(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069359
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】人工衛星、送電システム、及び送電方法
(51)【国際特許分類】
B64G 1/42 20060101AFI20230511BHJP
B64G 1/44 20060101ALI20230511BHJP
B64G 1/66 20060101ALI20230511BHJP
B64G 1/36 20060101ALI20230511BHJP
B64G 1/10 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
B64G1/42 300
B64G1/44 300
B64G1/66 A
B64G1/36 800
B64G1/10 464
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021181151
(22)【出願日】2021-11-05
(71)【出願人】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】小澤 雄一郎
(57)【要約】
【課題】太陽系における地球以外の惑星または衛星である天体の表面の長期間陰または永久陰において、探査機などの動力源となる電気エネルギーを取得できるようにする。
【解決手段】人工衛星は10、太陽系における地球以外の惑星または衛星である天体1を周回し、天体1の表面において太陽光が所定の長期間または永久に当たらない長期間陰または永久陰に位置する受電装置20に送電する。人工衛星10は、太陽光から電気エネルギーを生成する発電装置11と、この電気エネルギーを電磁波に変換し、この電磁波を天体1の表面における受電装置20に送信する送電装置13とを備える。人工衛星10は、受電装置20の上方領域を通過する軌道で繰り返し天体1を周回する。送電装置13は、この上方領域から受電装置20に電磁波を送信する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽系における地球以外の惑星または衛星である天体を周回し、当該天体の表面において太陽光が所定の長期間または永久に当たらない長期間陰または永久陰に位置する受電装置に送電するための人工衛星であって、
太陽光から電気エネルギーを生成する発電装置と、
当該電気エネルギーを電磁波に変換し、当該電磁波を、前記天体の表面における受電装置に送信する送電装置と、を備え、
前記人工衛星は、前記受電装置の上方領域を通過する軌道で繰り返し前記天体を周回し、前記送電装置は、当該上方領域から前記受電装置に前記電磁波を送信する、人工衛星。
【請求項2】
前記送電装置は、前記発電装置が生成した前記電気エネルギーを蓄える蓄電池を有し、
前記送電装置は、前記蓄電池に蓄えられた前記電気エネルギーを前記電磁波に変換し、当該電磁波を前記上方領域から前記受電装置に送信する、請求項1に記載の人工衛星。
【請求項3】
前記天体の表面を撮像するカメラと、
前記カメラにより撮像された画像に映った、前記受電装置の位置を表わす指標に基づいて、前記人工衛星から見た前記受電装置の方向を目標方向として検出する画像処理部とを備え、
前記送電装置は、検出された前記目標方向に前記電磁波を送信する、請求項2に記載の人工衛星。
【請求項4】
前記送電装置は、前記カメラにより撮像された画像内における前記指標の有無と、前記目標方向とに基づいて、前記人工衛星が前記上方領域を通過する度に、前記受電装置の前記上方領域から前記目標方向へ前記電磁波を送信する、請求項3に記載の人工衛星。
【請求項5】
前記指標は、発光している複数の発光部であり、
前記画像処理部は、前記複数の発光部の配置パターンを表わすパターン情報と、前記画像とに基づいて、前記人工衛星から見た前記受電装置の方向を目標方向として検出する、請求項3又は4に記載の人工衛星。
【請求項6】
前記受電装置は、前記複数の発光部を含む1群の発光部を有しており、
発光する複数の発光部が、前記1群の発光部から選択されるように、且つ、予め設定された複数の配置パターンのいずれかを形成するという条件の下で変更され、
前記画像処理部は、
前記複数の配置パターンをそれぞれ表わす複数のパターン情報を記憶しており、
前記複数のパターン情報と前記画像とに基づいて、前記複数のパターン情報のいずれかの前記配置パターンを形成する前記複数の発光部が前記画像内に存在するかを判断し、存在する場合には、当該複数の発光部に基づいて前記目標方向を検出する、請求項5に記載の人工衛星。
【請求項7】
前記受電装置は、前記複数の発光部を含む1群の発光部を有しており、
発光する複数の発光部が、前記1群の発光部から選択されるという条件の下で変更され、当該変更後の発光する複数の発光部の配置パターンを表わすパターン情報が、前記受電装置から前記人工衛星に送信され、
前記画像処理部は、前記人工衛星が受けた前記パターン情報と前記画像とに基づいて、当該パターン情報の前記配置パターンを形成する前記複数の発光部が前記画像内に存在するかを判断し、存在する場合には、当該複数の発光部に基づいて前記目標方向を検出する、請求項5に記載の人工衛星。
【請求項8】
前記天体の重力方向に対する、前記人工衛星の本体の姿勢を目標姿勢に保つ姿勢制御装置と、
前記天体の重力方向を検出する重力方向検出部とを備え、
前記送電装置は、前記画像処理部により検出された前記目標方向と、前記重力方向検出部により検出された前記重力方向と基づいて、当該重力方向に対する当該目標方向の角度の大きさが所定角度範囲内である時間にわたって、前記受電装置の前記上方領域から前記目標方向へ前記電磁波を送信する、請求項3~7のいずれか一項に記載の人工衛星。
【請求項9】
前記天体の重力方向に対する、前記人工衛星の本体の姿勢を目標姿勢に保つ姿勢制御装置と、
前記受電装置から送信されるパイロット信号を受信して、当該パイロット信号の到来方向を目標方向として検出する信号受信部と、
前記天体の重力方向を検出する重力方向検出部と、を備え、
前記送電装置は、前記信号受信部により検出された前記目標方向と、前記重力方向検出部により検出された前記重力方向と基づいて、当該重力方向に対する当該目標方向の角度の大きさが所定角度範囲内である時間にわたって、前記受電装置の前記上方領域から前記目標方向へ前記電磁波を送信する、請求項1又は2に記載の人工衛星。
