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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069444
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】アルカリ電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/06 20060101AFI20230511BHJP
   H01M 4/42 20060101ALI20230511BHJP
   H01M 6/08 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
H01M4/06 T
H01M4/42
H01M6/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021181289
(22)【出願日】2021-11-05
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】弁理士法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】夏目 祐紀
(72)【発明者】
【氏名】國谷 繁之
(72)【発明者】
【氏名】都築 秀典
(72)【発明者】
【氏名】安西 晋吾
(72)【発明者】
【氏名】松井 隼司
【テーマコード(参考)】
5H024
5H050
【Fターム(参考)】
5H024AA14
5H024HH01
5H050AA09
5H050AA12
5H050BA04
5H050CA05
5H050CB13
5H050CB29
5H050DA14
5H050FA17
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】アルカリ電池の負極材の活物質として亜鉛とビスマスの合金を用いる場合の、ガスの発生及び放電性能低下を抑制する。
【解決手段】アルカリ電池は、第1の濃度でビスマスが亜鉛と合金化された第1の亜鉛合金粉末(たとえば、図3の亜鉛合金粒子14a1,14a2,14a5,14a6,14a7などを含む亜鉛合金粉末)と、第1の濃度よりも高い第2の濃度でビスマスが亜鉛と合金化された第2の亜鉛合金粉末(たとえば、図3の亜鉛合金粒子14a3,14a4などを含む亜鉛合金粉末)とが混合された活物質を含む負極材を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の濃度でビスマスが亜鉛と合金化された第1の亜鉛合金粉末と、第1の濃度よりも高い第2の濃度でビスマスが亜鉛と合金化された第2の亜鉛合金粉末とが混合された活物質を含む負極材、
を有するアルカリ電池。
【請求項2】
前記第1の濃度は50ppm以上、100ppm以下であり、前記第2の濃度は、100ppm以上、500ppm以下である、請求項1に記載のアルカリ電池。
【請求項3】
前記活物質における、前記第1の亜鉛合金粉末と前記第2の亜鉛合金粉末との混合比率は、前記第1の亜鉛合金粉末がx%、前記第2の亜鉛合金粉末が(100-x)%であり、xは50以上、80以下である、請求項2に記載のアルカリ電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ電池に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ電池では、正極材の活物質として二酸化マンガンが用いられ、負極材の活物質として亜鉛が用いられている。また、電解液として、水酸化カリウムを溶解させたアルカリ電解液が用いられている。
【0003】
負極材の活物質として亜鉛のみを用いる場合、アルカリ電池の使用時にガス(水素ガス)が発生しやすくなる。なお、アルカリ電池において発生するガスは、自己放電(電池使用時ではなくても自然に放電すること(自然放電とも呼ばれる))によるものも含まれる。ガスの発生量が増加すると、電池内圧が高くなり漏液が発生する可能性がある。
