(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069497
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】シリカガラス製造用バーナーの評価方法、およびシリカガラス製造用バーナーの製造方法、およびシリカガラスインゴットの製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 8/04 20060101AFI20230511BHJP
【FI】
C03B8/04 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021181388
(22)【出願日】2021-11-05
(71)【出願人】
【識別番号】592104944
【氏名又は名称】クアーズテック徳山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】足立 定弘
【テーマコード(参考)】
4G014
【Fターム(参考)】
4G014AH16
(57)【要約】
【課題】実際にシリカガラスインゴットを製造してその光学特性を測定することなく、シリカガラス製造用バーナーの品質を評価可能なシリカガラス製造用バーナーの評価方法を提供する。
【解決手段】
本発明にかかる評価方法においては、原料ガス、水素ガスおよび酸素ガスを供給するための複数のノズルを有するシリカガラス製造用バーナー10の評価方法であって、ノズルの先端を垂直方向上向きに設置し、ノズルの先端から上方のターゲット板に向けて酸水素火炎を噴出させる工程と、赤外線サーモグラフィ装置14を用いて酸水素火炎により加熱されたターゲット板13の温度を測定する工程とを含むこととした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ガス、水素ガスおよび酸素ガスを供給するための複数のノズルを有するシリカガラス製造用バーナーの評価方法であって、
前記ノズルの先端を垂直方向上向きに設置し、前記ノズルの先端から上方のターゲット板に向けて酸水素火炎を噴出させる第1工程と、
赤外線サーモグラフィ装置を用いて前記酸水素火炎により加熱されたターゲット板の温度を測定する第2工程と、
を含む、
ことを特徴とするシリカガラス製造用バーナーの評価方法。
【請求項2】
前記第1工程においては、前記ノズルの先端からターゲット板までの酸水素火炎の周囲を覆うことなく、開放的な状態で酸水素火炎を噴出させる、
ことを特徴とする請求項1に記載のシリカガラス製造用バーナーの評価方法。
【請求項3】
前記ターゲット板をシリカガラス製とする、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のシリカガラス製造用バーナーの評価方法。
【請求項4】
前記シリカガラス製造用バーナーを載置するための専用台と、前記ターゲット板を支持可能に前記専用台に取り付けられた同一長の4本の支柱と、を有し、
前記第1工程においては、前記4本の支柱に支持されたターゲット板に向けて、前記専用台上に載置されたシリカガラス製造用バーナーから前記酸水素火炎を噴出させる、
ことを特徴とする請求項1、2または3に記載のシリカガラス製造用バーナーの評価方法。
【請求項5】
前記支柱はその先端部を交換可能な構造とする、
ことを特徴とする請求項4に記載のシリカガラス製造用バーナーの評価方法。
【請求項6】
前記第1工程および前記第2工程を同一仕様で製造されたすべてのシリカガラス製造用バーナーについて実施し、
シリカガラス製造用バーナー毎に得られる前記ターゲット板の温度分布に基づいて個々のシリカガラス製造用バーナーが噴出する酸水素火炎の状態を評価する、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1つに記載のシリカガラス製造用バーナーの評価方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1つに記載のシリカガラス製造用バーナーの評価方法により評価し、
評価結果に基づいてシリカガラス製造用バーナーのノズルの配置および形状を調整する、
ことを特徴とするシリカガラス製造用バーナーの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のシリカガラス製造用バーナーの製造方法でノズルの配置および形状を調整することにより製造されたシリカガラス製造用バーナーの複数のノズルに原料ガス、水素ガスおよび酸素ガスを供給し、