【請求項10】
前記天体は月である、請求項1~9のいずれか一項に記載の人工衛星。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の人工衛星と、前記受電装置とを備える、送電システム。
【請求項12】
太陽系における地球以外の惑星または衛星である天体を周回する人工衛星から、当該天体の表面において太陽光が所定の長期間または永久に当たらない長期間陰または永久陰に位置する受電装置に送電する送電方法であって、
前記受電装置の上方領域を通過する軌道で繰り返し前記天体を周回するように請求項1~10のいずれか一項に記載の人工衛星を飛行させ、
前記人工衛星に設けた発電装置により、太陽光から電気エネルギーを生成し、
前記人工衛星の送電装置により、前記電気エネルギーを電磁波に変換して当該電磁波を前記上方領域から前記受電装置に送信し、前記受電装置は、前記送電装置からの当該電磁波を電気エネルギーに変換する、送電方法。
【請求項13】
前記人工衛星は前記上方領域を通過する度に、前記人工衛星の送電装置により、当該上方領域から前記受電装置に前記電磁波を送信し、
前記受電装置により変換された前記電気エネルギーにより、前記永久陰または前記長期間陰において所定の機械を活動させる、請求項12に記載の送電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地球以外の惑星や衛星(例えば月)などの天体を周回する人工衛星から、当該天体の表面に配置された受電装置へ送電する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
月などの天体の表面において活動する探査機などの機械は、その動力源として電気エネルギーを必要とする。例えば、月面において、太陽光発電パネルを配置し、このパネルにより、太陽光から電気エネルギーを生成して探査機の蓄電池に蓄える。探査機などの機械は、蓄電池の電気エネルギーを動力源として活動することができる。
【0003】
特許文献1には、本願の実施形態の一部に関連する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、太陽系における地球以外の惑星や衛星の表面には、太陽光が長期間(例えば地球時間で半月以上の間)当たらない領域(以下で長期間陰という)や、太陽光が永久に当たらない領域(以下で永久陰という)が存在する。
【0006】
例えば、月の自転周期は約27日であるので、月面の多くの領域は、約2週間にわたって太陽光が当たらない長期間陰である。月の極域にある大きな(例えば数百kmにわたる)クレーターの内面には永久陰も存在する。
【0007】
したがって、長期間陰または永久陰において、太陽光により電気エネルギーを生成することができず、探査機などの機械は、その動力源としての電気エネルギーを得ることが困難である。
【0008】
そこで、本発明の目的は、太陽系における地球以外の惑星または衛星である天体の表面の長期間陰または永久陰において、探査機または他の機械の動力源となる電気エネルギーを取得できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、本発明による人工衛星は、太陽系における地球以外の惑星または衛星である天体を周回し、当該天体の表面において太陽光が所定の長期間または永久に当たらない長期間陰または永久陰に位置する受電装置に送電するための人工衛星であって、
太陽光から電気エネルギーを生成する発電装置と、
当該電気エネルギーを電磁波に変換し、当該電磁波を、前記天体の表面における受電装置に送信する送電装置と、を備え、
前記人工衛星は、前記受電装置の上方領域を通過する軌道で繰り返し前記天体を周回し、前記送電装置は、当該上方領域から前記受電装置に前記電磁波を送信する。
【0010】
本発明による送電システムは、上述の人工衛星と上述の受電装置とを備える。
【0011】
本発明による送電方法は、太陽系における地球以外の惑星または衛星である天体を周回する人工衛星から、当該天体の表面において太陽光が所定の長期間または永久に当たらない長期間陰または永久陰に位置する受電装置に送電する送電方法であって、
前記受電装置の上方領域を通過する軌道で繰り返し前記天体を周回するように上述の人工衛星を飛行させ、
前記人工衛星に設けた発電装置により、太陽光から電気エネルギーを生成し、
前記人工衛星の送電装置により、前記電気エネルギーを電磁波に変換して当該電磁波を前記上方領域から前記受電装置に送信し、前記受電装置は、前記送電装置からの当該電磁波を電気エネルギーに変換する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、人工衛星は、天体表面の長期間陰または永久陰における受電装置の上方領域を通過する軌道で繰り返し天体を周回するとともに、その発電装置により太陽光から電気エネルギーを生成する。人工衛星の送電装置は、生成した電気エネルギーを電磁波に変換して、当該電磁波を受電装置の上方領域から受電装置に送信する。受電装置は、当該電磁波を受けて、当該電磁波を電気エネルギーに変換する。したがって、天体表面の長期間陰または永久陰において、探査機または他の機械の動力源となる電気エネルギーを取得できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態による送電システムを示すブロック図である。
【
図3】受電装置の上方領域を通過する時の人工衛星を示す説明図である。
【
図5】複数の発光部の配置パターンを利用する場合の送電システムを示すブロック図である。
【
図6】本発明の実施形態による送電方法を示すフローチャートである。
【
図7】変更例1の説明図であり、受電装置の上方領域を通過する時の人工衛星を示す。
【
図8】変更例1による送電方法を示すフローチャートである。
【
図9】変更例3による送電システムを示すブロック図である。
【
図10】変更例3による送電方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0015】
(送電システム)