【0004】
負極材の活物質として亜鉛のみを用いる場合、上記のような問題が生じるため、ガスの発生を抑制可能な金属を亜鉛と合金化した亜鉛合金が用いられる。このような金属として、アルミニウム、インジウム、ビスマスなどが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0005】
アルミニウムは、亜鉛と合金化することにより、亜鉛合金の粉末微粒子(以下亜鉛合金粒子という)の表面を平滑化する効果があり、これにより、反応性に関係する表面積を減少させてガスの発生を抑制する効果が生じる。インジウムは、亜鉛合金粒子の表面の水素過電圧を高めることにより、電池として保存中の腐食に起因する自己放電によるガスの発生を抑制する作用がある。ビスマスは、インジウムと同様に自己放電によるガスの発生を抑制する効果があるが、アルカリ電池の使用時の放電により発生するガスを増大させる傾向がある。また、これらの添加金属(アルミニウム、インジウム、ビスマスなど)は、亜鉛粉末と合金化する以外に、亜鉛粉末に対して別添加(後添加)することでも同じような効果が得られることも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-173097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、アルカリ電池の負極材の活物質として亜鉛とビスマスの合金を用いる場合、自己放電によるガスの発生を抑制できるものの、ビスマスの濃度を増やすと過放電時のガスが増加するとともに、亜鉛合金の粉末微粒子の抵抗成分が上昇する問題がある。抵抗成分が上昇すると、アルカリ電池の内部抵抗が上昇し放電性能が低下する可能性がある。
【0008】
1つの側面では、本発明は、アルカリ電池の負極材の活物質として亜鉛とビスマスの合金を用いる場合の、ガスの発生及び放電性能低下を抑制可能なアルカリ電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1つの実施態様では、第1の濃度でビスマスが亜鉛と合金化された第1の亜鉛合金粉末と、第1の濃度よりも高い第2の濃度でビスマスが亜鉛と合金化された第2の亜鉛合金粉末とが混合された活物質を含む負極材、を有するアルカリ電池が提供される。
【発明の効果】
【0010】
1つの側面では、本発明は、アルカリ電池の負極材の活物質として亜鉛とビスマスの合金を用いる場合の、ガスの発生及び放電性能低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施の形態のアルカリ電池の一例を示す断面図である。
図2】過放電ガスの発生メカニズムを説明する模式図である。
図3】過放電ガスの抑制メカニズムを説明する模式図である。
図4】放電性能の試験結果を示す図である。
図5】自己放電ガス量の試験結果を示す図である。
図6】過放電ガス量の試験結果を示す図である。
図7】自己放電ガス量及び過放電ガス量が比較例1の場合のガス量以下であり、かつ、放電性能が比較例1よりも優れているビスマス濃度の組合せの範囲を示す図である。
図8】2種類の亜鉛合金粉末の混合比率に応じた放電性能、自己放電ガス量及び過放電ガス量の検証結果の例を示す図である(その1)。
図9】2種類の亜鉛合金粉末の混合比率に応じた放電性能、自己放電ガス量及び過放電ガス量の検証結果の例を示す図である(その2)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、発明を実施するための形態を、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施の形態のアルカリ電池の一例を示す断面図である。
アルカリ電池10は一次電池である。図1の例では、アルカリ電池10として、単三形アルカリ乾電池が示されている。
【0013】
