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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069440
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】チタン合金及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/26 20060101AFI20230511BHJP
   C22C 14/00 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C25D11/26 302
C22C14/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021181284
(22)【出願日】2021-11-05
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】國枝 知徳
(72)【発明者】
【氏名】三好 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】岳辺 秀徳
(57)【要約】
【課題】色むらの少ない発色性に優れた酸化被膜を有するチタン合金とその製造方法を提供する。
【解決手段】チタン合金からなる母材と、その表面に厚さ20nm以上200nm以下の酸化被膜を有するチタン合金であって、前記酸化被膜内の各β安定化元素の平均含有量が0.4質量%以下、全β安定化元素の総量で1.0質量%以下であり、さらに、各β安定化元素の最大と最小の含有量の差が0.3質量%以下であることを特徴とするチタン合金。母材中のβ安定化元素の含有量が3.0質量%以下であり、陽極酸化における電圧付与速度を240V/min以下とすることにより、製造することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン合金からなる母材と、その表面に厚さ20nm以上200nm以下の酸化被膜を有するチタン合金であって、
前記酸化被膜内の各β安定化元素の平均含有量がいずれも0.4質量%以下、全β安定化元素の総量で1.0質量%以下であり、さらに、酸化被膜面内における各β安定化元素の含有量の最大と最小の差がいずれも0.3質量%以下であることを特徴とするチタン合金。
【請求項2】
前記母材は、β安定化元素の含有量が合計で3.0質量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載のチタン合金。
【請求項3】
前記母材は、β相分率が20%以下であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のチタン合金。
【請求項4】
前記母材が、質量%で、
Al:4.5~6.4%、
Fe:0~2.3%、
Si:0~0.60%
を含有し、さらに
C:0.08%未満、
N:0.05%以下、
O:0.4%以下
を含有し、残部Ti及び不純物からなるチタン合金であることを特徴とする、請求項1から請求項3までの何れか一項に記載のチタン合金。
【請求項5】
前記Tiの一部に替えて、さらに質量%で、Ni、Cr、Mnの1種以上をそれぞれ1%以下含有することを特徴とする、請求項4に記載のチタン合金。
【請求項6】
前記の母材が質量%で、
Cu:0.5~1.5%、
Sn:0.5~1.5%、
Si:0.1%超、0.6%以下、
Nb:0.1~0.6%、及び、
O :0.1%以下
を含有し、残部Ti及び不純物からなるチタン合金であることを特徴とする、請求項1から請求項3までの何れか一項に記載のチタン合金。
【請求項7】
請求項1から請求項6までの何れか一項に記載するチタン合金の製造方法であって、