燃焼反応により前記ノズルの先端から噴出させた酸水素火炎中において原料を加水分解させてシリカ微粒子を生成し、
前記シリカ微粒子を堆積、溶融シリカガラス化してシリカガラスインゴットを製造する、
ことを特徴とするシリカガラスインゴットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体用フォトマスク基板や光学系のレンズ等の光学部材の材料となるシリカガラスを製造するためのシリカガラス製造用バーナーの評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、紫外線透過材料として、250nm以下の波長の光透過性がよく、不純物含有量の極めて少ない合成シリカガラスが用いられている。この合成シリカガラスは、一般的には紫外線(400nm以下)領域の波長を吸収してしまう原因となりうる金属不純物の混入を避ける目的で、高純度のケイ素化合物、たとえば、四塩化ケイ素(SiCl4)などを原料として製造されている。
【0003】
そして、シリカガラスを製造するためのバーナーの構造としては、下記特許文献に記載されたものが開示されている。
【0004】
たとえば、特許文献1には、同心円状に3重に配置された3重管と、3重管を取り囲むように同心円状に配置された最外周の外管と、3重管と最外周の管との間に3重管を取り囲むように同心円状に配置された内管と、内管と3重管との間に配置された複数の細管と、外管と内管との間に配置された複数の細管と、を有する構造(中心部多重管構造と称する)のバーナーが開示されている。また、特許文献2には、同心円状に5重に配置された5重管と、5重管を取り囲むように同心円状に配置された最外周の外殻管と、5重管と外殻管との間に配置された複数の細管と、を有する中心部多重管構造のバーナーが開示されている。
【0005】
一方、上述した中心部多重管構造とは異なる構造を有するバーナーとして、特許文献3には、原料ガスを供給する円筒形状の細菅(単管)からなるソースノズルを中心部に収容した構造(中心部単管構造と称する)のバーナーが開示されている。
図7は、特許文献3に記載されたバーナーのノズルの構造を示す図である。
図7において、ソースノズルの周囲には、その同心円状に、可燃性ガスを供給するための大小2つの円筒形状の可燃性ガスノズル(円筒管)が配置されている。さらに、内側の可燃性ガスノズルの内部には、ソースノズルを囲うように、支燃性ガスを供給するための円筒形状の支燃性ガスノズル(細管)が複数設けられている。また、内外2つの可燃性ガスノズルの間にも支燃性ガスを供給するための円筒形状の支燃性ガスノズル(細管)が複数設けられている。
【0006】
これらのバーナーは、上述したとおり、複雑な管構造を有し、かつシリカガラス等の脆性材料で作製されるため、加工用の火炎バーナー等を用いて作業者による手作りで製造されることが通常である。そのため、手作りで製造された複数のバーナーはそれぞれ微妙に形状が異なっており、それらのバーナーにより製造されたシリカガラスインゴットには、少なからず光学特性のばらつきが発生していた。
【0007】
しかしながら、微妙に形状の異なる複数のバーナーを目視で見分けることは困難であるため、従来は、それらのバーナーを用いて実際にシリカガラスインゴットを製造し、その光学特性を測定することにより、個々のバーナーを評価していた。すなわち、個々のバーナーの評価にかかる一連の作業には多大な時間と手間を要する、という問題があった。
【0008】
このような問題を解決するため、下記特許文献4には、シリカガラス製造用バーナーを簡単に評価するための評価方法が提案されている。
【0009】
これは、シリカガラス製造用バーナーの原料と燃焼ガスを噴出させる複数の管(上記ノズルに相当)の先端部からガスを液体に向けて噴出させ、管の先端部から所定の距離だけ離れた液面の状態を撮影し、ガス圧の分布を観察することにより、各管の配置状態を評価するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第02/085808号
【特許文献2】特開平11-116256号公報
【特許文献3】特開2010-64934号公報
【特許文献4】特開2003-119033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献4に記載された評価方法においては、複数の管(ノズル)の先端部からガスを液体に向けて噴出させているが、ここで言う複数の管は酸素ガスの噴出管である。そのため、各管から噴出する酸素ガス圧のバラツキを評価することはできるが、一方で、シリカガラス製造用バーナーの外周管から供給される水素ガスの分布や偏りは評価することができない。すなわち、上記特許文献4に記載された評価方法では、シリカガラス製造用バーナー本来の性能となる酸水素火炎の状態(加熱による温度分布、水素ガス不足等のガスの混合状態等)を評価していないので、シリカガラス製造用バーナーの総合的な品質評価(性能評価)法としては十分と言えるものではなかった。