アルカリ電池10において、有底筒状の金属製の正極缶11内に、正極材(正極合剤とも呼ばれる)12、セパレータ13、負極材(負極合剤とも呼ばれる)14が、アルカリ電解液と共に収容されている。正極缶11の開口部は、内側に棒状の集電子15が固設された負極端子板16と樹脂製のガスケット17を用いて封止されている。集電子15は、負極材14の中に挿入されている。
【0014】
正極缶11は、たとえば、電池内側から鉄材、合金層、ニッケルメッキ層、導電膜の順に積層された積層構造を有する。ニッケルメッキ層と導電膜との間にレアメタルによるレアメタルコート層が設けられていてもよい。正極缶11は、正極集電体及び正極端子としての機能も有し、底部には凸状の正極端子部11aが形成されている。正極材12は、たとえば、二酸化マンガンや黒鉛などを混ぜ、リング状に成型したものである。セパレータ13には、たとえば、セルロース製品などが用いられる。
【0015】
負極材14は、活物質である亜鉛合金粉末と、電解液などを用いてゲル化した合剤である。
本実施の形態のアルカリ電池10では、負極材14は、第1の濃度でビスマスが亜鉛と合金化された第1の亜鉛合金粉末と、第1の濃度よりも高い第2の濃度でビスマスが亜鉛と合金化された第2の亜鉛合金粉末とが混合された活物質を含む。
【0016】
ここで、第1の濃度は50ppm以上、100ppm以下であり、第2の濃度は、100以上、500ppm以下であることが好ましい。また、上記活物質における、第1の亜鉛合金粉末と第2の亜鉛合金粉末との混合比率は、第1の亜鉛合金粉末がx%、第2の亜鉛合金粉末が(100-x)%であり、xは50以上、80以下であることが好ましい。これらの数値範囲の理由については、後述の(試験1)、(試験2)において説明する。
【0017】
以下に、比較例として、アルカリ電池10の製造時の負極材14の活物質が、1種類のビスマス濃度の亜鉛合金粉末からなる場合の、過放電ガスの発生メカニズムを説明する。
図2は、過放電ガスの発生メカニズムを説明する模式図である。
【0018】
図2に示す比較例において、亜鉛合金粉末の各亜鉛合金粒子(亜鉛合金粒子14b1,14b2,14b3など)は、最初(製造当初)は同じビスマス濃度(図2では“Bi濃度”と表記されている)である。以下では、このビスマス濃度を“中”(たとえば、100ppm)とする。また、このときの亜鉛合金粒子の抵抗成分の大きさを“中”とする。
【0019】
集電子15の周辺のビスマス濃度が100ppm以上の亜鉛合金粒子では、自粒子からの電子(たとえば、図2の電子20b1)のリリースが、近接粒子からの電子(たとえば、電子20b2)の授受よりも多くなる。このため、たとえば、図2の亜鉛合金粒子14b1などのように、亜鉛合金粒子14b1に近接する亜鉛合金粒子14b2の利用率が低いまま、自粒子だけ放電反応が進み、かつ、自粒子の亜鉛が失われやすい。
【0020】
これにより、たとえば、亜鉛合金粒子14b1では、亜鉛濃度が低下することで間接的にビスマス濃度(対亜鉛重量比)が高くなる。図2の例では、亜鉛合金粒子14b1は、ビスマス濃度が“中”から“高”(たとえば、300ppm)、“特高”(たとえば、500ppm)へと上昇している。亜鉛合金粒子14b1の抵抗成分の大きさも、“中”から“高”、“特高”へと高くなっている。
【0021】
このように、集電子15の周辺の亜鉛合金粒子だけが過放電状態まで放電反応が進むと、過放電ガス21が発生しやすくなる。また、集電子15の周辺の亜鉛合金粒子が高抵抗化するため、集電子15から離れた亜鉛合金粒子は利用率が悪化し、放電性能が低下する。
【0022】
次に、アルカリ電池10の製造当初の負極材14の活物質が、2種類のビスマス濃度の亜鉛合金粉末を含む場合の、過放電ガスの抑制メカニズムを説明する。
図3は、過放電ガスの抑制メカニズムを説明する模式図である。
【0023】
本実施の形態のアルカリ電池10では、負極材14は、製造時から、第1の濃度でビスマスが亜鉛と合金化された第1の亜鉛合金粉末と、第1の濃度よりも高い第2の濃度でビスマスが亜鉛と合金化された第2の亜鉛合金粉末とが混合された活物質を含む。