陽極酸化における電圧付与速度を350V/min以下とすることを特徴とするチタン合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被膜を有するチタン合金及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チタン合金は、高比強度であることを活用して、航空機用途を中心に多く使用されてきた。近年では、自動車、民生品等にもチタン合金が多く用いられている。建材などでは加工性に優れる工業用純チタンが用いられる一方で、強度が必要となる分野(例えば携帯筐体やファスナー、マフラー用途など)では強度の観点から、64合金(Ti-6Al-4V)や耐熱チタン合金などの高強度なチタン合金が用いられる。例えば、携帯電話の筐体用途では、ステンレスやチタンの適用ニーズがある。特に、チタンは生体親和性が良いことに加え、軽くて高級なイメージがあり、高級な携帯電話(スマホ)での適用が検討されている。筐体には落下時の凹みや割れ対策のために、高強度であることが求められる。そのため、純チタンなどよりも高強度なチタン合金が必要となる。
【0003】
近年、これら用途のチタン合金においては、高比強度だけでなく意匠性を高めることで更なる用途開拓が望まれている。また、自動車用途においても、高温強度に優れるチタン合金がマフラーなどに使用されている。マフラーは、購買意欲向上の観点から意匠性向上が望まれている。
【0004】
チタンでは意匠性向上の観点から、陽極酸化により表面に薄い酸化被膜を形成させることで光の干渉作用を活用して様々の色を発色させて使用することがある。チタンを陽極酸化発色させて使用する例としては、タンブラーなどの民生品や建材などがある。これらの用途では加工性の観点から純チタンが主に用いられる。
【0005】
一方、携帯筐体やマフラー用途などの室温~高温での強度が求められる用途では、チタン合金が用いられる。近年、高強度のチタン合金についても、意匠性を向上させるべく、陽極酸化して使用するニーズがある。さらに、意匠性向上を目的に陽極酸化により様々な色に発色させて使用することも想定されている。そこでチタン合金についても、陽極酸化による発色が検討されている。
【0006】
以上のように、チタン合金においても陽極酸化による発色のニーズがあるが、従来の陽極酸化は主に純チタンを対象として開発されており、合金への適用の検討は少ない。例えば特許文献1においては、酸化皮膜の密着性に優れ、色ムラのない発色チタン材及び発色チタン合金材の製造方法が開示されているが、実施例においては純チタンのみが用いられている。
【0007】
陽極酸化による発色のニーズがあるチタン合金としては、特許文献2に開示されているTi-5Al-1Fe(51AF)、特許文献3に開示されているTi-1Cu-1Sn-0.2Nb-0.2Si(10CSSN、マフラー用)などが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7-300697号公報
【特許文献2】特開平7-70676号公報
【特許文献3】国際公開WO2011/081077号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
チタンにおける陽極酸化による発色は、電圧付与することで表層に薄い酸化被膜が形成し、その被膜による光の干渉により生じる。形成した酸化被膜の厚みによって色が変化する。そのため、単色のきれいな発色をするためには均一厚みの酸化被膜を形成させる必要がある。しかしながら、従来の純チタンに陽極酸化を施す場合と同様の手法をチタン合金に用いた場合、形成された酸化被膜による発色が不均一になることがわかった。
【0010】
本発明は、色むらの少ない発色性に優れた酸化被膜を有するチタン合金とその製造方法を提供することを目的とする。特に、Ti64合金とほぼ同等の強度かつ加工性に優れる高強度チタン合金やマフラー用途で用いられるチタン合金などについて、Ti64合金よりも発色性に優れたチタン合金を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
[1]チタン合金からなる母材と、その表面に厚さ20nm以上200nm以下の酸化被膜を有するチタン合金であって、
前記酸化被膜内の各β安定化元素の平均含有量がいずれも0.4質量%以下、全β安定化元素の総量で1.0質量%以下であり、さらに、酸化被膜面内における各β安定化元素の含有量の最大と最小の差がいずれも0.3質量%以下であることを特徴とするチタン合金。
[2]前記母材は、β安定化元素の含有量が合計で3.0質量%以下であることを特徴とする、[1]に記載のチタン合金。
[3]前記母材は、β相分率が20%以下であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載のチタン合金。