【0012】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであって、実際にシリカガラスインゴットを製造してその光学特性を測定することなく、シリカガラス製造用バーナー本来の品質(性能)を評価可能なシリカガラス製造用バーナーの評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明にかかるシリカガラス製造用バーナーの評価方法は、原料ガス、水素ガスおよび酸素ガスを供給するための複数のノズルを有するシリカガラス製造用バーナーの評価方法であって、前記ノズルの先端を垂直方向上向きに設置し、前記ノズルの先端から上方のターゲット板に向けて酸水素火炎を噴出させる第1工程と、赤外線サーモグラフィ装置を用いて前記酸水素火炎により加熱されたターゲット板の温度を測定する第2工程と、を含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかるシリカガラス製造用バーナーの評価方法の前記第1工程においては、前記ノズルの先端からターゲット板までの酸水素火炎の周囲を覆うことなく、開放的な状態で酸水素火炎を噴出させることが望ましい。
【0015】
また、本発明にかかるシリカガラス製造用バーナーの評価方法においては、ノズルの先端が上向きとなるようにシリカガラス製造用バーナーを設置することが望ましい。また、ターゲット板をシリカガラス製とすることが望ましい。
【0016】
また、本発明にかかるシリカガラス製造用バーナーの評価方法においては、シリカガラス製造用バーナーを載置するための専用台と、ターゲット板を支持可能に専用台に取り付けられた同一長の4本の支柱と、を有し、第1工程においては、4本の支柱に支持されたターゲット板に向けて、専用台上に載置されたシリカガラス製造用バーナーから酸水素火炎を噴出させることとした。
【0017】
さらに、本発明にかかるシリカガラス製造用バーナーの評価方法において、支柱はその先端部を交換可能な構造とすることが望ましい。
【0018】
そして、本発明にかかるシリカガラス製造用バーナーの評価方法においては、前記第1工程および前記第2工程を同一仕様で製造されたすべてのシリカガラス製造用バーナーについて実施し、シリカガラス製造用バーナー毎に得られる前記ターゲット板の温度分布に基づいて個々のシリカガラス製造用バーナーが噴出する酸水素火炎の状態を評価することとした。
【0019】
個々のシリカガラス製造用バーナーが噴出する酸水素火炎の状態を評価することは、シリカガラス製造用バーナー本来の加熱性能を評価することでもあることから、本発明にかかるシリカガラス製造用バーナーの評価方法によれば、実際にシリカガラスインゴットを製造してその光学特性を測定することなく、個々のシリカガラス製造用バーナーの品質を評価することができる。
【0020】
また、本発明にかかるシリカガラス製造用バーナーの製造方法は、上記記載のシリカガラス製造用バーナーの評価方法により評価し、その評価結果に基づいてシリカガラス製造用バーナーのノズルの配置および形状を調整することを特徴とする。
【0021】
また、本発明にかかるシリカガラスインゴットの製造方法は、上記記載のシリカガラス製造用バーナーの製造方法でノズルの配置および形状を調整することにより製造されたシリカガラス製造用バーナーの複数のノズルに原料ガス、水素ガスおよび酸素ガスを供給し、燃焼反応によりノズルの先端から噴出させた酸水素火炎中において原料を加水分解させてシリカ微粒子を生成し、シリカ微粒子を堆積、溶融シリカガラス化してシリカガラスインゴットを製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明にかかるシリカガラス製造用バーナーの評価方法は、実際にシリカガラスインゴットを製造してその光学特性を測定することなく、シリカガラス製造用バーナー本来の品質(性能)を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明にかかるシリカガラス製造用バーナーの評価方法の概念を示す模式図である。
【
図2】
図2は、温度測定の様子の一例を示す図であり、(a)は酸水素火炎が噴出する様子の一例であり、(b)は温度分布の熱画像の一例である。