【0024】
たとえば、第1の濃度でビスマスが亜鉛と合金化された第1の亜鉛合金粉末は、ビスマス濃度が“低”(たとえば、50ppm)で、抵抗成分の大きさも“低”の亜鉛合金粒子(たとえば、亜鉛合金粒子14a1,14a2,14a5,14a6,14a7など)からなる。一方、第2の濃度でビスマスが亜鉛と合金化された第2の亜鉛合金粉末は、ビスマス濃度が“高”(たとえば、300ppm)で、抵抗成分の大きさも“高”の亜鉛合金粒子(たとえば、亜鉛合金粒子14a3,14a4など)からなる。
【0025】
ビスマス濃度が“低”の亜鉛合金粒子では、自粒子からの電子のリリースより、近接粒子からの電子の授受の方が多くなる。このため、ビスマス濃度が“低”の亜鉛合金粒子同士を通じて、まんべんなく放電反応が進む。たとえば、図3に示されているように、亜鉛合金粒子14a7から取り出された電子20a1が、亜鉛合金粒子14a1,14a2,14a5,14a6を通じて集電子15に伝搬されている。
【0026】
また、集電子15の周辺における亜鉛合金粒子の高抵抗化も抑制されるため、集電子15から離れた亜鉛合金粒子の利用率も、上記比較例と比べて高まり、放電性能の低下を抑制できる。
【0027】
一方、ビスマス濃度が“低”の亜鉛合金粒子よりも自己放電によるガスの発生の抑制効果が高い、ビスマス濃度が“高”の亜鉛合金粒子は、ビスマス濃度が“低”の亜鉛合金粒子が放電反応の主体となるため、放電深度が進みビスマス濃度が高まる程度が軽くなる。これにより、過放電ガスが発生するビスマス濃度まで達しづらくなる。
【0028】
図3の例では、亜鉛合金粒子14a1,14a2,14a5,14a6,14a7などにおいて放電反応が進み、亜鉛合金粒子14a3,14a4などと同様のビスマス濃度となっている。この場合、各亜鉛合金粒子において電子(たとえば、電子20a2)の取り出しやすさ(放電反応のしやすさ)は同等となる。
【0029】
以上から、アルカリ電池10においてある容量だけ放電されたとき、1種類のビスマス濃度の亜鉛合金粉末を用いた場合より、2種類のビスマス濃度の亜鉛合金粉末を用いた場合、過放電ガスが発生するビスマス濃度に達する亜鉛合金粒子の発生が避けられる。つまり、ガスの発生が抑制される。これは、集電子15から離れた多くの亜鉛合金粒子で分散して放電しやすくなるためである。
【0030】
以下、図1に示したアルカリ電池10(単三形アルカリ乾電池)を製造する際の製造方法の一例を説明する。
まず、電界二酸化マンガン、黒鉛、バインダ、水酸化カリウム溶液が混ぜ合わされ、正極材12が作製される。
【0031】
そして、亜鉛合金粉末、電解液などを用いてゲル状の負極材14が作製される。ここで、亜鉛合金粉末は、第1の濃度でビスマスが亜鉛と合金化された第1の亜鉛合金粉末と、第1の濃度よりも高い第2の濃度でビスマスが亜鉛と合金化された第2の亜鉛合金粉末とを含む。なお、各亜鉛合金粉末の亜鉛には、ビスマスに加え、アルミニウムやインジウムが合金化されていてもよい。亜鉛合金粉末は、たとえば、遠心噴霧法やガスアトマイズ法などにより造紛される。
【0032】
次に、外装体となる正極缶11に、正極材12をリング状に成型したものが嵌合される。そして、正極缶11の胴部上端にビーディングが施され、集電子15と正極缶11の接触面にシール剤が塗布される。
【0033】
その後、正極缶11に嵌合したリング状の正極材12の内側に、セパレータ13が挿入され、水酸化カリウム電解液をセパレータ13に染み込ませる工程が行われる。そして、セパレータ13の内側に負極材14が充填される。正極缶11の開口部は、集電子15が固設された負極端子板16と、ガスケット17によって封止される。
【0034】
これによって、アルカリ電池10が作製される。
以下、第1及び第2の亜鉛合金粉末におけるビスマス濃度や、第1及び第2の亜鉛合金粉末の混合比率を変えて上記の方法により作製したアルカリ電池10について行った試験結果について説明する。
【0035】
(試験1(適切な2種類のビスマス濃度の範囲の特定))
