(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069436
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】成形用組成物及びその成形体並びに成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/26 20060101AFI20230511BHJP
C04B 14/38 20060101ALI20230511BHJP
C04B 14/04 20060101ALI20230511BHJP
C04B 22/12 20060101ALI20230511BHJP
C04B 24/08 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C04B28/26
C04B14/38 C
C04B14/04 C
C04B22/12
C04B24/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021181279
(22)【出願日】2021-11-05
(71)【出願人】
【識別番号】000149136
【氏名又は名称】日本インシュレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】弘中 裕一郎
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MB08
4G112PA03
4G112PA15
4G112PB09
4G112PB18
(57)【要約】
【課題】収縮ひずみ及びクラックの発生が抑制された成形体を製造することができる成形用組成物及びその成形体並びに成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る成形用組成物は、下記の(a)成分、(b)成分、(c)成分及び(d)成分、
(a)耐熱性無機材料と、
(b)無機フッ化物と、
(c)ジオポリマー前駆体と、
(d)脂肪酸又はその金属塩と、
を含む。本発明に係る成形用組成物から得られた成形体は、養生及び乾燥する時の収縮ひずみが抑制され、また、成形体の硬化及び乾燥時にクラックが発生することも防止されやすい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)成分、(b)成分、(c)成分及び(d)成分、
(a)耐熱性無機材料と、
(b)無機フッ化物と、
(c)ジオポリマー前駆体と、
(d)脂肪酸又はその金属塩と、
を含む、成形用組成物。
【請求項2】
(d)成分は、ステアリン酸、ラウリン酸、ベヘン酸及びモンタン酸からなる群より選ばれる1種以上の脂肪酸又はその金属塩である、請求項1に記載の成形用組成物。
【請求項3】
(d)成分の含有割合が、(a)成分、(b)成分、(c)成分及び(d)成分の全質量に対して、0.1~5質量%である、請求項1又は2に記載の成形用組成物。
【請求項4】
(c)成分は、シリカアルミナ及びアルカリを含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の成形用組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の成形用組成物の成形体。
【請求項6】
請求項5に記載の成形体の製造方法であって、
前記成形用組成物を水の存在下に混合して混合物を得る工程と、
前記混合物を成形した後、養生及び乾燥して硬化することで成形体を得る工程と、
を含む、成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形用組成物及びその成形体並びに成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジオポリマーは、例えば、断熱材等の各種成形体を製造するための原料として使用されており、各種成形体を製造するために極めて有用な材料であることが知られている。例えば、ジオポリマーを含む組成物を成形することで得られる成形体は、優れた機械特性等を備えることができる。
【0003】