【
図4】
図4は、シリカガラスインゴットの製造方法のイメージを示す模式図である。
【
図5】
図5は、製造したシリカガラスの水素濃度分布を示す図である。
【
図6】
図6は、バーナー毎に得られた温度分布を示す図である。
【
図7】
図7は、従来のバーナーのノズルの構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明にかかるシリカガラス製造用バーナーの評価方法、シリカガラス製造用バーナーの製造方法、およびシリカガラスインゴットの製造方法の実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0025】
<<実施形態>>
本実施形態のシリカガラス製造用バーナーの評価方法、およびシリカガラス製造用バーナーの製造方法、およびシリカガラスインゴットの製造方法の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0026】
<評価方法>
図1は、本実施形態のシリカガラス製造用バーナーの評価方法の概念を示す模式図である。本実施形態においては、ノズル(管)の先端が垂直方向上向きとなるようにシリカガラス製造用バーナー(以下、単に「バーナー」と呼ぶこともある)10を載置するための専用台11と、専用台11に立てられた同一長の4本の支柱12と、これらの支柱12の上部側先端に載せられたシリカガラス製のターゲット板13と、赤外線サーモグラフィ装置14と、を備えた評価装置を用いて、たとえば、同一仕様で製造された複数のシリカガラス製造用バーナー10(10a,10b,10c…)の品質を評価する。
【0027】
具体的には、たとえば、専用台11上(ターゲット板13の真下)に載置されたバーナー10aに設けられたノズルの先端から、上記4本の支柱12に載せられた上方のターゲット板13に向けて、実際にシリカガラスを製造するときと同条件で燃焼させた酸水素火炎を噴出させる。本実施形態では、可燃性ガスを水素ガスとし、支燃性ガスを酸素ガスとし、水素ガスと酸素ガスの流量および流速は実際にシリカガラスを製造するときの流量および流速と同一にする。なお、この評価方法においては、原料ガス(SiCl4)は供給しない。また、バーナー10aのノズルの先端とターゲット板13との距離lについても、シリカガラス製造時の距離と同一にする。
【0028】
すなわち、本実施形態においては、ノズルの先端が垂直方向上向きとなるように設置されたバーナー10aから、その直上に設置されたターゲット板13に向けて酸水素火炎を噴出させることとし、その際、酸水素火炎の周囲を、たとえば、耐熱性レンガ等の光不透過性物質の壁等で覆うことなく、開放的な状態で酸水素火炎を噴出させる。バーナー10aの酸水素火炎を上向きに噴出させることにより、火炎が安定し、測定する際のばらつきを低減させることができる。また、酸水素火炎の周囲に壁等を設けず、開放的な状態が維持されているので、バーナー10aにより形成される酸水素火炎の状態を目視することができる。
【0029】
なお、ターゲット板13をバーナー10aの真下に設置し、バーナー10aの火炎を下向きに噴出させると(
図1と反対の配置にすると)、上方への高温気流により火炎に乱れが生じ、温度を測定する際にばらつきが大きくなるため、好ましくない。このようなばらつきを低減しバーナー10aの火炎を下向きに噴出させてバーナー評価を行うためには、通常のシリカガラス合成製造炉と同様に、バーナーのノズルの先端からターゲットまでの火炎の周囲を、たとえば、耐熱性レンガ等の光不透過性物質の壁で覆う必要があり、かつ、下方から強制排気を行う必要がある。しかしながら、このような構造は、評価装置が大掛かりなものとなる一方で汎用性が乏しく、また、バーナーにより形成される火炎の状態を目視することができないため、各ノズルから噴出されるガス流の速度、向きの不均一性等、通常目視で行える程度の確認作業ができなくなる問題がある。
【0030】
以上のことから、本実施形態の評価方法においては、
図1に示すように、酸水素火炎の周囲に壁等を設けることなく、バーナー10aの火炎は上向きに噴出させることが望ましい。
【0031】
そして、酸水素火炎により加熱されたターゲット板13の温度上昇が止まった段階で、赤外線サーモグラフィ装置14を用いてターゲット板13の温度を測定する。以降、この測定を、たとえば、同一仕様で製造された他のバーナー10b,10c…についても実施し、バーナー毎に得られるターゲット板13の温度分布に基づいて個々のバーナー10が噴出する酸水素火炎の状態を評価する。
【0032】