[4]前記母材が、質量%で、Al:4.5~6.4%、Fe:0~2.3%、Si:0~0.40%を含有し、さらに、C:0.08%未満、N:0.05%以下、O:0.4%以下を含有し、残部Ti及び不純物からなるチタン合金であることを特徴とする、[1]から[3]までの何れか一つに記載のチタン合金。
[5]前記Tiの一部に替えて、さらに質量%で、Ni、Cr、Mnの1種以上をそれぞれ1%以下含有することを特徴とする、[4]に記載のチタン合金。
[6]前記の母材が質量%で、Cu:0.5~1.5%、Sn:0.5~1.5%、Si:0.1%超、0.6%以下、Nb:0.1~0.4%、及び、O:0.1%以下を含有し、残部Ti及び不純物からなるチタン合金であることを特徴とする、[1]から[3]までの何れか一つに記載のチタン合金。
【0012】
[7][1]から[6]までの何れか一つに記載するチタン合金の製造方法であって、
陽極酸化における電圧付与速度を350V/min以下とすることを特徴とするチタン合金の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、発色性に優れた酸化被膜を有するチタン合金が得られるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
チタンにおける陽極酸化発色は酸化被膜の厚さを制御することでその色を任意に制御することができる。この被膜厚は一般に電圧で決まることから、電圧を制御することで酸化被膜の厚さを制御可能である。しかしながら、チタン合金ではさらに含有する合金元素量が多いため、一部の元素が酸化被膜中に残存することで、酸化被膜の電気抵抗が変化し、その影響により発色後の色が変化することがあることが判明した。合金種によっては陽極酸化手法により酸化被膜中に合金元素が混入することがあり、方法を工夫する必要があり作業面やコスト面でも課題となる場合があった。
以下、酸化被膜を単に被膜ともいう。
【0015】
本発明では、陽極酸化時の色が安定するチタン合金及びその表面制御技術について着目した。具体的には、母材の合金成分を制御すること、及び陽極酸化での電圧の上昇速度(電圧付与速度)を調整することで、元素含有量が多い高強度チタン合金であっても安定してきれいな陽極酸化発色が得られることとした。
【0016】
《被膜厚》
チタンの陽極酸化による発色は光の干渉により生じるため、膜厚を制御することで色を制御することができる。本発明では、様々の色を発色することができる50nm以上500nm以下にすることとしている。
【0017】
《β安定化元素》
本発明においてβ安定化元素とは、V,Mo,Nbなどの全率固溶型元素、Fe,Cr,Ni,Mn,Cu,Siなどの共析型元素などである。
【0018】
《被膜中のβ安定化元素の含有量及び含有量の差》
陽極酸化では、形成する被膜の電気抵抗と付与した電圧で形成する被膜厚が決まる。この際、母材のチタン合金中に含有するβ安定化元素が被膜中に存在すると、電気抵抗が変化し被膜厚が変化したり、色が変化することが判明した。β安定化元素は、母材の成分組成あるいは陽極酸化条件によっては被膜中に多く存在し、色を変化させる。被膜内における各β安定化元素の平均含有量が0.4質量%以下、全β安定化元素の平均含有量の合計(「全β安定化元素の総量」ともいう。)が1.0質量%以下であれば、色の変化が小さいことから、これを上限とした。β安定化元素が含まれないほど色が変化しないため、下限値は0質量%である。
【0019】
また、β安定化元素を含有していても、被膜の面内での含有量のばらつきが少なければ、色は変化し難くなって好ましい。鋭意研究を進めたところ、被膜面内の各β安定化元素の最大と最小の含有量の差が、いずれのβ安定化元素についても0.3質量%以下であれば、よりきれいな発色をすることが判明した。従って、本特許では酸化被膜面内における各β安定化元素の含有量の最大と最小の差がいずれも0.3質量%以下とした。変化がない方が良いため、下限値は0質量%である。
【0020】
《被膜中の含有量の測定方法》