特許文献1には、ジオポリマー組成物を用いて無機発泡体を製造する技術が開示されており、これにより、成形体に優れた絶縁特性及び機械的安定性を付与することができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ジオポリマーを含む組成物を用いて成形体を製造する場合、斯かる成形体を養生及び乾燥処理をすると、収縮ひずみが大きくなり、場合によってはクラックが発生することがあったことから、さらなる健全な成形体の提供が求められていた。この点、例えば、乾燥温度等を低くするなどして、より緩やかな条件で乾燥処理等をすることが考えられるが、この場合は成形体を製造するための時間が長くなり、経済性に欠ける。この観点から、収縮ひずみ及びクラックの発生が抑制された成形体を製造することができる材料の開発並びにその製造方法の開発が強く望まれていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、収縮ひずみ及びクラックの発生が抑制された成形体を製造することができる成形用組成物及びその成形体並びに成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、少なくとも脂肪酸又はその金属塩を含む特定の成形用組成物により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
下記の(a)成分、(b)成分、(c)成分及び(d)成分、
(a)耐熱性無機材料と、
(b)無機フッ化物と、
(c)ジオポリマー前駆体と、
(d)脂肪酸又はその金属塩と、
を含む、成形用組成物。
項2
(d)成分は、ステアリン酸、ラウリン酸、ベヘン酸及びモンタン酸からなる群より選ばれる1種以上の脂肪酸又はその金属塩である、項1に記載の成形用組成物。
項3
(d)成分の含有割合が、(a)成分、(b)成分、(c)成分及び(d)成分の全質量に対して、0.1~5質量%である、項1又は2に記載の成形用組成物。
項4
(c)成分は、シリカアルミナ及びアルカリを含有する、項1~3のいずれか1項に記載の成形用組成物。
項5
項1~4のいずれか1項に記載の成形用組成物の成形体。
項6
項5に記載の成形体の製造方法であって、
前記成形用組成物を水の存在下に混合して混合物を得る工程と、
前記混合物を成形した後、養生及び乾燥して硬化することで成形体を得る工程と、
を含む、成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の成形用組成物によれば、収縮ひずみ及びクラックの発生が抑制された成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0011】
1.成形用組成物
本発明の成形用組成物は、下記の(a)成分、(b)成分、(c)成分及び(d)成分を含む。
(a)成分;耐熱性無機材料
(b)成分;無機フッ化物
(c)成分;ジオポリマー前駆体
(d)成分;脂肪酸又はその金属塩
【0012】
本発明の成形用組成物は、(a)成分、(b)成分、(c)成分及び(d)成分を含むことで、当該成形用組成物から得られる成形体は、収縮ひずみ及びクラックの発生が抑制される。特に、当該成形用組成物から得られた成形体は、養生及び乾燥する時であっても収縮ひずみが抑制され、また、成形体の硬化及び乾燥時にクラックが発生することも防止されやすい。従って、本発明の成形用組成物は各種成形体を製造するための原料として公的であり、例えば、断熱材を成形するための原料として好適に使用できる。
【0013】
(a)成分である耐熱性無機材料(以下、(a)耐熱性無機材料と表記)は、例えば、従来の断熱材等の成形体の製造に使用されている無機材料を広く適用することができ、その種類は特に限定されない。(a)耐熱性無機材料としては、例えば、500℃以上の耐熱性を有する無機材料を好ましく利用できる。ここでいう500℃以上の耐熱性とは、無機材料を空気雰囲気下、500℃の環境下に30分間静置して加熱したとしても熱分解が起こらない性質を意味し、より具体的には、加熱前後で重量減が10重量%以下である性質であることを意味する。
【0014】
(a)耐熱性無機材料の具体例としては、ワラストナイト、炭化ケイ素、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、チタン酸アルミニウム、アルミナ、ムライト、スピネル、ジルコン、ジルコニア、マグネシア、ペタライト、溶融シリカ、スポジュメン、ユークリプタイト、コーディエライト、サイアロン及びグラファイト等を挙げることができる。中でも、(a)耐熱性無機材料は、ワラストナイト単独、あるいは、ワラストナイトと、溶融シリカ、コーディエライト、スポジュメン、ユークリプタイト及び炭化ケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1種との混合物であることが好ましい。特に(a)耐熱性無機材料は、ワラストナイトと、溶融シリカとの混合物であることが好ましい。
【0015】