図2は、温度測定の様子の一例を示す図であり、(a)は酸水素火炎が噴出する様子の一例であり、(b)は温度分布の熱画像の一例である。
図2において、(b)の温度分布の熱画像は、(a)における点線部分の温度分布を示すものであり、ここでは中心に向かうほど高温となる様子(t1→t6)が示されている。本実施形態では、赤外線サーモグラフィ装置14による測定でバーナー毎に得られた温度分布の熱画像を比較および観察することにより、個々のバーナー10が噴出する酸水素火炎の状態を評価する。たとえば、バーナー毎に得られた温度分布の熱画像を比較および観察した結果、特定の測定ポイントの1つである中心部の温度が他のバーナーより低いバーナーや、左右対称位置および上下対称位置等の同心円状の測定ポイントの温度差が他のバーナーより大きいバーナー等については、ノズルの配置および形状を修正して酸水素火炎を調整する必要がある、と評価することができる。
【0033】
また、バーナー毎の酸水素火炎の状態(バーナー毎の温度分布のばらつき)を評価することは、バーナーの個体差を識別することであるとともに、バーナー本来の加熱性能を評価することでもある。すなわち、本実施形態の評価方法によれば、バーナーの品質を評価することができる。
【0034】
なお、上記ターゲット板13は、赤外線サーモグラフィ装置14にて高温領域の温度を測定するため、高温耐性があり熱伝導率が低い素材が望ましく、厚さ10mm~30mmの範囲のシリカガラス製が最適である。厚さが10mmより薄いと火炎噴出時にターゲット板13が変形し正確な温度が測定できないため好ましくない。また、厚さが30mmより厚いと加熱温度が安定するまでに時間を要するため好ましくない。さらに、ターゲット板13の形状は円板形状とすることが望ましく、ターゲット板13の直径はシリカガラス製造時の火炎径の2.5倍~4倍の範囲とすることが望ましく、ターゲット板13の熱伝導率は1.31W/m・K~1.50W/m・Kの範囲とすることが望ましい。これらの条件を満たすことにより、ターゲット板13への蓄熱を必要最小限とすることができ、実際のシリカガラス製造時の初期温度分布の再現性をより高めることができる。
【0035】
また、上記4本の支柱12は、ターゲット板13の四隅を支持可能に専用台11に取り付けられたカーボン製の支柱である。ターゲット板13の四隅を支持することにより、ターゲット板13に適度な放熱性を与えることができる。さらに、支柱12は、ターゲット板13に接触する部分の周辺が酸化により劣化するため、その先端を交換可能な構造とした。
図3は、支柱12の構造の一例を示す図である。支柱12は上部と下部が分離可能な構造を有し、ターゲット板13に接触する部分の周辺が酸化により劣化した場合には、上部のカーボン部材を交換する。
【0036】
また、赤外線サーモグラフィ装置14については、ターゲット板13下面の中心を頂点として、垂直方向に対して角度θ=30°~45°(床面からの傾斜角度θ’を45°~60°とした場合に相当)の範囲の床面等に設置することが望ましい(
図1参照)。
【0037】
<シリカガラス製造用バーナーの製造方法>
また、本実施形態の評価方法においては、上述したように、赤外線サーモグラフィ装置14による測定でバーナー毎に得られた温度分布の熱画像を比較および観察することによって、個々のバーナー10が噴出する酸水素火炎の状態を評価している。そして、個々のバーナー10が噴出する酸水素火炎の状態を評価することによって、改良(ノズルの配置および形状を修正)が必要なバーナー10を特定することができる。
【0038】
そこで、改良の必要があるバーナー10については、良好な評価が得られた(改良の必要がない)バーナーと同等の温度分布が得られるまで、ノズルの配置(ノズル間隔や配列等を含む)や形状を調整しながら上述した評価方法による評価を繰り返し行い、修理する。これにより、本実施形態においては、実際にシリカガラスインゴットを製造することなく、光学特性に優れかつ一定の品質を有するシリカガラスインゴットを製造可能なシリカガラス製造用バーナー10を短時間で製造することができる。
【0039】
<シリカガラスインゴットの製造方法>
つづいて、本実施形態のシリカガラスインゴットの製造方法について説明する。
図4は、本実施形態のシリカガラスインゴットの製造方法のイメージを示す模式図である。
【0040】
具体的には、
図4に示すように、耐火物で組まれた炉体50の上部に、本実施形態の評価方法で評価されかつ本実施形態の製造方法で製造されたバーナー10が設けられ、このバーナー10から下方に向けて原料ガス(たとえば、SiCl
4+O
2)、水素ガス(H
2)、酸素ガス(O