図1は、本発明の実施形態による送電システム100を示すブロック図である。送電システム100は、天体1(
図2)を周回する人工衛星10と、天体1の表面に配置された受電装置20を備え、人工衛星10から受電装置20へ送電するシステムである。
図2は、天体1を周回する人工衛星10を示す。
図3は、受電装置20の上方領域を通過する時の人工衛星10を示す。
【0016】
なお、人工衛星10は、例えば天体1(一例では月)の表面から約100km以内または100km程度の高さで天体1を周回してよいが、人工衛星10は、他の高さで天体1を周回してもよい。
【0017】
天体1は、例えば月(地球の衛星)であってよい。ただし、本発明によると、天体1は、地球以外の太陽系の惑星や、当該惑星の衛星であってもよい。天体1の表面は、ガスではなく固体の物質により形成されている。なお、天体1は、大気が無いものであってもよいが、大気(例えば希薄な大気)が存在するものであってもよい。
【0018】
(受電装置)
受電装置20は、天体1の表面における長期間陰または永久陰内に位置する。例えば、受電装置20は、地球から打ち上げられ天体1の表面に着陸させられて配置されてもよいし、天体1において製造され又は組み立てられて天体1の表面に配置されてもよい。これにより、受電装置20は、天体1の表面における長期間陰または永久陰内に位置してよい。長期間陰は、太陽光が長期間(例えば地球時間で3日、1週間、又は2週間(半月)以上の間)連続して当たらない領域である。永久陰は、太陽光が永久に当たらない領域である。永久陰は、例えば天体1(一例では月)の極域におけるクレーターの内面に存在する領域であってよい。
【0019】
受電装置20は、例えば、長期間陰または永久陰において所定の機械2が動作(活動)するための動力源として電気エネルギーを人工衛星10から受け取る。機械2は、この電気エネルギーを消費することにより動作可能である。
【0020】
機械2は、例えば、長期間陰または永久陰において探査を行う探査機であってよい。探査機2は、天体1の表面上を移動(例えば走行)可能に構成されていてよい。探査機2は、例えば、天体1表面の地形を観測する機器(例えばレーザレンジファインダやカメラ)と、天体1表面の掘削、岩石の切削、岩石の採取等の作業を行う作業装置(例えばロボットアーム)との両方または一方を備えていてよい。また、探査機2は、他の探査用の機器又は装置を備えるものであってもよい。
【0021】
受電装置20は、受電部21と蓄電池22を有していてよい。受電部21は、人工衛星10から送信された電磁波を受けて当該電磁波を電気エネルギーに変換する。ここで、電磁波は、本実施形態では電波(マイクロ波またはミリ波)であるが(以下同様)、これらに限定されない。受電部21は、例えば、受電レクテナ(rectenna:rectifying antenna)であってよい。受電レクテナ21は、アンテナと整流回路を有し、人工衛星10から送信された電磁波を当該アンテナで受信し、受信した電磁波を当該整流回路により直流電力(電気エネルギー)に変換する。なお、受電レクテナ21を高効率で動作させるための制御装置が、受電装置20に設けられてもよい。
【0022】
受電部21は、上記電磁波(マイクロ波またはミリ波)を受ける受電面を有する。受電面は、天体1の重力方向と反対方向または当該反対方向に対して斜めの方向を向いていてよい。受電面と正対する方向から見た場合、受電面の形状は、矩形、円形、又は楕円形であってよい。また、受電面は、平面に形成されていてよい。ただし、受電面の形状は、受電部21の設置箇所の地形にも拠る場合があるので、これらの形状に限定されない。
【0023】
受電部21(例えば受電レクテナ21の上記アンテナ)の上記受電面と正対する方向から見た場合、当該方向に直交する各方向における当該受電面の寸法は、10m以上であり100m以下であってよいが(一例では当該寸法は30m程度)、この範囲に限定されない。
【0024】
蓄電池22は、受電部21により変換された電気エネルギーを蓄える。
【0025】
受電装置20は、上記所定の機械2とは別に設けられてよい。この場合、受電装置20は、充電器23を備えている。充電器23は、上述の蓄電池22に蓄えられた電気エネルギーを上記所定の機械2(例えば探査機2)の蓄電池に供給する。したがって、所定の機械2の蓄電池には、受電装置20の充電器23からの電気エネルギーが蓄えられる。例えば、所定の機械2は、受電装置20の充電器23の位置まで移動し、当該位置で充電器23から電気エネルギーを受ける。この場合、受電装置20(充電器23)は、長期間陰または永久陰内の一定位置に充電ステーションとして配置されてよい。
【0026】
なお、本発明によると、受電装置20は、上述の所定の機械2(例えば探査機2)に設けられてもよい。この場合、所定の機械2は、上述の蓄電池22に蓄えられた電気エネルギーにより動作可能であり、受電装置20は、上述の充電器23を有していなくてよい。また、この場合、機械2は、人工衛星10の軌道の下方の領域(長期間陰または永久陰)内で活動してよい。
【0027】
(人工衛星)
人工衛星10は、地球から打ち上げられて、天体1を周回する軌道に投入される。これにより、人工衛星10は、受電装置20の上方の領域(以下で単に上方領域ともいう)を通過する上記軌道で繰り返し天体1を周回するようになる。
【0028】
人工衛星10は、発電装置11と、蓄電池12と、送電装置13と、カメラ14と、画像処理部15と、姿勢調整部13bとを備える。
【0029】
発電装置11は、人工衛星10が上記軌道上を飛行しながら、太陽光から電気エネルギーを生成する。発電装置11は、太陽光を受けている時間は、常に、太陽光から電気エネルギーを生成してよい。発電装置11は、例えば太陽光発電パネルであってよい。
【0030】
蓄電池12は、発電装置11が生成した電気エネルギーを蓄える。
【0031】
送電装置13は、発電装置11が生成した電気エネルギーを電磁波に変換し、当該電磁波を受電装置20に送信する。送電装置13は、後述の目標方向に集中的に(例えば目標方向にのみ)電磁波を送信するように構成されていてよい。本実施形態では、送電装置13は、蓄電池12に蓄えられた電気エネルギーを電磁波に変換し、当該電磁波を受電装置20に送信する。
【0032】