被膜中の元素の含有量については、GD―OES(Glow Discharge Optical Emission Spectroscopy)もしくはAES(オージェ電子分光法、Auger Electron Spectroscopy)により、被膜の深さ方向の含有量の分布を測定することができる。AESの場合、スパッタリングにより被膜を掘り下げつつ、各深さにおいて元素の含有量の分析を行う。発色したチタン表面の任意の点(5点)において、被膜の表層から1μmまで成分の深さ方向分布を測定した。この際、被膜表面のそれぞれの測定点について、深さ方向でOの含有量が60%以上の領域を酸化被膜とし、その領域における各々のβ安定化元素の含有量の平均値を測定し、当該測定点における各β安定化元素の平均含有量とした。なお、以降では、この値を各測定点での「各β安定化元素の平均含有量」とした。そのうちの最大値を「各β安定化元素の平均含有量の最大値」とした。さらに、各β安定化元素について全ての測定点での平均値を算出して各β安定化元素の総量とした。また、「全β安定化元素の総量」として、各β安定化元素の総量を全てのβ安定化元素について合計した値を用いた。さらに、各β安定化元素について、各測定点での前記領域における最大と最小の値を抽出し、その結果から各β安定化元素の含有量の最大と最小の差を算出し、ばらつきとした。測定方法はGD-OESの結果を優先し、試験片形状などの問題により測定が困難な場合、AESの結果で代用するものとする。なお、表層は様々な原因(大気中の塵など)で汚染されているため、分析前にはアルコールなどにより十分に洗浄してから分析する。
【0021】
《母材のβ安定化元素の含有量およびβ相分率》
以上のように、被膜中のβ安定化元素の含有量及び含有量の差を好適化する上で、母材のβ安定化元素の含有量およびβ相分率について好適範囲が存在することが判明した。以下に説明する。
【0022】
一般にチタン合金を高強度化するためには、用途に合わせてβ安定化元素を数%程度添加している。β安定化元素の含有量が増加すると、室温においてもβ相分率が増加する。しかしながら、チタン合金の陽極酸化による発色では、母材中のβ安定化元素の総量が増大するほど、また母材のβ相分率が高いほど、被膜中におけるβ安定化元素の挙動が上記本発明の好適範囲から外れ、色が混色になる場合があることが判明した。母材のβ安定化元素の含有量の総量が高いほど、母材のβ相分率が高くなる傾向もある。そのため、母材中のβ安定化元素の含有量の総量は3.0質量%以下であることが望ましい。母材中のβ安定化元素の含有量の総量が3.0質量%以下であれば、下記陽極酸化条件の好適化と相まって、被膜中のβ安定化元素の挙動を上記好適条件とすることができる。母材中のβ安定化元素の含有量の総量は好ましくは2.5%以下である。一方、少なすぎると、室温~高温での強度が得られなく。なるそのため、下限は0.2質量%以上であると好ましい。
【0023】
チタンの陽極酸化による発色には母材の結晶粒の相の構造が影響することが判明した。チタン合金において、高強度化のためにβ安定化元素の含有量を多量に含有するとβ相分率が増加する。しかしながら、β相分率が増加すると、α相とβ相で陽極酸化後の色が変化し、その影響で外観の色も変化してしまう場合があることが判明した。β相分率が小さいほどその影響が小さくなる。鋭意研究を進めた結果、β相分率が20%以下であれば外観の色への影響が小さくなることから、好ましい上限を面積率で20%とした。一方、下限は少なければ少ないほど良いため0%である。
【0024】
《陽極酸化条件》
陽極酸化によって形成される被膜の被膜厚は、一般に陽極酸化の電圧で決まることから、電圧を制御することで酸化被膜の厚さを制御する。例えば、硫酸またはりん酸1質量%溶液を用いて15~100V、溶液中での保持時間が10秒~5分で陽極酸化することとすれば、膜厚が50nm以上500nm以下の被膜を形成することができる。
【0025】
本発明では、陽極酸化で電圧を印加するに際し、電圧付与速度を調整することにより、被膜中におけるβ安定化元素の挙動が上記本発明の好適範囲となることが判明した。具体的には、電圧付与速度を遅くするほど、被膜中におけるβ安定化元素の挙動が上記本発明の好適範囲に入り、結果として色むらの少ない発色性に優れた酸化被膜を有するチタン合金を得ることができる。電圧付与速度が350V/min以下であれば好ましい。300V/min以下であればさらに好ましい。
更に、色むらの少ない発色性に優れた酸化被膜を有するチタン合金を得るためには、母材表面の脱脂や酸洗を行った後、陽極酸化を実施することが好ましい。
【0026】
《母材中の各元素の含有量》