2)が供給される(S1)。バーナー10のノズル口付近では、水素(H
2)と酸素(O
2)との燃焼反応による酸水素火炎とともに、高温の水蒸気(H
2O)が発生する(S2)。
【0041】
そして、その水蒸気(H2O)と原料ガス(SiCl4+O2)の加水分解反応(S3)によりシリカ微粒子(SiO2)が生成される(S4)。生成されたシリカ微粒子は、バーナー10から噴出される酸水素火炎とともに、鉛直軸周りに回転するターゲット51上に堆積し、溶融シリカガラス化され、透明なシリカガラスのインゴット(シリカガラスインゴット)52として製造される。
【0042】
このように、本実施形態のシリカガラスインゴットの製造方法によれば、上述した評価方法において良好な評価が得られたバーナー10(10a,10b,10c…)を用いてインゴット52が製造されているため、光学特性に優れかつ一定の品質を有するインゴット52を製造することができる。
【0043】
<効果>
以上のように、本実施形態の評価方法は、原料ガス、水素ガスおよび酸素ガスを供給するための複数のノズルを有するシリカガラス製造用バーナー10の評価方法であって、ノズルの先端を垂直方向上向きに設置し、ノズルの先端から上方のターゲット板に向けて酸水素火炎を噴出させる工程と、赤外線サーモグラフィ装置14を用いて酸水素火炎により加熱されたターゲット板13の温度を測定する工程とを含むこととした。また、本実施形態の評価方法においては、ノズルの先端からターゲット板13までの酸水素火炎の周囲を覆うことなく、開放的な状態で酸水素火炎を噴出させるようにした。
【0044】
そして、これらの工程を同一仕様で製造されたすべてのシリカガラス製造用バーナー10(10a,10b,10c…)について実施し、シリカガラス製造用バーナー毎に得られるターゲット板13の温度分布に基づいて個々のシリカガラス製造用バーナー10が噴出する酸水素火炎の状態を評価することとした。
【0045】
具体的には、赤外線サーモグラフィ装置14による測定でバーナー毎に得られた温度分布の熱画像を比較および観察することにより、シリカガラス製造用バーナー10a,10b,10c…が噴出する酸水素火炎の状態を評価する。バーナー毎の酸水素火炎の状態を評価することは、バーナー本来の加熱性能を評価することでもあることから、本実施形態の評価方法によれば、実際にシリカガラスインゴットを製造してその光学特性を測定することなく、個々のシリカガラス製造用バーナー10(10a,10b,10c…)の品質を評価することができる。
【実施例0046】
つづいて、本発明にかかるシリカガラス製造用バーナーの評価方法の実施例について説明する。なお、以下の比較例および実施例においては、同一仕様でかつ作業者による手作りで製造したA,B,Cの3本のバーナーを使用することとし、これらのバーナーは前述した
図7に示す構造を有することを前提とする。また、本実施例では
図7に示す構造のバーナーを使用することとしたが、これに限るものではなく、本発明にかかるシリカガラス製造用バーナーの評価方法は、中心部多重管構造や中心部単管構造等、どのような構造を有するバーナーに対しても同様に適用可能である。
【0047】
<比較例1>
比較例1では、上記A,B,Cの3本のバーナーの寸法を計測し、さらに、バーナー毎に、ノズルの配置、形状、およびバーナーから噴出させた酸水素火炎の状態、をそれぞれ目視することにより、個々のバーナーの品質を評価した。この結果、A,B,Cの3本のバーナーは、寸法測定および目視確認において、すべて規格内の品質(良好な評価)であった。すなわち、A,B,Cの3本のバーナーは、改良の必要がない、という評価が得られた。
【0048】
<比較例2>
つぎに、比較例2では、A,B,Cのバーナーを個別に設置して、同一条件でシリカガラスインゴットを製造し、得られたシリカガラスの品質を評価した。具体的には、製造した3つのシリカガラスの水素濃度の分布を比較および観察し、品質評価を行った。
【0049】
図5は、製造したシリカガラスの水素濃度分布を示す図である。3つのシリカガラスの水素濃度分布を比較および観察した結果、Aのバーナーで製造したシリカガラスの中心部の水素濃度が2.8×10
18分子/cm
3であるのに対し、B,Cのバーナーで製造したシリカガラスの中心部の水素濃度は1.7×10
17分子/cm
3と低く、品質(中心部の水素濃度)にばらつきが生じる評価結果となった。すなわち、水素濃度の低いシリカガラスを製造したB,Cのバーナーについては、改良の必要がある、という評価が得られた。
【0050】
