(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069411
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】脂溶性微量成分の吸収促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 47/14 20170101AFI20230511BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20230511BHJP
A23L 33/115 20160101ALI20230511BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20230511BHJP
A61K 31/07 20060101ALI20230511BHJP
A61K 31/355 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
A61K47/14
A23D9/00 516
A23L33/115
A61P3/02 102
A61P3/02 109
A61K31/07
A61K31/355
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021181239
(22)【出願日】2021-11-05
(71)【出願人】
【識別番号】591040144
【氏名又は名称】太陽油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 美緒
【テーマコード(参考)】
4B018
4B026
4C076
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018MD15
4B018MD16
4B018MD24
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4C086AA01
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4C086NA11
4C086ZC29
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA10
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4C206MA02
4C206MA05
4C206MA72
4C206MA75
4C206NA11
4C206ZC23
(57)【要約】
【課題】脂溶性微量成分の吸収促進剤を提供すること。
【解決手段】油脂組成物の構成脂肪酸残基全体中、パルミチン酸を15質量%以上45質量%以下含み、前記パルミチン酸のうち、2位に結合するパルミチン酸が50質量%以上である、油脂組成物からなる、脂溶性微量成分の吸収促進剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂組成物の構成脂肪酸残基全体中、パルミチン酸を15質量%以上45質量%以下含み、
前記パルミチン酸のうち、2位に結合するパルミチン酸が50質量%以上である、油脂組成物からなる、
脂溶性微量成分の吸収促進剤。
【請求項2】
前記油脂組成物は、その油脂組成物の構成脂肪酸残基全体中、不飽和脂肪酸を35質量%以上70質量%以下含む、
請求項1に記載の脂溶性微量成分の吸収促進剤。
【請求項3】
前記油脂組成物は、その油脂組成物の構成脂肪酸残基全体中、中鎖脂肪酸を5質量%以上25質量%以下含む、
請求項1又は2に記載の脂溶性微量成分の吸収促進剤。
【請求項4】
前記油脂組成物は、その油脂組成物を構成するトリグリセリドのうち、中鎖脂肪酸が二分子、長鎖脂肪酸が一分子結合しているトリグリセリドと、中鎖脂肪酸が一分子、長鎖脂肪酸が二分子結合しているトリグリセリドの合計が50質量%以上である、
請求項3に記載の脂溶性微量成分の吸収促進剤。
【請求項5】
前記油脂組成物は、以下の原料油脂組成物(A)及び(B)の1,3位特異性エステル交換によって得られる油脂組成物である、請求項3又は4に記載の脂溶性微量成分の吸収促進剤;
(A)構成脂肪酸残基全体中、中鎖脂肪酸を70質量%以上含むトリグリセリド
(B)構成脂肪酸残基全体中、パルミチン酸を15質量%以上含むトリグリセリド。
【請求項6】
前記中鎖脂肪酸は、カプリル酸及び/又はカプリン酸である、請求項3~5のいずれか一項に記載の脂溶性微量成分の吸収促進剤。
【請求項7】
前記不飽和脂肪酸は、オレイン酸である、