(a)耐熱性無機材料は、少なくともワラストナイトを含むことが好ましい。この場合、成形体の性能が向上しやすく、また、成形体の製造も簡便に行うことができる。(a)耐熱性無機材料は、ワラストナイトと他の耐熱性無機材料との混合物であってもよいし、ワラストナイトのみからなるものであってもよい。
【0016】
(a)耐熱性無機材料は、例えば、公知の方法で製造することができ、あるいは、市販品等から(a)耐熱性無機材料を入手することができる。本発明の成形用組成物に含まれる(a)耐熱性無機材料は、1種単独とすることができ、あるいは2種以上とすることができる。
【0017】
(a)成分の含有割合は、本発明の効果が阻害されない限り特に限定されず、例えば、(a)成分、(b)成分、(c)成分及び(d)成分の全量を100質量部とした場合、(a)耐熱性無機材料を20~90質量部とすることができ、好ましくは30~80質量部、より好ましくは35~75質量部である。
【0018】
なお、念のための注記に過ぎないが、本明細書において、(a)耐熱性無機材料は、(b)無機フッ化物及び(c)ジオポリマー前駆体及びジオポリマーは除かれる。
【0019】
(b)成分である無機フッ化物(以下、(b)無機フッ化物と表記)は、例えば、従来の断熱材等の成形体を製造するために使用されている無機フッ化物を広く適用することができ、その種類は特に限定されない。
【0020】
(b)無機フッ化物の具体例としては、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、クリオライト、フッ化リチウム、フッ化バリウム、フッ化アルミニウム、フッ化ストロンチウム、フッ化セリウム、フッ化イットリウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、珪フッ化ナトリウム、珪フッ化アンモニウム等を挙げることができる。
【0021】
(b)無機フッ化物は、少なくともフッ化カルシウムを含むことが好ましい。この場合、成形体の性能が向上しやすく、また、製造も簡便に行うことができる。(b)無機フッ化物は、フッ化カルシウムと他の無機フッ化物との混合物であってもよいし、フッ化カルシウムのみからなるものであってもよい。(b)無機フッ化物がフッ化カルシウムと他の無機フッ化物との混合物である場合、(b)無機フッ化物におけるフッ化カルシウムの含有量は50質量%以上とすることができ、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0022】
(b)無機フッ化物は、例えば、公知の方法で製造することができ、あるいは、市販品等から(b)無機フッ化物を入手することができる。本発明の成形用組成物に含まれる(b)無機フッ化物は、1種単独とすることができ、あるいは2種以上とすることができる。
【0023】
(b)成分の含有割合は、本発明の効果が阻害されない限り特に限定されず、例えば、(a)成分、(b)成分、(c)成分及び(d)成分の全量を100質量部とした場合、(b)無機フッ化物を0.1~30質量部とすることができ、好ましくは0.5~25質量部、より好ましくは1~20質量部である。
【0024】
(c)成分であるジオポリマー前駆体(以下、(c)ジオポリマー前駆体と表記)は、ジオポリマーを生成することができる成分を含む組成物である。従って、本発明の成形用組成物から形成される成形体では、(c)ジオポリマー前駆体は、ジオポリマーへと変化することができる。
【0025】
(c)ジオポリマー前駆体は、例えば、シリカアルミナ及びアルカリを含有することができる。また、後記するように、(c)ジオポリマー前駆体は、シリカアルミナ及びアルカリの一部が反応した反応物を含むこともできる。
【0026】
シリカアルミナとしては、シリカ成分及びアルミナ成分を含む材料を使用することができる。シリカアルミナは、シリカ成分及びアルミナ成分を含有する混合物であってもよいし、シリカ及びアルミニウムを含む化合物であってもよい。
【0027】
シリカアルミナの具体例としては、フライアッシュ;カオリナイト、デイッカイト、ナクライト、ハロイサイト等のカオリン鉱物;白雲母、イライト、フェンジャイト、海緑石、セラドナイト、パラゴナイト、ブランマライト等の雲母粘土鉱物;モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サボナイト、ソーコナイト等のスメクタイト;緑泥岩;パイロフィライト;タルク;ばん土頁岩;メタカオリン;高炉スラグ;コランダム又はムライト製造時の電気集塵機の灰;粉砕仮焼ボーキサイト;都市ゴミ焼却灰;製紙灰;汚泥灰;バイオマスボイラー灰等の粉末;非晶質シリカ粉と非晶質アルミナ粉との混合物等を挙げることができる。シリカアルミナは、1種のみであってもよいし、2種以上の混合物であってもよい。