本実施形態では、人工衛星10が受電装置20の上方領域を通過する度に、送電装置13は、当該上方領域から受電装置20に電磁波を送信する。例えば、人工衛星10が受電装置20の上方領域を通過する度に、送電装置13は単位時間あたりに送電できる最大のエネルギーの電磁波を受電装置20に送信してよいが、本発明は、これに限定されない。
【0033】
カメラ14は、人工衛星10が上記軌道上を飛行している時に、人工衛星10から天体1の表面の画像を取得する。カメラ14は、天体1の表面の可視光画像を生成する可視光カメラ(例えばCCDカメラ)であってよい。カメラ14は、人工衛星10の本体10a(
図2)に取り付けられている。
【0034】
人工衛星10は、姿勢制御装置17を備えてよい。姿勢制御装置17は、天体1の重力方向(以下で単に重力方向ともいう)に対する、人工衛星10の本体10aの姿勢を一定の目標姿勢に保つ。人工衛星10の本体10aに対するカメラ14の姿勢は一定であってよい。この場合、目標姿勢の人工衛星10の本体10aに取り付けられたカメラ14の向きが重力方向になるように、カメラ14が人工衛星10の本体10aに取り付けられてよい。これにより、人工衛星10が天体1を周回している時に、カメラ14の向きは重力方向に保たれる。
【0035】
姿勢制御装置17は、人工衛星10の本体10aに作用する重力の方向を検出する重力方向検出部17a(例えば加速度センサ)と、検出した当該重力方向に対する人工衛星10の姿勢を一定に保つように作動する姿勢調整装置17b(例えばフライホイール等のアクチュエータ、又はガスを噴出するスラスタ)とを有するものであってよい。なお、複数のカメラ14が設けられ、天体1に対する人工衛星10の本体10aの姿勢によらず、少なくともいずれかのカメラ14が、天体1の表面の画像を取得可能となるように、複数のカメラ14の向きが互いに異なっていてもよい。
【0036】
カメラ14は、受電装置20の位置を表わす指標が映された画像を生成するために設けられる。指標は、天体1の表面側において受電装置20の位置に設けられてよい。指標は、例えば、天体1の表面側から上方へ光を放出する発光部24であってよい。
一例では、発光部24は、上方へ放射状に広がる光を出す光源であってよい(後述する複数の発光部24と1群の発光部24の各々も、同様である)。これにより、例えば、カメラ14の視野(画角)内に発光部24が位置していれば、この状態でカメラ14が撮像して生成する画像内には、発光部24が認識可能に映る。
別の例では、発光部24は、1つの方向にのみ進行する光(例えばレーザ光)を射出するものであってよい(後述する複数の発光部24と1群の発光部24の各々も、同様である)。この場合、受電装置20は、発光部24(各発光部24)の光射出方向を人工衛星10に向けるように、発光部24の向きを制御する追尾装置を備える。この追尾装置は、人工衛星10の軌道情報に基づいて、現時点での、各発光部24に対する人工衛星10の位置を時々刻々と計算し、計算された当該位置に基づいて、上記のように発光部24(各発光部24)の向きを制御する。上記軌道情報は、人工衛星10から受信したものであってよい。
【0037】
また、画像処理部15は、カメラ14により撮像された画像内に上記指標が存在するか否かを判断し、当該判断の結果(以下で単に指標の有無ともいう)を送電装置13(後述の給電制御部13c)に入力する。
【0038】
画像処理部15は、カメラ14により撮像された画像に映った上記指標に基づいて、人工衛星10から見た受電装置20の方向を目標方向として検出する。上記指標(例えば上述の多角形の上記所定形状)を表わす参照データは、例えば予め画像処理部15に記憶されており、画像処理部15は、当該参照データと、上記画像とに基づいて、上述のように目標方向を検出してよい。
【0039】
送電装置13は、カメラ14により撮像された画像内における指標の有無(画像処理部15の上記判断結果)と、画像処理部15により検出された目標方向とに基づいて、人工衛星100が受電装置20の上方領域を通過する度に、受電装置20の上方領域から当該目標方向へ電磁波を送信する。
【0040】
指標は、発光している複数の発光部24であってよい。当該複数の発光部24は、所定のパターンで配置されている。すなわち、当該複数の発光部24は、発光部24の配置パターンを形成する。当該複数の発光部24は、受電装置20の受電面における複数箇所または受電面を囲む複数箇所にそれぞれ配置されてよい。例えば、これら複数の発光部24は、配置パターンとしての所定形状の仮想多角形の頂点となる位置にそれぞれ配置されていてよい。各発光部24は、受電装置20に設けられ、蓄電池22の電気エネルギーにより発光してよい。複数の発光部24は、例えば3つ以上の発光部24であってよい。
【0041】
指標が発光している複数の発光部24である場合、上述の参照データは、当該複数の発光部24の配置パターンを表わすパターン情報である。パターン情報は、画像処理部15に記憶または入力されてよい。画像処理部15は、このパターン情報と、カメラ14により撮像された画像(すなわち、当該画像に映った、発光している複数の発光部24)とに基づいて、人工衛星10から見た受電装置20の方向を目標方向として検出する。例えば、この画像内における、発光している複数の発光部24の配置パターンの位置に基づいて、目標方向を検出する。
【0042】
この場合、受電装置20は、複数の発光部24を含む1群の発光部24を有していてもよい。すなわち、受電装置20は、上述した複数の発光部24と、追加の1つ以上又は2つ以上の発光部24とを含む1群の発光部24を有していてもよい。1群の発光部24の数は、例えば4つ以上、5つ以上、又はそれ以上の多数であってよい。
図4は、
図3の部分拡大図に対応する図であり、1群の発光部24と関連の構成を示す。
図4の例では、1群の発光部24は、発光部24a~24iである。
【0043】
このような場合、受電装置20は、発光させる複数の発光部24を変更する発光制御部25を有していてよい。発光制御部25により発光させられる複数の発光部24が1群の発光部24から選択されるという条件の下で、発光制御部25は、発光させる複数の発光部24を変更してよい。この場合、以下の構成A又は構成Bを採用してよい。
【0044】
<構成A>