このように、上述したバーナーの寸法測定および目視確認による評価方法(比較例1の評価方法)では、B,Cのバーナーの品質のばらつきを見極めることができず(B,Cのバーナーについて良好な評価が得られており)、品質を適正に評価できていないことが明らかとなった。
【0051】
<実施例1>
つぎに、実施例1では、上述した本実施形態のシリカガラス製造用バーナーの評価方法に従い、A,B,Cの3本のバーナーを評価した。
【0052】
具体的には、
図1および
図3に示す専用台11上に載置されたAのバーナーから、上部先端部と下部が分離可能な構造を有する4本のカーボン製の支柱12に載せられた円板形状のターゲット板13に向けて、上記比較例2でシリカガラスを製造したときと同条件で燃焼させた酸水素火炎を、5分~10分程度噴出させた。このとき、ターゲット板13は、厚さ20mm、熱伝導率1.40W/m・Kのシリカガラス製とし、円板の直径がシリカガラス製造時の火炎径の略3倍のものを使用した。また、原料ガス(SiCl
4)は供給しない。そして、酸水素火炎により加熱されたターゲット板13の温度上昇が止まった段階で、ターゲット板13下面の中心を頂点として垂直方向に対して角度θ=40°(床面からの傾斜角度θ’を50°とした場合に相当)の床面に設置した赤外線サーモグラフィ装置14を用いてターゲット板13の温度を測定した。その後、この測定を、B,Cのバーナーについても実施し、測定結果として得られた温度分布に基づいてA,B,Cのバーナーが噴出する酸水素火炎の状態を評価し、その評価結果をA,B,Cのバーナーの品質の評価結果とした。
【0053】
図6は、赤外線サーモグラフィ装置14の測定によってバーナー毎に得られた温度分布を示す図であり、
図2(b)に示す熱画像の直線X-X’上の温度分布(測定ポイントの温度)をグラフ化したものである。
図6において、バーナー毎に得られた温度分布を比較および観察した結果、Aのバーナーにより加熱されたターゲット板13の中心部の温度が2130℃に達しているのに対し、B,Cのバーナーにより加熱されたターゲット板13の中心部の温度は1920℃~1947℃と低く、品質(中心部の温度)にばらつきが生じる評価結果となった。すなわち、B,Cのバーナーについては、改良の必要がある、という評価が得られた。
【0054】
Aのバーナーにより加熱されたターゲット板13の中心部の温度よりもB,Cのバーナーにより加熱されたターゲット板13の中心部の温度の方が低い、という実施例1の評価結果は、B,Cのバーナーの中心部に水素ガスが不足し、燃焼効率が悪化したことが原因であるから、比較例2におけるシリカガラスの中心部の水素濃度のばらつきについては、中心部の加熱温度が低いB,Cのバーナーで製造したことが原因であると判断することができる。このように、実施例1の評価結果は、実際にシリカガラスを製造して品質を評価した比較例2の評価結果と一致した。
【0055】
すなわち、本実施形態のシリカガラス製造用バーナーの評価方法(実施例1)においては、比較例1の方法では見極めることができなかったB,Cのバーナーの品質(性能)のばらつきを、実際にシリカガラスインゴットを製造することなく容易に見極めることができた。
【0056】
<実施例2>
上記の結果からもわかるように、シリカガラス製造用バーナーは、原料ガス、可燃性ガスおよび支燃性ガスを供給するために複雑なノズル構造を有するため、同一仕様で製造した場合であっても、実際に製造された複数のバーナーには目視では確認できない程度にノズルの配置や形状に差異が生じる場合がある。そして、このようなノズルの配置や形状の違いが、実際に製造されたシリカガラスにおける光学特性のばらつきの要因となっている。
【0057】
そこで、実施例2では、上記実施例1において改良が必要であると評価されたB,Cのバーナーについて、ノズルの配置(ノズル間隔や配列等を含む)や形状を調整しながら実施例1の評価方法による評価を繰り返し行い、Aのバーナーと同等の温度分布が得られるまで修理を行った。そして、修理後のB,Cのバーナーを個別に設置して、比較例2と同一条件でシリカガラスインゴットを製造し、得られたシリカガラスの品質評価を行った。具体的には、比較例2と同様の方法で、修理後のB,Cのバーナーで製造したシリカガラスの水素濃度分布を比較および観察し、品質評価を行った。
【0058】
修理後のB,Cのバーナーで製造されたシリカガラスの水素濃度分布を評価した結果、Aのバーナーで製造したシリカガラスの中心部の水素濃度(2.8×1018分子/cm3)と同等の水素濃度であることが確認できた。すなわち、実際にシリカガラスインゴットを製造することなく、B,Cのバーナーの修理によって、品質(中心部の水素濃度)のばらつきを解消できることが確認できた。