【0028】
シリカアルミナは、少なくともフライアッシュを含むことが好ましい。この場合、(c)ジオポリマー前駆体から生成するジオポリマーは成形体の性能の向上に寄与しやすい。シリカアルミナがフライアッシュを含む場合、フライアッシュの含有量は、シリカアルミナの全量に対し、50質量%以上とすることができ、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。シリカアルミナは、フライアッシュのみからなるものであってもよい。
【0029】
シリカアルミナの形態は特に限定されず、例えば、粉末状とすることができる。
【0030】
一方、アルカリとしては、例えば、アルカリ金属塩を使用することができる。アルカリは、例えば、水性媒体に溶解させて溶液の状態で使用することができ、あるいは、溶液とせずに、例えば、固体状態等で使用することができる。水性媒体としては、水、メタノール、エタノール等のアルコール等を挙げることができる。
【0031】
アルカリ金属塩としては、特に制限はない。アルカリ金属塩の具体例として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物;珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム等のアルカリ金属珪酸塩;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム等のアルカリ金属炭酸水素塩;ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、ホウ酸リチウム等のアルカリ金属ホウ酸塩等を挙げることができる。アルカリ金属塩は、1種のみであってもよいし、2種以上の混合物であってもよい。
【0032】
中でも、アルカリ金属塩は、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属珪酸塩からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。この場合、(c)ジオポリマー前駆体から生成するジオポリマーは成形体の性能の向上に寄与しやすい。特に、アルカリ金属塩は、水酸化ナトリウム及び珪酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0033】
(c)ジオポリマー前駆体中のシリカアルミナとアルカリとは、成形後の養生及び乾燥によって反応が進行し、ジオポリマーへと変化する。具体的には、シリカアルミナに含まれる珪酸分(シリカ)及びアルミニウム分(アルミナ)、場合によってはシリカアルミナに不純物として含まれるアルカリ土類元素分等、さらには、アルカリに含まれるアルカリ金属元素分等が互いに反応してポリマーを形成し始める。これにより、ジオポリマーが生成する。
【0034】
本発明の成形用組成物において、(c)ジオポリマー前駆体はシリカアルミナとアルカリとを含むものであるが、それらの一部の反応が進行していてもよい。すなわち、(c)ジオポリマー前駆体は、シリカアルミナ及びアルカリに加えて、これらの一部が反応した反応物を含むこともできる。成形用組成物が水を含む場合は、シリカアルミナ及びアルカリの反応物が共存しやすい。(c)ジオポリマー前駆体において、前記反応物の含有割合は、例えば、50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。
【0035】
(c)ジオポリマー前駆体から生成するジオポリマーは、例えば、「Geopolymer Chemistry and Application 4th edition」(2015年11月発行,著者:Joseph DAVIDOVITS)などに記載されているジオポリマーであって、アルミニウムを含有する珪酸ポリマーをジオポリマーの例として挙げることができる。
【0036】
成形用組成物から得られる成形体には、(c)ジオポリマー前駆体から生成したジオポリマーが存在するが、斯かるジオポリマーは、未反応の原料(シリカアルミナ及びアルカリ)が含まれる場合がある。従って、本明細書でいうジオポリマーは、ジオポリマーのみで構成することができ、あるいは、(c)ジオポリマー前駆体と、ジオポリマーと、斯かるジオポリマーの製造時に使用する原料とを含む混合物とすることもできる。
【0037】