1群の発光部24のうち、予め設定された複数の上記配置パターンをそれぞれ複数の指標としてもよい。これらの配置パターンをそれぞれ表わす複数のパターン情報は、予め画像処理部15に記憶されていてよい。発光制御部25により発光させられる複数の発光部24が、当該複数のパターン情報のいずれかが表わす配置パターンを形成するという条件の下で、発光制御部25は、発光させる複数の発光部24を変更する。この変更は繰り返し行われてよい。例えば、人工衛星10が天体を1周する度に、又は、他の定期的なタイミングで、又は、任意のタイミングで、発光制御部25は、発光させる複数の発光部24を変更してよい。
【0045】
一方、画像処理部15は、記憶している複数のパターン情報と、カメラ14により撮像された画像とに基づいて、当該複数のパターン情報のいずれかが表わす配置パターンに該当する指標(発光している複数の発光部24)が当該画像内に存在するかを判断し、存在する場合には、当該指標と当該画像に基づいて人工衛星10から見た受電装置20(受電部21)の方向を目標方向として検出する。
【0046】
<構成B>
図5は、構成Bによる送電システム100を示すブロック図である。この送電システム100において、人工衛星10は通信部18を更に備え、受電装置20は通信部26を更に備える。
【0047】
発光制御部25は、発光させる複数の発光部24を変更するとともに、当該変更後に発光させる複数の発光部24の配置パターンを表わすパターン情報の送信制御を行う。すなわち、発光制御部25は、当該パターン情報の人工衛星10への送信を受電装置20の通信部26に実行させる。これにより、当該パターン情報が人工衛星10へ無線で送信される。なお、この送信制御は、例えば、当該パターン情報を受信した旨の通知信号を受電装置20の通信部26が受信するまで繰り返し行ってよい。発光制御部25は、発光させる複数の発光部24を繰り返し変更してもよい。この場合、当該変更の度に、発光制御部25は、当該変更後に発光させる複数の発光部25の配置パターンを表わすパターン情報の送信制御を上述のように行う。本構成Bの場合において、複数の発光部24を変更する前の初期状態では、発光制御部25は、最初に発光させる複数の発光部24の配置パターンを表わすパターン情報の送信制御を上述のように行ってよい。
【0048】
一方、人工衛星10の通信部18は、受電装置20の通信部26からパターン情報を受けると、指標としての当該パターン情報を画像処理部15に入力する。画像処理部15は、通信部18から入力された最新のパターン情報と、カメラ14により撮像された画像とに基づいて、当該パターン情報の配置パターンを形成する複数の発光部24が当該画像内に存在するかを判断し、存在する場合には、当該複数の発光部24に基づいて人工衛星10から見た受電装置20(受電部21)の方向を目標方向として検出する。なお、人工衛星10の通信部18は、受電装置20からパターン情報を受けると、その旨の上記通知信号を受電装置20に無線で送信してよい。
【0049】
<送電装置の各構成要素>
送電装置13は、送電部13aと、姿勢調整部13bと、給電制御部13cとを有していてよい。
【0050】
送電部13aは、発電装置11が生成した電気エネルギーを電磁波に変換し、当該電磁波を受電装置20へ送信する。本実施形態では、送電部13aは、蓄電池12から電力が供給されることにより、電磁波を送信する。
【0051】
送電部13aは、本実施形態では、送電アンテナであってよい。送電部13aは、特定の方向に集中的に(例えば特定の方向にのみ)電磁波を送信する。この場合、送電部13aは指向性アンテナであってよい。特定の方向を、以下で単に送電方向(アンテナの向き)という。送電部13aは、人工衛星10の本体10aに対して姿勢が変化可能に、人工衛星10の本体10aに取り付けられていてよい。送電部13aの姿勢が変化することにより、人工衛星10の本体10aから見た送電方向が変化する。
【0052】
姿勢調整部13bは、送電方向が目標方向になるように送電部13aの姿勢(向き)を変化させる。このような姿勢調整部13bは、例えば、人工衛星10の本体10aに対して送電部13aを所定の各軸回りに揺動させることにより、人工衛星10の本体10aに対する送電部13aの姿勢を変化させる駆動装置(例えばモータ)であってよい。なお、このような姿勢調整部13bの代わりに、または、姿勢調整部13bが送電部13aの姿勢を変化させることに加えて、人工衛星10に設けた姿勢調整装置17が、天体1に対する人工衛星10の本体10aの姿勢を調整してもよい。これにより、送電方向が目標方向に調整されてもよい(この場合、このような調整が後述のステップS34で行われる)。
【0053】
給電制御部13cは、蓄電池12から送電部13aへの電力供給を制御することにより送電部13aによる電磁波の送信を制御する。給電制御部13cは、カメラ14により撮像された画像内における上記指標の有無と、目標方向とに基づいて、人工衛星10が上方領域を通過する度に、送電部13aに、上方領域から目標方向へ電磁波を送信させる。
【0054】
また、送電装置13は、姿勢調整部13bを有する代わりに、フェーズドアレイを構成する複数の送電部13aを有していてもよい。この場合、給電制御部13cは、各送電部13aへの供給電力の位相を制御することにより、複数の送電部13aが発生する電磁波の相互干渉で、目標方向へ送信される電磁波が生じる。このように、送電装置13は、目標方向へ電磁波を送信してもよい。
【0055】
<送電タイミング制御の構成と処理>
カメラ14は、上述のように天体1の表面を撮像して当該表面の画像を継続して生成し、当該画像を継続して画像処理部15に入力する。画像処理部15は、上述のように、カメラ14から継続して入力されて来る画像内に受電装置20の位置を表わす指標が存在する場合には、その旨の信号を給電制御部13cへ出力する。給電制御部13cは、当該信号を受けた時に、蓄電池12から送電部13aへ電力を供給している場合には、この電力供給を継続させる。給電制御部13cは、当該信号を受けた時に、蓄電池12から送電部13aへ電力を供給していない場合には、この電力供給を開始させる。
【0056】