請求項2に記載の脂溶性微量成分吸収促進剤。
【請求項8】
請求項1~7の何れか一項に記載の脂溶性微量成分の吸収促進剤と、
脂溶性微量成分とを含む、経口又は非経口用組成物。
【請求項9】
脂溶性微量成分の含有量は、前記脂溶性微量成分の吸収促進剤に対し、0.003質量%以上30%質量以下である、請求項8に記載の経口又は非経口用組成物。
【請求項10】
脂溶性微量成分を含む経口又は非経口用組成物の脂溶性微量成分の吸収性を向上させる方法であって、
油脂組成物の構成脂肪酸残基全体中、パルミチン酸を15質量%以上45質量%以下含み、前記パルミチン酸のうち、2位に結合するパルミチン酸が50質量%以上である、油脂組成物を、前記経口又は非経口用組成物の基剤として用いることを含む、方法。
【請求項11】
前記油脂組成物に対する脂溶性微量成分の量が、0.003質量%以上30質量%以下である、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂溶性微量成分の吸収促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脂溶性ビタミンに代表される脂溶性微量成分の欠乏は、身体に様々な影響を及ぼす。脂溶性微量成分は油脂とともに摂取することで吸収が促進されることが知られており、特定の油脂組成物によって脂溶性微量成分の吸収を促進する方法が報告されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、脂溶性ビタミン類、栄養剤および薬剤などの脂肪親和性化合物の動物での吸収を促進する方法として、少なくとも一つの脂肪親和性化合物を、幾つかのトリグリセリド種を含み、該グリセリド種の少なくとも40%が、(i)約33~70重量%の炭素数4~12のアシル残基;(ii)約30~67重量%の炭素数が12を超えるアシル残基;および(iii)30を超え48未満の等価炭素数を含むことを特徴とする構造化グリセリド成分とともに投与することを含む方法が記載されている。
しかしながら、上記技術で用いられる特に炭素数10までの脂肪酸は、刺激性があることから、多量に摂取した場合に摂取後の消化管の不調が懸念される。また、上記技術では、長鎖多不飽和脂肪酸が用いられており、保存時の酸化安定性が懸念される。
【0004】
また、特許文献2には、カロテノイドと中鎖脂肪酸エステルと油脂とを含有することを特徴とするカロテノイド含有油脂組成物によって、カロテノイドの吸収性を向上させることが記載されている。
しかしながら、グリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤成分を使用せず、できるだけ少ない原材料によって、脂溶性微量成分の吸収性を向上できることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002-508336号公報
【特許文献2】特開2020-2351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、脂溶性微量成分の吸収促進剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明は、
油脂組成物の構成脂肪酸残基全体中、パルミチン酸を15質量%以上45質量%以下含み、
前記パルミチン酸のうち、2位に結合するパルミチン酸が50質量%以上である、油脂組成物からなる、
脂溶性微量成分の吸収促進剤である。
上記の油脂組成物からなる脂溶性微量成分の吸収促進剤は、脂溶性微量成分の吸収を促進することができる。
【0008】
また、本発明の好ましい形態では、前記油脂組成物は、その油脂組成物の構成脂肪酸残基全体中、不飽和脂肪酸を35質量%以上70質量%以下含む。
【0009】
また、本発明の好ましい形態では、前記油脂組成物は、その油脂組成物の構成脂肪酸残基全体中、中鎖脂肪酸を5質量%以上25質量%以下含む。
【0010】
また、本発明の好ましい形態では、前記油脂組成物は、その油脂組成物を構成するトリグリセリドのうち、中鎖脂肪酸が二分子、長鎖脂肪酸が一分子結合しているトリグリセリドと、中鎖脂肪酸が一分子、長鎖脂肪酸が二分子結合しているトリグリセリドの合計が50質量%以上である。
【0011】
また、本発明の好ましい形態では、前記油脂組成物は、以下の原料油脂組成物(A)及び(B)の1,3位特異性エステル交換によって得られる油脂組成物である;
(A)構成脂肪酸残基全体中、中鎖脂肪酸を70質量%以上含むトリグリセリド
(B)構成脂肪酸残基全体中、パルミチン酸を15質量%以上含むトリグリセリド。
【0012】