本発明は、母材として、β安定化元素の総量を上記好適範囲に制御したチタン合金であれば、いずれの成分組成であっても適用することができる。特に、以下の2種類の成分組成のチタン合金において、本発明を好適に用いることができる。以下、成分組成において、%は質量%を意味する。
【0027】
《第1の母材の成分組成》
第1の母材の成分組成は、Al:4.5~6.4%、Fe:0~2.3%、Si:0~0.40%を含有し、さらに、C:0.08%未満、N:0.05%以下、O:0.4%以下を含有し、残部Ti及び不純物からなる。
【0028】
[Al:4.5~6.4%]
Alは固溶強化能の高いα安定化元素であり、4.5%以上含有する。含有量を増やすと高強度化できる。一方、6.4%超含有すると、冷延性が著しく低下するとともに、凝固偏析などによりあるα相を過度に固溶強化して局所的に硬い領域を生成し、衝撃靱性の低下ももたらす。したがって、上限を6.4%とした。
【0029】
[Fe:0~2.3%]
Feはβ安定化元素の中でも安価な添加元素であり、さらに固溶強化能の高い元素であるため、含有量を増やすと室温での強度が高くなる。一方、Feは非常に凝固偏析し易い添加元素のため、含有し過ぎると性能のばらつきが大きくなり、場所によっては疲労強度の低下が低下することから、上限を2.3%とした。好ましくは2.1%以下である。下限は用途により調整するため0%でも構わないが、0.5%以上であれば上記機能を発揮することができる。
【0030】
[Si:0~0.60%]
Siはβ安定化元素であるが、α相中にも固溶し高い固溶強化能を示す。上記のようにFeは偏析の問題から2.3%を超える含有が難しいことから、必要に応じてSiの固溶強化により高強度化しても良い。一方で、Siを含有し過ぎるとシリサイドと称する金属間化合物を形成し、加工性が低下する。0.60%を超えてSiを含有すると製造過程で粗大なシリサイドが生成し疲労強度が低下することから、0.60%を上限とした。下限は用途により調整するため0%でも構わないが、0.05%以上であれば上記機能を発揮することができる。
【0031】
[O、N、Cの含有量]
O、N、Cはともに多量に含有すると延性、加工性を低下させてしまう場合があるため、Oは0.40%以下、好ましくは0.3質量%以下である。また、Cは0.08%未満、Nは0.05%以下にそれぞれ制限する。なお、O、N、Cは不可避的に混入する不純物であるとして含有が避けられないことから、実質的な含有量は、通常、Oで0.01%以上、Cで0.0001%以上、Nで0.0001%以上である。
【0032】
[Ni、Cr、Mnの含有量]
上記第1の母材の成分組成は、上記成分を含有し、残部Ti及び不純物からなる。さらに、Tiの一部に替えて、Ni、Cr、Mnの1種以上をそれぞれ1%以下の範囲で含有しても良い。Ni、Cr、Mnは、FeやCuなどと同様に、共析型のβ安定化元素であり、他のβ安定化元素などと同様に室温での強度を向上させる。一方で、含有量が多くなると凝固時の偏析や平衡相である金属間化合物(TiNi、TiCr、TiMn)が生成し、疲労強度、および室温延性が劣化するからである。そのため、これら元素の含有量の上限は1%とした。なお、チタン合金の母材にこれら任意元素を含有する場合、酸化被膜内の各β安定化元素の挙動を本発明の範囲内とするため、母材中のβ安定化元素の含有量が合計で3.0質量%以下であると好ましい。
【0033】
《第2の母材の成分組成》
第2の母材の成分組成は、Cu:0.5~1.5%、Sn:0.5~1.5%、Si:0.1%超、0.6%以下、Nb:0.1~0.4%、及び、O:0.1%以下を含有し、残部Ti及び不純物からなる。
【0034】
[Cu:0.5~1.5%]
CuはFe同様にβ安定化元素の中では比較的安価であり、かつ、固溶強化能が高いことから、0.5%以上含有する。また、中温から高温域の固溶強化能に優れる。加えて、Alとは異なり加工性を妨げない極めて有効な元素である。一方、Cuのα相への固溶限を大きく上回る量を含有すると、β相分率が高くなり、室温~高温の強度が低下したり、TiCuが析出し、室温での加工性を著しく低下させる場合がある。そのため、上限は1.5%とした。
【0035】
[Sn:0.5~1.5%]
Snは中性元素であり、固溶強化により室温~高温での強度を向上させることから、0.5%以上含有させる。一方で、これら元素の含有量が多くなると、チタンの双晶変形が抑制され、冷間加工性が劣化する場合がある。そのため、上限を1.5%とした。