一方、画像処理部15は、上述のように、カメラ14から継続して入力されて来る画像内に受電装置20を表わす指標が存在しない場合には、その旨の信号を給電制御部13cへ出力する。給電制御部13cは、当該信号を受けた時に、蓄電池12から送電部13aへ電力を供給している場合には、この電力供給を停止させる。給電制御部13cは、当該信号を受けた時に、蓄電池12から送電部13aへの電力供給を停止している場合には、この電力供給の停止を継続させる。
【0057】
このような処理により、人工衛星10が受電装置20の上方領域を通過する度に、送電装置13は電磁波を上記上方領域から受電装置20に送信する。
【0058】
(送電方法)
図6は、本発明の実施形態による送電方法を示すフローチャートである。この送電方法は、上述の天体1の表面に位置する受電装置20に送電する方法であり、上述の人工衛星10により行われる。この送電方法は、ステップS1~S3を有する。
【0059】
ステップS1において、受電装置20の上方領域を通過する軌道で繰り返し天体1を周回するように人工衛星10を飛行させる。例えば、人工衛星10を搭載したロケットが地球から打ち上げられて、宇宙空間においてロケットから分離された人工衛星10が天体1へ飛行し、天体1の上記軌道に投入される。これにより、人工衛星10は、上記軌道で天体1を周回するようになる。
【0060】
以降において、各ステップS2、S3が行われている時においても、人工衛星10は、上記軌道で天体1を周回するように飛行し続ける。
【0061】
ステップS2において、人工衛星10に設けられた発電装置11により、太陽光から電気エネルギーを生成する。また、ステップS2では、発電装置11は、生成した電気エネルギーを人工衛星10の蓄電池12に蓄える。ステップS2は、以降において、ステップS3が行われている時においても、発電装置11が太陽光に照らされる時間帯において行われる。
【0062】
ステップS3において、人工衛星10が受電装置20の上方領域を通過する度に、人工衛星10の送電装置13により、当該上方領域から受電装置20に電磁波を送信し、受電装置20は、送電装置13からの電磁波を電気エネルギーに変換する。ステップS3は、ステップS31~S40を有してよい。
【0063】
ステップS31において、人工衛星10のカメラ14は、天体1の表面の画像を生成する。
ステップS32において、画像処理部15は、ステップS31で生成された画像内に受電装置20の位置を表わす指標が存在するかを判断する。例えば、画像処理部15は、指標の参照データ(例えば、予め記憶している複数の上記パターン情報、又は、受電装置20から受信した最新の上記パターン情報)に基づいて、ステップS31で生成された画像内に受電装置20を表わす指標が存在するかを判断する。
【0064】
ステップS32の判断結果が肯定となった場合(すなわち、画像内に指標が存在すると判断された場合)には、ステップS33へ進むとともに、再びステップS31とステップS32を行う。すなわち、ステップS33と、再度のステップS31、S32を並行して行う。一方、ステップS32の判断結果が否定となった場合、ステップS33へ進まずに、再びステップS31とステップS32を行う。
【0065】
ステップS33において、画像処理部15は、直前のステップS31で生成された画像内における指標の位置に基づいて、人工衛星10の本体10aに対する受電装置20(指標)の方向を目標方向として検出する。この目標方向は、ステップS31が行われた時点の方向であってもよいし、この目標方向に基づいて後述のステップS36又はS37が行われる未来時点における方向であってもよい。後者の場合、画像処理部15は、人工衛星10の上記軌道や飛行速度の既知の情報と、直前のステップS31で目標方向を検出してから当該目標方向に基づいて後述のステップS36又はS37が行われるまでの既知の遅延時間と、当該ステップS31で生成された画像内における指標の位置に基づいて、当該ステップS36又はS37が行われる未来時点における当該目標方向を検出する。画像処理部15は、検出した目標方向を送電装置13(姿勢調整部13b)に入力する。ステップS33が完了したら、次のステップS34を行う。
【0066】
ステップS34において、姿勢調整部13bは、送電部13aの送電方向が直前のステップS33で入力された目標方向となるように送電部13aの姿勢を調整する。このようなステップS31~S34が繰り返し行われることにより、人工衛星10の飛行により人工衛星10と受電装置20との相対的な位置と向きの関係が変化しても、送電部13aは、受電装置20を向く方向(目標方向)に調整される。したがって、後述のステップS37において送電を継続して行う時にも、送電部13aは、受電装置20を向く方向(目標方向)に調整されている。
【0067】
このようなステップS33、S34は、繰り返されるステップS32での判断結果が肯定となる度に行われる。
【0068】
一方、上述のステップS32での判断結果が肯定の場合には、上述のようにステップS33、S34を行うとともに、ステップS35を行う。すなわち、ステップS33、S34とステップS35とが、並行して行われる。
【0069】
ステップS35では、送電部13aが受電装置20へ電磁波を送信しているかが判断される。この判断は、給電制御部13cが行ってよい。ステップS35の判断結果が否定である場合には(この時点で、送電部13aが受電装置20へ電磁波を送信していない場合には)、ステップS36へ進む。
【0070】
ステップS36において、給電制御部13cは、蓄電池12から送電部13aへの電力供給を開始する。これにより、送電部13aは、電磁波の送信を開始する。なお、今回のステップS35と並行して行われている上述のステップS34が完了したら、ステップS36が行われるように送電装置13が構成されていてよい。したがって、今回のステップS36において、送信部13aは、受電装置20の方向である目標方向に電磁波を送信する。
【0071】
一方、ステップS35の判断結果が肯定である場合には、ステップS37に進む。ステップS37では、給電制御部13cは、蓄電池12から送電部13aへの電力供給を継続する。これにより、送電部13aは、電磁波の送信を継続する。この時、送電部13aの送電方向は、繰り返される上述のステップS34で目標方向に調整されているので、送信部13aは、受電装置20の方向である目標方向に電磁波を送信する。
【0072】