また、本発明の好ましい形態では、前記中鎖脂肪酸が、カプリル酸及び/又はカプリン酸である。
【0013】
また、本発明の好ましい形態では、前記不飽和脂肪酸は、オレイン酸である。
【0014】
また、本発明は、上述の脂溶性微量成分の吸収促進剤と、脂溶性微量成分とを含む、経口又は非経口用組成物でもある。
上記経口又は非経口用組成物によって、脂溶性微量成分を効率よく摂取することができる。
【0015】
経口又は非経口用組成物中の脂溶性微量成分の含有量は、前記脂溶性微量成分の吸収促進剤に対し、0.003質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、脂溶性微量成分を含む経口又は非経口用組成物の脂溶性微量成分の吸収性を向上させる方法であって、油脂組成物の構成脂肪酸残基全体中、パルミチン酸を15質量%以上45質量%以下含み、前記パルミチン酸のうち、2位に結合するパルミチン酸が50質量%以上である、油脂組成物を、前記経口又は非経口用組成物の基剤として用いることを含む方法でもある。
上記の方法によって、脂溶性微量成分の吸収性を向上させることができる。
【0017】
また、脂溶性微量成分を含む経口又は非経口用組成物の脂溶性微量成分の吸収性を向上させる方法において、前記油脂組成物に対する脂溶性微量成分の量が、0.003質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の脂溶性微量成分の吸収促進剤によれば、脂溶性微量成分の吸収を促進することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0020】
<油脂組成物>
本発明に係る脂溶性微量成分の吸収促進剤は、脂溶性微量成分とともに摂取することによって脂溶性微量成分の吸収を促進するものであり、油脂組成物からなる。
本発明に係る油脂組成物は、その油脂組成物の構成脂肪酸残基全体中、パルミチン酸を15質量%以上45質量%以下含み、前記パルミチン酸のうち、2位に結合するパルミチン酸が50質量%以上である。
中でも、好ましい形態として、第一の油脂組成物と第二の油脂組成物について、以下説明する。
【0021】
[第一の油脂組成物]
本発明に係る第一の油脂組成物は、その油脂組成物の構成脂肪酸残基全体中、パルミチン酸を15質量%以上45質量%以下含み、前記パルミチン酸のうち、2位に結合するパルミチン酸が50質量%以上である。
第一の油脂組成物の構成脂肪酸残基全体中のパルミチン酸の含有量は、より好ましくは18質量%以上40質量%以下、さらに好ましくは20質量%以上35質量%以下である。
また、第一の油脂組成物の構成脂肪酸残基全体中のパルミチン酸のうち、2位に結合するパルミチン酸は、より好ましくは55質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、特に好ましくは65質量%以上である。
【0022】
また、第一の油脂組成物は、その構成脂肪酸残基全体中、不飽和脂肪酸を35質量%以上70質量%以下含むことが好ましく、40質量%以上60質量%以下含むことがより好ましく、45質量%以上50質量%以下含むことがさらに好ましい。
【0023】
不飽和脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、DHA、EPA等を例示することができる。その中でも、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸を含むことが好ましく、特にオレイン酸が好ましい。
【0024】
また、第一の油脂組成物は、その構成脂肪酸残基全体中、オレイン酸を35質量%以上70質量%以下含むことが好ましい。第一の油脂組成物の構成脂肪酸残基全体中のオレイン酸の含有量は、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下、特に好ましくは40質量%以下である。
【0025】
また、第一の油脂組成物は、その構成脂肪酸残基全体中、中鎖脂肪酸を、好ましくは5質量%以上25質量%以下、より好ましくは10質量%以上20質量%以下含む。
中鎖脂肪酸を上記下限以上含むと、油脂の消化吸収性が良好になる。
ここで、一般的に、脂溶性成分が体内に吸収されるためには、小腸内でそれらの成分が、脂肪酸、モノグリセリド、コレステロール等より形成されたミセル内に存在している必要がある。中鎖脂肪酸は、体内への吸収経路が長鎖脂肪酸とは異なり、小腸内でミセルを形成せず、すばやく吸収されることが知られている。そのため、脂溶性微量成分のキャリアとしての観点では、中鎖脂肪酸の含有量は上記上限以下とすることが好ましい。また、中鎖脂肪酸が多すぎると、その刺激性より、摂取後の消化管の不調が懸念されるため、中鎖脂肪酸の含有量は上記上限以下とすることが好ましい。