【0036】
[Si:0.1%超、0.6%以下]
Siはβ安定化元素であるが、α相中にも固溶し高い固溶強化能を示すことから、0.1%超含有する。Siの固溶強化により高強度化しても良い。一方で、Siを含有し過ぎるとシリサイドと称する金属間化合物を形成し、加工性が低下する。0.6%を超えるSiを含有すると製造過程で粗大なシリサイドが生成し疲労強度が低下することから、0.6%を上限とした。好ましくは0.5%以下である。
【0037】
[Nb:0.1~0.6%]
Nbは全率固溶のβ安定化元素であり、室温での強度を向上させることから、0.1%以上含有させる。一方で、含有しすぎると陽極酸化後の被膜中にこれら元素が多く残存し、発色性に悪影響を及ぼす場合があることが判明した。0.6%以下であれば発色性への影響が小さいことから0.6%以下とした。
【0038】
[O:0.1%以下]
Oは多量に含有すると延性、加工性を低下させてしまう場合があるため、Oは0.1%以下とする。なお、Oは不可避的に混入する不純物であるとして含有が避けられないことから、実質的な含有量は、通常、Oで0.01%以上である。
【0039】
《その他、母材のチタン合金に共通する成分組成》
上記第1、第2の母材の成分組成において、残部Tiの一部に替えて、下記成分を含有することとしても良い。
【0040】
[Zrの含有量]
Zrは中性元素であり、固溶強化により室温~高温での強度を向上させる。一方で、Zrの含有量が多くなると、チタンの双晶変形が抑制され、冷間加工性が劣化させる場合がある。そのため、上限を2質量%とした。好ましくは、1.5質量%以下である。
【0041】
[V,Mo]
V,Moは全率固溶のβ安定化元素であり、室温での強度を向上させる。一方で、含有しすぎると陽極酸化後の被膜中にこれら元素が多く残存し、発色性が劣化する場合があることが判明した。1質量%以下であれば発色性への影響が小さいことから1質量%以下とした。好ましくは0.5質量%以下である。下限は用途により調整するため0%でも構わない。なお、チタン合金の母材にこれら任意元素を含有する場合、酸化被膜内の各β安定化元素の挙動を本発明の範囲内とするため、母材中のβ安定化元素の含有量が合計で3.0質量%以下であると好ましい。
【0042】
[O、N、Cの含有量]
O、N、Cはともに多量に含有すると延性、加工性を低下させてしまう場合があるため、Oは0.40%以下、好ましくは0.3質量%以下である。また、Cは0.08%以下、Nは0.05%以下にそれぞれ制限する。なお、O、N、Cは不可避的に混入する不純物であるとして含有が避けられないことから、実質的な含有量は、通常、Oで0.01%以上、Cで0.0001%以上、Nで0.0001%以上である。
【0043】
チタンの製品では、例えば、板材では圧延、真空焼鈍ままである場合、もしくは、酸洗して製造される場合がある。また、棒材の場合では、酸洗したり、表面の皮むきなどのために機械加工を施す場合がある。本発明においては、表面性状はいずれの状態であっても良い。
【実施例0044】
チタン合金の表面に、陽極酸化によって酸化被膜を形成した。母材チタン合金の成分組成を表1に示す。表2の各実施例において、表1の母材No.の成分組成のチタン合金を母材として用いて、圧延後に酸洗を行った後、陽極酸化によって酸化被膜を形成した。なお、酸洗は10%の硝酸と5%のふっ酸の水溶液により実施した。また、実施例14および15については、圧延後に真空焼鈍を施し、その後酸洗を行わずに陽極酸化を行った。
【0045】
陽極酸化条件としては、硫酸1質量%溶液を用いて、溶液中での最高電圧到達後の保持時間を60秒以下とした。実施例ごとに電圧を20~100Vの範囲で変動させて膜厚を調整した。本発明例No.5、7は、硫酸溶液ではなく、リン酸1質量%溶液を用いた。
【0046】
陽極酸化の電圧付与速度について、表2の陽極酸化条件に記載したとおり、遅い条件(80V/min)と速い条件(400V/min)の2種類を用いた。
【0047】