また、上述のステップS32での判断結果が否定の場合には、上述のようにステップS31、S32を再び行うとともに、ステップS38を行う。
【0073】
ステップS38において、送電部13aが目標方向に受電装置20へ電磁波を送信しているかが判断される。この判断は、給電制御部13cが行ってよい。ステップS38の判断結果が肯定である場合には(この時点で、送電部13aが電磁波を送信している場合には)、ステップS39へ進む。
【0074】
ステップS39では、給電制御部13cは、蓄電池12から送電部13aへの電力供給を停止する。これにより、送電部13aは、目標方向への電磁波の送信を停止する。
【0075】
一方、ステップS38の判断結果が否定である場合には、ステップS40に進む。ステップS40では、給電制御部13cは、蓄電池12から送電部13aへの電力供給の停止を継続する。これにより、送電部13aは、電磁波の送信の停止を継続する。
【0076】
上述のステップS36、S37において、給電制御部13cは、送電部13aが最大のエネルギーで電磁波を送信するように、当該最大のエネルギーに対応する電力を送電部13aに供給してよい。ここで、最大のエネルギーは、送電部13aが単位時間あたりに送電できる電磁波の最大エネルギーである。
【0077】
上述のステップS36、S37により、受電装置20は、送電装置13からの電磁波を電気エネルギーに変換し、電気エネルギーにより、長期間陰または永久陰において所定の機械2を動作させる。例えば、当該電気エネルギーが蓄電池22と充電器23を介して機械2に供給される。
【0078】
(実施形態の効果)
本実施形態によると、人工衛星10は、天体1表面の受電装置20の上方領域を通過する軌道で繰り返し天体1を周回する。この場合に、人工衛星10が当該上方領域を通過する度に、人工衛星10の送電装置13は、当該上方領域から受電装置20に電磁波を送信する。これにより、受電装置20は、人工衛星10から電磁波を受けて、当該電磁波を電気エネルギーに変換することを繰り返す。したがって、受電装置20は、電磁波による電気エネルギーを繰り返し得ることができる。よって、天体1表面の長期間陰または永久陰において、受電装置20により電気エネルギーを得て、当該電気エネルギーにより探査機2又は他の機械2を活動させることができる。
【0079】
画像処理部15は、人工衛星10の本体10aから見た受電装置20の方向である目標方向を、画像内の指標に基づいて検出する。当該指標が、天体1の表面側から上方へ光を放出する発光部24である場合、長期間陰または永久陰の暗闇に受電装置20に位置していても、目標方向を検出することができる。
【0080】
これについて、受電装置20(受電部21)が長期間壁または永久陰に配置されているからこそ、複数の発光部24の配置パターンを指標とすることができる。このように、複数の発光部24は、長期間壁または永久陰の暗闇で発光しているので、その配置パターンが画像内に明確に反映される。よって、複数の発光部24を信頼性の高い指標とすることができる。
また、大気が無い天体1では、複数の発光部24からの光に基づく、上記画像における上記配置パターンは、大気による影響(当該光の吸収、屈折、および散乱)を受けないので、複数の発光部24の配置パターンを指標とすることができる。
上記画像における上記配置パターンを画像処理部15が認識できる程度に大気が希薄な天体1においても、上記配置パターンを指標とすることができる。すなわち、複数の発光部24の光が大気による上記影響を受けても、上記画像における上記配置パターンの当該影響による変動が、上記認識の可能な範囲内となる程度に大気が希薄な天体1においても、複数の発光部24の配置パターンを指標とすることができる。
【0081】
更に、複数の発光部24の配置パターンを指標とする場合には、画像処理部15が、当該指標に基づいて、受電装置20の方向である目標方向を検出する。これにより、目標方向が誤認識されることを回避でき、人工衛星100で発電した電力が、意図しない箇所へ送電されてしまうこと(例えば盗電)を回避できる。
【0082】
また、本実施形態のように受電装置20に送信する電磁波がマイクロ波(又はミリ波)である場合には、受電部21の受電面に非金属のレゴリスが堆積しても、送電装置13による受電装置20への送電が可能となる。
【0083】
人工衛星10が、天体1の表面から約100km以内の高さで天体1を周回することにより、送電時における送電部13aと受電部21との距離を約100km程度以下にできる。このような短い送電距離により、送電効率を高めることができ、送電衛星としての人工衛星10を大規模化することなく送電量を大きくすることができる。
【0084】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、本発明の実施形態による送電システム100、人工衛星10、又は受電装置20は、上述した複数の事項の全て有していなくてもよく、上述した複数の事項のうち一部のみを有していてもよい。
【0085】
また、以下の変更例1~3のいずれかを単独で採用してもよいし、変更例1~3の2つ以上を任意に組み合わせて採用してもよい。この場合、以下で述べない点は、上述と同じである。
【0086】
(変更例1)
人工衛星10は、その本体10aに作用する重力の方向(以下で単に重力方向という)を検出する重力方向検出部を更に備える。この重力方向検出部は、検出した重力方向を送電装置13(給電制御部13c)へ入力する。このような重力方向検出部は、
図1のように上述した姿勢制御装置17に含まれる重力方向検出部17aであってもよいし、姿勢制御装置17とは別に設けられたものであってもよい。
【0087】
送電装置13は、画像処理部15により検出された目標方向と、重力方向検出部17aにより検出された重力方向とに基づいて、天体1の当該重力方向に対する当該目標方向の角度θの大きさが所定角度範囲内である時間にわたって、受電装置20の上方領域から目標方向へ電磁波を送信する。すなわち、給電制御部13cは、画像処理部15により検出された目標方向と、重力方向検出部17aにより検出された重力方向とに基づいて、天体1の当該重力方向に対する当該目標方向の角度θの大きさが所定角度範囲内である時間にわたって、蓄電池12から送電部13aへの電力供給を行う。
【0088】
上述の角度θは、