中鎖脂肪酸の例として、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸が挙げられるが、特に、カプリル酸、カプリン酸を含むことが好ましい。
【0026】
また第一の油脂組成物を構成するトリグリセリドのうち、中鎖脂肪酸(M)が二分子、長鎖脂肪酸(L)が一分子結合しているトリグリセリド(M2L)と、中鎖脂肪酸(M)が一分子、長鎖脂肪酸(L)が二分子結合しているトリグリセリド(ML2)の合計が50質量%以上であることが好ましい。M2LとML2の内訳としては、M2L:ML2=20:80~45:55が好ましく、25:75~40:60がより好ましい。
なお、本明細書中において、中鎖脂肪酸とは、炭素数6~12、長鎖脂肪酸とは炭素数14以上の脂肪酸を指す。
M2L、ML2を含むと、胃内で中鎖脂肪酸残基が加水分解された後にモノグリセリド、ジグリセリドとなることから、小腸内でのミセル形成に有利となる。
【0027】
[第一の油脂組成物の製造方法]
第一の油脂組成物は、以下の原料油脂組成物(A)及び(B)の1,3位特異性エステル交換によって得られることが好ましい。
(A)構成脂肪酸残基全体中、中鎖脂肪酸を70質量%以上含むトリグリセリド
(B)構成脂肪酸残基全体中、パルミチン酸を15質量%以上含むトリグリセリド
原料油脂組成物(A)及び(B)の1,3位特異性エステル交換よって、油脂組成物の構成脂肪酸残基全体中、パルミチン酸を15質量%以上45質量%以下含み、前記パルミチン酸のうち、2位に結合するパルミチン酸が50質量%以上であり、中鎖脂肪酸を5質量%以上25質量%以下含む油脂組成物が得られる。
【0028】
原料油脂組成物(A)は、構成脂肪酸残基全体中、中鎖脂肪酸を70質量%以上含むことが好ましく、80%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましく、95質量%以上含むことが特に好ましい。中鎖脂肪酸量が上記範囲であると、M2L、ML2を含む油脂組成物をより効率的に得ることが出来る。
【0029】
また、原料油脂組成物(B)は、構成脂肪酸残基全体中、パルミチン酸を15質量%以上50質量%以下含むことが好ましく、15質量%以上40質量%以下含むことがより好ましく、20質量%以上30質量%以下含むことがさらに好ましい。
また、構成脂肪酸残基全体に含まれるパルミチン酸のうち、グリセリドの2位に結合するパルミチン酸が、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。2位パルミチン酸結合比が上記範囲である原料油脂組成物(B)を用いることで、効率的にミセル形成することができ、これにより脂溶性微量成分のミセル内への取り込み量も多い油脂組成物が得られる。
【0030】
また、原料油脂組成物(B)は、その構成脂肪酸残基全体中、不飽和脂肪酸を50質量%以上80質量%以下含むことが好ましく、60質量%以上70質量%以下含むことがより好ましい。
不飽和脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、DHA、EPA等を例示することができる。その中でも、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸を使用することが好ましく、特にオレイン酸が好ましい。
【0031】
また、原料油脂組成物(B)は、その構成脂肪酸残基全体中、オレイン酸を40質量%以上70質量%以下含むことが好ましく、50質量%以上60質量%以下含むことがより好ましい。
【0032】
油脂組成物(B)の例として、ラード、1,3位酵素エステル交換反応により2位パルミチン酸結合比を高めた構造脂質を用いても良い。
【0033】
1,3位特異性エステル交換反応における原料油脂組成物(A)と(B)の混合質量比は、好ましくは3:7~1:9、より好ましくは2.5:7.5~1.5:8.5である。
【0034】
また、1,3位特異性リパーゼを用いたエステル交換反応には、アルカリゲネス属、ジオトリウム属、クロモバクテリウム属、リゾプス属、アスペルギルス属、ペニシリウム属、キャンディダ属、シュードモナス属、ムコール属、ジオトリクム属などの微生物由来のリパーゼを使用することが好ましい。
【0035】