試験に用いた亜鉛合金粉末におけるビスマス濃度は、第1の亜鉛合金粉末については、30、50、80、100、120ppmの5種類、第2の亜鉛合金粉末についても、80、100、200、500、700ppmの5種類である。これらの組合せについて、放電性能(250mA 1hpd [E.P.V.=0.9V])、自己放電によるガス量である自己放電ガス量(電池製造後、180日間常温保存後の電池内ガス量)、過放電ガス量(3.9Ω連続放電 [E.P.V.=0.2V] 放電後、常温3日保存後の電池内ガス量)の試験を行った。
【0036】
なお、試験1では、第1の亜鉛合金粉末と第2の亜鉛合金粉末の混合比率は、50%:50%とした。
また、比較のため、ビスマス濃度が100ppmの1種類の亜鉛合金粉末を用いた場合(比較例1)と、ビスマス濃度が50ppmの亜鉛合金粉末に、酸化ビスマスを50ppm相当量で別添加した場合(比較例2)についても、同様の試験を行った。
【0037】
図4は、放電性能の試験結果を示す図である。
図4では、上記2種類のビスマス濃度の各組合せの場合と、比較例2の場合の放電性能の試験結果が、比較例1の場合の放電性能を100%としたときの比率で示されている。値が大きいほど、よい放電性能であることを示す。なお、放電性能がよいことは、亜鉛合金粉末に含まれる各亜鉛合金粒子の粒子抵抗が低いこと、及び、各亜鉛合金粒子の利用率が高いことに等しい。
【0038】
図4のように、第1の亜鉛合金粉末におけるビスマス濃度が100ppm以下、第2の亜鉛合金粉末のビスマス濃度が500ppm以下の組合せで、比較例1の場合よりもよい放電性能が得られている。また、比較例2の場合でも、比較例1の場合よりもよい放電性能が得られている。
【0039】
なお、第1の亜鉛合金粉末におけるビスマス濃度が100ppmより高い場合や、第2の亜鉛合金粉末のビスマス濃度が500ppmよりも高い場合でも、図3に示したメカニズムにより、1種類のビスマス濃度を用いて同様の濃度にした場合よりは、放電性能の悪化が抑制できるものと考えられる。
【0040】
図5は、自己放電ガス量の試験結果を示す図である。
図5では、上記2種類のビスマス濃度の各組合せの場合と、比較例2の場合の自己放電ガス量の試験結果が、比較例1の場合の自己放電ガス量を100%としたときの比率で示されている。
【0041】
図5のように、第1の亜鉛合金粉末におけるビスマス濃度が50ppm以上、第2の亜鉛合金粉末のビスマス濃度が100ppm以上の組合せで、比較例1の場合の自己放電ガス量以下の値が得られている。また、比較例2の場合、比較例1の場合よりも、自己放電ガス量が多い。
【0042】
図6は、過放電ガス量の試験結果を示す図である。
図6では、上記2種類のビスマス濃度の各組合せの場合と、比較例2の場合の過放電ガス量の試験結果が、比較例1の場合の過放電ガス量を100%としたときの比率で示されている。
【0043】
図6のように、第1の亜鉛合金粉末におけるビスマス濃度が100ppm以下、第2の亜鉛合金粉末のビスマス濃度が500ppm以下の組合せで、比較例1の場合の過放電ガス量以下の値が得られている。また、比較例2の場合、比較例1の場合よりも、大幅に多い過放電ガス量が得られている。
【0044】
なお、第1の亜鉛合金粉末におけるビスマス濃度が100ppmより高い場合や、第2の亜鉛合金粉末のビスマス濃度が500ppmよりも高い場合でも、図3に示したメカニズムにより、1種類のビスマス濃度を用いて同様の濃度にした場合よりは、過放電ガス量の増加が抑制できるものと考えられる。
【0045】
図7は、自己放電ガス量及び過放電ガス量が比較例1の場合のガス量以下であり、かつ、放電性能が比較例1よりも優れているビスマス濃度の組合せの範囲を示す図である。
図7に示すように、上記の範囲は、第1の亜鉛合金粉末のビスマス濃度が50ppm~100ppmであり、第2の亜鉛合金粉末のビスマス濃度が、100~500ppmの範囲である。
【0046】