図7に示すように、人工衛星10の位置における天体1の重力方向と目標方向との成す角度である。また、上述の所定角度範囲は、例えば、0度以上であり上限角度以下の範囲である。この上限角度は、例えば、10度、20度、30度、40度、45度、又は50度であってよい。
【0089】
図8は、変更例1の場合における送電方法のフローチャートを示す。変更例1では、ステップS3は以下のように行われる。ステップS32の判断結果が肯定となった場合(すなわち、画像内に指標が存在すると判断された場合)には、ステップS33へ進むとともに、再びステップS31とステップS32を繰り返すが、上述と違ってステップS38は行われない。すなわち、ステップS38~S40は省略される。
【0090】
ステップS33において、上述のように目標方向が検出されたら、ステップS34へ進むとともに、ステップS35へ進む。変更例1では、ステップS35において、給電制御部13cは、直前のステップS33で検出した目標方向と、重力方向検出部17aにより現時点で検出された重力方向とのなす角度θ(
図7)の大きさが、所定角度範囲内であるかを判断する。ステップS35での判断結果が肯定である場合には、ステップS36へ進み、そうでない場合には、ステップS37へ進む。
【0091】
ステップS36では、給電制御部13cは、蓄電池12から送電部13aへの電力供給を開始する。このステップS36を行う時に、蓄電池12から送電部13aへの電力供給を給電制御部13cが既に開始している場合には、給電制御部13cは、蓄電池12から送電部13aへの電力供給を継続する。
【0092】
ステップS37では、給電制御部13cは、蓄電池12から送電部13aへの電力供給を停止する。このステップS37を行う時に、蓄電池12から送電部13aへの電力供給を給電制御部13cが既に停止している場合には、給電制御部13cは、蓄電池12から送電部13aへの電力供給の停止を継続する。
【0093】
変更例1によると、送電装置13は、目標方向と重力方向と基づいて、重力方向に対する目標方向の角度θの大きさが所定角度範囲内である時間にわたって、受電装置20の上方の領域から目標方向へ電磁波を送信する。これにより、人工衛星10と受電装置20との距離が短い時間帯(すなわち上記角度θが所定角度範囲内である時間)において送電を行える。したがって、送電効率を高くすることができる。
【0094】
なお、変更例1の当該効果は、上述の実施形態でも得ることができる。すなわち、上述の実施形態において、向きが重力方向に保たれるカメラ14の画角が、上述の上限角度の2倍に設定されていてもよい。これにより、上述の実施形態においても、変更例1と同様の効果が得られる。
【0095】
(変更例2)
送電部13aが受電装置20に送信する電磁波は、マイクロ波やミリ波でなくてもよく、例えばレーザ光であってもよい。この場合、送電部13aは、レーザ光を受電部21に(すなわち目標方向に)送信するレーザ光源であり、受電部21は、送電部13aからのレーザ光を電気エネルギー(電力)に変換する光電変換部である。
【0096】
(変更例3)
図9は、変更例3による送電システム100を示すブロック図である。変更例3によると、受電装置20は、人工衛星10に対してパイロット信号を送信する信号送信部27を有する。この場合、人工衛星10は、上述のカメラ14と画像処理部15の代わりに信号受信部19を有する。信号受信部19は、信号送信部27からのパイロット信号を受信することにより当該パイロット信号の到来方向を目標方向として検出する。信号受信部19は、検出した目標方向を姿勢調整部13bに入力する。なお、パイロット信号は電波であってよい。
【0097】
図10は、変更例3による送電方法を示すフローチャートである。変更例3の送電方法では、上述のステップS31は行われず、上述のステップS2を行いながら、繰り返しステップS32を行う。このステップS32では、信号受信部19は、信号送信部27からのパイロット信号を受信したかを判断することを繰り返す。
【0098】
ステップS32の判断結果が肯定となった場合(すなわち、パイロット信号を受信したと判断された場合)には、ステップS33へ進むとともに、再びステップS32を繰り返すが、上述の実施形態と違ってステップS35へは進まない。
【0099】
ステップS33において、信号受信部19は、直前のステップS32で受信したパイロット信号の到来方向を受電装置20(受電部21)の方向(目標方向)として検出する。次いで、ステップS34へ進むとともに、ステップS35へ進む。
【0100】
ステップS35において、給電制御部13cは、直前のステップS33で検出した目標方向と、重力方向検出部17aにより現時点で検出された重力方向とがなす角度θの大きさが、所定角度範囲内であるかを判断する。ここで、角度θと所定角度範囲は、それぞれ上述の変更例1における角度θと所定角度範囲と同じである。ステップS35での判断結果が肯定である場合には、ステップS36へ進み、そうでない場合には、ステップS37へ進む。
【0101】
ステップS36では、給電制御部13cは、蓄電池12から送電部13aへの電力供給を開始する。このステップS36を行う時に、蓄電池12から送電部13aへの電力供給を給電制御部13cが既に開始している場合には、給電制御部13cは、蓄電池12から送電部13aへの電力供給を継続する。
【0102】
ステップS37では、給電制御部13cは、蓄電池12から送電部13aへの電力供給を停止する。このステップS37を行う時に、蓄電池12から送電部13aへの電力供給を給電制御部13cが既に停止している場合には、給電制御部13cは、蓄電池12から送電部13aへの電力供給の停止を継続する。
【0103】
なお、変更例3では、上述のステップS38~S40は省略される。
【符号の説明】
【0104】
1 天体、2 機械(探査機)、10 人工衛星、10a 本体、11 発電装置、12 蓄電池、13 送電装置、13a 送電部(送電アンテナ)、13b 姿勢調整部、13c 給電制御部、14 カメラ、15 画像処理部、17 姿勢制御装置、17a 重力方向検出部、17b 姿勢調整装置、18 通信部、19 信号受信部、20 受電装置、21 受電部(受電レクテナ)、22 蓄電池、23 充電器、24 発光部、25 発光制御部、26 通信部、27 信号送信部、100 送電システム