このようなリパーゼは、市販のものを使用することができる。例えば、アマノA(天野製薬社製)、リポザイム(ノボザイムズ社製)などを例示することができる。なお、前記のリパーゼの使用形態は特に制限されないが、効率の観点から、常法により担体に固定化して用いることが好ましい。
【0036】
酵素反応の温度は、十分な反応速度を確保しつつ酵素活性を長く維持する観点や異性体トリグリセリドの生成をできるだけ抑制する観点から、30~70℃であることが好ましく、40~70℃であることがより好ましく、45~65℃であることがさらに好ましい。
また、酵素反応の時間は、十分なエステル交換反応率が達成できる時間であれば特に制限されないが、好ましくは2~24時間である。
【0037】
[第二の油脂組成物]
本発明に係る第二の油脂組成物は、その油脂組成物の構成脂肪酸残基全体中、パルミチン酸を15質量%以上45質量%以下含み、前記パルミチン酸のうち、2位に結合するパルミチン酸が50質量%以上である。
第二の油脂組成物の構成脂肪酸残基全体中のパルミチン酸の含有量は、より好ましくは18質量%以上40質量%以下、さらに好ましくは20質量%以上35質量%以下である。
また、第二の油脂組成物の構成脂肪酸残基全体中のパルミチン酸のうち、2位に結合するパルミチン酸は、より好ましくは55質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、特に好ましくは65質量%以上である。
【0038】
また、第二の油脂組成物は、その構成脂肪酸残基全体中、不飽和脂肪酸を35質量%以上70質量%以下含むことが好ましく、50質量%以上65質量%以下含むことがより好ましく、55質量%以上65質量%以下含むことがさらに好ましい。
【0039】
不飽和脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、DHA、EPA等を例示することができる。その中でも、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸を含むことが好ましく、特にオレイン酸が好ましい。
【0040】
また、第二の油脂組成物は、その構成脂肪酸残基全体中、オレイン酸を35質量%以上70質量%以下含むことが好ましく、40質量%以上65質量%以下含むことがさらに好ましく、50質量%以上60質量%以下含むことが特に好ましい。
【0041】
また、第二の油脂組成物は、その構成脂肪酸残基全体中、中鎖脂肪酸の含有量が10%未満であることが好ましく、5%未満であることがより好ましい。
【0042】
<経口又は非経口用組成物>
また、これらの脂溶性微量成分吸収促進剤と脂溶性微量成分とを含む経口又は非経口用組成物として提供することもできる。経口用組成物の例としては、経口流動食、介護食、乳児・幼児用食品、その他栄養補助食品等が挙げられる。
非経口用組成物の例としては、経管栄養剤等が挙げられる。経管栄養剤として、例えば、胃ろう、腸ろう、経鼻経管栄養等に用いられる経管栄養剤が挙げられる。
また、経口又は非経口用組成物において、脂溶性微量成分の吸収促進剤に対する脂溶性微量成分の含有量は、好ましくは0.003%質量以上30質量%以下、より好ましくは0.003質量%以上5質量%以下、さらに好ましくは0.003質量%以上1質量%以下である。
【0043】
脂溶性微量成分とは、エネルギー産生栄養素に比べ微量ではあるものの、人体の機能を正常に保つため必要な成分である。
脂溶性微量成分は、好ましくは、消化吸収過程において、小腸内でそれらの成分が、脂肪酸、モノグリセリド、コレステロール等より形成されたミセル内に存在することにより、脂溶性成分が体内に吸収されるものである。
【0044】
脂溶性微量成分の例として、脂溶性ビタミン、脂溶性ポリフェノール化合物、ステロール類等が挙げられる。脂溶性ビタミンには、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKがある。以下、各ビタミンについて記載する。
・ビタミンA(レチノイド)
レチノール、レチナール、レチニルエステル、並びにβ-カロテン、α-カロテン、β-クリプトキサンチンなどのプロビタミンAカロテノイドが挙げられる。
・ビタミンD
ビタミンD2(エルゴカルシフェロール)、ビタミンD3(コレカルシフェロール)が挙げられる。
・ビタミンE
α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロール、α-トコトリエノール、β-トコトリエノール、γ-トコトリエノール、δ-トコトリエノールが挙げられる。
・ビタミンK
フィロキノン(ビタミンK1)とメナキノン‐4(ビタミンK2)、メナキノン‐7(ビタミンK2)が挙げられる。