以上のように、本発明の成形用組成物において、(c)ジオポリマー前駆体は、シリカアルミナ及びアルカリを含有する。あるいは、(c)ジオポリマー前駆体は、シリカアルミナ及びアルカリに加えて、これらの反応物を含有する。(c)ジオポリマー前駆体を含む本発明の成形用組成物から得られる成形体は、収縮ひずみ及びクラックの発生がより抑制されやすい。
【0038】
本発明の成形用組成物に含まれる(c)ジオポリマー前駆体は、1種単独とすることができ、あるいは2種以上とすることができる。
【0039】
(c)成分の含有割合は、本発明の効果が阻害されない限り特に限定されず、例えば、(a)成分、(b)成分、(c)成分及び(d)成分の全量を100質量部とした場合、(c)ジオポリマー前駆体を20~90質量部とすることができ、好ましくは30~80質量部、より好ましくは35~75質量部である。
【0040】
(d)成分である脂肪酸又はその金属塩(以下、(d)脂肪酸又はその金属塩と表記)は、例えば、公知の脂肪酸又はその金属塩を広く適用することができ、その種類は特に限定されない。(d)成分は、脂肪酸であってもよいし、脂肪酸の金属塩であってもよいし、これらの混合物であってもよい。
【0041】
(d)脂肪酸又はその金属塩は、飽和脂肪酸又はその金属塩、並びに、不飽和脂肪酸又はその金属塩のいずれであってもよく、成形体が養生及び乾燥されるときの収縮ひずみ及びクラックの発生が抑制されやすくなる点で、好ましくは飽和脂肪酸又はその金属塩である。
【0042】
(d)脂肪酸又はその金属塩において、その炭素数は、30以下であることがより好ましく、28以下であることがさらに好ましい。また、(d)脂肪酸又はその金属塩において、その炭素数は、8以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましい。
【0043】
(d)成分は、ステアリン酸、ラウリン酸、ベヘン酸及びモンタン酸からなる群より選ばれる1種以上の脂肪酸又はその金属塩であることが好ましい。この場合、成形体の収縮ひずみ及びクラックの発生がさらに抑制されやすい。
【0044】
(d)成分が脂肪酸の金属塩である場合、金属の種類は特に限定されず、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属等の各種金属を挙げることができ、具体的には、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、銅等を挙げることができる。
【0045】
(d)成分の含有割合は、本発明の効果が阻害されない限り特に限定されず、例えば、(a)成分、(b)成分、(c)成分及び(d)成分の全質量に対して、0.1~5質量%とすることができる。これにより、成形体の収縮ひずみ及びクラックの発生が特に抑制されやすく、また、強度低下も抑制することができる。(d)成分の含有割合は、(a)成分、(b)成分、(c)成分及び(d)成分の全質量に対して、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.3質量%以上であることがさらに好ましく、また、4質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。
【0046】
また、(d)成分の含有割合は、本発明の組成物の全質量に対しても0.1~5質量%であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.3質量%以上であることがさらに好ましく、また、5質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。
【0047】
本発明の成形用組成物は、(a)成分、(b)成分、(c)成分及び(d)成分の他、本発明の効果を損なわない範囲である限り、その他成分を含むことができる。その他成分としては、補強繊維、赤外線遮蔽物質、顔料、染料、撥水剤、界面活性剤、凝集剤、分散剤、凝結促進剤、凝結遅延剤、発泡剤、起泡剤、消泡剤、骨材、樹脂等を挙げることができる。例えば、本発明の成形用組成物が補強繊維を含む場合、その含有割合は、(a)成分、(b)成分、(c)成分、(d)成分及び補強繊維の全量に対して0.1~5質量%とすることができる。
【0048】
本発明の成形用組成物は、粉末等の固形状であってもよいし、分散液等の液状であってもよい。分散液である場合は、分散媒の種類も特に限定されず、例えば、水等が挙げられる。
【0049】
2.成形体
本発明の成形用組成物から成形体を製造する方法は特に限定されず、例えば、公知の成形体の製造方法を広く適用することができる。例えば、後記する工程1及び工程2を備える製造方法によって、本発明の成形用組成物から成形体を製造することができる。
