している。このため、本願に係る「送電回路」は、共振型インバータ11、E級インバータ111以外の高周波電源に適用できることは技術常識である。
【0070】
また、クロック信号や制御信号を必要としない送電回路を適用しても良い。この場合、送電回路の電源の出力電圧Vs又は出力電流に基づいて自動整合回路112の制御信号を生成できる。
【0071】
本発明は、前述した実施形態に準拠して記述したが、本発明は当該実施形態や構造に限定されるものではないと理解される。本発明は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本発明の範畴や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0072】
図面中、11は共振型インバータ(送電回路)、111はE級インバータ(送電回路)、12、112、212、312、412、512は自動整合回路、13、113a、113bは駆動回路、14、114はリアクタンス検出回路(検出回路)、を示す。