【0045】
なお、経口又は非経口用組成物は、吸収促進剤、脂溶性微量成分以外の成分を含んでいてもよい。経口又は非経口用組成物に含んでもよい成分として、その他油脂類、タンパク質、タンパク質加水分解物、アミノ酸、炭水化物源、ミネラル類、水溶性ビタミン類、薬剤等が挙げられる。
また、経口又は非経口用組成物は、食品、医薬品等の形態で提供することができる。
【0046】
また、経口又は非経口用組成物は、界面活性剤を含んでもよいが、その含有量は極力少ないことが好ましい。経口又は非経口用組成物における界面活性剤の含有量は、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下、最も好ましくは0質量%である。
【0047】
経口又は非経口用組成物は、本発明に係る脂溶性微量成分吸収促進剤と、脂溶性微量成分とを混合することによって製造することができる。
【0048】
また、経口又は非経口用組成物は、水を含んでもよい。経口又は非経口用組成物中に水を含む場合は、脂溶性微量成分吸収促進剤と脂溶性微量成分と水とを混合して製造することができる。
脂溶性微量成分吸収促進剤と脂溶性微量成分とを混合した後に、本発明の効果を損なわない範囲でタンパク質、レシチン、界面活性剤等を併用し、該混合物と水とを乳化させることによって製造することもできる。
【0049】
<脂溶性微量成分の吸収性を向上させる方法>
また、本発明に係る脂溶性微量成分の吸収促進剤によって、脂溶性微量成分の吸収性を向上させることができる。
つまり、本発明は、脂溶性微量成分を含む経口又は非経口用組成物の脂溶性微量成分の吸収性を向上させる方法であって、油脂組成物の構成脂肪酸残基全体中、パルミチン酸を15質量%以上45質量%以下含み、前記パルミチン酸のうち、2位に結合するパルミチン酸が50質量%以上である、油脂組成物を、前記経口又は非経口用組成物の基剤として用いることを含む、方法でもある。
本発明に係る油脂組成物を、脂溶性微量成分を含む経口又は非経口用組成物の基材として用いることによって、脂溶性微量成分の吸収性を向上させることができる。
【0050】
上記の方法において、油脂組成物に対する脂溶性微量成分の量は、好ましくは0.003質量%以上30質量%以下である。
【実施例0051】
以下、実施例を用いて、より詳細に本発明について説明する。
【0052】
<油脂組成物>
以下、実施例、及び比較例に用いた油脂組成物について説明する。
・油脂組成物1
2位パルミチン酸高含有油脂(Betapol B-55、ローダース社製)を用い、油脂組成物1とした。
・油脂組成物2
ラード(カネカ製)を用い、油脂組成物2とした。
・油脂組成物3
中鎖脂肪酸油(中央化成製)と上記の油脂組成物2とを質量比22:78の比率で混合し、温度を50℃に調節し、5質量%のリパーゼ(リポザイムRM、ノボザイムズ社製)を添加し、9時間攪拌しながら、1,3位特異性リパーゼを用いたエステル交換反応を行った。その後、脱色、脱臭を実施したものを油脂組成物3として用いた。
・油脂組成物4(パームエステル交換油)
パーム油100重量部を用いて、0.102重量部のナトリウムメチラートを触媒とし、90℃で15分間、ランダムエステル交換反応を行った。その後、脱色、脱臭を実施したものを油脂組成物4として用いた。
・油脂組成物5(パームステアリンエステル交換油)
パームステアリン100重量部を用いて、0.102重量部のナトリウムメチラートを触媒とし、90℃で15分間、ランダムエステル交換反応を行った。その後、脱色、脱臭を実施したものを油脂組成物5として用いた。
・油脂組成物6(パーム油)
パーム油100%の脱色、脱臭を用い、油脂組成物6とした。
【0053】
<トリグリセリド画分の分析>
以下の方法により、油脂組成物1~6、及び油脂組成物3の原料として用いた中鎖脂肪酸油のトリグリセリド画分の分析を行った。以下、詳細について説明する。
【0054】
・油脂組成物の構成脂肪酸残基全体中のパルミチン酸の含有量、オレイン酸の含有量、不飽和脂肪酸の合計の含有量、カプリル酸及びカプリン酸の合計の含有量(%)
基準油脂分析法(2.2.4.3-2013、トランス脂肪酸含量(キャピラリーガスクロマトグラフ法))に基づいて測定した。ガスクロマトグラフィー装置は、島津製作所(株)製、GC-2010型を使用した。カラムはSUPELCO製、SP-2560を使用した。
【0055】
・2位パルミチン酸結合比(%)
基準油脂分析法(2.4.5-2016、トリアシルグリセリン2位脂肪酸組成(酵素エステル交換法))に基づいて、トリグリセリドの2位に結合したパルミチン酸の含有量を測定した。ガスクロマトグラフィー装置は、島津製作所(株)製、GC-2010型を使用した。カラムはSUPELCO製、SP-2560を使用した。