【0050】
成形体は、本発明の成形用組成物から形成されるので、(a)成分、(b)成分及び(d)成分を含むと共に、(c)成分であるジオポリマー前駆体から形成されるジオポリマーを必須成分として含む。成形体に含まれる各成分の含有割合は、成形用組成物に含まれる(a)成分、(b)成分、(c)成分及び(d)成分の量に一致するものと見なすことができる。
【0051】
成形体の密度は特に限定されず、使用する用途に適合するように所望の密度に設定することができる。例えば、成形体の密度は1.3~1.8g/cm3とすることができる。
【0052】
本発明の成形体は、前述の成形体用組成物から形成されているので、成形体を養生及び乾燥する時の収縮ひずみが抑制され、また、成形体の硬化及び乾燥時にクラックが発生することも防止されやすい。従来、耐熱性無機材料と、無機フッ化物と、ジオポリマーとを含む成形体において、(d)成分である脂肪酸又はその金属塩を含まない場合は、養生及び乾燥における収縮ひずみが生じやすいものであったが、本発明は(d)成分を更に含むことから、収縮ひずみが生じるのが顕著に抑制されるものとなる。従って、本発明の成形体は各種用途に使用することができ、例えば、断熱材として好適である。
【0053】
成形体の収縮率は、例えば、養生後の収縮率(長さ方向)が-1.0~1.0%であることが好ましく、-0.5~0.5%であることがより好ましく、-0.1~0.1%であることがさらに好ましい。また、成形体の乾燥後の収縮率(長さ方向)が-2.0~2.0%であることが好ましく、-1.0~1.0%であることがより好ましく、-0.4~0.4%であることがさらに好ましい。
【0054】
成形体の収縮率は、例えば、養生後の収縮率(厚さ方向)が-1.0~1.0%であることが好ましく、-0.5~0.5%であることがより好ましく、-0.1~0.1%であることがさらに好ましい。また、成形体の乾燥後の収縮率(厚さ方向)が-2.0~2.0%であることが好ましく、-1.0~1.0%であることがより好ましく、-0.4~0.4%であることがさらに好ましい。
【0055】
なお、成形体の養生後の収縮率測定条件及び乾燥後の収縮率測定条件は実施例の項に記載の手順に従って測定した値を意味する。
【0056】
3.成形体の製造方法
本発明の成形用組成物から成形体を製造する方法して、例えば、下記の工程1及び工程2を備える製造方法を挙げることができる。
工程1;前記成形用組成物を水の存在下に混合して混合物を得る工程。
工程2;前記混合物を成形した後、養生及び乾燥して硬化することで成形体を得る工程。
【0057】
工程1では、前記成形用組成物を水の存在下で混合し、混合物を得る。例えば、水の存在下、(b)無機フッ化物、(c)ジオポリマー前駆体を混合し、そこへ(a)耐熱性無機材料及び(d)脂肪酸又はその金属塩を添加することで、混合物を得ることができる。あるいは、(a)耐熱性無機材料、(b)無機フッ化物、及び、シリカアルミナを混合し、そこへアルカリ水溶液を添加した後、さらに(d)脂肪酸又はその金属塩を加えることで混合物を得ることができる。さらには、前記成形用組成物に水を添加することで、混合物を得ることもできる。いずれの場合でも、補強繊維等のその他成分を適宜のタイミングで加えることができる。
【0058】
工程1において、水の使用割合は特に限定されず、例えば、混合時の固形分の質量に対する水の質量の比が0.03~0.5であることが好ましい。
【0059】
工程1で混合物を得る手段は特に限定されず、例えば、市販の撹拌機、混合機等を使用して混合することができる。混合時間も特に限定されず、例えば、目視にて均一に混合できたと判断できるまで混合を続けることができる。工程1の混合を行う際の温度も特に限定されず、例えば、室温(例えば、15~25℃)で行うことができる。
【0060】
工程1の混合により、各成分が混合されると共に、(c)ジオポリマー前駆体であるシリカアルミナとアルカリとの一部が反応することがあり、すなわち、工程1では、前記ジオポリマーが生成することもある。ただし、工程1ではすべての(c)ジオポリマー前駆体が反応するわけではなく、未反応原料であるシリカアルミナとアルカリが残存する。
【0061】
工程2は、工程1で得た混合物を成形した後、養生及び乾燥して硬化させる。これにより、目的の成形体が得られる。特に、工程2の養生及び乾燥によって、組成物中の(c)ジオポリマー前駆体中のシリカアルミナ及びアルカリとの反応が十分に進行して、これにより(c)ジオポリマー前駆体からジオポリマーが生成する。
【0062】