被膜中のβ安定化元素の含有量の測定は、前述のGD―OESにより行った。発色したチタン表面の任意の点(5点)において、被膜の表層から1μmまで成分の深さ方向分布を測定した。この際、被膜表面のそれぞれの測定点について、深さ方向でOの含有量が60%以上の領域を酸化被膜とし、その領域(酸化被膜領域)における各々のβ安定化元素の含有量の平均値を測定し、各測定点における各β安定化元素の平均含有量とした。そのうちの最大値を表2の「各β安定化元素の平均含有量の最大値」欄に記載した。また、各β安定化元素の平均含有量の全ての測定点での平均値を算出して各β安定化元素の総量とし、各β安定化元素の総量を全てのβ安定化元素について合計して、表2における「全β安定化元素の総量」とした。さらに、各β安定化元素について、すべての測定点の含有量の中から最大と最小の値を抽出し、その結果から各β安定化元素の最大と最小の含有量の差を算出した。さらに、各β安定化元素の最大と最小の含有量の差のうちの最も大きな値を、表2の「ばらつき/max-min」欄に記載した。分析前にはアルコールなどにより十分に洗浄してから分析を行った。なお、GD-OES分析では表面に付着した汚れを検出してしまうため、表層10nmまでの深さは除外することとした。
【0048】
酸化被膜の厚みの測定は上記のGD-OESの分析において、Oの含有量が60%以上の領域を酸化被膜として、その厚みとした。なお、β安定化元素含有量と同様にGD-OES分析では表面に付着した汚れを検出してしまうため、表層10nmまでの深さは除外することとした。
【0049】
表2の「母相」欄「β安定化元素の総量」は、表1の成分組成におけるβ安定化元素の合計を記載している。また「母相」欄「β相分率」については、SEM(scanning electron microscopy)/EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)により測定した。EPMAではβ安定化元素が1質量%以上である領域をβ相とした。500×500μmの素材の圧延方向に平行で板厚方向に平行な任意の面において5点測定し、その平均値を算出してβ相分率として評価した。
【0050】
形成した酸化被膜の発色品質については、カラー顕微鏡観察により評価した。カラー顕微鏡観察では、板表面について倍率50~200倍で任意の領域(5点以上)を観察する。始めに色を決めた任意の点以外の場所の点を画像内から100~5000ヵ所抽出する。そして、各抽出点についてLab色空間のaおよびb抽出する(a、bは色の方向を示す指標であり、aは緑から赤にかけての色味の強さを表し、bは青から黄にかけての色味の強さを表す指標である)。次に、aとbをそれぞれ-90~90を10毎(-90~-80、-80~-70、・・・80~90)に区切り、各々の組み合わせ18×18=324通りに範囲の各々の範囲に該当する数を求める。この324通りの中で最も数が多い範囲の中心値(例、a:10~20、b:-10~-20の範囲で最大の場合はa=15、b=-15)を基準点とする。この基準点と各抽出した点との色差の差を評価した。具体的には、各抽出点についてLab色空間における座標との基準点との色差の差:√(Δa+Δb)(Δa、Δbは任意の点でのa、bの値と基準点でのa、bの値の差である。)が30以下の面積率が60%以上の場合を「〇」、60%未満50%以上の場合を「△」、50%未満の場合を「×」とした。ここで、面積率は前記抽出した箇所のうち、色差30以内の個数を全抽出点数で割ることで算出した。評価は〇、△を合格、×を不合格として、表2の「品質」欄「発色の均一性」欄に記載した。表2において、本発明範囲から外れる数値に下線を付している。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
表2の本発明例No.1~17について、酸化被膜中のβ安定化元素の挙動が本発明の好適範囲内にあり、結果として酸化被膜の発色の均一性が良好であった。母材中のβ安定化元素の総量、β相分率が本発明の好適範囲であるとともに、陽極酸化条件における電圧付与速度が好適であったことによる。なお、本発明例7は、母材中のβ安定化元素の総量が2.6質量%とやや高く、β相分率が21%とやや高いため、発色の均一性が△の評価にとどまった。
【0054】
表2の比較例No.1~3については、酸化被膜中のβ安定化元素の挙動が本発明の好適範囲から外れ、結果として酸化被膜の発色の均一性が不良であった。比較例No.1は母材中のβ安定化元素の総量が本発明の好適範囲から外れ、比較例No.2~3は陽極酸化条件における電圧付与速度が好適条件から外れたことによる。