そして、パルミチン酸の2位への結合比率を以下の計算式により算出した。
2位パルミチン酸結合比(%)=
(2位に結合したパルミチン酸の含有量/構成脂肪酸残基全体におけるパルミチン酸含有量×3)×100
【0056】
・油脂組成物を構成するトリグリセリドのうち、中鎖脂肪酸が二分子、長鎖脂肪酸が一分子結合しているトリグリセリド(M2L)と、中鎖脂肪酸が一分子、長鎖脂肪酸が二分子結合しているトリグリセリド(ML2)の合計の割合(M2L+ML2)
基準油脂分析法(2.4.6.1-2013、トリアシルグリセリン組成)に基づいて測定した。ガスクロマトグラフィー装置は、島津製作所(株)製、GC-2010型を使用した。カラムはジーエルサイエンス社製、DB-1を使用した。
【0057】
油脂組成物1~6、及び油脂組成物3の原料として用いた中鎖脂肪酸油について、以上のトリグリセリド画分の分析値を表1に示す。
【0058】
【0059】
<脂溶性微量成分の吸収性の評価>
上記油脂組成物1~6について、in vitro評価にて脂溶性微量成分の吸収促進の評価を行った。
一般的に、脂溶性微量成分が消化吸収過程で体内に吸収されるためには、それらの成分が小腸において、脂肪酸、モノグリセリド、コレステロール等から形成されるミセル内に取り込まれる必要がある。
よって、下記試験例1、2のα-トコフェロール及びレチノールのミセル移行率が高いほど、α-トコフェロール及びレチノールの吸収性が高いといえる。
以下、各試験例について説明する。
【0060】
<試験例1>
初めに人工腸液を調製した。蒸留水:52.3g、塩化カルシウム:68mg、KH2PO4:140mg、NaCl:530mg、胆汁粉末:1.44gを混合し、pHを7.5に調整した。この人工腸液50gに、油脂1.8g、α-トコフェロール製剤3.6mgを加え、反応基質とした。
【0061】
消化酵素として「Lipase from porcine pancreas TypeII」(シグマアルドリッチジャパン社製)1gを各反応基質に加え、振とう(160rpm)しながら37℃、90分間消化反応を行った。消化開始1時間後、pH7.0に再調整した。消化終了後、90℃以上の熱水に5分間浸して反応を停止させ、消化液を得た。ついで、各消化液を37℃、100,000Gで1時間超遠心分離(ベックマンコールター社製Optima L‐90K、固定角ローター45Ti)し、透明な層をガラスピペットで採取してミセル溶液を得た。
【0062】
油脂組成物およびミセル溶液中のα-トコフェロールの量は、『食品表示基準について 別添栄養成分等の分析方法等』の(32(1)高速液体クロマトグラフ法)に基づいて測定した。HPLC装置は、島津製作所(株)製、LC-10ADvpを使用した。カラムは(株)ワイエムシィ製、YMC-Pack SIL-06を使用した。
【0063】
(ミセル溶液中のα-トコフェロールの量)/(油脂組成物中のα-トコフェロールの量)×100を、α-トコフェロールのミセル移行率とした。
結果を表2に示す。
【0064】
【0065】
<試験例2>
試験例1で用いたものと同じ人工腸液50gに、油脂1.8g、ビタミンA製剤0.288mgを加えて反応基質とし、試験例1と同様の手順でレチノールのミセル移行率を測定した。
油脂組成物およびミセル溶液中のレチノールの量は、『食品表示基準について 別添 栄養成分等の分析方法等』の(25ア(1)高速液体クロマトグラフ法)に基づいて測定した。HPLC装置は、島津製作所(株)製、LC-10ADvpを使用した。カラムはジーエルサイエンス(株)製、Inertsil ODS-3を使用した。
(ミセル溶液中のレチノールの量)/(油脂組成物中のレチノールの量)×100を、レチノールのミセル移行率とした。
試験結果を表3に示す。
【0066】
【0067】
<結果>
実施例(油脂組成物1~3)は、比較例(油脂組成物4~6)と比較して、グリセリドの2位のパルミチン酸含量が高く、これらを用いたin vitro評価による脂溶性ビタミンの吸収促進評価の結果、α-トコフェロール及びレチノールのミセル移行率が高くなった。特に、M2LおよびML2含量の高い油脂組成物3を用いた、実施例3及び実施例5では、特に脂溶性ビタミンの吸収促進効果が高くなった。
一方、2位パルミチン酸含量が低く、M2LおよびML2を含まない比較例は、脂溶性ビタミンの吸収促進効果が見られなかった。よって、実施例(油脂組成物1~3)は、比較例(油脂組成物4~6)よりも、脂溶性ビタミンの吸収促進効果が高いといえる。