工程2において、成形、養生及び乾燥の方法は特に限定されず、例えば、公知の方法を採用することができる。例えば、成形は金型を用いたプレス成形、型への流し込み成形(いわゆる鋳込み成形)等のバッチ式を採用することができ、あるいは、ベルト又はフェルト等の上に混合物を配置して連続に成形する連続式を採用することもできる。成形は、湿式又は半乾式で行うことができる。
【0063】
工程2において、養生及び乾燥の方法も特に限定されず、例えば、公知の硬化方法を広く採用することができる。養生を行うにあたっての養生温度、養生湿度及び養生時間は特に限定されず、例えば、公知の条件と同様とすることができる。必要に応じてオートクレーブを使用して養生を行うこともできる。乾燥を行うにあたっての乾燥温度及び乾燥時間も特に限定されず、例えば、公知の条件と同様とすることができる。工程2で養生及び乾燥をすることで、成形体中の硬化性成分の硬化が進行する。
【0064】
工程1及び工程2を備える製造方法は、焼成(つまり、混合物の焼結を伴うような高温加熱)せずとも、目的の成形体を得ることができる。よって、成形体の製造方法においては、前記混合物を焼成する工程を含まないことが好ましい。また、工程2の混合物の硬化後においても焼成する工程を含まないことが好ましい。
【0065】
以上のように、本発明の成形体は、前記成形用組成物から形成されることで、(a)耐熱性無機材料と、(b)無機フッ化物と、ジオポリマーと、(d)脂肪酸又はその金属塩とを含有する。これらの含有割合は、前記成形用組成物中の(a)~(d)成分の含有割合によって決定される。本発明の成形体は、前記成形用組成物から形成されることで、収縮ひずみ及びクラックの発生が抑制される。
【実施例0066】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0067】
表1には、各実施例及び比較例で使用した原料の種類及び使用量を示している。
【0068】
【0069】
(実施例1)
表2に示す配合に従って、成形体を製造した。まず、シリカアルミナとしてフライアッシュ32.9質量部、耐熱性無機材料としてワラストナイト28.2質量部及び溶融シリカ28.2質量部、無機フッ化物として蛍石5質量部、補強繊維として耐アルカリガラス繊維0.5質量部をミキサーに入れ,混合した。次いで、アルカリ溶液を添加し、混合した。アルカリ水溶液は、ケイ酸ソーダ1号E(Na2O+SiO2)4.7質量部に水を加え,アルカリ水溶液を調整した。水の添加量は水の質量の比(水/固形分)が0.135となるように調節した。さらに、脂肪族金属塩としてステアリン酸カルシウム0.5質量部を加え,混合することで混合物を調整した(工程1)。
【0070】
得られた混合物を金型に入れ、油圧プレス機で半乾式プレスを行うことで、長さ15cm×7.5cm、厚さ3.8cmの生成形体を得た。得られた生成形体を常圧下(大気圧下)、80℃の飽和蒸気下で24時間静置養生し、硬化体を得た。得られた硬化体を150℃の雰囲気下で恒量になるまで乾燥し、成形体を得た(工程2)。
【0071】
(実施例2~13、比較例1)
原料及び使用量を表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の条件で成形体を得た。
【0072】
(評価方法)
[成形体の密度測定]
各実施例及び比較例で得られた成形体の寸法から体積を計測し、成形体重量を体積で除することで断熱材の密度を算出した。
【0073】
[収縮率の測定]
長さ方向及び厚さ方向の養生処理後の収縮率、並びに、長さ方向及び厚さ方向の乾燥処理後の収縮率は、寸法変化に基づいて下記式から算出した。
長さ方向の養生処理後の収縮率
={(生成形体の長さ-硬化体の長さ)/(生成形体の長さ)}×100
厚さ方向の養生処理後の収縮率
={(生成形体の厚さ-硬化体の厚さ)/(生成形体の厚さ)}×100
長さ方向の乾燥処理後の収縮率
={(硬化体の長さ-成形体の長さ)/(生成形体の長さ)}×100
厚さ方向の乾燥処理後の収縮率
={(硬化体の厚さ-成形体の厚さ)/(生成形体の厚さ)}×100
なお、硬化体の長さ、生成形体の長さ及び成形体の長さはいずれも、長尺片の寸法であることを意味する。
【0074】
[クラックの観察]
各実施例及び比較例において、乾燥によって得られた成形体を目視にて観察し、表面に視認できるクラックがある場合を×、ない場合を〇として評価した。
【0075】
表2には、各実施例及び比較例で得られた成形体の評価結果を示している。各実施例で得られた成形体は、(d)成分を含有しない比較例1及び2の成形体に比べて、養生処理後及び乾燥処理後の収縮が抑制され、クラックの発生も抑制されていることがわかった。
【0076】