また、比較例2の場合には、特に過放電ガス量が増加するため、2種類のビスマス濃度の亜鉛合金粉末においては、ビスマスが別添加ではなく、合金化されていることが必要である。なお、比較例2において、過放電ガス量が増加する理由としては以下の理由が考えられる。
【0047】
別添加の酸化ビスマスにより、各亜鉛合金粒子に追加されるビスマス濃度は、各亜鉛合金粒子の表面状態によって異なる。たとえば、凹凸が多くて表面積が大きい亜鉛合金粒子には別添加の酸化ビスマスが吸着しやすいと考えられる。よって、別添加の酸化ビスマスによるビスマス濃度の粒子間ばらつきが生じ、比較例1の場合のような、均一なビスマス濃度とはならない。ビスマス濃度が異なる亜鉛合金粒子を有するという点では、本実施の形態のアルカリ電池10における亜鉛合金粉末に近いように思われるが、上記のように過放電ガス量が増加するのは、表面積が大きい亜鉛合金粒子に偏ってビスマス濃度が高まるためであると考えられる。
【0048】
表面積が大きい亜鉛合金粒子は反応性に優れるため、図2図3に示したようなビスマス濃度に起因する抵抗成分の大きさに左右されずに放電反応が進み、ビスマス濃度が濃縮された亜鉛合金粒子が発生しやすくなったと考えられる。
【0049】
また、表面積の大きい亜鉛合金粒子は別添加の酸化ビスマスが付着しやすいため、初期段階から高ビスマス濃度の粒子になっていると考えられる。表面積の大きい亜鉛合金粒子は、それに加えて上記のように反応性に優れるとすれば、過放電ガスの発生領域となるビスマス濃度まで達しやすい条件(初期濃度、濃縮しやすさ)がそろってしまうと考えられる。
【0050】
(試験2(第1の亜鉛合金粉末と第2の亜鉛合金粉末の適切な混合比率の検証))
次に、図7に示した範囲のビスマス濃度の組合せ範囲から代表して、第1の亜鉛合金粉末のビスマス濃度を80ppm、第2の亜鉛合金粉末のビスマス濃度を200ppmとした場合の混合粉(活物質)を使用し、適切な混合比率の検証を行った。
【0051】
図8及び図9は、2種類の亜鉛合金粉末の混合比率に応じた放電性能、自己放電ガス量及び過放電ガス量の検証結果の例を示す図である。
なお、図8図9において各混合比率における放電性能、自己放電ガス量及び過放電ガス量は、それぞれ比較例1を用いた場合(ビスマス濃度が100ppmの1種類の亜鉛合金粉末を用いた場合)を100%とした場合の比率で示されている。図8図9では、比較例1が“Ref.”と表記されている。図9において、縦軸は比較例1の場合に対する、放電性能、自己放電ガス量及び過放電ガス量の比率を表し、横軸はビスマス濃度が80ppmの亜鉛合金粉末(第1の亜鉛合金粉末)の割合を表している。
【0052】
図8図9に示すように、放電性能については、第1の亜鉛合金粉末の割合が50%以上、自己放電ガス量については、第1の亜鉛合金粉末の割合が80%以下、過放電ガス量については、第1亜鉛合金粉末の割合が50%以上の場合、比較例1の場合よりもよい値となる。
【0053】
したがって、自己放電ガス量及び過放電ガス量が比較例1の場合のガス量より少なく、かつ、放電性能が比較例1以上である混合比率は、第1の亜鉛合金粉末がx%、第2の亜鉛合金粉末が(100-x)%であり、x=50~80である。
【0054】
以上、実施の形態に基づき、本発明のアルカリ電池の一観点について説明してきたが、これらは一例にすぎず、上記の記載に限定されるものではない。
たとえば、アルカリ電池10の製造当初の負極材14の活物質が、3種類以上のビスマス濃度の亜鉛合金粉末を含んでも、図3に示したメカニズムと同様のメカニズムにより、同様の効果が得られるものと考えられる。
【符号の説明】
【0055】
10 アルカリ電池
11 正極缶
11a 正極端子部
12 正極材(正極合剤)
13 セパレータ
14 負極材(負極合剤)
15 集電子
16 負極端子板
17 ガスケット
14a1~14a7,14b1~14b3 亜鉛合金粒子
20a1,20a2,20b1,20b2 電子
21 過放電ガス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9